(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】摺動部材
(51)【国際特許分類】
C22C 9/02 20060101AFI20231122BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20231122BHJP
C22C 38/04 20060101ALI20231122BHJP
B22F 7/04 20060101ALN20231122BHJP
【FI】
C22C9/02
C22C38/00 301Z
C22C38/04
B22F7/04 A
(21)【出願番号】P 2019175169
(22)【出願日】2019-09-26
【審査請求日】2022-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】花井 亮
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-212211(JP,A)
【文献】特開2006-022896(JP,A)
【文献】特開2013-049887(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00- 9/10
C22C 33/00-38/60
B22F 1/00- 8/00
F16C 17/00-17/26
F16C 33/00-33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
背面および接合表面を有する裏金層と、
前記裏金層の前記接合表面上に設けられた銅合金からなる、摺動面を有する摺動層と
を備える摺動部材であって、
銅合金の組成は、0.5~12質量%のSn、0.06~0.4質量%のP、0.1~1質量%のFeを含み、残部がCu及び不可避不純物からなり、
前記裏金層は、0.07~0.35質量%の炭素を含有する亜共析鋼からなり、フェライト相およびパーライトからなる組織を有し、
前記裏金層は、前記接合表面から内部に向かって延在する空孔含有領域を有し、
前記摺動面に垂直な断面視にて、前記空孔含有領域には複数の閉空孔が存在し、該閉空孔の平均径は1~10μmであり、
前記複数の閉空孔のうちの少なくとも一部の閉空孔は、前記摺動面に垂直な断面視にて、その輪郭の一部が前記接合表面からなり、
前記空孔含有領域の厚さは2~20μmであり、前記空孔含有領域の体積V1に対する前記閉空孔の全体積V2の割合は、V2/V1=0.02~0.08である、摺動部材。
【請求項2】
前記摺動面に垂直な断面視にて、隣接する前記閉空孔どうしの前記接合表面に平行方向の平均離間距離は5~15μmである、請求項1に記載された摺動部材。
【請求項3】
前記摺動面に垂直な断面視にて、前記閉空孔の平均アスペクト比は2.5以下である、請求項1または請求項2に記載された摺動部材。
【請求項4】
前記裏金層のうち前記空孔含有領域を除く領域の組成は、0.07~0.35質量%のC、0.4質量%以下のSi、1質量%以下のMn、0.04質量%以下のP、0.05質量%以下のSを含み、残部がFe及び不可避不純物である、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された摺動部材。
【請求項5】
前記銅合金は、0.01~5質量%のAl、0.01~5質量%のSi、0.1~5質量%のMn、0.1~30質量%のZn、0.1~5質量%のSb、0.1~5質量%のIn、0.1~5質量%のAg、0.5~25質量%のPb、0.5~20質量%のBiのうちから選ばれる1種以上をさらに含む、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載された摺動部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば内燃機関や自動変速機に用いられる軸受や各種機械に用いられる軸受などの摺動部材に関するものである。詳細には、本発明は、裏金層上に形成された摺動層を備える摺動部材に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来から内燃機関や自動変速機等の軸受部には、銅合金からなる摺動層を鋼裏金層上に設けた摺動材料を円筒形状や半円筒形状に成形したすべり軸受などの摺動部材が用いられている。例えば、特許文献1および特許文献2には、銅鉛軸受合金やリン青銅を摺動層に用いた摺動部材が記載されている。このような摺動部材では、銅合金からなる摺動層により摺動特性とともに耐焼付や耐摩耗性が得られ、他方、裏金層は銅合金の支持体として機能するとともに摺動部材に強度を付与している。
