(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】摺動部材
(51)【国際特許分類】
F16C 33/20 20060101AFI20231122BHJP
C08K 3/01 20180101ALI20231122BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
F16C33/20 Z
C08K3/01
C08L101/00
(21)【出願番号】P 2019218762
(22)【出願日】2019-12-03
【審査請求日】2022-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】小川 徹也
(72)【発明者】
【氏名】安田 絵里奈
(72)【発明者】
【氏名】二村 健治
【審査官】角田 貴章
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-072535(JP,A)
【文献】特開2017-210994(JP,A)
【文献】特開2017-088741(JP,A)
【文献】特開2013-210060(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 9/02
17/00-17/26
33/00-33/28
F16L 27/00-27/12
C08K 3/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受合金層の摺動面側に樹脂オーバレイ層を備える摺動部材であって、
前記樹脂オーバレイ層は、
樹脂バインダと、
前記樹脂バインダに分散する20体積%以上の異方性の形状の固体潤滑剤の粒子と、を有し、
前記摺動面と平行な仮想的な直線を0°、前記摺動面に垂直な仮想的な軸を90°、前記樹脂バインダの任意の観察領域に含まれる前記粒子について、分布の定数をa、分布の第一パラメータをb、分布の第二パラメータをc、分布の第三パラメータをdとそれぞれ定義するとともに、
前記観察領域に含まれる前記粒子の垂直方向における長さ成分の総和をLとし、
前記観察領域に含まれる前記粒子について、0°~90°の範囲を、10°刻みであるA-10°<x≦A°(A=10、20、30、・・・、90)の角度範囲に区分し、前記粒子の長軸の角度が前記角度範囲のいずれに含まれるか分類するとともに、前記角度範囲に含まれる前記粒子の垂直方向の長さ成分の総和をlとしたとき、
前記樹脂バインダに含まれる前記粒子の垂直方向の長さの分布割合l/Lは、下記の式(1)で示される
とともに、
前記第一パラメータbは、10≦b≦45であり、
前記第二パラメータcは、4≦c≦21であり、
前記第三パラメータdは、d≦8.5である、
摺動部材。
【数1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軸受合金層の摺動面側に樹脂オーバレイ層を備える摺動部材が公知である(特許文献1参照)。樹脂オーバレイ層は、固体潤滑剤が添加され、摩耗の低減及びなじみ性の向上に寄与する。特許文献1は、固体潤滑剤のX線回折による回折面の強度比を特定することにより、特性の向上を図っている。つまり、特許文献1の場合、樹脂オーバレイ層に含まれる固体潤滑剤の劈開方向を設定することにより、摺動性能を高めている。
【0003】
しかしながら、内燃機関のさらなる燃費向上の要求によって、今後、潤滑油は粘度の低下が進むと考えられる。潤滑油の粘度が低下すると、摺動部材と相手部材との間で潤滑油による油膜の形成が不十分になり、油膜が介在することなく摺動部材と相手部材とが接触する。そのため、樹脂オーバレイ層が早期に摩耗し、軸受合金層の露出による焼付を招くおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、潤滑油による潤滑が不十分なときでも、摩擦係数の増大を招くことなく、樹脂オーバレイ層の耐摩耗性が向上する摺動部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態は、軸受合金層の摺動面側に樹脂オーバレイ層を備える摺動部材である。
前記樹脂オーバレイ層は、樹脂バインダと、前記樹脂バインダに分散する20体積%以上の異方性の形状の固体潤滑剤の粒子と、を有する。
