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特許7389672錠剤印刷装置および錠剤印刷装置のメンテナンス方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】錠剤印刷装置および錠剤印刷装置のメンテナンス方法
(51)【国際特許分類】
   A61J 3/06 20060101AFI20231122BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20231122BHJP
   B41J 2/165 20060101ALI20231122BHJP
   B41J 2/17 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
A61J3/06 Q
B41J2/01 109
B41J2/01 401
B41J2/165 203
B41J2/17
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020018927
(22)【出願日】2020-02-06
(65)【公開番号】P2021122558
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】中野 信行
(72)【発明者】
【氏名】山下 和人
(72)【発明者】
【氏名】蒲 隆
【審査官】岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-074779(JP,A)
【文献】特開2016-093944(JP,A)
【文献】特開2018-149780(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61J 3/06
B41J 2/01
B41J 2/165
B41J 2/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
錠剤の表面に対して印刷を行うインクジェット式の錠剤印刷装置であって、
インクを吐出可能な複数のノズルを有するインクジェット式のヘッドと、
前記ヘッド内の圧力を調整可能な圧力調整部と、
前記ヘッドの内部において前記ノズルから吐出される前記インクを、第1温度および第2温度に昇温可能なヒータと、
前記ヘッド、前記圧力調整部および前記ヒータを制御する制御部と、
を有し、
前記制御部は、
前記錠剤の表面に対して、一部の前記ノズルから前記第1温度の前記インクを吐出させる印刷工程と、
前記圧力調整部により前記ヘッド内の圧力を高めて、全ての前記ノズルを吐出対象として前記第2温度の前記インクを吐出させる回復工程と、
を実行可能であり、
前記第2温度は、前記第1温度よりも2℃以上15℃以下高い温度であり、
前記回復工程において吐出された前記インクは、前記ヘッドから滴り落ちずに前記ヘッドの下面に滞留する、錠剤印刷装置。
【請求項2】
請求項1に記載の錠剤印刷装置であって、
前記制御部は、前記回復工程において、
a)前記ヒータにより前記ヘッド内の前記インクを前記第2温度まで昇温する工程と、
b)前記工程a)の後に前記ヒータを停止する工程と、
c)前記工程b)の後に、前記ヘッド内の圧力を高めて、全ての前記ノズルを吐出対象として前記インクを吐出させる工程と、
を含む、錠剤印刷装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の錠剤印刷装置であって、
前記ヘッドは、
前記ヘッドの下面に配置された複数の前記ノズルと、
前記ノズルのそれぞれに連通し、内部の圧力を高めるアクチュエータを有する複数の個別インク室と、
複数の前記個別インク室と連通するインク貯留室と、
を有し、
前記ヒータは、前記インク貯留室の内部に配置される、錠剤印刷装置。
【請求項4】
錠剤の表面に対して印刷を行うインクジェット式の錠剤印刷装置において、インクを吐出する複数のノズルを有するヘッドのメンテナンス方法であって、
A)前記ヘッド内の前記インクの温度を第2温度に昇温する工程と、
B)前記工程A)の後で、前記ヘッド内の圧力を高めて、全ての前記ノズルを吐出対象として前記インクを吐出させる工程と、
を含み、
前記第2温度は、前記錠剤に対して印刷を行う場合の前記ヘッド内の前記インクの温度である第1温度よりも2℃以上15℃以下高い温度であり、
前記工程B)において吐出される前記インクは、前記ヘッドから滴り落ちずに前記ヘッドの下面に滞留する、メンテナンス方法。
【請求項5】
請求項4に記載のメンテナンス方法であって、
前記工程A)において、前記ヘッドを印刷位置からメンテナンス位置へと移動させつつ、前記ヘッド内の前記インクの温度を前記第2温度まで昇温させ、
前記工程B)は
B1)前記ヘッド内の前記インクの温度が前記第2温度に達したことを確認して前記インクの昇温を停止する工程と、
B2)前記工程B1)の後に、前記ヘッド内の圧力を高めて、全ての前記ノズルを吐出対象として前記インクを吐出させる工程と、
B3)前記ヘッドの下面に滞留した前記インクを拭き取る工程と、
を含む、メンテナンス方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錠剤の表面に印刷を行う錠剤印刷装置と、錠剤印刷装置のメンテナンス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品の一形態である錠剤の表面には、製品を識別するための文字やコードが印字される。このような文字やコードは、刻印により印字される場合もあるが、刻印では視認性が低いという問題があった。特に、近年では、後発医薬品の普及により錠剤の種類が多様化している。このため、錠剤を識別しやすくするために、錠剤の表面にインクジェット方式で鮮明な印字を行う技術が注目されている。
