(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】床版の接続構造及び接続方法
(51)【国際特許分類】
E01D 19/12 20060101AFI20231122BHJP
【FI】
E01D19/12
(21)【出願番号】P 2020057951
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2023-01-10
(31)【優先権主張番号】P 2019061325
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 輝康
(72)【発明者】
【氏名】山本 忠典
(72)【発明者】
【氏名】宮川 隆良
【審査官】佐久間 友梨
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-042245(JP,A)
【文献】特開2002-121811(JP,A)
【文献】特開2011-212487(JP,A)
【文献】特開2018-076733(JP,A)
【文献】特開平10-231694(JP,A)
【文献】特開平07-279260(JP,A)
【文献】特開2016-047995(JP,A)
【文献】特開2002-161587(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 1/00-24/00
E04B 1/38-1/61
E21D 11/00-19/06
23/00-23/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
端面同士が目地となる隙間を介して互いに隣り合うように配置された
橋梁用のコンクリートプレキャスト製の床版同士を接続する
床版の接続構造であって、
目地となる隙間に設置されたスペーサと、
互いに隣り合うように配置された各
床版同士を接続する継手と、
目地となる隙間に充填された目地材とを備え
、
継手は、隣り合う各床版の端部側にそれぞれ設置された受部材と、互いに隣り合う各受部材を繋ぐ繋ぎ部材と、互いに隣り合う各受部材と繋ぎ部材とを結合する楔部材と、を備え、
受部材は、繋ぎ部材に設けられた挿入部が挿入される凹部と、床版のコンクリートに定着される定着部とを備え、
繋ぎ部材は、互いに隣り合う各受部材の各凹部に挿入されて各受部材と接合される一対の挿入部と、一対の挿入部を繋ぐ連結部とを備え、
スペーサは、互いに隣り合うように配置された各床版の端面間の目地となる隙間部分において互いに隣り合う各受部材の凹部の互いに対向する対向壁間に挿入されて、互いに隣り合う各受部材と繋ぎ部材とが楔部材により結合される際に、各床版同士を互いに引き寄せる方向に働く力に釣り合う逆向きの力を各受部材の対向壁の外面に付与する反力装置として機能することを特徴とする
床版の接続構造。
【請求項2】
繋ぎ部材に設けられた一方の挿入部に形成された傾斜面と一方の受部材の凹部の対向壁の内壁面を形成する傾斜面とが接触したとともに、
繋ぎ部材に設けられた他方の挿入部と他方の受部材の凹部の対向壁の内壁面との間に形成された楔部材嵌入空間に楔部材が嵌入されたことを特徴とする請求項1に記載の
床版の接続構造。
【請求項3】
繋ぎ部材に設けられた一方の挿入部と一方の受部材の凹部の対向壁の内壁面との間に形成された楔部材嵌入空間に楔部材が嵌入されたとともに、
繋ぎ部材に設けられた他方の挿入部と他方の受部材の凹部の対向壁の内壁面との間に形成された楔部材嵌入空間に楔部材が嵌入されたことを特徴とする請求項
1に記載の
床版の接続構造。
【請求項4】
互いに対向する受部材と受部材との間に設置されたスペーサは、スペーサの上下の中央位置が、受部材の上下の中央位置、又は、当該受部材の上下の中央位置の近傍に位置されるように設置されたか、あるいは、スペーサの上下の中央位置が、定着部の上下の中央位置、又は、当該定着部の上下の中央位置の近傍に位置されるように設置されたことを特徴とする
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の
床版の接続構造。
【請求項5】
繋ぎ部材は、一方の挿入部と、他方の挿入部と、一方の挿入部の左右間の中央部と他方の挿入部の左右間の中央部と連結する平板により形成された連結部とを備えて、かつ、上から見てH形の上面と下から見てH形の下面とが互いに平行に対向する平面に形成された構成であり、
互いに対向する各受部材の各対向壁は、繋ぎ部材の連結部を上方から挿入するための溝の両側に位置された一方側対向壁と他方側対向壁とを備え、
スペーサは、互いに対向する各受部材の各一方側対向壁間に設けられたとともに、互いに対向する各受部材の各他方側対向壁間に設けられたことを特徴とする
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の
床版の接続構造。
【請求項6】
スペーサは、互いに対向する各受部材のうちの一方の受部材と接触した状態に設置された先行スペーサと、先行スペーサと他方の受部材との間に嵌入された後行スペーサとで構成されたことを特徴とする請求項
1乃至請求項5のいずれか一項に記載の
床版の接続構造。
【請求項7】
一方の受部材と接触した状態に設置された先行スペーサは、他方の受部材と対向する面が、上方に向かうほど当該他方の受部材との間隔が大きくなるような傾斜面に形成され、後行スペーサは、先行スペーサの傾斜面と接触する傾斜面及び他方の受部材と接触する面を有するように構成されたことを特徴とする請求項6に記載の
床版の接続構造。
【請求項8】
先行スペーサは、傾斜面から内部まで到達するねじ螺着孔を備えた構成とされ、
後行スペーサは、上面から傾斜面まで到達するねじ貫通孔を備えた構成とされて、当該ねじ貫通孔は、傾斜面の傾斜方向に沿った方向の長さが、先行スペーサに形成されたねじ螺着孔の傾斜面の傾斜方向に沿った方向の長さよりも長い長孔に形成され、
互いに対向する各受部材のうちの一方の受部材と接触した状態に設置された先行スペーサのねじ貫通孔と先行スペーサの傾斜面と対向壁との間に設置された後行スペーサのねじ螺着孔とが連続するように先行スペーサの傾斜面と後行スペーサの傾斜面とが接触した状態で、ねじがねじ貫通孔を通過してねじ螺着孔に締結されたことにより、先行スペーサと後行スペーサとが連結されたことを特徴とする請求項
7に記載の
床版の接続構造。
【請求項9】
端面同士が目地となる隙間を介して互いに隣り合うように配置された
橋梁用のコンクリートプレキャスト製の床版同士を接続する
床版の接続方法であって、
目地となる隙間に目地材を充填する前に、スペーサを目地となる隙間に嵌入状態に設置するステップと、
互いに隣り合うように配置された各
床版同士を継手により接続するステップと、
目地となる隙間に目地材を充填するステップとを備え
、
継手は、
隣り合う各床版の端部側にそれぞれ設置された受部材と、互いに隣り合う各受部材を繋ぐ繋ぎ部材と、互いに隣り合う各受部材と繋ぎ部材とを結合する結合手段と、を備え、
受部材は、繋ぎ部材に設けられた挿入部が挿入される凹部と、床版のコンクリートに定着される定着部とを備え、
繋ぎ部材は、互いに隣り合う各受部材の各凹部に挿入されて各受部材と接合される一対の挿入部と、一対の挿入部を繋ぐ連結部とを備え、
スペーサを目地となる隙間に設置するステップでは、
互いに隣り合う各受部材と繋ぎ部材とが楔部材により結合される際に、各床版同士を互いに引き寄せる方向に働く力に釣り合う逆向きの力を各受部材の対向壁の外面に付与する反力装置として機能するように、互いに隣り合うように配置された各床版の端面間の目地となる隙間部分において互いに隣り合う各受部材の凹部の互いに対向する対向壁間にスペーサを設置したことを特徴とする
床版の接続方法。
【請求項10】
スペーサを目地となる隙間に設置するステップは、
互いに対向する各受部材のうちの一方の受部材
の対向壁の外面と接触した状態に先行スペーサを設置するステップと、
先行スペーサと他方の受部材
の対向壁の外面との間に上方から後行スペーサを嵌入するステップと、
を備えたことを特徴とする請求項9に記載の
床版の接続方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁用のコンクリートプレキャスト製の床版同士を継手を用いて接続する床版の接続構造等に関する。
【背景技術】
【0002】
