(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】車両用シート
(51)【国際特許分類】
B60N 2/427 20060101AFI20231122BHJP
B60R 21/207 20060101ALI20231122BHJP
B60R 21/233 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
B60N2/427
B60R21/207
B60R21/233
(21)【出願番号】P 2019199852
(22)【出願日】2019-11-01
【審査請求日】2022-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000220066
【氏名又は名称】テイ・エス テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田邉 仁一
(72)【発明者】
【氏名】栗本 智行
(72)【発明者】
【氏名】黒▲崎▼ 佳久
(72)【発明者】
【氏名】山部 篤史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 強
(72)【発明者】
【氏名】菊地 健太
【審査官】松江 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-065502(JP,A)
【文献】特開2006-088901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/42-2/433
B60R 21/207
B60R 21/233
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートクッションフレームを含むシートクッションと、
前記シートクッションフレームの後部に接続されたシートバックフレーム、及び前記シートバックフレームの車外側の側面に結合されたエアバッグモジュールを含むシートバックと、
前記シートクッションフレームの車外側に設けられたサイドカバーとを有し、
前記エアバッグモジュールから展開されるべきエアバッグが、展開時に、前記シートクッションの車外側
の側面に至る腰部保護部を含み、
前記エアバッグの展開時に前記腰部保護部を前方に案内するガイド面が前記サイドカバーに設けられ
、
前記ガイド面には車外側が高い段差が接続されていることを特徴とする車両用シート。
【請求項2】
前記ガイド面は前方に向かって下方に傾斜していることを特徴とする請求項1に記載の車両用シート。
【請求項3】
前記ガイド面は上方に向かって凸に湾曲していることを特徴とする請求項2に記載の車両用シート。
【請求項4】
前記サイドカバーの前記ガイド面に対応する部分を下方から支持するべく、前記シートバックフレームに固定された支持部材を備えることを特徴とする
請求項1~請求項3のいずれか1つの項に記載の車両用シート。
【請求項5】
シートクッションフレームを含むシートクッションと、
前記シートクッションフレームの後部に接続されたシートバックフレーム、及び前記シートバックフレームの車外側の側面に結合されたエアバッグモジュールを含むシートバックとを有し、
前記エアバッグモジュールから展開されるべきエアバッグが、展開時に、
前記エアバッグモジュールから下方に膨張する腰部保護部を含み、
前記シートバックフレーム
の下端部分には前記エアバッグの展開時に前記腰部保護部を前方に案内するガイド面を備えた支持部材が設けられていることを特徴とする車両用シート。
【請求項6】
前記ガイド面は前方に向かって下方に傾斜していることを特徴とする
請求項5に記載の車両用シート。
【請求項7】
前記ガイド面は上方に向かって凸に湾曲していることを特徴とする
請求項6に記載の車両用シート。
【請求項8】
前記支持部材は前記シートバックフレームの車外側の前記側面に結合された車外側結合部、前記シートバックフレームの後面に結合された後側結合部、及び、前記車外側結合部から車外側に延出する支持部を有し、
前記支持部の上面に前記ガイド面が形成されていることを特徴とする
請求項5~請求項7のいずれか1つの項に記載の車両用シート。
【請求項9】
前記シートバックフレームは左右一組のバックサイドフレームを含み、
前記シートクッションフレームは後部において2つの前記バックサイドフレームの下部を挟んで左右に対峙する左右一組のクッションサイドフレームを含み、
左右の前記バックサイドフレームを貫通して、左右の前記クッションサイドフレームを接続し、前記シートバックフレーム及び前記シートクッションフレームを互いに回動可能に連結する傾倒軸を有し、
前記車外側結合部には前記傾倒軸を貫通させる受容孔が設けられ、
前記車外側結合部の縁部及び前記後側結合部の縁部にはそれぞれ車外側に位置する前記バックサイドフレームに溶接される溶接部が設けられ、
前記溶接部は前記車外側結合部において前記受容孔を外囲するように配置されていることを特徴とする
請求項8に記載の車両用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シート、特にエアバッグモジュールを備えた車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用シートであって、シートバックにサイドエアバッグ装置(エアバッグモジュール)を備えたものが公知である(例えば、特許文献1)。特許文献1に記載の車両用シートでは、サイドエアバッグは着座者の頭部方向に向って膨張するバッグ部分(上方バッグ部分)と、腰部方向に向って膨張するバッグ部分(下方バッグ部分)とを含む。車両用シートには上方バッグ部分と下方バッグ部分とに対応する各位置において縫合された力布が設けられている。
【0003】
エアバッグ展開時には、上方バッグ部分と下方バッグ部分とに対応する各位置において破断する。これにより、上方バッグ部分及び下方バッグ部分が個別に膨張展開するため、各バッグ部分の膨張展開方向が安定よく定められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両用シートでは、シートバックの下部において前後方向の厚みが他の部分に比べて大きくなるように構成されている。そのため、特許文献1の車両用シートでは、展開開始から下方バッグ部分がシートバックの表面に達するまでの時間が上部バッグ部分に比べて長くなり、下部バッグ部分の展開が遅れるという問題がある。
【0006】
本発明は、以上の背景を鑑み、車両用シートにおいて展開時にエアバッグをより迅速にシートバックの表面に到達させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、車両用シート(1、201)は、シートクッションフレーム(12)を含むシートクッション(5)と、前記シートクッションフレームの後部に接続されたシートバックフレーム(22)、及び前記シートバックフレームの車外側の側面に結合されたエアバッグモジュール(60)を含むシートバックと、前記シートクッションフレームの車外側に設けられたサイドカバー(55)とを有し、前記エアバッグモジュールから展開されるべきエアバッグ(71)が、展開時に、前記シートクッションの車外側の前記側面に至る腰部保護部(76)を含み、前記エアバッグの展開時に前記腰部保護部を前方に案内するガイド面(96)が前記サイドカバーに設けられていることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、シートバックがエアバッグの展開によって膨張してガイド面に到達すると、腰部保護部が前方に膨張するように案内される。よって、腰部保護部をシートバックの前縁に向かってより迅速に膨張させることができる。これにより、腰部保護部がシートバックの表面により迅速に到達し、エアバッグを乗員の腰部分に対応する位置により高速に展開させることができる。