前記摺動面と平行な仮想的な直線を0°、前記摺動面に垂直な仮想的な軸を90°、前記樹脂バインダの任意の観察領域に含まれる前記粒子について、分布の定数をa、分布の第一パラメータをb、分布の第二パラメータをc、分布の第三パラメータをdとそれぞれ定義するとともに、
前記観察領域に含まれる前記粒子の垂直方向における長さ成分の総和をLとし、
前記観察領域に含まれる前記粒子について、0°~90°の範囲を、10°刻みであるA-10°<x≦A°(A=10、20、30、・・・、90)の角度範囲に区分し、前記粒子の長軸の角度が前記角度範囲のいずれに含まれるか分類し、前記角度範囲に含まれる前記粒子の垂直方向の長さ成分の総和をlとしたとき、
前記樹脂バインダに含まれる前記粒子の垂直方向の長さの分布割合l/Lは、下記の式(1)で示される摺動部材。
【0007】
【0008】
このように、樹脂オーバレイ層に含まれる固体潤滑剤の粒子は、角度範囲ごとに式(1)に示すような式を満たす分布となる。樹脂オーバレイ層に含まれる固体潤滑剤の粒子は、その姿勢によって樹脂オーバレイ層の厚さ方向である垂直成分が大きな粒子と、摺動面に沿った方向である水平成分が大きな粒子とに区分される。垂直成分が大きな粒子は、樹脂オーバレイ層を厚さ方向で支持することから、耐摩耗性の向上に寄与する。一方、水平成分が大きな粒子は、摺動面に露出したときの面積が大きくなることから、摩擦係数の低減に寄与する。本実施形態のように固体潤滑剤の粒子の垂直成分が式(1)の分布となるとき、樹脂オーバレイ層に含まれる固体潤滑剤の粒子は、垂直成分と水平成分とが適切な割合となる。その結果、垂直成分が大きな粒子による樹脂オーバレイ層の強度の向上と、水平成分が大きな粒子による摩擦係数の低減とが両立される。したがって、潤滑油の粘度の低下などにともなって潤滑が不十分になるときでも、摩擦係数の増大を招くことなく、樹脂オーバレイ層の耐摩耗性を高めることができる。
【0009】
なお、式(1)において、左辺のl/L[%]は、百分率として換算した値を意味する。また、摺動面に平行な仮想的な直線から軸までの0°~90°の範囲は、10°刻みでA-10°<x≦A°(A=10、20、30、・・・、90)の角度範囲に区分される。すなわち、直線から軸までの範囲は、0°≦x≦10°、10°<x≦20°、20°<x≦30°、30°<x≦40°、40°<x≦50°、50°<x≦60°、60°<x≦70°、70°<x≦80°、80°<x≦90にそれぞれ分割される。この場合、A=10のときに限り、下限となるθ=0°は0°~10°の角度範囲に含むものとする。
【0010】
この式(1)では、第一パラメータbは、10≦b≦45であることが望ましい。また、式(1)では、第二パラメータcは、4≦c≦21であり、第三パラメータdは、d≦8.5であることがより望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態による摺動部材の樹脂オーバレイ層に含まれる固体潤滑剤の粒子を示す模式図
【
図2】一実施形態による摺動部材を示す模式的な断面図
【
図3】一実施形態による摺動部材において樹脂オーバレイ層に設定される観察領域を示す模式図
【
図4】一実施形態による摺動部材の樹脂オーバレイ層に含まれる固体潤滑剤の粒子を示す模式図
【
図5】一実施形態による摺動部材の樹脂オーバレイ層に含まれる固体潤滑剤の粒子において角度範囲ごとの垂直方向成分の分布を示す模式図
【
図6】一実施形態による摺動部材の製造方法を説明するための模式図
【
図7】一実施形態による摺動部材の実施例及び比較例における試験条件を示す概略図
【
図8】一実施形態による摺動部材の実施例及び比較例の試験結果を示す概略図
【
図9】一実施形態による摺動部材の実施例の試験結果を示す概略図
【
図10】一実施形態による摺動部材の実施例の試験結果を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、摺動部材の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図2に示すように摺動部材10は、裏金層11、軸受合金層12及び樹脂オーバレイ層13を備えている。なお、摺動部材10は、裏金層11と軸受合金層12との間に図示しない中間層を備えていてもよい。また、摺動部材10は、
図2に示す例に限らず、裏金層11と樹脂オーバレイ層13との間に、複数の軸受合金層12や中間層、その他の機能を有する層を備えていてもよい。摺動部材10は、樹脂オーバレイ層13側の端部に相手部材と摺動する摺動面14を形成する。
