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特許7389629長時間積分による検出方法および対応するレーダシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】長時間積分による検出方法および対応するレーダシステム
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/50 20060101AFI20231122BHJP
   G01S 13/42 20060101ALI20231122BHJP
   G01S 7/292 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
G01S13/50
G01S13/42
G01S7/292 202
【請求項の数】 9
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019210434
(22)【出願日】2019-11-21
(65)【公開番号】P2020098200
(43)【公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-10-21
(31)【優先権主張番号】1871763
(32)【優先日】2018-11-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】511148123
【氏名又は名称】タレス
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100165191
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 章
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(72)【発明者】
【氏名】ピエール-アルベール ブルトン
(72)【発明者】
【氏名】バンサン コレチャ
(72)【発明者】
【氏名】リシャール モンティニー
(72)【発明者】
【氏名】ステファーヌ ケンケミアン
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-133960(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0043185(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0027274(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42
G01S 13/00-13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象を検出するレーダシステム(10)によって実装される長時間積分による検出方法(100)であって、前記レーダシステムは少なくとも1つの座標に沿って測定値を送出でき、前記レーダシステムによる複数回にわたる同じ空間のN回連続掃引の結果としての複数の検出を入力として用い、均一の直線運動を対象が有するものとする運動学的運動モデルに基づく運動学的フィルタリング基準を適用することによって、前記複数の検出の中から同じ対象と関連付けられる検出を識別する方法であり、前記方法は、
ピボット検出(piv)と呼ばれる各々の新たな検出の時点で実装され、
-前記ピボット検出(piv)を用いて、前記複数の検出の中グループ化された検出(det_i)を一緒にグループ化するステップであって、グループ化された検出は、前記ピボット検出の掃引Nに先行するN-1回の掃引のうちの1つに属し、前記ピボット検出と各々の前記グループ化された検出とを関連付けるグループ化基準に従って非ニル尤度を有する検出であるステップと、
-前記グループ化された検出(det_i)を運動学的にフィルタリングすることによって、前記ピボット検出と、厳密に運動学的にコヒーレントである前記グループ化された検出と、を関連付けるステップであって、
-ヒストグラム(H)を初期化するステップ(110)であって、前記ヒストグラムの各次元は、前記レーダシステムによって測定された対応する座標の時間的変動であるステップと、
-前記ピボット検出の座標もしくは各座標についての潜在値の間隔を計算するステップ(120)と、により、
さらに、各々の前記グループ化された検出について、
各々の前記グループ化された検出の座標もしくは各座標についての潜在値の間隔を計算するステップ(130)と、
前記レーダシステムによって測定された座標もしくは各座標についての前記ピボット検出および各々の前記グループ化された検出の潜在値の間隔から、最小の時間的変動および最大の時間的変動を計算するステップ(140)と、
-各次元に沿った指標が前記計算された最小の時間的変動と最大の時間的変動との間にある前記ヒストグラムの各クラスを増分するステップ(150)と、
