(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】薄肉鋳片の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/126 20060101AFI20231122BHJP
B22D 11/06 20060101ALI20231122BHJP
B22D 11/11 20060101ALI20231122BHJP
B22D 11/108 20060101ALI20231122BHJP
B22D 27/04 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
B22D11/126 D
B22D11/06 330B
B22D11/11 C
B22D11/108 Z
B22D27/04 G
(21)【出願番号】P 2020004212
(22)【出願日】2020-01-15
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】宮嵜 雅文
(72)【発明者】
【氏名】新井 貴士
(72)【発明者】
【氏名】藤井 忠幸
(72)【発明者】
【氏名】吉田 直嗣
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特許第3007941(JP,B2)
【文献】特開2019-209353(JP,A)
【文献】特開2017-080794(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/126
B22D 11/06
B22D 11/11
B22D 11/108
B22D 27/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する一対の冷却ドラムと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に溶融金属を供給し、前記冷却ドラムの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造し、この薄肉鋳片を挟持するピンチロールを備えた搬送部によって搬送する薄肉鋳片の製造方法であって、
鋳造開始時において、前記冷却ドラムの間にダミーシートを配設せず、
鋳造開始時に鋳造される前記薄肉鋳片を切断する際に、前記溶融金属プール部内に地金を発生させ、この地金を一対の冷却ドラム間に巻き込ませることによって、前記冷却ドラム間隔を一時的に離間させることで、前記薄肉鋳片に板厚肥大部を形成し、前記一対の冷却ドラムの下方側において、前記薄肉鋳片の自重により前記板厚肥大部で前記薄肉鋳片を切断し、
切断後に鋳造される前記薄肉鋳片を前記ピンチロールによって挟持して搬送することを特徴とする薄肉鋳片の製造方法。
【請求項2】
前記溶融金属プール部の幅方向端部から30mm以内の領域において、前記地金を発生させることを特徴とする請求項1に記載の薄肉鋳片の製造方法。
【請求項3】
前記溶融金属プール内に地金発生材を投入することで地金を生成させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の薄肉鋳片の製造方法。
【請求項4】
前記地金発生材は、前記薄肉鋳片と同じ成分の金属材であることを特徴とする請求項3に記載の薄肉鋳片の製造方法。
【請求項5】
前記溶融金属プール内の前記溶融金属を局所的に冷却することにより地金を発生させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の薄肉鋳片の製造方法。
【請求項6】
液化ガスによって前記溶融金属プール内の前記溶融金属を冷却することを特徴とする請求項5に記載の薄肉鋳片の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転する一対の冷却ドラムと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に溶融金属を供給し、前記冷却ドラムの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造し、この薄肉鋳片を挟持するピンチロールを備えた搬送部によって搬送する薄肉鋳片の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属の薄肉鋳片を製造する方法として、内部に水冷構造を有する冷却ドラムを備え、回転する一対の冷却ドラム間に形成された溶融金属プール部に溶融金属を供給し、前記冷却ドラムの周面に凝固シェルを形成・成長させ、一対の冷却ドラムの外周面にそれぞれ形成された凝固シェル同士をドラムキス点で接合し、圧下して所定の厚さの薄肉鋳片を製造する双ドラム式連続鋳造装置が提供されている。
