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7389733ミトコンドリアを単離するための製品および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】ミトコンドリアを単離するための製品および方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/12 20060101AFI20231122BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20231122BHJP
   C12N 1/02 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
C12M1/12
C12M1/00 A
C12N1/02
【請求項の数】 29
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020173126
(22)【出願日】2020-10-14
(62)【分割の表示】P 2017517221の分割
【原出願日】2015-06-12
(65)【公開番号】P2021013380
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2020-11-12
(31)【優先権主張番号】62/012,045
(32)【優先日】2014-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501475701
【氏名又は名称】チルドレンズ メディカル センター コーポレイション
(73)【特許権者】
【識別番号】301033259
【氏名又は名称】ベス・イスラエル・ディーコネス・メディカル・センター,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マッカリー、ジェームズ ディー.
(72)【発明者】
【氏名】カウアン、ダグラス ビー.
(72)【発明者】
【氏名】パカク、クリスティーナ エイ.
(72)【発明者】
【氏名】レヴィツキー、シドニー
【審査官】斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第02854143(US,A)
【文献】Cell Biology(Third Edition) A Laboratory Handbook,2006, Vol.2,p.69-77
【文献】Free Radical Biology & Medicine,2007, Vol.42,p.1039-1048
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M
B01D
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠心分離管内に受容されるように構成され、ルーメンと、第1及び第2の端部とを備え、各端部は開口を備える、管状本体と、
前記ルーメン内に配置及び固定される第1のフィルタであって、30μmから50μmの細孔サイズを有する該フィルタと、
前記ルーメン内に前記第1のフィルタに隣接して配置及び固定され、5μmから20μmの細孔サイズを有する第2のフィルタと、
前記ルーメン内に前記第1のフィルタ及び前記第2のフィルタの間に配置及び固定され、30μmから50μmの細孔サイズを有する第3のフィルタと、
を含む、生存し呼吸可能なミトコンドリアを単離するための濾過装置であって、
生存ミトコンドリアを含む細胞ホモジネートを前記第2のフィルタに通すことによって得られた濾液内に、生存し呼吸可能なミトコンドリアを収集する、
上記濾過装置。
【請求項2】
遠心分離管内に受容されるように構成され、ルーメンと、第1及び第2の端部とを備え、各端部は開口を備える、管状本体と、
前記ルーメン内に配置及び固定される第1のフィルタであって、30μmから50μmの細孔サイズを有する該フィルタと、
前記ルーメン内に前記第1のフィルタに隣接して配置及び固定され、5μmから20μmの細孔サイズを有する第2のフィルタと、
を含む、生存し呼吸可能なミトコンドリアを単離するための濾過装置であって、
濾液内に生存し呼吸可能なミトコンドリアを収集する、
上記濾過装置。
【請求項3】
遠心分離管内に受容されるように構成され、ルーメンと、第1及び第2の端部とを備え、各端部は開口を備える、管状本体と、
前記ルーメン内に配置及び固定される第1のフィルタであって、30μmから50μmの細孔サイズを有する該フィルタと、
前記ルーメン内に前記第1のフィルタに隣接して配置及び固定され、5μmから20μmの細孔サイズを有する第2のフィルタと、
前記ルーメン内に前記第1のフィルタ及び前記第2のフィルタの間に配置及び固定され、15μmから50μmの細孔サイズを有する第3のフィルタと、
を含む、生存し呼吸可能なミトコンドリアを単離するための濾過装置であって、
濾液内に生存し呼吸可能なミトコンドリアを収集する、
上記濾過装置。
【請求項4】
前記第1のフィルタは、ナイロン、マイラー、ステンレス鋼、ワイヤメッシュ、アルミニウム、合成メッシュ、スペクトラ、ケブラー、プラスチック、又は紙を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記第1のフィルタは、約40μmの細孔サイズを有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記第2のフィルタは、ナイロン、マイラー、ステンレス鋼、ワイヤメッシュ、アルミニウム、合成メッシュ、スペクトラ、ケブラー、プラスチック、又は紙を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記第2のフィルタは、約10μmの細孔サイズを有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記装置が第3のフィルタを有する場合であって、前記第3のフィルタは、約40μmの細孔サイズを有する、請求項1又は3~7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記装置が第3のフィルタを有する場合であって、前記第3のフィルタは、約20μmの細孔サイズを有する、請求項3~7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
