(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】クローナル幹細胞を含む膵炎治療用薬学的組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20231122BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20231122BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20231122BHJP
C12N 5/0775 20100101ALN20231122BHJP
C12N 5/02 20060101ALN20231122BHJP
A61K 35/12 20150101ALN20231122BHJP
【FI】
A61K35/28
A61P1/18
A61P29/00
C12N5/0775
C12N5/02
A61K35/12
(21)【出願番号】P 2021534195
(86)(22)【出願日】2019-12-04
(86)【国際出願番号】 KR2019017029
(87)【国際公開番号】W WO2020122498
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-06-15
(31)【優先権主張番号】10-2018-0160667
(32)【優先日】2018-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】517278646
【氏名又は名称】エスシーエム ライフサイエンス カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】ソン、ソンウク
(72)【発明者】
【氏名】キム、シナ
(72)【発明者】
【氏名】ファン、ミョンファン
【審査官】六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-512419(JP,A)
【文献】韓国特許第10-0802011(KR,B1)
【文献】特開2009-183307(JP,A)
【文献】特表2009-540865(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0002490(KR,A)
【文献】Gastroenterology,2011年,140 ,pp.998-1008
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)個体から分離された骨髄を、第1容器で培養する段階と、
2)前記第1容器の上澄み液のみ新しい容器に移し替えて培養する段階と、
3)前記の新しい容器に存在する細胞を培養し、上澄み液を収得する段階と、
4)前記3)段階の上澄み液を2)段階の第1容器の上澄み液にし、2)及び3)段階を1回以上繰り返して、モノクローナル幹細胞を得る段階と、
5)前記4)段階のモノクローナル幹細胞を、50~1000細胞/cm
2(cells/cm
2)の細胞密度で培地に接種して1回継代培養する段階と、
6)前記5)段階の継代培養されたモノクローナル幹細胞を、50~1000細胞/cm
2(cells/cm
2)の細胞密度で培地に接種して2~8回継代培養する段階と、
を通じて収得されるモノクローナル幹細胞を含む、膵炎の予防又は治療用薬学的組成物であって、
前記5)および6)段階における培地が
、グルタチオン、システイン、システアミン、ユビキノール、β-メルカプトエタノールおよびアスコルビン酸からなる群から選択される抗酸化剤をさらに含む、前記組成物。
【請求項2】
前記5)および6)段階の継代培養は、1000細胞/cm
2(cells/cm
2)の細胞密度で培地に接種して行われることを特徴とする請求項1に記載の膵炎の予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項3】
前記膵炎は、慢性膵炎又は急性膵炎であることを特徴とする請求項1に記載の膵炎の予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項4】
前記モノクローナル幹細胞は、膵臓細胞の生存率を増進させることを特徴とする請求項1に記載の膵炎の予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項5】
前記モノクローナル幹細胞は、アルファ-アミラーゼ又はリパーゼ活性の減少、ミエロペルオキシダーゼ活性の減少、好中球浸潤及び炎症の改善、炎症性サイトカイン分泌の減少及び抗炎症性サイトカイン分泌の増大からなる群から選択された1種以上の活性を示すことを特徴とする請求項1に記載の膵炎の予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項6】
前記モノクローナル幹細胞は、浮腫、壊死、出血、及び炎症浸潤からなる群から選択された1種以上の膵炎病理学的状態を改善させることを特徴とする請求項1に記載の膵炎の予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項7】
前記モノクローナル幹細胞は、TGF-β1分泌能、sTNF-R1(Soluble tumor necrosis factor receptor 1)分泌能、IDO(Indoleamine 2,3-dioxygenase)発現能及びICOSL(Induced T cell co- stimulator ligand)発現能からなる群から選択された1種以上の能力が増大されたモノクローナル幹細胞であることを特徴とする請求項1に記載の膵炎の予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項8】
1)個体から分離された骨髄を、第1容器で培養する段階と、
2)前記第1容器の上澄み液のみ新しい容器に移し替えて培養する段階と、
3)前記の新しい容器に存在する細胞を培養し、上澄み液を収得する段階と、
4)前記3)段階の上澄み液を2)段階の第1容器の上澄み液にし、2)及び3)段階を1回以上繰り返し、モノクローナル幹細胞を得る段階と、
5)前記4)段階のモノクローナル幹細胞を、50~1000細胞/cm
2(cells/cm
2)の細胞密度で培地に接種して1回継代培養する段階と、
6)前記5)段階の継代培養されたモノクローナル幹細胞を、50~1000細胞/cm
2(cells/cm
2)の細胞密度で培地に接種して2~8回継代培養する段階と、
を通じてモノクローナル幹細胞を収得する段階を含む、膵炎の予防、改善又は治療用組成物の製造方法であって、
前記5)および6)段階における培地が
、グルタチオン、システイン、システアミン、ユビキノール、β-メルカプトエタノールおよびアスコルビン酸からなる群から選択される抗酸化剤をさらに含む、前記製造方法。
【請求項9】
前記5)および6)段階の継代培養は、1000細胞/cm
2(cells/cm
2)の細胞密度で培地に接種して行われることを特徴とする請求項8に記載の膵炎の予防、改善又は治療用組成物の製造方法
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善された幹細胞の層分離培養により収得されるモノクローナル幹細胞を含む膵炎の予防、治療又は改善用組成物、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膵炎(pancreatitis)は、膵臓(pancreas)に炎症を起こして生じる病気であって、急性膵炎(acute pancreatitis)及び慢性膵炎(chronic pancreatitis)がある。膵炎は、飲みすぎ(alcohol abuse)、胆石(gallstones)などが原因で膵液がスムーズに流れなくなり、膵液に含まれている酵素が膵臓の自己消化を誘発して発生する。膵炎は、大きく二つの類型に分けられるが、間質性浮腫(interstitial edema)と膵臓周囲の脂肪壊死症(peripancreatic fat necrosis)が発見される軽症(mild type)の膵炎と、膵臓周囲(peripancreatic)及び膵内(intrapancreatic)の広汎な脂肪壊死症、膵実質壊死(pancreatic parenchymal necrosis)、出血を伴う重症(severe type)の膵炎がある。
【0003】
膵炎は、未だ正確な病態生理機序が知られていないが、代表的な症状として見られるのが、タンパク質分解酵素の前駆物質が膵内で早期活性化されることで起こる自己消化の過程である。すなわち、膵腺房細胞(pancreas acinar cell)内で消化酵素が異常に早期活性化されると、膵臓の細葉を自己消化し、続いて炎症が発生し、組織の脱落、壊死が発生する。最近は、膵腺房細胞の損傷後、膵内に流入される活性化されたマクロファージが組織損傷に対する反応として、炎症性サイトカインインターロイキン(interleukin)-1βを分泌し、炎症細胞の循環、膵臓の浮腫及び膵実質の破壊に重要な役割をすることが明らかになっている。
【0004】
膵炎の重症度を軽減させ、数々の臓器の合併症の発生を抑制することができる様々な実験的治療法が提示されているが、実験的治療法をいざヒトに適用した場合、非常に微弱な効果を示し、膵炎の予防及び治療に関連して効果的に広く用いられている治療剤は、未だにないのが実情である。
【0005】
最近、様々な炎症性疾患の治療に幹細胞を利用しようとする試みが進められている。我々の体の210個余りのすべての機関の組織として成長しうる潜在的能力を有しており、無限に分裂され、適切な操作を通して所望の臓器に分化することができる。このような幹細胞の特性により幹細胞は、新しい治療剤として脚光を浴びており、幹細胞を用いた難病治療の可能性は非常に高いもので、白血病、骨粗しょう症、肝炎、パーキンソン病、老人性認知症、火傷など、数多くの疾病の治療が可能なものとして期待されている。
【0006】
しかし、幹細胞の場合、これを大量に収得することが難しいという点では、まだまだ多くの制約事項がある。幹細胞を収得する方法として、凍結胚細胞から得る方法が効率的であるといえるが、倫理的な面ではいまもなお多くの論争がある。このような問題点を解消すべく体細胞核移植方法や成体幹細胞を用いて幹細胞を収得する方法もやはり多くの研究が進められてきた。胚性幹細胞に対する研究よりも活発に行われている分野としては、成体幹細胞の研究である。成体幹細胞は、中枢神経系や骨髄など各種の臓器に残り、成長期の臓器発達と損傷時の再生に関与する細胞として各種臓器に存在するため、骨髄、脾臓、脂肪細胞などを含むいろんな部位から得ることができるが、骨髄から得る方法が最も一般的に行われている。しかし、数多くの骨髄細胞の中から間葉系幹細胞を分離し、培養することにおいて、常に均一な形態の細胞を得ることが難しいので、このような問題点を補完するための研究が行われている。
【0007】
本発明者は、新規な層分離培養法と命名された幹細胞の分離方法を発明しており、韓国特許出願第KR10-2006-0075676号として特許出願をし、登録を受けた。前記層分離培養法は、他の方法に比べて低コストで行うことができるだけでなく、汚染の問題がなく、他の幹細胞が混入する心配なしにクローナル間葉系幹細胞(cMSC)を効果的に得ることができるという点で、他の幹細胞収得方法に比べて卓越した優秀性を有する。しかし、前記方法の優秀性にもかかわらず、層分離培養法は、間葉系幹細胞を大量産生し、最終産物として用いるためには、ワーキング細胞バンクを製造し、これを介して最終的な産物を収得する工程を経なければ十分な量の中間葉茎細胞を収得することができず、少なくとも10回継代(Passage)以上の培養が必要という点で、迅速なモノクローナル間葉系幹細胞集団の収得が難しいという限界があった。
