(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】プレス装置及びプレス方法
(51)【国際特許分類】
B30B 15/14 20060101AFI20231122BHJP
B30B 15/00 20060101ALI20231122BHJP
B30B 15/06 20060101ALI20231122BHJP
B30B 15/28 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
B30B15/14 F
B30B15/00 B
B30B15/06 D
B30B15/28 A
(21)【出願番号】P 2020010392
(22)【出願日】2020-01-24
【審査請求日】2022-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】390014672
【氏名又は名称】株式会社アマダ
(73)【特許権者】
【識別番号】000128876
【氏名又は名称】株式会社アマダプレスシステム
(74)【代理人】
【識別番号】100123559
【氏名又は名称】梶 俊和
(74)【代理人】
【識別番号】100177437
【氏名又は名称】中村 英子
(72)【発明者】
【氏名】五島 紘一
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-161657(JP,A)
【文献】特開2003-211298(JP,A)
【文献】特開2019-141869(JP,A)
【文献】特開2012-139703(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0132207(US,A1)
【文献】特開2004-82183(JP,A)
【文献】特開昭56-9100(JP,A)
【文献】特許第7108523(JP,B2)
【文献】特許第5649133(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B30B 15/14
B30B 15/00
B30B 15/06
B30B 15/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物に加工を行うプレス装置であって、
スライドと、
モーションデータに基づき生成された前記スライドの制御に用いられる第1テーブルが展開される第1の記憶手段と、
前記第1の記憶手段に展開された前記第1テーブルに従って
第1加工を行っている前記スライドの最下降位置を検知する検知手段と、
予め得られている加工中の所定の最下降位置と前記検知手段により検知された最下降位置とのずれが許容範囲であるか否かを判断する判断手段と、
前記判断手段によって前記ずれが前記許容範囲内ではないと判断された場合に、前記予め得られている加工中の前記所定の最下降位置と前記第1加工中に前記検知手段により検知した前記スライドの最下降位置
とに基づいて
前記モーションデータを補正する
ための補正値を求め、前記補正値により前記モーションデータを補正する補正手段と、
前記判断手段によって前記ずれが前記許容範囲内ではないと判断された場合には前記補正手段により補正されたモーションデータに基づ
き生成された第2テーブルが展開され
、前記判断手段によって前記ずれが前記許容範囲内であると判断された場合には補正されないモーションデータに基づき生成された第2テーブルが展開される、前記第1の記憶手段とは異なる第2の記憶手段と、
前記第1加工が終了したら前記第2の記憶手段に展開された前記第2テーブルに従った第2加工を行い前記スライドの動作を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とするプレス装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記第2の記憶手段に展開された前記第2テーブルに従って前記スライドの動作を制御して前記第2加工を行うとともに、
前記検知手段によって前記第2加工を行っている前記スライドの最下降位置を検知し、前記判断手段によって前記ずれが前記許容範囲内ではないと判断された場合には前記予め得られている加工中の前記所定の最下降位置と前記第2加工中に前記検知手段により検知した前記スライドの最下降位置
とに基づいて前記補正手段に
よって求められた補正値で補正
されたモーションデータに基づき生成
された第3テーブルを前記第1の記憶手段に展開し、
前記判断手段によって前記ずれが前記許容範囲内であると判断された場合には補正されないモーションデータに基づき生成された第3テーブルを前記第1の記憶手段に展開し、前記第2加工が終了したら前記第1の記憶手段に展開された前記第3テーブルに従った第3加工を行い前記スライドの動作を制御することを特徴とする請求項1に記載のプレス装置。
