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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】止水方法および加泥材
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/06 20060101AFI20231122BHJP
【FI】
E21D9/06 301R
E21D9/06 301M
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019106621
(22)【出願日】2019-06-07
(65)【公開番号】P2020051243
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-04-01
(31)【優先権主張番号】P 2018178960
(32)【優先日】2018-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391003598
【氏名又は名称】富士化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】西田 与志雄
(72)【発明者】
【氏名】石井 裕泰
(72)【発明者】
【氏名】高橋 俊幸
(72)【発明者】
【氏名】笹原 茂生
(72)【発明者】
【氏名】黒岩 大地
(72)【発明者】
【氏名】松山 雄司
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-121929(JP,A)
【文献】特開2009-046810(JP,A)
【文献】特開平04-136398(JP,A)
【文献】特開2003-327989(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル掘削機による掘進を停止した際の止水性を確保するための止水方法であって、
前記トンネル掘削機のチャンバーの内容物に不凍結材が混入された不凍結加泥材を混合した状態で、当該トンネル掘削機の周辺の地盤を凍結させることを特徴とする、止水方法。
【請求項2】
前記トンネル掘削機の掘進を停止させる位置の手前から前記チャンバーに前記不凍結加泥材を供給し始めることを特徴とする、請求項1に記載の止水方法。
【請求項3】
前記トンネル掘削機の掘進を停止させた状態で前記チャンバーに前記不凍結加泥材を供給することを特徴とする、請求項1に記載の止水方法。
【請求項4】
トンネル掘削機による掘進を停止した際の止水性を確保するための止水方法であって、
前記トンネル掘削機のチャンバーの内容物に不凍結材が混入された不凍結加泥材を混合した状態で、前記トンネル掘削機の外周面に沿って形成された環状部材を利用して前記トンネル掘削機の外面と地盤との隙間を遮蔽するとともに、切羽から前記環状部材までの範囲を含むように地盤を凍結させることを特徴とする、止水方法。
【請求項5】
前記不凍結加泥材が水溶液の凝固点を降下させる塩を含有していることを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の止水方法。
【請求項6】
前記内容物に含まれる水分と塩分との合計に対する前記塩分の濃度が14重量%以上になるように、前記塩分を添加することを特徴とする、請求項5に記載の止水方法。
【請求項7】
不凍結材が混入されていない加泥材を利用して掘進する工程と、
不凍結材が混入された不凍結加泥材を利用して掘進する工程と、
掘進を停止してトンネル掘削機の周辺地盤を凍結する工程と、
チャンバー内に作業員が入り込むことが可能となるように当該チャンバー内の泥土を掘削する工程と、を備えることを特徴とする、泥土圧式シールド工法。
【請求項8】
泥土圧式シールド工法に使用する加泥材であって、
ベントナイトと、水と、不凍結材とを含み、
前記水に対する前記ベントナイトの割合が、17重量%~28重量%の範囲内であり、
前記不凍結材が水溶液の凝固点を降下させる塩を含有していて、
前記水と前記塩との合計に対する前記塩の濃度が、15重量%~70重量%の範囲内であることを特徴とする、加泥材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、止水方法および加泥材に関する。
