(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】クローナル幹細胞を含む移植片対宿主病の治療用薬学的組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20231122BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20231122BHJP
C12N 5/0775 20100101ALN20231122BHJP
C12N 5/02 20060101ALN20231122BHJP
A61K 35/12 20150101ALN20231122BHJP
【FI】
A61K35/28
A61P37/06
C12N5/0775
C12N5/02
A61K35/12
(21)【出願番号】P 2021534906
(86)(22)【出願日】2019-12-04
(86)【国際出願番号】 KR2019017031
(87)【国際公開番号】W WO2020130431
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-06-17
(31)【優先権主張番号】10-2018-0163010
(32)【優先日】2018-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】517278646
【氏名又は名称】エスシーエム ライフサイエンス カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】ソン、ソンウク
(72)【発明者】
【氏名】キム、シナ
(72)【発明者】
【氏名】ムン、チョンヒョン
【審査官】六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/074758(WO,A1)
【文献】特表2010-527988(JP,A)
【文献】特開2009-183307(JP,A)
【文献】特表2009-540865(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0002490(KR,A)
【文献】特表2022-513222(JP,A)
【文献】特開2006-109757(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)個体から分離された骨髄を、第1容器で培養する段階と、
2)前記第1容器の上澄み液のみ新しい容器に移し替えて培養する段階と、
3)前記の新しい容器に存在する細胞を培養し、上澄み液を収得する段階と、
4)前記3)段階の上澄み液を2)段階の第1容器の上澄み液にし、2)及び3)段階を1回以上繰り返して、モノクローナル幹細胞を得る段階と、
5)前記4)段階のモノクローナル幹細胞を、50~1000細胞/cm
2(cells/cm
2)の細胞密度で培地に接種して1回継代培養する段階と、
6)前記5)段階の継代培養されたモノクローナル幹細胞を、50~1000細胞/cm
2(cells/cm
2)の細胞密度で培地に接種して2~13回継代培養する段階と、を通じて収得されるモノクローナル間葉系幹細胞を含む、移植片対宿主病の予防または治療用薬学的組成物であって、
前記5)および6)段階における培地に
、グルタチオン、システイン、システアミン、ユビキノール、β-メルカプトエタノールおよびアスコルビン酸からなる群から選択される抗酸化剤が追加されている、前記組成物。
【請求項2】
前記5)および6)段階の培養は、1000細胞/cm
2(cells/cm
2)の細胞密度で培地に接種して行われることを特徴とする請求項1に記載の移植片対宿主病の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項3】
前記移植片対宿主病は、急性移植片対宿主病または慢性移植片対宿主病であることを特徴とする請求項1に記載の移植片対宿主病の予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項4】
前記モノクローナル幹細胞は、IDO(Indoleamine 2,3-dioxygenase)、ICOSL(Induced T cell co-stimulator ligand)、TSG6(Tumor necrosis factor-inducible gene 6 protein)、CXCL9(chemokine(CXC motif)ligand 9)、CXCL10(chemokine(CXC motif)ligand 10)、およびHO-1(Heme oxygenase-1)からなる群から選択された1種以上の免疫関連マーカーの発現量が増加したものであることを特徴とする請求項1に記載の移植片対宿主病の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項5】
1)個体から分離された骨髄を、第1容器で培養する段階と、
2)前記第1容器の上澄み液のみ新しい容器に移し替えて培養する段階と、
3)前記の新しい容器に存在する細胞を培養し、上澄み液を収得する段階と、
4)前記3)段階の上澄み液を2)段階の第1容器の上澄み液にし、2)及び3)段階を1回以上繰り返し、モノクローナル幹細胞を得る段階と、
5)前記4)段階のモノクローナル幹細胞を、50~1000細胞/cm
2(cells/cm
2)の細胞密度で培地に接種して1回継代培養する段階を経て、モノクローナル幹細胞を収得する段階と、
6)前記5)段階の継代培養されたモノクローナル幹細胞を、50~1000細胞/cm
2(cells/cm
2)の細胞密度で培地に接種して2~13回継代培養する段階と、を含む、移植片対宿主病の予防または治療用薬学的組成物の製造方法であって、
前記5)および6)段階における培地に
、グルタチオン、システイン、システアミン、ユビキノール、β-メルカプトエタノールおよびアスコルビン酸からなる群から選択される抗酸化剤が追加されている、前記製造方法。
【請求項6】
前記5)および6)段階の培養は、1000細胞/cm
2(cells/cm
2)の細胞密度で培地に接種して行われることを特徴とする請求項5に記載の移植片対宿主病の予防または治療用薬学的組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幹細胞の改善された層分離培養を通して収得されるモノクローナル間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cells;MSC)を含む移植片対宿主病の予防、治療、または改善用組成物、並びにこれを用いた移植片対宿主病の治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
移植片対宿主病(Graft Versus Host Disease)は、同種間の骨髄移植や末梢血幹細胞移植、免疫力低下などの理由で行われた輸血などの治療行為により宿主内に流入された他人の免疫細胞であるTリンパ球が、宿主の免疫機能が低下したときには宿主の免疫システムによって死滅されずに宿主の体内で増殖し、リンパ球が患者の細胞を非自己(non-self)として認識し、宿主を攻撃する病気であり、症状の程度によっては重度の場合、死亡に至ったりもする疾患である。移植片対宿主病の原因は、大きく2つに分けられるが、宿主の免疫力低下と家族の血液輸血である。移植片対宿主病は、急性と慢性に区分され、施術後100日前に発生すると急性、施術後100日後に発生すると慢性として分類される。移植片対宿主病は、急性に起きる場合がほとんどであり、移植片に含まれたT細胞が宿主細胞に存在する特異抗原に対して反応を示し、数々の症状を引き起こすが、発生する症状としては、感染症、サイトメガロウイルスに起因する肺炎、肝炎、消化管炎がある。皮膚病変として麻疹と似たような皮膚の発疹が生じるが、主に耳介、手のひら、足の裏に発生するので、他の皮膚疾患と区別される。皮膚疾患と共に肝疾患が伴って黄疸が発生し、肝数値が増加する。消化管に問題がある場合には、吐き気、嘔吐、食欲不振、腹痛、及び下痢などの症状がある。
【0003】
今まで移植片対宿主病の根本的な治療方法はなく、症状を和らげることができる治療のみ可能であり、ステロイド療法が効果的な治療法として用いられている。
【0004】
一方、最近、様々な疾患の治療に幹細胞を利用しようとする試みが進められている。幹細胞は、我々の体の210個余りのすべての機関の組織として成長することができる潜在的能力を有しており、無限に分裂することができ、適切な操作を通して所望の臓器に分化することができる。このような幹細胞の特性により幹細胞は、新しい治療剤として脚光を浴びており、幹細胞を用いた難病治療の可能性は非常に高いもので、白血病、骨粗しょう症、肝炎、パーキンソン病、老人性認知症、火傷など、数多くの病気の治療が可能なものとして期待されている。
【0005】
しかし、幹細胞の場合、これを大量に取得することが難しいという点では、まだまだ多くの制約事項がある。幹細胞を取得する方法として凍結胚細胞から得る方法が効率的であるといえるが、倫理的な面ではいまもなお多くの論争がある。このような問題点を解消するために、体細胞核移植方法や成体幹細胞を利用して、幹細胞を取得する方法もやはり多くの研究が進められてきた。胚性幹細胞に対する研究よりも活発に行われる分野は、成体幹細胞の研究である。成体幹細胞は、中枢神経系や骨髄など各種の臓器に残り、成長期の臓器発達と損傷時の再生に関与する細胞として各種臓器に存在するため、骨髄、脾臓、脂肪細胞などを含む種々の部位から取得することができるが、骨髄から得る方法が最も一般的に行われている。しかし、数多くの骨髄細胞の中から間葉系幹細胞を分離し、培養することにおいて常に均一な形態の細胞を得ることが難しいので、このような問題点を補完するための研究が行われている。
【0006】
本発明者は、新規な層分離培養法と命名された幹細胞の分離方法を発明しており、大韓民国特許出願KR10-2006-0075676号をとして特許出願し、登録を受けた。前記層分離培養法は、他の方法に比べて低コストで行うことができるだけでなく、汚染の問題がなく、他の幹細胞が混入する心配なしにクローナル間葉系幹細胞(cMSC)を効果的に得ることができるという点で、他の幹細胞取得方法に比べて卓越した優秀性を有する。しかし、前記方法の優秀性にもかかわらず、層分離培養法は、間葉系幹細胞を大量産生し、最終産物として用いるためには、ワーキング細胞バンクを製造し、これを介して最終的な産物を取得する工程を経なければ十分な量の中間葉茎細胞を取得することができず、少なくとも継代(Passage)10回以上の培養が必要という点で、迅速なモノクローナル間葉系幹細胞集団の取得が難しいという限界があった。
【0007】