-一旦前記ヒストグラムの少なくとも1つのクラスが所定の値(K-1)に到達すると対象が検出される運動学的コヒーレンス基準をテストするステップ(160)と、によるステップと、を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記レーダシステムが測定する前記少なくとも1つの座標が位置を有する場合、前記対応する時間的変動は勾配であり、
前記レーダシステムが測定する前記少なくとも1つの座標が速度を有する場合、前記対応する時間的変動は速度である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記位置が方位位置である場合、前記時間的変動は方位勾配であり、前記位置が距離位置である場合、前記時間的変動は距離勾配である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ピボット検出と各々の前記グループ化された検出とを関連付ける前記グループ化基準は、前記ピボット検出と各々の前記グループ化された検出との間の距離であり、基準距離よりも小さい距離を有する1つの検出は、前記ピボット検出と一緒にグループ化される、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記対象は小さい対象である、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の長時間積分による検出方法を実装するのに好適な分析ステージ(16)を有することを特徴とする、レーダシステム(10)。
【請求項7】
機械走査アンテナまたは電子走査アンテナ(12)を有する、請求項6に記載のレーダシステム(10)。
【請求項8】
プラットフォーム上に埋込まれるのに好適であり、可動式である、請求項6または7に記載のレーダシステム(10)。
【請求項9】
海洋監視専用の、請求項6ないし8のいずれか一項に記載のレーダシステム(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同じ空間の複数の連続する掃引を用い、対象の運動の運動学的モデル(kinematic model)を用いることにより、対象を検出する方法に関する。より詳細には、本発明は、海洋の対象(maritime targets)、詳細には、小さい対象、すなわちレーダ断面(Radar Cross-Section;RCS)が小さい対象を検出する、海または空の移動レーダシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
海面反射(sea clutter)に起因して、小さい対象の検出は困難であり続ける。
【0003】
実際には、図1に示されるように、レーダシステムは、観察する空間から受け取ったエコーから一組の検出を確立する。検出は、オペレータが手動で、または自動デバイスが、検出閾値の値を適応的に位置決めすること(adaptive positioning)に関する、所定の検出閾値の交差(the crossing of a predefined detection threshold)によって特徴付けられる。
【0004】
しかしながら、(図1中、丸により表される)対象により反射された信号のレベルが、(図1に×印で表される)海面反射の多くのパルスのレベルに比べて低い場合、漂遊パルス(stray pulses)を検出とみなすのを回避するため、図1中の例えばS1などの高い値に検出閾値を置いたならば、小さい対象は検出されなくなる。逆に、検出閾値を低い値(図1中のS2)に置いたならば、このとき、対象に関連付けられる検出は、漂游パルスに関連付けられた多数の検出の中に埋め込まれる。したがって、形成される検出は、RCSが高い対象のみに対応するか、または全ての対象および海面反射由来のパルスに関係する多くの誤警報に対応してしまう。
【0005】
この問題を克服しようとして、不変の誤警報率(False Alarm Rate;FAR)を保持しながら、検出閾値をはるかに低く位置付けること(ひいてはRCSが低い対象の検出確率を増大させること)を可能にする技術、詳細にはいわゆる長時間積分技術が開発されてきた。
【0006】
このために、長時間積分技術では、形成された検出のセットの中でも対象の運動学的運動モデルに適合する(compatible)検出を探し求めつつ、同じ空間の複数の連続する掃引が用いられる。この処理により、互いにコヒーレントである検出の充分なグループを識別することが可能である場合、対象が検出される。誤警報は、運動学的にコヒーレントでないことから、この処理により多数の誤警報が除去される。
【0007】
したがって、仏国特許第2,974,421号には、共通座標系内での異なる連続する掃引の検出を置換した後、海面反射と対照的に、対象の運動の運動学的モデルに基礎を置くことによって、形成された検出のフィルタリングを行なうことを可能にする運動学的フィルタリングについて記載されている。用いられる運動学的モデルは、均一な直線運動であり、対象からレーダまでの距離は、アンテナの連続する掃引の間、線形進行(linear progression)を提示しなければならない。