【0003】
特許文献1には、インクジェット方式で錠剤の表面に印刷を行う従来の装置の例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/159096号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インクジェット方式の錠剤印刷装置では、錠剤を搬送しつつ、ヘッドの吐出面に設けられた複数のノズルから錠剤に向けて、インクの液滴(以下、単に「インク滴」と称する)を吐出する。このようなインクジェット方式の印刷装置では、各ノズルの内部に、インクの液面が配置される。このため、使用頻度の低いノズルでは、液面からインクの溶媒が蒸発し、ノズル内において、メニスカスの上昇、インク成分の凝集およびインク成分の濃縮等が生じる。これにより、インクの流動性が低下し、インク詰まりという問題が生じる。
【0006】
このような問題を解消するため、一般的なインクジェット方式の印刷装置では、ヘッド内のインクを加圧して全てのノズルからインクを一斉に吐出させるパージ処理と呼ばれるメンテナンス方法が用いられている。パージ処理により圧力をかけてインクを吐出することにより、原因となるインク成分の凝集や、濃縮したインクをノズル外へと吐出させる。
【0007】
これに対し、錠剤印刷装置は印字率が8%程度であり、その他の印刷装置と比べて印字率が低い。このため、多くのノズルにおいてインクの吐出がされない期間が長い。すなわち、その他の印刷装置と比べて、インクの流動性が低下しやすく、インク詰まりが生じるノズルの数も多くなる。
【0008】
したがって、錠剤印刷装置において従来のパージ処理によってインク詰まりを解消するためには、パージ時間またはパージ回数を増加させる必要がある。すなわち、その他の印刷装置と比べてさらに多量のインクを消費することとなる。
【0009】
しかしながら、錠剤印刷装置に用いられる可食性のインクは、通常の紙やフィルム等の媒体に使用されるインクと比較して非常に高価である。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、インクの消費量を抑制しつつ、効率よくインク詰まりを解消できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、錠剤の表面に対して印刷を行うインクジェット式の錠剤印刷装置であって、インクを吐出可能な複数のノズルを有するインクジェット式のヘッドと、前記ヘッド内の圧力を調整可能な圧力調整部と、前記ヘッドの内部において前記ノズルから吐出される前記インクを、第1温度および第2温度に昇温可能なヒータと、前記ヘッド、前記圧力調整部および前記ヒータを制御する制御部と、を有し、前記制御部は、前記錠剤の表面に対して、一部の前記ノズルから前記第1温度の前記インクを吐出させる印刷工程と、前記圧力調整部により前記ヘッド内の圧力を高めて、全ての前記ノズルを吐出対象として前記第2温度の前記インクを吐出させる回復工程と、を実行可能であり、前記第2温度は、前記第1温度よりも2℃以上15℃以下高い温度であり、
前記回復工程において吐出された前記インクは、前記ヘッドから滴り落ちずに前記ヘッドの下面に滞留する。
【0014】
本願の第2発明は、第1発明の錠剤印刷装置であって、前記制御部は、前記回復工程において、a)前記ヒータにより前記ヘッド内の前記インクを前記第2温度まで昇温する工程と、b)前記工程a)の後に前記ヒータを停止する工程と、c)前記工程b)の後に、前記ヘッド内の圧力を高めて、全ての前記ノズルを吐出対象として前記インクを吐出させる工程と、を含む。
【0015】
本願の第3発明は、第1発明または第2発明の錠剤印刷装置であって、前記ヘッドは、前記ヘッドの下面に配置された複数のノズルと、前記ノズルのそれぞれに連通し、内部の圧力を高めるアクチュエータを有する複数の個別インク室と、複数の前記個別インク室と連通するインク貯留室と、を有し、前記ヒータは、前記インク貯留室の内部に配置される。
【0016】
本願の第4発明は、錠剤の表面に対して印刷を行うインクジェット式の錠剤印刷装置において、インクを吐出する複数の前記ノズルを有するヘッドのメンテナンス方法であって、A)前記ヘッド内の前記インクの温度を第2温度に昇温する工程と、B)前記工程A)の後で、前記ヘッド内の圧力を高めて、全ての前記ノズルを吐出対象として前記インクを吐出させる工程と、を含み、前記第2温度は、前記錠剤に対して印刷を行う場合の前記ヘッド内の前記インクの温度である第1温度よりも2℃以上15℃以下高い温度であり、
前記工程B)において吐出される前記インクは、前記ヘッドから滴り落ちずに前記ヘッドの下面に滞留する。
【0019】
本願の第5発明は、第4発明のメンテナンス方法であって、前記工程A)において、前記ヘッドを印刷位置からメンテナンス位置へと移動させつつ、前記ヘッド内の前記インクの温度を前記第2温度まで昇温させ、前記工程B)はB1)前記ヘッド内の前記インクの温度が前記第2温度に達したことを確認して前記インクの昇温を停止する工程と、B2)前記工程B1)の後に、前記ヘッド内の圧力を高めて、全ての前記ノズルを吐出対象として前記インクを吐出させる工程と、B3)前記ヘッドの下面に滞留した前記インクを拭き取る工程と、を含む。
【発明の効果】
【0020】
本願の第1発明~第9発明によれば、回復工程において、インクの温度を印刷工程時の第1温度よりも高い第2温度とする。これにより、インクの粘度を低下させてノズル内の圧損を低下させる。その結果、回復工程において吐出されるインクの量を抑制することができる。
