IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】重ね接合構造、及び自動車骨格部品
(51)【国際特許分類】
   F16B 5/04 20060101AFI20231122BHJP
   B62D 27/02 20060101ALI20231122BHJP
   B21J 15/00 20060101ALI20231122BHJP
   B23K 20/12 20060101ALI20231122BHJP
   F16B 5/08 20060101ALI20231122BHJP
   F16B 11/00 20060101ALI20231122BHJP
   B62D 25/04 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
F16B5/04 A
B62D27/02
B21J15/00 Z
B23K20/12 330
B23K20/12 364
F16B5/08 B
F16B11/00 E
B62D25/04 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019060342
(22)【出願日】2019-03-27
(65)【公開番号】P2020159488
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-11-04
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】富士本 博紀
(72)【発明者】
【氏名】巽 雄二郎
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/119159(WO,A1)
【文献】特開平10-251743(JP,A)
【文献】特開2011-195109(JP,A)
【文献】実開昭53-037878(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 5/04
B62D 27/02
B21J 15/00
B23K 20/12
F16B 5/08
F16B 11/00
B62D 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重ね合わせられた複数の板部材と、
前記複数の板部材の重ね部に設けられた、機械的接合手段又は摩擦撹拌点接合手段によって構成された複数の接合部と、
を備え、
前記複数の接合部は、前記機械的接合手段が挿通される穴、又は摩擦撹拌点接合によって形成された穴を有し、
前記複数の板部材のうち1枚以上において、前記穴の周囲に硬質部が設けられており、
前記硬質部は、前記板部材の一部となっており、かつ、前記板部材の板厚方向の全体に亘って設けられており、
前記穴が、前記複数の板部材のうち1枚以上を貫通することを特徴とする重ね接合構造。
【請求項2】
前記穴の縁と、前記穴の周囲の前記硬質部の縁との間の最短距離D、
前記穴の径K、
前記硬質部のビッカース硬さH1、及び
前記硬質部が設けられた前記板部材のビッカース硬さH2
が、式1を満たすことを特徴とする請求項1に記載の重ね接合構造。
D≧K×H2/{2×(H1-H2)} (式1)
【請求項3】
複数の前記硬質部の間の距離d、及び前記穴の径Kが式2を満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載の重ね接合構造。
d≧2×K (式2)
【請求項4】
前記硬質部が設けられた板部材が、引張強さが1180MPa以下の鋼板であることを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の重ね接合構造。
【請求項5】
前記硬質部が、板厚と引張強さとの積が最も大きい主板部材に設けられることを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の重ね接合構造。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載の重ね接合構造を有する自動車骨格部品。
【請求項7】
Aピラー、Bピラー、サイドシル、フロアメンバー、バンパー、フロントサイドメンバー、リアサイドメンバー、バッテリーフレーム、又はルーフレールであることを特徴とする請求項に記載の自動車骨格部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重ね接合構造、及び自動車骨格部品に関する。
【背景技術】
【0002】
衝突安全性の向上と燃費の向上とを両立するため、自動車車体を構成するモノコックボディの骨格をなす構造部材(以下、「自動車用構造部材」という)への高強度鋼板の適用が拡大している。現在、自動車用構造部材には引張強度が980MPa級の高張力鋼板が用いられている。また、プレス成形と同時に焼入れを行うホットスタンプ法を用いることにより引張強度が1500MPa以上の高強度の自動車用構造部材の製造も進められている。ホットスタンプ法によれば、鋼板が高温の軟質な状態でプレス成形を行うために成形後の寸法精度に関する問題の発生が少ないとともに、高温かつ高延性の状態でプレス成形を行うことができることから成形性に優れるという大きなメリットがある。