橋軸直角方向(橋幅方向)に並設された複数の主桁上にコンクリート部材としての橋梁用コンクリートプレキャスト製の床版を架け渡し、橋軸方向に沿って隣り合うように設置された当該床版同士をコッター式継手と呼ばれる床版接続用の継手を用いて接続する床版の接続構造が知られている(特許文献1参照)。
上述した継手は、隣り合う各床版の端部側にそれぞれ埋め込まれて設置された受部材と、互いに隣り合う各床版の各受部材を繋ぐ繋ぎ部材と、互いに隣り合う各受部材と繋ぎ部材とを結合するボルトとを備え、受部材は、繋ぎ部材に設けられた挿入部が挿入される凹部と、床版のコンクリートに定着される定着部とを備え、繋ぎ部材は、互いに隣り合う各受部材の各凹部に挿入されて各受部材とボルトで結合される一対の挿入部と、一対の挿入部を繋ぐ連結部とを備えた構成である。
即ち、床版の接続構造は、端面同士が目地となる隙間を介して互いに隣り合うように配置された各床版同士を継手を用いて接続し、目地となる隙間にモルタルやコンクリート等の目地材を充填した構造である。
上述した床版の接続構造においては、目地材が充填された目地部分は、一般的な鉄筋コンクリート構造と同じく平面保持(平面を形成していた任意位置の切断面は変形後も平面を保持する)の仮定が成立し、曲げに対して中立軸からの距離に比例してひずみ(応力)が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した繋ぎ部材を受部材にボルト等の結合手段を用いて押組む際、繋ぎ部材には水平方向の引張力が生じる。このため、各受部材と繋ぎ部材との接触部分を介して各床版同士を互いに引き寄せる方向に力が働く。この際、当該引き寄せ力が主桁上に設置された床版と主桁との摩擦抵抗よりも大きければ、床版同士が互いに近づくため、繋ぎ部材と各受部材とが堅固に一体化しない可能性がある。
また、床版同士が互いに近づいた場合、床版に引張応力が加わるため、床版にひび割れが生じる可能性がある。また、床版同士が互いに近づいた場合、継手に加わるひずみ(応力)が大きくなり、これにより、継手の各受部材で挟まれた目地部分のひずみ(応力)も大きくなって、目地部分にひび割れが生じる可能性が高くなる。このように、床版や目地部分にひび割れが生じた場合、ひび割れ部分から雨水や塩化物が侵入して、鉄筋腐食・コンクリートの剥離等の塩害や凍結が生じ、耐久性が劣化してしまう。
本発明は、継手を用いて床版同士を堅固に一体化できるとともに、床版、継手、目地部分に加わる応力を低減できて、床版及び目地部分のひび割れの発生を抑制できるようにした床版の接続構造等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る床版の接続構造は、端面同士が目地となる隙間を介して互いに隣り合うように配置された橋梁用のコンクリートプレキャスト製の床版同士を接続する床版の接続構造であって、目地となる隙間に設置されたスペーサと、互いに隣り合うように配置された各床版同士を接続する継手と、目地となる隙間に充填された目地材とを備え、継手は、隣り合う各床版の端部側にそれぞれ設置された受部材と、互いに隣り合う各受部材を繋ぐ繋ぎ部材と、互いに隣り合う各受部材と繋ぎ部材とを結合する楔部材と、を備え、受部材は、繋ぎ部材に設けられた挿入部が挿入される凹部と、床版のコンクリートに定着される定着部とを備え、繋ぎ部材は、互いに隣り合う各受部材の各凹部に挿入されて各受部材と接合される一対の挿入部と、一対の挿入部を繋ぐ連結部とを備え、スペーサは、互いに隣り合うように配置された各床版の端面間の目地となる隙間部分において互いに隣り合う各受部材の凹部の互いに対向する対向壁間に挿入されて、互いに隣り合う各受部材と繋ぎ部材とが楔部材により結合される際に、各床版同士を互いに引き寄せる方向に働く力に釣り合う逆向きの力を各受部材の対向壁の外面に付与する反力装置として機能することを特徴とする。
また、繋ぎ部材に設けられた一方の挿入部に形成された傾斜面と一方の受部材の凹部の対向壁の内壁面を形成する傾斜面とが接触したとともに、繋ぎ部材に設けられた他方の挿入部と他方の受部材の凹部の対向壁の内壁面との間に形成された楔部材嵌入空間に楔部材が嵌入されたことを特徴とする。
また、繋ぎ部材に設けられた一方の挿入部と一方の受部材の凹部の対向壁の内壁面との間に形成された楔部材嵌入空間に楔部材が嵌入されたとともに、繋ぎ部材に設けられた他方の挿入部と他方の受部材の凹部の対向壁の内壁面との間に形成された楔部材嵌入空間に楔部材が嵌入されたことを特徴とする。
また、互いに対向する受部材と受部材との間に設置されたスペーサは、スペーサの上下の中央位置が、受部材の上下の中央位置、又は、当該受部材の上下の中央位置の近傍に位置されるように設置されたか、あるいは、スペーサの上下の中央位置が、定着部の上下の中央位置、又は、当該定着部の上下の中央位置の近傍に位置されるように設置されたことを特徴とする。
また、繋ぎ部材は、一方の挿入部と、他方の挿入部と、一方の挿入部の左右間の中央部と他方の挿入部の左右間の中央部と連結する平板により形成された連結部とを備えて、かつ、上から見てH形の上面と下から見てH形の下面とが互いに平行に対向する平面に形成された構成であり、互いに対向する各受部材の各対向壁は、繋ぎ部材の連結部を上方から挿入するための溝の両側に位置された一方側対向壁と他方側対向壁とを備え、スペーサは、互いに対向する各受部材の各一方側対向壁間に設けられたとともに、互いに対向する各受部材の各他方側対向壁間に設けられたことを特徴とする。
また、スペーサは、互いに対向する各受部材のうちの一方の受部材と接触した状態に設置された先行スペーサと、先行スペーサと他方の受部材との間に嵌入された後行スペーサとで構成されたことを特徴とする。
また、一方の受部材と接触した状態に設置された先行スペーサは、他方の受部材と対向する面が、上方に向かうほど当該他方の受部材との間隔が大きくなるような傾斜面に形成され、後行スペーサは、先行スペーサの傾斜面と接触する傾斜面及び他方の受部材と接触する面を有するように構成されたことを特徴とする。
また、先行スペーサは、傾斜面から内部まで到達するねじ螺着孔を備えた構成とされ、後行スペーサは、上面から傾斜面まで到達するねじ貫通孔を備えた構成とされて、当該ねじ貫通孔は、傾斜面の傾斜方向に沿った方向の長さが、先行スペーサに形成されたねじ螺着孔の傾斜面の傾斜方向に沿った方向の長さよりも長い長孔に形成され、互いに対向する各受部材のうちの一方の受部材と接触した状態に設置された先行スペーサのねじ貫通孔と先行スペーサの傾斜面と対向壁との間に設置された後行スペーサのねじ螺着孔とが連続するように先行スペーサの傾斜面と後行スペーサの傾斜面とが接触した状態で、ねじがねじ貫通孔を通過してねじ螺着孔に締結されたことにより、先行スペーサと後行スペーサとが連結されたことを特徴とする。
以上の構成によれば、継手を用いて床版同士を堅固に一体化できるとともに、床版、継手、目地部分に加わる応力を低減できて、床版及び目地部分のひび割れの発生を抑制できる。
また、スペーサは、互いに対向する各受部材のうちの一方の受部材と接触した状態に設置された先行スペーサと、先行スペーサと他方の受部材との間に嵌入された後行スペーサとで構成されたことを特徴とするので、目地の幅寸法が、コンクリート部材の製作精度や設置誤差などにより、一定にはならない場合であっても、目地の幅寸法の増減に対応可能となる。
また、本発明に係る床版の接続方法は、端面同士が目地となる隙間を介して互いに隣り合うように配置された橋梁用のコンクリートプレキャスト製の床版同士を接続する床版の接続方法であって、目地となる隙間に目地材を充填する前に、スペーサを目地となる隙間に嵌入状態に設置するステップと、互いに隣り合うように配置された各床版同士を継手により接続するステップと、目地となる隙間に目地材を充填するステップとを備え、継手は、隣り合う各床版の端部側にそれぞれ設置された受部材と、互いに隣り合う各受部材を繋ぐ繋ぎ部材と、互いに隣り合う各受部材と繋ぎ部材とを結合する結合手段と、を備え、受部材は、繋ぎ部材に設けられた挿入部が挿入される凹部と、床版のコンクリートに定着される定着部とを備え、繋ぎ部材は、互いに隣り合う各受部材の各凹部に挿入されて各受部材と接合される一対の挿入部と、一対の挿入部を繋ぐ連結部とを備え、スペーサを目地となる隙間に設置するステップでは、互いに隣り合う各受部材と繋ぎ部材とが楔部材により結合される際に、各床版同士を互いに引き寄せる方向に働く力に釣り合う逆向きの力を各受部材の対向壁の外面に付与する反力装置として機能するように、互いに隣り合うように配置された各床版の端面間の目地となる隙間部分において互いに隣り合う各受部材の凹部の互いに対向する対向壁間にスペーサを設置したことを特徴とするので、継手を用いて床版同士を堅固に一体化できるとともに、床版、継手、目地部分に加わる応力を低減できて、床版及び目地部分のひび割れの発生を抑制できる。
