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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】電磁撹拌装置
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/115 20060101AFI20231122BHJP
   B22D 11/10 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
B22D11/115 C
B22D11/10 330E
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020002229
(22)【出願日】2020-01-09
(65)【公開番号】P2021109197
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 純
(72)【発明者】
【氏名】梅津 健司
(72)【発明者】
【氏名】植木 勉
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-131235(JP,A)
【文献】特許第5073531(JP,B2)
【文献】特開2008-173644(JP,A)
【文献】特開平11-156502(JP,A)
【文献】特許第4769067(JP,B2)
【文献】特開2018-103198(JP,A)
【文献】特開2010-214392(JP,A)
【文献】特開2007-105745(JP,A)
【文献】特開2006-110598(JP,A)
【文献】特開昭60-072652(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/115
B22D 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型の長辺部を介して相互に対向する位置に配置される第1の鉄心および第2の鉄心と、
前記第1の鉄心に対して前記鋳型の鋳造幅方向に巻き回された第1のコイルと、
前記第2の鉄心に対して前記鋳型の鋳造幅方向に巻き回された第2のコイルと、
を有し、
前記第1のコイルおよび前記第2のコイルに流れる交流電流に基づく進行磁場を鋳造幅方向に発生させることにより、浸漬ノズルの吐出口から前記鋳型の短辺部側に向けて前記鋳型の中空部に注入された溶融金属を電磁撹拌する電磁撹拌装置であって、
前記第1の鉄心および前記第2の鉄心は、それぞれ、第1の領域と、前記第1の領域と鋳造方向の位置が異なる領域である第2の領域とを有し、
前記第1の領域は、前記第1の鉄心および前記第2の鉄心の鋳造方向における両端の間の一部を鋳造方向の範囲とする領域であり、
前記第1の領域の鋳造幅方向の範囲は、前記浸漬ノズルの鋳造幅方向の範囲を含み、
前記第1の領域の鋳造幅方向の長さは、前記第2の領域の鋳造幅方向の長さよりも短く、且つ、前記第2の領域の鋳造幅方向の範囲は、前記第1の領域の鋳造幅方向の範囲を含み、
前記第2の領域の鋳造方向の範囲と、前記浸漬ノズルの吐出口から前記鋳型の短辺部側に向かう溶融金属の流れである吐出流が流れる鋳造方向の範囲とが重複する範囲の方が、前記第1の領域の鋳造方向の範囲と、前記吐出流が流れる鋳造方向の範囲とが重複する範囲よりも短いことを特徴とする電磁撹拌装置。
【請求項2】
前記第1の鉄心および前記第2の鉄心は、前記第1の鉄心および前記第2の鉄心の鋳造幅方向の中心を通り、且つ、鋳造方向に延びる軸を対称軸として、鋳造幅方向において対称となる形状を有することを特徴とする請求項1に記載の電磁撹拌装置。
【請求項3】
前記浸漬ノズルの軸と前記対称軸とは、平行であり、
前記浸漬ノズルの軸の鋳造幅方向の位置と前記第1の鉄心および前記第2の鉄心の鋳造幅方向の中心の鋳造幅方向の位置とが同じであることを特徴とする請求項2に記載の電磁撹拌装置。
【請求項4】
前記第1の領域および前記第2の領域の、前記鋳型の長辺部と対向する面は、前記鋳型の長辺部の、前記第1の領域および前記第2の領域と対向する面と平行な面であることを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の電磁撹拌装置。
【請求項5】
同一の磁極を構成するコイルに囲まれる領域の、鋳造幅方向に垂直な方向の断面積が同じであることを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の電磁撹拌装置。
【請求項6】
前記浸漬ノズルの吐出口は、鋳造幅方向を基準として第1の側に傾斜しており、
前記第1の側は、前記浸漬ノズルから溶融金属が吐出される方向側であり、
前記第1の領域は、前記浸漬ノズルの吐出口の鋳造方向における第1の端部よりも前記第1の側の領域を含み、
前記浸漬ノズルの吐出口の鋳造方向における前記第1の端部は、前記浸漬ノズルの吐出口の鋳造方向の第2の側の端部であり、
前記第2の側は、前記第1の側の反対側であることを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載の電磁撹拌装置。
【請求項7】
前記第2の領域は、前記浸漬ノズルの吐出口の鋳造方向における前記第1の端部よりも前記第2の側の領域を含むことを特徴とする請求項6に記載の電磁撹拌装置。
【請求項8】
前記浸漬ノズルの吐出口から斜め下方に溶融金属が吐出され、
前記第1の側は、下側であり、
前記第2の側は、上側であり、
前記浸漬ノズルの吐出口の鋳造方向における前記第1の端部は、前記浸漬ノズルの吐出口の上側の端部であることを特徴とする請求項6または7に記載の電磁撹拌装置。
【請求項9】
前記第2の領域の下側の端部の鋳造方向における位置は、前記浸漬ノズルの吐出口の上側の端部の鋳造方向における位置から前記浸漬ノズルの下側の端部の鋳造方向の位置までの範囲の何れかの位置であることを特徴とする請求項8に記載の電磁撹拌装置。
【請求項10】
前記第1の鉄心および前記第2の鉄心は、それぞれ、前記第1の領域と、前記第2の領域と、前記第1の領域および前記第2の領域と鋳造方向の位置が異なる領域である第3の領域とを有し、
前記第3の領域は、前記第1の領域よりも第1の側に配置され、前記第2の領域は、前記第1の領域よりも第2の側に配置され、
前記第1の側は、前記浸漬ノズルから溶融金属が吐出される方向側であり、
前記第2の側は、前記第1の側の反対側であることを特徴とする請求項1~9の何れか1項に記載の電磁撹拌装置。
【請求項11】
前記第3の領域の、前記鋳型の長辺部と対向する面は、前記鋳型の長辺部の、前記第3の領域と対向する面と平行な面であることを特徴とする請求項10に記載の電磁撹拌装置。
【請求項12】
前記第2の領域の鋳造幅方向の長さと、前記第3の領域の鋳造幅方向の長さは同じであることを特徴とする請求項10または11に記載の電磁撹拌装置。
【請求項13】
前記浸漬ノズルの吐出口は、鋳造幅方向を基準として前記第1の側に傾斜していることを特徴とする請求項10~12の何れか1項に記載の電磁撹拌装置。
【請求項14】
前記浸漬ノズルの吐出口から斜め下方に溶融金属が吐出され、
前記第1の領域の下端の鋳造方向における位置は、前記浸漬ノズルの吐出口の下端の鋳造方向における位置、または、前記浸漬ノズルの吐出口の下端の鋳造方向における位置よりも下であることを特徴とする請求項10~13の何れか1項に記載の電磁撹拌装置。
【請求項15】
ZL[mm]を、前記第2の領域の鋳造方向における前記第2の側の端部から、前記第3の領域の鋳造方向における前記第1の側の端部までの鋳造方向の長さとし、
ZD[mm]を、前記鋳型の中空部内の溶融金属の湯面から前記浸漬ノズルの吐出口の鋳造方向における前記第1の端部までの鋳造方向における長さとし、
ZH[mm]を、前記浸漬ノズルの吐出口の鋳造方向の長さとし、
W[mm]を、前記鋳型の短辺部の内壁面の鋳造幅方向の間隔とし、
D[mm]を、前記浸漬ノズルの吐出口の重心位置における前記浸漬ノズルの外径とし、
θ[°]を、前記浸漬ノズルの吐出角として、
以下の(A)式を満たすことを特徴とする請求項10~14の何れか1項に記載の電磁撹拌装置。
ZL≧ZD+ZH+{(W-D)÷2}×tanθ ・・・(A)
【請求項16】
前記第1のコイルおよび前記第2のコイルに流れる電流により構成される磁極数が奇数であることを特徴とする請求項1~15の何れか1項に記載の電磁撹拌装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁撹拌装置に関し、特に、鋳片を連続鋳造するために用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
スラブ等の鋳片を連続鋳造する際には、取鍋からタンディッシュへ供給された溶融金属は浸漬ノズルにより鋳型の中空部内(鋳型により囲まれる領域)に注入される。
鋳片の品質を向上させるための装置として電磁ブレーキがある。特許文献1に記載されているように、電磁ブレーキは鋳型の長辺部を介して相互に対向するように配置された一組の電磁石のコイルに電流を流して直流磁場(静磁場)を鋳型の中空部内の溶融金属に印加することにより、溶融金属の下方に向かう流速を低減させる。尚、特許文献1に記載の技術は浸漬ノズルから溶融金属を鋳造方向(鉛直下方)に吐出する場合(ストレート浸漬ノズルを用いる場合)の課題を解決するための技術である。
【0003】
このような電磁ブレーキの他に、鋳片の品質を向上させるための装置として電磁撹拌装置がある。電磁撹拌装置は鋳型の長辺部を介して相互に対向するように配置された一組の電磁石のコイルに電流を流して交流磁場を鋳型の中空部内の溶融金属に印加することにより、溶融金属に対して水平面において周回するような撹拌力を付与し、溶融金属を電磁撹拌させる。このように、電磁ブレーキと電磁撹拌装置は何れも溶融金属の流れを制御するものであるが、これらの機能は異なるものである。
【0004】
電磁撹拌装置に関する技術として、特許文献2~4に記載の技術がある。
