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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】薄肉鋳片の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/06 20060101AFI20231122BHJP
   B22D 11/10 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
B22D11/06 330B
B22D11/10 310F
B22D11/10 310G
B22D11/10 310D
B22D11/10 320D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019219251
(22)【出願日】2019-12-04
(65)【公開番号】P2021087968
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】藤井 忠幸
(72)【発明者】
【氏名】新井 貴士
(72)【発明者】
【氏名】宮嵜 雅文
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-530255(JP,A)
【文献】特開平06-114510(JP,A)
【文献】特開2012-006025(JP,A)
【文献】特開平09-220647(JP,A)
【文献】国際公開第2017/030052(WO,A1)
【文献】特開昭63-013648(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/06
B22D 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
取鍋からタンディッシュへロングノズルを介して溶融金属を注入し、回転する一対の冷却ドラムと一対のサイド堰によって形成された溶融金属溜まり部に、前記タンディッシュから浸漬ノズルを介して前記溶融金属を供給し、前記冷却ドラムの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する薄肉鋳片の製造方法であって、
前記タンディッシュ内の前記溶融金属の滞留時間をT(sec)とし、前記タンディッシュ内の前記溶融金属の湯面高さをH(mm)とした場合に、T/H≧1.0かつ500≦H≦1500となるように、前記タンディッシュの形状、及び、前記溶融金属の供給条件を設定することを特徴とする薄肉鋳片の製造方法。
【請求項2】
前記タンディッシュは、前記ロングノズルが配設される第1槽と、前記浸漬ノズルが配設される第2槽と、これら前記第1槽と前記第2槽とを連通する連絡通路と、を有し、前記第1槽及び前記第2槽には、それぞれ底面から立設された下堰が設けられており、
前記第1槽には、前記ロングノズルの直下に前記溶融金属の攪拌領域が形成されており、この攪拌領域は、前記溶融金属が衝突する底部と、この底部から立設された側壁部と、この側壁部から前記底部とは間隔をあけて対向するように延在する庇部と、を備えており、
前記連絡通路には、電磁加熱装置が配設されていることを特徴とする請求項1に記載の薄肉鋳片の製造方法。
【請求項3】
前記タンディッシュは、前記ロングノズルが配設される第1槽と、前記浸漬ノズルが配設される第2槽と、これら前記第1槽と前記第2槽とを連通する連絡通路と、を有し、前記第1槽及び前記第2槽には、それぞれ底面から立設された下堰が設けられており、
前記ロングノズルの内部に、前記溶融金属の攪拌手段が設けられており、
前記連絡通路には、電磁加熱装置が配設されていることを特徴とする請求項1に記載の薄肉鋳片の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、取鍋からタンディッシュへロングノズルを介して溶融金属を注入し、回転する一対の冷却ドラムと一対のサイド堰によって形成された溶融金属溜まり部に、前記タンディッシュから浸漬ノズルを介して前記溶融金属を供給し、前記冷却ドラムの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する薄肉鋳片の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属の薄肉鋳片を製造する方法として、例えば、特許文献1に示すように、内部に水冷構造を有する冷却ドラムを備え、回転する一対の冷却ドラム間に形成された溶融金属溜まり部に、タンディッシュから浸漬ノズルを介して溶融金属を供給し、前記冷却ドラムの周面に凝固シェルを形成・成長させ、一対の冷却ドラムの外周面にそれぞれ形成された凝固シェル同士をドラムキス点で接合し、圧下して所定の厚さの薄肉鋳片を製造する双ドラム式連続鋳造装置を用いた製造方法が提供されている。このような双ドラム式連続鋳造装置を用いた製造方法は、各種金属において適用されている。