【0003】
内燃機関や自動変速機の運転時、摺動部材は、摺動層の摺動面で、相手軸部材からの動荷重を支承する。例えば、すべり軸受は、内燃機関や自動変速機等の軸受ハウジングの円筒形状の軸受保持穴に装着して用いられ、回転する相手軸部材からの動荷重を受ける。近年、内燃機関や自動変速機は、低燃費化のため軽量化がなされ、従来よりも軸受ハウジングの剛性が低くなっている。そのため、内燃機関の運転時、内燃機関および内燃機関に接続する自動変速機の軸受部では、相手軸部材からの動荷重負荷により軸受ハウジングが弾性変形しやすくなっている。軸受ハウジングの軸受保持穴に装着された摺動部材(すべり軸受)は、軸受ハウジングの変形に伴い周方向に弾性変形する。このようにすべり軸受に変動する周方向力が加わると、従来の摺動部材は、銅合金からなる摺動層と鋼裏金層の弾性変形量の違いにより、これらの界面でせん断が起こる場合があり、摺動部材が破損する問題があった。
【0004】
特許文献3は、軸受合金層と鋼裏金層との接合強度を向上させることを課題にしている。特許文献3では、銅合金としてCu-Sn-Fe系合金を用い、熱処理によりSn-Fe化合物を析出させ、銅合金の結晶粒を微細化させており、それにより軸受合金層と鋼裏金層との接合強度を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-322462号公報
【文献】特開2002-220631号公報
【文献】特開2006-22896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
引用文献3の手法によっても軸受合金層と鋼裏金層との接合強度を高められるが、動荷重負荷がかかった場合の軸受合金層と鋼裏金層とのせん断の抑制には不十分であった。したがって、本発明の目的は、従来に比べて摺動層と裏金層との強固な接合を有する摺動部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点によれば、背面および接合表面を有する裏金層と、裏金層の接合表面上に設けられた銅合金からなる摺動層とを備える摺動部材が提供される。摺動層は摺動面を有する。この銅合金の組成は、0.5~12質量%のSn、0.06~0.4質量%のP、0.1~1質量%のFeを含み、残部がCu及び不可避不純物からなり、裏金層は、0.07~0.35質量%の炭素を含有する亜共析鋼からなり、フェライト相およびパーライトからなる組織を有する。裏金層は、接合表面から内部に向かって延在する空孔含有領域を有する。摺動面に垂直な断面視にて、空孔含有領域には、複数の閉空孔が存在し、この閉空孔の平均径は1~10μmである。複数の閉空孔のうちの少なくとも一部の閉空孔は、摺動面に垂直な断面視にて、その輪郭の一部が接合表面からなる。空孔含有領域の厚さは2~20μmであり、空孔含有領域の体積V1に対する閉空孔の全体積V2の割合は、V2/V1=0.02~0.08になっている。
【0008】
本発明による摺動部材は、摺動層との界面となる裏金層の接合表面に、上記の空孔含有領域を有する。この空孔含有領域は、複数の閉空孔を有するために弾性変形しやすくなっており、摺動層の銅合金との弾性変形量の差が小さくなっている。このため、摺動部材に外力が加わった場合、摺動層の銅合金と裏金層の空孔含有領域との弾性変形量の差が小さく、摺動層の銅合金と裏金層とのせん断が起き難い。
【0009】
本発明の一具体例によれば、摺動面に垂直な断面視にて、隣接する閉空孔どうしの接合表面に平行方向の平均離間距離は5~15μmであることが好ましい。
【0010】
本発明の一具体例によれば、摺動面に垂直な断面視にて、閉空孔の平均アスペクト比は2.5以下であることが好ましい。
【0011】
本発明の一具体例によれば、裏金層のうち空孔含有領域を除く領域の組成は、0.07~0.35質量%のC、0.4質量%以下のSi、1質量%以下のMn、0.04質量%以下のP、0.05質量%以下のSを含み、残部がFe及び不可避不純物であることが好ましい。
