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特許7389441水底試料土採取装置、水底試料土採取方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】水底試料土採取装置、水底試料土採取方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/12 20060101AFI20231122BHJP
   E02D 1/04 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
E02D3/12 102
E02D1/04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023095134
(22)【出願日】2023-06-08
【審査請求日】2023-06-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000219406
【氏名又は名称】東亜建設工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000230700
【氏名又は名称】日本海工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166039
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 款
(72)【発明者】
【氏名】粟津 進吾
(72)【発明者】
【氏名】本田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】野中 宗一郎
(72)【発明者】
【氏名】赤司 有三
(72)【発明者】
【氏名】浅田 英幸
(72)【発明者】
【氏名】三枝 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】山本 佳知
(72)【発明者】
【氏名】近本 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】北門 亨允
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-161863(JP,A)
【文献】特開2022-013447(JP,A)
【文献】特開2021-169733(JP,A)
【文献】特開2017-190667(JP,A)
【文献】登録実用新案第3227316(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/12
E02D 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水底の粘性土地盤あるいはこれに改質材を混合した改質土地盤より試料土を採取するための装置であって、
採取する試料土を収容するための採取管と、
前記採取管の内側に設けられ、前記試料土を前記採取管内に取り込むためのピストンと、
前記採取管の下端部に向けて注水または給気して、前記採取管内に取り込んだ前記試料土の下端部で発生する引き抜き力を低減させる引き抜き力低減手段と、を有しており、
前記ピストンが前記地盤の天端に密着した状態で深度を変えることなく、前記採取管内に前記試料土が取り込まれる、
ことを特徴とする水底試料土採取装置。
【請求項2】
前記引き抜き力低減手段は、
前記採取管を前記地盤に対し貫入した状態で、前記地盤の天端より上の水中に位置する吸水口と、
前記採取管を前記地盤に対し貫入した状態で、前記採取管の下端近傍に位置する注水口と、
を有する注水管で構成される、ことを特徴とする請求項1に記載の水底試料土採取装置。
【請求項3】
前記注水管は、前記注水管の下端に、前記注水口に前記試料土が侵入するのを防止する試料土侵入防止弁を有する、ことを特徴とする請求項2に記載の水底試料土採取装置。
【請求項4】
前記水底試料土採取装置は、更に、前記採取管内に取り込んだ前記試料土が落下するのを防止する落下防止部材を有する、ことを特徴とする請求項1ないし3の何れかに記載の水底試料土採取装置。