【0008】
一方、炎症性疾患、特に膵炎を治療するために幹細胞を用いることは、まだ数々の限界があり、効果的に膵炎を治療するための幹細胞の製造法及びこれを用いた膵炎の治療方法については、まだ知られていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者等は、前記のような層分離培養法の改善により幹細胞の迅速な増殖を誘導するための研究をしていた中、培養細胞密度を低く調節し、抗酸化剤を添加して培養する改善された層分離培養法を利用する場合、少ない継代培養だけで効果的な細胞増殖率の増加を誘導することができ、これにより収得されるモノクローナル間葉系幹細胞が従来の層分離培養法の幹細胞に比べて極めて顕著な膵炎の治療効果を示すことを確認し、本発明を完成するに至った。
【0010】
したがって、本発明の目的は、従来の層分離培養法を改善した幹細胞の層分離培養及び増殖方法により収得されるモノクローナル幹細胞を含む膵炎の予防、治療、及び改善用組成物、並びにその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために本発明は、1)個体から分離された骨髄を、第1容器で培養する段階;2)前記第1容器の上澄み液のみを新しい容器に移し替えて培養する段階;3)前記の新しい容器に存在する細胞を培養し、上澄み液を収得する段階;4)前記3)段階の上澄み液を、2)段階の第1容器の上澄み液とし、2)及び3)段階を1回以上繰り返して、モノクローナル幹細胞を得る段階;及び5)前記4)段階のモノクローナル幹細胞を、50~1000細胞/cm2(cells/cm2)の細胞密度で培地に接種して培養する段階;を通して収得されるモノクローナル幹細胞を含む、膵炎の予防又は治療用薬学的組成物を提供する。
【0012】
また、本発明は、1)個体から分離された骨髄を第1容器で培養する段階;2)前記第1容器の上澄み液のみを新しい容器に移し替えて培養する段階;3)前記新しい容器に存在する細胞を培養し、上澄み液を収得する段階;4)前記3)段階の上澄み液を、2)段階の第1容器の上澄み液にし、2)及び3)段階を1回以上繰り返して、モノクローナル幹細胞を得る段階;及び5)前記4)段階のモノクローナル幹細胞を、50~1000細胞/cm2(cells/cm2)の細胞密度で培地に接種して培養する段階を通してモノクローナル幹細胞を収得する段階;とを含む、膵炎の予防、改善又は治療用組成物の製造方法を提供する。
【0013】
また、本発明は、1)個体から分離された骨髄を、第1容器で培養する段階;2)前記第1容器の上澄み液のみを新しい容器に移し替えて培養する段階;3)前記の新しい容器に存在する細胞を培養し、上澄み液を収得する段階;4)前記3)段階の上澄み液を2)段階の第1容器の上澄み液とし、2)及び3)段階を1回以上繰り返して、モノクローナル幹細胞を得る段階;及び5)前記4)段階のモノクローナル幹細胞を、50~1000細胞/cm2(cells/cm2)の細胞密度で培地に接種して培養する段階;を通して収得される膵炎の予防、改善又は治療用幹細胞を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の改善された幹細胞の層分離培養及び増殖方法によれば、モノクローナル幹細胞の迅速な増殖により短時間で所望のモノクローナル幹細胞の大量収得が可能であり、これを通じて収得されるモノクローナル間葉系幹細胞は、膵炎の治療効果が増大された幹細胞であるところ、膵炎の治療剤として有用に用いられることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】骨髄からモノクローナル幹細胞を分離する従来の層分離培養法を示した図である。
【
図2】細胞培養密度及び細胞継代培養によるモノクローナル間葉系幹細胞の形態学的変化を顕微鏡観察を通じて確認した結果を示した図である。
【
図3】細胞培養密度及び細胞継代培養によるモノクローナル間葉系幹細胞の細胞の大きさ及び粒度(granularity)の変化をフローサイトメトリー(Flow cytometry;FACS)分析を通じて前方散乱光(forward scatter;FSC)(A)及び側方散乱光(side scatter;SSC)(B)の平均値で確認した結果を示した図である(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.005)。
【
図4】細胞培養密度及び細胞継代培養を異にしたモノクローナル間葉系幹細胞をβ-ガラクトシダーゼ(ベータgal)の活性度を染色を通じて細胞が老化するか否かを確認した結果を示した図である。
【
図5】15回継代(Passage 15;P15)のモノクローナル間葉系幹細胞を細胞培養密度を変えて培養した後、老化に関連する遺伝子であるp15、p16、及び増殖マーカーであるPCNAをRT-PCRで確認した結果を示した図である。
【
図6】細胞培養密度及び細胞継代培養によるモノクローナル間葉系幹細胞の増殖能を集団倍加時間(population doubling time;PDT)及び集団倍加数(population doubling level;PDL)を通じて確認した結果を示した図である(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.005)。
【
図7】細胞培養密度及び細胞継代培養によるモノクローナル間葉系幹細胞の分化能力を確認した結果を示した図である(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.005)。
図7のAは、細胞培養及び細胞継代培養によるモノクローナル間葉系幹細胞の脂肪細胞への分化能をOil red O組織学的染色を通じて確認した結果であり、
図7のBは、Aの組織学的染色程度を定量化して示した図である。
図7のCは、細胞培養及び細胞継代培養によるモノクローナル間葉系幹細胞の骨化細胞への分化能をAlizarin red S組織学的染色を通じて確認した結果であり、
図7のDは、Cの組織学的染色程度を定量化して示した図である。
【
図8】細胞培養密度及び細胞継代培養によりモノクローナル間葉系幹細胞で産生される全活性酸素種(reactive oxygen species; ROS)の産生(A)及びこれに伴うDNA損傷をcomet assayで確認(B)した結果を示した図である(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.005)。
【
図9】細胞培養密度及び細胞継代培養によって産生される活性酸素種によるDNA損傷の程度を確認するために、8-オキソ-デオキシグアノシン(8-hydroxy-2’-deoxyguanosine;8-OHdG)の濃度を測定した結果を示した図である(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.005)。
【
図10】11回継代(P11)~15(P15)のモノクローナル間葉系幹細胞を高密度条件単独(HD)又は高密度条件+アスコルビン酸(抗酸化剤の一種)を追加(HD+AA)により培養した後、細胞増殖能の変化を確認した結果を示した図である。
【
図11】15回継代(P15)のモノクローナル間葉系幹細胞を高密度条件単独(HD)又は高密度条件+アスコルビン酸追加(HD+AA)で培養した後、産生される活性酸素種レベルを比較した結果を示した図である(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.005)。
【
図12】従来の層分離培養法及び改善された層分離培養法の実験方法を比較して示した図である。改善された層分離培養法の模式図であって、従来の層分離培養法と異なる2回継代後に対応する低密度培養を示した模式図である。
【
図13】層分離培養法により収得されたSCM01ないしSCM08モノクローナル間葉系幹細胞を1000又は4000細胞/cm
2(cells/cm
2)の密度で接種し、抗酸化剤添加の有無を異にしたLG-DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium、low glucose)、α-MEM(Minimum Essential Mediumα)培養培地を用いて培養した細胞の増殖率を確認した結果を示した図である。各図のAは、各実験群の1回継代(P1)ないし5回継代(P5)による細胞数の変化を、各図のBは、各実験群の集団倍加時間(PDT)及び集団倍加数(PDL)の結果を示した図である。
【
図14】層分離培養法により収得されたSCM01ないしSCM08モノクローナル間葉系幹細胞を1000又は4000細胞/cm
2(cells/cm
2)の密度で接種し、抗酸化剤添加の有無を異にしたLG-DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium、low glucose)、α-MEM(Minimum Essential Mediumα)培養培地を用いて培養した細胞の増殖率を確認した結果を示した図である。各図のAは、各実験群の1回継代(P1)ないし5回継代(P5)による細胞数の変化を、各図のBは、各実験群の集団倍加時間(PDT)及び集団倍加数(PDL)の結果を示した図である。
【
図15】層分離培養法により収得されたSCM01ないしSCM08モノクローナル間葉系幹細胞を1000又は4000細胞/cm
2(cells/cm
2)の密度で接種し、抗酸化剤添加の有無を異にしたLG-DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium、low glucose)、α-MEM(Minimum Essential Mediumα)培養培地を用いて培養した細胞の増殖率を確認した結果を示した図である。各図のAは、各実験群の1回継代(P1)ないし5回継代(P5)による細胞数の変化を、各図のBは、各実験群の集団倍加時間(PDT)及び集団倍加数(PDL)の結果を示した図である。
【
図16】層分離培養法により収得されたSCM01ないしSCM08モノクローナル間葉系幹細胞を1000又は4000細胞/cm
2(cells/cm
2)の密度で接種し、抗酸化剤添加の有無を異にしたLG-DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium、low glucose)、α-MEM(Minimum Essential Mediumα)培養培地を用いて培養した細胞の増殖率を確認した結果を示した図である。各図のAは、各実験群の1回継代(P1)ないし5回継代(P5)による細胞数の変化を、各図のBは、各実験群の集団倍加時間(PDT)及び集団倍加数(PDL)の結果を示した図である。
【
図17】層分離培養法により収得されたSCM01ないしSCM08モノクローナル間葉系幹細胞を1000又は4000細胞/cm
2(cells/cm
