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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】カードエッジコネクタ
(51)【国際特許分類】
   H01R 12/72 20110101AFI20231122BHJP
   H01R 13/629 20060101ALI20231122BHJP
   H01R 12/87 20110101ALI20231122BHJP
【FI】
H01R12/72
H01R13/629
H01R12/87
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020039470
(22)【出願日】2020-03-09
(65)【公開番号】P2021141006
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮村 哲矢
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 大亮
(72)【発明者】
【氏名】小林 豊
(72)【発明者】
【氏名】守安 聖典
【審査官】高橋 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-280113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 12/72
H01R 13/629
H01R 12/87
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のフード部と、
前記フード部内に配置される回路基板と、
前記フード部内に嵌合され、前記回路基板の収容空間を有するハウジングと、
前記ハウジング内に収容される端子金具と、
前記ハウジング内に初期位置と接続位置とに移動可能に配置される保護部材と、を備え、
前記端子金具は、前記収容空間に臨み、前記回路基板に電気的に接続される接点部を有し、
前記保護部材は、
前記初期位置において前記収容空間の開口側に位置して前記回路基板と前記接点部との接続を規制し、前記接続位置において前記収容空間の開口側から退いて前記回路基板と前記接点部との接続を許容する本体部と、
前記本体部の端部に連なり、前記ハウジングの外面側に突出する被引掛部と、を有し、
前記フード部は、前記ハウジングの外面と対向する内面に、前記被引掛部を引っ掛けて前記保護部材を前記接続位置から前記初期位置に移動させる引掛部を有し
前記回路基板は、端面に、前記初期位置にある前記保護部材に当たり、前記保護部材を前記接続位置に移動させる押圧面を有し、
前記保護部材は、撓み変形可能な複数の弾性保持部を有し、
前記ハウジングは、前記複数の弾性保持部をそれぞれ係止し、前記保護部材の前記初期位置から前記接続位置への移動を規制する、複数の保持部を有し、
前記引掛部が前記接続位置において前記被引掛部を引っ掛けた状態において、前記回路基板の前記押圧面と前記保護部材との間に隙間を有し、
前記フード部と前記ハウジングとの離脱動作が完了する直前において、前記被引掛部が撓み変形可能な状態になるとともに、前記弾性保持部が前記保持部に突き当たって撓み変形させられ、かつ前記保護部材が前記隙間の範囲で傾きを許容された状態になるカードエッジコネクタ。
【請求項2】
筒状のフード部と、
前記フード部内に配置される回路基板と、
前記フード部内に嵌合され、前記回路基板の収容空間を有するハウジングと、
前記ハウジング内に収容される端子金具と、
前記ハウジング内に初期位置と接続位置とに移動可能に配置される保護部材と、を備え、
前記端子金具は、前記収容空間に臨み、前記回路基板に電気的に接続される接点部を有し、
前記保護部材は、
前記初期位置において前記収容空間の開口側に位置して前記回路基板と前記接点部との接続を規制し、前記接続位置において前記収容空間の開口側から退いて前記回路基板と前記接点部との接続を許容する本体部と、
前記本体部の端部に連なり、前記ハウジングの外面側に突出する被引掛部と、を有し、
前記フード部は、前記ハウジングの外面と対向する内面に、前記被引掛部を引っ掛けて前記保護部材を前記接続位置から前記初期位置に移動させる引掛部を有し、さらに、
前記保護部材は、撓み変形可能な複数の弾性保持部を有し、
前記ハウジングは、前記複数の弾性保持部をそれぞれ係止し、前記保護部材の前記初期位置から前記接続位置への移動を規制する、複数の保持部を有し、
前記被引掛部は、前後方向に延び、前記本体部に連なる部位を支点として撓み変形可能に形成され、
前記複数の弾性保持部は、前記被引掛部を介して二股状に対をなして延びるように形成されているカードエッジコネクタ。
