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特許7389597ステージ装置、リソグラフィ装置、および物品製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】ステージ装置、リソグラフィ装置、および物品製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/68 20060101AFI20231122BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
H01L21/68 K
G03F7/20 501
G03F7/20 521
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019171846
(22)【出願日】2019-09-20
(65)【公開番号】P2021048379
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗原 孝史
【審査官】内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-173500(JP,A)
【文献】特開2001-175332(JP,A)
【文献】特開2014-192254(JP,A)
【文献】特開2006-211873(JP,A)
【文献】特開2017-005929(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/68
G03F 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗動ステージと、
微動ステージと、
前記粗動ステージと前記微動ステージとの間に配置され、前記粗動ステージに前記微動ステージを追従させるよう、前記微動ステージに推力を与えて前記粗動ステージの駆動方向に前記微動ステージを移動させる電磁アクチュエータと、
前記電磁アクチュエータを制御する制御部と、を有し、
前記制御部は、前記粗動ステージの駆動開始位置に応じて前記電磁アクチュエータの制御パラメータを決定する
ことを特徴とするステージ装置。
【請求項2】
前記粗動ステージを駆動する粗動リニアモータを有し、
前記粗動リニアモータは、固定子と可動子とを含み、
前記制御部は、前記粗動リニアモータに単位電流を与えたときに発生する推力を表す推力定数の、前記固定子に対する前記可動子の位置に対するばらつきに基づいて、前記駆動開始位置に応じた前記制御パラメータを決定する
ことを特徴とする請求項1に記載のステージ装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記駆動開始位置と前記制御パラメータとの間の予め得られた対応関係に基づいて、前記制御パラメータを決定することを特徴とする請求項2に記載のステージ装置。
【請求項4】
前記固定子は、前記駆動方向に配列された複数のコイルを含み、
前記推力定数のばらつきは前記複数のコイルの配列周期に応じた周期を有し、
前記対応関係は、前記周期における前記駆動開始位置と前記制御パラメータとの間の予め得られた対応関係である
ことを特徴とする請求項3に記載のステージ装置。
【請求項5】
前記微動ステージを駆動する微動リニアモータを有し、
前記制御部は、前記電磁アクチュエータの誘起電圧をフィードバックして前記電磁アクチュエータを駆動するフィードバック制御系を含み、前記微動リニアモータの駆動力に加えて、前記電磁アクチュエータの推力を前記微動ステージに印加するように構成され、
前記制御部は、前記電磁アクチュエータに駆動電圧を印加する電圧ドライバを含み、
前記制御パラメータは、前記電圧ドライバの指令値に対するゲインである
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のステージ装置。
【請求項6】
前記電磁アクチュエータは、
前記粗動ステージおよび前記微動ステージの一方に配置された電磁石であるEコアと、
前記粗動ステージおよび前記微動ステージの他方に前記Eコアと前記駆動方向において対面するように配置された磁性材であるIコアと、
を含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のステージ装置。
【請求項7】
粗動ステージと、
微動ステージと、
前記粗動ステージを駆動する粗動リニアモータと、
