(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】環境音再現装置
(51)【国際特許分類】
G06F 16/00 20190101AFI20231122BHJP
G06F 16/29 20190101ALI20231122BHJP
G06F 16/60 20190101ALI20231122BHJP
G10K 15/02 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
G06F16/00
G06F16/29
G06F16/60
G10K15/02
(21)【出願番号】P 2018116475
(22)【出願日】2018-06-19
【審査請求日】2021-06-15
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100163186
【氏名又は名称】松永 裕吉
(72)【発明者】
【氏名】荒牧 英治
(72)【発明者】
【氏名】若宮 翔子
【合議体】
【審判長】林 毅
【審判官】脇岡 剛
【審判官】稲垣 良一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-266902号公報(JP,A)
【文献】特開2010-198502号公報(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F16/00-16/958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
指定された地点の環境音を再現する環境音再現装置であって、
環境音の構成要素である複数の音要素のそれぞれの音量があらかじめ定義されている複数のモデル地点から、前記指定された地点から地図上で所定範囲内にある一または複数のモデル地点を選定するモデル地点選定部と、
前記選定されたモデル地点の前記あらかじめ定義されている各音要素の音量を、前記指定された地点と前記選定されたモデル地点との距離に応じて重み付け加算して、前記複数の音要素のそれぞれの音量を求める音要素音量計算部と、
前記複数の音要素のそれぞれを前記求められた音量でミキシングして前記指定された地点の環境音を再現する音要素ミキシング部とを備えた環境音再現装置。
【請求項2】
前記複数のモデル地点の各音要素の音量が季節別および/または時間帯別に細分化してあらかじめ定義されており、
前記音要素音量計算部が、前記指定された地点の環境音再現に関してさらに季節および/または時間帯が指定された場合、前記選定されたモデル地点の前記あらかじめ定義されている各音要素の音量のうち当該指定された季節および/または時間帯に対応する音要素の音量の重み付け加算を行うものである、請求項1に記載の環境音再現装置。
【請求項3】
前記音要素音量計算部が、前記選定されたモデル地点の前記あらかじめ定義されている各音要素の音量を、1/L
2(ただし、Lは前記指定された地点と前記選定されたモデル地点との距離である。)で表される重みで加算するものである、請求項1または請求項2に記載の環境音再現装置。
【請求項4】
前記複数の音要素が、川のせせらぎの音や鳥の鳴き声などの自然由来のカテゴリー、工場の操業音や電車の音などの人工物由来のカテゴリー、および子供の声や混雑の音などの人の活動由来のカテゴリーの3つのカテゴリーの音要素を含む、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の環境音再現装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、指定された地点の環境音を再現する装置および方法、およびそのような装置を応用した不動産検索システム、さらにはそのような装置および方法で使用されるモデル地点の環境音を推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
都市に関する情報は、都市計画、治安、防災、不動産などさまざまな場面で重要となるが、カテゴリーや量的な情報だけでなく、機械での取扱いが困難な質的な情報が重要となる場合がある。例えば、旅行の際には、観光地や飲食店の種類といったカテゴリー情報や値段や駅からの距離といった数値情報だけでなく、「落ち着ける」「京都らしい」など、個々に分解できない総和としての情報が必要となる。同様に、引越の際には、予算、間取りといった情報だけでなく、「静か」「風情がある」といったような情報が必要であり、このため多くの場合、実際に物件を見てから契約を行う。さらには、被災地復興に際しては町の雰囲気を取り戻すといったことが目標になる場合が、雰囲気をどのように定義するかは個々の要素に還元しづらい難しい問題である。
【0003】
従来、音によって都市の総合的な雰囲気を表現しようとする試みがなされている。例えば、下記非特許文献1には、イタリアの都市フィレンツェを対象とした音声マップとして、プロフェッショナルや現地の一般市民が録音した現地音を地図上にマッピングして視聴可能な音声マップ技術が開示されている。また、録音をしないアプローチで音の地図を作るという試みもなされている。例えば、下記非特許文献2には、ユビキタスデータに基づくニューヨーク市の騒音マップに関する研究が報告されている。より詳細には、都市の騒音と相関があることが報告されているユビキタスデータソースとして、“311”(非緊急市民サービス)を通して報告された不満データ、位置ベースSNSにおけるチェックインデータ、道路ネットワーク、PoI(地図上の特定のポイント;地点)を用いて、時間帯や騒音カテゴリごとに各地域の騒音公害指標を測定する技術が開示されている。下記非特許文献3には、バルセロナとロンドンにおける音声マップに関する研究が報告されている。より詳細には、位置情報付き写真に付与されている音楽関連タグと音に関する語とをマッチングさせて都市の音の辞書を構築・公開し、また、このタグをもとに音声マップを生成している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Radicchi, A., Henckel, D. & Memmel, M., “Citizens as smart, active sensors for a quiet and just city. The case of the “open source soundscapes” approach to identify, assess and plan “everyday quiet areas” in cities,” Noise Mapping, 2018, 5(1), pp. 1-20.