【請求項3】
前記回路基板は、端面に、前記初期位置にある前記保護部材に当たり、前記保護部材を前記接続位置に移動させる押圧面を有し
記引掛部が前記接続位置において前記被引掛部を引っ掛けた状態において、前記回路基板の前記押圧面と前記保護部材との間に隙間を有している請求項2に記載のカードエッジコネクタ。
【請求項4】
前記被引掛部は、撓み空間に撓み変形可能とされ、
前記ハウジングは、外面に、前記保護部材が前記初期位置にある状態で前記被引掛部の前記撓み空間から離れて位置し、前記保護部材が前記接続位置にある状態で前記被引掛部の前記撓み空間に位置する規制面を有している請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のカードエッジコネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カードエッジコネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されたカードエッジコネクタは、回路基板と、回路基板が挿入される基板収容空間を有するハウジングと、ハウジング内に収容される端子金具と、ハウジングに初期位置と接続位置とに移動可能に配置される可動部材(以下、保護部材と称する)と、を備えている。端子金具は、回路基板に弾性的に接触する弾性接触片を有している。保護部材は、初期位置である基板収容空間の開口側において回路基板の端面を覆う。保護部材は、回路基板に押されて接続位置である基板収容空間の奥側に移動する。保護部材は係止突部を有し、回路基板は係止凹部を有している。係止突部および係止凹部は、回路基板の抜き取り時に、互いに係止される。
【0003】
保護部材が初期位置にあるときに、回路基板の端面が基線収容空間の開口側で保護部材で覆われることにより、端子金具の弾性接触片が回路基板と干渉するのを回避することができる。回路基板を基板収容空間から抜き取る際には、係止突起および係止凹部が互いに係止された状態になっていることで、保護部材が回路基板と一体になって初期位置に戻ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-54590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、回路基板は加工性に劣るため、回路基板に設けられる係止凹部の設計自由度が低いという問題がある。また、フード部内における回路基板の設置位置が適正でないと、係止突起および係止凹部の係止状態を実現することができないおそれもある。
【0006】
そこで、本開示は、保護部材を初期位置に戻す構造の設計自由度および寸法精度を高めたカードエッジコネクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のカードエッジコネクタは、筒状のフード部と、前記フード部内に配置される回路基板と、前記フード部内に嵌合され、前記回路基板の収容空間を有するハウジングと、前記ハウジング内に収容される端子金具と、前記ハウジング内に初期位置と接続位置とに移動可能に配置される保護部材と、を備え、前記端子金具は、前記収容空間に臨み、前記回路基板に電気的に接続される接点部を有し、前記保護部材は、前記初期位置において前記収容空間の開口側に位置して前記回路基板と前記接点部との接続を規制し、前記接続位置において前記収容空間の開口側から退いて前記回路基板と前記接点部との接続を許容する本体部と、前記本体部の端部に連なり、前記ハウジングの外面側に突出する被引掛部と、を有し、前記フード部は、前記ハウジングの外面と対向する内面に、前記被引掛部を引っ掛けて前記保護部材を前記接続位置から前記初期位置に移動させる引掛部を有している。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、保護部材を初期位置に戻す構造の設計自由度および寸法精度を高めたカードエッジコネクタを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態に係るカードエッジコネクタの分解斜視図である。
図2図2は、カードエッジコネクタの側断面図である。
図3図3は、雌側コネクタの斜視図である。
図4図4は、雌側コネクタにおいて、インナハウジングがアウタハウジングに対して仮係止位置に保持された状態を示す斜視図である。
図5図5は、雌側コネクタにおいて、保護部材がハウジングに対して初期位置に保持された状態を示す側断面図である。
図6図6は、雌側コネクタにおいて、各端子金具が各キャビティに収容された状態を示す横断面図である。
図7図7は、保護部材が弾性保持部と保持部との係止によってハウジングに対して初期位置に保持された状態を示す側断面図である。