前記粗動ステージと前記微動ステージとの間に配置され、前記粗動ステージの表面に沿う方向に前記微動ステージに推力を与える電磁アクチュエータと、
前記電磁アクチュエータを制御する制御部と、を有し、
前記粗動リニアモータは、固定子と可動子とを含み、
前記制御部は、前記粗動リニアモータに単位電流を与えたときに発生する推力を表す推力定数の、前記固定子に対する前記可動子の位置に対するばらつきに基づいて、前記粗動ステージの駆動開始位置に応じた前記電磁アクチュエータの制御パラメータを決定する、
ことを特徴とするステージ装置。
【請求項8】
請求項1乃至のいずれか1項に記載のステージ装置と、
前記ステージ装置に搭載された原版保持部と、を有し、
前記原版保持部によって保持された原版のパターンを基板に転写することを特徴とするリソグラフィ装置。
【請求項9】
請求項1乃至のいずれか1項に記載のステージ装置と、
前記ステージ装置に搭載された基板保持部と、を有し、
前記基板保持部によって保持された基板に原版のパターンを転写することを特徴とするリソグラフィ装置。
【請求項10】
前記リソグラフィ装置は、前記原版および前記基板を走査しながら前記基板を露光する露光装置であることを特徴とする請求項またはに記載のリソグラフィ装置。
【請求項11】
請求項乃至10のいずれか1項に記載のリソグラフィ装置を用いて基板にパターンを形成する工程と、
前記パターンが形成された基板を加工する工程と、
を有し、前記加工された基板から物品を製造することを特徴とする物品製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステージ装置、リソグラフィ装置、および物品製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス等の物品の製造に使用されるリソグラフィ装置は、原版または基板を保持して移動するステージ装置を有する。この技術分野におけるステージ装置は、粗動リニアモータによって大ストロークの駆動を行う粗動ステージと、粗動ステージの上で微動リニアモータによって微細な位置決めを行う微動ステージとを有しうる。リソグラフィ装置のステージ装置には、大ストローク、高速、かつ高精度に位置決めを行うことが求められる。このような性能を追求したステージ装置として、微動ステージを高加速度で粗動ステージに追従させるための電磁アクチュエータを更に備えるものがある(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-121656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、スループット向上のためにステージの移動速度の高速化の要求が年々高まっている。そのため、粗動ステージの高速化に対応して微動ステージの位置決め精度を向上させることができない問題が顕著になっている。
【0005】
本発明は、例えば、微動ステージの位置決めの高精度化に有利なステージ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面によれば、粗動ステージと、微動ステージと、前記粗動ステージと前記微動ステージとの間に配置され、前記粗動ステージに前記微動ステージを追従させるよう、前記微動ステージに推力を与えて前記粗動ステージの駆動方向に前記微動ステージを移動させる電磁アクチュエータと、前記電磁アクチュエータを制御する制御部と、を有し、前記制御部は、前記粗動ステージの駆動開始位置に応じて前記電磁アクチュエータの制御パラメータを決定することを特徴とするステージ装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、例えば、微動ステージの位置決めの高精度化に有利なステージ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】露光装置の構成を示す図。
図2】原版ステージ(ステージ装置)の構成を示す図。
図3】粗動ステージの制御ブロック線図。
図4】粗動リニアモータの構成を示す図。
図5】電磁アクチュエータの構成を示す図。
図6】一例における微動ステージの制御ブロック線図。
図7】ゲインGを調整する方法を示すフローチャート。
図8】粗動ステージの可動子の駆動位置と推力定数との関係を説明する図。
図9】駆動開始位置に対する微動ステージの等速区間における偏差の平均値を示すグラフ。
図10】ゲインテーブルを作成する方法のフローチャート。
図11】推力定数の周期に基づいて駆動開始位置を算出する方法を説明する図。