【請求項3】
前記スライドの位置を検知する位置検知手段と、
前記プレス装置に加わる荷重を検知する荷重検知手段と、
を備え、
前記検知手段は、前記位置検知手段及び前記荷重検知手段による検知結果に基づいて前記スライドの最下降位置を検知することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のプレス装置。
【請求項4】
対象物に加工を行うプレス装置のプレス方法であって、
モーションデータに基づき生成されたスライドの制御に用いられる第1テーブルを第1の記憶手段に展開する第1の記憶工程と、
前記第1の記憶手段に展開された前記第1テーブルに従って
第1加工を行っている
前記スライドの最下降位置を検知手段により検知する検知工程と、
予め得られている加工中の所定の最下降位置と前記検知手段により検知された最下降位置とのずれが許容範囲であるか否かを判断手段により判断する判断工程と、
前記判断手段によって前記ずれが前記許容範囲内ではないと判断された場合に、前記予め得られている加工中の前記所定の最下降位置と前記第1加工中に前記検知工程において検知した前記スライドの最下降位置
とに基づいて
前記モーションデータを
補正するための補正値を補正手段により
求め、前記補正値により前記モーションデータを補正する補正工程と、
前記判断手段によって前記ずれが前記許容範囲内ではないと判断された場合には前記補正手段により補正されたモーションデータに基づ
き生成された第2テーブルを前記第1の記憶手段とは異なる第2の記憶手段に展開
し、前記判断手段によって前記ずれが前記許容範囲内であると判断された場合には補正されないモーションデータに基づき生成された第2テーブルを前記第2の記憶手段に展開する第2の記憶工程と、
前記第1加工が終了したら前記第2の記憶手段に展開された前記第2テーブルに従った第2加工を行い前記スライドの動作を制御手段により制御する制御工程と、
を備えることを特徴とするプレス方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス装置及びプレス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プレス装置のスライドの最下降位置(すなわち下死点)は、温度の変化やロッド・フレームの伸び、材料の厚み・硬さ等のばらつき等によって変化する。このため、プレス装置各部の温度や材料の厚み・硬度を測定し、測定結果に基づいて最下降位置の補正を行い、プレス装置の加工の精度を安定させている。例えば、各測定結果に基づいてダイハイトを補正(すなわちコンロッドの長さを調整)するダイハイト自動補正装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また例えば、サーボプレスの場合には正転/逆転が可能であるため、下死点手前でスライドを停止させ、スライドを停止させた位置から逆転で始動位置に復帰させる動作(繰返しモーション)を行うことができる。このようなサーボプレスでは、モーションの設定を変更することで最下降位置を調整する方法もある。更に、プレス装置に加わる加圧力を監視しながらスライドを下降させ、加圧力が規定の圧力に到達したタイミングでスライドの下降を停止させるモーション(圧力制御モーション)がある。このようなプレス装置では、このモーションを使用することで材料のばらつきに対処し、スライドの最下降位置の補正を行っている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-276999号公報
【文献】特開2001-001197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えばコンロッドの長さを調整する方法では、スライドを非加工領域に移動させ動作を停止しコンロッドのねじを回すことにより長さを調整するため、動作が遅い。また、スライドの動作中にコンロッドの長さ調整を行うことも可能であるが、材料の厚みのばらつき等によっては調整量が大きくなってしまい、調整が間に合わない場合もある。また、材料の厚み・硬さを測定し測定結果に基づき補正を行う場合、加工を行う前の行程で測定機器を用意しなければならず、また、加工による振動や材料のばたつき等によって安定した測定を高速に行うことが困難である。
【0006】
また、サーボプレスのモーションの設定を変更することで最下降位置を調整する方法の場合、調整量が大きくても短時間で変更を加えることが可能であるが、モーションの計算が終了するまでは加工を開始することができず、例えば0.1~2秒程度を要する。更に、加圧力を監視しながらスライドの下降をリアルタイムに制御する方法では、モーションの再計算に伴うインターバルは不要となるが、加工領域でのスライドの動作が遅くなるため生産性が低下する。以上のことから、生産性を低下させることなくスライドの最下降位置の補正を行い、加工精度を安定させることが求められている。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、生産性を低下させることなくスライドの最下降位置の補正を行い、加工精度を安定させることができるプレス装置及びプレス方法を提供することを例示的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、以下の趣旨を有する。