【0021】
特に、本願の第2発明および第7発明によれば、回復工程において吐出されるインクの量を通常のパージ処理に比べて大幅に抑制することができる。
【0022】
特に、本願の第3発明および第8発明によれば、適切なインク温度で回復工程を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】錠剤印刷装置の構成を示した図である。
図2】錠剤搬送機構の部分斜視図である。
図3】ヘッドの下面図である。
図4】制御部と錠剤印刷装置内の各部との接続を示したブロック図である。
図5】印刷部の部分側面図である。
図6】キャップの縦断面図である。
図7】ヘッドおよびインク供給機構の構成を示した概略図である。
図8】印刷工程の開始前におけるヘッド内の温度管理の流れを示したフローチャートである。
図9】回復工程の流れを示したフローチャートである。
図10】インクの温度と粘度との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明においては、複数の錠剤が搬送される方向を「搬送方向」と称し、搬送方向に対して垂直かつ水平な方向を「幅方向」と称する。
【0025】
<1.錠剤印刷装置の全体構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る錠剤印刷装置1の構成を示した図である。この錠剤印刷装置1は、医薬品である複数の錠剤9を搬送しながら、各錠剤9の表面に、製品名、製品コード、会社名、ロゴマーク等の画像を印刷する装置である。図1に示すように、本実施形態の錠剤印刷装置1は、錠剤搬送機構10、印刷部20、乾燥機構30、および制御部100を備えている。
【0026】
錠剤搬送機構10は、印刷対象物である複数の錠剤9を保持しつつ搬送する機構である。錠剤搬送機構10は、一対のプーリ11と、一対のプーリ11の間に掛け渡された環状の搬送ベルト12とを有する。錠剤印刷装置1に投入された複数の錠剤9は、振動フィーダや搬送ドラム等により構成される搬入機構51によって、等間隔に整列されるとともに、搬送ベルト12の外周面に供給される。一対のプーリ11の一方は、搬送用モータ13から得られる動力により回転する。これにより、搬送ベルト12が、図1中の矢印の方向に回動する。このとき、一対のプーリ11の他方は、搬送ベルト12の回動に伴い従動回転する。
【0027】
図2は、錠剤搬送機構10の部分斜視図である。図2に示すように、搬送ベルト12には、複数の吸着孔14が設けられている。複数の吸着孔14は、搬送方向および幅方向に、等間隔に配列されている。また、図1に示すように、錠剤搬送機構10は、搬送ベルト12の内側の空間から気体を吸い出す吸引機構15を有する。吸引機構15を動作させると、搬送ベルト12の内側の空間が、大気圧よりも低い負圧となる。複数の錠剤9は、当該負圧によって、吸着孔14に吸着保持される。
【0028】
このように、錠剤搬送機構10は、複数の錠剤9を、複数の吸着孔14に一定の間隔で保持しつつ、搬送ベルト12の回動によって、複数の錠剤9を搬送する。後述する4つのヘッド21の下方では、複数の錠剤9は、水平方向に搬送される。
【0029】
また、図1に示すように、錠剤搬送機構10は、搬送ベルト12の内側に、ブロー機構16を有する。ブロー機構16を動作させると、搬送ベルト12の複数の吸着孔14のうち、搬出機構52に対向する吸着孔14のみが、大気圧よりも高い陽圧となる。これにより、当該吸着孔14における錠剤9の吸着が解除され、搬送ベルト12から搬出機構52へ、錠剤9が受け渡される。搬出機構52は、搬送ベルト12から受け渡された錠剤9を、例えば他の搬送ベルトによって、錠剤印刷装置1の外部へ搬出する。
【0030】
印刷部20は、搬送ベルト12により搬送される錠剤9の表面に、インクジェット方式で画像を記録する部位である。図1に示すように、本実施形態の印刷部20は、4つのヘッド21を有する。4つのヘッド21は、搬送ベルト12の上方に位置し、錠剤9の搬送方向に沿って、一列に配置されている。4つのヘッド21は、錠剤9の表面に向けて、互いに異なる色(例えば、シアン、マゼンタ、イエロー、およびブラックの各色)のインク滴を吐出する。すると、これらの各色により形成される単色画像の重ね合わせによって、錠剤9の表面に、多色画像が記録される。なお、各ヘッド21から吐出されるインクには、日本薬局方、食品衛生法等で認可された原料により製造された可食性インクが使用される。
【0031】
図3は、1つのヘッド21の下面図である。図3には、搬送ベルト12と、搬送ベルト12に保持された複数の錠剤9とが、二点鎖線で示されている。図3中に拡大して示したように、ヘッド21の下面には、インク滴を吐出可能な複数のノズル211が設けられている。本実施形態では、ヘッド21の下面に、複数のノズル211が、搬送方向および幅方向に二次元的に配列されている。各ノズル211は、幅方向に位置をずらして配列されている。このように、複数のノズル211を二次元的に配置すれば、各ノズル211の幅方向の位置を、互いに接近させることができる。ただし、複数のノズル211は、幅方向に沿って一列に配列されていてもよい。
【0032】
ノズル211からのインク滴の吐出方式には、例えば、圧電素子に電圧を加えて変形させることにより、ノズル211内のインクを加圧して吐出する、いわゆるピエゾ方式が用いられる。ただし、インク滴の吐出方式は、ヒータに通電してノズル211内のインクを加熱膨張させることにより吐出する、いわゆるサーマル方式であってもよい。
【0033】