【0003】
しかし、引張強さが780MPa以上の鋼板を含むようなスポット溶接継手では、ナゲットの靭性が低下し、剥離方向の応力ではナゲット端部に応力が集中するため、鋼板の引張強さが増加しても、十字引張強さ(CTS)が、増加しないか、又は、減少するという問題がある。
【0004】
この問題を解決する技術の一つとして、母材を溶融させることなくリベットやスクリューなどの機械的接合手段を用いて複数枚の金属板を機械的に接合する技術がある。この技術を用いることにより、従来よりも強度信頼性の高い、自動車部品が製造できる可能性がある。
【0005】
また、自動車の車体などでは、軽量化等の目的で、鋼板とアルミニウム板、あるいは鋼板と炭素繊維強化プラスチック(CFRP)板のような異種材料の組合せを接合する場合がある。このように、組み合わせる材料が、融点や線膨張係数などの物性が異なる材料である場合は、例えば特許文献1、2に記載のように機械的接合手段をもって締結・接合することが行われている。また、電気抵抗の低いアルミニウム板では、抵抗スポット溶接に代えて摩擦撹拌点接合が用いられている場合もある。以下、機械的接合手段と摩擦撹拌点接合手段を総称して非溶融接合手段と記載する場合がある。
【0006】
この非溶融接合手段を重ね接合構造に設けるにあたり、必然的に、板部材に穴を設ける必要がある。例えば、重ね合わせた複数の板部材の重ね部を、接合部においてブラインドリベットなどの機械的接合手段により接合する場合、板部材の接合部にはリベットが挿通する穴が形成される。また、重ね部を摩擦接合手段により点接合する場合、回転ツール側の板部材の接合部には、回転ツール先端のプローブの圧入痕による穴が残留する。
【0007】
本発明者の検討では、重ね部を機械的接合手段や摩擦接合手段により接合した重ね接合部材では、重ね接合部材全体が引張変形を受けると、接合部に形成されている穴にひずみが集中して、穴を起点に小さい変形で板部材が破断する問題が生じた。特許文献1及び2等の先行技術においては、この問題に対して何ら検討が行われていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2000-272541号公報
【文献】特開2005-119577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
複数の板部材を重ね合わせて形成された重ね部を非溶融接合手段によって接合することによる重ね接合構造において、非溶融接合部に形成される穴を起点に板部材が破断する場合がある。本発明は、板部材の非溶融接合部に形成される穴を起点とした板部材の破断を抑制し、これにより板部材が破断するまでの伸び(歪量)を大きくすることが可能な重ね接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)本発明の一態様に係る重ね接合構造は、重ね合わせられた複数の板部材と、前記複数の板部材の重ね部に設けられた、機械的接合手段又は摩擦撹拌点接合手段によって構成された複数の接合部と、を備え、前記複数の接合部は、前記機械的接合手段が挿通される穴、又は摩擦撹拌点接合によって形成された穴を有し、前記複数の板部材のうち1枚以上において、前記穴の周囲に硬質部が設けられており、前記硬質部は、前記板部材の一部となっており、かつ、前記板部材の板厚方向の全体に亘って設けられており、前記穴が、前記複数の板部材のうち1枚以上を貫通する
(2)上記(1)に記載の重ね接合構造では、前記穴の縁と、前記穴の周囲の前記硬質部の縁との間の最短距離D、前記穴の径K、前記硬質部のビッカース硬さH1、及び前記硬質部が設けられた前記板部材のビッカース硬さH2が、式1を満たしてもよい。
D≧K×H2/{2×(H1-H2)}(式1)
(3)上記(1)又は(2)に記載の重ね接合構造では、複数の前記硬質部の間の距離d、及び前記穴の径Kが式2を満たしてもよい。
d≧2×K(式2)
)上記(1)~()のいずれか一項に記載の重ね接合構造では、前記硬質部が設けられた板部材が、引張強さが1180MPa以下の鋼板であってもよい。
)上記(1)~()のいずれか一項に記載の重ね接合構造では、前記硬質部が、板厚と引張強さとの積が最も大きい主板部材に設けられることを特徴とする。
)本発明の別の態様に係る自動車骨格部品は、上記(1)~()のいずれか一項に記載の重ね接合構造を有する。
)上記()に記載の自動車骨格部品は、Aピラー、Bピラー、サイドシル、フロアメンバー、バンパー、フロントサイドメンバー、リアサイドメンバー、バッテリーフレーム、又はルーフレールであってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、板部材の非溶融接合部に形成される穴を起点とした板部材の破断を抑制し、これにより板部材が破断するまでの伸び(歪量)を大きくすることが可能な重ね接合構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態に係る重ね接合構造の斜視図である。
図2】接合部の断面図である。
図3A】レジスタンスエレメントウエルディングによって形成される機械的接合手段の概念図である。