【0009】
また、上記の態様において、前記ガイド面は前方に向かって下方に傾斜しているとよい。
【0010】
この構成によれば、エアバッグの展開時に、腰部保護部を前方に展開するように案内することができる。
【0011】
また、上記の態様において、前記ガイド面は上方に向かって凸に湾曲しているとよい。
【0012】
この構成によれば、上方からの荷重に対してサイドカバーが変形し難くなる。これにより、展開時のサイドカバーの変形が防止でき、腰部保護部の展開を適正に案内することができる。
【0013】
また、上記の態様において、前記ガイド面には車外側が高い段差(98)が接続されているとよい。
【0014】
この構成によれば、エアバッグ展開時に段差によって腰部保護部が車外側に膨張することが防止される。これにより、腰部保護部の展開方向を前方により集中させることができる。
【0015】
また、上記の態様において、前記サイドカバーの前記ガイド面に対応する部分を下方から支持するべく、前記シートバックフレームに固定された支持部材(202)を備えるとよい。
【0016】
この構成によれば、エアバッグ展開時に腰部保護部がガイド面に達したときに、支持部材によってサイドカバーが下方から支持される。これにより、サイドカバーの変形が防止されるため、ガイド面によって腰部保護部を適正な方向に案内することができる。
【0017】
上記課題を解決するために、車両用シート(101)であって、シートクッションフレーム(12)を含むシートクッション(5)と、前記シートクッションフレームの後部に接続されたシートバックフレーム(22)、及び前記シートバックフレームの車外側の側面に結合されたエアバッグモジュール(60)を含むシートバック(6)とを有し、前記エアバッグモジュールから展開されるべきエアバッグ(71)が、展開時に、前記シートバックフレームの下端部分に至るべき腰部保護部(76)を含み、前記シートバックフレームの前記下端部分には前記エアバッグの展開時に前記腰部保護部を案内するガイド面(104A)を備えた支持部材(102)が設けられていることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、エアバッグの展開によって腰部保護部がシートバックの下端部分に達すると、腰部保護部が支持部材のガイド面によって前方に膨張するように案内される。よって、腰部保護部をシートバックの前縁に向かってより迅速に膨張させることができる。これにより、腰部保護部がシートバックの表面により迅速に到達し、エアバッグを乗員の腰部分に対応する位置により高速に展開させることができる。
【0019】
また、上記の態様において、 前記ガイド面は前方に向かって下方に傾斜しているとよい。
【0020】
この構成によれば、エアバッグの展開時に、腰部保護部を前方に展開するように案内することができる。
【0021】
また、上記の態様において、前記ガイド面は上方に向かって凸に湾曲しているとよい。
【0022】
この構成によれば、展開時に支持部の縁部にエアバッグが接触し難くなる。これにより、エアバッグを適正に展開させることができる。
【0023】
また、上記の態様において、前記支持部材は前記シートバックフレームの車外側の前記側面に結合された車外側結合部(103A)、前記シートバックフレームの後面に結合された後側結合部(103B)、及び、前記車外側結合部から車外側に延出する支持部(104)を有し、前記支持部の上面に前記ガイド面が形成されているとよい。
【0024】
この構成によれば、支持部材によってガイド面を構成できるとともに、支持部材によってシートバックフレームを補強することができる。
【0025】
また、上記の態様において、前記シートバックフレームは左右一組のバックサイドフレーム(25)を含み、前記シートクッションフレームは後部において2つの前記バックサイドフレームの下部を挟んで左右に対峙する左右一組のクッションサイドフレーム(15)を含み、左右の前記バックサイドフレームを貫通して、左右の前記クッションサイドフレームを接続し、前記シートバックフレーム及び前記シートクッションフレームを互いに回動可能に連結する傾倒軸(29)を有し、前記車外側結合部には前記傾倒軸を貫通させる受容孔(105)が設けられ、前記車外側結合部の縁部及び前記後側結合部の縁部にはそれぞれ車外側に位置する前記バックサイドフレームに溶接される溶接部(106)が設けられ、前記溶接部は前記車外側結合部において前記受容孔を外囲するとよい。
【0026】
この構成によれば、支持部材がバックサイドフレームの車外側側面及び後面に溶接されるため、バックサイドフレームの剛性を高めることができる。また、車外側結合部に受容孔を設けることで、支持部材を傾倒軸と干渉することなく、シートクッションフレームに結合させることができる。また、受容孔を外囲するように複数の溶接部が設けられているため、支持部材の剛性を高めることができる。
【発明の効果】
【0027】
上記課題を解決するために、車両用シートは、シートクッションフレームを含むシートクッションと、シートクッションフレームの後部に接続されたシートバックフレーム、及びシートバックフレームの車外側の側面に結合されたエアバッグモジュールを含むシートバックと、シートクッションフレームの車外側に設けられたサイドカバーとを有し、エアバッグモジュールから展開されるべきエアバッグが、展開時に、シートクッションの車外側の側面に至る腰部保護部を含み、エアバッグの展開時に腰部保護部を前方に案内するガイド面がサイドカバーに設けられている構成によれば、シートバックがエアバッグの展開によって膨張してガイド面に到達すると、腰部保護部が前方に膨張するように案内される。よって、腰部保護部をシートバックの前縁に向かってより迅速に膨張させることができる。これにより、腰部保護部がシートバックの表面により迅速に到達し、エアバッグを乗員の腰部分に対応する位置により高速に展開させることができる。
【0028】
また、上記の態様において、ガイド面は前方に向かって下方に傾斜している構成によれば、エアバッグの展開時に、腰部保護部を前方に展開するように案内することができる。
【0029】
また、上記の態様において、ガイド面は上方に向かって凸に湾曲している構成によれば、展開時に支持部の縁部にエアバッグが接触し難くなる。これにより、エアバッグを適正に展開させることができる。
【0030】
また、上記の態様において、ガイド面には車外側が高い段差が接続されている構成によれば、エアバッグ展開時に段差によって腰部保護部が車外側に膨張することが防止される。これにより、腰部保護部の展開方向を前方により集中させることができる。
【0031】
