(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】オリゴ糖類の製造
(51)【国際特許分類】
C12P 19/12 20060101AFI20231122BHJP
【FI】
C12P19/12 ZNA
(21)【出願番号】P 2019152702
(22)【出願日】2019-08-23
(62)【分割の表示】P 2016541849の分割
【原出願日】2014-07-04
【審査請求日】2019-09-13
【審判番号】
【審判請求日】2022-01-26
(32)【優先日】2013-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511297753
【氏名又は名称】クリスチャン・ハンセン・ハーエムオー・ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Chr. Hansen HMO GmbH
【住所又は居所原語表記】Maarweg 32 53619 Rheinbreitbach Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】イェンネワイン,シュテファン
【合議体】
【審判長】上條 肇
【審判官】吉森 晃
【審判官】福井 悟
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/112777(WO,A2)
【文献】国際公開第2012/097950(WO,A1)
【文献】特表2013-501504(JP,A)
【文献】特表2012-529274(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P19, C07H1/06, C12N15
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
BIOSIS/MEDLINE/CAplus/EMBASE/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
宿主微生物を使用したヒトミルクオリゴ糖の製造方法であって、該ヒトミルクオリゴ糖が前記宿主微生物に天然に存在するものではなく、
a)所望のヒトミルクオリゴ糖の産生に適した宿主微生物を、該ヒトミルクオリゴ糖の産生が許容される条件下および培地中で培養し、それによって(イ)該ヒトミルクオリゴ糖、または(ロ)該ヒトミルクオリゴ糖、ならびに、該ヒトミルクオリゴ糖以外に糖生合成中間体および/もしくは副産物が生成される工程、
b)前記宿主微生物を培養している培地中でグリコシダーゼを使用し、糖生合成中間体および/または糖副産物および/または残った糖基質を分解する工程、ならびに
c)所望のヒトミルクオリゴ糖を回収する工程
を含み、
前記グリコシダーゼが、
グリコシダーゼを発
現する第2の微生物の添加により生成されるものであ
り、
所望の前記ヒトミルクオリゴ糖が、2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース、2’,3-ジフコシルラクトース、3’-シアリルラクトース、6’-シアリルラクトース、3-フコシル-3’-シアリルラクトース、ラクト-N-テトラオース、ラクト-N-ネオテトラオース、ラクト-N-フコペンタオース I、ラクト-N-フコペンタオース II、ラクト-N-フコペンタオース III、ラクト-N-フコペンタオース V、ラクト-N-ジフコシルヘキサオース I、ラクト-N-ジフコシルヘキサオース II、ならびにラクト-N-シアリルペンタオース LSTa、LSTb、およびLSTcから選択されることを特徴とする、
ヒトミルクオリゴ糖の製造方法。
【請求項2】
バッチ法または連続法である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
培養宿主微生物の上清からヒトミルクオリゴ糖が回収され、該上清が、培養宿主微生物を遠心して上清と宿主微生物ペレットとに分離することにより得られることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記グリコシダーゼが、ガラクトシダーゼ、マンノシダーゼ、フコシダーゼ、シアリダーゼ(ノイラミニダーゼ)、グルコシダーゼ、N-アセチルグルコアミダーゼ、N-アセチルヘキソアミダーゼからなる群から選択される1以上であることを特徴とする、請求項1~
3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記グリコシダーゼが、β-ガラクトシダーゼ、α-ガラクトシダーゼ、β-N-アセチルグルコアミダーゼ、β-N-アセチルヘキソアミダーゼ、β-マンノシダーゼ、α-マンノシダーゼ、α-フコシダーゼ、β-フコシダーゼ、β-グルコシダーゼ、α-グルコシダーゼ、ノイラミニダーゼからなる群から選択される1以上であることを特徴とする、請求項1~
3のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記宿主微生物が細菌および酵母から選択されることを特徴とする、請求項1~
5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記宿主微生物がEscherichia coli菌株、Lactobacillus種、もしくはCorynebacterium glutamicum菌株、またはSaccharomyces sp. 菌株であることを特徴とする、請求項1~
6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
用いられる前記宿主微生物が、本来それ自体に存在しない糖異化経路タンパク質を発現しており、該タンパク質が、ガラクトシダーゼを使用する場合におけるガラクトース異化経路タンパク質、フコシダーゼを使用する場合におけるフコース異化経路タンパク質、β-N-アセチルヘキソサミニダーゼを使用するN-アセチルグルコサミン異化経路タンパク質の少なくとも1つから選択されることを特徴とする、請求項1~
7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
用いられる前記宿主微生物において、分解中に遊離される単糖類を変換するために、単糖類サルベージ経路を過剰発現させることを特徴とする、請求項1~
7のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
用いられる前記宿主微生物が、糖異化経路タンパク質を発現する野生株であり、該タンパク質が、ガラクトシダーゼを使用する場合におけるガラクトース異化経路タンパク質、フコシダーゼを使用する場合におけるフコース異化経路タンパク質、β-N-アセチルヘキソサミニダーゼを使用するN-アセチルグルコサミン異化経路タンパク質の少なくとも1つから選択され、このようなタンパク質を、前記方法または前記使用の際に前記宿主微生物内に過剰発現させることを特徴とする、請求項1~
9のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全体としてオリゴ糖類または多糖類の製造方法に関し、例えば微生物発酵によるオリゴ糖類または多糖類の製造方法に関し、特に該方法における加水分解酵素の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ここ数年、バイオテクノロジーを利用した新たな製造技術の発展とともに、オリゴ糖類の商用生産に対する関心が高まっている。現在、オリゴ糖類は、例えば、機能性食品の原料、栄養添加物、または栄養補助食品として使用されている。オリゴ糖類は2以上(通常10まで)の単糖類によるポリマーと従来定義されているが、20~25の単糖類によるポリマーも同類と考えられることが多い。特に、プレバイオティクス作用を有するオリゴ糖類は、ヒト胃腸のミクロフローラの成長および改善を促す非齲蝕性かつ非消化性化合物であるため、多くの関心を集めている。
