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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】再生制御装置および再生制御方法
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/023 20060101AFI20231122BHJP
   F01N 9/00 20060101ALI20231122BHJP
   F02D 41/34 20060101ALI20231122BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
F01N3/023 Z
F01N9/00 Z
F02D41/34
F02D45/00 360A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020145454
(22)【出願日】2020-08-31
(65)【公開番号】P2022040652
(43)【公開日】2022-03-11
【審査請求日】2023-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 言太
(72)【発明者】
【氏名】古田 航佑
(72)【発明者】
【氏名】本郷 誠
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-151869(JP,A)
【文献】特開2010-265844(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/023
F01N 9/00
F02D 41/34
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気ガスに含まれる粒子状物質を捕捉するフィルタの入口における排気ガスの温度である入口温度を取得する入口温度取得部と、
前記入口温度および前記粒子状物質の燃焼量に基づいて、前記フィルタ内の温度であるフィルタ温度を推定するフィルタ温度推定部と、
前記フィルタにおいて前記粒子状物質が燃焼していない所定の期間において、前記入口温度と前記フィルタ温度との差分を導出し、前記差分が所定値以上である場合に、エンジンに対する燃料カットを禁止する再生制御部と、
を備える再生制御装置。
【請求項2】
排気ガスに含まれる粒子状物質を捕捉するフィルタの入口における排気ガスの温度である入口温度を取得する入口温度取得部と、
前記入口温度および前記粒子状物質の燃焼量に基づいて、前記フィルタ内の温度である第1フィルタ温度を推定し、前記入口温度に基づいて、前記粒子状物質の燃焼量を加味しない場合の前記フィルタ内の温度である第2フィルタ温度を推定するフィルタ温度推定部と、
前記フィルタにおいて前記粒子状物質が燃焼していない所定の期間において、前記第1フィルタ温度と前記第2フィルタ温度との差分を導出し、前記差分が所定値以上である場合に、エンジンに対する燃料カットを禁止する再生制御部と、
を備える再生制御装置。
【請求項3】
排気ガスに含まれる粒子状物質を捕捉するフィルタの入口における排気ガスの温度である入口温度を取得する工程と、
前記入口温度および前記粒子状物質の燃焼量に基づいて、前記フィルタ内の温度であるフィルタ温度を推定する工程と、
前記フィルタにおいて前記粒子状物質が燃焼していない所定の期間において、前記入口温度と前記フィルタ温度との差分を導出し、前記差分が所定値以上である場合に、エンジンに対する燃料カットを禁止する工程と、
を含む再生制御方法。
【請求項4】
排気ガスに含まれる粒子状物質を捕捉するフィルタの入口における排気ガスの温度である入口温度を取得する工程と、
前記入口温度および前記粒子状物質の燃焼量に基づき、前記フィルタ内の温度である第1フィルタ温度を推定する工程と、
前記入口温度に基づき、前記粒子状物質の燃焼量を加味しない場合の前記フィルタ内の温度である第2フィルタ温度を推定する工程と、
前記フィルタにおいて前記粒子状物質が燃焼していない所定の期間において、前記第1フィルタ温度と前記第2フィルタ温度との差分を導出し、前記差分が所定値以上である場合に、エンジンに対する燃料カットを禁止する工程と、
