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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】多孔質固体電解質ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20231122BHJP
【FI】
G01N27/416 371G
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020082394
(22)【出願日】2020-05-08
(65)【公開番号】P2021177142
(43)【公開日】2021-11-11
【審査請求日】2023-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000112439
【氏名又は名称】フィガロ技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086830
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 明
(74)【代理人】
【識別番号】100096046
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 みか
(72)【発明者】
【氏名】清水 康博
(72)【発明者】
【氏名】井澤 邦之
(72)【発明者】
【氏名】兵頭 健生
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 海
(72)【発明者】
【氏名】上田 太郎
(72)【発明者】
【氏名】麻生 裕樹
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-168356(JP,A)
【文献】特開2011-232291(JP,A)
【文献】特開2001-004589(JP,A)
【文献】特開2000-338081(JP,A)
【文献】特開平01-206252(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0227489(US,A1)
【文献】特開2009-128184(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26 - 37/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、
共に支持体上に固定されかつ組成が互いに異なる一対の電極と、
前記一対の電極を覆うように前記支持体上に固定された多孔質の固体電解質膜、とを備え、
前記一対の電極間の起電力を出力とするように構成され
前記固体電解質膜は多孔質のアルカリ金属イオン導電体膜であり、
前記の一対の電極の少なくとも一方が貴金属と金属酸化物とを含有する、多孔質固体電解質ガスセンサ。
【請求項2】
前記の一対の電極は共に貴金属と金属酸化物とを含有し、かつ一対の電極間で金属酸化物の種類が異なり、
一対の電極の一方はCOとの接触により起電力が増加し、一対の電極の他方はCOとの接触により起電力が減少することを特徴とする、請求項1の多孔質固体電解質ガスセンサ。
【請求項3】
前記支持体は基板に設けられた空洞上を掛け渡す支持膜であり、かつ支持膜はヒータを備えていることを特徴とする、請求項1または2の多孔質固体電解質ガスセンサ。
【請求項4】
前記固体電解質膜および前記一対の電極は、いずれも雰囲気との間でガスの移動を許容するように構成されていることを特徴とする、請求項1~3のいずれかの多孔質固体電解質ガスセンサ
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は多孔質の固体電解質膜を用いるガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
起電力を応答出力とする通常の固体電解質型のガスセンサでは、固体電解質の緻密な焼結体を用いるので、製造工程が複雑になる。検知極と対極を同じ雰囲気に曝し、参照雰囲気を必要としない、混成電位型の検知機構でも、緻密な焼結体を用いることは変わらない。発明者らは、Naイオン導電体のNASICON焼結体を用い、常温作動が可能なCOセンサを提案したが(特許文献1,2、非特許文献1)、同様な問題がある。このため、ガスセンサの小型化、製造工程の単純化、MEMSホットプレートへの搭載によるインテリジェント化は困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】JP6425,309B
