(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】鉄道車両及び列車
(51)【国際特許分類】
B61D 49/00 20060101AFI20231122BHJP
B61C 17/00 20060101ALI20231122BHJP
B61D 17/02 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
B61D49/00 A
B61C17/00 Z
B61D17/02
(21)【出願番号】P 2019166551
(22)【出願日】2019-09-12
【審査請求日】2022-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐野 薫平
(72)【発明者】
【氏名】野上 裕
(72)【発明者】
【氏名】藤本 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】澤田 雅典
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-273294(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102009001404(DE,A1)
【文献】特開2006-298126(JP,A)
【文献】国際公開第2011/120834(WO,A1)
【文献】特開2005-262962(JP,A)
【文献】国際公開第2018/043010(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 1/00 - 99/00
B61C 1/00 - 17/12
B61D 1/00 - 49/00
B61F 1/00 - 99/00
B61G 1/00 - 11/18
B61J 1/00 - 99/00
B61K 1/00 - 13/04
B62D 17/00 - 29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両であって、
底面にキャビティを有する車体と、
前記キャビティ内に収容される台車と、
前記鉄道車両の走行方向において前記キャビティの前方に配置され、前記走行方向に間隔を空けて並ぶように前記車体の前記底面に取り付けられる複数の付加部材と、
を備え、
前記付加部材の各々は、前記車体の幅方向に延びており、前記走行方向の前側に、下方に向かうにつれて前記キャビティに近づく傾斜面を有
し、
前記複数の付加部材は、前記キャビティに近い付加部材ほど、前記傾斜面が前記車体の前記底面に対して前記走行方向の前側でなす角度が小さくなるように構成される、鉄道車両。
【請求項2】
鉄道車両であって、
底面にキャビティを有する車体と、
前記キャビティ内に収容される台車と、
前記鉄道車両の走行方向において前記キャビティの前方に配置され、前記走行方向に間隔を空けて並ぶように前記車体の前記底面に取り付けられる複数の付加部材と、
を備え、
前記付加部材の各々は、前記車体の幅方向に延びており、前記走行方向の前側に、下方に向かうにつれて前記キャビティに近づく傾斜面を有し、
前記複数の付加部材は、前記キャビティに近い付加部材ほど、前記傾斜面の高さが大きくなるように構成される、鉄道車両。
【請求項3】
複数の鉄道車両によって編成される列車であって、
前記列車が長手方向の一方側に向かって走行するときに先頭に位置する第1鉄道車両と、
前記列車が前記長手方向の他方側に向かって走行するときに先頭に位置する第2鉄道車両と、
を含み、
前記第1及び第2鉄道車両は、それぞれ、請求項1
又は2に記載の鉄道車両である、列車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鉄道車両及び列車に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の鉄道車両の高速化に伴い、鉄道車両から発生する騒音の低減に対する要求が高まっている。鉄道車両からは様々な要因で騒音が発生するが、高速で走行する鉄道車両では、台車領域から発生する空力音が支配的な騒音源となる。そのため、台車領域における空力音の低減が望まれる。
【0003】
例えば、特許文献1では、鉄道車両の下部に空力音低減部を設ける技術が提案されている。この空力音低減部は、傾斜部と、網状部とを含む。傾斜部及び網状部は、鉄道車両の車体の底面において、キャビティに収容された台車の前方及び後方に設けられている。特許文献1によれば、傾斜部が台車から気流を逸らし、網状部が気流の速度を低下させることにより、台車領域における低中周波数域の空力音成分が低減され、空力音が緩和される。