前記装置が第3のフィルタを有する場合であって、前記第3のフィルタは、ナイロン、マイラー、ステンレス鋼、ワイヤメッシュ、アルミニウム、合成メッシュ、スペクトラ、ケブラー、プラスチック、又は紙を含む、請求項1又は3~9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
前記装置が第3のフィルタを有する場合であって、前記装置が第4のフィルタを備える、請求項1又は3~10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
前記第4のフィルタは、ナイロン、マイラー、ステンレス鋼、ワイヤメッシュ、アルミニウム、合成メッシュ、スペクトラ、ケブラー、プラスチック、又は紙を含む、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
装置が無菌である、請求項1~12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
生存ミトコンドリアを含む細胞ホモジネートを提供することと;
請求項1~13のいずれかに記載の濾過装置を提供することと;
細胞ホモジネートを前記装置に通過させ、それにより生存ミトコンドリアを含む濾液を形成することと;
濾液を収集し、それにより生存ミトコンドリアを単離することと
を含む、生存し呼吸可能なミトコンドリアを単離するための方法。
【請求項15】
生存ミトコンドリアを含む細胞ホモジネートを提供することと;
前記細胞ホモジネートを、30μmから50μmの細孔サイズを有する第1のフィルタを通過させ;次に
5μmから20μmの細孔サイズを有する第2のフィルタを通過させ、それにより濾液を形成させることと;
生存し呼吸可能なミトコンドリアを含む濾液を収集することと
を含む、生存し呼吸可能なミトコンドリアを単離するための方法。
【請求項16】
前記第1のフィルタの細孔サイズは40μmであり、及び前記第2のフィルタの細孔サイズは10μmである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記細胞ホモジネートを、遠心分離を行うことなく前記第1のフィルタ及び前記第2のフィルタに通過させる、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
さらに、前記細胞ホモジネートを前記第2のフィルタを通過させる前に、15μmから50μmの細孔サイズを有する第3のフィルタに前記細胞ホモジネートを通過させることを含む、請求項15~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記第3のフィルタの細孔サイズが40μmである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記細胞ホモジネートを、遠心分離を行うことなく前記第1のフィルタ、前記第2のフィルタ、及び前記第3のフィルタに通過させる、請求項18又は19に記載の方法。
【請求項21】
さらに、細胞ホモジネートを第4のフィルタに通過させることを含む、請求項18~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記細胞ホモジネートを、遠心分離を行うことなく前記第1のフィルタ、前記第2のフィルタ、前記第3のフィルタ、及び前記第4のフィルタに通過させる、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
300mMのスクロース;10mMのKHEPES;及び1mMのKEGTAを含む溶液中で組織を均質化し、それにより前記細胞ホモジネートを提供することを含む、請求項14~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記細胞ホモジネートが4℃で提供される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記第1のフィルタ及び前記第2のフィルタを装置に配置し、かつ前記濾液を収集する前に前記装置を1×gで遠心分離する、請求項14~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
ミトコンドリア単離に要する時間は30分未満である、請求項14~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
遠心分離管内に受容されるように構成され、ルーメンと、第1及び第2の端部とを備え、各端部は開口を備える、管状本体と、
前記ルーメン内に配置及び固定される第1のフィルタであって、30μmから50μmの細孔サイズを有する該フィルタと、
前記ルーメン内に前記第1のフィルタに隣接して配置及び固定され、5μmから20μmの細孔サイズを有する第2のフィルタと、
前記ルーメン内に前記第1のフィルタ及び前記第2のフィルタの間に配置及び固定され、30μmから50μmの細孔サイズを有する第3のフィルタと、
からなる、請求項1に記載の濾過装置。
【請求項28】
遠心分離管内に受容されるように構成され、ルーメンと、第1及び第2の端部とを備え、各端部は開口を備える、管状本体と、
前記ルーメン内に配置及び固定される第1のフィルタであって、30μmから50μmの細孔サイズを有する該フィルタと、
前記ルーメン内に前記第1のフィルタに隣接して配置及び固定され、5μmから20μmの細孔サイズを有する第2のフィルタと、
からなる、請求項2に記載の濾過装置。
【請求項29】
遠心分離管内に受容されるように構成され、ルーメンと、第1及び第2の端部とを備え、各端部は開口を備える、管状本体と、
前記ルーメン内に配置及び固定される第1のフィルタであって、30μmから50μmの細孔サイズを有する該フィルタと、
前記ルーメン内に前記第1のフィルタに隣接して配置及び固定され、5μmから20μmの細孔サイズを有する第2のフィルタと、
前記ルーメン内に前記第1のフィルタ及び前記第2のフィルタの間に配置及び固定され、15μmから50μmの細孔サイズを有する第3のフィルタと、
からなる、請求項3に記載の濾過装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、参照により本明細書に組み入れられる、2014年6月13日に出願された米国出願第62/012,045号の利益を主張する。