乾燥機構30は、錠剤9の表面に付着したインクを乾燥させる機構である。乾燥機構30は、搬送ベルト12の周囲の、印刷部20よりも搬送方向下流側の位置に設けられている。乾燥機構30には、例えば、搬送ベルト12により搬送される錠剤9へ向けて、加熱された気体(熱風)を吹き付ける、熱風供給機構が用いられる。錠剤9の表面に付着したインクは、熱風により乾燥して、錠剤9の表面に定着する。
【0034】
制御部100は、錠剤印刷装置1内の各部を動作制御するための手段である。図4は、制御部100と、錠剤印刷装置1内の各部との接続を示したブロック図である。図4中に概念的に示したように、制御部100は、CPU等のプロセッサ101、RAM等のメモリ102、およびハードディスクドライブ等の記憶部103を有するコンピュータにより構成される。記憶部103内には、印刷処理を実行するためのコンピュータプログラムPが、インストールされている。
【0035】
また、図4に示すように、制御部100は、上述した搬送用モータ13、吸引機構15、ブロー機構16、4つのヘッド21、乾燥機構30、搬入機構51、および搬出機構52と、それぞれ通信可能に接続されている。また、制御部100は、後述するヘッド移動機構22、洗浄ユニット24、払拭ユニット25、およびインク供給機構70とも、通信可能に接続されている。制御部100は、記憶部103に記憶されたコンピュータプログラムPやデータをメモリ102に一時的に読み出し、当該コンピュータプログラムPに基づいて、プロセッサ101が演算処理を行うことにより、上記の各部を動作制御する。これにより、複数の錠剤9に対する印刷処理や、後述のメンテナンス処理が進行する。
【0036】
<2.ヘッド移動機構およびキャップについて>
次に、ヘッド移動機構22と、キャップ23とについて、図5および図6を参照しつつ説明する。図5は、図1中の白抜き矢印Vの位置から見た印刷部20の部分側面図である。図6は、キャップ23の縦断面図である。
【0037】
図5に示すように、この錠剤印刷装置1の内部空間は、印刷エリアA1と退避エリアA2とに分けられている。印刷エリアA1は、上述した錠剤搬送機構10により錠剤9を搬送しつつ、錠剤9に対して印刷を行う印刷空間である。退避エリアA2は、印刷前または印刷後にヘッド21を退避および待機させるとともに、錠剤9と同じ空間にある必要の無い機器が収容される退避空間である。
【0038】
印刷エリアA1と退避エリアA2との間には、両エリアを仕切る隔壁60が設けられている。隔壁60は、ヘッド21が通過するための開口61を有する。開口61は、常に開放されていてもよく、ヘッド21の通過時に開放されるシャッター機構が取り付けられていてもよい。
【0039】
上述の通り、印刷部20は、4つのヘッド21を有する。また、図5に示すように、印刷部20は、ヘッド21ごとに、ヘッド移動機構22と、キャップ23とを有する。すなわち、本実施形態の印刷部20は、4つのヘッド21と、各ヘッド21に対応する4つのヘッド移動機構22と、各ヘッド21に対応する4つのキャップ23とを有する。
【0040】
ヘッド移動機構22は、印刷位置P1と待機位置P2との間で、ヘッド21を移動させる機構である。本実施形態のヘッド移動機構22は、アーム221およびアーム移動機構222を有する。
【0041】
アーム221は、幅方向に延びる部材である。ヘッド21は、アーム221の幅方向一方側の先端に固定されている。アーム移動機構222は、制御部100からの指令に従って、アーム221を上下方向および幅方向に移動させる。これにより、アーム221およびヘッド21が、一体として上下方向および幅方向に移動する。
【0042】
アーム移動機構222は、例えば、水平方向(幅方向)の移動機構と上下方向の移動機構とを組み合わせて実現される。これらの移動機構は、例えば、モータの回転運動を、ボールねじを介して直進運動に変換する機構や、リニアモータや、エアシリンダなどの機構によって実現される。
【0043】
ヘッド移動機構22は、図5に示すように、ヘッド21を、印刷位置P1と待機位置P2の間において、上下方向および幅方向に移動させる。ヘッド21は、印刷位置P1において、錠剤9への印刷を行う。ヘッド21が印刷位置P1に配置されると、複数のノズル211が搬送ベルト12に保持された錠剤9と対向する。待機位置P2において、ヘッド21の複数のノズル211は、キャップ23に覆われる。
【0044】
待機位置P2は、印刷位置P1と比べて低い位置である。このため、ヘッド21を印刷位置P1から待機位置P2へと移動させる場合、ヘッド移動機構22は、ヘッド21を印刷位置P1から退避エリアA2内へと幅方向に移動させて中間位置P3に配置した後に、待機位置P2へと下降させる。
【0045】
ヘッド21を待機位置P2から印刷位置P1へと移動させる場合、ヘッド移動機構22は、ヘッド21をその逆の順で移動させる。すなわち、ヘッド移動機構22は、待機位置P2から中間位置P3までヘッド21を上昇させた後に、ヘッド21を印刷エリアA1内へと幅方向に印刷位置P1まで移動させる。
【0046】
なお、中間位置P3が印刷位置P1よりも高い位置であってもよい。その場合、ヘッド移動機構22は、印刷位置P1からヘッド21を中間位置P3と同じ高さまで上昇させ、その後当該高さにおいて退避エリアA2内の中間位置P3へと幅方向に移動する。そして、その後、待機位置P2へと下降させてもよい。
【0047】
その場合、ヘッド21を待機位置P2から印刷位置P1へと移動させる際には、ヘッド移動機構22は待機位置P2から中間位置P3までヘッド21を上昇させた後に、ヘッド21を印刷エリアA1内へと幅方向に移動させ、その後に、ヘッド21を下降させて印刷位置P1に配置する。
【0048】