【0004】
特許文献2では、台車の前端部及び後端部をカバーで覆う技術が提案されている。このカバーは、鉄道車両の走行中、台車の構成部品に空気が当たらないように空気の流れ方向を変化させる形状に形成されている。特許文献2によれば、カバーによって台車の構成部品への空気の衝突が抑制されるため、台車から発生する空力音を低減することができる。
【0005】
特許文献3では、鉄道車両の下部に風速低減部を設ける技術が提案されている。この風速低減部は、傾斜部と、側板部と、を含む。傾斜部は、鉄道車両の車体の底面において、台車を収容するキャビティの前端及び後端に設けられている。側板部は、キャビティ内の台車を両側方から覆う。特許文献3によれば、傾斜部は、車体の底面に沿って流れる空気の乱れ及び剥離を抑制することができ、側板部は、車体の側面を流れる空気の剥離を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4331025号公報
【文献】国際公開第2018/043010号
【文献】特開2006-273294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
台車領域から発生する空力音は、鉄道車両が高速で走行するほど大きくなる。また、鉄道車両が高速で走行するほど、鉄道車両から発生する騒音全体に対して台車領域の空力音が占める割合も大きくなる。そのため、鉄道車両が高速化するほど、台車領域から発生する空力音を効果的に低減することが必要となる。
【0008】
本開示は、台車領域から発生する空力音を効果的に低減することができる鉄道車両及び列車を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る鉄道車両は、車体と、台車と、複数の付加部材と、を備える。車体は、その底面にキャビティを有する。台車は、キャビティ内に収容される。複数の付加部材は、鉄道車両の走行方向においてキャビティの前方に配置される。複数の付加部材は、当該走行方向に間隔を空けて並ぶように車体の底面に取り付けられる。付加部材の各々は、車体の幅方向に延びている。付加部材の各々は、鉄道車両の走行方向の前側に傾斜面を有する。傾斜面は、下方に向かうにつれてキャビティに近づく。
【0010】
本開示に係る列車は、複数の鉄道車両によって編成される。列車は、第1鉄道車両と、第2鉄道車両と、を含む。第1鉄道車両は、列車が長手方向の一方側に向かって走行するときに先頭に位置する。第2鉄道車両は、列車が長手方向の他方側に向かって走行するときに先頭に位置する。第1及び第2鉄道車両は、それぞれ、本開示に係る鉄道車両である。
【発明の効果】
【0011】
本開示に係る鉄道車両及び列車によれば、台車領域から発生する空力音を効果的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、列車の概略構成を示す側面図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る鉄道車両の概略構成を示す縦断面図である。
【
図4】
図4は、列車における付加部材の配置例を示す図である。
【
図5】
図5は、列車における付加部材の配置例を示す図である。
【
図6】
図6は、列車における付加部材の配置例を示す図である。
【
図7】
図7は、第2実施形態に係る鉄道車両の部分拡大図である。
【
図8】
図8は、第3実施形態に係る鉄道車両の部分拡大図である。
【
図9】
図9は、数値シミュレーション解析に使用した高速鉄道車両の2台車モデルの模式図である。
【
図10】
図10は、数値シミュレーション解析における音圧観測点を示す模式図である。
【
図11】
図11は、第1実施例について、各音圧観測点における音圧レベルを示すグラフである。
【
図12】
図12は、第1実施例について、鉄道車両の進行方向における空気抵抗を示すグラフである。
【
図13】
図13は、第2実施例について、前側の台車領域から発生する騒音を示すグラフである。
【
図14】
図14は、第2実施例について、後ろ側の台車領域から発生する騒音を示すグラフである。
【
図15】
図15は、第2実施例について、前側の台車領域の騒音及び後ろ側の台車領域の騒音の合計を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施形態に係る鉄道車両は、車体と、台車と、複数の付加部材と、を備える。車体は、その底面にキャビティを有する。台車は、キャビティ内に収容される。複数の付加部材は、鉄道車両の走行方向においてキャビティの前方に配置される。複数の付加部材は、当該走行方向に間隔を空けて並ぶように車体の底面に取り付けられる。付加部材の各々は、車体の幅方向に延びている。付加部材の各々は、鉄道車両の走行方向の前側に傾斜面を有する。傾斜面は、下方に向かうにつれてキャビティに近づく(第1の構成)。
