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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】巻線診断装置および巻線診断方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/72 20200101AFI20231122BHJP
   G01R 31/34 20200101ALI20231122BHJP
【FI】
G01R31/72
G01R31/34 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019231012
(22)【出願日】2019-12-23
(65)【公開番号】P2021099256
(43)【公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-10-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)令和1年11月8日に一般社団法人日本機械学会が発行した第62回自動制御連合講演会講演予稿集の「1D2-03」に掲載 (2)令和1年11月8日に第62回自動制御連合講演会で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000219820
【氏名又は名称】株式会社トーエネック
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100131406
【弁理士】
【氏名又は名称】福山 正寿
(72)【発明者】
【氏名】中村 久栄
(72)【発明者】
【氏名】木村 英明
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-286611(JP,A)
【文献】特開2019-045276(JP,A)
【文献】特開2019-124549(JP,A)
【文献】特開2017-211280(JP,A)
【文献】特開2012-058221(JP,A)
【文献】特開2012-242377(JP,A)
【文献】国際公開第2019/045044(WO,A1)
【文献】特開2018-057096(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/50-31/74
G01R 31/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インパルス発生回路から電気機器の巻線に所定特性のインパルス電圧を印加した際に前記巻線の両端で観測される電圧に基づき、該巻線の異常の有無を含む巻線状態を診断する巻線診断装置であって、
所定時間に亘って第1時間毎に前記電圧を読み込む読込部と、
前記第1時間をTs、前記読込部によって該第1時間Ts毎に読み込まれる前記電圧をVn、前記巻線と前記インパルス発生回路とを含む測定回路の等価回路定数インダクタンスをL、該測定回路の等価回路定数キャパシタンスをC、前記測定回路の等価回路定数レジスタンスをR、前記等価回路定数インダクタンスLと前記等価回路定数キャパシタンスCとの乗算値をLC、前記等価回路定数レジスタンスRと等価回路定数キャパシタンスCとの乗算値をRCとしたときに、次式(1)に示す誤差eが最小となる前記乗算値LCおよび前記乗算値RCを次式(2)および(3)により演算する演算部と、
演算した前記乗算値LCおよび上記乗算値RCに基づいて前記巻線状態を診断する診断部と、
を備える巻線診断装置。
(数1)
【請求項2】
前記演算部は、粒子群最適化法を用いて前記乗算値LCおよび前記乗算値RCを演算しており、
該粒子群最適化法における慣性定数および加速定数は、値1以下に定められている
請求項1に記載の巻線診断装置。
【請求項3】
前記所定時間は、減衰振動する前記電圧の1周期以上の値に定められている
請求項1または2に記載の巻線診断装置。
【請求項4】
前記読込部による前記電圧の読み込み周期f 1 は、前記電圧の周期をf 0 としたときに、次式(4)を満たすように定められており、