【文献】Yilun Wang, Yu Zheng, and Tong Liu, “A Noise Map of New York city,” In Proc. of UbiComp '14 Adjunct., 2014, pp. 275-278.
【文献】Luca Maria Aiello, Rossano Schifanella, Daniele Quercia, and Francesco Aletta, “Chatty Maps: Constructing sound maps of urban areas from social media data,” Royal Society Open Science, Vol. 3, No. 3, pp. 1-19.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記非特許文献1に開示された音声マップ技術では、プロフェッショナルや現地の一般市民から環境音を取得する必要がある。しかし、大量の協力者から特定の場所について恒常的に環境音を得ることはコストがかかり現実的に難しく、特定の時点や特定の地点のみのデータに限られるという問題がある。また、上記非特許文献2および3では、ユビキタスデータを用いて特定の都市における騒音公害指標の測定や、都市の音と人々の感情との関係を調査している。しかし、特定の都市を対象としていること、また、騒音を対象にしているため再現できる環境音としては限定的である。
【0006】
上記問題に鑑み、本発明は、特定の都市に限定することなく、また、騒音、不快音などの特定の環境音に限定することなく、任意の地点における環境音を再現する環境音再現装置および方法、およびそのような環境音再現装置を応用した不動産検索システムを提供することを目的とする。また、本発明は、そのような環境音再現装置および方法で使用されるモデル地点の環境音を推定する方法を提供することも併せて目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面に従うと、指定された地点の環境音を再現する環境音再現装置が提供される。当該環境音再現装置は、環境音の構成要素である複数の音要素のそれぞれの音量があらかじめ定義されている複数のモデル地点から、前記指定された地点から地図上で所定範囲内にある一または複数のモデル地点を選定するモデル地点選定部と、前記選定されたモデル地点の前記あらかじめ定義されている各音要素の音量を、前記指定された地点と前記選定されたモデル地点との距離に応じて重み付け加算して、前記複数の音要素のそれぞれの音量を求める音要素音量計算部と、前記複数の音要素のそれぞれを前記求められた音量でミキシングして前記指定された地点の環境音を再現する音要素ミキシング部とを備えている。
【0008】
本発明の他の局面に従うと、上記環境音再現装置に対応する環境音再現方法が提供される。
【0009】
当該環境音再現装置および方法によると、環境音を再現すべき地点が指定されるとその近辺の一または複数のモデル地点が選定され、当該モデル地点の環境音を構成する各音要素の音量が重み付け加算され、各音要素を計算された音量でミキシングすることで当該指定地点の環境音を再現することができる。
【0010】
本発明のさらに他の局面に従うと、上記環境音再現装置を含む不動産検索システムが提供される。当該不動産検索システムは、不動産物件情報が登録された物件データベースと、与えられた条件で前記物件データベースを検索する検索エンジンと、ユーザー端末から物件検索条件を受け付けて前記検索エンジンに当該物件検索条件を渡して検索を実行させ、前記検索エンジンから検索結果を受けて前記ユーザー端末に当該検索結果を提供するフロントエンドサーバとを備え、前記環境音再現装置が、前記検索エンジンから検索により見つかった不動産物件の地点情報を受けて当該地点の環境音を再現するものであり、前記フロントエンドサーバが、前記ユーザー端末に前記検索エンジンの検索結果とともに前記環境音再現装置によって再現された環境音の音声データを提供するものである。
【0011】
当該不動産検索システムによると、検索の結果見つかった不動産物件情報とともに当該不動産物件における環境音の音声データが環境音再現装置によって再現されユーザー端末に提供され、ユーザーは当該環境音を自由に聞くことができる。
【0012】
