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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】セルロース微細繊維及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 1/02 20060101AFI20231122BHJP
   C08B 3/02 20060101ALI20231122BHJP
   C08B 3/16 20060101ALI20231122BHJP
   C08B 3/20 20060101ALI20231122BHJP
   C08B 15/00 20060101ALI20231122BHJP
   D21H 11/18 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
C08B1/02
C08B3/02
C08B3/16
C08B3/20
C08B15/00
D21H11/18
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020009635
(22)【出願日】2020-01-24
(65)【公開番号】P2021116336
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】591167430
【氏名又は名称】株式会社KRI
(72)【発明者】
【氏名】中江 隆博
(72)【発明者】
【氏名】林 蓮貞
【審査官】藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/044210(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/219638(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/159823(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/010016(WO,A1)
【文献】特開2013-043984(JP,A)
【文献】特開2010-104768(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 1/02
C08B 3/02
C08B 3/16
C08B 3/20
C08B 15/00
D21H 11/18
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドナー数26以上の非プロトン性溶媒と、カルボン酸ビニルエステル、反応及び/又は解繊促進添加剤と、を含む解繊溶液をセルロースに浸透させて、セルロースを解繊することを含むセルロース微細繊維の製造方法であって、前記反応及び/又は解繊促進添加剤が、下記式(1)で示される4級アンモニウム塩である製造方法:
(R1)(R2)(R3)N-R4-Y (1)
(式中、Xは、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、水酸化物イオン、硝酸イオン、テトラフルオロホウ素イオン及びヘキサフルオロホウ素イオンのいずれかを表し、R1、R2、R3はそれぞれ独立して炭素数が1~24のアルキル基、シクロアルキル基またはアリール基を表し、R4は炭素数が1~6のアルキレン基、YはOH、SH又はNHを表す)。
【請求項2】
前記ドナー数26以上の非プロトン性溶媒が、スルホキシド類、ピリジン類、ピロリドン類およびアミド類からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記反応及び/又は解繊促進添加剤の含有割合が、解繊溶液全体に対して0.1重量%~20重量%である請求項1又は請求項2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース微細繊維及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース繊維(細胞壁単位)は、セルロース微細繊維(ミクロフィブリル)の集合体である。微細繊維は鋼鉄に匹敵する機械特性を持ち、直径約20nmのナノ構造を持つため補強剤として社会的に熱く注目されている。しかし、微細繊維は繊維間が水素結合により結束されるため、その微細繊維を取り出すために、水素結合を解けてミクロフィブリルを分離すること(解繊という)が必要である。そのため、激しい物理力を加えた機械解繊法が開発された。
【0003】
セルロースナノファイバーは水中機械解繊法により製造する方法に関しては、セルロースは水により膨潤され、柔らかい状態で高圧ホモジナイザー等の強力的な機械せん断によりナノ化する。天然のセルロースミクロフィブリルは結晶ゾーンと非結晶性ゾーンから構成され、非結晶ゾーンは水等の膨潤性溶媒を吸収、膨潤した状態になると、強力なせん断により変形するため、得られたセルロース微細繊維にはダメージが存在し、絡み合い引っかかりしやすい形状となる。
【0004】
また、ボールミル等の強力的な機械粉砕法により固体状態特有のメカノケミカル反応が起こり、この作用によりセルロースの結晶構造が破壊されたり、溶解されたりすることが避けられなくなる。その結果、収率は低くなり、結晶化度が低くなる恐れがある。
【0005】