【請求項5】
前記水底試料土採取装置は、更に、前記採取管に対し貫入力を加えるためのウエイトと、前記採取管に対し貫入力を加えるための起振装置の、何れか一方または両方を有する、
ことを特徴とする請求項1ないし3の何れかに記載の水底試料土採取装置。
【請求項6】
請求項1に記載の水底試料土採取装置を用いた水底試料土採取方法であって、
ピストンを採取管内の下端に位置決めした状態で、採取管を水底の地盤の天端面にセットし、
前記ピストンの深度を維持した状態で前記採取管を前記地盤に貫入し、前記採取管内に前記試料土を取込み、
前記試料土を内側に取り込んだ前記採取管を引き抜く際に、前記採取管の下端部に向けて注水または給気して、前記採取管の内側に取り込んだ前記試料土の下端部で発生する引き抜き力を低減させながら前記採取管を引抜き、
前記試料土を採取する、
ことを特徴とする水底試料土採取方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水底の粘性土地盤あるいはこれに改質材を混合した改質土地盤より試料土を採取するための水底試料土採取装置と、これを用いた水底試料土採取方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の図1には、水底地盤改良装置を備えた地盤改良船を使って、粘性土からなる海底地盤を改良する方法が提案されている。
【0003】
特許文献1の図1に開示された海底地盤改良の施工では、作業船(地盤改良船)に搭載した水底地盤改良装置を海底地盤に圧入してケーシング内に海底の在来地盤(粘性土)を取り込み、材料供給路を介して所定量の改質材をケーシング内に投入し、ケーシング内の在来地盤と改質材を攪拌翼により攪拌混合して改質土を製造する。在来地盤に対して攪拌混合する改質材としては例えば製鋼スラグを原料とした材料が用いられる。
【0004】
このようにして海中のケーシング内で製造した改質土を、在来地盤が在った元の場所に埋め戻して、特許文献1の図1(b)に示すように当該在来地盤を改質土に置き換えて改質土地盤とする。このような改質材の製造と埋め戻しを、海底で位置をずらしながら繰り返すことで対象地盤を改良する。
【0005】
特許文献2には、改質土の地盤からサンプルを採取する装置として、潜水士による作業を必要とせず、クレーン船等の作業船のみで海上から簡易に採取する装置に関する記載がされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2022-013447号公報(図1
【文献】実用新案登録第3227316号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
海底地盤改良では、改良対象である海底の粘性土地盤について土質等を確認するために、海底の粘性土をサンプリングする必要がある。また、海底地盤改良の施工後または施工中には、地盤改良後または施工中の改質土地盤について強度等の品質確認するために、海底の改質土をサンプリングする必要がある。
【0008】
海底地盤改良後の改質土地盤について強度等の品質確認をする場合には、一般には、スパッド台船等により海上足場を確保して、養生期間を経て硬化した改質土をコアボーリングすることでサンプリングされる。一方、施工中に混合品質を目視確認したい場合や、硬化後にコアボーリングすると採取の際に試料土が乱れる場合には、施工直後(硬化前)の改質土をサンプリングする方法が採用される。
【0009】
施工直後の改質土をサンプリングする場合には、地盤改良船の近傍でサンプリング作業をする必要があるため、スパッド台船等による海上足場の確保が必要なサンプリング方法は、地盤改良船と海上足場との干渉により双方の作業に支障が生じるおそれがある。その意味では、特許文献2に記載のサンプリング装置は、海上足場を必要としないため、施工直後の改質土のサンプリングには適した方法といえる。
【0010】
しかしながら、海底の粘性土からなる在来地盤を使って製造した改質土は、硬化前から粘着力を有するという特性がある。そのため、単なる管状のサンプラーや、特許文献2に記載されている採取管を海底に打ち込むだけでは、押し込みの初期は改質土が採取管内に入り込むものの、次第に抵抗(採取管内壁と改質土との摩擦力や付着力)が大きくなって、採取管内に改質土が入らなくなるといった問題がある。