【0008】
先端技術の運動学的コヒーレンスを検証する(verifying)この方法は、有効ではあるものの、以下のような欠点を有する。
・運動学的検証は、単一の座標、すなわち距離座標に基づくものである。この観点から見て、平面軌道を記述するためには少なくとも2つのパラメータが必要とされることから、運動学的コヒーレンスは、厳密には検証されない。
・該方法は、各々が特定のテストおよび測定基準に関与する複数のステップを含む。その結果、計算効率の損失、およびさまざまな利用シナリオに適応させるのが困難である複雑な構成がもたらされる。
・該方法の計算上の複雑さは、二次式(quadratic)である。
・該方法は、距離座標に沿った速度が典型的には10m/s未満である低速対象に適応する。
・該方法は、回転式レーダアンテナに特有(specific to)である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、これらの問題を解決することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このために、本発明は、対象を検出するレーダシステムによって実装される長時間積分による検出方法であって、前記レーダシステムは少なくとも1つの座標に沿って測定値を送出でき、レーダシステムによる複数回にわたる同じ空間のN回連続掃引(a plurality of N successive sweeps)の結果としての複数の検出を入力として用い、均一の直線運動を対象が有するものとする運動学的運動モデルに基づく運動学的フィルタリング基準を適用することによって、複数の検出の中から同じ対象と関連付けられる検出を識別する方法であり、前記方法は、ピボット検出と呼ばれる各々の新たな検出の時点で実装され、ピボット検出を用いて、複数の検出の中の複数のグループ化された検出を一緒にグループ化するステップであって、グループ化された検出は、ピボット検出の掃引Nに先行するN-1回の掃引のうちの1つに属し、ピボット検出と考慮される検出とを関連付けるグループ化基準に従って非ニル尤度(non-nil likelihood)を有する検出であるステップと、グループ化された検出を運動学的にフィルタリングすることによって、ピボット検出と、厳密に運動学的にコヒーレントである前記グループ化された検出と、を関連付けるステップであって、ヒストグラムを初期化するステップであって、ヒストグラムの各次元は、レーダシステムによって測定された対応する座標の時間的変動(temporal variation)であるステップと、ピボット検出の座標もしくは各座標についての潜在値(potential values)の間隔を計算するステップと、により、さらに(then)、各々のグループ化された検出について、考慮されるグループ化された検出の座標もしくは各座標についての潜在値の間隔を計算するステップと、レーダシステムによって測定された座標もしくは各座標についてのピボット検出および考慮されるグループ化された検出の潜在値の間隔から、最小の時間的変動および最大の時間的変動を計算するステップと、各次元に沿った指標が計算された最小の時間的変動と最大の時間的変動との間にあるヒストグラムのクラスセットを増分する(Incrementing the set of classes of the histogram)ステップと、一旦ヒストグラムの少なくとも1つのクラスが所定の値に到達すると対象が検出される運動学的コヒーレンス基準をテストするステップと、によるステップと、を有することを特徴とする方法に関する。
【0011】
特定の実施形態によると、該方法は、単独でまたは任意の技術的に考慮される組合せに従って考慮される以下の特徴の1つまたは複数を有する。
-レーダシステムが測定する少なくとも1つの座標が位置を有する場合、対応する時間的変動は勾配であり、レーダシステムが測定する少なくとも1つの座標が速度を有する場合、対応する時間的変動は速度である。
-位置が方位位置である場合、時間的変動は方位勾配であり、位置が距離位置である場合、時間的変動は距離勾配である。
-ピボット検出と考慮される検出とを関連付けるグループ化基準は、ピボット検出と考慮される検出との間の距離であり、基準距離よりも小さい距離を有する検出は、ピボット検出と一緒にグループ化される。
-対象は小さい対象である。
【0012】
本発明は、同様に、先行する長時間積分による検出方法を実装することができる分析ステージを有するレーダシステムにも関する。
【0013】
特定の実施形態によると、レーダシステムは、単独でまたは任意の技術的に考慮される組合せに従って考慮された以下の特徴の1つまたは複数を有する。
-レーダシステムは、回転式レーダまたは電子走査アンテナを有する。
-レーダシステムは、プラットフォーム上に埋込まれるのに好適であり、可動式である。