また、上記の態様において、サイドカバーのガイド面に対応する部分を下方から支持するべく、シートバックフレームに固定された支持部材を備える構成によれば、エアバッグ展開時に腰部保護部がガイド面に達したときに、支持部材によってサイドカバーが下方から支持される。これにより、サイドカバーの変形が防止されるため、ガイド面によって腰部保護部を適正な方向に案内することができる。
【0032】
上記課題を解決するために、車両用シートであって、シートクッションフレームを含むシートクッションと、シートクッションフレームの後部に接続されたシートバックフレーム、及びシートバックフレームの車外側の側面に結合されたエアバッグモジュールを含むシートバックとを有し、エアバッグモジュールから展開されるべきエアバッグが、展開時に、シートバックフレームの下端部分に至るべき腰部保護部を含み、シートバックフレームの下端部分にはエアバッグの展開時に腰部保護部を案内するガイド面を備えた支持部材が設けられている構成によれば、エアバッグの展開によって腰部保護部がシートバックの下端部分に達すると、腰部保護部が支持部材のガイド面によって前方に膨張するように案内される。よって、腰部保護部をシートバックの前縁に向かってより迅速に膨張させることができる。これにより、腰部保護部がシートバックの表面により迅速に到達し、エアバッグを乗員の腰部分に対応する位置により高速に展開させることができる。
【0033】
また、上記の態様において、 ガイド面は前方に向かって下方に傾斜している構成によれば、エアバッグの展開時に、腰部保護部を前方に展開するように案内することができる。
【0034】
また、上記の態様において、ガイド面は上方に向かって凸に湾曲している構成によれば、展開時に支持部の縁部にエアバッグが接触し難くなる。これにより、エアバッグを適正に展開させることができる。
【0035】
また、上記の態様において、支持部材はシートバックフレームの車外側の側面に結合された車外側結合部、シートバックフレームの後面に結合された後側結合部、及び、車外側結合部から車外側に延出する支持部を有し、支持部の上面にガイド面が形成されている構成によれば、支持部材によってガイド面を構成できるとともに、支持部材によってシートバックフレームを補強することができる。
【0036】
また、上記の態様において、シートバックフレームは左右一組のバックサイドフレームを含み、シートクッションフレームは後部において2つのバックサイドフレームの下部を挟んで左右に対峙する左右一組のクッションサイドフレームを含み、左右のバックサイドフレームを貫通して、左右のクッションサイドフレームを接続し、シートバックフレーム及びシートクッションフレームを互いに回動可能に連結する傾倒軸を有し、車外側結合部には傾倒軸を貫通させる受容孔が設けられ、車外側結合部の縁部及び後側結合部の縁部にはそれぞれ車外側に位置するバックサイドフレームに溶接される溶接部が設けられ、溶接部は車外側結合部において受容孔を外囲する構成によれば、支持部材がバックサイドフレームの車外側側面及び後面に溶接されるため、バックサイドフレームの剛性を高めることができる。また、車外側結合部に受容孔を設けることで、支持部材を傾倒軸と干渉することなく、シートクッションフレームに結合させることができる。また、受容孔を外囲するように複数の溶接部が設けられているため、支持部材の剛性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図2】第1実施形態に係る車両用シートの分解斜視図
【
図3】パッド部材及び表皮材を外したときの第1実施形態に係る車両用シートの(A)背面図、及び(B)側面図
【
図4】
図1のIV-IV断面図、及び、断面図の破線で囲まれた部分の拡大図
【
図5】クリップ及びフックの結合を説明するための説明図
【
図6】(A)展開を開始した直後、(B)左ボルスター部がガイド面に当接したとき、(C)(B)から所定時間経過後、及び(D)展開完了時のエアバッグの態様を示す模式図
【
図7】第2実施形態に係る車両用シートの分解斜視図
【
図8】パッド部材及び表皮材を外したときの第2実施形態に係る車両用シートの(A)背面図、及び(B)側面図
【
図9】パッド部材及び表皮材を外したときの第3実施形態に係る車両用シートの側面図
【
図11】エアバッグモジュールのサイドフレームにブラケットを介して結合させた変形例を説明するための説明図
【
図12】クリップをスリットの前側に設けた場合の変形例を説明するための説明図
【
図13】クリップをサイドフレームに結合させた場合の変形例を説明するための説明図
【
図14】サイドカバーの変形例を説明するための説明図
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、図面を参照して、本発明に係る車両用シートを自動車に搭載される車両用シートに適用した実施形態について説明する。
【0039】
<<第1実施形態>>
図1に示すように、第1実施形態に係る車両用シート1は車室2の底部を画定するフロア3上に、車両の前方を向くように(より詳細には着座した乗員が車両の前方に向くように)載置されている。車両用シート1はフロア3に前後にスライド移動可能に支持されている。本実施形態では、車両用シート1は、運転席の隣に配置された助手席を構成する。以下では、車両用シート1に着座した乗員から見た方向を基準として、前後、左右、及び上下方向をそれぞれ定めて、説明を行う。
【0040】
車両用シート1は着座者の臀部を支持するシートクッション5と、シートクッション5の後部に設けられ、背凭れとして機能するシートバック6と、各シートバック6の上部に設けられたヘッドレスト7とを備えている。
【0041】
シートクッション5は略上下方向を向く面を有する略直方体状をなしている。シートクッション5の上面は乗員1人分の着座面9を構成している。着座面9は左右方向略中央において下方に凹み、後方に向かってやや下方に傾斜している。これにより、着座面9は乗員の臀部及び大腿部に対応する形状をなしている。乗員が着座するときには、着座面9には乗員の臀部及び大腿部が配置される。
【0042】
シートバック6は上下方向に延びるシートバック中央部6Aと、シートバック中央部6Aの左側及び右側にそれぞれ設けられたボルスター部6Bとを含む。シートバック中央部6Aは略前後方向を向く面を有する略直方体状をなしている。シートバック中央部6Aの前面は乗員の背中を支持する背凭れ面10を構成している。背凭れ面10は左右方向略中央において後方に凹み、上方に向かってやや後方に傾斜している。これにより、背凭れ面10は乗員の背中に対応する形状をなし、背凭れ面10に乗員の背中が支持される。
【0043】
ボルスター部6Bはシートバック中央部6Aの左右側面上部にそれぞれ接続されている。ボルスター部6Bはそれぞれ着座した乗員の上半身を側方から支持する。ボルスター部6Bはそれぞれ下方に向かうにつれてより前方に突出している。すなわち、ボルスター部6Bの前後方向の長さは下方に向かうにつれて大きくなっている。ボルスター部6Bの上下方向の長さはそれぞれシートバック中央部6Aの上下方向の長さよりも小さい。以下では、適宜、シートバック中央部6Aの左側に接続されたボルスター部6Bを左ボルスター部6Cと記載する。
【0044】
ヘッドレスト7は、シートバック6の上端に2つのピラー11(
図2参照)を介して接続されている。ヘッドレスト7は着座した乗員の頭部の後方となる位置に配置されている。
【0045】
図2に示すように、シートクッション5は骨格を形成する金属製の枠体(シートクッションフレーム12、