前記第1時間は、次式(5)によって得られる
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の巻線診断装置。
(数2)
10×f 0 ≦f 1 ≦1000×f 0 (4)
Ts=1/f 1 (5)
【請求項5】
前記演算部は、線形計画法を用いて前記乗算値LCおよび前記乗算値RCを演算する
請求項1に記載の巻線診断装置。
【請求項6】
前記乗算値LCおよび前記乗算値RCよりなる複数の座標群と、該複数の座標群のそれぞれに対応する前記巻線状態と、の関係を予め定めた巻線診断用マップを記憶した記憶部をさらに備え、
前記診断部は、前記巻線診断用マップを用いて、前記演算部によって演算された前記乗算値LCおよび前記乗算値RCよりなる診断対象座標に対応する前記巻線状態を導出し、導出した該巻線状態を診断結果として出力する
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の巻線診断装置。
【請求項7】
前記診断部は、前記診断対象座標と,前記複数の座標群のうち前記巻線状態が正常である正常座標と,の距離、および、前記診断対象座標と,前記複数の座標群のうち前記巻線状態に異常を有する異常座標と,の距離、を演算し、演算した距離が近い方の座標に対応する前記巻線状態を前記診断結果として出力する
請求項6に記載の巻線診断装置。
【請求項8】
前記巻線診断用マップは、前記複数の座標群が、前記巻線状態が正常である正常座標群と、前記巻線状態が異常である異常座標群と、にクラス分類されたマップであり、
前記診断部は、前記診断対象座標が前記正常座標群に属する場合には前記巻線状態が正常であると診断し、前記診断対象座標が前記異常座標群に属する場合には前記巻線状態が異常であると診断する
請求項6に記載の巻線診断装置。
【請求項9】
前記巻線診断用マップは、前記異常座標群が異常の態様によってさらにクラス分類されており、
前記診断部は、前記診断対象座標が前記異常座標群に属する場合には、前記異常の態様を診断する
請求項8に記載の巻線診断装置。
【請求項10】
電気機器の巻線の異常の有無を診断する巻線診断方法であって、
(a)インパルス発生回路から前記巻線に所定特性のインパルス電圧を印加し、
(b)前記巻線に前記インパルス電圧が印加された場合に前記巻線の両端で観測される電圧を所定時間に亘って第1時間毎に計測し、
(c)前記第1時間をTs、該第1時間Ts毎に計測される前記電圧をVn、前記巻線と前記インパルス発生回路とを含む測定回路の等価回路定数インダクタンスをL、該測定回路の等価回路定数キャパシタンスをC、前記測定回路の等価回路定数レジスタンスをR、前記等価回路定数インダクタンスLと前記等価回路定数キャパシタンスCとの乗算値LC、前記等価回路定数レジスタンスRと前記等価回路定数キャパシタンスCとの乗算値RCとしたときに、次式(6)に示す誤差eが最小となる前記乗算値LCおよび前記乗算値RCを次式(7)および(8)により演算し、
(d)演算した前記乗算値LCおよび前記乗算値RCに基づいて前記巻線の異常の有無を診断する
巻線診断方法。
(数3)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器の巻線の異常の有無を含む巻線状態を診断する巻線診断装置および巻線診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開平2008-286611号公報(特許文献1)には、巻線を備える電気機器において、当該電気機器を分解することなく、巻線の異常の有無を診断可能な巻線診断装置が記載されている。
【0003】
当該巻線診断装置は、電気機器の巻線にインパルス電圧が印加された際の当該巻線の両端で観測される電圧値を計測すると共に、計測した当該電圧に基づいて、当該巻線とインパルス電圧発生回路とから構成される診断回路の等価回路定数としてのインダクタンスLおよびレジスタンスRと、当該診断回路の等価回路定数としてのキャパシタンスCと、の乗算値LCおよび乗算値RCを算定し、当該乗算値LCおよび乗算値RCに基づいて巻線が正常か否かを診断する。
【0004】