【0014】
第1の構成によれば、鉄道車両の走行方向において、台車を収容するキャビティの前方に複数の付加部材が配置されている。これらの付加部材は、鉄道車両の走行方向に間隔を空けて並んでおり、当該走行方向の前側に傾斜面を有する。各傾斜面は、下方に向かうにつれてキャビティに近づくように構成されているため、鉄道車両の走行中、キャビティに向かう空気を下方に向かって円滑に案内することができる。すなわち、付加部材の各々が、空気の流れをキャビティから逸らすように機能する。そのため、キャビティ、及びキャビティ内の台車に衝突する空気を減少させることができ、台車領域から発生する空力音を効果的に低減することができる。
【0015】
複数の付加部材は、キャビティに近い付加部材ほど、傾斜面の角度が小さくなるように構成されていてもよい。当該角度は、鉄道車両の走行方向の前側で、傾斜面が車体の底面に対してなす角度である(第2の構成)。
【0016】
第2の構成によれば、付加部材を設置したことによって鉄道車両の走行方向における空気抵抗が増加するのを抑制することができる。これにより、鉄道車両の燃費の悪化を抑制することができる。
【0017】
複数の付加部材は、キャビティに近い付加部材ほど、傾斜面の高さが大きくなるように構成されていてもよい(第3の構成)。
【0018】
第3の構成であっても、第2の構成と同様、付加部材の設置に起因する空気抵抗の増加を抑制することができ、鉄道車両の燃費の悪化を抑制することができる。
【0019】
複数の付加部材において、傾斜面の高さ、及び車体の底面に対する傾斜面の角度は互いに等しくすることもできる(第4の構成)。
【0020】
第4の構成によれば、台車領域の空力音をより低減することができる。
【0021】
実施形態に係る列車は、複数の鉄道車両によって編成される。列車は、第1鉄道車両と、第2鉄道車両と、を含む。第1鉄道車両は、列車が長手方向の一方側に向かって走行するときに先頭に位置する。第2鉄道車両は、列車が長手方向の他方側に向かって走行するときに先頭に位置する。第1及び第2鉄道車両は、それぞれ、上述した鉄道車両である(第5の構成)。
【0022】
第5の構成によれば、第1鉄道車両を先頭に、長手方向の一方側に向かって列車が走行したとき、第1鉄道車両の付加部材により、車体の底面に沿って流れる空気が下方に案内される。一方、第2鉄道車両を先頭に、長手方向の他方側に向かって列車が走行したときも、第2鉄道車両の付加部材により、車体の底面に沿って流れる空気は下方に案内される。すなわち、列車がいずれの方向に走行する場合であっても、列車の先頭側で、空気の流れをキャビティ及び台車から逸らすことができる。よって、台車領域から発生する空力音を効果的に低減することができる。
【0023】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。各図において同一又は相当の構成については同一符号を付し、同じ説明を繰り返さない。
【0024】
[第1実施形態]
図1は、列車100の概略構成を示す側面図である。
図1に示すように、列車100は、複数の鉄道車両10によって編成される。複数の鉄道車両10は、列車100の走行方向に一列に並んでいる。隣り合う鉄道車両10同士は互いに連結されている。以下、列車100及び鉄道車両10の走行方向における前後を単に前後といい、列車100及び鉄道車両10の上下を単に上下という。
【0025】
図2において、列車100に含まれる複数の鉄道車両10の1つを示す。
図2は、鉄道車両10の概略構成を示す縦断面図である。縦断面とは、鉄道車両10の走行方向に沿った切断面をいう。
【0026】
図2を参照して、鉄道車両10は、車体1と、台車2と、複数の付加部材3と、を備える。
【0027】
車体1の底面11は、鉄道車両10が走行する軌道に対向する。車体1は、底面11にキャビティ12f,12rを有する。キャビティ12f,12rは、車体1の底面11に形成された凹部である。キャビティ12fは、車体1の前部に設けられる。キャビティ12rは、車体1の後部に設けられる。キャビティ12f,12rの各々には、台車2が収容されている。
【0028】
