(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】無アルカリガラス板
(51)【国際特許分類】
C03C 3/091 20060101AFI20231122BHJP
H05B 33/02 20060101ALI20231122BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20231122BHJP
【FI】
C03C3/091
H05B33/02
H05B33/14 A
(21)【出願番号】P 2019093662
(22)【出願日】2019-05-17
【審査請求日】2022-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2018194038
(32)【優先日】2018-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018230725
(32)【優先日】2018-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019031628
(32)【優先日】2019-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019074958
(32)【優先日】2019-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤井 未侑
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-184146(JP,A)
【文献】特開2013-151407(JP,A)
【文献】国際公開第2014/087971(WO,A1)
【文献】特表2009-525942(JP,A)
【文献】特開2017-007945(JP,A)
【文献】特開2016-188148(JP,A)
【文献】特開2016-199467(JP,A)
【文献】特開2015-083533(JP,A)
【文献】特開2016-029001(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0039710(US,A1)
【文献】国際公開第2013/183626(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 3/091
H05B 33/02
H10K 50/10
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成として、mol%で、SiO
2 64~69%、Al
2O
3 12.2~14%、B
2O
3 2.5~4.5%、Li
2O+Na
2O+K
2O 0~0.5%、MgO 4.5~7%、CaO 4~8%、BaO 1.5~4%、SrO+BaO 1.5~4%を含有し、mol%比で、(Al
2O
3+MgO)/B
2O
3 4.75~10であり、
ヤング率が78GPa以上、歪点が680℃以上、液相温度が1450℃以下であることを特徴とする無アルカリガラス板。
【請求項2】
ガラス組成として、mol%で、SiO
2 64~67%、Al
2O
3 12.2~14%、B
2O
3 2.5~4.5%、Li
2O+Na
2O+K
2O 0~0.5%、MgO 4.5~7%、CaO 4~8%、SrO 1.5~
2.5%、BaO 1.5~
2.5%を含有し、実質的にAs
2O
3、Sb
2O
3を含有しないことを特徴とする請求項1に記載の無アルカリガラス板。
【請求項3】
更に、SnO
2を0.001~1mol%含むことを特徴とする請求項1または2に記載の無アルカリガラス板。
【請求項4】
歪点が690℃以上であることを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の無アルカリガラス板。
【請求項5】
ヤング率が80GPaより高いことを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載の無アルカリガラス板。
【請求項6】
30~380℃の温度範囲における平均熱膨張係数が30×10
-7~50×10