ところで、上述した公報に記載の巻線診断装置は、行列式を用いて乗算値LCや乗算値RCを導出している。この行列式は、巻線の両端で観測される電圧値に対して1階微分や2階微分を演算する必要がある。一般に、微分演算は、計測時の電圧信号に含まれるノイズ成分が演算結果に大きな影響を及ぼす。つまり、ノイズ成分を多く含む電圧信号に対して微分演算を行うと、ノイズの影響により、正しい乗算値LCや乗算値RCの値が算出できない場合がある。ローパスフィルタやバンドパスフィルタなどを設計して、計測した電圧に含まれる高い周波数成分のノイズ成分を除去することも考えられるが、乗算値LCや乗算値RCを導出するのに必要となる周波数成分は、診断対象である巻線毎に異なるため、どの周波数成分をカットするかといったカットオフ周波数の設計に工数を要する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平2008-286611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、設計工数の低減を図りながらも電気機器における巻線の異常の有無を診断することが可能な巻線診断装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る巻線診断装置の好ましい形態によれば、インパルス発生回路から電気機器の巻線に所定特性のインパルス電圧を印加した際に巻線の両端で観測される電圧に基づき、当該巻線の異常の有無を含む巻線状態を診断する巻線診断装置が構成される。当該巻線診断装置は、読込部と、演算部と、診断部と、を備えている。読込部は、所定時間に亘って第1時間毎に前記電圧を読み込む。演算部は、第1時間をTs、読込部によって当該第1時間Ts毎に読み込まれる電圧をVn、巻線とインパルス発生回路とを含む測定回路の等価回路定数インダクタンスをL、当該測定回路の等価回路定数キャパシタンスをC、当該測定回路の等価回路定数レジスタンスをR、等価回路定数インダクタンスLと等価回路定数キャパシタンスCとの乗算値をLC、等価回路定数レジスタンスRと等価回路定数キャパシタンスCとの乗算値をRCとしたときに、次式(1)に示す誤差eが最小となる乗算値LCおよび乗算値RCを次式(2)および(3)により演算する。そして、診断部は、演算部によって演算された乗算値LCおよび乗算値RCに基づいて巻線の異常の有無を診断する。
(数1)
【0008】
本発明によれば、式(1)において誤差eが最小となるような乗算値LCおよび乗算値RCを解探索手法により求めるのみであるため、計測する電圧に含まれるノイズ成分を除去するためのフィルタを設計する必要が無く、乗算値LCおよび乗算値RCを容易に求めることができる。これにより、設計工数の低減を図りながらも電気機器における巻線の異常の有無を診断することができる。
【0009】
本発明に係る巻線診断装置の更なる形態によれば、演算部は、粒子群最適化法を用いて乗算値LCおよび乗算値RCを演算する。そして、当該粒子群最適化法における慣性定数および加速定数は、値1以下に設定されている。
【0010】
粒子群最適化法を用いて乗算値LCおよび乗算値RCを求めるためには、慣性定数および加速定数を予め決定しておく必要がある。一般に、慣性定数および加速定数は、値1より大きい値(例えば値2)が望ましいとされている。しかしながら、本発明者は、鋭意研究を行った結果、乗算値LCおよび乗算値RCを求めるにあたり、慣性定数および加速定数を値1より大きい値に設定すると、解が発散してしまうことを見出した。このような研究結果を踏まえて、本形態では、慣性定数および加速定数を値1以下に設定することによって、乗算値LCおよび乗算値RCを求めることができるようになったものである。
【0011】
本発明に係る巻線診断装置の更なる形態によれば、所定時間は、減衰振動する電圧の1周期以上に設定されている。
【0012】
本発明者は、鋭意研究の結果、計測される電圧の一周期に満たない区間のデータを用いると、式(1)で示す誤差eを最小とするような乗算値LCおよび乗算値RCの組が見つからない場合があることを見出した。この研究結果を踏まえて、本形態では、電圧が減衰振動を開始した以降の当該電圧の一周期分以上の区間のデータを用いることによって、乗算値LCおよび乗算値RCを演算することができるようになったものである。
