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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】碍子交換補助具
(51)【国際特許分類】
   B60M 1/28 20060101AFI20231122BHJP
   H02G 1/02 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
B60M1/28 K
H02G1/02
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020070467
(22)【出願日】2020-04-09
(65)【公開番号】P2021167129
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2023-04-10
(73)【特許権者】
【識別番号】399039719
【氏名又は名称】東日本電気エンジニアリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591083772
【氏名又は名称】株式会社永木精機
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【弁理士】
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】前原 達也
(72)【発明者】
【氏名】武田 一樹
(72)【発明者】
【氏名】野川 保次
(72)【発明者】
【氏名】グエン ドゥック ズイ
【審査官】冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3212406(JP,U)
【文献】特開2010-172140(JP,A)
【文献】特開2014-143811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60M 1/28
H02G 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状部分を有する設置対象に設置されている碍子に支持された吊架線を仮支持することにより、前記碍子の交換作業を補助する碍子交換補助具であって、
前記吊架線を把持する吊架線把持部と、
一端側に前記吊架線把持部が連設され、伸縮機構を有した伸縮部と、
前記伸縮部の伸縮方向を軸とする径方向へ延設され、先端側には前記設置対象のうち前記軸の周方向へ延びる前記板状部分を差し込み可能な間隙が形成された差込部と
を備えたことを特徴とする碍子交換補助具。
【請求項2】
前記差込部は、前記一端から他端までの間に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の碍子交換補助具。
【請求項3】
前記差込部の前記間隙は、前記径方向の内側へ向けて切り込むように形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の碍子交換補助具。
【請求項4】
前記差込部は、前記伸縮部に対して、前記伸縮方向に直交する仮想平面に沿った相対的な摺動が可能な摺動部を備えたことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の碍子交換補助具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、跨線橋等の建物を通す、き電線等を支持する碍子を交換する際に用いる碍子交換補助具に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道の駅舎内ではき電線等の吊架線は、跨線橋等の建物に対して碍子を介して支持されている。これらの碍子は、保守・点検の際に破損や汚れが著しい場合に交換される。吊架線を支持している碍子には、吊架線から張力又は圧力が作用していることが多い。したがって、交換作業を行うためには、予めこれらの外力から碍子を解放しておく必要がある。
【0003】