したがって、幹細胞の治療剤としての開発は、まだまだ数多くの技術的限界を有しており、特に、移植片対宿主病を効果的に治療するための幹細胞の製造法及びこれを用いた移植片対宿主病の治療方法については、公知されたところがない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者等は、前記のような層分離培養法の改善により幹細胞の迅速な増殖を誘導するための研究をしていた中、培養細胞密度を低く調節し、抗酸化剤を添加して培養する改善された層分離培養法を利用する場合、より少ない継代培養だけで効果的な細胞増殖率の増加を誘導することができ、これにより取得さるモノクローナル間葉系幹細胞が従来の層分離培養法で取得されるクローナル間葉系幹細胞または従来の幹細胞に比べて移植片対宿主病の治療効果を増大させることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0009】
したがって、本発明の目的は、従来の層分離培養法を改善した幹細胞の層分離培養及び増殖方法により取得されるモノクローナル間葉系幹細胞を含む移植片対宿主病の予防、治療、及び改善用組成物、並びにその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために本発明は、1)個体から分離された骨髄を、第1容器で培養する段階;2)前記第1容器の上澄み液のみを新しい容器に移し替えて培養する段階;3)前記の新しい容器に存在する細胞を培養し、上澄み液を取得する段階;4)前記3)段階の上澄み液を、2)段階の第1容器の上澄み液とし、2)及び3)段階を1回以上繰り返してモノクローナル幹細胞を得る段階;及び5)前記4)段階のモノクローナル幹細胞を、50~1000細胞/cm2(cells/cm2)の細胞密度で培地に接種して培養する段階;を通して取得されるモノクローナル幹細胞を含む、移植片対宿主病の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0011】
また、本発明は、1)個体から分離された骨髄を第1容器で培養する段階;2)前記第1容器の上澄み液のみを新しい容器に移し替えて培養する段階;3)前記新しい容器に存在する細胞を培養し、上澄み液を取得する段階;4)前記3)段階の上澄み液を、2)段階の第1容器の上澄み液にし、2)及び3)段階を1回以上繰り返してモノクローナル幹細胞を得る段階;及び5)前記4)段階のモノクローナル幹細胞を、50~1000細胞/cm2(cells/cm2)の細胞密度で培地に接種して培養する段階を通してモノクローナル幹細胞を取得する段階;とを含む、移植片対宿主病の予防または治療用薬学的組成物の製造方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、1)個体から分離された骨髄を、第1容器で培養する段階;2)前記第1容器の上澄み液のみを新しい容器に移し替えて培養する段階;3)前記の新しい容器に存在する細胞を培養し、上澄み液を取得する段階;4)前記3)段階の上澄み液を2)段階の第1容器の上澄み液とし、2)及び3)段階を1回以上繰り返して、モノクローナル幹細胞を得る段階;及び5)前記4)段階のモノクローナル幹細胞を、50~1000細胞/cm2(cells/cm2)の細胞密度で培地に接種して培養する段階;を通して取得される移植片対宿主病の予防、改善または治療用幹細胞を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の改善された幹細胞の層分離培養及び増殖方法によれば、モノクローナル間葉系幹細胞の迅速な増殖により短時間で所望のモノクローナル間葉系幹細胞の大量取得が可能であり、これを通じて取得されるモノクローナル間葉系幹細胞は、移植片対宿主病の治療効果が増大された幹細胞であるところ、移植片対宿主病の治療剤として有用に用いられることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】ヒトの骨髄からモノクローナル間葉系幹細胞を分離する層分離培養法を示した図である。
【
図2】細胞培養密度及び細胞継代培養によるモノクローナル間葉系幹細胞の形態学的変化を顕微鏡観察を通じて確認した結果を示した図である。
【
図3】細胞培養密度及び細胞継代培養によるモノクローナル間葉系幹細胞の細胞の大きさ及び粒度(granularity)の変化をフローサイトメトリー(Flow cytometry;FACS)分析を通じて前方散乱(forward scatter;FSC)(A)及び側方散乱(side scatter;SSC)(B)光の平均値で確認した結果を示した図である(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.005)。
【
図4】細胞培養密度及び細胞継代培養を異にしたモノクローナル間葉系幹細胞をβ-ガラクトシダーゼ(ベータgal)の活性度を染色を通じて細胞が老化するか否かを確認した結果を示した図である。
【
図5】15回継代(Passage 15;P15)のモノクローナル間葉系幹細胞を細胞培養密度を変えて培養した後、老化に関連する遺伝子であるp15、p16、および増殖マーカーであるPCNAをRT-PCRで確認した結果を示した図である。
【
図6】細胞培養密度及び細胞継代培養によるモノクローナル間葉系幹細胞の増殖能を集団倍加時間(population doubling time;PDT)及び集団倍加数(population doubling level;PDL)を通じて確認した結果を示した図である(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.005)。
【
図7】細胞培養密度及び細胞継代培養によるモノクローナル間葉系幹細胞の分化能力を確認した結果を示した図である(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.005)。
図7のAは、細胞培養及び細胞継代培養によるモノクローナル間葉系幹細胞の脂肪細胞への分化能をOil red O組織学的染色を通じて確認した結果であり、
図7のBは、Aの組織学的染色程度を定量化して示した図である。
図7のCは、細胞培養及び細胞継代培養によるモノクローナル間葉系幹細胞の骨化細胞への分化能をAlizarin red S組織学的染色を通じて確認した結果であり、
図7のDは、Cの組織学的染色程度を定量化して示した図である。
【
図8】細胞培養密度及び細胞継代培養によりモノクローナル間葉系幹細胞で産生される全活性酸素種(reactive oxygen species; ROS)の産生(A)及びこれに伴うDNA損傷をcomet assayで確認(B)した結果を示した図である(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.005)。
【
図9】細胞培養密度及び細胞継代培養によって産生される活性酸素種によるDNA損傷の程度を確認するために、8-オキソ-デオキシグアノシン(8-hydroxy-2’-deoxyguanosine;8-OHdG)の濃度を測定した結果を示した図である(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.005)。
【
図10】11回継代(P11)~15(P15)のモノクローナル間葉系幹細胞を高密度条件単独(HD)または高密度条件+アスコルビン酸(抗酸化剤の一種)を追加(HD+AA)により培養した後、細胞増殖能の変化を確認した結果を示した図である。
【
図11】15回継代(P15)のモノクローナル間葉系幹細胞を高密度条件単独(HD)または高密度条件+アスコルビン酸追加(HD+AA)で培養した後、産生される活性酸素種レベルを比較した結果を示した図である(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.005)。
【
図12a】従来の層分離培養法及び改善された層分離培養法の実験方法を比較して示した図である。
【
図12b】改善された層分離培養法の模式図であって、従来の層分離培養法と異なる2回継代後に対応する低密度培養を示した模式図である。
【
図13】層分離培養法により取得されたSCM01ないしSCM08モノクローナル間葉系幹細胞を1000または4000細胞/cm
2(cells/cm
2)の密度で接種し、抗酸化剤添加の有無を異にしたLG-DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium、low glucose)、α-MEM(Minimum Essential Mediumα)培養培地を用いて培養した細胞の増殖率を確認した結果を示した図である。各度のAは、各実験群の1回継代(P1)ないし5回継代(P5)による細胞数の変化を、各図のBは、各実験群の集団倍加時間(PDT)及び集団倍加数(PDL)の結果を示した図である。
【
図14】層分離培養法により取得されたSCM01ないしSCM08モノクローナル間葉系幹細胞を1000または4000細胞/cm
2(cells/cm
2)の密度で接種し、抗酸化剤添加の有無を異にしたLG-DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium、low glucose)、α-MEM(Minimum Essential Mediumα)培養培地を用いて培養した細胞の増殖率を確認した結果を示した図である。各度のAは、各実験群の1回継代(P1)ないし5回継代(P5)による細胞数の変化を、各図のBは、各実験群の集団倍加時間(PDT)及び集団倍加数(PDL)の結果を示した図である。
【
図15】層分離培養法により取得されたSCM01ないしSCM08モノクローナル間葉系幹細胞を1000または4000細胞/cm
2(cells/cm
2)の密度で接種し、抗酸化剤添加の有無を異にしたLG-DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium、low glucose)、α-MEM(Minimum Essential Mediumα)培養培地を用いて培養した細胞の増殖率を確認した結果を示した図である。各度のAは、各実験群の1回継代(P1)ないし5回継代(P5)による細胞数の変化を、各図のBは、各実験群の集団倍加時間(PDT)及び集団倍加数(PDL)の結果を示した図である。
【
図16】層分離培養法により取得されたSCM01ないしSCM08モノクローナル間葉系幹細胞を1000または4000細胞/cm
2(cells/cm
2)の密度で接種し、抗酸化剤添加の有無を異にしたLG-DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium、low glucose)、α-MEM(Minimum Essential Mediumα)培養培地を用いて培養した細胞の増殖率を確認した結果を示した図である。各度のAは、各実験群の1回継代(P1)ないし5回継代(P5)による細胞数の変化を、各図のBは、各実験群の集団倍加時間(PDT)及び集団倍加数(PDL)の結果を示した図である。
【
図17】層分離培養法により取得されたSCM01ないしSCM08モノクローナル間葉系幹細胞を1000または4000細胞/cm
2(cells/cm