【0003】
上述の双ドラム式連続鋳造装置においては、最終製品に近似した形状の薄肉鋳片が製造される。ここでは、鋳造工程と熱延工程との間に、疵等を除去する仕上げ工程を適用することができないため、鋳造時における介在物の巻き込みを十分に低減しておく必要がある。
そこで、例えば、特許文献2には、図5に示すように、上堰28、下堰(ダム)24,25を形成したタンディッシュ120を用いている。このタンディッシュ120においては、取鍋7からロングノズル9を介して注入された溶融金属を、上堰28によって攪拌することにより、微細な介在物を凝集させて粗大化し、浮上分離を促進する構成とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-166085号公報
【文献】特許第6478914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2においては、注入された溶鋼を攪拌し、微細な介在物を凝集させて粗大化している。しかし、粗大化した介在物を浮上分離できないと、薄肉鋳片に粗大な介在物が混入し、重大な品質不良が発生するおそれがあった。
また、堰によって生じた攪拌流が溶鋼湯面を乱し、浮上分離した介在物の再巻き込み、溶鋼の酸化による介在物の生成、等が発生し、薄肉鋳片の品質低下を引き起こすおそれがあった。
【0006】
本発明は、前述した状況に鑑みてなされたものであって、双ドラム式連続鋳造装置において、タンディッシュ内において介在物を十分に除去することができ、品質の安定した薄肉鋳片を製造可能な薄肉鋳片の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するために、本発明に係る薄肉鋳片の製造方法は、取鍋からタンディッシュへロングノズルを介して溶融金属を注入し、回転する一対の冷却ドラムと一対のサイド堰によって形成された溶融金属溜まり部に、前記タンディッシュから浸漬ノズルを介して前記溶融金属を供給し、前記冷却ドラムの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する薄肉鋳片の製造方法であって、前記タンディッシュ内の前記溶融金属の滞留時間をT(sec)とし、前記タンディッシュ内の前記溶融金属の湯面高さをH(mm)とした場合に、T/H≧1.0かつ500≦H≦1500となるように、前記タンディッシュの形状、及び、前記溶融金属の供給条件を設定することを特徴としている。
【0008】
この構成の薄肉鋳片の製造方法によれば、前記タンディッシュ内の前記溶融金属の滞留時間をT(sec)とし、前記タンディッシュ内の前記溶融金属の湯面高さをH(mm)とした場合に、T/H≧1.0となるように、前記タンディッシュの形状、及び、前記溶融金属の供給条件を設定しているので、タンディッシュ内における溶融金属の滞留時間を確保することができ、溶融金属中の介在物を十分に浮上分離することが可能となる。よって、介在物の巻き込みが少なく品質の安定した薄肉鋳片を製造することができる。
【0009】
ここで、本発明に係る薄肉鋳片の製造方法においては、前記タンディッシュは、前記ロングノズルが配設される第1槽と、前記浸漬ノズルが配設される第2槽と、これら前記第1槽と前記第2槽とを連通する連絡通路と、を有し、前記第1槽及び前記第2槽には、それぞれ底面から立設された下堰が設けられており、前記第1槽には、前記ロングノズルの直下に前記溶融金属の攪拌領域が形成されており、この攪拌領域は、前記溶融金属が衝突する底部と、この底部から立設された側壁部と、この側壁部から前記底部とは間隔をあけて対向するように延在する庇部と、を備えており、前記連絡通路には、電磁加熱装置が配設されている構成としてもよい。
【0010】
この場合、前記タンディッシュは、前記ロングノズルが配設される第1槽と、前記浸漬ノズルと連通される第2槽と、これら前記第1槽と前記第2槽とを連通する連絡通路と、を有し、前記第1槽には、前記ロングノズルの直下に前記溶融金属の攪拌領域が形成されているので、攪拌領域において溶融金属を攪拌することで、微細な介在物を凝集して粗大化し、浮上分離を促進することができる。なお、上述のように、タンディッシュ内での滞留時間Tが確保されているので、粗大化した介在物を確実に浮上分離することが可能となる。
【0011】
そして、上述の攪拌領域は、前記溶融金属が衝突する底部と、この底部から立設された側壁部と、この側壁部から前記底部とは間隔をあけて対向するように延在する庇部と、を備えているので、生じた攪拌流が湯面へ与える影響を小さく抑えることができ、介在物の再巻き込み、溶融金属の酸化等を十分に抑制することができる。
さらに、前記連絡通路には、電磁加熱装置が配設されているので、タンディッシュ内における溶融金属の温度低下を抑制することができる。また、第1槽から第2槽への溶融金属を効率的に移送することができる。