碍子に張力が生じている場合、碍子側へ吊架線を押し付けるように支持して交換作業の負担を軽減するために、図11のような碍子取替工具100が使用される。支持棒101の上方には伸縮部102が設けられており、この伸縮部102の先端には、吊架線を保持することができる吊架線支持部103が備えられている。作業者は支持棒101と伸縮部102との間に設けられたハンドル104を支えながら、軌陸車の作業台などの上で吊架線支持部103によって吊架線を押し上げることができる。このように吊架線を押し上げることにより碍子に加わっていた張力を解放し、碍子の交換を容易に行える状態にする。このような技術については特許文献1に記載がある。
【0004】
同様に、碍子に張力が生じている場合、図12に示すように、碍子52を設置している腕金等の設置対象側へ腕金固定部202を介して取り付けたき電線仮支持具200が利用されることがある。このき電線仮支持具200に備えられる張線器201の収縮操作により吊架線51を碍子52側へ引き寄せることによって碍子52に加わる張力が解放され、碍子交換が容易になる。このような技術については特許文献2に記載がある。
【0005】
一方、碍子が吊架線から圧力を受けている場合、図12に示したき電線仮支持具200のような張線器201を備えた工具を、軌陸車の作業台の手摺などを利用して取り付け、軌陸車側へ吊架線を引き寄せるといった工法が採用されることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-208423号公報
【文献】特開2017-039353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の従来技術のように、軌陸車の作業台を足場にして碍子を外力から解放する碍子交換補助作業では、作業台に加わる力の大きさを想定することが難しく作業台の台付けが破損する可能性があり安全上の問題がある。
【0008】
また、図12のような構成において、Uボルトを設置することができないために、き電線仮支持具200を腕金固定部202へ容易に取り付けることができない場合がある。このような場合、台付けロープ等を利用することが多いが、この台付ロープ等を碍子の設置対象へ取り付けることも容易ではない。
【0009】
そこで、本発明は、特別な固定具を用いずに、碍子の設置対象に容易に取り付けることができ、張力・圧力を問わず、碍子を外力から解放することができる碍子交換補助具を提
供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の碍子交換補助具は、板状部分を有する設置対象に設置されている碍子に支持された吊架線を仮支持することにより、前記碍子の交換作業を補助する碍子交換補助具であって、前記吊架線を把持する吊架線把持部と、一端側に前記吊架線把持部が連設され、伸縮機構を有した伸縮部と、前記伸縮部の伸縮方向を軸とする径方向へ延設され、先端側には前記設置対象のうち前記軸の周方向へ延びる前記板状部分を差し込み可能な間隙が形成された差込部とを備えたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の碍子交換補助具は、上記構成に加えて、前記差込部が前記一端から他端までの間に設けられていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の碍子交換補助具は、上記構成に加えて、前記差込部の前記間隙が、前記径方向の内側へ向けて切り込むように形成されていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の碍子交換補助具は、上記構成に加えて、前記差込部が前記伸縮部に対して、前記伸縮方向に直交する仮想平面に沿った相対的な摺動が可能な摺動部を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、伸縮部の一端側に吊架線把持部が設けられているので、吊架線把持部で把持した吊架線を基準にして伸縮部を伸縮させることができる。伸縮方向を軸とする径方向へ差込部が延設されており、この差込部の先端側には、設置対象のうち、伸縮方向を軸とする周方向に延びる板状部分を差し込むことができる間隙が形成されている。これにより、碍子の設置対象の板状部分を間隙に差し込むことにより、吊架線とは異なる他端側で伸縮部を固定することができる。この状態で伸縮部を伸縮させると、吊架線把持部を足場にして伸縮部が反力として張力又は圧力を受ける。このとき、伸縮部の他端側で間隙は、捩じるようにして板状部分との係合を強める。このように、伸縮部の伸縮動作を利用して碍子の設置対象に対する差込部の固定を強化できるので、締結などの作業は不要となり作業効率を向上させることが可能となる。
