(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】流体間の熱交換ができる装置およびその製法
(51)【国際特許分類】
F28D 7/00 20060101AFI20231122BHJP
B01J 19/00 20060101ALI20231122BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20231122BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20231122BHJP
B81B 1/00 20060101ALI20231122BHJP
B81C 99/00 20100101ALI20231122BHJP
C07C 1/12 20060101ALI20231122BHJP
C07C 9/04 20060101ALI20231122BHJP
C10L 3/08 20060101ALI20231122BHJP
F28F 1/04 20060101ALI20231122BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20231122BHJP
【FI】
F28D7/00 Z
B01J19/00 321
B33Y30/00
B33Y70/00
B81B1/00
B81C99/00
C07C1/12
C07C9/04
C10L3/08
F28F1/04
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020043207
(22)【出願日】2020-03-12
【審査請求日】2022-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109508
【氏名又は名称】菊間 忠之
(72)【発明者】
【氏名】横山 公一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 郷紀
(72)【発明者】
【氏名】谷岡 忠輝
【審査官】礒部 賢
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-141541(JP,A)
【文献】特開2019-095186(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0170750(US,A1)
【文献】特開2017-048397(JP,A)
【文献】特開2002-104811(JP,A)
【文献】特開2012-167070(JP,A)
【文献】特開昭53-020146(JP,A)
【文献】国際公開第2018/117949(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0205149(US,A1)
【文献】国際公開第2018/160389(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 1/00 - 13/00
F28F 1/00 - 99/00
C07B 61/00
C07C 1/12
C07C 9/04
B01J 19/00
B81B 1/00 - 7/04
B81C 1/00 - 99/00
B33Y 10/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ひと塊の金属製立体物を含有してなり、
該金属製立体物は、
第一スリット入口と第一スリット出口とを有する第一スリットチャネルを
複数、
第二スリット入口と第二スリット出口とを有する第二スリットチャネルを
複数、
および
第二スリット入口への第二入口マニホールドを複数、
具備し、
第一スリットチャネルと第二スリットチャネルとが、スリットの幅方向が
相互に平行であるように
且つ第一スリットチャネルを流れる流体の流れ方向と第二スリットチャネルを流れる流体の流れ方向とが交わるように、配置され、且つ
複数の第二入口マニホールドは第一スリットチャネルを流れる流体の流れ方向に沿って並んで配置され、
第一スリット入口および第一スリット出口が第二スリット入口および第二スリット出口とそれぞれ区別されてい
て、第一スリットチャネルを流れる流体と第二スリットチャネルを流れる流体とが接触混合しない、
構造を有し、且つ