【0009】
[趣旨1]
本発明のプレス装置は、
対象物に加工を行うプレス装置であって、
スライドと、
前記スライドの下死点を検知する検知手段と、
前記検知手段により検知した前記スライドの下死点に基づいてモーションデータを補正する補正手段と、
加工時の前記スライドの制御に用いるテーブルが展開される記憶手段と、
前記記憶手段に展開されたテーブルに従って前記スライドの動作を制御する制御手段と、
を備え、
前記記憶手段は、第1の記憶手段と第2の記憶手段とを有し、
前記制御手段は、前記第1の記憶手段に展開されたテーブルに従って前記スライドの動作を制御して加工を行うとともに、次の加工のために前記補正手段により補正したモーションデータに基づき生成したテーブルを前記第2の記憶手段に展開する。
【0010】
[趣旨2]
前記制御手段は、前記次の加工を行う際には前記第2の記憶手段に展開されたテーブルに従って前記スライドの動作を制御して加工を行うとともに、次の加工のために前記補正手段により補正したモーションデータに基づき生成したテーブルを前記第1の記憶手段に展開してもよい。
【0011】
[趣旨3]
前記スライドの位置を検知する位置検知手段と、
前記プレス装置に加わる荷重を検知する荷重検知手段と、
を備え、
前記検知手段は、前記位置検知手段及び前記荷重検知手段による検知結果に基づいて前記スライドの下死点を検知してもよい。
【0012】
[趣旨4]
前記補正手段は、前記検知手段により検知した前記スライドの下死点の情報と所定の情報とに基づいて補正が必要か否かを判断してもよい。
【0013】
[趣旨5]
本発明のプレス方法は、
スライドの下死点を検知する検知工程と、
前記検知工程において検知した前記スライドの下死点に基づいてモーションデータを補正する補正工程と、
記憶手段に展開された、加工時の前記スライドの制御に用いるテーブルに従って、前記スライドの動作を制御する制御工程と、
を備え、
前記制御工程では、第1の記憶手段に展開されたテーブルに従って前記スライドの動作を制御して加工を行うとともに、次の加工のために前記補正工程において補正したモーションデータに基づき生成したテーブルを前記第1の記憶手段とは異なる第2の記憶手段に展開する。
【0014】
本発明の更なる目的又はその他の特徴は、以下添付図面を参照して説明される好ましい実施の形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、生産性を低下させることなくスライドの最下降位置の補正を行い、加工精度を安定させることができるプレス装置及びプレス方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態のプレス装置の構成を示す概略斜視図
【
図3】実施形態の加工中のスライド位置及び荷重を示すグラフ
【
図4】実施形態の(a)繰返しモーションの設定画面を示す図、(b)繰返しモーションのプログラムに従い加工を行っているときのクランク軸の始動位置と最下降位置を示す図、(c)加工中のスライドの速度を示す図
【
図5】実施形態の(a)ソフトモーションの設定値とプログラムとに基づき生成されたテーブルの例を示す図、(b)ソフトモーションのテーブルに従い加工が行われたときのスライドの速度を示すグラフ
【
図6A】実施形態のAメモリ及びBメモリを用いた補正処理を示すフローチャート
【
図6B】実施形態のAメモリ及びBメモリを用いた補正処理を示すフローチャート
【
図7】実施形態のAメモリ及びBメモリを用いた補正処理を示すタイミングチャート
【発明を実施するための形態】
【0017】
[実施形態]
以下の実施形態において、金型プレス装置による加工の対象物であるワークの搬送方向(以下、単に搬送方向という)をX軸方向(又はX方向)、上下方向をZ軸方向(又はZ方向)ともいう。また、プレス装置の正面に向かって前後方向、すなわち搬送方向(X軸方向)及び上下方向(Z軸方向)に直交する方向をY軸方向(又はY方向)ともいう。
【0018】
本実施形態では、モーションテーブルの展開先をメモリ上に2重に配置する(アクティブ領域と非アクティブの2領域)。また、加工中に収集されたデータをデータベースと照合して、次のモーションの補正値(加工速度、変速位置、振幅等の補正値)を得る。モーションの実行中にバックグラウンドで次のモーションの演算を行い、非アクティブ側のメモリにテーブルを格納する。現在のモーションが完了したら、ポインタを非アクティブ側に切り替えてアクティブとし、アクティブとなった領域に格納されたテーブルを用いて次のモーションを実行する(アクティブと非アクティブの切り替え)。