特許文献2には、浸漬ノズルの吐出口の上端の位置が、電磁撹拌装置の下端の位置よりも低い位置となるように電磁撹拌装置を配置することが記載されている。また、特許文献2には、電磁撹拌装置の下方に磁気遮蔽板を設けることが記載されている。磁気遮蔽板は電磁撹拌装置によって発生する磁場による鋳型の中空部内での溶融金属の流れの乱れを抑制するためのものとされている。
【0005】
特許文献3には、電磁撹拌装置の鉄心と鋳型との間隔が鉄心の鋳造方向の中央部において最も大きくなるようにすることが記載されている。
【0006】
特許文献4には、電磁撹拌装置の鉄心が鋳型の長辺部に平行な方向に間隔を有して配置される複数の突極であって、先端面が鋳型の長辺部と間隔を有して対向するように配置される複数の突極を鋳造方向の上下のそれぞれに有するようにすることが記載されている。また、特許文献4には、鉄心の突極のそれぞれにコイルが巻き回されるようにすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第2888312号公報
【文献】特許第5073531号公報
【文献】特開2008-173644号公報
【文献】特開平11-156502号公報
【文献】特許第5353883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2~4に記載の技術では、浸漬ノズルの吐出口の鋳造方向の位置と電磁撹拌装置の鋳造方向の位置とが重複する場合の浸漬ノズルと電磁撹拌装置との位置関係を考慮していない。
【0009】
また、特許文献2に記載の技術では、浸漬ノズルから吐出される溶融金属の流れ(吐出流)と電磁撹拌装置により溶融金属に付与される撹拌力による溶融金属の流れ(撹拌流)との干渉を抑制するために、吐出口の上端の位置を電磁撹拌装置の下端よりも低い位置とすることを前提とする技術である。従って、特許文献2に記載の技術では、吐出口上端より下方において溶融金属の流動を制御することが全くできない。また、鋳型の内部に磁気遮蔽板を配置しなければならない。このため、磁気遮蔽板を配置するためのコストがかかると共に磁気遮蔽板を配置するための場所を確保しなければならない。
【0010】
また、特許文献3に記載の技術では、鋳型の中空部内の溶融金属の磁束密度分布を平坦化し、磁束密度の鋳造方向における分布を均一化する。従って、鋳型の中空部内の溶融金属に付与される撹拌力の鋳造方向における分布も均一化される。よって、吐出流と撹拌流との干渉を抑制することが容易ではない。
【0011】
また、特許文献4に記載の技術では、電磁ブレーキ装置の機能と電磁撹拌装置の機能とを1つの装置で実現するための技術である。従って、鋳型の突極に鋳型の長辺部の面に垂直な方向にコイルを巻き回さなければならない。よって、コイルを配置するスペースが限定される。また、コイルに流れる電流により発生する交流磁場の領域は鋳造方向の上下の領域に限定される。このため、撹拌流を制御できる範囲が限定される。
【0012】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、浸漬ノズルの吐出口の鋳造方向の位置と電磁撹拌装置の鋳造方向の位置とが重複する場合でも、吐出流と撹拌流との干渉を抑制することができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の電磁撹拌装置は、鋳型の長辺部を介して相互に対向する位置に配置される第1の鉄心および第2の鉄心と、前記第1の鉄心に対して前記鋳型の鋳造幅方向に巻き回された第1のコイルと、前記第2の鉄心に対して前記鋳型の鋳造幅方向に巻き回された第2のコイルと、を有し、前記第1のコイルおよび前記第2のコイルに流れる交流電流に基づく進行磁場を鋳造幅方向に発生させることにより、浸漬ノズルの吐出口から前記鋳型の短辺部側に向けて前記鋳型の中空部に注入された溶融金属を電磁撹拌する電磁撹拌装置であって、前記第1の鉄心および前記第2の鉄心は、それぞれ、第1の領域と、前記第1の領域と鋳造方向の位置が異なる領域である第2の領域とを有し、前記第1の領域は、前記第1の鉄心および前記第2の鉄心の鋳造方向における両端の間の一部を鋳造方向の範囲とする領域であり、前記第1の領域の鋳造幅方向の範囲は、前記浸漬ノズルの鋳造幅方向の範囲を含み、前記第1の領域の鋳造幅方向の長さは、前記第2の領域の鋳造幅方向の長さよりも短く、且つ、前記第2の領域の鋳造幅方向の範囲は、前記第1の領域の鋳造幅方向の範囲を含み、前記第2の領域の鋳造方向の範囲と、前記浸漬ノズルの吐出口から前記鋳型の短辺部側に向かう溶融金属の流れである吐出流が流れる鋳造方向の範囲とが重複する範囲の方が、前記第1の領域の鋳造方向の範囲と、前記吐出流が流れる鋳造方向の範囲とが重複する範囲よりも短いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、浸漬ノズルの吐出口の鋳造方向の位置と電磁撹拌装置の鋳造方向の位置とが重複する場合でも吐出流と撹拌流との干渉を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】一般的な電磁撹拌装置における溶鋼の流れの一例を説明する図である。
図2A】連続鋳造設備の概略構成の第1の例を示す第1の位置での横断面図である。
図2B】連続鋳造設備の概略構成の第1の例を示す第2の位置での横断面図である。
図3A】連続鋳造設備の概略構成の第1の例を示す第1の位置での縦断面図である。
図3B】連続鋳造設備の概略構成の第1の例を示す第2の位置での縦断面図である。
図4】浸漬ノズルの構成の一例を示す図である。
図5】鉄心の構成の第1の例を示す図である。
図6】溶鋼の流れの第1の例を説明する図である。
図7】撹拌力と鋳造幅方向の位置との関係の第1の例を示す図である。
図8】鉄心の構成の第1の例の変形例を示す図である。
図9A】連続鋳造設備の概略構成の第2の例を示す第1の位置での縦断面図である。
図9B】連続鋳造設備の概略構成の第2の例を示す第2の位置での縦断面図である。
図10】鉄心の構成の第2の例を示す図である。
図11】溶鋼の流れの第2の例を説明する図である。
図12】撹拌力と鋳造幅方向の位置との関係の第2の例を示す図である。
図13】鉄心の構成の第2の例の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(経緯)
まず、本発明の実施形態に至った経緯について説明する。
【0017】
図1は一般的な電磁撹拌装置における溶鋼の流れの一例を説明する図である。各図に示すX-Y-Z座標は各図における向きの関係を示すものである。〇の中に×が付されている記号は紙面の手前側から奥側に向かう方向を示す。〇の中に●が付されている記号は紙面の奥側から手前側に向かう方向を示す。尚、以下の説明では溶融金属が溶鋼である場合を例に挙げて説明する。
【0018】
図1において、Z軸の正の方向を上方向として紙面を見たときの左側の図(紙面に垂直な方向をX軸としてX-Y-Z座標を表記している図)は鋳型の短辺部側から見たときの吐出流および撹拌流の一例を概念的に示す図である。図1の左側の図において、矢印線は時刻tにおける吐出流を示し、〇の中に×が付されている記号と〇の中に●が付されている記号は時刻tにおける撹拌流を示す。
【0019】
また、図1において、Z軸の正の方向を上方向として紙面を見たときの右側の図(紙面に垂直な方向をY軸としてX-Y-Z座標を表記している図)は鋳型の長辺部側から見たときの吐出流および撹拌流の一例を概念的に示す図である。図1の右側の図において、実線の矢印線は時刻tにおける吐出流を示し、白抜きの矢印線は時刻tにおける撹拌流を示す。矢印線が長いほど流速が速いことを示す。また、溶鋼M内の〇の中に●が付されている記号と〇の中に×が付されている記号の円の大きさは溶鋼Mの流速を示す。図1の左側の図では当該円の大きさは同じであるので、流速が同じであることを示す。尚、図1の右側の図では鋳型の鋳造幅方向(X軸方向)の半分の領域のみを示す。
【0020】
電磁撹拌装置は鉄心110、120とコイル130、140とを有する。
電磁撹拌装置を動作させる際には、例えば、コイル130、140に三相交流電流を流すことにより、鋳造厚方向(Y軸方向)の端部側の領域の溶鋼Mに対して、鋳造幅方向(X軸方向)に沿って相互に逆向きの進行磁場を発生させる。この進行磁場はファラデーの法則およびレンツの法則に従って溶鋼Mに渦電流を発生させる。この渦電流と進行磁場はフレミングの左手の法則に基づいて溶鋼Mに撹拌力を形成する。この撹拌力は、水平面において、鋳型の一組の長辺部151、152および一組の短辺部153の内壁面に沿うように周回するような撹拌流(溶鋼Mの流れ)が発生する。尚、図1では図示を省略するが、短辺部153とは別に鋳型の軸Aを対称軸として短辺部153に対して線対称となるように短辺部153と同じ構成の短辺部が配置される。電磁撹拌装置は、このような撹拌流により、連続鋳造設備で連続鋳造される鋳片表面に気泡や異物(介在物等)が付着し、鋳片内に残留することを抑制する。即ち、電磁撹拌装置は鋳片表面の品質を向上させることを目的とする装置である。
【0021】
図1の左側の図に示すように、一般的な電磁撹拌装置においては電磁撹拌装置の鉄心110、120の、鋳型の長辺部151、152と間隔を有して対向する面が鋳造方向(Z軸方向)に平行であり、鉄心110、120と鋳型の長辺部151、152との間隔は一定である。尚、鋳型の長辺部151、152の背面(溶鋼M側に位置する面とは反対側の面)には、鋳型の支持や冷却等のためにバックプレート161、162が配置される。鋳型の短辺部153の背面にもバックプレート163が配置される。
【0022】
ここでは、鉄心110、120の上端が溶鋼Mの湯面(メニスカス)に一致するように、浸漬ノズル170の吐出口170aから吐出される溶鋼Mが調整されている場合を例に挙げて示す。また、ここでは、溶鋼Mが斜め下方に吐出されるように、浸漬ノズル170の吐出口170aの吐出角が定められている場合を例に挙げて示す。ここで、吐出流は上昇流や下降流に転じる前の浸漬ノズル170の吐出口170aから吐出される溶鋼Mの流れを指すものとする。
【0023】