本発明のさらに他の一局面に従うと、上記の環境音再現装置または方法で使用されるモデル地点の環境音を推定する方法が提供される。前記環境音を構成する複数の音要素が、川のせせらぎの音や鳥の鳴き声などの自然由来のカテゴリー、工場の操業音や電車の音などの人工物由来のカテゴリー、および子供の声や混雑の音などの人の活動由来のカテゴリーの3つのカテゴリーの音要素を含み、当該モデル地点環境音推定方法は、地図情報から、前記モデル地点から所定範囲内にある,自然由来および人工物由来の音要素の音源となり得る対象物を特定する第1のステップと、ソーシャルネットワークサービスに投稿されたビッグデータを解析して、投稿者のプロフィール、投稿場所の分布状況、および音に関するキーワードを抽出する第2のステップと、前記複数の音要素のうち前記特定された対象物に紐づけられた自然由来の音要素の音量を、前記モデル地点とその対象物との距離に応じた値に設定する第3のステップと、前記複数の音要素のうち前記特定された対象物に紐づけられた人工物由来の音要素の音量を、その対象物に係る統計データ応じた値に設定する第4のステップと、前記複数の音要素のうち人の活動由来の音要素の音量を、前記モデル地点での投稿数、投稿者のプロフィールおよび音に関するキーワードに応じた値に設定する第5のステップとを備える。
【0013】
当該モデル地点環境音推定方法によると、モデル地点の環境音を一定の精度を持って自動的に定義することができ、多数のモデル地点の環境音定義に係るコストおよび労力を削減することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、特定の都市に限定することなく、また、騒音、不快音などの特定の環境音に限定することなく、任意の地点における環境音を再現することができる。これにより、音によって任意の都市の総合的な雰囲気(都市論における様相)を把握できるようになる。例えば、不動産検索システムにおいて見つかった不動産物件の周囲環境を音でもって確認することができる。
【0015】
また、モデル地点における環境音の定義が一部自動化できる。これにより、広範囲に多数のモデル地点を設定して、環境音再現装置で環境音を再現可能な地域を広げてゆくことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る環境音再現装置を含むシステム全体のブロック図
【
図4】モデル地点定義データのデータ構造例を示す図
【
図5A】モデル地点環境音(自然由来および人工物由来の音要素)の推定方法のフローチャート
【
図5B】モデル地点環境音(人の活動由来の音要素)の推定方法のフローチャート
【
図6】本発明の一実施形態に係る不動産検索システムを含むシステム全体のブロック図
【
図7】検索条件入力時のユーザー端末の画面例を示す図
【
図8】検索結果表示時のユーザー端末の画面例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、適宜図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0018】
なお、発明者らは、当業者が本発明を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
【0019】
(環境音再現装置の実施形態)
図1は、本発明の一実施形態に係る環境音再現装置を含むシステム全体のブロック図である。本実施形態に係る環境音再現装置10は、クラウド環境100に配置されたサーバ装置上で稼働してSaaS(Software as a Service)の形態で実施することができる。クラウド環境100には、さらに、地図の画像データ、航空写真、ランドマークの位置情報などのマップデータを提供するマップサーバ20、および後述する音要素データ31やモデル地点定義データ32を格納するストレージ30が配置されている。
【0020】
ユーザーはパソコン、スマートフォン、タブレット端末などのユーザー端末101を用いてインターネットなどのネットワークを通じてクラウド環境100にアクセスすることができる。ユーザー端末101は、マップサーバ20からマップ画像データを取得してユーザー端末101の画面上にマップを表示することができる。また、ユーザー端末101は、環境音再現装置10によって生成された,マップ上の任意の地点の環境音を再現した音声データを取得してユーザー端末101の図略のスピーカーから当該環境音を出力することができる。
【0021】
図2は、ユーザー端末101の表示画面の一例を示す。なお、同図中に示した地図は、国土地理院の地理院地図から抜粋したものである。例えば、ユーザー端末101からマップ表示が要求されると、マップサーバ20がマップ画像データをユーザー端末101に転送してユーザー端末101の画面にマップ102が表示される。ユーザーは図略のマウスなどを操作して画面上のカーソル103を動かして任意の点をクリックすることによりマップ102上の地点を指定することができる。ユーザー端末101がスマートフォンやタブレット端末などの場合には、ユーザーは画面にタッチしてマップ102上の地点を直接指定することができる。