【0019】
(プレス装置の説明)
図1は、例えば、一体型ストレートサイドフレーム型又はCフレーム型のプレス装置100の概略図である。プレス装置100は、筐体2の内外に、駆動モータ4(駆動手段)、伝達機構6、クランク軸8、コンロッド10、スライド12を有して構成される。また、プレス装置100は、コントローラ14、記憶部15、表示部16、入力部18、を有している。
【0020】
駆動モータ4は、例えばサーボ制御されるサーボモータであり、回転量及び回転方向を制御しつつ伝達機構6、クランク軸8、コンロッド10を介して後述する金型3を上下移動させるものである。伝達機構6は、例えばギアやベルト等の伝達部材を有して構成され、駆動モータ4のモータ軸の回転をクランク軸8へと伝達するものである。駆動モータ4への制御信号はコントローラ14から送られるようになっている。
【0021】
クランク軸8及びコンロッド10は、伝達機構6により伝達されたモータ軸の回転移動を往復移動(本実施形態では、上下移動。)に変換するためのものである。モータ軸の回転によりクランク軸8が回転し、クランク軸8に一端近傍が連結されたコンロッド10にその回転が伝達されてコンロッド10が上下移動(昇降移動)するようになっている。
【0022】
コンロッド10の他端近傍にはスライド12が連結されている。コンロッド10の上下移動に伴いスライド12がギブ(不図示)に沿って上下移動するようになっている。プレス装置100においては、スライド12と対向するようにボルスタ22が配置されている。スライド12のボルスタ22と対向する側の面(本実施形態では下面。)に金型3の一部としての上型3aが装着される。ボルスタ22のスライド12と対向する側の面(本実施形態では上面。)に金型3の一部として、上型3aと対になる下型3bが装着される。
【0023】
上型3aと下型3bとの間に加工の対象物としてのワークWを配置し、上型3aと下型3bとで押圧することにより、プレス装置100によるワークWに対するプレス加工が行われる。詳しくは、制御手段であるコントローラ14により制御されて駆動モータ4が回転する。駆動モータ4の回転が伝達機構6、クランク軸8を介してコンロッド10へと伝達され、スライド12が上下移動する。スライド12の下方移動によって上型3aと下型3bとが押圧され、ワークWのプレス加工が行われる。すなわち、プレス装置100において、駆動モータ4、伝達機構6、クランク軸8、コンロッド10、スライド12がプレス部を構成する。
【0024】
プレス装置100は
図2で説明するサーボアンプ33を備えており、サーボアンプ33はコントローラ14の指示に従い駆動モータ4の制御を行う。コントローラ14がサーボアンプ33に駆動モータ4を制御する信号を出力することによって、サーボアンプ33は、駆動モータ4へ電流を供給して駆動モータ4を駆動することや駆動モータ4への電流の供給を遮断して駆動モータ4を停止することができる。伝達機構6には、クランク軸8の回転数を検知するためのロータリーエンコーダ25が設けられている。
【0025】
コントローラ14は、第1の記憶手段であるAメモリ14A及び第2の記憶手段であるBメモリ14Bを有し、記憶部15に記憶されている各種プログラムを読み込み、読み込んだ各種プログラムに従ってプレス装置100を制御する。Aメモリ14A及びBメモリ14Bは、例えば揮発性のメモリである。コントローラ14は、データの書き込みや読み出しを行う際に、Aメモリ14AとBメモリ14Bとを切り替えてどちらのメモリを使用するかを決定することが可能である。例えば、コントローラ14は、内部メモリの所定のアドレスの位置から所定の領域をAメモリ14Aとして用い、所定の領域とは重複しない領域の先頭のアドレスから所定の領域をBメモリ14Bとして用いることも可能である。この場合、コントローラ14は、アドレスを切り替える(プログラム上ではポインタを切り替える)ことで使用するメモリを指定する。記憶部15は、例えば不揮発性のメモリである。
【0026】
プレス装置100は、単体で加工を行うことも、複数のプレス装置100を用いて一連の加工を行うことも可能である。コントローラ14は、上位装置(不図示)から送信された制御信号や同期信号等に従って所定の加工を行う。表示部16は、プレス装置100の状態を示すデータを表示する。入力部18は、プレス装置100を操作するために必要なデータを入力するために用いられる。更に、プレス装置100は、荷重を検知するための歪ゲージ31を備えている。歪ゲージ31は、プレス装置100の各部分の荷重を検知するために、異なる場所に複数設けられてもよい。
【0027】
(プレス装置のブロック図)
図2は、プレス装置100のブロック図である。
