(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】信号処理装置、信号処理方法、および信号処理システム
(51)【国際特許分類】
G01S 7/36 20060101AFI20231122BHJP
G01S 7/40 20060101ALI20231122BHJP
G01S 13/28 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
G01S7/36
G01S7/40 195
G01S7/40 191
G01S13/28
(21)【出願番号】P 2020131802
(22)【出願日】2020-08-03
【審査請求日】2022-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118876
【氏名又は名称】鈴木 順生
(74)【代理人】
【識別番号】100206243
【氏名又は名称】片桐 貴士
(72)【発明者】
【氏名】五味 宏一郎
(72)【発明者】
【氏名】青木 朝海
(72)【発明者】
【氏名】山口 恵一
【審査官】佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-106058(JP,A)
【文献】特開2019-219315(JP,A)
【文献】特開2008-157794(JP,A)
【文献】特開平05-223919(JP,A)
【文献】特開2014-025914(JP,A)
【文献】国際公開第2018/122900(WO,A1)
【文献】特開平04-121683(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0279307(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42
G01S 13/00-13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変調パルス信号である送信波に対する反射波に基づく受信信号を取得する受信部と、
前記反射波に干渉する干渉波に関するデータに基づき、第1参照信号を生成し、
前記受信信号を前記第1参照信号でパルス圧縮して第1圧縮信号を生成し、
前記送信波に関するデータに基づき、第2参照信号を生成し、
前記受信信号を前記第2参照信号でパルス圧縮して第2圧縮信号を生成し、
前記第1圧縮信号の出力値に基づき、干渉を検出し、
前記第1圧縮信号において検出された干渉の位置に基づき、前記第2圧縮信号における干渉範囲を算出し、
前記干渉範囲内において前記第2圧縮信号の出力値を修正する処理部と、
を備え、
前記処理部は、前記受信信号において干渉信号が含まれる範囲の始点よりも、前記第2圧縮信号のパルス長以上前に、前記干渉範囲の始点を設定する、
信号処理装置。
【請求項2】
変調パルス信号である送信波に対する反射波に基づく受信信号を取得する受信部と、
前記反射波に干渉する干渉波に関するデータに基づき、第1参照信号を生成し、
前記受信信号を前記第1参照信号でパルス圧縮して第1圧縮信号を生成し、
前記送信波に関するデータに基づき、第2参照信号を生成し、
前記受信信号を前記第2参照信号でパルス圧縮して第2圧縮信号を生成し、
前記第1圧縮信号の出力値に基づき、干渉を検出し、
前記第1圧縮信号において検出された干渉の位置に基づき、前記第2圧縮信号における干渉範囲を算出し、
前記干渉範囲内において前記第2圧縮信号の出力値を修正する処理部と、
を備え、
前記処理部は、前記受信信号において干渉信号が含まれる範囲の始点において前記第1圧縮信号の出力値が極値となるように第1圧縮信号を生成し、
前記処理部は、前記第1圧縮信号の出力値が所定値を超えた時点よりも、前記第2圧縮信号のパルス長以上前に、前記干渉範囲の始点を設定する、
信号処理装置。
【請求項3】
前記処理部は、前記干渉波のパルス長と、前記送信波のパルス長と、にさらに基づき、前記干渉範囲を決定する
請求項1
または2に記載の信号処理装置。
【請求項4】
前記処理部は、前記第2圧縮信号の前記干渉範囲内の出力値を所定値に置き換える
請求項1ないし
3のいずれか一項に記載の信号処理装置。
【請求項5】
前記処理部は、前記第2圧縮信号の前記干渉範囲内の出力値を削除し、削除された前記第2圧縮信号以後の、干渉が検出されなかった第1圧縮信号に対応する第2圧縮信号の前記干渉範囲内の出力値に割り当てられた通し番号を繰り上げる
請求項1ないし
3のいずれか一項に記載の信号処理装置。
【請求項6】
前記処理部は、干渉が検出された第1圧縮信号に対応する第2圧縮信号の前記干渉範囲内の出力値を、干渉が検出されなかった第1圧縮信号に対応する第2圧縮信号の前記干渉範囲内の出力値または当該出力値に基づく演算値に置き換える
請求項1ないし
3のいずれか一項に記載の信号処理装置。
【請求項7】
前記処理部は、修正された第2圧縮信号に基づき、反射波に関するパラメータを算出する、
請求項1ないし
6のいずれか一項に記載の信号処理装置。
【請求項8】
前記処理部は、受信された時点が異なる複数の受信信号それぞれから生成された複数の第2圧縮信号から前記複数の第2圧縮信号の相関関数を算出し、算出された相関関数に基づいて反射波に関するパラメータを算出する
請求項
7に記載の信号処理装置。
【請求項9】
前記処理部は、受信された時点が異なる複数の受信信号それぞれから生成された複数の第2圧縮信号の出力値から、前記複数の第2圧縮信号の相関関数を算出し、算出された相関関数に基づいて前記反射波に関するパラメータを算出し、
前記干渉範囲内において前記第2圧縮信号の出力値を所定値に置き換え、
前記相関関数の算出において、前記所定値に置き換えられた前記第2圧縮信号の出力値を省略して前記相関関数を算出する
請求項1ないし
3のいずれか一項に記載の信号処理装置。
【請求項10】
前記処理部は、受信された時点が異なる複数の受信信号それぞれから生成された複数の第2圧縮信号の出力値から、前記複数の第2圧縮信号の相関関数を算出し、算出された相関関数に基づいて前記反射波に関するパラメータを算出し、
前記干渉範囲内において前記第2圧縮信号の出力値を削除し、削除された前記第2圧縮信号以後の、干渉が検出されなかった第1圧縮信号に対応する第2圧縮信号の前記干渉範囲内の出力値に割り当てられた通し番号を繰り上げる、
前記相関関数の算出において、割り当てられた通し番号が繰り上げられた出力値と、割り当てられた通し番号が繰り上げられなかった出力値と、の積算部分を省略して前記相関関数を算出する
請求項1ないし
3のいずれか一項に記載の信号処理装置。
【請求項11】
前記処理部は、修正された第2圧縮信号に基づき、反射波に関するパラメータを算出し、
干渉が検出された第1圧縮信号に対応する第2圧縮信号の前記干渉範囲内の出力値を、(1)所定値に置き換えるか、
(2)前記第2圧縮信号の前記干渉範囲内の出力値を削除して、削除された前記第2圧縮信号以後の、干渉が検出されなかった第1圧縮信号に対応する第2圧縮信号の前記干渉範囲内の出力値に割り当てられた通し番号を繰り上げるか、
(3)干渉が検出されなかった第1圧縮信号に対応する第2圧縮信号の前記干渉範囲内の出力値または当該出力値に基づく演算値に置き換えるか、
の少なくとも二つを実行して複数の修正された第2圧縮信号を生成し、
前記複数の修正された第2圧縮信号のいずれかを選択して、前記パラメータを算出する 請求項1ないし
3のいずれか一項に記載の信号処理装置。
【請求項12】
前記干渉波に関するデータは、前記干渉波の発生源から取得されたものである
請求項1ないし
11のいずれか一項に記載の信号処理装置。
【請求項13】
前記処理部は、前記干渉波に関するデータまたは前記第1参照信号を正解データとして用いて、前記受信信号から前記干渉波に関するデータまたは前記第1参照信号を生成するモデルを生成する
請求項1ないし
12のいずれか一項に記載の信号処理装置。
【請求項14】