この場合、鋳造方向(Z軸方向)の位置が鉄心110、120の上端の位置から下端の位置までの鋳型の中空部内の領域において、電磁撹拌装置から溶鋼Mに与えられる撹拌力は同程度になる。従って、撹拌流の流速も同程度になる(図1の右側の図の白抜きの矢印線の長さが同じであることを参照)。よって、吐出流が流れる領域において、溶鋼Mの流速は吐出流に撹拌流が加わり、鋳型の短辺部153に近づくにつれて速くなる。速い撹拌流の場合、このように加速した溶鋼Mが鋳型の短辺部153に衝突すると当該衝突により発生する上昇流および下降流も速くなる。上昇流が速くなると、溶鋼Mの湯面の変動や溶鋼MへのパウダーPの巻き込み量が増加する。また、下降流が速くなると、介在物や気泡が下方に深く進入し、浮上することなく凝固して鋳片に残留する量が増加する。以上のように、吐出流に速い撹拌流が加わると、パウダーP、気泡および介在物が溶鋼Mに巻き込まれたまま鋳片が連続鋳造され、鋳片内部の品質が劣化する。
さらに、速い撹拌流によって加速した溶鋼Mが図3に示す凝固シェルSに衝突すると、当該衝突により凝固シェルSが再溶解することがある。凝固シェルSが再溶解すると、再溶解部が起点となって凝固シェルSが破け、溶鋼漏れ(ブレークアウト)などの操業トラブルに繋がることがあり、その場合には生産性が著しく阻害される。
【0024】
一般的な電磁撹拌装置では、このような鋳片内部の品質の劣化または凝固シェルSの再溶解を抑制するために撹拌流を遅くすると電磁撹拌装置の本来の目的である鋳片表面の品質の向上を十分に図ることができない。一方で、撹拌流を速くすると吐出流に撹拌流が加わり、不純物を溶鋼M内に残留させ、鋳片内部の品質の向上を十分に図ることができず、また、凝固シェルSを再溶解させ、生産性に悪影響を与える。このように、一般的な電磁撹拌装置では鋳片表面の品質の向上と内部の品質の向上および生産性の向上とには相反したトレードオフの関係がある。
【0025】
そこで、本発明者らは、浸漬ノズル170の鋳造幅方向(X軸方向)における位置に近い領域においては、吐出流が撹拌流と干渉するようにし、それ以外の領域では吐出流が撹拌流と干渉することを抑制するように撹拌すればよいことに想到した。このようにすれば、鋳型の短辺部153に近い領域での溶鋼Mの流速を抑制しつつ当該溶鋼Mの流れを分散させることができる。従って、上昇流、下降流および凝固シェルSへの衝突流の流速を遅くすることができる。よって、パウダーP、気泡および介在物の溶鋼Mへの巻き込み量を低減させ、さらに、凝固シェルSの再溶解を抑制することができる。
【0026】
本発明の実施形態は以上のような経緯に基づいてなされたものである。以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。尚、長さ、位置、大きさ、間隔等、比較対象が同じであることは、厳密に同じである場合の他、発明の主旨を逸脱しない範囲で異なるもの(例えば、設計時に定められる公差の範囲内で異なるもの)も含むものとする。
【0027】
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態を説明する。
図2Aおよび図2Bは本実施形態の電磁撹拌装置を配設した連続鋳造設備の概略構成の一例を示す横断面図である。図2A図3Aおよび図3BのI-I断面図であり、図2B図3Aおよび図3BのII-II断面図である。図3Aおよび図3Bは本実施形態の電磁撹拌装置を配設した連続鋳造設備の概略構成の一例を示す縦断面図である。図3A図2Aおよび図2BのI-I断面図である。図3B図2AのII-II断面図である。
図2A図2B図3Aおよび図3Bにおいて、本実施の形態の連続鋳造設備は、長辺部211、212および短辺部213、214を有する鋳型と、バックプレート221、224と、浸漬ノズル230と、鉄心241、242およびコイル251、252を有する電磁撹拌装置とを有する。
【0028】
鋳型は溶鋼Mを冷却して所定の形状に凝固させ、所定の幅と厚さを有する鋼片を連続鋳造するための型である。図3Aおよび図3Bに示すように、鋳型の下部の領域では長辺部211、212および短辺部213、214の内壁面側に凝固シェルSが形成される。尚、冷却に伴い凝固シェルSは成長するので、凝固シェルSの厚みはZ軸の負の方向側であるほど厚くなる。そして、全体が凝固すると鋳片となる。
【0029】
図2Aおよび図2Bに示すように、鋳型の中空部における水平断面の形状は長方形である。図2Aおよび図2Bに示す鋳型の中空部の横(長辺)方向(X軸方向)が鋳造幅方向(鋼片の幅方向)となる。また、図2Aおよび図2Bに示す鋳型の縦(短辺)方向(Y軸方向)が鋳造厚方向(鋼片の厚み方向)となる。また、図2Aおよび図2Bの紙面に垂直な方向(Z軸方向)が鋳造方向(鋳片の長手方向)となる。
【0030】
このような構成の鋳型は、鋳造厚方向(Y軸方向)で間隔を有して相互に対向して配置される長辺部211、212と、鋳造幅方向(X軸方向)で間隔を有して相互に対向して配置される短辺部213、214とを有する。短辺部213、214の鋳造幅方向(X軸方向)の位置を調整することにより、鋳型の中空部の長辺方向(鋳造幅方向)の長さを調節することができる。尚、鋳型の中空部の長辺方向(鋳造幅方向)の長さは、電磁撹拌装置(鉄心241、242)の鋳造幅方向の長さよりも短いものとする。一方、鋳型の長辺部211、212の位置も調節することができ、長辺部211、212の位置を調節するとともに、短辺部213、214を所望の大きさのものに取り替えることにより、鋳型の中空部の短辺方向(鋼片厚方向)の長さを調節することができる。
【0031】
鋳型の長辺部211、212の背面(溶鋼M側に位置する面とは反対側の面)には、それぞれバックプレート221、222が長辺部211、212を支持するように配置される。鋳型の短辺部213、214の背面にも、それぞれバックプレート223、224が短辺部213、214を支持するように配置される。鋳型(長辺部211、212、短辺部213、214)とバックプレート221、224には冷却水が通る経路が形成されている。当該経路に冷却水を流すことにより、連続鋳造設備を冷却しながら溶鋼Mを凝固させる。
【0032】
図2Aおよび図3Aに示すように、鋳型の中空部には浸漬ノズル230が配置される。図3では浸漬ノズル230の先端側の領域のみを示す。浸漬ノズル230の軸と鋳型の中空部の軸とが一致するように、浸漬ノズル230は配置される。図4は浸漬ノズル230の構成の一例を示す図である。具体的に図4は、浸漬ノズル230の軸を通り、且つ鋳造幅方向(X軸方向)に沿って浸漬ノズル230を切った場合の浸漬ノズル230の断面を示す図である。図4でも図3と同様に浸漬ノズル230の先端側の領域のみを示す。
【0033】
図4に示すように、浸漬ノズル230の先端側の側壁部の領域であって、鋳造幅方向(X軸方向)の両側の領域に吐出口230a、230bが形成されている。吐出口230a、230bは浸漬ノズル230の軸を対称軸とした線対称となる関係を有する。ここでは、吐出口230a、230bが短辺部213、214側に向かって斜め下向きに開口している場合を例に挙げて示す。従って、吐出口230a、230bから鋳型の下方に向けて溶鋼Mが吐出される。ここで、浸漬ノズル230の(吐出口230a、230bにおける)吐出角θは、水平方向と吐出口230a、230bの傾斜角とのなす角度のうち小さい方の角度で表されるものとする。図4に示す例では、吐出口230a、230bは下方向(Z軸の負の方向)に傾斜している。吐出口230aにおける吐出角θと吐出口230bにおける吐出角θの絶対値は同じである。
【0034】
尚、浸漬ノズル230は鋳型の中空部の高さ方向における位置を調節することができるようになっている。更に、吐出口230a、230bが詰まってしまうことを防止するために、アルゴンガス(Arガス)等の不活性ガスを吹き込みながら溶鋼Mを吐出するようにしている。浸漬ノズル230自体は公知の技術で実現することができ、図4に示すものに限定されない。
【0035】
電磁撹拌装置は、浸漬ノズル230から吐出されて鋳型の上部に満たされた溶鋼M(未凝固部分)に対して進行磁場を発生させることにより溶鋼Mに電磁力を作用させて、溶鋼Mに撹拌力Fを付与し、鋳型の長辺部211、212および短辺部213、214の内壁面に沿うように周回するような撹拌流を生じさせ、溶鋼Mを撹拌する装置である。
【0036】
電磁撹拌装置はリニアモータであり、長辺部211、212を介して相互に間隔を有して対向するように配置される鉄心241、242と、鉄心241、242に対して巻き回されたコイル251、252とを有する。
【0037】
本実施形態では、コイル251~252に三相交流が印加される場合を例に挙げて説明する。従って、コイル251~252にはそれぞれ、各相の複数のコイルが含まれる。図2Aおよび図2Bにおいて、U、V、W、-U、-V、-Wはそれぞれ、U相、V相、W相、-U相、-V相、-W相の交流が供給されるコイルであることを示す。ここで、U相に対して60度位相が進んでいる相は-W相である。同様に、U相に対して120度位相が進んでいる相はV相、180度位相が進んでいる相は-U相、240度位相が進んでいる相はW相、300度位相が進んでいる相は-V相である。尚、撹拌流を発生させるためのコイル251、252の通電方法は、例えば、特許文献5に記載されているように公知であるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。
【0038】
図5は鉄心241の構成の一例を示す図である。尚、鉄心241、242は、同じもので実現することができるので、ここでは、鉄心242の図示を省略する。鉄心241、242は鋳型の軸を対称軸とする線対称となる関係を有する。
【0039】
図5において、鉄心241は、鋳造厚方向(Y軸方向)から見た場合に、概ねT字の形状を有する。このように鉄心241は、鉄心241の鋳造幅方向(X軸方向)の中心を通り、且つ鋳造方向(Z軸方向)に延びる面を対称面として、鋳造幅方向において対称となる形状を有する。