図12】微動ステージの制御ブロック線図。
図13】推力定数の微分値に基づいて駆動開始位置を算出する方法を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
本発明のステージ装置は、原版のパターンを基板に形成するリソグラフィ装置に適用されうるものである。リソグラフィ装置は、例えば、露光装置、インプリント装置、荷電粒子線描画装置等のいずれかでありうる。露光装置は、基板の上に供給されたフォトレジストを原版を介して露光することによって該フォトレジストに原版のパターンに対応する潜像を形成する。インプリント装置は、基板の上に供給されたインプリント材に型(原版)を接触させた状態でインプリント材を硬化させることによって基板の上にパターンを形成する。荷電粒子線描画装置は、基板の上に供給されたフォトレジストに荷電粒子線によってパターンを描画することによって該フォトレジストに潜像を形成する。以下では、具体例を提供するために、本発明のステージ装置が、リソグラフィ装置の1つである露光装置に適用される例を説明する。また、以下では、本発明のステージ装置が露光装置の原版ステージに適用される例を説明するが、本発明のステージ装置は基板ステージにも同様に適用されうる。
【0011】
図1は、本実施形態に係る露光装置100の構成を示す概略図である。本明細書および図面においては、水平面をXY平面とするXYZ座標系において方向が示される。XYZ座標系におけるX軸、Y軸、Z軸にそれぞれ平行な方向をX方向、Y方向、Z方向という。一般に、基板Wはその表面が水平面(XY平面)と平行になるように取り扱われる。
【0012】
露光装置100は、例えば、ステップ・アンド・スキャン方式で原版R(レチクル)のパターンを基板Wの上に露光(転写)する走査型露光装置である。ステップ・アンド・スキャン方式では、原版Rと基板Wとを相対的に走査(スキャン)させながら1ショットの露光が行われ、1ショットの露光終了後、基板のステップ移動により次のショット領域への移動が行われる。
【0013】
照明系101は、不図示の光源から放出された光を調整して原版Rを照明する。原版Rは例えば石英ガラスで構成され、そこには基板W上に転写されるべきパターン(例えば回路パターン)が形成されている。原版ステージ110は、原版Rを保持する原版保持部110aを搭載し、X,Y,Zそれぞれの方向に移動可能である。投影光学系111は、原版Rを通過した光を所定の倍率(例えば1/4倍)で基板W上に投影する。基板Wは、例えば単結晶シリコンからなる基板であり、予めその表面上にレジスト(感光剤)が塗布されている。基板ステージ104は、基板Wを保持するチャック105(基板保持部)を搭載し、X,Y,Zそれぞれの方向に移動可能である。露光装置100は、上記した照明系101および投影光学系111は、チャック105を介して基板ステージ104に保持された基板Wに原版Rのパターンを形成する形成部を構成する。
【0014】
制御装置106は、例えばCPUおよびメモリを含むコンピュータで構成され、露光装置100の各構成要素に接続されて、プログラムに従って各構成要素の動作を統括しうる。なお、制御装置106は、露光装置100の他の部分と共通の筐体内に構成されてもよいし、露光装置100の他の部分とは別体で構成されてもよい。
【0015】
図2は、原版ステージ110(ステージ装置)の構成を示す図である。原版ステージ110は、粗動ステージ11と、粗動ステージ11の上で移動する微動ステージ21とを有する。
【0016】
粗動ステージ11は、粗動リニアモータ13によって駆動されうる。粗動リニアモータ13は、左右両側の粗動リニアモータ13a,13bを含む。粗動リニアモータ13aは可動子31aと固定子32aとを含み、粗動リニアモータ13bは可動子31bと固定子32bとを含む。固定子32a,32bは、不図示のステージ定盤に支持され、可動子31a,31bは、固定子32a,32bとの電磁気作用によって粗動ステージ11と共にY方向に駆動されるように結合される。
【0017】
微動ステージ21は、粗動ステージ11と微動ステージ21との間に配置された微動リニアモータによって駆動されうる。微動リニアモータは、X方向に駆動力を発生させる微動Xリニアモータ51と、Y方向に駆動力を発生させる微動Yリニアモータ52と、Z方向に駆動力を発生させる微動Zリニアモータ53とを含みうる。微動Xリニアモータ51は、微動ステージ21のX方向の両端に配置された微動Xリニアモータ51a,51bを含む。微動Yリニアモータ52は、微動ステージ21のY方向の両端に配置された微動Yリニアモータ52a,52bを含む。また、微動Zリニアモータ53は、微動ステージ21の四隅に配置された微動Zリニアモータ53a,53b,53c,53dを含む。これらの微動リニアモータは、軸毎に独立した制御系により6軸(X,Y,Z,及び各軸まわりの回転方向)に位置決め制御される。