【0011】
また、海底の改質土を採取管内に取り込んだ後の引き抜き時においては、採取管を引き上げた空間に負圧が発生し、採取管の中身の改質土を下側に引っ張る引抜き力が生じる。この採取管の中身を下側に引っ張る引抜き力は、サンプリング対象に粘着力があると大きくなるため、粘性土地盤を改良した改質土地盤を対象とする場合、単に採取管を海底に打ち込むだけでは、仮に採取管内に改質土を取り込めたとしても、採取管の中身の改質土が引き抜き時に抜け出てしまうといった問題がある。海底の粘性土地盤をサンプリングする場合にも、同様の問題がある。
【0012】
特許文献2に記載されている方法は、中身の改質土の硬化後に採取管を引き抜くことを前提としているため、採取管の先端に抜け出し防止部材を具備するだけで採取が可能である。しかし、施工中に改質土の混合品質を目視確認したい場合には、採取管内に取り込んだ改質土を硬化を待たずに速やかに回収することができないといった問題がある。
【0013】
また、改良対象である海底の粘性土地盤をサンプリングするにあたって、特許文献2に記載されている方法を利用することが検討されたが、特許文献2の方法は、中身の採取対象の改質土が硬化後に採取管を引き抜くことを前提としているため、特許文献2の方法では採取管内に取り込んだ粘性土を回収できないといった問題がある。
【0014】
そこで、上述した問題に鑑み、本発明の目的は、海底を含む水底の粘性土地盤あるいはこれに改質材を混合した改質土地盤より試料土を採取する場合において、スパッド台船等による海上足場を設けることなく、試料土(粘性土または改質土)を確実に採取管に取り込むことができ、また、採取管に取り込んだ試料土(粘性土または改質土)を確実に回収することを可能にする、水底試料土採取装置と水底試料土採取方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的は、水底の粘性土地盤あるいはこれに改質材を混合した改質土地盤より試料土を採取するための装置であって、採取する試料土を収容するための採取管と、前記採取管の内側に設けられ、前記試料土を前記採取管内に取り込むためのピストンと、前記採取管の下端部に向けて注水または給気して、前記採取管内に取り込んだ前記試料土の下端部で発生する引き抜き力を低減させる引き抜き力低減手段と、を有しており、前記ピストンが前記地盤の天端に密着した状態で深度を変えることなく、前記採取管内に前記試料土が取り込まれる、ことを特徴とする水底試料土採取装置によって達成される。
【0016】
上記水底試料土採取装置が具備する引き抜き力低減手段は、例えば注水管で構成される。この場合、注水管は、前記採取管を前記地盤に対し貫入した状態で、前記地盤の天端より上の水中に位置する吸水口と、前記採取管を前記地盤に対し貫入した状態で、前記採取管の下端近傍に位置する注水口と、を有している。
【0017】
また、上記引き抜き力低減手段を前記注水管で構成する場合、前記注水管は、前記注水管の下端に、前記注水口に前記試料土が侵入するのを防止する試料土侵入防止弁を有している。
【0018】
また、上記水底試料土採取装置は、更に、前記採取管内に取り込んだ前記試料土が落下するのを防止する落下防止部材を有している。
【0019】
また、上記水底試料土採取装置は、更に、前記採取管に対し貫入力を加えるためのウエイトと、前記採取管に対し貫入力を加えるための起振装置の、何れか一方または両方を有している。
【0020】
また、上記目的は、上記水底試料土採取装置を用いた水底試料土採取方法であって、ピストンを採取管内の下端に位置決めした状態で、採取管を水底の地盤の天端面にセットし、前記ピストンの深度を維持した状態で前記採取管を前記地盤に貫入し、前記採取管内に前記試料土を取込み、前記試料土を内側に取り込んだ前記採取管を引き抜く際に、前記採取管の下端部に向けて注水または給気して、前記採取管の内側に取り込んだ前記試料土の下端部で発生する引き抜き力を低減させながら前記採取管を引抜き、前記試料土を採取する、ことによって達成される。