【0003】
現在、オリゴ糖類は、化学的グリコシル化およびグリコシル移転酵素によるデノボ経路により合成されるとともに、多糖類の化学的、物理的、または生物学的分解によっても得ることができる。
【0004】
現在、植物性多糖類から合成または分離されるフラクトオリゴ糖およびガラクトオリゴ糖が最も多く製造されているオリゴ糖類である。しかしながら、ヒトミルクオリゴ糖(HMO)の健康への効果が優れていることから、栄養補助食品としてヒトミルクオリゴ糖(HMO)に対する関心がここ数年著しく高まっている。ヒトミルクオリゴ糖が、ヒトの病原体に対する人体の防御機構、特定の腸内フローラ(マイクロバイオーム)の形成、および出生後の免疫系の賦活に寄与することが十分に立証されている。乳児の時期に摂取されたヒトミルクオリゴ糖の有益な効果は、生後間もない期間だけでなくその後も継続して見られると考えられている。
【0005】
ヒト母乳が、ラクトース以外に、ヒトミルクオリゴ糖(HMO)と呼ばれるオリゴ糖の複合混合物を含むことは古くから知られており、ヒトミルクオリゴ糖(HMO)は、組成および量において無比無類であるオリゴ糖の複合混合物である。今日では、80種類を超えるヒトミルクオリゴ糖化合物の構造的特性が明らかになっており、該化合物はわずかな例外を除いて、還元末端にラクトース部分を有し、多くの場合非還元末端にフコースおよび/またはシアル酸を含有することが特徴である。通常、ヒトミルクオリゴ糖の由来となる単糖類は、D-グルコース、D-ガラクトース、N-アセチルグルコサミン、L-フコース、およびシアル酸である。
【0006】
最も代表的なオリゴ糖類は、2’-フコシルラクトース、および3’-フコシルラクトースであり、これらがヒトミルクオリゴ糖画分全体の1/3まで占める場合もある。人乳中に存在するさらなる代表的なヒトミルクオリゴ糖は、ラクト-N-テトラオース、ラクト-N-ネオテトラオース、およびラクト-N-フコペンタオースである。これらの中性オリゴ糖類以外に、例えば3’-シアリルラクトース、6’-シアリルラクトース、3-フコシル-3’-シアリルラクトース、ジシアリル-ラクト-N-テトラオースなどの酸性ヒトミルクオリゴ糖もまた人乳中に確認することができる。これらの構造は、上皮細胞表面の複合糖質であるルイスx(LeX)などのルイス式組織-血液型抗原のエピトープと密接な関係があり、ヒトミルクオリゴ糖は、上皮細胞表面のエピトープと構造的な相同性を有することから、病原菌に対して防御性を有する。
【0007】
ヒトミルクオリゴ糖は、腸管における上述の局所作用以外にも、体循環に入ることにより乳児において全身作用を発揮することも示されている。また、ヒトミルクオリゴ糖は、タンパク質-糖相互作用(例えばセレクチンと白血球との結合)に作用することにより、免疫応答を調節して炎症反応を抑制することができる。
【0008】
プレバイオティクス作用を有するオリゴ糖類、特にヒトミルクオリゴ糖の有益な特性についてよく研究されているが、該オリゴ糖類は入手しにくいため、効率的な商用生産、すなわち、大規模な生産が切望されている。
【0009】
しかしながら、現状においては、効率的にオリゴ糖の製造ができないことが多く、これが主な欠点である。上述のように、オリゴ糖類は、酵素工学または化学工学を用いた合成、物理的方法、化学的方法または酵素的方法を用いた多糖類の解重合のいずれかに基づくオリゴマー生成技術により生成することができる。
【0010】
オリゴ糖類の化学合成において、同様の化学反応性を有する複数のヒドロキシル基の存在が障害となることがわかっている。したがって、オリゴ糖類の化学合成において所望のオリゴ糖を得るためには、まず化学的に類似した基の反応性を制御するために糖類のビルディングブロックを選択的に保護し、次に連結し、最終的に脱保護を行わなければならない。所望のオリゴ糖の小規模合成は可能であったとしても、開発された合成経路は一般に、多大な時間を必要とし、技術的に困難であり、多くの場合に非常に費用がかかる。酵素的合成または化学的合成と酵素的合成との組合せは、純粋な化学的合成経路に比べて非常に有利である。2’-フコシルラクトース、ラクト-N-テトラオース、ラクト-N-ネオテトラオース、または3’-シアリルラクトースなどの複数のヒトミルクオリゴ糖は、酵素的合成によって既に得られており、該酵素的合成以外に、オリゴ糖類を得るための発酵法も成功しており、ヒトミルクオリゴ糖を含む複数のオリゴ糖類は、発酵法によって高い収率で得られるようになっている。
【0011】
オリゴ糖構造物の化学的合成または生化学的合成は、上述した通り、例えば、ペプチドおよび核酸などの他のバイオポリマーの合成よりもはるかに困難であり、所望のオリゴ糖から分離または除去する必要のある望ましくないオリゴ糖を含んだオリゴ糖混合物が生成されることが多い。これは、微生物発酵によって生成されるオリゴ糖類についても言えることであり、発酵過程において大量の副産物や中間生成物あるいは出発基質さえもが、発酵微生物を含む反応混合物/細胞培地において見られる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
こうした背景の中、所望のオリゴ糖、特にヒトミルクオリゴ糖を製造するための効率的な方法およびプロセスが強く求められており、医学的な関連性が高く、商業的な影響が大きい効率的な製造方法およびプロセスが強く求められている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的および他の目的は、本発明によって実現され、製造された所望のオリゴ糖を含む混合物、場合によっては該オリゴ糖以外に該オリゴ糖の製造中に生成される望ましくないオリゴ糖類もしくは糖代謝産物、および/または該オリゴ糖の製造後に残存する糖基質を含む混合物から、製造された該オリゴ糖を精製するにあたって、1以上のグリコシダーゼを使用し、望ましくないオリゴ糖類もしくは代謝産物または残った基質を分解することによって実現される。
【0014】
前記目的はさらに、宿主微生物を使用したオリゴ糖の製造方法によって実現される。前記オリゴ糖は、前記宿主細胞に天然に存在するものではなく、前記方法は、a)所望のオリゴ糖の産生に適した宿主微生物を、該オリゴ糖の産生が許容される条件下および培地中で培養し、それによって該オリゴ糖、場合によっては該オリゴ糖以外に生合成中間体および/または副産物が生成される工程、b)前記宿主微生物を培養している培地中でグリコシダーゼを使用し、糖生合成中間体および/または糖副産物および/または残った糖基質を分解する工程、ならびにc)所望のオリゴ糖を回収する工程を含む。
【0015】
本発明によれば、グリコシダーゼは、オリゴ糖の製造方法において、所望のオリゴ糖が製造される間に生成される、妨げとなるかつ/または所望されない副産物、残った出発基質、および中間生成物を分解するために使用される。このように、本発明によれば、グリコシダーゼは、所望のオリゴ糖および他の不要な炭水化物成分を含んだ混合物から該オリゴ糖を精製するために用いられる。
【0016】
本発明によれば、グリコシダーゼは、所望のオリゴ糖を製造する発酵法だけでなく、インビトロオリゴ糖合成反応、化学的合成、もしくはそれらの組合せによって得られるオリゴ糖混合物の精製または分解にも使用することができる。