【0018】
加えて、粗動ステージ11と微動ステージ21との間には、電磁石の作用によって粗動ステージ11の表面に沿う方向であるY方向に微動ステージ21に推力を与える電磁アクチュエータ41が配置されている。電磁アクチュエータ41は、微動ステージ21の中央部を挟んでY方向の箇所に配置された電磁アクチュエータ41a,41bを含む。
【0019】
図3は、粗動ステージ11の制御ブロック線図である。レーザ干渉計、エンコーダ等の位置検出器(不図示)により粗動ステージ11の位置が検出され、入力された粗動ステージ11の位置指令値と検出位置との偏差が制御器101に入力される。例えばPID制御系に基づく制御器101は、入力された偏差に基づいて粗動リニアモータ11に推力を与えるための指令値を生成し、それを電流ドライバ102に出力する。電流ドライバ102は、入力された指令値に応じた電流を粗動リニアモータ13に与える。粗動リニアモータ13は、適宜コイルに電流を流すことによりY方向に駆動力を発生し、粗動ステージ11を駆動する。こうして粗動ステージ11の位置がフィードバック制御される。
【0020】
図4は、粗動リニアモータ13aの構成を示す図である。粗動リニアモータ13bの構成も粗動リニアモータ13aの構成と同様であるため、粗動リニアモータ13bの構成の説明は省略する。図4において、可動子31aは、複数の永久磁石からなる磁石群を含む磁石ユニット62と、この磁石ユニット62を保持しステージ面に取り付けるための可動子板63とを有する。磁石ユニット62は、磁極の向きがZ方向である複数の主極磁石62aと、磁極の向きがY方向である複数の補極磁石62bとを含む。複数の主極磁石62aと複数の補極磁石62bとは、Y方向に交互に配列されている。ここで、複数の主極磁石62aの磁極方向は交互に反対向き(±Z方向)になっており、同様に、複数の補極磁石62bの磁極方向も交互に反対向き(±Y方向)になっている。
【0021】
固定子32aは、強磁性体で作られたヨーク65と、ヨーク65にY方向に等間隔に配列された複数のコイル61とを含む。このような構成の固定子32aが2つ用意され、2つの固定子32aは、コイル61同士が対面するようにZ方向に離間して配置され、この2つの固定子32aの間に可動子31aが配置される。
【0022】
図5は、電磁アクチュエータ41a,41bの構成を示す図である。電磁アクチュエータ41aは、電磁石の役割を果たすEコア82aと、磁性材であるIコア81aとを含む。図5の例では、Eコア82aとIコア81aとがY方向において対面するように、Eコア82aが粗動ステージ11の上凸部の側壁に取り付けられ、Iコア81aが微動ステージ21の下凸部の側壁に取り付けられている。
【0023】
なお、Eコア82aとIコア81aとの位置関係は逆でもよく、Eコア82aが微動ステージ21に取り付けられ、Iコア81aが粗動ステージ11に取り付けられてもよい。このように、電磁アクチュエータ41aは、粗動ステージ11および微動ステージ21の一方に配置された電磁石であるEコア82aと、粗動ステージ11および微動ステージ21の他方に配置された磁性体であるIコア81aとを有する。
【0024】
Eコア82aにはコイル83aが巻きつけられており、このコイル83aに電流を流すことで磁束が発生し、Eコア82aとIコア81aに磁極が発生する。Eコア82aとIコア81aとの間に発生する磁力による吸引力が電磁アクチュエータ41aの推力になる。
【0025】
Eコア82aには、磁束検出コイル84aも巻き付けられている。磁束検出コイル84aには、磁束の時間変化分が誘起電圧として発生し、これを積分することで電磁アクチュエータ41aに発生する磁束を検出することができる。電磁アクチュエータ41aの推力は磁束の二乗に比例することを利用して、電磁アクチュエータ41aの推力が算出されうる。
【0026】
電磁アクチュエータ41bの構成も電磁アクチュエータ41aと同様である。すなわち、電磁アクチュエータ41bは、電磁石の役割を果たすEコア82bと、磁性材であるIコア81bとを含む。Eコア82bとIコア81bとがY方向において対面するように、Eコア82bが粗動ステージ11の上凸部の側壁に取り付けられ、Iコア81bが微動ステージ21の下凸部の側壁に取り付けられている。