2)の密度で接種し、抗酸化剤添加の有無を異にしたLG-DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium、low glucose)、α-MEM(Minimum Essential Mediumα)培養培地を用いて培養した細胞の増殖率を確認した結果を示した図である。各度のAは、各実験群の1回継代(P1)ないし5回継代(P5)による細胞数の変化を、各図のBは、各実験群の集団倍加時間(PDT)及び集団倍加数(PDL)の結果を示した図である。
【
図18】層分離培養法により取得されたSCM01ないしSCM08モノクローナル間葉系幹細胞を1000または4000細胞/cm
2(cells/cm
2)の密度で接種し、抗酸化剤添加の有無を異にしたLG-DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium、low glucose)、α-MEM(Minimum Essential Mediumα)培養培地を用いて培養した細胞の増殖率を確認した結果を示した図である。各度のAは、各実験群の1回継代(P1)ないし5回継代(P5)による細胞数の変化を、各図のBは、各実験群の集団倍加時間(PDT)及び集団倍加数(PDL)の結果を示した図である。
【
図19】層分離培養法により取得されたSCM01ないしSCM08モノクローナル間葉系幹細胞を1000または4000細胞/cm
2(cells/cm
2)の密度で接種し、抗酸化剤添加の有無を異にしたLG-DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium、low glucose)、α-MEM(Minimum Essential Mediumα)培養培地を用いて培養した細胞の増殖率を確認した結果を示した図である。各度のAは、各実験群の1回継代(P1)ないし5回継代(P5)による細胞数の変化を、各図のBは、各実験群の集団倍加時間(PDT)及び集団倍加数(PDL)の結果を示した図である。
【
図20】層分離培養法により取得されたSCM01ないしSCM08モノクローナル間葉系幹細胞を1000または4000細胞/cm
2(cells/cm
2)の密度で接種し、抗酸化剤添加の有無を異にしたLG-DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium、low glucose)、α-MEM(Minimum Essential Mediumα)培養培地を用いて培養した細胞の増殖率を確認した結果を示した図である。各度のAは、各実験群の1回継代(P1)ないし5回継代(P5)による細胞数の変化を、各図のBは、各実験群の集団倍加時間(PDT)及び集団倍加数(PDL)の結果を示した図である。
【
図21】抗酸化剤が添加されていないLG-DMEM培地を用いて、1000または4000細胞/cm
2の密度で細胞密度のみを異にした実験群での細胞増殖率を確認した結果を示した図である。
【
図22】抗酸化剤が添加されていないLG-DMEM培地を用いて、1000または4000細胞/cm
2の密度で細胞密度のみを異にした実験群での集団倍加時間(PDT)及び集団倍加数(PDL)を確認した結果を示した図である。
【
図23】抗酸化剤が添加されたα-MEM培地を用いて、1000または4000細胞/cm
2の密度で細胞密度のみを異にした実験群での細胞増殖率を確認した結果を示した図である。
【
図24】抗酸化剤が添加されたα-MEM培地を用いて、1000または4000細胞/cm
2の密度で細胞密度のみを異にした実験群でのPDT及びPDLを確認した結果を示した図である。
【
図25】細胞密度を1000細胞/cm
2の密度で固定し、培養培地をLG-DMEMまたはα-MEMに変えた実験群での細胞増殖率を確認した結果を示した図である。
【
図26】細胞密度を1000細胞/cm
2の密度で固定し、培養培地をLG-DMEMまたはα-MEMに変えた実験群でのPDT及びPDLを確認した結果を示した図である。
【
図27】移植片対宿主病の動物モデルの作製方法を示す模式図である。
【
図28】作製された移植片対宿主病の動物モデルにおいて、臨床的症状の発現を確認した図である(▲移植片対宿主病誘発マウス)。
【
図29】移植片対宿主病を誘導した動物モデルにおいて、C57BL/6レシピエント血中のMHCII表現型をフローサイトメトリー分析を通じて確認した結果を示した図である。
【
図30】移植片対宿主病誘導7日目および14日目マウスの皮膚層を組織染色を通じて確認した結果を示した図である。
【
図31】移植片対宿主病誘導後4週間、マウスの体重の変化を確認した結果を示した図である。
【
図32】移植片対宿主病の動物モデルを作製し、その後の治療効果を確認した実験の模式図である。
【
図33】改善された層分離培養法のcMSC1を用いた移植片対宿主病の治療効果を確認した実験の模式図である。
【
図34】改善された層分離培養法cMSC1投与による移植片対宿主病のマウスの生存率を確認した結果を示した図である。
【
図35】改善された層分離培養法のcMSC1投与による移植片対宿主病の臨床症状の改善効果を確認した結果を示した図である。
【
図36】改善された層分離培養法のcMSC1投与による移植片対宿主病の臨床症状のうち、皮膚症状の改善効果を確認した結果を示した図である。
【
図37】改善された層分離培養法のcMSC1投与による移植片対宿主病の臨床症状のうち、毛並み(fur texture)状態の改善効果を確認した結果を示した図である。
【
図38】改善された層分離培養法のcMSC1投与による移植片対宿主病の臨床症状のうち、下痢症状の改善効果を確認した結果を示した図である。
【
図39】改善された層分離培養法のcMSC1投与による移植片対宿主病の臨床症状のうち、腹水(ascites)症状の改善効果を確認した結果を示した図である。
【
図40】改善された層分離培養法cMSC1投与による移植片対宿主病の臨床症状のち、姿勢(posture)の改善効果を確認した結果を示した図である。
【
図41】従来の層分離培養法cMSC2及び改善された層分離培養法cMSC1の細胞数及び細胞の大きさを顕微鏡的に確認した結果を示した図である。
【
図42】従来の層分離培養法cMSC2及び改善された層分離培養法cMSC1の細胞の大きさをNucleo Counter NC-250機器を介して確認した結果を示した図である。
【
図43】従来の層分離培養法cMSC2及び改善された層分離培養法cMSC1の細胞の大きさをフローサイトメトリー分析を通じて確認した結果を示した図である。
【
図44】従来の層分離培養法cMSC2及び改善された層分離培養法cMSC1の免疫関連マーカーの発現量をqPCRを通じて確認した結果を示した図である。
【
図45】GVHD動物モデルで、既存の層分離培養法cMSC2及び改善された層分離培養法cMSC1(100)(100cells/cm
2の培養)、cMSC1(1000)(1000cells/cm
2の培養)処理による生存率を比較した結果を示した図である。
【
図46】GVHD動物モデルで、既存の層分離培養法cMSC2及び改善された層分離培養法cMSC1(100)(100cell/cm
2培養)、cMSC1(1000)(1000cell/cm
2培養)処理による臨床症状の改善効果を比較した結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、間葉系幹細胞の改善された層分離培養及び増殖方法を通じて収得されるモノクローナル幹細胞(cMSC1)を含む移植片対宿主病の予防または治療用薬学的組成物、モノクローナル幹細胞をこれを必要とする個体に投与する段階を含む移植片対宿主病の予防または治療方法に関する。
【0016】
また、本発明は、間葉系幹細胞の改善された層分離培養及び増殖方法を通じてモノクローナル幹細胞を得る段階;を含む移植片対宿主病の予防または治療用薬学的組成物の製造方法に関する。
【0017】
本発明の有効成分であるモノクローナル幹細胞は、幹細胞を迅速かつ汚染なく収得することができる層分離培養法の利点に加えて、モノクローナル幹細胞、好ましくは、モノクローナル間葉系幹細胞の迅速な増殖を通じてWCB(Working Cell Bank)の製造段階なしでも短時間で所望のモノクローナル幹細胞を大量に収得することができる改善された層分離培養法を通じて収得される幹細胞である。前記の方法を通じて収得されるモノクローナル幹細胞は、従来の層分離培養法を通じて収得される幹細胞と比較して移植片対宿主病の治療効果が増大された幹細胞である。
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、1)個体から分離された骨髄を、第1容器で培養する段階;2)前記第1容器の上澄み液のみを新しい容器に移し替えて培養する段階;3)前記の新しい容器に存在する細胞を培養し、上澄み液を収得する段階;4)前記3)段階の上澄み液を2)段階の第1容器の上澄み液にし、2)及び3)段階を1回以上繰り返して、モノクローナル幹細胞を得る段階;及び5)前記4)段階のモノクローナル幹細胞を、50~1000細胞/cm2(cells/cm2)の細胞密度で培地に接種して培養する段階;を通じて収得されるモノクローナル幹細胞を含む、移植片対宿主病の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0019】
前記2)及び3)段階の培養は、30~40℃で4時間以下、好ましくは1時間~3時間、より好ましくは1時間30分~2時間30分培養し、繰り返し培養は30~40℃で4時間以下、好ましくは1時間~3時間、より好ましくは1時間30分~2時間30分培養した後、30~40℃で12~36時間、好ましくは18時間~30時間培養を2~3回繰り返し、次いで30~40℃で24~72時間、36時間~60時間、好ましくは36時間~60時間で培養し、毎回上澄み液を新しい培養容器に移し替えて行うことができる。
【0020】
本発明の実施例にて分離した方法を簡単に要約すると、次の通りである。
[
図1]
【0021】
培養した細胞は、モノクローナル細胞群を形成するが、このモノクローナル細胞群を分離した後、継代培養を行うことができ、本発明は、層分離培養を通じて収得されたモノクローナル幹細胞を大量に迅速に収得し、移植片対宿主病の治療効果が増大されたモノクローナル幹細胞を収得するために、5)段階の培養段階を含むことを特徴とする。
【0022】
前記5)段階は、モノクローナル幹細胞を1000細胞/cm2(cells/cm2)以下の細胞密度、好ましくは50~1000細胞/cm2の密度で培地に接種して培養する段階である。本発明によれば、迅速なモノクローナル幹細胞の増殖を誘導することができるので、最終的な産物を迅速に収得することができ、少ない数の継代培養を通じてMCB(Master Cell Bank)を製造することができる。
【0023】
本発明において、「層分離培養」は、幹細胞を比重によって分離する方法を意味し、最初にヒト骨髄を抽出し、細胞培養液に培養した後、上澄み液のみを収得し、これをコーティング剤が施された又は施されていない培養容器に移し替えて培養した後、同一過程を数回繰り返す工程をいう。このような層分離培養は、遠心分離過程なしに上澄み液を繰り返し収得して培養する工程を繰り返すことを特徴とし、最終的に他の細胞を汚染させることなくモノクローナル幹細胞、好ましくは、モノクローナル間葉系幹細胞を収得することができる利点がある。