連邦政府資金による研究開発
【0002】
本発明は、国立衛生研究所により授与された助成金番号HL104642の下での米国政府援助によりなされた。政府は、本出願においてある特定の権利を有する。
【0003】
本発明は、臨床状況において使用され得る無傷生存ミトコンドリアを単離するための濾過装置、キットおよび方法に関する。
【背景技術】
【0004】
ミトコンドリアは、赤血球以外の体内の全ての細胞内に存在し、多くの重要な細胞および代謝プロセスに関与している(van Loo et al.,Cell Death Differ 9:1031-1042,2002;Szabadkai et al.,Physiology(Bethesda)23:84-94 doi:0.1152/physiol.00046.2007,2008;Chan,Cell 125:1241-1252,2006;Picard et al.,PLoS ONE 6,e18317,doi:10.1371/journal.pone.0018317,2011)。これらの多くの機能のため、ミトコンドリア損傷は、有害な影響を有し得る(Chan,Cell 125:1241-1252,2006)。ミトコンドリア機能および機能不全を調査するために、いくつかのミトコンドリア単離方法が説明されている。最も早く発表されたミトコンドリア単離の記事は、1940年代まで遡るようである(Bensley et al.,Anat Rec 60:449-455,1934;Claude,J Exp Med 84:61-89,1946;Hogeboom et al.,J Biol Chem 172:619-635,1948;Ernster et al.,J Cell Biol 91(3 Pt 2),227s-255s,1981)。1つの試みは、乳鉢内での肝臓組織の粉砕に続く塩溶液中での低速での遠心分離によるミトコンドリア単離を実証した(Bensley et al.,Anat Rec 60:449-455,1934;Ernster et al.,J Cell Biol 91(3 Pt 2),227s-255s,1981)。他のグループは、元の手順を拡張し、分別遠心分離に基づく組織分画を実証した(Claude,J Exp Med 84:61-89,1946;Hogeboom et al.,J Biol Chem 172:619-635,1948;Ernster et al.,J Cell Biol 91(3 Pt 2),227s-255s,1981)。これらの初期の方法は、多くの場合均質化および/または分別遠心分離を組み込んでいる、現在の当技術分野において知られている技法の基礎を形成した(Pallotti et al.,Methods Cell Biol 80:3-44,2007;Schmitt et al.,Anal Biochem 443:66-74,doi:10.1016/j.ab.2013.08.007,2013;Fernandez-Vizarra et al.,Mitochondrion 10:253-262,doi:10.1016/j.mito.2009.12.148,2010;Graham et al.,Curr Protoc Cell Biol Chapter 3,Unit 3.3,doi:10.1002/0471143030.cb0303s04,2001;Frezza et al.,Nat Protoc 2:287-295,2007;Wieckowski et al.,Nat Protoc 4:1582-1590,doi:10.1038/nprot.2009.151,2009;Gostimskaya et al.,J Vis Exp(43),pii:2202,doi:10.3791/2202,2010)。均質化および遠心分離ステップの数は、プロトコル間で様々である。これらの反復ステップは、ミトコンドリア単離のための時間を増加させ、最終的に生存率を低下させる。さらに、手作業による均質化は、適切に制御されない場合、ミトコンドリア損傷、および一貫性のない結果をもたらし得る(Schmitt et al.,Anal Biochem 443:66-74,doi:10.1016/j.ab.2013.08.007,2013;Gross et al.,Anal Biochem 418:213-223,doi:10.1016/j.ab.2011.07.017,2011)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、少なくとも部分的に、分別濾過により高収率および高純度で生存呼吸可能ミトコンドリアが単離され得るという発見に基づく。特に、出願人らは、約5μmから約20μm、例えば約6μm、8μm、10μm、12μm、15μm、または約18μmの細孔サイズを有するフィルタによって、ミトコンドリアが濾液中に収集され得、一方細胞残屑および他の細胞小器官は、フィルタにより保持されることを見出した。したがって、本明細書は、例えば、生存呼吸可能ミトコンドリアを単離するための濾過装置、キットおよび方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様において、本開示は、遠心分離管内に受容されるように構成され、ルーメンと、第1および第2の端部とを有し、各端部は開口を有する、管状本体と;ルーメン内に配置および固定される第1のフィルタであって、約30μmから約50μm、例えば約33μm、35μm、38μm、40μm、42μm、45μm、または約48μmの細孔サイズを有するフィルタと;ルーメン内に第1のフィルタに隣接して配置および固定され、約5μmから約20μm、例えば約6μm、8μm、10μm、12μm、15μm、または約18μmの細孔サイズを有する第2のフィルタとを有する濾過装置を提供する。いくつかの実施形態において、濾過装置は、ルーメン内に第1のフィルタおよび第2のフィルタに隣接して配置および固定され、約15μmから約50μm、例えば約18μm、20μm、22μm、25μm、28μm、30μm、33μm、35μm、38μm、40μm、42μm、45μm、または約48μmの細孔サイズを有する第3のフィルタを有してもよい。いくつかの実施形態において、第1のフィルタおよび第3のフィルタは、同じ細孔サイズ、例えば30μm、33μm、35μm、38μm、40μm、42μm、45μm、48μm、または約50μmの細孔サイズを有する。いくつかの実施形態において、第2のフィルタおよび第3のフィルタは、同じ細孔サイズ、例えば15μm、16μm、17μm、18μm、19μm、または約20μmの細孔サイズを有する。一実施形態において、濾過装置は、無菌であってもよい。いくつかの実施形態において、第1、第2および第3のフィルタは、ナイロン、マイラー、ステンレス鋼、ワイヤメッシュ、アルミニウム、合成メッシュ、スペクトラ、ケブラー、プラスチック、紙、またはそれらの任意の組み合わせを含む。さらに別の実施形態において、遠心分離管は、50mLの遠心分離管である。
