(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 50/169 20210101AFI20231122BHJP
H01M 50/15 20210101ALI20231122BHJP
H01M 50/103 20210101ALI20231122BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20231122BHJP
B23K 26/28 20140101ALI20231122BHJP
【FI】
H01M50/169
H01M50/15
H01M50/103
B23K26/21 P
B23K26/28
(21)【出願番号】P 2021173470
(22)【出願日】2021-10-22
【審査請求日】2022-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】中山 翔太
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-144692(JP,A)
【文献】特開2004-235082(JP,A)
【文献】特開平04-196049(JP,A)
【文献】特開平11-077347(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0072964(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/10
H01G 11/00
B23K 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底面に対向する一側面に開口を有する有底のケース本体の前記開口に封口板を装着する装着工程と、
前記封口板の周縁部に沿ってレーザを走査し、前記ケース本体と前記封口板とをレーザ溶接する溶接工程と
を含み、
前記溶接工程で、前記ケース本体の前記開口の縁と前記封口板の前記周縁部に照射されるレーザは、
パルス幅が400μm以上800μm以下で、かつ、周波数が1.2kHz以上1.4kHz以下である、矩形波で構成されたパルス発振式のレーザであり、
前記レーザのうち、パルス発振された隣接するレーザのラップ率が84.4%以上86.6%以下となるように走査される、
二次電池の製造方法。
【請求項2】
前記溶接工程において、前記封口板の前記周縁部に沿って前記レーザを走査しつつ、前記レーザのピーク出力が部分的に変更される、請求項1に記載された二次電池の製造方法。
【請求項3】
溶接される前の前記封口板の前記周縁部は、前記周縁部の内側に溝が形成された溝部分と、前記溝が形成されていない非溝部分とを有し、
前記溶接工程で、前記溝部分を溶接するときの前記レーザのピーク出力は、前記非溝部分を溶接するときの前記レーザのピーク出力よりも大きくなるように設定されている、請求項1または2に記載された二次電池の製造方法。
【請求項4】
前記封口板は、互いに対向する一対の長辺部と、互いに対向する一対の短辺部とを有する略矩形の板材であり、
前記ケース本体の前記開口は、前記封口板に対応した略矩形の形状を有し、
前記溶接工程で、前記長辺部を溶接するときの前記レーザのピーク出力は、前記短辺部を溶接するときの前記レーザのピーク出力よりも高い、請求項1から3までの何れか一項に記載された二次電池の製造方法。
【請求項5】
前記封口板は、前記長辺部と前記短辺部との間に設けられたR部を有し、
前記溶接工程で、前記R部を溶接するときの前記レーザのピーク出力は、前記短辺部を溶接するときの前記レーザのピーク出力よりも低い、請求項4に記載された二次電池の製造方法。
【請求項6】
前記封口板の前記周縁部において、前記長辺部と前記短辺部と前記R部との境界で、前記レーザのピーク出力が徐々に上げられる、請求項5に記載された二次電池の製造方法。
【請求項7】
前記封口板の前記周縁部において溶接が開始される部分と、溶接が終了される部分とが重なっている、請求項1から6までの何れか一項に記載された二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2011-212711号公報には、アルミニウム系金属製の外装缶と外装缶の開口に配置されるアルミニウム系金属製の封口板との嵌合部を連続発振型レーザ溶接装置からのレーザを照射することにより溶接を行い、封止する密閉型電池の製造方法が開示されている。かかる密閉型電池の製造方法では、溶接開始領域においてはレーザの出力をパルス的に変調させながら走査し、その後にレーザの出力を一定として走査している。