(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】T細胞受容体または人工T細胞受容体を発現するためのRNAレプリコン
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20231122BHJP
C12N 15/40 20060101ALI20231122BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231122BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20231122BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20231122BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
C12N15/12
C12N15/40
C12N5/10
C12N5/0783
A61K35/17
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2020515178
(86)(22)【出願日】2018-09-12
(86)【国際出願番号】 EP2018074592
(87)【国際公開番号】W WO2019053056
(87)【国際公開日】2019-03-21
【審査請求日】2021-09-09
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2017/073054
(32)【優先日】2017-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516294849
【氏名又は名称】バイオエヌテック セル アンド ジーン セラピーズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】BIONTECH CELL & GENE THERAPIES GMBH
【住所又は居所原語表記】An der Goldgrube 12 55131 Mainz Germany
(73)【特許権者】
【識別番号】515123258
【氏名又は名称】トロン- トランスラショナル オンコロジー アン デア ウニヴェリジテーツメディツィン デア ヨハネス グーテンベルク-ウニヴェルシテート マインツ ゲマインニューツィゲ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】TRON- Translationale Onkologie an der Universitaetsmedizin der Johannes Gutenberg-Universitaet Mainz gemeinnuetzige GmbH
【住所又は居所原語表記】Freiligrathstr. 12 55131 Mainz Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】オーム, ペトラ
(72)【発明者】
【氏名】ペルコビッチ, マリオ
(72)【発明者】
【氏名】サヒン, ウグル
(72)【発明者】
【氏名】バイセルト, ティム
【審査官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/119827(WO,A1)
【文献】特表2010-530245(JP,A)
【文献】特表2016-500059(JP,A)
【文献】Oncotarget, 2015,6(30):28911-28928
【文献】Cancer Immunology Research, 2014, 2(2):112-120
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 1/00- 7/08
A61K 35/00-35/768
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
修飾されたアルファウイルス5'複製認識配列と、T細胞受容体または人工T細胞受容体の鎖をコードするオープンリーディングフレームと、を含むRNAレプリコンであって、
前記修飾されたアルファウイルス5'複製認識配列が、すべての開始コドンが天然のアルファウイルス5'複製認識配列の保存された配列エレメント2(CSE 2)から除去されていることを特徴とし、
前記修飾されたアルファウイルス5'複製認識配列は、前記開始コドンの除去によって導入された1つ以上のステムループ(SL)内のヌクレオチド対合破壊を補償する1つ以上の追加のヌクレオチド変化を含み、前記修飾されたアルファウイルス5'複製認識配列は、アルファウイルスゲノムRNAの5'複製認識配列の予測二次構造に等しい予測二次構造を特徴とする、RNAレプリコン。
【請求項2】
前記T細胞受容体が、T細胞受容体α鎖およびT細胞受容体β鎖を含む、請求項1に記載のRNAレプリコン。
【請求項3】
T細胞受容体のT細胞受容体鎖をコードするオープンリーディングフレームおよび前記T細胞受容体の異なるT細胞受容体鎖をコードするさらなるオープンリーディングフレームを含む、請求項1または2に記載のRNAレプリコン。
【請求項4】
前記人工T細胞受容体が一本鎖を含み、前記RNAレプリコンが前記人工T細胞受容体の前記一本鎖をコードするオープンリーディングフレームを含む、請求項1に記載のRNAレプリコン。
【請求項5】
前記人工T細胞受容体が1より多い鎖を含み、ならびに前記RNAレプリコンが、前記人工T細胞受容体の鎖をコードするオープンリーディングフレームおよび前記人工T細胞受容体の異なる鎖をコードする1つ以上のさらなるオープンリーディングフレームを含む、請求項1に記載のRNAレプリコン。
【請求項6】
前記人工T細胞受容体が2本の鎖を含み、ならびに前記RNAレプリコンが、前記人工T細胞受容体の鎖をコードするオープンリーディングフレームおよび前記人工T細胞受容体の異なる鎖をコードするさらなるオープンリーディングフレームを含む、請求項1または5に記載のRNAレプリコン。
【請求項7】
前記人工T細胞受容体が、抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、およびT細胞シグナル伝達ドメインを含む、請求項1および4から6のいずれか一項に記載のRNAレプリコン。
【請求項8】
前記T細胞受容体または人工T細胞受容体が疾患特異的抗原、好ましくは腫瘍抗原を標的とする、請求項1から7のいずれか一項に記載のRNAレプリコン。
【請求項9】
シスレプリコンまたはトランスレプリコンである、請求項1から8のいずれか一項に記載のRNAレプリコン。
【請求項10】
機能性アルファウイルス非構造タンパク質またはT細胞受容体もしくは人工T細胞受容体の鎖をコードする第1のオープンリーディングフレームを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載のRNAレプリコン。
【請求項11】
前記第1のオープンリーディングフレームが前記5'複製認識配列と重複しない、請求項10に記載のRNAレプリコン。
【請求項12】
前記第1のオープンリーディングフレームの開始コドンが、前記RNAレプリコンの5'→3'方向で最初の機能的開始コドンである、請求項10または11に記載のRNAレプリコン。
【請求項13】
機能性アルファウイルス非構造タンパク質を発現するためのRNA構築物、
前記機能性アルファウイルス非構造タンパク質によってトランスで複製され得る、請求項1から12のいずれか一項に記載のRNAレプリコン
を含む系。
【請求項14】
前記アルファウイルスがベネズエラウマ脳炎ウイルスである、請求項1から12のいずれか一項に記載のRNAレプリコンまたは請求項13に記載の系。
【請求項15】
請求項1から12、および14のいずれか一項に記載のRNAレプリコンをコードする核酸配列を含むDNA。
【請求項16】
免疫反応性細胞を
インビトロで生成する方法であって、T細胞受容体の鎖または人工T細胞受容体の鎖(1つまたは複数)をコードする請求項1から12、および14のいずれか一項に記載の1つ以上のRNAレプリコン、または前記RNAレプリコンをコードするDNAをT細胞またはその前駆細胞に形質導入する工程を含む方法
(ヒトに対する医療行為を除く。)。
【請求項17】
T細胞受容体または人工T細胞受容体を発現する細胞を
インビトロで生成する方法であって、
(a)機能性アルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含み、機能性アルファウイルス非構造タンパク質によって複製されることができ、およびT細胞受容体もしくは人工T細胞受容体の鎖(1つもしくは複数)をコードするオープンリーディングフレーム(1つもしくは複数)を含む、請求項1から12、および14のいずれか一項に記載の1つ以上のRNAレプリコン、または前記RNAレプリコン(1つもしくは複数)をコードする核酸配列を含むDNAを得る工程、ならびに
(b)前記RNAレプリコン(1つもしくは複数)または前記DNAを
インビトロで細胞に接種する工程
を含む方法
(ヒトに対する医療行為を除く。)。
【請求項18】
T細胞受容体または人工T細胞受容体を発現する細胞を
インビトロで生成する方法であって、
(a)機能性アルファウイルス非構造タンパク質を発現するためのRNA構築物または前記RNA構築物をコードする核酸配列を含むDNAを得る工程、
(b)機能性アルファウイルス非構造タンパク質によってトランスで複製されることができ、および前記T細胞受容体もしくは人工T細胞受容体の鎖(1つもしくは複数)をコードするオープンリーディングフレーム(1つもしくは複数)を含む、請求項1から12、および14のいずれか一項に記載の1つ以上のRNAレプリコン、または前記RNAレプリコン(1つもしくは複数)をコードする核酸配列を含むDNAを得る工程、ならびに
(c)前記RNA構築物または前記DNAと、前記RNAレプリコン(1つもしくは複数)または前記DNAとを
インビトロで細胞に共接種する工程
を含む方法
(ヒトに対する医療行為を除く。)。
【請求項19】
請求項16から18のいずれか一項に記載の方法によって生成される細胞。
【請求項20】
請求項1から12、および14のいずれか一項に記載のRNAレプリコン、請求項15に記載のDNA、または請求項19に記載の細胞、ならびに薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項21】
薬剤として使用するための、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記T細胞受容体または人工T細胞受容体が標的とする抗原の発現を特徴とする細胞が関与する疾患の治療において使用するための、請求項20または21に記載の医薬組成物。
【請求項23】
前記T細胞受容体または人工T細胞受容体が標的とする抗原の発現を特徴とする細胞が関与する疾患であって病原体または癌によって引き起こされる疾患を有する被験体の治療において使用するための、請求項21に記載の医薬組成物。
【請求項24】
抗原を標的とするT細胞受容体または人工T細胞受容体を発現する、前記抗原の発現を特徴とする細胞が関与する疾患を有する被験体の治療において使用するための、請求項16から18のいずれか一項に記載の方法によって生成された細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルファウイルス起源のレプリカーゼによって複製することができ、T細胞受容体または人工T細胞受容体の鎖をコードするオープンリーディングフレームを含むRNAレプリコンを包含する。そのようなRNAレプリコンは、細胞、特にT細胞などの免疫エフェクター細胞においてT細胞受容体または人工T細胞受容体を発現させるのに有用である。そのようなT細胞受容体または人工T細胞受容体を発現するように操作された細胞は、T細胞受容体または人工T細胞受容体が結合する抗原の発現を特徴とする疾患の治療に有用である。
【背景技術】
【0002】
T細胞は、ヒトおよび動物の細胞媒介性免疫において中心的な役割を果たす。特定の抗原の認識および結合は、T細胞の表面に発現されるT細胞受容体(TCR)によって媒介される。T細胞のTCRは、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子に結合し、標的細胞の表面に提示される免疫原性ペプチド(エピトープ)と相互作用することができる。TCRの特異的結合は、増殖および成熟エフェクターT細胞への分化をもたらすT細胞内のシグナルカスケードを開始させる。
【0003】
TCRは、TCR α鎖およびβ鎖のヘテロ二量体複合体、共受容体CD4またはCD8、およびCD3シグナル伝達モジュールを含む複雑なシグナル伝達機構の一部である。TCRα/βヘテロ二量体は、CD3と協調して抗原認識および細胞膜を介した活性化シグナルの中継を担い、一方CD3鎖自体は、細胞内のアダプタータンパク質に着信シグナルを伝達する。したがって、TCRα/β鎖の移入は、T細胞を目的の抗原へと再指向させる可能性を提供する。
【0004】
養子細胞移入(ACT)に基づく免疫療法は、低い前駆体頻度から臨床的に適切な細胞数までエクスビボで増殖させた後に非免疫レシピエントまたは自己宿主に移入される、以前に感作されたT細胞による受動免疫の形態として広く定義することができる。ACT実験に使用されてきた細胞型には、リンホカイン活性化キラー(LAK)細胞(Mule,J.J.et al.(1984)Science 225,1487-1489;Rosenberg,S.A.et al.(1985)N.Engl.J.Med.313,1485-1492)、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)(Rosenberg,S.A.et al.(1994)J.Natl.Cancer Inst.86,1159-1166)、造血幹細胞移植(HSCT)後のドナーリンパ球および腫瘍特異的T細胞株またはクローン(Dudley,M.E.et al.(2001)J.Immunother.24,363-373;Yee,C.et al.(2002)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A 99,16168-16173)が含まれる。養子T細胞移入は、CMVなどのヒトウイルス感染に対して治療活性を有することが示された。黒色腫の養子免疫療法のために、Rosenbergと共同研究者たちは、骨髄非破壊的リンパ球枯渇化学療法および高用量IL-2と組み合わせて、切除された腫瘍から単離され、インビトロで拡大された自己腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の持続注入に基づくACTアプローチを確立した。臨床試験は、転移性黒色腫に罹患している治療患者の~50%の客観的奏効率をもたらした(Dudley,M.E.et al.(2005)J.Clin.Oncol.23:2346-2357)。
【0005】
代替的なアプローチは、短時間のエクスビボ培養中に定義された特異性の腫瘍反応性免疫受容体を発現するように再プログラム化された自己T細胞の養子移入とそれに続く患者への再注入である(Kershaw M.H.et al.(2013)Nature Reviews Cancer 13(8):525-41)この戦略は、腫瘍反応性T細胞が患者に存在しない場合でも、ACTを様々な一般的悪性疾患に適用可能にする。T細胞の抗原特異性はTCR α鎖およびβ鎖のヘテロ二量体複合体に全面的に依存するので、クローニングされたTCR遺伝子のT細胞への移入は、それらを目的の抗原へと再指向させる可能性を提供する。したがって、TCR遺伝子治療は、治療選択肢として自己リンパ球を用いた抗原特異的免疫療法を開発する魅力的な戦略を提供する。TCR遺伝子導入の主な利点は、治療量の抗原特異的T細胞を数日以内に生産できること、および患者の内因性TCRレパートリには存在しない特異性を導入できることである。いくつかのグループは、TCR遺伝子導入が初代T細胞の抗原特異性を再指向する魅力的な戦略であることを明らかにした(Morgan,R.A.et al.(2003)J.Immunol.171,3287-3295;Cooper,L.J.et al.(2000)J.Virol.74,8207-8212;Fujio,K.et al.(2000)J.Immunol.165,528-532;Kessels,H.W.et al.(2001)Nat.Immunol.2,957-961;Dembic,Z.et al.(1986)Nature 320,232-238)。ヒトにおけるTCR遺伝子療法の実現可能性は、Rosenbergと彼のグループによる悪性黒色腫の治療のための臨床試験で最初に実証された。黒色腫/メラノサイト抗原特異的TCRをレトロウイルスで形質導入した自己リンパ球の養子移入は、治療された黒色腫患者の最大30%で癌の退縮をもたらした(Morgan,R.A.et al.(2006)Science 314,126-129;Johnson,L.A.et al.(2009)Blood 114,535-546)。一方、TCR遺伝子療法の臨床試験は、多くの異なる腫瘍抗原を標的とする、黒色腫以外の癌にも拡大された(Park,T.S.et al.,(2011)Trends Biotechnol.29,550-557)。
【0006】
定義された特異性の抗原標的受容体をT細胞に挿入するための遺伝子工学的アプローチの使用は、ACTの潜在的可能性を大きく拡大した。キメラ抗原受容体(CAR)は、細胞外抗原結合ドメイン、最も一般的にはモノクローナル抗体からの一本鎖可変断片(scFv)に融合した細胞内T細胞シグナル伝達ドメインから構成される抗原標的受容体の一種である。CARは、MHC媒介提示とは無関係に、細胞表面抗原を直接認識し、すべての患者で所与の抗原に特異的な単一の受容体構築物の使用を可能にする。最初のCARは、抗原認識ドメインをT細胞受容体(TCR)複合体のCD3ζ活性化鎖に融合させた。その後のCAR反復には、CD3ζと並行して、CD28または4-1BB(CD137)およびOX40(CD134)などの様々なTNF受容体ファミリー分子からの細胞内ドメインを含む二次共刺激シグナルが含まれた。さらに、第3世代の受容体には、CD3ζに加えて、最も一般的にはCD28および4-1BBからの2つの共刺激シグナルが含まれる。第2および第3世代のCARは、インビトロおよびインビボで抗腫瘍効果を劇的に改善し(Zhao et al.,(2009)J.Immunol.,(183)5563-5574)、場合によっては進行した癌の患者において完全な寛解を誘導した(Porter et al.,(2011)N.Engl.J.Med.,(365)725-733)。
【0007】
古典的なCARは、CD3ζなどの膜貫通およびシグナル伝達ドメインに融合した、抗原特異的一本鎖抗体(scFv)断片からなる。T細胞に導入すると、膜結合タンパク質として発現され、そのコグネイト抗原に結合すると免疫応答を誘導する(Eshhar et al.,(1993)PNAS,(90)720-724)。誘導された抗原特異的免疫応答は、細胞傷害性CD8+T細胞の活性化をもたらし、これが次に、特定の抗原を発現する腫瘍細胞またはウイルス感染細胞などの、特定の抗原を発現する細胞の根絶を導く。これらの古典的CAR構築物は、T細胞の活性化に通常不可欠な内因性CD3複合体を介してT細胞を活性化/刺激するのではない。抗原結合ドメインのCD3ζへの融合により、生化学的な「短絡」を通してT細胞の活性化が誘導される(Aggen et al.,(2012)Gene Therapy,(19)365-374)。
【0008】
より生理学的な機構を介してT細胞の活性化が起こる代替的なアプローチは、T細胞受容体(TCR)に由来するCβ定常ドメインに融合した類似の一本鎖TCR(scTv)断片を提供すること、およびTCR由来のCα定常ドメインと共発現させることであり(Voss et al.,(2010)Blood,(115)5154-5163)、後者は、不可欠な内因性CD3ζホモ二量体を動員する(Call et al.,(2002)Cell,(111)967-79)。これらの構築物が免疫系の活性化因子として機能するためには、scTCRとCαの間の鎖の対合を達成するために、それらの定常ドメインがマウスTCRを起源とするか、またはマウス化される必要があることが重要であった(Cohen et al.,(2006)Cancer Res.,(66)8878-86;Bialer et al.,(2010)J.Immunol.(184)6232-41)。
【0009】
受容体が、抗原結合時に、それが発現されているT細胞を活性化することができる、代替的な組換え人工T細胞受容体が記述されている。
【0010】
一般に、移入されたT細胞の数は治療応答と相関すると考えられている。しかしながら、養子T細胞移入に適したT細胞の作製は依然として課題のままである。
【0011】
予防および治療目的のための1つ以上のポリペプチドをコードする外来遺伝子情報を含む核酸分子が、長年にわたって生物医学研究において検討されてきた。デオキシリボ核酸(DNA)分子の使用に関連する安全性の懸念の影響を受けて、リボ核酸(RNA)分子が近年注目を集めている。裸のRNAの形態、または複合体化もしくはパッケージング形態、例えば非ウイルスまたはウイルス送達ビヒクルでの一本鎖または二本鎖RNAの投与を含む、様々なアプローチが提案されてきた。ウイルスおよびウイルス送達ビヒクルでは、遺伝情報は、典型的にはタンパク質および/または脂質によってカプセル化されている(ウイルス粒子)。例えば、RNAウイルスに由来する操作されたRNAウイルス粒子が、植物を処理するため(国際公開第2000/053780A2号)または哺乳動物のワクチン接種のための(Tubulekas et al.,1997,Gene,vol.190,pp.191-195)送達ビヒクルとして提案されている。一般に、RNAウイルスは、RNAゲノムを有する感染性粒子の多様な群である。RNAウイルスは、一本鎖RNA(ssRNA)ウイルスと二本鎖RNA(dsRNA)ウイルスに細分することができ、ssRNAウイルスは、一般にプラス鎖[(+)鎖]ウイルスおよび/またはマイナス鎖[(-)鎖]ウイルスにさらに分けることができる。プラス鎖RNAウイルスは、そのRNAが宿主細胞での翻訳の鋳型として直接機能し得るため、生物医学における送達システムとして明らかに魅力的である。
【0012】
アルファウイルスは、プラス鎖RNAウイルスの典型的な代表例である。アルファウイルスの宿主には、昆虫、魚類、ならびに家畜およびヒトなどの哺乳動物を含む広範囲の生物が含まれる。アルファウイルスは、感染細胞の細胞質で複製する(アルファウイルスの生活環の総説については、Jose et al.,Future Microbiol.,2009,vol.4,pp.837-856参照)。多くのアルファウイルスの総ゲノム長は、典型的には11,000~12,000ヌクレオチドの範囲であり、ゲノムRNAは、典型的には5'キャップおよび3'ポリ(A)尾部を有する。アルファウイルスのゲノムは、非構造タンパク質(ウイルスRNAの転写、修飾および複製、ならびにタンパク質修飾に関与する)および構造タンパク質(ウイルス粒子を形成する)をコードする。ゲノム内に、典型的には2つのオープンリーディングフレーム(ORF)が存在する。4つの非構造タンパク質(nsP1~nsP4)は、典型的にはゲノムの5'末端の近傍から始まる最初のORFによって一緒にコードされ、一方アルファウイルスの構造タンパク質は、最初のORFの下流に見出される2番目のORFによって一緒にコードされ、ゲノムの3'末端の近傍に伸びている。通常、最初のORFは2番目のORFよりも大きく、比率はおよそ2:1である。
【0013】
アルファウイルスに感染した細胞では、非構造タンパク質をコードする核酸配列だけがゲノムRNAから翻訳され、一方構造タンパク質をコードする遺伝情報は、真核生物のメッセンジャーRNA(mRNA;Gould et al.,2010,Antiviral Res.,vol.87,pp.111-124)に類似したRNA分子であるサブゲノム転写物から翻訳可能である。感染後、すなわちウイルス生活環の初期段階に、(+)鎖ゲノムRNAは、非構造ポリタンパク質(nsP1234)をコードするオープンリーディングフレームの翻訳のためにメッセンジャーRNAのように直接作用する。一部のアルファウイルスでは、nsP3のコード配列とnsP4のコード配列との間にオパール終止コドンが存在する:翻訳がオパール終止コドンで終結すると、nsP1、nsP2およびnsP3を含むポリタンパク質P123が生成され、さらにnsP4も含むポリタンパク質P1234がこのオパールコドンの読み取り終了時に生成される(Straus&Strauss,Microbiol.Rev.,1994,vol.58,pp.491-562;Rupp et al.,2015,J.Gen.Virology,vol.96,pp.2483-2500)。nsP1234は、nsP123およびnsP4断片へと自己タンパク質分解的に切断される。ポリペプチドnsP123およびnsP4は会合して、(+)鎖ゲノムRNAを鋳型として使用して、(-)鎖RNAを転写する(-)鎖レプリカーゼ複合体を形成する。典型的には、後の段階で、nsP123断片は個別のタンパク質nsP1、nsP2およびnsP3に完全に切断される(Shirako&Strauss,1994,J.Virol.vol.68,pp.1874-1885)。4つのタンパク質すべてが、ゲノムRNAの(-)鎖相補体を鋳型として使用して、新たな(+)鎖ゲノムを合成する(+)鎖レプリカーゼ複合体を形成する(Kim et al.,2004,Virology,vol.323,pp.153-163、Vasiljeva et al.,2003,J.Biol.Chem.vol.278,pp.41636-41645)。
【0014】
感染細胞では、nsP1によってサブゲノムRNAおよび新たなゲノムRNAに5'キャップが与えられ(Pettersson et al.,1980,Eur.J.Biochem.105,435-443;Rozanov et al.,1992,J.Gen.Virology,vol.73,pp.2129-2134)、nsP4によってポリアデニル酸[ポリ(A)]尾部が与えられる(Rubach et al.,Virology,2009,vol.384,pp.201-208)。したがって、サブゲノムRNAとゲノムRNAの両方がメッセンジャーRNA(mRNA)に類似する。
【0015】
アルファウイルス構造タンパク質(すべてウイルス粒子の成分である、コアヌクレオカプシドタンパク質C、エンベロープタンパク質E2およびエンベロープタンパク質E1)は、典型的にはサブゲノムプロモータの制御下で単一のオープンリーディングフレームによってコードされる(Straus&Strauss,Microbiol.Rev.,1994,vol.58,pp.491-562)。サブゲノムプロモータは、シスで作用するアルファウイルス非構造タンパク質によって認識される。特に、アルファウイルスレプリカーゼは、ゲノムRNAの(-)鎖相補体を鋳型として使用して(+)鎖サブゲノム転写物を合成する。(+)鎖サブゲノム転写物は、アルファウイルス構造タンパク質をコードする(Kim et al.,2004,Virology,vol.323,pp.153-163、Vasiljeva et al.,2003,J.Biol.Chem.vol.278,pp.41636-41645)。サブゲノムRNA転写物は、構造タンパク質を1つのポリタンパク質としてコードするオープンリーディングフレームの翻訳のための鋳型として働き、ポリタンパク質は、切断されて構造タンパク質を生成する。宿主細胞でのアルファウイルス感染の後期には、nsP2のコード配列内に位置するパッケージングシグナルが、構造タンパク質によってパッケージングされた出芽ビリオンへのゲノムRNAの選択的パッケージングを確実にする(White et al.,1998,J.Virol.,vol.72,pp.4320-4326)。
【0016】
感染細胞では、(-)鎖RNAの合成は、典型的には感染後最初の3~4時間にのみ観察され、後期段階では検出不能であり、この時点では(+)鎖RNA(ゲノムおよびサブゲノムの両方)の合成のみが観察される。Frolov et al.,2001,RNA,vol.7,pp.1638-1651によれば、RNA合成の調節に関する一般的なモデルは、非構造ポリタンパク質のプロセシングへの依存性を示唆する:非構造ポリタンパク質nsP1234の最初の切断はnsP123およびnsP4を生成する;nsP4は、(-)鎖合成には活性であるが、(+)鎖RNAの生成には非効率的であるRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)として作用する。nsP2/nsP3接合部での切断を含む、ポリタンパク質nsP123のさらなるプロセシングは、(+)鎖RNAの合成を増加させ、(-)鎖RNAの合成を減少または終結させるようにレプリカーゼの鋳型特異性を変化させる。
【0017】
アルファウイルスRNAの合成は、4つの保存された配列エレメント(CSE;Strauss&Strauss,Microbiol.Rev.,1994,vol.58,pp.491-562;およびFrolov,2001,RNA,vol.7,pp.1638-1651)を含むシス作用性RNAエレメントによっても調節される。
【0018】
一般に、アルファウイルスゲノムの5'複製認識配列は、異なるアルファウイルス間での全体的相同性が低いことを特徴とするが、保存された予測二次構造を有する。アルファウイルスゲノムの5'複製認識配列は、翻訳開始に関与するだけでなく、ウイルスRNAの合成に関与する2つの保存された配列エレメント、CSE 1およびCSE 2を含む5'複製認識配列も含む。CSE 1およびCSE 2の機能にとって、二次構造は直鎖状配列よりも重要であると考えられている(Strauss&Strauss,Microbiol.Rev.,1994,vol.58,pp.491-562)。
【0019】
対照的に、アルファウイルスゲノムの3'末端配列、すなわちポリ(A)配列のすぐ上流の配列は、保存された一次構造、特に「19ヌクレオチド保存配列」とも称される保存された配列エレメント4(CSE 4)を特徴とし、これは(-)鎖合成の開始に重要である。
【0020】
「接合配列」とも称されるCSE 3は、アルファウイルスゲノムRNAの(+)鎖上の保存された配列エレメントであり、(-)鎖上のCSE 3の相補体は、サブゲノムRNA転写のためのプロモータとして働く(Strauss&Strauss,Microbiol.Rev.,1994,vol.58,pp.491-562;およびFrolov et al.,2001,RNA,vol.7,pp.1638-1651)。CSE 3は、典型的にはnsP4のC末端断片をコードする領域と重複する。
【0021】
アルファウイルスタンパク質に加えて、おそらくはタンパク質である宿主細胞因子も、保存された配列エレメントに結合し得る(Strauss&Strauss、上記)。
【0022】
アルファウイルス由来のベクターは、外来遺伝情報を標的細胞または標的生物に送達するために提案されている。単純なアプローチでは、アルファウイルス構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを、目的のタンパク質をコードするオープンリーディングフレームに置き換える。アルファウイルスに基づくトランス複製系は、2つの別々の核酸分子上のアルファウイルスヌクレオチド配列エレメントに依存する:一方の核酸分子はウイルスレプリカーゼをコードし(典型的にはポリタンパク質nsP1234として)、他方の核酸分子は前記レプリカーゼによってトランスで複製されることができる(したがってトランス複製系という呼称)。トランス複製には、所与の宿主細胞内にこれらの両方の核酸分子が存在することを必要とする。トランスでレプリカーゼによって複製されることができる核酸分子は、アルファウイルスのレプリカーゼによる認識およびRNA合成を可能にする特定のアルファウイルス配列エレメントを含まなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【文献】国際公開第2000/053780A2号明細書
【非特許文献】
【0024】
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【文献】Frolov et al.,2001,RNA,vol.7,pp.1638-1651
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
T細胞受容体または人工T細胞受容体を発現し、養子細胞移入に適したT細胞などの免疫エフェクター細胞を安全かつ効率的な方法で提供する必要がある。本明細書で説明するように、本発明の態様および実施形態はこの必要性に対処する。
【課題を解決するための手段】
【0026】
免疫療法戦略は、例えば感染症および癌疾患の予防および治療のための有望な選択肢である。ますます多くの病原体関連および腫瘍関連の抗原の同定により、免疫療法のための適切な標的の幅広いコレクションがもたらされた。本発明は、疾患の予防および治療のための免疫療法処置に適した、T細胞などの免疫エフェクター細胞におけるT細胞受容体または人工T細胞受容体の効率的な発現に適する改善された薬剤および方法を包含する。
【0027】
本発明は、アルファウイルス由来のRNAベクター(RNAレプリコン)が、T細胞などの免疫エフェクター細胞においてT細胞受容体または人工T細胞受容体を発現するのに有用であることを実証する。そのような免疫エフェクター細胞は、その受容体を介して抗原に結合し、免疫エフェクター細胞のエフェクター機能を発揮するという点で機能性である。
【0028】
様々な種類のRNAレプリコンが本発明に従って有用である。1つの種類のRNAレプリコンでは、アルファウイルス構造タンパク質をコードするアルファウイルス由来のRNAベクターのオープンリーディングフレームが、T細胞受容体または人工T細胞受容体の鎖をコードするオープンリーディングフレームで置き換えられている。それぞれのレプリコンを「シスレプリコン;WT-RRS」として
図1に示す。本発明による他の種類のRNAレプリコンは、アルファウイルスに基づくトランス複製系に関連する。それぞれのレプリコンを「トランスレプリコン;WT-RRS」として
図1に示す。そのようなレプリコンは、サブゲノムプロモータの制御下でT細胞受容体または人工T細胞受容体の鎖をコードするオープンリーディングフレームの増幅を可能にするという利点に結び付く。
【0029】
nsP1234をコードするオープンリーディングフレームは、典型的にはアルファウイルスゲノムの5'複製認識配列(nsP1のコード配列)と重複し、また典型的にはCSE 3を含むサブゲノムプロモータ(nsP4のコード配列)とも重複する。したがって、そのような「トランスレプリコン」では、RNA複製に必要な5'複製認識配列はnsP1のAUG開始コドンを含み、そのためアルファウイルス非構造タンパク質のN末端断片のコード配列と重複し、5'複製認識配列を含むレプリコンは、典型的には(少なくとも)アルファウイルス非構造タンパク質の一部、典型的にはnsP1のN末端断片をコードする。これはいくつかの面で不利である:シスレプリコンの場合、この重複は、例えば異なる哺乳動物標的細胞(ヒト、マウス、家畜)へのレプリカーゼORFのコドン使用頻度の適合を制限する。ウイルスに見出される5'複製認識配列の二次構造は、あらゆる標的細胞において最適というわけではないと考えられる。しかし、レプリカーゼORFで生じる可能性のあるアミノ酸変化を考慮し、レプリカーゼ機能への影響を試験しなければならないので、二次構造を自由に改変することはできない。また、完全なレプリカーゼORFを異種起源からのレプリカーゼに交換することは不可能であり、というのは、これが5'複製認識配列構造の破壊をもたらし得るためである。トランスレプリコンの場合、5'複製認識配列をトランスレプリコン内に保持する必要があるため、この重複はnsP1タンパク質の断片の合成をもたらす。nsP1の断片は、典型的には必要なく、望ましくない:望ましくない翻訳は宿主細胞に不必要な負担を課し、薬学的に活性なタンパク質に加えてnsP1の断片をコードする治療適用のためのRNAレプリコンは、規制上の懸念に直面する可能性がある。例えば、トランケートされたnsP1が望ましくない副作用を引き起こさないことを実証する必要がある。さらに、5'複製認識配列内のnsP1のAUG開始コドンの存在は、目的の遺伝子の翻訳のための開始コドンがリボソーム翻訳開始にアクセス可能な最も5'側の位置にあるように、目的の異種遺伝子をコードするトランスレプリコンを設計することを妨げてきた。これが次に、nsP1の開始コドンとインフレームで融合タンパク質としてクローニングされない限り、先行技術のトランスレプリコンRNAからの導入遺伝子の5'キャップ依存性翻訳を困難にしている(そのような融合構築物は、例えばMichel et al.,2007,Virology,vol.362,pp.475-487によって記載されている)。そのような融合構築物は、上記のnsP1断片の同じ不必要な翻訳をもたらし、上記と同じ懸念を生じさせる。さらに、融合タンパク質は、目的の融合した導入遺伝子の機能もしくは活性を変化させ得るため、またはワクチンベクターとして使用した場合、融合領域にまたがるペプチドが融合した抗原の免疫原性を改変し得るため、さらなる懸念を引き起こす。
【0030】
したがって、本発明は、レプリカーゼによる複製に必要な配列エレメントを含むさらなる種類のRNAレプリコンを提供するが、これらの配列エレメントは、アルファウイルス非構造タンパク質またはその断片などのいかなるタンパク質またはその断片もコードしない。したがって、レプリカーゼによる複製に必要な配列エレメントとタンパク質コード領域は結合していない。それぞれのレプリコンを「トランスレプリコン;Δ5ATG-RRSΔSGP」として
図1に示す。結合解除は、天然のアルファウイルスゲノムRNAと比較して少なくとも1つの開始コドンを除去することによって達成される。レプリカーゼは、RNAレプリコンによってまたは別個の核酸分子によってコードされ得る。1つの特に好ましい実施形態では、そのようなレプリコンはサブゲノムプロモータを含まず、およびT細胞受容体または人工T細胞受容体の鎖をコードするオープンリーディングフレームの翻訳のための開始コドンは、リボソーム翻訳開始にアクセス可能な最も5'側の位置にある。
【0031】
第1の態様では、本発明は、T細胞受容体または人工T細胞受容体の鎖をコードするオープンリーディングフレームを含むRNAレプリコンを提供する。
【0032】
一実施形態では、T細胞受容体は、T細胞受容体α鎖およびT細胞受容体β鎖を含む。一実施形態では、RNAレプリコンは、T細胞受容体のT細胞受容体鎖をコードするオープンリーディングフレームおよびT細胞受容体の異なるT細胞受容体鎖をコードするさらなるオープンリーディングフレームを含む。
【0033】
一実施形態では、人工T細胞受容体は一本鎖を含み、RNAレプリコンは、前記人工T細胞受容体の前記一本鎖をコードするオープンリーディングフレームを含む。
【0034】
一実施形態では、人工T細胞受容体は1より多い鎖を含み、RNAレプリコンは、人工T細胞受容体の鎖をコードするオープンリーディングフレームおよび人工T細胞受容体の異なる鎖をコードする1つ以上のさらなるオープンリーディングフレームを含む。一実施形態では、人工T細胞受容体は2本の鎖を含み、RNAレプリコンは、人工T細胞受容体の鎖をコードするオープンリーディングフレームおよび人工T細胞受容体の異なる鎖をコードするさらなるオープンリーディングフレームを含む。
【0035】
一実施形態では、人工T細胞受容体は、抗原結合ドメイン、膜貫通ドメインおよびT細胞シグナル伝達ドメインを含む。
【0036】
一実施形態では、T細胞受容体または人工T細胞受容体は、疾患特異的抗原、好ましくは腫瘍抗原を標的とする。
【0037】
一実施形態では、RNAレプリコンは、シスレプリコンまたはトランスレプリコンである。
【0038】
一実施形態では、特にRNAレプリコンがシスレプリコンである場合、RNAレプリコンは、機能性アルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含む。
【0039】
一実施形態では、特にRNAレプリコンがトランスレプリコンである場合、RNAレプリコンは、機能性アルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含まない。この実施形態では、レプリコンの複製のための機能性アルファウイルス非構造タンパク質は、本明細書に記載されるようにトランスで提供され得る。
【0040】
一実施形態では、RNAレプリコンは、目的のタンパク質、例えば機能性アルファウイルス非構造タンパク質またはT細胞受容体もしくは人工T細胞受容体の鎖をコードする第1のオープンリーディングフレームを含む。一実施形態では、第1のオープンリーディングフレームは5'複製認識配列と重複しない。
【0041】
RNAレプリコンがシスレプリコンである場合、第1のオープンリーディングは一般に、機能性アルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングである。この実施形態では、RNAレプリコンは一般に、サブゲノムプロモータの制御下にあるT細胞受容体または人工T細胞受容体の鎖をコードする少なくとも1つのさらなるオープンリーディングフレームを含む。RNAレプリコンがトランスレプリコンである場合、第1のオープンリーディングは一般に、T細胞受容体または人工T細胞受容体の鎖をコードするオープンリーディングであり、RNAレプリコンは、好ましくは機能性アルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含まない。
【0042】
一実施形態では、RNAレプリコンは5'複製認識配列を含み、この5'複製認識配列は、天然のアルファウイルス5'複製認識配列と比較して少なくとも1つの開始コドンの除去を含むことを特徴とする。
【0043】
一実施形態では、RNAレプリコンは、(修飾された)5'複製認識配列、および5'複製認識配列の下流に位置する、目的のタンパク質、例えば機能性アルファウイルス非構造タンパク質またはT細胞受容体もしくは人工T細胞受容体の鎖をコードする第1のオープンリーディングフレームを含み、前記5'複製認識配列と目的のタンパク質をコードする第1のオープンリーディングフレームは重複せず、好ましくは5'複製認識配列はRNAレプリコンのいずれのオープンリーディングフレームとも重複せず、例えば5'複製認識配列は機能的開始コドンを含まず、好ましくはいかなる開始コドンも含まない。最も好ましくは、第1のオープンリーディングフレームの開始コドンは、RNAレプリコンの5'→3'方向で最初の機能的開始コドン、好ましくは最初の開始コドンである。一実施形態では、第1のオープンリーディングフレームおよび好ましくはRNAレプリコン全体が、アルファウイルス非構造タンパク質の断片、特にnsP1および/またはnsP4の断片などの非機能性アルファウイルス非構造タンパク質を発現しない。一実施形態では、機能性アルファウイルス非構造タンパク質は5'複製認識配列に対して異種である。一実施形態では、第1のオープンリーディングフレームはサブゲノムプロモータの制御下にない。
【0044】
一実施形態では、第1のオープンリーディングフレームは機能性アルファウイルス非構造タンパク質をコードし、RNAレプリコンは、サブゲノムプロモータの制御下にあるT細胞受容体または人工T細胞受容体の鎖をコードする少なくとも1つのさらなるオープンリーディングフレームを含む。一実施形態では、サブゲノムプロモータと第1のオープンリーディングフレームは重複しない。
【0045】
別の実施形態では、第1のオープンリーディングフレームはT細胞受容体または人工T細胞受容体の鎖をコードし、RNAレプリコンは、好ましくは機能性アルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含まない。RNAレプリコンは、サブゲノムプロモータの制御下にあるT細胞受容体または人工T細胞受容体の鎖(例えば第1のオープンリーディングフレームによってコードされるT細胞受容体または人工T細胞受容体の鎖と共に、機能的T細胞受容体または人工T細胞受容体を形成するT細胞受容体または人工T細胞受容体の鎖)をコードする少なくとも1つのさらなるオープンリーディングフレームを含み得る。
一実施形態では、サブゲノムプロモータと第1のオープンリーディングフレームは重複しない。
【0046】
1つの特に好ましい実施形態では、5'複製認識配列の下流に位置する第1のオープンリーディングフレームはT細胞受容体または人工T細胞受容体の鎖をコードし、5'複製認識配列と第1のオープンリーディングフレームは重複せず、5'複製認識配列は機能的開始コドンを含まず、好ましくはいかなる開始コドンも含まず、およびRNAレプリコンは機能性アルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含まない。この実施形態では、第1のオープンリーディングフレームの開始コドンは、RNAレプリコンがアルファウイルス非構造タンパク質の断片、特にnsP1および/またはnsP4の断片などの非機能性アルファウイルス非構造タンパク質を発現しないように、RNAレプリコンの5'→3'方向で最初の機能的開始コドン、好ましくは最初の開始コドンである。RNAレプリコンは、サブゲノムプロモータの制御下にあるT細胞受容体または人工T細胞受容体の鎖(例えば第1のオープンリーディングフレームによってコードされるT細胞受容体または人工T細胞受容体の鎖と共に、機能的T細胞受容体または人工T細胞受容体を形成するT細胞受容体または人工T細胞受容体の鎖)をコードする少なくとも1つのさらなるオープンリーディングフレームを含み得る。
一実施形態では、サブゲノムプロモータと第1のオープンリーディングフレームは重複しない。
【0047】
一実施形態では、少なくとも1つの開始コドンの除去を特徴とするRNAレプリコンの5'複製認識配列は、アルファウイルスの5'末端の約250ヌクレオチドの相同な配列を含む。好ましい実施形態では、前記5'複製認識配列は、アルファウイルスの5'末端の約300~500ヌクレオチドに相同な配列を含む。好ましい実施形態では、前記5'複製認識配列は、ベクター系にとっての親である特定のアルファウイルス種の効率的な複製に必要な5'末端配列を含む。
【0048】
一実施形態では、RNAレプリコンの5'複製認識配列は、アルファウイルスの保存された配列エレメント1(CSE 1)および保存された配列エレメント2(CSE 2)に相同な配列を含む。
【0049】
好ましい実施形態では、RNAレプリコンはCSE 2を含み、アルファウイルス由来の非構造タンパク質のオープンリーディングフレームの断片を含むことをさらに特徴とする。より好ましい実施形態では、非構造タンパク質のオープンリーディングフレームの前記断片は、いかなる開始コドンも含まない。
【0050】
一実施形態では、5'複製認識配列は、アルファウイルス由来の非構造タンパク質のオープンリーディングフレームまたはその断片に相同な配列を含み、アルファウイルス由来の非構造タンパク質のオープンリーディングフレームまたはその断片に相同な配列は、天然のアルファウイルス配列と比較して少なくとも1つの開始コドンの除去を含むことを特徴とする。
【0051】
好ましい実施形態では、アルファウイルス由来の非構造タンパク質のオープンリーディングフレームまたはその断片に相同な配列は、少なくとも非構造タンパク質のオープンリーディングフレームの天然開始コドンの除去を含むことを特徴とする。
【0052】
好ましい実施形態では、アルファウイルス由来の非構造タンパク質のオープンリーディングフレームまたはその断片に相同な配列は、非構造タンパク質のオープンリーディングフレームの天然開始コドン以外の1つ以上の開始コドンの除去を含むことを特徴とする。より好ましい実施形態では、前記核酸配列は、非構造タンパク質、好ましくはnsP1のオープンリーディングフレームの天然開始コドンの除去をさらに特徴とする。
【0053】
好ましい実施形態では、5'複製認識配列は、RNAレプリコンに関する5'複製認識配列の機能性を提供する1つ以上のステムループを含む。好ましい実施形態では、5'複製認識配列の1つ以上のステムループは欠失または破壊されない。より好ましくは、ステムループ1、3および4のうちの1つ以上、好ましくはステムループ1、3および4のすべて、またはステムループ3および4は、欠失または破壊されない。より好ましくは、5'複製認識配列のステムループのいずれも欠失または破壊されない。
【0054】
好ましい実施形態では、RNAレプリコンは、少なくとも1つの開始コドンの除去によって導入された1つ以上のステムループ内のヌクレオチド対合破壊を補償する1つ以上のヌクレオチド変化を含む。
【0055】
一実施形態では、RNAレプリコンは、トランケートされたアルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含まない。
【0056】
一実施形態では、RNAレプリコンは3'複製認識配列を含む。
【0057】
一実施形態では、RNAレプリコンは、第1のオープンリーディングフレームによってコードされる目的のタンパク質がRNAレプリコンから鋳型として発現され得ることを特徴とする。一実施形態では、RNAレプリコンは、第1のオープンリーディングフレームを含むサブゲノムRNAの産生を制御するサブゲノムプロモータを含む。
