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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/245 20060101AFI20231122BHJP
【FI】
G01D5/245 110L
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020021654
(22)【出願日】2020-02-12
(65)【公開番号】P2021128020
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】光山 明宏
(72)【発明者】
【氏名】森下 真臣
(72)【発明者】
【氏名】前田 篤志
【審査官】平野 真樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-046623(JP,A)
【文献】特開2013-117506(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/00-5/252,5/39-5/62
G01B 7/30
F16D 11/00-23/14
F16D 25/00-39/00
48/00-48/12
F16H 59/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1回転要素と、第2回転要素と、を有するクラッチと、
前記第1回転要素と一体に回転するマグネットと、
前記マグネットを被検知部とする回転センサと、を備え、
前記マグネットと前記回転センサと径方向に対向配置され、
前記第2回転要素は、前記マグネットと前記第1回転要素との間に配置される、
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
請求項に記載の動力伝達装置であって、
前記第1回転要素と一体に回転するロータを有する回転電機と、
前記第1回転要素に固定された保持部材と、をさらに備え、
前記マグネットは前記保持部材に設けられる、
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項3】
請求項に記載の動力伝達装置であって、
前記第1回転要素に嵌合されるスナップリングと、
前記第1回転要素に嵌合され前記スナップリングに隣接して配置されるリテーナプレートと、
前記リテーナプレートに固定された保持部材と、をさらに備え、
前記マグネットは前記保持部材に設けられる、
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項4】
請求項または請求項3に記載の動力伝達装置であって、
前記保持部材は、軸方向に突出する突起部を有し、前記突起部を圧入することで固定される、
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項5】
請求項から請求項4のいずれか一項に記載の動力伝達装置であって、
前記第1回転要素の内周側に前記第2回転要素が位置し、
前記第2回転要素の内周側に前記マグネットが位置する、
ことを特徴とする動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、リテーニングプレートに爪部を設け、当該爪部を被検知部とする回転センサをリテーニングプレートの外周側に設ける構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-30714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような回転を検知する構成では被検知部をマグネットとする場合も考えられるが、被検知部をマグネットとした場合にはマグネットと回転センサとの距離が変動するとセンシング精度への影響が大きくなる。
【0005】
本発明は、このような技術的課題に鑑みてなされたものであり、マグネットを被検知部とする回転センサを備える動力伝達装置における回転センサのセンシング精度の変動を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によれば、第1回転要素と、第2回転要素と、を有するクラッチと、前記第1回転要素と一体に回転するマグネットと、前記マグネットを被検知部とする回転センサと、を備え、前記マグネットと前記回転センサと径方向に対向配置され、前記第2回転要素は、前記マグネットと前記第1回転要素との間に配置される、ことを特徴とする動力伝達装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