【0007】
別の態様において、本開示は、少なくとも1個、例えば2個、3個、5個または10個以上の上述の濾過装置、例えば、遠心分離管内に受容されるように構成され、ルーメンと、第1および第2の端部とを有し、各端部は開口を有する、管状本体と;ルーメン内に配置および固定される第1のフィルタであって、約30μmから約50μm、例えば約33μm、35μm、38μm、40μm、42μm、45μm、または約48μmの細孔サイズを有するフィルタと;ルーメン内に第1のフィルタに隣接して配置および固定され、約5μmから約20μm、例えば約6μm、8μm、10μm、12μm、15μm、または約18μmの細孔サイズを有する第2のフィルタとを有する装置を有するキットを提供する。一実施形態において、キットは、300mMのスクロース;10mMのKHEPES、pH7.2;および1mMのKEGTA、pH8.0を有する第1の溶液と;第1の溶液1mL当たり2mgのサブチリシンA(Subtilisin A)を有する第2の溶液と;第1の溶液1mL当たり10mgのBSAを有する第3の溶液と;第1の溶液1mL当たり1mgのBSAを有する第4の溶液と;50mLの遠心分離管と;1.5mLの微小遠心分離管とを含んでもよい。いくつかの実施形態において、50mLの遠心分離管および1.5mLの微小遠心分離管は、無菌である。
【0008】
さらに別の態様において、本開示は、生存呼吸可能ミトコンドリアを単離するための方法を提供する。方法は、生存ミトコンドリアを有する細胞ホモジネートを提供することと;上述の濾過装置、例えば、遠心分離管内に受容されるように構成され、ルーメンと、第1および第2の端部とを有し、各端部は開口を有する、管状本体と;ルーメン内に配置および固定される第1のフィルタであって、約30μmから約50μm、例えば約33μm、35μm、38μm、40μm、42μm、45μm、または約48μmの細孔サイズを有するフィルタと;ルーメン内に第1のフィルタに隣接して配置および固定され、約5μmから約20μm、例えば約6μm、8μm、10μm、12μm、15μm、または約18μmの細孔サイズを有する第2のフィルタとを有する装置を提供することと;任意選択で、濾過装置を比較的直立位置に位置付けることと;細胞ホモジネートが、第1のフィルタ、続いて第2のフィルタに接触して、それらを通して濾過され、それにより濾液を形成するように、細胞ホモジネートを第1の端部の開口内に導入することと;濾液を収集し、それにより生存ミトコンドリアを単離することとを含んでもよい。
【0009】
一実施形態において、方法は、300mMのスクロース;10mMのKHEPES、pH7.2;および1mMのKEGTA、pH8.0を含む溶液中で、組織、例えば哺乳動物組織、例えば組織生検からの哺乳動物組織を均質化し、それにより細胞ホモジネートを提供することを含む。いくつかの実施形態において、方法は、細胞ホモジネートを導入する前に、300mMのスクロース;10mMのKHEPES、pH7.2;および1mMのKEGTA、pH8.0を含む溶液1mL中の1mgのBSAを含む溶液で、第2のフィルタを湿潤させることを含んでもよい。一実施形態において、方法は、濾液を収集する前に、装置を約1×gで3分間遠心分離することを含んでもよい。いくつかの実施形態において、濾液は、4℃で5分間9000rpmで遠心分離される。一実施形態において、細胞ホモジネートは、無菌ガラス粉砕容器内で組織を均質化することにより提供され得る。
【0010】
別段に定義されていない限り、本明細書において使用されている技術的用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者により一般的に理解されているのと同じ意味を有する。本明細書において、本発明における使用のための方法および材料が記載されているが、当該技術分野において知られている他の好適な方法および材料もまた使用され得る。材料、方法、および例は例示のみを目的としており、限定を意図するものではない。本明細書において言及されるすべての出版物、特許出願、特許、および他の参考文献は、参照することによりその全体が組み入れられる。不一致が生じる場合は、定義を含めて本明細書が優先される。
【0011】
本発明の他の特徴および利点は、以下の記載および図から、ならびに特許請求の範囲から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】例示的濾過装置を示す概略図である。
図2】30分未満の全手順時間で組織解離および分別濾過を使用してミトコンドリアを単離するためのスキームを示す図である。
図3A】骨格筋および肝臓の0.18±0.04gの組織(湿潤重量)から単離された血球計および粒子サイズカウンタのミトコンドリア数を示す棒グラフである。
図3B】粒子サイズカウンタにより検出されたミトコンドリアサイズ分布を示す線グラフである。
図3C】骨格筋および肝臓のミトコンドリアタンパク質(mg/g)組織湿潤重量を示す棒グラフである。
図3D】単離されたミトコンドリアの透過型電子顕微鏡像である。スケールバーは100nmである。矢印は、非ミトコンドリア粒子および損傷ミトコンドリアによる可能な汚染を示す。
図4A】位相差照明下での単離されたミトコンドリアの顕微鏡写真である。スケールバーは、25μmである。
図4B】蛍光照明下での単離されたミトコンドリアの顕微鏡写真であり、ミトコンドリアはMitoTracker Red CMXRosにより標識化されている。スケールバーは、25μmである。
図4C】蛍光照明下での単離されたミトコンドリアの顕微鏡写真であり、ミトコンドリアはMitoTracker Red CMXRosにより標識化されている。スケールバーは、5μmである。
図4D】ATPアッセイにより決定されたATP含量nmol/mgミトコンドリアタンパク質を示す棒グラフである。
図4E】クラーク電極により決定された呼吸調節率(RCI)(状態3/状態4)を示す棒グラフである。