-レーダシステムは、海洋監視専用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】時間の関数として受け取った電力のグラフである。
図2】本発明に係る長時間積分による検出方法を実装するレーダシステムの好ましい実施形態を例示する図である。
図3】距離座標の関数としてN回の連続する掃引中に形成される検出を示すグラフである。
図4】本発明に係る長時間積分による検出方法の1つの好ましい実施形態の概略的ブロック図である。
図5図4の方法で用いられる概念である、距離座標に関して可能な値間隔(possible value intervals)の概念ならびに最大および最小勾配の概念を例示するグラフである。
図6図4の方法において用いられる方位勾配および距離勾配の次元に沿ったヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明およびその利点は、単に非限定的例として提供される1つの特定の実施形態についての以下の詳細な説明を読んだときより良く理解されるものであり、この説明は、添付の図面を参照しながら行なわれる。
【0016】
図2は、本発明に係る検出方法を実装するレーダシステムの可能な一実施形態を示す。
【0017】
好ましくは空中の(airborne)、レーダシステム10は、水面上を移動する海洋領域内の対象、詳細には、低い反射性または低減されたRCSを有する物体として定義される「小さい」対象を検出する目的で、海洋領域を分析するのに役立つ。
【0018】
レーダシステム10は、レーダアンテナ12を含む。これには、機械的走査を伴う回転式アンテナが関与し得る。同様に、これには、電子的に走査されるアンテナも関与し得る。後者の場合、考慮すべき連続する走査の瞬間は、経時的に規則的または不規則的に離隔されてよい。レーダアンテナ12は、照射された反射体から受け取ったエコーから電気信号を送出する。
【0019】
レーダシステム10は、レーダアンテナ12に関連付けられた第1の処理ステージ14を含み、アンテナの出力において信号から距離サンプリングを生成することを可能にする。サンプリングは、複数のサンプルからなる。
【0020】
レーダシステム10は、第1のステージ14の出力でサンプリングを分析し、サンプリングから「プロット(plots)」の形で任意の対象を抽出することができる第2の分析ステージ16を含む。
【0021】
レーダシステム10は、対応する対象のトラッキングを行なうために第2のステージ16の出力で生成された各プロットを用いる第3のトラッキングステージ18を含む。
【0022】
分析チェーン16のブロックは、以下の通りである。
-検出閾値を計算するブロック22:検出閾値Sは、ブロック26で実装された長時間積分による検出方法の特徴(詳細には、考慮に入れられた連続する掃引の数のパラメータN、1つのプロットを構成するための運動学的にコヒーレントである検出の数(the number of kinematically coherent detections)のパラメータK、実装された運動学的モデルなど)と、第2の分析ステージ16の出力で予期される誤警報率(False Alarm Rate;FAR)と、に依存する。検出閾値の値は、実装された長時間積分による検出方法によって得られる利得を具体化する。
-信号を処理するブロック24:このブロックは、複数のサンプルから検出を形成することを役目とする典型的処理を実装する。この処理には、以下のような汎用(generic)ステップが含まれる。すなわち、コヒーレントであるまたはコヒーレントでない可能性のある連続再帰(consecutive recurrences)のサンプルの事後積分(post-integration)によりイベントを構築するステップと、構築された異なるイベントの振幅(amplitude)に対して検出閾値を適用するステップと、この振幅が適用された検出閾値より大きい場合、検出を創出するステップと、である。
-長時間積分ブロック26:このブロックは、グループ化モジュール32および運動学的フィルタリングモジュール34を含む。
【0023】
本発明の境界内に入らないグループ化モジュール32は、モジュール34によって行なわれる計算負荷を削減するために、検出の初期分類(initial sorting)を行なう。例えば、新しい検出をブロック24が創出した後、グループ化モジュール32は、以下のタスクを行なう。
・以下「ピボット検出」と呼ぶ新たに創出された検出は、共通座標系内で位置決めされる。共通座標系は、最後のN回の掃引により共有されるグループ化座標系(grouping coordinate system)である。このグループ化座標系の中心は、航空機の飛行中に推移し、考慮されるN回の掃引の時点でのレーダアンテナの平均位置のかなり近くにとどまる。
