(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】プレコート金属板用塗料組成物、プレコート金属板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 127/16 20060101AFI20231122BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20231122BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20231122BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20231122BHJP
C09D 167/00 20060101ALI20231122BHJP
B05D 7/14 20060101ALI20231122BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20231122BHJP
B05D 3/02 20060101ALI20231122BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
C09D127/16
C09D133/00
C09D5/00 D
C09D7/65
C09D167/00
B05D7/14 P
B05D3/00 F
B05D3/00 D
B05D3/02 Z
B05D7/24 303A
B05D7/24 302P
B05D7/24 302L
B05D7/24 303E
B05D7/24 302V
B05D7/24 302T
B05D7/24 301R
(21)【出願番号】P 2022005136
(22)【出願日】2022-01-17
【審査請求日】2022-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】300075348
【氏名又は名称】日本ペイント・インダストリアルコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】植木 直和
(72)【発明者】
【氏名】行木 正樹
(72)【発明者】
【氏名】奥村 豪治
(72)【発明者】
【氏名】加藤 佑紀
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大輝
【審査官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-174198(JP,A)
【文献】特開2016-3249(JP,A)
【文献】特開2016-40117(JP,A)
【文献】特開平1-167378(JP,A)
【文献】特開2020-100740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 127/16
C09D 133/00
C09D 5/00
C09D 7/65
C09D 167/00
B05D 7/14
B05D 3/00
B05D 3/02
B05D 7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)と、
アクリル樹脂(B)と、
艶消し剤粒子(C)とを含み、
前記ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)と前記艶消し剤粒子(C)との間のハンセン溶解度パラメータ(HSP)の距離(Ra)の値が、3.5以下である、プレコート金属板用塗料組成物。
【請求項2】
前記ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)と前記艶消し剤粒子(C)との間のハンセン溶解度パラメータ(HSP)の距離(Ra)の値が、3.0以下である、請求項1に記載のプレコート金属板用塗料組成物。
【請求項3】
前記ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の屈折率と前記艶消し剤粒子(C)の屈折率との差が、0.10以上である、請求項1又は2に記載のプレコート金属板用塗料組成物。
【請求項4】
前記艶消し剤粒子(C)が、アクリル樹脂粒子、ポリエステル樹脂粒子、尿素樹脂粒子及びポリウレタン樹脂粒子からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のプレコート金属板用塗料組成物。
【請求項5】
前記艶消し剤粒子(C)が、尿素樹脂粒子及びポリウレタン樹脂粒子からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のプレコート金属板用塗料組成物。
【請求項6】
前記艶消し剤粒子(C)の含有量が、前記ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の固形分とアクリル樹脂(B)の固形分との合計100質量部に対して、1質量部以上6質量部以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載のプレコート金属板用塗料組成物。
【請求項7】
前記ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の含有量が、前記ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の固形分とアクリル樹脂(B)の固形分との合計100質量部中、50質量部以上80質量部以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載のプレコート金属板用塗料組成物。
【請求項8】
前記アクリル樹脂(B)は、熱硬化性アクリル樹脂を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載のプレコート金属板用塗料組成物。
【請求項9】
前記艶消し剤粒子(C)の平均粒子径は、1μm以上10μm以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載のプレコート金属板用塗料組成物。
【請求項10】
金属板と、前記金属板の少なくとも一方の面に配置され、請求項1~9のいずれか1項に記載のプレコート金属板用塗料組成物から形成される塗膜とを有する、プレコート金属板。
【請求項11】
前記塗膜の60度鏡面光沢度が、3以上30以下である、請求項10に記載のプレコート金属板。
【請求項12】
前記金属板と前記塗膜との間に配置される下塗り塗膜を更に備え、
前記下塗り塗膜の厚さが、3μm以上10μm以下であり、
前記塗膜の厚さが、10μm以上25μm以下である、請求項10又は11に記載のプレコート金属板。
【請求項13】
前記下塗り塗膜は、ポリエステル樹脂を含む、請求項12に記載のプレコート金属板。
【請求項14】
金属板の少なくとも一方の面上に、硬化後の厚さが10μm以上25μm以下となるように、請求項1~9のいずれか1項に記載のプレコート金属板用塗料組成物を塗装して、塗装膜を得ること、及び
前記塗装膜を、前記金属板の到達温度が230℃以上270℃以下であり、乾燥及び硬化時間が20秒以上120秒以下である条件下で、乾燥及び硬化させて、塗膜を得ることを含む、プレコート金属板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プレコート金属板用塗料組成物、前記塗料組成物から形成された塗膜を有するプレコート金属板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷延鋼板やめっき鋼板等の金属基材に塗装を施した塗装金属板はプレコート金属板(「PCM」ともいう)とも呼ばれ、シャッター、雨戸、ドア、屋根及びサイディング等の建築部材、クーラー室外機等の電気機器類の外装材、並びに内装材等の各種の部材として用いられている。通常、プレコート金属板は、金属板の表面に塗装を施し、塗膜を形成させた後、様々な製品へと加工される。このため、プレコート金属板に形成される塗膜には、柔軟性と、加工の際、例えばプレコート金属板を曲げた際に割れたり剥がれたりしない等の高い加工性が要求されている。
【0003】