【0058】
一実施形態では、RNAレプリコンは、サブゲノムプロモータを含むことを特徴とする。典型的には、サブゲノムプロモータは、目的のタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含むサブゲノムRNAの産生を制御する。
【0059】
一実施形態では、第1のオープンリーディングフレームによってコードされる目的のタンパク質は、RNAレプリコンから鋳型として発現され得る。より好ましい実施形態では、第1のオープンリーディングフレームによってコードされる目的のタンパク質は、サブゲノムRNAからさらに発現され得る。
【0060】
好ましい実施形態では、RNAレプリコンは、目的のタンパク質をコードする第2のオープンリーディングフレームを含むサブゲノムRNAの産生を制御するサブゲノムプロモータを含むことをさらに特徴とする。目的のタンパク質は、第1のオープンリーディングフレームによってコードされる目的のタンパク質と同一または異なる第2のタンパク質であり得る。
【0061】
より好ましい実施形態では、サブゲノムプロモータおよび目的のタンパク質をコードする第2のオープンリーディングフレームは、目的のタンパク質をコードする第1のオープンリーディングフレームの下流に位置する。
【0062】
一実施形態では、RNAレプリコンは、機能性アルファウイルス非構造タンパク質によって複製され得る。
【0063】
第2の態様では、本発明は、
機能性アルファウイルス非構造タンパク質を発現するためのRNA構築物、
機能性アルファウイルス非構造タンパク質によってトランスで複製され得る、本発明の第1の態様によるRNAレプリコン
を含む系を提供する。好ましくは、RNAレプリコンは、機能性アルファウイルス非構造タンパク質をコードしないことをさらに特徴とする。
【0064】
一実施形態では、第1の態様によるRNAレプリコンまたは第2の態様による系は、アルファウイルスがベネズエラウマ脳炎ウイルスであることを特徴とする。
【0065】
第3の態様では、本発明は、本発明の第1の態様によるRNAレプリコンをコードする核酸配列を含むDNAを提供する。
【0066】
さらなる態様では、本発明は、免疫反応性細胞を生成する方法であって、T細胞受容体の鎖もしくは人工T細胞受容体の鎖(1つまたは複数)をコードする本発明の1つ以上のRNAレプリコン、または前記RNAレプリコンをコードするDNAをT細胞またはその前駆細胞に形質導入する工程を含む方法を提供する。一実施形態では、細胞は、その細胞表面にT細胞受容体または人工T細胞受容体を発現する。
【0067】
さらなる態様では、本発明は、T細胞受容体または人工T細胞受容体を発現する細胞を生成する方法であって、
(a)機能性アルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含み、機能性アルファウイルス非構造タンパク質によって複製されることができ、およびT細胞受容体もしくは人工T細胞受容体の鎖(1つもしくは複数)をコードするオープンリーディングフレーム(1つもしくは複数)を含む、本発明の1つ以上のRNAレプリコン、または前記RNAレプリコン(1つもしくは複数)をコードする核酸配列を含むDNAを得る工程、ならびに
(b)前記RNAレプリコン(1つもしくは複数)またはDNAを細胞に接種する工程
を含む方法を提供する。
【0068】
さらなる態様では、本発明は、T細胞受容体または人工T細胞受容体を発現する細胞を生成する方法であって、
(a)機能性アルファウイルス非構造タンパク質を発現するためのRNA構築物またはこのRNA構築物をコードする核酸配列を含むDNAを得る工程、
(b)機能性アルファウイルス非構造タンパク質によってトランスで複製されることができ、およびT細胞受容体もしくは人工T細胞受容体の鎖(1つもしくは複数)をコードするオープンリーディングフレーム(1つもしくは複数)を含む、本発明の1つ以上のRNAレプリコン、または前記RNAレプリコン(1つもしくは複数)をコードする核酸配列を含むDNAを得る工程、ならびに
(c)前記RNA構築物または前記DNAと、前記RNAレプリコン(1つもしくは複数)または前記DNAとを細胞に共接種する工程
を含む方法を提供する。
【0069】
本発明の一実施形態では、T細胞受容体または人工T細胞受容体は、1より多い鎖、例えば2本の鎖を含む。一実施形態では、RNAレプリコンは、前記T細胞受容体または人工T細胞受容体のすべての鎖をコードする1つ以上のオープンリーディングフレームを含む。一実施形態では、異なるRNAレプリコンは、前記T細胞受容体または人工T細胞受容体の異なる鎖をコードするオープンリーディングフレームを含む。後者の実施形態では、これらの異なるRNAレプリコンを細胞に共接種して(任意で、機能性アルファウイルス非構造タンパク質を発現するためのRNA構築物と共に)、機能性T細胞受容体または人工T細胞受容体を提供し得る。
【0070】
一実施形態では、細胞は、その細胞表面にT細胞受容体または人工T細胞受容体を発現する。
【0071】
さらなる態様では、本発明は、細胞を生成するための本発明の方法によって生成された細胞を提供する。一実施形態では、細胞は組換え細胞である。
【0072】
さらなる態様では、本発明は、本発明の1つ以上のRNAレプリコンを含むT細胞受容体または人工T細胞受容体を発現する細胞を提供し、RNAレプリコン(1つまたは複数)は、T細胞受容体または人工T細胞受容体の鎖(1つまたは複数)をコードするオープンリーディングフレーム(1つまたは複数)を含む。細胞は、その細胞表面にT細胞受容体または人工T細胞受容体を有し得る。
【0073】
一実施形態では、上記細胞は、養子細胞移入に有用な細胞である。細胞は、免疫エフェクター細胞または幹細胞、好ましくは免疫反応性細胞であり得る。免疫反応性細胞は、T細胞またはその前駆細胞、好ましくは細胞傷害性T細胞またはその前駆細胞であり得る。一実施形態では、細胞はヒト細胞である。一実施形態では、修飾された細胞は、疾患関連抗原と反応する。一実施形態では、前記抗原は、疾患細胞などの細胞の表面に存在する。一実施形態では、前記抗原は、MHC分子に関連して疾患細胞などの細胞の表面に提示される。一実施形態では、修飾された細胞は、MHCに関連して提示された場合、疾患関連抗原と反応する。一実施形態では、前記細胞は内因性TCRの表面発現を欠く。
【0074】
本発明は一般に、疾患特異的抗原を発現する疾患細胞、特に腫瘍抗原を発現する癌細胞などの抗原を発現する細胞を標的とすることによる疾患の治療を包含する。細胞は、その表面に抗原を発現し得るおよび/または抗原を提示し得る。前記方法は、抗原を発現する細胞の選択的根絶を提供し、それによって抗原を発現しない正常細胞への有害作用を最小限に抑える。一実施形態では、特に細胞の表面に存在する場合、またはMHCに関連して提示される場合、抗原への結合を介して細胞を標的とするT細胞受容体または人工T細胞受容体を発現するように本発明に従って遺伝子改変されたT細胞を投与する。T細胞は、抗原を発現している疾患細胞を認識することができ、疾患細胞の根絶をもたらす。一実施形態では、標的細胞集団または標的組織は、腫瘍細胞または腫瘍組織である。
【0075】
さらなる態様では、本発明は、本発明のRNAレプリコンを含む、例えば、各RNAレプリコンがT細胞受容体もしくは人工T細胞受容体の異なる鎖の1つをコードする本発明のRNAレプリコンのセット、本発明のDNA、または本発明の細胞を含む医薬組成物、および薬学的に許容される担体を提供する。
【0076】
本発明の医薬組成物は、特に腫瘍抗原などのT細胞受容体または人工T細胞受容体が結合する、すなわち標的とする抗原の発現を特徴とする癌などの疾患の治療において薬剤として使用され得る。
【0077】
さらなる態様では、本発明は、薬剤として使用するための本発明の医薬組成物を提供する。
【0078】
さらなる態様では、本発明は、T細胞受容体または人工T細胞受容体が標的とする抗原の発現を特徴とする細胞が関与する疾患の治療において使用するための本発明の医薬組成物を提供する。
【0079】
さらなる態様では、本発明は、被験体に治療有効量の本発明の医薬組成物を投与することを含む疾患の治療方法を提供し、疾患は、T細胞受容体または人工T細胞受容体が標的とする抗原の発現を特徴とする細胞を含む。
【0080】
さらなる態様では、本発明は、抗原の発現を特徴とする細胞が関与する疾患を有する被験体を治療する方法を提供し、この方法は、抗原を標的とするT細胞受容体または人工T細胞受容体を発現する細胞を生成するための本発明の方法によって生成された細胞を被験体に投与することを含む。
【0081】
本発明の一実施形態では、抗原は腫瘍抗原である。本発明の一実施形態では、疾患は癌である。一実施形態では、T細胞などの細胞は、被験体に対して自己由来、同種異系または同系であり得る。
【0082】
本発明のすべての態様の一実施形態では、治療方法は、被験体から細胞の試料、好ましくはT細胞またはT細胞前駆体を含む試料を得ること、およびT細胞受容体もしくは人工T細胞受容体をコードする本明細書に記載の1つ以上のレプリコン、またはこれらのレプリコンをコードするDNAを細胞にトランスフェクトして、T細胞受容体または人工T細胞受容体を発現するように遺伝子改変されたT細胞などの細胞を提供することをさらに含む。本発明のすべての態様の一実施形態では、T細胞受容体または人工T細胞受容体を発現するように遺伝子改変された細胞は、T細胞受容体または人工T細胞受容体をコードする核酸で一過性にトランスフェクトされる。したがって、T細胞受容体または人工T細胞受容体をコードする核酸は、細胞のゲノムに組み込まれない。本発明のすべての態様の一実施形態では、細胞および/または細胞の試料は、T細胞受容体または人工T細胞受容体を発現するように遺伝子改変された細胞が投与される被験体に由来する。本発明のすべての態様の一実施形態では、細胞および/または細胞の試料は、T細胞受容体または人工T細胞受容体を発現するように遺伝子改変された細胞が投与される哺乳動物とは異なる哺乳動物に由来する。
【0083】
本発明のすべての態様の一実施形態では、T細胞受容体または人工T細胞受容体を発現するように遺伝子改変されたT細胞は、内因性T細胞受容体および/または内因性HLAの発現に関して不活性化される。
【0084】
本発明のすべての態様の一実施形態では、抗原は癌細胞などの疾患細胞で発現される。一実施形態では、抗原は、癌細胞などの疾患細胞の表面で発現され、および/またはMHC分子に関連して癌細胞などの疾患細胞の表面に提示される。
【0085】
一実施形態では、人工T細胞受容体は、抗原の細胞外ドメインまたは細胞外ドメインのエピトープに結合する。一実施形態では、人工T細胞受容体は、生細胞の表面に存在する抗原の天然のエピトープに結合する。
【0086】
一実施形態では、T細胞受容体は、MHC分子に関連して提示されるT細胞エピトープに結合する。
【0087】
本発明のすべての態様の一実施形態では、抗原は腫瘍抗原である。本発明のすべての態様の一実施形態では、抗原は、クローディン6およびクローディン18.2などのクローディン、CD19、CD20、CD22、CD33、CD123、メソテリン、CEA、c-Met、PSMA、GD-2、ならびにNY-ESO-1からなる群より選択される。本発明のすべての態様の一実施形態では、抗原は病原体抗原である。病原体は、真菌、ウイルス、または細菌の病原体であり得る。本発明のすべての態様の一実施形態では、抗原の発現は細胞表面で起こる。一実施形態では、T細胞によって発現されるおよび/もしくはT細胞上に存在する場合の前記人工T細胞受容体の、細胞上に存在する抗原への結合、またはT細胞によって発現されるおよび/もしくはT細胞上に存在する場合の前記T細胞受容体の、MHC分子に関連して提示されるT細胞エピトープへの結合は、サイトカインの放出などの前記T細胞の免疫エフェクター機能をもたらす。一実施形態では、T細胞によって発現されるおよび/もしくはT細胞上に存在する場合の前記人工T細胞受容体の、癌細胞などの疾患細胞上に存在する抗原への結合、またはT細胞によって発現されるおよび/もしくはT細胞上に存在する場合の前記T細胞受容体の、癌細胞などの疾患細胞上にMHC分子に関連して提示されるT細胞エピトープへの結合は、疾患細胞の細胞溶解および/またはアポトーシスを引き起こし、前記T細胞は、好ましくは細胞傷害性因子、例えばパーフォリンおよびグランザイムを放出する。
【0088】
本発明のすべての態様の一実施形態では、抗原結合部位を形成する人工T細胞受容体のドメインは、人工T細胞受容体のエクトドメインに含まれる。本発明のすべての態様の一実施形態では、人工T細胞受容体は膜貫通ドメインを含む。一実施形態では、膜貫通ドメインは、膜にまたがる疎水性αヘリックスである。本発明のすべての態様の一実施形態では、人工T細胞受容体は、新生タンパク質を小胞体に向かわせるシグナルペプチドを含む。一実施形態では、シグナルペプチドは、抗原結合部位を形成するドメインに先行する。
【0089】
本発明のすべての態様の一実施形態では、人工T細胞受容体は、特に疾患細胞などの細胞の表面上に存在する場合、好ましくはそれが標的とする抗原に特異的である。
【0090】
本発明のすべての態様の一実施形態では、人工T細胞受容体は、T細胞、好ましくは細胞傷害性T細胞などの免疫反応性細胞によって発現され得るおよび/または免疫反応性T細胞の表面上に存在し得る。一実施形態では、免疫反応性細胞は、人工T細胞受容体が標的とする抗原と反応する。
【0091】
さらなる態様では、本発明は、本明細書に記載の方法で使用するための本明細書に記載の作用物質および組成物を提供する。
【0092】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【
図1】親ウイルスゲノムおよびベクターのシスおよびトランス複製RNA (A)アルファウイルスゲノムの一般的構成。2つの大きなオープンリーディングフレーム(ORF)は、サブゲノムプロモータ(SGP)によって分離されている。5'ORFはRNA増幅のための酵素複合体(レプリカーゼ)をコードし、3'ORFはウイルス構造遺伝子(カプシドおよびエンベロープ糖タンパク質)をコードした。5'末端で、2つの保存された配列エレメント(CSE)が、レプリカーゼコード領域と部分的に重複する5'複製認識配列(RRS)を構築する。3'RRSは、CSE 4(3'末端の19ヌクレオチド)とポリA尾部(A
n)の約15ヌクレオチドによって構築される。 (B)シス-レプリコンベクターは、RRSおよびSGPのWT配列を保持し、それらは目的の遺伝子(ここではキメラ抗原受容体(CAR)またはT細胞受容体(TCR)によって置き換えられる構造遺伝子のORFを欠く。 (C)トランスレプリコンベクター系。シスレプリコンは、レプリカーゼをコードするが複製することができないmRNAと、レプリカーゼによってトランスで増幅される短いRNAに分割される。これらのいわゆるトランスレプリコンには2つの異なる型があり、1つはシスレプリコンと同一のWT配列中にすべてのウイルスRRSを含む。他方の型は、翻訳開始コドンとして機能できるAUGコドンを除去するように変異した短縮5'CSEを含む。5'AUGの除去は、目的のORFの開始コドンのみで翻訳が開始されることを確実にし、目的のORFは変異した5'CSEの下流に挿入される。本発明における目的の遺伝子は、キメラ抗原受容体(CAR)およびT細胞受容体(TCR)である。TCRのα鎖とβ鎖を別々の複製RNAベクターに挿入した。
【
図2A】CARをトランスフェクトした休止CD4+細胞からのIFNg放出は、複製RNAを使用して刺激される CD4+T細胞に、ヒトクローディン6に反応するCARをコードする、示されているRNA種をエレクトロポレーションした。NTRとTRを、示されているようにレプリカーゼをコードするmRNAで同時トランスフェクトし、CARをコードするRNAを、10μgのCARコードmRNAに基づいて等モルに調整した。エレクトロポレーションの24時間後、細胞を回収し、CAR特異的抗体で染色してCAR発現を観測した。さらに、トランスフェクトしたT細胞と、ヒトクローディン6を発現するまたは発現しないJY細胞との共培養を開始した。24時間後、細胞培養上清を回収し、分泌されたIFNgの濃度をELISAによって決定した。 (A)エレクトロポレーションの24時間後のCAR発現のフローサイトメトリ分析。
【
図2BCD】CARをトランスフェクトした休止CD4+細胞からのIFNg放出は、複製RNAを使用して刺激される (B)Aに示すヒストグラムの棒グラフ。 (C)h-クローディン6陽性および陰性標的細胞との24時間の共培養後のIFNgの濃度。 (D)ブドウ球菌エンテロトキシンB(SEB)スーパー抗原を使用して非特異的に刺激し、JY-hクローディン6細胞に暴露した細胞からのIFN-g放出。 (mRNA:非複製mRNA;TR:トランスレプリコン;RRS:複製認識配列;SGP:サブゲノムプロモータ)
【
図3AB】CARをトランスフェクトしたCD8 T細胞からのIFN-g放出は、複製RNAを使用して刺激され、より持続される CD8+T細胞を、磁気支援細胞選別を使用して健常ドナーの新鮮または凍結末梢血単核細胞から単離した。新鮮細胞から単離した細胞をOKT3およびIL-2で48時間前刺激し、IL-2の存在下で72時間増殖させ、凍結PBMCからのCD8+細胞はMACSの直後に使用した。両方のT細胞集団に、ヒトクローディン6に反応するCARをコードする、示されているRNA種をエレクトロポレーションした。NTRとTRを、レプリカーゼをコードするmRNAで同時トランスフェクトし(+R)、CARコードRNAを10μgのCARコードmRNAに基づいて等モルに調整した。エレクトロポレーションの24時間から120時間後に、細胞をCAR特異的抗体で染色してCAR発現を観測した。さらに、CAR発現分析の各時点で、トランスフェクトしたT細胞とヒトクローディン6を発現するまたは発現しないJY細胞との共培養を開始した。24時間後、細胞培養上清を回収し、IFN-g分泌をELISAによって定量化した。 (A)休止CD8細胞におけるCAR発現のフローサイトメトリ分析。細胞あたりの平均CAR発現レベル(CAR特異的染色の平均蛍光強度、MFI)。 (B)休止細胞と標的細胞の24時間の共培養時のIFNgの濃度。
【
図3CD】CARをトランスフェクトしたCD8 T細胞からのIFN-g放出は、複製RNAを使用して刺激され、より持続される (C、D)AおよびBと同じであるが、OKT3/IL-2で前刺激したCD8細胞を使用した。 (mRNA:非複製mRNA;TR:トランスレプリコン;RRS:複製認識配列;SGP:サブゲノムプロモータ;+R:レプリカーゼ同時トランスフェクション)。
【
図4】複製RNA移入後の黒色腫細胞に応答した、改善されたネオ抗原特異的TCR媒介認識およびIFN-g分泌 A)CD8+T細胞に異なるRNA形態およびモル比のネオ抗原(「Mut14」)特異的TCR α/β RNA+/-レプリカーゼRNAをトランスフェクトし、一晩休ませ、3x10
5T細胞を5x10
4MZ-GABA-018_PGK_hB2M_bln_C5_P9黒色腫細胞と共培養した。特異的IFNγ分泌をIFNγ ELISPOTアッセイによって分析した。 B)蛍光色素結合CD8特異的およびVβ特異的抗体で染色した後、フローサイトメトリによってCD8+T細胞上のTCR表面発現を分析した。細胞を単一の生細胞でゲートした。
【
図5】複製RNA移入後の自己ネオ抗原特異的TCRによって媒介される改善された腫瘍細胞溶解 予備活性化したCD8+T細胞に、6.4pmolのネオ抗原特異的TCR α/β RNA+/-12.8pmolレプリカーゼRNAをトランスフェクトし、20時間後に異なるE:T比でMZ-GaBa-18-β2m黒色腫細胞細胞株と共培養した。M05-TCRをトランスフェクトしたT細胞(A)またはM14-TCRをトランスフェクトしたT細胞(B)によって媒介される特異的溶解を、48時間の共培養後にルシフェラーゼに基づく細胞毒性アッセイによって分析した。
【
図6】本発明に従って有用な非修飾または修飾5'複製認識配列を含むRNAレプリコンの概略図 略語:AAAA=ポリ(A)尾部;ATG=出発コドン/開始コドン(DNAレベルのATG;RNAレベルのAUG);5xATG=nsP1*をコードする核酸配列内のすべての開始コドンを含む核酸配列(セムリキ森林ウイルス由来のnsP1*をコードする核酸配列の場合、5xATGは5つの特定の開始コドンに対応する、実施例1参照);Δ5ATG=nsP1*をコードする核酸配列に対応する核酸配列;ただし、自然界で見出されるアルファウイルスのnsP1*をコードする核酸配列の開始コドンを含まない(セムリキ森林ウイルスに由来するnsP1*の場合、「Δ5ATG」は、自然界で見出されるセムリキ森林ウイルスと比較して5つの特定の開始コドンの除去に対応する、実施例1参照);EcoRV=EcoRV制限部位;nsP=アルファウイルス非構造タンパク質(例えばnsP1、nsP2、nsP3、nsP4)をコードする核酸配列;nsP1*=nsP1の断片をコードする核酸配列、この断片はnsP1のC末端断片を含まない;*nsP4=nsP4の断片をコードする核酸配列、この断片はnsP4のN末端断片を含まない;RRS=5'複製認識配列;SalI=SalI制限部位;SGP=サブゲノムプロモータ;SL=ステムループ(例えばSL1、SL2、SL3、SL4);SL1~4の位置は図で示されている;UTR=非翻訳領域(例えば5'-UTR、3'-UTR);WT=野生型;導入遺伝子は、好ましくはT細胞受容体または人工T細胞受容体の鎖をコードするオープンリーディングフレームに関する。 シスレプリコンWT-RRS:アルファウイルス構造タンパク質をコードする核酸配列が目的の遺伝子(「導入遺伝子」)をコードするオープンリーディングフレームに置き換えられていることを除いて、本質的にアルファウイルスのゲノムに対応するRNAレプリコン。「レプリコンWT-RRS」が細胞に導入された場合、レプリカーゼ(nsP1234またはその断片(1つまたは複数))をコードするオープンリーディングフレームの翻訳産物は、シスでRNAレプリコンの複製を駆動し、サブゲノムプロモータ(SGP)の下流の核酸配列(サブゲノム転写物)の合成を駆動することができる。 トランスレプリコンまたは鋳型RNA WT-RRS:アルファウイルス非構造タンパク質nsP1~4をコードする核酸配列のほとんどが除去されていることを除いて、本質的に「レプリコンWT-RRS」に対応するRNAレプリコン。より具体的には、nsP2およびnsP3をコードする核酸配列は完全に除去されている;「鋳型RNA WT-RRS」が、nsP1のC末端断片を含まない(ただし、nsP1のN末端断片を含む;nsP1*)nsP1の断片をコードするように、nsP1をコードする核酸配列はトランケートされている;「鋳型RNA WT-RRS」が、nsP4のN末端断片を含まない(ただし、nsP4のC末端断片を含む;*nsP4)nsP4の断片をコードするように、nsP4をコードする核酸配列はトランケートされている。このトランケートされたnsP4配列は、完全に活性なサブゲノムプロモータと部分的に重複する。nsP1*をコードする核酸配列は、自然界で見出されるアルファウイルスのnsP1*をコードする核酸配列のすべての開始コドンを含む(セムリキ森林ウイルス由来のnsP1*の場合、5つの特定の開始コドン)。 Δ5ATG-RRS:自然界で見出されるアルファウイルスのnsP1*をコードする核酸配列の開始コドンを含まないことを除いて、本質的に「鋳型RNA WT-RRS」に対応するRNAレプリコン(セムリキ森林ウイルスの場合、「Δ5ATG-RRS」は、自然界で見出されるセムリキ森林ウイルスと比較して5つの特定の開始コドンの除去に対応する)。開始コドンを除去するために導入されたすべてのヌクレオチド変化は、RNAの予測される二次構造を保存するために追加のヌクレオチド変化によって補償された。 Δ5ATG-RRSΔSGP:サブゲノムプロモータ(SGP)を含まず、*nsP4をコードする核酸配列を含まないことを除いて、本質的に「Δ5ATG-RRS」に対応するRNAレプリコン。「導入遺伝子1」=目的の遺伝子。 Δ5ATG-RRS-バイシストロニック:サブゲノムプロモータの上流の最初の目的遺伝子(「導入遺伝子1」)をコードする最初のオープンリーディングフレームおよびサブゲノムプロモータの下流の2番目の目的遺伝子(「導入遺伝子2」)をコードする2番目のオープンリーディングフレームを含むことを除いて、本質的に「Δ5ATG-RRS」に対応するRNAレプリコン。2番目のオープンリーディングフレームの局在化は、RNAレプリコン「Δ5ATG-RRS」における目的の遺伝子(「導入遺伝子」)の局在化に対応する。 シスレプリコンΔ5ATG-RRS:最初の目的遺伝子をコードするオープンリーディングフレームが機能性アルファウイルス非構造タンパク質(典型的にはポリタンパク質nsP1-nsP2-nsP3-nsP4、すなわちnsP1234をコードする1つのオープンリーディングフレーム)をコードすることを除いて、本質的に「Δ5ATG-RRS-バイシストロニック」に対応するRNAレプリコン。「シスレプリコンΔ5ATG-RRS」の「導入遺伝子」は、「Δ5ATG-RRS-バイシストロニック」の「導入遺伝子2」に対応する。機能性アルファウイルス非構造タンパク質は、サブゲノムプロモータを認識し、目的の遺伝子(「導入遺伝子」)をコードする核酸配列を含むサブゲノム転写物を合成することができる。「シスレプリコンΔ5ATG-RRS」は、「シスレプリコンWT-RRS」と同様に、機能性アルファウイルスの非構造タンパク質をシスでコードする;しかし、「シスレプリコンΔ5ATG-RRS」によってコードされるnsP1のコード配列は、すべてのステムループを含む「シスレプリコンWT-RRS」の正確な核酸配列を含む必要はない。
【
図7】キャップジヌクレオチドの構造。上:天然キャップジヌクレオチド、m
7GpppG。下:ホスホロチオエートキャップ類似体β-S-ARCAジヌクレオチド:ステレオジェニックなP中心のため、β-S-ARCAには2つのジアステレオマーが存在し、これらは、逆相HPLCでの溶出特性に従ってD1およびD2と呼称される。
【発明を実施するための形態】
【0094】
本発明を以下で詳細に説明するが、本発明は、本明細書に記載の特定の方法論、プロトコルおよび試薬に限定されず、これらは異なり得ることが理解されるべきである。また、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的とし、本発明の範囲を限定することを意図するものではなく、本発明の範囲は付属の特許請求の範囲によってのみ限定されることも理解されるべきである。特に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術および科学用語は、当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0095】
好ましくは、本明細書で使用される用語は、"A multilingual glossary of biotechnological terms:(IUPAC Recommendations)",H.G.W.Leuenberger,B.Nagel,and H.Kolbl,Eds.,Helvetica Chimica Acta,CH-4010 Basel,Switzerland,(1995)に記載されているように定義される。
【0096】
本発明の実施は、特に指示されない限り、当技術分野の文献(例えばMolecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Edition,J.Sambrook et al.eds.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor 1989参照)で説明されている化学、生化学、細胞生物学、免疫学、および組換えDNA技術の従来の方法を用いる。
【0097】
以下において、本発明の要素を説明する。これらの要素を具体的な実施形態と共に列挙するが、それらは、追加の実施形態を創製するために任意の方法および任意の数で組み合わせてもよいことが理解されるべきである。様々に説明される例および好ましい実施形態は、本発明を明確に記述される実施形態のみに限定すると解釈されるべきではない。この説明は、明確に記述される実施形態を任意の数の開示される要素および/または好ましい要素と組み合わせた実施形態を開示し、包含すると理解されるべきである。さらに、本出願において記述されるすべての要素の任意の並び替えおよび組合せは、文脈上特に指示されない限り、この説明によって開示されているとみなされるべきである。
【0098】
「約」という用語は、およそまたはほぼを意味し、本明細書に記載の数値または範囲の文脈では、好ましくは列挙または特許請求される数値または範囲の+/-10%を意味する。
【0099】
本発明を説明する文脈で(特に特許請求の範囲の文脈で)使用される「1つの」(「a」および「an」)および「その」(「the」)という用語ならびに同様の言及は、本明細書で特に指示されない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、単数および複数の両方を包含すると解釈されるべきである。本明細書における値の範囲の列挙は、単に、その範囲内に属する各々別々の値を個別に言及することの簡略方法として機能することが意図されている。本明細書で特に指示されない限り、各個別の値は、本明細書で個別に列挙されているかのごとくに本明細書に組み込まれる。本明細書に記載されるすべての方法は、本明細書で特に指示されない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で実施することができる。本明細書で提供されるありとあらゆる例または例示的言語(例えば「など」)の使用は、単に本発明をより良く説明することを意図し、特許請求される本発明の範囲に限定を課すものではない。本明細書中のいかなる言語も、本発明の実施に不可欠な、特許請求されていない要素を指示すると解釈されるべきではない。
【0100】
特に明記されない限り、「含む」という用語は、「含む」によって導入されたリストのメンバーに加えて、さらなるメンバーが場合により存在し得ることを示すために本文書の文脈で使用される。しかし、「含む」という用語は、さらなるメンバーが存在しない可能性を包含することが本発明の特定の実施形態として考えられ、すなわちこの実施形態の目的のために、「含む」は「からなる」の意味を有すると理解されるべきである。
【0101】
総称によって特徴付けられる成分の相対量の表示は、その総称でカバーされるすべての特定の変異体またはメンバーの合計量を指すことを意味する。総称によって定義された特定の成分が特定の相対量で存在すると指定され、この成分が総称でカバーされる特定の変異体またはメンバーであるとさらに特徴付けられる場合、総称でカバーされる他の変異体またはメンバーが、総称でカバーされる成分の合計相対量が指定された相対量を超えるように付加的に存在しないこと、より好ましくは総称でカバーされる他の変異体またはメンバーが全く存在しないことを意味する。
【0102】
本明細書の本文全体を通していくつかの資料を引用する。本明細書で引用される資料(すべての特許、特許出願、科学出版物、製造者の仕様書、指示書等を含む)の各々は、上記または下記のいずれでも、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書のいかなる内容も、本発明がそのような開示に先行する権利を有さなかったことの承認と解釈されるべきではない。
【0103】
本明細書で使用される「低減する」または「阻害する」などの用語は、好ましくは5%以上、10%以上、20%以上、より好ましくは50%以上、最も好ましくは75%以上のレベルの全体的な減少を生じさせる能力を意味する。「阻害する」という用語または同様の語句には、完全なまたは本質的に完全な阻害、すなわちゼロまたは本質的にゼロへの低減が含まれる。
【0104】
「増加する」または「増強する」などの用語は、好ましくは、少なくとも約10%、好ましくは少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、さらにより好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも100%の増加または増強に関する。
【0105】
「正味電荷」という用語は、化合物または粒子などの物体全体の電荷を指す。
【0106】
全体的な正味の正電荷を有するイオンは陽イオンであり、一方、全体的な正味の負電荷を有するイオンは陰イオンである。したがって、本発明によれば、陰イオンは陽子よりも多くの電子を有するイオンであり、正味の負電荷を与え、陽イオンは陽子よりも少ない電子を有するイオンであり、正味の正電荷を与える。
【0107】
所与の化合物または粒子に関して、「帯電した」、「正味電荷」、「負に帯電した」または「正に帯電した」という用語は、pH7.0の水に溶解または懸濁した場合の所与の化合物または粒子の正味電荷を指す。
【0108】
本発明によれば、核酸は、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)である。一般に、核酸分子または核酸配列は、好ましくはデオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)である核酸を指す。本発明によれば、核酸は、ゲノムDNA、cDNA、mRNA、ウイルスRNA、組換えによって調製された分子および化学合成された分子を含む。本発明によれば、核酸は、一本鎖または二本鎖の線状または共有結合閉環分子として存在し得る。本発明による「核酸」という用語は、ヌクレオチド塩基上、糖上またはリン酸塩上の核酸、ならびに非天然ヌクレオチドおよびヌクレオチド類似体を含む核酸の化学的誘導体化も含む。
【0109】
本発明によれば、「核酸配列」は、核酸、例えばリボ核酸(RNA)またはデオキシリボ核酸(DNA)中のヌクレオチドの配列を指す。この用語は、核酸分子全体(核酸分子全体の一本鎖など)またはその一部(例えば断片)を指してもよい。
【0110】
本発明によれば、「RNA」または「RNA分子」という用語は、リボヌクレオチド残基を含み、好ましくは完全にまたは実質的にリボヌクレオチド残基からなる分子に関する。「リボヌクレオチド」という用語は、β-D-リボフラノシル基の2'位にヒドロキシル基を有するヌクレオチドに関する。「RNA」という用語は、二本鎖RNA、一本鎖RNA、部分的または完全に精製されたRNAなどの単離されたRNA、本質的に純粋なRNA、合成RNA、ならびに1つ以上のヌクレオチドの付加、欠失、置換および/または改変によって天然に存在するRNAとは異なる修飾RNAなどの組換え生産されたRNAを含む。そのような改変は、例えばRNAの末端(一方もしくは両方)へのまたは内部での、例えばRNAの1つ以上のヌクレオチドにおける、非ヌクレオチド物質の付加を含み得る。RNA分子中のヌクレオチドは、非天然のヌクレオチドまたは化学合成されたヌクレオチドもしくはデオキシヌクレオチドなどの非標準のヌクレオチドも含み得る。これらの改変されたRNAは、類似体、特に天然に存在するRNAの類似体と称され得る。
【0111】
本発明によれば、RNAは一本鎖または二本鎖であり得る。本発明のいくつかの実施形態では、一本鎖RNAが好ましい。「一本鎖RNA」という用語は、一般に、相補的な核酸分子(典型的には相補的なRNA分子)が結合していないRNA分子を指す。一本鎖RNAは、RNAの一部が折り返され、塩基対、ステム、ステムループおよびバルジを含むがこれらに限定されない二次構造モチーフを形成することを可能にする自己相補的配列を含み得る。一本鎖RNAは、マイナス鎖[(-)鎖]またはプラス鎖[(+)鎖]として存在することができる。(+)鎖は、遺伝情報を含むまたはコードする鎖である。遺伝情報は、例えばタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列であり得る。(+)鎖RNAがタンパク質をコードする場合、(+)鎖は翻訳(タンパク質合成)の鋳型として直接機能し得る。(-)鎖は(+)鎖の相補体である。二本鎖RNAの場合、(+)鎖と(-)鎖は2つの別個のRNA分子であり、これら両方のRNA分子が互いに会合して二本鎖RNA(「二重鎖RNA」)を形成する。
【0112】
RNAの「安定性」という用語は、RNAの「半減期」に関する。「半減期」は、分子の活性、量、または数の半分を除去するのに必要な期間に関する。本発明の文脈において、RNAの半減期は、そのRNAの安定性の指標である。RNAの半減期は、RNAの「発現の持続期間」に影響を与え得る。長い半減期を有するRNAは長期間にわたって発現されると予想することができる。
【0113】
「翻訳効率」という用語は、特定の期間内にRNA分子によって提供される翻訳産物の量に関する。
【0114】
核酸配列に関する「断片」は、核酸配列の一部、すなわち5'末端および/または3'末端(一方もしくは両方)で短縮された核酸配列を表す配列に関する。好ましくは、核酸配列の断片は、前記核酸配列からのヌクレオチド残基の少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、または99%を含む。本発明では、RNAの安定性および/または翻訳効率を保持するRNA分子の断片が好ましい。
【0115】
アミノ酸配列(ペプチドまたはタンパク質)に関する「断片」は、アミノ酸配列の一部、すなわち、N末端および/またはC末端で短縮されたアミノ酸配列を表す配列に関する。C末端で短縮された断片(N末端断片)は、例えばオープンリーディングフレームの3'末端を欠くトランケートされたオープンリーディングフレームの翻訳によって得ることができる。N末端で短縮された断片(C末端断片)は、例えば、トランケートされたオープンリーディングフレームが翻訳を開始させるように働く開始コドンを含む限り、オープンリーディングフレームの5'末端を欠くトランケートされたオープンリーディングフレームの翻訳によって得ることができる。アミノ酸配列の断片は、例えばアミノ酸配列からのアミノ酸残基の少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%を含む。
【0116】
本発明による、例えば核酸およびアミノ酸配列に関する「変異体」という用語は、任意の変異体、特に突然変異体、ウイルス株変異体、スプライス変異体、立体配座、アイソフォーム、対立遺伝子変異体、種変異体および種ホモログ、特に天然に存在するものを含む。対立遺伝子変異体は、遺伝子の通常の配列における改変に関連しており、その重要性はしばしば不明である。完全な遺伝子配列決定によって、所与の遺伝子の多数の対立遺伝子変異体がしばしば同定される。核酸分子に関して、「変異体」という用語は縮重核酸配列を含み、本発明による縮重核酸は、遺伝暗号の縮重のためにコドン配列において参照核酸とは異なる核酸である。種ホモログは、所与の核酸またはアミノ酸配列のものとは異なる種を起源とする核酸またはアミノ酸配列である。ウイルスホモログは、所与の核酸またはアミノ酸配列のものとは異なるウイルスを起源とする核酸またはアミノ酸配列である。
【0117】
本発明によれば、核酸変異体は、参照核酸と比較して単一または複数のヌクレオチドの欠失、付加、変異、置換および/または挿入を含む。欠失は、参照核酸からの1つ以上のヌクレオチドの除去を含む。付加変異体は、1、2、3、5、10、20、30、50、またはそれ以上のヌクレオチドなどの、1つ以上のヌクレオチドの5'末端および/または3'末端融合を含む。置換の場合、配列中の少なくとも1つのヌクレオチドが除去され、少なくとも1つの他のヌクレオチドがその場所に挿入される(トランスバージョンおよびトランジションなど)。変異には、脱塩基部位、架橋部位、および化学的に改変または修飾された塩基が含まれる。挿入には、参照核酸への少なくとも1つのヌクレオチドの付加が含まれる。
【0118】
本発明によれば、「ヌクレオチド変化」は、参照核酸と比較した単一または複数のヌクレオチドの欠失、付加、変異、置換および/または挿入を指すことができる。いくつかの実施形態では、「ヌクレオチド変化」は、参照核酸と比較した、単一ヌクレオチドの欠失、単一ヌクレオチドの付加、単一ヌクレオチドの変異、単一ヌクレオチドの置換および/または単一ヌクレオチドの挿入のからなる群より選択される。本発明によれば、核酸変異体は、参照核酸と比較した1つ以上のヌクレオチド変化を含み得る。
【0119】
特定の核酸配列の変異体は、好ましくは前記特定の配列の少なくとも1つの機能的特性を有し、好ましくは前記特定の配列と機能的に等価であり、例えば特定の核酸配列の特性と同一または類似の特性を示す核酸配列である。
【0120】
以下に記載されるように、本発明のいくつかの実施形態は、とりわけ、自然界で見出されるアルファウイルスなどのアルファウイルスの核酸配列と相同である核酸配列を特徴とする。これらの相同な配列は、自然界で見出されるアルファウイルスなどのアルファウイルスの核酸配列の変異体である。
【0121】
好ましくは、所与の核酸配列と前記所与の核酸配列の変異体である核酸配列との間の同一性の程度は、少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%、または最も好ましくは少なくとも95%、96%、97%、98%または99%である。同一性の程度は、好ましくは、少なくとも約30、少なくとも約50、少なくとも約70、少なくとも約90、少なくとも約100、少なくとも約150、少なくとも約200、少なくとも約250、少なくとも約300、または少なくとも約400ヌクレオチドの領域について与えられる。好ましい実施形態では、同一性の程度は、参照アミノ酸配列の全長について与えられる。
【0122】
「配列類似性」は、同一であるかまたは保存的アミノ酸置換を表すアミノ酸の割合を示す。2つのポリペプチドまたは核酸配列間の「配列同一性」は、配列間で同一であるアミノ酸またはヌクレオチドの割合を示す。
【0123】
「%同一」という用語は、特に、比較する2つの配列間の最適なアラインメントにおいて同一であるヌクレオチドの割合を指すことが意図されており、前記割合は純粋に統計的であり、2つの配列間の相違は配列の全長にわたってランダムに分布していてもよく、比較する配列は、2つの配列間の最適なアラインメントを得るために、参照配列と比較して付加または欠失を含んでいてもよい。2つの配列の比較は、通常、対応する配列の局所領域を同定するために、最適なアラインメント後に、セグメントまたは「比較ウィンドウ」に関して前記配列を比較することによって実施される。比較のための最適なアラインメントは、手作業によって、またはSmith and Waterman,1981,Ads App.Math.2,482による局所相同性アルゴリズムを用いて、Needleman and Wunsch,1970,J.Mol.Biol.48,443による局所相同性アルゴリズムを用いて、およびPearson and Lipman,1988,Proc.Natl Acad.Sci.USA 85,2444の類似性検索アルゴリズムを用いて、または前記アルゴリズムを使用したコンピュータプログラム(Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575 Science Drive,Madison,Wis.のGAP、BESTFIT、FASTA、BLAST P、BLAST NおよびTFASTA)を援用して実施し得る。
【0124】
同一性パーセントは、比較する配列が一致する同一の位置の数を決定し、この数を比較する位置の数で除して、この結果に100を乗じることによって得られる。
【0125】
例えば、ウェブサイトhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/bl2seq/wblast2.cgiで入手可能なBLASTプログラム「BLAST 2 sequences」を使用し得る。
【0126】
2つの配列が互いに相補的である場合、核酸は別の核酸に「ハイブリダイズできる」または「ハイブリダイズする」。2つの配列が互いに安定な二重鎖を形成できる場合、核酸は別の核酸と「相補的」である。本発明によれば、ハイブリダイゼーションは、好ましくは、ポリヌクレオチド間の特異的なハイブリダイゼーションを可能にする条件(ストリンジェントな条件)下で実施される。ストリンジェントな条件は、例えばMolecular Cloning:A Laboratory Manual,J.Sambrook et al.,Editors,2nd Edition,Cold Spring Harbor Laboratory press,Cold Spring Harbor,New York,1989またはCurrent Protocols in Molecular Biology,F.M.Ausubel et al.,Editors,John Wiley&Sons,Inc.,New Yorkに記載されており、例えばハイブリダイゼーション緩衝液(3.5xSSC、0.02%Ficoll、0.02%ポリビニルピロリドン、0.02%ウシ血清アルブミン、2.5mM NaH2PO4(pH7)、0.5%SDS、2mM EDTA)中の65℃でのハイブリダイゼーションを参照されたい。SSCは、0.15M塩化ナトリウム/0.15Mクエン酸ナトリウム、pH7である。ハイブリダイゼーション後、DNAが転写された膜を、例えば室温で2×SSC中で洗浄し、次に68℃までの温度で0.1~0.5×SSC/0.1×SDS中で洗浄する。
【0127】
相補性パーセントは、第2の核酸配列と水素結合(例えばワトソン-クリック塩基対合)を形成することができる核酸分子中の連続する残基の割合を示す(例えば10個のうちの5、6、7、8、9、10個が50%、60%、70%、80%、90%、および100%相補的である)。「完全に相補的」または「全面的に相補的」とは、核酸配列のすべての連続する残基が、第2の核酸配列の同じ数の連続する残基と水素結合することを意味する。好ましくは、本発明による相補性の程度は、少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%、または最も好ましくは少なくとも95%、96%、97%、98%または99%である。最も好ましくは、本発明による相補性の程度は100%である。
【0128】
「誘導体」という用語は、ヌクレオチド塩基、糖またはリン酸塩上の核酸の化学的誘導体化を含む。「誘導体」という用語は、天然には存在しないヌクレオチドおよびヌクレオチド類似体を含む核酸も含む。好ましくは、核酸の誘導体化はその安定性を高める。
【0129】
本発明によれば、「核酸配列に由来する核酸配列」とは、それが由来する核酸の変異体である核酸を指す。好ましくは、RNA分子中の特定の配列を置換する場合、特定の配列に関して変異体である配列は、RNAの安定性および/または翻訳効率を保持する。
【0130】
「nt」は、1つのヌクレオチドの略語であるか、または複数のヌクレオチド、好ましくは核酸分子中の連続するヌクレオチドの略語である。
【0131】
本発明によれば、「コドン」という用語は、リボソームでのタンパク質合成中に次にどのアミノ酸が付加されるかを特定する、コード核酸中の塩基トリプレットを指す。
【0132】
「転写」および「転写する」という用語は、特定の核酸配列を有する核酸分子(「核酸鋳型」)がRNAポリメラーゼによって読み取られ、その結果RNAポリメラーゼが一本鎖RNA分子を生成する過程に関する。転写中に、核酸鋳型の遺伝情報が転写される。核酸鋳型はDNAであってもよい;しかし、例えばアルファウイルス核酸鋳型からの転写の場合、鋳型は、典型的にはRNAである。その後、転写されたRNAはタンパク質に翻訳され得る。本発明によれば、「転写」という用語は「インビトロ転写」を含み、「インビトロ転写」という用語は、RNA、特にmRNAが無細胞系においてインビトロで合成される過程に関する。好ましくは、クローニングベクターを転写物の生成に適用する。これらのクローニングベクターは、一般に転写ベクターと称され、本発明によれば「ベクター」という用語に包含される。クローニングベクターは、好ましくはプラスミドである。本発明によれば、RNAは、好ましくはインビトロ転写RNA(IVT-RNA)であり、適切なDNA鋳型のインビトロ転写によって得られ得る。転写を制御するためのプロモータは、任意のRNAポリメラーゼについての任意のプロモータであり得る。インビトロ転写のためのDNA鋳型は、核酸、特にcDNAをクローニングし、それをインビトロ転写のための適切なベクターに導入することによって得られ得る。cDNAは、RNAの逆転写によって得られ得る。
【0133】
転写中に生成される一本鎖核酸分子は、典型的には鋳型の相補的配列である核酸配列を有する。
【0134】
本発明によれば、「鋳型」または「核酸鋳型」または「鋳型核酸」という用語は、一般に、複製または転写され得る核酸配列を指す。
【0135】
「核酸配列から転写された核酸配列」および同様の用語は、適切な場合、鋳型核酸配列の転写産物である完全なRNA分子の一部としての核酸配列を指す。典型的には、転写された核酸配列は一本鎖RNA分子である。
【0136】
「核酸の3'末端」とは、本発明によれば、遊離ヒドロキシ基を有するその末端を指す。二本鎖核酸、特にDNAの図式的表示では、3'末端は常に右側にある。「核酸の5'末端」は、本発明によれば、遊離リン酸基を有するその末端を指す。二本鎖核酸、特にDNAの図式的表示では、5'末端は常に左側にある。
5'末端 5'--P-NNNNNNN-OH-3' 3'末端
3'-HO-NNNNNNN-P--5'