【0012】
また、本発明に係る薄肉鋳片の製造方法においては、前記タンディッシュは、前記ロングノズルが配設される第1槽と、前記浸漬ノズルと連通される第2槽と、これら前記第1槽と前記第2槽とを連通する連絡通路と、を有し、前記第1槽及び前記第2槽には、それぞれ底面から立設された下堰が設けられており、前記ロングノズルの内部に、前記溶融金属の攪拌手段が設けられており、前記連絡通路には、電磁加熱装置が配設されている構成としてもよい。
【0013】
この場合、前記タンディッシュは、前記ロングノズルが配設される第1槽と、前記浸漬ノズルと連通される第2槽と、これら前記第1槽と前記第2槽とを連通する連絡通路と、を有し、前記ロングノズルの内部に、前記溶融金属の攪拌手段が設けられているので、ロングノズルの内部で溶融金属を攪拌することで、微細な介在物を凝集して粗大化し、浮上分離を促進することができる。なお、上述のように、タンディッシュ内での滞留時間Tが確保されているので、粗大化した介在物を確実に浮上分離することができる。
【0014】
また、ロングノズルの内部で溶融金属を攪拌しているので、攪拌流が湯面へ与える影響を小さく抑えることができ、介在物の再巻き込み、溶融金属の酸化等を十分に抑制することができる。
さらに、前記連絡通路には、電磁加熱装置が配設されているので、タンディッシュ内における溶融金属の温度低下を抑制することができる。また、第1槽から第2槽への溶融金属を効率的に移送することができる。
【発明の効果】
【0015】
上述のように、本発明によれば、双ドラム式連続鋳造装置において、タンディッシュ内において介在物を十分に除去することができ、品質の安定した薄肉鋳片を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態である薄肉鋳片の製造方法に用いられる双ドラム式連続鋳造装置の一例を示す説明図である。
図2図1に示す双ドラム式連続鋳造装置のタンディッシュの拡大説明図である。
図3】本発明の他の実施形態である薄肉鋳片の製造方法に用いられる双ドラム式連続鋳造装置のタンディッシュの拡大説明図である。
図4】本発明の他の実施形態である薄肉鋳片の製造方法に用いられる双ドラム式連続鋳造装置のタンディッシュの拡大説明図である。
図5】従来の薄肉鋳片の製造方法に用いられる双ドラム式連続鋳造装置のタンディッシュの拡大説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態である薄肉鋳片の製造方法について、添付した図面を参照して説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
ここで、本実施形態では、溶融金属として溶鋼を用いており、鋼材からなる薄肉鋳片1を製造するものとされている。また、本実施形態では、製造される薄肉鋳片1の幅が200mm以上1800mm以下の範囲内、厚さが0.8mm以上5mm以下の範囲内とされている。
【0018】
まず、本実施形態である薄肉鋳片の製造方法に用いられる双ドラム式連続鋳造装置10について説明する。
図1に示す双ドラム式連続鋳造装置10は、一対の冷却ドラム11、11と、薄肉鋳片1を支持するピンチロール12、13と、一対の冷却ドラム11、11の幅方向端部に配設されたサイド堰15と、これら一対の冷却ドラム11、11とサイド堰15とによって画成された溶鋼プール部16に供給される溶鋼3を保持するタンディッシュ20と、このタンディッシュ20から溶鋼プール部16へと溶鋼3を供給する浸漬ノズル18と、を備えている。
【0019】
ここで、図2に示すように、タンディッシュ20は、ロングノズル9を介して取鍋7から溶鋼3が供給される構成とされている。
本実施形態であるタンディッシュ20においては、ロングノズル9が配設される第1槽21と、浸漬ノズル18が配設される第2槽22と、これら第1槽21と第2槽22とを連通する連絡通路23と、を有している。
上述の第1槽21及び第2槽22には、それぞれ底面から立設された下堰24,25が設けられている。また、第1槽21と第2槽22とを連通する連絡通路23には、電磁加熱装置26が配設されている。
【0020】
そして、第1槽21には、ロングノズル9の直下に、供給された溶鋼3を攪拌するための攪拌領域30が形成されている。
この攪拌領域30においては、ロングノズル9から供給された溶鋼3が衝突する底部31と、この底部31から立設された側壁部32と、この側壁部32から底部31とは間隔をあけて対向するように延在する庇部33と、を備えている。
【0021】
次に、上述の双ドラム式連続鋳造装置10を用いた本実施形態の薄肉鋳片1の製造方法について説明する。
まず、本実施形態においては、タンディッシュ20内の溶鋼3の滞留時間をT(sec)とし、タンディッシュ20内に貯留された溶鋼3の湯面高さをH(mm)とした場合に、T/H≧1.0となるように、タンディッシュ20の形状、及び、溶鋼3の供給条件を設定する。