水中解繊のもう一つ問題は、解繊の後、樹脂と複合化するため、脱水して表面疎水化修飾したりする必要がある。その脱水工程には高いエネルギーが要する。
【0006】
また、表面をエステル化したセルロース微細繊維の製造方法として、イオン液体と有機溶媒を含有する混合溶媒を用いてセルロース系物質を膨潤及び/または部分溶解させた後、エステル化する方法がある(特許文献1)。しかし、特許文献1のイオン液体と有機溶媒を含有する混合溶媒を用いた場合は、イオン液体の回収や再利用に関するコストが高くなる課題があった。
【0007】
また、表面をエステル化したセルロース微細繊維の製造方法に関して、セルロースと有機溶剤とを混合して、エステル化剤を加えた後に強力な機械的破砕とともにエステル化反応をすることにより、セルロース表面をエステル化し、解離する方法が、特許文献2に開示されている。しかし、特許文献2の方法では、その実施例に示すように用いたエステル化剤と有機溶媒を含む解繊用溶液はセルロースへの浸透性が低く、機械的粉砕処理の間に有機溶剤とエステル化剤をセルロース内部へ殆ど浸透できなかったため、化学解繊でなく、強力な機械力が必要となる機械解繊方法である。強力な機械的破砕はセルロースナノファイバーを損傷する可能性があるため前記と同様な問題がある。また、パルプ繊維の内部になるほど有機溶剤とエステル化剤は入りにくいためパルプ内部の方はエステル化修飾されにくくなり、パルプ繊維内部の微細繊維は機械解繊により解繊されても、表面修飾がほとんどできていないと推測できる。また、表面芳香置換基で修飾セルロース微細繊維の製造方法が特許文献3に開示されているが、しかし、化学修飾工程のみでは解繊できず強力な機械解繊工程が必要とされている。
また、特許文献4に記載したように、カルボン酸ビニルエステル、反応及び/又は解繊促進添加剤とドナー数26以上の非プロトン性溶媒とを含む解繊溶液をセルロースに浸透させて、セルロースを解繊するとともにアシル化修飾する方法もあった。しかし、この方法は、解繊するのに2~3時間が必要であり、1時間程度の解繊時間では解繊不完全な粗大繊維が残留する問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2010-104768号公報
【文献】特表2015-500354号公報
【文献】特開2011-16995号公報
【文献】国際公開第2017/159823号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、物理粉砕を必要としない省エネルギーな方法で、ナノサイズで結晶化度が高く、繊維形状の損傷が少ないセルロース微細繊維の製造法及びエステル化修飾セルロース微細繊維の製造法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、機械的に破砕することなく、カルボン酸ビニルエステル、反応及び/又は解繊促進添加剤と反応及び/又は解繊錠剤を含む解繊溶液をセルロースに浸透させて、セルロースを解繊し、ナノサイズで結晶化度が高く、粗大繊維の残留が少ないセルロース微細繊維の製造方法を見出した。
【0011】
すなわち本発明は、以下の構成からなることを特徴とし、上記課題を解決するものである。
[1] ドナー数26以上の非プロトン性溶媒と、カルボン酸ビニルエステル、反応及び/又は解繊促進添加剤と、を含む解繊溶液をセルロースに浸透させて、セルロースを解繊することを含むセルロース微細繊維の製造方法であって、前記反応及び/又は解繊促進添加剤が、下記式(1)で示される4級アンモニウム塩である製造方法:
(R1)(R2)(R3)N-R4-Y (1)
(式中、Xは、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、水酸化物イオン、硝酸イオン、テトラフルオロホウ素イオン及びヘキサフルオロホウ素イオンのいずれかを表し、R1、R2、R3はそれぞれ独立して炭素数が1~24のアルキル基、シクロアルキル基またはアリール基を表し、R4は炭素数が1~6のアルキレン基、YはOH、SH又はNHを表す)。
[2] 前記ドナー数26以上の非プロトン性溶媒が、スルホキシド類、ピリジン類、ピロリドン類およびアミド類からなる群より選択される少なくとも1種である、前記[1]に記載の製造方法。
[3] 前記反応及び/又は解繊促進添加剤の含有割合が、解繊溶液全体に対して0.1重量%~20重量%である前記[1]又は前記[2]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、機械的に破砕することなく、カルボン酸ビニルエステル、反応及び/又は解繊促進添加剤とドナー数26以上の非プロトン性溶媒を含む解繊溶液をセルロースに浸透させて、セルロースを解繊するため、セルロースのミクロフィブリルに与える損傷が少なくてアスペクト比が大きいセルロース微細繊維を製造する方法に関する。反応及び/又は解繊促進添加剤を添加することにより解繊効率を向上すると共にカルボン酸ビニルとセルロースの水酸基とをエステル化交換反応させて表面修飾セルロース微細繊維を製造することができる。解繊溶液をセルロースに浸透させて繊維間、ラメラ間およびミクロフィブリル間の水素結合を切断しながらミクロフィブリルの表面を修飾するため、天然由来のセルロースの結晶構造やミクロフィブリル構造を破壊することなく、セルロースを解繊し、ミクロフィブリルの表面を効率よく修飾することができる。そのため、ナノサイズで結晶化度が高く、繊維形状の損傷が少なくてアスペクト比が大きく、且つ乾燥後溶媒や樹脂への再分散性が優れたセルロース微細繊維を、省エネルギーな方法で簡便かつ効率良く生産できる。さらに、他の修飾反応化剤を添加して共存させることにより修飾官能基の種類を多用化することができ、用途に応じて様々な修飾官能基を導入し、樹脂などの有機媒体との親和性をさらに向上できる。