【0137】
「上流」とは、核酸分子の第1のエレメントと第2のエレメントの両方が同じ核酸分子中に含まれ、核酸分子の第1のエレメントが第2のエレメントよりもその核酸分子の5'末端のより近くに位置する、核酸分子の第1のエレメントの、その核酸分子の第2のエレメントに対する相対的位置を表す。その場合、第2のエレメントは、その核酸分子の第1のエレメントの「下流」であると言われる。第2のエレメントの「上流」に位置するエレメントは、同義的に、その第2のエレメントの「5'」側に位置すると称され得る。二本鎖核酸分子の場合、「上流」および「下流」のような指示は、「+」鎖に関して与えられる。
【0138】
本発明によれば、「機能的連結」または「機能的に連結された」は、機能的関係内での接続に関する。核酸は、別の核酸配列と機能的に関連している場合、「機能的に連結され」ている。例えば、プロモータは、コード配列の転写に影響を及ぼす場合、前記コード配列に機能的に連結されている。機能的に連結された核酸は、典型的には互いに隣接しているが、適切な場合はさらなる核酸配列によって分離されており、特定の実施形態では、RNAポリメラーゼによって転写されて単一のRNA分子(共通転写物)を生じる。
【0139】
特定の実施形態では、核酸は、本発明に従って、核酸に関して同種または異種であり得る発現制御配列に機能的に連結される。
【0140】
「発現制御配列」という用語は、本発明によれば、プロモータ、リボソーム結合配列、および遺伝子の転写または誘導されたRNAの翻訳を制御する他の制御エレメントを含む。本発明の特定の実施形態では、発現制御配列は調節することができる。発現制御配列の正確な構造は、種または細胞型に応じて異なり得るが、通常、それぞれ転写および翻訳の開始に関与する5'非転写配列ならびに5'および3'非翻訳配列を含む。より具体的には、5'非転写発現制御配列は、機能的に連結された遺伝子の転写制御のためのプロモータ配列を包含するプロモータ領域を含む。発現制御配列は、エンハンサー配列または上流活性化配列も含み得る。DNA分子の発現制御配列は、通常、TATAボックス、キャッピング配列、CAAT配列などの5'非転写配列ならびに5'および3'非翻訳配列を含む。アルファウイルスRNAの発現制御配列は、サブゲノムプロモータおよび/または1つ以上の保存された配列エレメントを含み得る。本発明による特定の発現制御配列は、本明細書に記載されるように、アルファウイルスのサブゲノムプロモータである。
【0141】
本明細書で特定される核酸配列、特に転写可能なコード核酸配列は、任意の発現制御配列、特に前記核酸配列と同種または異種であり得るプロモータと組み合わせてもよく、「同種」という用語は、核酸配列が天然でも発現制御配列に機能的に連結されているという事実を指し、「異種」という用語は、核酸配列が天然では発現制御配列に機能的に連結されていないという事実を指す。
【0142】
転写可能な核酸配列、特にペプチドまたはタンパク質をコードする核酸配列と発現制御配列とは、それらが、転写可能な、特にコード核酸配列の転写または発現が発現制御配列の制御下または影響下にあるように互いに共有結合されている場合、互いに「機能的に」連結されている。核酸配列が機能的なペプチドまたはタンパク質に翻訳される場合、コード配列に機能的に連結された発現制御配列の誘導は、コード配列のフレームシフトを引き起こすことなく、またはコード配列が所望のペプチドまたはタンパク質に翻訳されるのを不可能にすることなく、前記コード配列の転写をもたらす。
【0143】
「プロモータ」または「プロモータ領域」という用語は、RNAポリメラーゼの認識および結合部位を提供することによって、転写物、例えばコード配列を含む転写物の合成を制御する核酸配列を指す。プロモータ領域は、前記遺伝子の転写の調節に関与するさらなる因子のさらなる認識または結合部位を含み得る。プロモータは、原核生物または真核生物遺伝子の転写を制御し得る。プロモータは「誘導性」であり得、誘導因子に応答して転写を開始し得るか、または転写が誘導因子によって制御されない場合は「構成的」であり得る。誘導因子が存在しない場合、誘導性プロモータはごくわずかしか発現されないかまたは全く発現されない。誘導因子の存在下では、遺伝子の「スイッチが入る」か、または転写のレベルが増加する。これは通常、特定の転写因子の結合によって媒介される。本発明による特定のプロモータは、本明細書に記載されるように、アルファウイルスのサブゲノムプロモータである。他の特定のプロモータは、アルファウイルスのゲノムプラス鎖またはマイナス鎖プロモータである。
【0144】
「コアプロモータ」という用語は、プロモータに含まれる核酸配列を指す。コアプロモータは、典型的には転写を適切に開始するために必要なプロモータの最小部分である。コアプロモータは、典型的には転写開始部位とRNAポリメラーゼの結合部位とを含む。
【0145】
「ポリメラーゼ」は、一般に、モノマー構築ブロックからのポリマー分子の合成を触媒することができる分子実体を指す。「RNAポリメラーゼ」は、リボヌクレオチド構築ブロックからのRNA分子の合成を触媒することができる分子実体である。「DNAポリメラーゼ」は、デオキシリボヌクレオチド構築ブロックからのDNA分子の合成を触媒することができる分子実体である。DNAポリメラーゼおよびRNAポリメラーゼの場合、分子実体は、典型的にはタンパク質または複数のタンパク質の集合体もしくは複合体である。典型的には、DNAポリメラーゼは、典型的にはDNA分子である鋳型核酸に基づいてDNA分子を合成する。典型的には、RNAポリメラーゼは、DNA分子である(その場合、RNAポリメラーゼはDNA依存性RNAポリメラーゼ、DdRPである)か、またはRNA分子である(その場合、RNAポリメラーゼはRNA依存性RNAポリメラーゼ、RdRPである)、鋳型核酸に基づいてRNA分子を合成する。
【0146】
「RNA依存RNAポリメラーゼ」または「RdRP」は、RNA鋳型からのRNAの転写を触媒する酵素である。アルファウイルスRNA依存性RNAポリメラーゼの場合、ゲノムRNAの(-)鎖相補体と(+)鎖のゲノムRNAの連続合成によってRNA複製がもたらされる。したがって、アルファウイルスRNA依存性RNAポリメラーゼは、同義的に「RNAレプリカーゼ」と称される。自然界では、RNA依存性RNAポリメラーゼは、典型的にはレトロウイルスを除くすべてのRNAウイルスによってコードされている。RNA依存性RNAポリメラーゼをコードするウイルスの典型的な代表例はアルファウイルスである。
【0147】
本発明によれば、「RNA複製」は、一般に、所与のRNA分子(鋳型RNA分子)のヌクレオチド配列に基づいて合成されたRNA分子を指す。合成されるRNA分子は、例えば鋳型RNA分子と同一または相補的であり得る。一般に、RNA複製は、DNA中間体の合成を介して起こり得るか、またはRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)によって媒介されるRNA依存性RNA複製によって直接起こり得る。アルファウイルスの場合、RNA複製はDNA中間体を介して起こるのではなく、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)によって媒介される:鋳型RNA鎖(第1のRNA鎖)-またはその一部-が、第1のRNA鎖またはその一部に相補的な第2のRNA鎖を合成するための鋳型として働く。第2のRNA鎖-またはその一部-は、今度は、場合により第2のRNA鎖またはその一部に相補的な第3のRNA鎖を合成するための鋳型として働く。それにより、第3のRNA鎖は、第1のRNA鎖またはその一部と同一である。したがって、RNA依存性RNAポリメラーゼは、鋳型の相補的RNA鎖を直接合成することができ、(相補的中間体鎖を介して)同一のRNA鎖を間接的に合成することができる。
【0148】
本発明によれば、「鋳型RNA」という用語は、RNA依存性RNAポリメラーゼによって転写または複製され得るRNAを指す。
【0149】
本発明によれば、「遺伝子」という用語は、1つ以上の細胞産物の産生および/または1つ以上の細胞間もしくは細胞内機能の達成に関与する特定の核酸配列を指す。より具体的には、前記用語は、特定のタンパク質または機能的もしくは構造的RNA分子をコードする核酸を含む核酸セクション(典型的にはDNA;ただしRNAウイルスの場合はRNA)に関する。
【0150】
本明細書で使用される「単離された分子」は、他の細胞物質などの他の分子を実質的に含まない分子を指すことが意図されている。「単離された核酸」という用語は、本発明によれば、核酸が、(i)例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によってインビトロで増幅された、(ii)クローニングによって組換え生産された、(iii)例えば切断およびゲル電気泳動分画によって精製された、または(iv)例えば化学合成によって合成されたことを意味する。単離された核酸は、組換え技術による操作に利用可能な核酸である。
【0151】
「ベクター」という用語は、本明細書ではその最も一般的な意味で使用され、例えば核酸を原核生物および/または真核生物宿主細胞に導入し、適切な場合にはゲノムに組み込むことを可能にする、前記核酸のための任意の中間ビヒクルを含む。そのようなベクターは、好ましくは細胞内で複製および/または発現される。ベクターは、プラスミド、ファージミド、ウイルスゲノム、およびそれらの画分を含む。
【0152】
本発明の文脈における「組換え」という用語は、「遺伝子操作を介して作製された」ことを意味する。好ましくは、本発明の文脈における組換え細胞などの「組換え物体」は、天然には存在しない。
【0153】
本明細書で使用される「天然に存在する」という用語は、物体が自然界で見出され得るという事実を指す。例えば、生物(ウイルスを含む)中に存在し、自然界の供給源から単離することができ、実験室で人によって意図的に改変されていないペプチドまたは核酸は、天然に存在する。「自然界で見出される」という用語は、「自然界に存在する」ことを意味し、公知の物体ならびに自然からまだ発見および/または単離されていないが、天然源から将来発見および/または単離される可能性がある物体を含む。
【0154】
本発明によれば、「発現」という用語は、その最も一般的な意味で使用され、RNAの産生、またはRNAおよびタンパク質の産生を含む。また、核酸の部分的発現も含む。さらに、発現は一過性または安定であり得る。RNAに関して、「発現」または「翻訳」という用語は、コードRNA(例えばメッセンジャーRNA)の鎖が、ペプチドまたはタンパク質を生成するようにアミノ酸の配列の集合体に指令する、細胞のリボソームにおける過程に関する。
【0155】
本発明によれば、「mRNA」という用語は「メッセンジャーRNA」を意味し、典型的にはDNA鋳型を使用することによって生成され、ペプチドまたはタンパク質をコードする転写物に関する。典型的には、mRNAは、5'-UTR、タンパク質コード領域、3'-UTR、およびポリ(A)配列を含む。mRNAは、DNA鋳型からのインビトロ転写によって生成され得る。インビトロ転写の方法は当業者に公知である。例えば、様々なインビトロ転写キットが市販されている。本発明によれば、mRNAは、安定化修飾およびキャッピングによって改変し得る。
【0156】
本発明によれば、「ポリ(A)配列」または「ポリ(A)尾部」という用語は、典型的にはRNA分子の3'末端に位置するアデニル酸残基の連続的または断続的な配列を指す。連続的な配列は、連続するアデニル酸残基を特徴とする。自然界では、連続的なポリ(A)配列が典型的である。ポリ(A)配列は通常真核生物のDNAにはコードされていないが、細胞核での真核生物の転写中に、転写後の鋳型非依存性RNAポリメラーゼによってRNAの遊離3'末端に結合し、本発明はDNAによってコードされるポリ(A)配列を包括する。
【0157】
本発明によれば、核酸分子に関して「一次構造」という用語は、ヌクレオチドモノマーの直鎖状配列を指す。
【0158】
本発明によれば、核酸分子に関して「二次構造」という用語は、塩基対合、例えば一本鎖RNA分子の場合、特に分子内塩基対合を反映する核酸分子の二次元表示を指す。各RNA分子は単一のポリヌクレオチド鎖のみを有するが、分子は、典型的には(分子内)塩基対の領域を特徴とする。本発明によれば、「二次構造」という用語は、塩基対、ステム、ステムループ、バルジ、内部ループおよび多分岐ループなどのループを含むがこれらに限定されない構造モチーフを含む。核酸分子の二次構造は、塩基対合を示す二次元図面(平面グラフ)によって表すことができる(RNA分子の二次構造の詳細については、Auber et al.,J.Graph Algorithms Appl.,2006,vol.10,pp.329-351参照)。本明細書に記載されるように、特定のRNA分子の二次構造は本発明の文脈に関連する。
【0159】
本発明によれば、核酸分子、特に一本鎖RNA分子の二次構造は、RNA二次構造予測のためのウェブサーバ(http://rna.urmc.rochester.edu/RNAstructureWeb/Servers/Predict1/Predict1.html)を使用した予測によって決定される。
【0160】
好ましくは、本発明によれば、核酸分子に関して「二次構造」は、具体的には前記予測によって決定された二次構造を指す。予測は、MFOLD構造予測(http://unafold.rna.albany.edu/?q=mfold)を使用して実行または確認してもよい。
【0161】
本発明によれば、「塩基対」は、2つのヌクレオチド塩基が塩基上のドナー部位とアクセプタ部位との水素結合を介して互いに会合する二次構造の構造モチーフである。相補的な塩基であるA:UおよびG:Cは、塩基上のドナー部位とアクセプタ部位との水素結合を介して安定な塩基対を形成する;A:UおよびG:C塩基対はワトソン-クリック塩基対と呼ばれる。より弱い塩基対(ウォブル塩基対と呼ばれる)は、塩基GとU(G:U)によって形成される。塩基対A:UおよびG:Cは、正準塩基対と呼ばれる。G:U(RNAではかなり頻繁に生じる)および他のまれな塩基対(例えばA:C;U:U)のような他の塩基対は、非正準塩基対と呼ばれる。
【0162】
本発明によれば、「ヌクレオチド対合」とは、2つのヌクレオチドの塩基が塩基対(正準または非正準塩基対、好ましくは正準塩基対、最も好ましくはワトソン-クリック塩基対)を形成するように互いに会合する、2つのヌクレオチドを指す。
【0163】
本発明によれば、核酸分子に関して「ステムループ」または「ヘアピン」または「ヘアピンループ」という用語は、すべて互換的に、核酸分子、典型的には一本鎖RNAなどの一本鎖核酸分子の特定の二次構造を指す。ステムループで表される特定の二次構造は、ステムおよびヘアピンループとも呼ばれる(末端)ループを含む連続する核酸配列からなり、ステムは、ステム-ループ構造のループを形成する短い配列(例えば3~10ヌクレオチド)によって分離された2つの隣接する完全にまたは部分的に相補的な配列エレメントによって形成される。2つの隣接する完全にまたは部分的に相補的な配列は、例えばステムループエレメント、ステム1およびステム2として定義され得る。ステムループは、これらの2つの隣接する完全にまたは部分的に逆相補的な配列、例えばステムループエレメント、ステム1とステム2が互いに塩基対を形成する場合に形成され、ステムループエレメント、ステム1とステム2の間に位置する短い配列によって形成されるその末端に不対ループを含む二本鎖核酸配列をもたらす。したがって、ステムループは2つのステム(ステム1およびステム2)を含み、これらは-核酸分子の二次構造のレベルでは-互いに塩基対を形成し、および-核酸分子の一次構造のレベルでは-ステム1またはステム2の一部ではない短い配列によって分離されている。説明すると、ステムループの二次元表示はロリポップ形構造に類似する。ステムループ構造の形成には、それ自体が折りたたまれて対合した二本鎖を形成することができる配列の存在が必要である;対合した二本鎖はステム1とステム2によって形成される。対合したステムループエレメントの安定性は、典型的には、長さ、ステム2のヌクレオチドと塩基対(好ましくは正準塩基対、より好ましくはワトソン-クリック塩基対)を形成することができるステム1のヌクレオチドの数と、ステム2のヌクレオチドとそのような塩基対を形成することができない(ミスマッチまたはバルジ)ステム1のヌクレオチドの数とによって決定される。本発明によれば、最適なループ長は3~10ヌクレオチド、より好ましくは4~7ヌクレオチド、例えば4ヌクレオチド、5ヌクレオチド、6ヌクレオチドまたは7ヌクレオチドである。所与の核酸配列がステムループを特徴とする場合、それぞれの相補的な核酸配列も、典型的にはステムループを特徴とする。ステムループは、典型的には一本鎖RNA分子によって形成される。例えば、アルファウイルスゲノムRNAの5'複製認識配列には、いくつかのステムループが存在する(
図6に示されている)。
【0164】
本発明によれば、核酸分子の特定の二次構造(例えばステムループ)に関して「破壊」または「破壊する」とは、特定の二次構造が存在しないかまたは改変されていることを意味する。典型的には、二次構造は、二次構造の一部である少なくとも1つのヌクレオチドの変化の結果として破壊され得る。例えば、ステムループは、ステムを形成する1つ以上のヌクレオチドの変化によって破壊され得るため、ヌクレオチドの対合は不可能である。
【0165】
本発明によれば、「二次構造破壊を補償する」または「二次構造破壊の補償」とは、核酸配列の1つ以上のヌクレオチド変化を指す;より典型的には、以下を特徴とする、1つ以上の第1のヌクレオチド変化も含む核酸配列における1つ以上の第2のヌクレオチド変化を指す:1つ以上の第1のヌクレオチド変化は、1つ以上の第2のヌクレオチド変化が存在しない場合、核酸配列の二次構造の破壊を引き起こすが、1つ以上の第1のヌクレオチド変化と1つ以上の第2のヌクレオチド変化の共起は、核酸の二次構造の破壊を引き起こさない。共起とは、1つ以上の第1のヌクレオチド変化と1つ以上の第2のヌクレオチド変化の両方の存在を意味する。典型的には、1つ以上の第1のヌクレオチド変化と1つ以上の第2のヌクレオチド変化は、同じ核酸分子内に一緒に存在する。特定の実施形態では、二次構造破壊を補償する1つ以上のヌクレオチド変化は、1つ以上のヌクレオチド対合破壊を補償する1つ以上のヌクレオチド変化である。したがって、一実施形態では、「二次構造破壊の補償」とは、「ヌクレオチド対合破壊の補償」、すなわち1つ以上のヌクレオチド対合破壊、例えば1つ以上のステムループ内の1つ以上のヌクレオチド対合破壊の補償を意味する。1つ以上1つ以上のヌクレオチド対合破壊は、少なくとも1つの開始コドンの除去によって導入された可能性がある。二次構造破壊を補償する1つ以上のヌクレオチド変化の各々は、1つ以上のヌクレオチドの欠失、付加、置換および/または挿入からそれぞれ独立して選択され得るヌクレオチド変化である。説明のための例では、ヌクレオチド対合A:UがAからCへの置換によって破壊された場合(CおよびUは、典型的にはヌクレオチド対を形成するのに適さない)、ヌクレオチド対合破壊を補償するヌクレオチド変化は、GによるUの置換であり得、それによってC:Gヌクレオチド対合の形成が可能になる。したがって、GによるUの置換は、ヌクレオチド対合破壊を補償する。代替的な例では、ヌクレオチド対合A:UがAからCへの置換によって破壊された場合、ヌクレオチド対合破壊を補償するヌクレオチド変化は、AによるCの置換であり得、それによって元のA:Uヌクレオチド対合の形成が回復する。一般に、本発明では、元の核酸配列を回復せず、新規のAUGトリプレットも生成しない、二次構造破壊を補償するヌクレオチド変化が好ましい。上記の一連の例では、UからGへの置換がCからAへの置換よりも好ましい。
【0166】
本発明によれば、核酸分子に関して「三次構造」という用語は、原子座標によって定義される核酸分子の三次元構造を指す。
【0167】
本発明によれば、RNA、例えばmRNAなどの核酸は、ペプチドまたはタンパク質をコードし得る。したがって、転写可能な核酸配列またはその転写物は、ペプチドまたはタンパク質をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)を含み得る。
【0168】
本発明によれば、「ペプチドまたはタンパク質をコードする核酸」という用語は、核酸が、適切な環境、好ましくは細胞内に存在する場合、翻訳過程中にペプチドまたはタンパク質を産生するようにアミノ酸の集合体に指令できることを意味する。好ましくは、本発明によるコードRNAは、コードRNAの翻訳を可能にする細胞翻訳機構と相互作用して、ペプチドまたはタンパク質を生成することができる。
【0169】
本発明によれば、「ペプチド」という用語は、オリゴペプチドおよびポリペプチドを含み、ペプチド結合を介して互いに連結された2個以上、好ましくは3個以上、好ましくは4個以上、好ましくは6個以上、好ましくは8個以上、好ましくは10個以上、好ましくは13個以上、好ましくは16個以上、好ましくは20個以上、および最大で好ましくは50個、好ましくは100個または好ましくは150個までの連続するアミノ酸を含む物質を指す。「タンパク質」という用語は、大きなペプチド、好ましくは少なくとも151個のアミノ酸を有するペプチドを指すが、「ペプチド」および「タンパク質」という用語は、本明細書では通常同義語として使用される。
【0170】
「ペプチド」および「タンパク質」という用語は、本発明によれば、アミノ酸成分だけでなく、糖およびリン酸構造体などの非アミノ酸成分も含む物質を含み、エステル、チオエーテルまたはジスルフィド結合などの結合を含む物質も含む。
【0171】
本発明によれば、「開始コドン」および「出発コドン」という用語は、同義的に、リボソームによって翻訳される最初のコドンである可能性のあるRNA分子のコドン(塩基トリプレット)を指す。そのようなコドンは、典型的には真核生物のアミノ酸メチオニンおよび原核生物の修飾メチオニンをコードする。真核生物および原核生物における最も一般的な開始コドンはAUGである。本明細書でAUG以外の開始コドンを意味すると特に明記されない限り、RNA分子に関して「開始コドン」および「出発コドン」という用語は、コドンAUGを指す。本発明によれば、「開始コドン」および「出発コドン」という用語はまた、デオキシリボ核酸の対応する塩基トリプレット、すなわちRNAの開始コドンをコードする塩基トリプレットを指すためにも使用される。メッセンジャーRNAの開始コドンがAUGである場合、AUGをコードする塩基トリプレットはATGである。本発明によれば、「開始コドン」および「出発コドン」という用語は、好ましくは機能的な開始コドンまたは出発コドン、すなわち翻訳を開始するためにリボソームによってコドンとして使用されるまたは使用されることになる開始コドンまたは出発コドンを指す。RNA分子には、例えばコドンからキャップまでの距離が短いために、翻訳を開始するためにリボソームによってコドンとして使用されないAUGコドンが存在し得る。これらのコドンは、機能的な開始コドンまたは出発コドンという用語には包含されない。
【0172】
本発明によれば、「オープンリーディングフレームの出発コドン」または「オープンリーディングフレームの開始コドン」という用語は、コード配列、例えば自然界で見出される核酸分子のコード配列におけるタンパク質合成の開始コドンとして働く塩基トリプレットを指す。RNA分子では、オープンリーディングフレームの開始コドンの前に5'非翻訳領域(5'-UTR)がしばしば存在するが、これは厳密には必要ではない。
【0173】
本発明によれば、「オープンリーディングフレームの天然の出発コドン」または「オープンリーディングフレームの天然の開始コドン」という用語は、天然のコード配列におけるタンパク質合成の開始コドンとして働く塩基トリプレットを指す。天然のコード配列は、例えば自然界で見出される核酸分子のコード配列であり得る。いくつかの実施形態では、本発明は、自然界で見出される核酸分子の変異体を提供し、これは、天然の開始コドン(天然のコード配列中に存在する)が除去されている(そのため変異体核酸分子には存在しない)ことを特徴とする。
【0174】
本発明によれば、「最初のAUG」は、メッセンジャーRNA分子の最も上流のAUG塩基トリプレット、好ましくは翻訳を開始するためにリボソームによってコドンとして使用されるまたは使用されることになるメッセンジャーRNA分子の最も上流のAUG塩基トリプレットを意味する。したがって、「最初のATG」とは、最初のAUGをコードするコードDNA配列のATG塩基トリプレットを指す。いくつかの場合には、mRNA分子の最初のAUGは、オープンリーディングフレームの開始コドン、すなわちリボソームタンパク質合成中に開始コドンとして使用されるコドンである。
【0175】
本発明によれば、核酸変異体の特定のエレメントに関して「除去を含む」または「除去を特徴とする」という用語および同様の用語は、参照核酸分子と比較して、前記特定のエレメントが核酸変異体において機能しないかまたは存在しないことを意味する。限定されることなく、除去は、特定のエレメントのすべてもしくは一部の欠失、特定のエレメントのすべてもしくは一部の置換、または特定のエレメントの機能的もしくは構造的特性の改変で構成され得る。核酸配列の機能的エレメントの除去は、機能が、除去を含む核酸変異体の位置で示されないことを必要とする。例えば、特定の開始コドンの除去を特徴とするRNA変異体は、リボソームタンパク質合成が除去を特徴とするRNA変異体の位置で開始されないことを必要とする。核酸配列の構造エレメントの除去は、構造エレメントが除去を含む核酸変異体の位置に存在しないことを必要とする。例えば、特定のAUG塩基トリプレット、すなわち特定の位置のAUG塩基トリプレットの除去を特徴とするRNA変異体は、例えば、特定のAUG塩基トリプレット(例えばΔAUG)の一部もしくはすべての欠失、または特定のAUG塩基トリプレットの1つ以上のヌクレオチド(A、U、G)の、1つ以上の異なるヌクレオチドによる置換を特徴とし得るため、生じる変異体のヌクレオチド配列は前記AUG塩基トリプレットを含まない。1個のヌクレオチドの適切な置換は、AUG塩基トリプレットをGUG、CUGもしくはUUG塩基トリプレットに、またはAAG、ACGもしくはAGG塩基トリプレットに、またはAUA、AUCもしくはAUU塩基トリプレットに変換するものである。より多くのヌクレオチドの適切な置換を、それに応じて選択することができる。
【0176】
本発明によれば、「アルファウイルス」という用語は広く理解されるべきであり、アルファウイルスの特徴を有する任意のウイルス粒子を含む。アルファウイルスの特徴には、RNAポリメラーゼ活性を含む、宿主細胞での複製に適した遺伝情報をコードする(+)鎖RNAの存在が含まれる。多くのアルファウイルスのさらなる特徴は、例えばStraus&Strauss,Microbiol.Rev.,1994,vol.58,pp.491-562に記載されている。「アルファウイルス」という用語は、自然界で見出されるアルファウイルス、およびそのあらゆる変異体または誘導体を含む。いくつかの実施形態では、変異体または誘導体は自然界では見出されない。
【0177】
一実施形態では、アルファウイルスは、自然界で見出されるアルファウイルスである。典型的には、自然界で見出されるアルファウイルスは、動物(ヒトなどの脊椎動物、および昆虫などの節足動物を含む)などの1つ以上の真核生物に対して感染性である。
【0178】
自然界で見出されるアルファウイルスは、好ましくは以下からなる群より選択される:バーマフォレストウイルス複合体(バーマフォレストウイルスを含む);東部ウマ脳炎複合体(7つの抗原型の東部ウマ脳炎ウイルスを含む);ミデルブルグウイルス複合体(ミデルブルグウイルスを含む);ヌドゥムウイルス複合体(ヌドゥムウイルスを含む);セムリキ森林ウイルス複合体(ベバルウイルス、チクングニアウイルス、マヤロウイルスおよびそのサブタイプであるウナウイルス、オニョンニョンウイルスおよびそのサブタイプであるイグボオラウイルス、ロスリバーウイルスおよびそのサブタイプであるベバルウイルス、ゲタウイルス、サギヤマウイルス、セムリキ森林ウイルスおよびそのサブタイプであるメトリウイルスを含む);ベネズエラウマ脳炎複合体(カバソウウイルス、エバーグレーズウイルス、モッソダスペドラスウイルス、ムカンボウイルス、パラマナウイルス、ピクスナウイルス、リオネグロウイルス、トロカラウイルスおよびそのサブタイプであるビジューブリッジウイルス、ベネズエラウマ脳炎ウイルスを含む);西部ウマ脳炎複合体(アウラウイルス、ババンキーウイルス、キジラガッチェウイルス、シンドビスウイルス、オケルボウイルス、ワタロアウイルス、バギークリークウイルス、フォートモーガンウイルス、ハイランドJウイルス、西部ウマ脳炎ウイルスを含む);ならびにサケ膵臓病ウイルスを含むいくつかの未分類ウイルス;睡眠病ウイルス;ミナミゾウアザラシウイルス、トナテウイルス。より好ましくは、アルファウイルスは、セムリキ森林ウイルス複合体(セムリキ森林ウイルスを含む、上記に示したようなウイルス型を含む)、西部ウマ脳炎複合体(シンドビスウイルスを含む、上記に示したようなウイルス型を含む)、東部ウマ脳炎ウイルス(上記に示したようなウイルス型を含む)、ベネズエラウマ脳炎複合体(ベネズエラウマ脳炎ウイルスを含む、上記に示したようなウイルス型を含む)からなる群より選択される。
【0179】
さらなる好ましい実施形態では、アルファウイルスはセムリキ森林ウイルスである。代替的なさらなる好ましい実施形態では、アルファウイルスはシンドビスウイルスである。代替的なさらなる好ましい実施形態では、アルファウイルスはベネズエラウマ脳炎ウイルスである。
【0180】
本発明のいくつかの実施形態では、アルファウイルスは、自然界で見出されるアルファウイルスではない。典型的には、自然界では見出されないアルファウイルスは、ヌクレオチド配列、すなわちゲノムRNAの少なくとも1つの変異によって自然界で見出されるアルファウイルスとは区別される、自然界で見出されるアルファウイルスの変異体または誘導体である。ヌクレオチド配列の変異は、自然界で見出されるアルファウイルスと比較して、1つ以上のヌクレオチドの挿入、置換または欠失から選択され得る。ヌクレオチド配列の変異は、ヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチドまたはタンパク質における変異と関連していてもよく、または関連していなくてもよい。例えば、自然界では見出されないアルファウイルスは、弱毒化アルファウイルスであり得る。自界では見出されない弱毒化アルファウイルスは、典型的にはそのヌクレオチド配列中に少なくとも1つの変異を有し、この変異によって自然界で見出されるアルファウイルスとは区別され、および全く感染性ではないか、または感染性ではあるが疾患を引き起こす能力がより低いもしくは疾患を引き起こす能力を全く有さないアルファウイルスである。説明のための例として、TC83は、自然界で見出されるベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEEV)とは区別される弱毒化アルファウイルスである(McKinney et al.,1963,Am.J.Trop.Med.Hyg.,1963,vol.12;pp.597-603)。
【0181】
アルファウイルス属のメンバーはまた、ヒトにおけるそれらの相対的な臨床的特徴に基づいて、すなわち主に脳炎に関連するアルファウイルスと、主に発熱、発疹、および多発性関節炎に関連するアルファウイルスとに分類され得る。
【0182】
「アルファウイルス性」という用語は、アルファウイルスにおいて見出される、またはアルファウイルスを起源とする、または、例えば遺伝子工学によってアルファウイルスから誘導されることを意味する。
【0183】
本発明によれば、「SFV」はセムリキ森林ウイルスを表す。本発明によれば、「SIN」または「SINV」はシンドビスウイルスを表す。本発明によれば、「VEE」または「VEEV」はベネズエラウマ脳炎ウイルスを表す。
【0184】
本発明によれば、「アルファウイルスの」という用語は、アルファウイルスを起源とする実体を指す。説明すると、アルファウイルスのタンパク質は、アルファウイルスに見出されるタンパク質および/またはアルファウイルスによってコードされるタンパク質を指し得、アルファウイルスの核酸配列は、アルファウイルスに見出される核酸配列および/またはアルファウイルスによってコードされる核酸配列を指し得る。好ましくは、「アルファウイルスの」核酸配列は、「アルファウイルスのゲノムの」および/または「アルファウイルスのゲノムRNAの」核酸配列を指す。
【0185】
本発明によれば、「アルファウイルスRNA」という用語は、アルファウイルスゲノムRNA(すなわち(+)鎖)、アルファウイルスゲノムRNAの相補体(すなわち(-)鎖)、およびサブゲノム転写物(すなわち(+)鎖)、またはそのいずれかの断片のうちの任意の1つ以上を指す。
【0186】
本発明によれば、「アルファウイルスゲノム」は、アルファウイルスのゲノム(+)鎖RNAを指す。
【0187】
本発明によれば、「天然のアルファウイルス配列」という用語および同様の用語は、典型的には、天然に存在するアルファウイルス(自然界で見出されるアルファウイルス)の(例えば核酸)配列を指す。いくつかの実施形態では、「天然のアルファウイルス配列」という用語には、弱毒化アルファウイルスの配列も含まれる。
【0188】
本発明によれば、「5'複製認識配列」という用語は、好ましくはアルファウイルスゲノムの5'断片と同一または相同である連続する核酸配列、好ましくはリボ核酸配列を指す。「5'複製認識配列」は、アルファウイルスのレプリカーゼによって認識され得る核酸配列である。5'複製認識配列という用語には、天然の5'複製認識配列およびその機能的等価物、例えば自然界で見出されるアルファウイルスの5'複製認識配列の機能的変異体が含まれる。本発明によれば、機能的等価物には、本明細書に記載の少なくとも1つの開始コドンの除去を特徴とする5'複製認識配列の誘導体が含まれる。5'複製認識配列は、アルファウイルスゲノムRNAの(-)鎖相補体の合成に必要であり、(-)鎖鋳型に基づく(+)鎖ウイルスゲノムRNAの合成に必要である。天然の5'複製認識配列は、典型的には少なくともnsP1のN末端断片をコードするが、nsP1234をコードするオープンリーディングフレーム全体は含まない。天然の5'複製認識配列が、典型的には少なくともnsP1のN末端断片をコードするという事実を考慮すると、天然の5'複製認識配列は、典型的には少なくとも1つの開始コドン、典型的にはAUGを含む。一実施形態では、5'複製認識配列は、アルファウイルスゲノムの保存された配列エレメント1(CSE 1)またはその変異体およびアルファウイルスゲノムの保存された配列エレメント2(CSE 2)またはその変異体を含む。5'複製認識配列は、典型的には4つのステムループ(SL)、すなわちSL1、SL2、SL3、SL4を形成することができる。これらのステムループの番号付けは、5'複製認識配列の5'末端から始まる。
【0189】
本発明によれば、「アルファウイルスの5'末端に」という用語は、アルファウイルスのゲノムの5'末端を指す。アルファウイルスの5'末端の核酸配列は、アルファウイルスのゲノムRNAの5'末端に位置するヌクレオチドに加えて、場合によりさらなるヌクレオチドの連続する配列を含む。一実施形態では、アルファウイルスの5'末端の核酸配列は、アルファウイルスゲノムの5'複製認識配列と同一である。
【0190】
「保存された配列エレメント」または「CSE」という用語は、アルファウイルスRNAに見出されるヌクレオチド配列を指す。これらの配列エレメントは、オルソログが異なるアルファウイルスのゲノムに存在し、異なるアルファウイルスのオルソログCSEが、好ましくは高い割合の配列同一性および/または類似の二次もしくは三次構造を共有するため、「保存された」と称される。CSEという用語には、CSE 1、CSE 2、CSE 3およびCSE 4が含まれる。
【0191】
本発明によれば、「CSE 1」または「44-nt CSE」という用語は、同義的に、(-)鎖鋳型からの(+)鎖合成に必要なヌクレオチド配列を指す。「CSE 1」という用語は、(+)鎖上の配列を指し、((-)鎖上の)CSE 1の相補的配列は(+)鎖合成のプロモータとして機能する。好ましくは、CSE 1という用語は、アルファウイルスゲノムの最も5'側のヌクレオチドを含む。CSE 1は、典型的には保存されたステムループ構造を形成する。特定の理論に拘束されることを望むものではないが、CSE 1の場合、二次構造は、一次構造、すなわち直鎖状配列よりも重要であると考えられている。モデルアルファウイルスであるシンドビスウイルスのゲノムRNAでは、CSE 1は、ゲノムRNAの最も5'側の44個のヌクレオチドによって形成される、44個のヌクレオチドの連続する配列からなる(Strauss&Strauss,Microbiol.Rev.,1994,vol.58,pp.491-562)。
【0192】
本発明によれば、「CSE 2」または「51-nt CSE」という用語は、同義的に、(+)鎖鋳型からの(-)鎖合成に必要なヌクレオチド配列を指す。(+)鎖鋳型は、典型的にはアルファウイルスゲノムRNAまたはRNAレプリコンである(CSE 2を含まないサブゲノムRNA転写物は(-)鎖合成のための鋳型として機能しないことに留意されたい)。アルファウイルスのゲノムRNAでは、CSE 2は、典型的にはnsP1のコード配列内に局在する。モデルアルファウイルスであるシンドビスウイルスのゲノムRNAでは、51-nt CSEはゲノムRNAのヌクレオチド位置155~205に位置する(Frolov et al.,2001,RNA,vol.7,pp.1638-1651)。CSE 2は、典型的には2つの保存されたステムループ構造を形成する。これらのステムループ構造は、アルファウイルスゲノムRNAの5'末端から数えて、それぞれアルファウイルスゲノムRNAの3番目と4番目の保存されたステムループであるため、ステムループ3(SL3)およびステムループ4(SL4)と呼称される。特定の理論に拘束されることを望むものではないが、CSE 2の場合、二次構造は、一次構造、すなわち直鎖状配列よりも重要であると考えられている。
【0193】
本発明によれば、「CSE 3」または「接合配列」という用語は、同義的に、アルファウイルスゲノムRNAに由来し、サブゲノムRNAの開始部位を含むヌクレオチド配列を指す。(-)鎖におけるこの配列の相補体は、サブゲノムRNA転写を促進するように作用する。アルファウイルスゲノムRNAでは、CSE 3は、典型的にはnsP4のC末端断片をコードする領域と重複し、構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームの上流に位置する短い非コード領域にまで及ぶ。
【0194】
本発明によれば、「CSE 4」または「19-ntの保存された配列」または「19-nt CSE」という用語は、同義的に、アルファウイルスゲノムの3'非翻訳領域のポリ(A)配列のすぐ上流の、アルファウイルスゲノムRNAからのヌクレオチド配列を指す。CSE 4は、典型的には19個の連続するヌクレオチドからなる。特定の理論に拘束されることを望むものではないが、CSE 4は、(-)鎖合成の開始のためのコアプロモータとして機能すると理解されており(Jose et al.,Future Microbiol.,2009,vol.4,pp.837-856)、および/またはアルファウイルスゲノムRNAのCSE 4およびポリ(A)尾部は、効率的な(-)鎖合成のために一緒に機能すると理解されている(Hardy&Rice,J.Virol.,2005,vol.79,pp.4630-4639)。
【0195】
本発明によれば、「サブゲノムプロモータ」または「SGP」という用語は、核酸配列(例えばコード配列)の上流(5'側)の核酸配列であって、RNAポリメラーゼ、典型的にはRNA依存性RNAポリメラーゼ、特に機能性アルファウイルス非構造タンパク質の認識および結合部位を提供することによって前記核酸配列の転写を制御する核酸配列を指す。SGPは、さらなる因子のためのさらなる認識または結合部位を含み得る。サブゲノムプロモータは、典型的にはアルファウイルスなどのプラス鎖RNAウイルスの遺伝要素である。アルファウイルスのサブゲノムプロモータは、ウイルスゲノムRNAに含まれる核酸配列である。サブゲノムプロモータは、一般に、RNA依存性RNAポリメラーゼ、例えば機能性アルファウイルス非構造タンパク質の存在下で転写の開始(RNA合成)を可能にすることを特徴とする。RNA(-)鎖、すなわちアルファウイルスゲノムRNAの相補体は、(+)鎖サブゲノム転写物の合成のための鋳型として働き、(+)鎖サブゲノム転写物の合成は、典型的にはサブゲノムプロモータにおいてまたはその近くで開始される。本明細書で使用される「サブゲノムプロモータ」という用語は、そのようなサブゲノムプロモータを含む核酸内の特定の局在化に限定されない。一部の実施形態では、SGPは、CSE 3と同一であるか、CSE 3と重複するか、またはCSE 3を含む。
【0196】
「サブゲノム転写物」または「サブゲノムRNA」という用語は、同義的に、RNA分子を鋳型(「鋳型RNA」)として使用した転写の結果として得られるRNA分子を指し、鋳型RNAは、サブゲノム転写物の転写を制御するサブゲノムプロモータを含む。サブゲノム転写物は、RNA依存性RNAポリメラーゼ、特に機能性アルファウイルス非構造タンパク質の存在下で得られる。例えば、「サブゲノム転写物」という用語は、アルファウイルスゲノムRNAの(-)鎖相補体を鋳型として使用して、アルファウイルスに感染した細胞で調製されるRNA転写物を指し得る。しかし、本明細書で使用される「サブゲノム転写物」という用語はそれに限定されず、異種RNAを鋳型として使用することによって得られる転写物も含む。例えば、サブゲノム転写物はまた、本発明によるSGP含有レプリコンの(-)鎖相補体を鋳型として使用することによっても入手され得る。したがって、「サブゲノム転写物」という用語は、アルファウイルスゲノムRNAの断片を転写することによって得られるRNA分子、ならびに本発明によるレプリコンの断片を転写することにより得られるRNA分子を指し得る。
【0197】
「自己」という用語は、同じ被験体に由来するものを表すために使用される。例えば、「自己細胞」とは、同じ被験体に由来する細胞を指す。自己細胞の被験体への導入は、これらの細胞が、さもなければ拒絶反応をもたらす免疫学的障壁を克服するため、有利である。
【0198】
「同種異系」という用語は、同じ種の異なる個体に由来するものを表すために使用される。1つ以上の遺伝子座の遺伝子が同一でない場合、2つ以上の個体は互いに同種異系であると言われる。
【0199】
「同系」という用語は、同一の遺伝子型を有する個体または組織、すなわち一卵性双生児もしくは同じ近交系の動物、またはそれらの組織もしくは細胞に由来するものを表すために使用される。
【0200】
「異種」という用語は、複数の異なる要素からなるものを表すために使用される。一例として、ある個体の細胞を異なる個体に導入することは、異種移植を構成する。異種遺伝子とは、被験体以外の供給源に由来する遺伝子である。
【0201】
以下は、本発明の個々の特徴の特定のおよび/または好ましい変形を提供する。本発明はまた、本発明の2つ以上の特徴について記載される特定のおよび/または好ましい変形の2つ以上を組み合わせることによって生成される実施形態を、特に好ましい実施形態として企図する。
【0202】
RNAレプリコン
レプリカーゼ、好ましくはアルファウイルスレプリカーゼによって複製されることができる核酸構築物は、レプリコンと称される。本発明によれば、「レプリコン」という用語は、RNA依存性RNAポリメラーゼによって複製され、DNA中間体なしで、RNAレプリコンの1つまたは複数の同一または本質的に同一のコピーを生成することができるRNA分子を定義する。「DNA中間体なしで」とは、RNAレプリコンのコピーを形成する過程で、デオキシリボ核酸(DNA)のコピーもしくはレプリコンの相補体が形成されないこと、および/またはRNAレプリコンのコピーもしくはその相補体を形成する過程でデオキシリボ核酸(DNA)分子が鋳型として使用されないことを意味する。レプリカーゼの機能は、典型的には機能性アルファウイルス非構造タンパク質によって提供される。
【0203】
本発明によれば、「複製することができる」および「複製可能である」という用語は一般に、核酸の1つ以上の同一または本質的に同一のコピーが調製できることを表す。「レプリカーゼ」という用語と共に使用される場合、例えば「レプリカーゼによって複製可能である」などにおいて、「複製することができる」および「複製可能である」という用語は、レプリカーゼに関する、核酸分子、例えばRNAレプリコンの機能的特徴を表す。これらの機能的特徴は、(i)レプリカーゼがレプリコンを認識できること、および(ii)レプリカーゼがRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)として作用できることの少なくとも1つを含む。好ましくは、レプリカーゼは、(i)レプリコンを認識すること、および(ii)RNA依存性RNAポリメラーゼとして作用することの両方が可能である。
【0204】
「認識できる」という表現は、レプリカーゼがレプリコンと物理的に結合できること、および好ましくは、レプリカーゼが、典型的には非共有結合的に、レプリコンに結合できることを表す。「結合」という用語は、レプリカーゼが保存された配列エレメント1(CSE 1)またはその相補的配列(レプリコンに含まれる場合)、保存された配列エレメント2(CSE 2)またはその相補的配列(レプリコンに含まれる場合)、保存された配列エレメント3(CSE 3)またはその相補的配列(レプリコンに含まれる場合)、保存された配列エレメント4(CSE 4)またはその相補的配列(レプリコンに含まれる場合)のいずれか1つ以上に結合する能力を有することを意味し得る。好ましくは、レプリカーゼは、CSE 2[すなわち(+)鎖]および/もしくはCSE 4[すなわち(+)鎖]に結合することができるか、またはCSE 1の相補体[すなわち(-)鎖]および/もしくはCSE 3の相補体[すなわち(-)鎖]に結合することができる。
【0205】
「RdRPとして作用できる」という表現は、レプリカーゼが、(+)鎖RNAが鋳型機能を有する場合、アルファウイルスゲノム(+)鎖RNAの(-)鎖相補体の合成を触媒できること、および/またはレプリカーゼが、(-)鎖RNAが鋳型機能を有する場合、(+)鎖アルファウイルスゲノムRNAの合成を触媒できることを意味する。一般に、「RdRPとして作用できる」という表現には、レプリカーゼが、(-)鎖RNAが鋳型機能を有し、および(+)鎖サブゲノム転写物の合成が、典型的にはアルファウイルスサブゲノムプロモータで開始される場合、(+)鎖サブゲノム転写物の合成を触媒できることも含まれ得る。
【0206】
「結合できる」および「RdRPとして作用できる」という表現は、通常の生理学的条件での能力を指す。特に、機能性アルファウイルス非構造タンパク質を発現するか、または機能性アルファウイルス非構造タンパク質をコードする核酸でトランスフェクトされた細胞内の状態を指す。細胞は、好ましくは真核細胞である。結合の能力および/またはRdRPとして作用する能力は、例えば無細胞インビトロ系または真核細胞において、実験的に試験することができる。場合により、前記真核細胞は、レプリカーゼの起源である特定のアルファウイルスが感染性である種に由来する細胞である。例えば、ヒトに対して感染性である特定のアルファウイルス由来のアルファウイルスレプリカーゼが使用される場合、通常の生理学的条件はヒト細胞における条件である。より好ましくは、真核細胞(一例ではヒト細胞)は、レプリカーゼの起源である特定のアルファウイルスが感染性である同じ組織または器官に由来する。
【0207】
本発明によれば、「天然のアルファウイルス配列と比較して」および同様の用語は、天然のアルファウイルス配列の変異体である配列を指す。変異体は、典型的にはそれ自体が天然のアルファウイルス配列ではない。
【0208】
本発明のRNAレプリコンは、5'複製認識配列を含む。5'複製認識配列は、機能性アルファウイルス非構造タンパク質によって認識され得る核酸配列である。言い換えれば、機能性アルファウイルス非構造タンパク質は、5'複製認識配列を認識することができる。
【0209】
一実施形態では、本発明のRNAレプリコンは5'複製認識配列を含み、5'複製認識配列は、天然のアルファウイルス5'複製認識配列と比較して少なくとも1つの開始コドンの除去を含むことを特徴とする。
【0210】
本発明による、天然のアルファウイルス5'複製認識配列と比較して少なくとも1つの開始コドンの除去を含むことを特徴とする5'複製認識配列は、本明細書では「修飾5'複製認識配列」または「本発明による5'複製認識配列」と称され得る。本明細書で以下に記載されるように、本発明による5'複製認識配列は、場合により1つ以上の追加のヌクレオチド変化の存在を特徴とし得る。
【0211】
一実施形態では、RNAレプリコンは3'複製認識配列を含む。3'複製認識配列は、機能性アルファウイルス非構造タンパク質によって認識され得る核酸配列である。言い換えれば、機能性アルファウイルス非構造タンパク質は、3'複製認識配列を認識することができる。好ましくは、3'複製認識配列は、レプリコンの3'末端(レプリコンがポリ(A)尾部を含まない場合)、またはポリ(A)尾部のすぐ上流(レプリコンがポリ(A)尾部を含む場合)に位置する。一実施形態では、3'複製認識配列は、CSE 4からなるかまたはCSE 4を含む。