【文献】US9939,404B
【非特許文献】
【0004】
【文献】Electrochimica Acta 155 (2015) 8-15
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明の課題は、多孔質の固体電解質膜を用いる新しい構造のガスセンサを提供することにより、ガスセンサの製造工程を簡単化し、ガスセンサの小型化を容易にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の多孔質固体電解質ガスセンサは、
基板あるいはマイクロホットプレートのヒータを備えた膜等の支持体と、
共に支持体上に固定されかつ組成が互いに異なる一対の電極と、
一対の電極を覆うように支持体上に固定された多孔質の固体電解質膜、とを備え、
前記一対の電極間の起電力を出力とする。
【0007】
この発明のガスセンサでは、起電力を出力とするので、極く僅かな電流が固体電解質中を流れれば良い。このため固体電解質粒子がネックなどで接触していれば十分で、多孔質の固体電解質膜でもガスを検出できる。固体電解質膜は好ましくは多孔質のアルカリ金属イオン導電体膜で、室温でCO,H2等のガスを検出できる。
【0008】
一対の電極の少なくと一方に貴金属と金属酸化物とを含有させると、金属酸化物により電極間に起電力の差を生じさせることができる。特に、一方の電極にはCOとの接触により起電力が増加するように金属酸化物を混合し、他方の電極にはCOとの接触により起電力が減少するように別の種類の金属酸化物を含有させると、大きなガス応答が得られる。
【0009】
好ましくは、MEMSマイクロホットプレートのヒータを備える膜を支持膜とする。この膜は基板に設けた空洞上に掛け渡されている。MEMSマイクロホットプレートを用いると他のセンサの集積化と駆動回路の集積化が容易である。またマイクロホットプレートのヒータを電極と固体電解質膜の焼成に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例のガスセンサの断面図
図2】実施例のガスセンサの平面図
図3】実施例のガスセンサでの、アルミナ基板とNASICON膜断面の電子顕微鏡写真
図4】実施例のガスセンサでの、NASICON膜断面の電子顕微鏡写真
図5】実施例のガスセンサでの、NASICON膜の破断面とPt(15Bi2O3)電極を示す電子顕微鏡写真
図6】実施例のガスセンサでの、Pt(15Bi2O3)電極とその周囲を示す電子顕微鏡写真
図7】ディスク状のNASICON焼結体での、熱処理によるPt対極へのBi元素の拡散を示す図
図8】800℃成膜のNASICON膜を用いたガスセンサの、300ppmCOへの応答を示す図
図9】1000℃成膜のNASICON膜を用いたガスセンサの、300ppmCOへの応答を示す図
図10】900℃成膜のNASICON膜を用いたガスセンサの、300ppmCOへの応答を示す図
図11】Pt(15CeO2)電極と単味のPt電極とを組み合わせたガスセンサの、室温での300ppmCOへの応答を示す特性図
図12】Pt(15Bi2O3)電極とPt(15CeO2)電極とを組み合わせたガスセンサの、室温での300ppmCOへの応答を示す特性図
図13図12のガスセンサの、-10℃での300ppmCOへの応答を示す特性図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示す。
【実施例
【0012】
ガスセンサの構造
図1図13に実施例を示す。図1図2はガスセンサ2の構造を示し、3はSi等の基板で、4はエッチングにより基板3に設けた空洞であり、空洞4の上部をダイアフラム状の支持膜6が覆っている。支持膜6は空洞4をダイアフラム状に覆うのではなく、空洞4上を架橋していても良い。支持膜6は1層あるいは多層の絶縁膜から成り、実施例では多層の絶縁膜の間に膜状のPtヒータ8を備えている。Si基板3~ヒータ8は、MEMSマイクロホットプレートを構成する。
【0013】
支持膜6上に一対の電極10,11が成膜され、一方は検知極、他方は対極で、組成が異なる。電極10,11の膜厚は実施例では10μmとしたが、任意である。また電極10,11を覆うように、支持膜6上に多孔質NASICON膜12(以下単に、NASICON膜12と言う)が成膜されている。電極10,11の端部にパッド15,16が接続され、ヒータ8の両端にパッド17,18が接続され、パッド15~18に図示しないリード線をボンディングする。このようにして、電極10/11間の起電力を、ガスセンサ2の出力とする。なおパッド15~18等を、導電性のスルーホール等を介して、基板3の底面の配線へ接続してもよい。またヒータ8は電極10,11の一方を兼用してもよい。
