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特許7389475移送ワイヤの繰り出し装置および移送ワイヤの繰り出し方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】移送ワイヤの繰り出し装置および移送ワイヤの繰り出し方法
(51)【国際特許分類】
   B66D 5/16 20060101AFI20231122BHJP
   E01D 4/00 20060101ALI20231122BHJP
   E01D 19/12 20060101ALI20231122BHJP
   E01D 21/00 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
B66D5/16
E01D4/00
E01D19/12
E01D21/00 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020025204
(22)【出願日】2020-02-18
(65)【公開番号】P2021130522
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2022-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】592182573
【氏名又は名称】オックスジャッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山形 昭博
(72)【発明者】
【氏名】早田 知広
【審査官】今野 聖一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-023066(JP,A)
【文献】特開平07-137943(JP,A)
【文献】実開昭63-192388(JP,U)
【文献】登録実用新案第3131134(JP,U)
【文献】特開昭58-078987(JP,A)
【文献】特開2012-066908(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105540479(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66D 1/00-5/34
E01D 4/00;
19/12;
21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移送ワイヤの先端に連結された重量物を、ジャッキ式吊り上げ装置によって吊り上げ移送をするために、前記移送ワイヤの先端を前記重量物の位置まで繰り出す移送ワイヤの繰り出し装置であって、
前記移送ワイヤが自重によって逸走することを防止するブレーキング力を前記移送ワイヤに付与するブレーキ機構と、
前記ブレーキ機構によって付与されたブレーキング力に抗して、前記移送ワイヤを前記重量物に向けて繰り出す送り機構と、を有し、
前記ブレーキ機構が付与する前記ブレーキング力は、最大逸走力(W)よりも大きい、移送ワイヤの繰り出し装置。
ここに、
W=(W1+W2)・G
W1:移送ワイヤを最大繰り出したときの移送ワイヤの質量
W2:重量物を移送ワイヤの先端に連結する金具類の質量
G :重力加速度
である。
【請求項2】
前記ブレーキ機構は、
前記移送ワイヤを挟持する一対のクランプ板と、
一対の前記クランプ板を相対的に接近させるブレーキ用ジャッキと、を有する、請求項1に記載の移送ワイヤの繰り出し装置。
【請求項3】
前記送り機構は、
ギアモータに連結される駆動ローラと、
前記駆動ローラとの間に前記移送ワイヤを挟持する従動ローラと、
前記移送ワイヤを挟持する挟持力を前記駆動ローラおよび前記従動ローラに付与する付勢部と、を有し、
前記付勢部は、前記ジャッキ式吊り上げ装置によって前記重量物を吊り上げ移送するときに前記挟持力を解放自在である、請求項1または請求項2に記載の移送ワイヤの繰り出し装置。
【請求項4】
前記駆動ローラは、前記移送ワイヤとの接地面に形成された溝を有する、請求項3に記載の移送ワイヤの繰り出し装置。
