(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】ディーゼルエンジン用排ガス浄化装置およびその用途
(51)【国際特許分類】
F01N 3/08 20060101AFI20231122BHJP
F01N 3/24 20060101ALI20231122BHJP
F01N 3/36 20060101ALI20231122BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20231122BHJP
F01N 3/035 20060101ALI20231122BHJP
B01J 23/44 20060101ALI20231122BHJP
B01J 35/04 20060101ALI20231122BHJP
B01D 53/86 20060101ALI20231122BHJP
B01D 53/90 20060101ALI20231122BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
F01N3/08 B ZAB
F01N3/24 C
F01N3/24 E
F01N3/36 A
F01N3/28 301D
F01N3/28 301E
F01N3/035 A
B01J23/44 A
B01J35/04 301E
B01D53/86 222
B01D53/86 245
B01D53/86 280
B01D53/90
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
B01D53/94 400
(21)【出願番号】P 2019202862
(22)【出願日】2019-11-08
【審査請求日】2022-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000228198
【氏名又は名称】エヌ・イーケムキャット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高木 由紀夫
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 浩男
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-157739(JP,A)
【文献】特開2008-272659(JP,A)
【文献】国際公開第2013/172128(WO,A1)
【文献】特表2019-518896(JP,A)
【文献】特開2006-198490(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/08
F01N 3/24
F01N 3/36
F01N 3/28
F01N 3/035
B01J 23/44
B01J 35/04
B01D 53/86
B01D 53/90
B01D 53/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガス流れ上流側から順番に、
還元剤として尿素水を供給する第一の還元剤供給手段と、
第一の還元触媒と、
排ガス中の炭化水素、一酸化炭素、一酸化窒素を酸化し、必要により排ガス中に添加された酸化成分を酸化して排ガスを加熱するための、少なくとも白金とパラジウムを含有する酸化触媒と、
排ガス中から煤もしくは可溶性有機成分を分離して酸化除去するための、少なくとも白金とパラジウムを含有する触媒化フィルターと、
還元剤として尿素水を供給する第二の還元剤供給手段と、
第二の還元触媒を配置したものであって、
酸化触媒に含有される白金とパラジウムが、合金状態の白金-パラジウムと、単独の状態の白金からな
り、
前記触媒化フィルターに担持される白金とパラジウムが、合金状態の白金-パラジウムと、単独の状態の白金からなるものであり、
前記触媒化フィルターに担持される白金とパラジウムの合計量が、前記酸化触媒に含有される白金とパラジウムの合計量より少ないものであり、
前記触媒化フィルターに担持される合金化した白金とパラジウム、単独の白金の重量比率[Pt-Pd/Pt] が、前記酸化触媒に含有される合金化した白金とパラジウム、単独の白金の重量比率[Pt-Pd/Pt] より小さいものである、
ことを特徴とするディーゼルエンジン用排ガス浄化装置。
【請求項2】
酸化触媒が、フロースルー型ハニカム担体に少なくとも白金とパラジウムを含有する触媒組成物が担持されたものである請求項1記載のディーゼルエンジン用排ガス浄化装置。
【請求項3】
触媒化フィルターが、ウォールフロー型ハニカムフィルターに少なくとも白金とパラジウムを含有する触媒組成物が担持されたものである請求項1または2記載のディーゼルエンジン用排ガス浄化装置。