【0024】
本発明の前記1)~5)の段階のうち、1)~4)の段階は、KR10-2006-0075676号、またはKR10-2007-0053298号に記載された層分離培養法と同一又は同等に実行されることができ、KR10-2006-0075676号は、本発明に全体として参考になることができる。
【0025】
従来、KR10-2007-0053298号では、移植片宿主病の治療に関連して、細胞を得る方法として1)個体から骨髄を採取する段階;2)採取した骨髄を培養する段階;3)段階2)の上澄み液のみを新しい容器に移し替えて培養する段階;4)段階3)の上澄み液だけを分離し、コーティング剤が施された培養容器またはコーティング剤が施されていない培養容器で繰り返し培養する段階が開示されており、前記の方法は、遠心分離せずに密度差だけで、モノクローナル幹細胞を収得するという点で、KR10-2006-0075676号の従来の層分離培養法を用いる。
【0026】
しかし、前記KR10-2006-0075676号及びKR10-2007-0053298号の層分離培養法は、モノクローナル幹細胞を低継代で効果的に収得し、これにより移植片対宿主病の治療効果が顕著に改善されたモノクローナル幹細胞を得るための方法が開示されていない。
【0027】
従来の層分離培養法は、
図1で確認されるように、単一コロニーから得られたすべての細胞を6ウェルに移し、80~90%コンフルエンシー(confluency)に増殖させた後、増殖された状態の1回継代(P1)細胞をseed cellにして密度の調節に対する認識がなく、多くの細胞を収得するために4000細胞/cm
2(cells/cm
2)で高密度培養を行う。
【0028】
その反面、本発明は、2回継代後の培養で細胞密度を調節することにより、移植片対宿主病の予防、治療、改善効果に優れた幹細胞を効率的に収得することができることを基礎とした「改善された層分離培養法」に関するものであり、従来の層分離培養法とseed cell以後の培養段階を異にすることを特徴とする。例えば、具体的に「5)前記4)段階のモノクローナル幹細胞を、50~1000細胞/cm2(cells/cm2)の細胞密度で培地に接種して培養する段階」を含む。改善された層分離培養法は、従来の層分離培養法に比べて迅速なモノクローナル幹細胞の増殖を誘導することができるので、最終的な産物を迅速に収得することができる。移植片対宿主病の治療に用いるためのモノクローナル幹細胞は、P2ないしP13継代培養を通じて収得することができ、P2ないしP8のような継代が10回未満の低継代の培養だけで十分な量の移植片対宿主病の治療効果に優れた幹細胞を収得することができる。例えば、急性移植片対宿主病の場合、凍結型の幹細胞を用いることができ、本発明の改善された層分離培養法で継代が8回以下の培養を通じて収得された幹細胞を凍結および解凍させた後に利用することができる。また、迅速な治療が必要とされる慢性移植片対宿主病の場合、効果的な治療のために、新鮮型幹細胞を利用することができ、この場合、より多量の幹細胞を確保するために、13回目の継代まで継代を拡張して、幹細胞を収得することができる。前記のように収得される幹細胞は、高密度培養で収得される幹細胞に比べ、すべての免疫関連マーカーの発現が増加され、分化能の維持、老化が抑制されたモノクローナル幹細胞であるところ、従来の遠心分離方法を通じて収得される幹細胞、および既存の層分離培養法によって収得される幹細胞に比べて移植片対宿主病の治療効果が非常に顕著に改善された幹細胞であることができる。
【0029】
本発明のモノクローナル間葉系幹細胞は、従来の工程のように4000細胞/cm2の高密度で培養される場合、細胞増殖能が著しく減少し、間葉系幹細胞のマーカーが変化し、幹細胞の分化能が失われ得る。したがって、改善された層分離培養法を通じて収得されたモノクローナル幹細胞は、低密度ないし中程度の密度、4000細胞/cm2(cells/cm2)未満の低細胞密度、例えば、3000細胞/cm2以下、好ましくは2000細胞/cm2以下、さらに好ましくは50~1000細胞/cm2(cells/cm2)の細胞密度で培養されたことを意味することができる。
【0030】
1000細胞/cm2(cells/cm2)以下の細胞密度でモノクローナル間葉系幹細胞を培養する場合、細胞の増殖能は、4000細胞/cm2のように高密度に培養された間葉系幹細胞と比較して、長期間の培養期間の間ずっと著しく高く維持されるので、多くの継代を繰り返さなくても、所望量の大量のモノクローナル細胞を迅速に収得することができるという利点がある。また、前記の細胞密度で、モノクローナル間葉系幹細胞を培養する場合、当該細胞はDNA損傷が少なく、老化が抑制され、幹細胞の分化能を効果的に維持することができるという利点があり、素早く、且つ迅速に優れた幹細胞特性を有するモノクローナル間葉系幹細胞を収得することができる。
【0031】
本発明にて用いられる培地は、抗酸化剤を含まない培地であって、前記培地に抗酸化剤が追加された培地または抗酸化剤を含む培地をいずれも含むことができる。
【0032】
抗酸化剤を含まない培地としては、これに限定されるものではないが、DMEM培地を用いることができ、必要に応じて前記培地に、抗酸化剤をさらに追加して培養を行うことができる。また、必要に応じて抗酸化剤が含まれたα-MEM培地を用いて培養を行うことができる。
【0033】
本発明の抗酸化剤は、細胞培養に用いられることができる抗酸化剤を制限なく含むことができ、グルタチオン(Glutathione)、システイン(Cysteine)、システアミン(Cysteamine)、ユビキノール(Ubiquinol)、ベータ-マーカプトエタノール(b-mercaptoethanol)及びアスコルビン酸(Ascorbic acid;AA)からなる群から選択された1種以上であることができる。抗酸化剤が培地に追加された場合、前記抗酸化剤は10~50、好ましくは10~30、より好ましくは25μg/mlの濃度で追加されることができる。
【0034】
本発明の一例として、抗酸化剤を含まない培地としてDMEM、より好ましくはLG-DMEM培地を使用し、抗酸化剤としてアスコルビン酸を含む培地としてα-MEM培地を用いる。
【0035】
本発明の培養培地として抗酸化剤を含む培地を用いる場合、前記培養培地には、抗生剤としてゲンタマイシンが追加されることができる。
【0036】
一方、本発明の方法によれば、モノクローナル幹細胞を非常に効果的に増殖することができるので、MCBを用いてWCB(Working Cell Bank)を製造する工程が省略されることができる。これは、従来の層分離培養法がMCB製造後、WCBを製造する工程を伴う必要があるものに比べ、工程を単純化したものである。
【0037】
本発明の方法を通じて収得された間葉系幹細胞は、2回継代~13回継代後、好ましくは2回継代~12回継代後、さらに好ましくは2回継代~9回継代に収得される幹細胞であることができる。本発明の改善された層分離培養法によれば、継代が10回未満の培養だけで、治療剤として用いられ得る十分な優れた移植片対宿主病の治療効果を有する、間葉系幹細胞を十分に得ることができ、慢性移植片対宿主病のように、迅速に多くの幹細胞が必要な場合には、継代を最大13回、すなわち12回継代まで拡張して培養し、移植片対宿主病の治療効果が促進されたモノクローナル幹細胞をより多く収得することができる。
【0038】
これは、少なくとも継代が10回以上の培養が必須に求められていた従来の工程に比べ、より低い継代で収得される幹細胞であり、細胞接種の密度調節を通じて、低継代で急速に増殖した間葉系幹細胞を容易に大量収得することができ、同時に移植片対宿主病の治療効果が改善された間葉系幹細胞であることを示す。
【0039】
本発明において、前記のような改善された層分離培養法、好ましくは2000細胞/cm2以下、さらに好ましくは1000細胞/cm2以下の低密度及び抗酸化条件の改善された層分離培養法の方法で収得されたモノクローナル幹細胞(以下、「cMSC1」と表記)は、従来の層分離培養法で収得されるモノクローナル幹細胞(以下、「cMSC2」と表記)と比較して、細胞の大きさがより小さく、均質に形成されることができ、急性だけでなく、慢性移植片対宿主病の生存率を高め、免疫関連マーカーの発現が増加され、個体に投与する際、各種の移植片対宿主病の臨床的因子を効果的に改善させることができる幹細胞であることを特徴とする。
【0040】
本発明において、「移植片対宿主病」とは、同種移植時に注入されるドナーの末梢血液や骨髄内Tリンパ球を患者の体で、他人のものとして認識して免疫反応が起こる疾患をいい、慢性または急性移植片対宿主病をいずれも含む。移植片対宿主病の治療に用いられる幹細胞は、新鮮型または凍結型をいずれも用いることができ、臨床的判断に従って適宜選択して用いられることができる。
【0041】
したがって、本発明において、移植片対宿主病は、急性移植片対宿主病または慢性移植片対宿主病をいずれも制限なく含むことができる。
【0042】
本発明の改善された層分離培養法で収得されるモノクローナル幹細胞は、従来の層分離培養法または遠心分離方法で収得される幹細胞に比べ免疫学的マーカーの発現量が増大したことを特徴とすることができ、例えば、IDO(Indoleamine 2,3-dioxygenase)、ICOSL(Induced T cell co-stimulator ligand)、TSG6(Tumor necrosis factor-inducible gene 6 protein)、CXCL9(chemokine(CXC motif)ligand 9)、CXCL10(chemokine(CXC motif)ligand 10)、およびHO-1(Heme oxygenase-1)からなる群から選択された1種以上の免疫関連マーカーの発現量が増加されたものであることができる。
【0043】
本発明の薬学的組成物は、投与のために前記有効成分に加えて、追加で薬学的に許容可能な担体を1種以上含んで製造することができる。本発明の薬学的組成物に含まれる薬学的に許容される担体は、製剤の際に通常に用いられるものであって、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、ステアリン酸マグネシウム、およびミネラルオイルなどを含むが、これらに限定されるものではない。本発明の薬学的組成物は、前記成分に加えて潤滑剤、湿潤剤、甘味料、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などをさらに含むことができる。
【0044】
本発明の薬学的組成物の投与量は、前記薬学的組成物の製剤化方法、投与方式、投与時間および/または投与経路などにより多様化することができ、前記薬学的組成物の投与により達成しようとする反応の種類と程度、投与対象となる個体の種類、年齢、体重、一般的な健康状態、疾病の症状や程度、性別、食餌、排泄、当該個体に同時または移植に共に用いられる薬物その他の組成物の成分などをはじめとする種々の因子及び医薬分野でよく知られた類似因子に応じて多様化することができ、当該技術分野における通常の知識を有する者は、目的とする治療に効果的な投与量を容易に決定し、処方することができる。