【請求項5】
移送ワイヤの先端に連結された重量物を、ジャッキ式吊り上げ装置によって吊り上げ移送をするために、前記移送ワイヤの先端を前記重量物の位置まで繰り出す移送ワイヤの繰り出し方法であって、
前記移送ワイヤが自重によって逸走することを防止するブレーキング力を前記移送ワイヤに付与し、
付与されたブレーキング力に抗して、前記移送ワイヤを前記重量物に向けて繰り出してなり、
付与されるブレーキング力は、最大逸走力(W)よりも大きい、移送ワイヤの繰り出し方法。
ここに、
W=(W1+W2)・G
W1:移送ワイヤを最大繰り出したときの移送ワイヤの質量
W2:重量物を移送ワイヤの先端に連結する金具類の質量
G :重力加速度
である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移送ワイヤの繰り出し装置および移送ワイヤの繰り出し方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本件出願人は、移送ワイヤを用いて橋桁等の重量物を、ジャッキ式吊り上げ装置で吊り上げ移送する場合において、移送ワイヤを、重量物の位置まで繰り出すための移送ワイヤの繰り出し装置およびその方法をすでに提案している(特許文献1を参照)。この文献に開示された移送ワイヤの繰り出し装置は、移送ワイヤの先端部に重りを連結し、この重りの自重とブレーキ機構におけるブレーキ力の調整とによって移送ワイヤを繰り出す。ブレーキ力調整ミスによる重りおよび移送ワイヤの逸走を防止する安全装置として、重りにウインチのウインチワイヤを連結している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6103717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記文献に開示された移送ワイヤの繰り出し装置は、移送ワイヤの自重を利用して移送ワイヤを繰り出す。移送ワイヤの繰り出し時には、移送ワイヤの繰り出し速度を計測し、計測した移送ワイヤの繰り出し速度が予め設定したウインチワイヤの繰り出し速度よりも遅いときに、ブレーキ機構によって付与するブレーキ力を低減する制御を行う。漸増する移送ワイヤの自重を、ウインチの動作とバランスを取りながら、ブレーキ機構によって正確に負担する必要がある。このため、所望の繰り出し速度において移送ワイヤを安定して繰り出すための制御がやや複雑なものとなる。
【0005】
本発明は、移送ワイヤが自重によって逸走することを防止でき、かつ、所望の繰り出し速度において移送ワイヤを安定して容易に繰り出すことが可能な、移送ワイヤの繰り出し装置および移送ワイヤの繰り出し方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明に係る移送ワイヤの繰り出し装置は、移送ワイヤの先端に連結された重量物を、ジャッキ式吊り上げ装置によって吊り上げ移送をするために、前記移送ワイヤの先端を前記重量物の位置まで繰り出す装置である。この移送ワイヤの繰り出し装置は、前記移送ワイヤが自重によって逸走することを防止するブレーキング力を前記移送ワイヤに付与するブレーキ機構と、前記ブレーキ機構によって付与されたブレーキング力に抗して、前記移送ワイヤを前記重量物に向けて繰り出す送り機構と、を有し、前記ブレーキ機構が付与する前記ブレーキング力は、最大逸走力(W)よりも大きい。
ここに、
W=(W1+W2)・G
W1:移送ワイヤを最大繰り出したときの移送ワイヤの質量
W2:重量物を移送ワイヤの先端に連結する金具類の質量
G :重力加速度
である。
【0007】
また、本発明に係る移送ワイヤの繰り出し方法は、移送ワイヤの先端に連結された重量物を、ジャッキ式吊り上げ装置によって吊り上げ移送をするために、前記移送ワイヤの先端を前記重量物の位置まで繰り出す方法である。この移送ワイヤの繰り出し方法にあっては、前記移送ワイヤが自重によって逸走することを防止するブレーキング力を前記移送ワイヤに付与し、付与されたブレーキング力に抗して、前記移送ワイヤを前記重量物に向けて繰り出してなり、付与されるブレーキング力は、最大逸走力(W)よりも大きい。