を含む再生制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタの再生を制御する再生制御装置および再生制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンから排気された排気ガスに含まれる、煤等の粒子状物質を取り除く車両用のフィルタとして、DPF(Diesel Particulate Filter)やGPF(Gasoline Particulate Filter)が知られている。このようなフィルタでは、フィルタに形成された孔で粒子状物質を捕捉することで、排気ガスから粒子状物質を取り除く。フィルタは、使用を継続するに従って粒子状物質によって目詰まりする。そこで、フィルタに空気を送り、捕捉された煤を燃焼させてフィルタから除去する再生処理が行われる(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-140069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記再生処理において、過熱によるフィルタの破損を防止するために、フィルタの温度を推定し、フィルタを耐熱温度未満に維持することが考えられる。再生処理中のフィルタの温度、すなわち、煤の燃焼によるフィルタの発熱量は、煤の燃焼量に基づく。しかし、煤の燃焼量は、フィルタの温度、煤の堆積量、煤の堆積形態等の様々な要因に依存する。このため、煤の燃焼量を高精度に推定することは困難である。したがって、煤の燃焼中は、フィルタの温度の推定精度が低くなってしまう。
【0005】
フィルタの温度の推定精度が低い場合に、再生処理を継続すると、過熱によってフィルタが破損するおそれがある。
【0006】
本発明は、再生処理におけるフィルタの過熱を抑制することが可能な再生制御装置および再生制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の再生制御装置は、排気ガスに含まれる粒子状物質を捕捉するフィルタの入口における排気ガスの温度である入口温度を取得する入口温度取得部と、入口温度および粒子状物質の燃焼量に基づいて、フィルタ内の温度であるフィルタ温度を推定するフィルタ温度推定部と、フィルタにおいて粒子状物質が燃焼していない所定の期間において、入口温度とフィルタ温度との差分を導出し、差分が所定値以上である場合に、エンジンに対する燃料カットを禁止する再生制御部と、を備える。
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の再生制御装置は、排気ガスに含まれる粒子状物質を捕捉するフィルタの入口における排気ガスの温度である入口温度を取得する入口温度取得部と、入口温度および粒子状物質の燃焼量に基づいて、フィルタ内の温度である第1フィルタ温度を推定し、入口温度に基づいて、粒子状物質の燃焼量を加味しない場合のフィルタ内の温度である第2フィルタ温度を推定するフィルタ温度推定部と、フィルタにおいて粒子状物質が燃焼していない所定の期間において、第1フィルタ温度と第2フィルタ温度との差分を導出し、差分が所定値以上である場合に、エンジンに対する燃料カットを禁止する再生制御部と、を備える。
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の再生制御方法は、排気ガスに含まれる粒子状物質を捕捉するフィルタの入口における排気ガスの温度である入口温度を取得する工程と、入口温度および粒子状物質の燃焼量に基づいて、フィルタ内の温度であるフィルタ温度を推定する工程と、フィルタにおいて粒子状物質が燃焼していない所定の期間において、入口温度とフィルタ温度との差分を導出し、差分が所定値以上である場合に、エンジンに対する燃料カットを禁止する工程と、を含む。
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の再生制御方法は、排気ガスに含まれる粒子状物質を捕捉するフィルタの入口における排気ガスの温度である入口温度を取得する工程と、入口温度および粒子状物質の燃焼量に基づき、フィルタ内の温度である第1フィルタ温度を推定する工程と、入口温度に基づき、粒子状物質の燃焼量を加味しない場合のフィルタ内の温度である第2フィルタ温度を推定する工程と、フィルタにおいて粒子状物質が燃焼していない所定の期間において、第1フィルタ温度と第2フィルタ温度との差分を導出し、差分が所定値以上である場合に、エンジンに対する燃料カットを禁止する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、再生処理におけるフィルタの過熱を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】エンジンシステムの構成を示す概略図である。
図2】再生制御装置を説明する図である。
図3】実施形態に係る再生制御方法の処理の流れを示すフローチャートである。