【0045】
本発明の薬学的組成物の投与量は、例えば、1日に1mg/kgないし1,000mg/kgであることができるが、前記投与量はいかなる面であれ、本発明の範囲を限定するものではない。
【0046】
本発明の薬学的組成物の投与経路及び投与方法は、それぞれ独立的であることができ、その方法において特に制限されず、目的とする当該部位に前記薬学的組成物が到達することができる任意の投与経路及び投与方法に従うことができる。
【0047】
前記薬学的組成物は、経口投与または非経口投与の方法で投与することができる。前記非経口投与方法としては、例えば、静脈内投与、腹腔内投与、筋肉内投与、経皮投与または皮下投与などが含まれ、前記薬学的組成物を疾患部位に塗布したり噴霧、吸入する方法もまた利用することができるが、これに限定されない。
【0048】
また、本発明は、1)個体から分離された骨髄を、第1容器で培養する段階;2)前記第1容器の上澄み液のみを新しい容器に移し替えて培養する段階;3)前記新しい容器に存在する細胞を培養し、上澄み液を収得する段階;4)前記3)段階の上澄み液を2)段階の第1容器の上澄み液にし、2)及び3)段階を1回以上繰り返して、モノクローナル幹細胞を得る段階;5)前記4)段階のモノクローナル幹細胞を、50~1000細胞/cm2(cells/cm2)の細胞密度で培地に接種して培養する段階を経て、モノクローナル幹細胞を収得する段階;及び6)前記モノクローナル幹細胞を個体に投与する段階;を含む移植片対宿主病の予防または治療方法を提供する。
【0049】
本発明において、前記「個体」は、移植片対宿主病の予防または治療が必要な個体を含み、哺乳類またはヒトを除く哺乳類であることができる。
【0050】
また、本発明は、1)個体から分離された骨髄を、第1容器で培養する段階;2)前記第1容器の上澄み液のみを新しい容器に移し替えて培養する段階;3)前記の新しい容器に存在する細胞を培養し、上澄み液を収得する段階;4)前記3)段階の上澄み液を2)段階の第1容器の上澄み液にし、2)及び3)段階を1回以上繰り返して、モノクローナル幹細胞を得る段階;及び5)前記4)段階のモノクローナル幹細胞を、50~1000細胞/cm2(cells/cm2)の細胞密度で培地に接種して培養する段階を経て、モノクローナル幹細胞を収得する段階;を含む、移植片対宿主病の予防または治療用薬学的組成物の製造方法を提供する。
【0051】
本発明の製造方法において、前記5)段階の培養は、1000細胞/cm2(cells/cm2)の細胞密度で培地に接種して行われることを特徴とすることができる。
【0052】
また、本発明の製造方法において、前記5)段階の培地は、抗酸化剤が追加された培地であることを特徴とすることができる。
【0053】
また、本発明は、1)個体から分離された骨髄を、第1容器で培養する段階;2)前記第1容器の上澄み液のみを新しい容器に移し替えて培養する段階;3)前記の新しい容器に存在する細胞を培養し、上澄み液を収得する段階;4)前記3)段階の上澄み液を2)段階の第1容器の上澄み液にし、2)及び3)段階を1回以上繰り返して、モノクローナル幹細胞を得る段階;及び5)前記4)段階のモノクローナル幹細胞を50~1000細胞/cm2(cells/cm2)の細胞密度で培地に接種して培養する段階;を通じて収得される移植片対宿主病の予防、改善または治療用幹細胞を提供する。
【0054】
本発明によれば、従来の層分離培養法で収得されるモノクローナル幹細胞と比較して優れた移植片対宿主病の予防、改善または治療効果を奏するモノクローナル幹細胞をWCBを製造することなく、迅速且つ容易に収得することができ、前記モノクローナル幹細胞は、薬学、食品、医薬部外品、および化粧料組成物に制限なく含まれることができる。
【0055】
本発明の治療方法および製造方法において、前記の組成物にて記述された内容が同一に適用されることができ、重複する内容は、明細書の記載の複雑さを避けるために省略する。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
次の実施例は、本発明を例示するためのものであって、本発明の内容が下記の実施例に限定されない。
【0057】
<実施例1>改善された層分離培養法の確立
移植片対宿主病により優れた効果を示すモノクローナル間葉系幹細胞を製造するために改善された間葉系幹細胞の層分離培養法及び増殖方法を用いた。改善された間葉系幹細胞の層分離培養法及び増殖方法は、韓国特許出願10-2006-0075676号に記載された層分離培養法の培養条件のうち、細胞密度及び培養培地を変更したことを特徴とする。以下の実験では、層分離培養法を通じて収得されたモノクローナル間葉系幹細胞(cMSC)の細胞培養密度をそれぞれ50細胞/cm2(cells/cm2)(低密度)、1000細胞/cm2(中密度)、4,000細胞/cm2(高密度)と異にしてそれに応じた細胞の特性を分析した。
【0058】
1.1 細胞密度に応じた間葉系幹細胞の形態学的変化を確認
まず、長期間培養で細胞密度に応じた間葉系幹細胞の形態学的変化を確認するための実験を行った。長期間培養条件を与えるために5回継代(P5)、10回継代(P10)、15回継代(P15)の間葉系幹細胞を用いており、それぞれ低密度、中密度、高密度の条件でLG-DMEM培地に接種した。それから、細胞の形態学的変化を顕微鏡で観察し、幹細胞が老化するか否かを判断し、その結果を
図2に示した。
【0059】
図2に示すように、5回継代(P5)及び10回継代(P10)では、細胞密度に応じて細胞の大きさと形態学的パターンの差が表れており、特にP15の場合、高密度培養条件で平らで大きくなった形態の間葉系幹細胞が観察された。このような形態は、典型的な間葉系幹細胞の老化を示すものであり、長期間培養で細胞の密度調節が間葉系幹細胞の老化を調節することができることを確認した。
【0060】
1.2 細胞密度に応じたMSC細胞の大きさ及び粒度の確認
細胞密度に応じた幹細胞の変化をさらに確認するために、老化した細胞から増加したとして知られている細胞の大きさ及び細胞の粒度(granularity)をフローサイトメトリー分析を通じて定量分析し、その結果を
図3に示した。
【0061】
図3に示すように、細胞の大きさは、P5では有意な差を示さなかったが、P10及びP15の場合、細胞密度に応じて有意な差を示すことを確認した。特にP10及びP15では、高細胞密度の培養条件で細胞の大きさが有意に増加し、細胞の老化がさらに促進されることが確認された。これと同様に細胞の粒度もやはりすべての継代(Passage)で細胞の密度が高くなるほど有意に増加する結果が表れた。したがって、間葉系幹細胞の長期培養において、細胞の密度調節が細胞の老化を調節する因子となり得ることを確認しており、細胞培養密度を下げることで後期継代で表される形態学的変化が改善され得ることが確認された。
【0062】
1.3 培養細胞密度による間葉系幹細胞の老化確認
実施例1.1および1.2から確認された形態学的変化が、実際に間葉系幹細胞における老化依存(age-dependent)現象であることを確認するために、老化細胞を選択的に染色することができるベータガラクトシダーゼを用いた染色分析法を行い、老化関連遺伝子であるp15、p16、および増殖マーカーであるPCNA遺伝子の発現をRT-PCRを用いて比較した。その結果をそれぞれ
図4及び
図5に示した。
【0063】
図4に示すように、5回継代(P5)及び10回継代(P10)では、すべての細胞密度で老化した細胞の染色を確認することはできなかったが、15回継代(P15)では、細胞密度が高くなるほど、老化した細胞の染色が明らかに増加することを確認した。また、
図5に示すように、15回継代(P15)では、細胞の培養密度が増加するほど、老化に関連する遺伝子であるCDK阻害剤p15及びp16の遺伝子発現が増加し、増殖マーカーであるPCNAは、減少した。
【0064】
こうした結果は、間葉系幹細胞の形態学的変化が、間葉系幹細胞の老化と関連があることを示す結果であり、細胞培養密度の調節が間葉系幹細胞の老化を調節することができることを示す結果である。
【0065】
1.4 培養細胞密度による間葉系幹細胞の増殖能変化の確認
間葉系幹細胞の増殖能力は継代が進み、細胞の老化が進むにつれて徐々に減少するとして知られている。したがって、増殖能は、間葉系幹細胞の老化を確認できる基準として用いることができ、長期間の細胞培養時、細胞培養密度による間葉系幹細胞の増殖能の比較を行った。各細胞の増殖能は、初期接種細胞数と培養が終わった後、得られる細胞の数を通じて各継代に応じた増殖率を計算して確認し、その結果を表1及び
図6に示した。
【0066】
【0067】
表1に示すように、低密度で培養された間葉系幹細胞(MSC)の場合、5回継代(P5)、10回継代(P10)、15回継代(P15)で増加倍数(fold increase)が、88.4、34.3、16.4であるのに対し、中密度で培養された間葉系幹細胞は、8.5、4.9、3.1であり、高密度で培養された間葉系幹細胞は、3.0、1.9、1.1であることが確認された。また、
図6に示すように、集団倍加時間(PDT)及び集団倍加数(PDL)も増加倍数と同じパターンで表れることを確認した。このような結果は、長期間の間葉系幹細胞培養で細胞密度を下げることで、間葉系幹細胞の増殖能を維持させることができることを示す結果であり、同じ継代培養を行っても、間葉系幹細胞の老化を抑制し、寿命を延長させることができることを示す。
【0068】
1.5 培養細胞密度による間葉系幹細胞(MSC)の分化能変化の確認
細胞培養密度が幹細胞能に影響を与えるか否かを確認するために、P5ないしP15培養による分化能を比較した。幹細胞能として脂肪細胞分化能及び骨細胞分化能を確認しており、それぞれの継代及び密度で、正常、定量分析を行った。具体的には、脂肪細胞の分化培養液は、High Glusose DMEM培養液にNCS(Newborn Calf Serum)(Gibco)、10-7molデキサメタゾン(dexamethasone)(Sigma)、0.5mM IBMX(Sigma)、10μg/mlのインスリン(insulin)(Sigma)、100μMインドメタシン(indomethacin)(Sigma)を添加した培地を作成して実験し、7日間にわたる分化後、Oil red O組織化学染色を通じて確認した。また、Oil red O組織化学染色後、イソプロピルアルコールで溶出させ、500nmで測定した後、定量分析して確認した。
【0069】
骨細胞分化培養液は、α-MEM培養液にFBS(Gibco)、50μg/ml ascorbic 2 phosphate(sigma)、10
-8molデキサメタゾン(Sigma)、10mMのベータグリセロリン酸(β(sigma)を添加した培地を使用しており、21日間にわたる分化後にAlizarin red S組織化学染色を通じて確認した。また、Alizarin red S組織化学染色後、10%酢酸で溶出させ、405nmで測定し、定量分析して確認した。前記のような方法で脂肪細胞分化能及び骨細胞分化能を確認した結果を
図7に示した。
【0070】