【発明の効果】
【0021】
水底試料土採取装置に備わったピストンは、採取管を地盤に対し貫入する過程で、その深度を変えることなく採取管の下端が地盤の天端面(採取対象の土砂の天端面)に密着した状態を維持する。これにより、採取管を地盤に対し貫入する過程で当該採取管内に負圧を発生させることができるので、その負圧を利用して採取管の内側に試料土を取り込むことが可能になる。また、水底試料土採取装置に備わった引き抜き力低減手段は、水底地盤から採取管を引き抜く際に、採取管の下端部に向けて注水または給気して、採取管を引き上げた空間に水または空気を充填させる役割を担う。これにより、採取管内に取り込んだ土砂の下端部で発生する引き抜き力が低減されて、採取管内に取り込んだ試料土を、採取管引抜時に脱落させることなく回収することが可能になる。
【0022】
また、引き抜き力低減手段を、地盤の天端より上の水中に位置する吸水口と、採取管の下端近傍に位置する注水口からなる注水管とすることで、採取管を引き上げた空間に発生した負圧が注水管を通じて水中に位置する吸水口に伝わり、地盤の天端より上の水が吸い込まれて採水管の下端に注水される。これにより、ポンプなどの送水手段を使うことなく簡単かつ確実に注水することが可能になる。
【0023】
また、注水口に試料土が侵入するのを防止する試料土侵入防止弁が備わることにより、採取管を地盤に貫入する過程で、注水管が試料土によって目詰まりすることがなく、引き抜き力低減手段をなす注水管の機能を維持することができる。
【0024】
また、水底試料土採取装置に落下防止部材が備わることにより、採取管を地盤から引き抜く過程で、試料土が自重により採取管から落下するのを防ぐことができる。
【0025】
また、水底試料土採取装置に、採取管に対し貫入力を加えるためのウエイトと、採取管に対し貫入力を加えるための起振装置のうち、少なくとも何れか一方が備わることにより、試料土採取装置を水底の地盤に貫入する際に、浮力や貫入抵抗に抗して採取管を確実に貫入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明に係る水底試料土採取装置を示す側面図である。
図2図1に示す水底試料土採取装置の概略構成を示す模式図である。
図3図1に示す水底試料土採取装置を用いた水底試料土採取方法を示す工程図である。
図4】水底試料土採取装置が具備するピストンの機能作用を示す断面図である。
図5】水底試料土採取装置が具備する注水管(引き抜き力低減手段)の機能作用を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明に係る水底試料土採取装置は、水底の試料土(土質試料土)を採取するための装置であり、例えば地盤改良船あるいはクレーンや昇降装置を有する作業船に搭載して用いるものである。水底試料土採取装置により採取する試料土の具体例としては、海底の粘性土や、これに改質材を攪拌混合して製造した改質土などが挙げられる。海底の粘性土に対して攪拌混合する改質材としては例えば製鋼スラグを原料とした材料が用いられる。
【0028】
以下、図1図2に基づいて水底試料土採取装置の構成について説明する。
なお、この出願における「水底」の具体例としては、例えば、海底、川底、湖底が挙げられる。以下、本発明の説明に於いて水底の一例として海底を用いる。
【0029】
(水底試料土採取装置)
水底試料土採取装置1は、図1図2に示すように、
・採取する試料土を収容するための採取管3と、
・採取管3内で上下動可能に設けられたピストン5と、
・下端にピストン5が固定されたピストンロッド7と、
・採取管3を支える採取管支持ロッド13と、
・採取管支持ロッド13に設けられたウエイト15および起振装置17と、
・採取管3内に取り込んだ試料土の下端部に向けて注水する注水管19を
有している。
【0030】
採取管3は、海底の試料土を採取するための管状部材であり、上端部と下端部がそれぞれ開口している。本実施形態において、採取管3は、管状の採取管本体4と、その下部に設けられた筒状の下部キャップ9で構成されている。採取管3を海底の地盤に貫入する過程で、海底の試料土が筒状の下部キャップ9の内側を通って採取管本体4内(ピストン5よりも下の領域)に取り込まれる。