また、スペーサを目地となる隙間に設置するステップは、互いに対向する各受部材のうちの一方の受部材の対向壁の外面と接触した状態に先行スペーサを設置するステップと、先行スペーサと他方の受部材の対向壁の外面との間に上方から後行スペーサを嵌入するステップと、を備えたことを特徴とするので、継手を用いて床版同士を堅固に一体化できるとともに、床版、継手、目地部分に加わる応力を低減できて、床版部材及び目地部分のひび割れの発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】実施形態1による床版の接続構造を上方から見た図。
【
図3】実施形態1による継手の各受部材と繋ぎ部材とが楔部材で連結された状態を示す斜視図。
【
図4】実施形態1による継手の各受部材と繋ぎ部材とを楔部材で連結する手順を示す説明図。
【
図5】実施形態1による床版の接続構造の断面図、及び、断面における応力(計算値)を示す図。
【
図6】実施形態1による床版の接続構造の断面におけるひずみの、従来例、実施形態、実験値を比較して示した図。
【
図7】実施形態2による床版の接続構造を示す断面図。
【
図8】実施形態2による床版の接続構造を示す断面図。
【
図9】実施形態2による床版の接続構造を示す断面図。
【
図10】実施形態3による床版の接続構造を示す断面図。
【
図12】実施形態3による床版の接続構造を示す断面図。
【
図13】実施形態3による床版の接続構造を示す断面図。
【
図14】実施形態3による床版の接続構造を継手の上方から見た平面図。
【
図15】実施形態5による床版の接続構造を示す断面図。
【
図16】実施形態6による床版の接続構造を示す断面図。
【
図17】実施形態10による床版の接続構造のスペーサを示す斜視図。
【
図18】実施形態10による床版の接続構造のスペーサを示す分解斜視図。
【
図19】実施形態10による床版の接続構造を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
実施形態1
実施形態1に係るコンクリート部材としての床版の接続構造は、
図1に示すように、端面11s,11s同士が目地15となる隙間を介して互いに隣り合うように配置された各床版10,10と、目地15となる隙間に設置されたスペーサ5と、互いに隣り合うように配置された各床版10,10同士を接続する継手1と、目地15となる隙間に充填されたコンクリートやモルタル等の目地材16とを備え、スペーサ5として、ヤング係数が目地材16よりも大きい固形物である例えば鋼材により形成されたスペーサを用いた構造である。
【0008】
継手1は、例えば
図1に示すように、橋軸直角方向(橋幅方向)Yに並設された図外の複数の主桁上に架け渡されて橋軸方向Xに沿って隣り合うコンクリート部材としての橋梁用コンクリートプレキャスト製の床版10,10同士を連結するものであり、橋軸方向Xに沿って隣り合う各床版10,10のうちの一方の床版10の端部11側に設置された受部材2Aと、橋軸方向Xに沿って隣り合う各床版10,10のうちの他方の床版10の端部11側に設置された受部材2Bと、橋軸方向Xに沿って隣り合う一方の床版10の端部11に設置された受部材2Aと他方の床版10の端部11に設置された2Bとを繋ぐ繋ぎ部材3と、互いに隣り合う各受部材2A,2Bと繋ぎ部材3とを結合させる結合手段としての楔部材4とを備えて構成される。
【0009】
図2,
図3に示すように、一方の受部材2Aは、繋ぎ部材3に設けられた一方の挿入部31Aが挿入される凹部21Aが形成された受部22Aと、床版10のコンクリートに定着される定着筋等の定着部23とを備える。
他方の受部材2Bは、繋ぎ部材3に設けられた他方の挿入部31Bが挿入される凹部21Bが形成された受部22Bと、床版10のコンクリートに定着される定着筋等の定着部23とを備える。
受部材2A,2Bは、水平面に設置された場合に、当該水平面と面接触する平行な面(平坦面)に形成された下面2u(
図4(a)参照)を備える。
繋ぎ部材3は、一方の受部材2Aの凹部21Aに挿入される一方の挿入部31Aと、他方の受部材2Bの凹部21Bに挿入される他方の挿入部31Bと、挿入部31Aと挿入部31Bとを繋ぐ連結部32とを備える。連結部32は、一方の挿入部31Aの左右間の中央部と他方の挿入部31Bの左右間の中央部と連結する平板により形成される。当該連結部32は、後述の連結部挿入溝60の溝幅よりも若干狭い寸法の板厚の平板により形成される。
繋ぎ部材3は、水平面に設置された場合に、当該水平面と面接触する平行な面(平坦面)に形成された下面3u(
図4(a)参照)を備える。
そして、一方の受部22Aの凹部21Aの対向壁28と一方の挿入部31Aの係合面(内面31a)とを係合させた状態で、他方の受部22Bの凹部21Bの対向壁28と他方の挿入部31Bの内面31bとの間に楔部材4が嵌入されて、互いに隣り合う各受部材2A,2Bと繋ぎ部材3とが結合されることにより、互いに隣り合う床版10,10が連結されることになる(
図4(c)参照)。
【0010】
図4,
図2に示すように、凹部21A,21Bは、例えば長方形状、正方形状等の底版25と、底版25の互いに対向する一方の一対の端縁のうちの一方の端縁側(例えば定着部23が設けられる側の辺縁側)より立ち上がるように設けられた妻壁26と、底版25の互いに対向する他方の一対の各端縁側よりそれぞれ立ち上がるように設けられた左右の側壁27,27と、底版25の互いに対向する一方の一対の端縁のうちの他方の端縁側(例えば定着部23が設けられる側とは反対側の辺縁側)より立ち上がるように設けられた対向壁28とで囲まれて、かつ、挿入部31A,31Bが挿入される挿入部挿入口、即ち、凹部21A,21Bの開口29が、妻壁26、側壁27,27、対向壁28の上端縁で囲まれた上部開口により形成された構成である。
底版25は、対向壁28が立ち上がる側の端縁以外の端縁が円形縁や多角形縁等に形成された形状であってもよい。即ち、凹部21A,21Bは、底版25の円形縁側や多角形縁側等から立ち上がるような左右の側壁27,27と妻壁26とが一体となった湾曲壁や多角形壁等と対向壁28とで囲まれるように形成された構成であってもよい。
尚、受部材2A,2Bは、下面2uが床版10の平坦な板面である下面10u(
図4(a)参照)と平行になるように床版10の端部11側に設置され、従って、下面10uが水平面と接触するように床版10を設置した場合、受部材2A,2Bの下面2uが水平面となる。従って、以下、複数の主桁上に架け渡された床版10の下面10uと直交する方向を上下と定義するとともに、橋軸方向Xに沿って隣り合う各床版10,10の端面11s,11s(
図1参照)に沿った水平方向(橋軸直角方向(橋幅方向)Y)を左右と定義して説明する。
【0011】
図2に示すように、床版10の端部11側に設置される受部材2A,2Bの対向壁28の左右の中央位置には、繋ぎ部材3の連結部32を挿入するための連結部挿入溝60が形成されている。当該連結部挿入溝60は、開口29から底版25の内底面25a(
図4(a)参照)側に延長するように形成されている。
また、左右の側壁27,27の外面には、せん断抵抗を大きくするとともに床版10のコンクリートとの付着力を大きくするために、凹凸部61が形成されている。
【0012】
図4(a)に示すように、例えば、凹部21Aの底板25の内底面25aは下面2uと平行な平面に形成されており、妻壁26の内壁面26a、及び、側壁27,27の内壁面27aは、内底面25aに対して垂直面に形成されている。そして、凹部21Aの対向壁28の内壁面28aは、内底面25aから開口29に向けて傾斜して立ち上がる傾斜面に形成されている。この内壁面28aを形成する傾斜面は、開口29に近付くほど、妻壁26の内壁面26aから離れるように傾斜する傾斜面に形成されている。
また、例えば、凹部21Bの底板25の内底面25aは下面2uと平行な平面に形成されており、妻壁26の内壁面、側壁27,27の内壁面、及び、対向壁28の内壁面28bは、底板25の内底面25aに対して垂直面に形成されている(
図4(a)参照)。
【0013】