図8図8は、両コネクタの嵌合開始時の状態を示す平断面図である。
図9図9は、両コネクタの嵌合過程において、引掛部が被引掛部を撓み変形させた状態を示す拡大平断面図である。
図10図10は、図9の状態から被引掛部が弾性復帰し、引掛部が被引掛部から離れた状態を示す拡大平断面図である。
図11図11は、両コネクタが正規に嵌合され、被引掛部の撓み動作が壁部の規制面によって規制された状態を示す拡大平断面図である。
図12図12は、両コネクタの離脱過程において、引掛部が被引掛部を引っ掛けた状態を示す拡大平断面図である。
図13図13は、端子金具の側面図である。
図14図14は、アウタハウジングの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
本開示のカードエッジコネクタは、
(1)筒状のフード部と、前記フード部内に配置される回路基板と、前記フード部内に嵌合され、前記回路基板の収容空間を有するハウジングと、前記ハウジング内に収容される端子金具と、前記ハウジング内に初期位置と接続位置とに移動可能に配置される保護部材と、を備え、前記端子金具は、前記収容空間に臨み、前記回路基板に電気的に接続される接点部を有し、前記保護部材は、前記初期位置において前記収容空間の開口側に位置して前記回路基板と前記接点部との接続を規制し、前記接続位置において前記収容空間の開口側から退いて前記回路基板と前記接点部との接続を許容する本体部と、前記本体部の端部に連なり、前記ハウジングの外面側に突出する被引掛部と、を有し、前記フード部は、前記ハウジングの外面と対向する内面に、前記被引掛部を引っ掛けて前記保護部材を前記接続位置から前記初期位置に移動させる引掛部を有している。
【0011】
上記構成によれば、保護部材が初期位置にあるときに、本体部が収容空間の開口側に位置するため、収容空間に挿入された回路基板が本体部と当たり、端子金具の接点部が回路基板と干渉するのを回避することができる。保護部材が接続位置にあるときには、本体部が収容空間の開口側から奥側に退いて、接点部と回路基板との接続状態を実現することができる。端子金具の接点部が回路基板の角部等に当たるのを防止することができるため、端子金具の接点部と回路基板との接続状態を良好に実現することができる。
【0012】
また、上記構成によれば、回路基板を収容空間から抜き取る際に、フード部をハウジングから離脱する過程において、フード部の引掛部が保護部材の被引掛部を引っ掛けて保護部材を初期位置に戻すことができる。引掛部がフード部の内面に設けられているため、引掛部の設計自由度および寸法精度を高めることができる。
【0013】
(2)前記被引掛部は、前記本体部の端部に連なる部位を支点として撓み変形可能な形状をなし、前記ハウジングは、外面に、前記保護部材が前記初期位置にある状態で前記被引掛部の撓み空間から離れて位置し、前記保護部材が前記接続位置にある状態で前記被引掛部の撓み空間に位置する規制面を有しているのが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、保護部材が初期位置にある状態で引掛部が被引掛部と接触し、被引掛部を撓ませることができる。フード部およびハウジングの嵌合過程で被引掛部が弾性復帰し、引掛部が被引掛部を乗り越えることができる。フード部およびハウジングが正規に嵌合され、保護部材が接続位置に至ると、被引掛部の撓み動作がハウジングの規制面によって規制される。回路基板を収容空間から抜き取る際に、被引掛部の撓み動作が規制された状態になっているから、引掛部と被引掛部との引っ掛け状態が不用意に解除されるのを防止することができる。
【0015】
(3)前記回路基板は、端面に、前記初期位置にある前記保護部材に当たり、前記保護部材を前記接続位置に移動させる押圧面を有し、前記保護部材は、撓み変形可能な複数の弾性保持部を有し、前記ハウジングは、前記複数の弾性保持部をそれぞれ係止し、前記保護部材の前記初期位置から前記接続位置への移動を規制する、複数の保持部を有し、前記引掛部が前記接続位置において前記被引掛部を引っ掛けた状態において、前記回路基板の前記押圧面と前記保護部材との間に隙間を有していると良い。
【0016】
上記構成によれば、回路基板を収容空間から抜き取る際に、引掛部が被引掛部を引っ掛けたときに、回路基板の押圧面と保護部材との間に隙間が形成され、その隙間の範囲で保護部材の傾き動作が許容される。保護部材が傾くことで、保護部材が初期位置に戻る際に各弾性保持部が各保持部を乗り越えるタイミングをずらすことができるため、各弾性保持部と各保持部との干渉に起因する抵抗のピークを小さくすることができる。