【0022】
なお、マップ102上の任意の地点の指定は上記以外にも、例えば、住所を入力してその住所を地図上の位置情報(緯度および経度)に変換したり、緯度および経度を直接入力したりして行うことができる。
【0023】
マップ102上で任意の地点が指定されると、当該地点の地図上の位置情報がユーザー端末101からマップサーバ20に送信され、マップ102において当該地点にピンアイコン104が表示されるとともにそのそばに環境音再生ボタン105が表示される。ユーザーはカーソル103を移動させて環境音再生ボタン105をクリックするかあるいは環境音再生ボタン105をタッチすることで、環境音再現装置10が再現した当該地点の環境音をユーザー端末101の図略のスピーカーから聞くことができる。
【0024】
さらに別の実施形態では、環境音再生ボタン105にカーソル103を重ねるかまたは環境音再生ボタン105近傍をタッチすると、季節を選択するためのプルダウン106と時間帯を選択するためのプルダウン107が表示される。ユーザーはプルダウン106および107を操作して所望の季節および時間帯を選ぶことで、環境音再現装置10が再現した当該地点の当該季節および時間帯の環境音を聞くことができる。
【0025】
次に、指定地点の環境音を再現する環境音再現装置10の構成例を説明する。
図1へ戻り、環境音再現装置10は、モデル地点選定部11と、音要素音量計算部12と、音要素ミキシング部13とを備えている。なお、環境音再現装置10のこれら構成要素は、ハードウェアとしてあるいはソフトウェアとして、さらにはそれらの組み合わせで適宜構成することができる。
【0026】
モデル地点選定部11は、地図上のところどころにあらかじめ設定されている複数のモデル地点から、ユーザーにより指定された地点から地図上で所定範囲内にある一または複数のモデル地点を選定する。ここでいう「モデル地点」とは、環境音があらかじめ定義されている地点のことである。任意の地点の環境音はモデル地点の環境音を適宜ミキシングすることで再現される。
【0027】
図3は、モデル地点選定を説明する図である。例えば、地図上に8つのモデル地点P
1~P
8が設定されている場合においてユーザーが指定した地点がP
0であったとする。モデル地点選定部11は、指定地点P
0から半径r(例えば、500メートル)の範囲R内にあるモデル地点を探索して見つかったモデル地点P
2、P
4、P
7を指定地点P
0の環境音を再現する元となるモデル地点として選定する。
【0028】
なお、
図3の例では範囲Rが円であるが、モデル地点探索のための範囲は円に限られず楕円でもよく、あるいは、正方形や正六角形などの多角形であってもよい。また、指定地点P
0から範囲R内にモデル地点が存在しない場合には、少なくとも一つのモデル地点が見つかるまで範囲Rを広げるようにしてもよい。逆に、範囲R内に非常に多くのモデル地点が存在する場合には、範囲Rを狭めて選定されるモデル地点の数を絞ってもよい。
【0029】
モデル地点が指定地点から所定範囲内にあるか否かの判定は各地点の位置情報(例えば、緯度および経度)に基づいて行うことができる。指定地点の位置情報はマップサーバ20から取得することができ、また、各モデル地点の位置情報はストレージ30においてモデル地点定義データ32として記録されている。
【0030】
図4は、モデル地点定義データのデータ構造例を示す図である。モデル地点定義データ32において、モデル地点の一つ一つに地点名、緯度、経度その他の情報が紐づけられている。モデル地点選定部11は、モデル地点定義データ32を参照して、指定地点から所定範囲内の一または複数のモデル地点を選定することができる。
【0031】
ここで、本実施形態で取り扱う環境音の構成について説明する。本実施形態において、環境音は、複数の音要素をさまざまな音量でミキシングして構成される。音要素は、波の音、鳥の鳴き声、電車の音、子供の声といったさまざまな音の素材であり、それらの音のデジタルデータが音要素データ31としてストレージ30に格納されている。
図1の例では“音要素1.mp3”ないし“音要素n.mp3”なるファイル名のn個の音要素データ31がストレージ30に格納されている。
【0032】
モデル地点の環境音について各音要素をどれくらいの音量でミキシングするかはモデル地点定義データ32にあらかじめ定義されている。例えば、