冷却ドラム間から下方に製出された薄肉鋳片は、湾曲部で湾曲され、薄肉鋳片を上下方向に挟持するピンチロールを有する搬送部によって略水平方向に搬送され、必要に応じてインラインミルによって圧延され、コイラーによって巻き取られる。
【0003】
上述の双ドラム式連続鋳造装置において鋳造を開始する際には、例えば特許文献1,2に示すように、搬送部に配置したダミーシートの一端を冷却ドラム間に挟持しておき、一対の冷却ドラムと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に溶融金属を供給しながら冷却ドラムを回転させて、ダミーシートに連結するように薄肉鋳片を形成し、冷却ドラム間からダミーシート及びこのダミーシートに連結された薄肉鋳片を引き出し、搬送部によって薄肉鋳片を搬送し、コイラーで巻き取りを行う。
【0004】
ところで、上述のようにダミーシートを用いた場合には、鋳造開始前にダミーシートを搬送部及びコイラーに配置するとともに、ダミーシートの一端を冷却ドラム間に配置する必要があるため、作業負荷が大きくなる。
また、鋳造開始時点においては、鋳造条件が安定していないため、ダミーシートに連結するように形成された薄肉鋳片の強度が不足し、ダミーシートを引き出した際に薄肉鋳片が破断するといったトラブルが発生し、鋳造を開始できないことがあった。
さらに、鋳造中に搬送部等でトラブルが発生した場合には、鋳造を一時的に中断した後に再開することができず、鋳造自体を中止する必要があった。
【0005】
このため、ダミーシートを用いることなく、鋳造を開始することができる薄肉鋳片の製造方法が求められている。
ここで、ダミーシートを使用せずに、鋳造を開始するためには、冷却ドラム間から引き出された薄肉鋳片を搬送部に直接送り込む必要がある。しかしながら、鋳造開始時には、鋳造条件が安定していないため、薄肉鋳片には非定常部が形成されることになる。この非定常部においては、端部のバリや表面の凹凸等があるため、搬送部にそのまま送り込むことは非常に困難であった。
【0006】
そこで、冷却ドラムの直下で薄肉鋳片を切断し、非定常部を除去することが求められている。
通常、薄板の切断には、シャー等の切断装置が用いられるが、冷却ドラムの直下での薄肉鋳片は高温で脆弱であり、さらに、張力が付与されていないことから、既存の切断装置によって安定して切断することができず、薄肉鋳片の幅方向に延在する直線的な切断端を形成することができなかった。
【0007】
そこで、例えば特許文献3には、鋳造開始時において、冷却ドラムの間隙を瞬時に開くことで、凝固シェルの圧着を鋳造方向に20~30mm程度の長さだけ局部的に弱め、凝固シェル間に溶融金属を挟み込ませて、中膨れ状の薄肉鋳片を形成させ、溶融金属の顕熱で中膨れ部の温度を上げて強度を弱め、薄肉鋳片の自重によって薄肉鋳片を切断する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭57-058957号公報
【文献】特開昭63-224847号公報
【文献】特許第3007941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献3に記載されたように、鋳造開始時に中膨れ部を形成するために冷却ドラムの間隔を調整する場合には、慣性質量の大きな冷却ドラムを比較的高速で移動させる必要があり、かつ、冷却ドラムの駆動装置が複雑になり、さらに、冷却ドラムの動作を精密に制御するために機械系の高い剛性及び精密なセンサ及び制御装置が必要となり、設備コストが増大するといった問題があった。また、ドラム間隔を急激に変化させるため、ドラム反力(鋳片圧下力)を適正に維持することが困難であり、安定して鋳造を行うことができないおそれがあった。
【0010】
本発明は、前述した状況に鑑みてなされたものであって、複雑な機構を用いることなく比較的簡単な構成によって、冷却ドラムの直下において薄肉鋳片を切断し、幅方向に延在する直線的な切断端を形成した定常部の薄肉鋳片を搬送部に送り込むことができ、安定して鋳造を行うことが可能な薄肉鋳片の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係る薄肉鋳片の製造方法は、回転する一対の冷却ドラムと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に溶融金属を供給し、前記冷却ドラムの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造し、この薄肉鋳片を挟持するピンチロールを備えた搬送部によって搬送する薄肉鋳片の製造方法であって、鋳造開始時において、前記冷却ドラムの間にダミーシートを配設せず、鋳造開始時に鋳造される前記薄肉鋳片を切断する際に、前記溶融金属プール部内に地金を発生させ、この地金を一対の冷却ドラム間に巻き込ませることによって、前記冷却ドラム間隔を一時的に離間させることで、前記薄肉鋳片に板厚肥大部を形成し、前記一対の冷却ドラムの下方側において、前記薄肉鋳片の自重により前記板厚肥大部で前記薄肉鋳片を切断し、切断後に鋳造される前記薄肉鋳片を前記ピンチロールによって挟持して搬送することを特徴としている。