【0017】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示のカードエッジコネクタの具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0018】
実施形態に係るカードエッジコネクタは、互いに嵌合可能な雌側コネクタ10と雄側コネクタ60とにより構成される。図1に示すように、雄側コネクタ60は、フード部61と回路基板62とを備えている。雌側コネクタ10は、ハウジング11、12と複数の端子金具13と保護部材14とを備えている。さらに、ハウジング11、12は、アウタハウジング11とインナハウジング12とからなる。
【0019】
図2に示すように、回路基板62は、フード部61内に配置される。端子金具13は、ハウジング11、12に収容される。保護部材14は、ハウジング11、12に対し初期位置(図5を参照)と接続位置(図2を参照)とに移動可能に組み付けられる。保護部材14は、初期位置において、端子金具13の後述する接点部25を保護する。端子金具13の接点部25は、両コネクタ10、60の正規嵌合時に、回路基板62の導電部65に導通接続される。なお、以下の説明において、上下方向は、図2の上下方向を基準とする。前後方向は、両コネクタ10、60が嵌合開始時に互いに向き合う面側を前側とする。
【0020】
(フード部および回路基板)
フード部61は合成樹脂製であって、図1および図2に示すように、角筒状をなし、前後方向に貫通している。フード部61は、上下方向の高さ寸法よりも左右方向の幅寸法を大きくした横長形状に形成されている。フード部61の上壁には、ロック孔63が設けられている。
【0021】
フード部61は、図8に示すように、左右側壁の内面に、一対の引掛部64を有している。各引掛部64は、左右側壁の内面における前端部の上下方向中央部に台状に突設されている。各引掛部64の突出方向の端面(以下、内端面と称する)は、前後方向に沿った平坦な形状になっている。各引掛部64の前面は、フード部61の開口端から内端面に向けて内側にテーパ状に傾斜している。各引掛部64の後面も内端面に向けて内側にテーパ状に傾斜している。フード部61は、図示しないケースに取り付けられる。
【0022】
回路基板62もケースに取り付けられる。このため、回路基板62とフード部61の相対位置は一定に維持される。回路基板62は、平面視矩形状をなし、板面を上下方向に向けた状態で、フード部61内の上下方向中央部に配置される。図1に示すように、回路基板62の表面には、複数の導電部65が幅方向に並んで設けられている。各導電部65は、各端子金具13と対応する位置に配置されている。
【0023】
回路基板62は、幅方向に沿った前側の端面(板厚面)に、保護部材14を押圧する押圧面66を有している。本実施形態の場合、押圧面66は、回路基板62の前側の端面全体によって構成される。
【0024】
<インナハウジング>
インナハウジング12は合成樹脂製であって、図1に示すように、複数のキャビティ15を有している。図2に示すように、各キャビティ15は、インナハウジング12において、上下2段で幅方向に複数並んで配置されている。各キャビティ15は、縦長スリット状をなし、前後方向に貫通している。
【0025】
図5に示すように、上段の各キャビティ15は、インナハウジング12の上面に開口し、前後方向に間隔を置いた2箇所に、上下方向に沿った前後夫々の段差16、17を有している。上段の各キャビティ15のうち、前後の段差16、17間における上下方向の深さは、段差16、17の前後両側における上下方向の深さよりも深くされている。また、図6に示すように、上段の各キャビティ15の上部は、上段の各キャビティ15の下部よりも左右方向の開口幅を大きくして形成されている。上段の各キャビティ15には、上方から端子金具13が挿入される。インナハウジング12は、上段の各キャビティ15に挿入された端子金具13の上方への抜け出しを規制する抜止部18を有している。抜止部18は、上段の各キャビティ15の上部における左右の内面に対をなして突出している。
【0026】
下段の各キャビティ15は、インナハウジング12の下面に開口し、前後方向に間隔を置いた2箇所に、上段の各キャビティ15と同様、上下方向に沿った前後夫々の段差16、17を有している。下段の各キャビティ15のうち、前後の段差16、17間における上下方向の深さは、段差16、17の前後両側における上下方向の深さよりも深くされている。また、下段の各キャビティ15の下部は、下段の各キャビティ15の上部よりも左右方向の開口幅を大きくして形成されている。下段の各キャビティ15には、下方から端子金具13が挿入される。インナハウジング12は、下段の各キャビティ15に挿入された端子金具13の下方への抜け出しを規制する抜止部18を有している。抜止部18は、下段の各キャビティ15の下部における左右の内面に対をなして突出している。