図7参照)と、シートクッションフレーム12に支持されたパッド部材13(
図1参照)と、パッド部材13覆う表皮材14(
図1参照)とを含む。
図6に示すように、シートクッション5のシートクッションフレーム12は、前後に延びる左右一組のサイドフレーム15(クッションサイドフレーム)と、各サイドフレーム15の前部間に掛け渡された前フレーム16(クロスフレーム)と、各サイドフレーム15の後部間に掛け渡された後フレーム17(クロスフレーム)とを有し、略四角枠形をなす。本実施形態では、シートクッション5の左右のサイドフレーム15はそれぞれ、左右方向を向く面を有する板状をなしている。シートクッションフレーム12は更に、左右一組のサイドフレーム15の間に左右に延在する板状のパンフレーム(不図示)や、前フレーム16及び後フレーム17に掛け渡されたワイヤ部材(不図示)を含んでいてもよい。シートクッション5のパッド部材13はシートクッションフレーム12の上側に配置されている。
図1に示すように、パッド部材13の上面は表皮材14によって覆われている。
【0046】
シートバック6はシートクッション5と同様に骨格を形成する金属製の枠体(以下、シートバックフレーム22。
図7参照)と、シートバックフレーム22に支持されたパッド部材23(
図1参照)と、パッド部材23を覆う表皮材24(
図1参照)とを含む。シートバックフレーム22は、上下に延びる左右一組のサイドフレーム25(バックサイドフレーム)と、サイドフレーム25の上部間に掛け渡されたアッパフレーム26と、サイドフレーム25の下部の間に掛け渡されたロアフレーム27とを有し、略四角枠形をなす。左右のサイドフレーム25にはワイヤ状の部材によって形成された受圧部材28が掛け渡されている。受圧部材28は乗員から後方に向く荷重を受けて撓み、乗員の背中を後方から支持する。パッド部材23はシートバックフレーム22の前側からシートバックフレーム22の前面、及び左右側面を覆うように配置されている。パッド部材23の前面、及び左右側面は表皮材24によって覆われている。
【0047】
シートクッション5のサイドフレーム15(クッションサイドフレーム)の後部は、シートバック6の2つのサイドフレーム25(バックサイドフレーム)の下部を挟んで左右に対峙している。シートバック6の左右のサイドフレーム25の下部と、シートクッション5の左右のサイドフレーム15の後部とにはそれぞれ、左右方向(車幅方向)に延びる1つの傾倒軸29が貫通している。シートバック6の左右のサイドフレーム25の下部はそれぞれ、対応するシートクッション5のサイドフレーム15の後部に、傾倒軸29(
図1参照)回りに回動可能に結合されている。より詳細には、傾倒軸29によってシートバックフレーム22及びシートクッションフレーム12は互いに回動可能に連結され、シートバックフレーム22は、シートクッションフレーム12に対して、傾倒軸29を中心として傾倒(回動)可能となっている。
【0048】
図2に示すように、シートクッション5の左側のサイドフレーム15(以下、左クッションサイドフレーム15A)の後部と、シートバック6の左側のサイドフレーム25(以下、左バックサイドフレーム25A)の下部とはリクライニング機構31を介して互いに結合されている。リクライニング機構31は傾倒軸29の車外側端部(左端部)に位置し、シートクッション5の各サイドフレーム25に対するシートバック6の各サイドフレーム15の傾倒(回動)角度を任意の位置に維持する。本実施形態では、リクライニング機構31はシートバック6の左側のサイドフレーム15の後部左側面に設けられたねじりコイルばね31Aを含む。ねじりコイルばね31Aは一端が左クッションサイドフレーム15Aに結合し、他端が左バックサイドフレーム25Aにそれぞれ結合している。ねじりコイルばね31Aは、シートバックフレーム22をシートクッションフレーム12に対して前方に傾動(回転)させる方向に付勢する。
【0049】
背凭れ面10が最も起立した状態、すなわち背凭れ面10が最も鉛直方向に近い状態(
図1参照)にあるときには、シートクッション5のサイドフレーム25は概ね、上下方向に延在している。以下では、背凭れ面10が最も起立した状態にあるときを基準として説明を行う。
【0050】
リクライニング機構31は操作レバー32を含む。操作レバー32は金属製の板状部材によって形成され、左クッションサイドフレーム15Aの左側面に沿って、前後に延びるように配置されている。
図1に示すように、操作レバー32の前端にはグリップ部材33が設けられている。
【0051】
乗員が操作レバー32のグリップ部材33を把持して押し下げると、車両用シート1はシートクッション5に対するシートバック6の回転が規制された規制状態から回転が可能な解除状態に切り替わる。乗員が操作レバー32を離すと、操作レバー32は押し下げられる前の位置に戻るとともに、車両用シート1は解除状態から規制状態に切り替わる。これにより、乗員は操作レバー32を操作することによってシートバック6のシートクッション5に対する傾倒角度を調節することができる。
【0052】
図7に示すように、車両用シート1とフロア3との間には、フロア3に対する車両用シート1の前後方向のスライド移動を可能とするレール装置34が設けられている。レール装置34は、フロア3に固定され、前後に延在する左右一組のロアレール36と、ロアレール36にそれぞれ、その延在方向に摺動可能に支持される左右一組のアッパレール37とを含む。スライドバー38はシートクッション5の前部下側において左右に延在する棒状をなしている。左右のアッパレール37の上方にはシートクッション5のシートクッションフレーム12が設けられ、左右のアッパレール37はシートクッション5のシートクッションフレーム12に連結している。レール装置34は、スライドバー38への操作入力に応じて、アッパレール37のロアレール36に対する摺動を規制する規制状態と、アッパレール37のロアレール36に対する摺動を可能とする解除状態とに切り替えを行うロック機構を含む。乗員はスライドバー38に操作入力を行って、シートクッション5、シートバック6、及びヘッドレスト7を一体としてフロア3に対して前後にスライド移動可能な状態と、スライド移動が規制された規制状態とに切り替えることができる。
【0053】
図1に示すように、シートクッション5の車外側側面にはサイドカバー55が設けられている。サイドカバー55は左クッションサイドフレーム15Aの車外側側面に結合されている。サイドカバー55は例えば、左クッションサイドフレーム15Aに溶接されたワイヤ部材(不図示)に掛け止めされることによって、シートクッションフレーム12に結合されているとよい。
【0054】
サイドカバー55は樹脂製の部材であり、車幅方向を向く面を有する板状の本体部56と、本体部56の外周縁から車内側に延びる筒状の筒状部57とを有する。本体部56はシートクッション5の側面と概ね整合する形状をなす。
【0055】
本実施形態では、本体部56には略中央部において車内側に凹むカバー凹部58が形成されている。本体部56のカバー凹部58の後縁を画定する壁であって前方を向く部分には、操作レバー32を挿通させるための貫通孔59が設けられている。サイドカバー55は操作レバー32が貫通孔59を挿通するように配置されて、サイドフレーム15に結合されている。操作レバー32は貫通孔59を通過して前方に延び、グリップ部材33はサイドカバー55の車外側に位置している。