図1で説明した構成と同じ構成には同じ符号を付している。コントローラ14は、表示部16に種々の情報を表示し、操作者に入力部18を介して必要な情報を設定させる。コントローラ14は、入力部18から入力された情報(入力された設定値)及び記憶部15から読み出したプログラムや予め格納された種々の設定値に基づいて、加工に必要なテーブル(モーションテーブルともいう)を作成し、作成したテーブルに従ってワークWに所定の加工を行う。コントローラ14は、作成したテーブルをAメモリ14A又はBメモリ14Bに記憶する。なお、加工を制御するためのプログラムには、プレス装置100で使用される金型3のデータ、加工動作を示すモーションデータ等が含まれる。
【0028】
コントローラ14は、位置検知手段であるロータリーエンコーダ25から検知結果である位置情報を取得し、サーボアンプ33を介して駆動モータ4を制御する。これによりコントローラ14はスライド12の位置を制御する。コントローラ14は、荷重検知手段である歪ゲージ31から検知結果である荷重情報を取得し、取得した荷重情報に基づいて後述するスライド12の最下降位置を求める。すなわち、コントローラ14は、スライド12の最下降位置(下死点)を検知する検知手段としても機能する。
【0029】
(最下降位置の補正)
コントローラ14は、加工中に得たスライド12の最下降位置について、現在行っている加工や用いている金型3、ワークWに対して理想的な最下降位置からのずれを求める。コントローラ14は、求めたずれが許容範囲ではないと判断した場合、ずれから補正値を求め、次回の加工に対して補正値を用いて補正を行う。すなわち、コントローラ14は、スライド12の最下降位置(下死点)を補正する補正手段としても機能する。
【0030】
(加工データ)
ここで、プレス装置100が加工を行っているときのスライド12の位置(スライド位置)及び荷重について説明する。
図3は、加工中のスライド位置及び荷重、すなわち加工データを示すグラフである。
図3は、横軸に時間(ミリ秒(ms))を示し、右縦軸にスライド12の位置(ミリメートル(mm))を示し、左縦軸に荷重(×10キロニュートン(kN))を示す。荷重は、プレス装置100の左部分に加わる左荷重、右部分に加わる右荷重、及びトータルの荷重(トータル荷重)を示す。
【0031】
図3に示すように、トータル荷重はスライド12の位置が最下降位置(下死点)に位置するときに最大の値となる。このため、コントローラ14は、加工中に歪ゲージ31から取得した荷重情報とロータリーエンコーダ25から取得した位置情報とに基づいて、スライド12の最下降位置を得ることができる。具体的には、コントローラ14は、歪ゲージ31の検知結果をモニタし、荷重が最大となったときにロータリーエンコーダ25から取得した位置情報に基づいてスライド12の最下降位置を取得する。
【0032】
(加工動作について)
例えば繰返しモーションを用いる場合を例に加工動作について説明する。
図4は、加工動作について説明する図であり、(a)は繰返しモーションの設定画面を示す図、(b)は繰返しモーションのプログラムに従い加工を行っているときのクランク軸8の始動位置と最下降位置を示す図、(c)は加工中のスライド12の速度を示す図である。
【0033】
(モーションデータ)
コントローラ14は、
図4(a)に示すように加工が行われる前に表示部16に設定画面を表示する。操作者は入力部18を介して設定値(作業原点、アプローチストローク数等)を設定する。これにより、
図4(b)に示す始動位置P1の目標位置(例えば37.50mm)、ストローク数(例えば23.7min
-1)、停止時間(例えば0.00sec)と最下降位置P2の目標位置(例えば2.00mm)、ストローク数(例えば0.0min
-1)、停止時間(例えば0.01sec)が設定される。
図4(a)に表示されているP1~P10をモーションデータという。
【0034】
コントローラ14は、
図4(a)で設定されたモーションデータを用いて、記憶部15から読み出した繰返しモーション用のプログラムに従い、例えば角度(°)、速度(度毎秒(°/s))、移動時間(msec)、停止時間(msec)等からなるテーブルを作成し、作成したテーブルをAメモリ14A又はBメモリ14B上に展開する(保存する)。コントローラ14は、Aメモリ14A又はBメモリ14B上に展開したテーブルに従い、繰返しモーションに従った加工を実行する。このとき、スライド12の速度は
図4(c)に示すように制御される。
【0035】
(テーブル)
図5はソフトモーションを用いる場合を例に加工動作について説明した図である。
図5の(a)はソフトモーションのモーションデータとプログラムとに基づき生成されたテーブルの例を示す図、(b)はソフトモーションのテーブルに従い加工が行われたときのスライド12の速度を示すグラフである。
【0036】