-7/℃であることを特徴とする請求項1~5の何れか一項に記載の無アルカリガラス板。
【請求項7】
液相粘度が10
4.5dPa・s以上であることを特徴とする請求項1~6の何れか一項に記載の無アルカリガラス板。
【請求項8】
有機ELデバイスに用いることを特徴とする請求項1~7の何れか一項に記載の無アルカリガラス板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無アルカリガラス板に関し、特に有機ELディスプレイに好適な無アルカリガラス板に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELディスプレイ等の電子デバイスは、薄型で動画表示に優れると共に、消費電力も低いため、フレキシブルデバイスや携帯電話のディスプレイ等の用途に使用されている。
【0003】
有機ELディスプレイの基板として、ガラス板が広く使用されている。この用途のガラス板には、主に以下の特性が要求される。
(1)熱処理工程で成膜された半導体物質中にアルカリイオンが拡散する事態を防止するため、ほとんどアルカリ金属酸化物を含まないこと、つまり無アルカリガラスであること(ガラス組成中のアルカリ酸化物の含有量が0.5mol%以下であること)、
(2)ガラス板を低廉化するため、生産性に優れること、特に溶融性や耐失透性に優れること、
(3)LTPS(low temperature poly silicon)プロセスにおいて、ガラス板の熱収縮を低減するため、歪点が高いこと。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、有機ELデバイスは、有機ELテレビにも広く展開されている。有機ELテレビのパネルサイズは、モバイル製品に比べると、大幅に大きい。今後、ガラス板に対する大型化、薄型化の要求が強くなるものと予想される。ガラス板が大型化、薄型化する程、ガラス板が撓み易くなり、種々の不具合が発生し易くなる。
【0006】
ガラスメーカーで成形されたガラス板は、切断、徐冷、検査、洗浄等の工程を経由するが、これらの工程中、ガラス板は、複数段の棚が形成されたカセットに投入、搬出される。このカセットは、通常、左右の内側面に形成された棚に、ガラス板の相対する両辺を載置して水平方向に保持できるようになっているが、大型で薄いガラス板は撓み量が大きいため、ガラス板をカセットに投入する際に、ガラス板の一部がカセットに接触して破損したり、搬出する際に、大きく揺動して不安定となり易い。このような形態のカセットは、電子デバイスメーカーでも使用されるため、同様の不具合が発生することになる。
【0007】
更に、有機ELデバイスが大型化、薄型化する程、ガラス板が撓み易くなるため、有機ELテレビの画像面が歪んで見える虞がある。
【0008】
この問題を解決するために、ガラス板のヤング率を高めて、撓み量を低減する方法が有効である。
【0009】
また、上記のように、LTPSプロセスにおいて、ガラス板の熱収縮を低減するため、ガラス板の歪点を高める必要がある。
【0010】
しかし、ガラス板のヤング率と歪点を高めようとすると、ガラス組成のバランスが崩れて、溶融性や耐失透性が低下し、ガラス板の生産性が低下し易くなる。結果として、ガラス板の原板コストが高騰してしまう。
【0011】
そこで、本発明は、上記事情に鑑み創案されたものであり、その技術的課題は、生産性に優れると共に、歪点とヤング率が十分に高い無アルカリガラス板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、種々の実験を繰り返した結果、無アルカリガラス板のガラス特性を厳密に規制することにより、上記技術的課題を解決できることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明の無アルカリガラス板は、ガラス組成中のLi2O+Na2O+K2Oの含有量が0~0.5mol%であり、ヤング率が78GPa以上、歪点が680℃以上、液相温度が1450℃以下であることを特徴とする。ここで、「Li2O+Na2O+K2O」は、Li2O、Na2O及びK2Oの合量を指す。「ヤング率」は、曲げ共振法により測定した値を指す。なお、1GPaは、約101.9Kgf/mm2に相当する。「歪点」は、ASTM C336の方法に基づいて測定した値を指す。「液相温度」は、標準篩30メッシュ(500μm)を通過し、50メッシュ(300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れて、温度勾配炉中に24時間保持した後、結晶が析出する温度を指す。