【0012】
本発明の一具体例によれば、銅合金は、0.01~5質量%のAl、0.01~5質量%のSi、0.1~5質量%のMn、0.1~30質量%のZn、0.1~5質量%のSb、0.1~5質量%のIn、0.1~5質量%のAg、0.5~25質量%のPb、0.5~20質量%のBiのうちから選ばれる1種以上をさらに含むことが好ましい。
【0013】
本発明のその他の目的、特徴及び利点は、添付図面を参照して以下の本発明の非限定的具体例の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る摺動部材の一例における摺動面に垂直方向の断面の模式図。
【
図2】
図1に示す裏金層の空孔含有領域付近の断面組織の模式図。
【
図2A】
図1に示す裏金層の厚さ方向中央部での断面組織の模式図。
【
図3】閉空孔どうしの間の離間距離L1を説明する図。
【
図5】従来の摺動部材の摺動面に垂直方向の断面の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図5に従来の摺動部材11の断面の模式図を示す。摺動部材11は、裏金層12の一方の表面上に銅合金14からなる摺動層13が形成されている。裏金層12は、炭素の含有量が0.07~0.35質量%の亜共析鋼であり、その組織は通常の亜共析鋼の組織を示す。すなわち、フェライト相6を主とし、粒状のパーライト7がフェライト相の素地に分散している(
図2A参照)。この組織が、厚さ方向の全体に均質に形成されている。そのため、裏金層12は、外力に対する変形抵抗が裏金層12の厚さ方向にわたって概ね均一になっている。
【0016】
上記のように軸受装置の運転時には、相手軸部材からの動荷重負荷により軸受ハウジングは弾性変形しやすくなっているので、従来の摺動部材11では、軸受ハウジングの軸受保持穴に装着された摺動部材(すべり軸受)は、軸受ハウジングの変形に伴い変動する周方向力が加わりそれに伴い弾性的な変形を生じる。従来の摺動部材11は、裏金層12が通常の亜共析鋼の組織であり、摺動層13の銅合金14よりも強度が高く変形抵抗が大きくなっているため、裏金層12と摺動層13との界面では、裏金層12と摺動層13の銅合金14との弾性変形量の差が大きく、そのため、裏金層12と摺動層13との間でせん断が発生し易い。
【0017】
本発明に係る摺動部材1の一具体例を
図1、
図2、
図2Aを参照して説明する。
図1は、裏金層2上に銅合金4からなる摺動層3を形成した摺動部材1の断面を示す模式図である。摺動層3は、裏金層2の反対側に摺動面31を有する。裏金層2は、一方の表面(接合表面21)上に摺動層3が形成されており、接合表面21の反対側に背面22を有する。銅合金層4との界面となる裏金層2の接合表面21には、下記に説明する空孔含有領域5が形成されている。
【0018】
なお、本発明の摺動部材は、摺動層および/または裏金層の表面にSn、Bi、Pbまたは、これら金属を基とする合金からなる被覆層や、合成樹脂または合成樹脂を基とする被覆層を任意に有してもよい。その場合でも本明細書では摺動層3の表面を「摺動面31」と称する。
【0019】
図2は、裏金層2の接合表面21付近の組織を示す拡大図であり、裏金層2には、その接合表面21から内部に向かって一定の距離だけ延在し、多数の閉空孔を有する空孔含有領域が存在する。他方、
図2Aは、裏金層2の厚さ方向中央部(以後、単に「裏金層2の中央部」という)の組織を示す拡大図である。
図2Aでは、組織中のフェライト相6およびパーライト7は、理解を容易にするために誇張して描かれている。なお、
図2では、裏金層2のフェライト相6およびパーライト7の組織は省略している。
【0020】
摺動層3の銅合金4の組成は、0.5~12質量%のSn、0.06~0.4質量%のP、0.1~1質量%のFeを含み、残部がCu及び不可避不純物である。Sn、P成分は、銅合金の強度を高める成分であるが、含有量が上記下限値未満の場合には、その効果が不十分であり、また、上記上限値を超える場合には、銅合金が脆くなる。
銅合金4のFe成分は、後述する焼結時に裏金層2の接合表面21付近のFe成分が拡散したものであり、後述する裏金層2の閉空孔部5の形成にも関係する。Feは、主に銅合金のPと反応し、金属間化合物41として銅合金4中に析出している。金属間化合物の組成は、Fe3PおよびFe2Pが主体であり、金属間化合物は銅合金結晶粒の粒界に分散している。