図4に示したデータ構造例では、 “音要素1”ないし“音要素n”の音量が0から1の範囲の小数値で定義されている。“音要素1”ないし“音要素n”は“音要素1.mp3”ないし“音要素n.mp3”なるファイル名の音要素データ31に一対一に紐づけられている。
【0033】
さらに、同じモデル地点でも季節別および/または時間帯別に環境音を細分化して定義してもよい。例えば、
図4に示したデータ構造例では、各モデル地点につき4つの季節別(春、夏、秋、冬)および3つの時間帯(午前、午後、夜)に細分化された環境音が定義されている。
【0034】
音要素の種類および数は任意であるが、好ましくは、自然由来のカテゴリー、人工物由来のカテゴリー、および人の活動由来のカテゴリーの3つのカテゴリーを含むようにするとよい。自然由来のカテゴリーの音要素としては、雨、風、森、強い風、波、川のせせらぎ、セミ、鳥、カラス、虫、ウミネコ、カモメ、木枯らし、スズメ、カエルの音や声が挙げられる。人工物由来のカテゴリーの音要素としては、電車、車、工場、飛行機、高速道路、港の音が挙げられる。人の活動由来のカテゴリーの音要素としては、まばらな人、混雑、商店、子供、鐘、ブランコ、大歓声などの声や音が挙げられる。このように自然由来、人工物由来、および人の活動由来の3つのカテゴリーの音要素を適宜ミキシングすることにより、より自然な環境音を再現することができる。
【0035】
図1へ戻り、音要素音量計算部12は、指定された地点の環境音、すなわち再現すべき環境音を構成する複数の音要素のそれぞれの音量を求める。具体的には、音要素音量計算部12は、モデル地点定義データ32を参照して、モデル地点選定部11によって選定されたモデル地点の環境音を構成する各音要素の音量を取得する。例えば、
図2に示したように季節および/または時間帯がさらに指定されている場合には、音要素音量計算部12は、選定されたモデル地点の環境音のうち当該指定された季節および/または時間帯に対応する環境音を構成する各音要素の音量を取得する。そして、音要素音量計算部12は、モデル地点定義データ32から取得した各音要素の音量を、指定された地点と選定されたモデル地点との距離に応じて重み付け加算することで、再現すべき環境音を構成する複数の音要素のそれぞれの音量を求める。
【0036】
重みとして、例えば、指定された地点と選定されたモデル地点とのユークリッド距離の2乗値の逆数を用いることができる。ここで、選定されたモデル地点が3つある場合を仮定し、各モデル地点の環境音を構成する音要素iの音量をV1、V2、V3、指定地点と各モデル地点とのユークリッド距離をL1、L2、L3とすると、指定地点の環境音を構成する音要素iの音量V0は、
V0=(1/L1
2)*V1+(1/L2
2)*V2+(1/L3
2)*V3
で計算される。
【0037】
なお、上記計算方法では選定されたモデル地点が多数あると、計算された音要素iの音量が1を超えてしまうおそれがある。それを回避するために、シグモイド関数などを用いて音要素iの音量が0から1の範囲に収まるように調整してもよい。
【0038】
音要素ミキシング部13は、複数の音要素のそれぞれを音要素音量計算部12によって求められた音量でミキシングして指定地点の環境音を再現する。具体的には、音要素ミキシング部13は、ストレージ30に格納されている各音要素データ31を求められた音量でミキシングして指定地点の環境音の音声データを生成する。当該生成された環境音音声データはユーザー端末101に送信され、ユーザーは環境音再生ボタン105をクリックすることで指定地点の環境音を聞くことができる。
【0039】
以上のように、本実施形態に係る環境音再現装置10によると、ユーザーにより指定された地点の環境音が、その近辺における,環境音があらかじめ定義されているモデル地点の環境音に基づいて再現されるため、指定地点の環境音再現に要する計算量が比較的少なくて済む。これにより、任意の地点の環境音をリアルタイムで再現することができる。
【0040】
特に、従来技術のように現地で録音した環境音をそのまま再生すると人の声が含まれていてプライバシーの問題が生じるところ、本実施形態に係る環境音再現装置10は、音要素という音の素材を適宜ミキシングして環境音を再現するため、そのようなプライバシーの問題を回避することができる。
【0041】
また、環境音は季節や時間帯によって異なることがあるところ、本実施形態に係る環境音再現装置10では季節および/または時間帯を指定できるため、より実態に即した環境音を再現することができる。
【0042】