上記態様によれば、マグネットと回転センサとが径方向に対向配置される。すなわち、マグネットの位置が軸方向に変動しても、位置検知に必要なマグネットと回転センサとの距離の変動を抑制することができる。そのため、軸方向にロバストな構造とすることができ、回転センサのセンシング精度の変動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第1の実施形態に係る動力伝達装置を備えたハイブリッド車両の概略構成図である。
図2】回転電機の断面図である。
図3】本発明の第2の実施形態に係る回転電機の断面図である。
図4】本発明の第3の実施形態に係る回転電機の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1の実施形態)
以下、添付図面を参照しながら、本発明の第1の実施形態に係る動力伝達装置10を備えたハイブリッド車両(以下、単に「車両」という。)100について説明する。
【0010】
図1は、車両100の概略構成図である。図1に示すように、車両100は、エンジン1と、エンジン1と駆動輪5とを結ぶ動力伝達経路に設けられた動力伝達装置10と、を備える。
【0011】
本実施形態では、動力伝達装置10は変速機であって、バリエータ20と、前後進切換え機構30と、回転電機40と、回転センサ47と、クラッチ48と、を備える。
【0012】
回転電機40は、動力伝達経路におけるバリエータ20とエンジン1との間に設けられる。
【0013】
回転電機40は、ハウジング41と、ハウジング41のエンジン1側の開口部に設けられたカバー42と、ハウジング41の内周に設けられたステータ43と、回転軸44と、回転軸44の外周に設けられたロータ80と、を備える。ロータ80は、ロータフレーム81と、ロータフレーム81の外周に設けられたコア82と、を備える。
【0014】
回転電機40の内部には、回転センサ47及びクラッチ48が設けられる。
【0015】
回転電機40は、カバー42を動力伝達装置10のケース12にボルト(図示せず)で締結して動力伝達装置10に固定される。
【0016】
入力軸11は、ベアリング50を介してカバー42に回転自在に支持されており、エンジン1の出力回転が入力される。また、回転軸44は、ベアリング51を介してハウジング41に回転自在に支持される。
【0017】
クラッチ48は、ロータ80と入力軸11とを断接するノーマルオープンの油圧式クラッチである。クラッチ48は、油圧コントロールバルブユニット(図示せず)によって調圧された油圧により、締結・解放が制御される。なお、本実施形態では、クラッチ48は湿式多板式クラッチであるが、他のクラッチを用いてもよい。
【0018】
クラッチ48が締結されると、入力軸11とロータ80とが直結する。すなわち、入力軸11と回転軸44とが直結して同速回転する。
【0019】
回転センサ47は、カバー42に設けられて回転電機40のロータ80の回転速度及び角度(位相)の少なくとも一方を検知するセンサである。本実施形態では、回転センサ47はホールセンサであって、ロータ80に固定された保持部材49には、回転センサ47の被検知部としてのマグネット52が取り付けられている。
【0020】
なお、回転センサ47は、回転速度を検知する他のセンサや角度を検知する他のセンサを用いてもよい。また、マグネット52は、永久磁石、電磁石等である。電磁石を用いる場合は、スリップリング等を用いて電磁石に電流を供給すればよい。
【0021】
回転電機40は、バッテリ(図示せず)からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作することができる。また、回転電機40は、ロータ80が駆動輪5から回転エネルギを受ける場合には発電機として機能し、バッテリを充電することができる。
【0022】
バリエータ20は、V溝が整列するよう配設されたプライマリプーリ2及びセカンダリプーリ3と、プーリ2、3のV溝に掛け渡されたベルト4と、を有する。
【0023】
プライマリプーリ2と同軸にエンジン1が配置され、エンジン1とプライマリプーリ2との間に、エンジン1の側から順に、回転電機40、前後進切換え機構30が設けられている。
【0024】
前後進切換え機構30は、ダブルピニオン遊星歯車組30aを主たる構成要素とし、そのサンギヤは回転電機40の回転軸44に結合され、キャリアはバリエータ20のプライマリプーリ2に結合される。前後進切換え機構30は、さらに、ダブルピニオン遊星歯車組30aのサンギヤ及びキャリア間を直結する前進クラッチ30b、及びリングギヤを固定する後進ブレーキ30cを備える。そして、前進クラッチ30bの締結時には、回転軸44からの入力回転がそのままの回転方向でプライマリプーリ2に伝達され、後進ブレーキ30cの締結時には、回転軸44からの入力回転が逆転されてプライマリプーリ2へと伝達される。
