(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】発進口の形成方法および発進口構造
(51)【国際特許分類】
E21D 9/06 20060101AFI20231122BHJP
【FI】
E21D9/06 311Z
E21D9/06 301E
(21)【出願番号】P 2020059555
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2022-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村中 浩昭
(72)【発明者】
【氏名】土居 武
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-345791(JP,A)
【文献】特開2018-003264(JP,A)
【文献】特開2003-129790(JP,A)
【文献】特開平08-210083(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小口径の垂直鋼製立坑の側壁から、斜め下方の本管に向けて推進管を発進させるための発進口の形成方法であって、
前記側壁に、前記推進管よりも口径の大きなガイド管を挿入するための坑口を形成する工程と、
前記ガイド管を、前記坑口から圧入させる工程と、
圧入された前記ガイド管と前記坑口との隙間に、止水用の第1間詰め材を充填する工程と、
前記ガイド管の内部を掘削する工程と、
前記ガイド管の先端に、前記推進管を挿通させるための挿通孔を有する止水用パッキンを取り付ける工程と、
圧入させた前記ガイド管を、前記垂直鋼製立坑の側壁面に沿って楕円形に切断する工程と、
を含む発進口の形成方法。
【請求項2】
前記発進口の周囲の地盤および前記本管の周囲の地盤に、地盤改良剤を注入する工程をさらに含む請求項
1に記載の発進口の形成方法。
【請求項3】
前記第1間詰め材は、セメントおよびモルタルの少なくともいずれかを含む請求項1
または2に記載の発進口の形成方法。
【請求項4】
前記止水用パッキンは、ゴムリングを含んで構成される請求項1~
3のいずれか1項に記載の発進口の形成方法。
【請求項5】
前記推進管を、前記挿通孔から、圧入する工程をさらに含む請求項1~
4のいずれか1項に記載の発進口の形成方法。
【請求項6】
前記ガイド管と前記推進管との隙間に第2間詰め材を充填する工程をさらに含む請求項1~
5のいずれか1項に記載の発進口の形成方法。
【請求項7】
前記第2間詰め材は、セメントおよびモルタルの少なくともいずれかを含む請求項
6に記載の発進口の形成方法。
【請求項8】
小口径の垂直鋼製立坑の側壁から、斜め下方の本管に向けて推進管を発進させるための発進口構造であって、
前記側壁に、前記推進管よりも口径の大きなガイド管を挿入するための坑口を形成する工程と、
前記ガイド管を、前記坑口から圧入させる工程と、
圧入された前記ガイド管と前記坑口との隙間に、止水用の第1間詰め材を充填する工程と、
前記ガイド管の内部を掘削する工程と、
前記ガイド管の先端に、前記推進管を挿通させるための挿通孔を有する止水パッキンを設置する工程と、
圧入させた前記ガイド管を、前記垂直鋼製立坑の側壁面に沿って楕円形に切断する工程と、
を含む発進口の形成方法によって形成される発進口構造。
【請求項9】
前記ガイド管の内部を掘削することによって形成される切羽面が、前記ガイド管の圧入方向に対して垂直な面となっている請求項
8に記載の発進口構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発進口の形成方法および発進口構造に関し、特に、立坑の側壁から本管に向けて推進管を発進させるための発進口の形成方法および発進口構造に関する。
【背景技術】
【0002】
上記技術分野において、特許文献1には、立坑の側壁から本管へ向けて水平に推進管を発進させる工法であって、推進管差込用空間を形成するための筒状体を地中に設置して、設置した筒状体の内部に推進管を差し込んで、推進させる工法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の工法は、推進管を立坑の底面に水平に配置して、推進させる工法であり、所定以上の長さの推進管を推進させる場合には、立坑の口径に応じた長さの複数の推進管を順次筒状体を送り込まなければならなかった。そのため、特許文献1に記載の工法では、立坑と本管との間の距離に応じた長さの推進管を用いるためには、用いられる推進管の長さに応じた口径の立坑を形成しなければならなかった。よって、地上建物や地下構造物の配置条件によっては、所望長さの推進管を用いて、立坑と本管とを接続することができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明に係る発進口の形成方法は、