図3B】レジスタンスエレメントウエルディングによって形成される機械的接合手段の概念図である。
図4】摩擦撹拌点接合によって形成される摩擦撹拌点接合手段の概念図である。
図5】硬質部の特定方法を概略的に説明する図である。
図6】穴の縁と穴の周囲の硬質部の縁との間の最短距離D、穴の径K、及び硬質部の間の距離dを示す概略図である。
図7A】硬質部の形状のバリエーションを例示する斜視図である。
図7B】硬質部の形状のバリエーションを例示する斜視図である。
図7C】硬質部の形状のバリエーションを例示する斜視図である。
図7D】硬質部の形状のバリエーションを例示する斜視図である。
図8】本実施形態に係る自動車骨格部品であるBピラーの斜視図である。
図9図8のBピラーのIX-IX断面図である。
図10】本実施形態に係る自動車骨格部品の一例であるAピラー及びルーフレールの斜視図である。
図11図10のルーフレールのXI-XI断面図である。
図12】本実施形態に係る自動車骨格部品の一例であるBピラーのヒンジリンフォースの斜視図である。
図13】従来の重ね接合構造を模擬した試験片の平面図及び側面図である。
図14】本発明の重ね接合構造を模擬した試験片の平面図及び側面図である。
図15】引張試験後の図13の試験片の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、複数の板部材を重ね合せて形成された重ね部を、非溶融接合手段によって接合した場合に、接合部に形成された穴を起点に板部材が破断するのを抑制することが可能な重ね接合部材の重ね接合構造を提供する方法について検討を重ねた。その結果、接合部に形成されている穴の端部にひずみが集中しないように、ひずみを分散する手段を設けることが良いと本発明者らは着想した。そして、板部材の穴の周囲に硬質部を形成することにより、引張荷重によるひずみが穴に集中することを防止可能であることを知見した。この知見による重ね接合構造では、穴を起点とする破壊が抑制され、その伸びが向上する。
【0014】
以下、図を適宜参照しながら、本実施形態に係る重ね接合構造1について説明する。なお、重ね接合構造1の例として、図にはフランジ12を有する板部材11を示すが、本実施形態に係る重ね接合構造1がフランジ12を備えなくともよい。また、図において板部材11の枚数が2枚又は3枚である構成を図示しながら本実施形態に係る重ね接合構造を説明するが、板部材11の枚数を4枚以上にしてもよい。
【0015】
上記知見により得られた本発明の一態様に係る重ね接合構造1は、図1に示されるように、重ね合わせられた複数の板部材11と、複数の板部材11の重ね部に設けられた、機械的接合手段又は摩擦撹拌点接合手段によって構成された複数の接合部13(図1では図示省略)と、を備え、複数の接合部13は、機械的接合手段が挿通される穴131、又は摩擦撹拌点接合によって形成された穴131を有し、複数の板部材11のうち1枚以上において、穴131の周囲に硬質部14が設けられている。また、図1において重ね部はフランジ部12とされているが、上述のようにフランジ部12は必須ではない。
【0016】
(1)板部材11
板部材11の材質は特に限定されない。板部材11は、例えば、樹脂板、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic)板、アルミ板、アルミ合金板、ステンレス板、チタン板、又は鋼板等の金属板である。板部材11が塗膜及びめっき等の表面処理層を備えてもよい。本実施形態に係る重ね接合構造は、複数の板部材11を重ねて構成されるものであるが、複数の板部材11の材質を同一にしてもよいし、異ならせてもよい。板部材11の板厚及び機械強度(引張強さ、及び硬さ等)も特に限定されない。例えば、板部材11が鋼板である場合、板部材11の厚さを例えば0.5~2.6mmとしてもよい。板部材11がCFRP板である場合、板部材11の厚さを例えば0.3~4.0mmとしてもよい。複数の板部材11の板厚及び機械強度を同一にしてもよいし、異ならせてもよい。
【0017】
なお、重ね接合構造の機械強度に最も影響するのは、これを構成する複数の板部材11のうち、板厚と引張強さとの積が最も大きい板部材である。本実施形態に係る重ね接合構造では、板厚と引張強さとの積が最も大きい板部材11を主板部材と称し、その他の板部材11を副板部材と称する。重ね接合構造が、板厚と引張強さとの積が等しい板部材11を2枚以上有し、且つこれらの板厚と引張強さとの積が、複数の板部材11のうち最大である場合、これらの両方を主板部材とみなすことができる。
【0018】
板部材11の最も好適な一例は、引張強さ1180MPa以下の鋼板である。このような鋼板は、レーザ照射等の局所的な焼入れ処理を施すことによって、後述する硬質部14を容易に形成することができる。一方、引張強さが1180MPa超の鋼板を板部材11とすることも妨げられない。
【0019】