【0025】
前進クラッチ30bは、車両100の走行モードとして前進走行モードが選択された場合に油圧コントロールバルブユニットからクラッチ圧が供給されることで締結される。後進ブレーキ30cは、車両100の走行モードとして後進走行モードが選択された場合に油圧コントロールバルブユニットからブレーキ圧が供給されることで締結される。
【0026】
プライマリプーリ2の回転は、ベルト4を介してセカンダリプーリ3に伝達され、セカンダリプーリ3の回転は、出力軸8、歯車組9及びディファレンシャルギヤ装置15を経て駆動輪5へと伝達される。
【0027】
上記の動力伝達中にプライマリプーリ2及びセカンダリプーリ3間の変速比を変更可能にするために、プライマリプーリ2及びセカンダリプーリ3のV溝を形成する円錐板のうち一方を固定円錐板2a、3aとし、他方を軸線方向へ変位可能な可動円錐板2b、3bとしている。
【0028】
これら可動円錐板2b、3bは、油圧コントロールバルブユニットからプライマリプーリ圧及びセカンダリプーリ圧を供給することにより固定円錐板2a、3aに向けて付勢され、これによりベルト4を円錐板に摩擦係合させてプライマリプーリ2及びセカンダリプーリ3間での動力伝達を行う。
【0029】
変速に際しては、目標変速比に対応させて発生させたプライマリプーリ圧及びセカンダリプーリ圧間の差圧により両プーリ2、3のV溝の幅を変化させ、プーリ2、3に対するベルト4の巻き掛け円弧径を連続的に変化させることで目標変速比を実現する。
【0030】
回転電機40と前後進切換え機構30との間には、回転電機40の周方向に沿って弧状に延伸するパイプ53と、前後進切換え機構30の回転電機40側を覆い、パイプ53を介して回転電機40と軸方向に対向する中間カバー31と、が設けられる。
【0031】
パイプ53は、中間カバー31の内部に設けられた油路と接続されており、中間カバー31を介して供給された油を回転電機40側に形成された複数の孔53aから回転電機40のステータ43に向けて噴出させるようになっている。これにより、回転電機40を効率よく冷却することができる。
【0032】
中間カバー31には、ブッシュ54を介してスプロケット55が回転自在に支持されている。スプロケット55は、接続部材56を介して回転電機40の回転軸44と接続されており、スプロケット55は、さらに、オイルポンプ6の入力軸6aに設けられたスプロケット6bとチェーン57で連結されている。これにより、回転電機40が回転すると、オイルポンプ6が駆動されて油圧コントロールバルブユニットに油が供給される。
【0033】
ブッシュ54及びスプロケット55は、径方向においてパイプ53とオーバーラップする位置に設けられる。「径方向にオーバーラップする」とは、径方向から見たときに少なくとも一部が重なるように配置されることを意味する。また、チェーン57は、弧状のパイプ53の一端と他端との間、すなわち、パイプ53の切欠き部を通るように配置される。これにより、動力伝達装置10の軸方向のサイズを抑制することができる。
【0034】
車両100は以上のように構成され、運転モードとして、バッテリから供給される電力によって回転電機40を駆動して回転電機40のみの駆動力によって走行するEVモードと、エンジン1のみの駆動力によって走行するエンジン走行モードと、エンジン1の駆動力と回転電機40の駆動力とによって走行するHEVモードと、を有する。
【0035】
EVモードでは、車両100は、クラッチ48を解放し、前進クラッチ30b及び後進ブレーキ30cのいずれか一方を締結した状態で、バッテリからの電力によって回転電機40のみを駆動して走行する。
【0036】
エンジン走行モードでは、車両100は、クラッチ48と、前進クラッチ30b及び後進ブレーキ30cのいずれか一方と、を締結した状態で、エンジン1のみを駆動して走行する。
【0037】
HEVモードでは、車両100は、クラッチ48と、前進クラッチ30b及び後進ブレーキ30cのいずれか一方と、を締結した状態で、エンジン1と回転電機40とを駆動して走行する。
【0038】
続いて、図2を参照しながら、回転電機40の構成について詳しく説明する。図2は、回転電機40の断面図である。
【0039】
図2に示すように、ハウジング41は、外周側に設けられた筒状部41aと、内周側に設けられてハウジング41の内側に向かって延びる筒状部41bと、を有する。筒状部41aの内周には、ステータ43が固定される。筒状部41bは、ベアリング51を介して回転軸44を回転自在に支持する。