【0017】
グリコシダーゼを用いることによって、例えば、所望のオリゴ糖が合成される間に同じ微生物内で生成されて所望のオリゴ糖の精製工程の妨げとなる別のオリゴ糖類を代謝させることができる。
【0018】
所望のオリゴ糖の製造方法におけるグリコシダーゼの使用については、これまで開示されていない。むしろ、現在使用されている方法、すなわち、ヒトミルクオリゴ糖製造のための発酵方法においては、合成のための基質として通常添加されるラクトースの分解を防ぐために、発酵菌株におけるβ-ガラクトシダーゼ反応および他のグリコシダーゼ反応が強力に抑えられている。したがって、発酵にはβ-ガラクトシダーゼ欠損の菌株を使用するか(例えばDumonら,(2004) Biotechnol. Prog. 20, 412-419を参照のこと)、または菌株のβ-ガラクトシダーゼ遺伝子を特異的に不活性化させる方法が用いられてきた(Dumonら, (2006) ChemBioChem. 7, 359-365)を参照のこと)。通常、いかなるグリコシダーゼ活性の存在も、オリゴ糖類製造のための発酵に逆効果を生じると見なされている。
【0019】
冒頭で既に述べたように、本発明においてオリゴ糖とは、少なくとも2つの糖サブユニットを含む、単糖類の短鎖ポリマーと理解される。オリゴ糖は分岐状であってもよく、サブユニットが連なって直鎖を形成していてもよい。さらに、オリゴ糖の糖サブユニットは複数の化学修飾を有していてもよい。したがって、本発明のオリゴ糖は1以上の非糖部分を含んでいてもよい。
【0020】
本明細書において、また関連分野において通常、「グリコシダーゼ」(「グリコシドヒドロラーゼ」または「グリコシルヒドロラーゼ」とも呼ばれる)は、グリコシド結合の加水分解を触媒してより小さい糖を遊離させる酵素である。「グリコシダーゼ」は、O-グリコシドまたはS-グリコシドの加水分解を触媒する酵素に分類することができ、一般に、作用の対象となる基質から名称が付けられている。したがって、グルコシダーゼは、グルコシドの加水分解を触媒し、キシラナーゼは、キシランの切断を触媒する。したがって、本発明に係るグリコシダーゼは、グリコシド結合の加水分解を触媒し、天然に存在する単純または複雑な構造の糖基質よりも低分子の単糖類およびオリゴ糖類を遊離させる。
【0021】
本発明によれば、本明細書に開示される使用および方法において、グリコシダーゼは、所望のオリゴ糖が製造される間に生成される、妨げとなるかつ/または所望されない副産物、残った出発基質、および中間生成物を分解するために使用される。これらの所望されない副産物、残った出発基質、および中間生成物の分子量は通常、所望されない副産物、残った出発基質、および中間生成物の分解中にグリコシダーゼの作用によって遊離した単糖類、オリゴ糖類、または二糖類の分子量に比べて大きい。
【0022】
したがって、本発明において、「遊離した単糖」は、糖基質のグリコシド結合がグリコシダーゼを介して加水分解される間に生成された単糖類として理解され、該加水分解においては、加水分解される糖基質より分子量の小さい単糖類およびオリゴ糖類が生成される。
【0023】
本発明によれば、少なくとも1つのグリコシダーゼ、または2以上のグリコシダーゼの組合せを、本発明に係る使用および方法に使用してもよい。
【0024】
本発明の一態様によれば、本発明のグリコシダーゼは、所望のオリゴ糖を製造するための、宿主微生物を利用した微生物発酵法において使用され、前記オリゴ糖および/またはグリコシダーゼは、前記微生物または前記宿主細胞に天然には存在しないものである。
【0025】
本明細書において、また関連分野において通常、「微生物発酵」は、細菌、真菌、およびカビなどの微生物の培養中に起こる、栄養素、特に糖質の酵素分解および酵素利用、ならびに他の化合物への化合物変換といった現象を伴う産業的(一般的には大規模な)代謝過程として理解される。このように、産業的または大規模な微生物発酵は、微生物、すなわち細菌、酵母、およびカビを制御して所望の生成物を製造する方法である。
【0026】
本発明の別の一態様によれば、本発明のグリコシダーゼは、インビトロオリゴ糖合成反応、化学的合成、またはそれらの組合せによって得られるオリゴ糖混合物の分解に使用される。
【0027】
本明細書において、また関連分野において通常、「微生物」は、単細胞、細胞塊、または比較的複雑な多細胞生物を含む、顕微鏡レベルの任意の生物を表し、また包含する。このような微生物は本発明による方法に好適に用いられ、特に細菌と酵母を包含する。本発明に用いられる微生物は、液体培地で培養することができる。微生物は、増殖および複製のために、通常培地中に炭素源を必要とする。
【0028】
本明細書において、また本発明全体にわたって、「組換え体」とは、ある生物種由来の遺伝子を異種の宿主微生物の細胞内に移植または挿入することにより作成された、遺伝子改変されたDNAを意味する。このようなDNAは宿主の遺伝子構造の一部となり、複製される。
【0029】
したがって、「宿主微生物」は、該宿主微生物に天然に存在しない外来性の核酸配列または発現タンパク質を含む任意の微生物を意味することが意図され、この外来性の核酸配列は宿主微生物細胞のゲノムに組み込まれている。したがって、「天然に存在しない」とは、核酸配列/タンパク質(例えば酵素など)がその宿主微生物細胞にとって外来性、すなわち核酸配列/タンパク質が微生物宿主細胞に対して異種であることを意味する。異種配列は、例えば形質移入、形質転換、または形質導入により、宿主微生物細胞のゲノム中に安定に導入することができ、配列を導入する宿主細胞に応じた方法を適用することができる。種々の方法が当業者に公知であり、例えばSambrookら, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (1989)に開示されている。異種配列が導入された宿主細胞は、本発明による核酸配列がコードする異種タンパク質を産生することになる。
【0030】
組換え体産生のために、宿主細胞を遺伝子改変し、発現系またはその一部と本発明の核酸配列とを組み入れる。核酸配列の宿主微生物細胞への導入は、Davisら, Basic Methods in Molecular Biology, (1986)や上記のSambrookら(1989)など多くの標準実験マニュアルに記載された方法で行うことができる。
【0031】
したがって、本発明による核酸配列は、例えば、宿主微生物細胞に形質転換/形質移入、あるいはその他の方法で安定に導入されるベクターに含まれていてもよい。
【0032】
本発明のポリペプチドを産生させるために、多種多様な発現系を用いることができる。このようなベクターには特に、染色体由来ベクター、エピソーム由来ベクター、およびウイルス由来ベクターが含まれ、例えば、細菌性プラスミド由来ベクター、バクテリオファージ由来ベクター、トランスポゾン由来ベクター、酵母エピソーム由来ベクター、挿入因子由来ベクター、酵母染色体因子由来ベクター、ウイルス由来ベクター、およびこれらを組み合わせたベクター(例えばコスミドやファージミドなどの、プラスミドとバクテリオファージ双方の遺伝因子に由来するベクター)などが挙げられる。発現系構築物は、発現を調節し引き起こす制御領域を含んでもよい。通常、宿主におけるポリヌクレオチドの維持、増幅、または発現に適し、かつポリペプチドの合成に適した任意の系またはベクターを、ここでの発現に用いることができる。適切なDNA配列の発現系への挿入は、例えば上記のSambrookらの文献に記載されている方法などの、様々な公知の方法および通常の方法のいずれかによって行うことができる。