図4に示すように、受部材2A,2Bは、開口29及び連結部挿入溝60を外部に露出させた状態で受部22A,22Bが床版10の端部11側に埋め込まれ、妻壁26から床版10の中央側に延長するように設けられた定着部23が床版10に埋め込まれている。
即ち、開口29及び連結部挿入溝60が外部に露出して他の部分が床版10のコンクリートに埋設されるように受部材2A又は受部材2Bを図外の型枠に取付けた後に当該型枠内にコンクリートを流し込んでコンクリートを硬化させた後、受部材2A又は受部材2Bを型枠から取り外して脱型することにより、端部11側に受部材2A又は受部材2Bが埋め込まれて固定された橋梁用コンクリートプレキャスト製の床版10が形成される。
【0014】
図2に示すように、繋ぎ部材3は、上から見てH形の上面3t、及び、下から見てH形の下面3uが、互いに平行に対向する平面に形成され、挿入部31A,31Bの外面3f,3fは、互いに平行に対向するとともに上面3t及び下面3uと垂直をなす平面により形成され、挿入部31Aの内面31aと挿入部31Bの内面31bとが互いに対向する面に形成される。即ち、挿入部31Aの内面31aと挿入部31Bの内面31bとの間の対向間隔は、挿入部31Aの外面3fと挿入部31Bの外面3fとの間の対向間隔よりも短い。
そして、
図4(a)に示すように、一方の挿入部31Aの内面31aは、上面3tから下面3uに向けて傾斜する傾斜面に形成される。この傾斜面は、下面3uに近付くほど、挿入部31Aの外面3fに近付くように傾斜する傾斜面に形成されており、この傾斜面と凹部21Aの対向壁28の内壁面28aを形成する傾斜面とが互いに面接触する係合面として機能する傾斜面に形成されている。
また、凹部21Bの対向壁28の内壁面28bと対向する対向面として機能する他方の挿入部31Bの内面31bは、上面3tから下面3uに向けて傾斜する傾斜面に形成される。この傾斜面は、下面3uに近付くほど、挿入部31Bの外面3fから離れるように傾斜する傾斜面に形成されており、この傾斜面と、この傾斜面と間隔を隔てて対向する凹部21Bの対向壁28の内壁面28bとが、楔部材4と面接触する楔部材嵌入面として機能する。即ち、
図4(b)に示すように、他方の挿入部31Bの内面31bと凹部21Bの対向壁28の内壁面28bとの間で楔部材嵌入空間4uが形成される。当該楔部材嵌入空間4uは、凹部21Bの開口29側から底板25に近付くほど間隔が狭くなるような空間により形成される。即ち、当該楔部材嵌入空間4uは、垂直縦断面が逆台形形状(断面ほぼ逆三角形状)の空間に形成される。
【0015】
図2に示すように、楔部材4は、他方の挿入部31Bの内面31bである傾斜面と凹部21Bの対向壁28の内壁面28bである傾斜面ではない面(垂直面)との間の楔部材嵌入空間4u(
図4(b)参照)に嵌入可能な形状に形成される。即ち、楔部材4は、他方の挿入部31Bの内面31bと接触する傾斜面4aと、凹部21Bの対向壁28の内壁面28bと接触する傾斜面ではない面(垂直面)4bとを備え、他方の挿入部31Bの傾斜面である内面31bの傾斜角度と当該他方の挿入部31Bの内面31bに接触する楔部材4の傾斜面4aの傾斜角度とが同一傾斜角度に形成されている。
また、
図2,
図3に示すように、楔部材4は、繋ぎ部材3の挿入部31Bにおいて連結部32を挟んで隣り合う左右一対の内面31b,31bにそれぞれ対応するように設けられる。
【0016】
スペーサ5は、互いに隣り合うように配置された各床版10,10の端面11s,11s間の目地15となる隙間部分において、互いに隣り合う各受部材2A,2Bの互いに対向する対向壁28,28間に挿入されて設置できるように、厚さ寸法が対向壁28,28間の設計寸法に対応した寸法に形成された平板状の鋼板により構成される。例えば、スペーサ5は、
図2に示すように、直方体に形成される。即ち、スペーサ5は、一方の板面5fと受部材2Aの対向壁28の外面とが接触するとともに、他方の板面5fと受部材2Bの対向壁28の外面とが接触するように、対向壁28,28間に嵌合状態に設置されることによって、各床版10,10同士を互いに引き寄せる方向に働く力に応じた逆向きの力(反力)をスペーサ5の板面5f,5fと接触する受部材2A,2Bの対向壁28,28の外面に付与する反力装置として機能する。
尚、受部材2A,2Bの対向壁28は、繋ぎ部材3の連結部32を上方から挿入するための連結部挿入溝60の両側に位置された一方側対向壁と他方側対向壁とを備える。即ち、
図14に示すように、連結部挿入溝60の左側に位置される一方側対向壁としての左側対向壁28Lと、当該連結部挿入溝60の右側に位置される他方側対向壁としての右側対向壁28Rとを備える。
そして、
図14に示すように、スペーサ5は、互いに対向する各受部材2A,2Bの各左側対向壁28L,28Lの外壁面62,62間に設置されるとともに、互いに対向する各受部材2A,2Bの各右側対向壁28R,28Rの外壁面63,63間に設置される。
尚、
図14では、後述する先行スペーサ5Aと後行スペーサ5Bとで構成されたスペーサ5を図示しているが、当該実施形態1では、
図2に示すような、直方体形状に形成されたスペーサ5が設置される。
即ち、スペーサ5は、受部材2Aの連結部挿入溝60を挟んで隣り合う左右一対の対向壁28L,28Rと、受部材2Bの連結部挿入溝60を挟んで隣り合う左右一対の対向壁28L,28Rとの間において、互いに対向する左側対向壁28L,28Lの外壁面62,62間と、互いに対向する右側対向壁28R,28Rの外壁面63,63間とに、それぞれ配置される(
図14参照)。
【0017】
次に、床版10の接続方法について
図4を参照しながら説明する。
図4(a)に示すように、まず、一方の床版10の端部11側に埋設された受部材2Aの対向壁28と他方の床版10の端部11側に埋設された受部材2Bの対向壁28とが橋軸方向Xに沿って隣り合うように、当該一方の床版10と他方の床版10とを設置する。
次に、
図4(a),
図3に示すように、隣り合う各床版10,10の端部側にそれぞれ設置された互いに対向する受部材2Aと受部材2Bとの間において、各受部材2A,2Bの互いに対向する対向壁28,28間にスペーサ5を設置する。即ち、上述したように、互いに対向する左側対向壁28L,28Lの外壁面62,62間と、互いに対向する右側対向壁28R,28Rの外壁面63,63間とに、それぞれ、スペーサ5を設置する(
図14参照)。
当該スペーサ5の設置は、例えば、対向壁28,28と対向するスペーサ5の板面5fに接着剤等の接着手段を付けた後に、対向壁28,28間に挿入してスペーサ5の板面5fと対向壁28,28とを接着することで対向壁28,28間にスペーサ5を設置したり、あるいは、予め一方の対向壁28にスペーサ5を接着しておいてから、端面11s,11s同士が目地15となる隙間を介して互いに隣り合うように各床版10,10を配置することで、対向壁28,28間にスペーサ5を設置するようにすればよい。
また、対向壁28の下側にスペーサ5を載せるための台となる部材を取付けておいて当該台上にスペーサ5を載せることによりスペーサ5を対向壁28,28間に設置したり、対向壁28,28間の下方に、コンクリートやモルタル,シーリング材等の充填材を充填して台を作製しておいて当該台上にスペーサ5を載せることによりスペーサ5を対向壁28,28間に設置するようにしてもよい。
【0018】
次に、
図4(b)に示すように、繋ぎ部材3の一方の挿入部31Aを一方の受部材2Aの凹部21Aに挿入するとともに、繋ぎ部材3の他方の挿入部31Bを他方の受部材2Bの凹部21Bに挿入して、一方の挿入部31Aの係合面となる内面31aと一方の受部材2Aの凹部21Aの対向壁28の内壁面28aとが面接触するように係合させた状態とすることにより、他方の挿入部31Bの対向面となる内面31bと他方の受部材2Bの凹部21Bの対向壁28の内壁面28bとの間に楔部材4を嵌入するための楔部材嵌入空間4uを形成する。
そして、
図4(c),
図3に示すように、楔部材4を楔部材嵌入空間4uに嵌入する。即ち、楔部材4の傾斜面4aの全面が他方の挿入部31Bの内面31bに接触した状態で当該内面31bを摺動しながら当該内面31bを押圧するとともに、楔部材4の面(垂直面)4bの全面が凹部21Bの対向壁28の内壁面28bに接触した状態で当該内壁面28bを摺動しながら当該内壁面28bを押圧することによる、楔部材4の圧入動作によって、楔部材4の傾斜面4aの全面と他方の挿入部31Bの内面31bとが密着するとともに、楔部材4の面(垂直面)4bの全面と凹部21Bの対向壁28の内壁面28bとが密着し、これにより、他方の挿入部31Bと他方の受部材2Bとが固定状態に結合されるとともに、一方の挿入部31Aと一方の受部材2Aとが互いに密着して固定状態に結合されて、互いに隣り合う床版10,10同士が連結されることになる。