【0021】
銅合金4中のFe成分は、0.1~1質量%程度であり、銅合金4中の金属間化合物の体積割合は、0.5~5%程度である。銅合金4への裏金層2のFe成分の拡散および銅合金4のP成分との金属間化合物の形成は、摺動部材の摺動層の表面に垂直方向の断面組織を複数箇所(例えば5箇所)、EPMA(電子線マイクロアナライザ)を用いて成分測定を行うことにより確認できる。なお、後述する焼結時に摺動層3の銅合金4のP成分は、銅合金4との界面となる裏金層2の接合表面付近に拡散し、後述する裏金層2の空孔含有領域5の形成にも関係する。その焼結時に裏金層2の接合表面と接する付近の銅合金4には、裏金層2に含まれるFe成分以外の成分も拡散することがあるが、この場合も本発明の範囲である。
【0022】
また、銅合金4の組成は、0.5~12質量%のSn、0.06~0.4質量%のP、0.1~1質量%のFeを含み、さらに、選択成分として0.01~5質量%のAl、0.01~5質量%のSi、0.1~5質量%のMn、0.1~30質量%のZn、0.1~5質量%のSb、0.1~5質量%のIn、0.1~5質量%のAg、0.5~25質量%のPb、0.5~20質量%のBiから選ばれる1種以上を含むようにすることもできる。Al、Si、Mn、Zn、Sb、In、Agは、銅合金4の強度を高める成分であるが、含有量が上記下限値未満の場合には、その効果が不十分であり、また、上記上限値を超える場合には、銅合金4が脆くなる。Pb、Biは、銅合金4の潤滑性を高める成分であるが、含有量が上記下限値未満の場合には、その効果が不十分であり、また、上記上限値を超える場合には、銅合金4が脆くなる。なお、銅合金4にこれら選択成分を2種以上含有させる場合、合計で40質量%以下とすることが好ましい。
【0023】
摺動層3は、任意で、Al2O3、SiO2、AlN、Mo2C、WC、Fe2P、Fe3Pから選ばれる1種以上の硬質粒子を0.1~10体積%をさらに含むことができる。これら硬質粒子は、摺動層3の銅合金4の素地に分散して摺動層3の耐摩耗性を高めるが、含有量が上記下限値未満の場合には、その効果が不十分であり、また、上記上限値を超える場合には、摺動層3が脆くなる。これらの硬質粒子は摺動層3の焼結用原料である銅合金粉末に混合させることができる。なお、Fe2P、Fe3Pは上記の説明した裏金層2からのFeの拡散により形成されるもの以外に、硬質粒子を摺動層3の銅合金粉末に混合させることもできる。
【0024】
摺動層3は、任意で、MoS2、WS2、黒鉛、h-BNから選ばれる1種以上の固体潤滑剤を0.1~10体積%をさらに含むことができる。これら固体潤滑剤は、摺動層3の銅合金4の素地に分散して摺動層3の潤滑性を高めるが、含有量が上記下限値未満の場合には、その効果が不十分であり、また、上記上限値を超える場合には、摺動層3が脆くなる。
【0025】
裏金層2は、炭素の含有量が0.07~0.35質量%である亜共析鋼である。この裏金層2の組織は、
図2Aに示すように、フェライト相6とパーライト7とからなるものである。炭素含有量が0.07質量%未満の亜共析鋼を用いる場合には、裏金層2の強度が低く、摺動部材1の強度が不十分となる。他方、炭素含有量が0.35質量%を超える亜共析鋼を用いると、裏金層2が脆くなくなってしまう。
【0026】
なお、上記のとおり焼結時に摺動層3の銅合金4のP成分は、銅合金4との界面となる裏金層2の接合表面付近(空孔含有領域5)に拡散する。そのために、空孔含有領域5は、裏金層2のうち空孔含有領域を除く領域(以下、「主領域」という)よりもP成分が多くなっている。裏金層2の主領域の組成は、0.07~0.35質量%の炭素を含有し、さらに、0.4質量%以下のSi、1質量%以下のMn、0.04質量%以下のP、0.05質量%以下のSのいずれか一種以上を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなる組成にできる。なお、裏金層2の組織は、フェライト相6とパーライト7とからなるが、このことは微細な析出物(走査電子顕微鏡を用い1000倍で組織観察を行っても検出できない析出物相)を含むことを排除するものではない。
【0027】