【請求項4】
ディーゼルエンジンと、請求項1~
3の何れかに記載のディーゼルエンジン用排ガス浄化装置を備えることを特徴とする乗物。
【請求項5】
自動車である請求項
4記載の乗物。
【請求項6】
ディーゼルエンジンからの排ガスを、請求項1~
3の何れかに記載のディーゼルエンジン用排ガス浄化装置で処理することを特徴とするディーゼルエンジンの排ガス浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、更に厳しさを増すディーゼルエンジン排ガス中の有害成分の排出規制に対応可能なディーゼルエンジン用排ガス浄化装置およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼル自動車から排出される排ガスの浄化については様々な技術が提案されてきている。近年、環境意識への高まりと共に各国政府による排ガス中の有害成分に関する排出規制は益々厳しいものになって来ている。
【0003】
ディーゼル自動車の排ガスに含まれる有害成分としては、未燃焼の燃料に由来する長鎖、短鎖の炭化水素(HC)、煤(Soot)、可溶性有機成分(SOF:Soluble Organic Fraction)、一酸化炭素があり、他にも、空気中や燃料由来の窒素が燃焼時の熱で酸素と反応して発生する窒素酸化物(NOx)が知られている。このうち、特に注目されている有害成分はSoot、SOF、NOxである。このうち、SootとSOFはまとめて微粒子成分(PM:Particulate matter)と言われることもある。
【0004】
これらの有害成分はガソリン自動車から排出される排ガスにも含まれるが、ディーゼル自動車から排出される排ガスに含まれるNOxの浄化はガソリン自動車の排ガスよりも浄化が困難とされている。これは、ディーゼル自動車のエンジンは燃料を希薄な状態で燃焼する特性上、排ガスに含まれる炭化水素(HC)の量が少ないことによるもので、後述する触媒を使用した浄化装置を使用してNOxを還元浄化しようとしても、還元反応において有効に作用するHC、特に短鎖のHCの量が少なく充分な浄化が難しいためである。
【0005】
NOxの他に、浄化すべきディーゼル自動車の排ガスに含まれる有害成分としてはPMがあるのは前述のとおりである。ディーゼル自動車に使用される燃料は軽油であるが、軽油はガソリンに比べて炭化水素の鎖長が長く、燃焼室内に粒子状に直接噴霧されることで燃え残り易いことから、ディーゼル自動車の排ガスに含まれるPMの量はガソリン自動車の排ガスに含まれる量よりも多い。
【0006】
PMの浄化は、排ガスの流れ中にハニカムフィルターを配置して微粒子成分であるSOFやSootを濾しとるものである。このようなフィルターをDPF(Diesel Particulate Filter)という。濾しとったPMはフィルター中で燃焼(酸化)除去されるが、この燃焼除去を効率化するため、DPFを触媒化したものはCSF(Catalyzed Soot Filter)と言われる。近年、市場に流通しているディーゼル自動車に搭載されているDPFの多くはこのCSFである。
【0007】
DPF、CSFに堆積したPMは、排ガスの熱と含まれる酸素によって燃焼除去される。しかし、ディーゼルエンジンはガソリンエンジンに比べて希薄燃焼されること、大型エンジンが多いこと、圧縮着火燃焼が必要なことから燃焼室内の圧縮比が高く高回転化し難いことから排ガスの温度が低く、そのままでは効率的な燃焼除去が難しい。
【0008】
一般的なDPF、CSFに堆積したPMの燃焼除去にあたっては、後段に詳述するが、DPF、CSFの前段に配置したDOCに燃料を供給することで発生する燃焼(酸化)熱をもって排ガスを加熱し、DPF、CSFに堆積したPMを燃焼除去の促進を図っている。しかし、排ガスの加熱を優先するあまり多量の燃料を消費することは燃費の悪化を招き、排出CO2増に伴う環境悪化の要因として指摘されることが有る。そのため、DOCでは少ない燃料でCSFでは低い温度で効率的な発熱が可能な触媒が求められる。また、このような触媒性能は自動車が実走している間は維持される必要があり、同時に高い耐久性も要求される。このような性能を満たすため様々な触媒技術が提案されている。
【0009】
このようなNOx、PMを浄化することを目的に多くの手段が提案されているが、その主だったモノに、排ガスの上流側から順番にDOCとDPFを配置した装置(特許文献1:CRT(登録商標))が知られている。この技術は、排ガスに含まれる未燃焼の燃料を、DOCにより酸化燃焼することで排ガスの温度を上げ、後段のDPFが濾しとったSOFやSootを燃焼除去すると共に、排ガスに含まれるNOx中のNOをNO2に酸化し、このNO2をもって更にSOFやSootの燃焼効率を向上すると共にNOxの浄化も行うものである。