キャビティ12f,12rの各々は、前面121と、後面122と、上面123と、側面124とによって画定される。前面121及び後面122は、それぞれ、台車2の前方及び後方に配置されている。上面123は、台車2の上方に配置され、前面121から後面122まで延びている。側面124は、台車2の両側方に配置され、前面121、後面122、及び上面123と接続される。
【0029】
キャビティ12fの前方には、複数の付加部材3が配置されている。キャビティ12rの前方にも、複数の付加部材3が配置されている。本実施形態の例では、キャビティ12fの前方及びキャビティ12rの前方に、それぞれ3つの付加部材3が配置されている。ただし、付加部材3の数は、これに限定されるものではない。キャビティ12f,12rの前方には、4つ以上の付加部材3が配置されていてもよいし、2つの付加部材3が配置されていてもよい。
【0030】
複数の付加部材3は、車体1の底面11に取り付けられている。すなわち、これらの付加部材3は、車体1の底面11から下方に突出する。付加部材3は、車体1と別体であってもよいし、車体1と一体的に形成されていてもよい。付加部材3の各々は、車体1の幅方向に延びている。各付加部材3は、車体1の幅方向において、少なくとも台車2の一方側の車輪から他方側の車輪まで延びている。
【0031】
本実施形態において、特に必要がないときは、キャビティ12f,12rを区別せず、キャビティ12と総称する。
図3は、キャビティ12及びその近傍部分の拡大図である。
図3を参照して、キャビティ12の前方に配置された付加部材3について詳細に説明する。
【0032】
図3では、複数の付加部材3に異なる符号3a,3b,3cを付し、付加部材3を区別する。
図3に示すように、付加部材3a,3b,3cは、鉄道車両10の走行方向に間隔を空けて並んでいる。付加部材3a,3b,3cは、キャビティ12に向かってこの順で配置されている。キャビティ12に最も近い付加部材3cは、好ましくは、キャビティ12の前端に配置される。すなわち、付加部材3cは、キャビティ12の前面121と車体1の底面11との角部に接するように、底面11に取り付けられることが好ましい。
【0033】
本実施形態において、付加部材3a,3b,3cは、等間隔で配列されている。しかしながら、付加部材3a,3b,3cは、異なる間隔で配列されていてもよい。付加部材3a,3b,3cは、鉄道車両10の走行方向における台車2の長さよりも短い間隔で配列されることが好ましい。特に限定されるものではないが、付加部材3a,3b,3cの各間隔は、例えば、鉄道車両10の走行方向における台車2の長さの1/2倍である。
【0034】
付加部材3a,3b,3cの各々は、その前側に傾斜面31を有する。付加部材3a,3b,3cの各々において、傾斜面31は、キャビティ12の逆側に配置される。傾斜面31は、車体1の幅方向に延びる各付加部材3a,3b,3cの全長に亘って設けられる。傾斜面31の上端は、実質的に車体1の底面11上に位置している。傾斜面31の上端同士の、鉄道車両の走行方向における距離dが付加部材3a,3b,3cの間隔となる。傾斜面31は、下方に向かうにつれてキャビティ12に近づくように、底面11に対して傾斜する。すなわち、傾斜面31は、斜め下向きの平面である。
【0035】
傾斜面31の高さh及び角度θは、適宜設定することができる。本実施形態では、付加部材3a,3b,3cにおいて、傾斜面31の高さh及び角度θが互いに等しい。高さhは、車体1の底面11から傾斜面31の下端までの鉛直方向の距離である。特に限定されるものではないが、高さhは、例えば、50mm~150mmとすることができる。角度θは、車体1の底面11に対し、鉄道車両10の走行方向の前側で傾斜面31がなす角度である。傾斜面31は斜め下向きの平面であるため、角度θは鈍角となる。角度θは、例えば、105°~165°とすることができる。
【0036】
本実施形態において、付加部材3a,3b,3cの各々は、実質的に三角柱状の部材である。付加部材3a,3b,3cは、不等辺三角形状の縦断面を有する。ただし、付加部材3a,3b,3cは、二等辺三角形状の縦断面を有する部材であってもよい。あるいは、付加部材3a,3b,3cは、板状の部材であってもよい。付加部材3a,3b,3cの全体形状は、特に限定されるものではない。付加部材3a,3b,3cは、傾斜面31を有する部材であればよい。
【0037】