ここに、
W=(W1+W2)・G
W1:移送ワイヤを最大繰り出したときの移送ワイヤの質量
W2:重量物を移送ワイヤの先端に連結する金具類の質量
G :重力加速度
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の移送ワイヤの繰り出し装置および移送ワイヤの繰り出し方法は、移送ワイヤの自重を利用して移送ワイヤを繰り出す方式ではなく、移送ワイヤが自重によって逸走することを防止するブレーキング力を移送ワイヤに付与し、付与されたブレーキング力に抗して移送ワイヤを重量物に向けて強制的に繰り出している。このため、移送ワイヤが自重によって逸走することを防止でき、かつ、所望の繰り出し速度において移送ワイヤを安定して容易に繰り出すことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る移送ワイヤの繰り出し装置および移送ワイヤの繰り出し方法を適用したアーチ橋の橋桁を構築する様子を示す説明図である。
図2図1の要部を示す側面図である。
図3図1の要部を示す平面図である。
図4図1の要部を示す正面図である。
図5】ジャッキ式吊り上げ装置、移送ワイヤの繰り出し装置、およびリールを備える巻き取り機を示す正面図である。
図6】巻き取り機を示す側面図である。
図7】移送ワイヤの繰り出し装置を示す正面図である。
図8図7の8-8線に沿う断面図である。
図9】移送ワイヤの繰り出し装置を示す平面図である。
図10図10(A)(B)は、移送ワイヤの繰り出し装置における送り機構の要部を示す平面図であり、図10(A)は、移送ワイヤを繰り出すときに駆動ローラおよび従動ローラが移送ワイヤを挟持した状態を示す図、図10(B)は、重量物を吊り上げ移送するときに駆動ローラおよび従動ローラが移送ワイヤの挟持を解放した状態を誇張して示す図である。
図11】油圧回路および電気回路を示すブロック図とともに、ジャッキ式吊り上げ装置および移送ワイヤの繰り出し装置を模式的に示す正面図である。
図12図11におけるジャッキ式吊り上げ装置および移送ワイヤの繰り出し装置を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、以下の説明は特許請求の範囲に記載される技術的範囲や用語の意義を限定するものではない。また、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0011】
図1図4を参照して、本発明の実施形態に係る移送ワイヤ40の繰り出し装置60および移送ワイヤ40の繰り出し方法を適用したアーチ橋10の橋桁11の構築について説明する。
【0012】
図1に示すように、アーチ橋10の橋桁11は、アーチ部材12に所定の間隔でハンガー13を吊り下げ、このハンガー13に両岸から桁ブロック14(重量物に相当する)を順次連結することによって構築される。桁ブロック14は、図示しない製作ヤードにおいて組み立てられ、アーチ橋10の下まで台船20によって運ばれてくる。図2および図3に示すように、アーチ部材12は、中央部でやや狭くなるような間隔で左右2本設けられている。左右のアーチ部材12の上に、架台15が所定間隔を隔てて取り付けられている。架台15の上に、桁ブロック14を移送するための巻き取り機30が取り付けられている。巻き取り機30は、ケーブルクレーン16によって吊り下げられ、架台15の上に取り付けられる。
【0013】
図4に示すように、巻き取り機30は、移送ワイヤ40の先端に連結された桁ブロック14を吊り上げ移送するジャッキ式吊り上げ装置50と、移送ワイヤ40の先端を桁ブロック14の位置まで繰り出す移送ワイヤ40の繰り出し装置60と、移送ワイヤ40を収納するリール70と、を有する。繰り出し装置60およびリール70は、台座31の上に取り付けられている。ジャッキ式吊り上げ装置50は、繰り出し装置60の上に取り付けられている。巻き取り機30は、例えば4台を1組として、架台15の上に取り付けられる。移送ワイヤ40の下端部は、アンカー41に連結されている。アンカー41は、桁ブロック14のアンカーブロック14aに連結されている。アンカー41は、図示しない吊り桁を介してアンカーブロック14aに連結される場合もある。アンカー41は、桁ブロック14を移送ワイヤ40の先端に連結する金具の一例であり、繰り出し装置60によって移送ワイヤ40の先端を桁ブロック14の位置まで繰り出すときに、すでに移送ワイヤ40の先端に連結されている。