【背景技術】
【0002】
シールドトンネル工事では、トンネル掘削機(シールドマシン)による掘進を一時的に中断して、チャンバー内に作業員が入って作業を行う場合や、チャンバーを通過して切羽とカッターヘッドとの間に作業員が入って作業を行う場合がある。例えば、トンネル延長が長い場合等において摩耗したカッタービットを交換する際には、作業員がチャンバー内、あるいはカッターヘッドと切羽との間に入って作業を行う場合がある。また、トンネル同士を接続する場合においても、接合部の処理を行うために、チャンバー内において作業を行う場合がある。
チャンバー内に作業員が入る場合には、チャンバー内の圧力を除去する必要がある。ところが、チャンバー内の圧力を除去すると、周辺地盤の土圧または地下水圧がトンネル掘削機内よりも高くなるため、トンネル掘削機内に土砂や地下水等が入り込むおそれがある。そのため、チャンバー内の圧力を除去する際には、止水工を講じる等して、トンネル掘削機内への土砂や地下水等の流入を防ぐ必要がある。
掘進を中断したトンネル掘削機の止水方法として、予めトンネル掘削機の周辺地盤を凍結させる凍結工法を採用する場合がある。凍結工法では、地表面またはトンネル掘削機内から凍結管を地盤内に配設して、この凍結管に冷媒を循環させることで周辺地盤を冷却して凍結させる。例えば、特許文献1では、トンネル同士を接合する際に、トンネル掘進機から接続部の周囲を囲うように複数の凍結管を配設し、この凍結管に冷却剤を循環させることで接続部の周囲の地盤を凍結される方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-156169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
トンネル掘削機の周辺地盤を冷却すると、チャンバー内も冷却され、その結果、チャンバーの内容物(泥土や泥水等)が凍結してしまう。そのため、チャンバー内に作業員が入るためには、凍結したチャンバーの内容物をピックやブレーカー等を利用して人力により掘削する必要がある。ところが、凍結した内容物は硬いため、掘削作業には手間がかかる。また、狭いチャンバー内での掘削作業は慎重に行う必要があり、効率が悪い。
このような観点から、本発明は、チャンバー内での作業を伴うシールドトンネル工事において、作業の手間を削減することを可能とした止水方法および泥土圧式シールド工法を提案することを課題とするとともに、この泥土圧式シールド工法に使用する加泥材を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための本発明の止水方法は、トンネル掘削機のチャンバーの内容物に不凍結材が混入された不凍結加泥材を混合した状態で、当該トンネル掘削機の周辺地盤を凍結させることで、トンネル掘削機の掘進を停止した際の止水性を確保するものである。かかる止水方法によれば、チャンバーの内容物に不凍結材が混合されるので、内容物の凍結を防ぐことができる。そのため、チャンバー内に作業員が入り込む際に、チャンバーの内容物の除去に要する手間を大幅に低減できる。
チャンバー内へ不凍結材を供給する方法としては、例えば泥土圧式シールド工法である場合には、ベントナイトと、水と、増粘剤と、不凍結材とを含む不凍結加泥材を使用すればよい。また、例えば、泥水式シールド工法の場合には、チャンバー内の泥水を除去して、チャンバー内に不凍結材が混合された不凍結加泥材を充填すればよい。
チャンバー内での作業またはトンネル掘削機外での作業を含む泥土圧式シールド工法は、不凍結材が混入されていない加泥材を利用して掘進する工程と、不凍結材が混入された不凍結加泥材を利用して掘進する工程と、掘進を停止してトンネル掘削機の周辺地盤を凍結する工程と、チャンバー内に作業員が入り込むことが可能となるように当該チャンバー内の泥土を掘削する工程とを備えているのが望ましい。
【0006】
なお、前記止水方法では、前記トンネル掘削機の掘進を停止させる位置の手前(例えば、1リング手前)から前記チャンバーに不凍結加泥材を供給し始めることで、掘進を停止させる時点までにチャンバーの内容物全体に不凍結材を行きわたらせるようにしてもよいし、前記トンネル掘進機を所定の位置に停止させた状態で、前記チャンバーに不凍結加泥材を供給してもよい。