図2に示す本実施形態の場合、摺動部材10は、裏金層11の摺動面14側に軸受合金層12及び樹脂オーバレイ層13が順に積層されている。裏金層11は、例えば鉄や鋼などの金属又は合金で形成されている。軸受合金層12は、例えばAl若しくはCu又はそれらの合金などで形成されている。
【0013】
樹脂オーバレイ層13は、
図3に示すように樹脂バインダ20と、固体潤滑剤の粒子21とを備えている。樹脂バインダ20は、樹脂オーバレイ層13を構成する主成分であり、例えばポリアミドイミド、ポリイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリアミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂及びエラストマー樹脂から選択される一種以上が用いられる。また、樹脂バインダ20は、ポリマーアロイであってもよい。本実施形態では、樹脂バインダ20として、ポリアミドイミドを用いている。また、固体潤滑剤は、例えば二硫化モリブデン、二硫化タングステン、h-BN、フッ化黒鉛、グラファイト、マイカ、タルク、メラミンシアヌレートなどのように、劈開性又は層状構造を有するものから選択される一種以上が用いられる。また、固体潤滑剤の粒子21は、耐荷重性の高いものが好ましい。本実施形態の場合、固体潤滑剤は、耐荷重性の高い二硫化モリブデンを用いている。
【0014】
樹脂オーバレイ層13は、例えば充填剤をはじめとする添加剤を加えてもよい。この場合、添加剤は、フッ化カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、酸化鉄、酸化アルミニウム、酸化クロム、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化シリコン、酸化マグネシウムなどの酸化物、モリブデンカーバイド、炭化ケイ素などの炭化物、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、立方晶窒化ホウ素、ダイヤモンドなどから選択される一種以上が用いられる。
【0015】
本実施形態の摺動部材10は、樹脂オーバレイ層13に、固体潤滑剤の粒子21を20体積%以上含んでいる。この場合、樹脂オーバレイ層13は、固体潤滑剤の含有量の上限を60体積%程度にすることが好ましい。固体潤滑剤の含有量が60体積%を超えると、樹脂バインダ20の不足により樹脂オーバレイ層13の物理的な強度の低下を招くおそれがあるからである。但し、この固体潤滑剤の含有量の上限値は、樹脂オーバレイ層13を構成する樹脂バインダ20及び固体潤滑剤の組み合わせによって調整可能である。
【0016】
本実施形態の場合、固体潤滑剤の粒子21は、
図1に示すように長軸31及び短軸32を有する異方性の形状を有している。この固体潤滑剤の粒子21は、樹脂バインダ20に分散している。樹脂オーバレイ層13に含まれる固体潤滑剤の粒子21は、摺動面14と平行な仮想的な直線33を0°、摺動面14に対して垂直に厚さ方向へ伸びる仮想的な軸34を90°と定義したとき、長軸31はこの0°から90°の範囲で角度θとして傾斜している。具体的には、
図3に示すように樹脂オーバレイ層13を厚さ方向へ任意の断面で切断し、この断面に任意の観察領域Sを設定する。本実施形態では、観察領域Sを区画する境界線を跨ぐ粒子21は計測しない。そして、この観察領域Sに含まれる粒子21から、長軸31の長さD及び長軸31の角度θが抽出される。この場合、観察領域Sは、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)で観察された画像を解析ソフトによって解析している。本実施形態では、解析ソフトとして、「Image-pro plus ver.4.5」を用いている。具体的には、得られた画像に含まれる固体潤滑剤の粒子21は、楕円に近似され、近似された楕円から
図4に示すようにこの粒子21の長軸31の長さD及び長軸の角度θを抽出する。楕円への近似は、例えば対象とする粒子21と同一の面積、同一の1次モーメント及び2次モーメントを有する楕円を算出することにより行なう。本実施形態では、観察領域Sに含まれる粒子21のうち、長軸31が0.3μm以上のものを観察対象としている。なお、当然ながら長軸の角度θは、直線33と軸34との間に2つ計測されるとき、より小さい方を採用する。