図5】ATPアッセイのプレートマップを示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
分別遠心分離および/またはFicoll勾配遠心分離を使用した以前に説明されたミトコンドリア単離方法は、典型的には、完了するのに60から100分を必要とする。本明細書に記載されるのは、組織からのミトコンドリアの迅速な単離のための濾過装置、キットおよび方法である。本明細書に記載のある特定の方法は、組織解離器および分別濾過を使用する。この方法では、手作業の均質化を組織解離器の標準化された均質化サイクルで置き換えることができ、これによって、手作業の均質化では容易に達成されない組織の均一および一貫した均質化が可能となる。組織解離後に、細胞ホモジネートは、ナイロンメッシュフィルタを通して濾過され、これにより反復的遠心分離ステップが排除される。その結果、ミトコンドリア単離は、30分未満で実行され得る。本明細書に記載の濾過装置、キットおよび方法を使用した典型的な単離は、0.18±0.04g(湿潤重量)の組織試料から、約2×1010個の生存した呼吸可能なミトコンドリアを得ることができる。
【0014】
本明細書に記載の濾過装置は、無傷生存ミトコンドリアを、30分以内で、例えば28分、25分または20分以内で迅速に単離するために使用され得る。ミトコンドリアを単離する方法において、標準的な分別遠心分離の代わりに分別濾過を使用することにより、標準的な分別遠心分離プロトコルを使用した場合よりも、手順時間が大幅に削減され、ミトコンドリアがより少ない機械的ストレスに供される。例えば、いくつかの遠心分離ステップを組み込んだプロトコルは、ミトコンドリアを単離するのに60分から100分を要し得る(Frezza et al.,Nat Protoc 2:287-295,2007;Wieckowski et al.,Nat Protoc 4:1582-1590,doi:10.1038/nprot.2009.151,2009;Gostimskaya et al.,J Vis Exp(43),pii:2202,doi:10.3791/2202,2010;Gross et al.,Anal Biochem 418:213-223,doi:10.1016/j.ab.2011.07.017,2011;Masuzawa et al.,Amer J Physiol Heart Circ Physiol 304:H966-H982,doi:10.1152/ajpheart.00883.2012,2013)。本発明の濾過装置、キットおよび単離方法の別の利点は、組織均質化が標準化されるという点である。組織解離器は、標準化されたサイクルを提供し、一貫した再現性のある結果を生成する。これは、使用者による変動性および非一貫性に曝される手作業の均質化とは対照的である。本発明の方法により提供される単離時間枠は、臨床的および手術治療的介入に適合する(Masuzawa et al.,Amer J Physiol Heart Circ Physiol 304:H966-H982,doi:10.1152/ajpheart.00883.2012,2013;McCully et al.,Amer J Physiol Heart Circ Physiol 296:H94-H105,doi:10.1152/ajpheart.00567.2008,2009)。
【0015】
装置
本明細書に記載の濾過装置は、以下でさらに説明され、図1に示される複数のフィルタを収容するように構成された本体(例えば管状本体)を特徴とする。本体(10)は、遠心分離管(90)内に適合するような形状であってもよい。本体(10)および遠心分離管(90)は、任意のサイズであってもよい。本体(10)は、それぞれ開口(30)および(70)を有する第1および第2の端部(20)および(80)を有する。本体は、試料が一方の端部で本体内に設置され、ルーメン(40)を通って移動し、例えば重力、毛管作用、および/または遠心分離により、本体内に配置された少なくとも2つのフィルタを通して試料が進行した後に、反対の端部で回収され得るように、ルーメン(40)を有する。一方または両方の端部(20および/または80)は、それぞれ開口を有するが、いくつかの実施形態において、例えば無菌性を保つ、および/または濾液を収集するための領域を提供するために可逆的にキャップされ得ることが、当業者に理解されるであろう。典型的には、本体は、本体の長さに沿ってほぼ円形の断面を有する。しかしながら、本体の断面は、任意の所望の形状、例えば楕円形、正方形、長方形、三角形等であってもよいことが、当業者に理解されるであろう。いくつかの実施形態において、本体が市販の遠心分離管(90)、例えば50mLの遠心分離管内に受容され得るように、断面はほぼ円形である。管状本体(10)は、任意の当該技術分野において知られた材料、例えばポリプロピレンまたはポリスチレンから構築されてもよいことが、当業に理解されるであろう。本体の一方の端部、例えば端部(80)は、遠心分離管内への本体の挿入を容易化するために、および/または本体内のフィルタ(複数を含む)の保持を補助するために、テーパ型構成(図1に示される)を有してもよい。
【0016】
装置は、ルーメン内に配置および固定される第1のフィルタ(50)を含み、フィルタは、約30μmから約50μm、例えば約30μm、33μm、35μm、38μm、40μm、42μm、45μm、48μm、または約50μmの細孔サイズを有する。第1のフィルタは、任意の当技術分野において知られたフィルタ材料、例えばナイロン、マイラー、ステンレス鋼、ワイヤメッシュ、アルミニウム、合成メッシュ、スペクトラ、ケブラー、プラスチック、紙、またはそれらの任意の組み合わせから構築されてもよい。装置はまた、ルーメン内に第1のフィルタに隣接して配置および固定され、約5μmから約20μm、例えば約5μm、6μm、8μm、10μm、12μm、15μm、18μm、または約20μmの細孔サイズを有する第2のフィルタ(60)を含む。第2のフィルタは、任意の当技術分野において知られたフィルタ材料、例えばナイロン、マイラー、ステンレス鋼、ワイヤメッシュ、アルミニウム、合成メッシュ、スペクトラ、ケブラー、プラスチック、紙、またはそれらの任意の組み合わせから構築されてもよい。第1および第2のフィルタは、それらが互いに接触するように、またはいくらかの距離だけ離れて離間するように本体内に位置付けられてもよい。例えば、第1および第2のフィルタは、本体の使用目的および/または長さに依存して、少なくともまたは約0.5mm、例えば少なくとももしくは約1mm、2mm、3mm、4mm、5mm、8mm、1cm、2cm、5cm、または少なくとももしくは約10cmの距離だけ離して本体内に配置されてもよい。