また、前記止水方法では、前記トンネル掘削機の外周面に沿って形成された環状部材を利用して前記トンネル掘削機の外面と前記地盤との隙間を遮蔽するとともに、切羽から前記環状部材までの範囲を含むように地盤を凍結させるのが望ましい。このようにすれば、不凍結材が地下水へ浸出することを防止できるとともに、余掘り部を介して土砂や地下水等が流入することを防止できる。また、切羽から前記トンネル掘削機のテールまでの範囲を含むように地盤を凍結させれば、より確実に土砂や地下水等の流入を防止できる。
なお、前記不凍結材には、水溶液としたときの液体の凝固点を降下させる塩(例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム)を使用するのが望ましい。また、この他に不凍結材として使用可能な材料としては、例えば、CMA、ギ酸ナトリウム、けい酸ソーダ、グリセリン、エチレングリコール、等がある。
また、不凍結材は、前記内容物に含まれる水分と前記塩分との合計に対する前記塩分の濃度が14重量%以上になるように、前記塩分を添加する。また、加泥材の不凍結材として塩を使用する場合は、前記水と前記塩との合計に対する前記塩の濃度が、15重量%~70重量%の範囲内、より好ましくは25重量%~55重量%の範囲内にするのが望ましい。塩分の添加量を前記のように調整すれば、凍結工法における凍土の平均的な温度である-10℃においてもチャンバーの内容物の凍結を防止できる。
また、加泥材中の水に対するベントナイトの割合17重量%~28重量%の範囲内にする。ベントナイト濃度を前記のように調整すれば、ブリージングを3%以下にでき、かつポンプによる注入が可能な程度の粘性を確保できる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の止水方法および加泥材によれば、チャンバー内での作業を伴うシールドトンネル工事の作業の手間を削減し、ひいては、工期短縮化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第一実施形態に係るシールドマシンの概要を示す断面図である。
図2】凍結領域を示す平面図である。
図3】(a)は図2のA-A矢視図、(b)は図2のB-B矢視図である。
図4】カッタービットの交換状況を示す断面図である。
図5】第二実施形態に係るシールドマシンの概要を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第一実施形態>
第一実施形態では、泥土圧式シールド工法によるシールドトンネル工事において、摩耗または破損したカッタービットを地中で交換する場合について説明する。カッタービットの交換は、シールドマシンによる掘進を停止した状態で、カッターヘッドの前面と切羽との間において作業員が手作業により行う。このとき、シールドマシン(トンネル掘削機)周辺の地山は、崩落することがないように、止水しておく必要がある。本実施形態では、シールドマシンによる掘進を停止した際の止水性を確保する止水方法として、シールドマシンの周辺地盤を凍結させる凍結工法を採用する。
本実施形態の泥土圧式シールド工法は、第一掘進工程と、第一凍結工程と、第二掘進工程と、第二凍結工程と、交換作業工程とを備えている。
【0010】
第一掘進工程では、ベントナイトや水溶性高分子と水を含有し、不凍結材が混入されていない加泥材を利用して掘進する。なお、通常掘削用の加泥材を構成する材料や配合は限定されるものではない。本実施形態のシールドマシン1は、図1に示すように、前端に設けられたカッターヘッド(カッタースポーク)2とその後方に設けられた隔壁3とを備えており、カッターヘッド2と隔壁3との間にチャンバー4が形成されている。カッターヘッド2には、複数のカッタービット21,21,…が固定されている。隔壁3には、作業員が出入りするためのマンホール(図示せず)が形成されている。また、シールドマシン1の内部には、チャンバー4内の掘削土(泥土6)を排出するためのスクリューコンベア5が設けられている。スクリューコンベア5は、隔壁3を貫通して、チャンバー4に接続されている。また、シールドマシン1に推力を与えるシールドジャッキ11が設けられているとともに、カッターヘッド2に回転力を付与するモーター22が設けられている。