【0015】
また、本発明によれば、上記効果に加えて、差込部は伸縮部の一端から他端までの間に設けられているので、碍子交換補助具を、伸縮部よりも狭い範囲において吊架線と設置対象とに固定することができる。言い換えれば、吊架線と設置対象との間隔よりも大きなストロークで伸縮させることが可能となる。
【0016】
また、本発明によれば、上記効果に加えて、差込部の間隙が伸縮方向を軸とする径方向の内側へ向けて切り込まれているので、間隙部分を設置対象の板状部分に向けて突き出すように差込部を押し付けるだけで、設置対象側への固定が完了する。
【0017】
また、本発明によれば、上記効果に加えて、腕金等の設置対象に差込部を取り付けた際、伸縮部を伸縮方向に直交する仮想平面内の摺動部で摺動させることができるので、腕金に対して吊架線が傾斜して配置されていても、吊架線に対する吊架線把持部の位置合わせを仮想平面に沿った摺動によって調節することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1の実施の形態に係る碍子交換補助具の全体斜視図である。
図2】吊架線把持部及びその近傍の拡大図である。
図3】当接部の拡大平面図である。
図4】差込部の側面図である。
図5】碍子交換補助具の使用状態を示した全体斜視図である。
図6】使用状態における差込部であり、(a)は圧力解放時の状態、(b)は張力解放時の状態を示す側面図である。
図7】差込部の変形例を模式的に表し、(a)は下方にスリットが形成された差込部、(b)は伸縮軸から離れる向きにスリットが形成された差込部を示した図である。
図8】第2の実施の形態に係る碍子交換補助具の全体斜視図である。
図9図8の碍子交換補助具使用状態を示した全体斜視図である。
図10図8の碍子交換補助具の使用状態であり、(a)は腕金と吊架線とが直交配置の場合、(b)は傾斜配置の場合、(c)は(b)とは逆の傾斜配置の場合を示した平面図である。
図11】従来の碍子取替工具を示す図である。
図12】従来のき電線仮支持具を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態に係る碍子交換補助具について図を用いて説明する。
【0020】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態に係る碍子交換補助具1の全体斜視図である。
【0021】
碍子交換補助具1は、伸縮可能な伸縮部2を備えている。伸縮部2は下方側の側面に回転力を入力するための入力部2aを備えている。入力部2aには回転力を与えるラチェット式のハンドル10が脱着可能に取り付けられている。このハンドル10を回転操作することにより伸縮部2を伸縮動作させることができる。ハンドル10を脱着可能に設けているので、持ち運びの際にコンパクトに収納でき、また、状況に応じて手動式のハンドル10の代わりに電動工具を用いることも可能である。
【0022】
伸縮機構などの内部構造については図示を省略しているが、本実施の形態に係る構成では、互いの回転軸を90度の関係で相対配置した2つの傘歯車により回転力が伝達される構成となっている。伝達された回転力によって送りネジの機構のナット側が昇降することにより、伸縮部を伸縮させることができる。
【0023】
このような伸縮部2の一端である下方側には吊架線把持部4が、また他端である上方側には壁面に当接させるための当接部8が設けられている。
【0024】
図2は、吊架線把持部4及びその近傍の拡大図である。図1の全体斜視図と併せて図2を参照する。
【0025】
吊架線把持部4は、下方が開放したコの字型の枠体部4aと、この枠体部4aの開放部分を開閉する閉鎖ピン4bとから構成されている。閉鎖ピン4bを横方向にスライドさせることによって枠体部4aの下方側を開閉できる。閉鎖ピン4bの外側の軸端には環状の係合部4b1が設けられているので、遠隔位置からでも遠隔操作工具などを引っ掛けて容易に開閉操作することができる。この係合部4b1とは逆の内側の軸端側にはプランジャー4b2が設けられているので、閉じた状態を安定して保持できる。また、係合部4b1は環状に形成されているので、捩じることが容易である。これにより、係合部4b1に引っ掛けた工具を閉鎖ピン4bの軸回りに回転させると、容易にプランジャー4b2を解除することもでき、そのまま引き抜くことが可能である。
【0026】
上記のような構成により、吊架線把持部4は、簡単な操作によって下方から吊架線を収容し、把持することができる。