小口径の垂直鋼製立坑の側壁から、斜め下方の本管に向けて推進管を発進させるための発進口の形成方法であって、
前記側壁に、前記推進管よりも口径の大きなガイド管を挿入するための坑口を形成する工程と、
前記ガイド管を、前記坑口から圧入させる工程と、
圧入された前記ガイド管と前記坑口との隙間に、止水用の第1間詰め材を充填する工程と、
前記ガイド管の内部を掘削する工程と、
前記ガイド管の先端に、前記推進管を挿通させるための挿通孔を有する止水パッキンを取り付ける工程と、
を含む。
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る発進口構造は、
小口径の垂直鋼製立坑の側壁から、斜め下方の本管に向けて推進管を発進させるための発進口構造であって、
前記側壁に、前記推進管よりも口径の大きなガイド管を挿入するための坑口を形成する工程と、
前記ガイド管を、前記坑口から圧入させる工程と、
圧入された前記ガイド管と前記坑口との隙間に、止水用の第1間詰め材を充填する工程と、
前記ガイド管の内部を掘削する工程と、
前記ガイド管の先端に、前記推進管を挿通させるための挿通孔を有する止水パッキンを設置する工程と、
を含む発進口の形成方法によって形成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の発進口の形成方法によれば、地上建物や地下構造物の配置条件によらず、所望の長さの推進管を用いて、立坑と本管とを接続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の好ましい一実施形態に係る発進口の形成方法の概要を説明するための(a)上面模式図、(b)A-A’線断面模式図である。
【
図2】本発明の好ましい一実施形態に係る発進口の形成方法の手順を説明するための図である。
【
図3】本発明の好ましい一実施形態に係る発進口の形成方法に用いられる止水用パッキンの構成を説明するための図である。
【
図4】本発明の好ましい一実施形態に係る発進口の形成方法により形成される発進口を説明するための斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、
図1~
図5を参照して、本実施形態に係る発進口の形成方法について説明する。
図1を参照すると、本実施形態に係る発進口の形成方法は、地盤10に掘削された小口径の垂直鋼製立坑10aの側壁10cから、斜め下方に設けられた本管17に向けて推進管15を発進させるための発進口10bの形成方法である。
【0010】
発進口10bから発進された推進管15は、地盤10の中を進み、本管17に到達し、本管17と垂直鋼製立坑10aとを連結させる。本管17および発進口10bは、地下水19よりも低い位置にあるため、垂直鋼製立坑10aと本管17との中間地点付近を、推進管15が推進している間に地下水19が逆流する可能性がある。そのため、発進口10bの周囲の地盤10および本管17の周囲の地盤10には、地盤改良剤18が注入されている。なお、垂直鋼製立坑10aと本管17との中間地点付近は、地盤改良剤18が届かないため、改良地盤が途中で途切れている。
【0011】
次に、
図2(a)~(h)を参照して、本実施形態に係る発進口の形成方法の手順を説明する。
【0012】
<
図2(a)>
まず、垂直鋼製立坑10aの周囲の地盤10および本管17の推進管15の到達部周囲の地盤10に地盤改良剤18を注入し、垂直鋼製立坑10aの側壁10cを楕円形に溶断して坑口としての発進口10bを形成する。なお、発進口10bの長径および短径の大きさは、ガイド管11が挿入可能な大きさとなっている。ガイド管11の口径は、推進管15の口径よりも大きい。ここで、ガイド管11の口径は、φ900であり、推進管15の口径は、φ700であるが、ガイド管11および推進管15の口径は、これらには限定されない。
【0013】
側壁10cを楕円形に溶断するのは、後に、円筒形状のガイド管11を斜め下に向けて推進させるためのである。すなわち、所定長さを有するガイド管11および推進管15は、小口径の垂直鋼製立坑10aには、水平状態で入れることができない。したがって、ガイド管11および推進管15を、小口径の垂直鋼製立坑10aの中に入れるためには、斜めにした状態でしか入れられない。円筒形状のガイド管11を斜めにした状態で、垂直鋼製立坑10aの側壁10cから地盤10に挿入すると、側壁10cには、楕円形状の穴が開くことになる。よって、垂直鋼製立坑10aの側壁10cに、ガイド管11を通すための穴として、楕円形状の発進口10bを予め設けている。