キャップ23は、上面が開放された略直方体状の筐体である。キャップ23は、退避エリアA2内の所定の位置に、固定されている。キャップ23は、待機位置P2に配置されたヘッド21の複数のノズル211を覆う。このように、ヘッド21を使用していない間に、ノズル211をキャップ23により覆うことにより、ノズル211内のインクが乾燥するのを防止できる。
【0049】
本実施形態では、キャップ23には、洗浄ユニット24と、払拭ユニット25とが備えられている。
【0050】
洗浄ユニット24は、ヘッド21の複数のノズル211を洗浄するためのユニットである。図5および図6に示すように、洗浄ユニット24は、洗浄ノズル241および洗浄液供給部242を有する。
【0051】
洗浄ノズル241は、キャップ23の内部において、洗浄液供給部242から供給された洗浄液を複数のノズル211に向けて吐出する。具体的には、図6に示すように、洗浄ノズル241は、上方へ向かって洗浄液を吐出する複数の吐出口240を有する。洗浄ユニット24によりヘッド21の複数のノズル211を洗浄することにより、印刷エリアA1においてノズル211に付着した微粉等を除去することができる。なお、キャップ23には、洗浄ユニット24が備えられていなくてもよい。
【0052】
払拭ユニット25は、複数のノズル211を含むヘッド21の吐出面(下面)を払拭するためのユニットである。払拭ユニット25は、ブレード251およびブレード移動機構252を有する。
【0053】
ブレード251は、ヘッド21の下面に付着したインク滴や洗浄液を、拭き取るための部材である。ブレード251には、例えば、可撓性を有するゴムなどで形成された板状の部材が用いられる。なお、ブレード251は、ヘッド21に接触する先端部250のみが可撓性の部材で形成されていてもよい。
【0054】
ブレード移動機構252は、ブレード251を回転移動させる機構である。ブレード移動機構252は、例えば、モータ等の駆動源と、モータの回転運動をブレード251に伝達する動力伝達機構とを有する。ブレード移動機構252を動作させると、ブレード251は、図6中に実線で示した収納位置Q1と、図6中に二点鎖線で示した払拭位置Q2との間で、回転移動する。
【0055】
ヘッド21が待機位置P2に配置され、複数のノズル211がキャップ23に覆われるときには、ブレード251は、収納位置Q1に配置される。収納位置Q1では、ブレード251の全体が、キャップ23の内部に収納される。
【0056】
一方、ブレード251によるヘッド21の下面のインク滴や洗浄液の払拭を行う時には、ヘッド移動機構22はヘッド21を待機位置P2よりも高い払拭位置P4へと上昇させて、ヘッド21の下面をキャップ23から引き離す。そして、ブレード251を収納位置Q1から払拭位置Q2へと回転移動させる。払拭位置Q2では、ブレード251の先端部250がヘッド21の下面に接触する。その後、ヘッド移動機構22がヘッド21を幅方向に水平移動させる。これにより、ヘッド21の下面の複数のノズル211およびその周囲に付着したインク滴や洗浄液等が、ブレード251の先端部250によって払拭される。
【0057】
なお、ヘッド21の下面の払拭が行われる払拭位置P4は、中間位置P3と同じ位置であってもよいし、中間位置P3と異なっていてもよい。
【0058】
<3.インク供給機構およびヘッドの構成について>
続いて、ヘッド21にインクを供給するインク供給機構70と、ヘッド21の構成について、図7を参照しつつ説明する。図7は、ヘッド21およびインク供給機構70の構成を示した概略図である。上述の通り、印刷部20は、4つのヘッド21を有する。印刷部20は、ヘッド21ごとに、ヘッド21にインクを供給するインク供給機構70を有する。すなわち、本実施形態の印刷部20は、4つのインク供給機構70をさらに有する。
【0059】
図7に示すように、インク供給機構70はそれぞれ、インク貯留部71、圧力調整機構72および配管73を有する。
【0060】
インク貯留部71は、ヘッド21に供給するためのインクを貯留する容器である。インク貯留部71は、インク貯留部71内の圧力を検知するための圧力センサ711を有する。
【0061】
圧力調整機構72は、インク貯留部71の内部の圧力を調整するための機構である。圧力調整機構72がインク貯留部71内の圧力を調整することにより、インク貯留部71とヘッド21との連通時には、圧力調整機構72が間接的にヘッド21内の圧力を調整することができる。すなわち、圧力調整機構72は、ヘッド21内の圧力を調整可能な圧力調整部を構成する。
【0062】
本実施形態において、インク貯留部71は、容量が一定のタンクである。そして、圧力調整機構72は、インク貯留部71の上部の気体層の気圧を調整することにより、インク貯留部71内の圧力を調整する。しかしながら、インク貯留部71は、フレキシブルな容器にインクが充填された所謂インクバッグであってもよい。その場合、圧力調整機構72は、例えば、インクバッグであるインク貯留部71を挟んで外部からかける圧力を調整することにより、インク貯留部71内の圧力を調整するものであってもよい。
【0063】
配管73は、インク貯留部71の下端部と、ヘッド21の後述するインク供給口81とを連通接続する。配管73には、例えば、配管73の連通を制御する電磁弁731が介挿される。電磁弁731が開放された状態において、インク貯留部71内の圧力がヘッド21内の圧力より大きくなると、インク貯留部71からヘッド21へとインクが供給される。なお、配管73には、電磁弁731とともに、あるいは、電磁弁731に代えて、逆止弁が介挿されてもよい。また、配管73には、インク内の固形成分や異物などを除去するためのフィルタが介挿されてもよい。
【0064】