第一スリットチャネルに触媒が置かれており、第一スリットチャネルを流れる流体において化学反応ができ且つ第一スリットチャネルを流れる流体と第二スリットチャネルを流れる流体との間で熱交換ができる機構を有する、
化学反応用の装置。
【請求項2】
第二スリット出口からの第二出口マニホールドをさらに具備する、請求項
1に記載の装置。
【請求項3】
第一スリット入口と第一スリット出口とを有する第一スリットチャネルを
複数、第二スリット入口と第二スリット出口とを有する第二スリットチャネルを
複数、
および第二スリット入口への第二入口マニホールドを複数、具備し、第一スリットチャネルと第二スリットチャネルとが、スリットの幅方向が
相互に平行であるように
且つ第一スリットチャネルを流れる流体の流れ方向と第二スリットチャネルを流れる流体の流れ方向とが交わるように、配置され、且つ
複数の第二入口マニホールドは第一スリットチャネルを流れる流体の流れ方向に沿って並んで配置され、第一スリット入口および第一スリット出口が第二スリット入口および第二スリット出口とそれぞれ区別されて
おり、第一スリットチャネルを流れる流体と第二スリットチャネルを流れる流体とが接触混合しない、構造を有する装置の3Dデータに基づいて、その断面形状を積層していくことで、前記構造を有するひと塊の金属製立体物を形成することを含む、
第一スリットチャネルを流れる流体と第二スリットチャネルを流れる流体との間で熱交換ができる機構を有する装置を製造する方法。
【請求項4】
装置は、第二スリット出口からの第二出口マニホールドをさらに具備する、請求項
3に記載の方法。
【請求項5】
金属製立体物の形成を、パウダーベッド方式またはメタルデポジッション方式で行う、請求項
3または4に記載の方法。
【請求項6】
金属製立体物の形成を、レーザビーム方式、電子ビーム方式またはアーク放電方式で行う、請求項
3~
5のいずれかひとつに記載の方法。
【請求項7】
請求項1
または2に記載の装置において
CO
2とH
2を含むガスを第一スリット入口にて第一スリットチャネルに導入し、第一スリットチャネル内でCO
2の還元反応をさせ、且つ生成ガスを第一スリット出口にて第一スリットチャネルから排出し、
伝熱媒体を、第二スリット入口にて第二スリットチャネルに導入し、第二スリットチャネル内を流し、且つ第二スリット出口にて第二スリットチャネルから排出して、第一スリットチャネルを流れる気体の温度を制御することを含む、CO、メタノールまたはメタンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体間の熱交換ができる装置およびその製法に関する。より詳細に、本発明は、熱交換器、化学反応器などに好適で、且つ構成部品数の少ない、流体間の熱交換ができる装置およびその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロチャネル熱交換器やマイクロチャネル反応器が既に種々提案されている。
例えば、特許文献1は、対向するシムシートの間に挟まれて該シムシートに取り付けられ、1対の直線的な側壁と該対向シムシートの少なくとも一方によって形成された上部壁とを各々が含む一連のマイクロチャネルを形成する波形インサートと、前記波形インサートと熱的に連通した第1の組のマイクロチャネルと、を含むことを特徴とする、統合マイクロチャネル反応器及び熱交換器を開示している。
【0003】
特許文献2は、高温流体の流路が設けられた複数の高温流路層と低温流体の流路が設けられた複数の低温流路層とが交互に積層されて形成された流路層積層体と、前記高温流体の入口および出口と、前記低温流体の入口および出口を有する熱交換器本体と、前記熱交換器本体の積層方向に固定され、前記高温流体の入口および出口と前記低温流体の入口および出口の各々の近傍に感知点が配置されるように前記熱交換器本体の前記積層方向に挿入される複数の温度センサーを少なくとも搭載するプリント基板とを具備することを特徴とする、マイクロ流路熱交換器を開示している。
【0004】
特許文献3は、第一マイクロチャネル入口と第一マイクロチャネル出口とを有する第一マイクロチャネル、第二マイクロチャネル入口と第二マイクロチャネル出口とを有する第二マイクロチャネル、および第三マイクロチャネル入口と第三マイクロチャネル出口とを有する第三マイクロチャネルを有し、各マイクロチャネル入口と各マイクロチャネル出口が他のマイクロチャネル入口または他のマイクロチャネル出口と区別されている、熱交換器を開示している。