裏金層2におけるフェライト相6は、炭素の含有量が最大で0.02質量%と少なく、純鉄に近い組成の相である。一方、裏金層2におけるパーライト7は、フェライト相と鉄炭化物であるセメンタイト(Fe3C)相とが薄い板状に交互に並んで形成されるラメラ組織を有し、フェライト相6よりも強度が高い。裏金層2は、空孔含有領域5(閉空孔51を除く)と主領域とで、フェライト相6とパーライト7の体積割合がほぼ同じになっている。
【0028】
空孔含有領域5は、複数の閉空孔51を有する。閉空孔51は、接合表面21近くのフェライト相6の結晶粒内または結晶粒間に形成されており、接合表面21に隣接して形成されている。すなわち、摺動面31に垂直(すなわち、裏金層2の接合表面21に垂直)な断面視にて、複数の閉空孔のうちの少なくとも一部(個数割合で80%以上)の閉空孔は、その輪郭の一部が接合表面21(閉空孔5が形成されなかった場合の仮想の接合表面21)により形成される。換言すれば、閉空孔51は、裏金層2(の材料)と接合表面21とにより画定される。好ましくは、実質的に全ての閉空孔は、その輪郭の一部が、接合表面21により形成される。また、複数の閉空孔51は、断面視にて、接合表面21に平行方向にほぼ同距離だけ離間し配されているものが多い。(
図2参照)。
【0029】
空孔含有領域5は、摺動面31に垂直な断面視にて、閉空孔51を包含するように規定された、接合表面21から内部に向かって一定厚さT1を有する領域である。空孔含有領域5の厚さT1は2~20μmである。厚さT1は、3~15μmであることがより好ましい。詳しくは、空孔含有領域5は、摺動面31に垂直な断面視にて、断面組織中で接合表面21から最も離間する閉空孔51の輪郭(裏金層2の内部側)に接し、且つ、接合表面21に平行な仮想線(
図2の点線L)を引いたときに、接合表面21から仮想線Lまでの間の領域である。閉空孔51は、空孔含有領域5以外の裏金層の組織中には観察されない。ただし、径が0.5μm未満の微小な欠陥などの空隙や小孔が存在することはあるが、それらは閉空孔51とはみなさない。
【0030】
なお、裏金層2の厚さは、一般的な摺動部材では最小でも0.7mmであるので、空孔含有領域5の厚さT1が2~20μmの範囲内であれば、裏金層2の強度への影響が少ない。さらに、裏金層の厚さTに対する空孔含有領域5の厚さT1の割合X1が0.07以下とすることが好ましい。
【0031】
焼結時に摺動層3の銅合金4のP成分は拡散して、裏金層2の空孔含有領域5のフェライト相6に固溶される形態になる。空孔含有領域5(閉空孔51を除く)におけるP成分の割合は0.1~0.35質量%程度である。
裏金層2の接合表面21付近への銅合金4のP成分の拡散は、摺動部材の摺動面31に垂直方向の断面組織を複数箇所(例えば5箇所)、EPMA(電子線マイクロアナライザ)を用いて成分測定を行うことにより確認できる。
後述する焼結時に裏金層2の摺動層3との界面となる接合表面21付近(空孔含有領域5の付近)には、銅合金のP成分以外に、Cu成分、Sn成分、または上記選択成分が拡散することがあるが、この場合も本発明の範囲である。
【0032】
空孔含有領域5の体積V1に対する閉空孔51の全体積V2の割合は、2~8%(V2/V1=0.02~0.08)とする。V2/V1の値が2%未満では、空孔含有領域5の変形抵抗が高すぎて、摺動層3の銅合金4との変形抵抗の差(外力を受けた際の弾性変形量の差)を小さくする効果が不十分となる。V2/V1の値が8%を超えると、裏金層2の空孔含有領域5の変形抵抗が低くなりすぎて、外力を受けた際、閉空孔51の周囲の裏金層2(フェライト相6)が座屈(塑性変形)することがある。
【0033】
閉空孔51の平均径は1~10μmである。閉空孔51の平均径が1μm未満であると、V2/V1の値が2%未満となりやすく、閉空孔51の平均径が10μm超えると、V2/V1の値が8%を超えやすくなり、好ましくない。
なお、閉空孔51の最大径が、空孔含有領域5の厚さT1よりも小さくなることは明らかである。
【0034】