前記処理部は、複数の第1圧縮信号において検出された干渉の位置が一致しているか否か、または、前記送信波のパルス繰り返し周波数と前記干渉波のパルス繰り返し周波数が一致しているか否かに応じて、前記送信波のパルス繰り返し周波数および前記干渉波のパルス繰り返し周波数が一致していることを示す情報、前記送信波のパルス繰り返し周波数の変更に関する情報、または前記干渉波のパルス繰り返し周波数の変更に関する情報を出力する
請求項1ないし
13のいずれか一項に記載の信号処理装置。
【請求項15】
変調パルス信号である送信波に対する反射波に基づく受信信号を取得するステップと、
前記反射波に干渉する干渉波に関するデータに基づき、第1参照信号を生成するステップと、
前記受信信号を前記第1参照信号でパルス圧縮して第1圧縮信号を生成するステップと、
前記送信波に関するデータに基づき、第2参照信号を生成するステップと、
前記受信信号を前記第2参照信号でパルス圧縮して第2圧縮信号を生成するステップと、
前記第1圧縮信号の出力値に基づき、干渉を検出するステップと、
前記第1圧縮信号において検出された干渉の位置に基づき、前記第2圧縮信号における干渉範囲を算出するステップと、
前記干渉範囲内において前記第2圧縮信号を修正するステップと、
を備え、
前記干渉範囲を算出するステップは、前記受信信号において干渉信号が含まれる範囲の始点よりも、前記第2圧縮信号のパルス長以上前に、前記干渉範囲の始点を設定する、
信号処理方法。
【請求項16】
変調パルス信号である送信波に対する反射波に基づく受信信号を取得するステップと、
前記反射波に干渉する干渉波に関するデータに基づき、第1参照信号を生成するステップと、
前記受信信号を前記第1参照信号でパルス圧縮して第1圧縮信号を生成するステップと、
前記送信波に関するデータに基づき、第2参照信号を生成するステップと、
前記受信信号を前記第2参照信号でパルス圧縮して第2圧縮信号を生成するステップと、
前記第1圧縮信号の出力値に基づき、干渉を検出するステップと、
前記第1圧縮信号において検出された干渉の位置に基づき、前記第2圧縮信号における干渉範囲を算出するステップと、
前記干渉範囲内において前記第2圧縮信号を修正するステップと、
を備え、
前記第1圧縮信号を生成するステップは、前記受信信号において干渉信号が含まれる範囲の始点において前記第1圧縮信号の出力値が極値となるように第1圧縮信号を生成し、
前記干渉範囲を算出するステップは、前記第1圧縮信号の出力値が所定値を超えた時点よりも、前記第2圧縮信号のパルス長以上前に、前記干渉範囲の始点を設定する、
信号処理方法。
【請求項17】
変調パルス信号である第1電波を送信して前記第1電波の反射波を受信する第1レーダ装置と、
変調パルス信号である第2電波を送信する第2レーダ装置と、を備えた信号処理システムであって、
前記第1レーダ装置は、
前記反射波を受信して受信信号を取得する受信部と、
前記第2電波に関するデータに基づき、第1参照信号を生成し、
前記受信信号を前記第1参照信号でパルス圧縮して第1圧縮信号を生成し、
前記第1電波に関するデータに基づき、第2参照信号を生成し、
前記受信信号を前記第2参照信号でパルス圧縮して第2圧縮信号を生成し、
前記第1圧縮信号の出力値に基づき、干渉を検出し、
前記第1圧縮信号において検出された干渉の位置に基づき、前記第2圧縮信号における干渉範囲を算出し、
前記干渉範囲内において前記第2圧縮信号の出力値を修正する処理部と、
を備え
前記処理部は、前記受信信号において干渉信号が含まれる範囲の始点よりも、前記第2圧縮信号のパルス長以上前に、前記干渉範囲の始点を設定する、
信号処理システム。
【請求項18】
変調パルス信号である第1電波を送信して前記第1電波の反射波を受信する第1レーダ装置と、
変調パルス信号である第2電波を送信する第2レーダ装置と、を備えた信号処理システムであって、
前記第1レーダ装置は、
前記反射波を受信して受信信号を取得する受信部と、
前記第2電波に関するデータに基づき、第1参照信号を生成し、
前記受信信号を前記第1参照信号でパルス圧縮して第1圧縮信号を生成し、
前記第1電波に関するデータに基づき、第2参照信号を生成し、
前記受信信号を前記第2参照信号でパルス圧縮して第2圧縮信号を生成し、
前記第1圧縮信号の出力値に基づき、干渉を検出し、
前記第1圧縮信号において検出された干渉の位置に基づき、前記第2圧縮信号における干渉範囲を算出し、
前記干渉範囲内において前記第2圧縮信号の出力値を修正する処理部と、
を備え
前記処理部は、前記受信信号において干渉信号が含まれる範囲の始点において前記第1圧縮信号の出力値が極値となるように第1圧縮信号を生成し、
前記処理部は、前記第1圧縮信号の出力値が所定値を超えた時点よりも、前記第2圧縮信号のパルス長以上前に、前記干渉範囲の始点を設定する、
信号処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、信号処理装置、信号処理方法、および信号処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ゲリラ豪雨、竜巻などといった局所的気象現象による被害が増大している。そのため、当該現象の発生を事前に予測するために用いられる気象レーダのニーズが非常に高まっている。特に、フェーズドアレイタイプの気象レーダは、従来のパラボラタイプの気象レーダに比べて観測時間が30秒程度と短く、雨雲の3次元立体構造の観測も可能とするため、当該現象の早期発見を実現するものと期待されている。
【0003】
しかし、干渉の観点では、フェーズドアレイ気象レーダは、従来のパラボラタイプの気象レーダよりも問題を有する。フェーズドアレイ気象レーダは、パラボラ気象レーダに比べて送信ビーム幅が広いファンビームを用いる。そのため、フェーズドアレイ気象レーダを用いると、パラボラ気象レーダを用いる場合よりも干渉の発生頻度が高まり、気象観測の精度が劣化することが危惧されている。
【0004】
このような問題に対し、観測対象からの反射波に基づく信号から干渉に係る成分を検出して除去することにより、当該信号に基づく観測精度の劣化を抑える技術が提案されているが、観測精度の劣化をさらに抑える技術が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-219315号公報
【文献】特許第5355322号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】深尾昌一郎、他1名、「気象と大気のレーダーリモートセンシング」、京都大学学術出版会、平成17年3月、<http://hdl.handle.net/2433/49766>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一実施形態の信号処理装置は、観測精度の劣化を従来より抑える。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様としての信号処理装置は、受信部、第1生成部、第1圧縮部、第2生成部、第2圧縮部、検出部、算出部、および干渉除去部、を備える。受信部は送信波に対する反射波に基づく受信信号を取得し、第1生成部は干渉波のデータに基づいて第1参照信号を生成し、第1圧縮部は受信信号を第1参照信号でパルス圧縮して第1圧縮信号を生成し、第2生成部は送信波のデータに基づいて第2参照信号を生成し、第2圧縮部は受信信号を第2参照信号でパルス圧縮して第2圧縮信号を生成し、検出部は第1圧縮信号の出力値に基づいて干渉を検出し、算出部は第1圧縮信号において検出された干渉の位置に基づいて第2圧縮信号における干渉範囲を算出し、干渉除去部は第2圧縮信号の干渉範囲内において前記第2圧縮信号を修正する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施形態に係る信号処理装置のブロック図。
【
図7】算出されたパラメータの精度の向上を示す図。
【
図8】信号処理装置の全体処理の概略フローチャートの一例を示す図。