【0010】
このようなDOCとCSFの組み合わせにより排ガス浄化は促進したが、有害成分の排出規制は更に厳しさを増しているのは前述のとおりであり、その中で排ガスの上流側から順番にDOCとDPFとNH
3-SCRとを組み合わせた装置(特許文献2:[0012][0023][0028][
図3])(特許文献3:SCRT(登録商標))が提案された。
【0011】
NH3-SCRは還元成分としてアンモニア成分、多くの場合は安全性の高いアンモニア前駆体である尿素を利用し、それを還元触媒に接触させることで排ガス中のNOxを還元しようとするもので還元成分を省略してSCR(Selective Catalytic Reduction)と言われることもある。そして、DOC、CSF、SCRをこの順番に配置した排ガス浄化装置はその効率性から近年の排ガス浄化装置の主流となっている。
【0012】
DOC-CSF-SCRレイアウトを使用した排ガス浄化装置における作用は概ね以下のとおりである。DOCでは、排ガス中の有害成分であるHC、一酸化炭素(CO)を、排ガス中の酸素を利用して酸化して除去する。ここでCOは二酸化炭素(CO2)に、HCはCO2とH2OとなりDOC後段に排出される。更に、DOCには排ガスの昇温と、NOをNO2に酸化して後段のCSFとSCRに供給する作用が必要なことは前述のとおりである。
【0013】
このような排ガスの浄化は触媒反応の助けをかりるもので、著しい高温は避けるべきものの、低温であるよりも高温で有った方が反応は促進することは言うまでもない。しかし、ディーゼル自動車、特に大型のディーゼル自動車は排ガスの温度が低いことは前述のとおりである。近年、環境意識の高まりから燃費の向上が図られていることもあり、排ガスの温度は一層低くなりつつある。
【0014】
このような低温の排ガスを昇温する目的で、通常DOCの前段に燃料を噴射供給する。DOCに供給された燃料は触媒を介して酸化燃焼し排ガスが加熱される。加熱された排ガスは後段のCSF至る。CSFは排ガス中からPMを濾しとるものであるが、濾しとられたPMはCSF中に堆積して行く。PMが堆積したままであると、排ガスの抜けが悪くなり背圧が上がる。背圧の上昇はエンジンの出力低下を招く。しかし、CSFに堆積したPMの殆どは燃料由来であることから加熱することで燃焼除去することができる。この燃焼除去において、DOCにより排ガスの温度を上昇させれば燃焼除去が促進される。このようなCSFにおけるPMの燃焼除去をCSFの再生ということもある。
【0015】
DOCに備わる作用として、排ガス中のNOをNO2に酸化することが挙げられる。排ガス中に含まれる窒素酸化物は排出規制成分として広く知られている。このような窒素酸化物はNOxとも言われるのは前述のとおりである。NOxはNO、NO2、N2Oなど窒素酸化物の総称であるが、このようなNOx中の主成分であるNOを酸化してNO2濃度を上昇させ、NO2/NO比率を調整することで、後段のSCRにおけるNOxの選択還元を促進しようとするものが特許文献2、特許文献3記載の装置である。
【0016】
この様に、ディーゼル自動車の排ガスについては、DOC-CSF-SCRレイアウトを駆使して現実にもその浄化が図られているが、今後も更に有害成分の排出規制は厳しさを増すことが予想されている。
【0017】
厳しさを増す排出規制、特にNOxの排出規制に対しては、ccSCR(Closed Cupling SCR)という機構が検討されている(特許文献4、特許文献8)。ccSCRは狭義にはエンジンから排出される排ガスの排出直下にSCRを配置するもので、広義にはSCR-DOC-CSF-SCRの様にDOC-CSFを挟んで2つのSCRを配置するものである。2つのSCRの前段には通常尿素水溶液が還元剤として供給される。
【0018】
SCRではNOxが還元されるが、その反応は以下とおりである(特許文献5:[0005])。
4NO + 4NH3 + O2 → 4N2 + 6H2O ・・・(1)
2NO2 + 4NH3 + O2 → 3N2 + 6H2O ・・・(2)
NO + NO2 + 2NH3 → 2N2 + 3H2O ・・・(3)
【0019】
上記の反応で還元剤として使用されるアンモニアは尿素を加水分解することで得られ、その分解反応は以下のとおりである(特許文献5:[0007])。
NH2-CO-NH2 → NH3 + HCNO (尿素熱分解)
HCNO + H2O → NH3 + CO2 (イソシアン酸加水分解)
NH2-CO-NH2 + H2O → 2NH3 + CO2 (尿素加水分解)
このような尿素はアドブルー(AdBlue:登録商標)として、尿素32.5wt%の水溶液として市場に広く流通するようになってきている。