・先行するN-1回の掃引の検出、すなわちピボット検出が属する掃引Nに先行して全てが共通座標系の中で位置決めされた掃引の検出は、ピボット検出の位置との関係におけるそれらの位置に従って分類される。これにより、ピボット検出と適合する確率が非ニル(non-nil)である検出のみが、検出グループ内にグループ化される。この確率を評価するために、例えば、先行する掃引に属する検出とピボット検出との間の距離および基準距離よりも短い距離を有する検出のグループ化によるなどの速く計算できるグループ化基準が用いられる。
【0024】
このステージおいて、各々のグループ化された検出det_i(iは、1から、ピボット検出pivに関連付けられた検出グループの検出数であるQまでの整数)は、以下のものによって特徴付けられる。
・AZ_det_i、D_det_i:検出det_iの共通座標系内の極、方位および距離座標、ならびに
・T_det_i:検出det_iの獲得日付。
【0025】
次に、ピボット検出は、以下のものにより特徴付けられる。
・AZ_piv、D_piv:ピボット検出のグループ化座標系内の、極、方位および距離座標、ならびに
・T_piv:ピボット検出の獲得日付。
【0026】
グループ化モジュール32の出力において、ピボット検出に関連付けられた検出のグループの検出det_i、および上記ピボット検出pivは、運動学的フィルタリングモジュール34に送られる。
【0027】
運動学的フィルタリングモジュール34は、本発明に係る検出方法を実装し、これについて以下で詳述する。
【0028】
検出方法の一般的原理
本実施形態において、運動学的フィルタリングモジュールは、共通のグループ化座標系内の検出の極座標(すなわち、検出の方位および距離座標)にその基礎を置く。
【0029】
運動学的フィルタリングは、運動モデルに基づいて行なわれ、この運動モデルは、好ましくは単純モデル、例えば、以下RUMモデルと呼ぶ直線方向の均一な運動(Rectilinear and Uniform Movement)モデルである。
【0030】
図3のグラフは、N-1回の連続する掃引中にそれらの距離座標Dの関数として形成され、最後の掃引Nのピボット検出pivとグループ化された、検出det_iを示す。ピボット検出に関連付けられた検出のグループは、8個の検出(Q=8)を含む。
【0031】
用いられるRUMモデルに照らして、検出det_iは、その極座標が(何らかの測定の不確実性(measurement uncertainty)の範囲内まで)経時的に線形に推移する場合に、ピボット検出pivとコヒーレントであるとみなされることになる。これは、以下の関係によって反映される。
<数式1>
D_det_i=D_piv+PD*(T_det_i-T_piv)+ΔAZ
<数式2>
AZ_det_i=AZ_piv+PAZ*(T_det_i-T_piv)+ΔD
【0032】
ここで、PDは、距離座標についての最高次の係数または勾配であり、PAZは方位座標AZについての最高次の係数(leading coefficient)または勾配である。ΔAZおよびΔDは、ピボット検出およびグループ化された検出のそれぞれ方位および距離座標についての測定の不確実性に関係するランダム変数である。勾配を定義するのに特に正負符号および/または単位の他の規約を考慮することが可能である。
【0033】
この線形性に対する探求は、各々のグループ化された検出det_iとピボット検出pivとの間の勾配を用いることと、(何らかの測定の不確実性の範囲内まで)同一のものである勾配を識別することと、によって行なわれる。こうして、勾配は、以下の関係により求められる。
<数式3>
PAZ_i=(AZ_det_i-AZ_piv)/(T_det_i-T_piv)
<数式4>
PD_i=(D_det_i-D_piv)/(T_det_i-T_piv)
【0034】
この検出方法によれば、K個の検出(ピボット検出を含む、すなわちK-1個の検出det_iおよびピボット検出piv)が互いとの関係においてコヒーレントである場合、プロットが創出され、その後トラッキングステージへと送られる。このことは、図3において、検出det_1、det_2、det_4およびdet_6を関連付ける楕円によって示され、このとき、Kは5に等しいのでプロットが創出される。
【0035】
本発明に係る長時間積分による検出方法100は、潜在値のヒストグラムHの使用に基づく。図4に示されるように、これには、以下のステップが含まれる。
【0036】
-ステップ110において、2つの次元を有するヒストグラムHが初期化される。このヒストグラムは、方位勾配値PAZ_iおよび距離勾配値PD_iに従って各々の検出det_iを位置決めするために用いられる。ヒストグラムの特徴は、以下の通りである(好ましい実装に対応する数値は、一例として示される)。
Nb_PAZ:方位勾配クラスの数(例えば100)、
Nb_PD:距離勾配クラスの数(例えば100)、
PAZ_min:方位勾配の最小値(例えば-1°/s)、
PAZ_max:方位勾配の最大値(例えば1°/s)、
PD_min:距離勾配の最小値(例えば-25m/s)、および