【
図9】第2の実施形態の信号処理装置のブロック図。
【
図10】第3の実施形態の信号処理装置のブロック図。
【
図11】第4の実施形態の信号処理装置のブロック図。
【
図12】第5の実施形態の信号処理装置のブロック図。
【
図13】第6の実施形態の信号処理装置のブロック図。
【
図14】第7の実施形態の信号処理装置のブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る信号処理装置のブロック図である。本実施形態に係る信号処理装置1は、受信部101と、干渉波データ記憶部102と、第1参照信号生成部103と、第1パルス圧縮部104と、送信波データ記憶部105と、第2参照信号生成部106と、第2パルス圧縮部107と、干渉検出部108と、干渉範囲算出部109と、干渉除去部110と、パラメータ算出部111と、を備える。
【0012】
本実施形態の信号処理装置1は、電波を用いた観測に用いられる。一般的に、レーダ装置が電波を送信すると、当該電波が何かしらの物体に当たって反射波が発生する。信号処理装置1は、当該反射波に基づく受信信号から、当該反射波に関するパラメータ、例えば、単偏波レーダでは、受信電力、速度、速度幅、2重偏波レーダではそれらに加えてZDR(レーダ反射因子差)、ρhv(偏波間相関係数)、φDP(偏波間位相差)を算出する。これらのパラメータが当該物体に対する観測データとして用いられ、当該物体の状態が推定されることになる。なお、本実施形態の信号処理装置1は、パラメータの算出までを行うことを想定する。
【0013】
ただし、本実施形態では、別のレーダ装置などからも電波が送信されており、当該電波の影響、つまり、干渉が受信信号に含まれる。そのため、信号処理装置1は、与干渉側のレーダ装置からの干渉を除去して、算出されるパラメータの精度の低下を抑える。
【0014】
以降、所定のレーダ装置によって送信された電波を「送信波」と記載する。信号処理装置1が解析する受信信号は、送信波に対する反射波に基づく。また、送信波と別の電波であって、反射波に含まれる干渉の要因となった電波を「干渉波」と記載する。
【0015】
なお、送信波と干渉波は、共に変調パルス信号(チャープ信号)であるが、パルス長、チャープの周波数掃引幅が互いに異なる信号であることを想定する。
【0016】
なお、信号処理装置1は、電波を送信するレーダ装置の一部であってもよいし、当該レーダ装置とは別筐体の装置であってもよい。例えば、電波を送信したレーダ装置が反射波を受信し、反射波に基づく受信信号を、データセンターなどといったレーダ装置とは別の場所に設置された信号処理装置1に送信してもよい。
【0017】
なお、信号処理装置1は、送信波および干渉波についてのデータを事前に入手しているとする。当該データは、例えば、送信波および干渉波のパルス長、変調周波数幅、振幅、位相などを示す。信号処理装置1は、送信波を送信するレーダ装置と干渉波を送信するレーダ装置とからこれらのデータを直接入手してもよい。あるいは、これらのデータを管理するデータベースサーバから入手してもよい。あるいは、信号処理装置1の管理者が、これらのデータを生成してもよい。なお、検出されるパラメータの精度に影響するため、当該データの精度はなるべく高いことが好ましい。
【0018】
図1に示した信号処理装置1の内部構成について説明する。なお、
図1では、干渉を除去して検出されるパラメータの精度を上げるために必要な構成要素が示されており、その他の構成要素は省略されている。つまり、信号処理装置1は、その他の構成要素を備えていてもよい。例えば、信号処理装置1がレーダ装置である場合、送信波を送信する送信部を備えている。また、各構成要素は、まとめられていてもよいし、細分化されていてもよい。例えば、
図1の点線で囲まれた構成要素はまとめられて一つの処理部とされてもよい。また、干渉波データ記憶部102と、送信波データ記憶部105と、は、まとめられて一つの記憶部であってもよい。
【0019】
受信部101は、反射波に基づく受信信号を受信する。なお、前述の通り、レーダ装置から受信信号が伝送されてもよいし、受信部101が反射波を受信して受信信号に変換してもよい。また、前述の通り、反射波は干渉を受けているため、受信信号には、反射波に基づく信号と、干渉波に基づく信号と、が含まれる。以降、反射波に基づく信号を所望信号と記載し、干渉波に基づく信号を干渉信号と記載する。
【0020】
干渉波データ記憶部102と、第1参照信号生成部103と、第1パルス圧縮部104と、は、受信信号に含まれる干渉信号を検出するために用いられる圧縮信号を生成するための処理を行う。干渉波データ記憶部102は、前述の干渉波に関するデータを記憶する。第1参照信号生成部103は、干渉波に関するデータを用いて、干渉信号と相関を有する第1参照信号を生成する。第1パルス圧縮部104は、第1参照信号で受信信号をパルス圧縮する。第1参照信号でパルス圧縮された受信信号を、第1圧縮信号と記載する。
なお、パルス圧縮した第1圧縮信号は複素数形式の電圧値として定義できる。また、第1圧縮信号の絶対値を2乗し適切なインピーダンスで除算することで電力値を得ることができる。以降、電圧値または電力値のことを、出力値とも称する。
【0021】
第1参照信号と干渉信号とは相関があるため、第1参照信号で受信信号をパルス圧縮した場合、受信信号のパルス幅が狭まり、かつ、受信信号に含まれる干渉信号の成分の利得が向上する。これにより、第1圧縮信号は、干渉信号が含まれる部分において、電力値が急上昇したピーク(極値)を有する。つまり、第1圧縮信号の波形は急峻なパルス波形となる。これにより、干渉の有無と、干渉位置の検出と、が容易となる。第1圧縮信号の生成は、パルス圧縮の公知手法によって行われてよい。
【0022】
パルス圧縮は、周波数変調方式、符号変調方式などがあるが、いずれによって行われてもよい。時間軸上における相関処理により行われてもよい。あるいは、周波数軸上におけるフーリエ変換による乗算を行い、乗算結果に逆フーリエ変換を行うことにより、パルス圧縮が実行されてもよい。また、パルス圧縮によって生成された圧縮信号のピークの位置は、いずれの変調方式においても、干渉信号が含まれる範囲において自由に設定可能である。
【0023】
また、送信波データ記憶部105と、第2参照信号生成部106と、第2パルス圧縮部107と、は、パラメータの算出に用いられる圧縮信号を生成するための処理を行う。送信波データ記憶部105は、前述の送信波に関するデータを記憶する。第2参照信号生成部106は、送信波に関するデータを用いて、所望信号と相関を有する第2参照信号を生成する。第2パルス圧縮部107は、第2参照信号で受信信号をパルス圧縮する。第2参照信号でパルス圧縮された受信信号を、第2圧縮信号と記載する。
なお、パルス圧縮した第2圧縮信号は複素数形式の電圧値として定義できる。また、第2圧縮信号の絶対値を2乗し適切なインピーダンスで除算することで電力値を得ることができる。
【0024】
第2参照信号と所望信号とは相関があるため、第2参照信号で受信信号をパルス圧縮した場合、受信信号のパルス幅が狭まり、かつ、受信信号に含まれる所望信号の成分の利得が向上する。なお、第2参照信号は、第2圧縮信号のパルス幅が所望の距離分解能を満たす程度に狭まり、レンジサイドローブが所望のレベル以下となるように、調整されているとする。第2圧縮信号の生成も、パルス圧縮の公知手法によって行われてよい。
【0025】
干渉検出部108は、第1圧縮信号の電力値に基づき、干渉を検出する。例えば、所定の閾値よりも大きい電力値が第1圧縮信号に含まれている場合に、第1圧縮信号には干渉信号が含まれていると判定してもよい。また、所定の閾値を、これまでに生成された複数の第1圧縮信号の平均電力としてもよい。レーダによる観測においては、送信波が短期間に繰り返し送信され、受信信号も短期間に繰り返し受信される。そのため、複数の受信信号に対応する複数の第1圧縮信号が生成される。ゆえに、これらの複数の第1圧縮信号から平均電力値を算出することができる。また、所定の閾値は、第1圧縮信号の電力値に基づいて算出される評価値であってもよい。評価値の設定によっては、所定の閾値以上または所定の閾値より大きい場合だけでなく、所定の閾値以下または所定の閾値より小さい場合に第1圧縮信号に干渉信号が含まれていると判定される場合もある。