【0027】
なお、Eコア82bとIコア81bとの位置関係は逆でもよく、すなわち、Eコア82bが微動ステージ21に取り付けられ、Iコア81bが粗動ステージ11に取り付けられてもよい。このように、電磁アクチュエータ41bは、粗動ステージ11および微動ステージ21の一方に配置された電磁石であるEコア82bと、粗動ステージ11および微動ステージ21の他方に配置された磁性体であるIコア81bとを有する。
【0028】
Eコア82bにはコイル83bが巻きつけられており、このコイル83bに電流を流すことで磁束が発生し、Eコア82bとIコア81bに磁極が発生する。Eコア82bとIコア81bとの間に発生する磁力による吸引力が電磁アクチュエータ41bの推力になる。
【0029】
Eコア82bには、磁束検出コイル84bも巻きつけられている。磁束検出コイル84bには、磁束の時間変化分が誘起電圧として発生し、これを積分することで電磁アクチュエータ41bに発生する磁束を検出することができる。電磁アクチュエータ41bの推力は磁束の二乗に比例することを利用して、電磁アクチュエータ41bの推力が算出されうる。
【0030】
図6(a)は、一例における、微動ステージ21の制御ブロック線図である。
【0031】
レーザ干渉計、エンコーダ等の位置検出器(不示図)により微動ステージ21の位置が検出され、入力された微動ステージ21の位置指令値と検出位置との偏差Eが制御器201に入力される。例えばPID制御系に基づく制御器201は、入力された偏差Eに基づいて微動リニアモータ51,52,53に推力を与えるための指令値を生成し、それを電流ドライバ202に出力する。電流ドライバ202は、入力された指令値に応じた電流を微動リニアモータ51,52,53に与える。微動リニアモータ51,52,53は、与えられた電流により駆動力を発生し、微動ステージ21を駆動する。こうして微動ステージ21の位置がフィードバック制御される。
【0032】
このとき、電磁アクチュエータ制御部301から出力される電磁アクチュエータ41の推力Fが、微動ステージ21の加減速時に、微動ステージ21に供給される。磁束演算器302において、電磁アクチュエータ41の推力Fが磁束の二乗に比例することを用いて磁束指令値Mが計算され、電磁アクチュエータ制御部301に入力される。電磁アクチュエータ41の推力Fが変化した状態(誤差を持った状態)で微動ステージ21をY方向に駆動した場合、微動Yリニアモータ52a,52bは、電磁アクチュエータ41の推力変化分を補う。微動ステージ21は、X,Y,Z方向のnmオーダの精密な位置を微動リニアモータ51,52,53によって制御し、電磁アクチュエータ41は、加減速に必要な推力を印加するために用いられる。これにより、高加速度で微動ステージ21を粗動ステージ11に追従させ、かつ、露光時はnmオーダでの高精度な位置決めを可能にしている。
【0033】
図6(b)は、電磁アクチュエータ制御部301の制御ブロック線図である。図6(b)では、電磁アクチュエータ制御部301は、電磁アクチュエータ41の誘起電圧のフィードバックして電磁アクチュエータ41を駆動するフィードバック制御系を含む。
【0034】
電磁アクチュエータ41から発生した誘起電圧が磁束検出コイル84(84aまたは84b)によって検出され、その値を積分器401に入力することで磁束の検出結果が得られる。加算器402では、磁束指令値Mと検出された磁束との差分である磁束誤差が算出される。この磁束誤差は、電磁アクチュエータ41に駆動電圧を印加する電圧ドライバ404の指令値となる。ここでは、制御器403は、この指令値である磁束誤差にゲインGを乗じた値を電圧ドライバ404に送る。電圧ドライバ404は、入力された値に応じた電圧を電磁アクチュエータ41のコイル83(83aまたは83b)に印加する。これによってコイル83に電流が流れることで推力Fが発生する。電磁アクチュエータ41の推力Fは磁束の二乗に比例することを利用し、磁束を制御することで、等価的に推力が制御される。
【0035】
ゲインGは、電圧ドライバ404の指令値である磁束誤差に対するゲインである。より具体的には、ゲインGは、電磁アクチュエータ41の組み立て誤差や部品のばらつきなどにより微動ステージ21の偏差Eが大きくなることを低減するために用いられる係数(制御パラメータ)である。そのため、ステージ装置を実際に使用する前に、ゲインGを決定しておく必要がある。
【0036】