【0027】
図6に示すように、上段および下段の各キャビティ15は、幅方向において互いに位置ずれして配置されている。具体的には、上段の各キャビティ15における幅広の上部と、下段の各キャビティ15における幅狭の上部とが、幅方向に並んで配置されている。また、上段の各キャビティ15における幅狭の下部と、下段の各キャビティ15における幅広の下部とが、幅方向に並んで配置されている。このようにして、上段および下段の各キャビティ15は、インナハウジング12において、上下方向および左右方向にスペース効率良く狭ピッチに整列して設けられている。
【0028】
インナハウジング12は、図1に示すように、上面の前端部の幅方向中央部に、幅方向に一対の係止突起19を有している。また、インナハウジング12は、前面の上下方向中央部に開口する横長スリット状の収容空間21を有している。収容空間21は、インナハウジング12の全幅に形成され、インナハウジング12の左右の側面にも開口している。図5に示すように、収容空間21は、前側の段差16を介して各キャビティ15と連通している。収容空間21の奥端は、後側の段差17によって閉塞される。図2に示すように、収容空間21には、後述する連通口29を通して内部に回路基板62が挿入される。
【0029】
(端子金具)
端子金具13は、導電性の金属板を曲げ加工等して形成される。端子金具13の後部は、電線20の端部に接続されている。図13に示すように、端子金具13の前部は、前後方向において電線20と同軸上の位置に角筒状の筒状部22を有し、筒状部22と高さ方向に対向する位置に前後方向に沿った板状部23を有している。筒状部22は、板状部23と対向する面が開口している。端子金具13の前部は、筒状部22の内部に、撓み変形可能な弾性接触片24を有している。弾性接触片24は、筒状部22の開口面を通して板状部23側に突出する山型形状をなし、板状部23に最も接近する頂部に、接点部25を有している。図5に示すように、筒状部22と板状部23との間の離間距離は、収容空間21の高さ方向の開口寸法に対応している。
【0030】
端子金具13の筒状部22は、上段の各キャビティ15における幅広の上部または下段の各キャビティ15における幅広の下部に挿入される。端子金具13の板状部23は、上段の各キャビティ15における幅狭の下部または下段の各キャビティ15における幅狭の上部に挿入される。筒状部22と板状部23との間には、前方から回路基板62が挿入される。弾性接触片24は、撓み変形した状態で、回路基板62の導電部65に接点部25を接触させる。
【0031】
(アウタハウジング)
アウタハウジング11は合成樹脂製であって、内部に、後面に開口するハウジング組付空間26を有している。アウタハウジング11は、前面に前壁27を有している。アウタハウジング11は、図5に示すように、前壁27からハウジング組付空間26に突出する端子押さえ部28を有している。ハウジング組付空間26には、後方からインナハウジング12が挿入される。図6に示すように、端子押さえ部28は、各キャビティ15と対応する上下の各位置に複数配置されている。
【0032】
ここで、インナハウジング12は、アウタハウジング11に対して仮係止位置と本係止位置とに移動可能に組み付けられる。インナハウジング12は、仮係止位置において、ハウジング組付空間26に浅く挿入され、図4に示すように、上段の各キャビティ15の上面開口および下段の各キャビティ15の下面開口をアウタハウジング11の後方に露出して配置される。インナハウジング12が仮係止位置にあるときに、各キャビティ15に各端子金具13が挿入される。なお、アウタハウジング11の後端部には、各係止突起19に当たって、仮係止位置にあるインナハウジング12の後方への抜け出しを規制する止め部47(図5を参照)が設けられている。
一方、インナハウジング12は、本係止位置において、ハウジング組付空間26に正規深さで挿入され、図5に示すように、上段の各キャビティ15の上面開口の前部に上段の各端子押さえ部28が進入し、下段の各キャビティ15の下面開口の前部に下段の各端子押さえ部28が進入して配置される。これにより、各端子金具13の上下方向への抜け出しが規制される。インナハウジング12は、本係止位置においてアウタハウジング11の前壁27に当て止めして配置される。
【0033】
アウタハウジング11は、図14に示すように、前壁27の上下方向中央部に開口する横長の連通口29を有している。連通口29は、ハウジング組付空間26に連通し、ハウジング組付空間26にインナハウジング12が挿入された状態において、収容空間21にも連通する。