泥土圧式シールド工法では、チャンバー4内において、カッタービット21,21,…で掘削した土砂に加泥材を添加して練り混ぜることで、不透水性と塑性流動性を持つ泥土6を生成し、これをチャンバー4内に充満させる。この状態を維持しながらシールドジャッキ11の推力によりチャンバー4内の泥土6に泥土圧を発生させ、切羽Kの土圧と地下水圧に対抗し、シールドマシン1の掘進量と排土量のバランスを図りながら掘進する。
【0011】
第一凍結工程では、図2に示すように、シールドマシン1の停止位置(カッタービット21の交換予定位置)周辺の地盤(凍結領域A)を、シールドマシン1が停止位置に到達する前に凍結しておく。本実施形態では、図3(a)および(b)に示すように、地上から凍結領域Aに向けた複数の凍結管7,7,…を打設し、これらの凍結管7,7,…に-30℃~-35℃程度の冷媒を循環させることにより、凍結領域Aの地山(地下水)を凍結する。凍結した凍土の平均的な温度は、-10℃程度である。凍結管7,7,…は、トンネル施工カ所の周囲に配管する。なお、凍結管7は、シールドマシン1内から、前方に向けて挿入してもよい。このとき、第一凍結工程において凍結する範囲(凍結領域A)は、少なくとも、シールドマシン1による掘削断面よりも大きな面積で、かつ、少なくともシールドマシン1の先端から隔壁3までの距離以上の延長を有する範囲とする。すなわち、凍結領域Aは、停止位置において停止させたシールドマシン1の先端部を覆っている。凍結管7は、シールドマシン1と接触することが無いように、かつ、凍結領域A全体を凍結させることが可能となるように配管する。なお、シールドマシン1を停止させた際に、切羽Kからシールドマシン1のテールまでの範囲を含むように地盤を凍結させれば、土砂や地下水等がシールドマシン1内へ流入することをより確実に防止できる。
【0012】
第二掘進工程では、不凍結材が混入された不凍結加泥材を利用して掘進する。第二掘進工程は、カッタービット21の交換が予定された位置(停止位置)にシールドマシン1が到達する手前から開始する。本実施形態では、停止位置の1リング(約1m)手前から不凍結加泥材を供給し始める。なお、不凍結加泥材を供給し始めるタイミングは、シールドマシン1を停止した際にチャンバー4内の泥土6全体に不凍結加泥材が行きわたらせることが可能であればよく、停止位置から1リング手前に限定されるものではない。
第二掘進工程では、カッタービット21で掘削した土砂に不凍結加泥材を添加してチャンバー4内において練り混ぜることで、不透水性、塑性流動性および不凍結性を持つ泥土6を生成し、これをチャンバー4内に充満させる。この状態を維持しながらシールドジャッキ11の推力によりチャンバー4内の泥土6に泥土圧を発生させ、切羽Kの土圧と地下水圧に対抗し、シールドマシン1の掘進量と排土量のバランスを図りながら掘進する。このとき、凍結領域Aは予め凍結されているため、不凍結材が地盤内に流出し難くなっている。
【0013】
不凍結加泥材は、ベントナイトと、水と、増粘剤と、不凍結材とを含んでいる。本実施形態では、不凍結材として塩化ナトリウムを使用する。加泥材中の水と塩化ナトリウムとの合計に対する塩化ナトリウムの濃度は、15重量%~70重量%の範囲内、より好ましくは25重量%~55重量%の範囲内とする。また、加泥材の添加量は、チャンバー4内において掘削土と混合した際に、掘削土に含まれる水分、加泥材に含まれる水分および塩化ナトリウムの合計に対する塩化ナトリウムの濃度が14重量%~24重量%の範囲内、好ましくは15重量%~17重量%の範囲内になるように設定する。なお、不凍結材を構成する材料は、塩化ナトリウムに限定されるものではなく、例えば、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、CMA、ギ酸ナトリウム、けい酸ソーダ、グリセリン、エチレングリコール等を使用してもよい。また、加泥材中の水に対するベントナイトの割合が17重量%~28重量%の範囲内にするのが望ましい。
なお、加泥材の配合設計には、土質調査結果等から求まる地山の含水率の推定値を使用する。また、土砂に対する加泥材の添加量(注入率)は、スランプ試験により所定のスランプ値(例えば、10cm~15cm)を確保できる値とする。
【0014】