【0020】
式(1)~(3)をみても分かる様に、SCRにおける還元反応では多量の反応水が発生する。また、還元成分として使用される尿素は多量の水を含んでいる。そのため、SCR-DOC-CSF-SCRにおけるDOCには、前段SCRから多量の水分が供給される状態であるといえる。
【0021】
この様に、低い排ガス温度、排ガス中に含まれる水分、第一の還元触媒に供給される尿素水、還元時に発生する反応水など、DOC、CSFにおける触媒反応を抑制してしまう低温化要素の存在がディーゼル自動車から排出される排ガスには存在する。
【0022】
また、DOC-CSF-SCRでは、NOxの還元以外にDOC、CSFでHC、COや、SOF、sootが酸化除去されるのは前述のとおりである。DOC、CSFは排ガス中のHCに晒されることで被毒を起こすことが知られている。このような被毒はディーゼル自動車の場合、燃料として使用する軽油が比較的長鎖の炭化水素を多く含むものであること、更に、燃料としての軽油は燃焼室に直接噴霧されることから噴霧粒子のサイズが大きなまま燃焼に至り、燃え切らない燃料が発生し易く長鎖HCの発生原因でもある。
【0023】
燃焼し切らない燃料由来の長鎖HCは触媒に供給されることになるが、このような長鎖HCは触媒の活性種である貴金属、特に白金を被毒してしまう。このような長鎖HC被毒による触媒の劣化を防ぐこと目的に、DOCに含まれる活性種である白金(Pt)とパラジウム(Pd)を、合金化したPt-Pd粒子と単独のPt粒子としてDOCに含ませることが提案されている(特許文献6)。
【0024】
このようにPtとPdの両方を使用する理由は、性能の向上のみならず、高価な貴金属であるPt,Pdを触媒に使用するにあたり、貴金属相場の影響などによるコスト増リスクを回避するためでもある。一方で、高価な貴金属を触媒に使用することは当然に触媒の価格上昇を招くことから、出来るだけそれらの使用量を少なくすることが望ましい。
【0025】
DOC-CSF関していえば、その貴金属コストの抑制には貴金属使用量を減らせば良いが、単純に使用量を減らすことは活性種の減少でもあり、触媒性能の低下を招くことになる。そのため、低コストで高活性な触媒性能を得るための手段として、DOC-CSFにおける貴金属量の最適化が提案されている(特許文献7)。
【0026】
特許文献7は、前段に位置するDOCの貴金属量よりも、後段に位置するCSFの貴金属量が少ないというもので、これにより、高活性でありながら低コストな触媒装置を実現できる。
【0027】
ディーゼル自動車から排出される排ガスの浄化、NOx、PMに関しては特に上記のような手段が提案されてきたが、今後厳しさを増す有害成分の排出規制に対して、市場からは耐久性にも優れた更に効果的な浄化装置の実現が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【文献】特許第3012249号公報
【文献】特開平08-103636号公報
【文献】特表2002-502927号公報
【文献】特許第6129215号公報
【文献】特許第5110954号公報
【文献】特許第4982241号公報
【文献】特許第4094966号公報
【文献】米国特許公報第10399036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
本発明の課題は、更に厳しさを増すディーゼルエンジン排ガス中の有害成分の排出規制に対し、高い浄化性能と優れた耐久性を同時に実現可能な、低コストの排ガス浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0030】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、還元剤として尿素水を供給する第一の還元剤供給手段と、第一の還元触媒と、排ガス中の炭化水素、一酸化炭素、一酸化窒素を酸化し、必要により排ガス中に添加された酸化成分を酸化して排ガスを加熱するための、少なくとも白金とパラジウムを含有する酸化触媒と、排ガス中から煤もしくは可溶性有機成分を分離して酸化除去するための、少なくとも白金とパラジウムを含有する触媒化フィルターと、還元剤として尿素水を供給する第二の還元剤供給手段と、第二の還元触媒を配置したディーゼルエンジン用の排ガス浄化装置において、酸化触媒に含有される白金とパラジウムが特定の状態で含まれている場合に、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0031】
すなわち、本発明は、排ガス流れ上流側から順番に、
還元剤として尿素水を供給する第一の還元剤供給手段と、
第一の還元触媒と、