【0031】
図2の左に示すように、下部キャップ9の上部には環状の結合部21が突き出ており、その外周にはネジが形成されている。下部キャップ9の結合部21を、採取管本体4の下部にねじ込むことで、両者が結合して一体化する。採取管本体4と下部キャップ9を一体化したものが採取管3として機能する。
【0032】
下部キャップ9の内部には、採取管3内に取り込んだ試料土が自重で落下するのを防ぐ落下防止部材23が設けられている。本実施形態において、落下防止部材23は逆止弁からなり、ピン25を起点に所定角度の範囲内で自在に回動できるようにピン25を介して取り付けられている。図1図2において、落下防止部材23が開いた状態を実線で示す。この状態では、採取対象の試料土が下部キャップ9の内部を通って、採取管3内に取り込まれる。図1図2において、落下防止部材23が閉じた状態を破線で示す。この状態では、落下防止部材23が下部キャップ9の内側開口部を遮っているので、採取対象の試料土が採取管3から出ることができない。
【0033】
なお、本実施形態では、下部キャップ9に設ける落下防止部材23として逆止弁を採用しているが、下部キャップ9の内周面に張り出すように設けた突起部などで落下防止部材を構成することもできる。採取管3内に取り込まれた試料土の下部が、突起部(落下防止部材)に引っかかることで、当該試料土の落下を防ぐことができる。
【0034】
採取管支持ロッド13の下部には、採取管3の上部に取り付ける上部キャップ31が一体的に設けられている。上部キャップ31の内周面にはネジが形成されており、採取管3の上部を上部キャップ31の内側にねじ込むことで両者が結合する。図1に示すように、採取管支持ロッド13の上部には、吊り具33が設けられている。チェーン等を吊り具33に連結して採取管支持ロッド33を作業船の設備を利用して吊り下げる。
【0035】
図1に示すように、上部キャップ31には流体出入口35が設けられている。この流体出入口35は、採取管3を海上から海底に向かって降下させる際に、採取管3内の空気が海水に入れ替わることを可能とする空気と海水の出入り口として機能する。上部キャップ31の流体出入口35を介して採取管3内(ピストン5より上の領域)の空気が海水に入れ替わることで、水中での浮力が抑制され、水中で採取管3の姿勢を鉛直に保つことが可能になる。
また、上部キャップ31の流体出入口35は、採取管3を地盤に貫入する際に、採取管3の貫入による採取管3内でのピストン5の相対的上昇に伴って採取管3内の海水が採取管外に排出されることを可能とする海水の出口として機能する。上部キャップ31の流体出入口35を介して採取管3内(ピストン5より上の領域)の海水が採取管外に排出されることで、採取管3内でのピストン5の相対的上昇を可能とし、それによって、採取管3内に試料土を取り込むための負圧を発生させることができる。
また、上部キャップ31の流体出入口35は、採取管3内の試料土をピストン5で押し出して回収する際に、採取管3内に空気が入り込むことを可能とする空気の入り口としても機能する。ピストン5の押し出し動作時に上部キャップ31の流体出入口35から採取管3内(ピストン5より上の領域)に空気が入り込むことで、採取管3内の試料土をスムーズに押し出して回収することができる。なお、流体出入口35は周方向に相対した位置に2カ所設けられることが望ましく、周方向に略等間隔となるように3か所以上設けるようにしてもよい。
【0036】
採取管支持ロッド13の内側にはピストンロッド7が挿通しており、ピストンロッド7は採取管支持ロッド13の内側で自在に上下動できる。
【0037】
ウエイト15は、採取管支持ロッド13の外周に固定されている重りである。このウエイト15は、採取管3に対し貫入力を加える役割を担うほか、海面から海底に到達するまでの間、浮力に抗して採取管3の姿勢を鉛直に保つ役割を担っている。
【0038】
起振装置17は例えばバイブロハンマで構成され、採取管支持ロッド13の外周に固定されている。この起振装置17は、採取管3に対し貫入力を加える役割を担っている。なお、本実施形態では、水底試料土採取装置1はウエイト15と起振装置17の両方を備えているが、何れか一方だけを備える構成としてもよい。