第二凍結工程では、掘進を停止してトンネル掘削機の周辺地盤を凍結する。なお、シールドマシン1の停止とともに、不凍結加泥材の注入も停止する。第二凍結工程では、第一凍結工程において使用した凍結管7による凍結を引き続き実施するとともに、シールドマシン1から挿入した凍結管、または、シールドマシン1の外殻に設置された凍結手段(図示せず)により、地上から打設した凍結管7によって凍結できない部分(例えば、シールドマシン1の下方等)およびシールドマシン1に面する地盤を凍結する。これにより、凍結領域Aとシールドマシン1の前胴部分との一体化を図る。このとき、チャンバー4内の内容物(泥土6)全体に不凍結加泥材が混合されているため、チャンバー4内の泥土6が完全に凍結することが防止されている。
【0015】
交換作業工程では、図4に示すように、カッタービット21の交換を行う。まず、チャンバー4内に作業員が入り込むことが可能となるように当該チャンバー4内の泥土6を掘削する。次に、作業員は、チャンバー4を通過して、カッターヘッド2のスポークの間を通ってシールドマシ1ンの外(カッターヘッド2と切羽Kとの間)に出る。そして、カッターヘッド2の前面において、カッタービット21の交換作業を行う。カッタービット21の交換作業が終了したら、第一掘削工程を再開する。
【0016】
本実施形態の泥土圧式シールド工法および止水方法によれば、チャンバー4内の泥土6に不凍結材が混合されるので、チャンバー4内の泥土6が周辺地盤とともに凍結することを防ぐことができる。そのため、チャンバー4内に作業員が入り込む際に、チャンバー4内の泥土6を除去しやすい。
また、シールドマシン1の停止位置の手前から不凍結加泥材を供給し始めるため、シールドマシン1が停止位置に到達した際にはチャンバー4内に不凍結材が行きわたっている。そのため、チャンバー4内の泥土6が完全に凍結することがない。
また、不凍結加泥材には、加泥材中の水と塩化ナトリウムとの合計に対する塩化ナトリウムの濃度が、15重量%~70重量%の範囲内、好ましくは25重量%~55重量%の範囲内、より好ましくは40重量%~55重量%の範囲内で塩化ナトリウムが添加されており、泥土6に含まれる水分と塩化ナトリウムとの合計に対する塩化ナトリウムの濃度が14重量%~24重量%の範囲内、好ましくは15重量%~17重量%の範囲内になるように、加泥材と掘削土とを混合することで、-10℃で凍結することが無く、ポンプによる注入が可能な程度の粘性を確保できる。したがって、不凍液分のみが流出することが防止されている。また、飽和塩化ナトリウムの凝固点は-21℃であるため、凍結工法における凍土の平均的な温度である-10℃の環境下においてもチャンバー4の泥土の凍結を防止できる。
また、加泥材中の水に対するベントナイトの割合が17重量%~28重量%の範囲にあることで、ポンプによる注入が可能な程度の粘性を確保でき、材料分離抵抗性(ブリージング率3%以下)を確保しているため、不凍結材が余掘り部分を介して流出することや周辺地盤に浸透することなどにより地山の凍結を妨げることもない。
また、塩化ナトリウム及びベントナイトの濃度を前記の範囲に調整することで、施工に必要な塑性流動性(スランプ値10cm~15cm)を確保しているため、切羽圧の保持およびスクリューコンベア5を利用した土砂の排出が可能である。
【0017】
続いて、本実施形態の加泥材の性能を確認するために実施した室内実験の結果を示す。
本実験では、比重2.5のベントナイトおよび比重2.18の塩化ナトリウムの配合量を変化させた加泥材を作製し、3時間後のブリージング率、粘性を測定した。ブリージング率は、JSCE-F 522に準拠して3時間後のブリージング率を測定した。粘度は、東機産業(株)製のBII形回転式粘度計を用いて測定した。さらに、その中から一種類の加泥材を添加した泥土の-10℃環境での性状と、ミニスランプを測定した。
まず、ベントナイト、塩化ナトリウム、水を混合して加泥材を作製した。本実験では、各材料の配合を変化させて、数種類の加泥材を作製した。各加泥材の配合およびブリージング率、粘性を表1に示す。
【0018】
【表1】
【0019】
水に対するベントナイトの割合が15重量%(配合1)だと、ブリージング率が3%以上となった。一方17重量%(配合2)ではブリージング率は3%以下となる事が確認された。また、水に対するベントナイトの割合が29重量%(配合7、8)だと、粘性が増加し、ポンプによる圧送が難しくなる事が確認された。したがって、加泥材中の水に対するベントナイトの割合は17~28重量%の範囲とすることが望ましいことが確認された。