【0005】
特許文献4は、セラミックスの隔壁により仕切られて一方の端面から他方の端面まで軸方向に貫通し、第一の流体である加熱体が流通する複数のセルを有するハニカム構造の第一流体流通部と、セラミックスの隔壁により仕切られて軸方向と直交する方向に貫通し、前記第一流体流通部と前記隔壁によって隔たれて熱伝導可能とされており、第二の流体が流通し、前記第一流体流通部を流通する前記第一の流体の熱を前記隔壁を介して受け取り、流通する前記第二の流体である被加熱体へ熱を伝達するためのセルを有する第二流体流通部とが、交互に複数一体として形成され、前記第一流体流通部側の前記セルが前記第二流体流通部側の前記セルより小さく、前記隔壁の密度が0.5~5g/cm3、かつ前記隔壁の熱伝導率が10~300W/mKである熱交換体を備え、前記第一流体流通部の壁面に触媒が担持されているセラミックス熱交換器を開示している。
【0006】
特許文献5は、水素を含む気体を複数のプロセスマイクロチャネルの中へ少なくとも1秒あたり0.01メートルの空塔速度で流し、フィッシャー・トロプシュ合成生成物を含む液体を前記複数のプロセスマイクロチャネルの中へ流し、前記複数のプロセスマイクロチャネルは水素化分解触媒を含み、前記液体は前記水素化触媒の少なくとも一部上に膜を形成し、前記気体は前記液体に接触し、前記水素が前記水素化分解触媒の存在の下で前記フィッシャー・トロプシュ合成生成物と反応することで、水素化分解されたフィッシャー・トロプシュ合成生成物を形成させるステップであって、前記水素化分解されたフィッシャー・トロプシュ合成生成物は5 つ以上の炭素原子を有する1つ以上の直鎖脂肪族炭化水素を含むステップ、および前記水素化分解されたフィッシャー・トロプシュ合成生成物を前記複数のプロセスマイクロチャネルから取り出すステップを含み、前記熱は、前記複数のプロセスマイクロチャネルから熱交換器へ移動する、前記複数のプロセスマイクロチャネルを含むマイクロチャネル反応器内でフィッシャー・トロプシュ合成生成物を水素化分解するプロセスを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-27867号公報
【文献】特開2017-53543号公報
【文献】US 2004/0031592 A
【文献】特開2010-271031号公報
【文献】特開2017-48397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、熱交換器、化学反応器などに好適で、且つ構成部品数の少ない、流体間の熱交換ができる装置およびその製法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために以下の形態を包含する本発明を完成するに至った。
【0010】
〔1〕 ひと塊の金属製立体物を含有してなり、
該金属製立体物は、
第一スリット入口と第一スリット出口とを有する第一スリットチャネルを少なくとも一つ、および
第二スリット入口と第二スリット出口とを有する第二スリットチャネルを少なくとも一つ、具備し、
第一スリットチャネルと第二スリットチャネルとが、スリットの幅方向が平行であるように、配置され、且つ
第一スリット入口および第一スリット出口が第二スリット入口および第二スリット出口とそれぞれ区別されている、
構造を有し、且つ
第一スリットチャネルを流れる流体と第二スリットチャネルを流れる流体との間で熱交換ができる機構を有する、
装置。
【0011】
〔2〕 第二スリット入口への第二入口マニホールドをさらに具備する、〔1〕に記載の装置。
〔3〕 第二スリット出口からの第二出口マニホールドをさらに具備する、〔1〕または〔2〕に記載の装置。
【0012】
〔4〕 第一スリットチャネルに触媒が置かれている、〔1〕~〔3〕のいずれかひとつに記載の装置。
【0013】
〔5〕 第一スリット入口と第一スリット出口とを有する第一スリットチャネルを少なくとも一つ、および第二スリット入口と第二スリット出口とを有する第二スリットチャネルを少なくとも一つ、具備し、第一スリットチャネルと第二スリットチャネルとが、スリットの幅方向が平行であるように、配置され、且つ第一スリット入口および第一スリット出口が第二スリット入口および第二スリット出口とそれぞれ区別されている、構造を有する装置の3Dデータに基づいて、その断面形状を積層していくことで、前記構造を有するひと塊の金属製立体物を形成することを含む、