【0014】
NASICON膜12は多孔質の厚膜で、膜厚は例えば10μm~5mm程度で、膜厚0.1~0.3mm程度の膜を用いたが、膜厚3mmでもガスセンサとして動作した。NASICON以外のアルカリ金属イオン導電体を用いてもよく、例えばNaイオン導電体とリチウムイオン導電体のLISICONは類似のアルカリ金属イオン導電体で、共に室温でのCO検出に用いることができる。さらに室温で導電性のあるイオン導電体であれば、アルカリ金属イオン導電体以外の多孔質固体電解質膜を用いても良い。
【0015】
検知極と対極とで電極組成を変えることにより、CO,H2,アンモニア,硫化水素,アルコール,ケトン,炭化水素等のガスと、電極との反応が変化する。この結果、ガスへの応答が例えば起電力として発生する。電極は例えば一方がPt,Au,Rh,Pd等の貴金属で、他方がペロブスカイト等の金属酸化物でも良い。
【0016】
検知極と対極を何れも貴金属を主成分とする電極(貴金属が例えば70wt%以上)とし、何れか一方に金属酸化物を混合(例えば30wt%以下で0.01wt%以上で、好ましくは30wt%以下で0.1wt%以上)すると、電極間に性質の差が生じ、ガスを検出できる。CO等の還元性ガスに対して正の起電力応答が生じるようにする金属酸化物には、Bi2O3,Cr2O3等があり、負の起電力応答が生じるようにする金属酸化物には、CeO2,V2O5,WO3,Ta2O3,In2O3等がある。なおこのことは特許文献2で公表済みである。好ましくは、一方の電極には正の起電力応答が生じる金属酸化物を少なくとも一種類混合し、他方の電極には負の起電力応答が生じる金属酸化物を少なくとも一種類混合する。
【0017】
ヒータ8は電極10,11とNASICON膜12の焼成に用い、実施例のガスセンサ2は室温で動作するので、ガス検出時にヒータ8を動作させる必要はない。ただし-40℃等の低温で動作させる場合、あるいは炭化水素、VOC等を検出する場合、ヒータ8を動作させても良い。MEMSマイクロホットプレートを用いるのは、ガスセンサ2上で電極10,11とNASICON膜12を焼成するためである。また温度センサ、湿度センサ等の他のセンサと集積化でき、またガスセンサの付帯回路と集積化できるためである。実施例では、MEMSガスセンサではなく、アルミナ基板上に電極10,11とNASICON膜12を設けた際のデータを示す。
【0018】
ガスセンサの製造例とNASICON膜の構造
NASICON(Na3Zr2Si2PO12)粉末を調製し、グリセリンでペースト化した。電極材料ペーストとして、貴金属ペーストと金属酸化物粉末を混合し、あるいは単味の貴金属ペーストを用いた。アルミナ基板上に検知極と対極のペーストを塗布し、NASICONペーストをその上部から塗布し、乾燥した。乾燥後に基板を例えば空気中で焼成し、電極の焼成と、多孔質NASICON膜の成膜(焼成)を同時に行った。電極の焼成と多孔質NASICON膜の成膜は別々に行っても良い。焼成雰囲気等は任意で、多孔質のNASICON膜を成膜できればよい。
【0019】
電極組成はPtペーストと金属酸化物の重量比で示し、Ptペースト中のPt濃度は80~90wt%であった。例えばPt(15Bi2O3)はPtペーストが85wt%、Bi2O3が15wt%であることを示し、焼成後の電極組成としては、Ptが82~84wt%、Bi2O3が18~16wt%となる。
【0020】
図3は下部に見えるアルミナ基板上のNASICON膜を示し、図4はNASICON膜を拡大して示す。焼成条件は900℃×30分間である。
【0021】
図5は、Pt(15Bi2O3)電極とNASICON膜の破断面を示し、図5の下部にアルミナ基板が見える。図6は、Pt(15Bi2O3)電極とその周囲を拡大して示す。焼成条件は900℃×30分間である。
【0022】
電極中の金属酸化物の移動
従来例のガスセンサとして、ディスク状のNASICON焼結体(空気中1100℃で4時間焼結)に、検知極(Pt(15Bi2O3))と対極(Pt)のペーストを塗布し、空気中700℃、800℃、900℃の各温度で、30分ずつ熱処理した。熱処理後の検知極と対極の組成をXPS(X-ray
photoelectron spectroscopy)により分析した。対極でのBiのピークを図7に示す。熱処理により検知極のBi濃度が低下し、800℃あるいは900℃で処理すると対極にBiが観察され、900℃では対極に高濃度のBiが観察された。電極に添加する金属酸化物の内で、Bi2O3,V2O5,WOは比較的融点が低い、あるいは昇華しやすい材料である。そして図7は、電極に混合した金属酸化物は焼成により移動し得ることを示している。