【0012】
この構成の薄肉鋳片の製造方法によれば、前記溶融金属プール部内に地金を発生させ、この地金を一対の冷却ドラム間に巻き込ませることによって一対の冷却ドラムの間隔を一時的に離間させて、前記薄肉鋳片に幅方向に延在する板厚肥大部を形成しており、この板厚肥大部が形成された領域の強度が局所的に低くなる。よって、前記薄肉鋳片の前記板厚肥大部よりも下方に位置する部分の自重によって、前記薄肉鋳片を前記板厚肥大部に沿って切断することが可能となり、幅方向に延在する直線的な切断端を形成することができる。
これにより、非定常部を除去した薄肉鋳片を搬送部へ送り込むことができ、安定して鋳造を行うことが可能となる。
また、地金を巻き込むことによって前記冷却ドラム間隔を一時的に離間させているので、通常のドラム反力の制御を実施することで板厚肥大部の形成及び定常部の鋳造を安定して行うことができ、設備コストが大幅に増大することはない。
【0013】
ここで、本発明の薄肉鋳片の製造方法においては、前記溶融金属プール部の幅方向端部から30mm以内の領域において、前記地金を発生させることが好ましい。
溶融金属プール部の幅方向端部の湯面近傍は、冷却ドラム、サイド堰、外気へ放熱されることから温度が低下しやすい領域であるため、地金を比較的容易に発生させることができ、応答性良く板厚肥大部を形成することが可能となる。
【0014】
また、本発明の薄肉鋳片の製造方法においては、前記溶融金属プール内に地金発生材を投入することで地金を生成させる構成としてもよい。
この場合、前記溶融金属プール内に地金発生材を投入することで確実に地金を発生することができる。
【0015】
さらに、本発明の薄肉鋳片の製造方法においては、前記地金発生材は、前記薄肉鋳片と同じ成分の金属材であってもよい。
この場合、前記薄肉鋳片と同じ成分の金属材を溶融金属プール部に投入することで、溶融金属の温度を局所的に低下させ、地金を発生させることができる。そして、前記薄肉鋳片と同じ成分の金属材であるため、薄肉鋳片の組成に影響がない。
【0016】
また、本発明の薄肉鋳片の製造方法においては、前記溶融金属プール内の前記溶融金属を局所的に冷却することにより地金を発生させる構成としてもよい。
この場合、前記溶融金属プール内の前記溶融金属を局所的に冷却することによって、確実に地金を発生することができる。
【0017】
また、本発明の薄肉鋳片の製造方法においては、液化ガスによって前記溶融金属プール内の前記溶融金属を冷却する構成としてもよい。
この場合、液化ガスを前記溶融金属プール内へ滴下することで、溶融金属を局所的に冷却し、地金を確実に発生させることが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
上述のように、本発明によれば、複雑な機構を用いることなく比較的簡単な構成によって、冷却ドラムの直下において薄肉鋳片を切断し、幅方向に延在する直線的な切断端を形成した定常部の薄肉鋳片を搬送部に送り込むことができ、安定して鋳造を行うことが可能な薄肉鋳片の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態における双ドラム式連続鋳造装置の一例を示す概略説明図である。
【
図2】
図1に示す双ドラム式連続鋳造装置における溶鋼プール部周辺の側面説明図である。
【
図3】
図1に示す双ドラム式連続鋳造装置における溶鋼プール部周辺の上面説明図である。
【
図4】鋳造開始時における薄肉鋳片の切断手順を示す説明図である。
【
図5】鋳造再開時における薄肉鋳片の切断手順を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施形態である薄肉鋳片の製造方法について、添付した図面を参照して説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