【0013】
さらに、本発明のエステル化修飾セルロース微細繊維の製造法は、反応及び/又は解繊促進添加剤を添加することにより、短時間の解繊時間でも解繊不完全の粗大繊維の残留率を大きく低減させることができ、解繊不完全な粗大繊維が混在することなくセルロース微細繊維を得ることができる。すなわち、反応及び/又は解繊促進添加剤を添加することにより、解繊時間を1/2~1/6、それ以下に短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1で得られたセルロース微細繊維のマイクロスコープ画像
図2】比較例1で得られた微細繊維のマイクロスコープ画像
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のセルロース微細繊維の製造方法は、カルボン酸ビニルエステル、反応及び/又は解繊促進添加剤とドナー数26以上の非プロトン性溶媒とを含む解繊溶液をセルロースに浸透させて、セルロースを解繊することを特徴とする。
詳細には、カルボン酸ビニル、反応及び/又は解繊促進添加剤とドナー数26以上の非プロトン性溶媒とを含む解繊液をセルロースに浸透させてセルロースを膨潤しながらミクロフィブリルの間の水素結合を解除することによりミクロフィブリルが自ら解してセルロース微細繊維を得ることができる。
【0016】
原料となるセルロースは、セルロース単独の形態であってもよく、リグニンやヘミセルロースなどの非セルロース成分を含む混合形態であってもよい。
好ましいセルロール物質としては、I結晶型セルロース構造を含むセルロース物質であり、例えば、木材由来パルプ、木材、竹、リンダーパルプ、綿、セルロースパウダーを含む物質等がある。
【0017】
前記カルボン酸ビニルエステルは、下記式(2)で表されるカルボン酸ビニルエステルである。
R5-COO-C(R6)=C(R7)(R8) (2)
(式中、R5は炭素数1~16のアルキル基、アルキレン基シクロアルキル基及びアリール基のいずれかを表わし、R6,R7,R8は水素または炭素数1~16のアルキル基、アルキレン基シクロアルキル基及びアリール基のいずれかを表わす。)
【0018】
さらに、前記カルボン酸ビニルエステルが、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニルアジピン酸ジビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル、酢酸イソプロペニルの群より選択された少なくとも1種であることが好ましい。
【0019】
これらのカルボン酸ビニルは、単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。これらのカルボン酸ビニルのうち、解繊性と反応性の点から、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルと酪酸ビニル等の炭素数2~7(特に2~5)の低級脂肪族カルボン酸ビニルが好ましく、C1-4アルキルカルボン酸ビニルが特に好ましい。炭素数が大きすぎると、ミクロフィブリル間への浸透性とセルロース水酸基に対する反応性が低下するおそれがあるため、低級脂肪族カルボン酸ビニルと併用することが好ましい。
【0020】
前記反応及び/又は解繊促進添加剤は、前記式(1)で表される4級アンモニウム系化合物からなる群より選択された少なくとも1種であってもよい。
前記反応及び/又は解繊促進添加剤は、前記式(1)で示される4級アンモニウム塩であれば特に限定されないが、 が塩素イオン、R1、R2、R3がメチル基、R4は炭素数が2のアルキレン基、YはOHの化合物が好ましい。
【0021】
具体的に化合物名の例を示すと、(2-ヒドロキシエチル)トリメチルアンモニウムクロリド (塩化コリン)、(2-ヒドロキシエチル)トリメチルアンモニウムヒドロキシド (水酸化コリン)、ヨウ化(2-ヒドロキシエチル)トリメチルアンモニウム(ヨウ化コリン)、臭化(2-ヒドロキシエチル)トリメチルアンモニウム(臭化コリン)、アセチルコリン、(2-ヒドロキシエチル)トリエチルアンモニウムクロリド、(2-ヒドロキシエチル)ジエチルメチルアンモニウムクロリド、(2-ヒドロキシエチル)エチルジメチルアンモニウムクロリド、(2-ヒドロキシエチル)ジメチルアンモニウムクロリド、(2-ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムクロリド、(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムクロリド (エタノールアミン塩酸塩)、ジ(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムクロリド、トリ(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムクロリド、エフェドリン塩酸塩、バリノール塩酸塩、フェニルアラニオール塩酸塩、フェニルグリシノール塩酸塩、等である。