【0040】
ハウジング41におけるパイプ53と対向する面には、周方向に沿って長穴状の開口部41cが形成されている。これにより、矢印で示すように、パイプ53の孔53aから噴出した油が、開口部41cを通ってステータコイル43aに直接吹き付けられる。なお、開口部41cの形状及び数は適宜設定可能である。
【0041】
カバー42は、外周側が動力伝達装置10のケース12に固定される。また、カバー42は、内周側に設けられてハウジング41の内側に向かって延びる筒状部42aを有する。筒状部42aは、カバー42と一体に構成してもよいし、別部材をカバー42に取り付けて構成してもよい。
【0042】
筒状部42aの外周には、回転センサ47が収容されたホルダ58が固定される。また、筒状部42aの内周は、ベアリング50を支持するとともに、ベアリング50を介して入力軸11を回転自在に支持する。
【0043】
ホルダ58は、内部に回転センサ47を保持する環状部58aと、環状部58aから径方向に延びる支持部58bと、支持部58bの先端に設けられた変換部58cと、を有する。
【0044】
回転センサ47と接続された電線70は、フィルム状部分70aと、ケーブル70bと、を有する。フィルム状部分70aとケーブル70bとは、変換部58c内で結線されている。
【0045】
フィルム状部分70aは、支持部58bに固定されたフレキシブルプリント基板70c上に設けられる。
【0046】
ホルダ58は、図2に示すように、環状部58aにカバー42の筒状部42aを挿入してカバー42に取り付けられる。
【0047】
筒状部42aの外周におけるホルダ58よりも先端側には、溝に固定されたリング71が環状部58aと軸方向にオーバーラップして設けられる。「軸方向にオーバーラップする」とは、軸方向から見たときに少なくとも一部が重なるように配置されることを意味する。そのため、ホルダ58は、筒状部42aの先端側への移動がリング71によって規制される。これにより、筒状部42aからホルダ58が脱落することを防止できる。
【0048】
筒状部42aと入力軸11との間には、外部への油の漏出を防止するためのシール部材59が設けられる。
【0049】
入力軸11と回転軸44との間には、軸方向の荷重を受けるニードルベアリング60と径方向の荷重を受けるニードルベアリング61と、が設けられる。
【0050】
入力軸11における前後進切換え機構30側の端部には、クラッチ48の第2回転要素としてのクラッチハブ62が溶接で固定される。クラッチハブ62は、外周側に設けられてエンジン1側に向かって延びる筒状部62aを有する。筒状部62aの外周には、スプライン結合によって軸方向に摺動自在にクラッチ48の複数のドライブプレート48aが取り付けられる。
【0051】
回転軸44の外周には、ロータフレーム81が溶接で固定される。ロータフレーム81は、外周側に設けられた筒状部81aを有する。筒状部81aの外周には、コア82が固定される。
【0052】
筒状部81aの内周には、スプライン嵌合によって軸方向に摺動自在にクラッチ48の複数のドリブンプレート48bが取り付けられる。つまり、本実施形態では、ロータフレーム81は、クラッチ48の第1回転要素としてのクラッチドラムを構成していると言える。
【0053】
このように、本実施形態では、ロータフレーム81は、回転電機40のロータ80を構成するとともにクラッチ48のクラッチドラムを構成する。当該ロータフレーム81の径方向内周側にクラッチハブ62が位置するため、クラッチ48はロータ80の内周側に位置すると言える。
【0054】
また、本実施形態では、ロータ80のロータフレーム81がクラッチ48の第1回転要素としてのクラッチドラムとしての機能を有することで、第1回転要素とロータとが一体に回転する構成を実現している。
【0055】
しかしながら、ロータフレーム81とは別に、ドリブンプレート48bが設けられるクラッチドラムを設け、当該クラッチドラムとロータフレーム81とが一体に回転する構成としてもよい。
【0056】
リテーナプレート63は、筒状部81aにおけるピストンアーム64とは反対側の端部に配置されたドリブンプレート48bと、筒状部81aの内周の溝に嵌合されて固定されたリング65との間にて、ロータフレーム81(筒状部81aの内周側)に嵌合されるとともに、リング65によって軸方向への移動が規制される。リテーナプレート63は、軸方向の厚みがドリブンプレート48bより厚く、ドライブプレート48a及びドリブンプレート48bの倒れを防止する。リング65は、例えばCリングなどのスナップリングである。
【0057】