かかる密閉型電池の製造方法によれば、アルミニウム系金属製の外装缶とアルミニウム系金属製封口板とを連続発振(CW)型レーザにより溶接封止する際に、溶接開始領域及び溶接終了領域の溶接を安定的に行うことができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ケース本体の開口と封口板の周縁部との溶接において、溶接品質をさらに向上させたい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ここで開示される二次電池の製造方法では、底面に対向する一側面に開口を有する有底のケース本体の開口に封口板を装着する装着工程と、封口板の周縁部に沿ってレーザを走査し、ケース本体と封口板とをレーザ溶接する溶接工程とが含まれている。ここで、溶接工程で、ケース本体の開口の縁と封口板の周縁部に照射されるレーザは、パルス幅が400μm以上800μm以下で、かつ、周波数が1.2kHz以上1.4kHz以下である、矩形波で構成されたパルス発振式のレーザであり、レーザのうち、パルス発振された隣接するレーザのラップ率が84.4%以上86.6%以下となるように走査される。かかる二次電池の製造方法によれば、溶接部分の溶け込み深さが適度に深くなりやすく、溶接品質が向上する。
【0006】
溶接工程において、封口板の周縁部に沿ってレーザを走査しつつ、レーザのピーク出力が部分的に変更されてもよい。
【0007】
例えば、溶接される前の封口板の周縁部は、周縁部の内側に溝が形成された溝部分と、溝が形成されていない非溝部分とを有していてもよい。この場合、溶接工程で、溝部分を溶接するときのレーザのピーク出力は、非溝部分を溶接するときのレーザのピーク出力よりも大きくなるように設定されていてもよい。
【0008】
また、封口板は、互いに対向する一対の長辺部と、互いに対向する一対の短辺部とを有する略矩形の板材であってもよい。ケース本体の開口は、封口板に対応した略矩形の形状を有し、溶接工程で、長辺部を溶接するときのレーザのピーク出力は、短辺部を溶接するときのレーザのピーク出力よりも高くてもよい。
【0009】
また、封口板は、長辺部と短辺部との間に設けられたR部を有していてもよい。この場合、溶接工程で、R部を溶接するときのレーザのピーク出力は、短辺部を溶接するときのレーザのピーク出力よりも低くてもよい。
【0010】
また、封口板の周縁部において、長辺部と短辺部とR部とのそれぞれの境界で、徐々にレーザのピーク出力が上げられてもよい。また、封口板の周縁部において溶接が開始される部分と、溶接が終了される部分とが重なっていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、リチウムイオン二次電池10の部分断面図である。
【
図2】
図2は、封口板41bが装着された上面を示す平面図である。
【
図3】
図3は、パルス発振式のレーザの波形を模式的に示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、ここでの開示の一実施形態を説明する。ここで説明される実施形態は、当然ながら開示を限定することを意図したものではない。各図面は模式的に描かれており、必ずしも実物を反映していない。また、数値範囲を示す「A~B」などの表記は、特に言及されない限りにおいて「A以上B以下」を意味する。なお、以下に説明する図面において、同じ作用を奏する部材、部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、本明細書において参照する各図における符号Xは「長辺方向」を示し、符号Yは「短辺方向」を示し、符号Zは「高さ方向」を示す。
【0013】
本明細書において「二次電池」とは、電解質を介して一対の電極(正極と負極)の間で電荷担体が移動することによって充放電反応が生じる蓄電デバイス一般をいう。かかる二次電池は、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池等のいわゆる蓄電池の他に、電気二重層キャパシタ等のキャパシタなども包含する。以下では、上述した二次電池のうち、リチウムイオン二次電池を例にして、ここで開示される二次電池の製造方法の実施形態を説明する。ここでの開示は、特に言及されない限りにおいて、リチウムイオン二次電池に限定されず、他の二次電池にも適用されうる。
【0014】
〈リチウムイオン二次電池10〉
図1は、リチウムイオン二次電池10の部分断面図である。
図2は、封口板41bが装着された上面を示す平面図である。
図1では、略直方体の電池ケース41の片側の幅広面に沿って、内部を露出させた状態が描かれている。
図1に示されたリチウムイオン二次電池10は、電極体20が収容された電池ケース41が密閉された、いわゆる密閉型電池である。