排ガス中の炭化水素、一酸化炭素、一酸化窒素を酸化し、必要により排ガス中に添加された酸化成分を酸化して排ガスを加熱するための、少なくとも白金とパラジウムを含有する酸化触媒と、
排ガス中から煤もしくは可溶性有機成分を分離して酸化除去するための、少なくとも白金とパラジウムを含有する触媒化フィルターと、
還元剤として尿素水を供給する第二の還元剤供給手段と、
第二の還元触媒を配置したものであって、
酸化触媒に含有される白金とパラジウムが、合金状態の白金-パラジウムと、単独の状態の白金からなることを特徴とするディーゼルエンジン用排ガス浄化装置である。
【0032】
また、本発明は、ディーゼルエンジンと、上記ディーゼルエンジン用排ガス浄化装置を備えることを特徴とする乗物である。
【0033】
更に、本発明は、ディーゼルエンジンからの排ガスを、上記ディーゼルエンジン用排ガス浄化装置で処理することを特徴とするディーゼルエンジンの排ガス浄化方法である。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、ディーゼルエンジンの排ガスに含まれる長鎖HCに低い温度のまま長期間晒されても触媒の著しい劣化を起こすことがなく、設計当初の浄化性能を長期間維持することが可能な排ガス浄化装置を、価格上昇の大きな要素である貴金属の使用量を減らしたうえで実現可能である。
【0035】
そのため、本発明は、更に厳しさを増すディーゼルエンジン排ガス中の有害成分の排出規制に対応可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】
図1は、本発明のディーゼルエンジン用排ガス浄化装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の装置について
図1をもとに説明するが、
図1は本発明を実施形態の一つであり、本発明は
図1の構成に限定されるものではなく、本発明はその主旨に反しない限り適宜変更を施したり、本発明の必須構成要素ではない触媒と組み合わせて使用しても良いことは言うまでもない。
【0038】
[ディーゼルエンジン用排ガス浄化装置]
本発明のディーゼルエンジン用排ガス浄化装置(以下、「本発明装置」という)1は、ディーゼルエンジンのエキゾーストポート(図示せず)に続くものであり、排ガス流れ上流側から順番に、還元剤として尿素水を供給する第一の還元剤供給手段2と、第一の還元触媒3と、排ガス中の炭化水素、一酸化炭素、一酸化窒素を酸化し、必要により排ガス中に添加された酸化成分を酸化して排ガスを加熱するための、少なくとも白金とパラジウムを含有する酸化触媒4と、排ガス中から煤もしくは可溶性有機成分を分離して酸化除去するための、少なくとも白金とパラジウムを含有する触媒化フィルター5と、還元剤として尿素水を供給する第二の還元剤供給手段6と、第二の還元触媒7を配置したものである。
【0039】
[第一の還元剤供給手段(1st Urea)]
本発明装置に用いられる第一の還元剤供給手段(1st Urea)は、ディーゼルエンジンのエキゾーストポート(図示せず)に続く排ガス用の排管に、還元剤としての尿素水を供給する。尿素水の供給方法は特に限定されないが、例えば、排管に霧状で噴霧する方法が一般的である。この1st Ureaは、後記する還元剤として尿素水を供給する第二の還元剤供給手段(2nd Urea)と、一つの供給手段を分岐して使用しても良い。
【0040】
尿素水の排管内への供給は、上記の通り、霧状に噴霧する方法が一般的であるが。尿素水そのものを排管内に噴霧する他、尿素水の少なくとも一部を事前にアンモニアに加水分解してから噴霧しても良い。尿素水を事前に加水分解しておくことで、後段の第一の還元触媒において分解をその分省略でき、NOx浄化作用の立ち上がりが良くなる。また、このような事前加水分解手段は1st Ureaおよび2nd Ureaの両方に設置しても良いが、いずれか一方にのみに設置しても良い。このようなアンモニアに加水分解する方法としては、例えば、噴霧機構中に加熱手段を設けたり、噴霧機構中や噴霧機構とSCRの間にチタンやタングステン等を含む加水分解触媒を設けること等が挙げられる。
【0041】
[第一の還元触媒(1st SCR)]
1st Ureaの後段には第一の還元触媒(1st SCR)が配置される。1st SCRは特に限定されるものではなく、ディーゼルエンジンに使用されるSCRの中からエンジンの制御や行政が定めた排出基準に合わせて適宜選択することができる。具体的な例としては、鉄、銅等、遷移金属で促進されたゼオライトや、バナジウム化合物等が挙げられる。これらは、フルースルー型ハニカム構造体のセルを構成する壁面に被覆することでハニカム触媒として本発明装置に配置される。ハニカム構造体のセルを構成する壁面への被覆にあたっては、触媒成分が壁内部に浸透していても良い。このようなフロースルー型ハニカム構造体はコージェライト等の無機酸化物をハニカム状に成形したものの他、ステンレス等からなる波状の金属薄板を円筒状に巻き取ってハニカム状に形成した金属製の担体を使用しても良い。金属製の担体は無機酸化物製の担体に比べて排ガスの熱が伝わり易く、1st SCRの温度が上がり易い。そのため、エンジンの冷間始動後であっても触媒活性をいち早く高めることができる。