【0026】
図2は、複数の第1圧縮信号について説明する図である。一部がZ軸方向に突出したグラフ2A、2B、2C、および2Nが示されている。これらのグラフは、受信された時点が異なる受信信号による第1圧縮信号の波形を示す。グラフ2Aが1番目の受信信号に基づく第1圧縮信号の波形を示し、グラフ2Bが2番目の受信信号に基づく第1圧縮信号の波形を示し、グラフ2Cが3番目の受信信号に基づく第1圧縮信号の波形を示し、グラフ2NがN(Nは整数を意味し、
図2では4以上とする)番目の受信信号に基づく第1圧縮信号の波形を示す。なお、第1圧縮信号の番号は、送信波の送信回数と同じであり、言い換えれば、観測対象に対する観測回数(ヒット数)とも言える。
【0027】
送信波の送信周期は一定であるため、各第1圧縮信号の波形のX軸方向の長さは同じである。なお、波形のX軸方向の位置を観測時間rと記載する。また、前述の第1圧縮信号の電力値のピークは、これらのグラフの突出部分に該当する。
図2の例では、2番目の第1圧縮信号のピークは観測時間r
x1にあり、3番目の第1圧縮信号のピークは観測時間r
x2にある。このように各第1圧縮信号においてピークの位置が異なる場合、同じ観測時間における各第1圧縮信号の電力値の平均と比較することにより、ピークを認識することができる。例えば、1番目からN番目までの第1圧縮信号の観測時間r
x1における電力値の平均と、2番目の第1圧縮信号の観測時間r
x1における電力値と、の差は、他と比べて非常に大きいので、2番目の第1圧縮信号は観測時間r
x1においてピークを有することが容易に分かる。
【0028】
干渉範囲算出部109は、第1圧縮信号において検出された干渉の位置に基づき、第2圧縮信号における干渉範囲を算出する。
【0029】
図3は、干渉範囲の算出について説明する図である。
図3(A)には、受信信号に含まれる干渉信号が示されている。当該干渉信号は、観測時間r
s0からr
eまでに存在している。つまり、受信信号における干渉範囲は観測時間r
s0から観測時間r
eまでである。ただし、実際の干渉信号は、
図3(A)とは異なり受信信号に含まれているため、受信信号の干渉範囲を受信信号から割り出すことができない。
【0030】
なお、干渉範囲は、受信信号、第1圧縮信号、および第2圧縮信号においてそれぞれ異なる点に留意すべきであり、本実施形態では、第2圧縮信号を用いてパラメータを算出するため、第2圧縮信号の干渉範囲を求める必要がある。
【0031】
図3(B)には、
図3(A)で示した受信信号の第1圧縮信号が示されている。
図3(B)では、受信信号内の干渉信号が含まれる範囲の始点、つまり、観測時間r
s0においてピークとなるように、第1圧縮信号が生成されている。干渉検出部108は、第1圧縮信号の電力が閾値P
0を超えているため、第1圧縮信号に干渉信号が含まれていると判定する。干渉範囲算出部109は、当該ピークにより、第1圧縮信号における干渉範囲の始点である観測時間r
s0を認識することができる。また、前述の通り、干渉信号のパルス長は、第1参照信号のパルス長と、一致している。干渉波のパルス長がL
Iであるとすると、干渉範囲算出部109は、第1圧縮信号における干渉範囲の終点である観測時間r
eがr
s0+L
Iの観測時間であること(r
e=r
s0+L
I)を認識することができる。
【0032】
なお、第1圧縮信号では、観測時間rs0から観測時間reまでだけでなく、観測時間rs0よりも前の時点から干渉範囲が始まる。具体的には、観測時間rs0から干渉波のパルス長LIよりも前の観測時間から、第1圧縮信号の電力値は干渉信号の影響を受けて上昇する。ゆえに、第1圧縮信号における干渉範囲は、観測時間rs0-LIから観測時間rs0+LIまでの長さ2LIの範囲となる。
【0033】
図3(C)には、干渉範囲算出部109によって算出された第2圧縮信号における干渉範囲が示されている。なお、第2圧縮信号の波形は省略されている。第2圧縮信号でも、観測時間r
s0から観測時間r
eまでだけでなく、観測時間r
s0よりも前の時点から干渉範囲が始まる。具体的には、送信波のパルス長をL
sとすると、観測時間r
s0から送信波のパルス長L
sよりも前の観測時間から、第2圧縮信号の電力値は、干渉信号の影響を受けて上昇する。ゆえに、第2圧縮信号における干渉範囲は、観測時間r
s0-L
sから観測時間r
s0+L
Iまでの長さL
s+L
Iの範囲となる。なお、
図3(C)では、観測時間r
s0から送信波のパルス長L
sよりも前の観測時間がr
s1と表されており、第2圧縮信号における干渉範囲は、観測時間r
s1からr
eまでとも言える。
【0034】
このように、干渉範囲は、前記第1圧縮信号において検出された干渉の位置を基準に、第1参照信号のパルス長と、第2参照信号のパルス長と、から、第2圧縮信号における干渉範囲を算出する。なお、
図3では、第1圧縮信号のピークを受信信号の干渉範囲の始点としたが、第1圧縮信号のピークは任意に定めてよい。例えば、第1圧縮信号のピークを受信信号の干渉範囲の中心となるように設定した場合は、干渉範囲算出部109は、当該ピークからL
I/2ほど早い観測時間を受信信号の干渉範囲の始点と定め、当該ピークからL
I/2ほど遅れた観測時間を受信信号の干渉範囲の終点と定めればよい。
【0035】
なお、
図3(C)では、算出された干渉範囲の位置および長さがさらに調整されることもあり得る。例えば、ハードウェア的な揺らぎが実際にはあることも考慮し、算出された干渉範囲をさらに広げることが考えられる。また、干渉信号の振幅波形が完全な矩形ではなく、振幅テーパが設けられている場合などにおいて、算出された干渉範囲を少々狭めたとしても、信号処理装置1に求められる観測精度のマージン内に収まることも可能性としてはあり得る。したがって、干渉範囲算出部109によって算出された第2圧縮信号における干渉範囲が、観測時間r
eから長さL
I+L
sまで遡った範囲と厳密に一致しているとは限らない。
【0036】
また、干渉信号が時間遅れを伴って多重に重なりあっている場合もあり得る。そのような場合も考慮して、電力のピーク値ではなく、電力値が所定の閾値を超えたときの観測時点を干渉信号の先頭位置としてもよい。
図3(B)では、閾値P
0を超えた観測時点は、観測時間r
s0よりもL
vほど前の観測時点であることが示されている。当該観測時点を干渉信号の先頭位置とした場合では、
図3(C)に示されている、観測時間r
s0からL
s+L
vほど前の観測時間r
s2が第2圧縮信号の干渉範囲の始点となり、干渉範囲の長さは、L
s+L
v+L
Iとなる。このように、干渉信号の先頭位置は、電力のピーク値に限られるわけではない。
【0037】
また、干渉信号の強度によっては、受信部101を実現するためのA/Dコンバータが飽和し、受信部101を実現するためのフィルタなどの影響により、観測対象の動きに対する所望信号の応答が遅延することもある。このような場合にも、干渉範囲が調整されてよい。干渉範囲の終点を、当該応答の遅延が収束するのに要する時間ほど後にずらしてもよい。
【0038】
なお、第1圧縮信号に複数のピークが含まれることもあり得る。言い換えれば、観測時間の始点から終点まで(
図2のr
0からr
maxまで)の範囲において、第1圧縮信号が複数のピークを有する場合もあり得る。そのような場合は、ピークごとの干渉範囲を算出し、それらの論理和を最終的な干渉範囲と算出してもよい。
【0039】
干渉除去部110は、第2圧縮信号の干渉範囲において第2圧縮信号を修正する。例えば、第2圧縮信号の干渉範囲には第2圧縮信号が存在しないとしてもよい。あるいは、第2圧縮信号の干渉範囲内の電圧値を0またはNaN(Not a Number)等の無効値にしてもよい。