こうした検討の一環として、特許文献1には、合成樹脂成型品本体上に形成される艶消しベースコート層を、ベースコート用樹脂と、該ベースコート用樹脂100質量部に対して、12~90質量部のアクリル架橋粒子と、0.1~12.0質量部のアマイド系の針状フィラーとを含むベースコート用塗料より形成することが提案されている。
【0004】
特許文献2には、ポリフッ化ビニリデン樹脂と、アクリル樹脂と、ポリテトラフルオロエチレン粒子と、ワックスと、骨材と、溶剤とを含み、該アクリル樹脂が熱硬化性アクリル樹脂を含み、溶剤は、ケトン構造を有する溶剤を含み、溶剤の沸点が180℃であるプレコート金属板用塗料組成物が提案されている。
【0005】
特許文献3には、光安定剤及び艶消し剤を含むポリエステル樹脂系塗料を塗布成膜した塗膜が提案されている。
【0006】
特許文献4には、セラミック系無機骨材を1~40質量%、ポリアクリロニトリルビーズを1~30質量%、フッ素樹脂粉末を0.5~10質量%含み、無機骨材粒径と膜厚との比を0.04~1.0とし、ポリアクリロニトリルビーズの粒径と塗膜厚の比を1.0~3.0とした上塗り塗膜が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-30431号公報
【文献】特開2020-100740号公報
【文献】特開2007-283718号公報
【文献】特開平11-156999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、建材用や器物加工等のプレコート金属板の分野においても、より美粧性に優れた塗装金属板が求められており、粒子径の大きな有機樹脂微粒子を配合した上塗り塗料、無機質微粒子を大量に配合した上塗り塗料、アミン化合物を配合し塗膜表面と塗膜内部における硬化速度の差を利用して均一な艶消し外観を形成させる上塗り塗料当を塗装した艶消し塗装金属板等が市場に出ている。
【0009】
また、最近は消費者の高級化志向から、落ち着きのある低光沢(艶消し)の塗装外観が求められており、高い耐久性を有する塗膜が得られるポリフッ化ビニリデン(PVDF)を含むフッ素樹脂系塗料組成物についても同様の要求があり、塗料組成物及び塗装方法が種々検討されている。
【0010】
光沢度の調整には、例えば、前記特許文献1~4に記載のとおり、塗料組成物中に、シリカ等の無機微粒子や有機系樹脂微粒子等の艶消し剤を含む塗料組成物が種々検討されている。しかし、要求される低光沢(艶消し)の塗膜を得るには、前記艶消し剤を多量に塗料組成物に配合する必要があった。更に、フッ素樹脂系塗料組成物から得られる塗膜は、結晶構造を容易に形成しやすい性質を持つため、加工成形時に割れ(クラック)が発生し易いという問題がある。割れ(クラック)は塗膜の美観を低下させる要因にもなっている。
【0011】
そのため、割れ(クラック)が発生し難く、すなわち加工性が良好で、低光沢(艶消し)の塗膜が得られるフッ素樹脂系塗料組成物の登場が待ち望まれていた。
【0012】
本開示は、加工性及び耐久性が良好であり、低光沢(艶消し)の塗膜を形成可能なプレコート金属板用塗料組成物の提供を目的とする。また、本開示の別の目的は、かかるプレコート金属板用塗料組成物を用いるプレコート金属板及びその製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示は、以下の態様を含む。
[1]ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)と、
アクリル樹脂(B)と、
艶消し剤粒子(C)とを含み、
前記ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)と前記艶消し剤粒子(C)との間のハンセン溶解度パラメータ(HSP)の距離(Ra)の値が、3.5以下である、プレコート金属板用塗料組成物。
[2]前記ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)と前記艶消し剤粒子(C)との間のハンセン溶解度パラメータ(HSP)の距離(Ra)の値が、3.0以下である、[1]に記載のプレコート金属板用塗料組成物。
[3]前記ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の屈折率と前記艶消し剤粒子(C)の屈折率との差が、0.10以上である、[1]又は[2]に記載のプレコート金属板用塗料組成物。
[4]前記艶消し剤粒子(C)が、アクリル樹脂粒子、ポリエステル樹脂粒子、尿素樹脂粒子及びポリウレタン樹脂粒子からなる群より選択される少なくとも1種を含む、[1]~[3]のいずれか1つに記載のプレコート金属板用塗料組成物。
[5]前記艶消し剤粒子(C)が、尿素樹脂粒子及びポリウレタン樹脂粒子からなる群より選択される少なくとも1種を含む、[1]~[4]のいずれか1つに記載のプレコート金属板用塗料組成物。
[6]前記艶消し剤粒子(C)の含有量が、前記ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の固形分とアクリル樹脂(B)の固形分との合計100質量部に対して、1質量部以上6質量部以下である、[1]~[5]のいずれか1つに記載のプレコート金属板用塗料組成物。
[7]前記ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の含有量が、前記ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の固形分とアクリル樹脂(B)の固形分との合計100質量部中、50質量部以上80質量部以下である、[1]~[6]のいずれか1つに記載のプレコート金属板用塗料組成物。
[8]前記アクリル樹脂(B)は、熱硬化性アクリル樹脂を含む、[1]~[7]のいずれか1つに記載のプレコート金属板用塗料組成物。
[9]前記艶消し剤粒子(C)の平均粒子径は、1μm以上10μm以下である、[1]~[8]のいずれか1つに記載のプレコート金属板用塗料組成物。
[10]金属板と、前記金属板の少なくとも一方の面に配置され、[1]~[9]のいずれか1つに記載のプレコート金属板用塗料組成物から形成される塗膜とを有する、プレコート金属板。
[11]前記塗膜の60度鏡面光沢度が、3以上30以下である、[10]に記載のプレコート金属板。
[12]前記金属板と前記塗膜との間に配置される下塗り塗膜を更に備え、
前記下塗り塗膜の厚さが、3μm以上10μm以下であり、
前記塗膜の厚さが、10μm以上25μm以下である、[10]又は[11]に記載のプレコート金属板。
[13]前記下塗り塗膜は、ポリエステル樹脂を含む、[12]に記載のプレコート金属板。
[14]金属板の少なくとも一方の面上に、硬化後の厚さが10μm以上25μm以下となるように、[1]~[9]のいずれか1つに記載のプレコート金属板用塗料組成物を塗装して、塗装膜を得ること、及び
前記塗装膜を、前記金属板の到達温度が230℃以上270℃以下であり、乾燥及び硬化時間が20秒以上120秒以下である条件下で、乾燥及び硬化させて、塗膜を得ることを含む、プレコート金属板の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本開示のプレコート金属板用塗料組成物は、加工性及び耐久性が良好であり、低光沢(艶消し性)の塗膜を形成可能である。また、本開示の別の目的は、かかるプレコート金属板用塗料組成物を用いるプレコート金属板及びその製造方法を提供可能である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示のプレコート金属板用塗料組成物(以下、単に「塗料組成物」ともいう)は、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)と、アクリル樹脂(B)と、艶消し剤粒子(C)とを含み、前記ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)と前記艶消し剤粒子(C)との間の相溶性を表すハンセン溶解度パラメータ(HSP)の距離(Ra)の値が、3.5以下である。本開示のプレコート金属板用塗料組成物によれば、加工性及び耐久性が良好であり、低光沢(艶消し性)の塗膜を形成可能である。特定の理論に拘束されないが、ポリフッ化ビニリデン樹脂とアクリル樹脂と艶消し剤粒子とを含む組成物において、得られる塗膜の割れや剥がれの抑制に寄与するのは、艶消し剤粒子とポリフッ化ビニリデン樹脂の界面の親和性であることが本発明者らの検討により見出された。更に、ポリフッ化ビニリデン樹脂と艶消し剤粒子の相溶性の指標としてハンセン溶解度パラメータ(HSP)に着目し、ポリフッ化ビニリデン樹脂と艶消し剤粒子との間のハンセン溶解度パラメータの距離(Ra)を所定値以下とすることで、艶消し剤粒子による低光沢の効果を発揮しつつ、得られる塗膜の割れに効果的に抑制されることを見出し、本発明を完成した。