【0014】
なお、側壁10cを楕円形状にくり抜いて発進口10bを設けると、発進口10bは、地下水19よりも低い位置にあるため、そのままの状態では、地下水19が、垂直鋼製立坑190aに逆流する可能性がある。よって、発進口10bを設ける前に、地盤改良剤18を地盤10に注入して発進口10bの周囲の地盤10を改良しておく方が好ましい。同様に、本管17も地下水19よりも低い位置にあるため、本管17の推進管15の到達部周辺の地盤10も、予め地盤改良しておかないと、推進管15が本管17まで貫通した際に、地下水19が、本管17の中に逆流する可能性がある。
【0015】
<
図2(b)>
次に、ガイド管11を、形成された発進口10bから圧入させる。ガイド管11は、斜め下に向けた状態で、発進口10bに挿入され、所定長さ圧入されたところで、ガイド管11の圧入が停止される。ガイド管11の圧入長さは、例えば、地盤改良剤18により地盤10が改良されている範囲内にガイド管11の先端部が留まる程度の長さであるが、これには限定されない。
【0016】
<
図2(c)>
ガイド管11を発進口10bから圧入させたら、圧入されたガイド管11と発進口10bとの間に、止水用の間詰め材12を充填する。間詰め材12は、セメントおよびモルタルの少なくともいずれかを含むが、ガイド管11と発進口10bとの隙間からの地下水19の流入を阻止できる材料であれば、いずれの材料であってもよい。なお、間詰め材12は、部材と部材との間に充填される材料であり、ここでは、ガイド管11と発進口10bとの間に塗り込められる材料である。
【0017】
<
図2(d)>
間詰め材12の充填が終了したら、ガイド管11の内部を掘削する。ガイド管11の内部の掘削は、掘削機13により行われ、圧入したままのガイド管11の内部にある地盤10を掘削機13により掻き出す。掘削機13は、例えば、スクリューオーガーであり、スクリューオーガーを電動または油圧モータなどの駆動により回転させて、スクリューオーガーの先端部で掘削した土砂を排出しながら地盤10の掘削を進める機械である。なお、掘削機13は、地盤10を掘削できる機械であれば、スクリューオーガーには限定されず、例えば、手作業で掘削することもできる。
【0018】
<
図2(e)>
ガイド管11の内部の掘削が終わったら、ガイド管11を垂直鋼製立坑10aの側壁面に沿って切断する。具体的には、垂直鋼製立坑10aの側壁面に沿って、地盤10に圧入されたガイド管11のうち、垂直鋼製立坑10aの内部に突出している突出部11aを切断する。ここで、突出部11aは、ガイド管11のうち、地盤10に圧入され、埋設されていない部分であり、垂直鋼製立坑10aの内部で露出している部分である。このように、ガイド管11の突出部11aを側壁面に沿って切断することにより、推進管15をガイド管11の内部に挿通させる際に、スムーズに推進管15を案内することができる。
【0019】
<
図2(f)>
ガイド管11の先端に、推進管15を挿通させるための挿通孔14cを有する止水用パッキン14を取り付ける。推進管15は、ガイド管11よりも口径が小さいため、推進管15を推進させると、ガイド管11と推進管15との隙間から、地下水19が逆流する可能性がある。特に、発進口10bと本管17との中間点付近においては、地盤改良剤18による地盤改良が不十分な区域があるためである。そのため、ガイド管11の先端部分に止水用パッキン14を取り付けることにより、地下水19の流入を防止している。ここで、止水用パッキン14は、ゴム製のパッキンであるため、推進管15を挿通孔14cに挿通させた際に、推進管15と止水用パッキン14とが隙間なく密着するため、地下水19の逆流を効果的に防止できる。
【0020】
<
図2(g)>
推進管15を、挿通孔14cから圧入する。推進管15の外径と挿通孔14cの径とはほぼ同じ大きさであり、推進管15を挿通孔14cに挿通すると、推進管15と止水用パッキン14とが密着した状態で、推進管15が、地盤10に圧入される。推進管15は、推進機23により地盤10に圧入され、地盤10を掘削しながら推進する。
【0021】
<
図2(h)>
推進管15を本管17に到達するように、圧入する際に、ガイド管11と推進管15との隙間に間詰め材16を充填しておくことが望ましい。つまり、推進管15は、止水用パッキン14の挿通孔14cを挿通されるので、地下水19の逆流が起こる可能性は低いが、間詰め材16を充填させておくことで、止水用パッキン14を間詰め材16により支持できるので、防水効果がより顕著となる。そして、推進管15が、本管17に到達したら、推進管15の圧入を停止する。なお、間詰め材16は、