図4】変形例に係る再生制御方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0014】
図1は、エンジンシステム100の構成を示す概略図である。なお、図1中、破線の矢印は、信号の流れを示す。エンジンシステム100は、車両に搭載される。図1に示すように、エンジンシステム100には、ECU(Engine Control Unit)110が設けられる。ECU110は、中央処理装置(CPU)、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等を含むマイクロコンピュータで構成される。ECU110は、エンジン120全体を統括制御する。ただし、以下では、本実施形態に関係する構成や処理について詳細に説明し、本実施形態と無関係の構成や処理については説明を省略する。また、ここでは、エンジン120として、ガソリンエンジンを例に挙げて説明する。
【0015】
エンジン120は、複数の気筒122aを有する多気筒エンジンである。エンジン120のシリンダブロック122に形成された各気筒122aの吸気ポート124には、吸気マニホールド126が連通される。吸気マニホールド126の集合部には、エアチャンバ128を介して吸気管130が連通される。吸気管130の上流側には、エアクリーナ132が設けられる。吸気管130におけるエアクリーナ132の下流側には、スロットル弁134が設けられる。
【0016】
また、エンジン120のシリンダブロック122に形成された各気筒122aの排気ポート136には、排気マニホールド138が連通される。排気マニホールド138の集合部には、排気管140を介してマフラー142が連通される。排気管140には、後述する三元触媒210およびGPF212が設けられる。
【0017】
点火プラグ148は、各気筒122aそれぞれに対して設けられる。点火プラグ148は、その先端が燃焼室146内に位置するように設けられる。インジェクタ150は、各気筒122aの燃焼室146に設けられる。
【0018】
また、エンジンシステム100は、吸入空気量センサ160、吸気温センサ162、スロットル開度センサ164、クランク角センサ166、アクセル開度センサ168を含む。吸入空気量センサ160および吸気温センサ162は、吸気管130におけるエアクリーナ132とスロットル弁134との間に設けられる。吸入空気量センサ160は、エンジン120に流入する吸入空気量を検出する。吸気温センサ162は、エンジン120に流入する空気(外気)の温度を検出する。スロットル開度センサ164は、スロットル弁134の開度を検出する。クランク角センサ166は、クランクシャフトのクランク角を検出する。アクセル開度センサ168は、不図示のアクセルの開度を検出する。
【0019】
これら各センサ160~168は、ECU110に接続されており、検出値を示す信号をECU110に出力する。
【0020】
ECU110は、各センサ160~168から出力された信号を取得してエンジン120を制御する。ECU110は、エンジン120を制御する際、信号取得部180、目標値導出部182、空気量決定部184、噴射量決定部186、スロットル開度決定部188、点火時期決定部190、駆動制御部192として機能する。
【0021】
信号取得部180は、各センサ160~168が検出した値を示す信号を取得する。目標値導出部182は、クランク角センサ166から取得したクランク角を示す信号に基づいて現時点のエンジン回転数を導出する。また、目標値導出部182は、導出したエンジン回転数、および、アクセル開度センサ168から取得したアクセル開度を示す信号に基づき、予め記憶されたマップを参照して目標トルクおよび目標エンジン回転数を導出する。
【0022】
空気量決定部184は、目標値導出部182により導出された目標エンジン回転数および目標トルクなどに基づいて、各気筒122aに供給する目標空気量を決定する。スロットル開度決定部188は、空気量決定部184により決定された各気筒122aの目標空気量の合計量を導出し、合計量の空気を外部から吸気するための目標スロットル開度を決定する。
【0023】
噴射量決定部186は、目標値導出部182により導出された目標エンジン回転数および目標トルク、空気量決定部184により決定された各気筒122aの目標空気量などに基づいて、各気筒122aに供給する燃料の目標噴射量を決定する。また、噴射量決定部186は、決定した目標噴射量の燃料をエンジン120の吸気行程あるいは圧縮行程でインジェクタ150から噴射させるために、クランク角センサ166により検出されるクランク角を示す信号に基づいて、各インジェクタ150の目標噴射時期および目標噴射期間を決定する。