図5(a)のテーブルは、1列目にテーブル番号(No.)、2列目にクランク軸8(又は駆動モータ4)の角度(°)、3列目にクランク軸8の速度(角速度)(°/s)、4列目に移動時間(msec)、5列目に停止時間(msec)、6列目に分岐フラグ(0、1、2等)、7列目に分岐番号(No.)を示す。テーブル番号のNo.0からNo.15は一工程(1回転)で動作が終了する一工程動作用のテーブルを示し、No.17~No.29は連続して(複数回回転して)動作を行う連続動作用のテーブルを示している。また、No.16及びNo.30は各工程の終端を示す終端フラグ(例えば2列目の-1.0)を格納している。
【0037】
コントローラ14は、原則としてテーブル番号の順に制御を実行していくが、分岐フラグが0ではない値の場合、8列目に記載された分岐番号に分岐する。例えば、ソフトモーションを一工程で終了する場合には分岐フラグは0に設定され、ソフトモーションが連続して実行される場合には分岐フラグは1に設定される場合がある。ソフトモーションが連続して実行される場合(分岐フラグは1)、コントローラ14は、No.0からテーブル番号の順に制御していくが、No.2で分岐フラグが1となっているため、No.3ではなくNo.18に分岐する。これにより、コントローラ14は、連続動作用のテーブルに従って連続加工を実行することができる。
【0038】
図5(b)は
図5(a)のテーブルに従ってコントローラ14がソフトモーションの加工を実行した場合のスライド12の速度を示すグラフであり、横軸は時間を示し、縦軸は速度を示す。一工程動作又は連続動作中の領域は、スライド12をワークWに向けて下降させるアプローチ領域、金型3がワークWに接触し加工を行う加工領域、スライド12を上昇させるリターン領域、に分けられる。グラフ上の黒丸は、
図5(a)のテーブル番号に対応している。コントローラ14は、テーブル番号と次のテーブル番号との間(黒丸と次の黒丸との間)の角度や速度等については、所定のモーション(例えば
図4の場合はソフトモーション)のプログラムに従って補間した値を用いて制御する。また、No.1の黒丸は、破線で結ばれたNo.0の黒丸の次に実行される場合と、点線で結ばれた他のNo.(不図示)からの分岐によって実行される場合とがある。更に、No.13の黒丸は、グラフ番号の実行順に破線で結ばれたNo.14に進む場合と、点線で結ばれたNo.29(不図示)に分岐する場合とがある。
【0039】
(モーションデータを補正する理由)
ここで、スライド12の最下降位置が変化し、補正が必要となった場合、
図5(a)に示すテーブルの最下降位置に相当するテーブル番号の値(角度、速度等)だけを変更すると、変更したテーブル番号の前後の動作との整合がとれなくなってしまい、ワークWへの加工の精度が低下してしまうおそれがある。このため、スライド12の最下降位置の補正を行う場合は、
図4(a)で説明したモーションデータを補正する必要がある。すなわち、コントローラ14は、補正後のモーションデータとプログラムとに基づいて、補正後のテーブルを新たに生成することになる。従来は、補正後のモーションデータとプログラムとに基づいて補正後のテーブルを新たに生成しメモリ上に展開するために時間を要し、テーブルが作成されメモリ上に展開されるまで加工が中断されていた。従来は、コントローラ14のテーブルの演算に例えば0.1秒、モーションデータ等の読み出しや作成したテーブルのメモリへの展開(書き込み)等の通信処理に例えば5秒を要していた。
【0040】
(Aメモリ及びBメモリを用いた補正処理)
図6A、
図6Bを用いて、本実施形態のAメモリ14A及びBメモリ14Bを用いた補正処理を説明する。
図6A、
図6Bは、本実施形態のAメモリ14A及びBメモリ14Bを用いた補正処理を説明するフローチャートである。ここでは、コントローラ14が、所定のモーションのプログラムに従って行われる加工を実行するようにプレス装置100を制御する例を用いて説明する。また、Aメモリ14Aに展開されたテーブルを用いて実行されるモーションをAモーションといい、Bメモリ14Bに展開されたテーブルを用いて実行されるモーションをBモーションという。
【0041】
ステップ(以下、Sとする)111でコントローラ14は、所定のモーションを実行するためのプログラムを記憶部15から読み出す。S112でコントローラ14は、読み出したプログラムのモーションデータを内部メモリに転送する。S113でコントローラ14は、S112で転送されたモーションデータに基づいてテーブル(モーションテーブル)を生成し、Aメモリ14Aに展開する(保存する)。S114でコントローラ14は、Aメモリ14Aに展開されたテーブル、例えば
図5(a)で説明したようなテーブルを参照し、Aモーションを開始し、S121でAモーションを終了する。ここで、コントローラ14は、Aモーションを実行している間に、すなわち、Aモーションの実行と並行してS115からS120の処理を実行する。このため、