また、鉄心241の前記対称面(鋳造幅方向(X軸方向)の中心を通り、且つ鋳造方向(Z軸方向)に延びる面)と浸漬ノズル230の軸とは平行であり、浸漬ノズル230の軸の鋳造幅方向の位置と鉄心241の対称面の鋳造幅方向の位置は同じである。
【0040】
図5において、鉄心241は櫛歯部241aと継鉄部241bとを有する。
尚、本実施形態では、鉄心241は鉄心241の高さ方向(Z軸方向)に垂直な断面と同じ形状および大きさを有する軟磁性体板(例えば、方向性電磁鋼板または無方向性電磁鋼板)を高さ方向(Z軸方向)において積層することにより構成される。従って、鉄心241の高さ方向(Z軸方向)の各位置において、櫛歯部241aと継鉄部241bとには境界線はない。
【0041】
櫛歯部241aは複数の第1の直方体部510、520と複数の第2の直方体部530とを有する。複数の第1の直方体部510、520と複数の第2の直方体部530は鋳造幅方向(X軸方向)に沿って等間隔に配置される。また、複数の第1の直方体部510、520と複数の第2の直方体部530は鋳型の長辺部211(およびバックプレート221)と間隔を有して対向するように配置される。
【0042】
第1の直方体部510は鉄心241の鋳造幅方向(X軸方向)の一端側(X軸の正の方向側)に配置される。第1の直方体部520は鉄心241の鋳造幅方向(X軸方向)の他端側(X軸の負の方向側)に配置される。第2の直方体部530は鉄心241の鋳造幅方向(X軸方向)の中心側(第1の直方体部510、520の間)に配置される。
【0043】
鉄心241の鋳造幅方向(X軸方向)の一端側(X軸の正の方向側)から、複数の第1の直方体部510、複数の第2の直方体部530、複数の第1の直方体部520が、この順で鋳造幅方向(X軸方向)に沿って等間隔に配置される。
【0044】
鋳造幅方向(X軸方向)に沿って等間隔に配置された第2の直方体部530の、鋳造幅方向(X軸方向)における一端から他端までの領域の範囲は、吐出口230a、230bの重心位置での浸漬ノズル230の鋳造幅方向(X軸方向)における一端から他端までの領域の範囲を含む(図2Bにおいて、鉄心241のX軸方向の範囲が浸漬ノズル230のX軸方向の範囲を含むことを参照)。
【0045】
第1の直方体部510、520および第2の直方体部530の高さ方向は鋳造方向(Z軸方向)とする。第2の直方体部530の高さ方向の長さは第1の直方体部510、520の高さ方向の長さよりも長い。第1の直方体部510、520の形状および大きさは同じである。第2の直方体部530の形状および大きさは同じである。
【0046】
継鉄部241bは、1つの第3の直方体部540と1つの第4の直方体部550とを有する。
第3の直方体部540の鋳型の長辺部211側(Y軸の正の方向側)の面は、第1の直方体部510、520および第2の直方体部530の鋳型の長辺部211と対向する面と反対側の面に繋がる。第4の直方体部550の鋳型の長辺部211側(Y軸の正の方向側)の面は、第2の直方体部530の鋳型の長辺部211と対向する面と反対側の面に繋がる。第4の直方体部550の上端面(鋳造方向の上流側の端面)は第3の直方体部540の下端面と繋がる。
【0047】
第3の直方体部540の鋳造幅方向(X軸方向)の長さは、鋳造幅方向(X軸方向)に沿って等間隔に配置された状態の、第1の直方体部510、520および第2の直方体部530の鋳造幅方向(X軸方向)における一端から他端までの鋳造幅方向(X軸方向)の長さと同じである。第3の直方体部540の高さ方向は鋳造方向(Z軸方向)と同じである。
【0048】
第3の直方体部540の長手方向の一端面(X軸の正の方向側の端面)は、最も当該一端面側に位置する(最もX軸の正の方向側に位置する)第1の直方体部510の当該一端面側(X軸の正の方向側)の端面と面一になっている。第3の直方体部540の長手方向の他端面(X軸の負の方向側の端面)は、最も当該他端面側に位置する(最もX軸の負の方向側に位置する)第1の直方体部520の当該他端面側(X軸の負の方向側)の端面と面一になっている。
【0049】
また、第3の直方体部540の上端面と第1の直方体部510、520および第2の直方体部530の上端面とは面一となっている。第3の直方体部540の高さ方向は鋳造方向(Z軸方向)と一致する。第3の直方体部540の高さ方向の長さは第1の直方体部510、520の高さ方向の長さと同じである。第3の直方体部540の下端面のうち、第1の直方体部510、520と繋がる面と当該第1の直方体部510、520の下端面とは面一になっている。
【0050】
第4の直方体部550の高さ方向は鋳造方向(Z軸方向)と一致する。第4の直方体部550の高さ方向の長さは、第2の直方体部530の高さ方向の長さから第1の直方体部510または520の高さ方向の長さを引いた長さと同じである。第4の直方体部550の上端面は第3の直方体部540の下端面と繋がっている。
第1の直方体部510、520、第2の直方体部530、第3の直方体部540および第4の直方体部550の相互に繋がる領域には境界線はない。
【0051】
第1の直方体部510、520および第2の直方体部530のうち、鋳造幅方向(X軸方向)に沿って相互に隣り合う2つの直方体部の間の領域にコイル251が配置される(当該直方体部の鋳型211側の平面にはコイル251は配置されない)。このように、コイル251は鋳型の鋳造幅方向(X軸方向)に巻き回される(即ち、コイル251の軸(コイル軸)は鋳型の鋳造幅方向(X軸方向)と平行である)。コイル251は第1の直方体部510、520、第2の直方体部530、第3の直方体部540および第4の直方体部550の面に沿うように巻き回される。従って、コイル251の長さは、鋳造幅方向(X軸方向)に沿って相互に隣り合う2つの第1の直方体部510、520の間の領域に配置される部分よりも、鋳造幅方向(X軸方向)に沿って相互に隣り合う2つの第2の直方体部530の間の領域に配置される部分の方が長くなる。
【0052】
図5において、本実施形態では、電磁撹拌装置は5つの磁極P1~P5を有する場合を例に挙げて説明する。P1~P5にはそれぞれのコイル(本実施形態では3つずつ)に3相交流が給電されるが、P1~P5は鉄心241の鋳造幅方向(X軸方向)に沿って隣り合ったもの同士は互いに位相が180°ずれているので、P1~P5それぞれを1つのまとまった極とみなすことができる。例えば、磁極P1がN極である場合、磁極P2、P3、P4、P5は、それぞれS極、N極、S極、N極である。また、本実施形態では、鉄心241の(鋳造幅方向(X軸方向)に垂直な)断面積であって、同一の磁極P1~P5を構成する部分(コイル)によって囲まれる断面積が同じになるようにする。このようにすれば、三相不平衡が生じることを抑制することができるので好ましい。尚、図5において、磁極P1のU相と磁極P2の-V相との間の第2の直方体部530と磁極P4の-U相と磁極P5のV相との間の第2の直方体部530の高さ方向の長さを、第1の直方体部510の高さ方向の長さと同じにし、第1の直方体部としてもよい。また、高さ方向の長さを変更した第2の直方体部の鋳造幅方向(X軸方向)の長さの分だけ、第4の直方体部550の鋳造幅方向の長さを短くしてもよい。
【0053】
図3Aおよび図3Bに示す例では、第1の直方体部510、520および第3の直方体部550の下端面の鋳造方向(Z軸方向)の位置と、浸漬ノズル230の吐出口230a、230bの上端部(鋳造方向の上流側の端部)の位置とは位置Z2で一致する。また、鉄心241、242は、鋳型の軸を対称軸とする線対称となる関係を有する。また、鉄心241、242の上端面(第1の直方体部510、520、第2の直方体部530、および第3の直方体部540の上端面)の鋳造方向(Z軸方向)の位置は位置Z1で一致する。また、鉄心241、242の下端面(第2の直方体部530および第4の直方体部550の下端面)の鋳造方向(Z軸方向)の位置は位置Z4で一致する。また、浸漬ノズル230の先端面(鋳造方向の下流側の端面)の鋳造方向(Z軸方向)の位置Z3は、位置Z2よりも下方で位置Z4よりも上方である。
【0054】
尚、鉄心242は、以上の説明において、長辺部211、バックプレート221、鉄心241、コイル251をそれぞれ、長辺部212、バックプレート222、鉄心242、コイル252に読み替えたものとなる。従って、ここでは、鉄心242の詳細な説明を省略する。
【0055】
図6は本実施形態の電磁撹拌装置における溶鋼の流れの一例を説明する図である。図6図1に対応する図であり、表記の方法は図1と同じである。尚、図6の左側の図において、溶鋼M内の〇の中に●が付されている記号と〇の中に×が付されている記号の円の大きさが大きいほど、撹拌力Fが大きいことを示す。
【0056】
本実施形態では、鋳造厚方向(Y軸方向)から見た場合の形状が概略T字状になるように鉄心241、242を構成する。浸漬ノズル230の軸の鋳造幅方向(X軸方向)の位置と鉄心241、242の鋳造幅方向の中心の鋳造幅方向の位置とが同じになるように鉄心241、242を配置する。ここで、T字状の横線の領域を第2の領域とし、縦線の領域を第1の領域とする。本実施形態では、鉄心241、242の浸漬ノズル230の吐出口230a、230bの上端よりも上の領域を第2の領域とし、鉄心241、242の浸漬ノズル230の吐出口230a、230bの上端よりも下の領域を第1の領域とする。従って、図6に示すように、浸漬ノズル230の吐出口230a、230bの上端よりも上の領域においては、図1に示した撹拌流と同様に、速い撹拌流を発生させることができる。一方、浸漬ノズル230の吐出口230a、230bの上端よりも下の領域においては、鋳造幅方向(X軸方向)の中央側の領域でのみ速い撹拌流を発生させることができ、当該領域で吐出流と干渉流とを干渉させることにより吐出流を分散させることができる。そして、鋳造幅方向(X軸方向)の端側の領域では撹拌流の発生が抑制されるので、吐出流と撹拌流とが干渉することによる吐出流の流速の増加を抑制することができる。よって、鋳型の短辺部213、214側で発生する上昇流、下降流および凝固シェルSへの衝突流の流速を抑制しつつ、浸漬ノズル230の上端よりも上の領域においては、速い撹拌流による溶鋼Mの撹拌を実現することができる。これにより、浸漬ノズル230の吐出口230a、230bの鋳造方向の位置と電磁撹拌装置の鋳造方向の位置とが重複する場合でも、吐出流と撹拌流との干渉を抑制することができ、鋳片表面の品質の向上と内部品質の向上、生産性の向上を同時に実現することができる。