【0013】
また、本発明の無アルカリガラス板は、ガラス組成として、mol%で、SiO2 58~68%、Al2O3 11~18%、B2O3 1.5~6%、Li2O+Na2O+K2O 0~0.5%、MgO 4~10%、CaO 2~10%、SrO+BaO 2~13%を含有することが好ましい。ここで、「SrO+BaO」とは、SrO+BaOの合量を指す。
【0014】
また、本発明の無アルカリガラス板は、ガラス組成として、mol%で、SiO2 58~67%、Al2O3 11~18%、B2O3 1.5~6%、Li2O+Na2O+K2O 0~0.5%、MgO 4~10%、CaO 2~10%、SrO 1.5~8%、BaO 1.5~8%を含有し、実質的にAs2O3、Sb2O3を含有しないことが好ましい。ここで、「実質的にAs2O3、Sb2O3を含有しない」とは、ガラス組成中のAs2O3、Sb2O3の含有量がそれぞれ0.05%未満の場合を指す。
【0015】
また、本発明の無アルカリガラス板は、更にSnO2を0.001~1mol%含むことが好ましい。
【0016】
また、本発明の無アルカリガラス板は、歪点が690℃以上であることが好ましい。
【0017】
また、本発明の無アルカリガラス板は、ヤング率が80GPaより高いことが好ましい。
【0018】
また、本発明の無アルカリガラス板は、30~380℃の温度範囲における平均熱膨張係数が30×10-7~50×10-7/℃であることが好ましい。ここで、「30~380℃の温度範囲における平均熱膨張係数」は、ディラトメーターで測定可能である。
【0019】
また、本発明の無アルカリガラス板は、液相粘度が104.5dPa・s以上であることが好ましい。ここで、「液相粘度」は、液相温度におけるガラスの粘度を指し、白金球引き上げ法で測定可能である。
【0020】
また、本発明の無アルカリガラス板は、有機ELデバイスに用いることが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の無アルカリガラス板は、ガラス組成として、mol%で、SiO2 58~72%、Al2O3 11~18%、B2O3 1.5~6%、Li2O+Na2O+K2O 0~0.5%、MgO 0~10%、CaO 0~10%、SrO 0~8%、BaO 0~8%を含有することが好ましく、更にSiO2 58~68%、Al2O3 11~18%、B2O3 1.5~6%、Li2O+Na2O+K2O 0~0.5%、MgO 4~10%、CaO 2~10%、SrO+BaO 2~13%を含有することが好ましく、特にSiO2 58~67%、Al2O3 11~18%、B2O3 1.5~6%、Li2O+Na2O+K2O 0~0.5%、MgO 4~10%、CaO 2~10%、SrO 1.5~8%、BaO 1.5~8%を含有し、実質的にAs2O3、Sb2O3を含有しないことが更に好ましい。上記のように各成分の含有量を限定した理由を以下に示す。なお、各成分の含有量の説明において、%表示は、特に断りがある場合を除き、mol%を表す。
【0022】
SiO2は、ガラスの骨格を形成する成分であるSiO2の含有量が少な過ぎると、熱膨張係数が高くなり、密度が増加する。よって、SiO2の下限量は、好ましくは58%、更に好ましくは59%、更に好ましくは60%、更に好ましくは61%、更に好ましくは62%、更に好ましくは63%、最も好ましくは64%である。一方、SiO2の含有量が多過ぎると、ヤング率が低下し、更に高温粘度が高くなり、溶融時に必要な熱量が多くなり、溶融コストが高騰すると共に、SiO2原料の溶け残りによる不良が発生して、歩留まり低下の原因になる虞がある。また、クリストバライト等の失透結晶が析出し易くなって、液相粘度が低下し易くなる。よって、SiO2の上限量は、好ましくは72%、更に好ましくは71%、更に好ましくは70%、更に好ましくは69.5%、更に好ましくは69%、更に好ましくは68%、最も好ましくは67%である。