【0039】
ピストンロッド7は、外管である採取管支持ロッド13と上部キャップ31の内側に挿通自在に設けられ、その下端には採取管3内のピストン5が固定されている。
【0040】
ピストン5は、採取管本体4内で上下動可能に設けられている。このピストン5は、採取管3の貫入時に採取管本体4内に負圧を発生させて、海底の試料土を採取管3内に取り込む役割を担うほか、採取した試料土を目視確認する際に、採取管3内に取り込んだ試料土をそのまま押し出して排出する役割を担う。
【0041】
ピストンロッド7の上部には、図1に示すように吊り具6が設けられている。チェーン等を吊り具6に連結してピストンロッド7を作業船の設備を利用して吊り下げる。
【0042】
ピストンロッド7の下端に一体的に設けられたピストン5は、採取管本体4内で上下動することが可能である。水底試料土採取の開始時には、ピストン5は採取管3内の下端に位置決めされている。ピストン5の位置決めの際には、ピストンロッド7を手動で下に押し込むことで、その先端のピストン5を採取管3内の所定位置に位置決めすることができる。採取管3を地盤に貫入する際には、図4(1)~(3)に順に示すように、ピストン5は、海底面(採取対象である試料土の天端面)に密着した状態を保つ。このとき、ピストンロッド7の吊り具6に連結されたチェーン等は、繰り出すことなく固定されている。したがって、ピストン5は、採取管3と共に海底面を押し下げて地盤に埋没することはない。すなわち、採取管支持ロッド13と一体の採取管3を地盤に貫入することで、ピストン5が海底面に密着した状態で採取管3内で相対的に上昇する。採取管3を地盤に貫入する過程では、ピストン5は図4(1)~(3)に示すように深度を変えることなく見かけ上静止した状態を保つ。
【0043】
引き抜き力低減手段である注水管19は、例えば塩ビ管や水ホースなどで構成され、図1に示すように採取管3の外周面に固着して並設されている。注水管19は、採取管3を地盤に貫入する過程で水中に位置する吸水口41と、採取管の下端近傍に位置する注水口43を有している。注水管19の吸水口41は、採取管3を地盤に対し貫入した状態で、地盤の天端より上の水中に位置し、注水口43は、採取管3の下端近傍に位置する。注水口43には、採取管3を地盤に貫入する過程で、試料土が注水管19に侵入して目詰まりするのを防ぐ試料土侵入防止弁が設けられている。試料土侵入防止弁は、例えば注水口43を塞ぐように取り付けられた逆止弁で構成される。
【0044】
この注水管19は、地盤から採取管3を引き抜く際に発生する負圧により、吸水口41より注水管19内に取り込まれた水を注水口43より採取管3の下端部に向けて注水して、採取管3内に取り込んだ試料土の下端部で発生する引き抜き力を低減させる役割を担う。
【0045】
なお、本実施形態では、引き抜き力低減手段として注水管19を採用しているが、圧縮エアーなどを給気する給気手段を採用することも可能である。この場合、引き抜き力低減手段は、注水管19に代え、例えば、圧縮エアーを生成するエアーコンプレッサーや、圧縮エアーを採取管の下端部に向けて給気するエアーホースなどで構成することが可能である。
【0046】
(水底試料土採取方法)
次に、上述した水底試料土採取装置1を用いた水底試料土採取方法について、主として図3図5に基づいて説明する。なお、次に述べる工程a~eは、図3(a)~(e)に対応している。以下、水底試料土採取装置1により採取する試料土の具体例として、粘性土からなる海底の在来地盤を挙げる。
【0047】
工程a
はじめに、水底試料土採取装置1のピストン5を採取管3の下端(採取管本体4の下端)にセットする。続いて、水底試料土採取装置1を、採取対象の海底へ向かって船上から吊り下ろして、採取管3が鉛直姿勢を保った状態で、採取管3の下端を海底の天端面(採取対象の試料土の天端)に突き当てる。水底試料土採取装置1を吊り下ろす際に、水底試料土採取装置1の吊り具6,33に連結されたチェーンを介して、水底試料土採取装置1の全体を海底に向かって吊り下ろす。なお、採取管支持ロッド13や採取管3に流速計を設置し、吊り下ろす際に当該流速計の数値を確認しながら鉛直姿勢となるように吊り下ろすようにしてもよい。