油圧コントロールバルブユニットからピストン油室66に締結圧が供給されると、ピストン67がリターンスプリング68を圧縮しながらエンジン1側に向けて移動する。クラッチ48は、ニードルベアリング69及びピストンアーム64を介してピストン67から伝達される押圧力によって締結状態となる。
【0058】
なお、ニードルベアリング69は、ピストン67がピストンアーム64の回転に伴って連れ回ることを抑制している。
【0059】
また、ロータフレーム81には、マグネット52を保持する保持部材49が取り付けられる。保持部材49は、ロータ80(ロータフレーム81)が回転すると、それとともに一体に回転する。
【0060】
保持部材49は、外周側に設けられて前後進切換え機構30側に向かって軸方向に突出して延びる突起部としての圧入部49aと、内周側に設けられて前後進切換え機構30側に向かって軸方向に延びる筒状部49bと、圧入部49a及び筒状部49bを接続する対向部49cとを有する。保持部材49は、圧入部49aによって筒状部81aの外周側に圧入で固定されている。
【0061】
筒状部49bは、径方向におけるクラッチハブ62とホルダ58に保持された回転センサ47との間に位置しており、内周にマグネット52が取り付けられる。つまり、本実施形態では、回転センサ47、マグネット52、及び保持部材49の筒状部49bは、クラッチハブ62の内側のスペースに配置される。そして、図2に示すように、回転センサ47、マグネット52、保持部材49の筒状部49b、クラッチ48、及びロータ80は、径方向にオーバーラップしている。
【0062】
上記の配置は、言い換えれば、クラッチ48の第1回転要素としてのロータフレーム81の内周側にクラッチ48の第2回転要素としてのクラッチハブ62が位置し、クラッチハブ62の内周側にマグネット52が位置していると言える。もしくは、第2回転要素としてのクラッチハブ62が径方向においてマグネット52と第1回転要素としてのロータフレーム81(筒状部81a)との間に挟まれて配置されていると言える。
【0063】
対向部49cは、圧入部49a及び筒状部49bの基部であって、圧入部49a及び筒状部49bを接続する部位である。対向部49cは、クラッチ48と軸方向に対向する。
【0064】
なお、本実施形態では、保持部材49を独立した部材としているが、保持部材49をロータフレーム81またはクラッチハブ62と一体としてもよい。回転電機40の組立性を考慮すると、保持部材49は、本実施形態のように独立した部材とするのが好ましい。
【0065】
マグネット52は、筒状部49bの内周全面を覆う部材であって、図2に示すように、断面の長手方向が軸方向に延びる。そのため、マグネット52と回転センサ47とは、径方向に対向する。「径方向に対向する」とは、径方向から見たときに、マグネット52の回転センサ47側の面と回転センサ47のマグネット52側の面とが、少なくとも一部同士が互いに向き合うように配置されることを意味する。マグネット52は、筒状部49bの内周に沿って円環状に形成される1個の部材であってもよいし、筒状部49bの内周に複数個並べて円環状としてもよい。
【0066】
マグネット52は、ロータ80及び保持部材49が回転すると、それらと一体に回転する。換言すれば、マグネット52は、クラッチ48の第1回転要素としてのロータフレーム81と一体に回転する。マグネット52の内周側に配置される回転センサ47は、マグネット52の回転を検知することで、マグネット52と一体に回転する回転検知対象であるロータ80の回転を検知する。なお、ドリブンプレート48b、リテーナプレート63、リング65等のクラッチ48の外周側回転要素もマグネット52及びロータ80とともに回転するため、これらの回転についても回転センサ47は検知すると言える。つまり、回転センサ47は、これらクラッチ48の外周側回転要素を検知するセンサである。ロータ80及び保持部材49もクラッチ48の外周側回転要素であると言える。
【0067】
以下、本実施形態の動力伝達装置10の構成及び作用効果についてまとめて説明する。
【0068】
本実施形態の動力伝達装置10は、第1回転要素としてのクラッチドラム(ロータフレーム81)と、第2回転要素(クラッチハブ62)と、を有するクラッチ48と、ロータフレーム81と一体に回転するマグネット52と、マグネット52を被検知部とする回転センサ47と、を備え、マグネット52と回転センサ47とが径方向に対向配置される。
【0069】
回転センサ47による回転電機40の回転速度及び角度(位相)のセンシング精度は、マグネット52と回転センサ47との距離によって変動する可能性がある。すなわち、マグネット52と回転センサ47との距離が変動すると、回転センサ47のセンシング精度も変動する可能性がある。
【0070】