2)の密度で接種し、抗酸化剤添加の有無を異にしたLG-DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium、low glucose)、α-MEM(Minimum Essential Mediumα)培養培地を用いて培養した細胞の増殖率を確認した結果を示した図である。各図のAは、各実験群の1回継代(P1)ないし5回継代(P5)による細胞数の変化を、各図のBは、各実験群の集団倍加時間(PDT)及び集団倍加数(PDL)の結果を示した図である。
【
図18】層分離培養法により収得されたSCM01ないしSCM08モノクローナル間葉系幹細胞を1000又は4000細胞/cm
2(cells/cm
2)の密度で接種し、抗酸化剤添加の有無を異にしたLG-DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium、low glucose)、α-MEM(Minimum Essential Mediumα)培養培地を用いて培養した細胞の増殖率を確認した結果を示した図である。各図のAは、各実験群の1回継代(P1)ないし5回継代(P5)による細胞数の変化を、各図のBは、各実験群の集団倍加時間(PDT)及び集団倍加数(PDL)の結果を示した図である。
【
図19】層分離培養法により収得されたSCM01ないしSCM08モノクローナル間葉系幹細胞を1000又は4000細胞/cm
2(cells/cm
2)の密度で接種し、抗酸化剤添加の有無を異にしたLG-DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium、low glucose)、α-MEM(Minimum Essential Mediumα)培養培地を用いて培養した細胞の増殖率を確認した結果を示した図である。各図のAは、各実験群の1回継代(P1)ないし5回継代(P5)による細胞数の変化を、各図のBは、各実験群の集団倍加時間(PDT)及び集団倍加数(PDL)の結果を示した図である。
【
図20】層分離培養法により収得されたSCM01ないしSCM08モノクローナル間葉系幹細胞を1000又は4000細胞/cm
2(cells/cm
2)の密度で接種し、抗酸化剤添加の有無を異にしたLG-DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium、low glucose)、α-MEM(Minimum Essential Mediumα)培養培地を用いて培養した細胞の増殖率を確認した結果を示した図である。各図のAは、各実験群の1回継代(P1)ないし5回継代(P5)による細胞数の変化を、各図のBは、各実験群の集団倍加時間(PDT)及び集団倍加数(PDL)の結果を示した図である。
【
図21】抗酸化剤が添加されていないLG-DMEM培地を用いて、1000又は4000細胞/cm
2の密度で細胞密度のみを異にした実験群での細胞増殖率を確認した結果を示した図である。
【
図22】抗酸化剤が添加されていないLG-DMEM培地を用いて、1000又は4000細胞/cm
2の密度で細胞密度のみを異にした実験群での集団倍加時間(PDT)及び集団倍加数(PDL)を確認した結果を示した図である。
【
図23】抗酸化剤が添加されたα-MEM培地を用いて、1000又は4000細胞/cm
2の密度で細胞密度のみを異にした実験群での細胞増殖率を確認した結果を示した図である。
【
図24】抗酸化剤が添加されたα-MEM培地を用いて、1000又は4000細胞/cm
2の密度で細胞密度のみを異にした実験群でのPDT及びPDLを確認した結果を示した図である。
【
図25】細胞密度を1000細胞/cm
2の密度で固定し、培養培地をLG-DMEM又はα-MEMに変えた実験群での細胞増殖率を確認した結果を示した図である。
【
図26】細胞密度を1000細胞/cm
2の密度で固定し、培養培地をLG-DMEM又はα-MEMに変えた実験群でのPDT及びPDLを確認した結果を示した図である。
【
図27】急性膵炎の動物モデルの構築及び本発明のcMSC1、2処理プロトコルの模式図である。
【
図28】急性膵炎の動物モデルにおいて、本発明のcMSC1、2処理によるアルファ-アミラーゼ(a-amylase)及びリパーゼ(lipase)酵素の活性変化を確認した結果を示した図である。(All values are presented as means with standard error of mean(SEM)P value=*、<0.05;**、<0.01;***、<0.001 vs. SAP group and ###、<0.001 vs. control group )。
【
図29】急性膵炎の動物モデルにおいて、cMSC1、2処理によるミエロペルオキシダーゼ(myeloperoxidase;MPO)活性の変化を確認した結果を示した図である(All values are presented as means with standard error of mean(SEM)P value=*、<0.05;**、<0.01;***、<0.001 vs. SAP group and ###、<0.001 vs. control group)。
【
図30】急性膵炎の動物モデルにおいて、cMSC1、2処理による炎症性サイトカインTNF-α、IL-6、IFN-γの変化及び抗炎症サイトカインIL-10の変化を確認した結果を示した図である(All values are presented as means with standard error of mean(SEM)P value=*、<0.05;**、<0.01;***、<0.001 vs. SAP group and ###、<0.001 vs. control group)。
【
図31】急性膵炎の動物モデルにおいて、cMSC1、2処理による組織病理学的分析の結果を示した図である。
【
図32】急性膵炎の動物モデルにおいて、cMSC1、2処理による組織病理学スコア(histopathologic score)、浮腫、壊死、出血、炎症浸潤スコアを確認した結果を示した図である(All values are presented as means with standard error of mean (SEM)P value=*、<0.05;**、<0.01;***、<0.001 vs. SAP group and ###、<0.001 vs. control group)。
【
図33】改善された方法で培養したcMSC1及び従来の方法で培養したcMSC2の細胞の大きさをNucleo Counter NC-250機器を用いて確認した結果を示した図である。
【
図34】フローサイトメトリーを用いてcMSC1及びcMSC2の細胞の大きさ分布を確認した結果を示した図である。
【
図35】cMSC1及びcMSC2の免疫細胞抑制能力を混合リンパ球反応(mixed lymphocyte reaction、MLR)方法で確認した結果を示した図である(PBMC;peripheral blood mononuclear cell)
【
図36】cMSC1及びcMSC2の培養液のhTGF-β1とhsTNF-R1(Soluble tumor necrosis factor receptor 1)の分泌量を確認した結果を示した図である。
【
図37】cMSC1及びcMSC2で発現する免疫関連マーカーIDO(Indoleamine 2,3-dioxygenase)、ICOSL(Induced T cell co-stimulator ligand)の発現の変化をWI38細胞基準で比較した結果を示した表である。
【
図38】免疫細胞とcMSC1及びcMSC2を共培養した培養液で分泌されたIFN-γ、IL-17、IL-10を確認した結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、間葉系幹細胞の改善された層分離培養及び増殖方法を通じて収得されるモノクローナル幹細胞を含む膵炎の予防、治療用薬学的組成物、又は前記モノクローナル幹細胞をこれを必要とする個体に投与する段階を含む、膵炎の予防又は治療方法に関する。
【0017】
また、本発明は、間葉系幹細胞の改善された層分離培養及び増殖方法を通じてモノクローナル幹細胞を得る段階を含む、膵炎の予防、改善又は治療用組成物の製造方法に関する。
【0018】
本発明の有効成分であるモノクローナル幹細胞は、幹細胞を迅速かつ汚染なく収得することができる層分離培養法の利点に加えて、モノクローナル幹細胞、好ましくはモノクローナル間葉系幹細胞の迅速な増殖をを通じてWCB(Working Cell Bank)の製造段階なしでも短時間で所望のモノクローナル幹細胞を大量に収得することができる改善された層分離培養法を通じて収得される幹細胞である。前記の方法を通じて収得されるモノクローナル幹細胞は、従来の層分離培養法を通じて収得される幹細胞と比較して膵炎の治療効果が増大された幹細胞である。
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、1)個体から分離された骨髄を、第1容器で培養する段階;2)前記第1容器の上澄み液のみを新しい容器に移し替えて培養する段階;3)前記の新しい容器に存在する細胞を培養し、上澄み液を収得する段階;4)前記3)段階の上澄み液を2)段階の第1容器の上澄み液にし、2)及び3)段階を1回以上繰り返して、モノクローナル幹細胞を得る段階;及び5)前記4)段階のモノクローナル幹細胞を、50~1000細胞/cm2(cells/cm2)の細胞密度で培地に接種して培養する段階;を通じて収得されるモノクローナル幹細胞を含む、膵炎の予防又は治療用薬学的組成物を提供する。
【0020】
前記2)及び3)段階の培養は、30~40℃で4時間以下、好ましくは1時間~3時間、より好ましくは1時間30分~2時間30分培養し、繰り返し培養は30~40℃で4時間以下、好ましくは1時間~3時間、より好ましくは1時間30分~2時間30分培養した後、30~40℃で12~36時間、好ましくは18時間~30時間培養を2~3回繰り返し、次いで30~40℃で24~72時間、36時間~60時間、好ましくは36時間~60時間で培養し、毎回上澄み液を新しい培養容器に移し替えて行うことができる。
【0021】
本発明の実施例にて分離した方法を簡略に要約すると、次の通りである。
[
図1]
【0022】
培養した細胞は、モノクローナル細胞群を形成するが、このモノクローナル細胞群を分離した後、継代培養を行うことができ、本発明は、従来の層分離培養方法に加え、5)段階の培養段階を含むことを特徴とする。
【0023】
本発明において、「層分離培養」は、幹細胞を比重によって分離する方法を意味し、最初にヒト骨髄を抽出し、細胞培養液に培養した後、上澄み液のみを収得し、これをコーティング剤が施された又は施されていない培養容器に移し替えて培養した後、同一過程を数回繰り返す工程をいう。このような層分離培養は、遠心分離過程なしに上澄み液を繰り返し収得して培養する工程を繰り返すことを特徴とし、最終的に他の細胞を汚染させることなくモノクローナル幹細胞、好ましくは、モノクローナル間葉系幹細胞を収得することができる利点がある。
【0024】
本発明の前記1)~5)の段階のうち、1)~4)の段階は、KR第10-2006-0075676号、US12/982738、又はKR第10-2013-7020033号に記載された層分離培養法と同一又は同等に行われることができ、KR第10-2006-0075676号は、本発明において全体的に参考にすることができる。