また、繋ぎ部材3の挿入部31Bにおいて連結部32を挟んで左右に隣り合う一対の内面31b,31bにそれぞれ対応するように楔部材4,4が圧入されるので、各受部材2A,2Bと繋ぎ部材3との結合において、左右のバランスが良好な固定状態を維持できるようになる。
【0019】
さらに、橋軸方向Xに沿って隣り合う床版10,10同士が継手1で連結された後、
図4(d)に示すように、凹部21A,21B内、及び、凹部21A,21Bと繋ぎ部材3の上方に目地材16を充填することにより、繋ぎ部材3の凹部21A,21Bからの抜け防止が図れるとともに、
図1に示すように、隣り合う床版10,10の端面11s,11s間の隙間である目地15に目地材16を充填することにより、互いに隣り合う床版10,10同士の接合が完了する。
【0020】
即ち、端面11s,11s同士が目地15となる隙間を介して互いに隣り合うように配置された各床版10,10同士を接続する実施形態1に係る床版10の接続方法は、目地15となる隙間に目地材16を充填する前に、ヤング係数が目地材16よりも大きい固形物であるスペーサ5を目地15となる隙間に設置するステップと、互いに隣り合うように配置された各床版10,10同士を継手1により接続するステップと、目地15となる隙間に目地材16を充填するステップとを備えた方法である。
【0021】
実施形態1に係る床版10の接続構造のように、目地15となる隙間にスペーサ5を設置した場合、当該スペーサ5が反力装置として機能する。即ち、受部材2A,2Bの凹部21A,21Bに繋ぎ部材3の挿入部31A,31Bを挿入し、楔部材嵌入空間4uに楔部材4を嵌入した際には、繋ぎ部材3には水平方向の引張力が生じる。このため、各受部材2A,2Bと繋ぎ部材3及び楔部材4との接触部分を介して各床版10,10同士を互いに引き寄せる方向に力が働く。この際、当該引き寄せ力が主桁上に設置された床版10と主桁との摩擦抵抗よりも大きければ、床版10,10同士が過剰に近付こうとするために、受部材2A,2Bと繋ぎ部材3とが堅固に一体化しない可能性がある。
しかしながら、実施形態1では、目地部分を挟んで対向する各受部材2A,2Bの対向壁28,28間に設置されたスペーサ5が反力装置として機能することによって、床版10,10同士を引き寄せる方向に働く引き寄せ力を抑制でき、床版10,10同士が過剰に近付こうとすることが防止される。
さらに、各床版10,10同士を互いに引き寄せる方向に働く力に応じた逆向きの力(反力)がスペーサ5から受部材2A,2Bの対向壁28,28の外面(外壁面62,62、及び、外壁面63,63)に付与されることによって、繋ぎ部材3の挿入部31Bの内面31b及び受部材2Bの対向壁28の内壁面28bと楔部材4との接触面同士が密着状態に維持され、かつ、挿入部31Aの内面31aと受部材2Aの対向壁28の内壁面28aとの接触面同士が密着状態に維持されるので、受部材2A,2Bと繋ぎ部材3との堅固な一体化が可能となる。
【0022】
また、実施形態1に係る床版10の接続構造のように、目地15となる隙間、即ち、互いに隣り合う各受部材2A,2Bの互いに対向する対向壁28,28間にスペーサ5を設置した場合、継手1、目地15に目地材16が充填された目地部分の上縁側、下縁側の応力及びひずみが低減する。
尚、継手1、目地部分の上縁側、下縁側に生じる応力及びひずみは、以下の構造計算式により求めることができる。
【0023】
実施形態1の接続構造部分に加わる所定の曲げモーメントに対して、目地部分の上縁側に生じる応力及びひずみは、以下の数式1により求まる。
実施形態1の接続構造部分に加わる所定の曲げモーメントに対して、圧縮側となる継手1に生じる応力及びひずみは、以下の数式2により求まる。
実施形態1の接続構造部分に加わる所定の曲げモーメントに対して、引張側となる継手1に生じる応力及びひずみは、以下の数式3により求まる。
実施形態1の接続構造部分に加わる所定の曲げモーメントに対して、目地部分の下縁側に生じる応力及びひずみは、以下の数式4により求まる。
【0024】
目地15となる隙間にスペーサ5を設置しない従来の接続構造部分に加わる所定の曲げモーメントに対して、目地部分の上縁側に生じる応力及びひずみは、以下の数式5により求まる。
目地15となる隙間にスペーサ5を設置しない従来の接続構造部分に加わる所定の曲げモーメントに対して、圧縮側となる継手1に生じる応力及びひずみは、以下の数式6により求まる。
目地15となる隙間にスペーサ5を設置しない従来の接続構造部分に加わる所定の曲げモーメントに対して、引張側となる継手1に生じる応力及びひずみは、以下の数式7により求まる。
目地15となる隙間にスペーサ5を設置しない従来の接続構造部分に加わる所定の曲げモーメントに対して、目地部分の下縁側に生じる応力及びひずみは、以下の数式8により求まる。
【0025】
【0026】
【0027】
【0028】
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
上述した各数式において、σは応力、εはひずみ、Δεはひずみ低減効果、Δσは応力低減効果、Mは所定の曲げモーメント、Eはヤング係数、Iは断面二次モーメント、nはヤング係数比、xは目地部分の上縁から中立軸Cまでの距離、dは目地部分の上縁から継手上端側までの距離、d’は目地部分の上縁から継手下端側までの距離、hは目地部分の上縁から床版10の下面までの距離である。
【0034】
尚、
図5(b)に、実施形態1の接続構造における応力の計算値を点線aで示すとともに、従来の接続構造における応力の計算値を実線bで示した。
図5(b)から明らかなように、実施形態1の接続構造によれば、目地部分の上縁側、下縁側、及び、継手1に生じる応力が、従来の接続構造と比べて低減することがわかる。
【0035】
また、例えば鋼製のスペーサ5は、目地材16となる例えばコンクリートよりもヤング係数が大きい。つまり、この場合、目地材16のヤング係数E=3.3×104N/mm2、スペーサ5のヤング係数E=2.×105N/mm2であるので、スペーサ5によりひずみを約1/6に低減できる。
また、スペーサ5と接触する受部材2A,2Bは、スペーサ5と同様な挙動を示し、ひずみが抑制される。このため、受部材2A,2B間の目地材16のひずみも抑制されることになる。
以上により、継手1のひずみ、目地部分の上縁側及び下縁側のひずみが、スペーサを配置しない従来の接続構造と比べて低減する。
【0036】
図6は、床版10の接続構造部のひずみ分布について、実験値、実施形態1の接続構造での計算値、従来の接続構造での計算値とを、比較して示した図である。
図6から明らかなように、実施形態1の接続構造での計算値に基づく応力分布と実験値で示す実際の応力分布とを比較した場合、実験値で示す実際の応力分布は、実施形態1の構造での計算値に基づく応力分布とほぼ一致している。即ち、実施形態1の接続構造によれば、継手1のひずみ、目地部分の上縁側及び下縁側のひずみが、従来の接続構造と比べて低減することを実証できた。
【0037】
また、継手1の応力度が低減することから、継手1の断面寸法を小さくできるので、継手1の製造コストを低減でき、安価な継手1を用いることが可能となる。また、継手1に生じる応力を低減できるため、継手1の疲労抵抗性を向上できる。
【0038】
また、実施形態1では、繋ぎ部材3に加わる引張力とスペーサ5の反力とが釣り合って、各床版10,10には引張応力が生じないため、床版10のひび割れを抑制できる。
また、目地部分の上縁側、下縁側、及び、継手1に生じる応力が低減することから、目地部分のひび割れを抑制できる。
このように、床版10及び目地部分のひび割れを抑制できるので、ひび割れ部分から雨水や塩化物が侵入することによる鉄筋腐食・コンクリートの剥離等の塩害や凍結を防止でき、床版10及び目地部分の耐久性が向上する。
即ち、実施形態1の接続構造によれば、スペーサ5を用いたことによって、目地間隔を確保する機能、受部材2A,2B間の軸力伝達及び受部材2A,2Bへのプレストレス導入のための反力装置としての機能が効果的に発揮されて、受部材2A,2Bと繋ぎ部材3との堅固な一体化が可能となるため、継手1を用いて床版10,10同士を堅固に一体化できるとともに、床版10、継手1、目地部分に加わる応力を低減できて、床版10及び目地部分のひび割れの発生を抑制できるようになる。