板部材11が鋼板の場合には、鋼板を、表面にめっきがされていない非めっき鋼板としてもよく、合金化溶融亜鉛めっき(GAめっき)、溶融亜鉛めっき(GIめっき)、電気亜鉛めっき(EG)、Zn-Alめっき、Zn-Al-Mgめっき、及びZn-Mgめっきなどの亜鉛系めっきで被覆された鋼板としてもよく、さらに、アルミニウムめっき鋼板としてもよい。板部材11を、クロメート、及び樹脂などが塗装された鋼板としてもよい。板部材11がホットスタンプ材である場合には、板部材11を、非めっき鋼板、アルミニウムめっき、鉄とアルミニウムの金属間化合物、若しくは鉄亜鉛固溶層及び酸化亜鉛層から構成される複合層により被覆された鋼板、又は、鉄亜鉛ニッケルの固溶層及び酸化亜鉛層から構成される複合層により被覆された鋼板としてもよい。
【0020】
後述する機械的接合手段によれば、溶接に適合しない板部材11の接合も可能である。例えば、アルミ材を複数組み合わせた重ね接合構造1、及びアルミ材及び鋼材を組み合わせた重ね接合構造1等にも、機械的接合手段を適用可能である。さらには、金属板に代えてCFRP材を用いた重ね接合構造1にも、機械的接合手段を適用可能である。後述する摩擦撹拌点接合手段によっても、溶接に適合しない材料の接合が可能である。例えば、アルミ材を複数組み合わせた重ね接合構造1、及びアルミ材と鋼材とを組み合わせた重ね接合構造1等にも、摩擦撹拌点接合手段を適用可能である。以上の理由により、板部材11の材質は特に限定されない。
【0021】
(2)接合部13及び穴131
複数の板部材11は、その一部または全部が重ねられており、重ね部において互いに接合される。接合部13は、非溶融接合手段、即ち機械的接合手段132、及び摩擦撹拌点接合手段133等とされる。
【0022】
機械的接合手段132は、例えばブラインドリベット、セルフピアシングリベット(自己穿孔リベット、SPR)、中空リベット、平リベット、ドリルネジ、ボルト、EJOWELD(登録商標)、及びFDS(登録商標)等である。これらによれば、板部材11は、冷間又は熱間で塑性加工により接合される。これらの機械的接合手段と、通電加熱及び加熱との組み合わせにより、板部材11を接合させてもよい。機械的接合手段132には、ブラインドリベットなどのように重ね合わせた金属板部材11を全て貫通するもの、及び、セルフピアシングリベットなどのように重ね合わせた金属板部材11の一部を貫通しないものがあるが、いずれも本実施形態に係る重ね接合構造1において用いることができる。図2に示される接合部13の例では、機械的接合手段132がリベットから構成されている。
【0023】
機械的接合手段132として、レジスタンスエレメントウエルディング(Resistance Element Welding;REW)が用いられてもよい。このREWは、図3Aに示すように、板厚方向に貫通する穴131が形成された板部材11(例えば、アルミ合金板)と、別の板部材11(例えば、ボロン鋼等の鋼板)とを重ね合わせ、穴131に鋼製のフランジ付きリベットである機械的接合手段132を挿入し、さらに、電極Xを用いて、2枚の板部材11を挟持しながら(図3Aを参照)、所定の電流値にて2枚の板部材11に通電することにより、機械的接合手段132の先端部分と板部材11との接触部分を溶融させてナゲット132’を形成する接合手段である(図3Bを参照)。このように、REWは、部分的に溶融接合手段を利用しているものの、本質的にはフランジ付きリベットという機械的要素を利用した接合手段であるため、このような接合手段も機械的接合手段132として、本発明に好適に用いることができる。
【0024】
機械的接合手段132によって板部材11を接合する場合、機械的接合手段132を挿通させるための穴131を、板部材11に設ける必要がある。即ち、機械的接合手段132によって構成された接合部13は、機械的接合手段132が挿通される穴131を有する。機械的接合手段132が挿通される穴131は、板部材11を貫通するものであっても、貫通しないものであってもよい。
【0025】
摩擦撹拌点接合手段について説明する。摩擦撹拌点接合(FSSW:Friction Stir Spot Welding)とは、図4に示されるように、母材より相対的に硬い回転ツールYを回転させながら母材に圧入し、母材を溶融させることなく接合する固相接合の一種である。摩擦撹拌点接合では、回転ツールYの回転によって生じた摩擦発熱により板部材11の変形抵抗を低下させ、且つ回転ツールY周辺の板部材11を回転ツールYの動きによって塑性流動させ、撹拌し、一体化する(図4(B)を参照)。これら一連の工程において使われる回転ツールYは、通常、先端がネジ加工されたプローブを有する。回転ツールを板部材11に圧入し、摩擦撹拌点接合を実施し、次いで回転ツールYを母材から引き抜いた際、回転ツールYが圧入された板部材11にはプローブの圧入痕が必然的に生じる(図4(C)を参照)。即ち、摩擦撹拌点接合手段によって構成された接合部は、プローブの圧入痕である穴131を有する。本実施形態に係る重ね接合構造1は、プローブの圧入により板厚の80%以上の深さの穴が形成される場合に適用されることが好ましい。
【0026】
なお、これらの非溶融接合手段と、他の接合手段(例えば樹脂等)とを組み合わせることも妨げられない。例えば、重ね合わせ面に接着剤(例えば、エポキシ樹脂系接着剤等)を介在させて、接着剤による接合を非溶融接合手段と併用してもよい。重ね合わせ面にシール用樹脂(シーラー、電着塗装)を介在させて、合わせ目を防水ないし絶縁してもよい。重ね合わせ面に構造用接着剤及び耐衝撃型の接着剤等を介在させて、接着剤による接合を非溶融接合手段と併用することは、本実施形態に係る重ね接合構造1の好適な形態である。特に、アルミ材と鋼材とを組み合わせた構造部材の場合は、電気的絶縁ができるシール機能を有する樹脂及び接着剤等と、非溶融接合手段とを併用することが好ましい。