【0014】
移送ワイヤ40は、例えば、PC鋼より線からなり、比較的大口径(例えば、28.6φ)のワイヤが用いられる。なお、移送ワイヤ40は、PC鋼より線に限定されるものではなく、太さ、材質、より線の有無などを自由に選択できる。
【0015】
次に、図5図12を参照しつつ、巻き取り機30の構成をさらに説明する。
【0016】
図5および図6に示すように、巻き取り機30は、ジャッキ式吊り上げ装置50と、繰り出し装置60と、リール70と、を有する。巻き取り機30は、繰り出し装置60およびリール70が台座31の上に取り付けられ、ジャッキ式吊り上げ装置50が繰り出し装置60の上に取り付けられ、ユニット化されている。巻き取り機30をユニット化することによって、巻き取り機30全体の設置スペースを小さくでき、さらに現場における段取り作業を容易かつ迅速に行うことができる。
【0017】
ジャッキ式吊り上げ装置50は、例えば、ダブルツイン(登録商標)ジャッキなどの公知の装置を使用できる。図示するジャッキ式吊り上げ装置50は、2本引きのダブルツイン(登録商標)ジャッキである。ジャッキ式吊り上げ装置50は、移送ワイヤ40を介してジャッキの伸縮により重量物を直引きするものであるため、小型でありながら大きな重量物の移送が可能である。
【0018】
図11および図12にも示すように、繰り出し装置60の上部支持体61に、ダブルツイン(登録商標)ジャッキなどからなる公知のジャッキ式吊り上げ装置50が取り付けられている。ジャッキ式吊り上げ装置50は、上部支持体61にシリンダ側が固定的に取付けられた4個の第1ジャッキ51と、上部支持体61にラム側が固定的に取付けられた2個の第2ジャッキ52と、を有する。4個の第1ジャッキ51は、対をなす2個を一組にして、二組配置されている。二組の第1ジャッキ51は、2本の移送ワイヤ40を巻き上げ可能なように、所定の間隔を隔てて配置されている(図5および図11を参照)。対をなす2個の第1ジャッキ51は、180度の間隔をおいて配置されている(図6および図12を参照)。2個の第2ジャッキ52は、二組の第1ジャッキ51と交差する位置に配置されている(図5および図11を参照)。
【0019】
対をなす第1ジャッキ51は、ラム側が第1連結枠51aに連結されている。第1連結枠51aの中央には、移送ワイヤ40を挾持する上部チャック(図示せず)が設けられている。上部チャックは、移送ワイヤ40を挾持する3つ割りされた円錐形状のウエッジを主体として構成される。第1ジャッキ51は、ラム作動ジャッキとして稼働する。対をなす第2ジャッキ52は、シリンダ側が第2連結枠52aに連結されている。第2連結枠52aには、移送ワイヤ40を挾持する下部チャック(図示せず)が2個設けられている。下部チャックも、上部チャックと同様に、移送ワイヤ40を挾持する3つ割りされた円錐形状のウエッジを主体として構成される。第2ジャッキ52は、シリンダ作動ジャッキとして稼働する。図示するジャッキ式吊り上げ装置50は、ラム作動ジャッキとシリンダ作動ジャッキとの併設方式を採用する。ラム作動ジャッキ(第1ジャッキ51)が稼働しているときに、シリンダ作動ジャッキ(第2ジャッキ52)が反転戻し動作を行う。ジャッキ式吊り上げ装置50は、ラム作動ジャッキ(第1ジャッキ51)およびシリンダ作動ジャッキ(第2ジャッキ52)が常時反転動作を行うことによって、連続稼働が可能となる。
【0020】