【0040】
あるいは、第2圧縮信号の干渉範囲内の電圧値を、他の電圧値に置き換えてもよい。例えば、3番目の第1圧縮信号から干渉が検出されず、4番目の第1圧縮信号から干渉が検出され、3番目の第2圧縮信号の干渉範囲が観測時間rs1からreまでとされた場合において、干渉除去部110は、4番目の第2圧縮信号の、観測時間rs1からreまでの範囲内の少なくとも一つの観測時間における電圧値を、3番目の第2圧縮信号の当該観測時間における電圧値に、置き換えてもよい。例えば、観測対象の動きの応答時間が、送信波の送信周期(Pulse Repetition Frequency)によるサンプリング間隔に対して十分大きい場合、受信信号の各電圧値は、一つ前の送信周期における受信信号の各電圧値と、ほぼ一致するため、このような過去の第2圧縮信号の電圧値との置き換えが実行されてもよい。また、上記の例において、過去の第1圧縮信号から干渉が検出されていない場合に、過去の各第1圧縮信号の位相情報を含んだ電圧値の推移に基づき、今回の第2圧縮信号が干渉を受けなかったとみなした場合における電圧値を推定し、今回の第2圧縮信号の、干渉範囲内の電圧値の少なくとも一つを推定値に置き換えてもよい。
【0041】
このようにして、第2圧縮信号の干渉範囲における電圧値を尤もらしい数値に置き換えることにより、後述する相関処理または平均処理において、母集団の数が減ることを防ぐことができる。また、場合によっては、所望信号、雑音などのばらつきに起因する観測誤差のばらつきを低減することが可能となる。
【0042】
パラメータ算出部111は、干渉除去部によって処理済みの第2圧縮信号に基づき、反射波に関するパラメータを算出する。反射波に関するパラメータは、例えば、受信電力、速度、速度幅、ZDR(レーダ反射因子差)、ρhv(偏波間相関係数)、φDP(偏波間位相差)などがある。
【0043】
また、パラメータ算出部111は、第2圧縮信号に基づいて相関処理または平均処理に行った上でパラメータを算出してもよい。なお、相関処理または平均処理に用いる受信信号は、適宜に選択されてよい。パラメータ算出部111によってこれまでに取得された第2圧縮信号全てを用いてもよいし、直近に取得された第2圧縮信号と、その前に取得された第2圧縮信号と、の二つだけを用いてもよい。あるいは、これまでに取得された第2圧縮信号のうちから複数個をランダムにまたは所定条件に基づいて選択してもよい。また、所定条件を満たさない第2圧縮信号は選択しないとしてもよい。
【0044】
相関処理は、例えば、次式を用いることができる。
【数1】
記号rは、観測時間を表す。記号Nは、相関処理に用いる第2圧縮信号の総数(トータルのヒット数)を表す。記号nは、1以上でN以下の整数であって、第2圧縮信号の番号(ヒット数)を表す。記号xは、相関を調べる対象の値を表す。ここでは、第2圧縮信号の複素数形式の電圧値が該当する。つまり、x[n][r]は、n番目の第2圧縮信号の観測時間rにおける電圧値を示す。記号*は複素共役を表す。記号mは、積算される二つの第2圧縮信号の番号のずれ(ヒット数のラグ)を表す。ここでは、記号mの値は0または1とする。m=0のときは、n番目の第2圧縮信号の観測時間rにおける電圧値とその複素共役とが積算される。m=1のときは、n番目の第2圧縮信号の観測時間rにおける電圧値の複素共役と、n+1番目の第2圧縮信号の観測時間rにおける電圧値と、が積算される。記号R
mは、ラグがmのときの相関関数を表す。こうして、各観測において得られた複数の第2圧縮信号の相関を考慮することにより、一つの第2圧縮信号から得たときよりも、パラメータのばらつきを低減することができる。
【0045】
ただし、上式(1)は、第2圧縮信号の干渉範囲における修正を考慮していない。観測時間rが干渉範囲内であって観測時間rにおける電圧値の修正が行われた第2圧縮信号に対しては、上記式(1)の計算から除外され得る。また、式(1)内の平均処理のための係数1/(N-m)も修正される。
【0046】
図4は、相関関数の算出の第1例を説明する図である。
図4は、3番目(n=3)の第2圧縮信号の観測距離rにおける電圧値が0または無効値に修正された場合が示されている。この場合、修正されたx[3][r]およびx
*[3][r]は、相関処理に用いない方がよい。したがって、これらのいずれかが用いられた積算は、相関関数の計算式から削除されることが示されている。
【0047】
相関関数R
0の算出では、一つの積算が削除される。そのため、相関関数R
0の算出に用いられる係数は、式(1)では1/(N-m)であったが、積算が一つ減るため、1/{(N-m)-1}となり、m=0であるから1/(N-1)となる。なお、
図4では、削除される積算の数をd
numと示している。
【0048】
相関関数R1の算出では、修正されたx[3][r]またはx*[3][r]を含む積算が二つ存在する。そのため、相関関数R0の算出に用いられる係数は、積算が二つ減ってm=1であるから、1/{(N-m)-dnum}=1/(N-1-2)=1/(N-3)となる。
【0049】
このように、当該係数が実効的な積算数と一致させて、相関関数R0、R1の算出精度を高めることが好ましい。なお、N個の第2圧縮信号のうちnb個の第2圧縮信号に対して除去または無効値の処理が行われた場合では、結果として、相関関数R0を算出するときは平均化のための係数を1/(N-nb)に置き換え、相関関数R1を算出するときは当該係数を1/(N-1-2×nb)に置き換えればよい。
【0050】
図5は、相関関数の算出の第2例を説明する図である。
図5は、3番目(n=3)の第2圧縮信号の観測距離rにおける電圧値が除外され、4番目以降の番号を一つ前にずらした場合が示されている。つまり、3番目の第2圧縮信号がなくなったので、4番目の第2圧縮信号が3番目となり、5番目の第2圧縮信号が4番目となっている。
【0051】
相関関数R0の算出では、削除される積算はない。しかし、相関関数R0の算出に用いられる係数は、上式では1/(N-m)であったが、3番目の第2圧縮信号がなくなって総数が一つ減少しているためにNはN-1に置きかえられて、1/{(N-1)-m}となり、m=0であるから1/(N-1)となる。
【0052】
相関関数R1の算出では、x*[2][r]×x[3][r]の積算が削除される。x[3][r]は、番号が変更される前は、x[4][r]である。そのため、x*[2][r]×x[3][r]の積算は、番号変更前のx*[2][r]×x[4][r]であり、隣接番号同士の積算ではない。そのため、当該積算が削除される。なお、x*[3][r]×x[4][r]の積算は、番号変更前のx*[4][r]×x[5][r]であり、隣接番号同士の積算である。そのため、当該積算は削除されない。この結果、相関関数R1の算出に用いられる係数は、積算の総数がN-1でさらに積算が一つ減るため、1/{(N-1)-m-1}となり、m=1であるから1/(N-3)となる。
【0053】
このように、N個の第2圧縮信号のうちnb個の第2圧縮信号に対して干渉範囲の電圧値が除外された場合において相関関数R1を算出するときは、平均処理のための係数を1/(N-1-2×nb)に置き換えればよい。これにより、当該係数が実効的な積算数と一致するため、相関関数R1の算出精度が高まる。
【0054】
上述のように、修正された第2圧縮信号を除外して相関処理を行う場合、修正された第2圧縮信号が少ないほうが好ましい。しかし、干渉波のパルス繰り返し周波数(PRF:Pulse Repetition Frequency)と、送信波のパルス繰り返し周波数と、が完全に一致している場合、ほぼ同じ観測時間(位置)において干渉が発生してしまう。ゆえに、当該観測時間rにおける相関関数を算出しようとしても、ほとんどの第2圧縮信号が当該観測時間rにおいて修正されており、相関関数の算出に用いることが可能な第2圧縮信号がほぼないといったこともあり得る。したがって、相関処理を実施しても、算出されたパラメータの精度が向上しないこともあり得る。
【0055】