図6Aでは、S115以降の処理を分岐させて図示している。
【0042】
S115でコントローラ14は、
図3で説明したような加工データを収集する。すなわち、コントローラ14は、ロータリーエンコーダ25及び歪ゲージ31の検知結果を取得する。これによりコントローラ14は、スライド12の最下降位置の情報を取得する。S116でコントローラ14は、データベース(DB)を照合し、S115で取得したスライド12の最下降位置についての解析を行う。
【0043】
ここで、S116で解析のために照合されるデータベースは、例えば工場等でプレス装置100について実施された種々の解析について得られたデータに基づき作成されたデータベースを用いればよい。例えば工場等では、スライド12の速度を変化させて加工を行ったときにどのような条件でプレス装置100が安定するか、また、所定の加工でどのようなモーションを実行させれば稼働音が小さくなるか等、プレス装置100について予め種々の解析が行われ、種々の情報が蓄積されている。このように既に蓄積されている情報をデータベースとして例えば記憶部15に記憶しておき、S116の解析に用いることができる。このため、加工中に得られたスライド12の最下降位置についても、このデータベースを用いて、種々の加工や種々のモーション、種々の金型3・ワークW等に対しての、理想的な最下降位置(所定の情報)を得ることができる。
【0044】
S117でコントローラ14は、S116の解析の結果、スライド12の最下降位置の補正が必要か否かを判断する。例えばコントローラ14は、スライド12の最下降位置の理想的な最下降位置からのずれが所定量以上であれば補正が必要であり、所定量未満であれば補正は必要ではないと判断する。S117でコントローラ14は、スライド12の最下降位置の補正が必要ではないと判断した場合、処理をS120に進める。S120でコントローラ14は、補正が不要である場合には、S112で得たモーションデータを変更(補正)することなくこのモーションデータを用いて次のモーション(Bモーション)のためのテーブルを生成し、Bメモリ14Bに展開し、処理をS122に進める。
【0045】
S117でコントローラ14は、スライド12の最下降位置の補正が必要であると判断した場合、処理をS118に進める。S118でコントローラ14は、スライド12の理想の最下降位置とS115で取得した最下降位置とに基づいてモーションデータを補正するための補正値(モーション補正値)を取得する。S119でコントローラ14は、S118で取得した補正値を用いてモーションデータを補正する。S120でコントローラ14は、S119で補正したモーションデータを用いて次のモーション(Bモーション)のためのテーブルを生成し、Bメモリ14Bに展開し、処理をS122に進める。
【0046】
S122でコントローラ14は、ワークWの加工(生産)が終了したか否かを判断する。S122でコントローラ14は、生産が終了したと判断した場合、処理を終了し、生産が終了していないと判断した場合、処理をS123に進める。S123でコントローラ14は、Bメモリ14Bを参照し、次のモーションのテーブルが生成されたか否か、すなわち、並行して処理を行っているS120までの処理が終了しているか否かを判断する。S123でコントローラ14は、次のモーションのテーブルが生成されていないと判断した場合、処理をS123に戻し、次のモーションのテーブルが生成されたと判断した場合、処理をS124に進める。
【0047】
S124でコントローラ14は、Bメモリ14Bに展開されたテーブルを参照し、Bモーションを開始し、S131でBモーションを終了する。ここで、コントローラ14は、Bモーションを実行している間に、すなわち、Bモーションの実行と並行してS125からS130の処理を実行する。このため、
図6Bでは、S125以降の処理を分岐させて図示している。
【0048】
S125でコントローラ14は、加工データを収集する。これによりコントローラ14は、スライド12の最下降位置の情報を取得する。S126でコントローラ14は、データベース(DB)を照合し、S125で取得したスライド12の最下降位置についての解析を行う。S127でコントローラ14は、S126の解析の結果、スライド12の最下降位置の補正が必要か否かを判断する。S127でコントローラ14は、スライド12の最下降位置の補正が必要ではないと判断した場合、処理をS130に進める。S130でコントローラ14は、補正が不要である場合には、モーションデータを変更(補正)することなく次のモーション(Aモーション)のためのテーブルを生成し、Aメモリ14Aに展開し、処理をS132に進める。
【0049】