【0039】
また、実施形態1によれば、互いに対向する各受部材2A,2Bの各左側対向壁28L,28Lの外壁面62,62間にスペーサ5が設けられたとともに、互いに対向する各受部材2A,2Bの各右側対向壁28R,28Rの外壁面63,63間にスペーサ5が設けられた構成としたので、当該左右のスペーサ5,5によって、目地間隔を確保する機能、受部材2A,2B間の軸力伝達及び受部材2A,2Bへのプレストレス導入のための反力装置としての機能がより効果的に発揮されて、受部材2A,2Bと繋ぎ部材3との堅固な一体化が可能となる。
また、互いに対向する各受部材2A,2Bの各左側対向壁28L,28Lの外壁面62,62間、及び、互いに対向する各受部材2A,2Bの各右側対向壁28R,28Rの外壁面63,63間に、それぞれスペーサ5が設けられたことにより、受部材2A,2Bの左側対向壁28Lと側壁27との境界部66(
図14参照)近傍、及び、受部材2A,2Bの右側対向壁28Rと側壁27との境界部66近傍の応力が低減され、当該境界部66近傍の疲労破壊を抑制できるという効果も得られる。
【0040】
また、実施形態1の継手1によれば、楔部材4を用いて繋ぎ部材3と受部材2A,2Bとを結合するようにしているので、橋軸方向Xに沿って隣り合う各床版10,10の端部11,11に埋設された各受部材2A,2B同士の左右方向や上下方向のずれが生じた場合であっても、繋ぎ部材3と受部材2A,2Bとを結合できるようになる。
【0041】
実施形態2
接続構造部に、中立軸Cよりも上方が圧縮領域となるような曲げモーメントM1が加わって正曲げの状態となる場合、
図7に示すように、中立軸Cの位置よりも上方にスペーサ5を配置する。
接続構造部に、中立軸Cよりも下方が圧縮領域となるような曲げモーメントM2が加わって負曲げの状態となる場合、
図8に示すように、中立軸Cの位置よりも上方にスペーサ5を配置する。
接続構造部に、中立軸Cよりも上方が圧縮領域となるような曲げモーメントM1及び中立軸Cよりも下方が圧縮領域となるような曲げモーメントM2が加わって正曲げ、負曲げの両方の状態となる場合、
図9に示すように、中立軸Cの位置の上方及び下方の両方にスペーサ5,5を配置する。
【0042】
実施形態2によれば、接続構造部に加わる曲げモーメントの態様に応じて、スペーサ5の設置位置を決めることにより、継手1のひずみ、目地部分の上縁側及び下縁側のひずみを、効果的に低減させることが可能となる。
【0043】
実施形態3
目地15の幅寸法は、床版10の製作精度や床版10の設置誤差などにより、一定にはならない場合がある。
このような場合には、
図10に示すように、先行設置用の先行スペーサ5Aと後行設置用の後行スペーサ5Bとで構成された半割構成のスペーサ5を用いればよい。
即ち、実施形態3のスペーサ5は、互いに対向する各受部材2A,2Bのうちの一方の受部材と接触した状態に設置された先行スペーサ5Aと、先行スペーサ5Aと他方の受部材との間に嵌入された楔部材として機能する後行スペーサ5Bとで構成される。
この場合、
図14に示すように、一方の床版10に設けられた一方の受部材(例えば受部材2Aの受部22A)の対向壁28(左側対向壁28Lの外壁面62、及び、右側対向壁28Rの外壁面63)に先行スペーサ5Aを取付け、他方の床版10を設置した後に、他方の床版10に設けられた他方の受部材(例えば受部材2Bの受部22B)の対向壁28(左側対向壁28Lの外壁面62、及び、右側対向壁28Rの外壁面63)と先行スペーサ5Aとの間に後行スペーサ5Aを楔のように嵌め込むことで、目地15の幅寸法、即ち、互いに隣り合う各受部材2A,2Bの互いに対向する対向壁28,28間の寸法の増減に対応可能となる。
【0044】
即ち、
図11に示すように、実施形態3のスペーサ5は、実施形態1で説明した、例えば、直方体形状のスペーサ5を2分割した先行スペーサ5Aと後行スペーサ5Bとで構成される。
【0045】
そして、実施形態1と同様に、
図14に示すように、受部材2A,2Bの互いに対向する左側対向壁28L,28Lの外壁面62,62間と、受部材2A,2Bの互いに対向する右側対向壁28R,28Rの外壁面63,63間とに、それぞれ、スペーサ5が設置される。
【0046】
先行スペーサ5Aは、例えば
図11,
図12,
図14に示すように、目地15となる隙間に設置された状態において、受部材2Aの対向壁28(左側対向壁28Lの外壁面62又は右側対向壁28Rの外壁面63)と対向して上下左右に延長する平面に形成された取付面として機能する面(垂直面)5aと、当該面5aと対向して上下方向に傾斜する傾斜面5bと、当該面5aの上端縁と傾斜面5bの上端縁と繋ぐ上面と、当該面5aの下端縁と傾斜面5bの下端縁と繋ぐ下面とを備えた形状に形成される。
先行スペーサ5Aの傾斜面5bは、先行スペーサ5Aが目地15となる隙間に設置された状態において、下端縁から上端縁に向けて次第に面5aに近づく傾斜面に形成される。
【0047】
後行スペーサ5Bは、例えば
図11,
図12,
図14に示すように、目地15となる隙間に設置された状態において、受部材2Bの対向壁28(左側対向壁28Lの外壁面62又は右側対向壁28Rの外壁面63)と対向して上下左右に延長する平面に形成された面(垂直面)5aと、当該面5aと対向して上下方向に傾斜する傾斜面5bと、当該面5aの上端縁と傾斜面5bの上端縁と繋ぐ上面と、当該面5aの下端縁と傾斜面5bの下端縁と繋ぐ下面とを備えた形状に形成される。
後行スペーサ5Bの傾斜面5bは、後行スペーサ5Bが目地15となる隙間に設置された状態において、下端縁から上端縁に向けて次第に面5aから遠ざかる傾斜面に形成される。
【0048】
換言すれば、先行スペーサ5A及び後行スペーサ5Bは、目地15となる隙間に設置された状態においての垂直縦断面が台形のブロック体に形成される。当該台形は、台形の下底と一方の脚とのなす角度が90°である。
そして、先行スペーサ5Aは、台形の下底を含む下面が下方に位置するように、目地15となる隙間に設置される。
また、先行スペーサ5Aは、台形の上底を含む上面が下方に位置するように、目地15となる隙間に設置される。
【0049】
次に、実施形態3のスペーサ5の設置方法を詳細に説明する。
まず、
図12(a)に示すように、橋軸方向Xに沿って隣り合うように設置する各床版10,10のうちの一方の床版10の例えば受部材2Aに予め先行スペーサ5Aを設置しておく。
当該先行スペーサ5Aの設置は、例えば、
図14に示す、受部材2Aの左側対向壁28Lの外壁面62及び右側対向壁28Rの外壁面63、又は、当該外壁面62,63と対向する先行スペーサ5Aの面5aの少なくとも一方に接着剤等の接着手段を付けた後に、
図12(a),
図14に示すように、先行スペーサ5Aの面5aと対向壁28の外壁面62や外壁面63とを接着することで、当該外壁面62及び当該外壁面63にそれぞれ先行スペーサ5Aを取付けて置く。
即ち、一方の受部材2Aの左側対向壁28Lの外壁面62及び右側対向壁28Rの外壁面63と接触した状態に設置された先行スペーサ5A,5Aは、他方の受部材2Bの左側対向壁28Lの外壁面62及び右側対向壁28Rの外壁面63と対向する面が、上方に向かうほど当該他方の受部材2Bの左側対向壁28Lの外壁面62及び右側対向壁28Rの外壁面63との間隔が大きくなるような傾斜面5b,5bに形成される(12(a),
図14参照)。
そして、
図12(a)に示すように、先行スペーサ5Aが取り付けられた一方の床版10を桁上に設置するとともに、他方の床版10の受部材2Bの対向壁28と一方の床版10の受部材2Aの対向壁28とが目地幅を介して対向するように、他方の床版10を桁上に設置する。
そして、
図12(b),
図12(c),
図14に示すように、他方の床版10の受部材2Bの対向壁28における左側対向壁28Lの外壁面62と先行スペーサ5Aの傾斜面5bとの間で形成された設置空間、及び、他方の床版10の受部材2Bの対向壁28における右側対向壁28Rと先行スペーサ5Aの傾斜面5bとの間で形成された設置空間に、それぞれ、後行スペーサ5Bを嵌入する。
即ち、一つの後行スペーサ5Bの面5aと他方の床版10の受部材2Bの左側対向壁28Lの外壁面62とを接触させるとともに、後行スペーサ5Bの傾斜面5bと先行スペーサ5Aの傾斜面5bとを接触させながら、当該一つの後行スペーサ5Bを下方に押し込んで、一つの後行スペーサ5Bを設置空間に嵌入させる。