【0024】
点火時期決定部190は、目標値導出部182により導出された目標エンジン回転数や目標トルク、クランク角センサ166により検出されるクランク角を示す信号などに基づいて、各気筒122aでの点火プラグ148の目標点火時期を決定する。
【0025】
駆動制御部192は、スロットル開度決定部188により決定された目標スロットル開度でスロットル弁134が開口するように、不図示のスロットル弁用アクチュエータを駆動する。また、駆動制御部192は、噴射量決定部186により決定された目標噴射時期および目標噴射期間でインジェクタ150を駆動することで、インジェクタ150から目標噴射量の燃料を噴射させる。また、駆動制御部192は、点火時期決定部190により決定された目標点火時期で点火プラグ148を点火させる。
【0026】
このようにして、燃焼室146で燃料が燃焼されたことにより生じた排気ガスは、排気管140を通じて外部に排出される。排気ガスには、炭化水素、一酸化炭素、窒素酸化物や、煤等の粒子状物質が含まれるため、これらを除去する必要がある。そこで、エンジンシステム100では、排気管140に三元触媒210およびGPF212が設けられており、三元触媒210およびGPF212において、炭化水素、一酸化炭素、窒素酸化物、粒子状物質を除去する。
【0027】
三元触媒(Three-Way Catalyst)210は、排気管140内に設けられる。三元触媒210は、例えば、プラチナ(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)等の触媒成分を含む。三元触媒210は、排気ポート136から排出された排気ガス中の炭化水素、一酸化炭素、窒素酸化物を除去する。
【0028】
GPF212(フィルタ)は、排気管140内における三元触媒210の下流側に設けられる。GPF212は、排気ポート136から排気された排気ガス中の粒子状物質(煤)を捕捉する。GPF212は、例えば、ウォールフロー型のフィルタである。
【0029】
エンジンシステム100は、排気管140にGPF212を備える構成により、GPF212に粒子状物質を堆積させて、排気ガスから除去することができる。そして、GPF212に堆積した煤は、下記式(1)に示す反応、すなわち、炭素(C)の酸化反応を進行させることによってGPF212から除去され、GPF212が再生される。
【0030】
C + O → CO …式(1)
しかし、本実施形態のエンジン120はガソリンエンジンであるため、噴射量決定部186は、基本的に理論空燃比(ストイキ)となるように燃料の目標噴射量を決定する。理論空燃比での運転では、排気ガスに含まれる酸素が低濃度となるため、GPF212の再生処理が促進されない。
【0031】
そこで、エンジンシステム100は、再生制御装置を備え、GPF212における粒子状物質の堆積量が所定の堆積閾値以上になった場合に、燃料カットを行う。燃料カットは、エンジン120の回転数が所定数以上である場合にインジェクタ150からの燃料供給を停止することである。これにより、空気(酸素)がGPF212に導かれて再生処理が為される。
【0032】
なお、ECU110は、後述する再生制御装置として機能する際、堆積量推定部262、入口温度取得部264、フィルタ温度推定部266、再生制御部268として機能する。堆積量推定部262、入口温度取得部264、フィルタ温度推定部266、再生制御部268については後に詳述する。
【0033】
[再生制御装置250]
図2は、再生制御装置250を説明する図である。なお、図2中、破線の矢印は、信号の流れを示す。図2に示すように、再生制御装置250は、排気温度センサ252と、差圧センサ254と、堆積量推定部262と、入口温度取得部264と、フィルタ温度推定部266と、再生制御部268とを含む。
【0034】
排気温度センサ252は、三元触媒210とGPF212との間を流れる排気ガスの温度を検出する。つまり、排気温度センサ252は、GPF212の上流側の排気ガスの温度を検出する。差圧センサ254は、GPF212の上流側と下流側との差圧を検出する。
【0035】
堆積量推定部262は、差圧センサ254の検出値に基づいて、GPF212における粒子状物質の堆積量を推定する。例えば、堆積量推定部262は、不図示のメモリに保持された堆積量マップを参照し、差圧センサ254の検出値からGPF212における粒子状物質の堆積量を推定する。なお、堆積量マップは、GPF212における粒子状物質の堆積量と、GPF212の上流側と下流側との差圧とが関連付けられたマップである。