【0212】
一実施形態では、5'複製認識配列および3'複製認識配列は、機能性アルファウイルス非構造タンパク質の存在下で本発明によるRNAレプリコンの複製を指令することができる。したがって、単独または好ましくは一緒に存在する場合、これらの認識配列は、機能性アルファウイルス非構造タンパク質の存在下でRNAレプリコンの複製を指令する。
【0213】
機能性アルファウイルス非構造タンパク質は、シス(レプリコンのオープンリーディングフレームによって目的のタンパク質としてコードされる)またはトランス(第2の態様に記載されるように別のレプリカーゼ構築物のオープンリーディングフレームによって目的のタンパク質としてコードされる)で提供されることが好ましく、これは、レプリコンの場合により修飾された5'複製認識配列と3'複製認識配列の両方を認識することができる。一実施形態では、これは、5'複製認識配列および3'複製認識配列が機能性アルファウイルス非構造タンパク質が由来するアルファウイルスに天然である場合、または3'複製認識配列が機能性アルファウイルス非構造タンパク質が由来するアルファウイルスに天然であり、および修飾5'複製認識配列が機能性アルファウイルス非構造タンパク質が由来するアルファウイルスに天然である5'複製認識配列の変異体である場合に達成される。天然とは、これらの配列の天然の起源が同じアルファウイルスであることを意味する。別の実施形態では、(修飾)5'複製認識配列および/または3'複製認識配列は、機能性アルファウイルス非構造タンパク質がレプリコンの(修飾)5'複製認識配列と3'複製認識配列の両方を認識できることを条件として、機能性アルファウイルス非構造タンパク質が由来するアルファウイルスに天然ではない。言い換えれば、機能性アルファウイルス非構造タンパク質は、(修飾)5'複製認識配列および3'複製認識配列に適合性である。非天然の機能性アルファウイルス非構造タンパク質がそれぞれの配列または配列エレメントを認識できる場合、機能性アルファウイルス非構造タンパク質は適合性であると言われる(交差ウイルス適合性)。機能性アルファウイルス非構造タンパク質と(3'/5')複製認識配列およびCSEとの任意の組合せは、それぞれ、交差ウイルス適合性が存在する限り可能である。交差ウイルス適合性は、RNA複製に適した条件で、例えば適切な宿主細胞で、試験する機能性アルファウイルス非構造タンパク質を、試験する3'および(場合により修飾された)5'複製認識配列を有するRNAと共にインキュベートすることにより、本発明に携わる当業者によって容易に試験することができる。複製が起こる場合、(3'/5')複製認識配列と機能性アルファウイルス非構造タンパク質は適合性であると決定される。
【0214】
少なくとも1つの開始コドンの除去はいくつかの利点を有する。nsP1*をコードする核酸配列に開始コドンが存在しないことは、典型的にはnsP1*(nsP1のN末端断片)が翻訳されないことを引き起こす。さらに、nsP1*は翻訳されないため、目的のタンパク質(「導入遺伝子」)をコードするオープンリーディングフレームは、リボソームがアクセスできる最も上流のオープンリーディングフレームである;したがって、レプリコンが細胞に存在する場合、翻訳は、目的の遺伝子をコードするオープンリーディングフレーム(RNA)の最初のAUGで開始される。これは、Spuul et al.(J.Virol.,2011,vol.85,pp.4739-4751)によって記載されているような先行技術のトランスレプリコンを超える利点を示す:Spuul et al.によるレプリコンは、74アミノ酸のペプチドであるnsP1のN末端部分の発現を指令する。また、特定の変異はRNAを複製できなくすることがあり(国際公開第2000/053780 A2号)、アルファウイルスの複製に重要な5'構造の一部の除去は複製の効率に影響を及ぼす(Kamrud et al.,2010,J.Gen.Virol.,vol.91,pp.1723-1727)ため、完全長ウイルスゲノムからのRNAレプリコンの構築が些細な問題ではないことも先行技術から公知である。
【0215】
従来のシスレプリコンを超える利点は、少なくとも1つの開始コドンの除去が、5'複製認識配列からアルファウイルス非構造タンパク質のコード領域を切り離すことである。これは、例えば天然の5'複製認識配列を人工配列、変異配列、または別のRNAウイルスから取得した異種配列に交換することによって、シスレプリコンのさらなる操作を可能にする。従来のシスレプリコンにおけるそのような配列操作は、nsP1のアミノ酸配列によって制限されている。任意の点突然変異、または点突然変異のクラスタは、複製が影響を受けるかどうか、およびタンパク質への有害な作用のためにフレームシフト突然変異につながる小さな挿入または欠失が不可能であるかどうかを実験的に評価する必要がある。
【0216】
本発明による少なくとも1つの開始コドンの除去は、当技術分野で公知の任意の適切な方法によって達成され得る。例えば、本発明によるレプリコンをコードする、すなわち開始コドンの除去を特徴とする適切なDNA分子をインシリコで設計し、その後インビトロで合成することができる(遺伝子合成);あるいは、レプリコンをコードするDNA配列の部位特異的突然変異誘発によって適切なDNA分子を入手し得る。いずれの場合も、それぞれのDNA分子はインビトロ転写のための鋳型として働くことができ、それによって本発明によるレプリコンを提供する。
【0217】
天然のアルファウイルス5'複製認識配列と比較した少なくとも1つの開始コドンの除去は、特に限定されず、1つ以上のヌクレオチドの置換(DNAレベルでの開始コドンのAおよび/またはTおよび/またはGの置換を含む)、1つ以上のヌクレオチドの欠失(DNAレベルでの開始コドンのAおよび/またはTおよび/またはGの欠失を含む)、ならびに1つ以上のヌクレオチドの挿入(DNAレベルでの開始コドンのAとTの間および/またはTとGの間の1つ以上のヌクレオチドの挿入を含む)を含む任意のヌクレオチド修飾から選択され得る。ヌクレオチド修飾が置換、挿入または欠失であるかどうかにかかわらず、ヌクレオチド修飾は新しい開始コドンの形成をもたらしてはならない(説明のための例として:DNAレベルでの挿入はATGの挿入であってはならない)。
【0218】
少なくとも1つの開始コドンの除去を特徴とするRNAレプリコンの5'複製認識配列(すなわち本発明による修飾5'複製認識配列)は、好ましくは自然界で見出されるアルファウイルスのゲノムの5'複製認識配列の変異体である。一実施形態では、本発明による修飾5'複製認識配列は、好ましくは、自然界で見出される少なくとも1つのアルファウイルスのゲノムの5'複製認識配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上の配列同一性の程度を特徴とする。
【0219】
一実施形態では、少なくとも1つの開始コドンの除去を特徴とするRNAレプリコンの5'複製認識配列は、アルファウイルスの5'末端、すなわちアルファウイルスゲノムの5'末端の約250個のヌクレオチドに相同な配列を含む。好ましい実施形態では、前記5'複製認識配列は、アルファウイルスの5'末端、すなわちアルファウイルスゲノムの5'末端の約250~500個、好ましくは約300~500個のヌクレオチドに相同な配列を含む。「アルファウイルスゲノムの5'末端」とは、アルファウイルスゲノムの最も上流のヌクレオチドから始まり、それを含む核酸配列を意味する。言い換えれば、アルファウイルスゲノムの最も上流のヌクレオチドはヌクレオチド番号1と呼称され、および例えば「アルファウイルスゲノムの5'末端の250個のヌクレオチド」とは、アルファウイルスゲノムのヌクレオチド1~250を意味する。一実施形態では、少なくとも1つの開始コドンの除去を特徴とするRNAレプリコンの5'複製認識配列は、自然界で見出される少なくとも1つのアルファウイルスのゲノムの5'末端の少なくとも250個のヌクレオチドと80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上の配列同一性の程度を特徴とする。少なくとも250個のヌクレオチドには、例えば250個のヌクレオチド、300個のヌクレオチド、400個のヌクレオチド、500個のヌクレオチドが含まれる。
【0220】
自然界で見出されるアルファウイルスの5'複製認識配列は、典型的には少なくとも1つの開始コドンおよび/または保存された二次構造モチーフを特徴とする。例えば、セムリキ森林ウイルス(SFV)の天然の5'複製認識配列は、5つの特定のAUG塩基トリプレットを含む。Frolov et al.(2001,RNA,vol.7,pp.1638-1651)によれば、MFOLDによる分析は、セムリキ森林ウイルスの天然の5'複製認識配列が、ステムループ1~4(SL1、SL2、SL3、SL4)と称される4つのステムループ(SL)を形成すると予測されることを明らかにした。Frolov et al.によれば、MFOLDによる分析は、異なるアルファウイルスであるシンドビスウイルスの天然の5'複製認識配列も、4つのステムループ:SL1、SL2、SL3、SL4を形成すると予測されることを明らかにした。
【0221】
アルファウイルスゲノムの5'末端には、機能性アルファウイルス非構造タンパク質によるアルファウイルスゲノムの複製を可能にする配列エレメントが含まれることは公知である。本発明の一実施形態では、RNAレプリコンの5'複製認識配列は、アルファウイルスの保存された配列エレメント1(CSE 1)に相同な配列および/または保存された配列エレメント2(CSE 2)に相同な配列を含む。
【0222】
アルファウイルスゲノムRNAの保存された配列エレメント2(CSE 2)は、典型的には、アルファウイルス非構造タンパク質nsP1の最初のアミノ酸残基をコードする天然の開始コドンを少なくとも含むSL2が先行するSL3およびSL4で表される。しかし、この説明において、いくつかの実施形態では、アルファウイルスゲノムRNAの保存された配列エレメント2(CSE 2)は、SL2からSL4にまたがり、アルファウイルス非構造タンパク質nsP1の最初のアミノ酸残基をコードする天然の開始コドンを含む領域を指す。好ましい実施形態では、RNAレプリコンは、CSE 2またはCSE 2に相同な配列を含む。一実施形態では、RNAレプリコンは、好ましくは、自然界で見出される少なくとも1つのアルファウイルスのCSE 2の配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上の配列同一性の程度を特徴とする、CSE 2に相同な配列を含む。
【0223】
好ましい実施形態では、5'複製認識配列は、アルファウイルスのCSE 2に相同な配列を含む。アルファウイルスのCSE 2は、アルファウイルス由来の非構造タンパク質のオープンリーディングフレームの断片を含み得る。
【0224】
したがって、好ましい実施形態では、RNAレプリコンは、アルファウイルス由来の非構造タンパク質のオープンリーディングフレームまたはその断片に相同な配列を含むことを特徴とする。非構造タンパク質のオープンリーディングフレームまたはその断片に相同な配列は、典型的には自然界で見出されるアルファウイルスの非構造タンパク質のオープンリーディングフレームまたはその断片の変異体である。一実施形態では、非構造タンパク質のオープンリーディングフレームまたはその断片に相同な配列は、好ましくは、自然界で見出される少なくとも1つのアルファウイルスの非構造タンパク質のオープンリーディングフレームまたはその断片と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上の配列同一性の程度を特徴とする。
【0225】
より好ましい実施形態では、本発明のレプリコンに含まれる非構造タンパク質のオープンリーディングフレームに相同な配列は、非構造タンパク質の天然の開始コドンを含まず、より好ましくは非構造タンパク質のいかなる開始コドンも含まない。好ましい実施形態では、CSE 2に相同な配列は、天然のアルファウイルスCSE 2配列と比較して、すべての開始コドンが除去されていることを特徴とする。したがって、CSE 2に相同な配列は、好ましくはいかなる開始コドンも含まない。
【0226】
オープンリーディングフレームに相同な配列がいかなる開始コドンも含まない場合、オープンリーディングフレームに相同な配列は、翻訳の鋳型として機能しないため、それ自体オープンリーディングフレームではない。
【0227】
一実施形態では、5'複製認識配列は、アルファウイルス由来の非構造タンパク質のオープンリーディングフレームまたはその断片に相同な配列を含み、アルファウイルス由来の非構造タンパク質のオープンリーディングフレームまたはその断片に相同な配列は、天然のアルファウイルス配列と比較して少なくとも1つの開始コドンの除去を含むことを特徴とする。
【0228】
好ましい実施形態では、アルファウイルス由来の非構造タンパク質のオープンリーディングフレームまたはその断片に相同な配列は、少なくとも非構造タンパク質のオープンリーディングフレームの天然開始コドンの除去を含むことを特徴とする。好ましくは、前記配列は、少なくともnsP1をコードするオープンリーディングフレームの天然開始コドンの除去を含むことを特徴とする。
【0229】
天然の開始コドンは、宿主細胞にRNAが存在する場合に宿主細胞のリボソームでの翻訳が始まるAUG塩基トリプレットである。言い換えれば、天然の開始コドンは、例えば天然の開始コドンを含むRNAが接種された宿主細胞において、リボソームタンパク質合成中に翻訳される最初の塩基トリプレットである。一実施形態では、宿主細胞は、天然のアルファウイルス5'複製認識配列を含む特定のアルファウイルスの天然宿主である真核生物種由来の細胞である。好ましい実施形態では、宿主細胞は、American Type Culture Collection,Manassas,Virginia,USAから入手可能な細胞株「BHK21[C13](ATCC(登録商標)CCL10(商標))」由来のBHK21細胞である。
【0230】
多くのアルファウイルスのゲノムは完全に配列決定されて、公開されており、また、これらのゲノムによってコードされる非構造タンパク質の配列も公開されている。そのような配列情報により、天然の開始コドンをインシリコで決定することができる。
【0231】
一実施形態では、天然の開始コドンは、コザック配列または機能的に等価な配列に含まれる。コザック配列は、Kozak(1987,Nucleic Acids Res.,vol.15,pp.8125-8148)によって最初に記述された配列である。mRNA分子上のコザック配列は、翻訳開始部位としてリボソームによって認識される。この参考文献によれば、コザック配列はAUG開始コドンを含み、すぐ後に高度に保存されたGヌクレオチドが続く:AUGG。本発明の一実施形態では、アルファウイルス由来の非構造タンパク質のオープンリーディングフレームまたはその断片に相同な配列は、コザック配列の一部である開始コドンの除去を含むことを特徴とする。
【0232】
本発明の一実施形態では、レプリコンの5'複製認識配列は、RNAレベルでAUGG配列の一部である少なくともすべての開始コドンの除去を特徴とする。
【0233】
好ましい実施形態では、アルファウイルス由来の非構造タンパク質のオープンリーディングフレームまたはその断片に相同な配列は、非構造タンパク質のオープンリーディングフレームの天然開始コドン以外の1つ以上の開始コドンの除去を含むことを特徴とする。より好ましい実施形態では、前記核酸配列は、天然開始コドンの除去をさらに特徴とする。例えば、天然開始コドンの除去に加えて、任意の1つまたは2つまたは3つまたは4つまたは4つより多い(例えば5つ)開始コドンが除去されていてもよい。
【0234】
レプリコンが、非構造タンパク質のオープンリーディングフレームの天然開始コドンの除去、および場合により天然開始コドン以外の1つ以上の開始コドンの除去を特徴とする場合、オープンリーディングフレームに相同な配列は、翻訳のための鋳型として働かないため、それ自体はオープンリーディングフレームではない。
【0235】
好ましくは天然開始コドンの除去に加えて、除去される天然開始コドン以外の1つ以上の開始コドンは、好ましくは翻訳を開始する可能性を有するAUG塩基トリプレットから選択される。翻訳を開始する可能性を有するAUG塩基トリプレットは、「潜在的な開始コドン」と称され得る。所与のAUG塩基トリプレットが翻訳を開始する可能性を有するかどうかは、インシリコまたは細胞ベースのインビトロアッセイで決定することができる。
【0236】
一実施形態では、所与のAUG塩基トリプレットが翻訳を開始する可能性を有するかどうかはインシリコで決定される:その実施形態では、ヌクレオチド配列を調べて、AUG塩基トリプレットがAUGG配列、好ましくはコザック配列の一部である場合、翻訳を開始する可能性を有すると決定される。
【0237】
一実施形態では、細胞ベースのインビトロアッセイにおいて、所与のAUG塩基トリプレットが翻訳を開始する可能性を有するかどうかが決定される:天然開始コドンの除去を特徴とし、天然開始コドンの除去位置の下流に所与のAUG塩基トリプレットを含むRNAレプリコンが宿主細胞に導入される。一実施形態では、宿主細胞は、天然のアルファウイルス5'複製認識配列を含む特定のアルファウイルスの天然宿主である真核生物種由来の細胞である。好ましい実施形態では、宿主細胞は、American Type Culture Collection,Manassas,Virginia,USAから入手可能な細胞株「BHK21[C13](ATCC(登録商標)CCL10(商標))」由来のBHK21細胞である。天然開始コドンの除去位置と所与のAUG塩基トリプレットとの間にさらなるAUG塩基トリプレットが存在しないことが好ましい。天然開始コドンの除去を特徴とし、所与のAUG塩基トリプレットを含むRNAレプリコンの宿主細胞への移入後に、所与のAUG塩基トリプレットで翻訳が開始される場合、所与のAUG塩基トリプレットは翻訳を開始する可能性を有すると決定される。翻訳が開始されるかどうかは、当技術分野で公知の任意の適切な方法によって決定され得る。例えば、レプリコンは、所与のAUG塩基トリプレットの下流におよび所与のAUG塩基トリプレットとインフレームで、翻訳産物(存在する場合)の検出を容易にするタグ、例えばmycタグまたはHAタグをコードし得る;コードされたタグを有する発現産物が存在するかどうかは、例えばウェスタンブロットによって決定され得る。この実施形態では、所与のAUG塩基トリプレットとタグをコードする核酸配列との間にさらなるAUG塩基トリプレットが存在しないことが好ましい。細胞ベースのインビトロアッセイは、複数の所与のAUG塩基トリプレットについて個別に実施することができる:各々の場合に、天然開始コドンの除去位置と所与のAUG塩基トリプレットとの間にさらなるAUG塩基トリプレットが存在しないことが好ましい。これは、天然開始コドンの除去位置と所与のAUG塩基トリプレットとの間にあるすべてのAUG塩基トリプレット(存在する場合)を除去することによって達成され得る。それによって、所与のAUG塩基トリプレットは、天然開始コドンの除去位置の下流の最初のAUG塩基トリプレットになる。
【0238】
好ましくは、本発明によるレプリコンは、天然開始コドンの除去位置の下流にあり、アルファウイルス非構造タンパク質またはその断片のオープンリーディングフレーム内に位置するすべての潜在的な開始コドンの除去を特徴とする。したがって、本発明によれば、5'複製認識配列は、好ましくはタンパク質に翻訳され得るオープンリーディングフレームを含まない。
【0239】
好ましい実施形態では、本発明によるRNAレプリコンの5'複製認識配列は、アルファウイルスゲノムRNAの5'複製認識配列の二次構造に等しい二次構造を特徴とする。好ましい実施形態では、本発明によるRNAレプリコンの5'複製認識配列は、アルファウイルスゲノムRNAの5'複製認識配列の予測二次構造に等しい予測二次構造を特徴とする。本発明によれば、RNA分子の二次構造は、好ましくはRNA二次構造予測のためのウェブサーバ、http://rna.urmc.rochester.edu/RNAstructureWeb/Servers/Predict1/Predict1.htmlによって予測される。
【0240】
天然のアルファウイルス5'複製認識配列と比較して少なくとも1つの開始コドンの除去を特徴とするRNAレプリコンの5'複製認識配列の二次構造または予測二次構造を比較することによって、ヌクレオチド対合破壊の有無を同定することができる。例えば、天然のアルファウイルス5'複製認識配列と比較して、少なくとも1つの塩基対、例えばステムループ内、特にステムループのステム内の塩基対が所与の位置に存在しない場合がある。
【0241】
好ましい実施形態では、5'複製認識配列の1つ以上のステムループは欠失または破壊されない。より好ましくは、ステムループ3および4は欠失または破壊されない。より好ましくは、5'複製認識配列のステムループのいずれも欠失または破壊されない。
【0242】
一実施形態では、少なくとも1つの開始コドンの除去は、5'複製認識配列の二次構造を破壊しない。代替的な実施形態では、少なくとも1つの開始コドンの除去は、5'複製認識配列の二次構造を破壊する。この実施形態では、少なくとも1つの開始コドンの除去は、天然のアルファウイルス5'複製認識配列と比較して、所与の位置の少なくとも1つの塩基対、例えばステムループ内の塩基対の不在の原因となり得る。天然のアルファウイルス5'複製認識配列と比較して、ステムループ内に塩基対が存在しない場合、少なくとも1つの開始コドンの除去は、ステムループ内にヌクレオチド対合破壊を導入すると決定される。ステムループ内の塩基対は、典型的にはステムループのステム内の塩基対である。
【0243】
好ましい実施形態では、RNAレプリコンは、少なくとも1つの開始コドンの除去によって導入された1つ以上のステムループ内のヌクレオチド対合破壊を補償する1つ以上のヌクレオチド変化を含む。
【0244】
少なくとも1つの開始コドンの除去が、天然のアルファウイルス5'複製認識配列と比較して、ステムループ内にヌクレオチド対合破壊を導入する場合、ヌクレオチド対合破壊を補償すると予想される1つ以上のヌクレオチド変化を導入してもよく、それによって得られる二次構造または予測二次構造を天然のアルファウイルス5'複製認識配列と比較し得る。
【0245】
共通の一般的知識および本明細書の開示に基づいて、特定のヌクレオチド変化は、当業者によって、ヌクレオチド対合破壊を補償すると予想され得る。例えば、天然のアルファウイルス5'複製認識配列と比較して、少なくとも1つの開始コドンの除去を特徴とするRNAレプリコンの所与の5'複製認識配列の二次構造または予測二次構造の所与の位置で塩基対が破壊された場合、好ましくは開始コドンを再導入することなく、その位置で塩基対を復元するヌクレオチド変化は、ヌクレオチド対合破壊を補償すると予想される。
【0246】
好ましい実施形態では、レプリコンの5'複製認識配列は、翻訳可能な核酸配列、すなわちペプチドまたはタンパク質、特にnsP、特にnsP1、またはそのいずれかの断片に翻訳可能な核酸配列と重複しないか、またはそれを含まない。ヌクレオチド配列が「翻訳可能」であるためには、開始コドンの存在を必要とする;開始コドンは、ペプチドまたはタンパク質の最もN末端側のアミノ酸残基をコードする。一実施形態では、レプリコンの5'複製認識配列は、nsP1のN末端断片をコードする翻訳可能な核酸配列と重複しないか、またはそれを含まない。
【0247】
以下で詳細に説明するいくつかの状況では、RNAレプリコンは少なくとも1つのサブゲノムプロモータを含む。好ましい実施形態では、レプリコンのサブゲノムプロモータは、翻訳可能な核酸配列、すなわちペプチドまたはタンパク質、特にnsP、特にnsP4、またはそのいずれかの断片に翻訳可能な核酸配列と重複しないか、またはそれを含まない。一実施形態では、レプリコンのサブゲノムプロモータは、nsP4のC末端断片をコードする翻訳可能な核酸配列と重複しないか、またはそれを含まない。翻訳可能な核酸配列、例えばnsP4のC末端断片に翻訳可能な核酸配列と重複しないか、またはそれを含まないサブゲノムプロモータを有するRNAレプリコンは、nsP4のコード配列の一部分(典型的にはnsP4のN末端部分をコードする部分)を欠失させることによって、および/または欠失されていないnsP4のコード配列の一部分のAUG塩基トリプレットを除去することによって生成され得る。nsP4のコード配列またはその一部分のAUG塩基トリプレットが除去される場合、除去されるAUG塩基トリプレットは、好ましくは潜在的な開始コドンである。あるいは、サブゲノムプロモータがnsP4をコードする核酸配列と重複しない場合、nsP4をコードする核酸配列全体を欠失させてもよい。
【0248】
一実施形態では、RNAレプリコンは、トランケートされたアルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含まない。この実施形態の文脈において、RNAレプリコンがnsP1のN末端断片をコードするオープンリーディングフレームを含まないこと、および場合によりnsP4のC末端断片をコードするオープンリーディングフレームを含まないことが特に好ましい。nsP1のN末端断片は、トランケートされたアルファウイルスタンパク質である;nsP4のC末端断片も、トランケートされたアルファウイルスタンパク質である。
【0249】
いくつかの実施形態では、本発明によるレプリコンは、アルファウイルスのゲノムの5'末端のステムループ2(SL2)を含まない。上記のFrolov et al.によれば、ステムループ2は、CSE 2の上流の、アルファウイルスのゲノムの5'末端に見出される保存された二次構造であるが、複製には不要である。
【0250】
一実施形態では、レプリコンの5'複製認識配列は、アルファウイルス非構造タンパク質またはその断片をコードする核酸配列と重複しない。したがって、本発明は、場合により1つ以上のアルファウイルス非構造タンパク質またはその一部のコード領域の欠失と組み合わせて、ゲノムアルファウイルスRNAと比較して本明細書に記載の少なくとも1つの開始コドンの除去を特徴とするレプリコンを包含する。例えば、nsP2およびnsP3のコード領域を欠失させてもよく、またはnsP2およびnsP3のコード領域を、nsP1のC末端断片のコード領域および/もしくはnsP4のN末端断片のコード領域と共に欠失させてもよく、ならびに1つ以上の残存する、すなわち前記除去後に残存する開始コドンを、本明細書に記載のように除去してもよい。
【0251】
1つ以上のアルファウイルス非構造タンパク質のコード領域の欠失は、標準的な方法、例えばDNAレベルで、制限酵素、好ましくはオープンリーディングフレーム内の固有の制限部位を認識する制限酵素を使用した除去によって達成され得る。場合により、固有の制限部位を、突然変異誘発、例えば部位特異的突然変異誘発によってオープンリーディングフレームに導入してもよい。それぞれのDNAは、インビトロ転写のための鋳型として使用し得る。
【0252】
制限部位は、特定の制限酵素による、制限部位が含まれる核酸分子、例えばDNA分子の制限(切断)を指令するのに必要かつ十分な核酸配列、例えばDNA配列である。制限部位の1コピーが核酸分子内に存在する場合、制限部位は所与の核酸分子に固有である。
【0253】
制限酵素は、核酸分子、例えばDNA分子を制限部位でまたはその近くで切断するエンドヌクレアーゼである。
【0254】
あるいは、オープンリーディングフレームの一部または全部の欠失を特徴とする核酸配列は、合成法によって入手し得る。
【0255】
本発明によるRNAレプリコンは、好ましくは一本鎖RNA分子である。本発明によるRNAレプリコンは、典型的には(+)鎖RNA分子である。一実施形態では、本発明のRNAレプリコンは、単離された核酸分子である。
【0256】
T細胞受容体および人工T細胞受容体
T細胞受容体または人工T細胞受容体の鎖をコードするオープンリーディングフレームを含む本明細書に記載のRNAレプリコンは、細胞、特にT細胞などの免疫エフェクター細胞においてT細胞受容体または人工T細胞受容体を発現させるのに有用である。そのようなT細胞受容体または人工T細胞受容体を発現するように操作された細胞は、被験体において免疫応答を提供するのに有用であり、特に、T細胞受容体または人工T細胞受容体が標的とする抗原の発現を特徴とする疾患の治療に有用である。
【0257】
「免疫応答」という用語は、抗原に対する統合された身体的応答を指し、細胞性免疫応答を含む。免疫応答は、保護的/防御的/予防的および/または治療的であり得る。
【0258】
「細胞性免疫応答」または同様の用語は、抗原の発現を特徴とする、特にクラスIまたはクラスII MHCによる抗原の提示を特徴とする細胞に対する細胞性応答を含むことが意図されている。細胞性応答は、「ヘルパー」または「キラー」のいずれかとして働くT細胞またはTリンパ球と呼ばれる細胞に関連する。ヘルパーT細胞(CD4+T細胞とも称される)は、免疫応答を調節することによって中心的な役割を果たし、キラー細胞(細胞傷害性T細胞、細胞溶解性T細胞、CD8+T細胞またはCTLとも称される)は、癌細胞などの疾患細胞を死滅させ、さらなる疾患細胞の産生を防止する。
【0259】
「抗原」という用語は、免疫応答が生成されるおよび/または向けられるエピトープを含む作用物質に関する。好ましくは、本発明の文脈における抗原は、場合によりプロセシング後に、好ましくは抗原または、好ましくは細胞表面に、抗原を発現する細胞に特異的な免疫反応の標的である分子である。「抗原」という用語には、特にタンパク質およびペプチドが含まれる。抗原は、好ましくは、天然に存在する抗原に対応するまたは由来する生成物である。そのような天然に存在する抗原は、ウイルス、細菌、真菌、寄生生物ならびに他の感染性因子および病原体を含んでもよくもしくはそれらに由来してもよく、または抗原は腫瘍抗原であってもよい。本発明によれば、抗原は、天然に存在する生成物、例えばウイルスタンパク質、またはその一部に対応し得る。
【0260】
「細胞表面」は、当技術分野におけるその通常の意味に従って使用され、したがってタンパク質および他の分子による結合にアクセス可能な細胞の外側を含む。抗原は、それが細胞の表面に位置し、細胞に加えられた抗原特異的抗体などの抗原結合分子による結合にアクセス可能である場合、前記細胞の表面に発現される。一実施形態では、細胞の表面に発現される抗原は、細胞外部分を有する内在性膜タンパク質である。抗原受容体(T細胞受容体および人工T細胞受容体を含む)は、細胞の表面に位置し、細胞に加えられたその標的への結合に利用可能である場合、前記細胞の表面に発現される。一実施形態では、細胞の表面に発現される抗原受容体は、標的を認識する細胞外部分を有する内在性膜タンパク質である。
【0261】
本発明の文脈における「細胞外部分」または「エクトドメイン」という用語は、細胞の細胞外空間に面しており、好ましくは、例えば細胞の外側に位置する抗体などの分子に結合することによって前記細胞の外側からアクセス可能であるタンパク質などの分子の一部を指す。好ましくは、この用語は、1つ以上の細胞外ループもしくはドメインまたはその断片を指す。
【0262】
「標的」とは、細胞性免疫応答などの免疫応答の標的である細胞などの作用物質を意味する。標的細胞には、癌細胞または感染細胞などの望ましくない細胞が含まれる。好ましい実施形態では、標的細胞は、好ましくは細胞表面に存在するかまたはMHC分子に関連して提示される標的抗原、特に疾患特異的抗原を発現する細胞である。
【0263】
「エピトープ」という用語は、抗原などの分子中の抗原決定基、すなわち免疫系によって認識される、すなわち結合される、例えば抗体または抗原受容体によって認識される分子の一部または断片を指す。例えば、エピトープは、免疫系によって認識される、抗原上の別個の三次元部位である。エピトープは通常、アミノ酸または糖側鎖などの分子の化学的に活性な表面基からなり、通常は特定の三次元構造特性および特定の電荷特性を有する。立体配座エピトープと非立体配座エピトープは、変性溶媒の存在下では前者への結合が失われ、後者への結合は失われないという点で区別される。腫瘍抗原などのタンパク質のエピトープは、好ましくは前記タンパク質の連続または不連続部分を含み、好ましくは5~100、好ましくは5~50、より好ましくは8~30、最も好ましくは10~25アミノ酸長であり、例えばエピトープは、好ましくは9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25アミノ酸長であり得る。
【0264】
本発明の一実施形態では、エピトープはT細胞エピトープである。T細胞エピトープは、特にMHC分子(MHCクラスIまたはクラスII分子)に関連して提示される場合、T細胞受容体によって認識される(すなわち特異的に結合する)、抗原プロセシングによって生成される抗原の一部であり、したがってMHC結合ペプチドである。
【0265】
「抗原プロセシング」とは、抗原の断片であるプロセシング産物への前記抗原の分解(例えばタンパク質のペプチドへの分解)、ならびに細胞による、好ましくは抗原提示細胞による特定のT細胞への提示のためのMHC分子とこれらの断片の1つ以上との会合(例えば結合による)を指す。
【0266】
抗原提示細胞(APC)は、その表面に主要組織適合遺伝子複合体(MHC)に関連して抗原を表示する細胞である。T細胞は、そのT細胞受容体(TCR)を使用してこの複合体を認識し得る。抗原提示細胞は抗原をプロセシングし、T細胞に提示する。本発明によれば、「抗原提示細胞」という用語は、プロフェッショナル抗原提示細胞およびノンプロフェッショナル抗原提示細胞を含む。
【0267】
プロフェッショナル抗原提示細胞は、食作用または受容体媒介エンドサイトーシスのいずれかによって抗原をインターナライズし、次いでクラスII MHC分子に結合した抗原の断片をその膜上に表示するのに非常に効率的である。T細胞は、抗原提示細胞の膜上の抗原-クラスII MHC分子複合体を認識し、それと相互作用する。次に、追加の共刺激シグナルが抗原提示細胞によって生成され、T細胞の活性化をもたらす。共刺激分子の発現は、プロフェッショナル抗原提示細胞の決定的な特徴である。プロフェッショナル抗原提示細胞の主な種類は、最も広範囲の抗原提示を有し、おそらく最も重要な抗原提示細胞である樹状細胞、マクロファージ、B細胞、および特定の活性化上皮細胞である。
【0268】
ノンプロフェッショナル抗原提示細胞は、ナイーブT細胞との相互作用に必要なMHCクラスIIタンパク質を構成的には発現しない;これらは、IFNγなどの特定のサイトカインによってノンプロフェッショナル抗原提示細胞が刺激されたときにのみ発現される。
【0269】
樹状細胞(DC)は、末梢組織中で捕捉された抗原を、MHCクラスIIおよびIの両方の抗原提示経路によってT細胞に提示する白血球集団である。樹状細胞は免疫応答の強力な誘導因子であり、これらの細胞の活性化が抗腫瘍免疫の誘導の重要な工程であることは周知である。樹状細胞および前駆細胞は、末梢血、骨髄、腫瘍浸潤細胞、腫瘍周囲組織浸潤細胞、リンパ節、脾臓、皮膚、臍帯血、または他の任意の適切な組織もしくは体液から入手し得る。例えば、樹状細胞は、末梢血から採取した単球の培養物にGM-CSF、IL-4、IL-13および/またはTNFaなどのサイトカインの組合せを添加することによってエクスビボで分化させ得る。あるいは、末梢血、臍帯血または骨髄から採取したCD34陽性細胞を、GM-CSF、IL-3、TNFα、CD40リガンド、LPS、flt3リガンドならびに/または樹状細胞の分化、成熟および増殖を誘導する他の化合物(1つもしくは複数)の組合せを培地に添加することによって、樹状細胞に分化させ得る。樹状細胞は、好都合には「未成熟」細胞および「成熟」細胞として分類され、これらは、よく特徴付けられた2つの表現型を区別する簡単な方法として使用することができる。しかし、この命名法は、分化のすべての可能な中間段階を排除すると解釈されるべきではない。未成熟樹状細胞は、Fcγ受容体およびマンノース受容体の高発現と相関する、抗原取り込みおよびプロセシングの高い能力を有する抗原提示細胞として特徴付けられる。成熟表現型は、典型的には、これらのマーカーの発現はより低いが、クラスIおよびクラスII MHC、接着分子(例えばCD54およびCD11)ならびに共刺激分子(例えばCD40、CD80、CD86および4-1 BB)などのT細胞活性化に関与する細胞表面分子の発現が高いことを特徴とする。樹状細胞の成熟は、そのような抗原提示樹状細胞がT細胞プライミングを引き起こす樹状細胞活性化の状態と称され、一方未成熟樹状細胞による提示は寛容をもたらす。樹状細胞の成熟は、主に、生得的受容体によって検出される微生物特徴を有する生体分子(細菌DNA、ウイルスRNA、エンドトキシン等)、炎症誘発性サイトカイン(TNF、IL-1、IFN)、CD40Lによる樹状細胞表面のCD40の連結、およびストレスによる細胞死を受けている細胞から放出される物質によって引き起こされる。樹状細胞は、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)および腫瘍壊死因子αなどのサイトカインと共にインビトロで骨髄細胞を培養することによって得ることができる。
【0270】
T細胞は、リンパ球として公知の白血球の群に属し、細胞媒介性免疫において中心的な役割を果たす。これらは、T細胞受容体(TCR)と呼ばれるこれらの細胞表面上の特別な受容体の存在によって、B細胞およびナチュラルキラー細胞などの他の種類のリンパ球と区別することができる。胸腺は、T細胞の成熟に関与する主要な器官である。それぞれ別個の機能を有する、T細胞のいくつかの異なるサブセットが発見されている。
【0271】
Tヘルパー細胞は、数ある機能の中でも特に、B細胞の形質細胞への成熟ならびに細胞傷害性T細胞およびマクロファージの活性化を含む免疫学的過程で他の白血球を補助する。これらの細胞は、その表面にCD4タンパク質を発現するため、CD4+T細胞としても公知である。ヘルパーT細胞は、抗原提示細胞(APC)の表面に発現されるMHCクラスII分子によってペプチド抗原と共に提示された場合に活性化される。ひとたび活性化されると、これらは速やかに分裂し、能動免疫応答を調節または補助するサイトカインと呼ばれる小さなタンパク質を分泌する。
【0272】
細胞傷害性T細胞は、ウイルス感染細胞および腫瘍細胞を破壊し、移植片拒絶反応にも関与する。これらの細胞は、その表面にCD8糖タンパク質を発現するため、CD8+T細胞としても公知である。これらの細胞は、身体のほぼあらゆる細胞の表面上に存在する、MHCクラスIに関連する抗原に結合することによってその標的を認識する。
【0273】
T細胞の大部分は、いくつかのタンパク質の複合体として存在するT細胞受容体(TCR)を有する。実際のT細胞受容体は、独立したT細胞受容体アルファおよびベータ(TCRαおよびTCRβ)遺伝子から生成され、α-TCR鎖およびβ-TCR鎖と呼ばれる2本の別個のペプチド鎖からなる。γδ T細胞(ガンマデルタT細胞)は、その表面に異なるT細胞受容体(TCR)を有するT細胞の小さなサブセットである。しかし、γδ T細胞では、TCRは1本のγ鎖と1本のδ鎖で構成される。このT細胞の群は、αβ T細胞よりもはるかにまれである(全T細胞の2%)。
【0274】
T細胞受容体の各々の鎖は、2つの細胞外ドメイン:可変(V)領域および定常(C)領域からなる。定常領域は細胞膜に近接しており、その後に膜貫通領域および短い細胞質尾部が続くが、可変領域はペプチド/MHC複合体に結合する。本発明の目的のために、「T細胞受容体鎖の定常領域またはその一部」という用語は、T細胞受容体鎖の定常領域(N末端からC末端まで)の後に、T細胞受容体鎖の定常領域に天然に連結されている膜貫通領域および細胞質尾部などの膜貫通領域および細胞質尾部が続く実施形態も含む。
【0275】
すべてのT細胞は、骨髄の造血幹細胞に由来する。造血幹細胞に由来する造血前駆細胞は胸腺に存在し、細胞分裂によって拡大して未成熟な胸腺細胞の大きな集団を生じる。最初期の胸腺細胞はCD4もCD8も発現しないため、二重陰性(CD4-CD8-)細胞として分類される。発達が進むにつれて、それらは二重陽性胸腺細胞(CD4+CD8+)になり、最終的に胸腺から末梢組織に放出される単一陽性(CD4+CD8-またはCD4-CD8+)胸腺細胞に成熟する。
【0276】
T細胞の活性化における最初のシグナルは、T細胞受容体が別の細胞上の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)によって提示される短いペプチドに結合することによって提供される。これは、そのペプチドに特異的なTCRを有するT細胞のみが活性化されることを確実にする。パートナー細胞は通常、プロフェッショナル抗原提示細胞(APC)であり、ナイーブ応答の場合は通常樹状細胞であるが、B細胞およびマクロファージは重要なAPCであり得る。MHCクラスI分子によってCD8+T細胞に提示されるペプチドは8~10アミノ酸長である;MHCクラスII分子の結合溝の末端は開いているため、MHCクラスII分子によってCD4+T細胞に提示されるペプチドはより長い。
【0277】
CD4+またはCD8+T細胞の特異的活性化は、様々な方法で検出し得る。特異的T細胞活性化を検出する方法には、T細胞の増殖、サイトカイン(例えばリンホカイン)の産生、または細胞溶解活性の生成を検出することが含まれる。CD4+T細胞の場合、特異的T細胞活性化を検出する好ましい方法は、T細胞の増殖の検出である。CD8+T細胞の場合、特異的T細胞活性化を検出する好ましい方法は、細胞溶解活性の生成の検出である。
【0278】
T細胞は一般に、標準的な手順を使用して、インビトロまたはエクスビボで調製し得る。例えば、T細胞は、市販の細胞分離システムを使用して、患者などの哺乳動物の骨髄、末梢血または骨髄もしくは末梢血の画分から単離し得る。あるいは、T細胞は、血縁関係にあるヒトもしくは血縁関係のないヒト、非ヒト動物、細胞株または培養物に由来してもよい。T細胞を含む試料は、例えば末梢血単核細胞(PBMC)であり得る。
【0279】
T細胞受容体のα鎖およびβ鎖をコードする核酸は、別々の核酸分子、すなわちRNAレプリコンに含まれ得るか、または単一の核酸分子に含まれ得る。したがって、細胞におけるT細胞受容体の発現には、異なるT細胞受容体鎖をコードする別々の核酸分子の同時トランスフェクション、または異なるT細胞受容体鎖をコードする1種類のみの核酸分子のトランスフェクションが必要である。
【0280】
「主要組織適合遺伝子複合体」という用語および「MHC」という略語は、MHCクラスIおよびMHCクラスII分子を含み、すべての脊椎動物で生じる遺伝子の複合体に関する。MHCタンパク質または分子は、免疫反応におけるリンパ球と抗原提示細胞または疾患細胞との間のシグナル伝達に重要であり、MHCタンパク質または分子はペプチドに結合し、T細胞受容体による認識のためにそれらを提示する。MHCによってコードされるタンパク質は、細胞の表面に発現され、T細胞に対して自己抗原(細胞自体からのペプチド断片)と非自己抗原(例えば侵入微生物の断片)の両方を表示する。
【0281】
MHC領域は、クラスI、クラスIIおよびクラスIIIの3つのサブグループに分けられる。MHCクラスIタンパク質は、α鎖およびβ2ミクログロブリン(15番染色体によってコードされるMHCの一部ではない)を含む。それらは、抗原断片を細胞傷害性T細胞に提示する。ほとんどの免疫系細胞、特に抗原提示細胞では、MHCクラスIIタンパク質はα鎖とβ鎖を含み、抗原断片をTヘルパー細胞に提示する。MHCクラスIII領域は、補体成分およびサイトカインをコードするものなどの他の免疫成分をコードする。
【0282】
ヒトでは、細胞表面の抗原提示タンパク質をコードするMHC領域の遺伝子は、ヒト白血球抗原(HLA)遺伝子と称される。しかし、MHCという略語は、しばしばHLA遺伝子産物を指すために使用される。本発明のすべての態様の好ましい一実施形態では、MHC分子はHLA分子である。
【0283】
T細胞などの免疫エフェクター細胞にモノクローナル抗体の特異性などの任意の特異性を付与する操作された受容体が生産されている。このようにして、養子細胞移入のために多数の抗原特異的T細胞を生成することができる。本発明によるそのような操作された抗原受容体は、例えばT細胞自身のT細胞受容体の代わりにまたはそれに加えて、T細胞上に存在することができ、そのようなT細胞は、標的細胞の認識のために抗原のプロセシングおよび提示を必ずしも必要とせず、むしろ、標的細胞上に存在する任意の抗原を好ましくは特異的に認識し得る。本発明によれば、「抗原受容体」という用語は、癌細胞などの標的細胞上の標的構造体(例えば抗原)を認識し、すなわち結合し(例えば標的細胞の表面に発現される抗原への抗原結合部位または抗原結合ドメインの結合によって)、細胞表面に前記抗原受容体を発現するT細胞などの免疫エフェクター細胞に特異性を付与し得る、単一分子または分子の複合体を含む人工受容体を含む。好ましくは、抗原受容体による標的構造体の認識は、前記抗原受容体を発現する免疫エフェクター細胞の活性化をもたらす。抗原受容体は、本明細書に記載の1つ以上のドメインを含む1つ以上のタンパク質ユニットを含み得る。一実施形態では、モノクローナル抗体に由来する一本鎖可変断片(scFv)は、CD3-ζ膜貫通およびエンドドメインに融合される。そのような分子は、標的細胞上のその抗原標的のscFvによる認識に応答してζシグナルの伝達および標的抗原を発現する標的細胞の死滅をもたらす。
【0284】
本発明によれば、「人工受容体」または「人工T細胞受容体」という用語は、好ましくは「キメラ抗原受容体(CAR)」および「キメラT細胞受容体」という用語と同義である。
【0285】
本発明によれば、人工T細胞受容体は、一般に抗原結合ドメインおよびT細胞シグナル伝達ドメインを含み得る。
【0286】
結合ドメインまたは抗原結合ドメインは、抗原を認識して結合する。一実施形態では、抗原結合ドメインは、人工T細胞受容体のエキソドメインに含まれる。本発明によれば、抗原は、異なるペプチド鎖上に存在し得る抗体およびT細胞受容体の抗原結合部分を介してなどの、抗原結合部位を形成することができる任意の抗原結合ドメインを介して抗原受容体によって認識され得る。一実施形態では、抗原結合部位を形成する2つのドメインは免疫グロブリンに由来する。別の実施形態では、抗原結合部位を形成する2つのドメインはT細胞受容体に由来する。モノクローナル抗体およびT細胞受容体可変ドメイン、特にTCRαおよびβ一本鎖に由来する一本鎖可変断片(scFv)などの抗体可変ドメインが特に好ましい。実際に、高い親和性で所与の標的に結合するほとんどあらゆるものが抗原結合ドメインとして使用できる。一実施形態では、抗原結合ドメインは、抗原に対する抗体の一本鎖可変断片(scFv)を含む。一実施形態では、抗原結合ドメインは、抗原(VH(抗原))に対する特異性を有する免疫グロブリンの重鎖の可変領域(VH)および抗原(VL(抗原))に対する特異性を有する免疫グロブリンの軽鎖の可変領域(VL)を含む。一実施形態では、前記重鎖可変領域(VH)および対応する軽鎖可変領域(VL)は、ペプチドリンカー、好ましくはアミノ酸配列(GGGGS)3を含むペプチドリンカーによって連結されている。
【0287】
活性化シグナル伝達ドメイン(またはT細胞シグナル伝達ドメイン)は、人工T細胞受容体が抗原に結合すると、細胞傷害性リンパ球を活性化する働きをする。活性化シグナル伝達ドメインの同一性は、人工T細胞受容体による抗原の結合時に選択された細胞傷害性リンパ球の活性化を誘導する能力を有するという点のみに限定される。適切な活性化シグナル伝達ドメインには、T細胞CD3ζ鎖およびFc受容体γが含まれる。当業者は、これらの記載された活性化シグナル伝達ドメインの配列変異体が、本発明に悪影響を及ぼすことなく使用でき、変異体がモデルとするドメインと同じまたは類似の活性を有することを理解する。そのような変異体は、それらが由来するドメインのアミノ酸配列と少なくとも約80%の配列同一性を有する。一実施形態では、T細胞シグナル伝達ドメインは細胞内に位置する。一実施形態では、T細胞シグナル伝達ドメインは、場合によりCD28と組み合わせて、CD3-ζ、好ましくはCD3-ζのエンドドメインを含む。
【0288】
人工T細胞受容体は、共刺激ドメインをさらに含み得る。共刺激ドメインは、人工T細胞受容体が標的部分に結合すると、細胞傷害性リンパ球の増殖および生存を増強する働きをする。共刺激ドメインの同一性は、人工T細胞受容体による標的部分の結合時に細胞増殖および生存を増強する能力を有するという点のみに限定される。適切な共刺激ドメインには、CD28、腫瘍壊死因子(TNF)受容体ファミリーのメンバーであるCD137(4-1BB)、TNFRスーパーファミリーの受容体のメンバーであるCD134(OX40)、および活性化T細胞上に発現されるCD28スーパーファミリーの共刺激分子であるCD278(ICOS)が含まれる。当業者は、これらの記載された共刺激ドメインの配列変異体が、本発明に悪影響を及ぼすことなく使用でき、変異体がモデルとされるドメインと同じまたは類似の活性を有することを理解する。そのような変異体は、それらが由来するドメインのアミノ酸配列と少なくとも約80%の配列同一性を有する。本発明のいくつかの実施形態では、人工T細胞受容体構築物は2つの共刺激ドメインを含む。特定の組合せには4つの記載されたドメインのすべての可能な変形が含まれるが、具体例にはCD28+CD137(4-1BB)およびCD28+CD134(OX40)が含まれる。
【0289】