【0023】
Al2O3は、ガラスの骨格を形成する成分であり、またヤング率を高める成分であり、更に歪点を上昇させる成分である。Al2O3の含有量が少な過ぎると、ヤング率が低下し易くなり、また歪点が低下し易くなる。よって、Al2O3の下限量は、好ましくは11%、より好ましくは11.2%、より好ましくは11.4%、更に好ましくは11.6%、更に好ましくは11.8%、最も好ましくは12%である。一方、Al2O3の含有量が多過ぎると、ムライト等の失透結晶が析出し易くなって、液相粘度が低下し易くなる。よって、Al2O3の上限量は、好ましくは18%、より好ましくは17%、より好ましくは16%、更に好ましくは15.5%、更に好ましくは15%、最も好ましくは14%である。
【0024】
mol%比で、SiO2/Al2O3は、好ましくは4.2~5.8、より好ましくは4.5~5.5、特に好ましくは4.8~5.3である。SiO2/Al2O3が小さ過ぎると、歪点及び/又は耐失透性が低下し易くなる。一方、SiO2/Al2O3が大き過ぎると、ヤング率及び/又は溶融性が低下し易くなる。なお、「SiO2/Al2O3」は、SiO2の含有量をAl2O3の含有量で除した値を指す。
【0025】
B2O3は、溶融性や耐失透性を高める成分である。B2O3の含有量が少な過ぎると、溶融性や耐失透性が低下し易くなる。よって、B2O3の下限量は、好ましくは1.5%、より好ましくは1.8%、より好ましくは2.0%、更に好ましくは2.2%、更に好ましくは2.4%、最も好ましくは2.5%である。一方、B2O3の含有量が多過ぎると、ヤング率や歪点が低下し易くなる。よって、B2O3の上限量は、好ましくは6%、より好ましくは5.7%、より好ましくは5.3%、更に好ましくは5.0%、更に好ましくは4.8%、最も好ましくは4.5%である。
【0026】
mol%比で、Al2O3/B2O3は、好ましくは3~7.5、より好ましくは3.5~6、特に好ましくは4~5である。Al2O3/B2O3が小さ過ぎると、ヤング率が低下し易くなる。一方、Al2O3/B2O3が大き過ぎると、耐失透性が低下し易くなる。なお、「Al2O3/B2O3」は、Al2O3の含有量をB2O3の含有量で除した値を指す。
【0027】
Li2O、Na2O及びK2Oの合量は0~0.5%であり、好ましくは0~0.2%、より好ましくは0~0.15%である。Li2O、Na2O及びK2Oの合量が多過ぎると、熱処理工程で成膜された半導体物質中にアルカリイオンが拡散する事態を招く虞がある。
【0028】
MgOは、アルカリ土類金属酸化物の中では、ヤング率を顕著に高める成分である。MgOの含有量が少な過ぎると、溶融性やヤング率が低下し易くなる。よって、MgOの下限量は、好ましくは0%、より好ましくは2%、より好ましくは2.5%、更に好ましくは3%、更に好ましくは3.5%、更に好ましくは4%、更に好ましくは4.2%、最も好ましくは4.5%である。一方、MgOの含有量が多過ぎると、ムライト等の失透結晶が析出し易くなって、液相粘度が低下し易くなる。よって、MgOの上限量は、好ましくは10%、より好ましくは9.5%、より好ましくは9%、更に好ましくは8.5%、更に好ましくは8%、更に好ましくは7.5%、更に好ましくは7%、更に好ましくは6.8%、最も好ましくは6.5%である。
【0029】
mol%比で、(Al2O3+MgO)/B2O3は、好ましくは3.5~10、より好ましくは4~8、特に好ましくは4.5~6である。(Al2O3+MgO)/B2O3が小さ過ぎると、ヤング率が低下し易くなる。一方、(Al2O3+MgO)/B2O3が大き過ぎると、耐失透性が低下し易くなる。なお、「(Al2O3+MgO)/B2O3」は、Al2O3とMgOの合量をB2O3の含有量で除した値を指す。
【0030】
CaOは、歪点を低下させずに、高温粘性を下げて、溶融性を顕著に高める成分である。またヤング率を高める成分である。CaOの含有量が少な過ぎると、溶融性が低下し易くなる。よって、CaOの下限量は、好ましくは0%、より好ましくは2%、より好ましくは2.5%、更に好ましくは2.8%、更に好ましくは3%、更に好ましくは3.5%、更に好ましくは3.8%、最も好ましくは4%である。一方、CaOの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が不当に高くなる虞がある。よって、CaOの上限量は、好ましくは10%、より好ましくは9.8%、より好ましくは9.5%、更に好ましくは9%、更に好ましくは8.8%、更に好ましくは8.5%、更に好ましくは8%、更に好ましくは7.8%、最も好ましくは7.5%である。