加泥材中の水と塩化ナトリウムとの合計に対する塩化ナトリウムの濃度が75重量%(配合16)だと、不凍結材(塩化ナトリウム)の量が多く、流動性を確保できなくなり(粘性が測定不能)、ポンプによる圧送が難しくなることが確認された。したがって、加泥材中の水と塩化ナトリウムとの合計に対する塩化ナトリウムの濃度は70重量%以下とすることが望ましい。なお、加泥材中の水と塩化ナトリウムとの合計に対する塩化ナトリウムの濃度が、40重量%~55重量%の範囲内(配合5,9,10)であれば、ブリージング率が0%となる。
【0020】
表1に示す配合4の加泥材について砂および水と混合して泥土を作製し、この泥土の不凍性を確認するとともに、当該泥土に対してミニスランプ試験を実施した。泥土は、砂100ml+水30mlに対する割合が10重量%および15重量%となるように加泥材を添加した。不凍性の確認は、-10℃環境下に泥土を24時間静置して、凍結したか否かを確認した。また、ミニスランプ試験は、平板上に立設されたミニスランプコーンに泥土を投入し、引き抜き後の沈下高さを測定した。試験結果を表2に示す。
【0021】
【表2】
【0022】
泥土中の水分に対する塩化ナトリウムの濃度が12重量%だと、泥土の一部が凍結する結果となった。一方、泥土中の水分に対する塩化ナトリウムの濃度が15重量%以上の場合は、泥土が凍結しないことが確認された。したがって、泥土中の水分に対する塩化ナトリウムの濃度は、12重量%より濃く、好ましくは14重量%以上、より好ましくは15重量%前後にするのが望ましいことが確認できた。なお、塩化ナトリウムの飽和濃度は24重量%のため、不凍結材の流出を防止する観点から、塩化ナトリウムの濃度は24重量%以下であるのが望ましい。
また、ミニスランプが7.5cmとなり、泥土圧式シールド工法において、必要な流動性を確保できることが確認できた。なお、泥土圧式シールド工法において泥土に必要なスランプ値(通常のスランプ試験によるスランプ値)は、一般的に10cm~15cmが良いとされている。本室内実験におけるミニスランプ試験では、目標値を5.0cm~7.5cmとした。
【0023】
<第二実施形態>
第二実施形態では、泥水式シールド工法において凍結工法を実施する場合について説明する。
本実施形態の泥水式シールド工法は、掘進工程と、第一凍結工程と、置換工程と、第二凍結工程とを備えている。
掘進工程では、切羽Kに供給された泥水の圧力によって切羽Kの土圧と地下水圧に対抗しつつ、シールドマシン1の掘進量と排泥量のバランスを取りながら掘進する。本実施形態のシールドマシン1は、図5に示すように、前端に設けられたカッターヘッド(面板)2とその後方に設けられた隔壁3とを備えており、カッターヘッド2と隔壁3との間にチャンバー4が形成されている。カッターヘッド2には、複数のカッタービット21,21,…が固定されている。隔壁3には、作業員が出入りするためのマンホール(図示せず)が形成されている。また、シールドマシン1の内部には、チャンバー4内に泥水を供給する送泥手段81とチャンバー4内の泥水を排出する排泥手段82とが設けられている。送泥手段81および排泥手段82は、隔壁3を貫通して、チャンバー4に接続されている。また、シールドマシン1に推力を与えるシールドジャッキ11が設けられているとともに、カッターヘッド2に回転力を付与するモーター22が設けられている。
カッタービット21,21,…で掘削した土砂は、チャンバー4内において泥水と混合した後、排泥手段82を介してトンネル坑外に排出する。
【0024】
第一凍結工程では、シールドマシン1の停止位置周辺の地盤を、シールドマシン1が当該領域(凍結領域A)に到達する前に凍結する(図3参照)。第一凍結工程の詳細は、第一実施形態の第一凍結工程と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0025】