なお、上記説明では環境音再現装置10はクラウド環境100に配置されるとしたが、ユーザー側のパソコンに配置してもよい。
【0043】
(モデル地点環境音の推定方法)
上記モデル地点の環境音は手動あるいはヒューリスティックスな手法で定義してもよいが、モデル地点の数が多くなると人手ですべてを定義することが困難になる。かかる問題に対して、以下に示すモデル地点環境音の推定方法を導入することで、モデル地点の環境音の定義を一部自動化することが可能となる。なお、以下のモデル地点環境音の推定方法はパソコンなどを用いて実施可能である。
【0044】
図5Aは、モデル地点環境音(自然由来および人工物由来の音要素)の推定方法のフローチャートである。各モデル地点における自然由来および人工物由来の音要素は地図情報および統計データから推定することができる。
【0045】
まず、Google(登録商標)マップやOpenStreetMap(登録商標)などの地図情報から、モデル地点から所定範囲内にある,自然由来および人工物由来の音要素の音源となり得る対象物を特定する(S11)。例えば、海や川などは自然由来の音要素の音源となり得る対象物であり、工場、道路、空港などは人工物由来の音要素の音源となり得る対象物である。
【0046】
地図情報から音源対象物が特定されると、ステップS11で特定された対象物に紐づけられた自然由来の音要素の音量を、モデル地点とその対象物との距離に応じた値に設定する(S12)。例えば、対象物「海」は自然由来の音要素「波」と紐づけられており、海岸線に近いモデル地点では海岸線からの距離に応じて音要素「波」の音量を設定することができる。
【0047】
次に、ステップS11で特定された対象物に紐づけられた人工物由来の音要素の音量を、その対象物に係る統計データ応じた値に設定する(S13)。統計データとして、幹線道路の交通量や道路幅などの情報を用いることができる。例えば、対象物「道路」は人工物由来の音要素「車」と紐づけられており、幹線道路に近いモデル地点では当該道路の交通量および道路幅に応じて音要素「車」の音量を設定することができる。
【0048】
なお、
図5Aでは便宜上、ステップS11の後にステップS12→ステップS13の順に実行しているが、ステップS12とステップS13の順序を入れ替えて、ステップS11の後に先にステップS13を実行し、その後ステップS12を実行するようにしてもよい。
【0049】
図5Bは、モデル地点環境音(人の活動由来の音要素)の推定方法のフローチャートである。各モデル地点における人の活動由来の音要素はソーシャルネットワーク(SNS)のビックデータから推定することができる。
【0050】
まず、Twitter(登録商標)やFacebook(登録商標)などのソーシャルネットワークサービスに投稿された例えば過去1年分のビッグデータを解析して、投稿者のプロフィール、投稿場所の分布状況、および音に関するキーワードを抽出する(S21)。投稿者のプロフィールが直接抽出できない場合には、既存の技術を利用して投稿内容から投稿者の居住地、年齢層、性別などを推定してもよい。音に関するキーワードは、例えば、「うるさい」「落ち着く」「静か」「にぎやか」「うるさい」「人混みだらけ」「ガヤガヤ」といった言葉である。なお、これらキーワードはSNSビッグデータを学習することで得ることができる。
【0051】
SNSビックデータが解析できると、モデル地点における人の活動由来の音要素の音量を、モデル地点での投稿数、投稿者のプロフィール、および音に関するキーワードに応じた値に設定する(S22)。例えば、投稿数の多いモデル地点では音要素「混雑」の音量が高めに設定され、投稿者のプロフィールから当該投稿者が子連れであると判断できる場合にはそのモデル地点における音要素「子供」や「ブランコ」の音量が高めに設定される。また、「うるさい」「にぎやか」といったキーワードが含まれる場合にはそのモデル地点の音要素「混雑」や「大歓声」の音量が高めに設定される。
【0052】
さらに、人の活動由来の音要素については、SNSへの投稿日時に応じてその音量を季節別および/または時間帯別に細分化して設定することができる。例えば、モデル地点が観光地である場合には、観光シーズンに「うるさい」「人混みだらけ」といったキーワードを含む投稿が集中していれば、そのモデル地点の観光シーズンにおける音要素「混雑」の音量が高めに設定される。
【0053】
(環境音再現装置の応用例)
次に、本実施形態に係る環境音再現装置10を不動産検索システムに応用した例について説明する。