第一スリットチャネルを流れる流体と第二スリットチャネルを流れる流体との間で熱交換ができる機構を有する装置を製造する方法。
【0014】
〔6〕 装置は、第二スリット入口への第二入口マニホールドをさらに具備する、〔5〕に記載の方法。
〔7〕 装置は、第二スリット出口からの第二出口マニホールドをさらに具備する、〔5〕または〔6〕に記載の方法。
【0015】
〔8〕 金属製立体物の形成を、パウダーベッド方式またはメタルデポジッション方式で行う、〔5〕~〔7〕のいずれかひとつに記載の方法。
〔9〕 金属製立体物の形成を、レーザビーム方式、電子ビーム方式またはアーク放電方式で行う、〔5〕~〔8〕のいずれかひとつに記載の方法。
【0016】
〔10〕 前記〔1〕~〔4〕のいずれかひとつに記載の装置において
CO2とH2を含むガスを第一スリット入口にて第一スリットチャネルに導入し、第一スリットチャネル内でCO2の還元反応をさせ、且つ生成ガスを第一スリット出口にて第一スリットチャネルから排出し、
伝熱媒体を、第二スリット入口にて第二スリットチャネルに導入し、第二スリットチャネル内を流し、且つ第二スリット出口にて第二スリットチャネルから排出して、第一スリットチャネルを流れる気体の温度を制御することを含む、CO、メタノールまたはメタンの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の装置は、構成部品数が少なく、触媒交換が容易で、且つ装置内の温度分布を均一化できる。本発明の装置は、CO2を利用してメタンガスおよび水を生成する反応などに用いられる反応器に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の装置に有する金属製立体物100を示す斜視図である。
【
図2】金属製立体物100への流体の流入および流出の態様を示す斜視図である。
【
図3】本発明の装置に有する金属製立体物101を示す斜視図である。
【
図4】金属製立体物101の一部を破壊し内部構造を広画角で示す図である。
【
図5】比較例1で使用した装置を示す軸方向断面(a)および半径方向断面(b)を示す図である。
【
図6】実施例1で使用した装置と比較例1で使用した装置におけるガス流れ方向の温度分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図面を参照しながら本発明を説明する。ただし、本発明は図面に示した態様のものに限定されない。
【0020】
本発明の装置は、ひと塊の金属製立体物を含有してなる。立体物に用いられる金属材料は、積層造形(3Dプリンティング)または付加製造(Additive manufacturing)と呼ばれる金属加工法で用いることができるものであれば、特に制限されない。例えば、マルエージング鋼、純鉄、鉄合金、ステンレス鋼などの鉄鋼系金属材料、ダイカスト材などのアルミニウム系金属材料、TiAl6V4などのチタン系金属材料、Ni5Cr18Mo5などのインコネル系金属材料、純銅、銅合金などの銅系金属材料、コバルト合金、クロム合金、ニッケル合金などを挙げることができる。
【0021】
図1に示す本発明の装置に含有する金属製立体物100は、少なくとも一つの、好ましくは複数の第一スリットチャネルと、少なくとも一つの、好ましくは複数の第二スリットチャネルとを具備する。第一スリットチャネルと第二スリットチャネルとは同数であってもよいし、第二スリットチャネルの数が第一スリットチャネルの数よりも一つ多くてもまたは一つ少なくてもよい。
【0022】
第一スリットチャネルは、第一スリット入口10と第一スリット出口とを有する。第二スリットチャネルは、第二スリット入口と第二スリット出口20とを有する。そして、第一スリットチャネルと第二スリットチャネルとが、スリットの幅方向が平行であるように、好ましくは交互に、配置されている。第一スリットチャネルと第二スリットチャネルとの間に壁が在り、両チャネルは壁によって区切られていることが好ましい。第一スリットチャネルと第二スリットチャネルとは、相互に連通していないことが好ましい。そして、第一スリットチャネルを流れる流体(FluidA)と第二スリットチャネルを流れる流体(FluidB)との間で熱交換ができる。