【0016】
本開示の塗料組成物は、塗膜形成樹脂として、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)と、アクリル樹脂(B)とを含む。
【0017】
[(A)ポリフッ化ビニリデン樹脂]
ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)は、フッ化ビニリデンの単独重合体又は主成分であるフッ化ビニリデンと他のモノマーとの共重合体であってよい。ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)を含むことで、得られる塗膜に耐候性及び耐久性を付与できる。
【0018】
ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)は、フッ化ビニリデンを含むモノマーの混合物を重合することにより得られる。かかる重合は、例えば、高温高圧下でラジカル重合開始剤等を用いて実施してよい。前記他のモノマーは、エチレン性炭素-炭素二重結合を有するモノマーであれば特に限定されない。前記他のモノマーは、フッ素原子を有するモノマーであってよく、かかるフッ素原子を有するモノマーとしては、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン等が挙げられる。他のモノマーがフッ素原子を含有していると、共重合体の耐候性がより向上できる。
【0019】
ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)は、カルボキシル基、スルホン酸基等の官能基を有していてもよい。
【0020】
ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)は、フッ化ビニリデンの単独重合体を含む。ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)がフッ化ビニリデンの単独重合体を含むことにより、良好な耐候性と塗料組成物の安定性(例えば、貯蔵安定性)をバランスよく備え得る。ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)におけるフッ化ビニリデンの単独重合体の含有率は、例えば90質量%以上100質量%以下、好ましくは95質量%以上100質量%以下であってよい。
【0021】
ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の重量平均分子量は、100,000以上700,000以下、例えば、150,000以上500,000以下、150,000以上400,000以下である。
なお、本開示において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法による測定値をポリスチレン標準で換算した値である。
【0022】
前記ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の融点は、140℃以上190℃以下であり、好ましくは150℃以上180℃以下である。
【0023】
ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)としては、市販のものを使用してもよい。例えば、HYLAR5000(ソルベイ社製)、Kynar500(カイナー500)(アルケマ社製)等を例示できる。
【0024】
ある態様において、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の固形分の含有量は、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)とアクリル樹脂(B)の固形分との合計100質量部中、例えば50質量部以上80質量部以下であり、好ましくは55質量部超80質量部以下である。
本開示の塗料組成物は、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)を前記範囲で含むことにより、耐候性及び耐久性を十分に確保できる。
以下、含有量の記載において、「樹脂の含有量」という場合、「樹脂の固形分の含有量」を意味する。例えば、「ポリフッ化ビニリデン樹脂の含有量」は、「ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の固形分の含有量」を意味し、「アクリル樹脂(B)の含有量」は、「アクリル樹脂(B)の固形分の含有量」を意味する。熱硬化性アクリル樹脂、熱可塑性アクリル樹脂についても同様である。
【0025】
[(B)アクリル樹脂]
本開示の塗料組成物は、塗膜形成樹脂としてアクリル樹脂(B)を含むことにより、下塗り塗膜との密着性や成膜性、顔料分散性を向上させる効果がある。
【0026】
更に、前記アクリル樹脂(B)は、少なくとも1種の熱硬化性アクリル樹脂を含む。本開示において、熱硬化性アクリル樹脂は、熱(例えば140℃以上)を加えることにより、重合・硬化反応が起こり得るアクリル系モノマーの共重合体を含む樹脂を意味する。ある態様において、熱硬化性アクリル樹脂は、160℃以上の温度、例えば200℃以上の熱を加えることにより、重合・硬化反応により硬化し得る。前記アクリル樹脂(B)が熱硬化性アクリル樹脂を含むことで、優れた加工性を維持しつつ、耐候性、耐水性、耐薬品性等を付与できる。また、経時による加工性の低下、及び加工時に発生する熱による加工性の低下を抑制することができる。
【0027】
例えば、本開示に係るアクリル樹脂(B)が、熱硬化性アクリル樹脂を含む場合、熱硬化性アクリル樹脂の含有量は、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)とアクリル樹脂(B)の合計100質量部に対して、例えば20質量部以上46質量部以下、好ましくは25質量部以上39.9質量部以下で、より好ましくは28質量部以上39.9質量部以下である。
【0028】
ある態様において、アクリル樹脂(B)は、2種以上の熱硬化性アクリル樹脂を含んでもよい。ある態様において、アクリル樹脂(B)が2種以上のアクリル樹脂を含む態様において、少なくとも1種は熱硬化性アクリル樹脂であり、他は熱可塑性アクリル樹脂であってもよい。本開示において、熱可塑性アクリル樹脂は、熱硬化性アクリル樹脂以外のアクリル樹脂を意味する。通常、熱可塑性アクリル樹脂は、ガラス転移温度又は融点に達すると軟化する。
【0029】
アクリル樹脂(B)が、熱硬化性アクリル樹脂と熱可塑性アクリル樹脂とを含む場合、熱可塑性アクリル樹脂の含有量は、熱硬化性アクリル樹脂の固形分と熱可塑性アクリル樹脂の固形分との合計100質量部に対して、例えば20質量部以上99質量部以下、好ましくは30質量部以上99質量部以下であってよい。熱硬化性アクリル樹脂と熱可塑性アクリル樹脂の割合が前記範囲内であることで、得られる塗膜において、耐候性、耐水性、耐薬品性等を付与でき、得られる塗膜の加工性を更に向上させる効果がある。
【0030】
ある態様において、アクリル樹脂(B)が2種以上のアクリル樹脂を含む場合、少なくとも1種の熱硬化性アクリル樹脂と、少なくとも1種の熱可塑性アクリル樹脂を含んでいてよい。熱硬化性アクリル樹脂と、熱可塑性アクリル樹脂とを含むことで、得られる塗膜において、耐候性、耐水性、耐薬品性等を付与でき、得られる塗膜の加工性を更に向上させる効果がある。更に、塗料組成物と下塗り塗膜との密着性が良好になり得る。その結果、プレコート金属板が既知の下塗り塗膜を有する態様であっても、本開示の塗料組成物は良好な密着性を有し得る。
【0031】
本開示の塗料組成物は、塗膜形成樹脂の構造に応じて、架橋剤を含んでいてもよい。また、前記熱硬化性アクリル樹脂には、前記温度以上で、樹脂単独でゲル化が進行する樹脂も含まれる。