【0034】
アウタハウジング11は、連通口29の左右両端から上下両側に延びる一対ずつの縦溝31を有している。アウタハウジング11は、各縦溝31の上下面に、第1保持部32および第2保持部33を有している。図7および図14に示すように、第1保持部32および第2保持部33は、互いに前後方向および幅方向に位置ずれしている。具体的には、第1保持部32は、第2保持部33より内側後方に設けられている。第1保持部32および第2保持部33には、保護部材14の後述する弾性保持部43が係止可能とされている。
【0035】
また、アウタハウジング11は、左右側面に開口する一対の溝部34を有している。各溝部34は、アウタハウジング11の前後方向の全長にわたって延び、アウタハウジング11の前後面に開口している。各溝部34は、各縦溝31に連通している。アウタハウジング11は、図8に示すように、左右側面寄りの後部に一対の壁部35を有している。各壁部35の前端は、各縦溝31の後端に位置している。各壁部35の内面は、前後方向に沿って配置され、ハウジング組付空間26に臨む。各壁部35の外面は、前記方向に沿って配置され、各溝部34に臨む。各壁部35の外面は、保護部材14の後述する被引掛部42の撓み動作を規制する規制面36として構成される。また、図3に示すように、アウタハウジング11の上面には、撓み変形可能なロックアーム37が突設されている。ロックアーム37は、フード部61のロック孔63に嵌まるロック突部38を有している。
【0036】
(保護部材)
保護部材14は合成樹脂製であって、図3に示すように、幅方向に長い横棒状の本体部41と、本体部41の幅方向両端に連なり前後両側に延びる一対の被引掛部42と、被引掛部42の前端から上後方および下後方に二股状に延びる一対ずつの弾性保持部43と、を有している。
【0037】
本体部41は、収容空間21に挿入可能なサイズに形成されている。図5に示すように、本体部41の後部は、後方に向けて上下寸法を次第に小さくする形状になっている。本体部41は、前面に、左右方向に沿って配置される受け面44を有している。図2に示すように、本体部41の受け面44は、回路基板62の押圧面66に接触して押圧される。
【0038】
各被引掛部42は、図9に示すように、前後方向に長いアーム状をなし、本体部41に連なる部位を支点として幅方向に撓み変形可能とされている。各被引掛部42は、後端部の外面に、幅方向外側に爪状に突出する引掛突起45を有している。引掛突起45の前面は、左右方向に沿って配置されている。引掛突起45の後面は、後方にテーパ状に傾斜している。
【0039】
各弾性保持部43は、図7に示すように、被引掛部42から離れる方向に突出したあと後方に延びるアーム状をなし、被引掛部42に連なる部位を支点として上下方向に撓み変形可能とされている。各弾性保持部43の全長は、各被引掛部42の全長より短くされている。各弾性保持部43は、後端部の外面に、高さ方向外側に爪状に突出する保持突起46を有している。保持突起46の前面は、上下方向に沿って配置されている。保持突起46の後面は、後方にテーパ状に傾斜している。
【0040】
(雌側コネクタの組み付け方法および両コネクタの嵌合・離脱方法)
雌側コネクタ10の組み付けに際し、まずインナハウジング12がアウタハウジング11に対して仮係止位置に保持される(図4を参照)。
【0041】
続いて、インナハウジング12の上段の各キャビティ15に上方から端子金具13が挿入され、インナハウジング12の下段の各キャビティ15に下方から端子金具13が挿入される。各端子金具13の筒状部22は前後の段差16、17間に嵌合され、前後の段差16、17に当たるように配置される。これにより、インナハウジング12に対する各端子金具13の前後方向への位置ずれが規制される(図5を参照)。また、各端子金具13の筒状部22は、左右の抜止部18に内側から当たるように配置される(図6を参照)。これにより、各端子金具13の各キャビティ15からの抜け出しが一次的に規制される。各端子金具13は、インナハウジング12において、それぞれの接点部25の高さ位置を同じ位置に揃えた状態で、収容空間21に臨むように横並びに配置される。続いて、インナハウジング12がアウタハウジング11に対して押し込まれ、本係止位置に向けて移動させられる。インナハウジング12が本係止位置に至ると、各端子金具13の筒状部22の平板部分に沿って各端子押さえ部28が配置される(図5を参照)。これにより、各端子金具13の各キャビティ15からの抜け出しが二次的に確実に規制される。
【0042】