【0023】
第一スリット入口および第一スリット出口は第二スリット入口および第二スリット出口とそれぞれ区別されている。
図1に示すように、面Aに第一スリット入口10が在り、面Aに対向する面A’(
図1中、隠れて見えない。)に第一スリット出口が在り、そして、面Aに直交する面B(
図1中、隠れて見えない。)に第二スリット入口が在り、面Bに対向する面B’に第一スリット出口20が在る。面Aに別の方向で直交する面Cおよび面Cに対抗する面C’(
図1中、隠れて見えない。)は壁だけが在る。なお、図示していない第一スリット出口および第二スリット入口は、図示している第一スリット入口および第二スリット出口と同様の形態を成していることができる。
【0024】
そして、
図2に示すように、管15が第一スリット入口側に取り付けられ、管16が第一スリット出口側に取り付けられ、管25が第二スリット入口側に取り付けられ、管26が第二スリット出口側に取り付けられ、管15、16と管25、26とによって流体(FluidA)と流体(FluidB)とが接触混合しないようになっている。なお、
図2中、管15、16、25、26は金属製立体物100を示すために破線で描いている。
【0025】
第一スリットチャネルおよび第二スリットチャネルにおいて、スリットの幅(短辺の長さ)に対するスリットの長さ(長辺の長さ)の比率は特に制限されない。例えば、スリットの幅に対するスリットの長さの比率を5~10000などにすることができる。この比率が1に近く且つ断面の面積が大きいチャネルは、造形(具体的には、オーバーハング部の造形)のために、チャネル内にオーバーハング部を支えるためのサポート部を設ける必要が生じるかもしれない。チャネル内に設けたサポート部は造形完了後に取り除く手間を若干要するかもしれない。
【0026】
本発明の装置に含有する金属製立体物は、第二スリット入口への第二入口マニホールドまたは/および第一スリット入口への第一入口マニホールドをさらに具備することができる。本発明の装置に含有する金属製立体物は、第二スリット出口からの第二出口マニホールドまたは/および第一スリット出口からの第一出口マニホールドをさらに具備することができる。入口マニホールドまたは出口マニホールドを設けることによって、各スリットチャネルに流入する流体の量または各スリットチャネルから流出する流体の量を、均一にしたり、偏らせたりするなどの、制御を容易ならしめることができる。
【0027】
図3および4に示す本発明の装置に含有する金属製立体物101は、第二スリット入口への第二入口マニホールド(
図4中、隠れて見えない。)と、第二スリット出口20からの第二出口マニホールド31を具備している。隠れて見えない第二入口マニホールドは、第二出口マニホールド31と同様の構造とすることができる。
図3および4において、各マニホールドの入口または出口30は丸穴形状を成しているが、これに限定されない。また、
図4に示す金属製立体物101においては、2つの第二スリット入口または2つの第二スリット出口20に対して1つの第二入口マニホールドまたは一つの第二出口マニホールド31が設けられているが、これに限定されない。
【0028】
図4に示す金属製立体物101においては、縦に並んだ複数の丸穴は一つのマニホールドに連通しているが、該一つのマニホールドを仕切によって丸穴の数と同じ数に分割し、縦に並んだ複数の丸穴を分割された独立したマニホールドのそれぞれに連通するようにしてもよい。第一スリットチャネルの流れ方向(
図4中、縦方向)に独立したマニホールドを複数設けることによって、第一スリットチャネルの流れ方向の温度分布を、独立したマニホールドのそれぞれに供給する冷媒または熱媒の流量などによって、高精度に制御することができる。これにより、触媒層に発生することがあるホットスポットを、より効率的に、小さくまたは無くすることができる。流量の制御は丸穴等に可変弁を設けるなどして行うことができる。
【0029】
また、
図4に示す金属製立体物101においては、横に並んだ複数の丸穴は分割された丸穴と同数の独立したマニホールドのそれぞれに連通しているが、仕切を取り払い、分割されていたマニホールドを一つのマニホールドにして、横に並んだ複数の丸穴を結合された一つのマニホールドに連通するようにしてもよい。