【0036】
入口温度取得部264は、排気温度センサ252の検出値[℃]および吸入空気量[g/s]に基づいて、GPF212の入口における排気ガスの温度を推定する。以下、「GPF212の入口における排気ガスの温度」を「入口温度」と称する。例えば、入口温度取得部264は、排気温度センサ252の検出値と、吸入空気量とを積算して入口温度を推定する。
【0037】
フィルタ温度推定部266は、入口温度、煤の燃焼量[mg/s]、排気ガスの質量流量[kg/s]、および、GPF212の熱容量[J/K]に基づいて、GPF212内の温度を推定する。以下、「GPF212内の温度」を「フィルタ温度」と称する。
【0038】
本実施形態において、フィルタ温度推定部266は、排気ガスからGPF212が受け取るエネルギーであるGPF伝達エネルギー[J/s]、煤の燃焼量、GPF212の熱容量[J/K]、および、入口温度に基づき、GPF212内の温度を推定する。
【0039】
GPF伝達エネルギーは、下記式(2)を用いて導出される。
【0040】
GPF伝達エネルギー=GPF入口排気ガス総熱量-GPF出口排気ガス総熱量 …式(2)
ここで、GPF入口排気ガス総熱量は、下記式(3)を用いて導出される。また、GPF出口排気ガス総熱量、下記式(4)を用いて導出される。
GPF入口排気ガス総熱量=入口温度×定圧比熱×排気ガス質量流量 …式(3)
GPF出口排気ガス総熱量=出口温度×定圧比熱×排気ガス質量流量 …式(4)
上記排気ガス質量流量は、吸入空気量センサ160の検出値と、不図示のA/Fセンサの検出値とに基づいて導出される。排気ガス質量流量は、吸入空気量と燃料流量との加算値になる。このため、A/Fの値と吸入空気量から燃料流量を求め、吸入空気量と合算することで排気ガス質量流量を導出する。
【0041】
出口温度は、GPF212の出口における排気ガスの温度である。出口温度は、入口温度とフィルタ温度の前回値との加重平均で導出される。出口温度は、下記式(5)を用いて導出される。
出口温度=入口温度×係数f+フィルタ温度×(1-係数f) …式(5)
係数fは、入口温度およびフィルタ温度の出口温度に対する影響割合を示す。係数fは0以上1以下の所定の値である。
【0042】
また、フィルタ温度推定部266は、煤の燃焼量[mg/s]から煤の燃焼熱エネルギー[J/s]を導出する。
【0043】
そして、フィルタ温度推定部266は、GPF伝達エネルギーと煤の燃焼熱エネルギーと加算し、これをGPF212の熱容量で除算することで、単位時間当たりのGPF212の温度変化を導出する。フィルタ温度推定部266は、単位時間当たりのGPF212の温度変化を積分することでフィルタ温度を導出する。
【0044】
再生制御部268は、非燃焼期間において、入口温度とフィルタ温度との差分を導出する。なお、非燃焼期間は、GPF212において煤が燃焼していない期間である。非燃焼期間は、例えば、アクセル開度が0を上回る期間、理論空燃比で運転されている期間、GPF212の温度が所定温度未満である期間、後述する燃料カットを禁止している期間である。
【0045】
上記したように、フィルタ温度は、入口温度と、煤の燃焼熱エネルギーとに基づいて推定される。煤が燃焼しない非燃焼期間において、煤の燃焼量はゼロとみなすことができるため、入口温度とフィルタ温度とは、実質的に等しい、もしくは、差分が小さい。
【0046】
そこで、再生制御部268は、堆積量推定部262によって推定されたGPF212における粒子状物質の堆積量が堆積閾値以上である場合であって、フィルタ温度の推定精度が高い場合、つまり、差分が所定値未満である場合、駆動制御部192を制御して燃料カットを行う。これにより、空気がGPF212に導かれて、煤が燃焼される再生処理が実行される。
【0047】
また、再生制御部268は、差分が所定値以上である場合に、フィルタ温度の推定精度が低いとみなして、エンジン120に対する燃料カットを禁止する。
【0048】
これにより、再生制御装置250は、フィルタ温度の推定精度が低い場合に、燃料カットが繰り返し実行されてしまう事態を回避することができ、GPF212の過熱を抑制することが可能となる。
【0049】
[再生制御方法]
続いて、再生制御装置250を用いた再生制御方法について説明する。図3は、本実施形態に係る再生制御方法の処理の流れを示すフローチャートである。再生制御方法は、堆積量判定工程S110、入口温度導出工程S120、フィルタ温度推定工程S130、非燃焼期間判定工程S140、差分判定工程S150、禁止フラグON工程S160、禁止フラグOFF工程S170、フィルタ温度判定工程S180、禁止フラグ判定工程S190、燃料カット工程S200を含む。以下、各工程について説明する。