【0027】
図3は、碍子交換補助具1の平面図である。図1の全体斜視図と併せて図3を参照する。
【0028】
図3には上方の当接部8が表れている。当接部8には碍子設置対象の跨線橋下部等などの壁面に当接させて安定させるための平坦な接触面8aが形成されている。本実施の形態に係る構成では、接触面8aは伸縮方向に垂直な平面で形成されている。伸縮部2の位置は当接部8の内側に点線で示されている。図3に表れているように、平面視において当接部8の範囲内に伸縮部2を含むように構成すると、伸縮部2に力が生じた場合にも安定する。
【0029】
また、本実施の形態に係る構成では、当接部8から腕金に連結される差込部6が、伸縮部2の伸縮方向を軸とする周方向に間隔を置き、径方向に延びるように平行に2本設けられている。伸縮部2から差込部6の先端までの長さは、交換対象の碍子の半径を超える程度に設計されていると、伸縮部2が碍子と干渉することなく設置できる。
【0030】
ここで、周方向とは、伸縮方向の軸を中心とする円弧状の方向ではなく、周の接線方向を指すものとする。これにより、差込部6に差し込まれた腕金等の設置対象と伸縮部2とは立体交差状に配置される。
【0031】
図4は、差込部6の側面図である。ここで、図1及び図3に対して、更に図4を加えて参照する。
【0032】
差込部6は当接部8よりも下方に延びている。このように構成されているので、当接部8を碍子設置対象の跨線橋下部等の壁面に当接させて配置した場合であっても、差込部6だけは壁面から浮いた状態になるので障害になることはない。
【0033】
加えて、当接部8よりも低い位置に差込部6が設けられていると、腕金等の碍子の設置対象と吊架線との距離を超える長さの伸縮部2を用いることができる。すなわち、長い伸縮部2を採用することができるので、伸び代を大きく設定することが可能となる。これは、碍子の設置対象と吊架線との間の距離に比較して、吊架線を大きく動かしたいような場合に有利な構造である。
【0034】
また、差込部6は伸縮部2の伸縮方向を軸とする径方向の外側へ向けて延設されているのが見て取れる。2つの差込部6には、水平方向に拡がる板状部材を差し込むことができるスリット6a(間隙)が形成されている。少なくとも、これらのスリット6aの間隔L1は、後述するアングル材を利用した腕金のうち、板状の水平部を収容できる寸法に形成されている。
【0035】
このスリット6aの深さL2は、差し込まれた板状部材に対して、差し込み方向以外の角度で差込部6が相対的に傾斜した場合であっても、容易に外れないような寸法に設定しておく必要がある。したがって、少なくとも、スリット6aの間隔L1よりも深さL2の方が大きくなるように設定するの望ましい。
次に、碍子交換補助具の使用状態について説明する。
図5は、碍子交換補助具1の使用状態を示した全体斜視図である。本実施の形態では、碍子52の設置対象である腕金50がアングル材で構成されている場合を例として示している。
碍子52は腕金50の下方で碍子取付金具53を介して垂下設されている。そして、き電線等の吊架線51が碍子52の下端に設けられた平行クランプ54によって支持されている。腕金50の延びる方向と吊架線51の延びる方向とは、平面視において直交するよう
な、立体交差状の位置関係になっている。このように用いられる碍子52には、吊架線51から張力又は圧力の何れかの外力が加わっていることが多い。
【0036】
ここで、碍子交換補助具1を用いた碍子の交換作業について、順を追って説明する。
<1> まず、差込部6のスリット6a内に腕金50の板状の水平部50bを差し込むようにして、碍子交換補助具1の上方を腕金50に取り付ける。本実施の形態に係る構成では、差込部6のスリット6aの間隔L1(図4参照)は、腕金50の水平部50bと共に碍子取付金具53も差し込むことができる寸法に設定されているので、碍子52の近傍に差込部6を設置することができる。
<2> そして、下方の吊架線把持部4の閉鎖ピン4bを開放し、下方から吊架線51を収容する。上述のように、スリット6aの深さL2(図4参照)は、差込部6が腕金50の水平部50bに対して容易に係合が外れない寸法に設定されているので、吊架線把持部4に吊架線51を収容する際に、<1>の工程で設置した差込部6が外れることを心配する必要はない。