【0032】
ある態様において、熱硬化性アクリル樹脂は、N-ヒドロキシアクリルアミド、N-アルコキシアクリルアミド、N-アルキロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のモノマー成分を共重合させた自己架橋型のアクリル樹脂であってもよく、ヒドロキシル基等の置換基を有するアクリル系モノマーと、メラミン等の架橋剤とを併用することにより架橋する硬化剤併用型のアクリル樹脂であってよい。
【0033】
例えば、アクリル樹脂(B)は、前記モノマーの他に、水酸基含有モノマー(b-1)及び他のモノマー(b-2)を共重合することによって調製できる。
【0034】
水酸基含有モノマー(b-1)として、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3-ジヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、これら水酸基含有の(メタ)アクリル酸エステルとε-カプロラクトンとの反応物及びポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化物等が挙げられる。更に、前記多価アルコールと、(メタ)アクリル酸とのモノエステル化物にε-カプロラクトンを開環重合した反応物を用いることもできる。これらの水酸基含有モノマー(b-1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、本開示において、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸又はメタクリル酸を意味する。
【0035】
他のモノマー(b-2)として、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等の、カルボキシル基含有モノマー及びマレイン酸エチル、マレイン酸ブチル、イタコン酸エチル、イタコン酸ブチル等のジカルボン酸モノエステルモノマー;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n、i又はt-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー;(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸トリシクロデカニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル等の脂環基含有モノマー;(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ブチルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸アミノアルキルエステルモノマー;アミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノメチル(メタ)アクリルアミド、メチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のアミノアルキル(メタ)アクリルアミドモノマー;アクリルアミド、メタクリルアミド等のその他のN-置換(メタ)アクリルアミド系モノマー;(メタ)アクリロニトリル、α-クロルアクリロニトリル等のシアン化ビニル系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の飽和脂肪族カルボン酸ビニルエステルモノマー;スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン系モノマー;ジビニルベンゼン、(メタ)アクリル酸エチレングリコール等の2官能モノマー等を挙げることができる。これらの他のモノマー(b-2)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
前記他のモノマー(b-2)のうち、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等が好ましく用いられる。
【0036】
水酸基含有モノマー(b-1)及び他のモノマー(b-2)の重合方法として、当業者に通常用いられる方法を用いることができる。重合方法として、例えば、ラジカル重合開始剤を用いた、塊状重合法、溶液重合法、塊状重合後に懸濁重合を行う塊状-懸濁二段重合法等を用いることができる。これらの中でも、溶液重合法が特に好ましく用いることができる。溶液重合法として、例えば、前記モノマー混合物を、ラジカル重合開始剤の存在下で、例えば80~200℃の温度でかくはんしながら加熱する方法等が挙げられる。
【0037】
前記アクリル樹脂(B)の数平均分子量は、3,000~150,000であってよく、ある態様において、3,000~50,000であり、例えば3,500~30,000であり、別の態様において3,500~20,000である。アクリル樹脂(B)の数平均分子量が前記の範囲内にあることにより、良好な塗膜硬度と加工性を両立させることができ、更に、耐候性に優れた塗膜を形成できる。また、アクリル樹脂(B)の数平均分子量が前記の範囲内にあることで、塗料組成物の乾燥性が良好となる。
なお、本開示において、数平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)によって測定したポリスチレン換算による値である。
また、アクリル樹脂(B)が、複数種のアクリル樹脂を含む場合、前記アクリル樹脂(B)の数平均分子量は、これらの混合物の数平均分子量を示す。
【0038】
アクリル樹脂(B)の水酸基価は、例えば0mgKOH/g以上250mgKOH/g以下であり、好ましくは0mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であり、より好ましくは0mgKOH/g以上70mgKOH/g以下である。
水酸基価が前記の範囲内にあることにより、熱硬化性アクリル樹脂としての良好な反応性、及び着色顔料の良好な分散性、下塗り塗膜との良好な付着性を確保することができる。
なお、本開示において、樹脂の水酸基価は、固形分換算値を示し、JIS K 0070に準拠した方法により測定された値である。
また、アクリル樹脂(B)が、複数種のアクリル樹脂を含む場合、水酸基価は、アクリル樹脂(B)全体としての水酸基価が前記範囲に含まれることが好ましい。別の態様において、アクリル樹脂(B)に含まれる各アクリル樹脂の水酸基価の加重平均値が前記範囲に含まれ得る。
【0039】
前記アクリル樹脂(B)のガラス転移温度(TgB)は、例えば10℃以上120℃以下、好ましくは20℃以上80℃以下である。アクリル樹脂(B)のガラス転移温度がこのような範囲にあることで、塗膜の硬度、耐擦り傷性、耐水性、耐薬品性、耐食性を確保しつつ、優れた加工性を付与できる。また、塗膜を良好に乾燥させることができる。
なお、本開示において、ガラス転移温度は、示差熱走査熱量計によって測定した値であり、例えば、示差走査熱量計DSC-6100(セイコーインスツルメンツ社製)等により測定できる。
【0040】
アクリル樹脂(B)として、市販されるアクリル樹脂を用いてもよい。このようなアクリル樹脂の具体例として、アクリディックシリーズ(DIC社製)、ダイヤナールシリーズ(三菱ケミカル社製)、ヒタロイドシリーズ(日立化成工業社製)、PARALOIDシリーズ(ダウ・ケミカル社製)等が挙げられる。これらを単独で用いてもよく、2種以上を混合してもよい。
【0041】
塗膜形成樹脂中、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)及びアクリル樹脂(B)の合計の含有率は、好ましくは90質量%以上100質量%以下、より好ましくは95質量%以上100質量%以下である。
【0042】
[その他の塗膜形成樹脂]
本開示塗料組成物は、塗膜形成樹脂として、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)及びアクリル樹脂(B)の他に、塗料組成物及び得られる塗膜の性能に影響を及ぼさない範囲で他の樹脂を含んでいてよい。かかる他の樹脂としては、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリスチレン樹脂、メラミン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。