【0057】
また、鉄心241、242(の第1の領域および第2の領域)の、鋳型の長辺部211、212と対向する面を、鋳型の長辺部211、212の、鉄心241、242(の第1の領域および第2の領域)と対向する面と平行になるようにするのが好ましい。このようにすれば、鉄心241、242の第1の領域と鋳型の長辺部211、212との間隔、および鉄心241、242の第2の領域と鋳型の長辺部211、212との間隔をそれぞれ一定にすることができる。従って、第1の領域を構成する電磁鋼板および第2の領域を構成する電磁鋼板をそれぞれ同じもので実現することができ、安定した撹拌流を発生させることができる。
【0058】
図7は撹拌力Fx(FのX軸方向成分)と鋳造幅方向(X軸方向)の位置との関係の一例を示す図である。図7に示す結果は実際の鋳型の中空部内の溶鋼Mに発生する電磁力を数値シミュレーションを行って得たものである。何れの数値シミュレーションにおいても溶鋼Mの成分を含む操業条件は同じものとした。
【0059】
撹拌力Fxは鋳型の長辺部から10mmだけ内側の位置において溶鋼Mに作用する撹拌力である。図7(a)は湯面(メニスカス)付近(鋳造方向(Z軸方向)の位置が第2の領域の範囲内の領域)の撹拌力Fxを示す。図7(b)は、鉄心241、242の下端付近と鋳造方向の位置が同じ領域(鋳造方向(Z軸方向)の位置が第1の領域の範囲内の領域)における撹拌力Fxを示す。
図7(a)および図7(b)においてグラフ701、703は本実施形態の電磁撹拌装置を用いた場合の撹拌力Fxを示す。グラフ702、704は図1を参照しながら説明した一般的な電磁撹拌装置を用いた場合の撹拌力Fxを示す。
【0060】
一般的な電磁撹拌装置では、全ての領域において、継鉄部の鋳造方向(Z軸方向)の長さと櫛歯部の各直方体部の鋳造方向(Z軸方向)の長さとが同じになり、継鉄部の上端面・下端面が、櫛歯部の各直方体部の上端面・下端面と一致するようにしたものである。櫛歯部および継鉄部の各直方体部の鋳造方向(Z軸方向)の長さ以外については本実施形態の電磁撹拌装置と一般的な電磁撹拌装置とは同じものである。
【0061】
図7(a)のグラフ701、702に示すように、湯面(メニスカス)付近においては、本実施形態の電磁撹拌装置でも一般的な電磁撹拌装置と同様に大きな撹拌力Fxを発生させることができる。これにより、鋳片表面の品質を向上させることができる。
【0062】
また、図7(b)のグラフ703、704に示すように、鉄心241242の下端付近と鋳造方向の位置が同じ領域においても、鋳造幅方向の中心側の領域では、本実施形態の電磁撹拌装置でも、一般的な電磁撹拌装置と同様に大きな撹拌力Fxを発生させることができる。これにより吐出流を分散させることができる。
【0063】
一方、図7(b)のグラフ703、704に示すように、鉄心241、242の下端付近と鋳造方向の位置が同じ領域において、鋳造幅方向の端部側の領域では、本実施形態の電磁撹拌装置を用いることにより、一般的な電磁撹拌装置を用いる場合に比べて撹拌力Fxを低減させることができる。従って、上昇流、下降流および凝固シェルSへの衝突流の流速を低減させることができ、パウダーP、気泡および介在物が溶鋼Mに巻き込まれたまま鋳片が連続鋳造されることを抑制することができ、さらに、凝固シェルSの再溶解を抑制することができる。従って、鋳片内部の品質および生産性を向上させることができる。
【0064】
<変形例>
本実施形態では、鉄心241、242の、浸漬ノズル230の吐出口230a、230bの上端よりも上の領域を含む第2の領域(第1の直方体部510、520および第3の直方体部550)の下端の鋳造方向(Z軸方向)の位置が、浸漬ノズル230の吐出口230a、230bの上端部(鋳造方向の上流側の端部)の位置と位置Z2で一致する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、鉄心241、242の、浸漬ノズル230の吐出口230a、230bの上端よりも上の領域を含む第2の領域の下端の鋳造方向(Z軸方向)の位置は位置Z2(浸漬ノズル230の吐出口230a、230bの上端部の鋳造方向(Z軸方向)の位置)から位置Z3(浸漬ノズル230の先端面(鋳造方向の下流側の端面)の鋳造方向(Z軸方向)の位置)までの範囲のいずれかの位置とすることができる。浸漬ノズル230から吐出される吐出流の吐出方向が斜め下方であるので、このような範囲内であれば、浸漬ノズル230の吐出口230a、230bの上端よりも上の領域を含む第2の領域の下端の鋳造方向(Z軸方向)の位置が、浸漬ノズル230の吐出口230a、230bの上端部の鋳造方向(Z軸方向)の位置よりも下の位置にあっても、吐出流と撹拌流とが干渉する領域を小さくすることができるため、鋳型の短辺部213、214側で発生する上昇流、下降流および凝固シェルSへの衝突流の流速を低減する効果を発現することができる。
【0065】
また、浸漬ノズル230の吐出口230a、230bの上端よりも上の領域を含む第2の領域の下端の鋳造方向(Z軸方向)の位置は、浸漬ノズル230の吐出口230a、230bの上端部(鋳造方向の上流側の端部)よりも上の位置であっても、吐出流と撹拌流とが干渉する領域を小さくすることができるため、鋳型の短辺部213、214側で発生する上昇流、下降流および凝固シェルSへの衝突流の流速を低減する効果を発現することができるので、このようにしてもよい。
【0066】
ただし、本実施形態のように浸漬ノズル230の吐出口230a、230bの上端よりも上の領域を含む第2の領域の下端の鋳造方向(Z軸方向)の位置が、浸漬ノズル230の吐出口230a、230bの上端部の位置と一致するようにすれば、吐出流と撹拌流とが干渉することをより確実に抑制することができると共に、浸漬ノズル230の吐出口230a、230bの上方のより広い領域に撹拌力Fを発生させることができるのでより好ましい。
【0067】
また、第1の直方体部510、520および第3の直方体部540の下にそれぞれ、非磁性且つ非伝導性の直方体部を配置してもよい。非磁性且つ非導電性の直方体部の鋳造幅方向(X軸方向)および鋳造厚方向(Y軸方向)の長さは第1の直方体部510、540の長さと同じである。非磁性且つ非導電性の直方体部の鋳造方向(Z軸方向)の長さは第4の直方体部550の長さである。このような非磁性且つ非導電性の直方体部を2つ用意する。第1の直方体部510、520および第3の直方体部540の下端面と非磁性且つ非導電性の直方体部の上端面とが合い、非磁性且つ非導電性の直方体部の下端面と第2の直方体部530および第4の直方体部550の下端面とが面一となるように非磁性且つ非導電性の直方体部を配置する。このようにすることにより、図1に示した一般的な電磁撹拌装置の鉄心110、120と同じ外形にすることができる。
また、櫛歯部241aはなくてもよい。この場合、浸漬ノズル230の吐出口230a、230bの上端よりも上の領域を含む第2の領域の鋳型の長辺部211、212と対向する面は、1つの平面になり、当該平面が、第1の直方体部510、520および第2の直方体部530の、鋳型の長辺部211と対向する面になる。
【0068】
また、本実施形態では、浸漬ノズル230から吐出される吐出流の吐出方向が斜め下方である場合を例に挙げて説明した。しかしながら、浸漬ノズルから吐出される吐出流の吐出方向は斜め下方に限定されない。例えば、浸漬ノズルから吐出される吐出流の吐出方向は斜め上方向でも水平方向でもよい。
【0069】
浸漬ノズルから吐出される吐出流の吐出方向が斜め上方向である場合と斜め下方向である場合と水平方向である場合とを考慮すると、鋳造幅方向(X軸方向)を長手方向とする第2の領域(第1の直方体部510、520および第3の直方体部540の下端よりも上側の領域)と、第2の領域よりも鋳造幅方向の長さが短い第1の領域(第1の直方体部510、520および第3の直方体部540の下端よりも下側の領域)とを有するように鉄心241、242を構成すればよい。ここで、第2の領域の鋳造幅方向の範囲は第1の領域の鋳造幅方向の範囲を含むようにしてればよい。第2の領域の鋳造幅方向の範囲が第1の領域の鋳造幅方向の範囲を含むとは、第2の領域の鋳造幅方向の座標値(X軸座標の値)の中に第1の領域の鋳造幅方向の全ての座標値が含まれていることを指す。また、第1の領域の鋳造幅方向(X軸方向)の範囲は、浸漬ノズル230の鋳造幅方向の範囲を含むようにしていればよい。このような第1の領域および第2の領域は、第2の領域の鋳造方向(Z軸方向)の範囲と、浸漬ノズル230の吐出口230a、230bからの吐出流が流れる鋳造方向の範囲とが重複する範囲の方が、第1の領域の鋳造方向の範囲と浸漬ノズル230の吐出口230a、230bからの吐出流が流れる鋳造方向の範囲とが重複する範囲よりも短くなる位置に配置されていればよい。尚、本実施形態では、第1の領域の上端と第2の領域の下端とが一致する。
【0070】
本実施形態のように、櫛歯部241aの第1の直方体部510、520および継鉄部241bの第3の直方体部550の下端の鋳造方向(Z軸方向)の位置が、浸漬ノズル230の吐出口230a、230bの上端部の位置と一致するようにすれば、第1の領域の鋳造方向(Z軸方向)の範囲と吐出流が流れる鋳造方向(Z軸方向)の範囲とは重複しなくなる(図6を参照)。このようにすれば、吐出流と撹拌流Fとが干渉する領域をなくすことができるため、鋳型の短辺部213、214側で発生する上昇流、下降流および凝固シェルSへの衝突流の流速をより低減することができる。
【0071】