<3> 次に、碍子52の側方において伸縮部2が吊架線51に対して垂直に配置される。図3を用いて説明したように、差込部6の先端は、伸縮部2から十分に離れた位置まで延設されているので、伸縮部2は碍子52と干渉することなく配置することができる。
<4> ここで、ハンドル10を回転操作して伸縮部2の長さを調節する。吊架線51に対して伸縮方向が垂直になるように伸縮部2が配置されているので、伸縮動作によって吊架線51に効率良く、且つ、安定して力を加えることができる。
<5> 碍子52に加わっている外力が圧力の場合には、吊架線51を押し返すために伸縮部2を伸長させるように操作される。また、碍子52に加わっている外力が張力の場合には、吊架線51を引き寄せるために伸縮部2を収縮させるように操作される。このようにして、碍子52は外力から解放される。
<6> 吊架線51による外力から解放された状態で碍子の交換が行われ、交換後に、伸縮部2を元の長さに戻して碍子交換補助具1が取り外される。
【0037】
以上のような<1>~<6>の手順によって碍子交換作業が完了する。
【0038】
本実施の形態に係る碍子交換補助具1を用いれば、腕金50等の碍子52の設置対象に対してスリット6a部分を係合させるだけで固定作業なしに取付が完了するので、作業時間が大幅に短縮される。また、伸縮動作に伴い腕金50を捩じる方向に差込部6から加わる力が増大するに連れて、両者間の係合も強化されるので、安定した作業を行うことが可能である。さらに、スリット6aの深さL2を十分に深く設計してあれば、万が一、作業者が手を滑らせた場合であっても、腕金50の板状部分がスリット6aから抜けてしまうことを防止できる。
【0039】
なお、本実施の形態に係る構成では、差込部6の基端側に当接部8が設けられている。したがって、腕金50の上方の近い位置に下向きの壁面がある場合は、差込部6側で腕金50に取り付ける代わりに、当接部8を壁面に当接させるだけで、吊架線51からの反力を受けることが可能である。この場合は、下方の吊架線把持部4に吊架線51を収容するだけで仮設置が完了するので、状況によっては更に作業時間を短縮することが可能となる。
【0040】
次に、差込部6の作用について説明する。
【0041】
図6は、使用状態における差込部6の側面図である。(a)は碍子52の圧力解放時の状態、(b)は碍子52の張力解放時の状態を示している。アングル材である腕金50には斜線を施して表している。
【0042】
図6(a)に示すように、吊架線からの圧力を解放するためには、吊架線を碍子52側から押し退けるようにして伸縮部2を伸長させる必要がある。伸縮部2が伸長すると、吊架線からの反力によって、当接部8を介して伸縮部2から延設されている差込部6の基端側が持ち上がる。基端側が持ち上がると、腕金50の水平部50bの上面と下面の異なる位置(図6(a)中に矢印で示した位置)に、回転したスリット6aの内側が押し付けられる。このようにして係合状態が形成されて安定し、伸縮部2を介して伝達される吊架線からの反力を受けることができる。
【0043】
これに対して、図6(b)に示すように、碍子52に加わる張力を解放するためには、吊架線を碍子52側へ引き寄せるようにして伸縮部2を収縮させる必要がある。伸縮部2が収縮すると、引き戻そうとする吊架線によって、差込部6の基端側が引き下げられる。基端側が引き下げられると、腕金50の水平部50bの上面と下面の異なる位置(図6(b)中に矢印で示した位置)に、回転したスリット6aの内側が(a)の状態とは逆の関係で押し付けられる。このようにして、同様に係合状態が形成されて安定し、吊架線からの反力を受けることができる。
【0044】
(差込部6の変形例)
図7は、図1の碍子交換補助具1の差込部6の変形例であり、(a)は伸縮方向にスリット30aが形成された差込部30、(b)は伸縮方向を軸とした径方向にスリット40aが形成された差込部40を示した模式図である。伸縮部2の伸縮方向と径方向を矢印によって示している。
【0045】
図7(a)のように伸縮方向にスリット30aが形成されていても、図6の例と同様に、差込部30の回転により係合状態は形成できる。腕金50の上方に差込部30を差し入れる空間があれば、上方から引っ掛けるようにして腕金50の垂直部50aをスリット30aに差し込むことができる。この場合、差込部30をガイドとし、径方向の基端側から先端側へ向けて腕金50の上方(垂直部50aの上端)を滑らせるようにしてスリット30a位置に導くと、容易に係合させることが可能であり、視認性の良くない状況では有利となる。
【0046】