ヘッド21はそれぞれ、ケーシング80と、ケーシング80に設けられたインク供給口81、インク貯留室82、複数の個別流路83、複数の個別インク室84および複数のノズル211を有する。なお、図7には、便宜的にそれぞれ6つの個別流路83、個別インク室84およびノズル211が示されているが、実際のヘッド21には、多数のノズル211と同数の個別流路83および個別インク室84が設けられている。
【0065】
インク供給口81は、インク貯留室82と外部とを連通する連通口である。インク供給口81には、インク供給機構70の配管73の下流側の端部が接続される。これにより、インク貯留部71から配管73を介して供給されたインクは、インク供給口81を介してインク貯留室82内へ一次的に貯留される。
【0066】
インク貯留室82は、各個別インク室84へ供給するためのインクを一次的に貯留する。インク貯留室82の内部には、インクを加熱するためのヒータ821と、インクの温度を検知する温度センサ822とが備えられている。
【0067】
ヒータ821は、ヘッド21内のインクを昇温させるための加熱機構である。制御部100は、温度センサ822の検知したインクの温度に基づいてヒータ821を制御する。これにより、ヒータ821は、ヘッド21内のインクを、後述する第1温度および第2温度などの温度に昇温可能である。すなわち、ヒータ821は、複数のノズル211から吐出されるインクを、第1温度および第2温度に昇温可能である。
【0068】
個別流路83は、インク貯留室82とそれぞれの個別インク室84とを繋ぐインクの流路である。個別インク室84内の圧力がインク貯留室82内の圧力よりも低くなると、個別流路83を介して、インク貯留室82から当該個別インク室84へとインクが供給される。
【0069】
個別インク室84は、ノズル211ごとに設けられたインクの貯留部である。個別インク室84には、ヘッド21内に供給されたインクが二次的に充填される。個別インク室84の下端部はそれぞれ、ノズル211と連通する。
【0070】
ノズル211は、個別インク室84と外部の空間とを連通する。インクの非吐出時には、ノズル211の内部において、インクの液面がメニスカスを形成する。また、ノズル211の下端部は、ケーシング80の下面に露出して配置される。
【0071】
個別インク室84の壁面にはそれぞれ、圧力発生素子841が配置されている。圧力発生素子841は、個別インク室84の内部の圧力を高めるアクチュエータである。本実施形態のヘッド21は、いわゆるピエゾ方式の吐出ヘッドである。そのため、本実施形態の圧力発生素子841には、圧電素子が用いられる。制御部100から圧力発生素子841へ電気信号である吐出信号が送られると、圧力発生素子841が変形し、個別インク室84内に充填されたインクが加圧される。そして、個別インク室84内の圧力が高まることにより、ノズル211から個別インク室84内のインクが液滴として吐出される。なお、ヘッド21は、ピエゾ方式に限られず、他の方式の吐出ヘッドであってもよい。
【0072】
<4.印刷工程および回復工程におけるヘッド内の温度管理について>
続いて、錠剤印刷装置1における印刷工程の開始前および回復工程におけるヘッド21内の温度管理について、図8および図9を参照しつつ説明する。図8は、印刷工程の開始前におけるヘッド21内の温度管理の流れを示したフローチャートである。図9は、回復工程の流れを示したフローチャートである。
【0073】
制御部100は、錠剤印刷装置1に、少なくとも、印刷工程と回復工程とを実行させることが可能である。印刷工程では、制御部100は、錠剤9を搬送させつつ、錠剤9の表面に対して、一部のノズル211から第1温度のインクを吐出させる。これにより、錠剤9の表面に印刷処理が行われる。一方、回復工程では、制御部100は、ヘッド21内の圧力を高めて、全てのノズル211を吐出対象として第2温度のインクを吐出させる。すなわち、回復工程において、制御部100は、いわゆるパージ処理と称されるメンテナンス方法を実施する。制御部100は、印刷工程および回復工程の他に、例えば、ヘッド21の下面を洗浄する洗浄工程などの他の工程を実行可能であってもよい。
【0074】
まず、図8を参照しつつ、印刷工程の開始前におけるヘッド21内の温度管理の流れを説明する。図8に示すように、印刷工程の開始時には、まず、ステップS111、ステップS112およびステップS113を含む印刷前昇温工程と、ステップS121およびステップS122を含む印刷前移動工程とを並行して行う。
【0075】
印刷前昇温工程(ステップS111~S113)では、まず、制御部100は、ヒータ821を駆動させてヘッド21内のインクの第1温度への昇温を開始する(ステップS111)。そして、昇温を開始すると、制御部100は、温度センサ822の検知したインクの温度が第1温度に達したか否かを監視する(ステップS112)。
【0076】
ステップS112において、制御部100が、インクの温度が第1温度に達していないと判断した場合、ステップS112に戻り、待機する(ステップS112/No)。ステップS112において、インクの温度が第1温度に達したと判断すると(ステップS112/Yes)、制御部100は、ヘッド21内のインク温度を第1温度に維持するように、ヒータ821のフィードバック制御を開始する(ステップS113)。
【0077】
一方、印刷前移動工程(ステップS121~S122)では、まず、制御部100は、ヘッド移動機構22を動作させて、ヘッド21を印刷位置P1へ移動させる(ステップS121)。そして、移動開始後、制御部100は、ヘッド21が印刷位置P1に達したか否かを監視する(ステップS122)。ステップS122において、制御部100が、ヘッド21が印刷位置P1に達していないと判断した場合、ステップS122に戻る(ステップS122/No)。