【0013】
本発明に係る巻線診断装置の更なる形態によれば、読込部による電圧の読み込み周期f1は、電圧の周期をf0としたときに、次式(4)を満たすように定められている。そして、第1時間は、次式(5)によって得られる。
(数2)
10×f0≦f1≦1000×f0 (4)
Ts=1/f1 (5)
【0014】
本発明者は、鋭意研究の結果、電圧を測定する時間の間隔によっては、誤差eを最小とするような乗算値LCおよび乗算値RCの組が見つからない場合があることを見出した。この研究結果を踏まえて、本形態では、電圧を測定する時間の間隔を式(5)で示す時間に定めることによって、誤差eを最小とするような乗算値LCおよび乗算値RCの組を容易に演算することができるようになったものである。
【0015】
本発明に係る巻線診断装置の更なる形態によれば、演算部は、線形計画法を用いて乗算値LCおよび乗算値RCを演算する。
【0016】
本形態によれば、線形計画法を用いることによって、乗算値LCおよび乗算値RCを容易に求めることができる。
【0017】
本発明に係る巻線診断装置の更なる形態によれば、乗算値LCおよび乗算値RCよりなる複数の座標群と、当該複数の座標群のそれぞれに対応する巻線状態と、の関係を予め定めた巻線診断用マップを記憶した記憶部をさらに備えている。診断部は、巻線診断用マップを用いて、演算部によって演算された乗算値LCおよび乗算値RCよりなる診断対象座標に対応する巻線状態を導出する。そして、診断部は、導出した当該巻線状態を診断結果として出力する。
【0018】
本形態によれば、予め定めた巻線診断用マップを用いて巻線状態を診断することができるため、巻線の異常の有無の診断を容易に実現できる。
【0019】
本発明に係る巻線診断装置の更なる形態によれば、診断部は、診断対象座標と,複数の座標群のうち巻線状態が正常である正常座標と,の距離、および、診断対象座標と,複数の座標群のうち巻線状態に異常を有する異常座標と,の距離、を演算し、演算した距離が近い方の座標に対応する巻線状態を診断結果として出力する。
【0020】
本形態によれば、巻線診断用マップを用いた巻線状態の診断をより簡易に行うことができる。
【0021】
本発明に係る巻線診断装置の更なる形態によれば、巻線診断用マップは、複数の座標群が、巻線状態が正常である正常座標群と、巻線状態が異常である異常座標群と、にクラス分類されたマップである。そして、診断部は、診断対象座標が正常座標群に属する場合には巻線状態が正常であると診断し、診断対象座標が異常座標群に属する場合には巻線状態が異常であると診断する。
【0022】
本形態によれば、巻線診断用マップを用いた巻線状態の診断をより簡易に行うことができる。
【0023】
本発明に係る巻線診断装置の更なる形態によれば、巻線診断用マップは、異常座標群が異常の態様によってさらにクラス分類されている。そして、診断部は、診断対象座標が異常座標群に属する場合には、異常の態様を診断する。
【0024】
本形態によれば、巻線が異常であることのみならず、異常の態様まで特定することができる。
【0025】
本発明に係る巻線診断方法の好ましい形態によれば、電気機器の巻線の異常の有無を診断する巻線診断方法が構成される。当該巻線診断方法は、(a)インパルス発生回路から巻線に所定特性のインパルス電圧を印加し、(b)巻線にインパルス電圧が印加された場合に巻線の両端で観測される電圧を所定時間に亘って第1時間毎に計測し、(c)第1時間をTs、所定時間毎に計測される電圧をVn、巻線とインパルス発生回路とを含む測定回路の等価回路定数インダクタンスをL、当該測定回路の等価回路定数キャパシタンスをC、当該測定回路の等価回路定数レジスタンスをR、等価回路定数インダクタンスと等価回路定数キャパシタンスとの乗算値LC、等価回路定数レジスタンスと等価回路定数キャパシタンスとの乗算値RCとしたときに、次式(6)に示す誤差eが最小となる乗算値LCおよび乗算値RCを次式(7)および(8)により演算し、(d)演算した乗算値LCおよび乗算値RCに基づいて巻線の異常の有無を診断する。
(数3)