同様に、もう一つの後行スペーサ5Bの面5aと他方の床版10の受部材2Bの右側対向壁28Rの外壁面63とを接触させるとともに、当該後行スペーサ5Bの傾斜面5bと先行スペーサ5Aの傾斜面5bとを接触させながら、当該後行スペーサ5Bを下方に押し込んで、当該後行スペーサ5Bを設置空間に嵌入させる。
即ち、後行スペーサ5B,5Bは、先行スペーサ5A,5Aの傾斜面5b,5bと接触する傾斜面5b,5b及び他方の受部材2Bの左側対向壁28Lの外壁面62及び右側対向壁28Rの外壁面63と接触する面5a,5aを有するように構成されている(12(c),
図14参照)。
以上により、互いに対向する左側対向壁28L,28Lの外壁面62,62間と、互いに対向する右側対向壁28R,28Rの外壁面63,63間とに、それぞれ、スペーサ5が設置される(
図12(c),
図14参照)。
【0050】
次に、
図13(a)に示すように、繋ぎ部材3の一方の挿入部31Aを一方の受部材2Aの凹部21Aに挿入するとともに、繋ぎ部材3の他方の挿入部31Bを他方の受部材2Bの凹部21Bに挿入して、一方の挿入部31Aの係合面となる内面31aと一方の受部材2Aの凹部21Aの対向壁28の内壁面28aとが面接触するように係合させた状態とすることにより、他方の挿入部31Bの対向面となる内面31bと他方の受部材2Bの凹部21Bの対向壁28の内壁面28bとの間に楔部材4を嵌入するための楔部材嵌入空間4uを形成する。
そして、
図13(b),
図13(c)に示すように、楔部材4を楔部材嵌入空間4uに嵌入する。即ち、楔部材4の傾斜面4aの全面が他方の挿入部31Bの内面31bに接触した状態で当該内面31bを摺動しながら当該内面31bを押圧するとともに、楔部材4の面(垂直面)4bの全面が凹部21Bの対向壁28の内壁面28bに接触した状態で当該内壁面28bを摺動しながら当該内壁面28bを押圧することによる、楔部材4の圧入動作によって、楔部材4の傾斜面4aの全面と他方の挿入部31Bの内面31bとが密着するとともに、楔部材4の面(垂直面)4bの全面と凹部21Bの対向壁28の内壁面28bとが密着する。
以上により、他方の挿入部31Bと他方の受部材2Bとが固定状態に結合されるとともに、一方の挿入部31Aと一方の受部材2Aとが互いに密着して固定状態に結合されて、互いに隣り合う床版10,10同士が連結されることになる。
また、繋ぎ部材3の挿入部31Bにおいて連結部32を挟んで左右に隣り合う一対の内面31b,31bにそれぞれ対応するように楔部材4,4が圧入されるので、各受部材2A,2Bと繋ぎ部材3との結合において、左右のバランスが良好な固定状態を維持できるようになる(
図14参照)。
【0051】
さらに、橋軸方向Xに沿って隣り合う床版10,10同士が継手1で連結された後、
図13(c)に示すように、凹部21A,21B内、及び、凹部21A,21Bと繋ぎ部材3の上方に目地材16を充填することにより、繋ぎ部材3の凹部21A,21Bからの抜け防止が図れるとともに、
図1に示すように、隣り合う床版10,10の端面11s,11s間の隙間である目地15に目地材16を充填することにより、互いに隣り合う床版10,10同士の接合が完了する。
【0052】
即ち、端面11s,11s同士が目地15となる隙間を介して互いに隣り合うように配置された各床版10,10同士を接続する実施形態2に係る床版10の接続方法において、スペーサ5を目地15となる隙間に設置するステップは、互いに対向する各受部材のうちの一方の受部材と接触した状態に先行スペーサ5Aを設置するステップと、先行スペーサ5Aと他方の受部材との間に上方から後行スペーサ5Bを嵌入するステップと、を備えた方法とした。
【0053】
実施形態3によれば、スペーサ5として、互いに対向する各受部材2A,2Bのうちの一方の受部材と接触した状態に設置された先行スペーサ5Aと、先行スペーサ5Aと他方の受部材との間に嵌入された楔部材として機能する後行スペーサ5Bとで構成されたスペーサ5を用いたので、目地15の幅寸法、即ち、互いに隣り合う各受部材2A,2Bの互いに対向する対向壁28,28間の寸法の増減に対応可能となる。
即ち、実施形態3によれば、床版10の製作精度や床版10の設置誤差などにより、目地15の幅寸法が一定ない場合であっても、先行スペーサ5Aと後行スペーサ5Bとで構成されたスペーサ5を用いたことによって、目地間隔を確保する機能、受部材2A,2B間の軸力伝達及び受部材2A,2Bへのプレストレス導入のための反力装置としての機能が効果的に発揮されて、受部材2A,2Bと繋ぎ部材3との堅固な一体化が可能となるため、継手1を用いて床版10,10同士を堅固に一体化できるとともに、床版10、継手1、目地部分に加わる応力を低減できて、床版10及び目地部分のひび割れの発生を抑制できるようになる。
さらに、互いに対向する各受部材2A,2Bの各左側対向壁28L,28Lの外壁面62,62間にスペーサ5が設けられたとともに、互いに対向する各受部材2A,2Bの各右側対向壁28R,28Rの外壁面63,63間にスペーサ5が設けられた構成としたので、目地間隔を確保する機能、受部材2A,2B間の軸力伝達及び受部材2A,2Bへのプレストレス導入のための反力装置としての機能がより効果的に発揮されて、受部材2A,2Bと繋ぎ部材3との堅固な一体化が可能となるとともに、受部材2A,2Bの左側対向壁28Lと側壁27との境界部66近傍、及び、受部材2A,2Bの右側対向壁28Rと側壁27との境界部66近傍の疲労破壊抑制機能を効果的に発揮できるようになる。
【0054】
実施形態4
実施形態1及び実施形態3において、スペーサ5の上下間の中央位置と対向壁28の上下間の中央位置とが一致、又は、ほぼ一致するように、スペーサ5を目地15に設置したり、あるいは、スペーサ5の上下間の中央位置と定着部23の上下間の中央位置とが一致、又は、ほぼ一致するように、スペーサ5を目地15に設置した。
即ち、互いに対向する受部材2Aと受部材2Bとの間に設置されたスペーサ5は、スペーサ5の上下の中央位置が、受部材2A,2Bの上下の中央位置、又は、当該受部材2A,2Bの上下の中央位置の近傍に位置されるように設置されたか、あるいは、スペーサ5の上下の中央位置が、定着部23の上下の中央位置、又は、当該定着部23の上下の中央位置の近傍に位置されるように設置された構成とした。
例えば、
図12,
図13に示すように、受部材2A,2Bの対向壁28,28の上下間の中央位置(即ち、対向壁28の上端28tと下端28uとの中間位置)と実施形態1のスペーサ5の上下間の中央位置とを通過する水平線が同一の水平線65となるように、スペーサ5が目地15に設置された構成とした。
また、
図12,
図13に示すように、受部材2A,2Bの対向壁28,28の上下間の中央位置(即ち、対向壁28の上端28tと下端28uとの中間位置)と実施形態3のスペーサ5の先行スペーサ5Aの上下間の中央位置とを通過する水平線が同一の水平線65となるように、スペーサ5が目地15に設置された構成とした。
実施形態4のように、実施形態1のスペーサ5や実施形態3のスペーサ5の先行スペーサ5Aの上下間の中央位置と対向壁28の上下間の中央位置とが一致、又は、ほぼ一致するように、実施形態1のスペーサ5や実施形態3のスペーサ5の先行スペーサ5Aが目地15に設置された構成とすれば、目地間隔を確保する機能、受部材2A,2B間の軸力伝達及び受部材2A,2Bへのプレストレス導入のための反力装置としての機能がより効果的に発揮されて、受部材2A,2Bと繋ぎ部材3との堅固な一体化が可能となる。
スペーサ5の上下間の中央位置と定着部23の上下間の中央位置とが一致、又は、ほぼ一致するように、スペーサ5を目地15に設置した場合には、上述したように、目地間隔を確保する機能、受部材2A,2B間の軸力伝達及び受部材2A,2Bへのプレストレス導入のための反力装置としての機能がより効果的に発揮されて、受部材2A,2Bと繋ぎ部材3との堅固な一体化が可能となるとともに、互いに隣り合う床版10,10間の軸力伝達機能がより向上するという効果が得られる。
【0055】
実施形態5
図15に示すように、繋ぎ部材3の一方の挿入部31Aを一方の受部材2Aの凹部21Aに挿入するとともに、繋ぎ部材3の他方の挿入部31Bを他方の受部材2Bの凹部21Bに挿入して、一方の挿入部31Aの対向面となる内面31aと一方の受部材2Aの凹部21Aの対向壁28の内壁面28aとの間に楔部材4を嵌入するための楔部材嵌入空間を形成するとともに、他方の挿入部31Bの対向面となる内面31bと他方の受部材2Bの凹部21Bの対向壁28の内壁面28bとの間に楔部材4を嵌入するための楔部材嵌入空間を形成する構成として、各楔部材嵌入空間に、それぞれ楔部材4を嵌入することにより、互いに隣り合う床版10,10同士を連結した構成としてもよい。