【0056】
図1に示すように、シートバック6の車外側のサイドフレーム15には、エアバッグモジュール60が設けられている。エアバッグモジュール60は左側(車外側)のサイドフレーム15の左側面(車外側側面)であって、上下方向略中央に結合されている。
【0057】
図4に示すように、エアバッグモジュール60は車両用シート1に着座する乗員の車外側にエアバッグ71(いわゆる、サイドエアバッグ)を展開させるためのモジュールである。エアバッグモジュール60は乗員の車外側に展開するエアバッグ71と、エアバッグ71内にガスを発生させて、エアバッグ71を膨張(展開)させるインフレータ72と、エアバッグ71及びインフレータ72を収容するケース73とを含む。
【0058】
エアバッグ71は袋状の部材であり、複数の個室に区分されている。区分された個室にはインフレータ72が発生したガスによって乗員の肩部の車外側(左側)に展開する肩部保護部74及び乗員の胸部の車外側(左側)に展開する胸部保護部75を形成する個室75Aと、乗員の腰部の車外側(左側)に展開する腰部保護部76を形成する個室76Aとが含まれる(
図6(B)参照)。本実施形態では、肩部保護部74と胸部保護部75とは一つの個室75Aによって形成されている。
【0059】
図4に示すように、インフレータ72は円柱状の本体72Aと、本体72Aから径方向外側に突出する複数の雄ねじ72Bとを備えている。
図6(B)に示すように、インフレータ72の延在方向における一端はエアバッグ71の肩部保護部74及び胸部保護部75を形成する個室75Aに連通し、他端はエアバッグ71の腰部保護部76を形成する個室76Aに、他の個室を介することなく、直接連通している。
【0060】
図4に示すように、ケース73は略直方体状の箱体である。ケース73は開口部73Aを有する有底な四角筒状のケース本体73Bと、ケース本体73Bの開口部73Aを覆う樹脂製の蓋部材73Cとを備える。ケース本体73Bの底壁にはインフレータ72の雄ねじ72Bを通過させる複数の貫通孔73Dが形成されている。蓋部材73Cは略方形な板状部材であって、エアバッグ71の膨張によって開裂する開裂部73Eが形成されている。本実施形態では、開裂部73Eは他に比べて肉厚の小さい部分として、蓋部材73Cの一辺の外縁に沿って形成されている。ケース本体73Bの開口縁には厚さ方向に貫通する係止孔73Fが設けられ、蓋部材73Cには係止孔73Fに掛け止めされる係止爪73Gが設けられている。エアバッグ71は折り畳まれ、インフレータ72は雄ねじ72Bが貫通孔73Dを通過してケース本体73Bから突出するように配置されて、ケース本体73Bの内部に収納されている。更に、係止爪73Gが係止孔73Fに掛け止されて、蓋部材73Cはケース本体73Bに結合している。蓋部材73Cはケース本体73Bの開口部73Aを封じている。
【0061】
エアバッグモジュール60はシートバック6の左側のサイドフレーム15の車外側の側面に沿い、インフレータ72の一端側(肩部保護部74及び胸部保護部75を形成する個室75Aに連通する側)が上側、他端側(腰部保護部76を形成する個室76Aに連通する側)が下側となるように配置されている。インフレータ72の雄ねじ72Bがサイドフレーム15に締結されることによって、エアバッグモジュール60はサイドフレーム15の左側面に結合されている。このとき、蓋部材73Cの開裂部73Eはケース73の左前縁近傍に位置している。
【0062】
エアバッグ71の展開時には、
図6(A)~(D)の矢印に示すように、インフレータ72は延在方向における端部(上端及び下端)それぞれから、本体72Aの延在方向に沿って互いに相反する方向にガスを放出する。より詳細には、インフレータ72は上端から上方に向かってガスを放出する。インフレータ72から上方向に放出されたガスは肩部保護部74及び胸部保護部75を形成する個室75Aに流入する。更に、インフレータ72は下端から下方に向かってガスを放出する。インフレータ72から下方向に放出されたガスは他の個室を介することなく、腰部保護部76を形成する個室76Aに直接流入する。
【0063】
図4に示すように、パッド部材23はシートバックフレーム22を前側、左右外側、及び、上側を覆っている。パッド部材23はシートバックフレーム22の前側に設けられ、背凭れ面10に対応する位置に設けられた前中央部81Aと、前中央部81Aの左右にそれぞれ位置し、それぞれ前方に膨出する左側部81B及び右側部(不図示)と含む。前中央部81Aはシートバック中央部6Aを構成し、左側部81B及び右側部はそれぞれボルスター部6Bを構成している。前中央部81A及び左側部81Bの間と、前中央部81A及び右側部の間とにはそれぞれ、前中央部81A、左側部81B、及び右側部に比べて、厚みの小さな薄肉部83が設けられている。すなわち、前中央部81A及び左側部81Bと、前中央部81A及び右側部とはそれぞれ薄肉部83によって接続され、パッド部材23は薄肉部83において折曲変形し易くなっている(
図4の破線参照)。
【0064】
エアバッグモジュール60は左側部81Bによって前後、上下、及び車外側(左側)から覆われている。左側部81Bにはエアバッグモジュール60の前縁右端に対応する位置に厚さ方向に貫通するスリット80が設けられている。スリット80は左側部81Bの左側面に上下に延在するように設けられている。
【0065】
パッド部材23の表面は袋状をなす表皮材24によって覆われている。表皮材24はパッド部材23の前面を覆う前側表皮材85と、パッド部材23の左側面を覆う左側表皮材86(車外側表皮材)と、パッド部材23の右側面を覆う右側表皮材(図示せず)と、パッド部材23の上面を覆う上側表皮材(図示せず)とを含む。本実施形態では、表皮材24は、右側表皮材と左側表皮材86とを左右に接続し、シートバックフレーム22の後側を覆う背面側表皮材87を含んでいる。左側部81Bは上側表皮材によって上方から、左側表皮材86によって前後、及び車外側(左側)、及び下側から覆われている。
【0066】
前側表皮材85と左側表皮材86とは互いに縫合されて縫合部88を形成している。縫合部88は膨張したエアバッグ71によってシートバック6の内側から所定以上荷重が加わると開裂する脆弱部として機能する。
図1に示すように、縫合部88は左側部81Bの車外側側面に上下に延在している。本実施形態では、縫合部88は左側部81Bの車外側側面の上端から下端にまで達している。縫合部88はスリット80の前方であって、左側部81Bの車外側側面の前縁近傍に位置している。
【0067】
左側部81Bの車外側側面(左側面)には、車内側(右側)に凹む受容凹部90が形成されている。本実施形態では、受容凹部90はスリット80の前方に位置している。受容凹部90は左側部81Bの上下方向略中央部において、上下方向に筋状に延在している。受容凹部90(車内側端部)にはクリップ91が設けられている。本実施形態では、クリップ91は樹脂製の部材であり、複数のクリップ91が等間隔に並ぶように受容凹部90に収容されている。
【0068】
図5に示すように、クリップ91は平板状の底板部91Aと、底板部91Aから車外側に突出する突起部91Bと、突起部91Bから前後に対をなしそれぞれ車外側に延びる一対の延出部91Cと、延出部91Cの延出端それぞれにおいて対向する方向に突出する一対の係止爪91Dとを備えている。
【0069】