【0026】
本発明によれば、式(6)において誤差eが最小となるような乗算値LCおよび乗算値RCを解探索手法により求めるのみであるため、計測する電圧に含まれるノイズ成分を除去するためのフィルタを設計する必要が無く、乗算値LCおよび乗算値RCを容易に求めることができる。これにより、設計工数の低減を図りながらも電気機器における巻線の異常の有無を診断することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、設計工数の低減を図りながらも電気機器における巻線の異常の有無を診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の実施の形態に係る巻線診断装置1の構成の概略を示す構成図である。
図2】巻線診断処理の一例を示すフローチャートである。
図3】巻線20にインパルス電圧を印加したときに、当該巻線20の両端で観測される電圧Vnの波形を示す説明図である。
図4】PSO法による乗算値LCおよび乗算値RCの演算過程の初期状態を示す説明図である。
図5】PSO法による乗算値LCおよび乗算値RCの演算過程の初期状態を示す説明図である。
図6】PSO法による乗算値LCおよび乗算値RCの演算過程を示す説明図である。
図7】PSO法による乗算値LCおよび乗算値RCの演算過程を示す説明図である。
図8】PSO法による乗算値LCおよび乗算値RCの演算過程を示す説明図である。
図9】巻線診断用マップを用いて診断対象の巻線20の状態を診断する様子を示す説明図である。
図10】巻線診断用マップの一例を示す説明図である。
図11】変形例の巻線診断用マップの一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、本発明を実施するための最良の形態を実施例を用いて説明する。
【実施例
【0030】
本発明の実施の形態に係る巻線診断装置1は、電動機や発電機等の回転機や変圧器等の電気機器が有する巻線20が正常か異常かを診断する装置として構成されている。巻線診断装置1は、図1に示すように、巻線20が接続される端子T1,T2と、当該端子T1,T2に電力ラインL1,L2を介して電気的に接続されたインパルス発生回路2と、電力ラインL1,L2に電気的に接続された電圧測定部4と、当該電圧測定部4に電気的に接続されたA/D変換回路6と、診断結果を表示する表示部8と、装置全体を制御する電子制御部10と、を備えている。
【0031】
インパルス発生回路2は、巻線20に所定特性のインパルス電圧を印加可能な回路である。電圧測定部4は、端子T1,T2に接続された巻線20にインパルス電圧が印加された際に、当該巻線20の両端で観測される電圧Vを計測する。A/D変換回路6は、電圧測定部4によって計測される電圧Vのアナログ信号をデジタル信号に変換して、電子制御部10に出力する。
【0032】
電子制御部10は、図1に示すように、CPU12を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU12の他に処理プログラムを記憶するROM14と、データを一時的に記憶するRAM16と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートと、を備えている。電子制御部10には、A/D変換回路からの電圧Vnなどが図示しない入力ポートを介して入力される。また、電子制御部10からは、インパルス発生回路2へのインパルス電圧印加信号や、表示部8への診断結果表示信号などが図示しない出力ポートを介して出力されている。
【0033】
次に、こうして構成された本発明の実施の形態に係る巻線診断装置1の動作、特に、巻線20に異常が生じているか否かを診断する際の動作について説明する。図2は、巻線診断装置1によって実行される巻線診断処理の一例を示すフローチャートである。この処理は、端子T1,T2に診断対象の巻線20が接続されて、診断開始が指示されたとき(例えば、診断スタートボタンが押下されたとき)に実行される。
【0034】