上記化合物の中でも(2-ヒドロキシエチル)トリメチルアンモニウムクロリド (塩化コリン)、(2-ヒドロキシエチル)トリメチルアンモニウムヒドロキシド (水酸化コリン)、アセチルコリン、(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムクロリド (エタノールアミン塩酸塩)を最も好ましく用いることができる。
【0022】
前記カルボン酸ビニルエステル、反応及び/又は解繊促進添加剤は、ドナー数26以上の非プロトン性溶媒と混合して解繊溶液としてセルロースに浸透させる。
【0023】
溶媒としては、カルボン酸ビニルの反応性及びセルロースへの浸透性を損なわないドナー数26以上の非プロトン性溶媒であれば特に限定されない。
【0024】
前記ドナー数26以上の非プロトン性溶媒の中でも、ドナー数26~35のものが好ましく、より好ましくは26.5~33、さらに好ましくは27~32程度である。ドナー数が低すぎると、カルボン酸ビニルを含む解繊溶液のミクロフィブリル間への浸透性を向上させる効果が発現しないおそれがある。なお、ドナー数については、文献「Netsu Sokutei 28(3)135-143」の記載による。
【0025】
前記非プロトン性溶媒としては、例えば、スルホキシド類、ピリジン類、ピロリドン類及びアミド類などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0026】
さらに、前記ドナー数26以上の非プロトン性溶媒のうち、カルボン酸ビニルのミクロフィブリル間への浸透性を高度に促進できる点から、ジメチルスルホキシド(ドナー数:29.8)、ピリジン(ドナー数:33.1)、N,N-ジメチルアセトアミド(ドナー数:27.8)、N,N-ジメチルホルムアミド(ドナー数:26.6)及びN-メチル-2-ピロリドン(ドナー数:27.3)からなる群より選択された少なくとも1種であることがより好ましい。
【0027】
溶媒は、他の溶媒として、ドナー数26未満の慣用の非プロトン性溶媒、例えば、アセトニトリル、ジオキサン、アセトン、テトラヒドフランなどを含んでいてもよいが、ジメチルスルホキシドを主溶媒として含むのが好ましい。ドナー数26未満の溶媒が多すぎると、セルロースミクロフィブリル間への反応性解繊液の浸透性が低下するため、セルロースの解繊効果が低下するおそれがある。
【0028】
解繊溶液中のカルボン酸ビニルの濃度(重量割合)は、解繊溶液全体に対して0.5~50重量%であることが好ましい。0.5重量%以下になると解繊不十分又は修飾率が低いため好ましくない。また、50重量%以上になると解繊溶液のセルロース内部への浸透性が低下する恐れがあるため好ましくない。
ミクロフィブリル間への浸透性とセルロース水酸基に対する反応性のバランスに優れる点からは、より好ましくは1~40重量%、さらに好ましくは2~30重量%である。
【0029】
解繊溶液中の反応及び/又は解繊促進添加剤の濃度は、解繊溶液全体に対して0.1~20重量%であることが好ましい。0.1重量%以下になると解繊不十分又は修飾率が低いため好ましくない。また、20重量%以上になると解繊溶液に溶けなくなる恐れがあるため好ましくない。
解繊と解繊促進効果のバランスに優れる点からは、より好ましくは0.5~15重量%、さらに好ましくは1~10重量%である。
【0030】
セルロースのエステル化を促進させるためには、解繊溶液中に触媒を共存させることによりエステル化は促進することができる。
触媒を共存させるとセルロースが解繊されると同時に、カルボン酸ビニルエステル、反応及び/又は解繊促進添加剤はセルロースの水酸基とエステル交換反応するため、エステル化された修飾セルロース微細繊維が得られる。触媒は酸触媒及び塩基触媒のいずれであっても良いが、塩基触媒を用いることが好ましい。塩、酸やアルカリ等の触媒は極性が高く、それらの添加により解繊溶媒の電気伝導度が大きくなり、解繊溶液のセルロースに対する親和性が増大し、浸透速度と膨潤率が向上する。さらにセルロース中に含まれる可溶性のヘミセルロースなどの非結晶性成分の溶解を促進し、ミクロフィブリルの解繊を加速する作用が考えられる。
【0031】
塩基触媒のアルカリ性が高すぎると解繊溶媒は結晶内まで侵入し、セルロース微細繊維の結晶化度を低下させる恐れがある。塩基触媒は、セルロースの結晶構造を破壊させない限り、何れの塩基触媒を用いても良いが、強アルカリ性触媒はセルロースの安定性が低下するため、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸塩、炭酸水素塩、酢酸塩等のカルボン酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩又はリン酸水素塩、テトラアルキルアンモニウム酢酸塩、ピリジン類、イミダゾール類及びアミン類からなる群より選択された少なくとも1種であることが好ましい。これらの塩基触媒は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの塩基を含有することにより、溶媒の極性(誘電率)が増大し、浸透速度を向上する効果もあるため好ましいである。
【0032】