PD_max:距離勾配の最大値(例えば25m/s)。
【0037】
このヒストグラムのクラスの全てが、ニル値(nil value)で初期化される。
【0038】
-ステップ120では、ピボット検出の潜在方位値の間隔および潜在距離値の間隔が計算される。
【0039】
このステップにおいて、ピボット検出について一定の不確実性を伴って得られた方位および距離測定値から、これらの2つの特性の真の値が所与の信頼性レベルで含まれる間隔を決定しようと試みる。これらの間隔は、潜在値間隔と呼ばれる。これらは、以下の形態をとる。
-潜在方位値の間隔:[AZ_piv_min;AZ_piv_max]
ここで、AZ_piv_min=AZ_piv-Tol_AZおよびAZ_piv_max=AZ_piv+Tol_AZであり、式中、AZ_pivは、共通座標系内のピボット検出の測定された方位であり、Tol_AZは、測定上の不確実性を考慮に入れた方位許容度(allowance)である。
-潜在距離値の間隔:[D_piv_min;D_piv_max]
ここで、D_piv_min=D_piv-Tol_DおよびD_piv_max=D_piv+Tol_Dであり、式中、D_pivは、共通座標系内のピボット検出の測定された距離であり、Tol_Dは、測定上の不確実性を考慮に入れた距離許容度である。
【0040】
-ステップ130では、潜在方位値の間隔および潜在距離値の間隔が、ピボット検出に関連付けられたグループの各々のグループ化された検出det_iについて計算される。
【0041】
ピボット検出に関する上述のように、グループ化された検出det_iについて、可能な値間隔(possible value intervals)は、以下の形態をとる。
-潜在方位値の間隔:[AZ_det_i_min;AZ_det_i_max]
ここで、AZ_det_i_min=AZ_det_i-Tol_AZおよびAZ_det_i_max=AZ_det_i+Tol_AZであり、式中、AZ_Iは、グループ化座標系内の検出det_iの測定された方位であり、Tol_AZは方位許容度である。
-潜在距離値の間隔:[D_det_i_min;D_det_i_max]
ここで、D_det_i_min=D_det_i-Tol_DおよびD_det_i_max=D_det_i+Tol_Dであり、式中、D_det_iは、共通座標系内の検出det_iの測定された距離であり、Tol_Dは距離許容度である。
【0042】
許容度を計算するためには、例えば、任意の許容度値を設定することまたは測定値に最もうまく対応するようにこれらを計算することなどによる、複数のアプローチが存在する。共通座標系内の異なる検出のグループ化の許容度に対する効果も、同様に考慮に入れることができる。
【0043】
同様にして、処理の運動学的剛性(kinematic rigidity)を調整するべく許容度を調整することも可能である。許容度が大きくなればなるほど、用いられる運動学的モデルの直線的で均一な運動から偏向する運動を有する対象を、この処理が検出できる可能性が高くなる。
【0044】
許容度の例示的計算を以下で示す。
【0045】
測定の不確実性は、通常それぞれ方位における標準偏差St_Azおよび距離における標準偏差St_Dによって特徴付けられ、ガウス不確実性と仮定されるレーダに固有の(inherent)測定上の不確実性に由来する。
【0046】
この実施形態において、95%の信頼性レベルで間隔を定義することが選択される。ガウスモデルに照らすと、これは、以下のレーダ測定についての許容度に対応する。
<数式5>
Tol_AZ=2×St_AZ
<数式6>
Tol_D=2×St_D
【0047】
図5は、距離座標について、ピボット検出、検出det_1および検出det_N-1についての可能な値間隔を決定するためのステップ120および130を例示する。
【0048】
-ステップ140では、勾配値が計算される。この目的で、潜在値間隔から、各々のピボット検出/グループ化された検出対について最小および最大の勾配が計算される。図5は、距離座標についてのステップ140を例示する。
【0049】
したがって、ピボット検出とグループ化された検出det_iとを関連付ける対について、4つの極限勾配値(extreme slope values)が決定される。
<数式7>
PAZ_ii_min=(AZ_det_i_max-AZ_piv_min))/(T_det_i-T_piv)
<数式8>
PAZ_i_max=(AZ_det_i_min-AZ_piv_max)/(T_det_i-T_piv)
<数式9>
PD_i_min=(D_det_i_max-D_piv_min)/(T_det_i-T_piv)
<数式10>
PD_i_max=(D_det_i_min-D_piv_max)/(T_det_i-T_piv)
【0050】
-ステップ150において、ヒストグラムHは、クラスゾーンごとに増分される。より具体的には、ステップ140で決定された勾配の4つの極限値に対応する、ヒストグラムのクラスの最小および最大方位および距離指標がそれぞれ計算される。