【0031】
SrOは、耐失透性を高める成分であり、更に歪点を低下させずに、高温粘性を下げて、溶融性を高める成分である。また液相粘度の低下を抑制する成分である。SrOの含有量が少な過ぎると、上記効果を享受し難くなる。よって、SrOの下限量は、好ましくは0%、より好ましくは0.1%、より好ましくは0.2%、更に好ましくは0.3%、更に好ましくは0.4%、更に好ましくは0.5%、更に好ましくは0.7%、更に好ましくは0.8%、最も好ましくは1%超である。一方、SrOの含有量が多過ぎると、熱膨張係数と密度が増加し易くなる。よって、SrOの上限量は、好ましくは8%、より好ましくは7.5%、より好ましくは7%、更に好ましくは6.5%、最も好ましくは6%である。
【0032】
BaOは、耐失透性を高める成分である。BaOの含有量が少な過ぎると、上記効果を享受し難くなる。よって、BaOの下限量は、好ましくは0%、より好ましくは0.2%、より好ましくは0.5%、更に好ましくは1%、更に好ましくは1.3%、最も好ましくは1.5%である。一方、BaOの含有量が多過ぎると、ヤング率が低下し易くなり、また熱膨張係数と密度が増加し易くなる。よって、BaOの上限量は、好ましくは10%、より好ましくは8%、より好ましくは7%、更に好ましくは6%、更に好ましくは5%、更に好ましくは4%、最も好ましくは3.6%である。
【0033】
MgO、CaO、SrO及びBaOの合量が少な過ぎると、溶融性が低下し易くなる。よって、MgO、CaO、SrO及びBaO(RO)の合量の下限は、好ましくは13%、より好ましくは14%、より好ましくは15%、更に好ましくは15.2%、最も好ましくは15.5%である。一方、MgO、CaO、SrO及びBaOの合量が多過ぎると、熱膨張係数と密度が増加し易くなる。よって、MgO、CaO、SrO及びBaO(RO)の合量の上限は、好ましくは24%、より好ましくは22%、より好ましくは21%、更に好ましくは20%、最も好ましくは19%である。
【0034】
SrOとBaOの合量が少な過ぎると、耐失透性と溶融性が低下し易くなる。よって、SrOとBaOの合量の下限は、好ましくは0%、より好ましくは1%、より好ましくは1.5%、更に好ましくは2%、最も好ましくは2.5%である。一方、SrOとBaOの合量が多過ぎると、ヤング率が低下し易くなり、また熱膨張係数と密度が増加し易くなる。よって、SrOとBaOの合量の上限は、好ましくは13%、より好ましくは10%、より好ましくは8%、更に好ましくは7%、更に好ましくは6%、最も好ましくは5%である。
【0035】
mol%比で、(MgO+CaO)/(SrO+BaO)は、好ましくは2.1~10、より好ましくは3~7、特に好ましくは4~5である。(MgO+CaO)/(SrO+BaO)が小さ過ぎると、ヤング率が低下し易くなる。一方、(MgO+CaO)/(SrO+BaO)が大き過ぎると、耐失透性が低下し易くなる。なお、「(MgO+CaO)/(SrO+BaO)」は、MgOとCaOの合量をSrOとBaOの合量で除した値を指す。
【0036】
上記成分以外にも、例えば、任意成分として、以下の成分を添加してもよい。なお、上記成分以外の他の成分の含有量は、本発明の効果を的確に享受する観点から、合量で10%以下、特に5%以下が好ましい。
【0037】
ZnOは、溶融性を高める成分である。しかし、ZnOを多量に含有させると、ガラスが失透し易くなり、また歪点が低下し易くなる。ZnOの含有量は0~5%、0~3%、0~2%、特に0~1%未満が好ましい。
【0038】
P2O5は、歪点を高める成分であると共に、アノーサイト等のアルカリ土類アルミノシリケート系の失透結晶の析出を顕著に抑制し得る成分である。但し、P2O5を多量に含有させると、ガラスが分相し易くなる。P2O5の含有量は、好ましくは0~2.5%、より好ましくは0.0005~1.5%、更に好ましくは0.001~0.5%、特に好ましくは0.005~0.3%である。