【0027】
接合部13の位置は特に限定されないが、接合部13に形成される穴131の位置を板部材11の端部から離隔させることにより、穴131を起点として破断する可能性を一層抑制することができる。例えば、穴131の端部と板部材11の端部との間の最短距離Lと、穴131の直径Kとが以下の式を満たすことが好ましい。
L≧0.8K
【0028】
接合部13のピッチ(隣り合う接合部13同士の間の間隔)も特に限定されない。重ね接合構造1が適用される構造物及び適用部位に応じて、ピッチを適宜設定すればよい。重ね接合構造1が自動車部品に適用される場合、例えば接合部13のピッチは20mm~100mm程度としてもよい。
【0029】
なお、本実施形態に係る重ね接合構造1において、穴131は、板部材11を貫通する穴(通し穴)に限定されず、板部材11を貫通しない穴(止まり穴)、内面に段差がある穴(段付き穴)、内面が円錐状になっている穴(テーパ穴)、及び内面にねじが切ってある穴(めねじ穴)等であってもよい。また、穴131は、主板部材及び副板部材のいずれに設けられてもよい。
【0030】
(3)硬質部14
上述のように、重ね部を機械的接合手段132や摩擦撹拌点接合手段により接合した重ね接合部材1では、重ね接合部材1の全体が引張変形を受けると、接合部13に形成されている穴131にひずみが集中することにより、穴131を起点とした板部材11の破断が生じる恐れがある。そこで本発明者らは、接合部13に形成されている穴131の端部にひずみが集中しないように、ひずみを分散する手段について検討した。その結果、板部材11の穴131の周囲に硬質部14を形成することにより、引張荷重によるひずみが穴131に集中することを防止可能であることを本発明者らは知見した。
【0031】
上記知見に基づき、本実施形態に係る重ね接合構造1では、複数の板部材11のうち1枚以上において、穴131の周囲に硬質部14が設けられている。硬質部14とは、硬質部14が設けられた板部材11のビッカース硬さH2より20%以上高いビッカース硬さを有する領域である。硬質部15を特定する手段の例を図5に示す。図5は、接合部13の穴131を平面視した図である。接合部13(穴131)の周囲において、例えば格子状にビッカース硬さ測定を実施することにより、硬質部14が設けられた板部材11のビッカース硬さH2より20%以上高いビッカース硬さが検出される測定点αと、それ以外の測定点βを得ることができる。測定点αの集合と、測定点βの集合との境界が、硬質部14の外縁である。
【0032】
硬質部14を特定するにあたり、板部材11のビッカース硬さを測定することが必要となる。ビッカース硬さの測定は、ビッカース硬さ計で測定することが推奨される。ビッカース硬さ測定時の測定荷重は、板部材11の材質に応じて適宜選択すればよい。板部材11における任意の領域が硬質部15に該当するか否かの判断は、上述の定義から明らかなように、板部材11のビッカース硬さと、該領域のビッカース硬さとの相対値に基づいて行われる。従って、同一の測定荷重で板部材11及び該領域のビッカース硬さが測定されていれば、測定荷重の影響を受けることなく、該領域が硬質部15に該当するか否かを判定することができる。重ね接合構造1が後述の式1及び式2を満たすか否かを判定する場合においても、同じ理由により、ビッカース硬さ測定時の測定荷重は、板部材11の材質に応じて適宜選択すればよい。
【0033】
硬質部14は、重ね接合構造1を構成する複数の板部材11のうち1枚以上に設けられている必要があるが、いずれの板部材11に配置するかは適宜選択することができる。好ましくは、硬質部14は主板部材に設けられる。上述のように、主板部材は重ね接合構造1の機械的特性に最も影響する部材であるので、硬質部14を主板部材に設けることによって、その応力緩和効果を最大限に発揮させることができる。また、好ましくは、硬質部14は穴131が存在する板部材11に設けられる。以下、硬質部14を、穴131を有する主板部材に設けた構成によって本実施形態に係る重ね接合構造1を説明する。ただし、硬質部14は副板部材に設けられてもよいし、穴131を有しない板部材11に設けられてもよい。
【0034】
硬質部14の大きさ及び形状は特に限定されないが、例えば、穴131の縁と穴131の周囲の硬質部14の縁との間の最短距離D、穴131の径K、硬質部14のビッカース硬さH1、及び硬質部14が設けられた板部材11のビッカース硬さH2が、以下の式1を満たすように、硬質部14の大きさ及び形状を定めることが好ましい。
D≧K×H2/{2×(H1-H2)} (式1)
穴が並んだ方向に、応力が付加された場合、穴を含んだ硬質部で変形が起きにくい条件は、おおよそ、以下の式で表すことができる。
2×D×H1≧(2×D+K)×H2
この式を、Dに関して整理することにより、(式1)が得られる。
【0035】