クリップ91にはフック92が結合されている。本実施形態ではフック92は樹脂によって形成されている。フック92は2つの係止爪91Dの間に挿入された平板部92Aと、平板部92Aの(車内側端部)において相反する方向に突出する一対の係止片92Bとを備えている。底板部91Aはパッド部材23の受容凹部90を画定する壁面に当接し、前後方向から圧接されている。これにより、クリップ91は受容凹部90に受容されて、パッド部材23に係止されている。フック92は係止片92B及び係止爪91Dの係合によって、車外側への移動が規制されて、クリップ91に係止されている。
【0070】
フック92にはシート状の部材である力布93が結合されている。力布93は一端においてフック92の平板部92Aに縫合され、他端において縫合部88の上下方向略中央部に縫合されている(
図6(A)参照)。
【0071】
図1に示すように、サイドカバー55の後部は車外側(左側)のボルスター部6Bの下側に位置している。サイドカバー55の後部上面の車内側側縁(右縁)には上方に向くガイド面96が形成されている。
図1及び
図3(B)に示すように、ガイド面96は車外側(左側)のボルスター部6Bの下方であって、エアバッグモジュール60の下側に位置し、前方に向かって下方に傾斜している。換言すれば、ガイド面96は、エアバッグモジュール60の下端前縁の下側に位置する地点から下端後縁の下側に位置する地点に向かうにつれて上側に傾斜している。
【0072】
本実施形態では、
図3(A)に示すように、ガイド面96の車外側縁(左縁)には上方に延びるガイド壁97が設けられている。これにより、ガイド面96には車内側よりも車外側が高い段差98が接続されている。ガイド壁97は、シートバック6の傾倒によって、エアバッグモジュール60が当たらないように配置されている。本実施形態では、エアバッグモジュール60はガイド壁97な上縁よりも傾倒軸29から離れた位置にある。更に、ガイド面96は側面視で上方に凸に緩やかに湾曲している。
【0073】
次に、このように構成した車両用シート1の動作について説明する。エアバッグ71の展開時には、肩部保護部74及び胸部保護部75を構成する個室75Aと、腰部保護部76を構成する個室76Aとにそれぞれ、インフレータ72からガスが導入される。これにより、エアバッグ71が膨張してケース73が開裂部73Eにおいて開裂する。
【0074】
図6(A)に示すように、ケース73が開裂した後、更に腰部保護部76を構成する個室76Aにガスが導入されると、腰部保護部76は下方に膨張する。
図6(B)に示すように、腰部保護部76の膨張によって左ボルスター部6Cが下方に膨張し、左ボルスター部6Cの下面がガイド面96に当接する。ガイド面96は前方に向かって下方に傾斜しているため、腰部保護部76の下方への膨張がガイド面96によって規制されるとともに、腰部保護部76の膨張(展開)が前方に案内される。これによって、腰部保護部76が前方に向かって膨張する。
【0075】
腰部保護部76が前方に膨張すると、スリット80を通過して表皮材24に達する。その後、腰部保護部76はパッド部材23と表皮材24との隙間に沿って前方に膨張する。これにより、
図6(C)及び(D)に示すように、腰部保護部76が縫合部88の下部に荷重が加わり、縫合部88の下部が開裂して、左側部81Bの下部を覆う表皮材24に開口が形成される。これにより、腰部保護部76は形成された開口を通過して、シートバック6の表面を通過して斜め左前方に膨張し、乗員の腰部の車外側に展開する。
【0076】
ケース73が開裂した後、腰部保護部76と同様に、肩部保護部74及び胸部保護部75を構成する個室75Aにガスが導入される。これにより、
図6(A)に示すように、肩部保護部74が上方に膨張する。更に、ガスが導入されると、個室75Aの肩部保護部74を画定する縁部によってガスが前方に案内されて、肩部保護部74は前方に向かって膨張する。個室75Aに導入されたガスは左側部81Bを覆う表皮材24によって前方に案内されるように構成されていてもよい。
【0077】
肩部保護部74が前方に膨張すると、スリット80を通過して表皮材24に達する。その後、肩部保護部74はパッド部材23と表皮材24との隙間に沿って前方に膨張する。これにより、
図6(B)に示すように、肩部保護部74が縫合部88の上部に荷重が加わり、縫合部88の上部が開裂して、左側部81Bの上部を覆う表皮材24に開口が形成される。これにより、
図6(C)及び(D)に示すように、肩部保護部74は形成された開口を通過して、シートバック6の表面を通過して斜め左前方に膨張し、乗員の肩部の車外側に展開する。
【0078】
図6(C)に示すように、肩部保護部74が前方に膨張し、縫合部88の開裂が開始されるときには、個室75Aの胸部保護部75に対応する部分にもまたガスが流入する。これにより、胸部保護部75は左側に膨張し、スリット80を通過して表皮材24と左側部81Bとの間に沿って前方に膨張する。
【0079】
図4から理解できるように、胸部保護部75が表皮材24と左側部81Bとの間に沿って前方に膨張すると、胸部保護部75は力布93に当接する。胸部保護部75が更に膨張すると、力布93に前方に向く荷重が加わり、縫合部88が開裂する。これによって、左側部81Bを覆う表皮材24の前部左端の上下方向中央部分に開口が形成される。胸部保護部75は形成された表皮材24の開口を通過して、シートバック6の斜め左前方に向かって膨張し、乗員の胸部の車外側に展開する。
【0080】
このとき、左側部81Bの上下方向中央部分を覆う表皮材24に開口が形成され、胸部保護部75が開口を通過すると、左側部81Bが前方に押し出されて、パッド部材23が薄肉部83において折れ曲る。パッド部材23の折曲変形によって、スリット80の前後方向の幅が大きくなるため、エアバッグ71がスリット80を通過し易くなり、エアバッグ71がより迅速に展開される。
【0081】
次に、このように構成した車両用シート1の効果について説明する。インフレータ72から放出されるガスが肩部保護部74及び胸部保護部75を構成する個室75Aに導入されると、肩部保護部74は上方に向かって膨張し、その後、前方に向かって膨張する。インフレータ72から放出されるガスが腰部保護部76を構成する個室76Aに導入されると、腰部保護部76が下方に向かって膨張し、その後、前方に向かって膨張する。
【0082】
図1に示すように、車両用シート1において、左側部81Bは下方に向かって前後幅が大きくなるように形成されている。よって、腰部保護部76は肩部保護部74に比べて縫合部88から前後に離れている。従って、腰部保護部76及び肩部保護部74がそれぞれ前方に向かって概ね同じように膨張した場合であっても、腰部保護部76のシートバック6外への展開は肩部保護部74に対して遅延することがある。
【0083】
本実施形態では、サイドカバー55には前方に向かって下方に傾斜するガイド面96が設けられている。これにより、左ボルスター部6Cがガイド面96に当接し、腰部保護部76が前方に膨張するように案内される。よって、ガイド面96が設けられていない場合に比べて、腰部保護部76をより迅速に前方に向かって膨張させることができる。従って、ガイド面96が設けられていない場合に比べて、エアバッグ71をシートバック6の外側の乗員の腰部の車外側側方により高速に展開させることができる。
【0084】