【0022】
なお、タンディッシュ20内の溶鋼3の滞留時間T(sec)は、タンディッシュ20の容量V(t)と、溶鋼3の供給量P(t/min)とから、以下の式で算出される。
T(sec)=60×V(t)/P(t/min)
また、タンディッシュ20内に貯留された溶鋼3の湯面高さH(mm)は、浸漬ノズル18が連接された位置における湯面高さとする。湯面高さHは、0.5m以上1.5m以下が好ましい。1.5mを超えると、浮上効果が得られる滞留時間Tが過大となり、タンディッシュ20の容積が必要以上となって効率的ではない。一方で、0.5m未満では、湯面の表面積が大きくなり再酸化のリスクが高くなるとともに、湯面の変動が大きくなって浮上した介在物等の巻き込みを助長する。
【0023】
そして、取鍋7からロングノズル9を介して、タンディッシュ20内に溶鋼3を供給する。
すると、タンディッシュ20の第1槽21のロングノズル9の直下には、上述の攪拌領域30が形成されているので、ロングノズル9を介して供給された溶鋼3が底部31に衝突することで溶鋼3に攪拌流が生じる。このとき、攪拌領域30には、庇部33が形成されていることから、攪拌流によるタンディッシュ20の湯面への影響を抑えることが可能となる。
【0024】
溶鋼3が攪拌されることで、溶鋼3中の微細な介在物が凝集して粗大化し、浮上分離が促進される。すなわち、タンディッシュ20の第1槽21側において、介在物の凝集及び浮上分離が行われることになる。
その後、溶鋼3が連絡通路23を介して第2槽22へと移送される。このとき、連絡通路23には電磁加熱装置26が配設されているので、溶鋼3の温度低下が抑制される。
なお、第2槽22にまで混入した介在物は、第2槽22において浮上分離することになる。
そして、第2槽22に連通された浸漬ノズル18を介して、溶鋼プール部16へ溶鋼3が供給される。
【0025】
溶鋼プール部16へ供給された溶鋼3は、回転する冷却ドラム11,11に接触して冷却される。これにより、冷却ドラム11,11の周面の上で凝固シェル5、5が成長する。そして、一対の冷却ドラム11,11にそれぞれ形成された凝固シェル5、5同士が、ドラムキス点で圧着される。これにより、所定厚みの薄肉鋳片1が鋳造される。
【0026】
以上のような構成とされた本実施形態である薄肉鋳片1の製造方法によれば、タンディッシュ20内の溶鋼3の滞留時間をT(sec)とし、タンディッシュ20内の溶鋼3の湯面高さをH(mm)とした場合に、T/H≧1.0となるように、タンディッシュ20の形状、及び、溶鋼3の供給条件(スループットP)を設定しているので、タンディッシュ20内における溶鋼3の滞留時間を確保でき、介在物を十分に浮上分離できる。よって、介在物の巻き込みが少なく品質の安定した薄肉鋳片1を製造できる。
【0027】
また、本実施形態においては、タンディッシュ20が、ロングノズル9が配設される第1槽21と、浸漬ノズル18が配設される第2槽22と、これら第1槽21と第2槽22とを連通する連絡通路23と、を有し、第1槽21及び第2槽22には、それぞれ底面から立設された下堰24,25が設けられており、第1槽21には、ロングノズル9の直下に溶鋼3の攪拌領域30が形成されているので、攪拌領域30において溶鋼3を攪拌することで、微細な介在物を凝集して粗大化し、浮上分離を促進できる。なお、上述のように、タンディッシュ20内での滞留時間が確保されているので、粗大化した介在物を確実に浮上分離できる。
【0028】
また、攪拌領域30は、溶鋼3が衝突する底部31と、この底部31から立設された側壁部32と、この側壁部32から底部31とは間隔をあけて対向するように延在する庇部33と、を備えているので、生じた攪拌流が湯面へ与える影響を小さく抑えられ、介在物の再巻き込み、溶鋼3の酸化等を十分に抑制できる。
さらに、連絡通路23には、電磁加熱装置26が配設されているので、タンディッシュ20内における溶鋼3の温度低下を抑制できる。また、第1槽21から第2槽22へ溶鋼3を効率的に移送できる。
【0029】
また、本実施形態では、タンディッシュ20が、ロングノズル9が配設される第1槽21と、浸漬ノズル18が配設される第2槽22と、に分離されているので、第1槽21で生じた攪拌流が浸漬ノズル18との連通部分に影響を与えることがなく、浸漬ノズル18へと安定して溶鋼3を供給でき、溶鋼プール部16の湯面を安定して制御できる。よって、薄肉鋳片1を安定して製造できる。
【0030】
以上、本発明の実施形態である薄肉鋳片の製造方法について具体的に説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