【0048】
水底試料土採取装置1の採取管3が水中で降下する過程では、上部キャップ31の流体出入口35を介して、採取管3内(ピストン5より上の領域)の空気が海水に入れ替わることで、水中での浮力が抑制され、また、水中で採取管3の姿勢が鉛直に保たれる。また、ウエイト15が浮力に抗して採取管3を海底まで沈降させる。
【0049】
工程b
次に、鉛直姿勢で海底に着底した採取管3を海底地盤に対し貫入する。採取管3を貫入する際には、バイブロハンマなどからなる起振装置17を作動させて、採取管3の先端に打ち込み力(貫入力)を付加する。採取管3は、起振装置17による打ち込み力とウエイト15の重みを受けて、地盤に貫入し始める。
【0050】
採取管3を貫入する過程では、図4(1)~(3)に順に示すように、ピストン5は、海底面(採取対象である試料土の天端面)に密着した状態で、深度を変えることなく静止した状態を保つ。一方、採取管支持ロッド13と一体の採取管3は、地盤に貫入し続ける。したがって、採取管3を貫入する過程では、ピストン5が海底面(採取対象である試料土の天端面)に密着した状態で、採取管3内の下端から上方に向かって相対的に上昇する。
【0051】
また、採取管3を貫入する過程では、ピストン5が海底面に密着した状態で深度を変えることなく見かけ上静止した状態を保つように、ピストンロッド7の吊り具6に連結されたチェーン等を繰り出すことなく固定する。一方、採取管支持ロッド13と一体の採取管3が降下できるように、採取管支持ロッド13の吊り具33に連結されたチェーン等を固定することなく、貫入に合わせて繰り出す。
【0052】
なお、採取管3の貫入の過程では、採取管3の内周面と取り込んだ試料土との間に摩擦力や付着力が生じるが、貫入の初期においては、当該摩擦力や付着力が小さいため、貫入に伴って試料土が下部キャップ9の内部を通って採取管3内に取り込まれる。このとき、落下防止部材23は、取り込まれる試料土によって押し込まれて、図1図2において実線で示すように採取管3の内周面側に立った状態を維持する。そして、貫入が進行するにつれて、採取管3の内周面と取り込んだ試料土との間に生じる摩擦力や付着力が大きくなって、試料土の取り込みを妨げるようになり、やがて、取り込み途中の試料土が採取管3と一体化した状態で下がろうとする。
【0053】
ところが本実施形態では、ピストン5が海底面(採取対象である試料土の天端面)に密着した状態で、深度を変えることなく静止した状態を保つことで、採取管3内の下端から上方に向かって相対的に上昇する。したがって、ピストン5の上昇によって採取管3内に負圧が発生する。この負圧が吸引力となって、採取管3と一緒に下がろうとする取り込み途中の試料土を、採取管3内で上に引っ張り上げるので、採取管3の貫入が進行して摩擦力や付着力が大きくなっても、当該の摩擦力や付着力に抗して試料土を確実に採取管3内に引き込むことができる。
【0054】
なお、上部キャップ31の流体出入口35を介して流れ込んだ海水が、採取管3の貫入の際に、ピストン5を超えてその下に流れ込むことは無い。
【0055】
工程c
採取管3の下端が目標深度に到達すると、上述した採取管3の貫入が完了し、起振装置17を停止させる。貫入が完了すると、採取管3内が、ピストン5の真下から採取管3の下端に至るまで、取り込まれた試料土で満たされている。採取管3内に取り込まれた試料土は、取り込み前の地盤内での状態をほとんどそのままで維持している。
【0056】
工程d
続いて、採取管3の引き抜きを開始する。引き抜きの過程では、水底試料土採取装置1の吊り具6,33に連結されたチェーン等を同時に巻き上げ、図4(4)に示すように、水底試料土採取装置1の全体(すなわち採取管3とピストン5を一緒に)を同時に引き上げる。
【0057】
