(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】抵抗器
(51)【国際特許分類】
H01C 1/03 20060101AFI20231122BHJP
【FI】
H01C1/03
(21)【出願番号】P 2019237167
(22)【出願日】2019-12-26
【審査請求日】2022-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000215833
【氏名又は名称】帝国通信工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094226
【氏名又は名称】高木 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100087066
【氏名又は名称】熊谷 隆
(72)【発明者】
【氏名】川崎 大宇
(72)【発明者】
【氏名】森 康裕
(72)【発明者】
【氏名】溝尻 芳行
【審査官】木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-206801(JP,A)
【文献】特開昭48-002097(JP,A)
【文献】実開昭63-089201(JP,U)
【文献】実開昭49-088232(JP,U)
【文献】特開2019-212751(JP,A)
【文献】実開昭53-079332(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 1/028- 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースに設けた抵抗素子収納部内に抵抗素子を収納すると共に、当該抵抗素子収納部内に充填材を充填し、さらに前記抵抗素子に接続したリード線をケース外部に引き出して構成される抵抗器において、
前記ケースの上面には、前記抵抗素子収納部の開口を設け、
且つ少なくとも前記ケースの前記抵抗素子収納部周囲の一側面に、リード線挿入溝を設けてその溝用開口を前記開口に繋げ、
前記リード線挿入溝の内底面に溝封止用シール材を塗布し、
前記開口から前記抵抗素子収納部内に抵抗素子を挿入するとともに、前記溝用開口から前記リード線挿入溝内に前記リード線を挿入し
て当該リード線を前記溝封止用シール材の上に載置した状態で前記抵抗素子収納部内に前記充填材を充填し、さらに当該充填材の開口側の上面を覆うようにシール材を塗布したことを特徴とする抵抗器。
【請求項2】
請求項1に記載の抵抗器であって、
前記充填材は、前記リード線挿入溝内にも充填され、
前記シール材は、前記リード線挿入溝内に充填した充填材の溝用開口側の上面にも塗布されることを特徴とする抵抗器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、給湯器の凍結防止ヒータ用の抵抗器などとして用いて好適な抵抗器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、給湯器の通水パイプの凍結防止のため、通水パイプにヒータ用の抵抗器を取り付ける場合がある。この種の抵抗器は、例えば特許文献1の
図1,
図2などに示すように、セラミック製のケース(10)の収納部(11)内に、両端にリード線(55),(57)を接続した抵抗素子(50)を収納した上で、当該収納部(11)内に充填材(80)として液体ワニスを使用した液体セメントを充填して構成されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、従来は、充填材(80)として液体ワニスを使用した液体セメントを収納部(11)に充填し、気泡が発生しないように、24時間程度自然乾燥させていたが、製品完成までに時間を要してしまうという課題があった。
【0005】
そこで本願発明者は、液体セメントの代わりに、粉体セメントを使用することを試みた。粉体セメントは、絶縁粉体の表面にワニスを塗布したものであり、これをケースの収納部内に充填した後に加熱し、前記ワニスを溶かして粉体同士を接着後、冷却・硬化(固化)させる。このように粉体セメントを使用した場合は、上記液体セメントのような長時間の自然乾燥の必要がないので、製品完成までの時間を短縮することができる。しかし、硬化後の粉体セメントは、相互に接着した粉体の表面が削れ易く、充填・固化した粉体セメントの表面に指などが触れるとセメントを構成する粉体が削れてしまう虞があった。