保護部材14はアウタハウジング11に対して初期位置に配置される。各弾性保持部43が縦溝31内に進入し、各弾性保持部43の保持突起46が第1保持部32と第2保持部33との間に前後方向に挟まるように配置される(図7を参照)。これにより、アウタハウジング11に対する保護部材14の前後方向への位置ずれが規制される。保護部材14が初期位置にある状態において、本体部41は収容空間21の開口側の内側空間に嵌まるように配置される(図5を参照)。また、被引掛部42が連通口29からハウジング組付空間26および溝部34に進入する。
【0043】
保護部材14を初期位置に組み付ける過程において、被引掛部42の引掛突起45は溝部34内を変位する。保護部材14が初期位置にあるときに、被引掛部42の引掛突起45は溝部34の奥端側(後端側)に位置し、溝部34内に突出して配置される(図3を参照)。
【0044】
この状態で、両コネクタ10、60が互いに嵌合される。両コネクタ10、60の嵌合過程で、フード部61内にアウタハウジング11が浅く嵌合され、各引掛部64が溝部34内に進入する。このとき、各引掛部64の内端面が保護部材14の各被引掛部42の外面に沿って接触可能に配置される(図8を参照)。両コネクタ10、60の嵌合が進むと、引掛部64が被引掛部42の引掛突起45の斜面部分に摺接し、被引掛部42が縦溝31内(ハウジング組付空間26側の撓み空間)に撓み変形させられる(図9を参照)。このとき、撓み変形する被引掛部42と壁部35との間には隙間が確保され、被引掛部42が壁部35と干渉することはない。
【0045】
さらに両コネクタ10、60の嵌合が進むと、回路基板62の押圧面66が本体部41の受け面44に押し当てられ、保護部材14に後方への押圧力が付与される。それに伴い、弾性保持部43が押圧力を受けて撓み変形させられ、弾性保持部43の保持突起46と第1保持部32との係止状態が解除される。回路基板62の押圧面66が本体部41の受け面44に当たる位置において、被引掛部42は既に弾性復帰しており、引掛部64は被引掛部42の後方に離れて配置される(図10を参照)。
【0046】
さらに両コネクタ10、60の嵌合が進むと、保護部材14が回路基板62に押されて接続位置に向けて移動させられる。本体部41は、収容空間21の開口側から奥側に向けて変位する。この間、回路基板62と本体部41との接触状態が維持され、回路基板62が端子金具13の接点部25と接触することはない。
【0047】
両コネクタ10、60が正規に嵌合される直前に、本体部41の斜面部分に弾性接触片24が摺動して撓み変形させられる。両コネクタ10、60が正規に嵌合されると、弾性接触片24が弾性復帰し、弾性接触片24の接点部25が本体部41を乗り越えて回路基板62の導電部65に接触する。これにより、各端子金具13の接点部25と回路基板62の各導電部65とが電気的に接続される(図2を参照)。そして、ロックアーム37のロック突部38がフード部61のロック孔63に嵌まることにより、両コネクタ10、60が嵌合状態に保持される。両コネクタ10、60が正規に嵌合された状態において、被引掛部42の後部内面は壁部35の規制面36に沿って配置される(図11を参照)。
【0048】
一方、メンテナンス等の事情に応じて、回路基板62を収容空間21から抜き取る際には、ロックアーム37を撓ませて、ロック突部38をロック孔63の外側に位置させ、その状態で、両コネクタ10、60を互いに引き離すようにする。両コネクタ10、60の離脱過程において、引掛部64の斜面部分が引掛突起45の斜面部分に当たり、保護部材14に対して初期位置に戻る方向への押圧力が付与される。ここで、被引掛部42の撓み動作が壁部35の規制面36によって規制されているため、被引掛部42が押圧力を受けて撓み変形することはない。よって、保護部材14は初期位置に向けて移動を円滑に開始することができる(図12を参照)。
【0049】
また、両コネクタ10、60の離脱過程において、引掛部64の斜面部分と被引掛部42の斜面部分が当たり合うときに、回路基板62の押圧面66は本体部41の受け面44の前方に離れて配置される。つまり、保護部材14の本体部41と回路基板62の間には前後方向の隙間が形成されることになる。
【0050】
両コネクタ10、60の離脱動作が完了する直前において、被引掛部42は壁部35から離れて撓み変形可能な状態になる。また、両コネクタ10、60の離脱動作が完了する直前において、各弾性保持部43の保持突起46は、各第1保持部32に当たって撓み変形させられる。ここで、各弾性保持部43が保護部材14において上下一対ずつ配置されているため、各弾性保持部43と各第1保持部32との干渉に起因する抵抗が大きくなることが懸念される。
【0051】