ここで、本実施形態において製造される薄肉鋳片1は各種組成の鋼からなり、例えば、0.001~0.01%C極低炭鋼、0.02~0.05%C低炭鋼、0.06~0.4%C中炭鋼、0.5~1.2%C高炭鋼、SUS304鋼に代表されるオーステナイト系ステンレス鋼、SUS430鋼に代表されるフェライト系ステンレス鋼、3.0~3.5%Si方向性電磁鋼、0.1~6.5%Si無方向性電磁鋼等(なお、%は、質量%)が挙げられる。
また、本実施形態では、製造される薄肉鋳片1の幅が500mm以上2000mm以下の範囲内、厚さが1mm以上5mm以下の範囲内とされている。
【0021】
本実施形態である双ドラム式連続鋳造装置10は、
図1に示すように、一対の冷却ドラム11と、冷却ドラム11の下方側に製出された薄肉鋳片1の進行方向を略水平方向に向けて湾曲させる湾曲部17と、薄肉鋳片1を略水平方向に搬送する搬送部20と、を備えている。
なお、本実施形態では、湾曲部17は、冷却ドラム11の下方側に製出された薄肉鋳片1をそのまま湾曲させて搬送部20へと接続する「湾曲形」とされている。また、湾曲部17には、薄肉鋳片1を搬送装置へと案内する鋳片ガイド部18が配設されている。
【0022】
搬送部20は、薄肉鋳片1を上下方向に挟持して搬送するピンチロール21と、搬送ロール22と、ルーパー23と、薄肉鋳片1を巻き取るコイラー24と、を備えている。
ここで、ピンチロール21は、回転駆動する駆動ロールとされており、搬送ロール22は、薄肉鋳片1の移動に伴って回転する従動ロールとされている。
【0023】
そして、本実施形態である双ドラム式連続鋳造装置10は、
図2及び
図3に示すように、一対の冷却ドラム11,11の幅方向端部にサイド堰12,12が配設されており、これら一対の冷却ドラム11,11とサイド堰12,12とによって溶鋼プール部13が形成されている。
また、一対の冷却ドラム11,11の上方には、溶鋼プール部13に供給される溶鋼5を保持するタンディッシュ14と、このタンディッシュ14から溶鋼プール部13へと溶鋼5を供給する浸漬ノズル15と、が配置されている。
なお、一対の冷却ドラム11,11の上方には、溶鋼プール部13の湯面を覆うようにチャンバー16が設けられている。
【0024】
ここで、溶鋼プール部13の湯面を鉛直上方より俯瞰すると、
図3に示すように、一対の冷却ドラム11,11の周面と一対のサイド堰12,12によって四方を囲まれた矩形状をなしており、この矩形状をなす湯面の中央部に浸漬ノズル15が配設されている。
この溶鋼プール部13の表面近傍における溶鋼5の流動は、
図3に示すように、浸漬ノズル15から冷却ドラム11の周面に向けて流れ、冷却ドラム11の周面に沿って一対のサイド堰12側へとそれぞれ流れていく。そして、冷却ドラム11とサイド堰12の接触点においては、溶鋼5の流動のデッドゾーンとなっており、溶鋼5が十分に流動せずに停滞する領域(停滞域)Dとなる。
【0025】
次に、上述した双ドラム式連続鋳造装置10を用いた薄肉鋳片1の製造方法について説明する。
【0026】
一対の冷却ドラム11,11とサイド堰12,12によって形成された溶鋼プール部13に、タンディッシュ14から浸漬ノズル15を介して溶鋼5を供給するとともに、一対の冷却ドラム11,11を回転方向Rに向けて、すなわち、一対の冷却ドラム11,11同士が近接する領域が薄肉鋳片1の引抜方向(
図2においては下方向)に向かうように、それぞれの冷却ドラム11,11を回転させる。
【0027】
すると、冷却ドラム11の周面には、凝固シェル7が形成される。そして、冷却ドラム11の周面の上で凝固シェル7が成長し、一対の冷却ドラム11,11にそれぞれ形成された凝固シェル7,7同士がドラムキス点Pで圧着されることにより、所定厚みの薄肉鋳片1が鋳造される。
【0028】
ここで、鋳造開始時においては、冷却ドラム11,11の間にダミーシートを配設せずに、溶鋼プール部13に溶鋼5を供給するとともに冷却ドラム11,11の回転を開始する。なお、冷却ドラム11,11の起動タイミングは、溶鋼5の供給開始と同時でもよいし、溶鋼プール部13の湯面が任意の高さとなった時点としてもよい。冷却ドラム11,11の起動タイミングは、溶鋼5を検知するセンサ及びタイマー等を用いて設定することが好ましい。
【0029】
すると、鋳造開始時に鋳造される薄肉鋳片1は、鋳造条件が安定しておらず、端部のバリや表面の凹凸等が形成された非定常部となる。そして、溶鋼プール部13の湯面が一定の高さとなって鋳造条件が安定すると形状が安定した定常部の薄肉鋳片1が得られることになる。
そこで、本実施形態では、冷却ドラム11,11の下方側で、薄肉鋳片1を切断して非定常部を排除する。
【0030】