【0017】
装置は、任意選択で、ルーメン内に第1のフィルタおよび第2のフィルタに隣接して配置および固定され、約15μmから約50μm、例えば約15μm、18μm、20μm、22μm、25μm、28μm、30μm、33μm、35μm、38μm、40μm、42μm、45μm、48μm、または約50μmの細孔サイズを有する第3のフィルタを含んでもよい。第3のフィルタは、任意の当技術分野において知られたフィルタ材料、例えばナイロン、マイラー、ステンレス鋼、ワイヤメッシュ、アルミニウム、合成メッシュ、スペクトラ、ケブラー、プラスチック、紙、またはそれらの任意の組み合わせから構築されてもよい。第3のフィルタは、第1のフィルタと第2のフィルタとの間に配置されてもよい。いくつかの実施形態において、第3のフィルタは、第1のフィルタと第1の開口との間に、すなわち、第1のフィルタよりも第1の開口の近くに配置される。他の実施形態において、第3のフィルタは、第2のフィルタと第2の開口との間に、すなわち、第2のフィルタよりも第2の開口の近くに配置される。第3のフィルタは、第1のフィルタおよび/もしくは第2のフィルタに接触するように配置されてもよく、または、3つのフィルタは、均一に離間しても、もしくは不均一に離間してもよい。例えば、第3のフィルタが第1のフィルタと第2のフィルタとの間に配置される場合、第1および第3のフィルタは、互いに接触してもよく、あるいは、少なくともまたは約0.5mm離れて、例えば少なくとももしくは約1mm、2mm、3mm、4mm、5mm、8mm、1cm、2cm、5cm、または少なくとももしくは約10cm離れていてもよく;第3および第2のフィルタは、互いに接触してもよく、あるいは、少なくともまたは約0.5mm離れて、例えば少なくとももしくは約1mm、2mm、3mm、4mm、5mm、8mm、1cm、2cm、5cm、または少なくとももしくは約10cm離れていてもよい。
【0018】
いくつかの場合において、使用目的に依存してさらなるフィルタ(例えば、第4のフィルタ、第5のフィルタ、第6のフィルタ等)が追加されてもよいことが、当業者に理解されるであろう。いくつかの実施形態において、装置は、無菌である。フィルタは、任意の当技術分野において知られた方法を使用して、例えば、接着剤の使用、圧入、および/または、フィルタをルーメン内に保持させるようにルーメン壁を構成することにより(例えば、ルーメン壁が隆起部、溝、もしくは他の保持要素を有するように設計することにより)本体内に固定され得ることが、当業者に理解されるであろう。
【0019】
キット
本開示はまた、生存ミトコンドリアを単離するための、本明細書に記載の濾過装置を特徴とするキットを提供する。そのようなキットは、少なくとも1個、例えば2個、3個、5個または10個の上述の濾過装置を含む。キットは、本明細書に記載のミトコンドリア単離方法を実行するのに有用な1種または複数種の溶液をさらに含んでもよい。例えば、キットは、300mMのスクロース;10mMのKHEPES、pH7.2;および1mMのKEGTA、pH8.0を含む第1の溶液を含んでもよい。代替として、またはそれに追加して、キットは、第1の溶液1mL当たり2mgのサブチリシンAを含む第2の溶液を含んでもよい。代替として、またはそれに追加して、キットは、第1の溶液1mL当たり10mgのBSAを含む第3の溶液を含んでもよい。代替として、またはそれに追加して、キットは、不活性ヒト血清アルブミンまたはアセチル化ヒト血清アルブミンを含む溶液を含んでもよい。代替として、またはそれに追加して、キットは、第1の溶液1mL当たり1mgのBSAを含む第4の溶液を含んでもよい。いくつかの場合において、キットは、濾過装置を適合させることができる50mLの遠心分離管を含んでもよい。代替として、またはそれに追加して、キットは、1.5mLの微小遠心分離管を含んでもよい。いくつかの一実施形態において、50mLの遠心分離管および1.5mLの微小遠心分離管は、無菌である。
【0020】
ミトコンドリアを単離する方法
例示的方法において、無傷生存ミトコンドリアは、組織、例えば哺乳動物組織、例えば組織生検からの哺乳動物組織から単離される。例えば、哺乳動物からの組織は、例えばメスを用いて切り刻み、300mMスクロース;10mMのKHEPES、pH7.2;および1mMのKEGTA、pH8.0を含有する第1の溶液中で、電動式乳棒を有する無菌ガラス粉砕容器(Thomas、Philadelphia、PA)内で、4℃で5から10秒間均質化することができる。次いで、第1の溶液1mL当たり2mgのサブチリシンAを含有する溶液をホモジネートに添加し、氷上で10分間インキュベートする。
【0021】
氷上でのインキュベーション後、細胞ホモジネートを、本明細書に記載のように、比較的直立に位置付けられた無菌濾過装置に導入する。いくつかの実施形態において、ある体積の細胞ホモジネート、例えば約100μL、200μL、300μL、400μL、500μL、600μL、700μL、800μL、900μL、1mL、1.5mL、2mL、2.5mL、3mL、4mL、5mL、6mL、7mL、10mL、15mL、20mL、25mL、30mL、35mL、40mL、45mL、または約50mLを、第1の端部の開口内に、細胞ホモジネートが第2のフィルタに接触する前に第1のフィルタに接触するように導入し、例えば重力または遠心分離により両方のフィルタを通過した後に、管、例えば遠心分離管、バイアル、微小遠心分離管、または試験管内に濾液を収集し、無傷の生存呼吸可能ミトコンドリアを単離する。代替として、またはそれに追加して、濾過装置は、濾液を収集することができるキャップを第2の端部に有してもよく、重力または遠心分離により濾液が第1のフィルタ、第2のフィルタ、および存在する場合には第3のフィルタを通って流動した後に、キャップを開ける、またはねじって外して濾液を収集することができる。いくつかの実施形態において、ある体積の細胞ホモジネートを、約30μmから約50μm、例えば約33μm、35μm、38μm、40μm、42μm、45μm、または約48μmの細孔サイズを有するフィルタに通過させることができ、任意選択で、濾液を、約15μmから約50μm、例えば約18μm、20μm、22μm、25μm、28μm、30μm、33μm、35μm、38μm、40μm、42μm、45μm、または約48μmの細孔サイズを有する別のフィルタに通過させてから、約5μmから約20μm、例えば約6μm、8μm、10μm、12μm、15μm、または約18μmの細孔サイズを有するフィルタに通過させることができる。