巻線診断処理が実行されると、巻線診断装置1のCPU12は、まず、巻線20にインパルス電圧を印加するように、インパルス発生回路2にインパルス電圧印加信号を出力する(ステップS100)。続いて、電圧測定部4によって計測される巻線20の両端の電圧nをサンプリング時間Ts毎に読み込む処理を所定時間Tに亘って継続して実行すると共に(ステップS102)、所定時間Tが経過したか否かを判定する処理を実行する(ステップS104)。ここで、電圧測定部4によって計測される巻線20の両端の電圧Vnは図3に示すように、時間の経過とともに振幅値が減衰し、その周期をf 0 としたときに、サンプリング時間Tsは、次式(9)を満たすように定められている。また、所定時間Tは、時間の経過とともに振幅値が減衰する電圧Vnの1周期以上の値に定められている。このようにサンプリング時間Tsおよび所定時間Tを定める理由は、サンプリング時間Tsが次式(9)を満たさない場合や、所定時間Tを電圧Vnの1周期未満の値に設定した場合には、後述する誤差eを最小とするような乗算値LCおよび乗算値RCの組が見つからない場合があることを、本発明者らが鋭意研究の結果、見出したことによる。巻線20の両端の電圧Vnをサンプリング時間Ts毎に読み込む処理を所定時間Tに亘って継続して実行するCPU12は、本発明における「読込部」に対応する実施構成の一例である。また、サンプリング時間Tsは、本発明における「第1時間」に対応する実施構成の一例である。
【0035】
(数4)
10×f0≦1/Ts≦1000×f0 (9)
ただし、f1=1/Tsであり、f1は、電圧Vnのサンプリング周期である。なお、好ましくは、10×f0≦1/Ts≦100×f0である。
【0036】
所定時間Tが経過していない場合には、所定時間Tが経過するまでステップS102~S104の処理を繰り返し実行する。一方、所定時間Tが経過した場合には、乗算値LCおよび乗算値RCを演算する処理を実行する(ステップS106)。ここで、乗算値LCは、診断対象である巻線20とインパルス発生回路2とから構成される測定回路30(図1参照)の等価回路定数インダクタンスLと等価回路定数キャパシタンスCとの乗算値であり、乗算値RCは、当該測定回路30の等価回路定数レジスタンスRと等価回路定数キャパシタンスCとの乗算値である。乗算値LCおよび乗算値RCを演算する処理を実行するCPU12は、本発明における「演算部」に対応する実施構成の一例である。
【0037】
乗算値LCおよび乗算値RCは、次式(10)ないし(12)を用いて算出される。具体的には、本実施の形態では、式(10)において、誤差eが最小となるような乗算値LCおよび乗算値RCを、粒子群最適化法(以下、「PSO法」という)を用いて導出する構成とした。
【0038】
(数5)
【0039】
PSO法は、次式(13)および(14)で示すように、時刻tにおける粒子の速度vi(t)や時刻tにおける粒子の位置pi(t)を更新する考え方である(ただし、i=1,2,3,・・・N)。即ち、本実施の形態では、図4に示すように、LC-RC座標内において、ランダムに配置された所定個数の点pi(LCi,RCi)の全てを、次式(13)および(14)を用いて移動速度を調整しながら移動させて(図4ないし図8参照)、適合度が高い位置、換言すれば、誤差eを最小にする点pi(LCi,RCi)を随時更新しながら探索するのである。
【0040】
(数6)
【0041】
ここで、wは、慣性定数と呼ばれる定数であり、時刻tの前の時刻t-1での移動速度がどれだけ維持されるかを示すものである。また、c1およびc2は、加速定数と呼ばれる定数である。本発明者らは、鋭意研究を行った結果、乗算値LCおよび乗算値RCを求めるにあたり、慣性定数wおよび加速定数c1およびc2を、一般に、望ましいとされている値1より大きい値(例えば、値2)に定めると、解が発散して乗算値LCおよび乗算値RCを求めることができないこということを見出した。このような研究結果を踏まえて、本形態では、慣性定数wおよび加速定数c1およびc2を値1以下に設定することによって、乗算値LCおよび乗算値RCを求めることができるようになったものである。なお、pi bestは、特定の1粒子におけるこれまでの探索の中で最も適合度が高い位置を示すパーソナルベストであり、pg bestは、全ての粒子群(点pi(LCi,RCi))で過去の探索も含めて最も適合度が高い位置を示すグローバルベストであり、繰り返しの探索の中で随時更新されていく変数である。