この場合、一方の受部材2Aの対向壁28の内壁面28aは、他方の受部材2Bの対向壁28の内壁面28bと同様に、垂直面に形成された構成とするとともに、繋ぎ部材3の一方の挿入部31Aの内面31aは、他方の挿入部31Bの内面31bと同様の傾斜面、即ち、上面3tから下面3uに向けて、下面3uに近付くほど、挿入部31Aの外面3fから離れるように傾斜する傾斜面に形成された構成とする。
【0056】
実施形態5によれば、実施形態1乃至実施形態4と同じ効果が得られるとともに、受部材2Aと他方の受部材2Bとを同じ形状にでき、部材コストを低減できる。
【0057】
実施形態6
実施形態1乃至実施形態5では、楔部材4を用いて繋ぎ部材3と受部材2A,2Bとを結合する構成の継手1を例示したが、繋ぎ部材と各受部材とを例えば特許文献1に開示されたようなボルト等の結合手段で結合する構成の継手であってもよい。
当該継手の場合、例えば
図16に示すように、各受部材2A,2Bの凹部21A,21Bに挿入される繋ぎ部材30の各挿入部30A,30Bは、当該挿入部30A,30Bを上下に貫通するボルト挿入孔36,36が形成された構成のものを用い、かつ、各受部材2A,2Bは、底版25,25の内底より突出するボス37,37が形成された構成のものを用いる。
また、各挿入部30A,30Bは、下面側にボス37,37が係合される係合凹部38,38を備えた構成のものを用いる。また、ボス37は、ボルト挿入孔36と連続して上下方向に貫通するボルト螺着孔39を備えた構成とする。
そして、一方の挿入部30Aの内面30aと一方の対向壁28の内面28aとが互いに面接触する一方傾斜面に形成されるとともに、他方の挿入部30Bの内面30bと他方の対向壁28の内面28bとが互いに面接触する他方傾斜面に形成され、一方傾斜面と他方傾斜面との間隔は、上端から下端に近付くにつれて漸次大きくなるように構成されている。
従って、繋ぎ部材30の各挿入部30A,30Bをそれぞれ対応する受部材2A,2Bの凹部21A,21Bに挿入して、一方の挿入部30Aの内面30aと一方の対向壁28の内面28aとを面接触させるとともに、係合凹部38に、他方の挿入部30Bの内面30aと他方の対向壁28の内面28bとを面接触させ、かつ、係合凹部38,38にボス37,37を係合させた状態とする。そして、各挿入部30A,30Bの各ボルト挿入孔36,36にそれぞれボルト35,35を挿入して、当該各ボルト35,35を受部材2A,2Bの各ボス37,37のボルト螺着孔39,39に締結することによって、繋ぎ部材30と各受部材2A,2Bとが結合される。当該継手の場合でも、ボルト35,35で繋ぎ部材30の各挿入部30A,30Bを各受部材2A,2Bに押込む際、繋ぎ部材30には水平方向の引張力が生じるので、互いに隣り合う各受部材2A,2Bの互いに対向する対向壁28,28間に上述したスペーサ5を設置することにより、実施形態1乃至実施形態5と同じ効果が得られるようになる。
【0058】
実施形態7
スペーサ5として、鋳物で形成されたスペーサを用いることが好ましい。例えば、球状黒鉛鋳鉄にょり形成されたスペーサを用いた。
実施形態7によれば、鋳物で形成されたスペーサを用いたので、耐候性に優れ、腐食抵抗性に優れたスペーサとなり、耐候性に優れ、腐食抵抗性に優れた接合構造を維持できるようになる。
【0059】
実施形態9
実施形態3のスペーサ5において、互いに接触する先行スペーサ5Aの傾斜面5b及び後行スペーサ5Bの傾斜面5bのうちの少なくとも一方の傾斜面が、目荒らしした面に形成された構成とすることで、先行スペーサ5Aの傾斜面5bと後行スペーサ5Bの傾斜面5bとの摩擦力が高くなることで、傾斜面5b,5b同士のずれを防止できるため、目地間隔を確保する機能、受部材2A,2B間の軸力伝達及び受部材2A,2Bへのプレストレス導入のための反力装置としての機能がより効果的に発揮されるようになり、受部材2A,2Bと繋ぎ部材3との堅固な一体化が可能となる。
【0060】
実施形態10
上述した先行スペーサ5Aと後行スペーサ5Bとで構成されるスペーサ5においては、後行スペーサ5Bを、先行スペーサ5Aの傾斜面5bと対向壁28との間に上方から押し込んで嵌入する構成としたが、当該構成の場合、嵌入された後行スペーサ5Bが上方に抜ける可能性がある。
そこで、
図17乃至
図19に示すような構成のスペーサ5とした。
即ち、先行スペーサ5Aは、傾斜面5bから内部まで到達するねじ螺着孔52を備えた構成とし、後行スペーサ5Bは、上面から傾斜面5bまで到達するねじ貫通孔51を備えた構成とした。当該ねじ貫通孔51は、傾斜面5bの傾斜方向に沿った方向の長さが、ねじ螺着孔52の傾斜面5bの傾斜方向に沿った方向の長さよりも長い長孔に形成した。
以上の構成のスペーサ5によれば、先行スペーサ5Aを設置した後に、後行スペーサ5Bが、先行スペーサ5Aの傾斜面5bと対向壁28との間に設置され、ねじ貫通孔51とねじ螺着孔52とが連続するように先行スペーサ5Aの傾斜面5bと後行スペーサ5Bの傾斜面5bとが接触した状態で、ねじ53がねじ貫通孔51を通過してねじ螺着孔52に締結されたことにより、先行スペーサ5Aと後行スペーサ5Bとが連結される。
【0061】
即ち、実施形態10に係るスペーサ5は、先行スペーサ5Aは、傾斜面5bから内部まで到達するねじ螺着孔52を備え、後行スペーサ5Bは上面から傾斜面5bまで到達するねじ貫通孔51を備え、ねじ貫通孔51は、傾斜面5bの傾斜方向に沿って長い長孔に形成された構成とし、ねじ貫通孔51とねじ螺着孔52とが連続するように先行スペーサ5Aの傾斜面5bと後行スペーサ5Bの傾斜面5bとが接触した状態で、ねじ53がねじ貫通孔51を通過してねじ螺着孔52に締結されたことにより、先行スペーサ5Aと後行スペーサ5Bとが連結されるように構成されたスペーサとした。
【0062】
実施形態10に係るスペーサ5によれば、先行スペーサ5Aと後行スペーサ5Bとがねじ53で連結されるため、後行スペーサ5Bが上方に抜けてしまうようなことを防止できる。
また、後行スペーサ5Bが、傾斜面5bの傾斜方向に沿って長い長孔に形成されたねじ貫通孔51を備えたので、例えば
図19に示す先行スペーサ5Aの傾斜面5bと対向壁28の外壁面62,63との間の間隔が一定にならない場合でも、ねじ53をねじ螺着孔52に締め付けて行くことによって、後行スペーサ5Bが傾斜面5bに沿って下方に移動して、後行スペーサ5Bの傾斜面5bと先行スペーサ5Aの傾斜面5bとを密着させるとともに、後行スペーサ5Bの面5aと対向壁28の外壁面62,63とを密着させた状態にでき、その後、ねじ53を完全に締結することによって、後行スペーサ5Bを、先行スペーサ5Aの傾斜面5bと対向壁28との間に確実に嵌入できるようになり、この嵌入状態を維持できるようになる。
従って、目地間隔を確保する機能、受部材2A,2B間の軸力伝達及び受部材2A,2Bへのプレストレス導入のための反力装置としての機能がより効果的に発揮されて、受部材2A,2Bと繋ぎ部材3との堅固な一体化が可能となる。
【0063】
尚、各実施形態においては、互いに隣り合う各受部材の互いに対向する各受部材の対向壁間にスペーサを設置した構成としたが、目地における対向壁間以外の位置にスペーサを設置するようにしてもよい。即ち、目地に、橋軸直角方向(橋幅方向)Yに沿って所定の間隔を隔てて複数のスペーサを配置して設置するようにしてもよい。
【0064】
また、スペーサは、上述した鋼製、鋳物以外のスペーサを用いても構わない。
また、スペーサは、ヤング係数が目地材よりも大きい固形物であることが好ましいが、ヤング係数が目地材と同じ固形物、又は、ヤング係数が目地材よりも若干小さい固形物であってもよい。
【0065】
また、本発明に係るコンクリート部材の接続構造に使用する継手は、上述した構成以外の継手であっても構わない。
【0066】
また、コンクリート部材は、床版以外のコンクリート部材であっても良い。
【符号の説明】
【0067】
1 継手、2A,2B 受部材、3 繋ぎ部材、4 楔部材(結合手段)、
5 スペーサ、5A 先行スペーサ、5B 後行スペーサ、
10 床版(コンクリート部材)、11 床版の端部、
11s 床版の端面、15 目地、16 目地材、21A,21B 凹部、
23 定着部、31A,31B 挿入部、32 連結部。