抗原認識に続いて、受容体がクラスタ化し、シグナルが細胞に伝達される。この点で、「T細胞シグナル伝達ドメイン」は、抗原が結合した後にT細胞に活性化シグナルを伝達するドメイン、好ましくはエンドドメインである。最も一般的に使用されるエンドドメイン成分はCD3-ζである。
【0290】
本発明の人工T細胞受容体は、融合タンパク質の形態でドメインを一緒に含んでもよい。そのような融合タンパク質は一般に、N末端からC末端の方向に連結された、結合ドメイン、1つ以上の共刺激ドメイン、および活性化シグナル伝達ドメインを含む。しかし、本発明の人工T細胞受容体はこの配置に限定されず、他の配置も許容され、結合ドメイン、活性化シグナル伝達ドメイン、および1つ以上の共刺激ドメインが含まれる。結合ドメインは抗原に自由に結合できなければならないため、融合タンパク質内の結合ドメインの配置は一般に、細胞の外側で領域の表示が達成される配置であることが理解される。同様に、共刺激および活性化シグナル伝達ドメインは細胞傷害性リンパ球の活性および増殖を誘導する働きをするため、融合タンパク質は一般に、細胞の内部でこれら2つのドメインを表示する。人工T細胞受容体には、追加要素、例えば融合タンパク質の細胞表面への適切な輸送を確実にするシグナルペプチド、融合タンパク質が内在性膜タンパク質として維持されるのを確実にする膜貫通ドメイン、および結合ドメインに柔軟性を与え、抗原への強力な結合を可能にするヒンジドメイン(またはスペーサ領域)などが含まれ得る。好ましくは、シグナル配列またはシグナルペプチドは、例えば抗原受容体が細胞外環境に存在する抗原に結合し得るように、分泌経路の十分な通過と細胞表面での発現を可能にする配列またはペプチドである。好ましくは、シグナル配列またはシグナルペプチドは切断可能であり、成熟ペプチド鎖から除去される。シグナル配列またはシグナルペプチドは、好ましくは、ペプチド鎖が産生される細胞または生物に関して選択される。一実施形態では、シグナルペプチドは抗原結合ドメインに先行する。一実施形態では、膜貫通ドメインは、膜にまたがる疎水性αヘリックスである。一実施形態では、膜貫通ドメインは、CD28膜貫通ドメインまたはその断片を含む。本発明のすべての態様の一実施形態では、人工T細胞受容体は、抗原結合ドメインを膜貫通ドメインに連結するスペーサ領域を含む。一実施形態では、スペーサ領域は、抗原認識を容易にするために抗原結合ドメインが異なる方向に配向することを可能にする。一実施形態では、スペーサ領域は、IgG1由来のヒンジ領域を含む。
【0291】
本発明のすべての態様の一実施形態では、人工T細胞受容体は以下の構造を含む:
NH2-シグナルペプチド-抗原結合ドメイン-スペーサ領域-膜貫通ドメイン-T細胞シグナル伝達ドメイン-COOH。
【0292】
本発明のすべての態様の一実施形態では、人工T細胞受容体は、好ましくは標的とされる抗原に特異的である。
【0293】
本発明のすべての態様の一実施形態では、人工T細胞受容体は、T細胞、好ましくは細胞傷害性T細胞によって発現され得るおよび/またはその表面に存在し得る。一実施形態では、抗原に結合した場合のT細胞は反応性である。
【0294】
人工T細胞受容体-修飾T細胞は、事実上あらゆる抗原を標的とするように操作できるため、人工T細胞受容体を発現する操作されたT細胞による養子細胞移入療法は有望な治療法である。例えば、患者のT細胞を、患者の疾患細胞上の抗原に特異的に向けられる人工T細胞受容体を発現するように遺伝子操作(遺伝子修飾)し、その後患者に注入して戻し得る。
【0295】
本発明によれば、人工T細胞受容体は、T細胞受容体の機能を置き換えることができ、特に、T細胞などの細胞に細胞溶解活性などの反応性を付与し得る。しかし、抗原ペプチド-MHC複合体へのT細胞受容体の結合とは対照的に、人工T細胞受容体は、特に細胞表面に発現される場合、抗原に結合し得る。
【0296】
T細胞表面糖タンパク質CD3-ζ鎖は、ヒトではCD247遺伝子によってコードされるタンパク質である。CD3-ζは、T細胞受容体α/βおよびγ/δヘテロ二量体とCD3-γ、-δおよび-εと一緒になって、T細胞受容体-CD3複合体を形成する。ζ鎖は、抗原認識をいくつかの細胞内シグナル伝達経路に結び付けるのに重要な役割を果たす。「CD3-ζ」という用語は、好ましくはヒトCD3-ζに関する。
【0297】
CD28(分化クラスタ28)は、T細胞の活性化に必要な共刺激シグナルを提供する、T細胞で発現される分子の1つである。CD28は、CD80(B7.1)およびCD86(B7.2)の受容体である。T細胞受容体(TCR)に加えてCD28を介した刺激は、様々なインターロイキン(特にIL-6)の産生のための強力な共刺激シグナルをT細胞に提供することができる。「CD28」という用語は、好ましくはヒトCD28に関する。
【0298】
「免疫グロブリン」という用語は、免疫グロブリンスーパーファミリーのタンパク質、好ましくは抗体またはB細胞受容体(BCR)などの抗原受容体に関する。免疫グロブリンは、特徴的な免疫グロブリン(Ig)フォールドを有する構造ドメイン、すなわち免疫グロブリンドメインを特徴とする。この用語は、膜結合免疫グロブリンおよび可溶性免疫グロブリンを包含する。膜結合免疫グロブリンは、表面免疫グロブリンまたは膜免疫グロブリンとも称され、一般にBCRの一部である。可溶性免疫グロブリンは一般に抗体と称される。免疫グロブリンは一般に、いくつかの鎖、典型的にはジスルフィド結合を介して連結された2本の同一の重鎖と2本の同一の軽鎖を含む。これらの鎖は、主に、VL(可変軽鎖)ドメイン、CL(定常軽鎖)ドメイン、ならびにCH(定常重鎖)ドメインCH1、CH2、CH3およびCH4などの免疫グロブリンドメインで構成される。哺乳動物免疫グロブリン重鎖には5つの種類、すなわちα、δ、ε、γおよびμがあり、これらは抗体の異なるクラス、すなわちIgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMを構成する。可溶性免疫グロブリンの重鎖とは対照的に、膜または表面免疫グロブリンの重鎖は、膜貫通ドメインおよびそのカルボキシ末端に短い細胞質ドメインを含む。哺乳動物には、2種類の軽鎖、すなわちλとκがある。免疫グロブリン鎖は可変領域と定常領域を含む。定常領域は、免疫グロブリンの異なるアイソタイプ内で本質的に保存されており、可変部分は高度に多様であり、抗原認識を構成する。
【0299】
「抗体」という用語は、ジスルフィド結合によって相互に連結された少なくとも2本の重(H)鎖および2本の軽(L)鎖を含む糖タンパク質を指す。「抗体」という用語には、モノクローナル抗体、組換え抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体およびキメラ抗体が含まれる。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではVHと略す)と重鎖定常領域からなる。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではVLと略す)と軽鎖定常領域からなる。VHおよびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と称される、より保存された領域が間に組み入れられた、相補性決定領域(CDR)と称される超可変領域にさらに細分化することができる。各VHおよびVLは、次の順序でアミノ末端からカルボキシ末端へと配置された3つのCDRと4つのFRから構成される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えばエフェクター細胞)および古典的補体系の第1成分(Clq)を含む、宿主組織または因子への免疫グロブリンの結合を媒介し得る。
【0300】
本明細書で使用される「モノクローナル抗体」という用語は、単一分子組成の抗体分子の調製物を指す。モノクローナル抗体は、単一の結合特異性および親和性を示す。一実施形態では、モノクローナル抗体は、不死化細胞に融合した非ヒト動物、例えばマウスから得られたB細胞を含むハイブリドーマによって産生される。
【0301】
抗体は、マウス、ラット、ウサギ、モルモットおよびヒトを含むがこれらに限定されない様々な種に由来し得る。
【0302】
本明細書に記載の抗体には、IgA1またはIgA2などのIgA、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgE、IgM、およびIgD抗体が含まれる。様々な実施形態では、抗体はIgG1抗体、より特定するとIgG1、カッパまたはIgG1、ラムダアイソタイプ(すなわちIgG1、κ、λ)、IgG2a抗体(例えばIgG2a、κ、λ)、IgG2b抗体(例えばIgG2b、κ、λ)、IgG3抗体(例えばIgG3、κ、λ)またはIgG4抗体(例えばIgG4、κ、λ)である。
【0303】
本明細書に記載の人工T細胞受容体は、1つ以上の抗体の抗原結合部分を含み得る。抗体の「抗原結合部分」(もしくは単に「結合部分」)もしくは抗体の「抗原結合断片」(もしくは単に「結合断片」)という用語または同様の用語は、抗原に特異的に結合する能力を保持する抗体の1つ以上の断片を指す。抗体の抗原結合機能は、完全長抗体の断片によって実行され得ることが示されている。抗体の「抗原結合部分」という用語に包含される結合断片の例には、(i)VL、VH、CLおよびCHドメインから成る一価断片である、Fab断片;(ii)ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含む二価断片である、F(ab')2断片;(iii)VHドメインとCHドメインからなるFd断片;(iv)抗体の1本の腕のVLドメインとVHドメインからなるFv断片;(v)VHドメインからなる、dAb断片(Ward et al.,(1989)Nature 341:544-546);(vi)単離された相補性決定領域(CDR)、ならびに(vii)場合により合成リンカーによって連結されていてもよい2つ以上の単離されたCDRの組合せが含まれる。さらに、Fv断片の2つのドメイン、VLとVHは別々の遺伝子によってコードされるが、それらは、VL領域とVH領域が対合して一価分子を形成する単一のタンパク質鎖(一本鎖Fv(scFv)として知られる;例えばBird et al.(1988)Science 242:423-426;およびHuston et al.(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-5883参照)としてそれらを作製することを可能にする合成リンカーによって、組換え法を用いて連結することができる。そのような一本鎖抗体も、抗体の「抗原結合断片」という用語に包含されることが意図されている。さらなる例は、(i)免疫グロブリンヒンジ領域ポリペプチドに融合した結合ドメインポリペプチド、(ii)ヒンジ領域に融合した免疫グロブリン重鎖CH2定常領域、および(iii)CH2定常領域に融合した免疫グロブリン重鎖CH3定常領域を含む、結合ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質である。結合ドメインポリペプチドは、重鎖可変領域または軽鎖可変領域であり得る。結合ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質は、米国特許出願第2003/0118592号および同第2003/0133939号にさらに開示されている。これらの抗体断片は、当業者に公知の従来技術を使用して得られ、断片は、無傷の抗体と同じ方法で有用性についてスクリーニングされる。
【0304】
一本鎖可変断片(scFv)は、リンカーペプチドで連結された免疫グロブリンの重鎖(VH)可変領域と軽鎖(VL)可変領域の融合タンパク質である。リンカーは、VHのN末端とVLのC末端を連結することができ、逆もまた同様である。二価の一本鎖可変断片(ジscFv、バイscFv)は、2つのscFvを連結することによって構築できる。これは、2つのVH領域と2つのVL領域を有する単一のペプチド鎖を生成し、タンデムscFvを生成することによって実施できる。
【0305】
「結合ドメイン」という用語は、本発明に関連して、場合により別のドメインと相互作用する場合、所与の標的構造体/抗原/エピトープと結合する/相互作用する構造、例えば抗体の構造を特徴付ける。したがって、本発明によるこれらのドメインは、「抗原結合部位」を表す。
【0306】
抗体および抗体の誘導体は、抗体断片などの結合ドメインを提供するため、特にVLおよびVH領域を提供するために有用である。
【0307】
抗原受容体内に存在し得る抗原の結合ドメインは、抗原に結合する(それを標的とする)能力、すなわち抗原に存在するエピトープ、好ましくは抗原の細胞外ドメイン内に位置するエピトープに結合する(それを標的とする)能力を有する。好ましくは、抗原の結合ドメインは抗原に特異的である。好ましくは、抗原の結合ドメインは、細胞表面に発現された抗原に結合する。特に好ましい実施形態では、抗原の結合ドメインは、生細胞の表面に存在する抗原の天然のエピトープに結合する。
【0308】
抗体は、従来のモノクローナル抗体法、例えばKohler and Milstein,Nature 256:495(1975)の標準的な体細胞ハイブリダイゼーション技術を含む、様々な技術によって作製することができる。体細胞ハイブリダイゼーション手順が好ましいが、原則として、モノクローナル抗体を作製するための他の技術、例えばBリンパ球のウイルス形質転換もしくは発癌性形質転換、または抗体遺伝子のライブラリを使用するファージディスプレイ技術も使用できる。
【0309】
モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマを調製するための好ましい動物系は、マウスの系である。マウスにおけるハイブリドーマ作製は十分に確立された手順である。免疫プロトコルおよび融合のための免疫脾細胞の単離のための技術は、当技術分野で公知である。融合パートナー(例えばマウス骨髄腫細胞)および融合手順も公知である。
【0310】
モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマを調製するための他の好ましい動物系は、ラットおよびウサギの系である(例えばSpieker-Polet et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.92:9348(1995)に記載されており、またRossi et al.,Am.J.Clin.Pathol.124:295(2005)も参照のこと)。
【0311】
抗体を作製するために、上述したように、抗原配列、すなわちそれに対して抗体が向けられるべき配列に由来する担体結合ペプチド、組換え発現された抗原もしくはその断片の濃縮調製物、および/または抗原を発現する細胞でマウスを免疫することができる。あるいは、抗原またはその断片をコードするDNAでマウスを免疫することができる。抗原の精製または濃縮調製物を使用した免疫が抗体をもたらさない場合、免疫応答を促進するために抗原を発現する細胞、例えば細胞株でマウスを免疫することもできる。
【0312】
免疫プロトコルの過程で、尾静脈または眼窩後採血によって得られる血漿および血清試料を用いて免疫応答を観測することができる。免疫グロブリンの十分な力価を有するマウスを融合に使用することができる。犠死および脾臓の切除の3日前に抗原発現細胞を用いてマウスを腹腔内または静脈内経路で追加免疫して、特異的抗体を分泌するハイブリドーマの割合を増加させることができる。
【0313】
モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを作製するために、免疫マウスの脾細胞およびリンパ節細胞を単離し、マウス骨髄腫細胞株などの適切な不死化細胞株に融合することができる。次に、得られたハイブリドーマを抗原特異的抗体の産生についてスクリーニングすることができる。個々のウェルを、抗体を分泌するハイブリドーマについてELISAによってスクリーニングすることができる。抗原発現細胞を使用した免疫蛍光法およびFACS分析により、抗原に対して特異性を有する抗体を同定することができる。抗体を分泌するハイブリドーマを再播種し、再度スクリーニングすることができ、モノクローナル抗体がまだ陽性である場合は、限界希釈によってサブクローニングすることができる。その後、安定なサブクローンをインビトロで培養して、特性付けのために組織培養培地で抗体を生成することができる。
【0314】
抗原に結合する抗体および他の結合物質の能力は、標準的な結合アッセイ(例えばELISA、ウェスタンブロット法、免疫蛍光法、フローサイトメトリ分析)を使用して決定することができる。
【0315】
本発明による「結合」という用語は、好ましくは特異的結合に関する。
【0316】
本発明によれば、抗原受容体などの作用物質は、標準的なアッセイにおいて所定の標的に有意な親和性を有し、所定の標的に結合する場合、前記所定の標的に結合する(それを標的とする)ことができる。「親和性」または「結合親和性」は、しばしば平衡解離定数(KD)によって測定される。好ましくは、「有意な親和性」という用語は、10-5M以下、10-6M以下、10-7M以下、10-8M以下、10-9M以下、10-10M以下、10-11M以下、または10-12M以下の解離定数(KD)で所定の標的に結合することを指す。
【0317】
作用物質は、標準的なアッセイにおいて標的に有意な親和性を有さず、標的に有意に結合しない、特に検出可能に結合しない場合、前記標的に(実質的に)結合する(それを標的とする)ことができない。好ましくは、作用物質は、2まで、好ましくは10、より好ましくは20、特に50または100μg/ml以上の濃度で存在する場合、前記標的に検出可能に結合しない。好ましくは、作用物質は、それが結合できる所定の標的への結合のKDよりも少なくとも10倍、100倍、103倍、104倍、105倍、または106倍高いKDで1つの標的に結合する場合、その標的に有意な親和性を有さない。例えば、作用物質が結合できる標的へのその作用物質の結合のKDが10-7Mである場合、作用物質が有意な親和性を有さない標的への結合のKDは、少なくとも10-6M、10-5M、10-4M、10-3M、10-2M、または10-1Mである。
【0318】
作用物質が、所定の標的には結合できるが、他の標的には(実質的に)結合できない、すなわち標準的なアッセイにおいて他の標的に有意な親和性を有さず、他の標的に有意に結合しない場合、作用物質は前記所定の標的に特異的である。好ましくは、そのような他の標的に対する親和性および結合が、ウシ血清アルブミン(BSA)、カゼインまたはヒト血清アルブミン(HSA)などの所定の標的に無関係なタンパク質に対する親和性または結合を有意に上回らない場合、作用物質は所定の標的に特異的である。好ましくは、作用物質は、それが特異的でない標的への結合のKDよりも少なくとも10倍、100倍、103倍、104倍、105倍、または106倍低いKDで所定の標的に結合する場合、前記所定の標的に特異的である。例えば、作用物質が特異的である標的へのその作用物質の結合のKDが10-7Mである場合、作用物質が特異的ではない標的への結合のKDは少なくとも10-6M、10-5M、10-4M、10-3M、10-2M、または10-1Mである。
【0319】
標的への作用物質の結合は、任意の適切な方法を使用して実験的に決定することができる;例えば、Berzofsky et al.,"Antibody-Antigen Interactions"In Fundamental Immunology,Paul,W.E.,Ed.,Raven Press New York,NY(1984)、Kuby,Janis Immunology,W.H.Freeman and Company New York,NY(1992)、および本明細書に記載の方法参照。親和性は、従来の技術を使用して、例えば平衡透析によって;製造者が概説する一般的手順を用いて、BIAcore 2000装置を使用することによって;放射性標識した標的抗原を用いる放射性免疫検定法によって;または当業者に公知の別の方法によって、容易に決定し得る。親和性データは、例えばScatchard et al.,Ann N.Y.Acad.ScL,51:660(1949)の方法によって分析し得る。特定の抗体-抗原相互作用の測定される親和性は、異なる条件下で、例えば異なる塩濃度、pHの下で測定された場合、異なり得る。したがって、親和性および他の抗原結合パラメータ、例えばKD、IC50の測定は、好ましくは抗体および抗原の標準溶液、ならびに標準緩衝液を使用して行われる。
【0320】
レプリコンに含まれる少なくとも1つのオープンリーディングフレーム
本発明によるRNAレプリコンは、目的のペプチドまたは目的のタンパク質をコードするオープンリーディングフレームとして、T細胞受容体または人工T細胞受容体の鎖をコードするオープンリーディングフレームを含み、およびT細胞受容体または人工T細胞受容体の第1の鎖と一緒になって機能性T細胞受容体または人工T細胞受容体を形成するT細胞受容体または人工T細胞受容体のさらなる鎖などの、目的のペプチドまたは目的のタンパク質をコードする1つ以上のさらなるオープンリーディングフレームを含み得る。好ましくは、目的のタンパク質は異種核酸配列によってコードされる。目的のペプチドまたはタンパク質をコードする遺伝子は、同義的に「目的の遺伝子」または「導入遺伝子」と称される。様々な実施形態では、目的のペプチドまたはタンパク質は異種核酸配列によってコードされる。本発明によれば、「異種」という用語は、核酸配列が天然ではアルファウイルス核酸配列に機能的または構造的に連結されていないという事実を指す。本発明によるレプリコンは、単一のポリペプチド、すなわちT細胞受容体もしくは人工T細胞受容体の鎖、またはT細胞受容体もしくは人工T細胞受容体の複数の鎖またはT細胞受容体もしくは人工T細胞受容体の鎖と別のポリペプチドの鎖などの複数のポリペプチドをコードし得る。複数のポリペプチドは、単一のポリペプチド(融合ポリペプチド)として、または別々のポリペプチドとしてコードされ得る。いくつかの実施形態では、本発明によるレプリコンは、サブゲノムプロモータの制御下にあるかどうかにかかわらずそれぞれ独立して選択され得る、複数のオープンリーディングフレームを含み得る。あるいは、ポリタンパク質または融合ポリペプチドは、場合により自己触媒性プロテアーゼ切断部位(例えば口蹄疫ウイルス2Aタンパク質)またはインテインによって分離された個々のポリペプチドを含む。
【0321】
目的のタンパク質は、例えばレポータタンパク質、薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質、細胞内インターフェロン(IFN)シグナル伝達の阻害剤、および機能性アルファウイルス非構造タンパク質からなる群より選択され得る。
【0322】
機能性アルファウイルス非構造タンパク質
オープンリーディングフレームによってコードされるさらなる適切な目的のタンパク質は、機能性アルファウイルス非構造タンパク質である。「アルファウイルス非構造タンパク質」という用語には、糖鎖修飾(グリコシル化など)および脂質修飾形態のアルファウイルス非構造タンパク質を含む、ありとあらゆる同時翻訳または翻訳後修飾形態が含まれる。
【0323】
いくつかの実施形態では、「アルファウイルス非構造タンパク質」という用語は、アルファウイルス起源の個々の非構造タンパク質(nsP1、nsP2、nsP3、nsP4)のいずれか1つ以上、またはアルファウイルス起源の複数の非構造タンパク質のポリペプチド配列を含むポリタンパク質を指す。いくつかの実施形態では、「アルファウイルス非構造タンパク質」は、nsP123および/またはnsP4を指す。他の実施形態では、「アルファウイルス非構造タンパク質」は、nsP1234を指す。一実施形態では、オープンリーディングフレームによってコードされる目的のタンパク質は、単一の、場合により切断可能なポリタンパク質:nsP1234としてのnsP1、nsP2、nsP3およびnsP4のすべてからなる。一実施形態では、オープンリーディングフレームによってコードされる目的のタンパク質は、単一の、場合により切断可能なポリタンパク質:nsP123としてのnsP1、nsP2およびnsP3からなる。その実施形態では、nsP4はさらなる目的のタンパク質であり得、さらなるオープンリーディングフレームによってコードされ得る。
【0324】
いくつかの実施形態では、アルファウイルス非構造タンパク質は、例えば宿主細胞において、複合体または会合体を形成することができる。いくつかの実施形態では、「アルファウイルス非構造タンパク質」は、nsP123(同義語としてP123)とnsP4の複合体または会合体を指す。一部の実施形態では、「アルファウイルス非構造タンパク質」は、nsP1、nsP2、およびnsP3の複合体または会合体を指す。いくつかの実施形態では、「アルファウイルス非構造タンパク質」は、nsP1、nsP2、nsP3およびnsP4の複合体または会合体を指す。いくつかの実施形態では、「アルファウイルス非構造タンパク質」は、nsP1、nsP2、nsP3およびnsP4からなる群より選択されるいずれか1つ以上の複合体または会合体を指す。いくつかの実施形態では、アルファウイルス非構造タンパク質は少なくともnsP4を含む。
【0325】
「複合体」または「会合体」という用語は、空間的に近接している2つ以上の同じまたは異なるタンパク質分子を指す。複合体のタンパク質は、好ましくは互いに直接または間接的に物理的または物理化学的に接触している。複合体または会合体は、複数の異なるタンパク質(ヘテロ多量体)および/または1つの特定のタンパク質の複数のコピー(ホモ多量体)で構成され得る。アルファウイルス非構造タンパク質の文脈において、「複合体または会合体」という用語は、多数の、そのうちの少なくとも1つがアルファウイルス非構造タンパク質である少なくとも2つのタンパク質分子を表す。複合体または会合体は、1つの特定のタンパク質(ホモ多量体)および/または複数の異なるタンパク質(ヘテロ多量体)の複数のコピーで構成され得る。多量体の文脈において、「多」とは、2、3、4、5、6、7、8、9、10、または10を超えるなどの、1より多いことを意味する。
【0326】
「機能性アルファウイルス非構造タンパク質」という用語は、レプリカーゼ機能を有するアルファウイルス非構造タンパク質を含む。したがって、「機能性アルファウイルス非構造タンパク質」は、アルファウイルスレプリカーゼを含む。「レプリカーゼ機能」は、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)、すなわち(+)鎖RNA鋳型に基づいて(-)鎖RNAの合成を触媒することができる、および/または(-)鎖RNA鋳型に基づいて(+)鎖RNAの合成を触媒することができる酵素の機能を含む。したがって、「機能性アルファウイルス非構造タンパク質」という用語は、(+)鎖(例えばゲノム)RNAを鋳型として使用して(-)鎖RNAを合成するタンパク質もしくは複合体、ゲノムRNAの(-)鎖相補体を鋳型として使用して新しい(+)鎖RNAを合成するタンパク質もしくは複合体、および/またはゲノムRNAの(-)鎖相補体の断片を鋳型として使用してサブゲノム転写物を合成するタンパク質もしくは複合体を指すことができる。機能性アルファウイルス非構造タンパク質は、例えばプロテアーゼ(自己切断のため)、ヘリカーゼ、末端アデニリルトランスフェラーゼ(ポリ(A)尾部の付加のため)、メチルトランスフェラーゼおよびグアニリルトランスフェラーゼ(核酸に5'キャップを提供するため)、核局在化部位、トリホスファターゼなどの1つ以上の追加の機能をさらに有し得る(Gould et al.,2010,Antiviral Res.,vol.87 pp.111-124;Rupp et al.,2015,J.Gen.Virol.,vol.96,pp.2483-500)。
【0327】
本発明によれば、「アルファウイルスレプリカーゼ」という用語は、天然に存在するアルファウイルス(自然界で見出されるアルファウイルス)由来のRNA依存性RNAポリメラーゼ、および弱毒化アルファウイルス由来などのアルファウイルスの変異体または誘導体由来のRNA依存性RNAポリメラーゼを含む、アルファウイルスRNA依存性RNAポリメラーゼを指す。本発明の文脈において、文脈上特定のレプリカーゼがアルファウイルスレプリカーゼではないことが指示されない限り、「レプリカーゼ」および「アルファウイルスレプリカーゼ」という用語は互換的に使用される。
【0328】
「レプリカーゼ」という用語は、アルファウイルス感染細胞によって発現されるか、またはアルファウイルスレプリカーゼをコードする核酸でトランスフェクトされた細胞によって発現される、アルファウイルスレプリカーゼのすべての変異体、特に翻訳後修飾変異体、立体配座、アイソフォームおよびホモログを含む。さらに、「レプリカーゼ」という用語は、組換え法によって生成されたおよび生成され得るすべての形態のレプリカーゼを含む。例えば、実験室でのレプリカーゼの検出および/または精製を容易にするタグ、例えばmycタグ、HAタグまたはオリゴヒスチジンタグ(Hisタグ)を含むレプリカーゼは、組換え法によって生成され得る。
【0329】
場合により、アルファウイルスレプリカーゼは、アルファウイルスの保存された配列エレメント1(CSE 1)またはその相補的な配列、保存された配列エレメント2(CSE 2)またはその相補的な配列、保存された配列エレメント3(CSE 3)またはその相補的な配列、保存された配列エレメント4(CSE 4)またはその相補的な配列のいずれか1つ以上に結合する能力によってさらに機能的に定義される。好ましくは、レプリカーゼは、CSE 2[すなわち(+)鎖]および/もしくはCSE 4[すなわち(+)鎖]に結合することができるか、またはCSE 1の相補体[すなわち(-)鎖]および/もしくはCSE 3の相補体[すなわち(-)鎖]に結合することができる。
【0330】
レプリカーゼの起源は特定のアルファウイルスに限定されない。好ましい実施形態では、アルファウイルスレプリカーゼは、天然に存在するセムリキ森林ウイルスおよび弱毒化セムリキ森林ウイルスなどのセムリキ森林ウイルスの変異体または誘導体を含む、セムリキ森林ウイルス由来の非構造タンパク質を含む。代替的な好ましい実施形態では、アルファウイルスレプリカーゼは、天然に存在するシンドビスウイルスおよび弱毒化シンドビスウイルスなどのシンドビスウイルスの変異体または誘導体を含む、シンドビスウイルス由来の非構造タンパク質を含む。代替的な好ましい実施形態では、アルファウイルスレプリカーゼは、天然に存在するベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEEV)および弱毒化VEEVなどのVEEVの変異体または誘導体を含む、VEEV由来の非構造タンパク質を含む。代替的な好ましい実施形態では、アルファウイルスレプリカーゼは、天然に存在するチクングニアウイルス(CHIKV)および弱毒化CHIKVなどのCHIKVの変異体または誘導体を含む、CHIKV由来の非構造タンパク質を含む。
【0331】
レプリカーゼは、複数のアルファウイルス由来の非構造タンパク質を含むこともできる。したがって、アルファウイルス非構造タンパク質を含み、レプリカーゼ機能を有する異種複合体または会合体も、同様に本発明に含まれる。単に例示目的のために、レプリカーゼは、第1のアルファウイルス由来の1つ以上の非構造タンパク質(例えばnsP1、nsP2)、および第2のアルファウイルス由来の1つ以上の非構造タンパク質(nsP3、nsP4)を含み得る。複数の異なるアルファウイルス由来の非構造タンパク質は、別々のオープンリーディングフレームによってコードされ得るか、またはポリタンパク質、例えばnsP1234として単一のオープンリーディングフレームによってコードされ得る。
【0332】
いくつかの実施形態では、機能性アルファウイルス非構造タンパク質は、機能性アルファウイルス非構造タンパク質が発現される細胞において膜複製複合体および/または液胞を形成することができる。
【0333】
機能性アルファウイルス非構造タンパク質、すなわちレプリカーゼ機能を有するアルファウイルス非構造タンパク質が本発明による核酸分子によってコードされる場合、レプリコンのサブゲノムプロモータは、存在する場合、前記レプリカーゼと適合性であることが好ましい。この文脈において適合性であるとは、アルファウイルスレプリカーゼが、サブゲノムプロモータが存在する場合、サブゲノムプロモータを認識できることを意味する。一実施形態では、これは、サブゲノムプロモータが、レプリカーゼが由来するアルファウイルスに天然である、すなわちこれらの配列の天然起源が同じアルファウイルスである場合に達成される。代替的な実施形態では、サブゲノムプロモータは、アルファウイルスレプリカーゼがサブゲノムプロモータを認識できることを条件として、アルファウイルスレプリカーゼが由来するアルファウイルスに天然ではない。言い換えれば、レプリカーゼはサブゲノムプロモータと適合性である(交差ウイルス適合性)。異なるアルファウイルスに由来するサブゲノムプロモータおよびレプリカーゼに関する交差ウイルス適合性の例は、当技術分野で公知である。交差ウイルス適合性が存在する限り、サブゲノムプロモータとレプリカーゼの任意の組合せが可能である。交差ウイルス適合性は、サブゲノムプロモータからのRNA合成に適した条件で、試験するレプリカーゼを、試験するサブゲノムプロモータを有するRNAと共にインキュベートすることにより、本発明を実施する当業者によって容易に試験され得る。サブゲノム転写物が生成された場合、サブゲノムプロモータとレプリカーゼは適合性であると決定される。交差ウイルス適合性の様々な例が公知である(Strauss&Strauss,Microbiol.Rev.,1994,vol.58,pp.491-562によって総説されている)。
【0334】
一実施形態では、アルファウイルス非構造タンパク質は、異種タンパク質、例えばユビキチンとの融合タンパク質としてコードされない。
【0335】
本発明では、機能性アルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームは、RNAレプリコン上に提供され得るか、あるいは、別個の核酸分子、例えばmRNA分子として提供され得る。別個のmRNA分子は、場合により、例えばキャップ、5'-UTR、3'-UTR、ポリ(A)配列、および/またはコドン使用頻度の適合を含み得る。本発明の系について本明細書に記載されるように、別個のmRNA分子はトランスで提供され得る。
【0336】
機能性アルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームがRNAレプリコン上に提供される場合、レプリコンは、好ましくは機能性アルファウイルス非構造タンパク質によって複製され得る。特に、機能性アルファウイルス非構造タンパク質をコードするRNAレプリコンは、レプリコンによってコードされる機能性アルファウイルス非構造タンパク質によって複製され得る。この実施形態は、機能性アルファウイルス非構造タンパク質をコードする核酸分子がトランスで提供されない場合に非常に好ましい。この実施形態では、レプリコンのシス複製が目的とされる。好ましい実施形態では、RNAレプリコンは、機能性アルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームおよび目的のタンパク質をコードするさらなるオープンリーディングフレームを含み、機能性アルファウイルス非構造タンパク質によって複製され得る。この実施形態は、本発明に従って目的のタンパク質を生産するためのいくつかの方法に特に適する。それぞれのレプリコンの例を
図6に示す(「シスレプリコンΔ5ATG-RRS」)。
【0337】
レプリコンが機能性アルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含む場合、機能性アルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームは5'複製認識配列と重複しないことが好ましい。一実施形態では、機能性アルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームは、サブゲノムプロモータが存在する場合、サブゲノムプロモータと重複しない。それぞれのレプリコンの例を
図6に示す(「シスレプリコンΔ5ATG-RRS」)。
【0338】
複数のオープンリーディングフレームがレプリコン上に存在する場合、機能性アルファウイルス非構造タンパク質は、場合によりサブゲノムプロモータの制御下にあるまたは制御下にない、好ましくはサブゲノムプロモータの制御下にない、それらのいずれかによってコードされ得る。好ましい実施形態では、機能性アルファウイルス非構造タンパク質は、RNAレプリコンの最も上流のオープンリーディングフレームによってコードされる。機能性アルファウイルス非構造タンパク質がRNAレプリコンの最も上流のオープンリーディングフレームによってコードされる場合、機能性アルファウイルス非構造タンパク質をコードする遺伝情報は、宿主細胞へのRNAレプリコンの導入後早期に翻訳され、結果として生じたタンパク質は、その後、宿主細胞内で複製、および場合によりサブゲノム転写物の産生を駆動することができる。それぞれのレプリコンの例を
図6に示す(「シスレプリコンΔ5ATG-RRS」)。
【0339】
レプリコンに含まれるかまたはトランスで提供される別の核酸分子に含まれる、機能性アルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームの存在は、レプリコンが複製され、その結果として、レプリコンによってコードされる目的の遺伝子が、場合によりサブゲノムプロモータの制御下で、高レベルで発現されることを可能にする。これは、他の導入遺伝子発現系と比較してコスト面の利点に結び付く。本発明のレプリコンは機能性アルファウイルス非構造タンパク質の存在下で複製され得るため、比較的少量のレプリコンRNAが投与された場合でも、目的の遺伝子の高レベルの発現が達成され得る。レプリコンRNAの量が少ないことは、コストにプラスの影響を与える。
【0340】
RNAレプリコンにおける少なくとも1つのオープンリーディングフレームの位置
RNAレプリコンは、場合によりサブゲノムプロモータの制御下で、目的のペプチドまたは目的のタンパク質をコードする1つ以上の遺伝子の発現に適する。様々な実施形態が可能である。それぞれが目的のペプチドまたは目的のタンパク質をコードする1つ以上のオープンリーディングフレームがRNAレプリコン上に存在し得る。RNAレプリコンの最も上流のオープンリーディングフレームは、「第1のオープンリーディングフレーム」と称される。いくつかの実施形態では、「第1のオープンリーディングフレーム」は、RNAレプリコンの唯一のオープンリーディングフレームである。場合により、1つ以上のさらなるオープンリーディングフレームが第1のオープンリーディングフレームの下流に存在し得る。第1のオープンリーディングフレームの下流の1つ以上のさらなるオープンリーディングフレームは、それらが第1のオープンリーディングフレームの下流に存在する順序で(5'から3'へ)、「第2のオープンリーディングフレーム」、「第3のオープンリーディングフレーム」などと称され得る。好ましくは、各オープンリーディングフレームは、開始コドン(塩基トリプレット)、典型的にはATG(それぞれのDNA分子中)に対応するAUG(RNA分子中)を含む。
【0341】
レプリコンが3'複製認識配列を含む場合、すべてのオープンリーディングフレームが3'複製認識配列の上流に局在することが好ましい。
【0342】
1つ以上のオープンリーディングフレームを含むRNAレプリコンが宿主細胞に導入される場合、5'複製認識配列から少なくとも1つの開始コドンが除去されているため、翻訳は、好ましくは第1のオープンリーディングフレームの上流位置では開始されない。したがって、レプリコンは、直接第1のオープンリーディングフレームの翻訳のための鋳型として働き得る。好ましくは、レプリコンは5'キャップを含む。これは、レプリコンから直接第1のオープンリーディングフレームによってコードされる遺伝子の発現に役立つ。
【0343】
いくつかの実施形態では、レプリコンの少なくとも1つのオープンリーディングフレームは、サブゲノムプロモータ、好ましくはアルファウイルスサブゲノムプロモータの制御下にある。アルファウイルスサブゲノムプロモータは非常に効率的であり、したがって高レベルでの異種遺伝子発現に適する。好ましくは、サブゲノムプロモータは、アルファウイルスのサブゲノム転写物のプロモータである。これは、サブゲノムプロモータがアルファウイルスに天然であり、好ましくは前記アルファウイルス中の1つ以上の構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームの転写を制御するものであることを意味する。あるいは、サブゲノムプロモータは、アルファウイルスのサブゲノムプロモータの変異体であり、宿主細胞においてサブゲノムRNA転写のプロモータとして機能する任意の変異体が適切である。レプリコンがサブゲノムプロモータを含む場合、レプリコンは、保存された配列エレメント3(CSE 3)またはその変異体を含むことが好ましい。
【0344】
好ましくは、サブゲノムプロモータの制御下にある少なくとも1つのオープンリーディングフレームは、サブゲノムプロモータの下流に局在する。好ましくは、サブゲノムプロモータは、オープンリーディングフレームの転写物を含むサブゲノムRNAの産生を制御する。
【0345】
いくつかの実施形態では、第1のオープンリーディングフレームはサブゲノムプロモータの制御下にある。第1のオープンリーディングフレームがサブゲノムプロモータの制御下にある場合、その局在化は、アルファウイルスのゲノム内の構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームの局在化に類似する。第1のオープンリーディングフレームがサブゲノムプロモータの制御下にある場合、第1のオープンリーディングフレームによってコードされる遺伝子は、レプリコンとそのサブゲノム転写物の両方から発現され得る(後者は機能性アルファウイルス非構造タンパク質の存在下で)。それぞれの実施形態を、
図6のレプリコン「Δ5ATG-RRS」によって例示する。好ましくは、「Δ5ATG-RRS」は、nsP4のC末端断片(*nsP4)をコードする核酸配列中に開始コドンを含まない。それぞれがサブゲノムプロモータの制御下にある1つ以上のさらなるオープンリーディングフレームは、サブゲノムプロモータの制御下にある第1のオープンリーディングフレームの下流に存在し得る(
図6には示していない)。1つ以上のさらなるオープンリーディングフレームによって、例えば第2のオープンリーディングフレームによってコードされる遺伝子は、それぞれサブゲノムプロモータの制御下で、1つ以上のサブゲノム転写物から翻訳され得る。例えば、RNAレプリコンは、目的の第2のタンパク質をコードする転写物の産生を制御するサブゲノムプロモータを含み得る。
【0346】
他の実施形態では、第1のオープンリーディングフレームはサブゲノムプロモータの制御下にない。第1のオープンリーディングフレームがサブゲノムプロモータの制御下にない場合、第1のオープンリーディングフレームによってコードされる遺伝子はレプリコンから発現され得る。それぞれの実施形態を、
図6のレプリコン「Δ5ATG-RRSΔSGP」によって例示する。それぞれがサブゲノムプロモータの制御下にある1つ以上のさらなるオープンリーディングフレームは、第1のオープンリーディングフレームの下流に存在し得る(2つの例示的な実施形態の説明については、
図6の「Δ5ATG-RRS-バイシストロニック」および「シスレプリコンΔ5ATG-RRS」参照)。1つ以上のさらなるオープンリーディングフレームによってコードされる遺伝子は、サブゲノム転写物から発現され得る。
【0347】
本発明によるレプリコンを含む細胞では、レプリコンは機能性アルファウイルス非構造タンパク質によって増幅され得る。さらに、レプリコンがサブゲノムプロモータの制御下にある1つ以上のオープンリーディングフレームを含む場合、1つ以上のサブゲノム転写物が機能性アルファウイルス非構造タンパク質によって生成されると予想される。機能性アルファウイルス非構造タンパク質は、トランスで提供され得るか、またはレプリコンのオープンリーディングフレームによってコードされ得る。
【0348】
レプリコンが目的のタンパク質をコードする複数のオープンリーディングフレームを含む場合、各オープンリーディングフレームは異なるタンパク質をコードすることが好ましい。例えば、第2のオープンリーディングフレームによってコードされるタンパク質は、第1のオープンリーディングフレームによってコードされるタンパク質とは異なる。
【0349】
いくつかの実施形態では、第1のオープンリーディングフレームおよび/またはさらなるオープンリーディングフレームによって、好ましくは第1のオープンリーディングフレームによってコードされる目的のタンパク質は、機能性アルファウイルス非構造タンパク質である。いくつかの実施形態では、第1のオープンリーディングフレームおよび/またはさらなるオープンリーディングフレームによって、例えば第2のオープンリーディングフレームによってコードされる目的のタンパク質は、T細胞受容体または人工T細胞受容体の鎖である。
【0350】
一実施形態では、第1のオープンリーディングフレームによってコードされる目的のタンパク質は、機能性アルファウイルス非構造タンパク質である。その実施形態では、レプリコンは、好ましくは5'キャップを含む。特に、第1のオープンリーディングフレームによってコードされる目的のタンパク質が機能性アルファウイルス非構造タンパク質である場合、および好ましくはレプリコンが5'キャップを含む場合、機能性アルファウイルス非構造タンパク質をコードする核酸配列は、レプリコンから効率的に翻訳されることができ、および結果として生じるタンパク質は、その後、レプリコンの複製を駆動し、サブゲノム転写物(1つまたは複数)の合成を駆動することができる。この実施形態は、機能性アルファウイルス非構造タンパク質をコードするさらなる核酸分子がレプリコンと共に使用されないまたは存在しない場合に好ましい可能性がある。この実施形態では、レプリコンのシス複製が目的とされる。
【0351】
第1のオープンリーディングフレームが機能性アルファウイルス非構造タンパク質をコードする一実施形態を、
図6の「シスレプリコンΔ5ATG-RRS」によって示す。nsP1234をコードする核酸配列の翻訳後、翻訳産物(nsP1234またはその断片(1つまたは複数))はレプリカーゼとして働くことができ、RNA合成、すなわちレプリコンの複製および第2のオープンリーディングフレームを含むサブゲノム転写物の合成を駆動することができる(
図6の「導入遺伝子」)。
【0352】
トランス複製系
第2の態様では、本発明は、
機能性アルファウイルス非構造タンパク質を発現するためのRNA構築物、
機能性アルファウイルス非構造タンパク質によってトランスで複製され得る、本発明の第1の態様によるRNAレプリコン
を含む系を提供する。
【0353】
第2の態様では、RNAレプリコンは、機能性アルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含まないことが好ましい。
【0354】
したがって、本発明は、2つの核酸分子:機能性アルファウイルス非構造タンパク質を発現するための第1のRNA構築物(すなわち機能性アルファウイルス非構造タンパク質をコードする)および第2のRNA分子であるRNAレプリコンを含む系を提供する。機能性アルファウイルス非構造タンパク質を発現するためのRNA構築物は、本明細書では同義的に「機能性アルファウイルス非構造タンパク質を発現するためのRNA構築物」または「レプリカーゼ構築物」と称される。
【0355】
機能性アルファウイルス非構造タンパク質は上記で定義されたとおりであり、典型的にはレプリカーゼ構築物に含まれるオープンリーディングフレームによってコードされる。レプリカーゼ構築物によってコードされる機能性アルファウイルス非構造タンパク質は、レプリコンを複製することができる任意の機能性アルファウイルス非構造タンパク質であり得る。
【0356】
本発明の系が細胞、好ましくは真核細胞に導入された場合、機能性アルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームが翻訳され得る。翻訳後、機能性アルファウイルス非構造タンパク質は、トランスで別のRNA分子(RNAレプリコン)を複製することができる。したがって、本発明は、RNAをトランスで複製するための系を提供する。その結果として、本発明の系はトランス複製系である。第2の態様によれば、レプリコンはトランスレプリコンである。
【0357】
本明細書では、トランス(例えばトランス作用性、トランス調節性の文脈において)は、一般に、「異なる分子から作用する」(すなわち分子間)を意味する。これは、一般に、「同じ分子から作用する」(すなわち分子内)を意味するシス(例えばシス作用性、シス調節性の文脈において)の反対である。RNA合成(転写およびRNA複製を含む)の文脈において、トランス作用性要素には、RNA合成が可能な酵素(RNAポリメラーゼ)をコードする遺伝子を含む核酸配列が含まれる。RNAポリメラーゼは、RNAの合成のための鋳型として、第2の核酸分子、すなわちそれがコードされるもの以外の核酸分子を使用する。RNAポリメラーゼおよびRNAポリメラーゼをコードする遺伝子を含む核酸配列の両方が、第2の核酸分子に対して「トランスで作用する」と言われる。本発明の文脈において、トランス作用性RNAによってコードされるRNAポリメラーゼは、機能性アルファウイルス非構造タンパク質である。機能性アルファウイルス非構造タンパク質は、RNAレプリコンの複製を含むRNA合成のための鋳型として、RNAレプリコンである第2の核酸分子を使用することができる。本発明によるトランスでレプリカーゼによって複製され得るRNAレプリコンは、本明細書では同義的に「トランスレプリコン」と称される。