図7に示すように、脂肪細胞分化能は継代が進むにつれて、全体的に減少したが、密度による差が顕著に表れていないのに対し、骨細胞分化能の場合、高密度条件の15回継代(P15)培養群で有意に減少していることを確認した。このような結果から間葉系幹細胞の骨細胞分化能は低い細胞密度で培養した場合、よりうまく維持されることを確認した。
【0071】
1.6 培養細胞密度による間葉系幹細胞の抗原プロファイル分析
細胞培養密度が幹細胞の抗原発現にも影響を及ぼすか否かを確認するための実験を行い、各継代および培養密度による陽性および陰性抗原発現の変化をフローサイトメトリー分析で確認し、その結果を表2に示した。
【0072】
【0073】
表2に示すように、陰性マーカー発現の変化は、明らかに確認されなかったが、一部の陽性マーカーの場合のような継代でも細胞培養密度により発現量の変化が表れることを確認した。
【0074】
特に15回継代(P15)では、高密度で細胞を培養した場合、ほとんどの良性マーカーの発現量が顕著に減少しただけでなく、CD73、CD105は、陰性発現を示し、細胞密度を低く維持し、細胞培養を行うことが非常に重要な因子であることを確認した。
【0075】
1.7 培養細胞密度による活性酸素種(ROS)産生及びDNA損傷の比較
間葉系幹細胞の機能の減少とDNA損傷は関連性があるとして知られており、特に、活性酸素種ROSによって誘導されるDNA損傷は、間葉系幹細胞(MSC)の老化を促進するとして知られている。したがって、培養密度により全活性酸素種(ROS)産生及びそれに伴うDNA損傷が異なって示されるかどうかを確認するために、継代及び細胞培養密度による全細胞性活性酸素種(ROS)の量を蛍光強度分析を通じて比較し、comet分析を通じてDNA損傷の程度を確認し、その結果を
図8に示した。
【0076】
図8に示すように、全ROS産生は、全継代で細胞培養密度が増加するほど増加する傾向を確認し、特に10回継代(P10)と15回継代(P15)では、有意にROS産生が増加することを確認した(A)。comet分析では、DNAの損傷が最も弱いCC1から損傷が最も深刻なCC5に分類してデータを分析し、損傷が最も深刻なCC5の場合、細胞培養密度が高くなるほど有意に増加することを確認した。その反面、CC1は、細胞密度が高くなるほど有意に低くなる傾向を示した(B)。
【0077】
さらにDNA損傷がROSによって誘発されたかどうかを確認するために、ROSによるDNA損傷を確認する8-OHdGの濃度を確認する実験を行った。8-OHdG分析方法は、次のとおりである。それぞれの細胞から得られたDNA試料50μlを8-OHdGが結合されたプレート(8-OHdG conjugate coated plate)に入れた後、常温で10分間培養した。その後、抗-8-OHdG抗体(anti-8-OHdG antibody)を追加で入れ、常温で一時間培養し、3回洗浄した後、secondary antibody enzyme conjugateを各ウェル(well)に入れた後、再び1時間常温で培養した。この後、再び3回洗浄した後、基質溶液(substrate solution)を入れ、常温で30分間培養した。最後に静止溶液(Stop solution)を入れてから、450nmでの吸光度を測定して確認し、その結果を
図9に示した。
【0078】
図9に示すように、DNA損傷が最も深刻なものとして表れた15回継代(P15)群では、細胞培養密度が高くなるほど、8-OHdGの濃度が有意に増加することを確認した。このような結果を通じて高密度培養条件で産生されるROSによってDNA損傷が増加するものであり、これにより、間葉系幹細胞の老化が促進されることを示す。
【0079】
このような結果は、細胞培養密度を低く調節することが中葉幹細胞のROS産生の増加によるDNA損傷から間葉系幹細胞を保護する役割をすることができることを示す結果である。
【0080】
1.8 抗酸化剤処理による間葉系幹細胞(MSC)の増殖及び活性酸素種(ROS)の産生能の確認
間葉系幹細胞の増殖が高密度培養条件で産生されるROSによって影響を受けるかどうかを確認するため、ROS消去実験を行った。11回継代(P11)ないし15回継代(P15)で高密度培養条件および高密度培養条件に抗酸化剤であるアスコルビン酸25μg/mlを培地に添加して培養した後、二つのグループ間の増殖率の増加倍数(Fold)を比較し、その結果を
図10に示した。
【0081】
図10に示すように、高密度培養条件で増加倍数がP11ないしP15でそれぞれ2.6、1.9、1.6であり、継代回数が増加するにつれて増殖能が低下するとともに老化が現れ始めたが、抗酸化剤を処理した場合、全継代で約50%程度の増殖能が高く維持されることを確認した。また、抗酸化剤処理群で成長増加倍数(growth fold increase)は、P11ないしP15において、それぞれ3.8、2.9、2.5であってP15まで増殖能が高く維持された。
【0082】
終点(Endpoint)であるP15で高密度培養条件単独及び高密度培養条件+抗酸化剤処理の二つのグループ間のROSレベルを確認した結果を
図11に示した。
【0083】
図11に示すように、抗酸化剤であるアスコルビン酸を処理して増殖が増加した条件では、ROSレベルもはやり減少していることを確認した。したがって、MSC培養は、高密度ではない低い細胞密度で行うことが好ましく、高密度細胞培養から誘導されるROS産生を抗酸化剤で消去する場合、間葉系幹細胞の増殖能を増加させることができることを確認した。すなわち、高密度条件はROSにより間葉系幹細胞の増殖能が抑制され、細胞密度が低くなるほどROSが減少し、間葉系幹細胞増殖能が促進されることができる。
【0084】
このような結果を総合してみると、層分離培養を通じて得られたモノクローナル間葉系幹細胞の増殖、培養および幹細胞能を維持するためには、培養条件のうち、細胞密度を1000細胞/cm2以下の密度で調節することが重要であり、抗酸化剤を添加して培養する場合、細胞培養で誘発され得る酸化ストレスを抑制し、間葉系幹細胞の増殖を効果的に促進することができることを確認した。また、継代回数が15以上の幹細胞は、5回継代または10回継代の幹細胞と比較したとき、細胞の形態学的変化が著しくなり、幹細胞の老化促進、分化能減少のような結果が確認されるので、1000細胞/cm2以下の密度で、低継代数で培養するのが最も効果的であることを確認された。
【0085】
<実施例2>改善された層分離培養法の検証
前記実施例1を通じて、層分離培養法で収得された間葉系幹細胞培養において、細胞密度の調節、継代調節及び抗酸化剤の添加が重要な因子となることを確認したので、韓国特許出願10-2006-0075676号に記載された層分離培養法の既存の工程で収得されたモノクローナル間葉系幹細胞を細胞培養密度を異にして、抗酸化剤であるアスコルビン酸が添加された培地で培地を変えながら、モノコロニーMSCの増殖能及びそれに伴う細胞収得効果を比較した。
【0086】
以前、韓国特許出願10-2006-0075676号では、単一性細胞群であるコロニーをウェル当りの細胞数100~600移し、それ以後の継代培養では、cm2当たり4000個の細胞で培養を行った。
【0087】
また、層分離培養法を通じて収得された中間葉骨髄細胞を用いた移植片対宿主病治療剤が開示されているKR10-2007-0053298号では、層分離培養法によって収得された単一性細胞群を1回継代に該当する6-ウェル培養容器に細胞数100~600移すという事実のみが開示されてあるだけで、2回継代後のコロニーでない個々の細胞の反復的な培養密度調節に対する構成及びこれに伴う効果については全く開示されていない。前記出願に記載された従来の層分離培養法によると、十分な量の移植片対宿主病の予防、治療、改善効果があるモノクローナル幹細胞を得るために、少なくとも10回継代以上の培養を行わければならない。その反面、本発明の改善された層分離培養法では、2回継代後、低細胞密度条件、2回継代~13回継代のような低継代培養を通じて効果的に目的とするモノクローナル幹細胞を大量に収得することができる。
【0088】
具体的には、本改善方法では、層分離培養法で収得された1回継代(P1)のコロニーを培養した後、2回継代(P2)後の継代培養では、低密度である1000細胞/cm2以下で細胞を分注し、これを4000細胞/cm2の細胞培養の効果と比較した。また、細胞培養培地を抗酸化剤が含まれたα-MEM培地と抗酸化剤が既に含まれたLG-DMEM培地を異にして、これによる細胞増殖効果を比較した。
【0089】
改善された層分離培養法の効果を確認するための実験群を、次の表3に工程改善部分を
図12a及び
図12bに模式化して示した。
【0090】
図12aに示すように、1回継代を収得する工程までは、従来の層分離培養法と改善された層分離培養法が工程を同様に進めたが、改善された層分離培養法は、拡張された1回継代細胞をseed cellとして用いて培養する段階以後の継代培養工程が従来の層分離培養法と異なる。既存の層分離培養法は、密度の条件について認識せずに多くの細胞を収得することを目的とし、4000細胞/cm
2以上の高密度継代培養を行うが、改善された層分離培養法は、継代培養の密度を低密度である1000細胞/cm
2以下に調節することにより、2回継代後、継代9回以下の培養だけで最終的な産物を十分な量で収得することができ、より多くのモノクローナル幹細胞を収得するためには、最大13回継代まで拡張培養することができる。2回継代後の培養工程を
図12bに詳細に示した。
【0091】
【0092】
細胞株は、層分離培養法によって分離された細胞株であり、SCM01ないSCM08とそれぞれ命名した。
【0093】
2.1 胞株密度及び培地による増殖効果の確認
前記SCM01ないし08細胞株を用いて培養を行い、継代培養による細胞増殖効果を、細胞数、集団倍加時間(PDT;Population Doubling Time)、集団倍加数(PDL;Population Doubling Level)にそれぞれ比較し、これを
図13~
図20に示した。
【0094】
図13~
図20にて確認されるように、cm
2当たり1000個の細胞密度で接種して培養されたすべての実験群において、cm
2当たり4000個の細胞密度で接種して培養した実験群よりも優れた細胞増殖効果を示した。また、同じ1000個の細胞密度群であっても、抗酸化剤であるアスコルビン酸が含まれたα-MEM培地で培養された1000alpha実験群において、より顕著な細胞増殖効果が確認された。
【0095】
2.2 細胞株密度による増殖効果の比較
培養細胞数による増殖率をより正確に比較するために、培養培地をそれぞれLG DMEMまたはα-MEM培地に固定し、cm
2当たり1000または4000個の細胞接種密度による細胞増殖効果を比較し、その結果を
図21~
図24に示した。
【0096】
図21に示すように、LG DMEMで培養されたSCM01ないしSCM08細胞株の2回継代(P2)ないし5回継代(P5)での増殖率がcm
2当たり4000個の細胞数の接種群よりも1000個の細胞数で接種して培養したとき、著しく高いことが確認されており、5回継代(P5)で確認されたcm