<数式11>
clAZ_i_min=E(Nb_PAZ×(PAZ_i_min-PAZ_min))/(PAZ_max-PAZ_min))
<数式12>
clAZ_i_max=E(Nb_PAZ×(PAZ_i_max-PAZ_min))/(PAZ_max-PAZ_min))
<数式13>
clD_i_min=E(Nb_PD×(PD_i_min-PD_min))/(PD_max-PD_min))
<数式14>
clD_i_max=E(Nb_PD×(PD_i_max-PD_min))/(PD_max-PD_min))
なお、式中、関数E()は、「全体(whole part)」関数に対応する。
【0051】
方位指標clAZおよび距離指標cIDは、ゼロとNB_PD-1と(それぞれゼロとNB_PAZ-1と)の間にくるように限定される。
【0052】
方位指標および距離指標が最小指標と最大指標との間にあるクラスの全ては、それらが対象の潜在位置に対応することから「可能である(possible)」。その結果、ステップ150は、以下のことを検証するヒストグラムのクラス(clAZ、clD)の全てを増分することからなる。
<数式15>
clAZ_i_min≦clAZ≦clAZ_i_max かつ clD_i_min≦clD≦clD_i_max
すなわち、方位におけるclAZ_i_minおよびclAZ_i_maxと、距離におけるclD_i_minおよびclD_i_maxと、の指標によって境界が定められるゾーン(図6中のzone_i)のクラス。
【0053】
このゾーンごとの増分は、図6に例示される。
【0054】
-ステップ160では、運動学的コヒーレンス基準がテストされる。この基準は、好ましくは以下の通りである。ヒストグラムの1クラスがK-1個の要素を含む場合には、ステップ180においてプロットが形成される。これは、実際には、K-1個の検出が潜在的にピボット検出と整列される(aligned)こと、したがってK個の検出が運動学的にコヒーレントであることを意味する。
【0055】
-ステップ170において、コヒーレンス基準が検証されなかった場合、方法100は、ステップ130まで一巡して戻り、ピボット検出に関連付けられた検出グループにおいて、後続する検出det_iを考慮に入れる。プロットが創出されることなくグループの全ての検出が処理された場合、方法は終了する。
【0056】
ゾーンごとの増分を実装する本発明に係る方法には、以下のような利点がある。
-増分されたクラスの全てが反射体の位置の潜在的な真の値に対応することから、運動学的コヒーレンスは、厳密に検証される。
-該方法は、当然のことながら、グループ化された検出の日付による勾配値の統計学的分布を考慮する(検出がピボット検出に時間的に近いと、勾配の値についての不確実性は大きくなる)。
-該方法は、線形計算上の複雑度を有し、このため、公知の代替案に比べ実行を速くすることができる。
【0057】
変形形態
この検出方法は、例えば検出のデカルト座標(Cartesian coordinates)により、検出の極座標によるものとは異なる形で検出を特徴付けることによって実装可能である。
【0058】
この検出方法は、例えば距離などの単一座標を用いて検出を特徴付けることによって実装可能である。この場合、計算ステップは、先に説明したものと同じであるが、距離座標のみに限定される。潜在値のヒストグラムは、このとき、1つの次元、すなわち距離勾配を伴うヒストグラムである。この実装の利点は、実行速度が非常に高いことである。
【0059】
この検出方法は、例えば用いられるレーダがドップラモードで動作している場合の反射体の半径方向速度など、1つまたは複数の速度座標を用いて各検出を特徴付けることによって実装可能である。好ましくは、各検出は、また、例えば方位および距離などの1つまたは複数の位置座標を用いて特徴付けられる。このとき、運動学的コヒーレンスの探求は、3次元ヒストグラム(1つの半径方向速度座標および2つの位置座標)について行なわれる。(方位速度に類似する)方位勾配座標および(分離速度に類似する)距離勾配座標について増分されるべきクラスの計算は、先に説明されたものと同一である。半径方向速度については、半径方向速度がすでに速度であることから、パラメータの勾配にではなく、このパラメータに直接関連付けられなければならない。以上で説明したステップと類似のステップが、以下のように実装される。
【0060】
半径方向速度の次元に従ったヒストグラムの初期化は、次の通りである。
-NB_VR:半径方向速度クラスの数。例えば100。
-VR_MINおよびVR_MAX:極限クラス(extreme classes)に対応する半径方向速度。例えば-25および25m/s。
【0061】
潜在速度値の計算は、次の通りである。
[VR_det_i-Tol_VR;V_det_i+Tol_V]