さらに、塩基触媒の添加量が大きすぎると得られたセルロース微細繊維の結晶化度が低下する恐れがある。解繊溶液中の塩基触媒の濃度(重量割合)は、前記塩基触媒の割合が、解繊溶液全体に対して0.001~20重量%であることが好ましい。そして、塩基触媒がアルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸塩、炭酸水素塩、酢酸塩等のカルボン酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩又はリン酸水素塩の場合に0.001~8重量%が好ましく、さらに0.05~6重量%が特に好ましい。特に、炭酸塩を用いる場合は、0.005~5重量%が好ましい。一方、塩基触媒がピリジン類(溶媒としてピリジン類としない場合)、アミン類、イミダゾール類の場合には3~20重量%が好ましく、10~20重量%がより好ましいが、これらの触媒はアルカリ金属又はアルカリ土類金属に比べてエステル化反応が遅く、通常エステル化に8時間以上の反応時間が必要である。また、ピリジン類を溶媒とした場合は、ピリジン類は触媒としても作用するが、この場合もエステル化反応が遅く、通常エステル化に8時間以上の反応時間が必要である。
【0033】
本発明の解繊溶液中に他の反応化剤、例えば、カルボン酸ハロゲン化物類、カルボン酸無水物類及びイソシアネート類の内のいずれか1種以上を加えると、エステル交換反応以外に多様の修飾反応により種々の官能基をセルロース微細繊維の表面に導入することが可能である。
すなわち、修飾解繊工程では、本発明の効果を損なわない範囲で、解繊溶液中に他の修飾化剤を加えてもよい。また、以下に例示する修飾化剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0034】
修飾化剤であるカルボン酸ハロゲン化物類は、下記式(3)で表されるカルボン酸ハロゲン化物からなる群より選択された少なくとも1種であってもよい。
R-C(=O)-X (3)
(式中、Rは炭素数1~16のアルキル基、アルキレン基、シクロアルキル基及びアリール基のいずれかを表わす。XはCl、Br又はIである。)
【0035】
カルボン酸ハロゲン化物としては、カルボン酸塩化物、カルボン酸臭化物、カルボン酸ヨウ化物が挙げられる。カルボン酸ハロゲン化物の具体例としては、塩化アセチル、臭化アセチル、ヨウ化アセチル、塩化プロピオニル、臭化プロピオニル、ヨウ化プロピオニル、塩化ブチリル、臭化ブチリル、ヨウ化ブチリル、塩化ベンゾイル、臭化ベンゾイル、ヨウ化ベンゾイルなどが挙げられるが、これらに限定されない。なかでも、カルボン酸塩化物は反応性と取り扱い性の点から好適に採用できる。
【0036】
修飾化剤であるカルボン酸無水物類としては、カルボン酸無水物[たとえば、酢酸、プロピオン酸、(イソ)酪酸、吉草酸などの飽和脂肪族モノカルボン酸;(メタ)アクリル酸、オレイン酸などの不飽和脂肪族モノカルボン酸無水物;シクロヘキサンカルボン酸、テトラヒドロ安息香酸などの脂環族モノカルボン酸無水物;安息香酸、4-メチル安息香酸などの芳香族モノカルボン酸無水物]、二塩基カルボン酸無水物[例えば、無水コハク酸、アジピン酸などの無水飽和脂肪族ジカルボン酸;無水マレイン酸、無水イタコン酸などの無水不飽和脂肪族ジカルボン酸無水物;無水1-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルテトラヒドロフタル酸などの無水脂環族ジカルボン酸;無水フタル酸、無水ナフタル酸などの無水芳香族ジカルボン酸無水物など]、多塩基カルボン酸無水物類(例えば、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸などの(無水)ポリカルボン酸など)などが挙げられる。
【0037】
修飾化剤であるイソシアネート類としては、下記式(4)又は(5)で表されるイソシアネートからなる群より選択された少なくとも1種であってもよい。
R-N=C=O (4)
O=C=N-R-N=C=O (5)
式中、Rは炭素数1~16のアルキル基、アルキレン基、シクロアルキル基及びアリール基のいずれかを表わす。
イソシアネートとしては、イソシアン酸メチル(MIC)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トルエンジイソシアネート(TDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、2-イソシアナトエチルメタクリレート(MOI)等のイソシアネート類が挙げられる。
【0038】
他の修飾化剤の割合は、解繊溶液のセルロースへの浸透性を低下しない限り特に制限しないが、解繊溶液に対して30重量%以下であり、例えば0.1~30重量%、好ましくは0.1~20重量%、さらに好ましくは0.5~15重量%程度である。他の修飾化剤の割合が多すぎると、解繊度合が低下するおそれがある。
他の修飾化剤の添加タイミングは特に制限しないが、解繊溶液のセルロースへの浸透性を低下させないため、解繊がある程度進んでから加えることが好ましい。
【0039】
セルロースと解繊溶液との重量割合は、前者/後者=0.5/99.5~25/75程度の範囲から選択でき、例えば1/99~20/80、好ましくは1.5/98.5~15/85、さらに好ましくは2/98~12/88程度である。セルロースの割合が少なすぎると、セルロース微細繊維の生産効率が低くなり、多すぎると、解繊溶媒はセルロース繊維間、ラメラ間およびミクロフィブリル間への浸透は不十分のため解繊度合いが低下する恐れがある。また、粘度が高いため反応時間が長くなる。いずれにしても生産性が低下するおそれがある。さらに、修飾セルロース微細繊維を得る場合には、セルロースの割合が多すぎると得られた微細繊維のサイズと修飾率の均一性が低下するおそれがある。