【0050】
[堆積量判定工程S110]
再生制御部268は、堆積量推定部262によって推定された、GPF212における粒子状物質の堆積量が堆積閾値以上であるか否かを判定する。その結果、堆積閾値以上であると判定した場合(S110におけるYES)、再生制御部268は、入口温度導出工程S120に処理を移す。一方、堆積閾値未満であると判定した場合(S110におけるNO)、再生制御部268は、当該再生制御方法を終了する。
【0051】
[入口温度導出工程S120]
入口温度取得部264は、入口温度を導出する。
【0052】
[フィルタ温度推定工程S130]
フィルタ温度推定部266は、入口温度および粒子状物質の燃焼量に基づいて、フィルタ温度を推定する。
【0053】
[非燃焼期間判定工程S140]
再生制御部268は、非燃焼期間中であるか否かを判定する。その結果、非燃焼期間であると判定した場合(S140におけるYES)、再生制御部268は、差分判定工程S150に処理を移す。一方、非燃焼期間ではないと判定した場合(S140におけるNO)、再生制御部268は、フィルタ温度判定工程S180に処理を移す。
【0054】
[差分判定工程S150]
再生制御部268は、入口温度とフィルタ温度との差分を導出する。そして、再生制御部268は、差分が所定値以上であるか否かを判定する。その結果、再生制御部268は、差分が所定値以上であると判定した場合(S150におけるYES)、禁止フラグON工程S160に処理を移す。一方、再生制御部268は、差分が所定値未満であると判定した場合(S150におけるNO)、禁止フラグOFF工程S170に処理を移す。
【0055】
[禁止フラグON工程S160]
再生制御部268は、燃料カットを禁止することを示す禁止フラグをONする。
【0056】
[禁止フラグOFF工程S170]
再生制御部268は、禁止フラグをOFFする。
【0057】
[フィルタ温度判定工程S180]
再生制御部268は、フィルタ温度がGPF212の耐熱温度以下であるか否かを判定する。その結果、耐熱温度以下であると判定した場合(S180におけるYES)、再生制御部268は、禁止フラグ判定工程S190に処理を移す。一方、耐熱温度を上回ると判定した場合(S180におけるNO)、再生制御部268は、当該再生制御方法を終了する。
【0058】
[禁止フラグ判定工程S190]
再生制御部268は、禁止フラグがONであるか否かを判定する。その結果、再生制御部268は、禁止フラグがONであると判定した場合(S190におけるYES)、当該再生制御処理を終了する。一方、再生制御部268は、禁止フラグがOFFであると判定した場合(S190におけるNO)、燃料カット工程S200に処理を移す。
【0059】
[燃料カット工程S200]
再生制御部268は、駆動制御部192を制御して燃料カットを行う。そして、再生制御部268は、フィルタ温度推定部266によって導出されたフィルタ温度(推定値)が、所定の温度閾値を超えると、燃料カットを終了する。温度閾値は、GPF212が損傷する温度よりも所定温度低い値である。
【0060】
なお、燃料カットが終了しても、GPF212は、ある程度昇温し続ける。燃料カット終了後の昇温量は、粒子状物質の堆積量に依存する。このため、温度閾値は、堆積量テーブルを参照し、粒子状物質の堆積量に応じて設定される。堆積量テーブルは、粒子状物質の堆積量と、温度閾値とが関連付けられたテーブルである。
【0061】
以上説明したように、本実施形態に係る再生制御装置250およびこれを用いた再生制御方法は、入口温度とフィルタ温度との差分が所定値以上である場合に、エンジン120に対する燃料カットを禁止する。これにより、再生制御装置250は、再生処理におけるGPF212の過熱を抑制することが可能となる。
【0062】
[変形例]
上記実施形態において、再生制御部268が、入口温度とフィルタ温度との差分に基づいて、燃料カットを禁止する構成を例に挙げた。しかし、再生制御部268は、入口温度に代えて、煤の燃焼量を加味しない場合のフィルタ内の温度である第2フィルタ温度と、上記フィルタ温度(第1フィルタ温度)とを比較してもよい。
【0063】
この場合、フィルタ温度推定部266は、上記同様に、GPF伝達エネルギーと煤の燃焼熱エネルギーと加算し、これをGPF212の熱容量で除算することで、単位時間当たりのGPF212の温度変化を導出する。そして、フィルタ温度推定部266は、単位時間当たりのGPF212の温度変化を積分することで第1フィルタ温度を導出する。