また、浸漬ノズルから吐出される吐出流の吐出方向が斜め上方向である場合と斜め下方向である場合とを考慮すると、例えば、第1の領域を以下のように定めてもよい。即ち、浸漬ノズルの吐出口が第1の側に傾斜するとした場合、第1の領域は、浸漬ノズルの吐出口の鋳造方向における第1の端部よりも第2の側の領域を含む。浸漬ノズルの吐出口の第1の端部は浸漬ノズルの吐出口の鋳造方向(Z軸方向)の第2の側の端部である。第1の側は鋳造方向の両側(上側および下側)のうち、浸漬ノズルから溶鋼が吐出される方向側(=浸漬ノズルの吐出口に向けて浸漬ノズルの厚み部分(図4のハッチングされている部分)が傾斜する方向側)である。第2の側は鋳造方向の両側(上側および下側)のうち浸漬ノズルから溶鋼が吐出される方向側とは反対側(第1の側の反対側)である。尚、浸漬ノズルの吐出口の端部は浸漬ノズルの外壁面の位置における端部。即ち、浸漬ノズルを外側から見たときに見える開口部の輪郭(縁)であるものとする。
また、例えば、第2の領域は浸漬ノズルの吐出口の鋳造方向における第1の端部よりも第2の側の領域を含むようにすることができる。
本実施形態では、浸漬ノズルの吐出口の鋳造方向における第1の端部は、浸漬ノズル230の吐出口230a、230bの上側(Z軸の正の方向側)の端部である。また、第1の側は下側(Z軸の負の方向側)であり、第2の側は上側(Z軸の正の方向)である。
【0072】
また、本実施形態では、電磁撹拌装置の磁極数が奇数である場合を例に挙げて説明した。しかしながら、電磁撹拌装置の磁極数は偶数であってもよい。電磁撹拌装置の磁極数が偶数の場合であっても、電磁撹拌装置の磁極数が奇数である場合と同様に、鉄心241、242の(鋳造幅方向(X軸方向)に垂直な)断面積であって、同一の磁極を構成する部分(コイル)によって囲まれる断面積が同じになるようにすれば、三相不平衡が生じることを抑制することができるので好ましい。
【0073】
また、以上のように鉄心241、242の(鋳造幅方向(X軸方向)に垂直な)断面積であって、同一の磁極を構成する部分(コイル)によって囲まれる断面積が同じになるようにすれば、三相不平衡が生じることを抑制することができるので好ましいが、必ずしもこのようにする必要はない。即ち、鉄心の(鋳造幅方向(X軸方向)に垂直な)断面積であって、同一の磁極を構成する部分(コイル)によって囲まれる断面積は当該磁極内の位置によって異なっていてもよい。
【0074】
また、本実施形態では、第2の直方体部530および第4の直方体部550の鋳造方向(Z軸方向)の長さが全て同じである場合を例に挙げて説明した。しかしながら、図8に示すように、第2の直方体部および第4の直方体部(T字状の縦線の領域)の鋳造方向(Z軸方向)の長さを異ならせてもよい。このようにする場合も、図8に示すように、鉄心の(鋳造幅方向(X軸方向)に垂直な)断面積であって、同一の磁極を構成する部分(コイル)によって囲まれる断面積が同じであるのが好ましいことは前述した通りである(必ずしもこのようにする必要はないことも前述した通りである)。
【0075】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態を説明する。第1の実施形態では、鉄心241、242の上側(浸漬ノズルから溶鋼が吐出される方向とは反対側の第2の側)にのみ鋳造幅方向(X軸方向)を長手方向とする第2の領域(第1の直方体部510、520、第3の直方体部540)を設ける場合を例に挙げて説明した。これに対し、本実施形態では、鉄心241、242の上側に加え下側にも鋳造幅方向(X軸方向)を長手方向とする領域(第3の領域)を設ける場合について説明する。このように本実施形態と第1の実施形態は鉄心の構成が主として異なる。従って、本実施形態の説明において、第1の実施形態と同一の部分については図2A図8に付した符号と同一の符号を付す等して詳細な説明を省略する。
【0076】
図9Aおよび図9Bは本実施形態の電磁撹拌装置を配設した連続鋳造設備の概略構成の一例を示す縦断面図である。尚、図9Aおよび図9BのI-I断面図は図2Aにおいて、符号241、242、251、252をそれぞれ941、942、951、952としたものと同じものであるので、その図示を省略する。また、図9Aおよび図9BのII-II断面図は図2Bにおいて、符号241、242、251、252をそれぞれ941、942、951、952としたものと同じものであるので、その図示を省略する。また、図9Aおよび図9BのIII-III断面図は図2Aにおいて、符号241、242、251、252をそれぞれ941、942、951、952とし、浸漬ノズル230をなくしたものと同じものであるので、その図示を省略する。
【0077】
図10は鉄心941の構成の一例を示す図である。尚、鉄心941、942は同じもので実現することができるので、ここでは、鉄心942の図示を省略する。鉄心941、942は鋳型の軸を対称軸とする線対称となる関係を有する。
図10において、鉄心941は鋳造厚方向(Y軸方向)から見た場合に、概ね(上下の横線の長さが同じの)エの字状の形状(=Hを90°回転させた形状)を有する。鉄心941は櫛歯部941aと継鉄部941bとを有する。
尚、本実施形態では、鉄心941は鉄心941の高さ方向(Z軸方向)に垂直な断面と同じ形状および大きさを有する軟磁性体板(例えば、方向性電磁鋼板または無方向性電磁鋼板)を高さ方向(Z軸方向)において積層することにより構成される。従って、鉄心841の高さ方向(Z軸方向)の各位置において、櫛歯部941aと継鉄部941bとには境界線はない。
【0078】
櫛歯部941aは複数の第1の直方体部1010~1040と複数の第2の直方体部1050とを有する。複数の第1の直方体部1010~1040と複数の第2の直方体部1050は鋳造幅方向(X軸方向)に沿って等間隔に配置される。また、複数の第1の直方体部1010~1040と複数の第2の直方体部1050は鋳型の長辺部211(およびバックプレート221)と間隔を有して対向するように配置される。
【0079】
第1の直方体部1010は、鉄心941の鋳造方向(Z軸方向)の一端側(Z軸の正の方向側=第2の側)において、鉄心941の鋳造幅方向(X軸方向)の一端側(X軸の正の方向側)に配置される。第1の直方体部1020は、鉄心941の鋳造方向(Z軸方向)の一端側(Z軸の正の方向側=第2の側)において、鉄心941の鋳造幅方向(X軸方向)の他端側(X軸の負の方向側)に配置される。
【0080】
第1の直方体部1030は、鉄心941の鋳造方向(Z軸方向)の他端側(Z軸の負の方向側=第1の側)において、鉄心941の鋳造幅方向(X軸方向)の一端側(X軸の正の方向側)に配置される。第1の直方体部1040は、鉄心941の鋳造方向(Z軸方向)の他端側(Z軸の負の方向側=第1の側)において、鉄心941の鋳造幅方向(X軸方向)の他端側(X軸の負の方向側)に配置される。
【0081】
第2の直方体部1050は、鉄心941の鋳造幅方向(X軸方向)の中心側(第1の直方体部1010、1020の間および第1の直方体部1030、1040の間)に配置される。
【0082】
鉄心941の鋳造方向(Z軸方向)の一端側(Z軸の正の方向側)において、鉄心941の鋳造幅方向(X軸方向)の一端側(X軸の正の方向側)から、複数の第1の直方体部1010、複数の第2の直方体部1050、複数の第1の直方体部1020がこの順で、鋳造幅方向(X軸方向)に沿って等間隔に配置される。
鉄心941の鋳造方向(Z軸方向)の他端側(Z軸の負の方向側)において、鉄心941の鋳造幅方向(X軸方向)の一端側(X軸の正の方向側)から、複数の第1の直方体部1030、複数の第2の直方体部1050、複数の第1の直方体部1040がこの順で、鋳造幅方向(X軸方向)に沿って等間隔に配置される。
鋳造幅方向(X軸方向)に沿って等間隔に配置された状態の、第1の直方体部1010~1040の鋳造幅方向(X軸方向)の長さは同じである。
【0083】
第2の直方体部1050と鋳型および浸漬ノズル230との鋳造幅方向(X軸方向)における位置関係は、図2Bを参照しながら説明した、第1の実施形態の第2の直方体部530と鋳型および浸漬ノズル230との鋳造幅方向(X軸方向)における位置関係と同じである。従って、第2の直方体部1050と鋳型および浸漬ノズル230との鋳造幅方向(X軸方向)における位置関係の詳細な説明を省略する。
【0084】
第1の直方体部1010~1040および第2の直方体部1050の高さ方向は鋳造方向(Z軸方向)と一致する。第2の直方体部1050の高さ方向の長さは第1の直方体部1010~1040の高さ方向の長さの2倍よりも長い。第1の直方体部1010~1040の形状および大きさは同じである。第2の直方体部1050の形状および大きさは同じである。
【0085】
継鉄部941bは2つの第3の直方体部1060、1070と1つの第4の直方体部1080とを有する。
第3の直方体部1060の鋳型の長辺部211側(Y軸の正の方向側)の面は、第1の直方体部1010、1020および第2の直方体部1050の鋳型の長辺部211と対向する面と反対側の面に繋がる。また、第3の直方体部1070の鋳型の長辺部211側の面は、第1の直方体部1030、1040および第2の直方体部1050の鋳型の長辺部211と対向する面と反対側の面に繋がる。
第4の直方体部1080の鋳型の長辺部211側(Y軸の正の方向側)の面は、第2の直方体部1050の鋳型の長辺部211と対向する面と反対側の面に繋がる。第4の直方体部1080の上端面(鋳造方向の上流側の端面)は第3の直方体部1060の下端面と繋がる。第4の直方体部1080の下端面(鋳造方向の下流側の端面)は第3の直方体部1070の上端面と繋がる。
【0086】
第3の直方体部1060の鋳造幅方向(X軸方向)の長さは、鋳造幅方向(X軸方向)に沿って等間隔に配置された状態の、第1の直方体部1010、1020および第2の直方体部1050の鋳造幅方向(X軸方向)における一端から他端までの鋳造幅方向(X軸方向)の長さと同じである。第3の直方体部1060の高さ方向は鋳造方向(Z軸方向)と同じである。
また、第3の直方体部1070の鋳造幅方向(X軸方向)の長さは、鋳造幅方向(X軸方向)に沿って等間隔に配置された状態の、第1の直方体部1030、1040および第2の直方体部1050の鋳造幅方向(X軸方向)における一端から他端までの鋳造幅方向(X軸方向)の長さと同じである。第3の直方体部1070の高さ方向は鋳造方向(Z軸方向)と同じである。