【0039】
mol%比で、Al2O3/(10000×P2O5)は、好ましくは0.12~10、より好ましくは0.2~5、特に好ましくは0.3~2である。Al2O3/(10000×P2O5)が小さ過ぎると、ヤング率が低下し易くなる。一方、Al2O3/(10000×P2O5)が大き過ぎると、アノーサイト等のアルカリ土類アルミノシリケート系の失透結晶が析出し易くなる。なお、「Al2O3/(10000×P2O5)」は、Al2O3の含有量をP2O5の含有量の10000倍で除した値を指す。
【0040】
TiO2は、高温粘性を下げて、溶融性を高める成分であると共に、ソラリゼーションを抑制する成分であるが、TiO2を多量に含有させると、ガラスが着色して、透過率が低下し易くなる。TiO2の含有量は、好ましくは0~2.5%、より好ましくは0.0005~1%、更に好ましくは0.001~0.5%、特に好ましくは0.005~0.1%である。
【0041】
mol%比で、Al2O3/(1000×TiO2)は、好ましくは0.1~10、より好ましくは0.6~4、特に好ましくは1.1~1.6である。Al2O3/(1000×TiO2)が小さ過ぎると、ヤング率が低下し易くなる。一方、Al2O3/(1000×TiO2)が大き過ぎると、溶融性や耐ソラリゼーション性が低下し易くなる。なお、「Al2O3/(1000×TiO2)」は、Al2O3の含有量をTiO2の含有量の1000倍で除した値を指す。
【0042】
Y2O3、Nb2O5、La2O3には、歪点、ヤング率等を高める働きがある。これらの成分の合量及び個別含有量は、好ましくは0~5%、より好ましくは0~1%、更に好ましくは0~0.5%である。Y2O3、Nb2O5、La2O3の合量及び個別含有量が多過ぎると、密度や原料コストが増加し易くなる。
【0043】
SnO2は、高温域で良好な清澄作用を有する成分であると共に、歪点を高める成分であり、また高温粘性を低下させる成分である。SnO2の含有量は0~1%、0.001~1%、0.01~0.5%、特に0.05~0.3%が好ましい。SnO2の含有量が多過ぎると、SnO2の失透結晶が析出し易くなる。なお、SnO2の含有量が0.001%より少ないと、上記効果を享受し難くなる。
【0044】
上記の通り、SnO2は、清澄剤として好適であるが、ガラス特性が損なわれない限り、清澄剤として、F、SO3、C、或いはAl、Si等の金属粉末を各々5%まで(好ましくは1%まで、特に0.5%まで)添加することができる。また、清澄剤として、CeO2等も5%まで(好ましくは1%まで、特に0.5%まで)添加することができる。
【0045】
清澄剤として、As2O3、Sb2O3も有効である。しかし、本発明の無アルカリガラス板は、環境的観点から、これらの成分を実質的に含有しない。更にAs2O3を含有させると、耐ソラリゼーション性が低下する傾向にある。
【0046】
Clは、ガラスバッチの初期溶融を促進させる成分である。また、Clを添加すれば、清澄剤の作用を促進することができる。これらの結果として、溶融コストを低廉化しつつ、ガラス製造窯の長寿命化を図ることができる。しかし、Clの含有量が多過ぎると、歪点が低下し易くなる。よって、Clの含有量は、好ましくは0~3%、より好ましくは0.0005~1%、特に好ましくは0.001~0.5%である。なお、Clの導入原料として、塩化ストロンチウム等のアルカリ土類金属酸化物の塩化物、或いは塩化アルミニウム等の原料を使用することができる。
【0047】
Fe2O3は、原料不純物として混入する成分であり、電気抵抗率を低下させる成分である。Fe2O3の含有量は、好ましくは0~300質量ppm、80~250質量ppm、特に100~200質量ppmである。Fe2O3の含有量が少な過ぎると、原料コストが高騰し易くなる。一方、Fe2O3の含有量が多過ぎると、溶融ガラスの電気抵抗率が上昇して、電気溶融を行い難くなる。
【0048】
本発明の無アルカリガラス板は、以下の特性を有することが好ましい。
【0049】
30~380℃の温度範囲における平均熱膨張係数は、好ましくは30×10-7~50×10-7/℃、32×10-7~48×10-7/℃、33×10-7~45×10-7/℃、34×10-7~44×10-7/℃、特に35×10-7~44×10-7/℃である。このようにすれば、TFTに使用されるSiの熱膨張係数に整合し易くなる。