リール70は、内巻きタイプのリールである。リール70は、移送ワイヤ40を巻き取るときは巻き取りリールとして作用し、繰り出すときは繰り出しリールとして作用する。湾曲用ガイド管71は、移送ワイヤ40を湾曲させながら案内するために、ジャッキ式吊り上げ装置50の上方からリール70の上方にかけて配置されている。誘導用ガイド管72は、移送ワイヤ40を直線的に案内するために、湾曲用ガイド管71の端部とリール70との間に配置されている。なお、リール70は、内巻きタイプのリールに限定されるものではなく、外巻きタイプであってもよい。また、リール70に巻き取られていない状態の移送ワイヤ40を繰り出す場合であってもよい。
【0021】
移送ワイヤ40の繰り出し装置60は、移送ワイヤ40が自重によって逸走することを防止するブレーキング力を移送ワイヤ40に付与するブレーキ機構80と、ブレーキ機構80によって付与されたブレーキング力に抗して、移送ワイヤ40を桁ブロック14に向けて繰り出す送り機構90と、を有する。
【0022】
ブレーキ機構80が付与するブレーキング力は、最大逸走力(W)よりも大きいことが好ましい。
【0023】
ここに、最大逸走力(W)は、W=(W1+W2)・G
W1:移送ワイヤ40を最大繰り出したときの移送ワイヤ40の質量
W2:重量物を移送ワイヤ40の先端に連結する金具類の質量
G :重力加速度
である。「重量物を移送ワイヤ40の先端に連結する金具類」とは、移送ワイヤ40を重量物(桁ブロック14)に向けて繰り出すときの「重り」となる金具類を意味する。したがって、移送ワイヤ40を重量物に向けて繰り出す状態において移送ワイヤ40の先端にすでに連結されている金具類のみが含まれ、重量物の位置まで繰り出し終わった移送ワイヤ40の先端に後付けされる金具類は含まれない。「金具類」は、アンカー41などの金具や吊り桁など、移送ワイヤ40と重量物とを連結するために用いる部材が広く含まれる。
【0024】
ブレーキ機構80が付与するブレーキング力を最大逸走力(W)よりも大きくすることによって、移送ワイヤ40を最大繰り出したときであっても、移送ワイヤ40の自重および重りとなる金具類の自重が作用することによる移送ワイヤ40の逸走を防止できる。
【0025】
なお、本実施形態では、ブレーキ機構80が付与するブレーキング力は、移送ワイヤ40の繰り出し長さに拘わらず、最大逸走力(W)よりも大きい一定の値にしている。ただし、移送ワイヤ40の実際の繰り出し長さに応じて、ブレーキング力をリニア的にまたはステップ的に漸増させてもよい。この場合であっても、ブレーキング力は、繰り出し長さに応じた移送ワイヤ40の質量および金具類の質量に基づいて定まる逸走力よりも大きいことが必要である。
【0026】
図7図8、および図9に示すように、ブレーキ機構80は、移送ワイヤ40を挟持する一対のクランプ板81、82と、一対のクランプ板81、82を相対的に接近させるブレーキ用ジャッキ83と、を有する。PC鋼棒84に取り付けた対をなす2個の支圧板85、86の間に、一対のクランプ板81、82およびブレーキ用ジャッキ83が配置されている。ブレーキ用ジャッキ83は、センターホール形式のジャッキであり、シリンダ側が一方のクランプ板81に固定的に取付けられ、ラム側が一方の支圧板85に連結されている。一対のクランプ板81、82は、ブレーキ用ジャッキ83を伸び方向に作動させることによって相対的に接近し、移送ワイヤ40を挟持する。これによって、移送ワイヤ40は、ブレーキング力が付与される。クランプ板81、82は、移送ワイヤ40の半径よりやや浅いブレーキ溝87が垂直に形成されている。
【0027】
図7図8、および図9に示すように、送り機構90は、ギアモータ91と、ギアモータ91に連結される駆動ローラ92と、駆動ローラ92との間に移送ワイヤ40を挟持する従動ローラ93と、移送ワイヤ40を挟持する挟持力を駆動ローラ92および従動ローラ93に付与する付勢部94と、を有する。付勢部94は、ジャッキ式吊り上げ装置50によって桁ブロック14を吊り上げ移送するときに挟持力を解放自在に構成されている。図8および図9に示すように、付勢部94は、例えば、従動ローラ93の軸に接触する押し金具95と、従動ローラ93の軸を駆動ローラ92の軸に向けて押圧するばね力を押し金具95に付勢する強力ばね96と、を有する。
【0028】