鋳造幅方向(X軸方向)に沿って等間隔に配置された状態の、第3の直方体部1060、1070の鋳造幅方向(X軸方向)の長さは同じである。
【0087】
第3の直方体部1060の長手方向の一端面(X軸の正の方向側の端面)は最も当該一端面側に位置する(最もX軸の正の方向側に位置する)第1の直方体部1010の当該一端面側(X軸の正の方向側)の端面と面一になっている。第3の直方体部1060の長手方向の他端面(X軸の負の方向側の端面)は最も当該他端面側に位置する(最もX軸の負の方向側に位置する)第1の直方体部1020の当該他端面側(X軸の負の方向側)の端面と面一になっている。
【0088】
また、第3の直方体部1070の長手方向の一端面(X軸の正の方向側の端面)は最も当該一端面側に位置する(最もX軸の正の方向側に位置する)第1の直方体部1030の当該一端面側(X軸の正の方向側)の端面と面一になっている。第3の直方体部1070の長手方向の他端面(X軸の負の方向側の端面)は最も当該他端面側に位置する(最もX軸の負の方向側に位置する)第1の直方体部1040の当該他端面側(X軸の負の方向側)の端面と面一になっている。
【0089】
第3の直方体部1060の上端面と、第1の直方体部1010、1020および第2の直方体部1050の上端面とは面一となっている。第3の直方体部1060の高さ方向は鋳造方向(Z軸方向)と一致する。第3の直方体部1060の高さ方向の長さは第1の直方体部1010、1020の高さ方向の長さと同じである。第3の直方体部1060の下端面のうち、第1の直方体部1010、1020と繋がる面と当該第1の直方体部1010、1020の下端面とは面一になっている。
【0090】
また、第3の直方体部1070の下端面と、第1の直方体部1030、1040および第2の直方体部1050の下端面とは面一となっている。第3の直方体部1070の高さ方向は鋳造方向(Z軸方向)と一致する。第3の直方体部1070の高さ方向の長さは第1の直方体部1030、1040の高さ方向の長さと同じである。第3の直方体部1070の上端面のうち、第1の直方体部1030、1040と繋がる面と当該第1の直方体部1030、1040の上端面とは面一になっている。
【0091】
第4の直方体部1080の高さ方向は鋳造方向(Z軸方向)と一致する。第4の直方体部1080の高さ方向の長さは、第2の直方体部1050の高さ方向の長さから第1の直方体部1010~1040の高さ方向の長さの2倍を引いた長さと同じである。第4の直方体部1080の上端面は第3の直方体部1060の下端面と繋がり、第4の直方体部1080の下端面は第3の直方体部1070の上端面と繋がっている。
第1の直方体部1010~1040、第2の直方体部1050、第3の直方体部1060、1070、および第4の直方体部1080の相互に繋がる領域には境界線はない。
【0092】
以上のような第1の直方体部1010~1040および第2の直方体部1050のうち、鋳造幅方向(X軸方向)に沿って相互に隣り合う2つの直方体部の間の領域にコイル951が配置される(当該直方体部の鋳型211側の平面にはコイル951は配置されない)。このようにコイル951は、鋳型の鋳造幅方向(X軸方向)に巻き回される(即ち、コイル951の軸(コイル軸)は、鋳型の鋳造幅方向(X軸方向)と平行である)。コイル951は第1の直方体部1010~1040、第2の直方体部1050、第3の直方体部1060、1070および第4の直方体部1080の面に沿うように巻き回される。
【0093】
ここで、第1の直方体部1010のうち鋳造幅方向(X軸方向)に沿って相互に隣り合う2つの直方体部の間の領域と、第1の直方体部1030のうち鋳造幅方向(X軸方向)に沿って相互に隣り合う2つの直方体部の間の領域は、鋳造方向(Z軸方向)において並んでいる。このように鋳造方向(Z軸方向)において並んでいる2つの当該領域は、鋳造方向(Z軸方向)の位置のみが異なる。
【0094】
また、第1の直方体部1020のうち鋳造幅方向(X軸方向)に沿って相互に隣り合う2つの直方体部の間の領域と、第1の直方体部1040のうち鋳造幅方向(X軸方向)に沿って相互に隣り合う2つの直方体部の間の領域は、鋳造方向(Z軸方向)において並んでいる。このように鋳造方向(Z軸方向)において並んでいる2つの当該領域は鋳造方向(Z軸方向)の位置のみが異なる。
【0095】
鋳造幅方向(X軸方向)に沿って相互に隣り合う2つの第1の直方体部1010、1020の間の領域と、当該領域と鋳造方向(Z軸方向)において並んでいる第1の直方体部1030、1040の間の領域とを通るようにコイルは巻き回される。従って、当該領域を通るようにコイルを巻き回す場合と、鋳造幅方向(X軸方向)に沿って相互に隣り合う2つの第2の直方体部1050の間の領域を通るようにコイルを巻き回す場合とで、コイルを配置する領域の範囲は同じになる。よって、鋳造幅方向(X軸方向)において、鋳造幅方向(X軸方向)に沿って相互に隣り合う2つの直方体部の間の領域に配置されるコイルの長さを均等(同じ)にすることができる。
【0096】
図10において、本実施形態でも第1の実施形態と同様に、電磁撹拌装置が5つの磁極P1~P5を有する場合を例に挙げて説明する。本実施形態では鉄心941の(鋳造幅方向(X軸方向)に垂直な)断面積であって、同一の磁極P1~P5を構成する部分(コイル)によって囲まれる断面積が同じになるようにする。このようにすれば、三相不平衡が生じることを抑制することができるので好ましい。尚、図10において、磁極P1のU相と磁極P2の-V相との間の第2の直方体部1050と磁極P4の-U相と磁極P5のV相との間の第2の直方体部1050の高さ方向の長さを、第1の直方体部1010~1040の高さ方向の長さと同じにし、第1の直方体部としてもよい。また、高さ方向の長さを変更した第2の直方体部の鋳造幅方向(X軸方向)の長さの分だけ、第4の直方体部1080の鋳造幅方向の長さを短くしてもよい。
【0097】
図9Aおよび図9Bに示す例では、第1の直方体部1010、1020および第3の直方体部1060の下端面の鋳造方向(Z軸方向)の位置と浸漬ノズル230の吐出口230a、230bの上端部(鋳造方向の上流側の端部)の位置とは位置Z2で一致する。また、鉄心941、942の上端面(第1の直方体部1010、1020、第2の直方体部1050および第3の直方体部1060の上端面)の鋳造方向(Z軸方向)の位置は位置Z1で一致する。また、鉄心941、942の下端面(第1の直方体部1030、1040、第2の直方体部1050および第4の直方体部1070の下端面)の鋳造方向(Z軸方向)の位置は位置Z4で一致する。また、浸漬ノズル230の先端面(鋳造方向の下流側の端面)の鋳造方向(Z軸方向)の位置Z3は位置Z2よりも下方で位置Z4よりも上方である。
【0098】
また、第1の直方体部1030、1040の上端面の鋳造方向(Z軸方向)の位置Z5は、浸漬ノズル230の先端面(鋳造方向の下流側の端面)の鋳造方向(Z軸方向)の位置Z3よりも下方で位置Z4よりも上方である。
位置Z1から位置Z5までの鋳造方向(Z軸方向)の長さZL[mm]は、以下の(1)式を満たすのが好ましい。
ZL≧ZD+ZH+{(W-D)÷2}×tanθ ・・・(1)
ここで、ZD[mm]は湯面(メニスカス)から浸漬ノズル230の吐出口230a、230bの上端部までの鋳造方向(Z軸方向)における長さである(図9Aおよび図9Bを参照)。ZH[mm]は浸漬ノズル230の吐出口230a、230bの鋳造方向(Z軸方向)の長さである(図9Aおよび図9Bを参照)。W[mm]は鋳型の短辺部213、214の内壁面の鋳造幅方向(X軸方向)の間隔である(図2Bを参照)。D[mm]は浸漬ノズル230の吐出口230a、230bの重心位置における外径である(図9Aおよび図9Bを参照)。θ[°]は浸漬ノズル230の(吐出口230a、230bにおける)吐出角θである。
【0099】
浸漬ノズル230および鋳型((1)式の右辺の変数ZD、ZH、W、D、θ)は変更され得る。従って、連続鋳造設備において想定される浸漬ノズル230および鋳型の組み合わせのうち、何れの組み合わせにおいても(1)式を満たすようにするのがより好ましい。即ち、位置Z1から位置Z5までの鋳造方向(Z軸方向)の長さZLは(1)式の右辺の値としてとり得る値の最大値以上になるようにするのがより好ましい。このようにすれば、浸漬ノズル230から吐出される吐出流が直線的に移動すると仮定した場合に、吐出流が鋳型の短辺部213、214に衝突する位置および当該位置よりも下方の位置に第1の直方体部1030、1040の上端面を位置させることができる。従って、浸漬ノズル230の吐出口230a、230bから吐出される吐出流が流れる領域に形成される撹拌流をより一層抑制することができる。
【0100】
尚、鉄心942は、以上の説明において、長辺部211、バックプレート221、鉄心941、コイル951をそれぞれ、長辺部212、バックプレート222、鉄心942、コイル952に読み替えたものとなる。従って、ここでは、鉄心942の詳細な説明を省略する。
【0101】
図11は本実施形態の電磁撹拌装置における溶鋼の流れの一例を説明する図である。図11は、図1および図6に対応する図であり、表記の方法は図1および図6と同じである。
【0102】
本実施形態では鋳造厚方向(Y軸方向)から見た場合の形状が概略エの字状になるように鉄心941、942を構成する。浸漬ノズル230の軸の鋳造幅方向(X軸方向)の位置と鉄心941、942の鋳造幅方向の中心の鋳造幅方向の位置とが同じになるように鉄心941、942を配置する。ここで、エの字状の上側の横線の領域を第2の領域とし、縦線の領域を第1の領域とし、下側の横線の領域を第3の領域とする。鉄心941、942の、浸漬ノズル230の吐出口230a、230bの上端よりも上の領域を第2の領域とし、鉄心941、942の、浸漬ノズル230の吐出口230a、230bの上端よりも下の領域を第1の領域とし、第1の領域の下の領域を第3の領域とする。
【0103】