【0006】
また、粉体セメントは、相互に接着した粉体同士の間に微細な空隙が生じ易く、液体セメントに比べてその防水性能・絶縁性能が劣る虞もあった。
【0007】
また、例えばリード線をケースに設けた凹状のリード線挿入部に挿入した際に、リード線挿入部の内底面とリード線との間に隙間が生じる場合があったが、その後に充填する粉体セメントには粘性が無いため、当該隙間に粉体セメントが入り込まず、当該隙間がそのまま残り、このため充填材による抵抗素子の防水・絶縁を確実に行えない虞もあった。
【0008】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものでありその目的は、防水・絶縁を確実に行うことができる抵抗器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ケースに設けた抵抗素子収納部内に抵抗素子を収納すると共に、当該抵抗素子収納部内に充填材を充填し、さらに前記抵抗素子に接続したリード線をケース外部に引き出して構成される抵抗器において、前記ケースの上面には、前記抵抗素子収納部の開口を設け、且つ少なくとも前記ケースの前記抵抗素子収納部周囲の一側面に、リード線挿入溝を設けてその溝用開口を前記開口に繋げ、前記リード線挿入溝の内底面に溝封止用シール材を塗布し、前記開口から前記抵抗素子収納部内に抵抗素子を挿入するとともに、前記溝用開口から前記リード線挿入溝内に前記リード線を挿入して当該リード線を前記溝封止用シール材の上に載置した状態で前記抵抗素子収納部内に前記充填材を充填し、さらに当該充填材の開口側の上面を覆うようにシール材を塗布したことを特徴としている。
本発明によれば、ケースの収納部内に充填した充填材の開口側の上面をシール材によって覆うので、収納部内への液体又は湿気の浸入を確実に防止でき、抵抗素子の防水・絶縁を確実に維持することができる。
特に、充填材として、粉体セメントを使用した場合は、液体セメントに比べて防水性が良いとは言えないので、より効果的である。
また本発明によれば、前記リード線挿入溝の内底面に溝封止用シール材を塗布するので、当該リード線挿入溝にリード線を挿入した際、容易且つ確実に、当該リード線を前記溝封止用シール材に密着させることができ、前記隙間が生じなくなる。これによって、より効果的に収納部内への液体又は湿気の浸入を防止できる。
【0010】
また本発明は、上記特徴に加え、前記充填材は、前記リード線挿入溝内にも充填され、前記シール材は、前記リード線挿入溝内に充填した充填材の溝用開口側の上面にも塗布されることを特徴としている。
本発明によれば、シール材によってリード線挿入溝内に充填した充填材の上面も覆うので、より効果的に収納部内への液体又は湿気の浸入を防止できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、抵抗器の防水・絶縁を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】抵抗器1の斜視図(但し、溝封止用シール材85の記載を省略)である。
【
図4】ケース10を示す図であり、
図4(a)は斜視図、
図4(b)は
図4(c)のA-A断面図、
図4(c)は平面図、
図4(d)は
図4(c)のB-B断面図である。
【
図9】リード線挿入溝15に挿入されたリード線51とシール層15Aと充填材60とシール材70との関係を示す要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の1実施形態に係る抵抗器1の斜視図(但し、溝封止用シール材85の記載を省略している)である。また
図3は、抵抗器1の分解斜視図である。これらの図に示すように、抵抗器1は、ケース10に設けた抵抗素子収納部11内に抵抗素子40を収納すると共に、当該抵抗素子収納部11内に充填材60を充填し、当該充填材60の上面にシール材70を塗布し、前記抵抗素子40に接続したリード線51,51をケース10の外部に引き出し、さらにリード線51,51を引き出す部分を防水するための溝封止用シール材81,85を塗布して構成されている。なお以下の説明において、「上」とはケース10からシール材70を見る方向をいい、「下」とはその反対方向をいうものとする。