本実施形態では、図1及び図2に示す双ドラム式連続鋳造装置を例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、タンディッシュ内の溶融金属の滞留時間をT(sec)とし、タンディッシュ内の溶融金属の湯面高さをH(mm)とした場合に、T/H≧1.0となるように、タンディッシュの形状、及び、溶融金属の供給条件を設定できれば、タンディッシュの構造に特に制限はない。
【0031】
例えば、図3に示すタンディッシュ20のように、攪拌領域が設けられていないものであってもよい。
また、図4に示すように、攪拌領域の代わりに、ロングノズル9の内部に、溶融金属の攪拌手段が設けたものであってもよい。このロングノズル9における攪拌手段に、特に制限はない。電磁攪拌を利用したものであってもよいし、不活性ガス等で攪拌する構成としてもよい。
【実施例
【0032】
以下に、本発明の効果を確認すべく、実施した実験結果について説明する。
図1に示す双ドラム式連続鋳造装置を用いて、炭素量0.05mass%の溶鋼から薄肉鋳片を製造した。
ここで、冷却ドラム径を600mm、冷却ドラム幅を400mmとした。また、定常鋳造の鋳片厚さを2.0mmとした。
【0033】
ここで、比較例1,2においては、図5に記載した従来の構造のタンディッシュを使用するとともに、タンディッシュの形状(容量V)とスループットPを表1に示す条件で、薄肉鋳片の鋳造を実施した。
比較例3においては、図3に記載した構造のタンディッシュを使用するとともに、タンディッシュの形状(容量V)とスループットPを表1に示す条件で、薄肉鋳片の鋳造を実施した。
【0034】
本発明例1においては、図3に記載した構造のタンディッシュを使用するとともに、タンディッシュの形状(容量V)とスループットPを表1に示す条件で、薄肉鋳片の鋳造を実施した。
本発明例2においては、図2に記載した構造のタンディッシュを使用するとともに、タンディッシュの形状(容量V)とスループットPを表1に示す条件で、薄肉鋳片の鋳造を実施した。
本発明例3においては、図4に記載した構造のタンディッシュを使用するとともに、タンディッシュの形状(容量V)とスループットPを表1に示す条件で、薄肉鋳片の鋳造を実施した。
【0035】
(介在物の評価)
測定点1:取鍋のロングノズル部分、測定点2:タンディッシュの第1槽の連絡通路付近、測定点3:タンディッシュの第1槽の浸漬ノズルとの連通部分、の3箇所からサンプリング(100g)を行い、これを溶解して、粒径100μm以上の介在物個数、及び、粒径100μm未満の介在物個数をカウントした。なお、粒径36μm未満の介在物は、鋳片の品質に大きく影響を与えないことからカウントしなかった。
【0036】
そして、粒径100μm以上の介在物、及び、粒径100μm未満の介在物の流出率(%)を、以下の式により、それぞれ算出した。評価結果を表1に示す。
流出率(%)=(測定点3での介在物個数/測定点1での介在物個数)×100
【0037】
【表1】
【0038】
タンディッシュ内の溶鋼の滞留時間T(sec)と、タンディッシュ内の溶鋼の湯面高さH(mm)との比T/Hが0.3とされた比較例1においては、粒径100μm以上の介在物の流出率が50%、粒径100μm未満の介在物の流出率が80%となり、介在物を十分に浮上分離できなかった。このため、介在物の巻き込みが多く、製造した薄肉鋳片の品質が大きく低下した。
T/Hが0.6とされた比較例2においては、粒径100μm以上の介在物の流出率が20%、粒径100μm未満の介在物の流出率が40%となり、介在物を十分に浮上分離できなかった。
図3に構造のタンディッシュを用いてT/Hが0.6とされた比較例3においては、粒径100μm以上の介在物の流出率が10%、粒径100μm未満の介在物の流出率が32%となり、介在物を十分に浮上分離できなかった。
【0039】
これに対して、タンディッシュ内の溶鋼の滞留時間T(sec)と、タンディッシュ内の溶鋼の湯面高さH(mm)との比T/Hが1以上とされた本発明例1-3においては、粒径100μm以上の介在物の流出率は0%となった。また、本発明例1,2では、粒径100μm未満の介在物の流出率は20%となり、本発明例3では、粒径100μm未満の介在物の流出率は0%となった。
【0040】
以上の結果から、本発明に係る薄肉鋳片の製造方法によれば、双ドラム式連続鋳造装置において、タンディッシュ内において介在物を十分に除去することができ、品質の安定した薄肉鋳片を製造可能な薄肉鋳片の製造方法を提供できることが確認された。
【符号の説明】
【0041】
1 薄肉鋳片
3 溶鋼(溶融金属)
5 凝固シェル
7 取鍋
9 ロングノズル
10 双ドラム式連続鋳造装置
11 冷却ドラム
15 サイド堰
16 溶鋼プール部(溶融金属溜まり部)
18 浸漬ノズル
20 タンディッシュ
21 第1槽
22 第2槽
23 連絡通路
24,25 下堰
26 電磁加熱装置
30 攪拌領域
31 底部
32 側壁部
33 庇部
図1
図2
図3
図4
図5