【0050】
ヤング率は78GPa以上であり、好ましくは78GPa超、80GPa以上、特に81GPa以上である。ヤング率が低過ぎると、ガラス板の撓みに起因した不具合が発生し易くなる。
【0051】
歪点は680℃以上であり、好ましくは680℃超、690℃以上、特に700℃以上である。このようにすれば、LTPSプロセスにおいて、ガラス板の熱収縮を抑制することができる。
【0052】
液相温度は1450℃以下であり、好ましくは1210℃未満、1200℃以下、特に1190℃以下である。このようにすれば、ガラス製造時に失透結晶が発生して、生産性が低下する事態を防止し易くなる。更にオーバーフローダウンドロー法で成形し易くなるため、ガラス板の表面品位を高め易くなると共に、ガラス板の製造コストを低廉化することができる。なお、液相温度は、耐失透性の指標であり、液相温度が低い程、耐失透性に優れる。
【0053】
液相粘度は、好ましくは104.8dPa・s以上、105.0dPa・s以上、105.2dPa・s以上、特に105.3dPa・s以上である。このようにすれば、成形時に失透が生じ難くなるため、オーバーフローダウンドロー法で成形し易くなり、結果として、ガラス板の表面品位を高めることが可能になり、またガラス板の製造コストを低廉化することができる。なお、液相粘度は、耐失透性と成形性の指標であり、液相粘度が高い程、耐失透性と成形性が向上する。
【0054】
高温粘度102.5dPa・sにおける温度は、好ましくは1650℃以下、1600℃以下、1580℃以下、特に1560℃以下である。高温粘度102.5dPa・sにおける温度が高過ぎると、ガラスバッチを溶解し難くなって、ガラス板の製造コストが高騰する。なお、高温粘度102.5dPa・sにおける温度は、溶融温度に相当し、この温度が低い程、溶融性が向上する。
【0055】
β-OHは、ガラス中の水分量を示す指標であり、β-OHを低下させると、歪点を高めることができる。また、ガラス組成が同じ場合でも、β―OHが小さい方が、歪点以下温度での熱収縮率が小さくなる。β-OHは、好ましくは0.30/mm以下、0.25/mm以下、0.20/mm以下、0.15/mm以下、特に0.10/mm以下である。なお、β-OHが小さ過ぎると、溶融性が低下し易くなる。よって、β-OHは、好ましくは0.01/mm以上、特に0.03/mm以上である。
【0056】
β-OHを低下させる方法として、以下の方法が挙げられる。(1)含水量の低い原料を選択する。(2)ガラス中にβ-OHを低下させる成分(Cl、SO3等)を添加する。(3)炉内雰囲気中の水分量を低下させる。(4)溶融ガラス中でN2バブリングを行う。(5)小型溶融炉を採用する。(6)溶融ガラスの流量を多くする。(7)電気溶融法を採用する。
【0057】
ここで、「β-OH」は、FT-IRを用いてガラスの透過率を測定し、下記の数式1を用いて求めた値を指す。
【0058】
[数1]
β-OH=(1/X)log(T1/T2)
X:板厚(mm)
T1:参照波長3846cm-1における透過率(%)
T2:水酸基吸収波長3600cm-1付近における最小透過率(%)
【0059】
本発明の無アルカリガラス板は、オーバーフローダウンドロー法で成形されてなることが好ましい。オーバーフローダウンドロー法は、耐熱性の樋状構造物の両側から溶融ガラスを溢れさせて、溢れた溶融ガラスを樋状構造物の下端で合流させながら、下方に延伸成形してガラス板を製造する方法である。オーバーフローダウンドロー法では、ガラス板の表面となるべき面は樋状耐火物に接触せず、自由表面の状態で成形される。このため、未研磨で表面品位が良好なガラス板を安価に製造することができ、薄型化も容易である。
【0060】
オーバーフローダウンドロー法以外にも、例えば、ダウンドロー法(スロットダウン法等)、フロート法等でガラス板を成形することも可能である。
【0061】
本発明の無アルカリガラス板において、板厚は、特に限定されるものではないが、0.7mm未満、0.6mm以下、0.5mm以下、特に0.4mm以下が好ましい。板厚が薄くなる程、有機ELデバイスの軽量化が可能となる。板厚は、ガラス製造時の流量や板引き速度等で調整可能である。