なお、第一スリット入口への第一入口マニホールドおよび/または第一スリット出口からの第一出口マニホールドは、前述したような、第二スリット入口への第二入口マニホールドおよび/または第二スリット出口からの第二出口マニホールドの構造と、同様な構造とすることができる。
【0030】
本発明の装置は、第一スリットチャネル11に触媒が置かれていてもよい。触媒としては、粉末、顆粒、ペレット、平板、波板、コルゲート、ハニカムなどの形状のものを適宜用いることができる。触媒は、チャネル内に充填してもよいし、チャネルの内壁に付着させてもよい。
触媒は、本発明の装置において行われる化学反応に応じて、適宜、選択することができる。例えば、二酸化炭素のメタン化反応においては、Ni/ZrO2,Ni/Al2O3などのNi担持触媒、白金族金属系触媒、その他の貴金属系触媒等などを用いることができる。
【0031】
本発明の装置を製造する方法は、3Dデータに基づいて、その断面形状を積層していくことでひと塊の金属製立体物を形成することを含む。
3Dデータは、第一スリット入口と第一スリット出口とを有する第一スリットチャネルを少なくとも一つ、好ましくは複数、および第二スリット入口と第二スリット出口とを有する第二スリットチャネルを少なくとも一つ、好ましくは複数、具備し、第一スリットチャネルと第二スリットチャネルとが、スリットの幅方向が平行であるように、好ましくは交互に、配置され、各第一スリット入口および各第一スリット出口が各第二スリット入口および各第二スリット出口と区別されている、構造を有する装置の3D形状データであってもよい。3DCADにて装置の3D形状データを設計することができる。3Dデータは、3D形状データを変換して得られる、例えば、STL(Stereolithography)データであってもよい。STLデータは、3次元の立体形状を小さな三角形(ポリゴン)の集合体で表現するものである。
【0032】
断面形状の積層による金属製立体物の形成(造形)は、パウダーベッドフュージョン(PBF)法、メタルデポジッション法、材料押出堆積(FDM)法、液体金属インクジェット法、バインダージェット法、PBFによる積層造形中に切削を行うハイブリッド法などで行うことができる。これらのうち、パウダーベッドフュージョン(PBF)法、またはメタルデポジッション法が好ましい。
【0033】
パウダーベッドフュージョン法は、金属粉末を敷き詰め、熱源となるレーザや電子ビームで造形する部分を溶融・凝固させる方法である。金属粉末を敷き詰め、溶融・凝固を繰り返すことで造形する。造形終了後には、固化していない粉末を取り除いて造形物を取り出す。
パウダーベッドフュージョン法には、レーザビーム熱源方式、電子ビーム熱源方式などがある。
【0034】
パウダーベッド・レーザビーム熱源方式は、敷き詰められた金属粉材料にレーザビームを照射して、溶融・凝固または焼結させて積層造形する。レーザビーム熱源方式は、通常、窒素などの不活性雰囲気中で溶融凝固がなされる。レーザビーム熱源方式はレーザを照射する際の位置決めをミラーの角度を変えて行う。
【0035】
パウダーベッド・電子ビーム熱源方式は、敷き詰められた金属粉材料に電子ビームを高真空中で照射し衝突させることで、運動エネルギーを熱に変換し粉末を溶融させる電子ビーム熱源方式は、通常、真空中で溶融凝固がなされる。電子ビーム熱源方式は、磁界によるレンズを用いて電子ビームの向きを変える。その結果、電子ビーム熱源方式は、高速な位置決めが可能である。
【0036】
メタルデポジッション方法は、溶融した金属材料を所定の場所に積層・凝固させて造形する方法である。メタルデポジッション方法は、造形終了後のパウダー除去の作業を要しない。
メタルデポジッション方法には、金属粉末を材料とするレーザビーム熱源方式、合金ワイヤーを材料とするアーク放電方式などがある。
【0037】
メタルデポジッション・レーザビーム熱源方式は、ノズルから金属パウダーを噴射すると同時にレーザ光を照射することで金属パウダーを溶融池に供給、凝固させて造形を行う。溶融ノズルまたはステージを移動させることによって立体形状を描く。金属粉の供給経路を切り替えることで、異種金属の造形ができる。レーザ出力が大きいので高速造形ができる。
【0038】
メタルデポジッション・アーク放電方式は、金属ワイヤー先端のアーク放電により金属ワイヤーを溶融し、これを積層することによって造形する。装置価格や材料費が比較的安く、高速造形ができる。
【0039】