図7に、ゲインGの調整手順のフローチャートを示す。
【0037】
S11で、通常の初期化動作が行われる。初期化動作により、位置計測器の初期化、粗動ステージ11および微動ステージ21の原点出しが完了する。これにより、位置サーボ系が機能して微動ステージ21を追従させながら粗動ステージ11を任意の位置に駆動することが可能になる。
【0038】
S12で、粗動ステージ11の駆動開始位置P(スキャン開始位置)および駆動ストローク長Sが決定される。これらのパラメータは、ステージ装置を使用する条件から決定されうる。駆動開始位置Pおよび駆動ストローク長Sのセットは1組とする。駆動開始位置は、例えば、画角に対応した走査駆動の初期位置でありうる。
【0039】
S13で、電磁アクチュエータ41のゲインGが決定される。粗動ステージ11が駆動したときに微動ステージ21が粗動ステージ11と干渉することなく追従できるような電磁アクチュエータ41の推力Fが決定され、ゲインGの初期値は、この決定された推力Fを制御器403が出力可能な値に設定される。2回目以降は、その初期値を基準にして、予め決めた範囲内でゲインGの値を振って最適な値に決定される。なお、振り幅は任意である。
【0040】
S14で、S12で決定された駆動開始位置Pから粗動ステージ11を駆動ストローク長Sだけ駆動させる。この駆動は複数回、行ってもよい。
【0041】
S15で、評価値が算出される。粗動ステージ11の駆動速度は、加速区間、等速区間、減速区間に分けることができる。例えば、粗動ステージ11が等速区間となっている間の偏差Eを小さくしたい場合は、等速区間の偏差を用いて評価値が決定される。この場合、等速区間の偏差の平均値、積分値、または最大値等の統計値が評価値となりうる。S14において、粗動ステージ11を複数回連続して駆動させた場合は、そのときに得られた全ての偏差の平均値、積分値、または最大値等の統計値を評価値としてもよい。
【0042】
S16で、評価値が最小となるときのゲインGが採用される。ゲインGを変更してS14~S15を繰り返すことで、得られた評価値が最小となるときのゲインGが、図6に示す微動ステージの制御ブロックに組み込まれる。
【0043】
しかし、図7の手順に従って調整されたゲインGを用いてステージ装置を駆動させると、等速区間での微動ステージ21の偏差Eが粗動ステージ11の駆動開始位置に依存して大きくなる傾向がある。これは、偏差Eが粗動リニアモータ13が持つ推力定数のばらつきに影響されているためである。推力定数とは、粗動リニアモータ13に対して単位電流(例えば1[A])を流したときに発生する推力をいい、推力の効率を示す値である。よって、粗動リニアモータ13の推力定数をK[N/A]とすると、電流をI[A]流したときの粗動リニアモータ13の推力LF[N]は、
LF=K×I ・・・(1)
となる。
【0044】
推力定数は、固定子と可動子との相対位置にかかわらず一定であることが理想的である。しかし、実際のリニアモータでは、磁石やコイルの位置ずれなどにより固定子に対する可動子の位置によって推力定数Kがばらつくため、リニアモータに一定の電流を流した際に生じる推力は可動子の位置によってムラがある。このような推力定数の変動(ばらつき)は、「推力リップル」と呼ばれている。
【0045】
この推力定数の傾向は、以下のような計測によって得ることができる。粗動リニアモータ13の可動子31を速度v[m/s]で動かしたときに磁石とコイルの相互作用により誘起電圧Ve[V」が生じる。推力定数Kはこの速度vと誘起電圧Veから次式により求めることができる。
【0046】
K=Ve/v ・・・(2)
【0047】
粗動ステージ11の粗動リニアモータ13では、2つある可動子31a,31bのうちの一方の可動子のみに電流を流し駆動させる。そのとき他方の可動子(磁石)と固定子(コイル)の相互作用により生じる誘起電圧を測定する。このようにすることで、粗動ステージ11に加わる外乱力の一切を含まない純粋な推力定数Kを求めることができる。
【0048】
粗動リニアモータ13において、可動子31の移動可能区間の推力定数Kを測定するために、可動子31を移動可能区間の全体(図8(a)の矢印で示される区間)にわたって駆動させる。ただし、図8(b)に示すように、移動可能区間の両端においては可動子31は停止しなければならないので、移動可能区間は、両端部における加減速区間92と、中間部における等速区間91とで構成されることになる。そうすると、移動可能区間における可動子31の速度プロファイルは図8(b)における破線グラフで示されるようなものとなる。可動子31を移動可能区間の全体にわたって駆動させた結果、図8(c)に示すような、駆動位置に応じた推力定数71が得られる。等速区間91では、誘起電圧のSN比が大きくなる駆動速度を維持できるので、正確な推力定数71を求めることができ、その推力定数71は複数のコイルの配列ピッチに応じた周期性を持っていることが分かる。