図6に、「穴131の縁と穴131の周囲の硬質部14の縁との間の最短距離D」を示す。Dの値が大きいほど、硬質化による穴131の補強効果が高まる。穴131の縁を特定する手段は上述のとおりである。なお、図7Bに示されるように硬質部14が折れ曲がっている場合、穴131の縁と硬質部の縁との距離とは、硬質部の折り曲げ部に沿って測定された値である。
【0036】
穴131の直径Kは、穴131が円筒状である場合は、板部材11を平面視した場合の穴131の径である。穴131が例えば円錐状等の非円筒状である場合は、穴131の実際の体積及び穴131の実際の深さと同一の体積及び深さを有する円筒の径を、穴131の直径Kとみなす。穴131の平面視での形状が円ではない場合、その円相当径を穴131の直径Kとみなす。穴131がめねじ穴である場合は、凹凸ピッチのうち広いほうの直径を、穴131の直径Kとみなす。
【0037】
硬質部14のビッカース硬さH1とは、図5に示されるように、硬質部14のビッカース硬さを測定して得られる複数のビッカース硬さ値のうち、硬質部14において最も大きい値~3番目に大きい値の平均値である。ただし、摩擦撹拌点接合手段133にあたる領域は、硬質部14のビッカース硬さH1を測定する際に無視される。上述のように、硬質部14は硬質部14が設けられた板部材11のビッカース硬さH2より20%以上高いビッカース硬さを有する領域と定義されるが、この硬質部14の内部においてビッカース硬さが一定とは限らない。このため、硬質部14の中でも特に硬い部分のビッカース硬さを、硬質部14のビッカース硬さH1とする。
【0038】
板部材11のビッカース硬さH2とは、硬質部14が設けられた板部材11のうち、接合部13、及び硬質部14以外の領域のビッカース硬さである。穴131から十分離れた領域内の少なくとも3点で測定したビッカース硬さの平均値を、板部材11のビッカース硬さH2とみなす。
【0039】
なお、H1及びH2の測定にあたり、ビッカース硬さ測定時の測定荷重は、板部材11の材質に応じて適宜選択すればよい。式1は、H1及びH2の相対比率に基づいてDの下限値を定めるものである。したがって、同一の測定荷重でH1及びH2を測定すれば、測定荷重の影響を受けることなく、硬質部14が式1を満たすか否かの評価をすることができる。これは、後述の式1’、及び式1’’についても同じである。
【0040】
式1を満たす硬質部14は、穴131の直径Kに対して十分に大きいので、重ね接合構造1に応力が付加されたときに、歪の集中を緩和し、破断に至るまでの重ね接合構造1の伸び量を増大させることができる。この効果を得るために、穴131の縁と穴131の周囲の硬質部14の縁との間の最短距離Dは、大きければ大きいほど好ましい。例えば硬質部14の形状を、D、K、H1、及びH2が以下の式1’、又は式1’’を満たすように、画定してもよい。
D≧1.2×K×H2/{2×(H1-H2)} (式1’)
D≧1.4×K×H2/{2×(H1-H2)} (式1’’)
ただし、Dが大きすぎると、後述する硬質部14同士の距離が狭まることとなる。これらの要素を考慮しながら、硬質部14の長さL1を定めるとよい。
【0041】
本実施形態に係る重ね接合構造1は、複数の接合部13を有する。これら複数の接合部13の穴131のうち1つだけの周囲に硬質部14を設けてよいし、2つ以上の穴131の周囲に硬質部14を設けてもよい。複数の硬質部14が重ね溶接構造1に設けられる場合において、複数の硬質部14同士の位置関係は特に限定されない。しかしながら、例えば、複数の硬質部14の間の距離d、及び穴131の径Kが式2を満たしてもよい。
d≧2×K (式2)
【0042】
なお、図6に示されるように、複数の硬質部14の間の距離dとは、これら硬質部14の内部の穴131の中心同士を結ぶ線と、これら硬質部14の縁との2つの交点の間の距離である。硬質部14同士の間に、式2を満たすように間隔を設けることにより、穴131の周囲に生じる歪を、硬質部14同士の間に効率的に分配することができる。従って、式2を満たすように複数の硬質部14を配することにより、重ね接合部材1のひずみ集中を一層抑制し、伸びを一層改善することができる。
【0043】
本実施形態に係る重ね接合構造1の製造方法、特に硬質部14の形成方法は特に限定されず、板部材11の材質に応じて適宜選択することができる。板部材11が、例えば引張強さ1180MPa以下の鋼板等の、焼入れによって強度向上が可能なものである場合、レーザ照射、高周波加熱、通電加熱等の局所的な焼入れ処理を施すことによって、硬質部14を容易に形成することができる。板部材11が、アルミ板及びアルミ合金板等の、加工硬化によって強度向上が可能なものである場合、局所的な鍛造加工やショットブラスト処理等を局所的に施すことによって、硬質部14を容易に形成することができる。
【0044】
硬質部14の形成は、板部材11の接合の前に行われても、後に行われてもよい。例えば、板部材11が引張強さ1180MPa以下の鋼板である場合、板部材11の接合後に硬質部14を形成することが好ましい。これにより、機械的接合手段を挿通させるための穴を容易に形成することができる。一方、接合された複数の板部材11に対して適用することが難しい硬化方法の利用が必要である場合、板部材11の接合前に硬質部14を形成すればよい。このように、板部材11の材質及び板部材11の硬貨方法に応じて、硬質部14を形成するタイミングを柔軟に選択することができる。