図10(A)に示すように、移送ワイヤ40を繰り出すときには、付勢部94は、駆動ローラ92および従動ローラ93に挟持力を付与する。駆動ローラ92および従動ローラ93は、移送ワイヤ40を挟持した状態になる。この状態において、ギアモータ91によって駆動ローラ92を回転駆動すると、移送ワイヤ40は、ブレーキ機構80によって付与されたブレーキング力に抗して、桁ブロック14に向けて繰り出される。
【0029】
図10(B)に示すように、桁ブロック14を吊り上げ移送するときに、付勢部94は、駆動ローラ92および従動ローラ93に付与していた挟持力を解放する。駆動ローラ92および従動ローラ93は、移送ワイヤ40の挟持を解放した状態になる。この状態において、ジャッキ式吊り上げ装置50を作動すると、移送ワイヤ40がリール70に巻き取られ、桁ブロック14が吊り上げ移送される。駆動ローラ92および従動ローラ93は移送ワイヤ40の挟持を解放しているので、駆動ローラ92および従動ローラ93の移送ワイヤ40との接地面92a、93aの消耗を抑制できる。
【0030】
図10(A)(B)に示すように、駆動ローラ92は、移送ワイヤ40との接地面92aに形成された溝97を有する。駆動ローラ92は、接地面92aの溝97によって、移送ワイヤ40に対する接地抵抗力が高くなる。送り機構90は、移送ワイヤ40に対して駆動ローラ92が滑ることなく、移送ワイヤ40を確実に繰り出すことができる。なお、従動ローラ93の接地面93aにも溝97を形成してもよい。
【0031】
図11に示すように、巻き取り機30は、ジャッキ式吊り上げ装置50および繰り出し装置60の動作条件を設定したり動作を制御したりするコントローラ100を有する。コントローラ100には、油圧制御盤101およびモータ制御盤102が接続されている。油圧制御盤101には、電動ポンプユニット103、ジャッキ用圧力変換器104、およびブレーキ用圧力変換器105が接続されている。ジャッキ用圧力変換器104には、4台の第1ジャッキ51および2台の第2ジャッキ52が接続されている。ブレーキ用圧力変換器105には、ブレーキ機構80のブレーキ用ジャッキ83が接続されている。モータ制御盤102には、送り機構90のギアモータ91が接続されている。
【0032】
本実施形態の作用を説明する。
【0033】
移送ワイヤ40は、工場からドラムに外巻きされて現場に入荷される。巻き取り機30をアーチ橋10に取り付ける前に、入荷された移送ワイヤ40を一度ばらし、リール70に巻き付ける。図1に示すように、巻き取り機30は、ケーブルクレーン16に吊り下げられ、アーチ部材12の所定の位置に架台15を介して取り付けられる。巻き取り機30は、4台を1組として架台15の上に取り付けられる。
【0034】
移送ワイヤ40をリール70から引き出し、ジャッキ式吊り上げ装置50に挿通し、ブレーキ機構80の一対のクランプ板81、82の間に挿通し、送り機構90の駆動ローラ92および従動ローラ93の間に挿通する。ブレーキ機構80のブレーキ用ジャッキ83を伸び方向に作動させ、一対のクランプ板81、82を相対的に接近させ、移送ワイヤ40を挟持する。これによって、移送ワイヤ40は、自重によって逸走することを防止するブレーキング力が付与される。送り機構90の付勢部94によって、移送ワイヤ40を挟持する挟持力を駆動ローラ92および従動ローラ93に付与する(図10(A))。移送ワイヤ40の先端(下端部)にアンカー41を連結する。
【0035】
桁ブロック14は、アーチ橋10の下まで台船20によって運ばれてくる。台船20が所定の位置に達すると、ギアモータ91によって駆動ローラ92を回転駆動し、移送ワイヤ40の先端を桁ブロック14の位置まで繰り出す。移送ワイヤ40の繰り出しは、ブレーキ機構80がブレーキング力を移送ワイヤ40に付与した状態において、送り機構90がブレーキング力に抗して移送ワイヤ40を桁ブロック14に向けて繰り出すことにより行う。このように、移送ワイヤ40は、自重によって繰り出されることがなく、駆動ローラ92および従動ローラ93によって強制的に引っ張られ、クランプ板81、82に対して滑りつつ繰り出される。移送ワイヤ40の繰り出し速度(下降速度)は、ギアモータ91による駆動ローラ92の回転速度を調整することによって調整できる。したがって、移送ワイヤ40が自重によって逸走することを確実に防止でき、かつ、所望の繰り出し速度において移送ワイヤ40を安定して容易に繰り出すことが可能となる。