【0015】
図4はケース10を示す図であり、
図4(a)は斜視図、
図4(b)は
図4(c)のA-A断面図、
図4(c)は平面図、
図4(d)は
図4(c)のB-B断面図である。これらの図に示すように、ケース10は、四角柱状のセラミックス製であって、その上面(天面)10aに略矩形凹状の抵抗素子収納部11を設け、またケース10の底面10cをこの抵抗器1によって加熱される図示しない被加熱体を当接する被装着面としている。
【0016】
抵抗素子収納部11は、抵抗素子40を収納できる寸法形状に形成されており、
図4(b)に示すように、横断面が略U字形状になっていて、ケース10の上面にこの抵抗素子収納部11の開口13を設けている。また抵抗素子収納部11の内底面の長手方向の両端側には、抵抗素子位置決め部19,19が、当該内底面から突出して段部となるように設けられている。
【0017】
ケース10の長手方向の両側面10e,10fには、その上辺に凹溝状(略U字状)となるリード線挿入溝15,15が形成されている。リード線挿入溝15,15は、収納部11に連通しており、またその上端の溝用開口17,17は前記開口13に繋がっている。リード線挿入溝15の幅寸法は、リード線51の外径寸法とほぼ同じ寸法に形成されている。またリード線挿入溝15の内底面21は、リード線51の外径寸法形状とほぼ同一内径寸法形状の半円弧状に形成されている。
【0018】
抵抗素子(固定抵抗器)40は、円柱状の絶縁棒の外周に抵抗線を巻き付け、その両端に金属製のキャップ41,41を被せ、その際、リード線51,51から引き出した電線53,53をキャップ41,41に挟み込み、この状態でキャップ41,41の外周側面をかしめて構成されている。なお抵抗素子40の構造がこの実施形態の構造に限定されないことは言うまでもない。
【0019】
充填材60は、この実施形態では、粉体セメントを用いている。粉体セメントとは、粒径の異なる複数種類の絶縁粉(この例では珪石の粉)にワニスを塗布した粉体であり、熱を加えることでワニスを溶融して粉体同士を相互に結合して接着し、冷却することで一体に固化するものである。
【0020】
シール材70と溝封止用シール材81,85は、シリコン樹脂(シリコンゴム)である。
【0021】
次に、抵抗器1の製造方法を説明する。
図2及び
図5乃至
図8は、抵抗器1の製造方法説明図であり、
図5乃至
図8は
図4(d)に相当する断面を示している。まず
図5に示すように、ケース10の両リード線挿入溝15,15の内底面21,21に、溝封止用シール材81,81を塗布し乾燥する。これによって内底面21上に、弾性を有するシール層15A(
図9参照)が形成される。
【0022】
次に、
図2,
図6に示すように、ケース10の開口13から抵抗素子収納部11内に抵抗素子40を収納し、その際、抵抗素子40の両端に接続された一対のリード線51,51をそれぞれケース10の各リード線挿入溝15,15に挿入(圧入)する。このとき、抵抗素子40は、一対の抵抗素子位置決め部19,19の間に挿入されて位置決めされる。またこのとき、両リード線51,51は、シール層15A上に弾接する(
図6,
図9参照)。シール層15Aは、ケース10を構成するセラミックの表面と相違し、弾性を有する上に、表面が滑らかなので、容易にリード線51に密着する。
【0023】
次に、
図7に示すように、抵抗素子40を収納した収納部11内に充填材60を充填する。このとき、両リード線挿入溝15,15内にも充填材60を満たす。そしてこの充填材60を加熱乾燥して粉体同士を接着・一体化した後に冷却して固化する。これによって、抵抗素子40は密封される。
【0024】
次に、
図8に示すように、ケース10の両側面10e,10fのリード線51,51の上部であって、各リード線挿入溝15,15を塞ぐ位置に、溝封止用シール材85を塗布する。次に、
図8に示すように、充填材60の開口13及び溝用開口17側の上面を覆うようにシール材70を塗布し、自然乾燥させる。これによって抵抗器1が完成する。なお上記組立手順はその一例であり、他の各種異なる組立手順を用いて組み立てても良いことはいうまでもない。
【0025】