【0043】
[(C)艶消し剤粒子]
本開示の塗料組成物は、艶消し剤粒子(C)を含む。塗料組成物は、艶消し剤粒子(C)を含むことにより、加工性に優れた艶消し塗膜を形成できる。
【0044】
前記艶消し剤粒子(C)は、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)と艶消し剤粒子(C)の間のハンセン溶解度パラメーター(HSP)の距離(Ra)値が、3.5以下であり、好ましくは3.0以下となる粒子である。前記Ra値がこのような範囲にあることで、得られる塗膜の加工性が向上するという利点がある。
【0045】
また、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)と艶消し剤粒子(C)との屈折率差が0.1以上であることが好ましい。前記屈折率差がこのような範囲内にあることで、光沢調整効果及び加工性の良好な塗膜が得られるという利点がある。
【0046】
艶消し剤粒子(C)は、前記ハンセン溶解度パラメータ(HSP)の距離(Ra)値及び屈折率差を満たしていれば特に制限はないが、樹脂粒子を含む。かかる樹脂粒子としては、例えば、ポリウレタン樹脂粒子、尿素樹脂粒子、ポリエステル樹脂粒子、ビニルブチラール樹脂粒子、スチレン樹脂粒子及びアクリル樹脂粒子からなる群より選択される少なくとも1種を含み、好ましくは、ポリウレタン樹脂粒子、尿素樹脂粒子、ポリエステル樹脂粒子及びアクリル樹脂粒子からなる群より選択される少なくとも1種を含み、より好ましくは、ポリウレタン樹脂粒子及び尿素樹脂粒子からなる群より選択される少なくとも1種を含む。艶消し剤粒子(C)が、このような粒子を含むことで、光沢調整効果及び加工性の良好な塗膜が得られるという利点がある。
【0047】
艶消し剤粒子(C)の平均粒子径は、1μm以上10μm以下であり、2μm以上8μm以下である。平均粒子径が前記範囲内にあることで、得られる塗料組成物の貯蔵安定性及び塗装作業性を両立すること、且つ、得られる塗膜の外観及び加工性等の諸物性が良好になるという利点がある。
本開示において、粒子の平均粒子径は、マイクロトラック粒度分布測定装置(商品名「MT3300」、日機装社製)を使用し、レーザー回折散乱法により測定された体積基準粒度分布のメジアン径(D50)の値である。
【0048】
艶消し剤粒子(C)の固形分の含有量は、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)とアクリル樹脂(B)との合計100質量部に対して、例えば0.1質量部以上10.0質量部以下、好ましくは0.5質量部以上8質量部以下である。艶消し剤粒子(C)の含有量が前記範囲内にあることで、低光沢で加工性の良好な塗膜が得られるという利点がある。
【0049】
(尿素樹脂粒子)
尿素樹脂粒子は、尿素樹脂を含み、かかる尿素樹脂は、尿素とアルデヒドとの反応物であり得る。尿素樹脂粒子は、粉末状であってよく、尿素樹脂を粉砕処理することで製造され得る。尿素樹脂粒子の平均粒子径は、例えば1~10μm、好ましくは2~8μmである。
【0050】
アルデヒド成分としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、クロトンアルデヒド、ベンズアルデヒド等が使用可能である。この中でもホルムアルデヒドを用いた場合、縮合反応が進み易く好都合である。尿素樹脂粒子の市販品としては、パーゴパックM3、パーゴパックM4、パーゴパックM5(以上、ロンザジャパン社製)、SOOFINE JJ POWDER(杭州精彩化工社製)等が挙げられる。
【0051】
(ウレタン樹脂粒子)
ウレタン樹脂粒子は、ウレタン樹脂を含み、かかるウレタン樹脂は、ポリオールと、ポリイソシアネートと、必要に応じて用いる鎖延長剤及び/又は末端停止剤との反応物であり得る。
【0052】
前記ポリオールとしては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、グリセリンポリカプロラクトントリオール等のポリマーポリオール;低分子量ポリオールが挙げられる。かかるポリマーポリオールの数平均分子量は、例えば300~5,000であってよく、更に500~3,000であってよい。また、前記ポリマーポリオールに含まれる水酸基の数は、2~3であってよい。
【0053】
前記ポリエーテルポリオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられ、前記ポリエステルポリオールとしては、ポリブチレンアジペート、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリネオペンチルアジペート等が挙げられ、前記ポリカーボネートポリオールとしては、ポリカプロラクトンジオール、ポリ-3-メチルバレロラクトンジオール、ポリヘキサメチレンカーボネート等が挙げられる。
【0054】
前記低分子量ポリオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、シクロヘキサンジオール、ヘキサンジオール、ジシクロヘキサンジオール、ジシクロヘキサンジメタノール、水素添加ビスフェノ-ルA、シクロヘキサントリオール等の脂肪族ポリオール;ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD等のビスフェノール化合物、かかるビスフェノール化合物のエチレンオキシド付加物又はプロピレンオキシド付加物等の芳香族ポリオール;トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等のトリオール;ジメチロール酢酸、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロール酪酸等のカルボキシル基を有するポリオール等が挙げられる。
【0055】
前記鎖延長剤としては、前記低分子量ポリオール;エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、シクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタンジアミン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ヒドラジン、トリレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等のポリアミン化合物等が挙げられる。
【0056】
前記末端停止剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アンモニア、ジブチルアミン、アミノシラン等が挙げられる。
【0057】
(ポリエステル樹脂粒子)
前記ポリエステル樹脂粒子は、ポリエステル樹脂を含み、かかるポリエステル樹脂としては、ポリオールとポリカルボン酸との反応物が挙げられる。前記ポリオールとしては、前記低分子量ポリオールとして例示した化合物が挙げられる。前記ポリカルボン酸としては、(無水)コハク酸、(無水)フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、アジピン酸、セバチン酸、(無水)ヘキサヒドロフタル酸、(無水)トリメリット酸、(無水)ピロメリット酸等が挙げられる。前記ポリエステル樹脂粒子の酸価は、100mgKOH/g以下であってよい。
【0058】
(ポリビニルブチラール樹脂粒子)
前記ビニルブチラール樹脂粒子は、ポリビニルブチラール樹脂を含み、かかるポリビニルブチラール樹脂は、ポリビニルアルコールとブチルアルデヒドとの反応物が挙げられる。ポリビニルアルコールとブチルアルデヒドとの反応は、酸性条件下で行ってよい。
【0059】
(スチレン樹脂粒子及び/又はアクリル樹脂粒子)
前記スチレン樹脂粒子及び/又はアクリル樹脂粒子は、スチレン樹脂及び/又はアクリル樹脂を含み、かかるスチレン樹脂及び/又はアクリル樹脂は、エチレン性不飽和単量体の重合体であってよい。エチレン性不飽和単量体としては、前記水酸基含有モノマー(b-1)として例示した単量体;他のモノマー(b-2)として例示した単量体が挙げられる。