【0033】
本明細書において、「所望のオリゴ糖」とは、適用した方法により特異的かつ意図的に製造されるオリゴ糖を表す。したがって、「望ましくないオリゴ糖」とは、所望のオリゴ糖の製造中に産生もしくは生成されるようには意図されていないオリゴ糖、または使用した生物体により生成された、所望のオリゴ糖とは無関係なオリゴ糖を表す。「代謝産物」、「糖代謝産物」、または「糖中間体」とは、所望のオリゴ糖の製造中に生成される、糖すなわち炭水化物生成物であり、「残った糖基質」とは、所望のオリゴ糖を製造するために、製造中に使用される出発分子または出発成分を表す。
【0034】
冒頭で述べたように、本発明はまた、宿主微生物を使用したオリゴ糖の製造方法に関し、該オリゴ糖は、前記宿主細胞に天然に存在するものではなく、該方法は、a)所望のオリゴ糖の産生に適した宿主微生物を、該オリゴ糖の産生が許容される条件下および培地中で培養し、それによって該オリゴ糖、場合によっては該オリゴ糖以外に糖生合成中間体および/または糖副産物が生成される工程、b)前記宿主微生物を培養している培地中でグリコシダーゼを使用し、生合成中間体および/または副産物および/または残った基質を分解する工程、ならびにc)所望のオリゴ糖を回収する工程を含む。
【0035】
本発明の方法を用いることによって、望ましくないオリゴ糖または妨げとなる中間生成物もしくは残存基質が本質的に存在しない状態で、所望のオリゴ糖を製造することができる効果的な製造方法が提供される。
【0036】
本明細書において、「培養する」という用語は、所望のオリゴ糖の産生が許容され、かつ該産生に適した培地および条件で、微生物を増殖させることを意味する。適切な宿主微生物ならびにそれを培養するための培地および条件は、当業者が自身の技術的かつ専門的背景に関係のある本発明の開示を読めば容易に得ることが可能である。
【0037】
本明細書において、「回収する」という用語は、本発明の宿主微生物によって産生されたオリゴ糖を、宿主微生物培養物から、単離、採取、精製、収集、または分離することを意味する。
【0038】
本発明の一態様によれば、微生物が培養されている培地にグリコシダーゼを添加する。この「添加する」は、酵素を培地へ直接添加することを意味し、すなわち、本発明の製造に使用する微生物における内因的生成によってグリコシダーゼを供給することとは異なることを意味する。このような酵素は、活性体の状態で市販されており、容易に入手することができ、望ましくないオリゴ糖類、残った基質、または中間体を分解するために必要な量を添加することができる。使用量は、培養する微生物の量、生成される所望のオリゴ糖の量、基質の量、および生成される可能性が高い中間体の量に依存する。
【0039】
この実施形態によれば、グリコシダーゼを、本発明の製造方法の最後に、外部から培地/上清に添加するが、これはグリコシダーゼをコードする宿主微生物の内在遺伝子が不活性化されていたり欠失している場合に特に好ましい。これにより、望ましくないオリゴ糖類や単糖類が蓄積されず、所望のオリゴ糖の回収が妨げられずに行われる。
【0040】
例えば、所望のオリゴ糖と望ましくないオリゴ糖とを含む溶液、例えば発酵液由来のラクト-N-テトラオースとラクトースを含む溶液などに、β-ガラクトシダーゼを添加する。β-ガラクトシダーゼの使用量は、オリゴ糖類の量(実際の量または予想される量)に依存する。例えば、ラクト-N-テトラオースとラクトースの濃度がともに10mMである場合、50units/mL(最終濃度)のβ-ガラクトシダーゼ(例えば、Sigma-Aldrich Chemie GmbH社(Munich、ドイツ)製、カタログ番号G6008)を用いることでラクトースの切断によるグルコースおよびガラクトースへの分解を良好に実現することができ、糖類のクロマトグラフ分離(例えば、サイズ依存性のゲル濾過クロマトグラフィー)を良好に行うことができる。発明者らによって行われた実験において、ラクトースは数秒以内に切断され単糖類であるガラクトースおよびグルコースに分解されたのに対し、ラクト-N-テトラオースはそのまま残っていたことが示された(以下に示す
図1および各説明も参照のこと)。これらの実験によって、精製されたE.coli β-ガラクトシダーゼが高い選択性を有する、すなわちGal(β1-4)Glcグリコシド結合のみを選択的に加水分解し、ラクト-N-テトラオースの非還元末端に存在するGal(β1-3)GlcNAcグリコシド結合を加水分解しないことが証明された。本発明の開示により、グリコシダーゼの使用量がどのくらい必要とされるかは明らかであろう。
【0041】
例えば発酵法におけるフコシルオリゴ糖の製造に適切な微生物は、EP 2 479 263 A1、EP 2 439 264、またはWO 2010/142305に記載されており、本明細書にて、これらに記載の内容を明示的に参照することにより、当該内容は本発明の一部となる。
【0042】
本発明の別の一態様によれば、本発明のグリコシダーゼは、前記宿主微生物によって内因的に生成される。内因的に生成される該グリコシダーゼをコードする核酸配列は、前記宿主細胞に天然に存在するものではなく、前記宿主細胞は、該宿主細胞に天然に存在しないグリコシダーゼを発現するよう安定的に形質転換されたものであり、宿主微生物内における該グリコシダーゼの発現は、誘導可能なものである。
【0043】
この実施形態によれば、オリゴ糖を内因的(遺伝子がゲノム上に存在する)に産生する微生物は、例えば温度や基質による発現誘導または発現調節の解除によりβ-ガラクトシダーゼなどのグリコシダーゼを発現する。これは、所望のオリゴ糖の合成中、例えば、発酵過程の最後に温度(変化)またはテトラサイクリンなどの誘導物質の添加によって、グリコシダーゼの調節解除または誘導を行うことを意味する。グリコシダーゼの発現の誘導は、宿主微生物の培養中に十分な量および/または本質的に最大の量のオリゴ糖が産生された後に行われる。その後、発現誘導されたグリコシダーゼは、望ましくない糖中間体や基質などを分解し、所望のオリゴ糖の精製を妨げたり困難にする糖中間体や基質が本質的に存在しない培地が得られる。発現を誘導する適切な手段は先行技術においていくつか知られており(例えば上記のSambrookら, 1989を参照のこと)、当業者は所望のオリゴ糖にそれぞれ適した手段を利用することができるであろう。
【0044】
本明細書において、遺伝子に関連した「調節(レギュレート)される」という用語は、遺伝子の発現が制御された方式で調節可能である、例えばアップレギュレートまたはダウンレギュレートされることを意味し、このような調節されている遺伝子によってコードされ、合成されたタンパク質の量は、例えばダウンレギュレートやアップレギュレートが解除された遺伝子などの、調節されていない遺伝子の場合とは異なるものと一般に理解される。
【0045】
本発明の別の一態様によれば、本発明のグリコシダーゼは、該グリコシダーゼを発現する第2の微生物の添加により生成される。
【0046】
この実施形態において、第2の微生物によって発現されるグリコシダーゼは、該微生物に天然に存在するグリコシダーゼであるか、または該微生物のゲノムに安定的に組み込まれた核酸配列によってコードされるグリコシダーゼである。この実施形態は、オリゴ糖を製造するための連続発酵法において特に適した形態であり、例えば2つの独立した発酵槽または発酵容器が用意され、1つの槽/容器はオリゴ糖の合成反応に使用され、もう一方の槽/容器は基本的に、望ましくない糖類の分解に用いられる。