【0358】
本発明の系において、機能性アルファウイルス非構造タンパク質の役割は、レプリコンを増幅すること、およびサブゲノムプロモータがレプリコン上に存在する場合、サブゲノム転写物を生成することである。レプリコンが発現のための目的の遺伝子をコードする場合、目的の遺伝子の発現レベルおよび/または発現の持続時間は、機能性アルファウイルス非構造タンパク質のレベルを変更することによってトランスで調節され得る。
【0359】
アルファウイルスレプリカーゼが一般にトランスで鋳型RNAを認識し、複製することができるという事実は、1980年代に最初に発見されたが、とりわけ、トランス複製されたRNAは効率的な複製を妨げると考えられていた(これは、感染細胞のアルファウイルスゲノムと共複製する欠陥干渉(DI)RNAの場合に発見された)ため、生物医学的適用についてのトランス複製の潜在的可能性は認識されなかった(Barrett et al.,1984,J.Gen.Virol.,vol.65(Pt 8),pp.1273-1283;Lehtovaara et al.,1981,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A,vol.78,pp.5353-5357;Pettersson,1981,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A,vol.78,pp.115-119)。DI RNAは、高いウイルス量での細胞株の感染中に準天然に発生し得るトランスレプリコンである。DIエレメントは非常に効率的に共複製するため、親ウイルスの毒性を低下させ、それによって阻害性寄生RNAとして作用する(Barrett et al.,1984,J.Gen.Virol.,vol.65(Pt 11),pp.1909-1920)。生物医学的適用の潜在的可能性は認識されていなかったが、トランス複製の現象は、シスで同じ分子からレプリカーゼを発現することを必要とせずに、複製の機構を解明することを目的としたいくつかの基礎研究で用いられた;さらに、レプリカーゼとレプリコンの分離はまた、それぞれの変異体が機能喪失変異体である場合でも、ウイルスタンパク質の変異体を含む機能試験を可能にする(Lemm et al.,1994,EMBO J.,vol.13,pp.2925-2934)。これらの機能喪失試験およびDI RNAは、アルファウイルスエレメントに基づくトランス活性化系が最終的に治療目的に適うように利用可能になり得ることを示唆しなかった。
【0360】
本発明の系は、少なくとも2つの核酸分子を含む。したがって、それは、好ましくはRNA分子である、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上、7個以上、8個以上、9個以上、または10個以上の核酸分子を含み得る。好ましい実施形態では、系は、正確に2つのRNA分子、レプリコンおよびレプリカーゼ構築物からなる。代替的な好ましい実施形態では、系は、それぞれが好ましくは少なくとも1つの目的のタンパク質をコードする複数のレプリコンを含み、レプリカーゼ構築物も含む。これらの実施形態では、レプリカーゼ構築物によってコードされる機能性アルファウイルス非構造タンパク質は、複製およびサブゲノム転写物の産生をそれぞれ駆動するように各レプリコンに作用することができる。例えば、各レプリコンは、T細胞受容体または人工T細胞受容体の鎖をコードし得る。これは、例えば、複数の鎖からなる機能性T細胞受容体または人工T細胞受容体を形成するために、細胞内のT細胞受容体または人工T細胞受容体の複数の鎖の発現が望ましい場合に有利である。
【0361】
好ましくは、レプリカーゼ構築物は、(+)鎖鋳型に基づく(-)鎖合成、および/または(-)鎖鋳型に基づく(+)鎖合成に必要な少なくとも1つの保存された配列エレメント(CSE)を欠く。より好ましくは、レプリカーゼ構築物は、アルファウイルスの保存された配列エレメント(CSE)を含まない。特に、アルファウイルスの4つのCSEの中で(Strauss&Strauss,Microbiol.Rev.,1994,vol.58,pp.491-562;Jose et al.,Future Microbiol.,2009,vol.4,pp.837-856)、次のCSEのいずれか1つ以上が、好ましくはレプリカーゼ構築物上に存在しない:CSE 1;CSE 2;CSE 3;CSE 4。特に、1つ以上のアルファウイルスCSEの非存在下では、本発明のレプリカーゼ構築物は、アルファウイルスゲノムRNAに類似するよりも典型的な真核生物mRNAにはるかに類似する。
【0362】
本発明のレプリカーゼ構築物は、好ましくは、少なくとも自己複製することができない、および/またはサブゲノムプロモータの制御下にあるオープンリーディングフレームを含まないという点でアルファウイルスゲノムRNAと区別される。自己複製することができない場合、レプリカーゼ構築物は「自殺構築物」とも称され得る。
【0363】
トランス複製系は以下の利点に結び付く:
何よりもまず、トランス複製系の多用途性は、レプリコンおよびレプリカーゼ構築物を様々な時点および/または様々な部位で設計および/または調製できることを可能にする。一実施形態では、レプリカーゼ構築物を最初の時点で調製し、レプリコンをより後の時点で調製する。例えば、その調製後、後の時点での使用のためにレプリカーゼ構築物を保存し得る。本発明は、シスレプリコンと比較して高い柔軟性を提供する:本発明の系は、T細胞受容体または人工T細胞受容体の新しい鎖をコードする核酸をレプリコンにクローニングすることによって、治療用に設計され得る。事前に調製したレプリカーゼ構築物を保存から復元し得る。言い換えれば、特定のレプリコンとは独立してレプリカーゼ構築物を設計および調製することができる。
【0364】
第二に、本発明によるトランスレプリコンは、典型的には、典型的なシスレプリコンよりも短い核酸分子である。これは、目的のタンパク質をコードするレプリコンのより迅速なクローニングを可能にし、目的のタンパク質の高い収率を提供する。
【0365】
本発明の系のさらなる利点には、核転写からの独立性および2つの別個のRNA分子上の重要な遺伝情報の存在が含まれ、これはかつてない設計の自由度を提供する。互いに組み合わせることができるその多様な要素を考慮して、本発明は、所望のレベルのRNA増幅、所望の標的生物、目的のタンパク質の所望のレベルの生産などのためにレプリカーゼ発現を最適化することを可能にする。本発明による系は、インビトロまたはインビボで、所与の細胞型-休止または周期中-について様々な量または比率のレプリコンとレプリカーゼ構築物を同時トランスフェクトすることを可能にする。
【0366】
本発明によるレプリカーゼ構築物は、好ましくは一本鎖RNA分子である。本発明によるレプリカーゼ構築物は、典型的には(+)鎖RNA分子である。一実施形態では、本発明のレプリカーゼ構築物は、単離された核酸分子である。
【0367】
本発明によるRNA分子の好ましい特徴
本発明によるRNA分子は、場合により、さらなる特徴、例えば5'キャップ、5'-UTR、3'-UTR、ポリ(A)配列、および/またはコドン使用頻度の適合によって特徴付けられ得る。詳細を以下で説明する。
【0368】
キャップ
いくつかの実施形態では、本発明によるレプリコンは5'キャップを含む。
【0369】
いくつかの実施形態では、本発明によるレプリカーゼ構築物は5'キャップを含む。
【0370】
「5'キャップ」、「キャップ」、「5'キャップ構造」、「キャップ構造」という用語は、前駆体メッセンジャーRNAなどの一部の真核生物一次転写物の5'末端に見出されるジヌクレオチドを指すために同義的に使用される。5'キャップは、(場合により修飾された)グアノシンが5'-5'三リン酸結合(または特定のキャップ類似体の場合は修飾三リン酸結合)を介してmRNA分子の最初のヌクレオチドに結合している構造である。これらの用語は、従来のキャップまたはキャップ類似体を指す場合がある。説明のために、いくつかの特定のキャップジヌクレオチド(キャップ類似体ジヌクレオチドを含む)を
図7に示す。
【0371】
「5'キャップを含むRNA」または「5'キャップを備えたRNA」または「5'キャップで修飾されたRNA」または「キャップされたRNA」は、5'キャップを含むRNAを指す。例えば、RNAに5'キャップを提供することは、前記5'キャップの存在下でのDNA鋳型のインビトロ転写によって達成され得、前記5'キャップは、生成されたRNA鎖に共転写によって組み込むか、または、例えばインビトロ転写によってRNAを生成し、転写後にキャッピング酵素、例えばワクシニアウイルスのキャッピング酵素を使用して5'キャップをRNAに付着させ得る。キャップされたRNAでは、(キャップされた)RNA分子の最初の塩基の3'位置は、ホスホジエステル結合を介してRNA分子の次の塩基(「2番目の塩基」)の5'位置に連結される。
【0372】
宿主細胞または宿主生物へのそれぞれのRNAの導入後の初期段階でタンパク質をコードする核酸配列の翻訳が望ましい場合、RNA分子上のキャップの存在が非常に好ましい。例えば、キャップの存在は、RNAレプリコンによってコードされる目的の遺伝子が、それぞれのRNAの宿主細胞への導入後の初期段階で効率的に翻訳されることを可能にする。「初期段階」とは、典型的には、RNAの導入後最初の1時間以内、または最初の2時間以内、または最初の3時間以内を意味する。
【0373】
機能的なレプリカーゼの非存在下で翻訳が行われることが望ましい場合、または宿主細胞にわずかなレベルのレプリカーゼしか存在しない場合も、RNA分子上のキャップの存在が好ましい。例えば、レプリカーゼをコードする核酸分子が宿主細胞に導入された場合でも、導入後の初期段階では、典型的にはレプリカーゼのレベルはわずかである。
【0374】
本発明による系では、機能性アルファウイルス非構造タンパク質を発現するためのRNA構築物は5'キャップを含むことが好ましい。
【0375】
特に、本発明によるRNAレプリコンが機能性アルファウイルス非構造タンパク質をコードする第2の核酸分子(例えばmRNA)と共に使用または提供されない場合、RNAレプリコンは5'キャップを含むことが好ましい。独立して、RNAレプリコンは、機能性アルファウイルス非構造タンパク質をコードする第2の核酸分子と共に使用または提供される場合でも、5'キャップを含み得る。
【0376】
「従来の5'キャップ」という用語は、天然に存在する5'キャップ、好ましくは7-メチルグアノシンキャップを指す。7-メチルグアノシンキャップでは、キャップのグアノシンは修飾されたグアノシンであり、修飾は7位のメチル化からなる(
図7の上部)。
【0377】
本発明の文脈において、「5'キャップ類似体」という用語は、従来の5'キャップに類似するが、好ましくはインビボおよび/または細胞内で、RNAに付着した場合にそのRNAを安定化する能力を有するように修飾された分子構造を指す。キャップ類似体は従来の5'キャップではない。
【0378】
真核生物のmRNAの場合、5'キャップは一般にmRNAの効率的な翻訳に関与すると記述されている:一般に、真核生物では、翻訳は、内部リボソーム進入部位(IRES)が存在しない限り、メッセンジャーRNA(mRNA)分子の5'末端でのみ開始される。真核細胞は、核内での転写中にRNAに5'キャップを提供することができる:新しく合成されたmRNAは通常、例えば転写物が20~30ヌクレオチドの長さに到達すると、5'キャップ構造で修飾される。まず、5'末端ヌクレオチドpppN(pppは三リン酸を表す;Nは任意のヌクレオシドを表す)は、RNA 5'-トリホスファターゼおよびグアニリルトランスフェラーゼ活性を有するキャッピング酵素によって細胞内で5'GpppNに変換される。GpppNは、その後、(グアニン-7)-メチルトランスフェラーゼ活性を有する第2の酵素によって細胞内でメチル化されて、モノメチル化m7GpppNキャップを形成し得る。一実施形態では、本発明で使用される5'キャップは、天然の5'キャップである。
【0379】
本発明では、天然の5'キャップジヌクレオチドは、典型的には、非メチル化キャップジヌクレオチド(G(5')ppp(5')N;GpppNとも称される)およびメチル化キャップジヌクレオチド((m
7G(5')ppp(5')N;m
7GpppNとも称される)からなる群より選択される。m
7GpppN(NはGである)は、次の式で表される:
【化1】
【0380】
本発明のキャップされたRNAはインビトロで調製することができ、したがって、宿主細胞のキャッピング機構に依存しない。キャップされたRNAをインビトロで作製するために最も頻繁に使用される方法は、4つのリボヌクレオシド三リン酸すべておよびm7G(5')ppp(5')G(m7GpppGとも呼ばれる)などのキャップジヌクレオチドの存在下で細菌またはバクテリオファージRNAポリメラーゼでDNA鋳型を転写することである。RNAポリメラーゼは、次の鋳型ヌクレオシド三リン酸(pppN)のα-リン酸上のm7GpppGのグアノシン部分の3'-OHによる求核攻撃で転写を開始し、中間体m7GpppGpN(NはRNA分子の2番目の塩基である)をもたらす。競合するGTP開始産物pppGpNの形成は、インビトロ転写中のキャップ対GTPのモル比を5~10に設定することによって抑制される。
【0381】
本発明の好ましい実施形態では、5'キャップ(存在する場合)は5'キャップ類似体である。これらの実施形態は、RNAがインビトロ転写によって得られる、例えばインビトロ転写RNA(IVT-RNA)である場合に特に適する。キャップ類似体は、最初に、インビトロ転写によるRNA転写物の大規模合成を促進すると記述された。
【0382】
メッセンジャーRNAについて、いくつかのキャップ類似体(合成キャップ)がこれまでに一般的に記述されており、それらはすべて本発明の文脈で使用することができる。理想的には、より高い翻訳効率および/またはインビボ分解に対する耐性の増加および/またはインビトロ分解に対する耐性の増加に関連するキャップ類似体が選択される。
【0383】
好ましくは、一方向でのみRNA鎖に組み込むことができるキャップ類似体が使用される。Pasquinelli et al.(1995,RNA J.,vol.,1,pp.957-967)は、インビトロ転写中に、バクテリオファージRNAポリメラーゼが転写の開始のために7-メチルグアノシン単位を使用し、それによりキャップを有する転写物の約40~50%がキャップジヌクレオチドを逆方向に有する(すなわち最初の反応産物はGpppm
7GpNである)ことを明らかにした。正しいキャップを有するRNAと比較して、逆キャップを有するRNAは、核酸配列のタンパク質への翻訳に関して機能的ではない。したがって、キャップを正しい方向に組み込むこと、すなわちm
7GpppGpNなどに本質的に対応する構造を有するRNAが得られることが望ましい。キャップジヌクレオチドの逆組み込みは、メチル化グアノシン単位の2'-または3'-OH基の置換によって阻害されることが示されている(Stepinski et al.,2001;RNA J.,vol.7,pp.1486-1495;Peng et al.,2002;Org.Lett.,vol.24,pp.161-164)。そのような「抗逆キャップ類似体」の存在下で合成されるRNAは、従来の5'キャップm
7GpppGの存在下でインビトロ転写されるRNAよりも効率的に翻訳される。そのために、メチル化グアノシン単位の3'OH基がOCH
3で置き換えられた1つのキャップ類似体が、例えばHoltkamp et al.,2006,Blood,vol.108,pp.4009-4017(7-メチル(3'-O-メチル)GpppG;抗逆キャップ類似体(ARCA))によって記述されている。ARCAは、本発明による適切なキャップジヌクレオチドである。
【化2】
【0384】
本発明の好ましい実施形態では、本発明のRNAは、本質的にキャップ除去を受けにくい。一般に、培養哺乳動物細胞に導入された合成mRNAから産生されるタンパク質の量は、mRNAの自然分解によって制限されるため、これは重要である。mRNA分解の1つのインビボ経路は、mRNAキャップの除去から始まる。この除去は、調節サブユニット(Dcp1)と触媒サブユニット(Dcp2)を含むヘテロ二量体ピロホスファターゼによって触媒される。触媒サブユニットは、三リン酸架橋のαリン酸基とβリン酸基の間を切断する。本発明では、この種の切断を受けないか、または受けにくいキャップ類似体を選択し得るかまたは存在させ得る。この目的に適したキャップ類似体は、式(I):
【化3】
式(I)
[式中、R
1は、置換されていてもよいアルキル、置換されていてもよいアルケニル、置換されていてもよいアルキニル、置換されていてもよいシクロアルキル、置換されていてもよいヘテロシクリル、置換されていてもよいアリール、および置換されていてもよいヘテロアリールからなる群より選択され、
R
2およびR
3は、H、ハロ、OH、および置換されていてもよいアルコキシからなる群より独立して選択されるか、またはR
2とR
3は一緒になってO-X-O[Xは、置換されていてもよいCH
2、CH
2CH
2、CH
2CH
2CH
2、CH
2CH(CH
3)、およびC(CH
3)
2からなる群より選択される]を形成するか、またはR
2は、R
2が結合している環の4'位の水素原子と結合して-O-CH
2-もしくは-CH
2-O-を形成し、
R
5は、S、Se、およびBH
3からなる群より選択され、
R
4およびR
6は、O、S、Se、およびBH
3からなる群より独立して選択され、
nは1、2、または3である]
に従うキャップジヌクレオチドから選択され得る。
【0385】
R1、R2、R3、R4、R5、R6の好ましい実施形態は、国際公開第2011/015347A1号に開示されており、本発明において適宜に選択され得る。
【0386】
例えば、本発明の好ましい実施形態では、本発明のRNAはホスホロチオエートキャップ類似体を含む。ホスホロチオエートキャップ類似体は、三リン酸鎖の3つの非架橋O原子の1つがS原子で置換された、すなわち式(I)のR4、R5またはR6の1つがSである特定のキャップ類似体である。ホスホロチオエートキャップ類似体は、J.Kowalska et al.,2008,RNA,vol.14,pp.1119-1131によって、望ましくないキャップ除去過程に対する解決策、したがってインビボでのRNAの安定性を高めるための解決策として記載されている。特に、5'キャップのβリン酸基で硫黄原子を酸素原子に置換すると、Dcp2に対する安定化をもたらす。本発明において好ましいその実施形態では、式(I)のR5はSであり、R4およびR6はOである。
【0387】
本発明のさらなる好ましい実施形態では、本発明のRNAは、RNA 5'キャップのホスホロチオエート修飾が「抗逆キャップ類似体」(ARCA)修飾と組み合わされたホスホロチオエートキャップ類似体を含む。それぞれのARCA-ホスホロチオエートキャップ類似体は、国際公開第2008/157688 A2号に記載されており、それらはすべて本発明のRNAに使用することができる。その実施形態では、式(I)のR2またはR3の少なくとも一方はOHではなく、好ましくはR2およびR3の一方はメトキシ(OCH3)であり、R2およびR3の他方は、好ましくはOHである。好ましい実施形態では、酸素原子は、βリン酸基で硫黄原子に置換される(したがって、式(I)のR5はSであり、R4およびR6はOである)。ARCAのホスホロチオエート修飾は、α、β、およびγホスホロチオエート基が翻訳およびキャップ除去機構の両方でキャップ結合タンパク質の活性部位内に正確に配置されることを確実にすると考えられている。これらの類似体の少なくとも一部は、本質的にピロホスファターゼDcp1/Dcp2に耐性である。ホスホロチオエート修飾ARCAは、ホスホロチオエート基を欠く対応するARCAよりも、eIF4Eに対してはるかに高い親和性を有すると記載された。
【0388】
本発明において特に好ましいそれぞれのキャップ類似体、すなわちm
2'
7,2'-OGpp
spGは、β-S-ARCAと称される(国際公開第2008/157688 A2号;Kuhn et al.,Gene Ther.,2010,vol.17,pp.961-971)。したがって、本発明の一実施形態では、本発明のRNAはβ-S-ARCAで修飾される。β-S-ARCAは次の構造で表される:
【化4】
【0389】
一般に、架橋リン酸塩の酸素原子を硫黄原子に置き換えると、HPLCでの溶出パターンに基づき、D1およびD2と称されるホスホロチオエートジアステレオマーをもたらす。簡単に言えば、β-S-ARCAのD1ジアステレオマー」または「β-S-ARCA(D1)」は、β-S-ARCAのD2ジアステレオマー(β-S-ARCA(D2))と比較して、HPLCカラムで最初に溶出し、したがってより短い保持時間を示すβ-S-ARCAのジアステレオマーである。HPLCによる立体化学的配置の決定は、国際公開第2011/015347 A1号に記載されている。
【0390】
本発明の第1の特に好ましい実施形態では、本発明のRNAは、β-S-ARCA(D2)ジアステレオマーで修飾される。β-S-ARCAの2つのジアステレオマーは、ヌクレアーゼに対する感受性が異なる。β-S-ARCAのD2ジアステレオマーを担持するRNAは、Dcp2切断に対してほぼ完全に耐性である(非修飾ARCA 5'キャップの存在下で合成されたRNAと比較して、わずか6%の切断)が、β-S-ARCA(D1)5'キャップを有するRNAは、Dcp2切断に対して中程度の感受性を示す(71%の切断)ことが示されている。さらに、Dcp2切断に対する安定性の増加は、哺乳動物細胞におけるタンパク質発現の増加と相関することも示されている。特に、β-S-ARCA(D2)キャップを担持するRNAは、哺乳動物細胞においてβ-S-ARCA(D1)キャップを担持するRNAよりも効率的に翻訳されることが示されている。したがって、本発明の一実施形態では、本発明のRNAは、β-S-ARCAのD2ジアステレオマーのPβ原子における立体化学的配置に対応する式(I)の置換基R5を含むP原子における立体化学的配置を特徴とする、式(I)に従うキャップ類似体で修飾される。その実施形態では、式(I)のR5はSであり、R4およびR6はOである。さらに、式(I)のR2またはR3の少なくとも一方は、好ましくはOHではなく、好ましくはR2およびR3の一方はメトキシ(OCH3)であり、R2およびR3の他方は、好ましくはOHである。
【0391】
第2の特に好ましい実施形態では、本発明のRNAは、β-S-ARCA(D1)ジアステレオマーで修飾される。β-S-ARCA(D1)ジアステレオマーは、それぞれキャップされたRNAを未成熟抗原提示細胞に移入すると、RNAの安定性を高め、RNAの翻訳効率を高め、RNAの翻訳を延長し、RNAの総タンパク質発現を増加させ、および/または前記RNAによってコードされる抗原または抗原ペプチドに対する免疫応答を増加させるのに特に適することが実証されている(Kuhn et al.,2010,Gene Ther.,vol.17,pp.961-971)。したがって、本発明の代替的な実施形態では、本発明のRNAは、β-S-ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子における立体化学的配置に対応する式(I)の置換基R5を含むP原子における立体化学的配置を特徴とする、式(I)に従うキャップ類似体で修飾される。それぞれのキャップ類似体およびその実施形態は、国際公開第2011/015347 A1号およびKuhn et al.,2010,Gene Ther.,vol.17,pp.961-971に記載されている。置換基R5を含むP原子における立体化学的配置がβ-S-ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子における立体化学的配置に対応する、国際公開第2011/015347 A1号に記載されている任意のキャップ類似体を本発明で使用し得る。好ましくは、式(I)のR5はSであり、R4およびR6はOである。さらに、式(I)のR2またはR3の少なくとも一方は、好ましくはOHではなく、好ましくはR2およびR3の一方はメトキシ(OCH3)であり、R2およびR3の他方は、好ましくはOHである。
【0392】
一実施形態では、本発明のRNAは、いずれか1つのリン酸基がボラノリン酸基またはホスホセレノエート基によって置換されている、式(I)に従う5'キャップ構造で修飾される。そのようなキャップは、インビトロおよびインビボの両方で安定性が増加している。場合により、それぞれの化合物は2'-O-または3'-O-アルキル基を有する(アルキルは、好ましくはメチルである);それぞれのキャップ類似体は、BH3-ARCAまたはSe-ARCAと称される。mRNAのキャッピングに特に適する化合物には、国際公開第2009/149253 A2号に記載されている、β-BH3-ARCAおよびβ-Se-ARCAが含まれる。これらの化合物については、β-S-ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子における立体化学的配置に対応する、式(I)の置換基R5を含むP原子における立体化学的配置が好ましい。
【0393】
UTR
「非翻訳領域」または「UTR」という用語は、転写されるがアミノ酸配列に翻訳されないDNA分子の領域、またはmRNA分子などのRNA分子の対応する領域に関する。非翻訳領域(UTR)は、オープンリーディングフレームの5'側(上流)(5'-UTR)および/またはオープンリーディングフレームの3'側(下流)(3'-UTR)に存在し得る。
【0394】
3'-UTRは、存在する場合、タンパク質コード領域の終結コドンの下流で、遺伝子の3'末端に位置するが、「3'-UTR」という用語は、好ましくはポリ(A)尾部を含まない。したがって、3'-UTRはポリ(A)尾部(存在する場合)の上流にあり、例えばポリ(A)尾部に直接隣接している。
【0395】
5'-UTRは、存在する場合、タンパク質コード領域の開始コドンの上流で、遺伝子の5'末端に位置する。5'-UTRは5'キャップ(存在する場合)の下流にあり、例えば5'キャップに直接隣接している。
【0396】
5'および/または3'非翻訳領域は、本発明によれば、これらの領域が、オープンリーディングフレームを含むRNAの安定性および/または翻訳効率を高めるような方法でオープンリーディングフレームと結合されるように、前記オープンリーディングフレームに機能的に連結され得る。
【0397】
いくつかの実施形態では、本発明によるレプリカーゼ構築物は、5'-UTRおよび/または3'-UTRを含む。
【0398】
好ましい実施形態では、本発明によるレプリカーゼ構築物は、
(1)5'-UTR、
(2)オープンリーディングフレーム、および
(3)3'-UTR
を含む。
【0399】
UTRは、RNAの安定性および翻訳効率に関与する。特定の5'および/または3'非翻訳領域(UTR)を選択することによって、本明細書に記載の5'キャップおよび/または3'ポリ(A)尾部に関する構造修飾に加えて、両方を改善することができる。UTR内の配列エレメントは一般に、翻訳効率(主に5'-UTR)およびRNA安定性(主に3'-UTR)に影響を及ぼすと理解されている。レプリカーゼ構築物の翻訳効率および/または安定性を高めるために、活性な5'-UTRが存在することが好ましい。独立してまたはさらに、レプリカーゼ構築物の翻訳効率および/または安定性を高めるために、活性な3'-UTRが存在することが好ましい。
【0400】
第1の核酸配列(例えばUTR)に関して、「翻訳効率を高めるために活性な」および/または「安定性を高めるために活性な」という用語は、第1の核酸配列が、第2の核酸配列を有する一般的な転写物において、前記第1の核酸配列の非存在下での前記第2の核酸配列の翻訳効率および/または安定性と比較して翻訳効率および/または安定性が増加するような方法で、前記第2の核酸配列の翻訳効率および/または安定性を改変できることを意味する。
【0401】
一実施形態では、本発明によるレプリカーゼ構築物は、機能性アルファウイルス非構造タンパク質が由来するアルファウイルスに対して異種または非天然である5'-UTRおよび/または3'-UTRを含む。これは、非翻訳領域を所望の翻訳効率およびRNA安定性に従って設計することを可能にする。したがって、異種または非天然UTRは高度の柔軟性を可能にし、この柔軟性は、天然のアルファウイルスUTRと比較して有利である。特に、アルファウイルス(天然)RNAは5'-UTRおよび/または3'-UTRも含むことが公知であるが、アルファウイルスUTRは二重の機能を果たす、すなわち(i)RNA複製を駆動し、(ii)翻訳を駆動する。アルファウイルスUTRは翻訳に非効率的であると報告されたが(Berben-Bloemheuvel et al.,1992 Eur.J.Biochem.,vol.208,pp.581-587)、典型的には、その二重機能のために、より効率的なUTRに容易に置き換えることはできない。しかし、本発明では、トランスでの複製のためのレプリカーゼ構築物に含まれる5'-UTRおよび/または3'-UTRは、RNA複製に対するそれらの潜在的な影響とは独立して選択することができる。
【0402】
好ましくは、本発明によるレプリカーゼ構築物は、ウイルス起源ではない、特にアルファウイルス起源ではない5'-UTRおよび/または3'-UTRを含む。一実施形態では、レプリカーゼ構築物は、真核生物5'-UTRに由来する5'-UTRおよび/または真核生物3'-UTRに由来する3'-UTRを含む。
【0403】
本発明による5'-UTRは、場合によりリンカーによって分離された、複数の核酸配列の任意の組合せを含み得る。本発明による3'-UTRは、場合によりリンカーによって分離された、複数の核酸配列の任意の組合せを含み得る。
【0404】
本発明による「リンカー」という用語は、2つの核酸配列を連結するために前記2つの核酸配列の間に付加される核酸配列に関する。リンカー配列に関する特定の制限はない。
【0405】
3'-UTRは、典型的には200~2000ヌクレオチド、例えば500~1500ヌクレオチドの長さである。免疫グロブリンmRNAの3'非翻訳領域は比較的短い(約300ヌクレオチド未満)が、他の遺伝子の3'非翻訳領域は比較的長い。例えば、tPAの3'非翻訳領域は約800ヌクレオチド長であり、第VIII因子の3'非翻訳領域は約1800ヌクレオチド長であり、エリスロポエチンの3'非翻訳領域は約560ヌクレオチド長である。哺乳動物mRNAの3'非翻訳領域は、典型的にはAAUAAAヘキサヌクレオチド配列として公知の相同領域を有する。この配列はおそらくポリ(A)付着シグナルであり、ポリ(A)付着部位の10~30塩基上流に位置することが多い。3'-非翻訳領域は、エキソリボヌクレアーゼに対するバリアとして働く、またはRNA安定性を高めることが公知のタンパク質(例えばRNA結合タンパク質)と相互作用するステムループ構造を与えるように折りたたむことができる、1つ以上の逆方向反復配列を含み得る。
【0406】
ヒトβグロビン3'-UTR、特にヒトβグロビン3'-UTRの2つの連続する同一のコピーは、高い転写物安定性と翻訳効率に寄与する(Holtkamp et al.,2006,Blood,vol.108,pp.4009-4017)。したがって、一実施形態では、本発明によるレプリカーゼ構築物は、ヒトβグロビン3'-UTRの2つの連続する同一のコピーを含む。したがって、本発明によるレプリカーゼ構築物には、5'→3'方向に:(a)場合により5'-UTR;(b)オープンリーディングフレーム;(c)ヒトβ-グロビン3'-UTRの2つの連続する同一のコピー、その断片、またはヒトβ-グロビン3'-UTRの変異体もしくはその断片を含む3'-UTRが含まれる。
【0407】
一実施形態では、本発明によるレプリカーゼ構築物は、翻訳効率および/または安定性を高めるために活性であるが、ヒトβ-グロビン3'-UTR、その断片、またはヒトβ-グロビン3'-UTRの変異体もしくはその断片ではない3'-UTRを含む。
【0408】
一実施形態では、本発明によるレプリカーゼ構築物は、翻訳効率および/または安定性を高めるために活性である5'-UTRを含む。
【0409】
本発明によるUTR含有レプリカーゼ構築物は、例えばインビトロ転写によって調製することができる。これは、5'-UTRおよび/または3'-UTRを有するRNAの転写を可能にするような方法で、鋳型核酸分子(例えばDNA)を遺伝子改変することによって達成され得る。
【0410】
図6に示すように、レプリコンはまた、5'-UTRおよび/または3'-UTRによって特徴付けることもできる。レプリコンのUTRは、典型的にはアルファウイルスUTRまたはその変異体である。
【0411】
ポリ(A)配列
いくつかの実施形態では、本発明によるレプリコンは3'-ポリ(A)配列を含む。レプリコンが保存された配列エレメント4(CSE 4)を含む場合、レプリコンの3'-ポリ(A)配列は、好ましくはCSE 4の下流に存在し、最も好ましくはCSE 4に直接隣接する。
【0412】
いくつかの実施形態では、本発明によるレプリカーゼ構築物は3'-ポリ(A)配列を含む。
【0413】
本発明によれば、一実施形態では、ポリ(A)配列は、少なくとも20、好ましくは少なくとも26、好ましくは少なくとも40、好ましくは少なくとも80、好ましくは少なくとも100、好ましくは最大500、好ましくは最大400、好ましくは最大300、好ましくは最大200、特に最大150個のAヌクレオチド、特に約120個のAヌクレオチドを含む、または本質的にこれらからなる、またはこれらからなる。この文脈において、「本質的に~からなる」とは、ポリ(A)配列のほとんどのヌクレオチド、典型的には「ポリ(A)配列」のヌクレオチド数で少なくとも50%、好ましくは少なくとも75%がAヌクレオチド(アデニル酸)であるが、残りのヌクレオチドが、Uヌクレオチド(ウリジル酸)、Gヌクレオチド(グアニル酸)、Cヌクレオチド(シチジル酸)などのAヌクレオチド以外のヌクレオチドであることを許容することを意味する。この文脈において、「からなる」とは、ポリ(A)配列内のすべてのヌクレオチド、すなわちポリ(A)配列内のヌクレオチド数の100%がAヌクレオチドであることを意味する。「Aヌクレオチド」または「A」という用語は、アデニル酸を指す。
【0414】
実際に、約120個のAヌクレオチドの3'ポリ(A)配列は、トランスフェクトされた真核細胞中のRNAのレベル、および3'ポリ(A)配列の上流(5'側)に存在するオープンリーディングフレームから翻訳されるタンパク質のレベルに有益な影響を及ぼすことが実証されている(Holtkamp et al.,2006,Blood,vol.108,pp.4009-4017)。
【0415】
アルファウイルスでは、少なくとも11個の連続するアデニル酸残基、または少なくとも25個の連続するアデニル酸残基の3'ポリ(A)配列が、マイナス鎖の効率的な合成に重要であると考えられている。特に、アルファウイルスでは、少なくとも25個の連続するアデニル酸残基の3'ポリ(A)配列は、保存された配列エレメント4(CSE 4)と共に機能して(-)鎖の合成を促進すると理解されている(Hardy&Rice,J.Virol.,2005,vol.79,pp.4630-4639)。
【0416】
本発明は、コード鎖に相補的な鎖内に反復dTヌクレオチド(デオキシチミジル酸)を含むDNA鋳型に基づいて、RNAの転写中、すなわちインビトロ転写RNAの生成中に付着される3'ポリ(A)配列を提供する。ポリ(A)配列(コード鎖)をコードするDNA配列は、ポリ(A)カセットと称される。
【0417】
本発明の好ましい実施形態では、DNAのコード鎖に存在する3'ポリ(A)カセットは、本質的にdAヌクレオチドからなるが、4つのヌクレオチド(dA、dC、dG、dT)が均等に分布するランダム配列によって中断されている。そのようなランダム配列は、5~50、好ましくは10~30、より好ましくは10~20ヌクレオチドの長さであり得る。そのようなカセットは、国際公開第2016/005004 A1号に開示されている。国際公開第2016/005004 A1号に開示されている任意のポリ(A)カセットを本発明で使用し得る。本質的にdAヌクレオチドからなるが、4つのヌクレオチド(dA、dC、dG、dT)が均等に分布し、例えば5から50ヌクレオチドの長さを有するランダム配列によって中断されているポリ(A)カセットは、DNAレベルでは、大腸菌(E.coli)でプラスミドDNAの一定な増殖を示し、RNAレベルでは、RNAの安定性と翻訳効率の支持に関する有益な特性とまだ関連する。
【0418】
結果として、本発明の好ましい実施形態では、本明細書に記載のRNA分子に含まれる3'ポリ(A)配列は、本質的にAヌクレオチドからなるが、4つのヌクレオチド(A、C、G、U)が均等に分布するランダム配列によって中断されている。そのようなランダム配列は、5~50、好ましくは10~30、より好ましくは10~20ヌクレオチドの長さであり得る。
【0419】
コドン使用頻度
一般に、遺伝暗号の縮重は、同じコード能力を維持しながら、RNA配列に存在する特定のコドン(アミノ酸をコードする塩基トリプレット)を他のコドン(塩基トリプレット)で置換することを可能にする(置換するコドンは、置換されるコドンと同じアミノ酸をコードする)。本発明のいくつかの実施形態では、RNA分子に含まれるオープンリーディングフレームの少なくとも1つのコドンは、オープンリーディングフレームが由来する種のそれぞれのオープンリーディングフレーム内のそれぞれのコドンとは異なる。その実施形態では、オープンリーディングフレームのコード配列は「適合」または「改変」されていると言われる。レプリコンに含まれるオープンリーディングフレームのコード配列を適合させ得る。代替的または追加的に、レプリカーゼ構築物に含まれる機能性アルファウイルス非構造タンパク質のコード配列を適合させ得る。
【0420】
例えば、オープンリーディングフレームのコード配列を適合させる場合、高頻度で使用されるコドンを選択し得る:国際公開第2009/024567 A1号は、より高頻度で使用されるコドンによる希少なコドンの置換を含む、核酸分子のコード配列の適合を記載している。コドン使用頻度は宿主細胞または宿主生物に依存するため、この種の適合は、核酸配列を特定の宿主細胞または宿主生物での発現に適応させるのに適する。一般的に言えば、より高頻度で使用されるコドンは、典型的には宿主細胞または宿主生物においてより効率的に翻訳されるが、オープンリーディングフレームのすべてのコドンの適合が必ずしも必要とされるわけではない。
【0421】
例えば、オープンリーディングフレームのコード配列を適合させる場合、G(グアニル酸)残基とC(シチジル酸)残基の含有量は、各アミノ酸のGCリッチ含有量が最も高いコドンを選択することによって変更し得る。GCリッチなオープンリーディングフレームを備えるRNA分子は、免疫活性化を低下させ、RNAの翻訳と半減期を改善する潜在的可能性を有することが報告されている(Thess et al.,2015,Mol.Ther.23,1457-1465)。
【0422】
本発明によるレプリコンがアルファウイルス非構造タンパク質をコードする場合、アルファウイルス非構造タンパク質のコード配列は、所望に応じて適合させることができる。アルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームはレプリコンの5'複製認識配列と重複しないため、この自由さが可能である。
【0423】
本発明の実施形態の安全性特徴
以下の特徴は、単独でまたは任意の適切な組合せで、本発明において好ましい:
好ましくは、本発明のレプリコンまたは系は、粒子形成性ではない。これは、本発明のレプリコンまたは系による宿主細胞の接種後、宿主細胞が、次世代ウイルス粒子などのウイルス粒子を産生しないことを意味する。一実施形態では、本発明によるすべてのRNA分子は、コアヌクレオカプシドタンパク質C、エンベロープタンパク質P62、および/またはエンベロープタンパク質E1などのアルファウイルス構造タンパク質をコードする遺伝情報を全く含まない。本発明のこの態様は、構造タンパク質がトランス複製ヘルパーRNA上にコードされる先行技術の系よりも安全性に関して付加価値を提供する(例えばBredenbeek et al.,J.Virol,1993,vol.67,pp.6439-6446)。
【0424】
好ましくは、本発明の系は、コアヌクレオカプシドタンパク質C、エンベロープタンパク質P62、および/またはエンベロープタンパク質E1などのアルファウイルス構造タンパク質を含まない。
【0425】
好ましくは、本発明の系のレプリコンとレプリカーゼ構築物は、互いに同一ではない。一実施形態では、レプリコンは機能性アルファウイルス非構造タンパク質をコードしない。一実施形態では、レプリカーゼ構築物は、(+)鎖鋳型に基づく(-)鎖合成、および/または(-)鎖鋳型に基づく(+)鎖合成に必要な少なくとも1つの配列エレメント(好ましくは少なくとも1つのCSE)を欠く。一実施形態では、レプリカーゼ構築物は、CSE 1および/またはCSE 4を含まない。
【0426】
好ましくは、本発明によるレプリコンも本発明によるレプリカーゼ構築物も、アルファウイルスパッケージングシグナルを含まない。例えば、SFVのnsP2のコード領域に含まれるアルファウイルスパッケージングシグナル(White et al.1998,J.Virol.,vol.72,pp.4320-4326)は、例えば欠失または突然変異によって除去し得る。アルファウイルスパッケージングシグナルを除去する適切な方法には、nsP2のコード領域のコドン使用頻度の適合が含まれる。遺伝暗号の縮重は、コードされるnsP2のアミノ酸配列に影響を及ぼすことなく、パッケージングシグナルの機能を欠失させることを可能にし得る。
【0427】
一実施形態では、本発明の系は単離された系である。その実施形態では、系は、哺乳動物細胞の内部などの細胞の内部に存在しないか、またはアルファウイルス構造タンパク質を含むコートの内部などのウイルスカプシドの内部に存在しない。一実施形態では、本発明の系はインビトロで存在する。
【0428】
DNA
第3の態様では、本発明は、本発明の第1の態様によるRNAレプリコンをコードする核酸配列を含むDNAを提供する。
【0429】
好ましくは、DNAは二本鎖である。
【0430】
好ましい実施形態では、本発明の第3の態様によるDNAはプラスミドである。本明細書で使用される「プラスミド」という用語は、一般に、染色体DNAとは独立して複製することができる染色体外遺伝物質の構築物、通常は環状DNA二重鎖に関する。
【0431】
本発明のDNAは、DNA依存性RNAポリメラーゼによって認識され得るプロモータを含み得る。これは、コードされるRNA、例えば本発明のRNAのインビボまたはインビトロでの転写を可能にする。IVTベクターは、インビトロ転写の鋳型として標準化された方法で使用し得る。本発明による好ましいプロモータの例は、SP6、T3またはT7ポリメラーゼのプロモータである。
【0432】
一実施形態では、本発明のDNAは単離された核酸分子である。
【0433】
RNAを調製する方法
本発明による任意のRNA分子は、それが本発明の系の一部であってもなくても、インビトロ転写によって入手可能であり得る。インビトロ転写RNA(IVT-RNA)は、本発明において特に興味深い。IVT-RNAは、核酸分子(特にDNA分子)からの転写によって入手できる。本発明の第3の態様のDNA分子(1つまたは複数)は、特にDNA依存性RNAポリメラーゼによって認識され得るプロモータを含む場合、そのような目的に適する。
【0434】
本発明によるRNAは、インビトロで合成することができる。これは、インビトロ転写反応にキャップ類似体を添加することを可能にする。典型的には、ポリ(A)尾部は、DNA鋳型上のポリ(dT)配列によってコードされる。あるいは、キャッピングおよびポリ(A)尾部の付加は、転写後に酵素的に達成することができる。
【0435】
インビトロ転写の方法は当業者に公知である。例えば、国際公開第2011/015347 A1号に記載されているように、様々なインビトロ転写キットが市販されている。
【0436】
細胞を生成する方法およびそれによって生成される細胞
さらなる態様では、本発明は、T細胞またはその前駆細胞などの細胞に、本発明の1つ以上のRNAレプリコンおよび場合により機能性アルファウイルス非構造タンパク質を発現するためのRNA構築物、または前記RNAをコードするDNAを形質導入することを含む、免疫反応性細胞などの細胞を生成する方法を提供する。
【0437】
一実施形態では、本発明は、T細胞受容体または人工T細胞受容体を発現する細胞を生成する方法であって、
(a)機能性アルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含み、機能性アルファウイルス非構造タンパク質によって複製されることができ、およびT細胞受容体もしくは人工T細胞受容体の鎖(1つもしくは複数)をコードするオープンリーディングフレーム(1つもしくは複数)を含む、本発明による1つ以上のRNAレプリコン、または前記RNAレプリコン(1つもしくは複数)をコードする核酸配列を含むDNAを得る工程、ならびに
(b)前記RNAレプリコン(1つもしくは複数)またはDNAを細胞に接種する工程
を含む方法を提供する。
【0438】
さらなる実施形態では、本発明は、T細胞受容体または人工T細胞受容体を発現する細胞を生成する方法であって、
(a)機能性アルファウイルス非構造タンパク質を発現するためのRNA構築物またはこのRNA構築物をコードする核酸配列を含むDNAを得る工程、
(b)機能性アルファウイルス非構造タンパク質によってトランスで複製されることができ、およびT細胞受容体もしくは人工T細胞受容体の鎖(1つもしくは複数)をコードするオープンリーディングフレーム(1つもしくは複数)を含む、請求項1から13、および15のいずれか一項に記載の1つ以上のRNAレプリコン、または前記RNAレプリコン(1つもしくは複数)をコードする核酸配列を含むDNAを得る工程、ならびに
(c)RNA構築物またはDNAと、RNAレプリコン(1つもしくは複数)またはDNAとを細胞に共接種する工程
を含む方法を提供する。
【0439】
一実施形態では、トランスフェクトされた細胞は、1つ以上のトランスフェクトされたレプリコンおよび/もしくはトランスフェクトされたレプリカーゼ構築物によってコードされる機能性アルファウイルス非構造タンパク質、ならびに/または1つ以上のトランスフェクトされたレプリコンによってコードされるT細胞受容体もしくは人工T細胞受容体の鎖(1つもしくは複数)を発現する。一実施形態では、細胞は、好ましくはその細胞表面に、T細胞受容体または人工T細胞受容体を発現する。T細胞受容体または人工T細胞受容体の異なる鎖は、同じレプリコンまたは異なるRNAレプリコン上に存在する異なるオープンリーディングフレームによってコードされ得る。後者の実施形態では、異なるレプリコンは、好ましくは細胞に同時トランスフェクトされる。
【0440】
本方法の様々な実施形態では、機能性アルファウイルス非構造タンパク質を発現するためのRNA構築物および/またはRNAレプリコンは、RNAレプリコンが機能性アルファウイルス非構造タンパク質によってトランスで複製されることができ、およびT細胞受容体または人工T細胞受容体の鎖をコードするオープンリーディングフレームを含む限り、本発明の系について上記で定義したとおりである。機能性アルファウイルス非構造タンパク質を発現するためのRNA構築物およびRNAレプリコンは、同じ時点で接種されてもよく、あるいは異なる時点で接種されてもよい。2番目の場合、機能性アルファウイルス非構造タンパク質を発現するためのRNA構築物は、典型的には最初の時点で接種され、レプリコンは、典型的にはより後の2番目の時点で接種される。その場合、レプリカーゼは細胞内で既に合成されているため、レプリコンは直ちに複製されると想定される。2番目の時点は、典型的には最初の時点のすぐ後、例えば最初の時点の1分後から24時間後である。
【0441】
1つ以上の核酸分子を接種またはトランスフェクトできる細胞は、「宿主細胞」と称され得る。本発明によれば、「宿主細胞」という用語は、外因性核酸分子で形質転換またはトランスフェクトできる任意の細胞を指す。「細胞」という用語は、好ましくは無傷の細胞、すなわち酵素、細胞小器官、または遺伝物質などのその通常の細胞内成分を放出していない無傷の膜を有する細胞である。無傷の細胞は、好ましくは生存可能な細胞、すなわちその通常の代謝機能を実施することができる生細胞である。「宿主細胞」という用語は、本発明によれば、原核細胞(例えば大腸菌)または真核細胞(例えばヒトおよび動物細胞、植物細胞、酵母細胞および昆虫細胞)を含む。ヒト、マウス、ハムスター、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジおよびヤギを含む家畜、ならびに霊長動物由来の細胞などの哺乳動物細胞が特に好ましい。細胞は、多数の組織型に由来してもよく、初代細胞および細胞株を含み得る。具体的な例には、ケラチノサイト、末梢血白血球、骨髄幹細胞、および胚性幹細胞が含まれる。他の実施形態では、宿主細胞は、抗原提示細胞、特に樹状細胞、単球またはマクロファージである。核酸は、単一またはいくつかのコピーで宿主細胞に存在してもよく、一実施形態では、宿主細胞で発現される。