水底試料土採取装置1の引き上げ時において、採取管3と一体的に引き上げるピストン5の下部には負圧が発生しており、また、採取管3の内壁と試料土との間には摩擦力や付着力が発生している。そのため、水底試料土採取装置1を引き上げると、採取管3内の試料土を引き上げる力(すなわち採取管3内の試料土が採取管3と一体となって引き抜かれる力)が発生し、採取管3の下端において、取り込まれた試料土がその下の粘性土地盤から切り離されるように力が働く。一方、採取管3の引き抜き跡(すなわち引き抜いた採取管3の真下)の空間には負圧が発生するため、採取管3を引き抜く際に、採取管3に取り込まれた試料土を下に引っ張る力が働く。水底試料土採取装置1の引き上げ時に、採取管3内の試料土を引き上げる力が、採取管引き抜き跡の空間に発生する負圧によって下に引っ張られる力よりも小さいと、取り込んだ試料土が採取管3から抜け出るおそれがある。あるいは、採取管3内の試料土が途中で千切れて、採取管3に取り込んだ試料土を全量回収できなくなるおそれがある。
【0058】
ところが本実施形態では、採取管3には注水管19が並設されている。この注水管19は、図5に示すように、下端の注水口43が採取管3の下端近傍に位置しており、上端の吸水口41が海底面より上の水中に位置している。採取管3とピストン5を引き上げると、図5に示すように採取管3の真下の空間に発生する負圧によって、当該空間に対し注水管19を通じて海水が自動的に注入され、当該空間は瞬時に海水で満たされる。したがって、採取管3の真下の空間に発生する負圧(採取管3内の試料土を下に引っ張る力)は、当該空間に瞬時に注水された海水によって抑制され、その結果、採取管3の引き上げ時に生じる引き抜き力が軽減される。
【0059】
その後、採取管3を海上に向かって引き上げる過程では、仮に採取管3内に取り込んだ試料土が落下しようとしても、当該試料土が落下に伴い下部キャップ9内の落下防止部材23を、図1図2において破線で示す閉じる方向に押し、採取管3の下端開口を塞ぐため、当該試料土は落下防止部材23に引っかかり採取管外への落下が阻止される。したがって、採取管3の引き抜き過程で取り込んだ試料土を引き上げ途中で採取管外に脱落させることなく、確実に回収することができる。
【0060】
工程e
上述した水底試料土採取装置1の引き上げを続けて、採取管3を海底地盤から引き抜き、さらに、海中から引き上げることで試料土の採取が完了する。
【0061】
海中から引き上げた水底試料土採取装置1の採取管3から試料土を回収する際には、採取管3下端の下部キャップ9を取り外し、ピストンロッド7を介してピストン5を押し下げて、採取管本体4から試料土を押し出して回収する。
【0062】
最後に、上述した実施形態は、特許請求の範囲に記載した本発明の例示であって、本発明は必ずしもこれに限定されるものではない。本発明の用途は、粘性土からなる水底の在来地盤や地盤改良後の改質土の採取に限定されるものではなく、砂と粘土の互層地盤や浚渫した粘土に改質材を混合した改質土の土質試料土の採取にも利用することができる。また、本発明を利用可能な現場は、海底に限定されるものではなく、川底や湖底などにも利用可能である。
【符号の説明】
【0063】
1 水底試料土採取装置(土質試料土採取装置)
3 採取管
4 採取管本体
5 ピストン
6 吊り具
7 ピストンロッド
9 下部キャップ
13 採取管支持ロッド
15 ウエイト
17 起振装置
19 注水管(引き抜き力低減手段)
21 結合部
23 落下防止部材
25 ピン
31 上部キャップ
33 吊り具
35 流体出入口
41 吸水口
43 注水口
91 作業船(地盤改良船)
92 水底地盤改良装置
93 ケーシング
94 材料供給管
95 攪拌翼

【要約】
【課題】水底の粘性土地盤あるいはこれに改質材を混合した改質土地盤より試料土を採取する場合において、スパッド台船等による海上足場を設けることなく、試料土を確実に採取管に取り込むことができ、また、採取管に取り込んだ試料土を確実に回収することを可能にする水底試料土採取装置を提供する。
【解決手段】水底試料土採取装置1は、採取する試料土を収容するための採取管3と、採取管3内に設けられたピストン5と、採取管3に並設された注水管19を有している。ピストン5は、採取管3を地盤に貫入する過程で、採取管3内に負圧を発生させ、その結果、採取管3内に試料土が取り込まれる。注水管19は、地盤から採取管3を引き抜く際に、採取管3内に取り込んだ試料土の下端部に向けて注水し、試料土の下端部で発生する引き抜き力を低減させる。
【選択図】図2

図1
図2
図3
図4
図5