本発明の装置を製造する方法においては、造形の後、応力緩和、強度向上などのために、熱処理することができる。熱処理における、温度、時間、雰囲気などの条件は、使用する金属材料などに応じて適宜設定できる。
【0040】
本発明のCO(一酸化炭素)、メタノールまたはメタンの製造方法は、本発明の装置において、CO2(二酸化炭素)とH2(水素)を含むガスを、第一スリット入口にて第一スリットチャネルに導入し、第一スリットチャネルに流し、且つ第一スリットチャネルから第一スリット出口にて排出し、伝熱媒体を、第二スリット入口にて第二スリットチャネルに導入し、第二スリットチャネルに流し、且つ第二スリットチャネルから第二スリット出口にて排出して、第一スリットチャネルを流れる気体の温度を制御しながら、CO2を還元反応させることを含む。
流入させるCO2とH2を含むガスの量は、各チャネルにおいて同じであってもよいし、異なってよい。流入させるCO2とH2を含むガスの総量は、反応速度、チャネルの容量などに応じて、適宜設定できる。
CO2とH2との比率によって、CO2の還元反応は次のように進行する。
CO2 + H2 → CO + H2O
CO2 + 3H2 → CH3OH + H2O
CO2 + 4H2 → CH4 + 2H2O
【0041】
伝熱媒体は、所望の化学反応を行うための温度範囲において変質せず、流動性を維持できるものであれば、特に限定されない。伝熱媒体の具体例としては、グリセリン、ポリグリコールなどの多価アルコール類; アニソール、ジフェニルエーテル、フェノールなどのフェノ-ルおよびフェノール性エーテル; ターフェニルなどのポリフェニル類、o-ジクロルベンゼン、ポリクロルポリフェニルなどの塩素化ベンゼンおよびポリフェニル; テトラアリルケイ酸塩などのケイ酸エステル類; ナフタレン誘導体、鉱油などの分留タールおよび石油類; 硝酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、硝酸カリウムなどの硝酸塩および亜硝酸塩(Heat Transfer Salt); シリコーン類; フッ素化合物; グリコール類; Na金属、K金属、Pb金属、Pb-Bi共融混合物、Na-K合金などの融解金属および合金; などを挙げることができる。
【0042】
本発明の装置は、CO2(二酸化炭素)とH2(水素)を含むガスからCO(一酸化炭素)、メタノールまたはメタンを製造する方法以外のC1化学合成法などにも用いることができる。C1化学合成法として、例えば、メタンと水(水蒸気)との反応で一酸化炭素と水素とを製造する方法、メタンと二酸化炭素との反応で一酸化炭素と水素とを製造する方法、一酸化炭素と水との反応で二酸化炭素と水素とを製造する方法、メタンと水との反応で二酸化炭素と水素とを製造する方法、一酸化炭素と水素との反応でメタンと二酸化炭素を製造する方法、一酸化炭素と水素との反応でメタノールを製造する方法、一酸化炭素と水素との反応でアセトンと水を製造する方法、メタンと酸素との反応で一酸化炭素と水素、エチレンと水、またはメタノールを製造する方法などを挙げることができる。
【0043】
本発明においては、CO2の還元反応により得られる生成物(CO(一酸化炭素)、メタノールまたはメタン)ならびに未反応物(主にCO2)を、分離精製することができる。分離精製法としては、膜分離法、吸着分離法、吸収分離法、蒸留分離法、深冷分離法等を挙げることができる。メタンの分離精製においては、膜分離法が、分離選択性、分離速度、安価でコンパクトな設備という観点から好ましい。
メタンの分離精製において、残された未反応物(主にCO2)と低濃度のメタンは、上記メタンの製造方法における原料ガスとして使用することができる。
【0044】
また、分離精製によって得られたメタンを燃料としてガスタービンに供給することができる。このガスタービンにより発電することができる。
ガスタービンからの燃焼排ガスは、通常、二酸化炭素を含むので、これを上記メタンの製造方法における原料ガスとして使用することができる。
【0045】
(実施例1)
図3に示すような、9個の第一スリットチャネルと10個の第二スリットチャネルを有する金属製立体物101を用意した。第一スリットチャネルは、第一スリット入口10が、短辺の長さ3mmで、且つ長辺の長さ60mmであり、第一スリット入口から第一スリット出口までそのサイズにて連通しており、第一スリットチャネル11の流れ方向長さが65mmである。第二スリットチャネルは、第二スリット入口20が、短辺の長さ3mmで、且つ長辺の長さ65mmであり、第二スリット入口から第二スリット出口までそのサイズにて連通しており、第二スリットチャネル21の流れ方向長さが60mmである。