【0025】
従来、KR第10-2013-7020033号及び US12/982738では、膵炎の治療に関連して、細胞を得る方法として(i)骨骨髄、末梢血、臍帯血、脂肪組織サンプル又はサイトカイン-活性化された末梢血の生体サンプルを得する段階と、(ii)前記骨骨髄、末梢血、臍帯血、脂肪組織サンプル又はサイトカイン-活性化された末梢血の生体サンプルを、容器内に沈殿させる段階;(iii)前記容器から他の細胞に比べて比較的少なく密集された細胞を含有する上澄み液を2回以上連続的な方法で、他の容器に伝達する段階と、(iv)前記上澄み液から少なく密集された細胞を隔離する段階;(v)段階(iv)で収得された細胞を膵炎を患う対象に投与するが、ここで前記骨骨髄、末梢血、臍帯血、脂肪組織サンプル又はサイトカイン-活性化された末梢血は、段階(i)~(iii)において、1,000rpmを超える遠心分離を介さない段階が開示されている。前記の方法は、遠心分離せずに密度の差異だけで、モノクローナル幹細胞を収得する方法であるという点で、KR第10-2006-0075676号の従来の層分離培養方法を用いる。
【0026】
しかし、前記US12/982738、KR第10-2006-0075676号及びKR第10-2013-7020033号の層分離培養方法は、モノクローナル幹細胞を、低継代で効果的に収得し、これにより膵炎治療効果が顕著に改善さされたモノクローナル幹細胞を得るための方法が開示されていない。
【0027】
従来の層分離培養法は、
図1で確認されるように、単一コロニーから得られたすべての細胞を6ウェルに移し、80~90%コンフルエンシー(confluency)に増殖させた後、増殖された状態の1回継代(P1)細胞をseed cellにして密度の調節に対する認識がなく、多くの細胞を収得するために4000細胞/cm
2(cells/cm
2)で高密度培養を行う。
【0028】
その反面、本発明は、2回継代後の培養で細胞密度を調節することにより、膵炎の予防、治療、改善効果に優れた幹細胞を効率的に収得することができることを基礎とした「改善された層分離培養法」に関するものであり、従来の層分離培養法とseed cell以後の培養段階を異にすることを特徴とする。例えば、具体的に「5)前記4)段階のモノクローナル幹細胞を、50~1000細胞/cm2(cells/cm2)の細胞密度で培地に接種して培養する段階」を含む。改善された層分離培養法は、従来の層分離培養法に比べて迅速なモノクローナル幹細胞の増殖を誘導することができるので、最終的な産物を迅速に収得することができ、好ましくは、P2ないしP8のような継代が10回未満の培養だけで MCB(Master Cell Bank)を製造し、優れた膵炎の予防又は治療効果を示すモノクローナル幹細胞を収得することができる。
【0029】
本発明のモノクローナル幹細胞は、従来の工程のように4000細胞/cm2の高密度で培養される場合、細胞増殖能が著しく減少し、間葉系幹細胞のマーカーが変化し、幹細胞の分化能が失われ得る。したがって、改善された層分離培養法を通じて収得されたモノクローナル幹細胞は、低密度ないし中程度の密度、4000細胞/cm2(cells/cm2)未満の低細胞密度、例えば、3000細胞/cm2以下、好ましくは2000細胞/cm2以下、より好ましくは50~1000細胞/cm2(cells/cm2)の細胞密度で培養されたことを意味することができる。
【0030】
1000細胞/cm2(cells/cm2)以下の細胞密度でモノクローナル間葉系幹細胞を培養する場合、細胞の増殖能は、4000細胞/cm2のように高密度に培養された間葉系幹細胞と比較して、長期間の培養期間の間ずっと著しく高く維持されるので、多くの継代を繰り返さなくても、所望量の大量のモノクローナル細胞を迅速に収得することができるという利点がある。したがって、本発明の改善された層分離培養方法は、seed cell以後の継代培養段階を10回継代未満、好ましくは8回継代以下のみで行われることを特徴とすることができ、従来の層分離培養方法は、十分な数の細胞を確保するために、最大25回継代まで培養しなければならなかったものと比較して少ない継代培養だけでモノクローナル幹細胞の大量生産が可能な長所がある。
【0031】
また、前記細胞密度でモノクローナル間葉系幹細胞を培養する場合、当該細胞は、DNA損傷が少なく、老化が抑制され、幹細胞の分化能を効果的に維持することができるという利点があり、素早く、且つ迅速に優れた幹細胞特性を有するモノクローナル間葉系幹細胞を収得することができる。
【0032】
また、本発明の方法に従って収得されるモノクローナル幹細胞は、4000細胞/cm2のように高密度に培養されたモノクローナル幹細胞と比較して、優れた膵炎の予防、改善又は治療効果を示す。
【0033】
本発明にて用いられる培地は、抗酸化剤を含まない培地であって、前記培地に抗酸化剤が追加された培地又は抗酸化剤を含む培地をいずれも含むことができる。
【0034】
抗酸化剤を含まない培地としては、これに限定されるものではないが、DMEM培地を用いることができ、必要に応じて前記培地に、抗酸化剤をさらに追加して培養を行うことができる。また、必要に応じて抗酸化剤が含まれたα-MEM培地を用いて培養を行うことができる。
【0035】
本発明の抗酸化剤は、細胞培養に用いられることができる抗酸化剤を制限なく含むことができ、グルタチオン(Glutathione)、システイン(Cysteine)、システアミン(Cysteamine)、ユビキノール(Ubiquinol)、ベータ-マーカプトエタノール(b-mercaptoethanol)及びアスコルビン酸(Ascorbic acid;AA)からなる群から選択された1種以上であることができる。抗酸化剤が培地に追加された場合、前記抗酸化剤は10~50、好ましくは10~30、より好ましくは25μg/mlの濃度で追加されることができる。
【0036】
本発明の一例として、抗酸化剤を含まない培地としてDMEM、より好ましくはLG-DMEM培地を用い、抗酸化剤としてアスコルビン酸を含む培地としてα-MEM培地を用いる。
【0037】
一方、本発明の方法によれば、モノクローナル幹細胞を非常に効果的に増殖させることができるので、MCBを用いてWCB(Working Cell Bank)を製造する工程が省略されることができる。これは、従来の層分離培養法がMCB製造後、WCBを製造する工程を伴う必要があるものに比べ、工程を単純化したものである。
【0038】
本発明の培養培地として抗酸化剤を含む培地を用いる場合、前記培養培地には、抗生物質としてゲンタマイシンが追加されることができる。
【0039】
本発明の方法により収得された中間葉幹細胞は、最終的に、好ましくはP2ないしP10未満の中間葉幹細胞であることができ、より好ましくはP2ないしP8の中間葉幹細胞、さらに好ましくはP2ないしP6の中間葉幹細胞であることができる。これは最低P10ないしP12の中間葉幹細胞は、最終的産物として収得される従来の工程に比べ、より低い継代から収得される幹細胞であり、細胞接種密度調節を通じて低継代で急速に増殖された中間葉幹細胞を容易に大量に収得することができることを示す。
【0040】
本発明において、前記のような改善された層分離培養法、好ましくは2000細胞/cm2以下、さらに好ましくは1000細胞/cm2以下の低密度及び抗酸化条件の改善された層分離培養法の方法で収得されたモノクローナル幹細胞(以下、「cMSC1」と表記)は、従来の層分離培養法で収得されるモノクローナル幹細胞(以下、「cMSC2」と表記)と比較して、細胞の大きさがより小さく、均質に形成されることができ、軽症だけでなく、重症急性膵炎の生存率を高め、浮腫による膵臓の重量増加を緩和させ、急性膵炎のために増加される消化酵素の増加と炎症関連酵素の増加を効果的に減少させることができる。
【0041】
本発明において、「膵炎」とは、膵臓の酵素によって膵臓の分泌腺の破壊及び膵臓全体に炎症が発生することをいい、慢性膵炎及び急性膵炎の両方を含むが、急性膵炎であることができ、軽症及び重症急性膵炎を制限なく含むことができる。
【0042】
本発明の改善された層分離培養方法により収得されたモノクローナル幹細胞は、膵炎だけでなく、膵炎から起因した疾患、例えば、肺損傷、敗血症、腎不全、胸膜滲出液、多臓器不全及び多発性臓器損傷からなる群から選択されたいずれか一つ以上の疾患もやはり効果的に予防、治療又は改善することができる。
【0043】
本発明の方法を用いて収得されるモノクローナル幹細胞は、膵臓細胞の生存率を増進させることができ、アルファ-アミラーゼ又はリパーゼ活性の減少、ミエロペルオキシダーゼ(Myeloperoxidase;MPO)活性の減少、好中球浸潤及び炎症の改善、炎症性サイトカインの分泌の減少、及び抗炎症サイトカインの分泌の増大からなる群から選択された1種以上の活性を示すことを特徴とすることができる。
【0044】
また、本発明の方法により収得されるモノクローナル幹細胞は、浮腫、壊死、出血、及び炎症浸潤からなる群から選択された1種以上の膵炎の病理学的状態を改善させることができる。
【0045】
また、本発明の方法を通じて収得されるモノクローナル幹細胞は、幹細胞は、TGF-β1分泌能、sTNF-R1(Soluble tumor necrosis factor receptor 1)分泌能、IDO発現能、ICOSL発現能からなる群から選択された1種以上の能力が増大されたモノクローナル幹細胞であることができる。
【0046】
したがって、本発明の改善された層分離方法を通じて収得されるモノクローナル幹細胞であるcMSC1は、従来の層分離培養法によって収得されるcMSC2と比較して、膵臓細胞の生存率の増進、アルファ-アミラーゼ又はリパーゼ活性の減少、ミエロペルオキシダーゼ(Myeloperoxidase;MPO)活性の減少、好中球浸潤及び炎症の改善、炎症性サイトカインの分泌の減少、抗炎症サイトカインの分泌の増大活性がすべて著しく優れており、浮腫、壊死、出血、及び炎症浸潤からなる群から選択された1種以上の膵炎病理学的状態を改善する効果に優れている。このような膵炎治療効果の差は、改善された層分離培養法によって収得される本発明のモノクローナル幹細胞ならではの顕著な効果であり、従来の方法で収得されたcMSC2に比べてTGF-β1分泌能、sTNF-R1分泌能、IDO発現能、ICOSL発現能からなる群から選択された1種以上の能力が増大されたことに起因することができる。
【0047】
本発明の薬学的組成物は、投与のために前記有効成分に加えて、追加で薬学的に許容可能な担体を1種以上含んで製造することができる。本発明の薬学的組成物に含まれる薬学的に許容される担体は、製剤の際に通常に用いられるものであって、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、ステアリン酸マグネシウム、及びミネラルオイルなどを含むが、これらに限定されるものではない。本発明の薬学的組成物は、前記成分に加えて潤滑剤、湿潤剤、甘味料、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などをさらに含むことができる。
【0048】