【0042】
こうして乗算値LCおよび乗算値RCが演算されると、続いて、当該乗算値LCおよび乗算値RCに基づいて、巻線20の状態を診断する処理を実行する(ステップS108)。ここで、巻線20に異常があるか否かの判定は、本実施の形態では、図9に示すように、演算した乗算値LCおよび乗算値RCを巻線診断用マップ上に写像し、写像された乗算値LCおよび乗算値RCの配置場所に基づいて行うものとした。なお、本実施の形態では、図10に示すように、複数の正常な(短絡などの異常が生じていない)巻線20の乗算値LCおよび乗算値RCの平均値LCnorav,RCnorav、および、複数の異常な(複数の異常態様の)巻線20の乗算値LCおよび乗算値RCの異常態様毎の平均値LCabav1,RCabav1,LCabav2,RCabav2,LCabav3,RCabav3およびLCabav4,RCabav4を予め求めて、巻線の状態と共に対応付けしたものを巻線診断用マップとしてROM14に記憶させておくものとした。巻線の異常態様としては、例えば、巻線20に1ターン短絡が発生している状態や、巻線20に2ターン短絡が発生している状態、巻線20に相間短絡が発生している状態、巻線20に断線が発生している状態などが考えられる。巻線診断用マップが記憶されたROM14は、本発明における「記憶部」に対応する実施構成の一例である。また、複数の正常な(短絡などの異常が生じていない)巻線20の乗算値LCおよび乗算値RCは、本発明における「正常座標群」に対応し、複数の異常な(複数の異常態様の)巻線20の乗算値LCおよび乗算値RCは、本発明における「異常座標群」に対応し、複数の正常な(短絡などの異常が生じていない)巻線20の乗算値LCおよび乗算値RC、および、複数の異常な(複数の異常態様の)巻線20の乗算値LCおよび乗算値RCは、本発明における「複数の座標群」に対応する実施構成の一例である。
【0043】
そして、診断対象の巻線20の乗算値LCおよび乗算値RCが演算されたときに、当該乗算値LCおよび乗算値RCと、各値(平均値LCnorav,RCnorav、平均値LCabav1,RCabav1およびLCabav2,RCabav2)との距離を算定して、当該距離が最も近い平均値LCnorav,RCnorav、平均値LCabav1,RCabav1,LCabav2,RCabav2,LCabav3,RCabav3およびLCabav4,RCabav4に対応付けられた巻線状態を、診断対象の巻線20の状態として診断する。診断対象の巻線20の状態の診断を実行するCPU12は、本発明における「診断部」に対応する実施構成の一例である。
【0044】
診断対象の巻線20の状態が正常であった場合には、「正常」を表示部8に出力して(ステップS110)、本処理ルーチンを終了する。一方、診断対象の巻線20の状態が異常であった場合には、「異常」および「異常態様」を表示部8に出力して(ステップS112)、本処理ルーチンを終了する。
【0045】
以上説明した本実施の形態に係る本発明の巻線診断装置1によれば、巻線20が正常か否かを診断するのに適している乗算値LCおよび乗算値RCを求めるに際し、式(10)における誤差eが最小となるような乗算値LCおよび乗算値RCを解探索手法により求めるのみであるため、乗算値LCおよび乗算値RCを求める際に、計測する電圧に含まれるノイズ成分を除去するためのフィルタを設計する必要が無い。これにより、設計工数の低減を図りながらも電気機器における巻線20の異常の有無を容易に診断することができる。
【0046】
また、本実施の形態に係る本発明の巻線診断装置1によれば、PSO法における慣性定数wおよび加速定数c1およびc2を値1以下に設定するため、解が発散することなく、乗算値LCおよび乗算値RCを確実求めることができる。
【0047】
さらに、本実施の形態に係る本発明の巻線診断装置1によれば、インパルス電圧を印加した際に巻線20の両端で観測される電圧Vnの測定時間を当該電圧Vnの1周期以上に設定するため、誤差eを最小とするような乗算値LCおよび乗算値RCの組を確実に求めることができる。