【0015】
リチウムイオン二次電池10は、
図1に示されているように、電極体20と、電池ケース41とを備えている。電池ケース41は、開口41a1を有するケース本体41aと、ケース本体41aの開口41a1を塞ぐ封口板41bとを有している。ケース本体41aには、電極体20が収容されている。封口板41bには、ガスケット70およびインシュレータ80を介して内部端子55,65と外部端子51,61とが取り付けられている。この実施形態では、内部端子55は、電極体20の正極集電箔21aに接続されている。外部端子51は内部端子55に接続されており、電池ケース41の外部において正極端子50を構成している。また、内部端子65は、電極体20の負極集電箔22aに接続されている。外部端子61は内部端子65に接続されており、電池ケース41の外部において負極端子60を構成している。
【0016】
〈電極体20〉
電極体20は、絶縁フィルム(図示は省略)などで覆われた状態で、電池ケース41に収容されている。電極体20は、正極要素としての正極シート21と、負極要素としての負極シート22と、セパレータとしてのセパレータシート31,32とを備えている。正極シート21と、第1のセパレータシート31と、負極シート22と、第2のセパレータシート32とは、それぞれ長尺の帯状の部材である。
【0017】
正極シート21は、予め定められた幅および厚さの正極集電箔21a(例えば、アルミニウム箔)に、幅方向の片側の端部に一定の幅で設定された未形成部21a1を除いて、正極活物質を含む正極活物質層21bが両面に形成されている。正極活物質は、例えば、リチウムイオン二次電池では、リチウム遷移金属複合材料のように、充電時にリチウムイオンを放出し、放電時にリチウムイオンを吸収しうる材料である。正極活物質は、一般的にリチウム遷移金属複合材料以外にも種々提案されており、特に限定されない。
【0018】
負極シート22は、予め定められた幅および厚さの負極集電箔22a(ここでは、銅箔)に、幅方向の片側の縁に一定の幅で設定された未形成部22a1を除いて、負極活物質を含む負極活物質層22bが両面に形成されている。負極活物質は、例えば、リチウムイオン二次電池では、天然黒鉛のように、充電時にリチウムイオンを吸蔵し、充電時に吸蔵したリチウムイオンを放電時に放出しうる材料である。負極活物質は、一般的に天然黒鉛以外にも種々提案されており、特に限定されない。
【0019】
セパレータシート31,32には、例えば、所要の耐熱性を有する電解質が通過しうる多孔質の樹脂シートが用いられる。セパレータシート31,32についても種々提案されており、特に限定されない。
【0020】
ここで、負極活物質層22bの幅は、例えば、正極活物質層21bよりも広く形成されている。セパレータシート31,32の幅は、負極活物質層22bよりも広い。正極集電箔21aの未形成部21a1と、負極集電箔22aの未形成部22a1とは、幅方向において互いに反対側に向けられている。また、正極シート21と、第1のセパレータシート31と、負極シート22と、第2のセパレータシート32とは、それぞれ長さ方向に向きを揃えられ、順に重ねられて捲回されている。負極活物質層22bは、セパレータシート31,32を介在させた状態で正極活物質層21bを覆っている。負極活物質層22bは、セパレータシート31,32に覆われている。正極集電箔21aの未形成部21a1は、セパレータシート31,32の幅方向の片側からはみ出ている。負極集電箔22aの未形成部22a1は、幅方向の反対側においてセパレータシート31,32からはみ出ている。
【0021】
上述した電極体20は、
図1に示されているように、電池ケース41のケース本体41aに収容されうるように、捲回軸を含む一平面に沿った扁平な状態とされる。そして、電極体20の捲回軸に沿って、片側に正極集電箔21aの未形成部21a1が配置され、反対側に負極集電箔22aの未形成部22a1が配置されている。
【0022】
〈電池ケース41〉
電池ケース41は、電極体20を収容している。電池ケース41は、ケース本体41aと、封口板41bとを有している。ケース本体41aは、底面に対向する一側面に開口41a1を有する有底の部材であり、この実施形態では、一側面が開口した略直方体の角形形状を有している。封口板41bは、ケース本体41aの開口41a1に装着される板材である。この実施形態では、ケース本体41aと封口板41bは、軽量化と所要の剛性を確保する観点で、それぞれアルミニウムまたはアルミニウムを主とするアルミニウム合金で形成されている。なお、