本発明の薬学的組成物の投与量は、前記薬学的組成物の製剤化方法、投与方式、投与時間及び/又は投与経路などにより多様化することができ、前記薬学的組成物の投与により達成しようとする反応の種類と程度、投与対象となる個体の種類、年齢、体重、一般的な健康状態、疾病の症状や程度、性別、食餌、排泄、当該個体に同時又は移植に共に用いられる薬物その他の組成物の成分などをはじめとする種々の因子及び医薬分野でよく知られた類似因子に応じて多様化することができ、当該技術分野における通常の知識を有する者は、目的とする治療に効果的な投与量を容易に決定し、処方することができる。
【0049】
本発明の薬学的組成物の投与量は、例えば、1日に1mg/kgないし1,000mg/kgであることができるが、前記投与量はいかなる面であれ、本発明の範囲を限定するものではない。
【0050】
本発明の薬学的組成物の投与経路及び投与方法は、それぞれ独立的であることができ、その方法において特に制限されず、目的とする当該部位に前記薬学的組成物が到達することができる任意の投与経路及び投与方法に従うことができる。
【0051】
前記薬学的組成物は、経口投与又は非経口投与の方法で投与することができる。前記非経口投与方法としては、例えば、静脈内投与、腹腔内投与、筋肉内投与、経皮投与又は皮下投与などが含まれ、前記薬学的組成物を疾患部位に塗布したり噴霧、吸入する方法もまた利用することができるが、これらに限定されるものでない。
【0052】
また、本発明は、1)個体から分離された骨髄を、第1容器で培養する段階;2)前記第1容器の上澄み液のみを新しい容器に移し替えて培養する段階;3)前記新しい容器に存在する細胞を培養し、上澄み液を収得する段階;4)前記3)段階の上澄み液を2)段階の第1容器の上澄み液にし、2)及び3)段階を1回以上繰り返して、モノクローナル幹細胞を得る段階;5)前記4)段階のモノクローナル幹細胞を、50~1000細胞/cm2(cells/cm2)の細胞密度で培地に接種して培養する段階を経て、モノクローナル幹細胞を収得する段階;及び6)前記モノクローナル幹細胞を個体に投与する段階;を含む膵炎の予防又は治療方法を提供する。
【0053】
本発明において、前記「個体」は、膵炎の予防又は治療が必要な個体を含み、哺乳類又はヒトを除く哺乳類であることができる。
【0054】
また、本発明は、1)個体から分離された骨髄を、第1容器で培養する段階;2)前記第1容器の上澄み液のみを新しい容器に移し替えて培養する段階;3)前記の新しい容器に存在する細胞を培養し、上澄み液を収得する段階;4)前記3)段階の上澄み液を2)段階の第1容器の上澄み液にし、2)及び3)段階を1回以上繰り返して、モノクローナル幹細胞を得る段階;及び5)前記4)段階のモノクローナル幹細胞を、50~1000細胞/cm2(cells/cm2)の細胞密度で培地に接種して培養する段階を通じて収得される膵炎の予防、改善又は治療用幹細胞を提供する。
【0055】
また、本発明は、1)個体から分離された骨髄を、第1容器で培養する段階;2)前記第1容器の上澄み液のみを新しい容器に移し替えて培養する段階;3)前記の新しい容器に存在する細胞を培養し、上澄み液を収得する段階;4)前記3)段階の上澄み液を2)段階の第1容器の上澄み液にし、2)及び3)段階を1回以上繰り返して、モノクローナル幹細胞を得る段階;及び5)前記4)段階のモノクローナル幹細胞を50~1000細胞/cm2(cells/cm2)の細胞密度で培地に接種して培養する段階を通じてモノクローナル幹細胞を収得する段階;を含む膵炎の予防、改善又は治療用組成物の製造方法を提供する。
【0056】
本発明によれば、従来の層分離培養法で収得されるモノクローナル幹細胞と比較して優れた膵炎の予防、改善又は治療効果を示すモノクローナル幹細胞をWCBを製造することなく、迅速且つ容易に収得することができ、前記組成物は、薬学、食品、医薬外品、及び化粧料組成物に制限なく含まれることができる。
【0057】
本発明の製造方法において、前記5)段階の培養は、1000細胞/cm2(cells/cm2)の細胞密度で培地に接種して行われることを特徴とすることができる。
【0058】
また、本発明の製造方法において、前記5)段階の培地は、抗酸化剤が追加された培地であることを特徴とすることができる。
【0059】
本発明の治療方法及び製造方法において、前記の組成物にて記述された内容が同一に適用されることができ、重複する内容は、明細書の記載の複雑さを避けるために省略する。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
次の実施例は、本発明を例示するためのものであって、本発明の内容が下記の実施例に限定されない。
【0061】
<実施例1>改善された層分離培養法の確立
膵炎により優れた効果を示すモノクローナル間葉系幹細胞を製造するために改善された間葉系幹細胞の層分離培養法及び増殖方法を用いた。改善された間葉系幹細胞の層分離培養法及び増殖方法は、韓国特許出願第10-2006-0075676号に記載された層分離培養法の培養条件のうち、細胞密度及び培養培地を変更したことを特徴とする。以下の実験では、層分離培養法により収得されたモノクローナル間葉系幹細胞(cMSC)の細胞培養密度をそれぞれ50細胞/cm2(cells/cm2)(低密度)、1000細胞/cm2(中密度)、4,000細胞/cm2(高密度)と異にしてそれに応じた細胞の特性を分析した。
【0062】
1.1 細胞密度による間葉系幹細胞の形態学的変化の確認
まず、長期間培養で細胞密度による間葉系幹細胞の形態学的変化を確認するための実験を行った。培養条件の変化を与えるために5回継代(P5)、10回継代(P10)、15回継代(P15)の間葉系幹細胞を用いており、それぞれ低密度、中密度、高密度の条件でLG-DMEM培地に接種した。それから、細胞の形態学的変化を顕微鏡で観察し、幹細胞が老化するか否かを判断し、その結果を
図2に示した。
【0063】
図2に示すように、5回継代(P5)及び10回継代(P10)では、細胞密度により細胞の大きさと形態学的パターンにおいて差を示しており、特にP15の場合、高密度培養条件で平らで大きくなった形態の間葉系幹細胞が観察された。このような形態は、典型的な間葉系幹細胞の老化を示すものであり、長期間培養で細胞の密度調節が間葉系幹細胞の老化を調節することができることを確認した。
【0064】
1.2 細胞密度によるMSC細胞の大きさ及び粒度の確認
細胞密度による幹細胞の変化をさらに確認するために、老化した細胞から増加したとして知られている細胞の大きさ及び細胞の粒度(granularity)をフローサイトメトリー分析を通じて定量分析し、その結果を
図3に示した。
【0065】
図3に示すように、細胞の大きさは、P5では有意な差を示さなかったが、P10及びP15の場合、細胞密度により有意な差を示すことを確認した。特にP10及びP15では、高細胞密度の培養条件で細胞の大きさが有意に増加し、細胞の老化がさらに促進されることが確認された。これと同様に細胞の粒度もやはりすべての継代(Passage)で細胞の密度が高くなるほど有意に増加する結果が表れた。したがって、間葉系幹細胞の長期培養において、細胞の密度調節が細胞の老化を調節する因子となり得ることを確認しており、細胞培養密度を下げることで後期継代で表される形態学的変化が改善され得ることが確認された。
【0066】
1.3 培養細胞密度による間葉系幹細胞の老化の確認
実施例1.1及び1.2から確認された形態学的変化が、実際に間葉系幹細胞における老化依存(age-dependent)現象であることを確認するために、老化細胞を選択的に染色することができるベータガラクトシダーゼを用いた染色分析法を行い、老化関連遺伝子であるp15、p16、及び増殖マーカーであるPCNA遺伝子の発現をRT-PCRを用いて比較した。その結果をそれぞれ
図4及び
図5に示した。
【0067】
図4に示すように、5回継代(P5)及び10回継代(P10)では、すべての細胞密度で老化した細胞の染色を確認することはできなかったが、15回継代(P15)では、細胞密度が高くなるほど、老化した細胞の染色が明らかに増加することを確認した。また、
図5に示すように、15回継代(P15)では、細胞の培養密度が増加するほど、老化に関連する遺伝子であるCDK阻害剤p15及びp16の遺伝子発現が増加し、増殖マーカーであるPCNAは、減少した。
【0068】
こうした結果は、間葉系幹細胞の形態学的変化が、間葉系幹細胞の老化と関連があることを示す結果であり、継代培養時、細胞培養密度の調節が間葉系幹細胞の老化を調節することができることを示す結果である。
【0069】
1.4 培養細胞密度による間葉系幹細胞の増殖能変化の確認
間葉系幹細胞の増殖能力は継代が進み、細胞の老化が進むにつれて徐々に減少するとして知られている。したがって、増殖能は、間葉系幹細胞の老化を確認できる基準として用いることができ、長期間の細胞培養時、細胞培養密度による間葉系幹細胞の増殖能の比較を行った。各細胞の増殖能は、初期接種細胞数と培養が終わった後、得られる細胞の数を通じて各継代による増殖率を計算して確認し、その結果を表1及び
図6に示した。
【0070】
【0071】
表1に示すように、低密度で培養された間葉系幹細胞(MSC)の場合、5回継代(P5)、10回継代(P10)、15回継代(P15)で増加倍数(fold increase)が、88.4、34.3、16.4であるのに対し、中密度で培養された間葉系幹細胞は、8.5、4.9、3.1であり、高密度で培養された間葉系幹細胞は、3.0、1.9、1.1であることが確認された。また、
図6に示すように、集団倍加時間(PDT)及び集団倍加数(PDL)も増加倍数と同じパターンで表れることを確認した。このような結果は、長期間の間葉系幹細胞培養で細胞密度を下げることで、間葉系幹細胞の増殖能を維持させることができることを示す結果であり、同じ継代培養を行っても、間葉系幹細胞の老化を抑制し、寿命を延長させることができることを示す。
【0072】
1.5 培養細胞密度による間葉系幹細胞(MSC)の分化能変化の確認
細胞培養密度が幹細胞能に影響を与えるか否かを確認するために、P5ないしP15培養による分化能を比較した。幹細胞能として脂肪細胞分化能及び骨細胞分化能を確認しており、それぞれの継代及び密度で、正常、定量分析を行った。具体的には、脂肪細胞の分化培養液は、High Glusose DMEM培養液にNCS(Newborn Calf Serum)(Gibco)、10-7molデキサメタゾン(dexamethasone)(Sigma)、0.5mM IBMX(Sigma)、10μg/mlのインスリン(insulin)(Sigma)、100μMインドメタシン(indomethacin)(Sigma)を添加した培地を作成して実験し、7日間にわたる分化後、Oil red O組織化学染色を通じて確認した。また、Oil red O組織化学染色後、イソプロピルアルコールで溶出させ、500nmで測定した後、定量分析して確認した。
【0073】
骨細胞分化培養液は、α-MEM培養液にFBS(Gibco)、50μg/ml ascorbic 2 phosphate(sigma)、10
-8molデキサメタゾン(Sigma)、10mMのベータグリセロリン酸(β(sigma)を添加した培地を使用しており、21日間にわたる分化後にAlizarin red S組織化学染色を通じて確認した。また、Alizarin red S組織化学染色後、10%酢酸で溶出させ、405nmで測定し、定量分析して確認した。前記のような方法で脂肪細胞分化能及び骨細胞分化能を確認した結果を
図7に示した。
【0074】