【0017】
樹脂バインダ20に含まれる固体潤滑剤の粒子21は、上述のように角度θを有している。このとき、粒子21の長軸31の長さをDとすると、粒子21は、
図4に示すように垂直方向成分の長さD1=D×sinθと、水平方向成分の長さD2=D×cosθとを有する。また、
図3に示すような観察領域Sに含まれる固体潤滑剤の粒子21の全てについて、垂直方向成分の長さD1の総和を求め、この総和はLと定義する。
【0018】
上記のように摺動面14に平行な直線33を0°とし、これに垂直な仮想的な軸34を90°としたとき、この直線33から軸34までの0°~90°の範囲は、10°刻みでA-10°<x≦A°(A=10、20、30、・・・、90)の角度範囲に区分される。すなわち、直線33から軸34までの範囲は、0°≦x≦10°、10°<x≦20°、20°<x≦30°、30°<x≦40°、40°<x≦50°、50°<x≦60°、60°<x≦70°、70°<x≦80°、80°<x≦90にそれぞれ分割される。この場合、A=10のときに限り、下限となるθ=0°は0°~10°の角度範囲に含むものとする。観察領域Sに含まれる粒子21の長軸31の角度θは、この10°の角度範囲のいずれに属するか分類される。そして、区分された10°の角度範囲ごとに、長軸31が当該角度範囲となる粒子21の垂直方向成分の長さD1の総和を求め、この総和はlと定義する。このとき、観察領域Sに含まれる粒子21の垂直方向成分の分布割合l/L(%)は、下記の式(1)で示される分布となる。式(1)において、eは自然対数であり、aは調整項であり、第一パラメータb、第二パラメータc、第三パラメータdはそれぞれ分布のパラメータである。式(1)で示される分布のグラフの一例は、
図5に示すような曲線の形状となる。第一パラメータbは、この分布を示す曲線の極大部の位置を示す。第二パラメータcは、この分布を示す曲線の広がりを示す。第三パラメータdは、l/L軸方向における位置を示す。本実施形態の場合、第一パラメータbは、10≦b≦45であることが望ましい。また、式(1)では、第二パラメータcは、4≦c≦21であり、第三パラメータdは、d≦8.5であることがより望ましい。なお、式(1)において、左辺のl/L[%]は、百分率として換算した値を意味する。
【0019】
【0020】
次に、本実施形態による摺動部材10の製造方法を説明する。
図6に示すように裏金層11の一方の面側に軸受合金層12が形成されたバイメタル40は、円筒形状に成形される。この場合、バイメタル40は、裏金層11を円筒形状とした後、内周側に軸受合金層12を形成してもよい。また、バイメタル40は、円筒形状に限らず、半円筒形状又は円筒を周方向へ複数に分割した形状であってもよい。バイメタル40は、内周側である軸受合金層12と対向する位置にスプレー部41及び熱源42が配置される。スプレー部41は、ノズル43を有している。ノズル43は、樹脂オーバレイ層13を形成するための固体潤滑剤の粒子21を含む樹脂バインダ20を噴射する。また、熱源42は、噴射された樹脂バインダ20を乾燥するためにバイメタル40の内周側を加熱する。
【0021】
本実施形態の場合、円筒形状に形成されたバイメタル40は、
図6の矢印で示すように周方向へ回転される。これにより、スプレー部41のノズル43は、回転するバイメタル40の内周側へ固体潤滑剤の粒子21を含む樹脂バインダ20を噴射する。バイメタル40の内周側に付着した樹脂バインダ20は、熱源42によって加熱され、乾燥される。
【0022】
単にスプレー部41のノズル43から固体潤滑剤の粒子21を含む樹脂バインダ20をバイメタル40の内周側に噴射する場合、樹脂バインダ20に含まれる固体潤滑剤の粒子21は不規則な姿勢となる。つまり、固体潤滑剤の粒子21は、姿勢が制御されることなく、角度θの分布がランダムとなる不規則な姿勢で樹脂バインダ20に含まれる。これに対し、本実施形態では、樹脂オーバレイ層13を形成するとき、バイメタル40は高速で回転されながら樹脂バインダ20が吹き付けられるとともに乾燥される。これにより、樹脂バインダ20は、吹き付けられた層の内部に先行して表面つまりノズル43に近い側が固化する。そのため、バイメタル40に付着した樹脂バインダ20は、表面が固化するとともに、内部が半乾き状態となる。これにより、樹脂バインダ20に含まれる固体潤滑剤の粒子21は、長軸31の表面に近い側が他の部分に先行して固化した樹脂バインダ20に捕捉されて姿勢の変化が制限される。一方、固体潤滑剤の粒子21は、樹脂バインダ20の内部が固化するまで、半乾きの樹脂バインダ20の内部で姿勢の変化が可能である。そのため、固体潤滑剤の粒子21は、バイメタル40の回転によって加わる遠心力によって、半乾きの樹脂バインダ20の内部で摺動面14に対する角度θが変化する。そして、樹脂バインダ20が内側まで完全に乾燥することにより、固体潤滑剤の粒子21はその姿勢が固定される。