【0047】
上記より、本発明のいくつかの特定の態様によれば、本発明に係る方法はバッチ法または連続法である。
【0048】
したがって、本発明の一態様である連続法では、宿主微生物の培養工程において、例えば、グリコシダーゼを発現する菌株を供給することによって、グリコシダーゼは培地に継続的に添加されるが、グリコシド反応および異化作用は、空間的に分離することができる。
【0049】
別の一態様、すなわち、バッチ法またはフェドバッチ法では、加水分解反応は特定の期間に限定される。
【0050】
本発明の別の一態様によれば、培養宿主微生物の上清からオリゴ糖が回収される。この上清は、培養宿主微生物を遠心して上清と宿主微生物ペレットとに分離することにより得られる。
【0051】
この新規な方法によれば、宿主微生物を培養している培地から産生されたオリゴ糖を回収することができる。これは、微生物細胞内で産生されたオリゴ糖が培地中に輸送されることが好ましく、それゆえ、培地から微生物細胞を分離すると、上清からオリゴ糖を容易に回収できるからである。
【0052】
また、本発明の別の一態様によれば、グリコシダーゼを添加する前に、宿主微生物を培養している培地、好ましくは液体培地から宿主微生物を分離することにより、産生されたオリゴ糖を含む上清を得てもよい。この上清に、グリコシダーゼを加えてもよい。
【0053】
別の一態様によれば、所望のオリゴ糖は、2’-フコシルラクトース(2’-FL)、3-フコシルラクトース(3-FL)、ジフコシルラクトース(DF-L)、3’-シアリルラクトース(3’-SL)、6’-シアリルラクトース(6’-SL)、3-フコシル-3’-シアリルラクトース(F-SL)、ラクト-N-テトラオース(LNT)、ラクト-N-ネオテトラオース(LNneoT)、ラクト-N-フコペンタオース(LNFP-I、II、III、V)、ラクト-N-ジフコヘキサオース(LNDH-I、II)、ラクト-N-シアリルペンタオース(LSTa、b、c)、フコシル-ラクト-N-シアリルヘキサオース(F-LSTa、b、c)、およびジシアリル-ラクト-N-ヘキサオース(DS-LNT)から選択され、具体的には表1に示されるオリゴ糖類またはそれらの誘導体から選択される。これらのオリゴ糖類の製造については、EP 2 479 263 A1、EP 2 439 264、またはWO 2010/142305に明示されており、本明細書にて、これらに記載の内容を明示的に参照することにより、当該内容は本発明の一部となる。
【表1】
【表2】
【0054】
本発明の別の一態様によれば、本発明に係る方法または本発明に係る使用において、本発明のグリコシダーゼは、ガラクトシダーゼ、グルコシダーゼ、ガラクトシダーゼ、N-アセチルグルコサミダーゼ、N-アセチルヘキソアミダーゼ、マンノシダーゼ、フコシダーゼ、およびシアリダーゼ(ノイラミニダーゼと呼ばれることもある)からなる群から選択される1以上である。
【0055】
これに関して、本発明のグリコシダーゼは、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ、β-N-アセチルヘキソアミダーゼ、α-フコシダーゼ、β-フコシダーゼ、α-グルコシダーゼ、α-ガラクトシダーゼ、β-マンノシダーゼ、α-マンノシダーゼ、およびノイラミダーゼからなる群から選択される1以上であることが好ましく、中でも、β-ガラクトシダーゼ、特にE.coli β-ガラクトシダーゼが好ましい。
【0056】
本明細書における「β-ガラクトシダーゼ」は、本発明の分野において一般に理解されているように、β-ガラクトシド類から単糖類への加水分解を触媒する加水分解酵素である。
【0057】
β-ガラクトシダーゼは、遺伝学、分子生物学、およびバイオテクノロジーの各分野の手法において頻繁に用いられており、当業者には自体公知である。
【0058】
好ましい一実施形態によれば、本発明の方法に用いられる請求項に記載の微生物は、細菌または酵母から選択され、より好ましくは宿主微生物はEscherichia coli菌株、Corynebacterium菌株、具体的にはCorynebacterium glutamicum、Lactobacillus種、またはSaccharomyces sp.菌株である。
【0059】
細菌Escherichia coli、Lactobacillus sp.、およびCorynebacterium glutamicumならびに酵母Saccharomyces sp.は、実験室条件において容易かつ安価に増殖可能な微生物であるという利点を有し、これまで60年以上にわたって非常によく研究されている。
【0060】
したがって、好ましい一実施形態において、本発明の方法に用いられる請求項に記載の宿主微生物は、細菌および酵母からなる群から選択され、好ましくはEscherichia coli菌株である。
【0061】
本発明の別の一態様によれば、本発明に係る方法または使用において、用いられる宿主微生物、好ましくはグリコシダーゼを発現する宿主微生物は、本来それ自体に存在しない糖異化経路タンパク質をさらに発現しており、該タンパク質は、ガラクトシダーゼを使用する場合における、galオペロンなどによってコードされるガラクトース異化経路タンパク質、フコシダーゼを使用する場合におけるフコース異化経路タンパク質、β-N-アセチルヘキソサミニダーゼを使用するN-アセチルグルコサミン異化経路タンパク質の少なくとも1つから選択される。末端にN-アセチルグルコサミンを含むオリゴ糖類の分解にβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼを使用する場合、単糖類であるN-アセチルグルコサミンの異化に関係する酵素の過剰発現が有益であることがわかった。同様に、遊離した単糖類がL-フコースである場合、L-フコース異化経路を発現させることが有利である。シアル酸などについても同様である。
【0062】
この実施形態は、糖異化経路の調節を解除することによって、グリコシダーゼの作用により遊離した単糖類を発酵培地から効率的かつ効果的に取り除くことができるという利点を有する。また、この方法により、前駆体として加えられる単糖類も、同様に発酵培地から取り除くことができる。このように、宿主微生物は、グリコシダーゼを発現するだけでなく、分解産物であるガラクトースの蓄積を防ぐための、ガラクトース異化経路タンパク質などの糖異化経路タンパク質を発現する。しかしながら、グリコシダーゼと糖異化経路がともに同じ菌体で発現している必要はなく、それぞれを単独で発現する2種の異なる菌株を共培養してもよい。また、所望の単糖類を異化することができる適切な菌株を使用し、これにグリコシダーゼを加えてもよい。
【0063】
別の一実施形態によれば、遊離した単糖類に対する糖異化経路を発現させる代わりに、サルベージ経路を発現させることによって、望ましくない副産物、残った出発基質、および中間生成物の分解中に遊離される単糖類を活性型ヌクレオチドに変換し、オリゴ糖合成に再利用することができる。したがって、例えばフコースをGDPフコースに変換することができ、また、シアル酸をCMP-Neu5Acに変換することができる。
【0064】
例えば、遊離した単糖類としてフコースが生成される場合、サルベージ経路を利用する(すなわち、フコ-スが生成された宿主微生物において過剰発現させる(高発現するよう調節する))ことにより、フコースをGDP-フコースに変換することができる。
【0065】