図7に示すように、脂肪細胞分化能は継代が進むにつれて、全体的に減少したが、密度による差が顕著に表れていないのに対し、骨細胞分化能の場合、高密度条件の15回継代(P15)培養群で有意に減少していることを確認した。このような結果から間葉系幹細胞の骨細胞分化能は、低い細胞密度で培養した場合、よりうまく維持されることを確認した。
【0075】
1.6 培養細胞密度による間葉系幹細胞の抗原プロファイル分析
細胞培養密度が幹細胞の抗原発現にも影響を及ぼすか否かを確認するための実験を行い、各継代及び培養密度による陽性及び陰性抗原発現の変化をフローサイトメトリーで確認し、その結果を表2に示した。
【表2】
【0076】
表2に示すように、陰性マーカー発現の変化は、明らかに確認されなかったが、一部の陽性マーカーの場合のような継代でも細胞培養密度により発現量の変化が表れることを確認した。
【0077】
特に15回継代(P15)では、高密度で細胞を培養した場合、ほとんどの陽性マーカーの発現量が顕著に減少しただけでなく、CD73、CD105は、陰性発現を示し、細胞密度を低く維持し、細胞培養を行うことが非常に重要な因子であることを確認した。
【0078】
1.7 培養細胞密度による活性酸素種(ROS)産生及びDNA損傷の比較
間葉系幹細胞の機能の減少とDNA損傷は、関連性があるとして知られており、特に、活性酸素種ROSによって誘導されるDNA損傷は、間葉系幹細胞(MSC)の老化を促進するとして知られている。したがって、培養密度により全活性酸素種(ROS)産生及びそれに伴うDNA損傷が異なって示されるかどうかを確認するために、継代及び細胞培養密度による全細胞性活性酸素種(ROS)の量を蛍光強度分析を通じて比較し、comet分析を通じてDNA損傷の程度を確認し、その結果を
図8に示した。
【0079】
図8に示すように、全ROS産生は、全継代で細胞培養密度が増加するほど増加する傾向を確認し、特に10回継代(P10)と15回継代(P15)では、有意にROS産生が増加することを確認した(A)。comet分析では、DNAの損傷が最も弱いCC1から損傷が最も深刻なCC5に分類してデータを分析し、損傷が最も深刻なCC5の場合、細胞培養密度が高くなるほど有意に増加することを確認した。その反面、CC1は、細胞密度が高くなるほど有意に低くなる傾向を示した(B)。
【0080】
さらにDNA損傷がROSによって誘発されたかどうかを確認するために、ROSによるDNA損傷を確認する8-OHdGの濃度を確認する実験を行った。8-OHdG分析方法は、次のとおりである。それぞれの細胞から得られたDNA試料50μlを8-OHdGが結合されたプレート(8-OHdG conjugate coated plate)に入れた後、常温で10分間培養した。その後、抗-8-OHdG抗体(anti-8-OHdG antibody)を追加で入れ、常温で一時間培養し、3回洗浄した後、secondary antibody enzyme conjugateを各ウェル(well)に入れた後、再び1時間常温で培養した。この後、再び3回洗浄した後、基質溶液(substrate solution)を入れ、常温で30分間培養した。最後に静止溶液(Stop solution)を入れてから、450nmでの吸光度を測定して確認し、その結果を
図9に示した。
【0081】
図9に示すように、DNA損傷が最も深刻なものとして表れた15回継代(P15)群では、細胞培養密度が高くなるほど、8-OHdGの濃度が有意に増加することを確認した。このような結果を通じて高密度培養条件で産生されるROSによってDNA損傷が増加するものであり、これにより、間葉系幹細胞の老化が促進されることを示す。
【0082】
このような結果は、細胞培養密度を低く調節することが中葉幹細胞のROS産生の増加によるDNA損傷から間葉系幹細胞を保護する役割をすることができることを示す結果である。
【0083】
1.8 抗酸化剤処理による間葉系幹細胞(MSC)の増殖及び活性酸素種(ROS)の産生能の確認
間葉系幹細胞の増殖が高密度培養条件で産生されるROSによって影響を受けるかどうかを確認するため、ROS消去実験を行った。11回継代(P11)ないし15回継代(P15)で高密度培養条件及び高密度培養条件に抗酸化剤であるアスコルビン酸25μg/mlを培地に添加して培養した後、二つのグループ間の増殖率の増加倍数(Fold)を比較し、その結果を
図10に示した。
【0084】
図10に示すように、高密度培養条件で増加倍数がP11ないしP15でそれぞれ2.6、1.9、1.6であり、継代回数が増加するにつれて増殖能が低下するとともに老化が現れ始めたが、抗酸化剤を処理した場合、全継代で約50%程度の増殖能が高く維持されることを確認した。また、抗酸化剤処理群で成長増加倍数(growth fold increase)は、P11ないしP15でそれぞれ3.8、2.9、2.5であり、P15まで増殖能が高く維持された。
【0085】
終点(Endpoint)であるP15で高密度培養条件単独及び高密度培養条件+抗酸化剤処理の二つのグループ間のROSレベルを確認した結果を
図11に示した。
【0086】
図11に示すように、抗酸化剤であるアスコルビン酸を処理して増殖が増加した条件では、ROSレベルもはやり減少していることを確認した。したがって、MSC培養は、高密度ではない低い細胞密度で行うことが好ましく、高密度細胞培養から誘導されるROS産生を抗酸化剤で消去する場合、間葉系幹細胞の増殖能を増加させることができることを確認した。すなわち、高密度条件はROSにより間葉系幹細胞の増殖能が抑制され、細胞密度が低くなるほどROSが減少し、間葉系幹細胞増殖能が促進されることができる。
【0087】
このような結果を総合してみると、層分離培養を通じて得られたモノクローナル間葉系幹細胞の増殖、培養及び幹細胞能を維持するためには、培養条件のうち、細胞密度を1000細胞/cm2以下の密度で調節することが重要であり、抗酸化剤を添加して培養する場合、細胞培養で誘発され得る酸化ストレスを抑制し、間葉系幹細胞の増殖を効果的に促進することができることを確認した。また、同様に低い細胞密度条件の培養を比較してみると、P15と同じ10回継代以上の幹細胞は、5回継代と同じ10回継代未満の幹細胞と比較したとき、細胞の形態学的変化が著しくなり、幹細胞の老化促進、分化能減少のような結果が確認されるので、1000細胞/cm2以下の密度で、10回継代未満の低い低継代数で培養するのが最も効果的であることが確認された。
【0088】
<実施例2>改善された層分離培養法の検証
前記実施例1を通じて、層分離培養法で収得された間葉系幹細胞培養において、細胞密度の調節、継代調節及び抗酸化剤の添加が重要な因子となりうることを確認したので、韓国特許出願第10-2006-0075676号に記載された層分離培養法の既存の工程で収得されたモノクローナル間葉系幹細胞を細胞培養密度を異にして、抗酸化剤であるアスコルビン酸が添加された培地で培地を変えながら、継代培養を行い、単一コロニーMSCの増殖能及びそれに伴う細胞収得効果を比較した。
【0089】
以前の韓国特許出願第10-2006-0075676号の実施例1には、
図1のような層分離培養方法を通じて骨髄から間葉系幹細胞を分離し、培養する方法が開示されており、層分離段階を経て収得される単一性細胞群であるコロニーをウェル当り100~600の細胞数で培養容器に移し替えるという事実が開示されている。
【0090】
また、韓国内特許出願第10-2013-0106432号及び米国特許出願第2012-0171168号には、層分離培養法を用いて、骨髄由来の間葉系幹細胞を分離し、培養する方法が開示されており、コロニーを50~100細胞/cm2で塗抹するという事実が開示されている。
【0091】
しかし、韓国特許出願第10-2006-0075676号、第10-2013-0106432号及び米国特許出願US2012-0171168号には、層分離培養法によって収得された単一性細胞群コロニーを計数し、6ウェルプレートに移動させて培養する構成、すなわち、1回継代に該当するコロニー培養の条件が開示されているだけで、2回継代以後のコロニーではない個々の細胞の繰り返し培養密度の調節に対する構成及びこれによる効果は、全く開示されていない。前記出願に記載された従来の層分離培養法によれば、十分な量の膵炎の予防、治療、改善効果があるモノクローナル幹細胞を得るために少なくとも10回継代以上の培養を行わなければならない。その反面、本発明の改善された層分離培養方法では、2回継代以後、低細胞密度条件、最大8回継代以下の少ない継代培養数により効果的に目的とする膵炎の治療に効果がある、モノクローナル幹細胞を大量に収得することができる。
【0092】
具体的には、本改善方法では、層分離培養法で収得された1回継代(P1)のコロニーを培養した後、2回継代(P2)以後の継代培養では、低密度である1000細胞/cm2以下で細胞を分注し、これを4000細胞/cm2の細胞培養の効果と比較した。また、細胞培養培地を抗酸化剤が含まれたα-MEM培地と抗酸化剤が既に含まれたLG-DMEM培地を異にして、これによる細胞増殖効果を比較した。
【0093】
改善された層分離培養法の効果を確認するための実験群を、次の表3に従来の層分離培養法と比べて改善された層分離培養方法の工程改善部分を
図12に模式化して示した。
【0094】
図12に示すように、1回継代を収得する工程までは、従来の層分離培養法と改善された層分離培養法が工程を同様に進めたが、改善された層分離培養法は、拡張された1回継代細胞をseed cellとして用いて培養する段階以後の継代培養工程が従来の層分離培養法と異なる。既存の層分離培養法は、密度の条件について認識せずに多くの細胞を収得することを目的とし、4000細胞/cm
2以上の高密度継代培養を行うが、改善された層分離培養法は、継代培養の密度を低密度である1000細胞/cm
2以下に調節することにより、2回継代以後、8回継代以下の培養だけで最終的な産物を収得することができる。2回継代後の培養工程を
図12に詳細に示した。
【0095】
【0096】
前記表3の細胞株は、層分離培養方法によって分離された細胞株であり、SCM01ないSCM08とそれぞれ命名した。
【0097】
2.1 細胞株密度及び培地による増殖効果の確認
前記SCM01ないし08細胞株を用いて培養を行い、10回継代培養未満である5回継代までの継代培養による細胞増殖効果を、細胞数、集団倍加時間(PDT;Population Doubling Time)、集団倍加数(PDL;Population Doubling Level)とそれぞれ比較し、これを
図13~
図20に示した。
【0098】
図13~
図20にて確認されるように、cm
2当たり1000個の細胞密度で接種して培養されたすべての実験群において、cm
2当たり4000個の細胞密度で接種して培養した実験群よりも優れた細胞増殖効果を示した。また、同じ1000個の細胞密度群であっても、抗酸化剤であるアスコルビン酸が含まれたα-MEM培地で培養された1000alpha実験群において、より顕著な細胞増殖効果が確認された。
【0099】
2.2 細胞株密度による増殖効果の比較
培養細胞数による増殖率をより正確に比較するために、培養培地をそれぞれLG DMEM又はα-MEM培地に固定し、cm
2当たり1000又は4000個の細胞接種密度の継代培養による細胞増殖効果を比較し、その結果を
図21~
図24に示した。
【0100】
図21に示すように、LG DMEMで培養されたSCM01ないしSCM08細胞株の2回継代(P2)ないし5回継代(P5)での増殖率がcm