空孔含有領域5の体積V1に対する閉空孔51の全体積V2の割合V2/V1は、電子顕微鏡を用いて摺動部材1の厚さ方向に平行な方向(摺動面31に垂直な方向)に切断された複数箇所(例えば5箇所)の断面組織(切断面を研磨、エタノールと3%硝酸との混合液であるナイタール液でエッチングした)において、裏金層2の接合表面21付近を倍率500倍で電子像を撮影し、その画像を一般的な画像解析手法(解析ソフト:Image-Pro Plus(Version4.5);(株)プラネトロン製)を用いて、上記のように空孔含有領域5を区分し、空孔含有領域5の接合表面21から距離(厚さ)を確認した後、空孔含有領域5の組織中の閉空孔51の面積率を測定する。この面積割合の値は、空孔含有領域5の全体積V1に対する閉空孔51の全体積V2の割合に相当する。ただし、電子像の撮影倍率は、500倍に限定されないで、他の倍率に変更することができる。
【0035】
閉空孔51の平均径は、上記の手法で得られた断面の電子像を上記の像解析手法を用い閉空孔51の面積を測定し、それを円と想定した場合の平均直径(円相当径)に換算して求める。ただし、上記のとおり、0.5μm未満の微小なものは閉空孔51とはみなさない。
【0036】
隣接する閉空孔51どうしの平均離間距離L1は2.5~25μmとすることが好ましく、さらに5~15μmとすることがより好ましい。ここで、隣接する閉空孔51どうしの平均離間距離L1は、摺動面31に垂直な断面視にて、接合表面21に平行方向の距離である(
図3参照)。この平均離間距離L1は、上記の手法で得られた電子像を上記の像解析手法を用い、閉空孔51と該空孔51に最も近くに位置する他の閉空孔51との間(閉空孔51の輪郭(線)どうしの間)の接合表面21に平行方向の長さ(閉空孔の輪郭間の長さ)を測定し平均することで求める。
【0037】
この平均離間距離L1が2.5μm未満であると、閉空孔51どうしの間の鋼材料(すなわち、空孔含有領域5の素地部)の厚さ(長さ)が薄くなりすぎて、外力を受けた際、閉空孔51どうしの間で裏金層2が座屈(塑性変形)することがある。この平均離間距離L1が25μmを超えると、摺動層3の銅合金4との変形抵抗の差(外力を受けた際の弾性変形量の差)を小さくする効果が不十分となる。
【0038】
閉空孔51の平均アスペクト比A1は3以下であることが好ましく、2.5以下であることがより好ましい。ここで、閉空孔51の平均アスペクト比A1は、摺動面31に垂直な断面視にて長軸と短軸との比の平均で表される。閉空孔51が略球状であると、外力を受けた際、閉空孔51の変形(閉空孔51の周囲の空孔含有領域5の素地部の変形)が起こり難い。なお、閉空孔51は、その長軸が接合表面21に略平行を向いて配向したものが多いことが好ましい。
【0039】
閉空孔51のアスペクト比A1は、上記の手法で得られた電子像を、上記の像解析手法を用い、各閉空孔51の長軸の長さL2と短軸の長さS1の比(長軸の長さL2/短軸の長さS1)の平均として求める(
図4参照)。なお、閉空孔の長軸の長さL2は、上記電子像中の閉空孔の長さが最大となる位置での長さを示し、閉空孔の短軸の長さS1は、この長軸の長さL2の方向に直交する方向での長さが最大となる位置での長さを示す。
【0040】
以下に、本実施形態に係る摺動部材の作製方法について説明する。
【0041】
まず、摺動層の上記組成の銅合金の粉末を準備する。また、摺動層に上記硬質粒子や上記固体潤滑剤を含有させる場合は、銅合金粉末と硬質粒子や固体潤滑剤粒子との混合粉を作製する。
【0042】
準備した銅合金粉末または混合粉を上記組成の鋼(亜共析鋼)板上に散布した後、粉末散布層を加圧することなく、焼結炉を用いて800~950℃の還元雰囲気で1次焼結を行い、鋼板上に多孔質銅合金層を形成し、室温まで冷却する。
【0043】
次に、多孔質銅合金層を緻密化し、さらに、鋼板の多孔質銅合金層と接する表面付近を活性化するために1次圧延を行う。従来の摺動部材の製造においては、この1次圧延は、多孔質銅合金層の空孔を減少させて緻密化することを目的として行われており、鋼板はほとんど圧延されなかった。しかし、本発明に係る摺動部材の製造では、この1次圧延での圧延率を従来よりも高くし、多孔質銅合金層が緻密化された後もさらに圧延する。1次圧延前の多孔質銅合金層の硬さは鋼板の硬さよりも低いが、この1次圧延にて多孔質銅合金層の空隙が減少し緻密化されるまでの間は、多孔質銅合金層のみが塑性変形するため十分に加工硬化させることができる。さらに、この緻密化し、且つ、加工硬化した多孔質銅合金層がさらに圧延されると、硬さの関係が逆転し、多孔質銅合金層が鋼板よりも硬さが大きくなり(例えば1次圧延後の圧延部材の緻密化された銅合金層の表面のビッカース硬さが、鋼板の背面のビッカース硬さよりも15Hv程度大きい)、鋼板も圧延されるようになる。このため、1次圧延にて、硬さが高くなった銅合金層と接する鋼板の表面付近は、内部に比べてより多くの結晶歪が導入されて活性な状態となる。