ここで、マグネット52と回転センサ47とが軸方向に対向する場合(例えば、マグネット52が対向部49cに位置するとともに、回転センサ47が支持部58bに位置する場合)を検討する。この場合、マグネット52の位置が軸方向に変動すると、マグネット52と回転センサ47との距離が変動するため、回転センサ47のセンシング精度も変動する可能性がある。なお、マグネット52の位置が軸方向に変動する場合とは、保持部材49が軸方向に変動する場合であって、保持部材49が軸方向に変動する要因とは、例えば以下の要因がある。
1.ピストン67からニードルベアリング69及びピストンアーム64を介してクラッチ48へ伝達される押圧力
2.ドライブプレート48aやドリブンプレート48b等を軸方向に離間するよう作用するクラッチ48内の潤滑油の遠心油圧
3.保持部材49の対向部49cに作用するクラッチ48内の潤滑油の遠心油圧
【0071】
対して、本実施形態の動力伝達装置10では、マグネット52の内周に回転センサ47を配置させ、マグネット52と回転センサ47とを径方向に対向配置させる。すなわち、マグネット52が軸方向に延びるように配置されるので、マグネット52の位置が軸方向に変動しても、マグネット52と回転センサ47との距離の変動を抑制することができる。すなわち、マグネット52の位置が軸方向に変動した場合の、回転センサ47のセンシング精度の変動を抑制することができる(請求項1に対応する効果)。
【0072】
また、クラッチ48の第2回転要素(クラッチハブ62)は、マグネット52とクラッチ48の第1回転要素(ロータフレーム81)との間に配置される。
【0073】
本実施形態の動力伝達装置10によれば、図2に示すように、径方向においてマグネット52と第1回転要素(ロータフレーム81)との間に挟まれて第2回転要素(クラッチハブ62)が位置することで、マグネット52とクラッチ48とが径方向にオーバーラップする。これによれば、動力伝達装置10を軸方向にダウンサイジングすることができる(請求項2に対応する効果)。なお、第2回転要素であるクラッチハブの筒状部が、径方向において、マグネットと第1回転要素であるロータの筒状部との間に位置すれば「第2回転要素は、マグネットと第1回転要素との間に配置される」と言える。
【0074】
また、動力伝達装置10は、クラッチ48の第1回転要素(ロータフレーム81)と一体に回転するロータ80を有する回転電機40と、クラッチ48の第1回転要素(ロータフレーム81)に固定された保持部材49と、をさらに備え、マグネット52は保持部材49に設けられる。
【0075】
マグネット52は、軸方向揺れがしにくい回転電機40のロータ80に保持部材49を介して固定される。これにより、マグネット52が軸方向に変動することが抑制される。そのため、マグネット52と回転センサ47との距離の変動を抑制することができ、回転センサ47のセンシング精度の変動を抑制することができる(請求項3に対応する効果)。なお、本実施形態では、保持部材49を独立した部材としているが、保持部材49をクラッチ48の一部あるいはロータ80の一部と一体としてもよい。回転電機40の組立性を考慮すると、保持部材49は、独立した部材とするのが好ましい。
【0076】
また、保持部材49は、軸方向に突出する圧入部49aを有し、圧入部49aを圧入することで固定される。
【0077】
圧入固定用の圧入部49aを設けることで、圧入部49aを設けずに保持部材49を圧入する場合(例えば、保持部材49に圧入固定用の凹部を設ける場合)と比べて、保持部材49全体を分厚くする必要がなくなる。これにより、保持部材49の厚さを減らすことができる分だけ、動力伝達装置10を軸方向に短縮することができる(請求項5に対応する効果)。
【0078】
また、本実施形態の動力伝達装置10では、ロータフレーム81の内周側にクラッチハブ62が位置し、クラッチハブ62の内周側にマグネット52が位置する。
【0079】
クラッチ48の外周側回転要素の回転の検知を行うにあたっては、検知対象の近傍に回転センサ47を配置する従来の方法を採用することも考えられる。しかしながら、当該方法を採用した場合ではマグネット52の周長を短くすることが難しい。
【0080】