いわゆる「フコースサルベージ経路」において、フコースは、フコースキナーゼという酵素によってまずリン酸化され、フコース-1-リン酸が生成される。その後、フコース-1-リン酸は、酵素フコース-1-P-グアニリルトランスフェラーゼの作用によって、GDP-フコースに変換される。したがって、一態様によれば、フコースキナーゼおよびグアニリルトランスフェラーゼを発現するよう遺伝子組換えされた微生物を使用することができる。一実施形態によれば、フコースキナーゼおよびL-フコース-1-P-グアニリルトランスフェラーゼの2つの作用を有する細菌酵素として最初に同定されたFkbが使用される。このような遺伝子組換え微生物の作製に関する詳細は、WO 2010/070104 A1に記載されており、この開示を明示的に参照することにより、その内容は本明細書に明示的に組み込まれる。
【0066】
発酵によってより複雑な構造のオリゴ糖類を得るために、例えばβ-ガラクトシダーゼとβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼを組み合わせるなどして、複数のグリコシダーゼを使用する、すなわち宿主微生物内で発現させる。β-N-アセチルヘキソサミニダーゼは、特異的にラクト-N-トリオース II(LNT-2)に作用し、N-アセチルグルコサミンとラクトースに分解する。その後、遊離したN-アセチルグルコサミンおよびガラクトサミンはともに、特定の単糖インポーターおよび特定の単糖類異化経路の調節解除または誘導により、発酵培地から効率的に取り除くことができる。
【0067】
本発明の方法および使用の別の一実施形態によれば、用いられる宿主微生物は、糖異化経路タンパク質を発現する野生株であり、該タンパク質は、ガラクトシダーゼを使用する場合におけるガラクトース異化経路タンパク質、フコシダーゼを使用する場合におけるフコース異化経路タンパク質、β-N-アセチルヘキソサミニダーゼやシアル酸を使用するN-アセチルグルコサミン異化経路タンパク質の少なくとも1つから選択され、このようなタンパク質を、本発明の方法または使用の際に前記宿主微生物内に過剰発現させる。
【0068】
この実施形態は、所望の糖異化経路タンパク質を既に含むとともに該タンパク質を既に発現している宿主微生物が使用可能であるという利点を有し、該タンパク質の過剰発現は誘導により行われる。例えば、前記タンパク質をコードする核酸配列を誘導可能なプロモーターの制御下に配置することによって、対象の遺伝子/ポリヌクレオチドを特異的に狙って過剰発現させることができる。
【0069】
このように、発現系構築物は、発現を調節し引き起こす制御領域を含む。通常、宿主におけるタンパク質の維持、増幅、もしくは発現に適し、かつ/またはタンパク質の発現に適した任意の系またはベクターを、ここでの発現に用いることができる。適切なDNA配列の発現系への挿入は、例えば上記のSambrookらの文献に記載されている方法などの、様々な公知の方法および通常の方法のいずれかによって行うことができる。
【0070】
本明細書におけるすべての専門用語および科学用語は、別段の定めがない限り、本発明が属する技術分野の当業者によって通常理解される意味と同じ意味を有する。通常、本明細書における用語、ならびに細胞培養、分子遺伝学、有機化学や核酸化学、およびハイブリダイゼーションに関する上述した実験法や以下に記載する実験法は、当技術分野で周知され、一般に使用されるものである。
【0071】
さらなる利点は、各実施形態の説明および添付した図面から理解されるものである。
【0072】
当然のことながら、上述した特徴および以下に説明する特徴については、個々に明記した組合せだけでなく、本発明の範囲から逸脱しない限りは、他の組合せまたは単独でも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
本発明のいくつかの実施形態を図示し、以下の記載においてより詳細に説明する。各図は以下の通りである。
【0074】
【
図1】β-ガラクトシダーゼを使用したラクト-N-テトラオースおよびラクトースの分解を示した図である。Aは、10mMラクトースおよび10mMラクト-N-テトラオースのHPLCクロマトグラム(標準)を重ね書きしたものを示す。Bは、酵素を添加した直後に採取した、10mMラクトースおよび10mMラクト-N-テトラオースを含むβ-ガラクトシダーゼ反応液のHPLCクロマトグラムを示す。Cは、酵素の添加から3時間後に採取した、10mMラクトースおよび10mMラクト-N-テトラオースを含むβ-ガラクトシダーゼ反応液のHPLCクロマトグラムを示す。
【0075】
【
図2】2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース、2’,3-ジフコシルラクトース、3’-シアリルラクトース、6’-シアリルラクトースなどのオリゴ糖の製造に適し、第一の発酵槽と第二の発酵槽を有する、本発明の一実施形態に係る連続発酵装置を示した略図である。
【0076】
【
図3】β-ガラクトシダーゼを発現するE.coli菌株を発酵液に加える前の無細胞培地サンプルのHPLC分析の結果を示した図である。該菌株は、ガラクトースの蓄積を防止するためのガラクトース異化経路も発現する菌株である。
【0077】
【
図4】β-ガラクトシダーゼを発現する第2のE.coli菌株を発酵液に加えた後の無細胞培地サンプルのHPLC分析の結果を示した図である。
【0078】
【
図5】2’-フコシルラクトースの製造に有用な、本発明の一実施形態に係る連続発酵装置を示した略図である。第1の発酵槽が2’-フコシルラクトースの連続合成に使用されるのに対し、第2の発酵槽は、2’-フコシルラクトースの合成に加えて、余分な基質(ラクトース)および他の糖副産物の除去に使用される。
【0079】
【
図6】発酵槽1から採取した生成物の流液のHPLC分析の結果を示した図である。無細胞発酵培養液の分析から、ラクトースおよび2’-フコシルラクトースがともに存在することがわかる。
【0080】
【
図7】発酵槽2から得られた生成物の流液のHPLC分析の結果を示した図である。HPLC分析から、基質であるラクトースが消失していることがわかる。該ラクトースは、β-ガラクトシダーゼをコードする、E.coli由来lacZ遺伝子の発現、および遊離したガラクトースを代謝するためのgalオペロンの発現を通して菌株によって代謝されたものと考えられる。
【0081】
【
図8】β-ガラクトシダーゼおよびβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼを発現するE.coli菌株を発酵液に加える前の無細胞培地サンプルのHPLC分析の結果を示した図である。該菌株は、ガラクトースの蓄積を防止するためのガラクトース異化経路も発現する菌株である。
【0082】
【
図9】グリコシダーゼ処理およびβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼ処理の後に採取したサンプルに関して示したものである。HPLCクロマトグラムの比較から、β-ガラクトシダーゼ処理およびβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼ処理を行う前のサンプル中に存在していたラクトースおよびラクト-N-トリオース IIが消失したことが明確にわかる。
【0083】
【
図10】組換えE.coli菌株の生成に使用されるgalオペロンの配列である。
【0084】
【
図11】本発明により製造可能なオリゴ糖一覧である。
【発明を実施するための形態】
【0085】
好ましい実施形態の詳細な説明