【0036】
ブレーキ機構80が付与するブレーキング力は最大逸走力(W)よりも大きい。このため、移送ワイヤ40を最大繰り出したときであっても、移送ワイヤ40の自重および重りとなる金具類の自重が作用することによる移送ワイヤ40の逸走を防止できる。
【0037】
移送ワイヤ40の先端が桁ブロック14の位置まで達すると、ギアモータ91を停止する。付勢部94が駆動ローラ92および従動ローラ93に付与していた挟持力を解放するまで、ブレーキ機構80のブレーキング力に加えて、ギアモータ91のモータブレーキが移送ワイヤ40に作用する。このため、アンカー41を桁ブロック14に連結する作業中においても、移送ワイヤ40が自重によって逸走することを防止できる。
【0038】
桁ブロック14へのアンカー41の連結作業が終了すると、桁ブロック14を吊り上げ移送する作業を開始する。まず、送り機構90の付勢部94は、駆動ローラ92および従動ローラ93に付与していた挟持力を解放する。駆動ローラ92および従動ローラ93は、移送ワイヤ40の挟持を解放した状態になる(図10(B))。次に、ブレーキ機構80のブレーキ用ジャッキ83を縮み方向に作動させ、一対のクランプ板81、82を相対的に離間させる。一対のクランプ板81、82は、移送ワイヤ40の挟持を解放した状態になる。この状態において、ジャッキ式吊り上げ装置50を作動させ、移送ワイヤ40をリール70に巻き取りながら、桁ブロック14を吊り上げ移送する。駆動ローラ92および従動ローラ93は移送ワイヤ40の挟持を解放しているので、駆動ローラ92および従動ローラ93の接地面92a、93aの消耗を抑制できる。また、一対のクランプ板81、82も、移送ワイヤ40の挟持を解放しているので、クランプ板81、82のブレーキ溝87の消耗を抑制できる。
【0039】
桁ブロック14が所定の高さまで吊り上げ移送されると、ジャッキ式吊り上げ装置50を停止し、アーチ部材12から吊り下げられたハンガー13に桁ブロック14を連結する。上述の作業を繰り返すことによって、アーチ橋10の橋桁11が構築される。
【0040】
以上説明したように、本実施形態における移送ワイヤ40の繰り出し装置60は、移送ワイヤ40が自重によって逸走することを防止するブレーキング力を移送ワイヤ40に付与するブレーキ機構80と、ブレーキ機構80によって付与されたブレーキング力に抗して、移送ワイヤ40を桁ブロック14に向けて繰り出す送り機構90と、を有する。また、本実施形態における移送ワイヤ40の繰り出し方法は、移送ワイヤ40が自重によって逸走することを防止するブレーキング力を移送ワイヤ40に付与し、付与されたブレーキング力に抗して、移送ワイヤ40を桁ブロック14に向けて繰り出している。
【0041】
このように構成した移送ワイヤ40の繰り出し装置60および移送ワイヤ40の繰り出し方法は、移送ワイヤ40の自重を利用して移送ワイヤ40を繰り出す方式ではなく、移送ワイヤ40が自重によって逸走することを防止でき、かつ、所望の繰り出し速度において移送ワイヤ40を安定して容易に繰り出すことが可能となる。
【0042】
ブレーキ機構80が付与するブレーキング力は、最大逸走力(W)よりも大きい。このように構成すれば、移送ワイヤ40を最大繰り出したときであっても、移送ワイヤ40の自重および重りとなる金具類の自重が作用することによる移送ワイヤ40の逸走を防止できる。
【0043】
ブレーキ機構80は、移送ワイヤ40を挟持する一対のクランプ板81、82と、一対のクランプ板81、82を相対的に接近させるブレーキ用ジャッキ83と、を有する。このように構成すれば、ブレーキ用ジャッキ83の作動を制御することによって、必要な強さのブレーキング力を移送ワイヤ40に簡単に付与することができ、ブレーキング力の増減制御も容易である。
【0044】