以上のように、列車100は、複数の付加部材3を備えた鉄道車両10を含んでいる。各付加部材3は、その前側に設けられた斜め下向きの傾斜面31により、鉄道車両10の走行中、車体1の底面11に沿って流れる空気を下方に案内することができる。本実施形態では、キャビティ12の前方において、付加部材3を鉄道車両10の走行方向に沿って並べているため、キャビティ12に向かう空気を確実に下方に誘導することができる。よって、キャビティ12を画定する各面121~124や、キャビティ12内の台車2に衝突する空気を減少させることができる。その結果、鉄道車両10において、台車領域から発生する空力音を効果的に低減することができる。
【0038】
本実施形態では、複数の付加部材3において、傾斜面31の高さh及び角度θが互いに等しい。付加部材3をこのように構成することで、台車領域から発生する空力音をより効果的に低減することができる。
【0039】
本実施形態において、列車100を編成する鉄道車両10のうち、全ての鉄道車両10が付加部材3を備えていてもよいし、一部の鉄道車両10のみが付加部材3を備えていてもよい。列車100において、少なくとも、長手方向の一端及び他端に配置される鉄道車両10が付加部材3を備えていることが好ましい。すなわち、少なくとも、列車100が長手方向の一方側に向かって走行するときに先頭に位置する鉄道車両10と、長手方向の他方側に向かって走行するときに先頭に位置する鉄道車両10とに、付加部材3が設けられることが好ましい。列車100における付加部材3の配置例を
図4~
図6に示す。
【0040】
図4に示す列車100Aでは、列車100Aを編成する鉄道車両10の全てが付加部材3を備える。例えば、列車100Aが矢印A1の方向に走行すると仮定すると、列車100Aのうち長手方向の中心位置Cよりも前側の領域R1では、各キャビティ12の前方に複数の付加部材3が設けられ、各キャビティ12の後方には付加部材3が存在しない。一方、列車100Aのうち中心位置Cよりも後ろ側の領域R2では、各キャビティ12の後方に複数の付加部材3が設けられ、各キャビティ12の前方には付加部材3が存在しない。
【0041】
列車100Aが走行方向A1に走行した場合、前側の領域R1では、各キャビティ12の前方で付加部材3が空気を下方に案内し、台車領域から発生する空力音を低減させる。前側の領域R1において付加部材3が空気を下方に案内することにより、車体1の底面11に沿って流れる空気が十分に減速される。このため、後ろ側の領域R2では、各キャビティ12の後方にのみ付加部材3が配置されているにもかかわらず、キャビティ12及び台車2に衝突する空気の流速が減少する。よって、後ろ側の領域R2においても、台車領域から発生する空力音を低減させることができる。
【0042】
列車100Aが矢印A1と逆方向(矢印A2の方向)に走行した場合も同様に、前側となった領域R2において、付加部材3が空気を下方に案内し、車体1の底面11に沿って流れる空気を減速させる。よって、走行方向A2において後ろ側の領域R1では、各キャビティ12の後方にのみ付加部材3が配置されているにもかかわらず、台車領域から発生する空力音を低減させることができる。
【0043】
図5に示す列車100Bでも、列車100Bを編成する鉄道車両10の全てが付加部材3を備える。列車100Bが走行方向A1に走行すると仮定すると、列車100Bの複数のキャビティ12のうち、最前端のキャビティ12に関しては、その前方にのみ複数の付加部材3が設けられる。最後端のキャビティ12に関しては、その後方にのみ複数の付加部材3が設けられる。その他のキャビティ12の前方及び後方には、少なくとも1つの付加部材3が設けられている。
【0044】
列車100Bが走行方向A1に走行した場合、車体1の底面11に沿って流れる空気は、まず、最前端のキャビティ12の前方に配置された付加部材3によって下方に案内される。さらに、後続のキャビティ12の前方に配置された付加部材3が空気を下方に案内する。そのため、台車領域から発生する空力音を低減することができる。
【0045】
列車100Bが逆方向A2に走行する際には、走行方向A1において最後端であったキャビティ12が最前端のキャビティ12となる。走行方向A2において、このキャビティ12の前方には、複数の付加部材3が存在する。よって、列車100Bが走行方向A2に走行する場合も、これらの付加部材3により、車体1の底面11に沿って流れる空気が下方に案内される。さらに、後続のキャビティ12の前方に配置された付加部材3が空気を下方に案内する。そのため、台車領域から発生する空力音を低減することができる。
【0046】
図6に示す列車100Cでは、列車100Cを編成する鉄道車両10の一部が付加部材3を備える。列車100Cでは、長手方向の一端及び他端に配置された鉄道車両10のみが付加部材3を備える。より詳細には、走行方向A1において最前端及び最後端のキャビティ12の近傍にのみ、付加部材3が配置されている。走行方向A1において最前端のキャビティ12に関しては、その前方にのみ複数の付加部材3が設けられている。最後端のキャビティ12に関しては、その後方にのみ複数の付加部材3が設けられている。