【0078】
制御部100がステップS113においてフィードバック制御を開始し、かつ、ステップS122においてヘッド21が印刷位置P1に達したと判断すると(ステップS122/Yes)、ステップS13へと進み、印刷工程が開始される(ステップS13)。
【0079】
ここで、第1温度は、印刷工程におけるヘッド21内のインク温度である。印刷工程において、ヘッド21内のインク温度は、フィードバック制御によって第1温度に保たれる。このため、印刷工程では、制御部100は、錠剤9の表面に対して、ヘッド21の一部のノズル211から第1温度のインクを吐出させる。
【0080】
続いて、図9を参照しつつ、回復工程の流れを説明する。図9に示すように、回復工程が開始されると、まず、ステップS211およびステップS212を含むパージ前昇温工程と、ステップS221およびステップS222を含むパージ前移動工程とを並行して行う。
【0081】
パージ前昇温工程(ステップS211~S212)では、ヒータ821によりヘッド21内のインクを、第1温度よりも高い第2温度まで昇温する。まず、制御部100は、ヒータ821を駆動させてヘッド21内のインクの第2温度への昇温を開始する(ステップS211)。そして、昇温を開始すると、制御部100は、温度センサ822の検知したインクの温度が第2温度に達したか否かを監視する(ステップS212)。
【0082】
ステップS212において、制御部100が、インクの温度が第2温度に達していないと判断した場合(ステップS212/No)、ステップS212に戻り、待機する。
【0083】
一方、パージ前移動工程(ステップS221~S222)では、まず、制御部100は、ヘッド移動機構22を動作させて、ヘッド21を待機位置P2へと移動させる(ステップS221)。そして、移動開始後、制御部100は、ヘッド21が待機位置P2に達したか否かを監視する(ステップS222)。ステップS222において、制御部100が、ヘッド21が待機位置P2に達していないと判断した場合、ステップS222へと戻る(ステップS222/No)。
【0084】
制御部100が、ステップS212においてインクの温度が第2温度に達していると判断し(ステップS212/Yes)、かつ、ステップS222においてヘッド21が待機位置P2へと達したと判断すると(ステップS222/Yes)、ステップS23へと進む。そして、制御部100は、ヒータ821によるヘッド21内のインクの昇温を停止する(ステップS23)。すなわち、制御部100は、ヘッド21内のインクの温度が第2温度に達したことを確認してインクの昇温を停止する。
【0085】
なお、ステップS212においてインクの温度が第2温度に達していると判断した(ステップS212/Yes)時点で、まだステップS222においてヘッド21が待機位置P2へと達したと判断されていない場合、制御部100は、ヘッド21内のインクの温度を第2温度に保つようにヒータ821のフィードバック制御を行ってもよい。
【0086】
ヒータ821によるインクの昇温を停止後、制御部100は、ヘッド21内の圧力を高めて、全てのノズル211を対象としてインクを吐出させる(ステップS24)。
【0087】
ステップS24において制御部100が行う具体的な手順として、例えば、まず、電磁弁731を閉鎖してインク貯留部71とヘッド21との連通を遮断する。そして、圧力調整機構72によりインク貯留部71内の圧力を高める。その後、電磁弁731を開放することにより、ヘッド21内の圧力が一気に高まる。
【0088】
ステップS24において、ヘッド21内の圧力が高まることにより、第2温度のインクがノズル211から吐出される。このとき、ステップS24において吐出されるインクの量は、一般的なパージ処理において吐出されるインクの量に比べて少ない。このため、ステップS24において吐出されたインクは、ヘッド21の下面に滞留する。
【0089】
このように、ステップS24では、待機位置P2においてパージ処理が行われる。すなわち、待機位置P2は、パージ工程が行われるメンテナンス位置である。また、ステップS211~S212およびステップS221~S222が並行して行われることにより、パージ工程の前に、ヘッド21を印刷位置P1からメンテナンス位置である待機位置P2へと移動させつつ、ヘッド21内のインクの温度を第2温度まで昇温させる工程が行われている。
【0090】
ステップS24の後、制御部100は、払拭ユニット25によってヘッド21の下面を払拭する(ステップS25)。具体的には、ヘッド移動機構22によりヘッド21を払拭位置P4へと移動させた後に、ブレード移動機構252によりブレード251を払拭位置Q2へと配置する。そして、ヘッド移動機構22によりヘッド21を幅方向に移動させることにより、ブレード251がヘッド21の下面に接触し、ヘッド21の下面に滞留したインクを拭き取る。
【0091】
なお、ステップS24においてヘッド21が払拭位置P4に配置されていてもよい。その場合、パージ前移動工程(ステップS221~S222)において、ヘッド21が待機位置P2ではなく、払拭位置P4に配置される。すなわち、パージ工程が行われるメンテナンス位置は、払拭位置P4となる。
【0092】
ステップS25の払拭工程が完了すると、ヘッド21の回復工程が完了する。この後、印刷工程を行う場合には、ヘッド21が印刷位置P1に配置される。また、この後、印刷工程を行わない場合には、ヘッド21が待機位置P2に配置される。
【0093】
以上のように、この錠剤印刷装置1では、回復工程においてノズル211から吐出されるインクの温度(第2温度)が、印刷工程においてノズル211から吐出されるインクの温度(第1温度)よりも高い温度である。