【0022】
細胞ホモジネートを濾過装置に導入する前に、300mMのスクロース;10mMのKHEPES、pH7.2;および1mMのKEGTA、pH8.0を含む溶液1mL中の1mgのBSAを含む溶液で、約5μmから約20μm、例えば約6μm、8μm、10μm、12μm、15μm、または約18μmの細孔サイズを有するフィルタを湿潤させてもよい。本明細書に記載の方法において常に必要とされるわけではないが、濾液収集は、装置を例えば1×gで3分間遠心分離することにより容易化され得ることが、当業者により理解される。ミトコンドリアは、濾液を4℃で5分間9000rpmで遠心分離することにより濃縮され得ることが、当業者により理解される。
【実施例
【0023】
いくつかの一般的なプロトコルを以下で説明するが、これらは、本明細書に記載の方法のいずれにおいても使用することができ、特許請求の範囲に記載される本発明の範囲を限定しない。
【0024】
実施例1:原液
無傷の生存呼吸可能ミトコンドリアを単離するために、以下の溶液を調製した。本発明の方法を使用してミトコンドリアを成功裏に単離するために、全ての溶液および組織試料を氷上に保持し、ミトコンドリアの生存を保つべきである。氷上に維持された場合であっても、単離されたミトコンドリアは、経時的に機能活性の低下を示す(Olson et al.,J Biol Chem 242:325-332,1967)。全ての溶液は、可能な場合には事前に調製されるべきである。
1MのK-HEPES原液(KOHでpHを7.2に調整)。
0.5MのK-EGTA原液(KOHでpHを8.0に調整)。
1MのKHPO原液。
1MのMgCl原液。
均質化緩衝液(pH7.2):300mMのスクロース、10mMのK-HEPES、および1mMのK-EGTA。4℃で保存した。
呼吸緩衝液:250mMのスクロース、2mMのKHPO、10mMのMgCl、20mMのK-HEPES緩衝液(pH7.2)、および0.5mMのK-EGTA(pH8.0)。4℃で保存した。
10×PBS原液:80gのNaCl、2gのKCl、14.4gのNaHPO、および2.4gのKHPOを、1Lの再蒸留HO(pH7.4)に溶解させた。
100mLの10×PBSを1Lの再蒸留HOに滴下することにより、1×PBSを調製した。
4mgのSubtilisin Aを1.5mLの微小遠心分離管に量り入れることにより、Subtilisin A原液を調製した。使用するまで-20℃で保存した。
20mgのBSAを1.5mLの微小遠心分離管に量り入れることにより、BSA原液を調製した。使用するまで-20℃で保存した。
【0025】
実施例2:ミトコンドリア単離
組織解離および分別濾過を使用したミトコンドリアの単離における手順ステップの概要を説明した図を、図2に示す。2つの6mm生検穿孔試料を、解離C管内の5mLの均質化緩衝液に移し、試料を組織解離器の1分間の均質化プログラムを使用して均質化した(A)。サブチリシンA原液(250μL)を解離C管内のホモジネートに添加し、10分間氷上でインキュベートした(B)。氷上の50mLの円錐遠心分離管内に、事前に湿潤させた40μmメッシュフィルタを通してホモジネートを濾過し、次いで250μLのBSA原液を濾液に添加した(C)。氷上の50mLの円錐遠心分離内に、新しい事前に湿潤させた40μmのメッシュフィルタを通して濾液を再び濾過した(D)。氷上の50mLの円錐遠心分離管内に、新しい事前に湿潤させた10μmのメッシュフィルタを通して濾液を再び濾過した(E)。濾液を1.5mLの微小遠心分離管に移し、4℃で10分間9000×gで遠心分離した(F)。上清を除去し、ミトコンドリアを含有するペレットを再び懸濁させ、1mLの呼吸緩衝液に組み合わせた(G)。
【0026】
単離直前に、サブチリシンAを1mLの均質化緩衝液に溶解した。単離直前に、BSAを1mLの均質化緩衝液に溶解した。6mm生検試料穿孔を使用して2つの新鮮な組織試料を収集し、氷上の50mLの円錐遠心分離管内で1×PBS中で保存した。2つの6mm組織穿孔試料を、5mLの氷冷均質化緩衝液を含有する解離C管に移した。組織解離器上に解離C管を取り付け、事前設定されたミトコンドリア単離サイクル(60秒の均質化)を選択することにより、組織を均質化した。
【0027】
解離C管を取り除いて、アイスペールに移した。サブチリシンA原液(250μL)をホモジネートに添加し、転倒混和し、ホモジネートを氷上で10分間インキュベートした。40μmのメッシュフィルタを氷上の50mLの円錐遠心分離管上に設置し、均質化緩衝液でフィルタを予め湿潤させ、ホモジネートを氷上の50mLの円錐遠心分離管内に濾過した。
【0028】
新しく調製したBSA原液(250μL)を濾液に添加し、転倒混和した。(このステップは、ミトコンドリアタンパク質決定が必要である場合には省略した。)40μmのメッシュフィルタを氷上の50mLの円錐遠心分離管上に設置し、均質化緩衝液でフィルタを事前に湿潤させ、ホモジネートを氷上の50mL円錐遠心分離管内に濾過した。10μmのフィルタを氷上の50mLの円錐遠心分離管上に設置し、均質化緩衝液でフィルタを事前に湿潤させ、ホモジネートを氷上の50mL円錐遠心分離管内に濾過した。濾液を2つの事前に冷却された1.5mLの微小遠心分離管に移し、4℃で10分間9000×gで遠心分離した。上清を除去し、ペレットを再び懸濁させ、1mLの氷冷呼吸緩衝液に組み合わせた。
【0029】
実施例3:ATPアッセイ
単離されたミトコンドリアの代謝活性を決定するために、ATPアッセイキットを使用してATP発光アッセイを行った。プロトコル、試薬および標準は、アッセイキットに提供されていた。手順の要約を以下に記載する。
【0030】
キット試薬を室温に平衡化した。凍結乾燥ATPペレットを1,170μLの再蒸留水に溶解することにより、10mMのATP原液を調製した。ATP標準原液および調製されたミトコンドリア試料を氷上で保存した。
【0031】