対して、本実施形態の動力伝達装置10では、クラッチ48の外周側回転要素であるとともにクラッチ48の第1回転要素でもあるロータフレーム81と一体に回転するマグネット52がクラッチハブ62の筒状部62aの内周側に位置する。これにより、外周側回転要素及び第1回転要素の回転を検知可能な構成でありつつ、マグネット52の周長を短くすることができる。つまり、マグネット52の使用総量を減らすことができ、動力伝達装置10の製造コストを削減することができる(請求項6に対応する効果)。なお、本実施形態ではロータ80(ロータフレーム81、コア82)、ドリブンプレート48b、保持部材49、マグネット52、リテーナプレート63、リング65は外周側回転要素である。また、第2回転要素であるクラッチハブの筒状部が第1回転要素であるロータの筒状部よりも径方向において内側に位置すれば、「第1回転要素の内周側に第2回転要素が位置」していると言える。マグネットが第2回転要素であるクラッチハブの筒状部よりも径方向において内側に位置すれば、「第2回転要素の内周側にマグネットが位置」していると言える。
【0081】
(第2、第3の実施形態)
以下、図3および図4を参照して、本発明の第2の実施形態に係る動力伝達装置210および本発明の第3の実施形態に係る動力伝達装置310について説明する。図3は、動力伝達装置210が備える回転電機240の断面図である。図4は、動力伝達装置310が備える回転電機340の断面図である。以下に示す実施形態では、第1の実施形態と異なる点を中心に説明し、同様の機能を有する構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0082】
動力伝達装置210は、保持部材249を、リテーナプレート63に固定する点で、第1の実施形態に係る動力伝達装置10とは相違する。
【0083】
保持部材249は、外周側に設けられた圧入部249aと、内周側にマグネット52が設けられる筒状部249bと、圧入部249a及び筒状部249bを接続する対向部249cとを有する。保持部材249は、圧入部249aによってリテーナプレート63の内周側に圧入で固定されている。
【0084】
動力伝達装置310は、保持部材349をリテーナプレート63に溶接固定する点で、第1及び第2の実施形態とは相違する。
【0085】
保持部材349は、内周側にマグネット52が設けられる筒状部349bと、筒状部349bの基部であってクラッチ48と軸方向に対向する対向部349cと、を有する。保持部材349は、対向部349cがリテーナプレート63の対向部349c側の面に溶接によって固定されることで固定される。
【0086】
以上の第2、第3の実施形態の構成及び作用効果について、まとめて説明する。
【0087】
本実施形態の動力伝達装置210、310は、ロータフレーム81の筒状部81aに嵌合されるリング65と、ロータフレーム81の筒状部81aに嵌合され、リング65に隣接配置されるリテーナプレート63と、リテーナプレート63に固定された保持部材249、349と、をさらに備え、マグネット52は保持部材249、349に設けられる。
【0088】
この構成によれば、リテーナプレート63に隣接して配置されるリング65によってリテーナプレート63の軸方向への変動が抑制されるため、リテーナプレート63に固定される保持部材249、349や保持部材249、349に設けられるマグネット52も、軸方向への変動が抑制される。そのため、マグネット52と回転センサ47との距離の変動を抑制することができ、回転センサ47のセンシング精度の変動を抑制することができる(請求項4に対応する効果)。また、第2の実施形態のように圧入固定用の圧入部249aを設ける場合では、圧入部249aを設けずに保持部材249を圧入固定する場合(例えば、保持部材249に圧入固定用の凹部を設ける場合)と比べて、保持部材249全体を分厚くする必要がなくなる。これにより、保持部材249の厚さを減らすことができる分だけ、動力伝達装置210を軸方向に短縮することができる(請求項5に対応する効果)。なお、本実施形態では、保持部材249、349は、リテーナプレート63と一体にしてもよい。回転電機240、340の組立性を考慮すると、保持部材249、349は、独立した部材とするのが好ましい。
【0089】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一つを示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0090】
例えば、上記実施形態では、動力伝達装置10が変速機である場合について説明した。しかしながら、動力伝達装置10は、減速機、モータ付変速機、モータ付減速機等であってもよい。
【符号の説明】
【0091】
10、210、310 動力伝達装置
40、240、340 回転電機
47 回転センサ
48 クラッチ
49、249、349 保持部材
49a、249a 圧入部(突起部)
52 マグネット
62 クラッチハブ(第2回転要素)
63 リテーナプレート
65 リング(スナップリング)
80 ロータ
81 ロータフレーム(第1回転要素)
図1
図2
図3
図4