図2(g)のタイミングで充填してもよい。なお、間詰め材16は、セメントおよびモルタルの少なくともいずれかを含むが、ガイド管11と推進管15との隙間からの地下水の流入を阻止できる材料であれば、いずれの材料であってもよい。
【0022】
次に、
図3および
図4を参照して、発進口10bおよび止水用パッキン14の構造について説明する。止水用パッキン14は、ゴムリング14aと金属リング14bとを含んで構成されている。止水用パッキン14は、断面で見ると、円形平板状のゴムリング14aの周縁部を、断面形状がコの字形状の金属リング14bが、上下から挟持する形状となっている。このようにして、ゴムリング14aの外周部に金属リング14bが取り付けられる。
【0023】
金属リング14bは、2枚の円環板状の金属が所定の距離をおいて向かい合わせられるように配置されている。ゴムリング14aは、金属リング14bに嵌め込まれているが、例えば、接着剤等を追加して補強してもよい。
【0024】
止水用パッキン14は、溶接により、ガイド管11に接合さている。つまり、ガイド管11と止水用パッキン14の金属リング14bとが溶接により、接合部20で接合されることにより、ガイド管11の先端に取り付けられる。
【0025】
ゴムリング14aは、円形板状のゴム部材であり、中央に推進管15が挿通される挿通孔14cが設けられている。挿通孔の大きさは、挿通される推進管15の口径に応じて決定される。止水用パッキン14は、ガイド管11が発進口10bにセットされた後に、ガイド管11の先端部に取り付けられる。止水用パッキン14は、金属リング14bとガイド管11とが溶接により、接合部20で接合される。なお、金属リング14bとガイド管11との接合は、溶接には限定されない。止水用パッキン14は、ガイド管11の内部を掘削することにより形成される切羽面21と平行となっている。
【0026】
すなわち、本実施形態に係る発進口10bの形成方法は、このような切羽面21を形成することを可能とするものである。このような切羽面21を形成しておけば、推進管15を切羽面21に対して垂直となるように圧入させれば、小口径の垂直鋼製立坑10aからであっても、所望長さの推進管15を本管17まで到達させることができる。つまり、口径が小さく、推進管15を垂直鋼製立坑10aの中に水平に入れることができない場合であっても、切羽面21を形成しておけば、推進管15を斜めに入れることができるので、垂直鋼製立坑10aの口径に左右されずに推進管15を埋設できる。
【0027】
ここで、
図4は、発進口10bを正面から見た斜視図である。なお、
図4においては、ガイド管11の突出部11aは、切断されている。そして、ガイド管11の先端には、止水用パッキン14が取り付けられている。ゴムリング14aの中央には、挿通孔14cが設けられている。止水用パッキン14においては、ゴムリング14aの周縁部を取り囲むように金属リング14bが取り付けられている。そして、挿通孔14cの先には、切羽面21が見えている。ガイド管11は、
図4の上方から下方に向かって、斜め下方向に圧入されるが、切羽面21は、ガイド管11が圧入された圧入方向に対して垂直な面となっている。止水用パッキン14は、切羽面21に対して平行となっており、推進管15を挿通孔14cに挿通させれば、推進管15は、切羽面21に対して垂直に推進されることとなる。なお、地盤改良剤18は、注入口22から注入される。
【0028】
本実施形態によれば、地上建物や地下構造物の配置条件によらず、所望の長さの推進管を用いて、立坑と本管とを接続することができる。また、小口径の垂直鋼製立坑であっても、推進管を所定の位置まで案内するガイド管を挿入するための坑口を立坑の側壁に形成して、ガイド管を埋設するので、所望の長さの推進管を本管まで到達させることができる。また、ガイド管と垂直鋼製立坑との間、およびガイド管と推進管との間に間詰め材を充填するので、地下水の逆流を確実に防止できる。さらに、ガイド管の先端に止水用パッキンを取り付けるので、同様に地下水の逆流を確実に防止できる。さらにまた、立坑の周囲の地盤と本管の周囲の地盤とに地盤改良剤を注入するので、地下水の逆流を確実に防止できる。
【符号の説明】
【0029】
10 地盤
10a 垂直鋼製立坑
10b 発進口
10c 側壁
11 ガイド管
11a 突出部
12 間詰め材
13 掘削機
14 止水用パッキン
14a ゴムリング
14b 金属リング
14c 挿通孔
15 推進管
16 間詰め材
17 本管
18 地盤改良剤
19 地下水
20 接合部
21 切羽面
22 注入口
23 推進機