【0047】
列車100Cが走行方向A1に走行した場合、車体1の底面11に沿って流れる空気は、最前端のキャビティ12の前方に配置された複数の付加部材3により、各キャビティ12及び各台車2よりも上流側で下方に案内される。よって、台車領域から発生する空力音を低減することができる。
【0048】
列車100Cが逆方向A2に走行する際には、走行方向A1において最後端であったキャビティ12が最前端のキャビティ12となる。走行方向A2において、このキャビティ12の前方には、複数の付加部材3が存在する。よって、列車100Cが走行方向A2に走行する場合も、これらの付加部材3により、車体1の底面11に沿って流れる空気は、各キャビティ12及び各台車2よりも上流側で下方に案内される。そのため、台車領域から発生する空力音を低減することができる。
【0049】
[第2実施形態]
図7は、第2実施形態に係る鉄道車両10Aの概略構成を示す縦断面図である。
図7において、鉄道車両10Aのキャビティ12及びその近傍部分を拡大して示す。鉄道車両10Aは、付加部材4の構成において、第1実施形態に係る鉄道車両10と異なる。
図7では、複数の付加部材4に異なる符号4a,4b,4cを付し、付加部材4を区別する。
【0050】
図7を参照して、各キャビティ12の前方には、付加部材4a,4b,4cが設けられている。付加部材4a,4b,4cは、鉄道車両10Aの走行方向に間隔を空けて並んでいる。付加部材4a,4b,4cは、キャビティ12に向かってこの順で配置されている。
【0051】
付加部材4a,4b,4cの各々は、その前側に傾斜面41を有する。傾斜面41は、第1実施形態における付加部材3a,3b,3cの傾斜面31(
図3)と概ね同様の構成を有する。ただし、本実施形態では、第1実施形態と異なり、付加部材4a,4b,4cにおける傾斜面41の角度θa,θb,θcが互いに異なる。
【0052】
角度θa,θb,θcは、鉄道車両10の走行方向の前側で、付加部材4a,4b,4cの傾斜面41が車体1の底面11に対してなす角度である。付加部材4a,4b,4cのうちキャビティ12に近いものほど、当該角度が小さくなっている。すなわち、角度θa,θb,θcのうち、キャビティ12に最も近い付加部材4cにおける傾斜面41の角度θcが最も小さい。角度θa,θb,θcのうち、キャビティ12から最も遠い付加部材4aにおける傾斜面41の角度θaが最も大きい。角度θa,θb,θcは、例えば、105°~165°の範囲で適宜設定することができる。
【0053】
このように、傾斜面41の角度θa,θb,θcをキャビティ12に向かって徐々に小さくしていくことで、例えば、全ての傾斜面41が角度θcで設置される場合、つまり全ての傾斜面41が急角度である場合と比較して、車体1の下方を流れる空気に対する抵抗を低減することができる。これにより、付加部材4の設置に起因して、鉄道車両10Aの燃費が悪化するのを抑制することができる。
【0054】
[第3実施形態]
図8は、第3実施形態に係る鉄道車両10Bの概略構成を示す縦断面図である。
図8において、鉄道車両10Bのキャビティ12及びその近傍部分を拡大して示す。鉄道車両10Bは、付加部材5の構成において、上記各実施形態に係る鉄道車両10,10Aと異なる。
図8では、複数の付加部材5に異なる符号5a,5b,5cを付し、付加部材5を区別する。
【0055】
図8を参照して、各キャビティ12の前方には、付加部材5a,5b,5cが設けられている。付加部材5a,5b,5cは、鉄道車両10Bの走行方向に間隔を空けて並んでいる。付加部材5a,5b,5cは、キャビティ12に向かってこの順で配置されている。
【0056】
付加部材5a,5b,5cの各々は、その前側に傾斜面51を有する。傾斜面51は、第1実施形態における付加部材3a,3b,3cの傾斜面31(
図3)と概ね同様の構成を有する。ただし、本実施形態では、第1実施形態と異なり、付加部材5a,5b,5cにおける傾斜面51の高さha,hb,hcが互いに異なる。
【0057】
高さha,hb,hcは、それぞれ、車体1の底面11から付加部材5a,5b,5cの傾斜面51の下端までの鉛直方向の距離である。付加部材5a,5b,5cのうちキャビティ12に近いものほど、傾斜面51の高さが大きくなっている。すなわち、高さha,hb,hcのうち、キャビティ12に最も近い付加部材5cにおける傾斜面51の高さhcが最も大きい。高さha,hb,hcのうち、キャビティ12から最も遠い付加部材5aにおける傾斜面51の高さhaが最も小さい。高さha,hb,hcは、例えば、50mm~150mmの範囲で適宜設定することができる。