S127でコントローラ14は、スライド12の最下降位置の補正が必要であると判断した場合、処理をS128に進める。S128でコントローラ14は、スライド12の理想の最下降位置とS125で取得した最下降位置とに基づいてモーションデータを補正するための補正値(モーション補正値)を取得する。S129でコントローラ14は、S128で取得した補正値を用いてモーションデータを補正する。S130でコントローラ14は、S129で補正したモーションデータを用いて次のモーション(Aモーション)のためのテーブルを生成し、Aメモリ14Aに展開し、処理をS132に進める。
【0050】
S132でコントローラ14は、ワークWの加工(生産)が終了したか否かを判断する。S132でコントローラ14は、生産が終了したと判断した場合、処理を終了し、生産が終了していないと判断した場合、処理をS133に進める。S133でコントローラ14は、Aメモリ14Aを参照し、次のモーションのテーブルが生成されたか否か、すなわち、並行して処理を行っているS130までの処理が終了しているか否かを判断する。S133でコントローラ14は、次のモーションのテーブルが生成されていないと判断した場合、処理をS133に戻し、次のモーションのテーブルが生成されたと判断した場合、処理をS114に戻す。
【0051】
(加工処理の流れ)
図7は
図6で説明した本実施形態の処理の流れを説明するタイミングチャートであり、各モーションでコントローラ14によって補正が必要と判断された場合を示している。また、「S113」等は
図6のフローチャートのステップ番号を示す。スライド12の最下降位置の情報が取得されるのは、クランク軸8の回転が約半周したあたりとなるため、補正が必要か否かの判断や補正値を求めモーションデータを補正する処理は、クランク軸8の回転が約半周した後、言い換えればスライド12が最下降位置を通過してからとなる。
【0052】
本実施形態では、Aモーションを実行している間にスライド12の最下降位置の情報を取得して補正値を求め、Aモーションのテーブルが展開されたAメモリ14Aとは異なるBメモリ14Bに補正後のテーブルを展開する。このとき、フォアグラウンドでAモーションの動作が行われており、バックグラウンドでBメモリ14Bに補正後のテーブルが展開されている、と言うこともできる。そして、補正後のテーブルに従ったモーション(Bモーション)を実行している間にスライド12の次の最下降位置の情報を取得して補正値を求め、Bモーションのテーブルが展開されたBメモリ14Bとは異なるAメモリ14Aに補正後のテーブルを展開する。このとき、フォアグラウンドでBモーションの動作が行われており、バックグラウンドでAメモリ14Aに補正後のテーブルが展開されている、と言うこともできる。
【0053】
このように、最新の加工データに基づいて次のモーションの補正を行い、現在のモーションの動作中にバックグラウンドで次のモーションテーブルを生成し、フォアグラウンドのモーションが終了したタイミングでバックグラウンドのテーブルに切り替える。これにより、次のモーションに必要なテーブルが格納されたメモリに瞬時に切り替えることができるので、生産性を維持することができる。また、加工中のデータに基づき補正を行い、補正後に新たにテーブルを生成するため、ワークWの素材に適したモーションを用意することができ、製品精度を安定させることができる。
【0054】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨の範囲内で様々な変形や変更が可能であり、例えば以下のような変形例がある。
【0055】
例えば、Aメモリ14A及びBメモリ14Bは揮発性のメモリとしたが、不揮発性のメモリであってもよい。また、Aメモリ14A及びBメモリ14Bは、コントローラ14が有する構成としたが、コントローラ14の外部に設けてもよい。
また、AモーションとBモーションについては、所定のモーションとして説明したが、所定のモーションは1つのモーションであってもよいし、2以上の異なるモーションを順に繰返し実行する加工であってもよい。
また、加工が終了した後(後工程)に加工されたワークW(加工品)の良否判定を追加し、良否判定の結果をデータベースに蓄積させてもよい。良否判定の情報を蓄積していき、プレス装置100に自己学習させてもよい。これにより、
図6のS116等で行う解析処理の精度を向上させることが可能となり、モーションの最適化が可能となる。
【0056】
以上、本実施形態によれば、生産性を低下させることなくスライドの最下降位置の補正を行い、加工精度を安定させることができるプレス装置及びプレス方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0057】
2 筐体
3 金型
3a 上型
3b 下型
4 駆動モータ
6 伝達機構
8 クランク軸
10 コンロッド
12 スライド
14 コントローラ
14A Aメモリ
14B Bメモリ
15 記憶部
16 表示部
18 入力部
22 ボルスタ
25 ロータリーエンコーダ
31 歪ゲージ
33 サーボアンプ
100 プレス装置
W ワーク