【0023】
焼成温度の影響
検知極をPt(15Bi2O3)、対極をPtとし、NASICON膜の焼成条件を、空気中800℃×30分(図8)、空気中1000℃×30分(図9)、及び空気中900℃×30分(図10)に変化させた。室温の乾燥雰囲気での、300ppmCOへの応答を示す。なお実施例では、特に断らない限り乾燥雰囲気でのガス応答を示す。温度は周囲温度を示し、ガスセンサは加熱せずに周囲の温度で動作させた。実施例では、ガスへの応答は電極間の起電力の変化である。焼成温度が800℃(図8)では起電力は不安定で、焼成温度が1000℃(図9)では小さなCO応答しか得られなかったが、焼成温度が900℃(図10)では大きなCO応答が得られた。これらのことは、NASICON膜の焼成温度は900℃付近が好ましいことを示している。以下では、焼成条件を空気中900℃×30分間に統一した。
【0024】
ガス応答
図10図12は300ppmCOへのガスセンサの応答を示す。前記の図10はPt(15Bi2O3)極と単味のPt極を組み合わせた際の結果を示し、図11はPt(15CeO2)極と単味のPt極を組み合わせた際の結果を、図12はPt(15Bi2O3)極とPt(15CeO2)極を組み合わせた際の結果を示す。測定温度は室温で、バックグラウンドは乾燥空気とした。COへの起電力応答が得られ、Pt(15Bi2O3)極とPt(15CeO2)極を組み合わせることにより応答が増加した(図12)。なお加湿空気をバックグラウンドとしても、CO応答が得られる。
【0025】
低温での応答
図13は、300ppmCOに対する、-10℃での応答を示す。電極はPt(15Bi2O3)極とPt(15CeO2)極の組み合わせで、-10℃でもCOへの応答が得られた。
【0026】
ガスの検出モデル
ガスの検出モデルを、発明者は以下のように推定している。多孔質のNASICON膜を用いるため、NASICON膜と電極との界面までガスは拡散し、ここにNASICONと電極とガスの3相界面が発生する。三相界面では、空気中で酸素とNaイオンとの間に、(1)式の平衡反応が生じる。
2Na+1/2O2+2e→ Na2O (1)
【0027】
ここで雰囲気にCOが加わると、(2)式の平衡反応が加わり、電極電位は(1)式の反応と(2)式の反応がバランスする点で定まる。このため起電力はCO等のガスに依存する。
CO+Na2O → 2Na+2e+CO2 (2)
【0028】
電極に金属酸化物を混合すると、(3)式で示す、金属酸化物の非化学量論的酸化還元反応が加わる。式中δは微少量を、Mは金属元素を表す。(3)式の平衡は、還元を受け難いCeO2等では式の左側にかたより、還元されやすいBi2O3, Cr2O3等では式の右側にかたよる。このため単味のPt電極との間に起電力の差が生じ、しかも起電力の差は雰囲気中のガスに依存すると考えられる。
MOx+2δNa+2δe → MOx-δ+δNa2O (3)
【0029】
作用効果
実施例の作用効果を示す。
1) 膜状の固体電解質を用いるため、ガスセンサの小型化と集積化が容易である(図1図2)。このことは、起電力を出力とし、固体電解質に必要な電気伝導度が低いため、可能になっている。
2) 特にMEMSマイクロホットプレートのヒータ付きの絶縁膜を支持膜とすると、他のセンサと集積化したり、制御回路を集積化することが容易になる。またホットプレートのヒータを電極と多孔質固体電解質膜の成膜に用いることができる。
3) 多孔質の固体電解質膜内をガスが拡散し、固体電解質と支持膜の間に電極を設けても、ガスを検出できる(図10図12)。
4) 固体電解質膜としてアルカリイオン導電体を用い、ヒータによる加熱無しセンサを動作させると、CO、H2、アンモニア、硫化水素、エタノール、アセトン等の反応性が高いガスを検出する際に、アルカリイオン導電体中でガスが酸化されない。
5) 低温でも、ヒータを作動させずにCOを検出できる(図13)。
6) 電極に混合する金属酸化物は熱処理により移動する(図7)。電極を支持体(基板あるいは実施例の支持膜)と固体電解質膜の間に設けると、電極中の金属酸化物の移動を少なくできる。
7) 多孔質の固体電解質膜が雰囲気中の被毒成分をトラップするため、電極は被毒を受け難い。
【符号の説明】
【0030】
2 ガスセンサ
3 Si基板
4 空洞
6 支持膜
8 ヒータ
10,11 電極
12 多孔質NASICON膜
15~18 パッド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13