2当たり4000個の細胞接種に比べて1000個の細胞接種群の増殖率は、最低3.08ないし最大48.50倍であることを確認した。また、
図22に示すように、cm
2当たり1000個の細胞接種群のPDT値もすべての細胞株において、cm
2当たり4000個の細胞接種よりも低いか、或いは同じようなレベルで示され、PDL値は、すべての細胞株において、cm
2当たり4000個の細胞接種に比べて高い値が確認された。
【0097】
また、
図23に示すように、α-MEMで培養されたSCM01ないしSCM08細胞株全部、1000個の細胞数で接種して培養したとき、DMEM実験群と同じ傾向を示し、5回継代(P5)で確認されたcm
2当たり4000個の細胞株接種に比べてcm
2当たり1000個の細胞接種群の増殖率は、最低6.32ないし最大85.63倍であることが確認された。また、
図24に示すように、cm
2当たり1000個の細胞接種群のPDT値も全細胞株において、cm
2当たり4000個の細胞接種よりも低いか、或いは同じようなレベルで示され、PDL値は、すべての細胞株において、cm
2当たり4000個の細胞接種に比べて高い値が確認された。
【0098】
このような結果は、cm2当たり4000個の高密度細胞接種培養に比べてcm2当たり1000個以下の細胞接種を通じて素早くモノクローナル間葉系幹細胞の増殖を誘導することができることを示す結果である。
【0099】
2.3 培養培地による増殖効果の比較
前で実施例2.2を通して1000細胞/cm
2培養が4000細胞/cm
2培養に比べ、優れた増殖効果を示すことがあることを確認したので、細胞数を1000個で固定し、培地を変数として変化させながら、細胞増殖効果を比較することにより、培養培地条件による増殖効果をさらに検証し、その結果を
図25および
図26に示した。
【0100】
図25に示すように、培養培地をα-MEM及びDMEMに変えながら、細胞増殖率を比較した結果、LG-DMEMに比べてα-MEM培地を用いた実験群で最低1.77倍から6.39倍の高い細胞増殖率を確認した。また、
図26に示すように、PDTは、すべてのα-MEM実験群で低く示され、PDLは増加したことが確認された。
【0101】
このような実験結果は、細胞接種密度をcm2当たり1000個以下の細胞で調節し、低継代で培養することに加え、抗酸化剤が添加された培地を用いて培養した場合、細胞の増殖効率を最大化とすることができることが示される。
【0102】
<実施例3> 改善工程の樹立
前記実施例を通して間葉系幹細胞培養において、細胞密度の調節及び抗酸化剤の添加が重要な因子となり得ることを確認したので、韓国特許出願10-2006-0075676号及び10-2007-0053298号に記載された層分離培養法の既存の工程に加えて、細胞培養密度及び培地の条件を異にし、モノコロニーの間葉系幹細胞を、低継代で効果的に収得することができる改善された過程を確立し、これを総合的に下記の表4(DMEM培地を利用した培養条件)および表5(α-MEM培地を用いた培養条件)に示した。
【0103】
【0104】
【0105】
より具体的には、本発明の骨髄由来の間葉系幹細胞の層分離培養工程及び増殖培養を次のように行った。
【0106】
骨髄ドナーの臀部に局所麻酔薬で麻酔した後、臀部の骨に注射針を刺し、骨髄を採取した。100mm培養容器に20%FBS、1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含む14ml DMEM(Dulbecco`s modified Eagle`s Medium、GIBCO-BRL、Life-technologies、MD、USA)、ヒトの骨髄1mlを入れ、37℃、CO2細胞培養器で2時間培養した。培養後、培養容器を片方に軽く傾け、底に張り付いている細胞がなるべく浮き上がらないように最大限に培養容器の上層培養液のみ新しい容器に移し替えた。
【0107】
同様の過程をもう一度繰り返した後、収得した培養液を底に膠原質(collagen)がコーティングされた培養容器(Becton Dickinson)に移し替えた後、37℃で2時間培養した。培養液を再び新しい膠原質がコーティングされた容器に移し替え、24時間後再び新しい容器に移し替え、24時間後にまた新たな容器に移し替えた。最後に、48時間後、新しい容器に移し替えた後、残存する細胞が培養容器の底に張り付いて育っていることを目視で確認した。前の数々の層分離段階を経て、この段階まで至ることができる細胞は、細胞の割合が他の細胞よりもはるかに小さい細胞であることを推測することができる。
【0108】
約10~14日間の時間が経過すると、細胞がモノコロニー(single colony)を形成するが、このモノクローナル細胞群をトリプシンを処理して分離し、6-ウェル培養容器に移し替えた。37℃、5%CO2細胞培養器で4~5日培養した後、約80%育ったときに、細胞を0.05%trypsin/1mM EDTA(GIBCO-BRL)を処理して収得した後、T175培養容器に移し替え、低細胞密度で継代培養した。
【0109】
このように、初期継代での細胞密度を1000細胞/cm2のレベルに下げて培養する場合、他の工程はすべて同じように調節したにもかかわらず、間葉系幹細胞の増殖能及び幹細胞の特性が優秀に維持されて、同じ継代でも増殖を効果的に誘導されることを確認した。特に細胞密度を下げて培養する場合、既存の工程で必要とされていた間葉系幹細胞でWCB(Working Cell Bank)の製造過程を省略することができ、細胞の製造期間を効果的に短縮することができる。特に継代を少なくすると、老化が比較的ゆっくり進んだ細胞を大量に得ることができ、このような細胞を治療剤として用いる場合、治療効果が優れるものと期待することができる。
【0110】
また、培養培地として抗酸化剤が添加されたα-MEMを用いる場合、高密度の細胞培養で誘導されるROSストレスが抗酸化剤処理によって効果的に改善され、間葉系幹細胞の細胞増殖能が回復することができ、従来の工程に比べて細胞の継代を大幅に短縮させ、間葉系幹細胞の特性を維持する老化が進んでいない新鮮な状態の単一コロニー間葉系幹細胞を迅速かつ安定的に収得することができるという特徴がある。
【0111】
前記のような内容を総合してみると、低密度細胞培養は、短時間に多くの細胞を得ることができ、製造工程は簡素化させるだけでなく、長期間培養(long-term culture)でも、間葉系幹細胞の特性を完全に維持する老化されていない状態の細胞を収得することができるので、良質の幹細胞の産生を可能にすることを確認した。
【0112】
これにより、以下、移植片対宿主病の治療のための実験において、前記実施例を通じて構築した改善方法で収得される幹細胞を用いた。
【0113】
<実施例4> 改善層分離培養法を通じて収得された幹細胞の移植片対宿主病の治療効果の確認
4.1 移植片対宿主病の動物モデル作製
移植片対宿主病の動物モデルの作製方法を
図27に示した。まず、BALB/cマウスに8.5Gy量の放射能を照射し、24時間後に、雌C57BL/6Nから骨髄細胞(5x10
6/0.1ml)と脾臓細胞(5x10
6/0.1ml)を抽出し、放射能が照射されBALB/cマウスの静脈を通じて注入した。移植片対宿主病のマウスモデルが構築されたかを確認するために、作製されたマウスにおいて、皮膚、毛質(fur texture)、腹水(ascites)、下痢(diarrhea)、猫背(hunched back)を観察し、移植片対宿主病の臨床的な症状を示すかどうかを確認した。作製されたマウスを
図28に示した。
【0114】
図28に示すように、本発明の作製方法により作製されたマウスは、対照群に比べて毛並みが荒く、毛先が裂けながら抜ける現象が現れ、毛色が黄色を帯びることを確認した。また、腹水がたまってきて血便の症状が現れ、猫背などが見られた。その他に運動量及び食事量もやはり対照群に比べて減少することが確認された。
【0115】
さらに移植片対宿主病の動物モデルの構築を検証するためにフローサイトメトリー分析、免疫組織化学分析を行った。
【0116】
まず、フローサイトメトリー分析を用いて、マウスの表現型、免疫細胞、炎症細胞の観察を行い、その結果を
図29に示した。
【0117】
図29に示すように、本発明の作製方法で作製された移植片対宿主病のマウスは、Naiveマウスに比べて、C57BL/6レシピエント血中のMHC II表現型を示した。
【0118】
組織染色による免疫組織化学分析を移植片対宿主病誘導7日目および14日目に行い、その結果を
図30に示した。
【0119】
図30に示したように、本発明の作製方法で作製された移植片対宿主病のマウスは、Naiveマウスに比べて真皮層が厚く発達していることが確認された。また、異常角化細胞、血管周辺部に単核球浸潤が観察された。特に移植片対宿主病誘導後14日目には、Naiveマウスに比べて表皮層と真皮層が全部厚く発達されており、真皮層下の脂肪層は崩れ、毛包や皮脂腺に損傷があることが確認された。
【0120】
移植片対宿主病が誘導されたマウスが、Naiveマウスに比べて体重の変化があるかどうかを確認するために、疾患誘導後4週間の間体重の変化を測定し、その結果を
図31に示した。
【0121】
図31に示すように、移植片対宿主病が誘導されたマウスは、Naiveマウスに比べて体重が減少しており、移植後10日目に体重変化が最も大きく表れたことが確認された。
【0122】
前記のような結果は、移植片対宿主病マウスの構築が効果的に達成されたことを示す。
【0123】
本発明の移植片対宿主病の動物モデル作製およびその後、治療方法を簡略に模式化して
図32に示した。
【0124】
4.2 GCM(gradient centrifugation method)対比移植片対宿主病の治療効果の確認
4.2.1 改善層分離培養法による幹細胞の製造及び投与
実施例3の改善層分離培養法に基づいて、細胞培養密度を1000細胞/cm2以下とし、抗酸化剤を含むa-MEM培地を用いて、モノクローナル間葉系幹細胞を収得した。抗生剤としてはゲンタマイシンが追加され、α-MEM培養液で行った(表5参照)。以下、1000細胞/cm2以下の低密度及び抗酸化条件の改善層分離培養法を通じて収得された幹細胞を「cMSC1」と命名した。比較群として移植片対宿主病が誘発されたマウスにGCM(gradient centrifugation method)方法で分離された幹細胞を投与した群を設定し、「GCM-MSC」と命名し、cMSC1と同様に投与した。
【0125】
本発明のcMSC1注入による移植片対宿主病の治療効果を確認するために、移植片対宿主病が誘発された実施例4.1のBALB/cマウスに1×10
6cMSC1を1、3、および5日目に投与して治療効能を観察し、その具体的な治療プロトコルを
図33に示した。移植片対宿主病治療のために用いた実験群G1ないしG5、及び各実験群に属する個体数は、次の表6の通りであり、1、3、5日目に投与した容量(1日目の投与=1
st、3日目の投与=2
nd、5日目の投与=3
rd)は、表7に示す。
【0126】
【0127】
【0128】
4.2.2 cMSC1投与による治療効果の確認
移植片対宿主病のマウスの生存率測定