そのため、信号処理装置1は、与干渉側および被干渉側のPRFが一致しないように、与干渉側および被干渉側の少なくともいずれかに対し、複数の第1圧縮信号において検出された干渉の位置が一致しているか否かに応じて、PRFの変更に関する指示を行ってもよい。被干渉側とは例えば、信号処理装置1がレーダ装置である場合における送信部である。与干渉側と被干渉側のPRFをある程度ずらしておくことにより、干渉が発生する観測時間が常に同じであることを防ぐことができる。これにより、相関関数の算出に用いられる複数の第2圧縮信号のほとんどが観測時間rにおいて干渉除去のために電圧値が修正されるといった事態を防ぐことができ、相関処理の効果を十分に得ることができる。
【0056】
図6は、PRFの調整について説明する図である。
図6(A)は、与干渉側および被干渉側のPRFが一致している場合の受信信号を示す。
図6(A)では、いずれの第1圧縮信号も、観測時点r
xにおいてピークを有している。この場合、観測時点r
xにおいて修正されていない第2圧縮信号が存在せず、相関関数が算出できなくなる。
図6(B)は、与干渉側および被干渉側のPRFをずらした場合を示す。
図6(B)では、1番目の受信信号だけが観測時点r
xにおいてピークを有している。この場合、1番目の第2圧縮信号のみが除外され、2番目からN番目までの第2圧縮信号によって相関関数を算出することができる。
【0057】
なお、PRFをどれ程ずらすかは、適宜に定めてよい。ただし、PRFの上限値はレーダの最大観測距離に関係し、PRFの下限値は最大観測速度に関係する。そのため、レーダに求められる要件を考慮してPRFを決定する必要がある。また、干渉の発生頻度も許容上限などが定められている場合がある。このような干渉に関する条件も考慮してPRFを決定する必要がある。
【0058】
なお、検出する速度範囲を拡大させるために、複数のPRFを切り替えるスタガと呼ばれる手法がある。スタガのような複数のPRFを切り替える場合では、与干渉側および被干渉側に共通して使用されるPRFがあってもよいが、信号処理装置1は、干渉波を受信する期間において、与干渉側および被干渉側が共通のPRFを使用しないように、PRFの変更に関する指示を行うる必要がある。また、与干渉側および被干渉側のPRFに関する情報を取得することにより、与干渉側および被干渉側のPRFが一致しているか否かに応じて、PRFの変更に関する指示を行ってもよい。
【0059】
上記の相関処理から得られた相関関数Rmを用いて観測パラメータを算出する。例えば送信波に単一の偏波を用いる気象レーダによるものの場合では、受信電力、速度、速度幅といった観測パラメータが算出できる。例えば、送信波に2つの偏波を用いる気象レーダによるものの場合では、偏波間の電力差、位相差の相関関数も算出することにより、ZDR(レーダ反射因子差)、ρhv(偏波間相関係数)、φDP(偏波間位相差)等の2重偏波の観測パラメータも算出できる。
【0060】
例えば、気象レーダにおける受信電力、速度、速度幅の観測パラメータは、式(1)の相関関数R
0、R
1を用いて下記で表される。ゆえに、相関関数R
0およびR
1の算出精度が観測パラメータの算出精度に直結する。
【数2】
記号P[r]は観測時間rにおける反射波の電力を、記号V[r]は観測時間rにおける反射波の速度を、記号W[r]は観測時間rにおける反射波の速度幅を表す。また、記号λは波長[m]を、N
oは平均ノイズ電力を、PRI(Pulse Repetition Interval)はパルス繰り返し間隔を表す。
【0061】
このように、パラメータ算出部111は、複数の第2圧縮信号から複数の第2圧縮信号の相関関数を算出し、算出された相関関数に基づいてパラメータを算出してもよい。
【0062】
本実施形態において算出されたパラメータは、従来手法よりも、その精度が高くなる。
図7は、算出されたパラメータの精度の向上を示す図である。本実施形態の信号処理装置1によって相関処理を実施して算出されたパラメータの推定誤差が示されている。なお、推定誤差は、干渉が含まれている場合で推定されたパラメータの値と、干渉が含まれていない場合で推定されたパラメータの値と、の誤差である。また、比較として、本実施形態のようにパルス圧縮によって干渉を検出するも、受信信号から当該干渉を取り除いて所望信号を生成し、生成された所望信号に基づいてパラメータを算出する従来手法による推定誤差を示す。
【0063】
なお、シミュレーション条件は、以下の通りである。
・S/N=20dB(S:受信信号のレベル、N:雑音レベル)
・I/N=50dB(I:干渉信号のレベル、N:雑音レベル)
・トータルヒット数=90
・PRFの比率(与干渉側/被干渉側)=約0.8
【0064】
図7の例では、受信電力などといった各パラメータにおいて、信号処理装置の推定誤差のほうが、従来手法の推定誤差よりも小さく、精度が高まっていることが分かる。受信信号のレベル、干渉信号のレベルなどのシミュレーション条件を変えても、同様の結果が得られている。
【0065】
次に、各構成要素による処理の流れについて説明する。
図8は、信号処理装置の全体処理の概略フローチャートの一例を示す図である。なお、このフローチャートは一例であり、必要とされる処理結果を得ることができれば処理の順序等は限られるものではない。例えば、
図8では並列で行われる処理が、順番に行われてもよい。また、各処理の処理結果は、逐次、図示されていない記憶部に記憶され、各構成要素は当該記憶部を参照して処理結果を取得してもよい。
【0066】
まず、第1参照信号生成部103が干渉波データ記憶部102に記憶されている干渉波に関するデータに基づいて第1参照信号を生成し(S101)、第2参照信号生成部106が送信波データ記憶部105に記憶されている送信波に関するデータに基づいて第2参照信号を生成する(S102)。なお、これらの処理はそれぞれ、干渉波および送信波に関するデータが取得された時点で実行されてもよい。
【0067】
その後、受信部101が反射波に基づく受信信号を受信する(S103)。それを受けて、第1圧縮信号生成部は、受信信号を第1参照信号でパルス圧縮して第1圧縮信号を生成する(S104)。第1圧縮信号が生成されると、干渉検出部108が、第1圧縮信号の電力値に基づき、干渉を検出する(S105)。そして、干渉範囲算出部109が、検出された干渉の位置を基準に、干渉波のパルス長と、送信波のパルス長と、を用いて、第2圧縮信号の干渉範囲を決定する(S106)。このようにして、S104からS106の処理が行われる一方で、第2圧縮信号生成部は、第2参照信号でパルス圧縮して第2圧縮信号を生成する(S107)。
【0068】
第2圧縮信号が生成され、かつ、第2圧縮信号の干渉範囲が決定されると、干渉除去部110が生成された第2圧縮信号の決定された干渉範囲内における電圧値を修正する(S108)。そして、第2圧縮信号を所定数以上処理したかが確認され、処理していなかった場合(S109のNO)は、次の受信信号の受信を待つことになる。そして、次の受信信号が受信されて、再度、S104からS108までの処理が行われる。こうして、処理された第2圧縮信号が蓄積されていく。なお、第2圧縮信号は、図示されていない記憶部に記憶されてもよい。
【0069】
第2圧縮信号を所定数以上処理していた場合(S109のYES)は、パラメータ算出部111が、第2圧縮信号に基づき、反射波に関するパラメータを算出する(S110)。複数の第2圧縮信号を用いて相関関数を算出してパラメータを算出してもよいし、単体の第2圧縮信号からパラメータを算出してもよい。このようにしてフローは終了する。
【0070】
なお、上記フローでは、第1参照信号および第2参照信号が受信信号の受信前に作成されているが、受信信号の受信後に作成されてもよい。また、反射波の観測状況、受信信号の電力値などに応じて、事前に作成済みの参照信号のパラメータを調整してもよい。
【0071】