2当たり4000個の細胞数の接種群よりも1000個の細胞数で接種して培養したとき、著しく高いことが確認されており、5回継代(P5)で確認されたcm
2当たり4000個の細胞接種に比べて1000個の細胞接種群の増殖率は、最低3.08ないし最大48.50倍であることを確認した。
【0101】
また、
図22に示すように、cm
2当たり1000個の細胞接種群のPDT値もすべての細胞株において、cm
2当たり4000個の細胞接種よりも低いか、或いは同じようなレベルで示され、PDL値は、すべての細胞株において、cm
2当たり4000個の細胞接種に比べて高い値が確認された。
【0102】
また、
図23に示すように、α-MEMで培養されたSCM01ないしSCM08細胞株全部、1000個の細胞数で接種して培養したとき、DMEM実験群と同じ傾向を示しており、5回継代(P5)で確認されたcm
2当たり4000個の細胞株接種に比べてcm
2当たり1000個の細胞接種群の増殖率は、最小6.32ないし最大85.63倍であることが確認された。また、
図24に示すように、cm
2当たり1000個の細胞接種群のPDT値も全細胞株において、cm
2当たり4000個の細胞接種よりも低いか、或いは同じようなレベルで示され、PDL値は、すべての細胞株において、cm
2当たり4000個の細胞接種に比べて高い値が確認された。
【0103】
このような結果は、cm2当たり4000個の高密度細胞接種培養に比べてcm2当たり1000個以下の細胞接種を通じて素早くモノクローナル間葉系幹細胞の増殖を誘導することができることを示す結果である。
【0104】
2.3 培養培地による増殖効果の比較
前で実施例2.2を通して1000細胞/cm
2培養が4000細胞/cm
2培養に比べ優れた増殖効果を示すことがあることを確認したので、細胞数を1000個に固定し、培地を変数として変化させながら、細胞増殖効果を比較することにより、培養培地条件による増殖効果をさらに検証し、その結果を
図25及び
図26に示した。
【0105】
図25に示すように、培養培地をα-MEM及びDMEMに変えながら、細胞増殖率を比較した結果、LG-DMEMに比べてα-MEM培地を用いた実験群で最小1.77倍~6.39倍の高い細胞増殖率を確認した。また、
図26に示すように、PDTは、すべてのα-MEM実験群で低く示され、PDLは増加したことが確認された。
【0106】
このような実験結果は、細胞接種密度をcm2当たり1000個以下の細胞で調節し、2回継代(P2)ないし5回継代(5P)のような10回継代未満の低継代で培養することに加え、抗酸化剤が添加された培地を用いて培養した場合、細胞の増殖効率を最大化とすることができることが示される。
【0107】
<実施例3> 改善工程の樹立
前記実施例を通して間葉系幹細胞培養において、細胞密度の調節及び抗酸化剤の添加が重要な因子となり得ることを確認したので、韓国特許出願第10-2006-0075676号及び同第10-2007-0053298号に記載された層分離培養法の既存の工程に加えて、継代培養時、細胞培養密度及び培地条件を異にし、単一コロニーの間葉系幹細胞を、10回継代未満の低い継代で効果的に収得することができる改善された過程を確立し、これを総合的に下記の表4(DMEM培地を用いた培養条件)及び表5(α-MEM培地を用いた培養条件)に示した。
【0108】
【0109】
【0110】
より具体的には、本発明の骨髄由来の間葉系幹細胞の層分離培養工程及び増殖培養を次のように行った。
【0111】
骨髄ドナーの臀部に局所麻酔薬で麻酔した後、臀部の骨に注射針を刺し、骨髄を採取した。100mm培養容器に20%FBS、1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含む14ml DMEM(Dulbecco`s modified Eagle`s Medium、GIBCO-BRL、Life-technologies、MD、USA)、ヒトの骨髄1mlを入れ、37℃、5%CO2細胞培養器で2時間培養した。培養後、培養容器を片方に軽く傾け、底に張り付いている細胞がなるべく浮き上がらないように最大限に培養容器の上層培養液のみ新しい容器に移し替えた。
【0112】
同様の過程をもう一度繰り返した後、収得した培養液を底に膠原質(collagen)がコーティングされた培養容器(Becton Dickinson)に移し替えた後、37℃で2時間培養した。培養液を再び新しい膠原質がコーティングされた容器に移し替え、24時間後再び新しい容器に移し替え、24時間後にまた新たな容器に移し替えた。最後に、48時間後、新しい容器に移し替えた後、残存する細胞が培養容器の底に張り付いて育っていることを目視で確認した。前の数々の層分離段階を経て、この段階まで辿り着くことができる細胞は、細胞の割合が他の細胞よりもはるかに小さい細胞であることを推測することができる。
【0113】
約10~14日間の時間が経過すると、細胞が単一コロニー(single colony)を形成するが、このモノクローナル細胞群をトリプシンを処理して分離した後、6-ウェル培養容器に移し替えた。37℃、5%CO2細胞培養器で4~5日培養した後、約80%育ったときに、細胞を0.05%trypsin/1mM EDTA(GIBCO-BRL)を処理して収得した後、T175培養容器に移し替え、低細胞密度で継代培養した。
【0114】
このように、10回継代未満、好ましくは8回継代以下の2回継代(P2)ないし5回継代(P5)で細胞密度を1000細胞/cm2のレベルに下げて培養する場合、他の工程はすべて同じように調節したにもかかわらず、間葉系幹細胞の増殖能及び幹細胞の特性が優秀に維持され、同じ継代でも増殖を効果的に誘導されることを確認した。特に細胞密度を下げて培養する場合、既存の工程で必要とされていた間葉系幹細胞でWCB(Working Cell Bank)の製造過程を省略することができ、細胞の製造期間を効果的に短縮することができる。特に継代を少なくすると、老化が比較的ゆっくり進んだ細胞を大量に収得することができ、このような細胞を治療剤として用いる場合、治療効果に優れるものと期待することができる。
【0115】
また、培養培地として抗酸化剤が添加されたα-MEMを用いる場合、高密度の細胞培養で誘導されるROSストレスが抗酸化剤処理によって効果的に改善され、間葉系幹細胞の細胞増殖能が回復することができ、従来の工程に比べて細胞の継代を大幅に短縮させ、間葉系幹細胞の特性を維持する老化が進んでいない新鮮な状態の単一コロニー間葉系幹細胞を迅速かつ安定的に収得することができるという特徴がある。
【0116】
前記のような内容を総合してみると、低密度細胞培養は、短時間に多くの細胞を得ることができ、製造工程は簡素化するだけでなく、長期間培養(long-term culture)でも、間葉系幹細胞の特性を完全に維持する老化していない状態の細胞を収得することができるので、良質の幹細胞の産生を可能にすることを確認した。
【0117】
これにより、以下、膵炎の治療のための実験において、前記実施例を通じて構築した改善方法により収得される幹細胞を用いた。
【0118】
<実施例4>改善された層分離培養法により収得された幹細胞の膵炎治療効果確認
4.1 cMSC1、cMSC2の用意
実施例3の改善された層分離培養法に従って継代培養時、細胞培養密度を1000細胞/cm2以下とし、抗酸化剤を含むa-MEM培地を用いて3回継代し、モノクローナル中間葉系幹細胞を収得した。抗生物質としては、ゲンタマイシンが追加され、α-MEM培養液で行った(表5参照)。以下、1000細胞/cm2以下の低密度及び抗酸化条件の改善された層分離培養法により収得された幹細胞を「cMSC1」と命名した。また、改善された層分離培養法により収得された幹細胞と効果を比較するために継代培養時、4000細胞/cm2以上の密度及び抗酸化剤未添加条件の培養方法で培養する従来の層分離培養法により収得し、3回継代培養された幹細胞を「cMSC2」と命名した。
【0119】
4.2 cMSC1投与による急性膵炎の治療効果の確認
4.2.1 急性膵炎の動物モデルの構築及び実験方法
cMSC1投与による急性膵炎の治療効果を確認するために、急性膵炎の動物モデルを下記の表6のように設定した。実験に用いられたマウスは、SPF(Specific Pathogen Free)ラット((株)コアテック)で購入して用いており、各グループ別に5週齢の雄ラット15匹、計60匹を以下の実験に用いた。
【0120】
【0121】
急性膵炎の動物モデルを構築するために、術前、clipperを利用して、動物腹部の剃毛を行った。Zoletil 50(VIRBAC、France)及びxylazine(Rompun(R)BayerAG、Germany)を用いて麻酔を行い、必要時、麻酔を追加で行った。ポビドン及び70%のアルコールを用いて切開部位を広く消毒した後、腹部正中切開を行った。十二指腸を露出さた後、急性膵炎誘発物質である3%タウロコール酸ナトリウム(sodium taurocholate)を1mL/kgの投与液量で膵臓管内に投与して急性膵炎を誘導した。
【0122】
動物モデルにおいて膵炎を誘導してから4時間後、cMSC1及びcMSC2を2x10
6cellsを尾静脈を通じて単回200ul投与し、72時間後に血液及び臓器を摘出して分析を行った。
図27に本発明に係る急性膵炎の動物モデル構築の模式図を示した。
【0123】
4.2.2 cMSC1及びcMSC2処理による膵臓細胞の生存率の確認
実施例4.2.1にて作製した急性膵炎の動物モデルから注入した細胞の生存率を確認した。cMSC1及びcMSC2を下記表7に示した細胞安定化剤と共に同じ投与量で尾静脈を通じて投与した。
【0124】
【0125】
前記表7にて確認されるように、試験物質であるcMSC1とcMSC2の注入時、生存率を測定した結果、それぞれ91%、87.7%であり、すべて85%以上の生存率を確認し、特にcMSC1投与群は、90%以上の生存率を示し、膵臓細胞保護効果がより卓越していることを確認した。
【0126】
4.2.3 cMSC1処理による血液生化学的効果
急性膵炎が誘導された実施例4.2.1のラットにおいて、cMSC処理による血液生化学的効果を確認するために、膵炎標識マーカーレベルを確認した。具体的には試験終了時点であるcMSC1又はcMSC2投与72時間後、2つの酵素アルファ-アミラーゼ(a-amylase)及びリパーゼ(lipase)を血液生化学的分析(7180 Hitachi、Japan)を用いて測定し、結果を
図28に示した。
【0127】
図28に示すように、cMSC1、2投与後72時間目に急性膵炎(SAP)モデルでのアルファ-アミラーゼ及びリパーゼレベルは、対照群に比べて有意に高いことを確認した。cMSC2投与群は、SAPモデルに比べてアルファ-アミラーゼレベルでは効果を示さなかったが、リパーゼ増加は、約13%抑制することを確認した。一方、改善された層分離培養法により収得されたcMSC1群では、SAP群に比べ51%のアミラーゼレベルの減少を確認し、リパーゼもやはり64%の有意なレベルの減少を示した。
【0128】
すなわち、cMSC1を注入すれば、膵炎標識マーカーであるアルファ-アミラーゼとリパーゼがいずれも有意に約51~64%減少することが確認され、これらの結果は、cMSC1が血清中のアルファ-アミラーゼとリパーゼ活性を非常に顕著に減少させることができることを示している。
【0129】