【0042】
また、本発明装置にはもう一つSCR(第二の還元触媒(2nd SCR))が使用されるが、この2つのSCRはエンジンの制御の内容に応じて同じ触媒を使用しても良く、それぞれ組成や組成物としての担持量の異なる触媒を使用しても良い。
【0043】
[酸化触媒(DOC)]
1st SCRの後段には酸化触媒(DOC)が配置される。ここでDOCは排ガス中の炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、一酸化窒素(NO)を酸化するため、また、必要に応じて排ガス中に添加された酸化成分を酸化して排ガスを加熱する。ここで酸化成分としては、例えば、ディーゼルエンジンの燃料である軽油、酸化し得る各種炭化水素類等が挙げられるが、基本的にはディーゼルエンジンの燃料である軽油である。 また、酸化成分はDOCより上流側または下流側で添加しても良いが、上流側で添加されることが好ましい。
【0044】
DOCは、主要な活性種として、少なくとも白金(Pt)とパラジウム(Pd)を含有していれば良く、例えば、少なくともPtとPdを含有する触媒組成物、好ましくはPtとPdをシリカやアルミナ等の耐熱性無機酸化物粒子に担持させ、高い表面積を維持した状態の金属粒子を含む触媒組成物を、フロースルー型ハニカム担体等の担体に担持させたものである。DOCにおけるフロースルー型ハニカム構造体でも、コージェライト等の無機酸化物をハニカム状に成形したものの他、ステンレス等からなる波状の金属薄板を円筒状に巻き取ってハニカム状に形成した金属製の担体が使用できる。ステンレス製のフロースルー型ハニカム構造体を使用することで、前記1st SCR同様にエンジンの冷間始動後であっても触媒活性をいち早く高めることができる。
【0045】
DOCには、上記の通り、活性種として少なくともPtとPdが含有される。PtはNOと種々のHCに対して高い酸化活性を発揮する貴金属である。特にHCが鎖長の短いものであれば高い効率で酸化分解することができる。ところが、Ptが単独の状態で含まれるものでは、鎖長の長いHCに長時間接触するとHCによって被毒される危険性があるとされている。しかも、Ptには高温にさらされるとシンタリング(焼結)して金属粒子が成長してしまい活性が低下するという問題がある。
【0046】
一方でPdは酸化能力は鎖長の短いHCに対してはPtに劣るものの、長鎖のHCに対し酸化能力、並びにクラッキング能力の点で優れているとされている。これにより排ガスや触媒の加熱を目的に排管内に燃料としての軽油等、長鎖のHCが多量に供給された場合であっても、長鎖のHCを効率的にクラッキングが期待できる。クラッキングされて鎖長の短くなったHCに対しては、Ptの存在により高い酸化活性が期待される。しかし、PtとPdとをそれぞれ単独で存在させた場合では、依然としてPtには高温にさらされるとシンタリング(焼結)して金属粒子が成長してしまい活性が低下してしまうのは前述のとおりである。
【0047】
このような問題を解決するため、本発明装置で用いられるDOCではPtとPdを合金状態(以下、「Pt-Pd」ということがある)にすることで、両方の活性種の優れた作用を維持することが可能になる。しかし、Ptは合金化された状態であるよりもPt単独で存在する方が、Pt固有の活性をより発揮し易くなる。そのため、本発明装置で用いられるDOCには単独の状態のPtも、Pt-Pdと同時に担持される。
【0048】
一見すると単独のPtが存在することは、依然Ptのシンタリングの問題が解決されてない様に思われるが、本発明装置で用いられるDOCのように合金としてのPt-Pdが存在することにより、Pt-Pdによる長鎖のHCの分解性能により触媒の発熱性能が促進されることになるので、排気ガス、並びに触媒の温度を効率的に上げることができる。このような触媒温度の上昇は、Pt表面を被毒したHCを、Pt自身が持つ活性で酸化除去することを促し、単独の状態で含まれるPtの活性を維持するのにも有効に働く。実装においてこのようなPtの高活性を維持できることは、NO酸化性能による触媒化フィルター(CSF)における微粒子成分(PM)燃焼性能や、2nd SCRにおけるNOxの還元性能に大きく貢献する。本発明におけるこのようなPtとPdによる相互作用は、本発明の使用環境であるディーゼルエンジン排ガスの雰囲気の影響を受けて発揮されている可能性もある。すなわち、ディーゼルエンジンは希薄燃焼されるため排ガス中に多量の酸素を含む酸化雰囲気であるといえる。このような酸化雰囲気下におけるPt、Pdは、少なくともそれらの一部が酸化状態となっている場合があり。酸化されたPtやPdは融点が大きく降下することが知られている。また、触媒中のPtとPdはメタルと酸化物の混合状態で存在している事も考えられる。このようなPtとPdの状態の変容も本発明の効果が発揮される要因と考えられる。