そして組み立てられた抵抗器1は、例えば給湯器用の熱交換器の通水パイプの外周面に、その底面(被装着部)10cが当接するように装着される。そして一対のリード線51,51間に通電を行えば、抵抗素子40が加熱され、通水パイプが加熱され、その凍結が防止される。
【0026】
以上説明したように、抵抗器1は、ケース10の抵抗素子収納部11内に充填した充填材60の開口13側の上面を覆うようにシール材70を塗布したので、抵抗素子収納部11内への液体又は湿気の浸入を確実に防止でき、ケース10内部の抵抗素子40の絶縁を確実に維持することができる。特に、この実施形態では、充填材60として使用している粉体セメントの防水性が、液体セメントに比べて良いとは言えない、即ち、液体セメントによる充填材は内部が密に固まっているが、粉体セメントによる充填材は内部が粗な状態に固まっているので、液体セメントに比べて絶縁性が低くまた水や湿気が入り易く、このためシール材70による効果は大きい。また充填材60として粉体セメントを使用した場合は、その表面が削れ易くなるが、当該表面をシール材70で覆うので、前記削れの問題も解消できる。
【0027】
また上記抵抗器1においては、リード線挿入溝15内に充填した充填材60の溝用開口17側の上面もシール材70によって覆うので、より効果的に抵抗素子収納部11内への液体又は湿気の浸入を防止できる。
【0028】
また上記抵抗器1においては、リード線挿入溝15の内底面21に溝封止用シール材81を塗布し、その上にリード線51を載置した状態で、当該リード線挿入溝15内に前記充填材60を充填するので、リード線挿入溝15にリード線51を挿入した際、容易且つ確実に、リード線51を溝封止用シール材81(シール層15A)に密着させることができ、リード線挿入溝15の内底面21とリード線51の間に微細な隙間が生じなくなる。これによって、より効果的に抵抗素子収納部11内への液体又は湿気の浸入を防止することができる。即ち、充填材60として粉体セメントを使用し、且つ溝封止用シール材81を塗布しない場合は、液体セメントの場合に比べて、リード線挿入溝15の内底面21とリード線51との間に生じた隙間に充填材60が入り込みにくく、当該隙間から液体や湿気が浸入する虞が増大するが、溝封止用シール材81(シール層15A)を塗布しておくことで、上述のように、この虞を防止できる。
【0029】
また上記抵抗器1においては、溝封止用シール材85がリード線51上部のリード線挿入溝15を塞ぐので、リード線挿入溝15側から抵抗素子収納部11内への液体又は湿気の浸入をさらに効果的に防止することができる。
【0030】
以上本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。なお直接明細書及び図面に記載がない何れの形状や構造や材質であっても、本願発明の作用・効果を奏する以上、本願発明の技術的思想の範囲内である。例えば、上記実施形態では、ケース10の長手方向の両側面10e,10fにそれぞれリード線挿入溝15,15を設けたが、リード線挿入溝を設ける側面は1つでもよく、その場合は当該1つの側面に2つのリード線挿入溝を設ければよい。またリード線挿入溝は1つだけ設けて、この1つのリード線挿入溝に2本のリード線を挿入しても良い。また3つ以上のリード線挿入溝を設け、これらにそれぞれリード線を挿入しても良い。また本発明にかかる抵抗器は、ヒータ用の抵抗器に限定されず、ヒータ用以外の各種用途に用いる抵抗器に適用しても良い。また上記実施形態では、充填材として粉体セメントを用いたが、その代わりに液体セメントを用いて抵抗器を構成しても良い。また、上記記載及び各図で示した実施形態は、その目的及び構成等に矛盾がない限り、互いの記載内容を組み合わせることが可能である。また、上記記載及び各図の記載内容は、その一部であっても、それぞれ独立した実施形態になり得るものであり、本発明の実施形態は上記記載及び各図を組み合わせた一つの実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0031】
1 抵抗器
10 ケース
11 抵抗素子収納部
13 開口
15 リード線挿入溝
17 溝用開口
21 内底面
40 抵抗素子
51 リード線
60 充填材
70 シール材
81,85 溝封止用シール材