従って、図11に示すように、浸漬ノズル230の吐出口230a、230bの上端よりも上の領域においては、図1に示した撹拌流と同様に、速い撹拌流を発生させることができる。一方、浸漬ノズル230の吐出口230a、230bの上端よりも下の領域においては、鋳造幅方向(X軸方向)の中央側の領域でのみ速い撹拌流を発生させることができ、当該領域で吐出流と干渉流とを干渉させることにより吐出流を分散させることができる。そして、鋳造幅方向(X軸方向)の端側の領域では撹拌流の発生が抑制されるので、吐出流と撹拌流とが干渉することによる吐出流の流速の増加を抑制することができる。更に、第3の領域においては、第2の領域と同様に、速い撹拌流を発生させることができる。よって、下降流の流速および凝固シェルSへの衝突流の流速をより低減するができることに加え、第3の領域における速い撹拌流により、下降流にのった気泡や介在物が下方に進入することを抑制し、浮上を促進させるようにすることができる。よって、鋳片表面の品質と内部品質および生産性をより向上させることができる。
【0104】
また、鉄心941、942(の第1の領域、第2の領域および第3の領域)の鋳型の長辺部211、212と対向する面を、鋳型の長辺部211、212の鉄心941、942(の第1の領域、第2の領域および第3の領域)と対向する面と平行になるようにするのが好ましい。このようにすれば、第1の領域と鋳型の長辺部211、212との間隔、第2の領域と鋳型の長辺部211、212との間隔および第3の領域と鋳型の長辺部211、212との間隔をそれぞれ一定にすることができる。従って、第1の領域を構成する電磁鋼板、第2の領域を構成する電磁鋼板および第3の領域を構成する電磁鋼板をそれぞれ同じもので実現することができ、安定した撹拌流を発生させることができる。
【0105】
また、鉄心941、942の第2の領域(第1の直方体部1010、1020、第2の直方体部1050(の上部)および第3の直方体部1060)の鋳造幅方向(X軸方向)の長さと、鉄心941、942の第3の領域(第1の直方体部1030、1040、第2の直方体部1050(の下部)および第3の直方体部1070)の鋳造幅方向(X軸方向)の長さとを同じにするのが好ましい。このようにすれば、鉄心941、942の第2の領域を構成する電磁鋼板と鉄心941、942の第3の領域を構成する電磁鋼板を共通化することができる。
【0106】
図12は撹拌力Fx(FのX軸方向成分)と鋳造幅方向(X軸方向)の位置との関係の一例を示す図である。図12に示す結果は、実際の鋳型の中空部内の溶鋼Mに発生する電磁力を数値シミュレーションを行って得たものである。何れの数値シミュレーションにおいても溶鋼Mの成分を含む操業条件は同じものとした。Fxは図7を参照しながら説明したものと同じである。
【0107】
図12(a)は湯面(メニスカス)付近(鋳造方向(Z軸方向)の位置が第2の領域の範囲内の領域)の撹拌力Fxを示す。図12(b)は鉄心941、942の鋳造方向(Z軸方向)の中央付近(鋳造方向(Z軸方向)の位置が第1の領域の範囲内の領域)の撹拌力Fxを示す。図12(c)は鉄心941、942の下端付近と鋳造方向の位置が同じ領域(鋳造方向(Z軸方向)の位置が第3の領域の範囲内の領域)における撹拌力Fxを示す。
図12(a)~図12(c)においてグラフ1201、1203、1205は本実施形態の電磁撹拌装置を用いた場合の撹拌力Fxを示す。グラフ1202、1204、1206は図1を参照しながら説明した一般的な電磁撹拌装置を用いた場合の撹拌力Fxを示す。尚、図7に示すグラフ702、704も図1を参照しながら説明した一般的な電磁撹拌装置を用いた場合の撹拌力Fxを示すが、グラフ702、704とグラフ1202、1204、1206を得たときの操業条件が異なる。このため、同一の位置におけるグラフ702、1204は一致しない。ただし、前述したように、グラフ1202、1204、1206を得たときの操業条件は同じである。
【0108】
図12(a)のグラフ1201、1202に示すように、湯面(メニスカス)付近においては、本実施形態の電磁撹拌装置でも一般的な電磁撹拌装置と同様に大きな撹拌力Fxを発生させることができる。これにより、鋳片表面の品質を向上させることができる。
【0109】
また、図12(b)のグラフ1203、1204に示すように、鉄心941、942の鋳造方向(Z軸方向)の中心付近と鋳造方向の位置が同じ領域においても、鋳造幅方向の中心側の領域では、本実施形態の電磁撹拌装置でも一般的な電磁撹拌装置と同様に大きな撹拌力Fxを発生させることができる。これにより吐出流を分散させることができる。
【0110】
一方、図12(b)のグラフ1203、1204に示すように鉄心941、942の鋳造方向(Z軸方向)の中心付近と鋳造方向の位置が同じ領域において、鋳造幅方向の端部側の領域では、本実施形態の電磁撹拌装置を用いることにより、一般的な電磁撹拌装置を用いる場合に比べて撹拌力Fxを低減させることができる。従って、上昇流、下降流および凝固シェルSへの衝突流の流速を低減させることができ、パウダーP、気泡および介在物が溶鋼Mに巻き込まれたまま鋳片が連続鋳造されることを抑制することができ、また、凝固シェルSの再溶解を抑制することができる。
【0111】
更に、図12(c)のグラフ1205、1206に示すように、鉄心941、942の下端付近と鋳造方向の位置が同じ領域においては、一般的な電磁撹拌装置と同様に大きな撹拌力Fxを発生させることができる。従って、パウダーP、気泡および介在物の浮上を促進させることができる。従って、鋳片内部の品質をより向上させることができる。
【0112】
<変形例>
本実施形態では、位置Z1から位置Z5までの鋳造方向(Z軸方向)の長さZLが(1)式を満たす場合を例に挙げて説明した。このようにすれば、吐出流が発生する多くの領域を第1の領域とすることができるので好ましい。しかしながら、吐出流の方向や吐出流と撹拌流との干渉の抑制効果の程度に応じて第1の領域を定めることができる。例えば、浸漬ノズル230の下端の鋳造方向(Z軸方向)の位置を位置Z5としてもよい。また、(1)式を満たす範囲で、浸漬ノズル230の下端の鋳造方向(Z軸方向)の位置よりも下方の位置を位置Z5としてもよい。また、(1)式の右辺を[ZD+ZH+{(W-D)÷2}×tanθ]÷2に変更してもよい。また、浸漬ノズルの吐出口から水平方向に溶鋼Mを吐出させる場合には、浸漬ノズル230の吐出口230a、230bの下端の鋳造方向(Z軸方向)の位置を位置Z5としてもよい。この場合、例えば、浸漬ノズル230の吐出口230a、230bの上端(一方の端部)の鋳造方向(Z軸方向)の位置を位置Z2とし、浸漬ノズル230の吐出口230a、230bの下端(他方の端部)の鋳造方向(Z軸方向)の位置を位置Z5としてもよい。
【0113】
また、本実施形態では鋳型の鉄心941、942の下端面が鋳型の長辺部211、212よりも上に位置する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、鋳型の鉄心941、942の下端面の鋳造方向(Z軸方向)の位置はこのような位置に限定されない。例えば、鉄心941、942の下端面の鋳造方向(Z軸方向)の位置と、鋳型の長辺部211、212の下端面の鋳造方向(Z軸方向)の位置とを同じにしてもよい。このようにすれば、鉄心941、942の第3の領域(第1の直方体部1030、1040、第2の直方体部1050(の下部)および第3の直方体部1070)の鋳造方向(Z軸方向)の長さをより大きくすることができる。従って、下降流の流速をより一層低減するができ、下降流にのった気泡や介在物が下方に進入することをより抑制し、浮上をより促進させるようにすることができる。よって、鋳片表面の品質と内部品質の双方をより一層向上させることができる。
【0114】
また、本実施形態では、鉄心941、942の第2の領域と鋳型の長辺部211、212との間隔と、鉄心941、942の第3の領域と鋳型の長辺部211、212との間隔が同じである場合を例に挙げて説明した。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。鋳型の上部に比べ下部においてはパウダーPが少ない(或いはパウダーPはない)。このため、溶鋼Mに与える撹拌力を増大させてもパウダーPが溶鋼M巻き込まれる可能性は鋳型の上部に比べ低い。従って、例えば、鉄心の第3の領域と鋳型の長辺部211、212との間隔を鉄心の第1の領域と鋳型の長辺部211、212との間隔よりも短くしてもよい。また、下部に位置するほど鉄心と鋳型の長辺部211、212との間隔が短くなるようにしてもよい。このようにすれば、撹拌力Fを上げることで溶鋼Mの不適切な凝固を緩和することができる。
【0115】
また、本実施形態では、第2の直方体部1050および第4の直方体部1080の鋳造方向(Z軸方向)の長さが全て同じである場合を例に挙げて説明した。しかしながら、図13に示すように、第2の直方体部および第4の直方体部(エの字状の縦線の領域)の鋳造方向(Z軸方向)の長さを異ならせてもよい。この場合、図13に示すように、第2の直方体部および第4の直方体部には、鋳造方向(Z軸方向)において間隔を有して配置されるものが含まれる。このようにする場合も図13に示すように、鉄心の(鋳造幅方向(X軸方向)に垂直な)断面積であって、同一の磁極を構成する部分(コイル)によって囲まれる断面積が同じであるのが好ましいことは前述した通りである(必ずしもこのようにする必要はないことも前述した通りである)。
また、本実施形態においても第1の実施形態で説明した種々の変形例を採用することができる。
【0116】
尚、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想またはその主要な特徴から逸脱することなく様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0117】
211~212:長辺部、213~214:短辺部、221~224:バックプレート、230:浸漬ノズル、241~242,941~942:鉄心、251~252,951~952:コイル
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13