【0040】
また、本発明の解繊溶液は、ミクロフィブリルの結晶ゾーン(ドメイン)に浸透しないため、得られたセルロース微細繊維は、ダメージが少なく、天然のミクロフィブリルに近い構造を有している。同時に、この工程では、剪断力の働きによる機械的解繊手段を用いることなく、セルロースを解繊できるため、物理的な作用によるダメージも少ない。そのため、得られた修飾セルロース微細繊維は、高い強度を保持していると推定できる。さらに、表面の荒さが少ないため一旦乾燥しても溶媒や樹脂への再分散が容易である。
【0041】
本発明の製造方法では、前記触媒と前記促進剤と前記カルボン酸ビニルと前記反応及び/又は解繊促進添加剤と前記溶媒とを含む解繊溶液をセルロースに浸透させて、セルロース繊維間、ラメラ間およびミクロフィブリル同士間の水素結合を解除したり、表面にある水酸基を修飾したりすることができればよく、このような化学解繊方法は、特に限定されないが、通常、前記解繊溶液を調製し、調製した解繊溶液にセルロースを添加して混合する方法を利用できる。
【0042】
解繊溶液の調製方法は、カルボン酸ビニル、反応及び/又は解繊促進剤と前記溶媒とを攪拌などによって混合する。
また、解繊溶液に塩基触媒を含む場合は、カルボン酸ビニル、反応及び/又は解繊促進剤と塩基触媒と前記溶媒とを攪拌などによって混合し、均一に溶解又は懸濁させる。カルボン酸ビニル、反応及び/又は解繊促進剤と塩基触媒と前記溶媒の混合の順序は、いずれであっても良いが、通常は、前記溶媒に他の物質を加えていく方法が用いられる。
さらに、解繊溶液にカルボン酸ビニル以外の修飾化剤を含む場合は、カルボン酸ビニルと前記反応及び/又は解繊促進添加剤と前記修飾化剤と前記溶媒又はカルボン酸ビニルと前記反応及び/又は解繊促進添加剤と塩基触媒と前記修飾化剤と前記溶媒とを攪拌などによって混合し、均一に溶解させてもよいが、他の修飾化剤は極性が低い場合、解繊溶媒の浸透速度、膨潤速度、そして解繊速度を低下させないため、解繊がある程度進んでから他の修飾化剤を加えることが好ましい。これらの混合物の混合の順序は、いずれであっても良いが、通常は、前記溶媒に他の物質を加えていく方法が用いられる。
【0043】
得られた解繊溶液は、セルロースに対する浸透性が高いため、セルロースを解繊溶液に添加して混合することにより、解繊溶液は、ミクロフィブリル間に浸入して、ミクロフィブリル同士間の水素結合を解除することにより、セルロースを解繊できる。更に触媒を共存することにより微細繊維の表面を修飾することができる。
【0044】
解繊方法について詳しく説明すると、本発明の解繊方法は、解繊溶液にセルロースを混合して0.5~1時間以上放置してもよく、混合後、さらに溶液中でセルロースが均一な状態を維持できる程度の撹拌を行ってもよい。すなわち、解繊は解繊溶液にセルロースを混合して放置するだけでも進行するが、浸透又は均一性を促進するために、撹拌手段を用いて撹拌を行ってもよい。撹拌機は特に制限しないが、通常、撹拌又はブレンドや混練できる装置であればよい。例えば、通常、有機合成で汎用されている撹拌機による撹拌であればよい。また、ニーダーや押出機のような混練機でもよい。特にセルロースの濃度が高い場合、高粘度に対応できるニーダーや押出機が好ましい。
また、撹拌は、連続的に攪拌してもよいいし、断続的に攪拌してもよい。
【0045】
本発明での解繊における反応温度は、加熱する必要はなく、室温で反応させればよく、0.5時間以上反応させることにより、剪断力の働きによる機械的解繊手段を用いることなく、セルロースを前記述べたような化学的に解繊できる。そのため、本発明では、余分なエネルギーを使用することなくセルロースを解繊できる。なお、反応を促進するために、加熱してもよく、加熱温度は、例えば90℃以下(例えば40~90℃程度)、好ましくは80℃以下、さらに好ましくは70℃以下程度である。特に常圧の場合、50℃以下程度である。
【0046】
本発明での解繊処理時間は、前記溶媒のドナー数及びカルボン酸ビニルや反応及び/又は解繊促進添加剤や塩基触媒の種類によって選択でき、例えば0.5~5時間、好ましくは0.5~3時間、さらに好ましくは0.5~2時間程度である。酢酸ビニルなどの低級カルボン酸ビニルとドナー数の高いジメチルスルホキシド(DMSO)の非プロトン性極性溶媒を用いる場合、0.5~2時間程度の時間であってもよく、好ましくは0.5~1時間程度である。さらに、前述のように、処理温度(反応温度)を高めたり、攪拌速度を増加したりすることで反応時間を短くしてもよい。この時、カルボン酸ビニルの蒸発を避けるため密閉系統又は加圧系統が好ましい。反応時間が短すぎると、解繊溶液がミクロフィブリル間まで浸透するのが不十分となり、反応が不十分となり、解繊度合いも低下するおそれがある。一方、触媒が存在する場合、反応時間が長すぎたり、温度が高すぎたりすることによる過修飾によりセルロース微細繊維の収率が低下するおそれがある。他の修飾剤を途中から加える場合、修飾化剤を加えてからさらに0.5~5時間以上反応させることが好ましい。
【0047】
反応は、通常、密閉反応容器内又は還流系統内で行う場合が多い。このような反応条件であれば、カルボン酸ビニルなどの低沸点成分の蒸発を避けるため、加圧することが好ましい。
【0048】