本実施形態では、ガイド面96の車外側縁部にはガイド壁97が設けられて、車外側が高くなる段差98が接続されている。段差98が設けられることで、腰部保護部76がガイド面96に当接したときに、段差98によって腰部保護部76が車外側に膨張することが防止される。これにより、段差98が設けられていない場合に比べて、腰部保護部76の展開方向が前方に集中し易くなるため、腰部保護部76をより迅速に乗員の腰部の車外側に展開させることができる。
【0085】
更に、ガイド面96は側面視で上方に凸に緩やかに湾曲している。これにより、ガイド面96が上方からのより大きな荷重に対して対抗することができる。よって、展開時にサイドカバー55が変形し難くなるため、腰部保護部76の展開をより適正に案内することができる。
【0086】
本実施形態では、前中央部81Aと左側部81Bとの間に薄肉部83が設けられている。薄肉部83が設けられることによって、エアバッグ71のシートバック6外への展開時に、パッド部材23が薄肉部83において折曲変形し、スリット80の幅が拡大する。これにより、エアバッグ71がスリット80を通過し易くなるため、エアバッグ71をより迅速に展開させることができる。
【0087】
<<第2実施形態>>
第2実施形態に係る車両用シート101は、シートバック6の車外側(左側)のサイドフレーム15に支持部材102が設けられている点と、サイドカバー55にガイド壁97が設けられていない点とが異なり、他の構成については第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。また、以下の説明においても、背凭れ面10が最も起立した状態にあるときを基準とする。
【0088】
支持部材102は折曲形成された板金部材である。支持部材102はエアバッグモジュール60の下方であって、左バックサイドフレーム25Aの下端部分に結合されている。支持部材102は左バックサイドフレーム25Aの車外側側面(左側面)に結合された車外側結合部103Aと、左バックサイドフレーム25Aの後側面に結合された後側結合部103Bと、車外側結合部103Aの上縁に接続する支持部104とを含む。
【0089】
車外側結合部103Aは平板状をなしている。車外側結合部103Aは左バックサイドフレーム25Aの下端の車外側側面に整合する形状をなしている。車外側結合部103Aの略中央部には厚さ方向に貫通する受容孔105が形成されている。
【0090】
後側結合部103Bは車外側結合部103Aの後縁から車内側(右側)に延びる板状をなしている。後側結合部103Bは前後方向を向く面を有している。後側結合部103Bの左右方向の幅は、左バックサイドフレーム25Aの左右方向の幅よりも短い。
【0091】
車外側結合部103Aは傾倒軸29が受容孔105を通過し、且つ、左バックサイドフレーム25Aの車外側側面に沿うように配置されている。後側結合部103Bは左バックサイドフレーム25Aの後面に沿うように配置されている。車外側結合部103Aの前縁及び下縁と、後側結合部103Bの車内側縁(右縁)とはそれぞれ複数の箇所(以下、溶接部106)において、左バックサイドフレーム25Aにスポット溶接されている。本実施形態では、溶接部106は車外側結合部103Aにおいて、受容孔105を外囲するように設けられている。
【0092】
支持部104は車外側結合部103Aの上縁から車外側に延出する板状をなしている。支持部104の上面には前方に向かって下方に傾斜するガイド面104Aが形成されている。より詳細には、ガイド面104Aは背凭れ面10が最も起立した状態にあるときに前方に向かって下方に傾斜している。本実施形態では、ガイド面104Aは側面視で上方に凸に緩やかに湾曲している。
【0093】
サイドカバー55は車外側結合部103Aの下半部を車外側から覆うように配置されている。第1実施形態と同様に、サイドカバー55は左クッションサイドフレーム15Aの左側面(車外側側面)に結合されている。支持部材102の支持部104を含む上半部はサイドカバー55の上方に位置している。支持部材102の上半部はエアバッグモジュール60とともにパッド部材23及び表皮材24に前後、及び車外側から覆われた状態で、シートバック6の内部に収納されている。
【0094】
次に、第2実施形態に係る車両用シート101の効果について説明する。エアバッグ71が展開すると、第1実施形態と同様に腰部保護部76が下方に膨張する。これにより、腰部保護部76はサイドフレーム15の下端部分に位置する支持部材102に到達する。
【0095】
このとき、腰部保護部76はガイド面104Aに上方から当接する。ガイド面104Aは前方に向かって下方に傾斜しているため、腰部保護部76はガイド面104Aによって前方に膨張するように案内される。これにより、腰部保護部76を、ガイド面104Aが設けられていない場合に比べて、シートバック6の前縁に向かってより迅速に膨張させることができる。よって、エアバッグ71がシートバック6の表面により迅速に到達し、エアバッグ71を乗員の腰部分に対応する位置により高速に展開させることができる。
【0096】
また、更に、ガイド面104Aは上方に向かって凸に湾曲しているため、展開時に支持部104の縁部にエアバッグ71が接触し難い。よって、エアバッグ71が展開中に支持部104の前縁や後縁等に接触することが防止できる。このように、エアバッグ71と支持部104の前縁や後縁との接触を防止することによって、エアバッグ71をより適正に展開させることができる。
【0097】
また、板金部材である支持部材102によってガイド面104Aを構成することができるため、ガイド面104Aを簡素な構成によって形成することができる。
【0098】
更に、支持部材102の車外側結合部103Aには受容孔105が設けられ、受容孔105に傾倒軸29が受容されている。これにより、支持部材102を傾倒軸29と干渉することなく、シートバック6のサイドフレーム15に結合させることができる。更に、車外側結合部103Aは受容孔105を外囲するように設けられた溶接部106においてサイドフレーム15に溶接されている。これにより、シートバックフレーム22のうち、衝突時に負荷が加わり易い可動部分である傾倒軸29近傍の剛性を高め、補強することができる。
【0099】
衝突等によって車両用シート1に背面から荷重が加わると、サイドフレーム15とロアフレーム27との結合部分や、サイドフレーム15とアッパフレーム26との結合部分に負荷が加わり易い。本実施形態では、後側結合部103Bをサイドフレーム15の後面下縁近傍に溶接することで、サイドフレーム15とロアフレーム27との結合部分近傍の剛性が高められる。これにより、衝突時に負荷が加わりやすい部分を補強することができる。また、車外側結合部103Aと後側結合部103Bとを互いに直交するように設けることによって、支持部材102そのものの剛性を高めることができる。
【0100】
<<第3実施形態>>
第3実施形態に係る車両用シート201は、第1実施形態に係る車両用シート1と比べて、支持部材202が設けられている点が異なる。第3実施形態に係る車両用シート201に設けられる支持部材202は、第2実施形態に係る車両用シート101の支持部材102と異なる。他の構成については、第1実施形態に係る車両用シート1と同様であるため、説明を省略する。また、第1実施形態及び第2実施形態と同様に、背凭れ面10が最も起立した状態にあるときを基準として説明を行う。
【0101】