【0064】
また、フィルタ温度推定部266は、GPF伝達エネルギーをGPF212の熱容量で除算することで、煤の燃焼量を加味しない、単位時間当たりのGPF212の温度変化を導出する。そして、フィルタ温度推定部266は、煤の燃焼量を加味しない、単位時間当たりのGPF212の温度変化を積分することで第2フィルタ温度を導出する。つまり、フィルタ温度推定部266は、煤の燃焼熱エネルギーをゼロとして、第2フィルタ温度を導出する。
【0065】
そして、再生制御部268は、非燃焼期間において、第1フィルタ温度と第2フィルタ温度との差分を導出する。煤が燃焼しない非燃焼期間において、煤の燃焼量はゼロとみなすことができるため、第1フィルタ温度と第2フィルタ温度とは、実質的に等しい、もしくは、差分が小さい。
【0066】
そこで、再生制御部268は、堆積量推定部262によって推定されたGPF212における粒子状物質の堆積量が堆積閾値以上である場合であって、差分が所定値未満である場合、駆動制御部192を制御して燃料カットを行う。
【0067】
また、再生制御部268は、差分が所定値以上である場合に、フィルタ温度の推定精度が低いとみなして、エンジン120に対する燃料カットを禁止する。
【0068】
図4は、変形例に係る再生制御方法の処理の流れを示すフローチャートである。図4に示すように、変形例に係る再生制御方法は、堆積量判定工程S110、第1フィルタ温度推定工程S220、第2フィルタ温度推定工程S230、非燃焼期間判定工程S140、差分判定工程S250、禁止フラグON工程S160、禁止フラグOFF工程S170、フィルタ温度判定工程S180、禁止フラグ判定工程S190、燃料カット工程S200を含む。上記実施形態の再生制御方法と実質的に等しい処理については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0069】
[第1フィルタ温度推定工程S220]
フィルタ温度推定部266は、入口温度および粒子状物質の燃焼量に基づいて、第1フィルタ温度を推定する。
【0070】
[第2フィルタ温度推定工程S230]
フィルタ温度推定部266は、入口温度に基づいて、第2フィルタ温度を推定する。
【0071】
[差分判定工程S250]
再生制御部268は、第1フィルタ温度と第2フィルタ温度との差分を導出する。そして、再生制御部268は、差分が所定値以上であるか否かを判定する。その結果、再生制御部268は、差分が所定値以上であると判定した場合(S250におけるYES)、禁止フラグON工程S160に処理を移す。一方、再生制御部268は、差分が所定値未満であると判定した場合(S250におけるNO)、禁止フラグOFF工程S170に処理を移す。
【0072】
以上説明したように、変形例に係る再生制御装置250およびこれを用いた再生制御方法は、第1フィルタ温度と第2フィルタ温度との差分が所定値以上である場合に、エンジン120に対する燃料カットを禁止する。これにより、変形例に係る再生制御装置250は、再生処理におけるGPF212の過熱を抑制することが可能となる。
【0073】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0074】
なお、上記実施形態において、入口温度取得部264が、排気温度センサ252の検出値に基づいて、入口温度を推定する場合を例に挙げた。しかし、GPF212の入口に温度センサを設け、入口温度取得部264は、当該温度センサの検出値を入口温度として取得してもよい。
【0075】
また、上記実施形態において、エンジンシステム100がエンジン120を備える構成を例に挙げた。しかし、エンジンシステム100は、エンジン120に加えて、モータジェネレータを備えてもよい。この場合、エンジン120が停止しており、モータジェネレータで駆動輪を駆動している期間を、非燃焼期間としてもよい。
【0076】
また、上記実施形態において、再生制御装置250が差圧センサ254を備える場合を例に挙げた。しかし、差圧センサ254は、必須の構成ではない。差圧センサ254を備えない場合、堆積量推定部262は、例えば、エンジン120の運転条件や、前回外気を供給してから現在までの運転時間(走行距離)に基づいて粒子状物質の堆積量を推定してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、フィルタの再生を制御する再生制御装置および再生制御方法に利用できる。
【符号の説明】
【0078】
250 再生制御装置
264 入口温度取得部
266 フィルタ温度推定部
268 再生制御部
図1
図2
図3
図4