解繊して得られたセルロース微細繊維は、慣用の方法(例えば、遠心分離、濾過、濃縮、沈殿など)により分離精製してもよい。例えば、解繊混合物を遠心分離又は濾過することにより微細繊維と解繊溶液を分離してもよい。または、触媒及び溶媒を溶解可能な溶媒(水、アルコール類、ケトン類など)を解繊混合物に添加し、前記遠心分離、濾過、沈殿などの分離法(慣用の方法)で分離精製(洗浄)してもよい。なお、分離操作は複数回(例えば、2~5回程度)行うことができる。反応終了後、水又はメタノールなどでカルボン酸ビニルを失活させてもよいが、再利用の観点から失活せずに蒸留により回収して再利用することができる。
【0049】
得られたセルロース微細繊維は、ナノサイズ又はサブミクロンメーターに解繊されており、平均繊維径は、例えば10~800nm、好ましくは20~600nm、さらに好ましくは25~500nm(特に30~300nm)程度である。繊維径が大きすぎると、補強材としての効果が低下するおそれがあり、小さすぎると、微細繊維の取り扱い性や耐熱性も低下するおそれがある。
【0050】
得られたセルロース微細繊維は、強力な機械力を加えないため、従来の機械解繊法で得られた微細繊維よりも長い繊維長を有しており、平均繊維長は0.5μm以上である。そして、0.5~200μm程度の平均繊維長の範囲になっているが、その用途に応じて反応条件をコントロールして適当な平均繊維長のセルロース微細繊維を得ることができる。一般的には、1~100μm、好ましくは2~60μm、さらに好ましくは3~50μm程度がよい。繊維長が短すぎると、補強効果や成膜機能が低下するおそれがある。また、長すぎると、繊維が絡み易くなるため溶媒や樹脂への分散性が低下するおそれがある。
【0051】
微細繊維のアスペクト比は解繊溶液の組成と浸透時間により容易に制御できる。一般的には、40~1000が好ましい。分散性と補強効果の観点からより好ましくは50~800、さらに好ましくは80~600程度がよい。40以下になると分散しやすいものの補強効果や自立膜の強度が低いため好ましくない。一方、1000以上になると繊維の絡み合いにより分散性が低下するおそれがある。
【0052】
また、本発明の前記〔1〕~〔3〕の製造方法で製造されたエステル化等により修飾された微細繊維は、SP値10以下の有機溶媒又は樹脂に分散が可能である。
分散可能なSP値10以下の溶媒としては、例えば、アセトン(9.9)、1,4-ジオキサン(10)、1-ドデカノール(9.8)、テトラヒドロフラン(9.4)、メチルエチルケトン(MEK)(9.3)、酢酸エチル(9.1)、トルエン(8.8)、酢酸-ブチル(8.7)、メチルイソブチルケトン(MIBK)(8.6)、が挙げられる。樹脂の場合では、例えば、ポリウレタン(10.0)、エポキシ樹脂(9~10)、ポリ塩化ビニル(9.5~9.7)、ポリカーボネート(9.7)、ポリ酢酸ビニル(9.4)、ポリメタクリル酸メチル樹脂(9.2)、ポリスチレン(8.6~9.7)、NBRゴム(8.8~9.5)、ポリプロピレン(8.0)及びポリエチレン(7.9)が挙げられる。
【0053】
本発明により得られた微細繊維の表面は均一にエステル化修飾されているため、有機溶媒、反応化剤又は樹脂によく分散できる。特に従来技術で実現できないSP値10以下の溶媒や樹脂への分散が可能となる。その理由としては、本発明の微細繊維は伸びた状態で解繊溶液中に修飾されるため、表面の水酸基は斑なく修飾されるため、乾燥した後も伸びた状態を維持できることが考える。一方、一般先行技術では、表面修飾セルロース微細繊維を調製するため、まず水中にセルロースを強力的な機械粉砕又はせん断力により解繊された後、アセトンやトルエンなどの非プロトン性極性溶媒で水を置換して修飾反応する。未修飾セルロース微細繊維は溶媒置換の際、微細繊維同士が結合したり、寄り集まったり、又は微細繊維が自ら絡み合いしたりすることにより微細繊維が塊の凝集態になる。この状態で反応溶媒中に入れても凝集の塊として存在するため、塊の表面の水酸基しかが修飾されないため得られる修飾微細繊維は、溶媒や樹脂によく分散することができない。
【0054】
本発明のセルロース微細繊維は、例えば、塗料、接着剤、複合化材などの分野への用途が想定できる。そして、樹脂に分散させた場合は、従来の修飾セルロース微細繊維に比べて分散効果の高い本発明の修飾セルロース微細繊維の樹脂への分散させた場合の補強効果が強力である。
【0055】
セルロース微細繊維の平均繊維径に対する平均繊維長の割合(アスペクト比)は用途に応じて対応でき、例えば樹脂と複合化する場合、30以上であってもよく、例えば40~1000、好ましくは50~500、さらに好ましくは60~200(特に80~150)程度であってもよい。
【0056】
なお、本発明では、修飾セルロース微細繊維の平均繊維径、平均繊維長及びアスペクト比を求める方法の一例としては、走査型電子顕微鏡写真の画像からランダムに50個の繊維を選択し、加算平均して算出する方法がある。
【0057】
また、カルボン酸ビニル、反応及び/又は解繊促進添加剤と塩基触媒で処理して得られた修飾セルロース微細繊維は、各繊維又は全ての繊維がむら無くエステル化修飾されているため、有機溶媒や樹脂などの有機媒体によく分散できる。
修飾セルロース微細繊維の特性(例えば、低線膨張特性、強度、耐熱性など)を樹脂に有効に発現させるためには、結晶性の高い修飾セルロース微細繊維が好ましい。
【0058】