【0060】
前記エチレン性不飽和単量体としては、1分子中に2以上のエチレン性不飽和結合を有する単量体を使用してもよい。前記1分子中に2以上のエチレン性不飽和結合を有する単量体としては特に限定されず、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、グリセロールアリロキシジ(メタ)アクリレート、1,1,1-トリスヒドロキシメチルエタンジ(メタ)アクリレート、1,1,1-トリスヒドロキシメチルエタントリ(メタ)アクリレート、1,1-トリスヒドロキシメチルプロパンジ(メタ)アクリレート、1,1,1-トリスヒドロキシメチルプロパントリ(メタ)アクリレート等の多価アルコールの不飽和モノカルボン酸エステル;トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルトリメリテート、ジアリルテレフタレート、ジアリルフタレート等の多塩基酸の不飽和アルコールエステル;ジビニルベンゼン等の2個以上のビニル基で置換された芳香族単量体等が挙げられる。
【0061】
本開示において、スチレン系モノマーを用いて得られる樹脂粒子をスチレン樹脂粒子とし、スチレン系モノマーを用いずに得られる樹脂粒子をアクリル樹脂粒子とする。
【0062】
前記艶消し剤粒子(C)中、樹脂粒子の合計の含有率は、好ましくは90質量%以上100質量%以下、より好ましくは95質量%以上100質量%以下である。
【0063】
本開示において、前記ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)と艶消し剤粒子(C)の間のハンセン溶解度パラメータ(HSP)の距離(Ra)は、3.5以下であり、好ましくは0以上3.0以下であり、0.5以上3.0以下であってもよい。ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)と艶消し剤粒子(C)の間のハンセン溶解度パラメータが前記範囲にあることで、得られる塗膜の加工性が良好となる。
なお、本開示において、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)及び距離(Ra)の単位は、(MPa)0.5である。
【0064】
ハンセン溶解度パラメータ(HSP)は、ある物質(X)に対し、他のある物質(Y)がどの程度親和性(相溶性)を有するかを表す指標である。詳細には、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)は、ヒルデブランド(Hildebrand)によって導入された溶解度パラメータを、ハンセン(Hansen)が分散項δd、極性項δp、水素結合項δhの3成分に分割し、3次元空間のベクトルを用いて数値化したものである。分散項δdは、分散力のよる効果を示し、極性項δpは、双極子間力による効果を示し、水素結合項δhは、水素結合力の効果を示す。3次元空間におけるある物質(X)のベクトルと、他のある物質(Y)ベクトルの座標間の距離(HSP距離(Ra))が近いほど、互いに溶解しやすい(相溶性が高い)ことを示す。
HSP距離(Ra)は下記式によって定義される。
Ra=[4(δdX-δdY)2+(δpX-δpY)2+(δhX-δhY)2]1/2
δdi:物質iの分散力項
δpi:物質iの極性項
δhi:物質iの水素結合項
【0065】
ハンセン溶解度パラメータの定義及び計算方法については、Charles M.Hansen著、「Hansen Solubility Parameters:A Users Handbook(CRC Press,2007)」に記載されている。
【0066】
本開示において、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)及び艶消し剤粒子(C)のハンセン溶解度パラメータは、コンピューターソフトウエア(Hansen Solubility Parameters in Practice(HSPiP)バージョン5.3.05)を用いて算出できる。
具体的には、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)又は艶消し剤粒子(C)の0.2gに対して、表1記載の各種有機溶剤20mLを添加する。30分間静置したのち分散又は溶解しているものを良溶媒、沈殿又は不溶のものを貧溶媒と判断した。親和性評価結果より、前記HSPiP(バージョン5.3.05)を用いてHansen溶解球を作成し、Hansen溶解度パラメータを算出した。
【0067】
【0068】
本開示において、前記ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の屈折率と艶消し剤粒子(C)の屈折率の差は、好ましくは0.1以上であり、更に0.1以上0.3以下であってよい。前記範囲内にあることで、(C)の少量の添加で高い艶消し効果が得られ、且つ得られる塗膜の加工性が良好となる。
【0069】
ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)及び艶消し剤粒子(C)の屈折率は、JIS K 7142「プラスチックの屈折率測定方法」のうち、B法(顕微鏡を用いる液浸法(ベッケ線法))に従って測定した。
すなわち、スライドガラス上にポリフッ化ビニリデン樹脂又は艶消し剤粒子を載せ、屈折液(CARGILLE社製:カーギル標準屈折液を屈折率差0.01刻みで複数準備)を滴下する。そして、艶消し剤粒子と屈折液を混合した後、下から高圧ナトリウムランプNX35(岩崎電気社製、中心波長:589nm)の光を照射しながら、上部から光学顕微鏡によりポリフッ化ビニリデン樹脂又は艶消し剤粒子の輪郭を観察した。そして、輪郭が見えない場合を、屈折液とポリフッ化ビニリデン樹脂又は艶消し剤粒子の屈折率が等しいと判断し、その屈折液の屈折率をポリフッ化ビニリデン樹脂又は艶消し剤粒子の屈折率とした。測定温度は25℃とした。
【0070】
前記艶消し剤粒子(C)は、得られる塗膜の加工性を妨げない範囲で、シリカ粒子等の無機粒子を含んでいてもよい。
【0071】
(その他の成分)
本開示の塗料組成物において、固形分の含有率は、例えば20質量%以上80質量%以下、更に25質量%以上75質量%以下、とりわけ30質量%以上70質量%以下であってよい。本開示において、固形分は、塗料組成物のうち、溶剤以外の成分の合計を意味する。
【0072】
[溶剤]
本開示の塗料組成物は、溶媒を含有してもよい。溶媒としては、例えば、水;エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコール系有機溶剤;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、イソブタノール、ベンジルアルコール等のアルコール系有機溶剤;ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系有機溶剤;3-メトキシブチルアセテート、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等のエステル系有機溶剤;メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系有機溶剤;N-メチル-2-ピロリドン、トルエン、ペンタン、iso-ペンタン、ヘキサン、iso-ヘキサン、シクロヘキサン、ソルベントナフサ、ミネラルスピリット、T-SOL 100、T-SOL 150(何れも芳香族炭化水素系溶剤、ENEOS社製)等を挙げることができる。これらの中でも、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系有機溶剤。これら溶媒は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0073】
[その他成分]
本開示の塗料組成物は、成分(A)~(C)に加えて、目的、用途に応じて着色顔料、体質顔料、その他の添加剤等を必要に応じて配合することができる。ただし、その他の添加剤等は、本開示の塗料組成物が有する諸物性を損なわない態様で添加できる。
【0074】