【0442】
細胞は、原核細胞または真核細胞であり得る。原核細胞は、本明細書では、例えば本発明によるDNAの増殖に適し、真核細胞は、本明細書では、例えばレプリコンのオープンリーディングフレームの発現に適する。
【0443】
本発明の目的のために、「形質導入」または「トランスフェクション」などの用語は、インビトロまたはインビボでの細胞への核酸の導入または細胞による核酸の取り込みを指す。本発明によれば、本明細書に記載の核酸のトランスフェクションのための細胞は、インビトロまたはインビボで存在することができ、例えば細胞は、患者の器官、組織および/または生物の一部を形成することができる。本発明によれば、トランスフェクションは一過性または安定であり得る。トランスフェクションのいくつかの適用では、トランスフェクトされた遺伝物質が一過性に発現されるだけで十分である。トランスフェクションの過程で導入された核酸は、通常、核ゲノムに組み込まれないため、外来核酸は有糸分裂によって希釈されるかまたは分解される。核酸のエピソーム増幅を可能にする細胞は、希釈率を大幅に低下させる。トランスフェクトされた核酸が実際に細胞およびその娘細胞のゲノムに残ることが望ましい場合は、安定なトランスフェクションが起こらなければならない。RNAを細胞にトランスフェクトして、そのコードされたタンパク質を一過性に発現させることができる。
【0444】
本発明によれば、核酸を細胞に導入する、すなわち移入またはトランスフェクトするのに有用な任意の技術を使用し得る。好ましくは、RNAなどの核酸は、標準的な技術によって細胞にトランスフェクトされる。そのような技術には、エレクトロポレーション、リポフェクションおよびマイクロインジェクションが含まれる。本発明の1つの特に好ましい実施形態では、RNAはエレクトロポレーションによって細胞に導入される。エレクトロポレーションまたはエレクトロパーミアビリゼーションは、外部から印加された電場によって引き起こされる細胞形質膜の電気伝導率と透過性の有意な増加に関連する。通常、分子生物学では、細胞にある種の物質を導入する方法として使用される。本発明によれば、タンパク質またはペプチドをコードする核酸の細胞への導入は、前記タンパク質またはペプチドの発現をもたらすことが好ましい。
【0445】
インビボでの細胞のトランスフェクションのために、核酸を含む医薬組成物を使用し得る。核酸をT細胞などの特定の細胞に指向させる送達ビヒクルを患者に投与して、インビボでトランスフェクションを生じさせ得る。
【0446】
一実施形態では、細胞を生成する方法はインビトロ法である。一実施形態では、細胞を生成する方法は、手術または治療法によるヒトまたは動物被験体からの細胞の除去を含むかまたは含まない。
【0447】
この実施形態では、本発明に従って生成された細胞を被験体に投与し得る。細胞は、被験体に関して自己、同系、同種異系または異種であり得る。トランスフェクトされた細胞は、当技術分野で公知の任意の手段を使用して被験体に(再)導入し得る。
【0448】
他の実施形態では、細胞は、患者などの被験体に存在し得る。これらの実施形態では、細胞を生成する方法は、RNAおよび/またはDNA分子を被験体に投与することを含むインビボ法である。
【0449】
これに関して、本発明は、被験体においてT細胞受容体または人工T細胞受容体を発現する細胞を生成する方法であって、
(a)機能性アルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含み、機能性アルファウイルス非構造タンパク質によって複製されることができ、およびT細胞受容体もしくは人工T細胞受容体の鎖(1つもしくは複数)をコードするオープンリーディングフレーム(1つもしくは複数)を含む、本発明の1つ以上のRNAレプリコン、または前記RNAレプリコン(1つもしくは複数)をコードする核酸配列を含むDNAを得る工程、ならびに
(b)RNAレプリコン(1つもしくは複数)またはDNAを被験体に投与する工程
を含む方法も提供する。
【0450】
本方法の様々な実施形態では、RNAレプリコンは、機能性アルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームおよびT細胞受容体または人工T細胞受容体の鎖をコードするオープンリーディングフレームを含み、ならびに機能性アルファウイルス非構造タンパク質によって複製されることができる限り、本発明のRNAレプリコンについて上記で定義したとおりである。
【0451】
本発明は、被験体においてT細胞受容体または人工T細胞受容体を発現する細胞を生成する方法であって、
(a)機能性アルファウイルス非構造タンパク質を発現するためのRNA構築物またはこのRNA構築物をコードする核酸配列を含むDNAを得る工程、
(b)機能性アルファウイルス非構造タンパク質によってトランスで複製されることができ、およびT細胞受容体もしくは人工T細胞受容体の鎖(1つもしくは複数)をコードするオープンリーディングフレーム(1つもしくは複数)を含む、本発明の1つ以上のRNAレプリコン、または前記RNAレプリコン(1つもしくは複数)をコードする核酸配列を含むDNAを得る工程、ならびに
(c)RNA構築物またはDNAとRNAレプリコン(1つもしくは複数)またはDNAを被験体に投与する工程
を含む方法を提供する。
【0452】
本方法の様々な実施形態では、機能性アルファウイルス非構造タンパク質を発現するためのRNA構築物および/またはRNAレプリコンは、RNAレプリコンが機能性アルファウイルス非構造タンパク質によってトランスで複製されることができ、およびT細胞受容体または人工T細胞受容体の鎖をコードするオープンリーディングフレームを含む限り、本発明の系について上記で定義したとおりである。機能性アルファウイルス非構造タンパク質を発現するためのRNA構築物およびRNAレプリコンは、同じ時点で投与されてもよく、あるいは異なる時点で投与されてもよい。2番目の場合、機能性アルファウイルス非構造タンパク質を発現するためのRNA構築物は、典型的には最初の時点で投与され、RNAレプリコンは、典型的にはより後の2番目の時点で投与される。その場合、レプリカーゼは細胞内で既に合成されているため、レプリコンは直ちに複製されると想定される。2番目の時点は、典型的には最初の時点のすぐ後、例えば最初の時点の1分後から24時間後である。好ましくは、RNAレプリコンおよび機能性アルファウイルス非構造タンパク質を発現するためのRNA構築物が同じ標的組織または細胞に到達する可能性を高めるために、RNAレプリコンの投与は、機能性アルファウイルス非構造タンパク質を発現するためのRNA構築物の投与と同じ部位で同じ投与経路を介して実施される。「部位」とは、被験体の身体の位置を指す。適切な部位は、例えば左腕、右腕などである。
【0453】
一実施形態では、さらなるRNA分子、好ましくはmRNA分子を被験体に投与し得る。場合により、さらなるRNA分子は、E3などのIFNを阻害するのに適したタンパク質をコードする。場合により、本発明によるレプリコンまたはレプリカーゼ構築物または系の投与の前に、さらなるRNA分子を投与し得る。
【0454】
本発明によるRNAレプリコン、本発明による系、または本発明によるキット、または本発明による医薬組成物のいずれも、本発明に従って被験体において細胞を生成する方法で使用することができる。例えば、本発明の方法では、RNAは、例えば本発明に記載されるように、薬学的組成物の形態で、または裸のRNAとして使用することができる。
【0455】
本発明の一実施形態では、T細胞受容体または人工T細胞受容体は、機能性T細胞受容体または人工T細胞受容体を生成するために細胞内で複合体を形成しなければならない2本のポリペプチド鎖などの、複数のポリペプチド鎖を含み得る。したがって、本発明は、RNAレプリコンのセットがT細胞受容体または人工T細胞受容体の異なる鎖をコードする実施形態を含む。例えば、異なるRNAレプリコンは、前記T細胞受容体または人工T細胞受容体の異なる鎖をコードする異なるオープンリーディングフレームを含み得る。これらの異なるRNAレプリコン、すなわちRNAレプリコンのセットは、機能性T細胞受容体または人工T細胞受容体を提供するために細胞に共接種され得る(場合により機能性アルファウイルス非構造タンパク質を発現するためのRNA構築物と共に)。
【0456】
細胞
本発明によれば、抗原受容体をコードする核酸を、T細胞などの免疫エフェクター細胞または溶解能を有する他の細胞、特にリンパ系細胞に導入することが特に好ましい。
【0457】
本発明の文脈において「免疫反応性細胞」または「免疫エフェクター細胞」という用語は、免疫反応中にエフェクター機能を発揮する細胞に関する。「免疫反応性細胞」は、好ましくは、細胞の表面に発現される抗原などの抗原に結合し、免疫応答を媒介することができる。例えば、そのような細胞は、サイトカインおよび/またはケモカインを分泌し、微生物を死滅させ、抗体を分泌し、感染細胞または癌性細胞を認識し、場合によりそのような細胞を排除する。例えば、免疫反応性細胞には、T細胞(細胞傷害性T細胞、ヘルパーT細胞、腫瘍浸潤T細胞)、B細胞、ナチュラルキラー細胞、好中球、マクロファージ、および樹状細胞が含まれる。好ましくは、本発明の文脈において、「免疫反応性細胞」はT細胞、好ましくはCD4+および/またはCD8+T細胞である。本発明によれば、「免疫反応性細胞」という用語は、適切な刺激で免疫細胞(T細胞、特にTヘルパー細胞、または細胞溶解性T細胞など)に成熟できる細胞も含む。免疫反応性細胞には、CD34+造血幹細胞、未成熟および成熟T細胞ならびに未成熟および成熟B細胞が含まれる。T細胞前駆体の細胞溶解性T細胞への分化は、抗原に暴露された場合、免疫系のクローン選択に類似する。
【0458】
好ましくは、「免疫反応性細胞」または「免疫エフェクター細胞」は、特に抗原提示細胞または癌細胞などの疾患細胞の表面に存在する場合、ある程度の特異性で抗原を認識する。好ましくは、前記認識は、抗原を認識する細胞が応答性または反応性になることを可能にする。細胞がヘルパーT細胞(CD4+T細胞)である場合、そのような応答性または反応性は、サイトカインの放出ならびに/またはCD8+リンパ球(CTL)および/もしくはB細胞の活性化を含み得る。細胞がCTLである場合、そのような応答性または反応性は、例えばアポトーシスまたはパーフォリン媒介細胞溶解を介した、細胞、すなわち抗原の発現を特徴とする細胞の除去を含み得る。本発明によれば、CTL応答性は、持続的なカルシウム流動、細胞分裂、IFN-γおよびTNF-αなどのサイトカインの産生、CD44およびCD69などの活性化マーカーの上方調節、ならびに抗原を発現する標的細胞の特異的細胞溶解死滅を含み得る。CTL応答性はまた、CTL応答性を正確に示す人工レポータを使用して判定し得る。抗原を認識し、応答性または反応性であるそのようなCTLは、本明細書では「抗原応答性CTL」とも称される。
【0459】
本発明の文脈において「免疫エフェクター機能」または「エフェクター機能」という用語は、例えば腫瘍細胞などの疾患細胞の死滅、または腫瘍の播種および転移の抑制を含む腫瘍成長の阻害および/もしくは腫瘍発生の阻害をもたらす免疫系の成分によって媒介される任意の機能を含む。好ましくは、本発明の文脈における免疫エフェクター機能は、T細胞媒介エフェクター機能である。そのような機能は、ヘルパーT細胞(CD4+T細胞)の場合、インターロイキン2などのサイトカインの放出ならびに/またはCD8+リンパ球(CTL)および/もしくはB細胞の活性化を含み、CTLの場合、例えばアポトーシスまたはパーフォリン媒介細胞溶解を介した、細胞、すなわち抗原の発現を特徴とする細胞の除去、IFN-γおよびTNF-αなどのサイトカインの産生、ならびに抗原を発現する標的細胞の特異的細胞溶解死滅を含む。
【0460】
本発明に関連して使用される細胞は、好ましくは免疫エフェクター細胞であり、免疫エフェクター細胞は、好ましくはT細胞である。特に、本明細書で使用される細胞は、好ましくは細胞傷害性T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、およびリンホカイン活性化キラー(LAK)細胞から選択される細胞傷害性リンパ球である。活性化/刺激すると、これらの細胞傷害性リンパ球はそれぞれ標的細胞の破壊を引き起こす。例えば、細胞傷害性T細胞は、以下の手段のいずれかまたは両方によって標的細胞の破壊を引き起こす。まず、活性化すると、T細胞は、パーフォリン、グランザイム、およびグラニュライシンなどの細胞毒を放出する。パーフォリンおよびグラニュライシンは標的細胞に孔を作り、グランザイムは細胞に進入して、細胞のアポトーシス(プログラム細胞死)を誘発する細胞質のカスパーゼカスケードを引き起こす。第二に、アポトーシスは、T細胞と標的細胞との間のFas-Fasリガンド相互作用を介して誘導され得る。T細胞および他の細胞傷害性リンパ球は、好ましくは自己細胞であるが、異種細胞または同種異系細胞を使用することができる。
【0461】
「T細胞」および「Tリンパ球」という用語は、本明細書では互換的に使用され、Tヘルパー細胞(CD4+T細胞)および細胞溶解性T細胞を含む細胞傷害性T細胞(CTL、CD8+T細胞)を含む。
【0462】
本発明に従って使用されるT細胞は、内因性T細胞受容体を発現してもよく、または内因性T細胞受容体の発現を欠いてもよい。
【0463】
キット
本発明はまた、本発明の第1の態様によるRNAレプリコンまたは本発明の第2の態様による系を含むキットを提供する。
【0464】
一実施形態では、キットの構成要素は別個の実体として存在する。例えば、キットの1つの核酸分子が1つの実体に存在し、キットの別の核酸が別の実体に存在してもよい。例えば、開放容器または閉鎖容器は適切な実体である。閉鎖容器が好ましい。使用される容器は、好ましくはRNアーゼ不含であるかまたは本質的にRNアーゼ不含であるべきである。
【0465】
一実施形態では、本発明のキットは、細胞への接種および/またはヒトもしくは動物被験体への投与のためのRNAを含む。
【0466】
本発明によるキットは、場合によりラベルまたは他の形態の情報要素、例えば電子データキャリアを含む。ラベルまたは情報要素は、好ましくは指示書、例えば印刷された書面による指示書、または場合により印刷可能な電子形式の指示書を含む。説明書には、キットの少なくとも1つの適切で可能な使用に言及し得る。
【0467】
医薬組成物
本明細書に記載の核酸および細胞などの作用物質および組成物は、任意の適切な医薬組成物の形態で投与され得る。
【0468】
本発明の医薬組成物は、好ましくは無菌であり、所望の反応または所望の効果を生じさせるために、本明細書に記載の作用物質および場合により本明細書で論じるさらなる作用物質の有効量を含む。
【0469】
医薬組成物は通常、均一な剤形で提供され、それ自体公知の方法で調製され得る。医薬組成物は、例えば溶液または懸濁液の形態であり得る。
【0470】
医薬組成物は、塩、緩衝物質、防腐剤、担体、希釈剤および/または賦形剤を含んでもよく、そのすべてが、好ましくは薬学的に許容される。「薬学的に許容される」という用語は、医薬組成物の活性成分の作用と相互作用しない物質の非毒性を指す。
【0471】
薬学的に許容されない塩は、薬学的に許容される塩を調製するために使用されてもよく、本発明に含まれる。この種の薬学的に許容される塩は、非限定的に、以下の酸:塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、クエン酸、ギ酸、マロン酸、コハク酸などから調製される塩を含む。薬学的に許容される塩は、ナトリウム塩、カリウム塩またはカルシウム塩などのアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩としても調製され得る。
【0472】
医薬組成物での使用に適する緩衝物質には、塩中の酢酸、塩中のクエン酸、塩中のホウ酸、および塩中のリン酸が含まれる。
【0473】
医薬組成物での使用に適する防腐剤には、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、パラベンおよびチメロサールが含まれる。
【0474】
注射製剤は、乳酸リンゲルなどの薬学的に許容される賦形剤を含み得る。
【0475】
「担体」という用語は、適用を容易にする、増強するまたは可能にするために活性成分が組み合わされる、天然または合成の有機または無機成分を指す。本発明によれば、「担体」という用語は、患者への投与に適する1つ以上の適合性の固体もしくは液体充填剤、希釈剤または封入物質も含む。
【0476】
非経口投与のための可能な担体物質は、例えば滅菌水、リンゲル液、乳酸リンゲル液、滅菌塩化ナトリウム溶液、ポリアルキレングリコール、水素化ナフタレンおよび、特に生体適合性ラクチドポリマー、ラクチド/グリコリドコポリマーまたはポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレンコポリマーである。
【0477】
本明細書で使用される場合「賦形剤」という用語は、例えば担体、結合剤、潤滑剤、増粘剤、界面活性剤、防腐剤、乳化剤、緩衝剤、香味剤、または着色剤などの、活性成分ではない医薬組成物中に存在し得るすべての物質を示すことが意図されている。
【0478】
一実施形態では、医薬組成物が核酸を含む場合、少なくとも1つのカチオン性実体を含む。一般に、カチオン性脂質、カチオン性ポリマーおよび正電荷を有する他の物質は、負に帯電した核酸と複合体を形成し得る。カチオン性化合物、好ましくは、例えばカチオン性またはポリカチオン性ペプチドまたはタンパク質などのポリカチオン性化合物との複合体化によって、本発明によるRNAを安定化することが可能である。一実施形態では、本発明による医薬組成物は、プロタミン、ポリエチレンイミン、ポリ-L-リジン、ポリ-L-アルギニン、ヒストンまたはカチオン性脂質からなる群より選択される少なくとも1つのカチオン性分子を含む。
【0479】
本発明によれば、カチオン性脂質は、カチオン性両親媒性分子、例えば少なくとも1つの親水性および親油性部分を含む分子である。カチオン性脂質は、モノカチオン性またはポリカチオン性であり得る。カチオン性脂質は、典型的にはステロール鎖、アシル鎖またはジアシル鎖などの親油性部分を有し、全体として正味の正電荷を有する。脂質の頭部基は、典型的には正電荷を担持する。カチオン性脂質は、好ましくは1~10価の正電荷、より好ましくは1~3価の正電荷、より好ましくは1価の正電荷を有する。カチオン性脂質の例には、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA)、ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDAB)、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、1,2-ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウムプロパン(DODAP)、1,2-ジアシルオキシ-3-ジメチルアンモニウムプロパン、1,2-ジアルキルオキシ-3-ジメチルアンモニウムプロパン、ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロリド(DODAC)、1,2-ジミリストイルオキシプロピル-1,3-ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム(DMRIE)、および2,3-ジオレオイルオキシ-N-[2(スペルミンカルボキシアミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパナミウムトリフルオロアセテート(DOSPA)が含まれるが、これらに限定されない。カチオン性脂質には、1,2-ジリノレイルオキシ-N,N-ジメチル-3-アミノプロパン(DLinDMA)を含む第三級アミン基を有する脂質も含まれる。カチオン性脂質は、リポソーム、エマルジョンおよびリポプレックスなどの本明細書に記載の脂質製剤にRNAを配合するのに適する。典型的には、正電荷には少なくとも1つのカチオン性脂質が寄与し、負電荷にはRNAが寄与する。一実施形態では、医薬組成物は、カチオン性脂質に加えて、少なくとも1つのヘルパー脂質を含む。ヘルパー脂質は中性またはアニオン性脂質であり得る。ヘルパー脂質は、リン脂質などの天然脂質、または天然脂質の類似体、または完全合成脂質、または天然脂質と類似性のない脂質様分子であり得る。医薬組成物がカチオン性脂質とヘルパー脂質の両方を含む場合、カチオン性脂質対中性脂質のモル比は、製剤の安定性などを考慮して適切に決定することができる。
【0480】
一実施形態では、本発明による医薬組成物はプロタミンを含む。本発明によれば、プロタミンはカチオン性担体剤として有用である。「プロタミン」という用語は、アルギニンに富み、魚類などの動物の精子細胞中で体細胞ヒストンの代わりに特にDNAと会合して見出される、比較的低分子量の様々な強塩基性タンパク質のいずれかを指す。特に、「プロタミン」という用語は、強塩基性で、水に可溶性であり、熱によって凝固せず、複数のアルギニンモノマーを含む、魚類の精子中で見出されるタンパク質を指す。本発明によれば、本明細書で使用される「プロタミン」という用語は、その断片を含む、天然源または生物源から得られるまたはそれに由来する任意のプロタミンアミノ酸配列、および前記アミノ酸配列またはその断片の多量体形態を含むことが意図されている。さらに、この用語は、人工的であり、特定の目的のために特別に設計され、天然源または生物源から単離することができない(合成された)ポリペプチドを包含する。
【0481】
本発明による医薬組成物は、緩衝することができる(例えば酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、コハク酸緩衝液、トリス緩衝液、リン酸緩衝液を用いて)。
【0482】
RNA含有粒子
いくつかの実施形態では、保護されていないRNAの不安定性のため、本発明のRNA分子を複合体化形態または封入形態で提供することが有利である。それぞれの医薬組成物が本発明で提供される。特に、いくつかの実施形態では、本発明の医薬組成物は、核酸含有粒子、好ましくはRNA含有粒子を含む。それぞれの医薬組成物は、粒子製剤と称される。本発明による粒子製剤では、粒子は、本発明による核酸と、核酸の送達に適した薬学的に許容される担体または薬学的に許容されるビヒクルとを含む。核酸含有粒子は、例えばタンパク質性粒子の形態または脂質含有粒子の形態であり得る。適切なタンパク質または脂質は、粒子形成剤と称される。タンパク質性粒子および脂質含有粒子は、粒子形態のアルファウイルスRNAの送達に適することが以前に記載されている(例えばStrauss&Strauss,Microbiol.Rev.,1994,vol.58,pp.491-562)。特に、アルファウイルス構造タンパク質(例えばヘルパーウイルスによって提供される)は、タンパク質性粒子の形態でRNAを送達するための適切な担体である。
【0483】
本発明による系が粒子製剤として製剤化される場合、各RNA種(例えばレプリコン、レプリカーゼ構築物、および場合によりIFNを阻害するのに適したタンパク質をコードするRNAなどのさらなるRNA種)を個々の粒子製剤として別々に製剤化することが可能である。その場合、個々の粒子製剤はそれぞれ1つのRNA種を含む。個々の粒子製剤は、例えば別々の容器中に、別々の実体として存在し得る。そのような製剤は、粒子形成剤と共に各RNA種を別々に(典型的にはそれぞれRNA含有溶液の形態で)提供し、それにより粒子の形成を可能にすることによって得られる。それぞれの粒子は、粒子が形成されるときに提供される特定のRNA種のみを含む(個々の粒子製剤)。
【0484】
一実施形態では、本発明による医薬組成物は、複数の個別粒子製剤を含む。それぞれの医薬組成物は、混合粒子製剤と称される。本発明による混合粒子製剤は、上記のように、個々の粒子製剤を別々に形成し、その後個々の粒子製剤を混合する工程によって得られる。混合の工程によって、RNA含有粒子の混合集団を含む1つの製剤が得られる(説明のために、例えば粒子の第1の集団は本発明によるレプリコンを含み、粒子の第2の集団は本発明によるレプリカーゼ構築物を含み得る)。個々の粒子集団は、個々の粒子製剤の混合集団を含む1つの容器に一緒に存在し得る。
【0485】
あるいは、医薬組成物のすべてのRNA種(例えばレプリコン、レプリカーゼ構築物、および場合によりIFNを阻害するのに適したタンパク質をコードするRNAなどのさらなる種)を組合せ粒子製剤として一緒に製剤化することが可能である。そのような製剤は、粒子形成剤と共にすべてのRNA種の組合せ製剤(典型的には組合せ溶液)を提供し、それにより粒子の形成を可能にすることによって得られる。混合粒子製剤とは対照的に、組合せ粒子製剤は、典型的には複数のRNA種を含む粒子を含む。組合せ粒子組成物では、異なるRNA種が、典型的には単一の粒子中に一緒に存在する。
【0486】
一実施形態では、本発明の粒子製剤は、ナノ粒子製剤である。その実施形態では、本発明による組成物は、ナノ粒子の形態の本発明による核酸を含む。ナノ粒子製剤は、様々なプロトコルにより、様々な複合体化合物を用いて入手できる。脂質、ポリマー、オリゴマー、または両親媒性物質は、ナノ粒子製剤の典型的な構成要素である。
【0487】
本明細書で使用される場合、「ナノ粒子」という用語は、粒子を、特に核酸の全身投与、特に非経口投与に適したものにする直径、典型的には1000ナノメートル(nm)以下の直径を有する任意の粒子を指す。一実施形態では、ナノ粒子は、約50nm~約1000nm、好ましくは約50nm~約400nm、好ましくは約100nm~約300nm、例えば約150nm~約200nmの範囲の平均直径を有する。一実施形態では、ナノ粒子は、約200~約700nm、約200~約600nm、好ましくは約250~約550nm、特に約300~約500nmまたは約200~約400nmの範囲の直径を有する。
【0488】
一実施形態では、動的光散乱によって測定される、本明細書に記載のナノ粒子の多分散指数(PI)は、0.5以下、好ましくは0.4以下、さらにより好ましくは0.3以下である。「多分散指数」(PI)は、粒子混合物中の個々の粒子(リポソームなど)の均一または不均一なサイズ分布の測定値であり、混合物中の粒子分布の幅を示す。PIは、例えば、国際公開第2013/143555 A1号に記載されているように決定することができる。
【0489】
本明細書で使用される場合、「ナノ粒子製剤」という用語または同様の用語は、少なくとも1つのナノ粒子を含む任意の粒子製剤を指す。いくつかの実施形態では、ナノ粒子組成物は、ナノ粒子の均一な集合体である。いくつかの実施形態では、ナノ粒子組成物は、リポソーム製剤またはエマルジョンなどの脂質含有医薬製剤である。
【0490】
脂質含有医薬組成物
一実施形態では、本発明の医薬組成物は、少なくとも1つの脂質を含む。好ましくは、少なくとも1つの脂質はカチオン性脂質である。前記脂質含有医薬組成物は、本発明による核酸を含む。一実施形態では、本発明による医薬組成物は、小胞、例えばリポソーム中に封入されたRNAを含む。一実施形態では、本発明による医薬組成物は、エマルジョンの形態のRNAを含む。一実施形態では、本発明による医薬組成物は、カチオン性化合物との複合体中にRNAを含み、それにより、例えばいわゆるリポプレックスまたはポリプレックスを形成する。リポソームなどの小胞内へのRNAの封入は、例えば脂質/RNA複合体とは異なる。脂質/RNA複合体は、例えば、RNAを、例えばあらかじめ形成されたリポソームと混合する場合に得られる。
【0491】
一実施形態では、本発明による医薬組成物は、小胞に封入されたRNAを含む。そのような製剤は、本発明による特定の粒子製剤である。小胞は、小さな空間を囲み、その空間を小胞の外側の空間から分離する、球状の殻に取り巻かれた脂質二重層である。典型的には、小胞内部の空間は水性空間であり、すなわち水を含む。典型的には、小胞の外側の空間は水性空間であり、すなわち水を含む。脂質二重層は、1つ以上の脂質(小胞形成脂質)によって形成される。小胞を取り囲む膜は、細胞膜のものと類似のラメラ相である。本発明による小胞は、多層小胞、単層小胞、またはそれらの混合物であり得る。小胞に封入されると、RNAは、典型的には外部媒体から分離される。したがって、RNAは、機能的に天然アルファウイルスの保護された形態と同等の、保護された形態で存在する。適切な小胞は、本明細書に記載の粒子、特にナノ粒子である。
【0492】
例えば、RNAはリポソームに封入され得る。その実施形態では、医薬組成物はリポソーム製剤であるかまたはそれを含む。リポソーム内への封入は、典型的にはRNAをRNアーゼ消化から保護する。リポソームは一部の外部RNAを含む(例えばその表面に)が、RNAの少なくとも半分(理想的にはそのすべて)をリポソームのコア内に封入することが可能である。
【0493】
リポソームは、リン脂質などの小胞形成脂質の1つ以上の二重層を有することが多い顕微鏡的脂質小胞であり、薬物、例えばRNAを封入することができる。多重層小胞(MLV)、小型単層小胞(SUV)、大型単層小胞(LUV)、立体的に安定化されたリポソーム(SSL)、多小胞性小胞(MV)および大型多小胞性小胞(LMV)、ならびに当技術分野で公知の他の二重層形態を含むがこれらに限定されない、様々な種類のリポソームを本発明の文脈において使用し得る。リポソームのサイズとラメラ性は、調製方法に依存する。単層からなるラメラ相、六方相および逆六方相、立方相、ミセル、逆ミセルを含む脂質が水性媒体中に存在し得る、超分子構造のいくつかの他の形態が存在する。これらの相は、DNAまたはRNAと組み合わせて得ることもでき、RNAおよびDNAとの相互作用は、相状態に実質的に影響を及ぼし得る。そのような相は、本発明のナノ粒子RNA製剤中に存在し得る。
【0494】
リポソームは、当業者に公知の標準的な方法を使用して形成され得る。それぞれの方法には、逆蒸発法、エタノール注入法、脱水-再水和法、超音波処理または他の適切な方法が含まれる。リポソームの形成後に、リポソームをサイズ分類して、実質的に均一なサイズ範囲を有するリポソームの集団を得ることができる。
【0495】
本発明の好ましい実施形態では、RNAは、少なくとも1つのカチオン性脂質を含むリポソーム中に存在する。それぞれのリポソームは、少なくとも1つのカチオン性脂質が使用されることを条件として、単一の脂質からまたは脂質の混合物から形成され得る。好ましいカチオン性脂質は、プロトン化され得る窒素原子を有し、好ましくは、そのようなカチオン性脂質は、第三級アミン基を有する脂質である。第三級アミン基を有する特に適切な脂質は、1,2-ジリノレイルオキシ-N,N-ジメチル-3-アミノプロパン(DLinDMA)である。一実施形態では、本発明によるRNAは、国際公開第2012/006378 A1号に記載されているリポソーム製剤中に存在し、リポソームは、RNAを含む水性コアを封入する脂質二重層を有し、脂質二重層は、好ましくは第三級アミン基を有する、5.0~7.6の範囲のpKaを有する脂質を含む。第三級アミン基を有する好ましいカチオン性脂質には、DLinDMA(pKa 5.8)が含まれ、国際公開第2012/031046 A2号に一般的に記載されている。国際公開第2012/031046 A2号によれば、それぞれの化合物を含むリポソームは、RNAの封入、したがってRNAのリポソーム送達に特に適する。一実施形態では、本発明によるRNAはリポソーム製剤中に存在し、リポソームは、その頭部基が、プロトン化され得る少なくとも1つの窒素原子(N)を含む少なくとも1つのカチオン性脂質を含み、リポソームおよびRNAは、1:1~20:1のN:P比を有する。本発明によれば、「N:P比」は、国際公開第2013/006825 A1号に記載されているように、カチオン性脂質中の窒素原子(N)対脂質含有粒子(例えばリポソーム)に含まれるRNA中のリン酸原子(P)のモル比を指す。1:1~20:1のN:P比は、リポソームの正味電荷および脊椎動物細胞へのRNAの送達効率に関与する。
【0496】
一実施形態では、本発明によるRNAは、ポリエチレングリコール(PEG)部分を含む少なくとも1つの脂質を含むリポソーム製剤中に存在し、RNAは、国際公開第2012/031043 A1号および国際公開第2013/033563 A1号に記載されているように、PEG部分がリポソームの外側に存在するようにPEG化リポソーム内に封入される。
【0497】
一実施形態では、本発明によるRNAは、国際公開第2012/030901 A1号に記載されているように、リポソームが60~180nmの範囲の直径を有するリポソーム製剤中に存在する。
【0498】
一実施形態では、本発明によるRNAは、国際公開第2013/143555 A1号に開示されているように、RNA含有リポソームがゼロに近いまたは負の正味電荷を有するリポソーム製剤中に存在する。
【0499】
他の実施形態では、本発明によるRNAはエマルジョンの形態で存在する。エマルジョンは、RNA分子などの核酸分子を細胞に送達するために使用されることが以前に記載されている。本明細書では、水中油型エマルジョンが好ましい。それぞれのエマルジョン粒子は、油コアおよびカチオン性脂質を含む。本発明によるRNAがエマルジョン粒子に複合体化されているカチオン性水中油型エマルジョンがより好ましい。エマルジョン粒子は、油コアおよびカチオン性脂質を含む。カチオン性脂質は負に帯電したRNAと相互作用することができ、それによってRNAをエマルジョン粒子に固定する。水中油型エマルジョンでは、エマルジョン粒子は水性連続相に分散している。例えば、エマルジョン粒子の平均直径は、典型的には約80nm~180nmであり得る。一実施形態では、本発明の医薬組成物はカチオン性水中油型エマルジョンであり、エマルジョン粒子は、国際公開第2012/006380 A2号に記載されているように、油コアおよびカチオン性脂質を含む。本発明によるRNAは、国際公開第2013/006834 A1号に記載されているように、N:P比が少なくとも4:1である、カチオン性脂質を含むエマルジョンの形態で存在し得る。本発明によるRNAは、国際公開第2013/006837 A1号に記載されているように、カチオン性脂質エマルジョンの形態で存在し得る。特に、組成物は、カチオン性水中油型エマルジョンの粒子と複合体化したRNAを含んでもよく、油/脂質の比は少なくとも約8:1(モル:モル)である。
【0500】
他の実施形態では、本発明による医薬組成物は、リポプレックスの形式のRNAを含む。「リポプレックス」または「RNAリポプレックス」という用語は、脂質と、RNAなどの核酸との複合体を指す。リポプレックスは、カチオン性(正に帯電した)リポソームとアニオン性(負に帯電した)核酸で形成され得る。カチオン性リポソームは、中性の「ヘルパー」脂質も含み得る。最も単純な場合には、特定の混合プロトコルで核酸とリポソームを混合することによってリポプレックスが自発的に形成されるが、他の様々なプロトコルも適用し得る。正に帯電したリポソームと負に帯電した核酸との間の静電的相互作用が、リポプレックス形成の駆動力であることが理解されている(国際公開第2013/143555 A1号)。本発明の一実施形態では、RNAリポプレックス粒子の正味電荷はゼロに近いかまたは負である。RNAおよびリポソームの電気的に中性または負に帯電したリポプレックスは、全身投与後に脾臓樹状細胞(DC)における実質的なRNA発現をもたらし、正に帯電したリポソームおよびリポプレックスについて報告されている毒性の増加には関連しないことが公知である(国際公開第2013/143555 A1号参照)。したがって、本発明の一実施形態では、本発明による医薬組成物は、(i)ナノ粒子中の正電荷の数がナノ粒子中の負電荷の数を超えず、および/または(ii)ナノ粒子が中性もしくは正味の負電荷を有し、および/または(iii)ナノ粒子の正電荷対負電荷の電荷比が1.4:1以下であり、および/または(iv)ナノ粒子のゼータ電位が0以下である、ナノ粒子、好ましくはリポプレックスナノ粒子の形式のRNAを含む。国際公開第2013/143555 A1号に記載されているように、ゼータ電位は、コロイド系の界面動電位の科学用語である。本発明では、(a)ゼータ電位および(b)ナノ粒子中のRNAに対するカチオン性脂質の電荷比は、両方とも、国際公開第2013/143555 A1号に開示されているように計算することができる。要約すると、国際公開第2013/143555 A1号に開示されているように、粒子の正味電荷がゼロに近いかまたは負である、規定の粒径を有するナノ粒子リポプレックス製剤である医薬組成物が、本発明の文脈において好ましい医薬組成物である。
【0501】
治療的処置
被験体に投与される能力を考慮して、本発明によるRNAレプリコン、本発明による系、本発明によるDNA、本発明による細胞、本発明によるキット、または本発明による医薬組成物の各々は、「薬剤」などと称され得る。本発明は、本発明のRNAレプリコン、系、DNA、細胞、キット、または医薬組成物が薬剤として使用するために提供されることを予測する。
【0502】
薬剤は、被験体を治療するために使用することができる。「治療する」とは、本明細書に記載の化合物または組成物または他の実体を被験体に投与することを意味する。この用語には、療法によってヒトまたは動物の身体を治療する方法が含まれる。
【0503】
「治療」または「治療的処置」という用語は、好ましくは個体の健康状態を改善する、および/または寿命を延長させる(増加させる)任意の治療に関する。前記治療は、個体の疾患を除去し、個体の疾患の発症を停止もしくは遅延させ、個体の疾患の発症を阻害もしくは遅延させ、個体の症状の頻度もしくは重症度を減少させ、および/または現在疾患を有しているかもしくは以前に有していたことがある個体の再発を減少させ得る。
【0504】
「予防的治療」または「予防的処置」という用語は、個体において疾患が発生するのを防ぐことを意図した任意の治療に関する。「予防的治療」または「予防的処置」という用語は、本明細書では互換的に使用される。
【0505】
特に、細胞、特に本明細書に記載のT細胞受容体または人工T細胞受容体を発現するように操作されたT細胞などの免疫エフェクター細胞は、被験体において免疫応答を提供するのに有用であり、特にT細胞受容体または人工T細胞受容体が標的とする抗原の発現を特徴とする疾患の治療に有用である。
【0506】
「免疫応答を提供する」とは、免疫応答を提供する前には特定の標的抗原、標的細胞および/または標的組織に対する免疫応答がなかったことを意味し得るが、また、免疫応答を提供する前に特定の標的抗原、標的細胞および/または標的組織に対する一定のレベルの免疫応答があり、免疫応答を提供した後、前記免疫応答が増強されることも意味し得る。したがって、「免疫応答を提供する」には、「免疫応答を誘導する」および「免疫応答を増強する」が含まれる。好ましくは、被験体において免疫応答を提供した後、前記被験体は癌疾患などの疾患を発症することから保護されるか、または免疫応答を提供することによって疾患状態が改善される。例えば、腫瘍抗原に対する免疫応答は、癌疾患を有する患者、または癌疾患を発症する危険性がある被験体において提供され得る。この場合の免疫応答の提供は、被験体の疾患状態が改善されること、被験体が転移を発症しないこと、または癌疾患を発症する危険性がある被験体が癌疾患を発症しないことを意味し得る。
【0507】
本発明の様々な態様によれば、目的は、好ましくは、腫瘍抗原を発現する癌細胞などの抗原を発現する疾患細胞に対する免疫応答を提供し、腫瘍抗原などの抗原を発現する細胞が関与する癌疾患などの疾患を治療することである。
【0508】
本明細書に記載の抗原特異的免疫細胞は、免疫細胞で発現される抗原受容体によって結合され得る抗原の発現を特徴とする疾患を予防または治療するために患者に投与することができる。そのような免疫細胞は、抗原を発現する細胞の選択的根絶、ならびに免疫細胞で発現される抗原受容体によって結合され得る抗原が発現される疾患に対する免疫またはワクチン接種に使用することができる。
【0509】
一実施形態では、疾患を治療または予防する方法は、本発明の抗原受容体をコードする核酸の有効量を患者に投与することを含み、抗原受容体は、治療または予防する疾患に関連する抗原(例えばウイルス抗原または腫瘍抗原)に結合することができる。別の実施形態では、疾患を治療または予防する方法は、有効量の組換え免疫エフェクター細胞または前記免疫エフェクター細胞の増殖した集団を患者に投与することを含み、免疫エフェクター細胞または細胞の集団は、抗原受容体を組換え的に発現し、抗原受容体は、治療または予防する疾患に関連する抗原に結合することができる。好ましい実施形態では、疾患は癌であり、抗原は腫瘍関連抗原である。
【0510】
別の実施形態では、本発明は、特定の抗原に関連する疾患または特定の抗原を発現する疾患原因生物に対して免疫化またはワクチン接種する方法を提供し、この方法は、本発明の抗原受容体をコードする核酸の有効量を患者に投与することを含み、抗原受容体は特定の抗原に結合することができる。別の実施形態では、本発明は、特定の抗原に関連する疾患または特定の抗原を発現する疾患原因生物に対して免疫化またはワクチン接種する方法を提供し、この方法は、有効量の組換え免疫エフェクター細胞または前記免疫エフェクター細胞の増殖した集団を患者に投与することを含み、免疫エフェクター細胞または細胞の集団は抗原受容体を組換え的に発現し、抗原受容体は特定の抗原に結合することができる。
【0511】
特定の実施形態では、免疫エフェクター細胞の集団は、クローン増殖した集団であり得る。組換え免疫エフェクター細胞またはその集団は、抗原特異的な方法で治療的または予防的免疫エフェクター機能を提供する。好ましくは、抗原受容体は免疫エフェクター細胞の細胞表面に発現される。
【0512】
したがって、本明細書に記載の作用物質、組成物および方法は、疾患、例えば抗原を発現する疾患細胞の存在を特徴とする疾患を有する被験体を治療するために使用できる。特に好ましい疾患は癌疾患である。本明細書に記載の作用物質、組成物および方法は、本明細書に記載の疾患を予防するための免疫化またはワクチン接種にも使用し得る。
【0513】
「疾患」という用語は、個体の身体に影響を及ぼす異常な状態を指す。疾患はしばしば、特定の症状および徴候に関連する医学的状態として解釈される。疾患は、感染症などの元々外部からの要因によって引き起こされ得るか、または自己免疫疾患などの内部機能障害によって引き起こされ得る。ヒトでは、「疾患」はしばしば、罹患した個体に疼痛、機能障害、困難、社会的問題、もしくは死を引き起こす、または個体と接触するものに対して同様の問題を引き起こす状態を指すためにより広く使用される。このより広い意味では、疾患は時に、損傷、無力、障害、症候群、感染、孤立した症状、逸脱した挙動、および構造と機能の非定型の変化を含むが、他の状況および他の目的では、これらは区別可能なカテゴリーとみなされ得る。多くの疾患を患い、それと共に生活することは人生観および人格を変える可能性があるため、疾患は通常、身体的にだけでなく感情的にも個体に影響を及ぼす。本発明によれば、「疾患」という用語は、感染症および癌疾患、特に本明細書に記載の癌の形態を含む。本明細書における癌または癌の特定の形態への言及には、その癌転移も含まれる。
【0514】
本発明に従って治療される疾患は、好ましくは、抗原の発現を特徴とする細胞が関与する疾患である。「抗原の発現を特徴とする細胞が関与する疾患」または同様の表現は、本発明によれば、抗原が疾患組織または器官の細胞において発現されることを意味する。疾患組織または器官の細胞における発現は、健常組織または器官の状態と比較して増加し得る。一実施形態では、発現は疾患組織でのみ認められ、健常組織での発現は認められず、例えば発現は抑制される。本発明によれば、抗原の発現を特徴とする細胞が関与する疾患には、感染症および癌疾患が含まれ、疾患関連抗原は、好ましくはそれぞれ感染因子の抗原および腫瘍抗原である。
【0515】
「健常」または「正常」という用語は、非病的状態を指し、好ましくは非感染または非癌性を意味する。
【0516】
本発明の実施形態では、「抗原を標的とするT細胞受容体または人工T細胞受容体」または同様の用語は、プロセシングされた抗原、すなわちMHCに関連して提示されるT細胞エピトープに結合するT細胞受容体、細胞表面に発現された抗原に結合する人工T細胞受容体、およびプロセシングされた抗原、すなわちHMCに関連して提示されるT細胞エピトープに結合する人工T細胞受容体を含む。T細胞などの免疫エフェクター細胞上に存在する場合、T細胞受容体または人工T細胞受容体の結合は、好ましくは、免疫エフェクター細胞の刺激、プライミングおよび/または増殖、ならびに本明細書に記載のエフェクター機能を発揮する免疫エフェクター細胞をもたらす。
【0517】
T細胞受容体の使用を含む本発明の実施形態は、一般に、MHC分子に関連して細胞表面に提示される抗原プロセシング産物、すなわち抗原エピトープまたはT細胞エピトープの認識を通じて抗原発現細胞を標的とすることを目指す。人工T細胞受容体の使用を含む本発明の実施形態は、一般に、細胞表面に発現される抗原(例えば人工T細胞受容体が抗体由来の抗原結合ドメインを含む場合)またはMHC分子に関連して細胞表面に提示される抗原プロセシング産物、すなわち抗原エピトープもしくはT細胞エピトープ(例えば人工T細胞受容体がT細胞受容体由来の結合ドメインを含む場合)の認識を通じて抗原発現細胞を標的とすることを目指す。好ましくは、抗原またはエピトープは、T細胞受容体または人工T細胞受容体によって認識される場合、適切な共刺激シグナルの存在下で、抗原またはエピトープを認識するT細胞受容体または人工T細胞受容体を担持するT細胞のクローン増殖を誘導することができる。
【0518】
本発明に従って標的とされる抗原は、病原体または腫瘍抗原に由来する抗原であり得る。したがって、本発明に従って治療され得る疾患は、病原体または癌によって引き起こされるものである。
【0519】
好ましい実施形態では、抗原は、疾患特異的抗原または疾患関連抗原である。「疾患特異的抗原」または「疾患関連抗原」という用語は、病理学的に重要なすべての抗原を指す。1つの特に好ましい実施形態では、抗原は、疾患細胞、組織および/または器官に存在するが、健常細胞、組織および/または器官には存在しないかまたは減少した量で存在し、したがって、例えば抗原を標的とする抗原受容体(T細胞受容体または人工T細胞受容体)を担持するT細胞によって、疾患細胞、組織および/または器官を標的とするために使用できる。一実施形態では、疾患特異的抗原または疾患関連抗原は、疾患細胞の表面に存在する。
【0520】
「病原体」という用語は、生物、好ましくは脊椎動物において疾患を引き起こすことができる病原性の生物学的物質を指す。病原体には、細菌、単細胞真核生物(原生動物)、真菌、およびウイルスなどの微生物が含まれる。
【0521】
病原性ウイルスの例は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、サイトメガロウイルス(CMV)、ヘルペスウイルス(HSV)、A型肝炎ウイルス(HAV)、HBV、HCV、パピローマウイルス、およびヒトTリンパ球向性ウイルス(HTLV)である。単細胞生物には、プラスモジウム、トリパノソーマ、アメーバなどが含まれる。
【0522】
病原性単細胞真核生物寄生虫は、例えば、プラスモジウム属(genus Plasmodium)、例えば熱帯熱マラリア原虫(P.falciparum)、三日熱マラリア原虫(P.vivax)、四日熱マラリア原虫(P.malariae)もしくは卵形マラリア原虫(P.ovale)、リーシュマニア属(genus Leishmania)、またはトリパノソーマ属(genus Trypanosoma)、例えばクルーズトリパノソーマ(T.cruzi)もしくはブルーストリパノソーマ(T.brucei)に由来し得る。
【0523】
好ましい実施形態では、抗原は、腫瘍抗原または腫瘍関連抗原、すなわち細胞質、細胞表面および細胞核に由来し得る癌細胞の構成要素、特に癌細胞の表面抗原として、好ましくは大量に産生される抗原である。
【0524】
本発明の文脈において、「腫瘍抗原」または「腫瘍関連抗原」という用語は、正常条件下では限られた数の組織および/もしくは器官で、または特定の発生段階で特異的に発現されるタンパク質に関し、例えば腫瘍抗原は、正常条件下では胃組織、好ましくは胃粘膜、生殖器官、例えば精巣、栄養膜組織、例えば胎盤、または生殖系列細胞で特異的に発現され得、および1つ以上の腫瘍または癌組織で発現または異常発現される。この文脈において、「限られた数」は、好ましくは3以下、より好ましくは2以下を意味する。本発明の文脈における腫瘍抗原には、例えば分化抗原、好ましくは細胞型特異的分化抗原、すなわち正常条件下では特定の分化段階で特定の細胞型において特異的に発現されるタンパク質、癌/精巣抗原、すなわち正常条件下では精巣および時には胎盤で特異的に発現されるタンパク質、ならびに生殖系列特異的抗原が含まれる。本発明の文脈において、腫瘍抗原は、好ましくは癌細胞の細胞表面と関連し、好ましくは正常組織では発現されないかまたはまれにしか発現されない。好ましくは、腫瘍抗原または腫瘍抗原の異常な発現は、癌細胞を同定する。本発明の文脈において、被験体、例えば癌疾患に罹患している患者の癌細胞によって発現される腫瘍抗原は、好ましくは前記被験体の自己タンパク質である。好ましい実施形態では、本発明の文脈における腫瘍抗原は、正常条件下では非必須の組織もしくは器官、すなわち免疫系によって損傷された場合に被験体の死をもたらさない組織もしくは器官において、または免疫系がアクセスできないもしくはほとんどアクセスできない身体の器官または構造において特異的に発現される。好ましくは、腫瘍抗原のアミノ酸配列は、正常組織で発現される腫瘍抗原と癌組織で発現される腫瘍抗原との間で同一である。