【0049】
本発明装置に用いられるDOCに含有されるPt、Pdの量は、他の触媒成分である遷移金属、希土類金属、他の貴金属の種類、無機母材や担体の種類などによって異なるが、フロースルー型ハニカム担体を用いた場合、その容積当り、DOC中に単独の状態で存在する白金(Pt)と、DOC中に合金の状態で存在するPt-Pdの重量は、それぞれ0.1~10g/Lであることが好ましい。10g/Lを超えると、触媒の生産コストが上昇してしまい、0.01g/L未満では、排気ガスの浄化性能が低下することがある。また、単独のPtと、合金としてのPt-Pdは重量比で1:20~20:1であることが好ましく、1:10~10:1であることが特に好ましい。
【0050】
本発明装置に用いられるDOCにおいて、単独のPtと、合金のPt-Pdを、担体に担持させる方法は特に限定されるものではなく、例えば、担体としてフロースルー型ハニカム担体に被覆担持させる場合であれば、単独のPtと合金のPt-Pdを予め別々に耐熱性無機酸化物に担持させたものを水と混ぜてスラリー化し、これをウオシュコート法等でフロースルー型ハニカム担体に被覆担持させれば良い。
【0051】
[触媒化フィルター(CSF)]
DOCの後段には、触媒化フィルター(CSF)が配置される。ここでCSFは、排ガス中から煤もしくは可溶性有機成分(SOF)を分離して酸化除去するためのものである。ここで可溶性有機成分としては、例えば、不完全燃焼した燃料がタール化したもの等が挙げられる。
【0052】
CSFは、主要な活性種として、少なくともPtとPdを含有していれば良く、例えば、少なくともPtとPdを含有する触媒組成物、好ましくはPtとPdをシリカやアルミナ等の耐熱性無機酸化物粒子に担持させ、高い表面積を維持した状態の金属粒子を含む触媒組成物を、ウォールフロー型ハニカムフィルターに担持させたものである。また、CSFは前記触媒のほか、第一や第二のSCRに用いられる還元触媒(SCR成分)を被覆したもので有っても良い。このようなSCR成分を被覆したウォールフロー型ハニカムフィルターはSCRoF(SCR on Filter)と言われることがある。
【0053】
CSFにおいても触媒の主要な活性種として、少なくともPtやPdを含有するため、その触媒としての組成はDOCと同様であっても良いが、DOCより上流側で排ガス中に燃料を添加する場合には、CSFに担持させる単位体積当たりのPt、Pd量は、前段のDOCに担持する単位体積当たりのPt、Pd量よりも少ない方が好ましい。このようなPt、Pdの量であれば、DOCとCSFに担持する貴金属を同じにした触媒よりもコストが安価なものとなることは言うまでもないが、CSFにおける可溶性有機成分(SOF)や煤(Soot)の酸化処理が良好に促進される。
【0054】
DOCとCSFの相互作用によるCSFの再生はCSFに捕集されたSootやSOFをDOCにより加熱された排ガスと生成されたNO2によって促進されるのは前述のとおりである。本発明装置においてDOCとCSFにおけるPtとPdの量を前述の様に最適化することで、DOCとCSFにおけるPtとPdの使用量を減らした場合でもCSFの再生はより良好に促進され、NOxの浄化性能の向上も期待される。
【0055】
本発明装置に用いられるCSFにも白金とパラジウムが含有されるが、これもDOCと同様に、合金状態のPt-Pdと、単独の状態のPtからなることが好ましい。合金状態のPt-Pdと、単独の状態のPtの作用はDOCにおけるPt-PdとPtと同様である。CSFにおける再生対象としてSOFが存在することは前述のとおりである。SOFは燃え切らなかった燃料を主な由来とするが、そのようなSOFの成分は燃料としての軽油そのもののみならず、軽油が変質してタール状になったHCも含まれる。このようなHCはCSFにおけるPtの被毒の原因になる。また、CSFにおける再生は燃焼再生でもあり、触媒成分は高温に晒されることになる。高温環境下のPt、Pdにはシンタリングの懸念があることは前述のとおりである。また、本発明装置ではCSFの後段に2nd SCRが配置されるが、このSCRにおけるNOxの還元においては、NOx中のNO2組成を増しておくことが望ましい(特許文献3)。
【0056】