図7(b)のように逆向きにスリット40aが形成されていても、同様に係合状態を形成することができる。図7(a)と同様に、差込部40の径方向の基端側から先端側へ向けて腕金50の下方(水平部50bの下面)を滑らせるようにしてスリット40a位置に導くと、容易に係合させることが可能である。
【0047】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態に係る碍子交換補助具21について説明を行う。第1の実施の形態と同一の構成については同一の符号を付して示す。
【0048】
図8は、第2の実施の形態に係る碍子交換補助具21の全体斜視図である。
【0049】
本実施の形態に係る構成では、当接部28の構成が第1の実施の形態とは異なっている。平坦面の形成されている接触面28aの中に摺動部としての長孔28bが形成されている。長孔28bは2つの差込部6の配列方向と平行に延びるように形成されている。伸縮部2の一端には、第1の実施の形態と同様に吊架線把持部4が設けられているが、他端側は、上記の長孔28b内を摺動可能に、かつ、伸縮方向を軸とした軸回りに回転可能に当接部28へ連結されている。
【0050】
このように構成されているので、吊架線把持部4の閉鎖ピン4bの延びる方向と2本の差込部6の配列方向とを異なる方向に配置することができる。これにより、図9を用いて
後述するように、腕金と吊架線とが直交配置されていない場合であっても差込部6の配列方向に対して吊架線把持部4の向きを自由に傾斜させて配置することが可能となる。
【0051】
次に、碍子交換補助具21の使用状態について説明する。
【0052】
図9は、碍子交換補助具21の使用状態を示した全体斜視図である。
【0053】
図9では、平面視において、吊架線51が腕金50に対して90度以外の角度に傾斜して張設されている例が示されている。図8に示した碍子交換補助具21では、伸縮部2は、当接部28の長孔28bの中央に位置していた。しかし、図9では、傾斜した吊架線51に合わせて、伸縮部2が長孔28bの片側に寄せて配置された状態が示されている。伸縮部2が長孔28bに沿って配置を変えると共に、吊架線把持部4の向きも変えているのが見て取れる。吊架線把持部4は、吊架線51に対して閉鎖ピン4bを直交させる配置で安定して吊架線51を把持できる。
【0054】
このように吊架線51の張設されている位置に合わせて伸縮部2を移動させることができるので、常に、吊架線51に対して伸縮部2を垂直に配置することが可能となる。よって、伸縮量は最小で済むため、伸縮部2をコンパクトに設計することができる上、伸縮動作が小さくなるので作業効率が向上する。
【0055】
図10は、碍子交換補助具21の使用状態を示しており、(a)は腕金50と吊架線51とが直交配置の場合、(b)は腕金50と吊架線51とが傾斜配置の場合、(c)は腕金50と吊架線51とが(b)とは逆の傾斜配置の平面図である。
【0056】
図10(a)に示すように、腕金50と吊架線51とが直交配置の場合は、長孔28bの中央位置に伸縮部2を配置すると、伸縮部2を吊架線51及び腕金50に対して垂直に配置することができる。これにより、碍子52に加わっている外力と平行に力を加えることが可能となる。
【0057】
図10(b)に示すように、腕金50と吊架線51とが傾斜配置の場合は、伸縮部2が吊架線51の直上から垂直に延びる位置まで長孔28b内をスライドさせて設置する。これにより、伸縮部2は腕金50と吊架線51とに対して共に直交配置となり、碍子52に加わっている外力と平行に力を加えることが可能となる。伸縮部2を長孔28b内をスライドさせると共に、軸回転も可能に構成されているので、吊架線把持部4の向きを吊架線51に合わせることが可能である。
【0058】
図10(c)の場合は、(b)とは逆に傾斜しているので、長孔28b内を(b)とは逆にスライドさせて設置する。これにより、(b)と同様に、碍子52に加わっている碍子52と平行に力を加えることが可能となる。
【0059】
図10(a)~(c)に示したように、平面視において長孔28bが吊架線51と重なる配置であれば、当接部28と吊架線51との距離が最短の位置、すなわち、碍子52と平行になる位置に伸縮部2を設置することが可能である。
【0060】
以上に述べてきたような構成は本発明の一例であり、以下のような変形例も含まれる。
【0061】
上記の実施の形態では、差込部6が2箇所設けられた構成を例として示した。しかし、少なくとも1箇所設けられていればよい。