図6は、本発明の一実施形態に係る不動産検索システムを含むシステム全体のブロック図である。本実施形態に係る不動産検索システム10Aもまた、クラウド環境100に配置されたサーバ装置上で稼働してSaaSの形態で実施することができる。クラウド環境100には、さらに、上記のマップサーバ20およびストレージ30が配置されている。ユーザーはユーザー端末101にインストールされているウェブブラウザーまたは専用アプリから不動産検索システム10Aにアクセスしてサービスを受けることができる。
【0054】
不動産検索システム10Aは、物件データベース14と、検索エンジン15と、フロントエンドサーバ16と、環境音再現装置10とを備えている。物件データベース14には土地や建物の場所、占有面積、価格、築年数、間取り、生活環境などの不動産物件情報が登録されている。検索エンジン15は、与えられた条件で物件データベース14を検索する。
【0055】
フロントエンドサーバ16は、ユーザー端末101と通信し、ユーザー端末101から検索条件を受け付け、また、ユーザー端末101に検索結果を提供する。
図7は、検索条件入力時のユーザー端末101の画面例を示す。ユーザーは、街の雰囲気、物件の賃料、占有面積、築年数その他の条件を指定することができる。条件を入力してから画面上の検索ボタン108を押すことでユーザー端末101からフロントエンドサーバ16に物件検索条件が送信される。フロントエンドサーバ16は、ユーザー端末101から物件検索条件を受け付けると検索エンジン15に当該物件検索条件を渡して検索を実行させる。
【0056】
検索エンジン15による検索が終わると、環境音再現装置10は、検索エンジン14から検索により見つかった不動産物件の地点情報を受けて当該地点の環境音を再現する。環境音の再現方法については上述した通りであるからここでの再度の説明は省略する。フロントエンドサーバ16は、検索エンジン15から検索結果を受けてユーザー端末101に当該検索結果を提供する。このとき、フロントエンドサーバ16は、環境音再現装置10によって再現された環境音の音声データもユーザー端末101に提供する。
【0057】
図8は、検索結果表示時のユーザー端末101の画面例を示す。見つかった不動産物件はマップ102にピンアイコン104でその位置が示されるとともに物件情報ウィンドウ109に詳細情報が表示される。物件情報ウィンドウ109には環境音再生ボタン105があり、ユーザーはカーソル103を移動させて環境音再生ボタン105をクリックするかあるいは環境音再生ボタン105近傍をタッチすることで、当該見つかった不動産物件における環境音をユーザー端末101の図略のスピーカーから聞くことができる。さらに、季節を選択するためのプルダウン106および時間帯を選択するためのプルダウン107を操作して所望の季節および時間帯を選ぶことで、当該見つかった不動産物件における当該季節および時間帯の環境音を聞くことができる。
【0058】
なお、上記例では不動産検索システム10Aが環境音再現装置10を備えているとしたが、既存の不動産検索システムを、API(Application Programming Interface)を通じて環境音再現装置10と外部連携するように機能拡張することで、上記の不動産検索システム10Aと同等のシステムを構築することができる。
【0059】
(その他の応用例)
本実施形態に係る環境音再現装置10は、経路案内システムにおける音声ナビゲーションに応用することもできる。経路案内システムは、ユーザーが出発地点と目的地点を指定することにより最適な経路を探索してユーザーに経路を案内するものである。特に、視覚障害者向けに音声で経路を案内することがある。この場合、環境音再現装置10を用いて、経路中の要所(例えば、曲がるべき交差点や目標物がある地点)の環境音を再現して音声案内に織り交ぜることで、ユーザーに経路をよりわかりやすく案内することができる。
【0060】
以上のように、本発明における技術の例示として、実施の形態を説明した。そのために、添付図面および詳細な説明を提供した。
【0061】
したがって、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0062】
また、上述の実施の形態は、本発明における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【符号の説明】
【0063】
10…環境音再現装置、11…モデル地点選定部、12…音要素音量計算部、13…音要素ミキシング部、10A…不動産検索システム、14…物件データベース、15…検索エンジン、16…フロントエンドサーバ、101…ユーザー端末