発酵により生じたラクト-N-テトラオースおよびラクトースをともに10mMの濃度で含む溶液に、β-ガラクトシダーゼを添加した。50units/mL(最終濃度)のβ-ガラクトシダーゼ(Sigma-Aldrich Chemie GmbH社(Munich、ドイツ)、カタログ番号G6008)を加えて、ラクトースをグルコースおよびガラクトースへと分解し、糖類のクロマトグラフ分離(例えば、サイズ依存性のゲル濾過クロマトグラフィーによる分離)を良好に行った。ラクトースは数秒以内に切断され単糖類であるガラクトースおよびグルコースに分解されたのに対し、ラクト-N-テトラオースはそのまま残っていたことが示された(
図1も参照のこと)。これらの実験によって、精製されたE.coli β-ガラクトシダーゼが高い選択性を有する、すなわちGal(β1-4)Glcグリコシド結合のみを選択的に加水分解し、ラクト-N-テトラオースの非還元末端に存在するGal(β1-3)GlcNAcグリコシド結合を加水分解しないことが証明された。
図1Aは、10mMラクトースおよび10mMラクト-N-テトラオースのHPLCクロマトグラム(標準)を重ね書きしたものを示し、
図1Bは、酵素を添加した直後に採取した、10mMラクトースおよび10mMラクト-N-テトラオースを含むβ-ガラクトシダーゼ反応液のHPLCクロマトグラムを示す。
図1Cは、酵素の添加から3時間後に採取した、10mMラクトースおよび10mMラクト-N-テトラオースを含むβ-ガラクトシダーゼ反応液のHPLCクロマトグラムを示す。
【0086】
図2は、2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース、2’,3-ジフコシルラクトース、3’-シアリルラクトース、6’-シアリルラクトース、およびそれらの誘導体などのオリゴ糖類の製造に有用な本発明の一実施形態に係る連続発酵装置を示す。
【0087】
第1の発酵槽(「発酵槽1」)が所望のオリゴ糖の連続合成に使用されるのに対し、β-ガラクトシダーゼなどの適切なグリコシダーゼを発現する微生物菌株を含む第2の発酵槽(「発酵槽2」)は、後に続く所望のオリゴ糖生成物の精製を妨げる、培地中に存在するラクトースなどの過剰な単糖類およびその他の糖類の分解に使用される。発酵槽1と発酵槽2とは適切な導管で互いに連結されており、ポンプによって発酵スラリーが発酵槽1から発酵槽2へ送られる。別のポンプによって、所望のオリゴ糖生成物を含む流液が発酵槽2から取り出される。
【0088】
2’-フコシルラクトースの製造におけるグリコシダーゼ処理による糖混合物の分解
2’-フコシルラクトース製造のためのフェドバッチ発酵は、組換え2’-フコシルラクトース合成E.coli菌株(E.coli BL21(DE3)ΔlacZ、ゲノム上の強力な構成型テトラサイクリン系プロモーターの制御下に、wbgL遺伝子(EP 11 1151 571.4)によりコードされる2’-フコシルトランスフェラーゼと、E.coli由来lacY、manB、manC、gmd、およびfclの各コピーとが組み込まれた菌株であり、さらにgalM、galK、galT、およびgalEを有する機能的なgalオペロンを含む;
図10を参照のこと;フォワードプライマーP-TTACTCAGCAATAAACTGATATTCCGTCAGGCTGG(配列番号2);リバースプライマーP-TTGATAATCTCGCGCTCTTCAGCAGTCAGACTTTCCATATAGAGCGTAATTTCCGTTAACGTCGGTAGTGCTGACCTTGCCGGAGG(配列番号3))を使用し、該菌株を、所定の塩培地(7g/L NH
4H
3PO
4、7g/L K
2HPO
4、2g/L KOH、0.37g/Lクエン酸、1mL/L消泡剤(Struktol J673、Schill+Seilacher)、1mM CaCl
2、4mM MgSO
4、ならびに0.101g/Lニトリロ三酢酸(pH6.5)、0.056g/Lクエン酸第二鉄アンモニウム、0.01g/L MnCl
2・4H
2O、0.002g/L CoCl
2・6H
2O、0.001g/L CuCl
2・2H
2O、0.002g/Lホウ酸、0.009g/L ZnSO
4・7H
2O、0.001g/L Na
2MoO
4・2H
2O、0.002g/L Na
2SeO
3、および0.002g/L NiSO
4・6H
2Oからなる微量元素、ならびに炭素源として2%グリセロール)中で増殖させた。グリセロール供給液の構成は、800g/Lグリセロール、2.64g/L MgSO
4、および4mL/L微量元素溶液であった。2’-フコシルラクトースが生成されるように、216g/Lラクトースを供給した。pHはアンモニア溶液(25%、v/v)を用いて制御し、該アンモニア溶液は、窒素源としての役割も果たした。2’-フコシルラクトースを製造するために、ラクトースを前駆体として供給した。フェドバッチ培養を一定の通気と撹拌の下、30℃で90時間行った。発酵開始90時間後には、添加したラクトースの大部分が2’-フコシルラクトースに変換された。
【0089】
発酵上澄み液中に残存するラクトースの大部分またはすべてを取り除くために、発酵開始90時間後に、第2の菌株を発酵槽に添加した(
図2において装置を参照のこと)。添加した第2の細菌株は、最初に使用した細菌株と遺伝学的に同一であったが、ゲノムに組み込まれたβ-ガラクトシダーゼの発現および(D-ガラクトース分解のための)機能的なgalオペロン(
図10を参照のこと)の発現においてのみ相違がみられた。添加した第2の細菌株を培養することにより、残存するラクトースは5時間以内に消失した。β-ガラクトシダーゼを発現する第2の菌株を含む出発培養物の添加量は、発酵培養液1Lにつき約25mLとした。
【0090】
HPLC分析を行うため、ろ過した無細胞かつ無菌状態の培地サンプルを使用し、350μLの該サンプルを脱塩カラム(Strata ABW (55μm、70A)、phenomenex社、Aschaffenburg、ドイツ)に流し、脱塩した。HPLC分析には、5μmのReproSil Carbohydrate、250×4.6mmのカラム(Dr. Maisch GmbH社、Ammerbuch-Entringen、ドイツ)を使用し、流量1.4mL/minのアイソクラティック条件下(カラムオーブンは35℃に設定)、溶離剤としてアセトニトリル/ddH
2O(脱イオン蒸留水)(68:32)を使用して分析を行った。定量化の内部標準としてスクロースを使用し、ラクトースおよび2’-フコシルラクトースを同定するために、それぞれの標準を使用した。検出については、屈折率検出器(RID)を使用した。本発明の発酵過程の最後にグリコシダーゼ分解工程が含まれることにより、生じる発酵ろ液の複雑性が著しく緩和された。
図3は、グリコシダーゼ処理前に採取した無細胞発酵培地の分析の結果を示したものであり、
図4は、グリコシダーゼ処理後に採取したサンプルに関して示したものである。HPLCクロマトグラムの比較から、β-ガラクトシダーゼ処理前のサンプル中に存在していたラクトースが消失したことが明確にわかる。該菌株は、D-ガラクトースの蓄積を防止するためのガラクトース異化経路も発現する菌株である。
【0091】
2’-フコシルラクトースの連続製造におけるグリコシダーゼ処理による糖混合物の分解
2’-フコシルラクトースの連続合成は2つの発酵槽を用いて達成された。発酵槽1には、ラクトース分解能欠損株である2’-フコシルラクトース発酵菌株(E.coli BL21(DE3)ΔlacZ、ゲノム上の強力な構成型テトラサイクリン系プロモーターの制御下に、wbgL遺伝子(EP 11 1151 571.4)によりコードされる2’-フコシルトランスフェラーゼと、E.coli由来lacY、manB、manC、gmd、およびfclの各コピーとが組み込まれた菌株であり、さらにgalM、galK、galT、およびgalEを有する機能的なgalオペロン(