【0023】
このように、本実施形態では、例えばバイメタル40の回転数、熱源42の温度、熱源から形成される樹脂バインダ20までの距離などを調整することにより、樹脂バインダ20に含まれる固体潤滑剤の粒子21の角度θが制御される。なお、バイメタル40の回転数は、樹脂オーバレイ層13を形成する初期から終期まで一定であってもよく、形成の途中に加速及び減速してもよい。
【0024】
以上のように、固体潤滑剤の粒子21を含む樹脂バインダ20をバイメタル40に噴射し、固化した樹脂バインダ20が所望の厚さまで形成されると、樹脂オーバレイ層13を備える摺動部材10が形成される。
【0025】
以下、本実施形態による摺動部材10の実施例を比較例と対比しながら説明する。
上記の手順によって製造した摺動部材の実施例及び比較例の試料は、
図7に示す条件を用いて摩耗量から耐摩耗性を評価するとともに、摩擦係数を測定した。
図7に示す試験条件において、回転数は、500rpmで一定ではなく、5秒ごとに0rpmと500rpmとを繰り返す「起動-停止」試験である。また、潤滑油による潤滑が不十分な条件を再現するために、
図7に示す試験条件において、潤滑油はVG05を用いるとともに、潤滑油の供給量を1.0ml/minに設定した。
【0026】
図8に示すように、式(1)の分布を満たす実施例1は、式(1)の分布を満たさない比較例と対比すると、耐摩耗性が向上していることが明らかである。これは、上述のように、式(1)の分布を満たす場合、樹脂オーバレイ層13に含まれる固体潤滑剤の粒子21は、その本来の採用として摩擦係数の低下に寄与するだけでなく、樹脂オーバレイ層13の強度の向上に寄与しているからと考えられる。つまり、樹脂オーバレイ層13に含まれる固体潤滑剤の粒子21は、垂直成分が大きくなることにより、厚さ方向で樹脂オーバレイ層13を支持する支柱として作用する。一方、樹脂オーバレイ層13に含まれる固体潤滑剤の粒子21は、水平成分が大きくなることにより、摺動面14に露出する面積が拡大し、摩擦係数の低減に寄与する。実施例1のように式(1)の分布を満たす場合、この樹脂オーバレイ層13に含まれる固体潤滑剤の粒子21における垂直方向成分と水平方向成分とが適正になる。そのため、固体潤滑剤の粒子21は、本来の作用である摩擦係数の低減だけでなく、樹脂オーバレイ層13の強度の向上にも寄与する。その結果、
図7に示す条件のように潤滑油が不足する条件下においても、摩擦係数を維持しつつ、樹脂オーバレイ層13の耐摩耗性が高められる。
【0027】
図9は、式(1)の第一パラメータbについて検証している。樹脂オーバレイ層13の摩耗量は、第一パラメータbが大きくなるほど小さくなる傾向にある。一方、樹脂オーバレイ層13の摩擦係数は、第一パラメータbが大きくなるにしたがって大きくなる傾向にある。このことから、第一パラメータbが所定の範囲にあるとき、樹脂オーバレイ層13は摩擦係数の増大を招くことなく、耐摩耗性が高められることがわかる。
図9に示す実施例3~実施例5を参照すると、パラメータbが10≦b≦45であるとき、樹脂オーバレイ層13は摩擦係数の増大を招くことなく、耐摩耗性が顕著に向上する。
【0028】
図10は、式(1)の第二パラメータc及び第三パラメータdについて検証している。樹脂オーバレイ層13は、第二パラメータc及び第三パラメータdが所定の範囲にあるとき、摩擦係数の増大を招くことなく、耐摩耗性が高められることがわかる。
図10に示す実施例10~実施例13を参照すると、第二パラメータcが4≦c≦21であり、かつ第三パラメータdがd≦8.5であるとき、樹脂オーバレイ層13は摩擦係数の増大を招くことなく、耐摩耗性が顕著に向上する。
【0029】
以上説明した本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
【符号の説明】
【0030】
図面中、10は摺動部材、12は軸受合金層、13は樹脂オーバレイ層、14は摺動面、20は樹脂バインダ、21は粒子を示す。