【0049】
粗動ステージ11を駆動させると、推力定数71のばらつきに影響されて、粗動ステージ11の位置偏差もばらつく。このため、粗動ステージ11に追従する微動ステージ21は、電磁アクチュエータ41のゲインGが一定であるために、粗動ステージ11の位置偏差のばらつきに影響されてしまう。
【0050】
図9は、粗動ステージ11の駆動開始位置Pに対する微動ステージ21の等速区間における偏差の平均値を示すグラフである。なお、駆動ストローク長は一定としている。図9の第1の例では、駆動開始位置Pを13mmとしてゲインGが調整されている。この場合、粗動ステージの駆動開始位置Pを9~17mmまで変化させて駆動させたときに生じた偏差の平均値は、ゲインGを調整した駆動開始位置(13mm)から離れるにつれ大きくなる傾向がある。図9の第2の例は、駆動開始位置ごとにゲインGを調整して、そのゲインGに対応した駆動開始位置で駆動させた場合である。この場合、偏差の平均値は、3~4nm程度でほぼ一定の値を示している。つまり、ゲインGは調整時の駆動開始位置に依存していることが分かる。したがって、想定される駆動開始位置ごとにゲインGを調整することは位置決め精度の向上に役立つといえる。しかし、想定される駆動開始位置の全てにおいてゲインGを調整するのには膨大な時間がかかり、実用的ではない。
【0051】
そこで本実施形態では、推力定数71のばらつきに基づいて、ゲインGの調整を行う限定された数の駆動開始位置を決定し、決定された位置毎にゲインGを求め、ゲインテーブルを作成する。図10に、ゲインテーブルの作成手順のフローチャートを示す。
【0052】
S21で、通常の初期化動作が行われる。その内容はS11と同様である。S22で、粗動ステージ11の駆動開始位置群が算出される。図11に示すように、粗動リニアモータ13の推力定数71のばらつきは、複数のコイル61の配列周期に応じた周期性を持つ。推力定数71の周期Sを分割数Nで分割した定数C=S/Nの倍数となる位置群を定義する。ここで、mを推力定数71の各周期の周期番号、nを各周期の分割位置(n=1~N)、駆動開始位置群をP(m,n)とすると、駆動開始位置群P(m,n)は、次式で表される。
【0053】
P(m,n)=(m×N+n)×C
【0054】
そして、m=Mのときの位置群:
=(M×N+1)×C,
=(M×N+2)×C,
・・・,
=(M+1)×N×C、
(ただし便宜上、P(M,n)=Pとする。)
を、粗動ステージ11の駆動開始位置群とする。以降の手順に従い、これらの駆動開始位置ごとにゲインGが調整される。
【0055】
S23で、粗動ステージ11の駆動開始位置Pおよび駆動ストローク長Sが決定される。S22で求めたN個の駆動開始位置の中から、順に1つの位置が選択される。駆動ストローク長Sは、ステージ装置を使用する条件から決定される。駆動ストローク長Sは駆動開始位置Pによらず一定値でもよい。
【0056】
S24で、電磁アクチュエータ41のゲインGが決定される。ゲインGの決定方法は、S13と同様でよい。
【0057】
S25で、S23で決定された駆動開始位置Pから粗動ステージ11を駆動ストローク長Sだけ駆動させる。この駆動は複数回、行ってもよい。
【0058】
S26で、評価値が算出される。この評価値の算出方法は、S15と同様でよい。
【0059】
S27で、評価値が最小となるときのゲインGをゲインテーブルに登録する。ゲインGを変更してS25~S26を繰り返すことで、得られた評価値が最小となるときのゲインGが、ゲインテーブルGに登録される。登録する際は、駆動開始位置Pの係数nとゲインGを関連付けておく。こうして、ゲインテーブルGには、推力定数のばらつきの周期における、駆動開始位置と制御パラメータであるゲインとの間の予め得られた対応関係が記述される。
【0060】
S22で決定された全ての駆動開始位置P(n=1~N)について、S24~S27を繰り返すことで、ゲインテーブルG501が作成され、図12に示す微動ステージ21の制御ブロックに組み込まれる。
【0061】