【0525】
本発明において有用であり得る腫瘍抗原の例は、p53、ART-4、BAGE、β-カテニン/m、Bcr-abL CAMEL、CAP-1、CASP-8、CDC27/m、CDK4/m、CEA、クローディン-6、クローディン-18.2およびクローディン-12などのクローディンファミリーの細胞表面タンパク質、c-MYC、CT、Cyp-B、DAM、ELF2M、ETV6-AML1、G250、GAGE、GnT-V、Gap100、HAGE、HER-2/neu、HPV-E7、HPV-E6、HAST-2、hTERT(またはhTRT)、LAGE、LDLR/FUT、MAGE-A、好ましくはMAGE-A1、MAGE-A2、MAGE-A3、MAGE-A4、MAGE-A5、MAGE-A6、MAGE-A7、MAGE-A8、MAGE-A9、MAGE-A10、MAGE-A11、またはMAGE-A12、MAGE-B、MAGE-C、MART-1/メランA、MC1R、ミオシン/m、MUC1、MUM-1、-2、-3、NA88-A、NF1、NY-ESO-1、NY-BR-1、p190マイナーBCR-abL、Pm1/RARa、PRAME、プロテイナーゼ3、PSA、PSM、RAGE、RU1またはRU2、SAGE、SART-1またはSART-3、SCGB3A2、SCP1、SCP2、SCP3、SSX、サバイビン、TEL/AML1、TPI/m、TRP-1、TRP-2、TRP-2/INT2、TPTEおよびWTである。特に好ましい腫瘍抗原には、クローディン-18.2(CLDN18.2)およびクローディン-6(CLDN6)が含まれる。
【0526】
本明細書で使用される「CLDN」または単に「Cl」という用語は、クローディンを意味し、CLDN6およびCLDN18.2を含む。好ましくは、クローディンはヒトクローディンである。クローディンは、密着結合の最も重要な成分であるタンパク質のファミリーであり、密着結合において上皮の細胞の間の細胞間隙中の分子の流れを制御する傍細胞バリアを確立する。クローディンは、N末端およびC末端の両方が細胞質に位置し、膜を4回横切る膜貫通タンパク質である。EC1またはECL1と称される最初の細胞外ループは平均53個のアミノ酸からなり、EC2またはECL2と称される2番目の細胞外ループは約24個のアミノ酸からなる。クローディンファミリーの細胞表面タンパク質は、様々な起源の腫瘍で発現され、それらの選択的発現(毒性関連の正常組織では発現されない)および形質膜への局在化により、標的癌免疫療法に関連する標的構造体として特に適する。
【0527】
CLDN6とCLDN18.2は腫瘍組織で差別的に発現されることが同定されており、CLDN18.2を発現する唯一の正常組織は胃(胃粘膜の分化上皮細胞)であり、CLDN6を発現する唯一の正常組織は胎盤である。
【0528】
CLDN18.2は、膵臓癌、食道癌、胃癌、気管支癌、乳癌、ENT腫瘍などの様々な起源の癌で発現される。CLDN18.2は、胃癌、食道癌、膵臓癌、非小細胞肺癌(NSCLC)などの肺癌、卵巣癌、結腸癌、肝臓癌、頭頸部癌、および胆嚢の癌、ならびにそれらの転移、特にクルーケンベルグ腫瘍などの胃癌転移、腹膜転移、およびリンパ節転移などの、原発腫瘍の予防および/または治療の貴重な標的である。少なくともCLDN18.2を標的とする抗原受容体は、そのような癌疾患を治療するのに有用である。
【0529】
CLDN6は、例えば卵巣癌、肺癌、胃癌、乳癌、肝癌、膵臓癌、皮膚癌、黒色腫、頭頸部癌、肉腫、胆管癌、腎細胞癌、および膀胱癌において発現されることが認められている。CLDN6は、卵巣癌、特に卵巣腺癌および卵巣奇形癌、小細胞肺癌(SCLC)および非小細胞肺癌(NSCLC)を含む肺癌、特に扁平上皮肺癌および腺癌、胃癌、乳癌、肝癌、膵臓癌、皮膚癌、特に基底細胞癌および扁平上皮癌、悪性黒色腫、頭頸部癌、特に悪性多形腺腫、肉腫、特に滑膜肉腫および癌肉腫、胆管癌、膀胱の癌、特に移行上皮癌および乳頭状癌、腎癌、特に腎明細胞癌および乳頭状腎細胞癌を含む腎細胞癌、結腸癌、回腸の癌を含む小腸癌、特に小腸腺癌および回腸の腺癌、精巣胎児性癌、胎盤絨毛癌、子宮頸癌、精巣癌、特に精巣セミノーマ、精巣奇形腫および精巣胎児性癌、子宮癌、奇形癌または胎生期癌などの生殖細胞腫瘍、特に精巣の生殖細胞腫瘍、ならびにそれらの転移形態の予防および/または治療のための特に好ましい標的である。少なくともCLDN6を標的とする抗原受容体は、そのような癌疾患を治療するのに有用である。
【0530】
「癌疾患」または「癌」という用語は、典型的には無秩序な細胞成長を特徴とする個体の生理学的状態を指すかまたは表す。癌の例には、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、および白血病が含まれるが、これらに限定されない。より具体的には、そのような癌の例には、骨癌、血液癌、肺癌、肝臓癌、膵臓癌、皮膚癌、頭頸部癌、皮膚または眼内黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門領域の癌、胃癌、結腸癌、乳癌、前立腺癌、子宮癌、性器および生殖器の癌、ホジキン病、食道癌、小腸癌、内分泌系の癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟部組織肉腫、膀胱癌、腎臓癌、腎細胞癌、腎盂癌、中枢神経系(CNS)の新生物、神経外胚葉癌、脊髄軸腫瘍、神経膠腫、髄膜腫、および下垂体腺腫が含まれるが、これらに限定されない。本発明による「癌」という用語は、癌転移も含む。好ましくは、「癌疾患」は、腫瘍抗原を発現する細胞を特徴とし、癌細胞は腫瘍抗原を発現する。
【0531】
一実施形態では、癌疾患は、退形成、侵襲性、および転移の性質を特徴とする悪性疾患である。悪性腫瘍は、悪性疾患がその成長において自己限定性でなく、隣接組織に浸潤することができ、および遠位の組織に広がる(転移する)能力を有し得るという点で非癌性の良性腫瘍と対比され得、良性腫瘍はこれらの性質を有さない。
【0532】
本発明によれば、「腫瘍」または「腫瘍疾患」という用語は、細胞(新生細胞または腫瘍細胞と呼ばれる)の異常な増殖によって形成される腫脹または病変を指す。「腫瘍細胞」とは、急速で制御されない細胞増殖によって成長し、新たな成長を開始させた刺激が停止した後も成長し続ける異常細胞を意味する。腫瘍は、構造機構および正常組織との機能的協調の部分的または完全な欠如を示し、通常、良性、前悪性または悪性のいずれかであり得る明確な組織塊を形成する。
【0533】
「転移」とは、癌細胞がその元の部位から身体の別の部位に広がることを意味する。転移の形成は非常に複雑な過程であり、原発性腫瘍からの悪性細胞の分離、細胞外マトリックスの侵襲、内皮基底膜の貫通による体腔および血管への進入、次いで血液によって輸送された後、標的器官の浸潤に依存する。最後に、標的部位における新たな腫瘍の成長は血管新生に依存する。腫瘍転移は、腫瘍細胞または成分が残存し、転移能を発現し得るため、しばしば原発性腫瘍の除去後にも起こる。一実施形態では、本発明による「転移」という用語は、原発性腫瘍および所属リンパ節系から離れた転移に関する「遠隔転移」に関する。一実施形態では、本発明による「転移」という用語は、リンパ節転移に関する。
【0534】
再発または回帰は、人が過去に罹患した状態に再び侵される場合に起こる。例えば、患者が腫瘍疾患に罹患したことがあり、前記疾患の治療を受けて成功したが、前記疾患を再び発症した場合、前記の新たに発症した疾患は再発または回帰とみなされ得る。しかし、本発明によれば、腫瘍疾患の再発または回帰は、元の腫瘍疾患の部位でも起こり得るが、必ずしもそうとは限らない。したがって、例えば、患者が卵巣腫瘍を患い、治療を受けて成功したことがある場合、再発または回帰は、卵巣腫瘍の発生または卵巣とは異なる部位での腫瘍の発生であり得る。腫瘍の再発または回帰には、腫瘍が元の腫瘍の部位とは異なる部位で発生する状況および元の腫瘍の部位で発生する状況も含まれる。好ましくは、患者が治療を受けた元の腫瘍は原発性腫瘍であり、元の腫瘍の部位とは異なる部位の腫瘍は二次性腫瘍または転移性腫瘍である。
【0535】
本発明によって治療または予防することができる感染症は、ウイルス、細菌、真菌、原生動物、蠕虫、および寄生生物を含むがこれらに限定されない感染因子によって引き起こされる。
【0536】
ヒトおよび非ヒト脊椎動物の感染性ウイルスには、レトロウイルス、RNAウイルスおよびDNAウイルスが含まれる。ヒトにおいて見出されたウイルスの例には:レトロウイルス科(Retroviridae)(例えばHIV-1(HTLV-III、LAVまたはHTLV-III/LAV、またはHIV-IIIとも称される)などのヒト免疫不全ウイルスおよびHIV-LPなどの他の分離株;ピコルナウイルス科(Picornaviridae)(例えばポリオウイルス、A型肝炎ウイルス、エンテロウイルス、ヒトコクサッキーウイルス、ライノウイルス、エコーウイルス);カルシウイルス科(Calciviridae)(例えば胃腸炎を引き起こす株);トガウイルス科(Togaviridae)(例えばウマ脳炎ウイルス、風疹ウイルス);フラビウイルス科(Flaviridae)(例えばデングウイルス、脳炎ウイルス、黄熱病ウイルス);コロナウイルス科(Coronaviridae)(例えばコロナウイルス);ラブドウイルス科(Rhabdoviridae)(例えば水疱性口内炎ウイルス、狂犬病ウイルス);フィロウイルス科(Filoviridae)(例えばエボラウイルス);パラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)(例えばパラインフルエンザウイルス、おたふく風邪ウイルス、麻疹ウイルス、呼吸器合胞体ウイルス);オルソミクソウイルス科(Orthomyxoviridae)(例えばインフルエンザウイルス);ブンガウイルス科(Bungaviridae)(例えばハンタウイルス、ブンガウイルス、フレボウイルスおよびナイロウイルス);アレナウイルス科(Arena viridae)(出血熱ウイルス);レオウイルス科(Reoviridae)(例えばレオウイルス、オルビウイルスおよびロタウイルス);ビルナウイルス科(Birnaviridae);ヘパドナウイルス科(Hepadnaviridae)(B型肝炎ウイルス);パルボウイルス科(Parvovirida)(パルボウイルス);パポバウイルス科(Papovaviridae)(乳頭腫ウイルス、ポリオーマウイルス);アデノウイルス科(Adenoviridae)(ほとんどのアデノウイルス);ヘルペスウイルス科(Herpesviridae)(単純ヘルペスウイルス(HSV)1および2、帯状疱疹ウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、ヘルペスウイルス);ポキシウイルス科(Poxyiridae)(痘瘡ウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス);およびイリドウイルス科(Iridoviridae)(例えばアフリカ豚コレラウイルス);ならびに未分類ウイルス(例えば海綿状脳症の病原体、デルタ型肝炎の病原体(B型肝炎ウイルスの欠陥サテライトであると考えられている)、非A、非B型肝炎の病原体(クラス1=内部伝播;クラス2=非経口伝播)(すなわちC型肝炎)、ノーウォークおよび関連ウイルス、ならびにアストロウイルス)が含まれるが、これらに限定されない。
【0537】
企図されるレトロウイルスには、単純レトロウイルスと複合レトロウイルスの両方が含まれる。複合レトロウイルスには、レンチウイルス、T細胞白血病ウイルス、泡沫状ウイルスのサブグループが含まれる。レンチウイルスにはHIV-1が含まれるが、HIV-2、SIV、ビスナウイルス、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、およびウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)も含まれる。T細胞白血病ウイルスには、HTLV-1、HTLV-II、サルT細胞白血病ウイルス(STLV)、およびウシ白血病ウイルス(BLV)が含まれる。泡沫状ウイルスには、ヒト泡沫状ウイルス(HFV)、サル泡沫状ウイルス(SFV)、およびウシ泡沫状ウイルス(BFV)が含まれる。
【0538】
本発明によって治療または予防することができる細菌感染または疾患は、マイコバクテリア(例えばヒト型結核菌(Mycobacteria tuberculosis)、ウシ型結核菌(M.bovis)、トリ型結核菌(M.avium)、らい菌(M.leprae)もしくはマイコバクテリア・アフリカヌム(M.africanum))、リケッチア、マイコプラスマ、クラミジアおよびレジオネラなどの、その生活環に細胞内段階を有する細菌を含むがこれらに限定されない細菌によって引き起こされる。企図される細菌感染の他の例には、グラム陽性杆菌(例えばリステリア属(Listeria)、炭疽菌(Bacillus anthracis)などのバチルス属(Bacillus)、エリジペロズリックス属(Erysipelothrix)種)、グラム陰性杆菌(例えばバルトネラ属(Bartonella)、ブルセラ属(Brucella)、カンピロバクター属(Campylobacter)、エンテロバクター属(Enterobacter)、エシェリキア属(Escherichia)、フランシセラ属(Francisella)、ヘモフィルス属(Hemophilus)、クレブシエラ属(Klebsiella)、モルガネラ属(Morganella)、プロテウス属(Proteus)、プロビデンシア属(Providencia)、シュードモナス属(Pseudomonas)、サルモネラ属(Salmonella)、セラチア属(Serratia)、シゲラ属(Shigella)、ビブリオ属(Vibrio)およびエルシニア属(Yersinia)種)、スピロヘータ菌(例えばライム病を引き起こすボレリア・ブルグドルフェリ(Borrelia burgdorferi)を含むボレリア属(Borrelia)種)、嫌気性細菌(例えばアクチノミセス属(Actinomyces)およびクロストリジウム属(Clostridium)種)、グラム陽性および陰性球菌、エンテロコッカス属(Enterococcus)種、ストレプトコッカス属(Streptococcus)種、肺炎球菌属(Pneumococcus)種、ブドウ球菌属(Staphylococcus)種、ナイセリア属(Neisseria)種によって引き起こされる感染が含まれるが、これらに限定されない。感染性細菌の具体例には、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pyloris)、ボレリア・ブルグドルフェリ(Borelia burgdorferi)、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophilia)、ヒト型結核菌、トリ型結核菌、マイコバクテリア・イントラセルラーレ(M.intracellulare)、マイコバクテリア・カンサイ(M.kansaii)、マイコバクテリア・ゴルドナエ(M.gordonae)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)、リステリア菌(Listeria monocytogenes)、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)(A群連鎖球菌)、ストレプトコッカス・アガラクチアエ(Streptococcus agalactiae)(B群連鎖球菌)、ビリダンス型連鎖球菌(Streptococcus viridans)、糞便連鎖球菌(Streptococcus faecalis)、ストレプトコッカス・ボビス(Streptococcus bovis)、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、炭疽菌、ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)、豚丹毒菌(Erysipelothrix rhusiopathiae)、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)、破傷風菌(Clostridium tetani)、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)、肺炎杆菌(Klebsiella pneumoniae)、パスツレラ・ムルトシダ(Pasturella multocida)、フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)、ストレプトバシラス・モニリフォルミス(Streptobacillus moniliformis)、梅毒トレポネーマ(Treponema pallidium)、フランベジアトレポネーマ(Treponema pertenue)、レプトスピラ属(Leptospira)、リケッチア属(Rickettsia)およびイスラエル放線菌(Actinomyce israelli)が含まれるが、これらに限定されない。
【0539】
本発明によって治療または予防することができる真菌性疾患には、アスペルギルス症、クリプトコッカス症、スポロトリクス症、コクシジオイデス真菌症、パラコクシジオイデス真菌症、ヒストプラスマ症、ブラストミセス症、接合真菌症、およびカンジダ症が含まれるが、これらに限定されない。
【0540】
本発明によって治療または予防することができる寄生虫疾患には、アメーバ症、マラリア、リーシュマニア、コクシジウム、ジアルジア症、クリプトスポリジウム症、トキソプラズマ症、およびトリパノソーマ症が含まれるが、これらに限定されない。また、回虫症、鉤虫症、鞭虫症、糞線虫症、トキソカラ症、旋毛虫病、オンコセルカ症、フィラリア、およびディロフィラリア症などの、しかしこれらに限定されない様々な蠕虫による感染も包含される。また、住血吸虫症、肺吸虫症、および肝吸虫症などの、しかしこれらに限定されない様々な吸虫による感染も包含される。
【0541】
「個体」および「被験体」という用語は、本明細書では互換的に使用される。これらは、疾患または障害(例えば癌)に罹患し得るかまたは罹患しやすいが、疾患または障害を有していてもよくまたは有していなくてもよいヒト、非ヒト霊長動物または他の哺乳動物(例えばマウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマまたは霊長動物)を指す。多くの実施形態では、個体はヒトである。特に明記されない限り、「個体」および「被験体」という用語は特定の年齢を示すものではなく、したがって成人、高齢者、子供、および新生児を包含する。本発明の好ましい実施形態では、「個体」または「被験体」は「患者」である。「患者」という用語は、本発明によれば、治療のための被験体、特に疾患被験体を意味する。
【0542】
「危険性がある」とは、一般集団と比較して疾患、特に癌を発症する可能性が通常よりも高いと特定された被験体、すなわち患者を意味する。さらに、疾患、特に癌を有していたか、または現在有している被験体は、引き続き疾患を発症する可能性があるため、疾患を発症する危険性が高い被験体である。現在癌に罹患しているか、または罹患していたことがある被験体は、癌転移の危険性も高い。
【0543】
本発明の作用物質または組成物の予防的投与は、好ましくはレシピエントを疾患の発症から保護する。本発明の作用物質または組成物の治療的投与は、疾患の進行の阻害をもたらし得る。これは、好ましくは疾患の排除につながる、疾患の進行の減速、特に疾患の進行の中断を含む。
【0544】
本明細書に記載の作用物質および組成物は、注射または注入を含む非経口投与などによる、任意の従来の経路を介して投与し得る。投与は、好ましくは非経口的であり、例えば静脈内、動脈内、皮下、皮内または筋肉内経路である。
【0545】
非経口投与に適する組成物は、通常、活性化合物の滅菌水性または非水性調製物を含み、これは、好ましくはレシピエントの血液と等張である。適合性の担体および溶媒の例は、リンゲル液および等張塩化ナトリウム溶液である。さらに、通常滅菌の固定油が溶液または懸濁液として使用される。
【0546】
本明細書に記載の作用物質および組成物は、有効量で投与される。「有効量」は、単独でまたはさらなる用量と共に、所望の反応または所望の効果を達成する量を指す。特定の疾患または特定の状態の治療の場合、所望の反応は、好ましくは疾患の経過の阻止に関する。これは、疾患の進行を遅くすること、特に疾患の進行を妨げるまたは逆転させることを含む。疾患または状態の治療における所望の反応はまた、前記疾患または前記状態の発症の遅延または発症の防止であり得る。
【0547】
本明細書に記載の作用物質または組成物の有効量は、治療される状態、疾患の重症度、年齢、生理学的状態、サイズおよび体重を含む患者の個々のパラメータ、治療の期間、付随する治療の種類(存在する場合)、特定の投与経路ならびに同様の因子に依存する。したがって、本明細書に記載の作用物質の投与量は、様々なそのようなパラメータに依存し得る。患者の反応が初期用量では不十分である場合、より高い用量(または異なる、より局所的な投与経路によって達成される実質的により高い用量)を使用し得る。
【0548】
本明細書に記載の作用物質および組成物は、本明細書に記載のもののような様々な障害を治療または予防するために、例えばインビボで患者に投与することができる。好ましい患者には、本明細書に記載の作用物質および組成物を投与することによって治すまたは改善することができる障害を有するヒト患者が含まれる。これには、抗原の発現を特徴とする細胞が関与する障害が含まれる。
【0549】
例えば、一実施形態では、本明細書に記載の作用物質は、癌疾患、例えば抗原を発現する癌細胞の存在を特徴とする本明細書に記載のような癌疾患を有する患者を治療するために使用できる。
【0550】
本発明に従って記載される医薬組成物および治療方法は、本明細書に記載される疾患を予防するための免疫化またはワクチン接種にも使用され得る。
【0551】
医薬組成物は、局所的または全身的に、好ましくは全身的に投与することができる。
【0552】
「全身投与」という用語は、作用物質が個体の体内に有意な量で広く分布するようになり、所望の効果を発現するような作用物質の投与を指す。例えば、作用物質は、血液中でその所望の効果を発現し得る、および/または血管系を介してその所望の作用部位に達する。典型的な全身投与経路には、作用物質を血管系に直接導入することによる投与、または経口、肺もしくは筋肉内投与が含まれ、この場合作用物質は吸着され、血管系に入り、血液を介して1つ以上の所望の作用部位に運ばれる。
【0553】
本発明によれば、全身投与は非経口投与によることが好ましい。「非経口投与」という用語は、作用物質が腸管を通過しないような作用物質の投与を指す。「非経口投与」という用語には、静脈内投与、皮下投与、皮内投与または動脈内投与が含まれるが、これらに限定されない。
【0554】
投与は、例えば経口的、腹腔内または筋肉内経路でも実施し得る。
【0555】
本明細書で提供される作用物質および組成物は、単独で、または外科手術、放射線照射、化学療法および/もしくは骨髄移植(自己、同系、同種異系もしくは無関係)などの従来の治療レジメンと組み合わせて使用し得る。
以下、参考形態の例を付記する。
1. T細胞受容体または人工T細胞受容体の鎖をコードするオープンリーディングフレームを含むRNAレプリコン。
2. 前記T細胞受容体が、T細胞受容体α鎖およびT細胞受容体β鎖を含む、1.に記載のRNAレプリコン。
3. T細胞受容体のT細胞受容体鎖をコードするオープンリーディングフレームおよび前記T細胞受容体の異なるT細胞受容体鎖をコードするさらなるオープンリーディングフレームを含む、1.または2.に記載のRNAレプリコン。
4. 前記人工T細胞受容体が一本鎖を含み、前記RNAレプリコンが前記人工T細胞受容体の前記一本鎖をコードするオープンリーディングフレームを含む、1.に記載のRNAレプリコン。
5. 前記人工T細胞受容体が1より多い鎖を含み、ならびに前記RNAレプリコンが、前記人工T細胞受容体の鎖をコードするオープンリーディングフレームおよび前記人工T細胞受容体の異なる鎖をコードする1つ以上のさらなるオープンリーディングフレームを含む、1.に記載のRNAレプリコン。
6. 前記人工T細胞受容体が2本の鎖を含み、ならびに前記RNAレプリコンが、前記人工T細胞受容体の鎖をコードするオープンリーディングフレームおよび前記人工T細胞受容体の異なる鎖をコードするさらなるオープンリーディングフレームを含む、1.または5.に記載のRNAレプリコン。
7. 前記人工T細胞受容体が、抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、およびT細胞シグナル伝達ドメインを含む、1.および4から6のいずれか一つに記載のRNAレプリコン。
8. 前記T細胞受容体または人工T細胞受容体が疾患特異的抗原、好ましくは腫瘍抗原を標的とする、1.から7.のいずれか一つに記載のRNAレプリコン。
9. シスレプリコンまたはトランスレプリコンである、1.から8.のいずれか一つに記載のRNAレプリコン。
10. 機能性アルファウイルス非構造タンパク質またはT細胞受容体もしくは人工T細胞受容体の鎖をコードする第1のオープンリーディングフレームを含む、1.から9.のいずれか一つに記載のRNAレプリコン。
11. 5'複製認識配列を含み、前記5'複製認識配列が、天然のアルファウイルス5'複製認識配列と比較して少なくとも1つの開始コドンの除去を含むことを特徴とする、1.から10.のいずれか一つに記載のRNAレプリコン。
12. 前記第1のオープンリーディングフレームが前記5'複製認識配列と重複しない、10.または11.に記載のRNAレプリコン。
13. 前記第1のオープンリーディングフレームの開始コドンが、前記RNAレプリコンの5'→3'方向で最初の機能的開始コドンである、10.から12.のいずれか一つに記載のRNAレプリコン。
14. 機能性アルファウイルス非構造タンパク質を発現するためのRNA構築物、
前記機能性アルファウイルス非構造タンパク質によってトランスで複製され得る、1.から13.のいずれか一つに記載のRNAレプリコン
を含む系。
15. 前記アルファウイルスがベネズエラウマ脳炎ウイルスである、1.から13.のいずれか一つに記載のRNAレプリコンまたは14.に記載の系。
16. 1.から13.、および15.のいずれか一つに記載のRNAレプリコンをコードする核酸配列を含むDNA。
17. 免疫反応性細胞を生成する方法であって、T細胞受容体の鎖または人工T細胞受容体の鎖(1つまたは複数)をコードする1.から13.、および15.のいずれか一つに記載の1つ以上のRNAレプリコン、または前記RNAレプリコンをコードするDNAをT細胞またはその前駆細胞に形質導入する工程を含む方法。
18. T細胞受容体または人工T細胞受容体を発現する細胞を生成する方法であって、
(a)機能性アルファウイルス非構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含み、機能性アルファウイルス非構造タンパク質によって複製されることができ、およびT細胞受容体もしくは人工T細胞受容体の鎖(1つもしくは複数)をコードするオープンリーディングフレーム(1つもしくは複数)を含む、1.から13.、および15.のいずれか一つに記載の1つ以上のRNAレプリコン、または前記RNAレプリコン(1つもしくは複数)をコードする核酸配列を含むDNAを得る工程、ならびに
(b)前記RNAレプリコン(1つもしくは複数)または前記DNAを細胞に接種する工程
を含む方法。
19. T細胞受容体または人工T細胞受容体を発現する細胞を生成する方法であって、
(a)機能性アルファウイルス非構造タンパク質を発現するためのRNA構築物または前記RNA構築物をコードする核酸配列を含むDNAを得る工程、
(b)機能性アルファウイルス非構造タンパク質によってトランスで複製されることができ、および前記T細胞受容体もしくは人工T細胞受容体の鎖(1つもしくは複数)をコードするオープンリーディングフレーム(1つもしくは複数)を含む、1.から13.、および15.のいずれか一つに記載の1つ以上のRNAレプリコン、または前記RNAレプリコン(1つもしくは複数)をコードする核酸配列を含むDNAを得る工程、ならびに
(c)前記RNA構築物または前記DNAと、前記RNAレプリコン(1つもしくは複数)または前記DNAとを細胞に共接種する工程
を含む方法。
20. 17.から19.のいずれか一つに記載の方法によって生成される細胞。
21. 1.から13.、および15.のいずれか一つに記載のRNAレプリコン、16.に記載のDNA、または20.に記載の細胞、ならびに薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
22. 薬剤として使用するための、21.に記載の医薬組成物。
23. 前記T細胞受容体または人工T細胞受容体が標的とする抗原の発現を特徴とする細胞が関与する疾患の治療において使用するための、21.または22.に記載の医薬組成物。
24. 前記T細胞受容体または人工T細胞受容体が標的とする抗原の発現を特徴とする細胞が関与する疾患の治療方法であって、21.に記載の医薬組成物の治療有効量を被験体に投与することを含む治療方法。
25. 抗原の発現を特徴とする細胞が関与する疾患を有する被験体を治療する方法であって、前記抗原を標的とするT細胞受容体または人工T細胞受容体を発現する17.から19.のいずれか一つに記載の方法によって生成された細胞を前記被験体に投与することを含む方法。
【実施例】
【0556】
(実施例)
材料および方法:
以下の材料および方法を以下に説明する実施例で使用した。
【0557】
レプリコンおよびトランスレプリコン構築物をコードするDNA
本明細書で使用するベクター系は、ベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEEV;アクセッション番号L01442)から設計されており、全体的なベクターのデザインは、以前に生成されたセムリキ森林ウイルスベクター系に類似する(
図1)。最初の工程では、VEEVに基づく自己複製RNA(シスレプリコン)をコードするプラスミドを、商業的供給者からの遺伝子合成によって入手した。この構築物は、VEEV構造遺伝子を欠くが、複製認識配列(RRS)として働き、T7ファージRNAポリメラーゼプロモータの転写制御下でpST1プラスミド骨格へのウイルス複製を制御する(Holtkamp et al.,2006,Blood,vol.108,pp.4009-4017)VEEVのすべての保存された配列エレメント(CSE)を含む。VEEV 3'CSEの一番最後のヌクレオチドのすぐ下流に、10個のヌクレオチドのランダム配列(国際公開第2016/005004 A1号)で分離された30および70個のアデニル酸残基(ポリA30-70)からなる、プラスミドにコードされたポリ(A)カセットを付加した。プラスミドの線形化のためのSapI制限部位をポリ(A)カセットのすぐ下流に配置した。シスレプリコンへの目的の遺伝子の挿入は、サブゲノムプロモータの下流で行われる(
図1A)。さらなる遺伝子合成およびPCRベースのシームレスクローニング/組換え技術を使用して、VEEVレプリカーゼの完全なオープンリーディングフレームをコードするmRNAをpST1プラスミド骨格にインビトロ転写するための鋳型として働くプラスミドを作製した(Holtkamp et al.,2006,Blood,vol.108,pp.4009-4017)。このベクターは、上流にヒトアルファグロビン5'UTR、およびレプリカーゼORFの下流にプラスミドにコードされたポリ(A30-70)カセットを含む。再び、プラスミドの線形化のためにSapI制限部位をポリ(A)カセットのすぐ下流に配置した。インビトロ転写では、得られるmRNAはVEEVの機能的RRSを欠き、複製することができない。トランスで複製するRNA(トランスレプリコン)のインビトロ転写のために、鋳型プラスミドの2つの異なる変異体を生成した。最初の変異体では、WT-RRS(非修飾5'CSE、サブゲノムプロモータ、3'CSE)を有するトランスレプリコンをコードするプラスミドを、シスレプリコンからVEEV-レプリカーゼコード配列の大部分を除去し、機能的RRS(5'-CSEおよびサブゲノムプロモータ)を含むものだけを保持することによって得た。レプリカーゼORFの大部分の除去により、それぞれのプラスミドによってコードされたRNAは、宿主細胞中に存在する場合、シスで複製を駆動することができないが、複製のためにトランスで機能性アルファウイルス非構造タンパク質の存在を必要とする。目的の遺伝子はサブゲノムプロモータの下流に挿入する。
【0558】
2番目のトランスレプリコン型では、サブゲノムプロモータを含む配列を除去し、5'RRSをVEEVゲノムの最初の~270ヌクレオチドに短縮した。さらに、5'RRSを変異させて、翻訳開始コドンとして働き得るAUGコドンを除去した。5'RRSの正しい折りたたみと機能を確保するために、補償ヌクレオチド変化を導入し、このトランスレプリコンはΔ5ATG-RRSΔSGPであった。5'AUGの除去は、目的のORFの開始コドンのみで翻訳が開始されることを確実にし、目的のORFは変異した5'CSEの下流に挿入される。
【0559】
トランス複製RNAの両方の変異体間の主な生物学的相違は、WT-RRSとサブゲノムプロモータを備えたトランスレプリコンが、複製時にのみ生成されるサブゲノム転写物上に導入遺伝子をコードすることである。これは、トランスで発現されるレプリカーゼが存在しない場合、目的のタンパク質が翻訳されないことを意味する。対照的に、Δ5ATG-RRSΔSGPトランスレプリコンは、合成キャップ類似体でインビトロ転写が行われることを条件として、レプリカーゼなしでもタンパク質に翻訳され得る。
【0560】
本明細書における目的の遺伝子は、キメラ抗原受容体(CAR)およびT細胞受容体(TCR)である。TCRのα鎖とβ鎖を別々の複製RNAベクターに挿入し、T細胞に同時移入した。
【0561】
インビトロ転写
上記のプラスミドからのインビトロ転写およびRNAの精製は、ARCAの代わりにβ-S-ARCA(D2)キャップ類似体を使用したことを除いて、以前に記載されているように実施した(Holtkamp et al.,前出;Kuhn et al.,2010,Gene Ther.,vol.17,pp.961-971)。精製RNAの品質は、分光測光法およびキャピラリー電気泳動(2100 BioAnalyzer、Agilent,Santa Clara,USA)によって評価した。実施例で使用されるRNAは精製IVT-RNAである。
【0562】
細胞へのRNA移入
エレクトロポレーションのために、RNAを最終容量62.5μl/mmキュベットギャップサイズのX-vivo無血清培地に再懸濁した。方形波エレクトロポレーション装置(BTX ECM 830、Harvard Apparatus,Holliston,MA,USA)を使用して、以下のエレクトロポレーション設定を適用した:T細胞:1250V/cm、3ミリ秒(ms)の1パルス、MZ-GaBa-18-β2m:562.5、3ミリ秒、2パルス)。
【0563】
細胞株および試薬
ヒト黒色腫細胞株MZ-GaBa-018は、黒色腫患者のワクチン接種後の黒色腫病変から樹立されていた(Sahin U.et al.,Nature,2017)。MZ-GaBa-018細胞は、β2ミクログロブリン(β2m)遺伝子の欠失によりHLAクラスI表面発現を完全に欠いていたため、サブクローンMZ-GABA-018_PGK_hB2M_bln_C5_P9(MZ-GaBa-18-β2m)を、T細胞アッセイのためのツールとしてβ2mでの形質導入によって樹立し、15%FCS(Biochrome AG)および7μg/mlブラスチシジンを添加したRPMI1640培地(Life Technologies)で培養した。ヒトエプスタイン-バーウイルス(EBV)不死化B細胞リンパ芽球株JYを、10%FCSを添加したRPMI1640+Glutamax培地で培養した。T細胞を、5%ヒトAB血清(One Lamda Inc.,Los Angeles,CA,USA)、1%非必須アミノ酸および1%ピルビン酸ナトリウム(両方ともLife Technologies)を添加したRPMI培地で増殖させた。細胞は、5%CO2に平衡化した加湿雰囲気中、37℃で増殖させた。
【0564】
末梢血単核細胞(PBMC)およびT細胞
PBMCを、バフィーコートまたは血液試料からFicoll-Hypaque(Amersham Biosciences,Uppsala,Sweden)密度勾配遠心分離によって単離した。HLAアレロタイプは、PCR標準法によって決定した。抗CD4および抗CD8マイクロビーズ(Miltenyi Biotech,Bergisch-Gladbach,Germany)を使用して、CD4+およびCD8+T細胞をPBMCから濃縮した。
【0565】
フローサイトメトリ:トランスフェクトしたTCR遺伝子の細胞表面発現を、TCR β鎖の適切な可変領域ファミリーに対するPE結合抗TCR抗体(Beckman Coulter Inc.,Fullerton,USA)およびAPC標識抗CD8/CD4抗体(BD Biosciences)を使用したフローサイトメトリによって分析した。トランスフェクトしたCARの細胞表面発現を、すべてのCAR構築物に含まれるscFv断片を認識するAlexa-647結合イディオタイプ特異的抗体(Ganymed pharmaceuticals)を使用して分析した。HLA抗原は、PE標識HLAクラスI特異的抗体(BD Biosciences)で染色することによって検出した。標的細胞上のCLDN6およびCLDN18.2表面発現を、Alexa-Fluor647結合CLDN6またはCLDN18.2特異的抗体(Ganymed Pharmaceuticals)で染色することによって分析した。BD FACSCanto(商標)II分析用フローサイトメータ(BD Biosciences)でフローサイトメトリ分析を実施した。取得したデータは、FlowJoソフトウェアのバージョン10(Tree Star)を使用して分析した。
【0566】
ルシフェラーゼ細胞毒性アッセイ:ルシフェラーゼに基づく細胞毒性アッセイを以前に記載されているように実施した(Omokoko et al.,J.Immunol.Res.,2016)。1x104個の標的細胞にルシフェラーゼRNAをトランスフェクトし、OKT3で事前に活性化したTCRトランスフェクトCD8+T細胞と共に47時間共培養した。D-ルシフェリン(BD Biosciences;最終濃度1.2mg/mL)を含む反応混合物を添加した。1時間後、Tecan Infinite M200リーダ(Tecan)を使用して発光を測定した。総ルシフェラーゼ活性の減少を測定することによって細胞死滅を計算した。生細胞は、ルシフェリンのルシフェラーゼ媒介酸化によって測定した。特異的死滅を次の式に従って計算した:(1-(CPSexp-CPSmin)/(CPSmax-CPSmin)))*100。
【0567】
最大発光(1秒あたりの最大カウント、CPSmax)は、標的細胞をモックトランスフェクトしたエフェクターT細胞と共にインキュベートした後に評価し、最小発光(CPSmin)は、完全な溶解のために標的を界面活性剤Triton-X-100で処理した後に評価した。
【0568】
ELISPOT(酵素結合免疫スポットアッセイ):マイクロタイタープレート(Millipore,Bedford,MA,USA)を室温で一晩、抗IFNγ抗体1-D1k(Mabtech,Stockholm,Sweden)で被覆し、2%ヒトアルブミン(CSL Behring Marburg,Germany)でブロックした。エレクトロポレーションの20~24時間後に、5x104/ウェルの抗原提示刺激細胞を3x105/ウェルのTCRトランスフェクトCD8+エフェクター細胞と共に2組重複して播種した。プレートを一晩インキュベートし(37℃、5%CO2)、PBS 0.05%Tween 20で洗浄し、最終濃度1μg/mlの抗IFNγビオチン化mAB 7-B6-1(Mabtech)と共に37℃で2時間インキュベートした。アビジン結合ホースラディッシュペルオキシダーゼH(Vectastain Elite Kit;Vector Laboratories,Burlingame,USA)をウェルに添加し、室温で1時間インキュベートし、3-アミノ-9-エチルカルバゾール(Sigma,Deisenhofen,Germany)で発色させた。
【0569】
ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ):ヒトIFNγELISA Ready-SET-Go!キット(eBioscience)を使用して、製造者の指示に従って標的反応性T細胞によって分泌されたIFNγの量を培養上清中で定量化した。
【0570】
目的
遺伝子導入によるTリンパ球抗原特異性の再指向は、養子免疫療法のための多数の腫瘍反応性Tリンパ球を提供することができる。しかし、ウイルスベクターの生産に関連する安全性の懸念は、キメラ抗原受容体(CAR)またはT細胞受容体(TCR)を発現するT細胞の臨床適用を制限してきた。Tリンパ球は、組み込みに関連する安全性の懸念を伴わずに、RNAエレクトロポレーションによって遺伝子改変することができる。養子免疫療法のための安全なプラットフォームを確立するために、本発明者らは、治療用受容体の高レベルで長期的な発現を達成する新規の複製RNA形式を開発した。CARおよびTCRに対する本発明者らの系の適用性を試験し、RNAをトランスフェクトしたT細胞のエフェクター機能を分析した。
【0571】
(実施例1)
CARをトランスフェクトした休止CD4
+細胞からのIFNγ放出は、複製RNAを使用して刺激される。
複製RNAを使用してT細胞でのCAR発現の効率を評価するために、異なるCARをコードする複製RNA種をトランスフェクトし、標的細胞に応答したCARの表面発現およびT細胞のIFNγ分泌を比較した。CD4
+T細胞を、磁気支援細胞選別(MACS)を使用して健常ドナーの末梢血単核細胞(PBMC)から単離した。MACSの直後に、ヒトクローディン-6(CLDN6)反応性CARをコードする等モル量の複製および非複製RNAをCD4
+T細胞にエレクトロポレーションした。トランス複製RNAを、示されているようにレプリカーゼをコードするmRNAと同時トランスフェクトした。エレクトロポレーションした細胞をCAR特異的抗体で染色すると、エレクトロポレーションの24時間後に細胞の40%以上が高レベルのCARを発現したことが明らかになった(
図2A、B)。CAR特異的染色のより高い平均蛍光強度(MFI)に反映されるように、複製RNAは細胞あたりのより高いCAR発現レベルをもたらしたが、必ずしもより大きなCAR陽性集団をもたらしたわけではなかった。CAR染色を実施するのと同時に、トランスフェクトしたT細胞と、ヒトCLDN6を欠くJY細胞、またはヒトCLDN6を安定にトランスフェクトしたJY細胞との共培養を開始した。翌日、ELISAによって培養上清へのIFNγの放出を定量化し、複製RNAを使用するとIFNγの放出が約1桁増加することを見出した(
図2C)。
【0572】
複製RNAは、mRNAと比較してより高いCAR発現レベルをもたらし、IFNγ放出を刺激すると結論付けた。
【0573】
(実施例2)
CARをトランスフェクトしたCD8 T細胞からのIFNγ放出は、複製RNAを使用して刺激され、より持続される。
次に、CD8+細胞傷害性T細胞を使用してCAR発現およびIFNγ放出の持続時間を評価した。この目的のために、CD8+T細胞は異なるドナーからの新鮮または凍結PBMCから単離した。新鮮PBMCから単離したものは、OKT3およびIL2で48時間前刺激し、IL-2の存在下で72時間増殖させた。凍結PBMCからのCD8細胞は、前刺激した細胞と同時に、MACSの直後にエレクトロポレーションした。両方のCD8分離株に、ヒトクローディン-6反応性CARをコードする等モル量の複製および非複製RNAをエレクトロポレーションした。トランス複製RNAを、レプリカーゼをコードするmRNAと同時トランスフェクトした。
【0574】
CAR表面発現の持続時間を評価するために、エレクトロポレーション後24時間の間隔で、CAR特異的抗体で細胞を染色した。CAR発現はすべての試料で急速に低下することが観察された(
図3A、C)。mRNAと比較して、休止細胞でのCAR発現は複製RNAを使用するとはるかに高くなり(
図3A)、mRNAは刺激細胞で同等のCARレベルをもたらした(
図3C)。また、エレクトロポレーション後のCAR発現の低下が、IFNγを放出する細胞の能力とどのように相関するかという疑問も検討した。そこで、CAR発現を分析したのと同じ時点で、トランスフェクトしたT細胞とクローディン6陽性および陰性JY細胞との共培養を開始し、培養上清を24時間収集した。ELISAを用いて、休止細胞からのIFNγ放出が複製RNAを使用して刺激され、mRNAと比較してより持続されることを見出した(
図3B)。前刺激した細胞からのIFNγ放出は全体的にはるかに高く、初期時点ではすべてのRNA種で同様に強力であった。後の時点では、トランス複製RNAはより持続的なIFNγ放出をもたらした(
図3D)。
【0575】
(実施例3)
複製RNA移入後の自己黒色腫細胞のネオ抗原特異的TCR媒介認識および機能の改善
複数の公表文献が、チェックポイント遮断(Rizvi,Science,2015;Snyder,N.Engl.J.Med.2014;Mcgranahan,N,Science,2016)および養子T細胞療法(Tran,E.,Science,2014;Robbins,P.F.,Nat.Med.,2013;Tran,E.N.Engl.J.Med.2016)などの臨床免疫療法の良好な臨床転帰がネオエピトープ免疫認識に関連することを示した。これらのデータは、新規の個別化ワクチン接種戦略(Sahin,Nature,2017)だけでなく、進行した上皮癌を有する患者を治療するためのネオ抗原を標的とする自己TCR遺伝子療法の開発(Klebanoff A.,Nature Medicine,2016)も支持する。体細胞変異は癌形成の中心であり、腫瘍細胞に独占的で(オンターゲットオフ腫瘍毒性の危険性を最小限に抑える)、陰性選択の間に高親和性TCRが欠失されないため、ネオ抗原はT細胞ベースの免疫療法の理想的な標的である。しかし、この概念を実現するには、固形癌の患者の大多数を治療するための重要な技術、製造および規制の革新が必要である。ネオ抗原特異的TCRをコードする最適化されたRNAを用いたT細胞のエレクトロポレーションは、コスト効率の高い柔軟なプラットフォームを提供する。したがって、複製RNA移入の概念をネオ抗原特異的TCRの発現に適用し、その後、自己黒色腫細胞の機能的認識を分析した。
【0576】
黒色腫患者の腫瘍によって発現された2つの個々のネオ抗原(M05およびM14)を認識するこの患者の腫瘍浸潤リンパ球(TIL)からクローニングした2つのTCRを使用した。ヒト黒色腫細胞株MZ-GaBa-018は、黒色腫患者の同じ病変から樹立され、M05およびM14を発現することが確認されている(Sahin U.et al.,Nature,2017)。健常ドナーからCD8+T細胞を単離し、M14-TCRをコードする等モル量の複製および非複製RNAでトランスフェクトした。トランス複製RNAに、レプリカーゼをコードする滴定量のmRNAを同時トランスフェクトした。トランスフェクトしたT細胞を、MZ-GaBa-18-β2m細胞と共培養する前に一晩休ませ、黒色腫細胞の特異的認識をIFNγ-ELISPOTアッセイによって分析した(
図4A)。黒色腫細胞は、M014-TCRをコードする標準的なmRNAまたはNTR RNA(レプリカーゼRNAなし)をトランスフェクトしたT細胞によって認識されなかったが、レプリカーゼRNAと組み合わせたNTRの移入によって認識を誘導することができた。特に、より高い量のレプリカーゼRNAを同時トランスフェクトした場合、認識が用量依存的に増加した。TCR表面発現を、M14-TCRのVβサブファミリーを検出するVβ特異的抗体を使用したフローサイトメトリ染色によって検証した(
図4B)。TCR表面発現も、NTR RNAと組み合わせた滴定量のレプリカーゼRNAの同時トランスフェクション後に用量依存的に増加した。
【0577】
次に、ネオ抗原特異的TCRの複製RNA移入が黒色腫細胞の溶解の改善ももたらし得るかどうかを知りたいと考えた。OKT3で事前に活性化したCD8+T細胞に、M05-TCRとM14-TCRの両方をコードする等モル量の複製および非複製RNAをトランスフェクトした。TCRをトランスフェクトしたT細胞を一晩休ませ、異なるエフェクター対ターゲット(E:T)比を使用して、ルシフェラーゼをトランスフェクトしたMZ-GaBa-18-β2m細胞と共培養した。黒色腫細胞の特異的溶解を、ルシフェラーゼに基づく死滅アッセイを使用して、48時間の共培養後に分析した(
図5)。両方のTCRについて、それぞれの変異エピトープを内因的に発現する黒色腫細胞の溶解の有意な改善が、試験したすべてのE:T比で、複製RNAを使用したTCRトランスフェクション後にT細胞によって媒介され、複製RNAが、実際に、治療用TCRをトランスフェクトしたT細胞の治療ウィンドウを増加させる潜在的可能性を有し得ることを示した。