送り機構90は、ギアモータ91に連結される駆動ローラ92と、駆動ローラ92との間に移送ワイヤ40を挟持する従動ローラ93と、移送ワイヤ40を挟持する挟持力を駆動ローラ92および従動ローラ93に付与する付勢部94と、を有する。このように構成すれば、付勢部94によって移送ワイヤ40を挟持する挟持力を駆動ローラ92および従動ローラ93に付与し、ギアモータ91を作動させることによって、所望の繰り出し速度において移送ワイヤ40を安定して容易に繰り出すことが可能となる。また、付勢部94は、ジャッキ式吊り上げ装置50によって桁ブロック14を吊り上げ移送するときに挟持力を解放自在である。このように構成すれば、ジャッキ式吊り上げ装置50を作動させて桁ブロック14を吊り上げ移送するときに、駆動ローラ92および従動ローラ93の接地面92a、93aの消耗を抑制できる。付勢部94が駆動ローラ92および従動ローラ93に付与していた挟持力を解放するまで、ギアモータ91のモータブレーキが移送ワイヤ40に作用する。このため、例えば、アンカー41を桁ブロック14に連結する作業中においても、移送ワイヤ40が自重によって逸走することを防止できる。
【0045】
駆動ローラ92は、移送ワイヤ40との接地面92aに形成された溝97を有する。このように構成すれば、移送ワイヤ40に対する駆動ローラ92の接地抵抗力が高くなり、移送ワイヤ40に対して駆動ローラ92が滑ることなく、移送ワイヤ40を確実に繰り出すことができる。
【0046】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜改変できる。
【0047】
例えば、上述した実施形態では、移送ワイヤ40の繰り出し長さに拘わらず、ブレーキ機構80が付与するブレーキング力を最大逸走力(W)よりも大きい一定の値とした。しかしながら、移送ワイヤ40の実際の繰り出し長さに応じて、ブレーキング力をリニア的にまたはステップ的に漸増させてもよい。金具類の荷重は一定であるが、繰り出された移送ワイヤ40の自重が降下にしたがって付加される。この漸増する荷重分をブレーキ機構80に負担させることによって、移送ワイヤ40の繰り出し長さに拘わらず、移送ワイヤ40の逸走を防止できる。移送ワイヤ40の実際の繰り出し長さは、駆動ローラ92の軸にエンコーダを配置して計測することができる。そして、計測した移送ワイヤ40の繰り出し長さに応じて、ブレーキ機構80の負担する荷重が増加する方向にブレーキ用ジャッキ83を作動させればよい。ブレーキング力を漸増させる場合であっても、移送ワイヤ40は、自重によって繰り出されることはなく、駆動ローラ92および従動ローラ93によって強制的に引っ張られて繰り出される。移送ワイヤ40の繰り出し速度(下降速度)は、ギアモータ91による駆動ローラ92の回転速度を調整することによって調整できる。したがって、移送ワイヤ40が自重によって逸走することを確実に防止でき、かつ、所望の繰り出し速度において移送ワイヤ40を安定して容易に繰り出すことができる。
【符号の説明】
【0048】
10 アーチ橋、
11 橋桁、
12 アーチ部材、
13 ハンガー、
14 桁ブロック(重量物)、
14a アンカーブロック、
15 架台、
16 ケーブルクレーン、
20 台船、
30 巻き取り機、
31 台座、
40 移送ワイヤ、
41 アンカー(金具類)、
50 ジャッキ式吊り上げ装置、
51 第1ジャッキ、
51a 第1連結枠、
52 第2ジャッキ、
52a 第2連結枠、
60 繰り出し装置、
61 上部支持体、
70 リール、
71 湾曲用ガイド管、
72 誘導用ガイド管、
80 ブレーキ機構、
81、82 クランプ板、
83 ブレーキ用ジャッキ、
84 PC鋼棒、
85、86 支圧板、
87 ブレーキ溝、
90 送り機構、
91 ギアモータ、
92 駆動ローラ、
93 従動ローラ、
92a、93a 接地面、
94 付勢部、
95 押し金具、
96 強力ばね、
97 溝、
100 コントローラ
101 油圧制御盤
102 モータ制御盤
103 電動ポンプユニット
104 ジャッキ用圧力変換器
105 ブレーキ用圧力変換器。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12