第3実施形態に係る車両用シート201の支持部材202は折曲形成された板金部材である。支持部材202はエアバッグモジュール60の下方であって、車外側のサイドフレーム15の下端部分に結合されている。支持部材102はサイドフレーム15の車外側側面に結合された車外側結合部203Aと、サイドフレーム15の後側面に結合された後側結合部203Bと、車外側結合部203Aの上縁に接続する支持部204とを含む。
【0102】
車外側結合部203Aは平板状をなしている。車外側結合部203Aは左バックサイドフレーム25Aの下端の車外側側面に整合する形状をなしている。車外側結合部203Aの略中央部には厚さ方向に貫通する受容孔205が形成されている。
【0103】
後側結合部203Bは車外側結合部203Aの後縁から車内側に延びる板状をなしている。後側結合部203Bは前後方向を向く面を有している。後側結合部203Bの左右方向の幅は、左バックサイドフレーム25Aの左右方向の幅よりも短い。
【0104】
車外側結合部203Aは傾倒軸29が受容孔205を通過し、且つ、左バックサイドフレーム25Aの車外側側面に沿うように配置されている。後側結合部203Bは左バックサイドフレーム25Aの後面に沿うように配置されている。車外側結合部203Aの車外側縁部と、後側結合部203Bの車内側縁部とはそれぞれ複数の箇所(以下、溶接部206)において、左バックサイドフレーム25Aにスポット溶接されている。本実施形態では、溶接部206は車外側結合部203Aにおいて、受容孔205を外囲するように設けられている。
【0105】
支持部204は車外側結合部203Aの上縁から車外側に延出する板状をなしている。支持部204の上面には前方に向かって下方に傾斜する支持面207が形成されている。より詳細には、支持面207は背凭れ面10が最も起立した状態にあるときに前方に向かって下方に傾斜している。本実施形態では、支持面207は側面視で上方に凸に緩やかに湾曲し、サイドカバー55のガイド面96に対応する形状をなしている。
【0106】
図9に示すように、サイドカバー55は支持部材202の全体を車外側から覆うように配置されて、シートクッション5のサイドフレーム15に結合されている。支持面207はサイドカバー55のガイド面96に対応する部分に下側から当接して、ガイド面96を下方から支持している。
【0107】
次に第3実施形態に係る車両用シート201の効果について説明する。エアバッグ71が展開するときには、第1実施形態と同様に腰部保護部76が下方に膨張すると、腰部保護部76の膨張によって左ボルスター部6Cが下方に膨張し、左ボルスター部6Cの下面がガイド面96に当接する。このとき、ガイド面96には左ボルスター部6Cから下方に向く荷重が加わる。
【0108】
サイドカバー55のガイド面96に対応する部分に支持面207が下方から当接しているため、支持面207が支持部材202によって下方から支持される。これにより、サイドカバー55のガイド面96に対応する部分の変形が防止される。よって、腰部保護部76の展開方向をより適正な方向に案内できるため、腰部保護部76がより迅速にシートバック6外に展開し、乗員をより確実に保護することができる。
【0109】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。
図10に示すように、前方に位置する係止爪91D及の突出量が、後方に位置する係止爪91Dの突出量に比べて小さくてもよい。エアバッグ71の膨張時には力布93に前方に向く荷重が加わるため、主に後方に位置する係止爪91D及び係止片92Bが係合し、フック92のクリップ91からの離脱が防止できる。また、前方に位置する係止爪91Dの突出量を後方に位置する係止爪91Dよりも小さくすることによって、前方に位置する係止爪91Dの突出量が後方に位置する係止爪91Dと同じ場合に比べて、車両用シート1、101、201の組立時に作業者はフック92をクリップ91に容易に結合させることができる。
【0110】
上記第1~第3実施形態では、エアバッグモジュール60はシートバック6のサイドフレーム25に締結されていたが、この態様には限定されない。
図11に示すように、エアバッグモジュール60はブラケット210を介してシートバック6のサイドフレーム25に結合されていてもよい。例えば、ブラケット210が上面視で前方に向かって開口するU字状をなすように折曲形成された板金部材であり、エアバッグモジュール60は、ブラケット210の開口部分に前方から挿入されることによりブラケット210に挟持されて、サイドフレーム25に結合されてもよい。また、ブラケット210は所定形状の切欠211が形成され、エアバッグモジュール60はその切欠211に掛け止めされるフック212を備えていてもよい。
【0111】
上記第1~第3実施形態では、クリップ91はパッド部材23の車外側側面に設けられた受容凹部90に収容されていたが、この態様には限定されない。クリップ91が受容される凹部222は、
図12に示すように、パッド部材23の車外側(右側)の左側部81Bの前面において、後方に凹むように形成されていてもよい。この場合も同様に、胸部保護部75がスリット80を通過し、パッド部材23と左側表皮材86との間、及び、パッド部材23と前側表皮材85との間を通って前方に膨張する。これにより、胸部保護部75が力布93に当接し、力布93に前方に向く荷重が加わって、縫合部88が開裂する。これによって、左側部81Bを覆う表皮材24の前部左端の上下方向中央部分に開口が形成されて、胸部保護部75がシートバック6の外に展開する。
【0112】
図13に示すように、力布93に結合されたフック92を掛け止めするためのクリップ291がシートバックフレーム22に直接結合されていてもよい。クリップ291は車外側又は前方に開口し、フック92を受容する受容孔292を備えているとよい。
【0113】
上記第1実施形態ではガイド面96に段差98が接続されていたが、この態様には限定されない。例えば、
図14に示すように、ガイド面296は車外側が高くなるように傾斜する斜面であってもよい。ガイド面296の車外側を高くすることによって、腰部保護部76が車内側(右側)に案内されるため、腰部保護部76がより迅速に前方に展開する。
【0114】
また、第3実施形態において、支持部材202の支持部204にはねじりコイルばね31Aの一端が掛け止めされるように構成されていてもよい。
【0115】
上記実施形態では、車両用シート1、101、201は助手席を構成していたが、この態様には限定されない。例えば、車両用シート1、101、201は2列目以降に配置される後部座席を構成していてもよい。
【符号の説明】
【0116】
1 :第1実施形態に係る車両用シート
5 :シートクッション
6 :シートバック
12 :シートクッションフレーム
15 :サイドフレーム(クッションサイドフレーム)
22 :シートバックフレーム
28 :傾倒軸
15 :サイドフレーム(バックサイドフレーム)
55 :サイドカバー
60 :エアバッグモジュール
71 :エアバッグ
76 :腰部保護部
96 :ガイド面
98 :段差
101 :第2実施形態に係る車両用シート
102 :支持部材
103A :車外側結合部
103B :後側結合部
104 :支持部
104A :ガイド面
105 :受容孔
106 :溶接部
201 :第3実施形態に係る車両用シート
202 :支持部材