【0044】
次に、圧延された部材を焼結炉内で650℃以上鋼裏金の再結晶温度未満(例えば、700℃未満)の温度の還元雰囲気中での保持時間2~10分の回復処理を行った後、800~950℃の還元雰囲気で2次焼結を行い、銅合金層を焼結して、室温まで冷却する。この際に、裏金層の銅合金層との界面となる表面に空孔含有領域が形成される。
【0045】
空孔含有領域の形成機構は以下のように考えられる。
上記回復処理において、鋼板には回復現象が起こる。回復現象とは、鋼板が、再結晶温度未満の温度に加熱されることで、1次圧延(冷間加工)によりFe原子配列に導入された結晶歪(原子空孔)の一部が、鋼板の表面(接合表面)に移動(拡散)し、消滅する現象である。
【0046】
1次圧延にて緻密化された銅合金層と接する鋼板の表面付近に導入された結晶歪(原子空孔)は、上記回復処理により、結晶歪(原子空孔)の一部が、銅合金層と接する鋼板の表面側へ向かって移動するが、上記回復処理時には、同時に緻密化されているが焼結現象が起きていない銅合金の表面にCu-P―S液相(液相発生開始時(約650℃)では、液相中のP成分濃度は、原材料の銅合金粉末のP成分よりも高くなる)が発生し、接合表面付近では、この液相中のP成分が、原子空孔と置き換わるように鋼板の接合表面付近への拡散が起こる。裏金層の接合表面では、裏金層のFe成分のCu-P-Sn液相中への拡散速度が、Cu-P-Sn液相のP成分の裏金層への拡散速度よりも速いために、裏金層の接合表面に閉空孔が形成されると考える。
また、この回復処理時、裏金層の接合表面付近のCu-P-Sn液相中へ拡散したFe成分は、さらに、接合表面付近以外の銅合金の表面に発生するCu-P―S液相中へ拡散し、このため、焼結後の銅合金層の全体に、FeP系金属間化合物が析出した組織になると考える。
【0047】
ただし、銅合金に含まれるP成分が0.06質量%未満の場合には、銅合金に含まれるP成分の鋼板の表面付近への拡散およびが起き難くなり、また、裏金層が含むFe成分の銅合金への拡散が起き難くなり、空孔含有領域が形成され難くなる。詳細は不明であるが、銅合金がP成分を多く(0.06質量%以上)含むために上記回復処理において、銅合金に発生するCu-P―Sn系液相の量が多くなり、P成分の鋼板の表面付近への拡散および裏金層のFe成分の銅合金への拡散を促進していると考えられる。
【0048】
従来の摺動部材の製造においては、1次圧延にて多孔質焼銅合金層が緻密化する程度にのみ圧延するので、裏金層は圧延されない。そのため、裏金層(鋼板)の緻密化した銅合金層との界面付近に内部よりも多くの結晶歪が導入されて活性な状態となることがない。したがって、上記と同じ条件の回復処理を行っても、その後の2次焼結工程後の裏金層の組織は、空孔含有領域は形成されない。
【0049】
また、(先行技術文献3のように、)緻密化のための圧延の後に2次焼結を行なった銅合金層および裏金層からなる部材に対して、さらに2次圧延を行って銅合金層と裏金層とを共に圧延しても、2次焼結での熱処理により既に銅合金の硬さが裏金層の硬さよりも低くなっているので、また、銅合金層は既に緻密化されているので、2次圧延において銅合金層のみが優先し塑性変形(加工硬化)することもない。このように、2次圧延中に銅合金層が裏金よりも加工硬化し十分に硬くなることがないため、銅合金層との界面付近のみが内部より多くの結晶歪が導入されて活性な状態となることがない。このため、この圧延部材は、上記と同じ条件の回復処理および2次焼結工程での焼結条件と同じ条件で3次焼結を施しても、空孔含有領域は形成されない。
【0050】
本発明の摺動部材は、内燃機関や自動変速機に用いられる軸受に限定されないで、各種機械に用いられる軸受に適用できる。また、軸受の形状は、円筒形状や半円筒形状に限定されないで、例えば、軸部材の軸線方向負荷を支承する円環形状や半円環形状のスラスト軸受や、自動変速機のクラッチ部(ワンウェイクラッチ)に用いられる略コ字状断面を有する円環形状のエンドプレート等にも適用できる。