本実施形態においては、薄肉鋳片1を切断する際には、溶鋼プール部13内に地金を発生させ、この地金を一対の冷却ドラム11,11間に巻き込ませる。すると、地金を巻き込んだ際に、冷却ドラム11,11の間隔が瞬間的に大きくなり、薄肉鋳片1に板厚肥大部3(以下、人工ホットバンド3と称す)が形成されることになる。この人工ホットバンド3は温度が高く強度が局所的に弱い領域となる。
そして、
図4(a)に示すように、薄肉鋳片1の自重により、人工ホットバンド3の部分で薄肉鋳片1が切断される。
【0031】
切断された非定常部を除去した後、
図4(b)に示すように、冷却ドラム11,11の下方側に位置する鋳片ガイド部18によって、冷却ドラム11,11から製出される薄肉鋳片1(定常部)をピンチロール21,21へ案内する。
そして、
図4(c)に示すように、薄肉鋳片1をピンチロール21,21で挟持して搬送することになる。
【0032】
また、鋳造中において、例えば搬送部20でトラブルが生じた場合には、鋳造を一旦中断して、上述のトラブルを解消し、その後、鋳造を再開することになる。
このような場合には、
図5(a)に示すように、まず、鋳造を一旦中断する際に、溶鋼プール部13内に地金を発生させ、この地金を一対の冷却ドラム11,11間に巻き込ませることによって、薄肉鋳片1に人工ホットバンド3を形成し、薄肉鋳片1の自重により、人工ホットバンド3の部分で薄肉鋳片1を切断しておく。
【0033】
次に、
図5(b)に示すように、搬送部20のトラブルが解消した後に、搬送部20側に位置する薄肉鋳片1をコイラー24側へ搬送する。
そして、鋳造を再開する。このとき、鋳造が安定するまでの非定常部を切断して除去するため、溶鋼プール部13内に地金を発生させ、この地金を一対の冷却ドラム11,11間に巻き込ませることによって、薄肉鋳片1に人工ホットバンド3を形成し、薄肉鋳片1の自重により、人工ホットバンド3の部分で薄肉鋳片1を切断する。
【0034】
切断された非定常部を除去した後、
図5(c)に示すように、冷却ドラム11,11の下方側に位置する鋳片ガイド部18によって、冷却ドラム11,11から製出される薄肉鋳片1(定常部)をピンチロール21,21へ案内し、薄肉鋳片1をピンチロール21,21で挟持して搬送することになる。
【0035】
ここで、人工ホットバンド3を形成するために、溶鋼プール部13内に地金を発生させる方法について説明する。
図3に示すように、溶鋼プール部13において溶鋼5が十分に流動せずに停滞する停滞域Dでは、冷却ドラム11、サイド堰12、湯面から熱が奪われるため、溶鋼5の温度が低下して地金が発生しやすい傾向にある。
このため、本実施形態では、停滞域Dとなる、溶鋼プール部13の幅方向端部から30mm以内の領域において地金を発生させることが好ましい。
【0036】
地金を発生させる手段の一つとして、溶鋼プール部13内に地金発生材を投入することが挙げられる。
地金発生材としては、薄肉鋳片1と同じ成分の金属材、高融点金属、アルミナウール等の耐火物、これらの複合材を用いることができる。これらの地金発生材を溶鋼プール部13に投入すると、投入した部分の溶鋼5が地金発生材の周面で凝固して地金が発生することになる。
【0037】
ここで、人工ホットバンド3を確実に形成するとともに鋳造を安定して実施するため、地金発生材のサイズは、厚さが0.5mm以上5mm以下、幅が5mm以上30mm以下、長さが10mm以上50mm以下であることが好ましい。この地金発生材を、少なくとも溶融プール部13の1箇所以上に、0.1秒以内に投入する。
なお、地金発生材は、溶鋼プール部13の幅方向端部から30mm以内の領域に投入することが好ましい。
【0038】
また、地金を発生させる他の手段として、溶鋼プール部13内の溶鋼5を局所的に冷却することが挙げられる。
例えば、液化ガスを滴下したり、冷却ガスを吹き付けたりすることにより、溶鋼プール部13内の溶鋼5を局所的に冷却し、地金を発生させることが可能となる。
【0039】
ここで、人工ホットバンド3を確実に形成するとともに鋳造を安定して実施するため、滴下する液化ガスの量は5cc以上50cc以下が好ましく、また、冷却ガスの量は0.5Nl以上5Nl以下が好ましい。この量を、少なくとも溶融プール部13の1箇所以上に、0.1秒以内に投入する。
なお、溶鋼5の冷却は、溶鋼プール部13の幅方向端部から30mm以内の領域において実施することが好ましい。
【0040】
ここで、地金を巻き込んだ際の冷却ドラム11を保護する観点から、冷却ドラム11の反力の変動値が10.0tonf以下の範囲内となるように、地金の発生状況(地金発生材の投入量及び冷却条件)を調整することが好ましい。