【0058】
このように、傾斜面51の高さha,hb,hcをキャビティ12に向かって徐々に大きくしていくことで、例えば、全ての傾斜面51が高さhcを有する場合、つまり全ての傾斜面51の高さが大きい場合と比較して、車体1の下方を流れる空気に対する抵抗を低減することができる。これにより、鉄道車両10Bの燃費の悪化を抑制することができる。
【0059】
本実施形態において、付加部材5a,5b,5cの傾斜面51の角度θは、互いに等しい。ただし、付加部材5a,5b,5cは、傾斜面51の高さha,hb,hcだけでなく、傾斜面51の角度θが互いに異なるように構成されていてもよい。すなわち、付加部材5a,5b,5cは、第2実施形態の付加部材4a,4b,4cと同様、キャビティ12に近いものほど傾斜面51の角度θが小さくなるように構成されていてもよい。
【0060】
第2実施形態に係る鉄道車両10A及び第3実施形態に係る鉄道車両10Bは、第1実施形態において説明した列車100,100A~100Cに適用することができる。すなわち、列車100,100A~100Cは、付加部材3を有する鉄道車両10に代えて、あるいは当該鉄道車両10に加えて、鉄道車両10A及び/又は鉄道車両10Bを有することができる。
【0061】
以上、本開示に係る実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【実施例】
【0062】
以下、実施例によって本開示をさらに詳しく説明する。ただし、本開示は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0063】
[第1実施例]
商用流体解析ソフトPowerFLOW5.4b(ダッソー・システムズ社製)を用い、数値シミュレーション解析を実施した。本解析では、
図9に示す高速鉄道車両の2台車モデルを対象とし、300km/hで走行している状態を模擬した。解析ケースは、実施例1-1、実施例1-2、比較例1-1、及び比較例1-2の4種類である。実施例1-1では、
図3に示すように、傾斜面角度θ及び傾斜面高さhが等しい3列の付加部材3を車体1に設けた。実施例1-2では、
図8に示すように、傾斜面高さha,hb,hcが互いに異なる3列の付加部材5を車体1に設けた。比較例1-1は、車体1に付加部材を設けない解析ケース、比較例1-2は、車体1に付加部材3を1列だけ設けた解析ケースである。実施例1-1、実施例1-2、及び比較例1-2では、キャビティ12f,12rのうち、後ろ側のキャビティ12rの前方にのみ、付加部材3又は5を配置した。
【0064】
図10を参照して、本解析では、軌条中心から25m、地上高さ1.2mの各点で音圧を観測した。音圧評価に際し、後ろ側のキャビティ12r内の台車2、及びキャビティ12rの前方に配置された付加部材3,5を覆う音源面を設定し、音源面の流れ場情報を入力情報として、音圧伝播の理論式を解いて音圧を算出した。すなわち、後ろ側の台車領域から発生する騒音のみを評価した。周波数分析においては、分析対象時間を0.4秒から1.1秒までの0.7秒間、周波数範囲を15~5000Hz、重みづけ特性をA特性とした。
【0065】
図11は、各音圧観測点における音圧レベルを示すグラフである。
図11に示すように、1列の付加部材3を有する比較例1-2では、付加部材が存在しない比較例1-1と比較し音圧レベルが小さくなった。複数の付加部材3,5を有する実施例1-1及び実施例1-2では、音圧観測点全体として、比較例1-2よりも音圧レベルが小さくなった。付加部材3の傾斜面角度θ及び傾斜面高さhが等しい実施例1-1では、音圧レベルが最も小さくなった。
【0066】
この結果より、キャビティの前方に複数の付加部材を並べることで、台車領域から発生する騒音が顕著に低減されることがわかる。特に、複数の付加部材の傾斜面の角度及び高さが互いに等しい場合、台車領域から発生する騒音をより効果的に低減することができる。
【0067】
図12は、車体1の下方を流れる空気に対する抵抗(走行方向の空気抵抗)を示すグラフである。
図12からわかるように、キャビティ12rに向かうにつれて付加部材5の傾斜面高さha,hb,hcを大きくした実施例1-2では、付加部材3の傾斜面角度θ及び傾斜面高さhが等しい実施例1-1と比較し、走行方向の空気抵抗が有意に小さい。
【0068】