図10を参照のこと)を含む)を収容した。発酵槽2には、β-ガラクトシダーゼをコードする遺伝子E.coli由来lacZが発現していることを除いては、発酵槽1で使用した2’-フコシルラクトース発酵菌株と遺伝学的に同一の出発培養物を収容した(
図5に記載の装置を参照のこと)。両発酵槽には、所定の塩培地を使用した。該塩培地は、7g/L NH
4H
3PO
4、7g/L K
2HPO
4、2g/L KOH、0.37g/Lクエン酸、1ml/L消泡剤(Struktol J673、Schill+Seilacher)、1mM CaCl
2、4mM MgSO
4、ならびに0.101g/Lニトリロ三酢酸(pH 6.5)、0.056g/Lクエン酸第二鉄アンモニウム、0.01g/L MnCl
2・4H
2O、0.002g/L CoCl
2・6H
2O、0.001g/L CuCl
2・2H
2O、0.002g/Lホウ酸、0.009g/L ZnSO
4・7H
2O、0.001g/L Na
2MoO
4・2H
2O、0.002g/L Na
2SeO
3、および0.002g/L NiSO
4・6H
2Oからなる微量元素、ならびに基質としての10mMラクトースおよび炭素源としての2%グリセロールを含む。
【0092】
図に示すように、発酵槽1に、40mMラクトースおよび5%グリセロールを含む培地(7g/L NH4H3PO4、7g/L K2HPO4、2g/L KOH、0.37g/Lクエン酸、1mL/L消泡剤、1mM CaCl2、4mM MgSO4、ならびに0.101g/Lニトリロ三酢酸(pH6.5)、0.056g/Lクエン酸第二鉄アンモニウム、0.01g/L MnCl2・4H2O、0.002g/L CoCl2・6H2O、0.001g/L CuCl2・2H2O、0.002g/Lホウ酸、0.009g/L ZnSO4・7H2O、0.001g/L Na2MoO4・2H2O、0.002g/L Na2SeO3、および0.002g/L NiSO4・6H2Oからなる微量元素)を定量供給した。作業容量が1LであるNew Brunswick並行発酵システム(BioFlow/CelliGen 115)を用いて、連続供給する供給液の流量を20mL/hとした。同時に作動する3つのポンプの作用により、連続製造においても、唯一の糖生成物としてほぼ2’-フコシルラクトースのみを含む20mL/hの生成物の流液が得られた。
【0093】
図6は、発酵槽1から採取した生成物の流液のHPLC分析の結果を示す。無細胞発酵培養液の分析から、ラクトースおよび2’-フコシルラクトースがともに存在することがわかる。一方、
図7は、発酵槽2から得られた生成物の流液のHPLC分析の結果を示した図である。HPLC分析から、基質であるラクトースが消失していることがわかる。該ラクトースは、β-ガラクトシダーゼをコードする、E.coli由来lacZ遺伝子の発現、および遊離したガラクトースを代謝するためのgalオペロンの発現を通して菌株によって代謝されたものと考えられる。
【0094】
ラクト-N-テトラオースの製造におけるグリコシダーゼ処理による糖混合物の分解
ラクトースをラクト-N-テトラオースへと発酵させる際、添加した基質以外に、ラクト-N-トリオース II(LNT-2)も蓄積する可能性がある。ラクト-N-テトラオースを精製するためのより経済的な発酵ろ液を得るために、ラクトースおよびLNT-2を特異的に分解することが望ましいことがわかった。
【0095】
上記目的のため、β-ガラクトシダーゼ以外に、LNT-2に特異的に作用してN-アセチルグルコサミンとラクトースへと分解するための(Bifidobacterium bididum JCM1254のbbhI遺伝子によってコードされる)β-N-アセチルヘキソサミニダーゼを発現させる菌株を構築した。生じたラクトースはさらに切断され、グルコースおよびガラクトースへと分解された。生じたグルコースは、菌株によって効率的に代謝されたが、使用したE.coli BL21(DE3)株は、galオペロン中にDE3プロファージが組み込まれていることから、ガラクトースを異化することはできなかった。ガラクトースを効率的に分解するために、E.coli K株 JM109由来のgalオペロンを増幅してE.coli BL21(DE3)に導入し、(エピソーマルベクターシステムを用いて)Lamba Red組換えタンパク質を同時に発現させることによって、形質変換体を作製した。ガラクトースを分解することが可能なE.coli BL21形質転換体を、ガラクトースを含む最少培地寒天プレートやガラクトースを含むマッコンキー寒天プレートでスクリーニングすることにより分離した。
【0096】
ラクト-N-テトラオースの発酵終了後(オリゴ糖混合物は、酵素反応または化学合成反応によっても得られる可能性があることに留意されたい)、遺伝子操作を行ったグリコシダーゼ菌株をバッチ発酵に加えた。上述の2’-フコシルラクトース発酵と同様に、望ましくないオリゴ糖類は、分解工程に使用された培養物の量によるが、数分から数時間以内に分解された。
【0097】
本発明の発酵過程の最後にグリコシダーゼ分解工程が含まれることにより、生じる発酵ろ液の複雑性が著しく緩和された。
図8は、グリコシダーゼ処理およびβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼ処理の前に採取した無細胞発酵培地の分析の結果を示した図であり、
図9は、グリコシダーゼ処理およびβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼ処理の後に採取したサンプルに関して示したものである。HPLCクロマトグラムの比較から、β-ガラクトシダーゼ処理およびβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼ処理を行う前のサンプル中に存在していたラクトースおよびラクト-N-トリオース IIが消失したことが明確にわかる。
【0098】
上記のように、本発明による使用および方法が、微生物発酵反応液からヒトミルクオリゴ糖(HMO)を精製するのに特に有用であることがわかった。ほぼ全てのヒトミルクオリゴ糖は、還元末端にGal-β-1,4-Glc二糖類サブユニットを含む。ラクトース部分(Gal-β-1,4-Glc)のサブユニットは、完全発酵により得ることができるが、ラクトースを基質として微生物発酵液に加えてもよい。容積収率を最大にするためには、過剰量のラクトースを発酵液に加えることが有利であることが多い。
【0099】
本発明によれば、ラクトースまたは不要なラクトース副産物を除去するために、β-ガラクトシダーゼなどのグリコシダーゼが特定の時点において発酵液に加えられ、それにより、ラクトースおよび副産物が特異的に分解される。
【0100】
あるいは、上述のように、転写が制御されている(または活性が制御されている)グリコシダーゼを産生菌株において誘導してもよく、所望の活性を示す別の菌株を特定の時点において発酵液に加えてもよい。
【0101】
また、上述かつ上記のように、本発明の方法ではさらに、グリコシダーゼの作用によって遊離した単糖類を発酵培地から効率的かつ効果的に取り除くために、糖異化経路の制御を解除する。また、前駆体として加えられた単糖類も、この方法によって同様に発酵培地から取り除くことができる。
【配列表】