【0094】
使用頻度の低いノズル211では、インク表面から溶媒が蒸発したり、ノズル211内におけるインクの流動がないことが原因となって、メニスカスの上昇、インク成分の凝集およびインク成分の濃縮等が生じ、インクの流動性が低下し、ノズル211内の圧損が増大する。
【0095】
そこで、回復工程において、ヘッド21内のインクの温度を、印刷工程におけるインク温度である第1温度よりも高い第2温度とする。第2温度のインクは、第1温度のインクよりも粘度が低い。このため、パージ処理を行う際に、インクの粘度を低下させて、インクの流動性を向上させ、ノズル211内の圧損を低下させることができる。これにより、パージ処理において吐出させるインク量を、通常のパージ処理と比べて少量とした場合であっても、ノズル211内のインク詰まりを解消することができる。
【0096】
すなわち、回復工程において、インクの温度を印刷工程よりも高くすることにより、回復工程におけるインクの消費量を抑制することができる。
【0097】
本実施形態において、第1温度は32℃前後であり、第2温度は40℃前後である。第2温度は、第1温度よりも2℃以上15℃以下高い温度であることが好ましい。
【0098】
2℃以上インクの温度が高くなると、吐出状況に変化が生じる程度にインクの粘度が低下する。このため、第2温度は、第1温度よりも少なくとも2℃以上高いことが好ましい。一方、第2温度を高くしすぎると、回復工程後に、ヘッド21内の温度が第1温度まで低下しない虞がある。そうなると、回復工程後、印刷工程までにヘッド21内のインクを降温させるための冷却期間を設けたり、降温機構を設けたりする必要が生じる。このため、第1温度と第2温度との差は、15℃以下であることが好ましい。
【0099】
ここで、図10は、本実施形態で使用される可食性インクの温度と粘度との関係を示した図である。図10において、横軸は、温度[℃]であり、縦軸はインクの粘度[mPa・s]である。なお、図10のインクの粘度の計測に用いた測定器は、BROOKFIELD製のVISCOMETER DV-IIProである。
【0100】
本実施形態の錠剤印刷装置1では、印刷工程に適したインクの粘度は3.9±0.2mPa・sである。このため、第1温度は32℃前後としている。これに対し、パージ工程では、印刷工程と比較して粘度が約20%低い3.2±0.2mPa・sとすることが好ましい。このため、第2温度は40℃前後としている。
【0101】
具体的には、本実施形態では、パージ処理において吐出されたインクは、ヘッド21から滴り落ちずにヘッド21の下面に滞留する程度の少量となっている。例えば、パージ処理において60cc程度のインクを吐出するのが一般的な従来の印刷装置と同規模のヘッド21を有する錠剤印刷装置1において、ステップS24のパージ工程におけるインクの吐出量を1cc程度とすることができる。
【0102】
<5.変形例>
以上、本発明の主たる実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
【0103】
上記の実施形態では、キャップ23の位置が固定され、ヘッド21が下降することによって、ヘッド21の下面をキャップ23で覆っていた。しかしながら、キャップ23に上下移動機構を設け、キャップ23を上昇させることによって、ヘッド21の下面をキャップ23で覆ってもよい。
【0104】
また、上記の実施形態では、印刷部20に、4つのヘッド21が設けられていた。しかしながら、印刷部20に含まれるヘッド21の数は、1~3つであってもよく、5つ以上であってもよい。
【0105】
また、上記の実施形態では、1つのヘッド21の中に1つのインク貯留室と複数の個別インク室84を有する2段構造になっていたが、本発明はこれに限られない。例えば、1つのヘッドの中に共通インク流路と、共通インク流路からインクが供給される複数のインク貯留室と、インク貯留室のそれぞれと連通する複数の個別インク室とが設けられた3段構造であってもよい。また、ヘッドは、その他の構造であってもよい。
【0106】
また、上記の実施形態では、搬送方向の同じ箇所において同じ種類のインクを吐出するヘッド21が1つであったが、本発明はこれに限られない。搬送方向の同じ箇所において同じ種類のインクを吐出するヘッドユニットが、複数のヘッドを組み合わせて構成されたものであってもよい。
【0107】
また、上記の実施形態の錠剤印刷装置1は、錠剤9の表面に印刷を行う印刷部を1つ備えているが、本発明はこれに限られない。錠剤印刷装置は、錠剤の一方側の面に印刷を行う印刷部と、錠剤の他方側の面(裏面)に印刷を行う印刷部との、2つの印刷部を備えていてもよい。
【0108】
また、本発明において処理対象となる「錠剤」は、例えば、素錠、口腔内崩壊錠(OD錠)、フィルムコーティング錠(FC錠)、糖衣錠、割線錠などを含むが、必ずしも医薬品としての錠剤には限定されない。本発明の錠剤印刷装置は、健康食品としての錠剤や、ラムネ等の錠菓に対して、印刷を行うものであってもよい。
【0109】
また、錠剤印刷装置1の細部の構成については、本願の各図と相違していてもよい。また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0110】
1 錠剤印刷装置
9 錠剤
20 印刷部
21 ヘッド
71 インク貯留部
72 圧力調整機構
82 インク貯留室
84 個別インク室
85 ノズル
100 制御部
211 ノズル
251 ブレード
821 ヒータ
822 温度センサ
841 圧力発生素子
P1 印刷位置
P2 待機位置
P3 払拭位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10