4.2.4 cMSC1処理によるミエロペルオキシダーゼ(Myeloperoxidase;MPO)の確認
ミエロペルオキシダーゼ(Myeloperoxidase;MPO)は、好中性顆粒(neutrophil granulocytes)に豊富に発現される酵素であり、心筋梗塞(myocardial infarction)又は急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia)の予測因子として用いられ、炎症の程度を示す標識である。本発明のcMSC1処理によって膵臓組織内の好中球浸潤の程度及び炎症の程度が改善されるか否かを確認するために、ミエロペルオキシダーゼ(150kDa)をMyeloperoxidase activity assay kit(STA-803、Cell biolabs)を用いて、メーカーの方法に沿って測定し、その結果を
図29に示した。
【0130】
図29に示すように、急性膵炎を誘導したグループにおいて、対照群よりも約12倍程、ミエロペルオキシダーゼ活性が増加されたが、改善された層分離培養法によって収得されたcMSC1処理群では、有意に65%以上減少することを確認した。このような結果は、cMSC1が従来工程における細胞株のグループcMSC2が8%減少した効果と比較して統計学的に有意な著しい好中球が減少した効果を示すことを示す結果である。
【0131】
4.2.5 cMSC1処理による炎症性サイトカイン及び抗炎症性サイトカインの分析
急性膵炎の動物モデルである実施例4.2.1のラットにおいて、cMSC処理によって炎症性因子の変化が誘導されるか否かを確認するために、炎症性サイトカインであるTNF-α、IL-6、IFN-γ、IL-10の発現変化を下記表8の分析ツールを用いて、メーカーの方法に沿って測定しており、その結果を
図30に示した。
【0132】
【0133】
図30に示すように、急性膵炎の動物モデル(SAP)は、TNF-α、IL-6、IFN-γのレベルが対照群に比べて著しくに増加したが、cMSC1及びcMSC2処理群では、対照群に比べて発現レベルが画然と減少したことを確認した。特にcMSC1処理群は、TNF-α、IL-6、IFN-γでそれぞれ49%、42%、61%の対照群に比べて減少効果を示し、著しく優れた炎症性サイトカインの抑制効果が確認された。また、抗炎症サイトカインであるIL-10は、対照群に比べてcMSC1及びcMSC2処理群の両方で増加し、特にcMCS1のIL-10レベルは、対照群に比べて69%増加しており、cMSC処理によって抗炎症サイトカイン発現の増加が誘導されることを確認した。
【0134】
4.2.5 cMSC1処理による組織病理学的分析
実施例4.2.1の急性膵炎の動物モデルの臓器を摘出し、cMSC1処理による浮腫病変の変化を確認するために、組織病理学的分析を行った。具体的には、試験物質投与後72時間目に採血してから動物を安楽死させた後、膵臓を摘出し、10%中性緩衝ホルマリンで固定した。固定された組織を用いて、トリミング、脱水、パラフィン包埋及び薄切などの一般的な組織処理を施し、組織病理学的検査のための検体を作製した。Hematoxylin&Eosin(H&E)染色を行い、光学顕微鏡(Olympus BX53、Japan)を用いて、組織病理学的変化を観察した。組織病理学的評価は、Schmidt’s score(A better model of acute pancreatitis for evaluating therapy、Schmidt J et al、1992)を用いて点数化した。その結果を
図31及び
図32に示した。
【0135】
図31に示すように、顕微鏡下で対照群に比べ、SAPで炎症所見が確認されており、cMSC1処理群で炎症の程度が最も改善されていることを確認した。
【0136】
図32に示すように、急性膵炎の動物モデルでは、組織病理学スコア、浮腫、壊死、出血、炎症浸潤スコアがすべて対照群に比べて急激に増加しており、このような急激な増加は、すべてcMSC1及びcMSC2処理によって緩和される傾向を確認した。特にcMSC1処理群は、対照群に比べてすべての評価指標において約27~35%の減少効果が示され、cMSC2処理群に比べて約2倍の効果を示すことを確認した。
【0137】
総合的には、改善された層分離培養法によって収得されたcMSC1の場合、急性膵炎において膵臓の細胞生存率を増加させ、血液生化学的、組織病理学的病変をいずれも効果的に改善させることができるので、急性膵炎の治療に優れた効果を示すことができることを確認した。また、このようcMSC1の急性膵炎の治療に対する効果は、従来の層分離培養法によって収得され、高密度継代培養されたcMSC2と比較しても大幅に優れていることを確認した。
【0138】
<実施例5>改善された層分離培養法によって収得された幹細胞の特性比較
5.1 cMSC1及びcMSC2細胞の特性比較
実施例4にて改善された層分離培養法によって収得された幹細胞cMSC1が従来の層分離培養法で収得されたcMSC2と比較して著しく優れた急性膵炎の治療効果を示すことを確認したので、これらの細胞の特性を比較するための実験を行った。
【0139】
実施例4.1の方法と同じ方法でcMSC1及びcMSC2を収得しており、これらを培養し、細胞の大きさを確認した。
【0140】
実験に用いた細胞と方法を下記表9に示した。
【0141】
【0142】
cMSC1とcMSC2の細胞の大きさの差異を検証するために、Nucleo Counter NC-250機器を用いて、細胞の大きさを確認し、その結果を
図33及び表10に示した。
【0143】
【0144】
表10及び
図33に示すように、2つの細胞は大きさが異なることを確認しており、機器を介してセル径の標準偏差を確認した結果、改善された層分離培養法によって収得されたcMSC1がcMSC2より偏差が小さいことを確認した。
【0145】
さらにフローサイトメトリー(FACS)を用いて、前方散乱光/側方散乱光(FSC/SSC)値を同一に指定したとき、フローサイトメトリーでも、細胞の大きさに差異があるかどうかを確認し、その結果を
図34に示した。
【0146】
図34に示すように、cMSC2は、細胞の大きさが大きくなり、細胞が全体的に広く分布しているのに対し、cMSC1は、細胞の大きさが小さく、それにより側方散乱光(SSC)50K内に分布されることを確認した。
【0147】
前記のように、cMSC1が細胞の大きさがより小さく、均質に形成されることにより間葉系幹細胞が培養されると同時に分泌されるサイトカインの量が変化され、cMSC1が急性膵炎の治療効果がさらに強化されることが確認された。
【0148】
5.2 cMSC1及びcMSC2のin vitro効果確認
急性膵炎に対して異なる効果を示すcMSC1及びcMSC2を培養した後、in vitroの実験を行い、細胞別の活性を比較した。まず、活性化されたT細胞の抑制率を混合リンパ球反応(Mixed lymphocyte reaction;MLR)条件で確認した。実験方法は、次の通りである。二人の異なるdonorのPBMCを、互いに混ぜ合わせることで、抗原によるT細胞の活性を誘導した後(allogeneic MLR)、cMSC1又はcMSC2をそれぞれ入れてあげ、T細胞の活性が抑制されるか否かを確認した。それぞれのDye(CFSEとeFluor670)で染色された者のPBMCとcMSC1又はcMSC2を4:1の割合でそれぞれ共培養した後、8日間培養し、分析はFACS verse(BD Biosciences)機器を用いるフローサイトメトリー法で測定した。その結果を
図35に示した。
【0149】
図35に示すように、活性化されたT細胞の抑制率を混合リンパ球反応条件で確認した結果、2つの細胞共にT cell:cMSC=1:4の条件で50%以上の抑制率を示したが、改善された工程の細胞株(cMSC1)は、79%、前工程の細胞株(MSC2)は、53%抑制率で約26%の差異が確認された。
【0150】
In vitroでcMSC1及びcMSC2を培養し、各細胞株の培養液において、TGF-β1、sTNF-R1(Soluble tumor necrosis factor receptor 1)、及び免疫関連マーカーIDO(Indoleamine 2,3-dioxygenase)、ICOSL(Induced T cell co-stimulator ligand)の発現量を比較し、その結果を
図36及び
図37に示した。
【0151】
図36に示すように、二つの細胞株を培養した培養液において、TGF-β1とsTNF-R1の分泌量を確認した結果、TGF-β1は、2つの細胞株間大きな差異が表れなかったが、sTNF-R1は、改善された工程の細胞株であるcMSC1において、28pg/ml高く分泌されることが確認された。
【0152】
また、
図37に示すように、何ら刺激を与えていない状態のWI38(Human Fibroblast)を基準に、IDO、ICOSLの発現量を比較した結果、改善された工程の細胞株であるcMSC1で二つの遺伝子発現量が約2倍高いことを確認した。
【0153】
さらにPHA(phytohemagglutinin)刺激条件で共培養した後、培養液に炎症性サイトカイン(IFN-γ、IL-17)及び抗炎症性(IL-10)サイトカインの変化を確認した。IFN-γ、IL-17、IL-10の分泌量を確認するために、1x10
6cells/wellの濃度のPBMC(Peripheral Blood Mononuclear Cell)を24 well plateに塗抹し、1ug/ml PHAで炎症反応を誘導した。具体的には、前記PHA処理の有無及びcMSC処理の有無を異にして、各実験群にてIFN-γ、IL-17、IL-10の濃度を測定し、その結果を
図38に示した。
【0154】
図38に示すように、改善された工程の細胞株cMSC1と共培養した結果、PHA刺激条件に比べてIFN-γは74.3%、IL-17は82.2%抑制されることが確認され、既存の工程によって収得された細胞株cMSC2では、IFN-γが55.4%、IL-17が65.8%抑制されることが確認された。すなわち、2つの細胞株間の炎症性サイトカインの抑制率は、約20%程度差があることを確認し、同一の条件で、抗炎症性サイトカインIL-10の分泌量を確認した結果、改善された工程の細胞株cMSC1ではIL-10が約25%増加したのに対し、前工程の細胞株cMSC2では7%の増加が確認されており、cMSC1がcMSC2よりも約3倍以上、抗炎症性サイトカインの分泌をさらに増加させることが確認された。
【0155】
前記のような結果を総合してみると、改善された工程により収得したcMSC1を用いれば、急性膵炎により増加される消化酵素の増加と炎症関連酵素の増加を効果的に減少させることができることを確認することができる。また、炎症性サイトカインの分泌を減少させ、抗炎症サイトカインの分泌をさらに著しく増加させることを確認することができ、膵臓の組織学的分析を通じても有意な結果を確認することができた。特に、本発明によるcMSC1は、増殖能及び幹細胞の特性が優秀に維持され、増殖が効果的に維持されるのみならず、cMSC1は、前工程で獲得した細胞株cMSC2と比較したとき、免疫調節能力、免疫関連遺伝子の発現、炎症及び抗炎症性サイトカインの分泌において、より優れていることを確認することができた。したがって、改善された工程で獲得された細胞は、前工程で獲得された細胞に比べ、より優れた膵炎の予防、治療が可能であることを知ることができる。