このような使用環境においては、CSFにおいても含有されるPtとPdが、合金状態のPt-Pdと、単独の状態のPtからなることで、SootやSOFの燃焼再生における高い耐久性を発揮し、NO2生成能力も維持され、2nd SCRにおけるNOxの浄化性能も高いレベルで維持される。
【0057】
本発明装置に用いられるDOCとCSFに含有される合金化したPt-PdとPtの重量比率は、[CSF:Pt-Pd/Pt]<[DOC:Pt-Pd/Pt]であることが好ましい。言い換えると、これはCSFでは単独で存在するPtの量が多い方が望ましいともいえる。PtはNO酸化性能が高いことは前述のとおりである。一方で、2nd SCRは本発明装置においては主要なNOx浄化要素である。SCRにおけるNOxの浄化にあたってはNOx中のNO2量を増加させることが望ましいことは前述のとおりである。
【0058】
本発明装置の2nd SCRの前方に配置されるCSFではSootやSOFが燃焼再生されるが、ここで、NO2により燃焼再生が促進されるのは特許文献1のとおりである。これを言い換えるとNO2はCSFで消費されることでもある。NO2が消費され、その含有比率を下げた排ガスでは、SCRにおけるNOxの浄化性能が向上し難い。本発明におけるCSFでは、前述の様に単独で存在する白金の割合を増やすことで、2nd SCRにおけるNOxの浄化がより一層促進される。
【0059】
[第二の還元剤供給手段(2nd Urea)]
本発明装置では、CSFの後段で2nd SCRの前方に第二の還元剤供給手段(2nd Urea)が配置される。これにより排ガス中のNOxが還元浄化される。この2nd Ureaは、配置位置以外は、1st Ureaと同様である。
【0060】
[第二の還元触媒(2nd SCR)]
2nd Ureaの後段には、第二の還元触媒(2nd SCR)が配置される。2nd SCRは特に限定されるものではなく、1st SCRと同様に、ディーゼルエンジンに使用されるSCRの中から、エンジンの制御や行政が定めた排出基準に合わせて適宜選択することができる。SCRとしては、1st SCRと同様でも良く、1st SCRと異なるものでも良い。これらは、フルースルー型ハニカム構造体のセルを構成する壁面に被覆することでハニカム触媒として本発明装置に配置される。ハニカム構造体のセルを構成する壁面への被覆にあたっては、触媒成分が壁内部に浸透していても良い。2nd SCRにおいても、1st SCR同様に、フルースルー型ハニカム構造体の材質として、コージェライト等の無機酸化物をハニカム状に成形したものの他、ステンレス等からなる波状の金属薄板を円筒状に巻き取ってハニカム状に形成した金属製の担体が使用できる。
【0061】
[他の触媒との組合せ]
本発明の装置における触媒の配置は[1st SCR]-[DOC]-[CSF]-[2nd SCR]を基本構成とするが、この基本配置に加えて当業者において採用されている触媒を更に適宜配置しても良い。このような基本構成に加えて配置される触媒としては、2nd SCRの後段に還元に使用し切れなかったアンモニアを酸化して排ガスから除去するための酸化触媒や、1st SCRの加熱を促進するために1st SCR前段に酸化触媒を配置すること等(特許文献8:Fig1)が挙げられる。なお、このように追加配置される触媒においても、コージェライト等の無機酸化物をハニカム状に成形したものの他、ステンレス等からなる波状の金属薄板を円筒状に巻き取ってハニカム状に形成した金属製の担体が使用できる。
【0062】
以上説明した本発明装置で、ディーゼルエンジンからの排ガスを処理することにより、ディーゼルエンジンの排ガスを浄化することができる。
【0063】
そのため、本発明装置は、ディーゼルエンジンと組み合わせて備えることにより、従来のディーゼルエンジンを備えた自動車、船舶、潜水艦等の乗物や、発電機、トンネル工事用土木機械の動力源としての定置エンジンに利用できる。これらの中でも本発明装置は特に自動車への利用が好適である。また、触媒は劣化により低温域を中心に徐々に活性を低下してゆくものであるが、本発明装置では触媒の劣化も抑制されることから、触媒装置としての初期性能が長期間維持され、結果的に長期間に渡り低温時の浄化性能も維持され、今後一層の低温化が予想される排ガスの浄化に対し優れた触媒装置を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のディーゼルエンジン用排ガス浄化装置は、ディーゼルエンジンを備えた乗物等の排ガスの浄化に利用可能である。
【符号の説明】
【0065】
1…ディーゼルエンジン用排ガス浄化装置
2…第一の還元剤供給手段
3…第一の還元触媒
4…酸化触媒
5…触媒化フィルター
6…第二の還元剤供給手段
7…第二の還元触媒