【0062】
本発明の無アルカリガラス板は、有機ELデバイス、特に有機ELテレビに用いることが好ましい。有機ELテレビの用途では、ガラス板上に複数個分のデバイスを作製した後、デバイス毎に分割切断して、コストダウンが図られている(所謂、多面取り)。本発明の無アルカリガラス板は、液相温度が低く、また液相粘度が高いため、大型のガラス板を成形し易く、このような要求を的確に満たすことができる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、以下の実施例は単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0064】
表1~14は、本発明の実施例(試料No.1~137)と比較例(試料No.138~141)を示している。
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
まず表中のガラス組成になるように、ガラス原料を調合したガラスバッチを白金坩堝に入れ、1600~1650℃で24時間溶融した。ガラスバッチの溶解に際しては、白金スターラーを用いて攪拌し、均質化を行った。次いで、溶融ガラスをカーボン板上に流し出し、板状に成形した後、徐冷点付近の温度で30分間徐冷した。得られた各試料について、30~380℃の温度範囲における平均熱膨張係数CTE、密度、ヤング率、歪点Ps、徐冷点Ta、軟化点Ts、高温粘度104dPa・sにおける温度、高温粘度103dPa・sにおける温度、高温粘度102.5dPa・sにおける温度、液相温度TL、及び液相温度TLにおける粘度log10ηTLを評価した。
【0080】
30~380℃の温度範囲における平均熱膨張係数CTEは、ディラトメーターで測定した値である。
【0081】
密度は、周知のアルキメデス法によって測定した値である。
【0082】
ヤング率は、周知の共振法で測定した値を指す。
【0083】
歪点Ps、徐冷点Ta、軟化点Tsは、ASTM C336及びC338の方法に基づいて測定した値である。
【0084】
高温粘度104dPa・s、103dPa・s、102.5dPa・sにおける温度は、白金球引き上げ法で測定した値である。
【0085】
液相温度TLは、標準篩30メッシュ(500μm)を通過し、50メッシュ(300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れて、温度勾配炉中に24時間保持した後、結晶が析出する温度である。
【0086】
液相粘度log10ηTLは、液相温度TLにおけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値である。
【0087】
表1~14から明らかなように、試料No.1~137は、ガラス組成が所定範囲に規制されているため、ヤング率が80.1GPa以上、歪点が681℃以上、液相温度が1285℃以下、液相粘度が104.29dPa・s以上であるため、生産性が良好であり、LTPSプロセスにおける熱収縮を低減可能であり、大型化、薄型化しても、撓みによる不具合が生じ難いと考えられる。よって、試料No.1~137は、有機ELデバイスの基板に好適である。
【0088】
一方、試料No.138は、高温粘度102.5dPa・sにおける温度が1653℃と高く、ヤング率が77.5GPaと低かった。試料No.139は、歪点が654℃と低かった。試料No.140は、30~380℃の温度範囲における平均熱膨張係数が50.7×10-7/℃と高く、歪点が679℃と低かった。試料No.141は、液相温度が1450℃より高く、液相粘度が測定不能だった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の無アルカリガラス板は、有機ELデバイス、特に有機ELテレビの基板として好適であり、それ以外にも、液晶ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ基板、電荷結合素子(CCD)、等倍近接型固体撮像素子(CIS)等のイメージセンサー用のカバーガラス、太陽電池用の基板及びカバーガラス、有機EL照明用基板等にも好適である。