基質緩衝溶液(5mL)を、凍結乾燥基質溶液のバイアルに添加し、穏やかに混合し、暗所に設置した。呼吸緩衝液(100μL)を、黒色の不透明底部96ウェルプレートの全てのウェルに添加した。調製された試料からのミトコンドリア(10μL)を96ウェルプレートの各ウェルに添加した。試料を3つ組で播種し、標準用の列および陰性対照(呼吸緩衝液)用の3つのウェルを含めた。哺乳動物細胞溶解溶液(50μL)を、標準および対照を含む全てのウェルに添加した。96ウェルプレートを37℃で5分間、オービタルシェーカー上で125rpmでインキュベートした。インキュベーションの間、ATP標準を、10mMのATP原液から0.1mM、0.05mM、0.01mM、0.005mM、0.001mM、および0.0001mMのATPの濃度で調製し、氷上で保存した。インキュベーション後、10μLのATP標準を、プレートマップ(図5)上に示されるように対応するウェルに添加した。このプレートマップは、ATPアッセイ用に標準(A1~A12)、ミトコンドリア試料(B1~C6)、および陰性対照(C7~C9)を設定する方法を示している。アッセイの間、100μLの呼吸緩衝液、50μLの哺乳動物細胞溶解溶液、および50μLの再構成基質溶液を全てのウェル(A1~C9)に添加した。再構成された基質溶液(50μL)を各ウェルに添加し、96ウェルプレートを、オービタルシェーカー上で125rpmで5分間、37℃でインキュベートした。
【0032】
プレートをOpen Gen5 1.11ソフトウェアにより制御された分光光度計で読み出した。より高い値は、増加したATPレベルおよびより高い代謝活性に関連している。
【0033】
実施例4:代表的結果
6mm生検穿孔を使用して組織試料を得た。組織重量は0.18±0.04g(湿潤重量)であった。粒子サイズ計数により決定された単離されたミトコンドリアの数は、骨格筋において2.4×1010±0.1×1010ミトコンドリア、および肝臓調製物において2.75×1010±0.1×1010ミトコンドリアであった(図3A)。また、比較を可能とするために、血球計によりミトコンドリア数を決定した。血球計により決定した場合、ミトコンドリアの数は少なく見積もられ、骨格筋において0.11×1010±0.04×1010ミトコンドリア、および肝臓調製物において0.34×1010±0.09×1010ミトコンドリアであった(図3A)。サイズに基づく粒子カウンタにより決定されたミトコンドリア直径を、図3Bに示す。代表的なトレースは、単離されたミトコンドリアが、以前の報告と一致して、0.38±0.17μmの平均直径で1つのピーク下に局在することを示している(Hogeboom et al.,J Biol Chem 172:619-635,1948)。
【0034】
ビシンコニン酸(BCA)アッセイにより決定されたミトコンドリアタンパク質/g(湿潤重量)出発組織は、骨格筋および肝臓試料においてそれぞれ4.8±2.9mg/g(湿潤重量)および7.3±3.5mg/g(湿潤重量)であった(図3C)。
【0035】
透過型電子顕微鏡によりミトコンドリア純度を決定したが、これを図3Dに示す。ミトコンドリアは、電子密度が高いように観察され、破砕または損傷しているのは0.01%未満である。非ミトコンドリア粒子による汚染は、0.001%未満である。
【0036】
以前に説明されたように、MitoTracker Redにより、ミトコンドリア生存率を決定した(Masuzawa et al.,Amer J Physiol Heart Circ Physiol 304:H966-H982,doi:10.1152/ajpheart.00883.2012,2013;McCully et al.,Amer J Physiol Heart Circ Physiol 296:H94-H105,doi:10.1152/ajpheart.00567.2008,2009)。本発明の方法は、膜電位を維持する単離されたミトコンドリアを生成する(図4A~C)。これらの画像は、ミトコンドリアが膜電位を維持したことを示している。矢印は、膜電位を有さないミトコンドリアまたは残屑を示す(図4A)。
【0037】
発光アッセイキットを使用してATPを決定した。ATPアッセイのプレートマップを図5に示す。ATP標準は、2つ組で播種した。ミトコンドリア試料および陰性対照は、3つ組で播種した。ATP含量は、骨格筋および肝臓試料においてそれぞれ10.67±4.38nmol/mgミトコンドリアタンパク質および14.83±4.36nmol/mgミトコンドリアタンパク質であった(図4D)。
【0038】
以前に説明されたように、クラーク型電極を使用して、ミトコンドリア呼吸を評価した(Masuzawa et al.,Amer J Physiol Heart Circ Physiol 304:H966-H982,doi:10.1152/ajpheart.00883.2012,2013;McCully et al.,Amer J Physiol Heart Circ Physiol 296:H94-H105,doi:10.1152/ajpheart.00567.2008,2009)。ミトコンドリア酸素消費速度は、骨格筋において178±17nM O/分/mgミトコンドリアタンパク質、および肝臓調製物において176±23nM O/分/mgミトコンドリアタンパク質であった。呼吸調節率(RCI)値は、骨格筋および肝臓試料調製物においてそれぞれ2.45±0.34および2.67±0.17であった(図4E)。これらの結果は、ミトコンドリアを単離するために手作業の均質化および分別遠心分離を使用した以前の研究において報告されたものに類似している(Masuzawa et al.,Amer J Physiol Heart Circ Physiol 304:H966-H982,doi:10.1152/ajpheart.00883.2012,2013;McCully et al.,Amer J Physiol Heart Circ Physiol 296:H94-H105,doi:10.1152/ajpheart.00567.2008,2009)。
【0039】
他の実施形態
本発明をその詳細な説明と併せて、説明してきたが、上記説明は本発明を例示することを意図し、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の範囲を限定する意図はないことを理解されたい。他の態様、利点、および修正は、以下の特許請求の範囲内である。
図1
図2
図3
図4
図5