図12は、実施形態における微動ステージ21の制御ブロック線図である。この制御ブロック線図によれば、電磁アクチュエータの制御パラメータであるゲインGが粗動ステージの駆動開始位置に応じて決定される。図12においては、図6のゲインGの代わりに、ゲインテーブルG501とゲイン決定器502が構成されている。なお、ゲイン決定器502の機能は電磁アクチュエータ制御部301(制御部)に含まれうる。
【0062】
実使用時は、粗動ステージ11の駆動開始位置P’をゲイン決定器502に入力する。ゲイン決定器502は、条件m×n×C<P’≦m×(n+1)×C(mは整数、CはS22で算出された定数)を満たす係数nを求める。その後、ゲイン決定器502は、ゲインテーブルG501を参照して係数nに対応するゲインGを求め、それを電磁アクチュエータ41の制御器403に入力する。なお、ゲインGを切り替えるタイミングは、例えば、電磁アクチュエータ41が推力を出していない時である。
【0063】
図10に示した手順に従い、等速区間の微動ステージ21の偏差の平均値が小さくなるように調整されたゲインテーブルG501を用いて、粗動ステージ11の駆動開始位置P’に応じて電磁アクチュエータ41のゲインGの切り替えが行われる。これにより、ゲイン決定器502(制御部)は、固定子に対する可動子の位置に対する推力定数のばらつきに基づいて、駆動開始位置に応じた制御パラメータであるゲインGを決定することができる。よって、粗動ステージ11の駆動開始位置P’によらず、等速区間の微動ステージ21の偏差の平均値を改善することができる。実際には、図9で示した駆動開始位置毎に調整したときと同程度の結果を得ることができる。また、推力定数の周期に基づいてゲインGの調整位置を求めることで、ゲインGを調整する時間を短縮することができる。
【0064】
S22では、粗動ステージ11の駆動開始位置群を、図11に示すように推力定数71の周期に基づいて算出しているが、図13に示すように推力定数71の1周期の間で微分値がゼロとなる位置を駆動開始位置群としてもよい。推力定数の微分値がゼロの位置は、推力定数が極大または極小になりうる位置であり、粗動ステージ11の位置偏差が大きく変化しやすいので、前述したように等間隔に分割する場合に比べて、微動ステージ21の偏差を改善させることができる場合がある。
【0065】
上述の実施形態では、離散的な駆動開始位置群に対しゲインGを求めたが、時間に余裕があるのであれば、駆動開始位置毎にゲインGを調整してもよい。駆動後(停止後)の偏差を小さくしたいのであれば、駆動終了位置毎にゲインGを調整してもよい。
【0066】
以上では、説明を簡単にするため、図2に示したような、Y方向に駆動する粗動ステージ11を有するステージ装置に関して説明した。しかし、本発明は、X方向にのみ駆動する粗動ステージ、あるいは、X方向およびY方向に駆動する粗動ステージを有するステージ装置にも適用可能である。この場合、X方向に粗動ステージが駆動したときに微動ステージが追従するようにX方向に図5で示した電磁アクチュエータを設ける必要がある。
【0067】
<物品製造方法の実施形態>
本発明の実施形態における物品製造方法は、例えば、半導体デバイス等のマイクロデバイスや微細構造を有する素子等の物品を製造するのに好適である。本実施形態の物品製造方法は、上記のリソグラフィ装置(露光装置やインプリント装置、描画装置など)を用いて基板に原版のパターンを形成する工程と、かかる工程でパターンが形成された基板を加工する工程とを含む。更に、かかる製造方法は、他の周知の工程(酸化、成膜、蒸着、ドーピング、平坦化、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージング等)を含む。本実施形態の物品製造方法は、従来の方法に比べて、物品の性能・品質・生産性・生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
【0068】
(他の実施形態)
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読み出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0069】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0070】
100:露光装置、101:照明系、110:原版ステージ(ステージ装置)、111:投影光学系、104:基板ステージ、106:制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13