式中、VR_det_iは、検出det_iについて測定された半径方向速度であり、tol_VRは、半径方向速度についての許容度である。許容度の値は、実装の選択に基づいて決定されなければならない。例えば、St_VRが半径方向速度についての測定の不確実性であるものとして、Tol_VR=4×St_VRである。
【0062】
クラスの最大および最小指標は、次の通りである。
<数式16>
clVR_i_min=E(NB_VR×(VR_det_i-Tol_VR-VR_MIN)/(VR_MAX-VR_MIN))
<数式17>
clVR_i_max=E(NB_VR×(VR_det_i+Tol_VR-VR_MIN)/(VR_MAX-VR_MIN))
【0063】
以下の制約を検証する指標(clAZ、clD、clVR)を有する3Dヒストグラムのゾーンzone_iのクラスは、1単位だけ増分される。
<数式18>
clAZ_i_min≦clAZ≦clAZ_i_max、
かつ
clD_i_min≦clD≦clD_i_max、
かつ
clVR_i_min≦clVR≦clAR_i_max
【0064】
整数NおよびKは、運用状況、詳細には、海の状態と関連して調整可能なパラメータで
ある。
〔構成1〕
対象を検出するレーダシステム(10)によって実装される長時間積分による検出方法(100)であって、前記レーダシステムは少なくとも1つの座標に沿って測定値を送出でき、前記レーダシステムによる複数回にわたる同じ空間のN回連続掃引の結果としての複数の検出を入力として用い、均一の直線運動を対象が有するものとする運動学的運動モデルに基づく運動学的フィルタリング基準を適用することによって、前記複数の検出の中から同じ対象と関連付けられる検出を識別する方法であり、前記方法は、
ピボット検出(piv)と呼ばれる各々の新たな検出の時点で実装され、
-前記ピボット検出(piv)を用いて、前記複数の検出の中の複数のグループ化された検出(det_i)を一緒にグループ化するステップであって、グループ化された検出は、前記ピボット検出の掃引Nに先行するN-1回の掃引のうちの1つに属し、前記ピボット検出と前記考慮される検出とを関連付けるグループ化基準に従って非ニル尤度を有する検出であるステップと、
-前記グループ化された検出(det_i)を運動学的にフィルタリングすることによって、前記ピボット検出と、厳密に運動学的にコヒーレントである前記グループ化された検出と、を関連付けるステップであって、
-ヒストグラム(H)を初期化するステップ(110)であって、前記ヒストグラムの各次元は、前記レーダシステムによって測定された対応する座標の時間的変動であるステップと、
-前記ピボット検出の座標もしくは各座標についての潜在値の間隔を計算するステップ(120)と、により、
さらに、各々のグループ化された検出について、
-前記考慮されるグループ化された検出の座標もしくは各座標についての潜在値の間隔を計算するステップ(130)と、
-レーダシステムによって測定された座標もしくは各座標についての前記ピボット検出および前記考慮されるグループ化された検出の潜在値の間隔から、最小の時間的変動および最大の時間的変動を計算するステップ(140)と、
-各次元に沿った指標が前記計算された最小の時間的変動と最大の時間的変動との間にある前記ヒストグラムの各クラスを増分するステップ(150)と、
-一旦前記ヒストグラムの少なくとも1つのクラスが所定の値(K-1)に到達すると対象が検出される運動学的コヒーレンス基準をテストするステップ(160)と、によるステップと、を有することを特徴とする方法。
〔構成2〕
前記レーダシステムが測定する前記少なくとも1つの座標が位置を有する場合、前記対応する時間的変動は勾配であり、
前記レーダシステムが測定する前記少なくとも1つの座標が速度を有する場合、前記対応する時間的変動は速度である、構成1に記載の方法。
〔構成3〕
前記位置が方位位置である場合、前記時間的変動は方位勾配であり、前記位置が距離位置である場合、前記時間的変動は距離勾配である、構成2に記載の方法。
〔構成4〕
前記ピボット検出と前記考慮される検出とを関連付ける前記グループ化基準は、前記ピボット検出と前記考慮される検出との間の距離であり、基準距離よりも小さい距離を有する検出は、前記ピボット検出と一緒にグループ化される、構成1ないし3のいずれか一項に記載の方法。
〔構成5〕
前記対象は小さい対象である、構成1ないし4のいずれかに記載の方法。
〔構成6〕
構成1ないし5のいずれかに記載の長時間積分による検出方法を実装するのに好適な分析ステージ(16)を有することを特徴とする、レーダシステム(10)。
〔構成7〕
機械走査アンテナまたは電子走査アンテナ(12)を有する、構成6に記載のレーダシステム(10)。
〔構成8〕
プラットフォーム上に埋込まれるのに好適であり、可動式である、構成6または7に記載のレーダシステム(10)。
〔構成9〕
海洋監視専用の、構成6ないし8のいずれかに記載のレーダシステム(10)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6