よって、キャビティに近い付加部材ほど傾斜面高さを大きくすることにより、空気抵抗の増加を抑制することができるといえる。キャビティに近い付加部材ほど傾斜面角度を小さくした場合も、同様の効果が得られると推測される。
【0069】
[第2実施例]
付加部材の適切な位置を検証するため、第1実施例と同様の商用流体解析ソフトを用い、高速鉄道車両の2台車モデル(
図9)を対象として、数値シミュレーション解析を実施した。解析ケースは、比較例2-1、実施例2-1、及び実施例2-2の3種類である。比較例2-1では、前側のキャビティ12f及び後ろ側のキャビティ12r各々について、その前後に1列の付加部材3を配置した。実施例2-1では、キャビティ12f,12r各々の前方にのみ1列の付加部材3を配置した。実施例2-2では、キャビティ12fの前方に1列の付加部材3を配置するとともに、キャビティ12rの後方に1列の付加部材3を配置した。なお、実施例2-1及び実施例2-2は、あくまで付加部材の適切な位置を確認するための解析ケースであり、付加部材3が複数列であることによる効果を検証するものではないため、付加部材3が1列となっている。参考のため、付加部材を設けないケース(対照例)についても解析を実施した。
【0070】
本解析では、前側の台車領域から発生する騒音と、後ろ側の台車領域から発生する騒音とをそれぞれ評価した。音圧観測点、音圧の算出方法、及び周波数分析の条件は、第1実施例と同様である。
【0071】
図13は、前側の台車領域から発生する騒音を示すグラフである。
図14は、後ろ側の台車領域から発生する騒音を示すグラフである。
図15は、前側の台車領域の騒音及び後ろ側の台車領域の騒音の合計を示すグラフである。
図13~
図15では、全音圧観測点における音圧レベルの平均値を示す。
【0072】
図13及び
図14に示すように、比較例2-1、実施例2-1、及び実施例2-2のいずれも、付加部材が存在しない対照例と比較して、前側の台車領域及び後ろ側の台車領域の双方で騒音が低減された。しかしながら、
図15に示すように、比較例2-1では、各実施例2-1及び実施例2-1と比較して、前側の台車領域及び後ろ側の台車領域を合わせた全体の騒音低減効果が小さい。これは、比較例2-1では、キャビティ12fの前方に配置された付加部材3が騒音低減効果を発揮したものの、このキャビティ12fの後方に配置された付加部材3に空気が衝突し、騒音が増加したためと考えられる。同様に、キャビティ12rの前方に配置された付加部材3が騒音低減効果を発揮する一方、このキャビティ12rの後方に配置された付加部材3が騒音を増加させたと推測される。
【0073】
図13及び
図14に示すように、前側の台車領域から発生する騒音の方が後ろ側の台車領域から発生する騒音よりも大きい。そのため、全体騒音を低減するためには、前側の台車領域の騒音を低減することが重要である。比較例2-1では、実施例2-2と比較して後ろ側の台車領域の騒音低減効果が大きいが、実施例2-1及び実施例2-2と比較して前側の台車領域の騒音低減効果は小さい。そのため、
図15に示すように、実施例2-1及び実施例2-2では、台車領域全体としての騒音低減効果が比較例2-1よりも大きくなっている。
【0074】
実施例2-2では、後ろ側のキャビティ12rの後方(空気の流れの下流側)に付加部材3が配置されているにもかかわらず、後ろ側の台車領域の騒音が低減された(
図14)。これは、前側のキャビティ12fの上流側に配置された付加部材3により、後ろ側のキャビティ12rに収容された台車2に衝突する空気の流速が低下したためである。よって、前側の台車領域に配置される付加部材3は、後ろ側の台車領域における騒音低減にもよい影響を及ぼすことを確認することができた。
【0075】
以上より、キャビティの前後に付加部材を設けるのではなく、キャビティの前方にのみ付加部材を設けることにより、台車領域の騒音を効果的に低減することができるといえる。複数のキャビティを含む鉄道車両及び列車においては、キャビティの位置を考慮して付加部材を配置することが好ましい。例えば、複数の鉄道車両によって列車が編成される場合、少なくとも、列車の長手方向の両端に配置される鉄道車両に付加部材が設けられる。より詳細には、少なくとも、列車が長手方向の一方側に走行する際に前端に位置するキャビティの前方と、列車が長手方向の他方側に走行する際に前端に位置するキャビティの前方とに付加部材が設けられることが好ましい。
【符号の説明】
【0076】
100,100A~100C:列車
10,10A,10B:鉄道車両
1:車体
11:底面
12,12f,12r:キャビティ
2:台車
3,3a~3c,4,4a~4c,5,5a~5c:付加部材
31,41,51:傾斜面