その他の添加剤としては、例えば、p-トルエンスルホン酸、オクトエ酸錫、ジブチル錫ジラウレート、2-エチルヘキソエート鉛等の硬化触媒、炭酸カルシウム、カオリン、クレー、酸化チタン、タルク、硫酸バリウム、マイカ、弁柄、マンガンブルー、カーボンブラック、アルミニウム粉、パールマイカ等の顔料、その他、ワックス、消泡剤、レベリング剤、増粘剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、ハジキ防止剤、皮張り防止剤等が挙げられる。
【0075】
本開示の塗料組成物から形成される塗膜の60度鏡面光沢度は、例えば3以上30以下であり、更に5以上20以下であってよい。
本開示において、60度鏡面光沢度は、JIS K 5600-4-7に準拠して測定できる。
【0076】
(塗料組成物の調製方法)
本開示に係る塗料組成物を調製する方法は、特に限定されない。例えば、サンドグラインドミル、ボールミル、ブレンダー、ペイントシェーカー又はディスパー等の混合機、分散機、混練機等を選択して使用し、各成分を混合することにより、調製することができる。
【0077】
(被塗物)
本開示のプレコート金属板用塗料組成物の塗装の対象となる被塗物は、例えば、溶融法又は電解法等により製造される亜鉛めっき鋼板、亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼板、アルミニウム合金めっき鋼板、溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板、ステンレス鋼板、冷延鋼板等が挙げられる。また、これら鋼板又はめっき鋼板以外に、アルミニウム板(アルミニウム合金板を含む)等の金属板も塗装対象とすることができる。
【0078】
本開示に係る金属板は、表面処理されていることが好ましい。具体的には、本開示の金属板は、アルカリ脱脂処理、湯洗処理、水洗処理等の前処理が施された後に、化成処理が施されていることが好ましい。化成処理は公知の方法で行ってよく、その例にはクロメート処理、リン酸亜鉛処理等の非クロメート処理等が含まれる。
【0079】
ある態様において、プレコート金属板は、金属板と、前記金属板の少なくとも一方の面上に配置され、本開示に係るプレコート金属板用塗料組成物から形成される塗膜とを有する。
【0080】
一態様において、プレコート金属板用塗料組成物から形成される塗膜の膜厚は、例えば10μm以上25μm以下、更に15μm以上23μm以下であってよい。プレコート金属板用塗料組成物から形成された塗膜の膜厚が、このような範囲内であることにより、プレコート金属板の加工性が更に良好になる。
【0081】
前記塗膜の60度鏡面光沢度は、例えば3以上30以下であり、更に5以上20以下であってよい。
【0082】
プレコート金属板が、一方の面に本開示に係るプレコート金属板用塗料組成物から形成された塗膜を有する場合、他方の面は、既知の塗料組成物から形成される塗膜であってもよい。
【0083】
例えば、他方の面は、エポキシ樹脂及び/又はポリエステル樹脂を含む塗料組成物等、公知の塗料組成物から形成された塗膜を有してもよい。
【0084】
プレコート金属板は、金属板と、本開示の塗料組成物から形成される塗膜との間に配置される下塗り塗膜を更に有してもよい。下塗り塗膜を有することで、本開示の塗料組成物から形成された塗膜の密着性、耐食性を高めることができる。また、本開示の塗料組成物から形成された塗膜の性質をより強固に補うことができるので、プレコート金属板の耐久性を高めることができる。
【0085】
一態様において、下塗り塗膜は、ポリエステル樹脂又はウレタン樹脂を含むことが好ましい。また、ある態様において、下塗り塗膜の膜厚は、3μm以上15μm以下の膜厚であり、例えば5μm以上10μm以下である。
【0086】
(塗膜形成方法)
本開示の塗料組成物の塗装は、被塗装金属板等の表面に塗装下地処理としてリン酸塩処理、クロメート処理等の化成処理を施し、その上に塗料組成物を塗装することが好ましい。このように化成処理を施した金属板面上に、本開示の塗料組成物を塗装することにより、塗膜の金属板面に対する密着性が向上するとともに耐食性も向上する。また、化成処理を施した金属板面に下塗り塗膜(プライマー塗膜)を形成し、その上に塗装することもできる。
【0087】
塗料組成物の金属板表面への塗装方法は特に限定しないが、ロールコーター、エアレススプレー、静電スプレー、カーテンフローコーター等、従来公知の方法を採用することができ、好ましくはロールコーター、カーテンフローコーターで塗装するのがよい。塗装後、熱風加熱、赤外線加熱、誘導加熱等の加熱手段により塗膜を焼き付け、樹脂を架橋させて硬化塗膜を得る。
【0088】
本開示のプレコート金属板の製造方法は、金属板の少なくとも一方の面上に、硬化後の厚さが10μm以上25μm以下となるように、本開示に係るプレコート金属板用塗料組成物を塗装して、塗装膜を得ること、及び前記塗装膜を、前記金属板の到達温度が230℃以上270℃以下であり、乾燥及び硬化時間が20秒以上120秒以下である条件下で、乾燥及び硬化させて、塗膜を得ることを含む。
【0089】
ここで、面上とは、重力方向に規定される鉛直情報のような絶対的な一方向ではなく、当該主面を境界とする基板の外側と内側とのうち、外側に向かう方向を指す。したがって、「主面上」とは主面の無機によって定まる相対的な方向である。また、ある要素に対して「上」には、当該要素と接する直上の位置(on)だけでなく、当該要素と離れた上方、すなわち当該要素上の他の物体を介した上側の位置や間隔を空けた上側の位置(above)も含む。
【0090】
ある態様において、塗料組成物を塗装後、素材到達最高温度が230℃以上260℃以下の温度となる条件で塗装膜を乾燥及び硬化(焼付け)できる。
【0091】
焼付処理後、常温まで冷却してプレコート金属板を得ることができる。焼付処理後の冷却は、水で板温を常温まで急冷することが好ましい。
【0092】
このようにして形成されたプレコート金属板の硬化塗膜の膜厚は、例えば、10μm以上25μm以下であり、ある態様において、膜厚は、12μm以上23μm以下である。
プレコート金属板用塗料組成物から形成された塗膜の膜厚が、このような範囲内であることにより、更に優れた加工性、美観及び耐候性を有する塗膜が備えられた、プレコート金属板を得ることができる。
【0093】
本開示のプレコート金属板用塗料組成物は、2コート・2ベーク方式又は3コート・3ベーク方式のトップコートとしての使用が特に好ましい。3コート・3ベーク方式で使用する場合は、本開示のプレコート金属板用塗料組成物による塗膜とプライマー塗膜(下塗り塗膜)との間に、通常の3コート・3ベークで使用される中塗り塗膜を設ける。
【実施例】
【0094】
以下の実施例により本開示を更に具体的に説明するが、本開示はこれらに限定されない。
【0095】
塗料組成物の調製に用いた各成分は、以下のとおりである。また、アクリル樹脂(B)については、その製造方法を説明する。
【0096】
(1)使用する材料
ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)
(A-1)Kynar500(アルケマ社製);ハンセン溶解度パラメータ:δd=17.7、δp=13.0、δh=9.3、屈折率:1.42;固形分濃度:100質量%
【0097】
(製造例B-1)
アクリル樹脂(B-1)(熱硬化性アクリル樹脂)の合成
還流冷却器、滴下ロート、かくはん機、温度計、コンデンサー、窒素ガス導入口を備えた反応容器に、イソホロン667.5質量部を仕込み、窒素雰囲気下で90℃まで昇温した。これに、メタクリル酸7.65質量部、メタクリル酸メチル310.8質量部、アクリル酸n-ブチル168.9質量部、ジメタクリル酸エチレングリコール1.0質量部及びN-メトキシメチルアクリルアミド11.6質量部の混合溶液、並びに開始剤として、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル1.5質量部及びイソホロン47.5質量部の混合溶液を、滴下ロートを通じて各々同時に3時間で等速滴下した。滴下終了後、90℃を保持したまま30分かくはんを続けた後、反応容器を120℃まで昇温した。次に、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル5質量部及びイソホロン35質量部の混合溶液を、30分で等速滴下した。滴下終了後、120℃を保持したまま2時間かくはんし、アクリル樹脂(B-1)(固形分濃度:40質量%、固形分酸価:10mgKOH/g、固形分水酸基価:0mgKOH/g、ガラス転移温度:30℃、数平均分子量:120,000)を得た。