置換工程では、チャンバー4内の泥水を不凍結加泥材に置き換える。まず、シールドマシン1による掘進を所定の位置で停止する。シールドマシン1を停止させたら、排泥手段82を介してチャンバー4内の泥水を排出するとともに送泥手段81を介して不凍結加泥材を供給して、チャンバー4内の泥水を不凍結加泥材に置き換える。このとき、凍結領域Aは予め凍結されているため、不凍結材が地盤内に流出することが防止されている。なお、置換工程では、シールドマシン1に形成された環状部材9を利用してシールドマシン1の外面と地盤との隙間(余掘り部分)を遮蔽する。環状部材9は、シールドマシン1の外殻から外側に突出する部材であって、隔壁3の孔口側に設けられている。環状部材9の構成は限定されるものではなく、例えば、流体を注入することにより膨張するチューブ状部材であってもよい。また、環状部材9は、必要に応じて設ければよい。また、チャンバー4への不凍結加泥材の供給方法は限定されるものではなく、送泥手段81とは別の供給手段を介して供給してもよい。
不凍結加泥材は、ベントナイトと、水と、増粘剤、不凍結材とを含んでいる。本実施形態では、不凍結材として塩化ナトリウムを使用する。加泥材中の水と塩化ナトリウムとの合計に対する塩化ナトリウムの濃度は、15重量%~65重量%の範囲内、より好ましくは25重量%~35重量%の範囲内とする。また、加泥材の添加量は、チャンバー4内において掘削土と混合した際に、掘削土に含まれる水分、加泥材に含まれる水分および塩化ナトリウムの合計に対する塩化ナトリウムの濃度が14重量%~24重量%の範囲内、好ましくは15重量%~17重量%の範囲内になるように設定する。なお、不凍結材を構成する材料は、塩化ナトリウムに限定されるものではなく、例えば、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、CMA、ギ酸ナトリウム、けい酸ソーダ、グリセリン、エチレングリコール等を使用してもよい。また、不凍結加泥材は、ブリージング率が0%になるように調整する。加泥材中の水に対するベントナイトの割合が21~28重量%の範囲内にするのが望ましい。こうすることで、不凍結材が周辺地盤に流出することを防止するとともに、-10℃においてもチャンバー4内の内容物(加泥材)が凍結することを防止する。
【0026】
第二凍結工程では、シールドマシン1の周辺地盤を凍結する。第二凍結工程では、第一凍結工程において使用した凍結管7による凍結を引き続き実施するとともに、シールドマシン1から挿入した凍結管、または、シールドマシン1に設置された凍結手段により、地上から打設した凍結管7によって凍結できない部分(例えば、シールドマシン1の下方等)およびシールドマシン1に面する地盤を凍結する。これにより、凍結領域Aとシールドマシン1の前胴部分との一体化を図る。本実施形態では、シールドマシン1の先端(切羽K)から隔壁3(環状部材9)までの区間の周囲の地盤を凍結させる。このとき、チャンバー4内の内容物(加泥材)全体に不凍結加泥材が混合されているため、チャンバー4内の加泥材が凍結することが防止されている。
【0027】
本実施形態の泥水式シールド工法および止水方法によれば、チャンバー4内の加泥材に不凍結材が混合されるので、チャンバー4の内容物が周辺地盤とともに凍結することを防ぐことができる。そのため、チャンバー4内に作業員が入り込む際に、チャンバー4内の内容物を除去しやすい。
また、切羽Kから隔壁3(環状部材9)までの範囲を含むように地盤を凍結させることで、凍結した地盤と、シールドマシン1の胴部分とが一体化されて、不凍結材が地下水へ浸出することを防止できるとともに、余掘り部を介して土砂や地下水等が流入することを防止できる。
【0028】
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明は前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
例えば、チャンバー4内に間隙水圧計等の圧力計を設けておいてもよい。間隙水圧計の測定値により、チャンバー4内の加圧状態を確認することで、周辺地盤の凍結状態を確認することができる。すなわち、チャンバー4内の圧力が低下しない場合は、地下水が流入し続けていることになる。この場合には、冷媒の温度をさらに下げて、チャンバー4内を凍結させればよい。
【符号の説明】
【0029】
1 シールドマシン(トンネル掘削機)
11 シールドジャッキ
2 カッターヘッド
21 カッタービット
22 モーター
3 隔壁
4 チャンバー
5 スクリューコンベア
6 泥土
7 凍結管
81 送泥手段
82 排泥手段
凍結領域
K 切羽
図1
図2
図3
図4
図5