以上のように、本実施形態の信号処理装置1によれば、送信波に関するデータを用いてパルス圧縮した第2パルス圧縮信号の干渉範囲を算出し、第2パルス圧縮信号の当該干渉範囲に係る値を修正する。これにより、第2パルス圧縮信号ではなく受信信号から干渉範囲に係る値を修正した場合に比べ、精度の低下を抑えることができる。
【0072】
なお、前述の通り、
図1に示した信号処理装置1の構成は一例であり、上記で説明した以外の処理を行う構成要素は省略されており、また、各構成要素は、まとめられていてもよいし、細分化されていてもよい。ゆえに、信号処理装置1の用途、処理負荷、利便性などの諸事情によって、信号処理装置1の構成は様々に変形され得る。以下に、いくつかの実施形態を紹介する。
【0073】
(第2の実施形態)
前述の通り、第2圧縮信号の干渉範囲内の電圧値は、干渉除去部110によって修正されるが、修正方法は複数ある。そのため、修正方法ごとに干渉除去部110を設けてもよい。
図9は、第2の実施形態の信号処理装置のブロック図である。第2の実施形態では、第2の実施形態で示した干渉除去部110が、別々の方法で第2圧縮信号の干渉範囲内の電圧値を修正する、第1干渉除去部110Aおよび第2干渉除去部110Bに別れている。なお、
図9では、二つに分けているが、実施する修正方法に応じて三つ以上に分かれていてもよい。
【0074】
また、
図9の例では、パラメータ算出部111も、干渉除去部110の分割に応じて、分割されている。
図9では、第1干渉除去部110Aによって算出された第2圧縮信号に少なくとも基づいて第1パラメータ算出部111Aがパラメータを算出し、第2干渉除去部110Bによって算出された第2圧縮信号に少なくとも基づいて第2パラメータ算出部111Bがパラメータを算出する。また、第1パラメータ算出部111Aによって算出されたパラメータと、第2パラメータ算出部111Bによって算出されたパラメータと、のいずれかを信号処理装置1の処理結果として採用するための判定を行う判定部112が示されている。
【0075】
判定部112による判定のための条件は、適宜に定めてよい。例えば、第1干渉除去部110Aが、干渉が検出された第2圧縮信号の干渉範囲内の電圧値を、干渉が検出されなかった第2圧縮信号の干渉範囲内の電圧値に置き換えるとする。また、第1時点の第2圧縮信号には干渉が検出されずに第2時点の第2圧縮信号には干渉が検出され、観測速度幅から算出される相関時間に対してPRIが短いとする。このような場合において、判定部112は、第1パラメータ算出部111Aによって算出されたパラメータ、言い換えれば、第1干渉除去部110Aによって処理された第2圧縮信号に係るパラメータ、を採用するとしてもよい。こうすることにより、観測誤差のばらつきを低減でき得る。なお、相関時間τ
cは、波長λ、速度幅σ
vを用いて次式で求められる。
【数3】
【0076】
また、例えば、第2干渉除去部110Bが、干渉が検出された第2圧縮信号の干渉範囲内の電圧値を存在しないものとみなすとする。また、観測間隔が相関時間よりも十分に大きいものとする。このような場合では、判定部112は、第2パラメータ算出部111Bによって算出されたパラメータ、言い換えれば、第2干渉除去部110Bによって処理された第2圧縮信号に係るパラメータ、を採用するとしてもよい。このような場合では、各第2圧縮信号間の相関が小さいため、電圧値の置き換えを行わなくとも、干渉信号そのものによる直接的な影響が取り除け得る。
【0077】
なお、相関時間を求めるために、パラメータの速度幅を用いているが、第1パラメータ算出部111Aおよび第2パラメータ算出部111Bのいずれにより算出された速度幅を用いてもよいし、両方の速度幅を用いた演算結果を、相関時間を求めるための速度幅として用いてもよい。
【0078】
(第2および第3の実施形態)
なお、これまでの実施形態では、受信信号に含まれて判別できない干渉信号を除去するためにパルス圧縮を行っている。ただし、その他の干渉信号を検出して除去する処理が行われてもよい。例えば、反射波が無変調パルス信号である干渉波の影響も受ける場合、当該影響はパルス圧縮でなくとも除去することが可能である。
【0079】
図10は、第3の実施形態の信号処理装置を示すブロック図である。第3の実施形態では、パルス圧縮が行われる前に受信信号に対して干渉検出を行う事前干渉検出部113と、パルス圧縮が行われる前に受信信号に対して干渉除去を行う事前干渉除去部114と、を備える。
【0080】
例えば、無変調パルス信号は、変調パルス信号と比べてパルス幅が1/10~1/数100以下と小さい。そのため、パルス幅の小さい信号を検出して除去する従来手法により、無変調パルス信号を検出および除去することが可能である。
【0081】
図11は、第4の実施形態の信号処理装置を示すブロック図である。
図10に示すように、第3の実施形態では、事前の干渉除去が行われた受信信号が第1パルス圧縮部104および第2パルス圧縮部107に伝送されるが、第4の実施形態では、第1パルス圧縮部104には事前の干渉除去が行われていない受信信号が伝送される。第2圧縮信号はパラメータの算出に用いられるため、第2圧縮信号の生成に用いられる受信信号にはなるべく干渉が含まれないほうが好ましい。一方、第1圧縮信号は干渉の検出に用いられるため、干渉の検出の精度に問題が生じないのであれば、第1圧縮信号の生成に用いられる受信信号に対して、事前の干渉除去が行われていなくともよい。なお、干渉の誤検知をなるべく避ける場合は、第3の実施形態のほうが好ましい。
【0082】
(第5の実施形態)
図12は、第5の実施形態の信号処理装置を示すブロック図である。第5の実施形態では、受信部101が、第1受信部101Aと、第2受信部101Bと、に分かれており、それぞれに対し、第1フィルタ115Aおよび第2フィルタ115Bが接続されている。
【0083】
本実施形態では、反射波と干渉波のキャリア周波数が異なる場合を想定する。なお、反射波を受信するためのアンテナについては、周波数ごとに独立したアンテナであってもよいし、全周波数共通のアンテナであってもよい。また、本実施形態においては、送信波および干渉波を送信するレーダの種類は、特に限られるものではなく、例えば、パラボラ型でもフェーズドアレイ型でもよい。
【0084】
第1受信部101Aは、受信信号を取得して、さらに受信信号を干渉波の中心周波数で周波数変換する。第2受信部101Bは、受信信号を取得して、さらに受信信号を送信波の中心周波数で周波数変換する。周波数変換では、基準とされた周波数の成分が効率的に取り出される。つまり、ベースバンド信号が抽出される。ゆえに、第1受信部101Aは、ベースバンド信号として主に干渉信号を抽出し、第2受信部101Bは、ベースバンド信号として主に所望信号を抽出する。
【0085】
第1フィルタ115Aおよび第2フィルタ115Bは、ベースバンド信号以外の成分を減衰する。ゆえに、受信信号が第1フィルタ115Aを通過すると、所望信号の成分がさらに減衰される。これにより、干渉検出の精度がより向上する。また、受信信号が第2フィルタ115Bを通過すると、干渉信号の成分がさらに減衰される。これにより、算出されるパラメータの精度が向上する。
【0086】
ただし、周波数スペクトルでみると、干渉信号は、通常、線スペクトルではなく広がりをもったスペクトルとなっている。第2フィルタ115Bを介することにより、干渉信号を一定以上減衰させることはできるが、スペクトルの広がりによって所望信号の通過帯域(ベースバンド帯域)においても干渉信号の成分が含まれてしまう。ゆえに、スペクトルの広がりに起因する干渉成分に対しては、第2フィルタ115Bだけでは抑圧しきれない。そのため、これまでの実施形態と同様、第1参照信号でのパルス圧縮を用いた高精度な干渉検出を行うのが好ましい。つまり、反射波と干渉波のキャリア周波数が異なる場合であっても、本実施形態のパルス圧縮による干渉検知が有効である。
【0087】