【0048】
また、本実施の形態に係る本発明の巻線診断装置1によれば、電圧Vnの読み込み周期f 1 を、電圧Vnの周期をf0としたときに、10×f0≦f1≦1000×f0を満たすように設定するため、誤差eを最小とするような乗算値LCおよび乗算値RCの組を確実に求めることができる。

【0049】
本実施の形態では、複数の正常(短絡などの異常が生じていない)な巻線20の乗算値LCおよび乗算値RCの平均値LCnorav,RCnorav、および、複数の異常な(複数の異常態様の)巻線20の乗算値LCおよび乗算値RCの異常態様毎の平均値LCabav1,RCabav1およびLCabav2,RCabav2と、診断対象の巻線20の乗算値LCおよび乗算値RCと、の距離を算定して、当該距離が最も近い平均値LCnorav,RCnorav、平均値LCabav1,RCabav1およびLCabav2,RCabav2に対応付けられた巻線状態を、診断対象の巻線20の状態として診断する構成としたが、これに限らない。
【0050】
例えば、平均値をとらずに、複数の正常(短絡などの異常が生じていない)な巻線20の乗算値LCおよび乗算値RC、および、複数の異常な(複数の異常態様の)巻線20の乗算値LCおよび乗算値RCと、診断対象の巻線20の乗算値LCおよび乗算値RCと、の距離を算定して、当該距離が最も近い巻線診断用マップ上の乗算値LCおよび乗算値RCに対応付けされた巻線状態を、診断対象の巻線20の状態として診断する構成としても良い。
【0051】
また、例えば、図11に示すように、複数の正常(短絡などの異常が生じていない)な巻線20の乗算値LCおよび乗算値RC、および、複数の異常な(複数の異常態様の)巻線20の乗算値LCおよび乗算値RCを、例えば、サポート・ベクターマシンなどの機械学習を用いて、LC-RC座標系を正常領域および異常領域にクラス分けした巻線診断用マップを予めROM14に記憶しておき、診断対象の巻線20の乗算値LCおよび乗算値RCが演算されたときに、当該乗算値LCおよび乗算値RCがどの領域に属するかによって、診断対象の巻線20の状態を診断する構成としても良い。なお、異常領域は、異常の態様、例えば、1ターン短絡領域、2ターン短絡領域、相間短絡、および断線などにさらにクラス分けしておくことによって、異常の態様まで特定することができる。
【0052】
本実施の形態および上述した変形例では、異常の態様まで特定するものとしたが、異常の態様までは特定せずに、異常のみを診断する構成としても良い。
【0053】
本実施の形態では、誤差eを最小にする乗算値LCおよび乗算値RCを求める解探索手法として、PSO法を用いたが、これに限らない。例えば、誤差eを最小にする乗算値LCおよび乗算値RCを求める解探索手法として、線形計画法を用いても良い。
【0054】
本実施の形態は、本発明を実施するための形態の一例を示すものである。したがって、本発明は、本実施形態の構成に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0055】
1 巻線診断装置(巻線診断装置)
2 インパルス発生回路(インパルス発生回路)
4 電圧測定部
6 A/D変換回路
8 表示部
10 電子制御部
12 CPU(読込部、演算部、診断部)
14 ROM(記憶部)
16 RAM
20 巻線(巻線)
30 測定回路(測定回路)
Vn 電圧(巻線の両端で観測される電圧)
T1 端子
T2 端子
L1 電力ライン
L2 電力ライン
Ts サンプリング時間(第1時間)
T 所定時間(所定時間)
e 誤差(誤差)
L 等価回路定数インダクタンス(等価回路定数インダクタンス)
C 等価回路定数キャパシタンス(等価回路定数キャパシタンス)
R 等価回路定数レジスタンス(等価回路定数レジスタンス)
LC 乗算値(乗算値)
RC 乗算値(乗算値)
1 加速定数(加速定数)
2 加速定数(加速定数)
w 慣性定数(慣性定数)
1 電圧の読み込み周期(電圧の読み込み周期)
0 電圧の周期(電圧の周期)

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11