Ni/Al
2O
3系触媒(METH134、クラリアント社製,粒状,粒径2~6mm)を、粉砕し、1mm以上2mm以下の粒度にふるい分けした。これを第一スリットチャネルに充填した。
第一スリットチャネルに、二酸化炭素(以下,CO
2という。純度99.9容積%以上)と水素(以下,H
2,純度99.9容積%以上)とを、H
2/CO
2モル比が4.0となるように、それぞれマスフローコントローラで流量制御して、空間速度SV(ガス流量(Nm
3/h)/第一スリットチャネル総容積(m
3))=5000(h
-1)で、供給した。H
2/CO
2モル比は、ガスクロマトグラフィ装置(GLサイエンス製GC-4000(CO
2,CO,CH
4測定用),島津製作所製GC-8A型(H
2測定用),いずれもTCD検出器使用)を用いて確認した。
第二スリットチャネルに、300℃に設定された熱媒(バーレルサーム400,松村石油製)を、第二スリット入口における温度と第二スリット出口における温度との差が1℃以内となるように、供給し、第一スリットチャネル内の触媒およびガスを加熱して、サバティエ反応(CO
2+H
2 ←→ CH
4+2H
2O)を行った。
定常状態になったところで、端から5番目にある第一スリットチャネルの長辺方向および短辺方向の中心において、ガス流れ方向の温度分布を測定した。結果を
図6に示す。
【0046】
(比較例1)
図5に示すような、外径3mmの管Aと内径8mmの管B(SUS316製,長さ500mm)とからなる円環形流路を有する管型反応器、および該管型反応器を収納する管Cを具備する反応装置を用意した。管Cの周りに断熱材を巻いた。
Ni/Al
2O
3系触媒(METH134、クラリアント社製,粒状,粒径2~6mm)を、粉砕し、1mm以上2mm以下の粒度にふるい分けした。これを円環形流路に充填した。
円環形流路に、二酸化炭素(以下,CO
2という。純度99.9容積%以上)と水素(以下,H
2,純度99.9容積%以上)とを、H
2/CO
2モル比が4.0となるように、それぞれマスフローコントローラで流量制御して、空間速度SV(ガス流量(Nm
3/h)/円環形流路の総容積(m
3))=5000(h
-1)で、供給した。H
2/CO
2モル比は、ガスクロマトグラフィ装置(GLサイエンス製GC-4000(CO
2,CO,CH
4測定用),島津製作所製GC-8A型(H
2測定用),いずれもTCD検出器使用)を用いて確認した。
管Cに、300℃に設定された熱媒(バーレルサーム400,松村石油製)を、管Cの入口における温度と管Cの出口における温度との差が1℃以内となるように、供給し、円環形流路内の触媒およびガスを加熱して、サバティエ反応を行った。
定常状態になったところで、管A内において、外径1mmのシース熱電対を用いて、ガス流れ方向の温度分布を測定した。
【0047】
実施例1と比較例1のガス流れ方向の温度分布をそれぞれ
図6に示す。比較例1の装置においては、ガス入口直後に入口温度より200℃程度高い発熱ピークが見られる。一方,実施例1の装置では,ガス入口直後に入口温度より約20℃高い発熱ピークが見られるだけであり、比較例に比べてかなり小さい。実施例1の装置は、反応温度分布を所定範囲内に制御でき、ホットスポットに係る不具合を防ぐことができる。
【0048】
本発明は、各種の化学反応または各種の熱交換において使用することができる。本発明は、水の電気分解などにて生成する水素の活用、人や動物また燃焼によって生成する二酸化炭素の活用、水の製造、または燃料などとしてのメタンの製造において、有用である。本発明は、宇宙ステーション、宇宙船、ロケットなどにおいても、利用できる。
【符号の説明】
【0049】
100、101:金属製立体物
10:第一スリット入口
11:第一スリットチャネル
20:第二スリット出口
21:第二スリットチャネル
15:第一スリット入口側管
16:第一スリット出口側管
25:第二スリット入口側管
26:第二スリット出口側管
30:マニホールド排出口
31:第二出口マニホールド
41:ガス入口
42:ガス出口
43:熱媒入口
44:熱媒出口
45:管B
46:管A
47:管C
48:断熱材