また、本実施形態では、第1圧縮信号に基づいて干渉が検出されても、第2圧縮信号には干渉信号が含まれていないといったことが起こり得る。その場合は、干渉検出部108における干渉の有無を判断する閾値のレベルを調整することにより、対応できる。当該閾値については、第1受信部101Aと第2受信部101Bのレベルダイヤにおける利得の差異、干渉信号のスペクトルの広がりなどを考慮して定められる。第1受信部101Aおよび第2受信部101Bに異なるアンテナが接続されている場合では、これらのアンテナの利得の差異も考慮する。
【0088】
(第6の実施形態)
図13は、第6の実施形態の信号処理装置を示すブロック図である。本実施形態では、信号処理装置1が学習部116をさらに備える。
【0089】
これまでは、パルス圧縮により受信信号から干渉を検知するために、干渉波に関するデータに基づいて第1参照信号を生成していた。つまり、干渉波に関するデータを事前に入手する必要がある。しかし、干渉波のパラメータが変更される場合もあり得る。その場合、変更後のパラメータに係るデータを変更前に入手しなくてはならないが、パラメータの変更を事前に認識できないことも想定される。また、干渉波の存在を予め認識できていない場合も、干渉波の存在および干渉波の発生源を認識するまで、干渉を除去することが困難である。
【0090】
ゆえに、本実施形態では、学習部116が、機械学習により、受信信号から干渉波に関するデータまたは干渉波に対して相関の強い信号を抽出するためのニューラルネットワークに基づくモデルを生成する。例えば、過去に受信した受信信号を入力データとし、干渉波に関するデータまたは当該受信信号に対応する過去に生成した第1参照信号を正解データとして、ニューラルネットワークに対し機械学習を行ってもよい。言い換えれば、ニューラルネットワークのパラメータを、過去に受信した受信信号と、干渉波に関するデータまたは当該受信信号に対応する過去に生成した第1参照信号と、に基づいて最適化していくことにより、当該ニューラルネットワークを、受信信号から干渉波に関するデータまたは第1参照信号を生成するモデルにしてもよい。
【0091】
また、当該モデルの生成後は、干渉波に関するデータを用いずに、当該モデルを用いて、受信信号から第1参照信号を生成してもよい。当該モデルは、干渉データ記憶部に記憶されてよい。
【0092】
(第7の実施形態)
図14は、第7の実施形態の信号処理装置を示すブロック図である。第7の実施形態は、水平偏波(H偏波)と垂直偏波(V偏波)の二つの偏波を送信波として使用する場合を想定した構成である。水平偏波(H偏波)と垂直偏波(V偏波)を送信波として使用する装置としては、2重偏波気象レーダが該当する。
【0093】
本実施形態では、パラメータ算出部111以外の構成要素を1セット(1系統)とし、信号処理装置1は、水平偏波に対するセット117Aと、水平偏波に対するセット117Bと、を備える。各セット117における処理はこれまでと同様であり、各セット117から干渉範囲における電圧値が修正された第2圧縮信号が出力される。パラメータ算出部111は、各セット117からの第2圧縮信号に基づき、水平偏波と垂直偏波の相関関数を算出し、2重偏波に対するパラメータを算出する。
【0094】
なお、前述の通り、信号処理装置1の構成要素はまとめられてもよく、本実施形態においては、第1参照信号生成部103および第2参照号生成部106は、各セット117において共通としてもよい。また、
図14では、水平偏波の反射波を受信するアンテナ118Aと、垂直偏波の反射波を受信するアンテナ118Bと、が示されているが、反射波を1本のアンテナで受信し、受信信号を偏波分離器によって水平偏波の成分と垂直偏波の成分とに分けてもよい。また、本実施形態においても、送信波および干渉波を送信するレーダの種類は、特に限られるものではなく、例えば、パラボラ型でもフェーズドアレイ型でもよい。
【0095】
なお、水平偏波および垂直偏波に対する干渉の度合いは同じであるとは限らない。偏波のレベル、電波伝搬の状況などにより、両セット117の一方のみから干渉が検出されるといった場合、両セット117における干渉範囲の算出結果が異なるといった場合が起こり得る。逆に言えば、両セット117の一方のみから干渉が検出された場合は、他方のセット117に係る偏波にも検出されるレベルに達していない干渉が含まれているとも考えられる。そのため、両セット117において算出された干渉範囲の論理和を全体的な干渉範囲としてもよい。その場合、各セット117は、算出された干渉範囲を、他のセット117に通知する。これにより、両セット117の一方において検出しなかった干渉も干渉範囲内に含むことができる。そして、全体的な干渉範囲において干渉除去を実施することにより、より漏れなく干渉除去を行うことができる。
【0096】
なお、本実施形態の信号処理装置1の構成要素は、プロセッサなどを実装しているIC(Integrated Circuit:集積回路)などの専用のハードウェアにより実現されてもよい。例えば、信号処理装置1は、受信部101を実現する受信回路と、干渉波データ記憶部102および送信波データ記憶部105などの記憶部を実現するメモリまたはストレージと、その他の構成要素、例えば、前述の処理部を実現する1つ以上の処理回路(プロセッサ)と、を備えていてもよい。また、処理回路がさらに細かな専用の回路で実現されてもよい。あるいは、構成要素がソフトウェア(プログラム)を用いて実現されてもよい。ソフトウェア(プログラム)を用いる場合は、上記に説明した実施形態は、例えば、汎用のコンピュータ装置を基本ハードウェアとして用い、コンピュータ装置に搭載された中央処理装置(CPU:Central Processing Unit)等のプロセッサにプログラムを実行させることにより、実現することが可能である。
【0097】
また、本実施形態で用いられる用語は、広く解釈されるべきである。例えば用語“プロセッサ”は、汎用目的プロセッサ、中央処理装置(CPU)、マイクロプロセッサ、デジタル信号プロセッサ(DSP)、コントローラ、マイクロコントローラ、状態マシンなどを包含してもよい。状況によって、“プロセッサ”は、特定用途向け集積回路、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、プログラム可能論理回路(PLD)などを指してもよい。“プロセッサ”は、複数のマイクロプロセッサのような処理装置の組み合わせ、DSPおよびマイクロプロセッサの組み合わせ、DSPコアと協働する1つ以上のマイクロプロセッサを指してもよい。
【0098】
別の例として、用語“メモリ”は、電子情報を格納可能な任意の電子部品を包含してもよい。“メモリ”は、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読み出し専用メモリ(ROM)、プログラム可能読み出し専用メモリ(PROM)、消去可能プログラム可能読み出し専用メモリ(EPROM)、電気的消去可能PROM(EEPROM)、不揮発性ランダムアクセスメモリ(NVRAM)、フラッシュメモリ、磁気または光学データストレージを指してもよい。これらはプロセッサによって読み出し可能である。プロセッサがメモリに対して情報を読み出しまたは書き込みまたはこれらの両方を行うならば、メモリはプロセッサと電気的に通信すると言うことができる。メモリは、プロセッサに統合されてもよく、この場合も、メモリは、プロセッサと電気的に通信していると言うことができる。
【0099】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0100】
1 信号処理装置
101 受信部
102 干渉波データ記憶部
103 第1参照信号生成部
104 第1パルス圧縮部
105 送信波データ記憶部
106 第2参照信号生成部
107 第2パルス圧縮部
108 干渉検出部
109 干渉範囲算出部
110(110A、110B) 干渉除去部
111(111A、111B) パラメータ算出部
112 判定部
113 事前干渉検出部
114 事前干渉除去部
115(115A、115B) フィルタ
116 学習部
117(117A、117B) セット(系統)
118(118A、118B) アンテナ