【0098】
(製造例B-2)
アクリル樹脂(B-2)(熱可塑性アクリル樹脂)の合成
還流冷却器、滴下ロート、かくはん機、温度計、コンデンサー、窒素ガス導入口を備えた反応容器に、イソホロン667.5質量部を仕込み、窒素雰囲気下で90℃まで昇温した。これに、メタクリル酸7.65質量部、メタクリル酸メチル310.8質量部、アクリル酸n-ブチル168.9質量部、ジメタクリル酸エチレングリコール1.0質量部及びメタクリル酸2-ヒドロキシエチル11.6質量部の混合溶液、並びに開始剤として、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル1.5質量部及びイソホロン47.5質量部の混合溶液を、滴下ロートを通じて各々同時に3時間で等速滴下した。滴下終了後、90℃を保持したまま30分撹拌を続けた後、反応容器を120℃まで昇温した。次に、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル5質量部及びイソホロン35質量部の混合溶液を、30分で等速滴下した。滴下終了後、120℃を保持したまま2時間撹拌し、固形分酸価10mgKOH/g、固形分水酸基価0mgKOH/g、Tg30℃のアクリル樹脂(B-2)(固形分濃度:40質量%、固形分酸価:10mgKOH/g、固形分水酸基価:0mgKOH/g、ガラス転移温度:30℃、数平均分子量:10,000)を得た。
【0099】
艶消し剤粒子(C)
(C-1)尿素樹脂粒子1;エポスターM30(日本触媒社製)平均粒子径:3μm、ハンセン溶解度パラメータ:δd=18.5、δp=12.8、δh=11.5、屈折率:1.66、固形分濃度:100質量%
(C-2)尿素樹脂粒子2;エポスターM05(日本触媒社製)平均粒子径5μm、ハンセン溶解度パラメータ:δd=18.5、δp=12.8、δh=11.5、屈折率:1.66、固形分濃度:100質量%
(C-3)ウレタン樹脂粒子1;グランパールGU-0700P(アイカ工業社製)平均粒子径:7μm、ハンセン溶解度パラメータ:δd=17.9、δp=13.3、δh=10.7、屈折率:1.66、固形分濃度:100質量%
(C-4)ウレタン樹脂粒子2;アートパールU-600T(アイカ工業社製)平均粒子径:7μm、ハンセン溶解度パラメータ:δd=17.9、δp=13.3、δh=10.7、屈折率:1.66、固形分濃度:100質量%
(C-5)ウレタン樹脂粒子3;グランパールGU-2000P(アイカ工業社製)平均粒子径:20μm、ハンセン溶解度パラメータ:δd=17.9、δp=13.3、δh=10.7、屈折率:1.66、固形分濃度:100質量%
(C-6)ポリエステル樹脂粒子;グランパールGU-2000P(アイカ工業社製)平均粒子径:20μm、ハンセン溶解度パラメータ:δd=17.7、δp=10.6、δh=11.6、屈折率:1.66、固形分濃度:100質量%
(C-7)スチレン樹脂粒子;MA2003(日本触媒社製)平均粒子径:3μm、ハンセン溶解度パラメータ:δd=18.9、δp=10.9、δh=10.7、屈折率:1.56、固形分濃度:100質量%
(c-1)アクリル樹脂粒子;ガンツパールGM-0801(アイカ工業社製)平均粒子径:8μm、ハンセン溶解度パラメータ:δd=19.7、δp=11.2、δh=8.7、屈折率:1.49、固形分濃度:100質量%
(c-2)シリカ粒子;サイシリア435(富士シリア社製)平均粒子径:6μm、ハンセン溶解度パラメータ:δd=18.6、δp=12.2、δh=18.2、屈折率:1.54、固形分濃度:100質量%
【0100】
(2)塗料、塗膜(試験板)の調整方法
(実施例1)
塗料組成物1の調製
Kynar500(固形分濃度:100質量%)19質量部、アクリル樹脂(B-1、固形分濃度:40質量%)16質量部、アクリル樹脂(B-2、固形分濃度:40質量%)16質量部、イソホロン28質量部、シクロヘキサノン3質量部、キシレン11質量部及び顔料11質量部を混合し、サンドミル(分散媒体:ガラスビーズ)を用いて、顔料粗粒の最大粒子径が10μm以下になるまで分散し、分散体組成物1を調製した。得られた分散体組成物1に、ハイディスパー1250 4質量部及び艶消し剤粒子(C-1)0.3質量部を加えて、ディスパーで均一に混合し、塗料組成物1を調製した。
【0101】
試験板の作製
表裏両面にクロメート処理(塗布量150mg/m2)を施した被塗板(亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼板;300mm×200m×0.35mm)の裏面側に、スーパーラックR-90(日本ペイント・インダストリアルコーティングス社製、エポキシ樹脂系塗料)を、乾燥膜厚が5μmとなるようにバーコーター塗装した後、素材最高到達温度210℃で60秒間焼付けた後、ただちに水没、冷却させることで、裏面塗膜を形成した。
【0102】
一方、表面には、下塗り塗料として、ファインタフGプライマー(日本ペイント・インダストリアルコーティングス社製、エポキシ樹脂系プライマー:塗料組成物40)を、乾燥膜厚が5μmになるようにバーコーター塗装した後、素材到達最高温度210℃となる条件で60秒間焼付けを行い、下塗り塗膜を形成した。次に、製造例1で調製した塗料組成物1を、乾燥膜厚が15μmとなるようにバーコーター塗装した後、素材最高到達温度250℃で60秒間焼付けた後、ただちに水没、冷却させることで、上塗り塗膜を形成した。
【0103】
(実施例2~14、比較例1~3)
ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)、アクリル樹脂(B)、艶消し剤粒子(C)を、表1に示す通りに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、塗料組成物2~16を調製し、塗料組成物1の代わりに塗料組成物2~17を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、上塗り塗膜を形成した。
【0104】
(3)評価項目
1)塗膜外観(光沢度)
実施例及び比較例で得られた塗膜の60°光沢度を、光沢計VG 7000(日本電色工業社製)を用い、JIS K 5600-4-7(鏡面光沢度)に準拠して測定した。
【0105】
2)加工性(初期及び経時)
【0106】
各実施例及び比較例で得られた試験板を、幅50mmに切断し、23℃の室内にて、加工性の試験を実施した。
具体的には、加工する試験片と同一の厚み(0.35mm)の被塗板数枚を、加工する試験片(塗膜面を外側へ向ける)の内側にはさみ込み、180度密着折り曲げをした。加工部を10倍ルーペで観察し評価を行った。
はさみ込む被塗板が3枚の場合を「3T」として、加工部にクラックの発生が見られない最小の値を加工性評価結果とした。例えば、評価「4T」は、4Tでは加工部にクラックの発生が認められないが、3Tでは加工部にクラックの発生が認められる場合を示す。
前記試験は、塗装板製造直後(初期)と室温で1か月放置した後(経時)に行った。初期は4T以下を合格とし、経時は6T以下を合格とした。
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
実施例1~14は、本願発明の実施例であり、光沢度が低光沢の範囲に調整され、初期加工性及び経時加工性が良好であった。
比較例1は、ポリフッ化ビニリデン樹脂と艶消し剤粒子との間のハンセン溶解度パラメータの距離(Ra)が、3.5を超える例であり、経時により加工性が低下し、耐久性が十分に満足できるものではなかった。また、ポリフッ化ビニリデン樹脂と艶消し剤粒子の屈折率の差が0.1未満であり、艶消し剤粒子を多量に用いる必要がある。
比較例2は、ポリフッ化ビニリデン樹脂と艶消し剤粒子との間のハンセン溶解度パラメータの距離(Ra)が、3.5を超える例であり、初期加工性が十分に満足できるものではなく、また、経時により加工性が低下し、耐久性が十分に満足できるものではなかった。
比較例3は、アクリル樹脂を含まない例であり、塗料組成物を作製することができなかった。