【0045】
上述された本実施形態に係る重ね接合構造1の具体例を、図7A図7Dを参照しながら以下に説明する。図7A図7Dは、板部材11が曲げ部及びフランジ部12を有し、フランジ部12において板部材11同士が重ねられ、接合部13(図7A図7Dでは図示を省略)によって接合されている種々の重ね接合構造1である。いずれの例においても、接合部13の穴131の周囲には硬質部14が設けられているが、硬質部14の形状は様々なものとすることができる。
【0046】
図7Aは、硬質部14がフランジ部12の端部に沿った長方形形状を有し、且つフランジ部12の内部にのみ設けられた例である。
【0047】
図7Bは、硬質部14がフランジ部12の端部に沿った長方形形状を有し、且つ板部材11の曲げ部を超えて延在する例である。具体的には、図7Bに例示された重ね接合構造1においては、硬質部14は、フランジ部12の内部のみならず、曲げ部を超えてフランジ部12の外部に延伸している。また、硬質部14は、フランジ部12の端部にも及んでいる。
【0048】
図7Cは、硬質部14が曲げ部からフランジ部12の端部に向けて広がる形状を有する例である。図7Dは、硬質部14が角丸長方形形状を有する例である。この場合、硬質部14の間の距離dを求めるためには、硬質部14の内部の穴131の中心同士を結ぶ線と、これら硬質部14の縁との2つの交点の間の距離を測定すればよい。
【0049】
なお、本実施形態に係る重ね接合構造1において、全ての穴131の周囲に硬質部14を設ける必要はない。重ね接合構造1において、変形の生じやすさが一様であるとは限らないからである。例えば、変形が特に生じやすく、穴131へのひずみ集中が危惧される箇所においてのみ硬質部14を設け、その他の箇所には硬質部14を設けないこととしてもよい。即ち、一部の穴131の間にのみ硬質部14が設けられた重ね接合構造1も、本実施形態に係る重ね接合構造1に該当する。
【0050】
本実施形態に係る重ね接合構造1の用途は特に限定されない。重ね接合構造1の好適な用途の一つとして、接合された複数の鋼板から構成される自動車部品、特に自動車骨格部品が挙げられる。自動車骨格部品は、マルテンサイトを含有する高強度鋼板から構成されるので、本実施形態に係る重ね接合構造1を容易に適用することができ、この場合に自動車の衝突安全性を高めるという顕著な効果が得られる。一方、機械的接合手段132及び/又は摩擦撹拌点接合手段によって接合されるあらゆる板部材11に、本実施形態に係る重ね接合構造1を適用することが可能である。例えば、リベット又は高力ボルトによって接合される橋梁部材、及び摩擦撹拌点接合によって接合されるアルミ製鉄道車両構体等に関しても、本実施形態に係る重ね接合構造1を適用することで、破断の抑制が可能であると考えられる。本実施形態に係る重ね接合構造1を、建築用の建具、梁、リンク部材、簡易倉庫、家具、冷蔵庫、テレビ、コピー機、クーラー室外機などの家電及び什器等に適用することも考えられる。
【0051】
次に、本発明の別の態様に係る自動車骨格部品について説明する。本実施形態に係る自動車骨格部品は、本実施形態に係る重ね接合構造1を有する自動車骨格部品である。この自動車骨格部品は、例えばAピラー、Bピラー、サイドシル、バンパー、フロアメンバー、フロントサイドメンバー、リアサイドメンバー又はルーフレールである。以下、本実施形態に係る自動車骨格部品の例を説明する。
【0052】
図8は、本実施形態に係る自動車骨格部品の一例であるBピラー2の斜視図である。この図においてサイドパネルアウタは省略されている。図8のBピラー2は、穴131を有する機械的接合部13(図示されていない)と、穴131の周囲に設けられた硬質部14とを有する。ただし、一部の穴131の周囲(図8における、点線で囲まれた領域)には、硬質部は設けられていない。これは、車体の側面衝突時の歪みの量はBピラーの部位に応じて異なり、衝突時に穴からの破断が発生しにくい、歪み量の小さい部位には必ずしも硬質部を設ける必要がないとの理由による。
【0053】
図9は、図8のBピラー2のIX-IX断面図である。このBピラー2は、通常の鋼板であるBピラーインナ22と、高強度鋼板であるBピラーリンフォース21と、アルミ又は軟鋼であるサイドパネルアウタ23とから構成される。これらが板部材11に該当し、特にBピラーリンフォース21は主板部材に該当する。Bピラーリンフォース21、Bピラーインナ22、及びサイドパネルアウタ23はその両端で接合され、主板部材に該当するBピラーリンフォース21には硬質部14が設けられている。
【0054】
図10は、本実施形態に係る自動車骨格部品の一例であるAピラー3及びルーフレール4の斜視図である。図10に示された部品でも、一部の穴131の周囲にのみ硬質部14が設けられる。
【0055】