しかるに本実施形態の場合、上述したとおり、保護部材14の本体部41と回路基板62との間に隙間が形成されているため、隙間の範囲で保護部材14が傾くことができ、各弾性保持部43の保持突起46が各第1保持部32に当たるタイミングを個々にずらすことができる。その結果、各弾性保持部43と各第1保持部32との干渉に起因する抵抗が一挙に大きくなることがなく、抵抗のピークを小さく抑えることができる。
【0052】
その後、両コネクタ10、60が引き離されると、各弾性保持部43が弾性復帰し、各弾性保持部43の保持突起46が各第1保持部32と各第2保持部33との間に再び挟まるように配置される。保持突起46が第2保持部33に対して離脱方向と直角に当たることで、保護部材14が仮係止位置に離脱を規制された状態に確実に保持される。これにより、保護部材14が仮係止位置に復帰し、繰り返しの使用に供することが可能となる。
【0053】
以上説明したように、本実施形態によれば、保護部材14が初期位置にあるときに、本体部41が収容空間21の開口側に位置するため、収容空間21に挿入された回路基板62が本体部41と当たり、端子金具13の接点部25が回路基板62と干渉するのを回避することができる。保護部材14が接続位置にあるときには、本体部41が収容空間21の開口側から退いて、接点部25と回路基板62との接続状態を実現することができる。端子金具13の接点部25が回路基板62の角部等に当たるのを防止することができるため、端子金具13の接点部25と回路基板62との接続状態を良好に実現することができる。
【0054】
また、回路基板62を収容空間21から抜き取る際に、フード部61をハウジング11、12から離脱する過程において、引掛部64が被引掛部42を引っ掛けて、保護部材14を初期位置に戻すことができる。この場合に、引掛部64がフード部61の内面に設けられているため、引掛部64の設計自由度および寸法精度を高めることができる。
【0055】
また、本実施形態の場合、保護部材14が初期位置にある状態で引掛部64が被引掛部42と接触し、被引掛部42を撓ませることができる。一方、保護部材14が接続位置に至ると、被引掛部42の撓み動作がハウジング11、12の規制面36によって規制される。回路基板62を収容空間21から抜き取る際に、被引掛部42の撓み動作が規制された状態になっているため、引掛部64と被引掛部42との引っ掛け状態が不用意に解除されるのを防止することができる。
【0056】
さらに、回路基板62の押圧面66と保護部材14との間に隙間が形成され、その隙間の範囲で保護部材14の傾き動作が許容されるため、保護部材14が傾くことで、各弾性保持部43が各第1保持部32を乗り越えるタイミングをずらすことができる。その結果、各弾性保持部43と各第1保持部32との干渉に起因する抵抗のピークを小さくすることができる。
【0057】
[本開示の他の実施形態]
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えるべきである。
上記実施形態の場合、ハウジングをアウタハウジングとインナハウジングとで構成していたが、他の実施形態においては、ハウジングを分離不能に一体に構成しても良い。
上記実施形態の場合、引掛部をフード部に固定状態に設け、被引掛部を保護部材の端部に撓み変形可能に設けていたが、他の実施形態においては、引掛部をフード部に撓み変形可能に設け、被引掛部を保護部材の端部に固定状態に設けても良い。
上記実施形態の場合、弾性保持部に保持突起を設け、ハウジングに第1保持部および第2保持部を設け、第1保持部と第2保持部との間に保持突起を挟んでいたが、他の実施形態においては、弾性保持部に2つの保持突起を設け、ハウジングに1つの保持部を設け、弾性保持部の2つの保持突起間にハウジングの保持部を挟むようにしても良い。
【符号の説明】
【0058】
10…雌側コネクタ
11…アウタハウジング(ハウジング)
12…インナハウジング(ハウジング)
13…端子金具
14…保護部材
15…キャビティ
16、17…段差
18…抜止部
19…係止突起
20…電線
21…収容空間
22…筒状部
23…板状部
24…弾性接触片
25…接点部
26…ハウジング組付空間
27…前壁
28…端子押さえ部
29…連通口
31…縦溝
32…第1保持部(保持部)
33…第2保持部
34…溝部
35…壁部
36…規制面
37…ロックアーム
38…ロック突部
41…本体部
42…被引掛部
43…弾性保持部
44…受け面
45…引掛突起
46…保持突起
47…止め部
60…雄側コネクタ
61…フード部
62…回路基板
63…ロック孔
64…引掛部
65…導電部
66…押圧面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
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図14