移植片対宿主病の誘発後、対照群、実験群を含むG1ないしG5の生存率を約20日間確認し、その結果を表8および
図34に示した。
【0129】
【0130】
図34および表8に示すように、移植片対宿主病のマウスに細胞安定化剤のみを投与したG3実験群では10日目にマウスがすべて斃死したのに対し、GCM-MSCを投与したG4実験群では10日目に50%が生存し、15日目にすべて斃死した。cMSC1を投与したG5実験群では、10日目、15日目にそれぞれ90%及び70%が生存し、改善層分離培養であるa-MEM培地で低濃度で培養されたクローナル幹細胞を、当該疾患に適用した場合、生存率を効果的に改善することができることが確認された。
【0131】
移植片対宿主病マウスの臨床症状の改善効果確認
本発明のcMSC1投与による移植片対宿主病の臨床症状の改善効果を確認した。下記表9の基準に基づいて実験動物の臨床症状を各項目別に0~2点と数値化し、合計10点で計算して示し、その結果を
図35~
図40に示した。
【0132】
【0133】
図35に示すように、本発明のcMSC1を投与したマウスが移植片対宿主病誘発後7、10、14日目に評価した臨床点数が最も低いことが確認された。
【0134】
図36~
図40は、項目別の臨床的症状に対する点数を示した図であり、それぞれ皮膚、毛質、下痢、腹水、マウスの姿勢(猫背)に関する結果を示す。
図36~
図40で確認できるように、すべての臨床的症状において、本発明のcMSC1を投与したマウスが、細胞安定化剤のみ投与した実験群に比べ著しい臨床症状の改善効果を示した。また、GCM-MSCを投与した群と比較したとき、著しく優れた効果を示した。
【0135】
前記のような結果を改善層分離培養法であるa-MEM培地で低濃度で培養する方法により収得したクローナル幹細胞が移植片対宿主病マウスの生存率を高め、あらゆる臨床的症状を改善する効果を有しており、移植片対宿主病の治療剤として有用に用いられることを確認した。
【0136】
<実施例5> 改善層分離培養法を通じて収得された幹細胞の治療効果の比較
5.1.改善層分離培養法を通じて収得された幹細胞と既存の層分離培養法を通じて収得された幹細胞の細胞特性の比較
cMSC1は、低密度及び抗酸化培地条件を有する改善された層分離培養法を通じて収得した間葉系幹細胞であり、前で確認したように、従来の層分離培養法により収得された間葉系幹細胞に比べて幹細胞の特性及び増殖能が効果的に維持されるなどの優秀性を有する。cMSC1が従来の層分離方法で分離された幹細胞と比較して移植片対宿主病の治療剤として、より優秀性を有するか否かを確認するための比較実験を行った。比較群としては抗酸化剤が追加されておらず、面積当たり培養細胞数が4000cells/cm2以上である従来層分離培養法で分離された幹細胞(以下、「cMSC2」とする)と同様の層分離方法を基本とし、抗酸化剤が追加されたα-MEMにおいて、低密度で培養して収得されたモノクローナル間葉系幹細胞(cMSC1)を用いて、これを整理して、表10に示した。
【0137】
【0138】
cMSC2と本発明のcMSC1の細胞数、細胞の大きさを顕微鏡で確認し、その結果を
図41に示した。
図41に示すように、産生工程を異にして収得したcMSC2と本発明のcMSC1は、細胞の大きさと数が異なることを確認した。
【0139】
両細胞間の大きさの差異を検証するために、Nucleo Counter NC-250機器を用いて、細胞の大きさを確認した。より具体的には、間葉系幹細胞は、プラスチックに張り付いて育つ特徴があるので、Trypsin-EDTAを用いて、細胞をプラスチックから浮き上がらす作業を行うが、このときの細胞の写真を撮って円形であったときの細胞の状態において差異があることを確認でき、Nucleo Counter NC-250機器を用いて、細胞の大きさを確認し、その結果を
図42および表11に示した。
【0140】
【0141】
図42に示すように、円形の状態でも両細胞間の大きさの差異を確認することができ、機器を通じて細胞直径を確認したとき、cMSC2は10.2~32.6μmと細胞の大きさが多様に分布すること分かった。これに対し、cMSC1は10.2~18.3μmとcMSC2より細胞の大きさが小さく、均質であることが確認された。
【0142】
さらにフローサイトメトリー分析(FACS)を用いて、前方散乱/側方散乱光(FSC/SSC)値を同一に指定した際にも、フローサイトメトリー分析でも、細胞の大きさが差異があるかどうかを確認し、その結果を
図43に示した。
【0143】
図43に示すように、cMSC2は、細胞の大きさが大きいので、細胞が全体的に広く分布しているのに対し、cMSC1は、細胞の大きさが小さくて側散乱光(SSC)200K内に分布していることが確認された。
【0144】
前記のように、cMSC1が細胞の大きさがより小さく、均質に形成されることにより間葉系幹細胞が培養されると同時に分泌されるサイトカインの量が変化され、cMSC1の移植片対宿主病の治療効果がさらに強化されるものと予想されるところ、移植片大宿主疾患に対する治療効果の増大を確認するためのin vitroの実験を行った。活性化されたT細胞の抑制率を混合リンパ球反応(Mixed lymphocyte reaction;MLR)条件で確認し、何ら刺激を与えていない細胞の状態で免疫関連マーカー(IDO、ICOSL、TSG6、CXCL9、CXCL10、HO-1)の発現量をqPCR法で両細胞を比較し、その結果を
図44に示した。
【0145】
図44に示すように、活性化されたT細胞の抑制率を混合リンパ球反応条件で確認した結果、両細胞はいずれもT cell:MSC = 1:4の条件で95%の高い抑制率を示したが、何ら刺激を与えていない状態の免疫関連マーカー(IDO、ICOSL、TSG6、CXCL9、CXCL10、HO-1)の発現量と比較した結果、cMSC1の免疫関連マーカーの発現量が高いことが確認され、これはcMSC1が移植片対宿主病の治療剤として用いる際、既存の方法で得られた細胞よりもより良い治療効能を奏することができることを示す結果である。
【0146】
5.2.改善層分離培養法を通じて収得された幹細胞と、既存の層分離培養法を通じて収得された幹細胞のGVHD治療効果の比較
実施例5.1を通じて改善層分離培養法で収得された幹細胞が既存の層分離培養法を通じて収得された幹細胞と比較してGVHDの治療剤として、より適切な細胞の特性を示すことが確認されたので、急性GVHD動物モデルを作製し、cMSC1及びcMSC2の治療効果を動物モデルで確認した。
【0147】
急性GVHDモデル確立のために受容体であるBALB/cの免疫細胞をすべて除去するために致死量に近い7.0Gyの放射線を照射し、約24時間後にレシピエントであるC57BL/6Nから分離した骨髄細胞と脾臓細胞それぞれ5×106/100μlずつPBSに混合し、放射線が照射されたBALB/cに尾静脈を通じて200μl注入して疾患を誘発した。この後、確立されたGVHD動物モデルに改善された層分離培養法を通じて収得された幹細胞cMSC1及びcMSC2を投与した。1000cell/cm2以下で培養する改善された層分離培養法で収得された幹細胞実験群では、100 cell/cm2(cMSC1(100))及び1000cell/cm2(cMSC1(1000))に継代培養して収得される幹細胞を用い、既存の層分離培養法に対応した高密度培養cMSC2は、4000cell/cm2で継代培養して収得される幹細胞を用いた。cMSC1(100)、cMSC1(1000)、cMSC2実験群全部において、細胞生存率は、それぞれ平均99.53%、99.66%、99.8%と示され、密度調節培養細胞毒性を示さないことを確認した。細胞cGVHD動物モデルに投与される投与物質及び全投与量を下記の表12に示した。
【0148】
【0149】
GVHDの重症度程度は、皮膚に肉眼上で観察される皮膚の角質や傷、毛抜けや粗さと、猫背、下痢と腹水、姿勢、動きなどの各症状の重症度をそれぞれ点数化して確認し、生存率により分析した。
【0150】
各実験群の投与による生存率を確認した結果を
図45および表13に示した。
【0151】
【0152】
表13及び
図45に示すように、正常対照群(Naive、G1)と骨髄細胞のみ移植した群(BM、G2)では、28日間の観察期間の間、すべての個体が生存したが、GVHDを誘導し、PBSのみを投与した実験群(GVHD+PBS、G3)では7日目から生存率が80%以下までに下がり、11日目には50%、15日目には、1匹を除いて、すべての個体が死亡したことを確認した。
【0153】
その一方、培養条件とは無関係にPBS単独注入グループと比較したとき、cMSC注入群全部の生存率が劣る時点を2倍以上増大させたことを確認した(PBS:7日、cMSC注入群:16~18日)。具体的には、従来の層分離培養法で収得された幹細胞(cMSC2、G6)投与群は、18日目から生存率が減少し始めて27日目に生存率が50%まで減少し、観察期間(28日目)までは、全体の40%が生存した。改善された層分離培養法を通じて収得されたcMSC1(100)、cMSC1(1000)は、投与群両者全部18日目から生存率が減少したが、その後には生存率が維持され、28日目まで全体の70%が生存していることを確認した。これは、従来の層分離培養法に比べ約1.5倍以上の生存率の増加であり、改善された層分離培養法を通じて収得された幹細胞が、従来の層分離培養法を通じて収得された幹細胞に比べ優れたGVHDの治療効果を奏することができることを示す結果である。
【0154】
実験群によるGVHD動物モデルの臨床症状を評価した結果を
図46に示した。
【0155】
図46に示すように、幹細胞移植してから28日後、皮膚の角質及び血痕、毛の状態、腹水、下痢有無、猫背などを総合的に評価した臨床症状を観察した結果、GVHD+PBS(G3)群に比べて培養条件とは無関係にcMSC注入群では、臨床症状が改善されたことが確認された。特にGVHD+cMSC1(100)(G4)及びGVHD+cMSC1(1000)(G5)では、従来の層分離培養法で収得された高密度培養cMSC2投与群(G6)と比較して、より効果的な臨床症状の改善が確認され、こうした差異は、15日目以後から目立った。28日目の実験動物の状態によると、GVHD+cMSC1(100)(G4)及びGVHD+cMSC1(1000)(G5)実験群がPBS及びcMSC2投与群に比べて臨床症状が好転したことを肉眼でも確認することができた。
【0156】
前記のような結果を総合してみると、改善された層分離培養法を通じて収得されたcMSC1を用いれば、移植片対宿主病の生存率を高め、各種臨床症状を効果的に改善させることができることが確認された。特に、本発明に係るcMSC1は、従来のモノクローナル間葉系幹細胞と比較して増殖能及び幹細胞の特性が優秀に維持され、増殖が効果的に維持されるばかりで、既存の治療剤の製造のために産生されるモノクローナル間葉系幹細胞に比べてWCBの製造過程を省略することができ、少ない継代回数で収得が可能であり、老化が進んでいない新鮮な状態のモノクローナルであるので、従来のモノクローナル間葉系幹細胞に比べてより優れた移植片対宿主病の治療が可能であることを知ることができる。