【0062】
上記の実施の形態では、差込部6が当接部8から延設されている構成を例として示した
。しかし、差込部6と当接部8とは別体で構成されていても構わない。
【0063】
上記の実施の形態では、差込部6のスリット6aは板状部材に切り込みが形成されたものとして示した。しかし、板状部材を差し込むことができる間隙であれば、対向する平板の間に形成された間隙であっても構わない。
【0064】
上記の実施の形態では、差込部6のスリット6aの間隔L1は、開口側から奥側にかけて均等に形成されている構成を例として示した。しかし、差込部6に捻じり方向への力が作用した際に、差し込まれた板状部材と係合される構造であれば、間隔は均等でなくても構わない。
【0065】
上記の実施の形態では、差込部6が平行に2本設けられている構成を例として示した。しかし、差込部6は互いに平行でなくても構わない。また、平面視において直線状に形成されていなくても良い。例えば、腕金に対して差込部の先端同士が開くように形成されていても良い。
【0066】
上記の実施の形態では、吊架線把持部4は下方から吊架線を収容する構成を例として示した。しかし、下方以外に側方などから収容する構成であっても構わない。
【0067】
上記の実施の形態では、吊架線把持部4はコの字型の枠体と閉鎖ピン4bとによって構成された例を示した。しかし、碍子を外力から解放するために安定して吊架線を把持できる構成であれば、クランプ型の把持構造でも構わない。また、閉鎖ピン4bは、スライドさせる構造ではなく、旋回により開閉させる構造であっても構わない。
【0068】
上記の実施の形態では、伸縮部2は筒状の伸縮軸を採用した構成を例として示した。しかし、パンタグラフ型の伸縮部であっても構わない。また、ラックとピニオンの組み合わせによる伸縮機構を採用しても構わない。
【0069】
上記の実施の形態では、当接部8は上面が平坦面で形成された構成を例として示した。しかし、横滑りすることなく当接状態を安定させることができる構成であれば、平坦でなくても構わない。例えば、当接対象と嵌合可能な凹凸形状を含んでいても構わない。
【0070】
上記の実施の形態では、差込部6は吊架線把持部4と当接部8との間に設けられている構成を例として示した。しかし、伸縮部2の一端と他端の間であれば、何れの位置に設けられていても構わない。例えば、差込部6と当接部8とが同じ高さ位置に設けられた構成でも良い。
【0071】
上記の実施の形態では、接触面8aは、当接部8の上面の全域に形成されている構成を例として示した。しかし、少なくとも平面視において、伸縮部2を内側に含む大きさであれば、全域でなくても構わない。ここで、内側に含むとは、完全に内包することを指すのではなく、接触面8aの拡がる範囲の内側という意味であり、重なっていなくても構わない。例えば、平面視において、環状に形成された接触面の内側の空間に伸縮部が位置しているような構成であっても構わない。
【0072】
上記の第2の実施の形態では、当接部28の長孔28bは差込部6の配列と平行な直線状に形成された構成を例として示した。しかし、差込部6の配列と平行でなくても良く、湾曲した長孔であっても構わない。例えば、碍子を中心とする円弧状に形成すると、吊架線が腕金に対して傾斜して張設されていても、常に、碍子から当距離に伸縮部を設置することができる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の碍子交換補助具は、板状部材とスリットとの組み合わせで固定できるので、特に、板状構造を有するアングル材等を利用した腕金を設置対象とする碍子交換作業において有用である。
【符号の説明】
【0074】
1、21 碍子交換補助具
2 伸縮部
2a 入力部
4 吊架線把持部
4a 枠体
4b 閉鎖ピン
4b1 係合部
4b2 プランジャー
6 差込部
6a スリット
6b リブ
8 当接部
8a 接触面
10 ハンドル
28 当接部
28a 接触面
28b 長孔(摺動部)
50 腕金
50a 垂直部
50b 水平部
51 吊架線
52 碍子
53 碍子取付金具
54 平行クランプ
100 碍子取替工具
101 支持棒
102 伸縮部
103 吊架線支持部
104 ハンドル
200 き電線仮支持具
201 張線器
202 腕金固定部
L1 間隔
L2 深さ
図1
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