なお、冷却ドラム11の反力の変動値の下限値については、人工ホットバンド3により薄肉鋳片1が確実に切断できる範囲内であればよく、特に下限は設けないが、通常は0.5tonf以上であることが好ましい。
【0041】
以上のような構成とされた本実施形態である薄肉鋳片1の製造方法によれば、溶鋼プール部13内に地金を発生させ、この地金を一対の冷却ドラム11,11間に巻き込ませることによって一対の冷却ドラム11,11の間隔を一時的に離間させて、薄肉鋳片1に幅方向に延在する人工ホットバンド3を形成している。この人工ホットバンド3が形成された領域の強度が局所的に低くるため、薄肉鋳片1の人工ホットバンド3よりも下方に位置する部分の自重によって、薄肉鋳片1を人工ホットバンド3に沿って切断することが可能となり、幅方向に延在する直線的な切断端を形成することができる。
これにより、非定常部を除去した薄肉鋳片1を搬送部20へ送り込むことができ、安定して鋳造を行うことが可能となる。
また、地金を巻き込むことによって一対の冷却ドラム11,11の間隔を広げているので、通常のドラム反力の制御を実施することで人工ホットバンド3の形成及び定常部の鋳造を安定して行うことができ、設備コストが大幅に増大することはない。
【0042】
ここで、本実施形態である薄肉鋳片1の製造方法において、溶鋼プール部13の幅方向端部から30mm以内の領域において地金を発生させた場合には、地金を比較的容易に発生させることができ、人工ホットバンド3を的確に形成することが可能でき、所望の位置で薄肉鋳片1を精度良く切断することが可能となる。
【0043】
また、本実施形態である薄肉鋳片1の製造方法において、溶鋼プール部13内に地金発生材を投入することで地金を生成させる構成とした場合には、地金を確実に発生させることができ、人工ホットバンド3を的確に形成して、薄肉鋳片1を自重によって切断することができる。
【0044】
ここで、地金発生材として、薄肉鋳片1と同じ成分の金属材を用いた場合には、地金を確実に発生させることができるとともに、薄肉鋳片1の組成への影響を無くすことができる。
【0045】
さらに、本実施形態である薄肉鋳片1の製造方法において、溶鋼プール12内の溶鋼5を局所的に冷却することにより地金を発生させる構成とした場合には、地金を確実に発生させることができ、人工ホットバンド3を的確に形成して、薄肉鋳片1を自重によって切断することができる。
ここで、液化ガスによって溶鋼プール部13内の溶鋼5を冷却する構成とした場合には、地金を確実に発生させることが可能となる。
【0046】
以上、本発明の実施形態である薄肉鋳片1の製造方法について具体的に説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【実施例】
【0047】
以下に、本発明の効果を確認すべく、実施した実験結果について説明する。
【0048】
実施形態で説明した薄肉鋳片の製造装置を用いて、Cを0.05mass%、Siを0.6mass%、Mnを1.5mass%、Alを0.03mass%含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる組成の鋼材からなる薄肉鋳片を、以下の条件で鋳造した。
【0049】
(鋳造条件)
冷却ドラムの直径:800mm
冷却ドラムの幅:1000mm
薄肉鋳片の厚み:2.5mm
鋳造速度:50mpm
【0050】
<実施例1>
地金発生材として、幅20mm、厚さ0.7mm、長さ30mmの低炭素鋼フープを、片方の冷却ドラムの両端部から25mmの位置に同時添加し、地金を発生させ、この地金を冷却ドラム間に巻き込ませることによって人工ホットバンドを形成した。
その結果、冷却ドラムの下方において、薄肉鋳片は自重によって切断された。切断面は、薄肉鋳片の幅方向に沿って直線状となった。
【0051】
<実施例2>
冷却ドラムとサイド堰の接点から30mm以内の溶鋼表面(4隅)に、20ccの液体Arを滴下することで、地金を発生させ、この地金を冷却ドラム間に巻き込ませることによって人工ホットバンドを形成した。
その結果、冷却ドラムの下方において、薄肉鋳片は自重によって切断された。切断面は、薄肉鋳片の幅方向に沿って直線状となった。
【0052】
以上のことから、本発明によれば、複雑な機構を用いることなく比較的簡単な構成によって、冷却ドラムの直下において薄肉鋳片を切断し、幅方向に延在する直線的な切断端を形成した定常部の薄肉鋳片を搬送部に送り込むことができ、安定して鋳造を行うことが可能な薄肉鋳片の製造方法を提供できることが確認された。
【符号の説明】
【0053】
1 薄肉鋳片
3 人工ホットバンド
5 溶鋼(溶融金属)
11 冷却ドラム
12 溶鋼プール部(溶融金属プール部)
20 搬送部