図11は、図10に示されたルーフレール4のXI-XI断面図である。この自動車骨格部品は、高強度鋼板であるルーフレールインナ42と、高強度鋼板であるルーフレールアウタリンフォース41と、アルミ又は軟鋼であるサイドパネルアウタ43とから構成される。これらが板部材11に該当し、特にルーフレールアウタリンフォース41は主板部材に該当する。ルーフレールインナ42、ルーフレールアウタリンフォース41、及びサイドパネルアウタ43はその両端で接合され、主板部材に該当するルーフレールアウタリンフォース41には硬質部14が設けられている。
【0056】
図12は、本実施形態に係る自動車骨格部品の一例であるBピラーのヒンジリンフォース5の斜視図である。この自動車骨格部品では、ハット状部材52と、ハット状部材の内側に沿って配された高強度鋼板51とが機械的接合手段である接合部13によって接合されており、高強度鋼板の接合部13の穴131の周囲には硬質部14が設けられている。フロアメンバーにも、図12に示される構成を用いることができる。
【0057】
本実施形態に係る重ね接合構造1の説明においては、2枚又は3枚の板部材11を重ね合せた重ね部に接合部を形成した重ね接合構造を例示したが、4枚以上の板部材11を重ね合せてもよい。また、本実施形態に係る重ね接合構造1の説明においては、2枚又は3枚の板部材11のうち1枚の板部材11又は2枚の板部材11に硬質部が形成される場合について説明したが、例えば、4枚以上(複数)の板部材11を重ね合せた重ね部に接合部を形成して、重ね接合構造を構成してもよく、かかる場合、硬質部が形成された板部材11の枚数は、任意に設定することができる。また、板部材11を重ね合せて形成する重ね部をフランジ部とする必要はない。部分補強等を目的として、フランジを有しない板部材11同士を重ね合せて接合する重ね接合構造なども本実施形態に係る重ね接合構造に含まれることはいうまでもない。
【実施例
【0058】
図13に示す、板部材A及びBのいずれも硬質部を備えない試料、及び図14に示す、板部材Aのみ硬質部を備える試料を作成した。ここで、図13及び図14の(A)は試料(リベット接合のもの)の平面図であり、図13及び図14の(A)は試料(リベット接合のもの)の側面図である。なお、図14および図15において板部材Aは、幅20mmの平行部と、平行部の両端に設けられた幅35mmの保持部(肩部)とを有する、長さ200mmの板(評点間隔70mm)である。図14および図15において板部材Bは、板部材Aの平行部に重ねられた、幅20mm及び長さ80mmの板である。穴の縁と評点との間の距離は8mmとした。板部材A及び板部材Bの種別は下表の通りとした。
【0059】
【表1】
【0060】
図14の試料において、硬質部はレーザ照射によって形成した。レーザ照射条件は以下の通りとした。
・発振機 :半導体レーザ
・レーザ出力:1.0~2.5kW
・速度 :0.3~1.0m/min
・ビーム形状:矩形(幅:10~20mmに調整)
【0061】
そして、表2の試料No.1~11に引張試験を行い、その破断歪を測定した。測定結果を表2に示す。なお、表2において硬質部「なし」と記載された試料の形状は図13に示されるものとし、その他の試料の形状は図14に示されるものとした。
【0062】
【表2】
【0063】
表2に示されるように、硬質部を有しない板部材から構成された重ね接合構造の試料No.1及び8では、図13に破断部Zとして示すように、穴を起点として破断が生じた。一方、硬質部を有する板部材Aを含む重ね接合構造の試料No.2~7、及びNo.9~11では、図14に破断部Zとして示すように、母材から破断が生じた。この結果から、硬質部を設けることによって穴へのひずみ集中が緩和されていることがわかる。参考に、穴から破断が生じたNo.1の引張試験後の写真を図15に示す。
【0064】
また、表2に示されるように、硬質部を有しない板部材から構成された重ね接合構造の試料No.1及び8と比較して、硬質部を有する板部材Aを含む重ね接合構造の試料No.2~7、及びNo.9~11の方が優れた破断歪を有した。この結果から、硬質部を設けて穴へのひずみ集中を緩和することにより、重ね接合構造の伸びが改善することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、複数の板部材を重ね合せて形成された重ね部を、非溶融接合手段によって接合した場合に、接合部に形成された穴を起点に板部材が破断するのを抑制し、破断するまでの伸びを大きくすることが可能な重ね接合部材の重ね接合構造を提供することができる。例えば、本発明を自動車に適用した場合、その衝突時の乗員保護性能を飛躍的に向上させることができる。従って、本発明は高い産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0066】
1 重ね接合構造
11 板部材
12 フランジ部
13 接合部
131 穴
132 機械的接合手段
132’ ナゲット
133 摩擦撹拌点接合手段
14 硬質部
2 Bピラー
21 Bピラーリンフォース
22 Bピラーインナ
23 サイドパネルアウタ
3 Aピラー
4 ルーフレール
41 ルーフレールアウタリンフォース
42 ルーフレールインナ
43 サイドパネルアウタ
5 ヒンジリンフォース
51 高強度鋼板
52 ハット状部材
X 電極
Y 回転ツール
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15