本発明のエステル化修飾セルロース微細繊維及び他の修飾剤での修飾セルロース微細繊維では、化学解繊され、原料セルロースの結晶性を維持できるため、修飾セルロース微細繊維の結晶化度は前記セルロースの数値をそのまま参照できる。修飾セルロース微細の結晶化度は50%以上(特に65%以上)であってもよく、例えば50~98%、好ましくは55~95%、さらに好ましくは60~92%(特に65~90%)程度であってもよい。結晶化度が小さすぎると、線膨張特性や強度などの特性を低下させるおそれがある。
【0059】
修飾セルロース微細繊維の平均置換度(セルロースの基本構成単位であるグルコース当たりの置換された水酸基の平均数)は、微細繊維径とカルボン酸ビニルの種類によるが、1.6以下(例えば0.02~1.6)であり、例えば0.1~1.5(例えば0.05~1.5)、好ましくは0.15~1.2、さらに好ましくは0.25~0.9(特に0.3~0.9)程度である。平均置換度が大きすぎると、微細繊維の結晶化度又は収率が低下するおそれがある。平均置換度(DS:degree of substitution)は、セルロースの基本構成単位であるグルコース当たりの置換された水酸基の平均数であり、Biomacromolecules 2007,8,1973-1978やWO2012/124652A1又はWO2014/142166A1などを参照できる。
【実施例
【0060】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、用いた原料の詳細は以下の通りであり、得られた修飾セルロース微細繊維の特性は以下のようにして測定した。
【0061】
(用いた原料、触媒及び溶媒)
セルロースパルプ:市販木材パルプ(Georgia Pacific社製、商品名:フラッフパルプARC48000GP)をサンプル瓶に入れるサイズまで千切ったパルプ。
他の原料、触媒及び溶媒:ナカライテスク(株)製の試薬。
【0062】
(修飾セルロース微細繊維の表面飾率又は平均置換度)
セルロース微細繊維のIRスペクトルはフーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)で測定した。なお、測定は、NICOLET社製「NICOLET MAGNA-IR760 Spectrometer」を用い、反射モードで分析した。修飾率をIR index(周波数1730cm-1と1370cm-1の吸収の強度比I1730/1370)で評価した。
【0063】
(溶剤分散性)
乾燥したセルロース微細繊維0.05gと分散用溶媒(表に示す)10gを20mlのサンプル瓶に入れ、スターラーでよく撹拌した後、均一な分散液になる場合は分散可能と判断した。一方、沈殿したり、乾燥状態(塊又はチップ状)のままで残る場合は分散不可と評価した。
【0064】
〔実施例1〕
酢酸ビニル1.0g、塩化コリン0.20g、炭酸ナトリウム0.01gとDMSO9.0gとを20mlのサンプル瓶に入れ、磁性スターラーで混合液が均一に混ざるまで攪拌した。次に、セルロースパルプ0.30gを加え、さらに1時間攪拌した後、蒸留水で洗浄することにより解繊溶液(酢酸ビニル、塩化コリン、炭酸ナトリウムとDMSO)と副生物(アセトアルデヒド又は酢酸)を除いた。得られたセルロース微細繊維について、修飾有無をFT-IR分析で確認し、光学顕微鏡で形状を観察し、解繊度合及び溶剤分散性を評価した。FT-IR分析の結果により修飾率IR indexは1.55であった。また、IRスペクトルは周波数1050cm-1(ピーク)と1081cm-1(谷)、および3200~3500cm-1の吸収帯の分裂が明確に観測されることからセルロースI型の結晶性を保っている。光学顕微鏡写真を図1に示す。光学顕微鏡観察の結果、セルロース微細繊維は全体的に良く解繊されていることを確認した。溶媒への分散性を評価した結果、水又はジメチルアセトアミドによく分散できることを確認した。
【0065】
〔実施例2〕
反応時間を30分とした以外は実施例1と同様にして解繊を行った。実施例1と同様に洗浄し固形分を回収した。FT-IR分析の結果により修飾率IR indexは1.38であった。また、IRスペクトルは周波数1050cm-1(ピーク)と1081cm-1(谷)、および3200~3500cm-1の吸収帯の分裂が明確に観測されることからセルロースI型の結晶性を保っている。
【0066】
〔実施例3〕
塩化コリン添加量を1.0gとした以外は実施例1と同様にして解繊を行った。実施例1と同様に洗浄し固形分を回収した。FT-IR分析の結果により修飾率IR indexは1.42であった。また、IRスペクトルは周波数1050cm-1(ピーク)と1081cm-1(谷)、および3200~3500cm-1の吸収帯の分裂が明確に観測されることからセルロースI型の結晶性を保っている。光学顕微鏡観察の結果、セルロース微細繊維は全体的に良く解繊されていることを確認した。溶媒への分散性を評価した結果、水又はジメチルアセトアミドによく分散できることを確認した。
【0067】
〔比較例1〕
塩化コリンを添加しない以外は実施例1と同様にして解繊を行った。実施例1と同様に洗浄し固形分を回収した。回収した固形分の光学顕微鏡写真を図2に示す。解繊不完全の粗大繊維が沢山残った。FT-IR分析の結果により修飾率IR indexは1.24であり、塩化コリンを加えた場合より劣る結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の修飾セルロース微細繊維は、各種複合材料、コーティング剤に利用でき、シートやフィルムに成形して利用することもできる。

図1
図2