図1に示されている実施形態では、捲回型の電極体20が例示されているが、電極体20の構造はかかる形態に限定されない。電極体20の構造は、例えば、正極シートと負極シートとが、セパレータシートとを介在させて交互に積層された積層構造でもよい。また、電池ケース41内には、複数の電極体20が収容されていてもよい。
【0023】
電池ケース41は、電極体20と一緒に、図示しない電解液を収容していてもよい。電解液としては、非水系溶媒に支持塩を溶解させた非水電解液を使用できる。非水系溶媒の一例として、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等のカーボネート系溶媒が挙げられる。支持塩の一例として、LiPF6等のフッ素含有リチウム塩が挙げられる。
【0024】
〈ケース本体41a〉
ケース本体41aは、一側面が開口した略直方体の角形形状を有している。ケース本体41aは、略矩形の底面を構成する底面部42と、一対の幅広面部43,44(
図2参照)と、一対の幅狭面部45,46とを有している。一対の幅広面部43,44は、それぞれ底面部42のうち長辺から立ち上がっている。一対の幅狭面部45,46は、それぞれ底面部42のうち短辺から立ち上がっている。ケース本体41aの一側面には、一対の幅広面部43,44と一対の幅狭面部45,46で囲まれた開口41a1が形成されている。
【0025】
〈封口板41b〉
封口板41bは、ケース本体41aの開口41a1を封口する。この実施形態では、
図2に示されているように、封口板41bは、平面視において矩形状である。この実施形態では、封口板41bに注液孔41b1と安全弁41b2が設けられている。注液孔41b1は、封口板41bがケース本体41aの開口41a1に取り付けられ、ケース本体41a内に電解液が注入された後で封止部材が取り付けられて閉じられる。なお、
図2には、封口板41bがケース本体41aの開口41a1に組付けられ、溶接された状態が示されている。
図2では、封口板41bに封止部材は取り付けられていない。安全弁41b2は、薄肉になっており、電池ケース41内が予め定められた圧力よりも大きくなったときに破断する部位である。
【0026】
封口板41bには、正極端子50と、負極端子60とが取り付けられている。正極端子50は、外部端子51と、内部端子55とを備えている。負極端子60は、外部端子61と、内部端子65とを備えている。内部端子55,65は、それぞれインシュレータ80を介して封口板41bの内側に取り付けられている。外部端子51,61は、それぞれガスケット70を介して封口板41bの外側に取り付けられている。内部端子55,65は、それぞれケース本体41aの内部に延びている。電極体20の正極集電箔21aの未形成部21a1と、負極集電箔22aの未形成部22a1とは、封口板41bの長辺方向の両側部にそれぞれ取り付けられた内部端子55,65に取り付けられている。
【0027】
内部端子55,65は、金属製である。正極の内部端子55としては、正極集電箔21aとの接合強度を向上させる観点から、例えば、アルミニウムやアルミニウム合金等が用いられうる。負極の内部端子65としては、負極集電箔22aとの接合強度を向上させる観点から、また、所要の耐電解液性、耐酸化性などの耐性を備えている点から、例えば、銅や銅合金等が用いられうる。
【0028】
外部端子51,61は、金属製である。外部端子51,61として用いられる金属は、バスバ等の外部の接続部品の種類等に応じて適宜選択される。外部端子51,61としては、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金等が用いられうる。外部端子51,61は、例えば、複数の金属が異種金属接合によって接合されて構成されていてもよい。図示は省略するが、封口板41bには取付孔が形成されている。取付孔には、封口板41bの内側にインシュレータ80が取り付けられ、封口板41bの外側にガスケット70が取り付けられている。内部端子55,65と外部端子51,61とのうち一方に軸部が設けられており、ガスケット70とインシュレータ80を介在させて、取付孔に挿通されている。内部端子55,65と外部端子51,61とは、取付孔に挿通された軸部によって接合されている。
【0029】
ガスケット70やインシュレータ80には、耐薬品性や耐候性に優れた材料が用いられるとよい。この実施形態では、ガスケット70には、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)が用いられている。なお、ガスケット70に用いられる材料は、PFAに限定されない。ガスケット70には、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)等が用いられてもよい。インシュレータ80には、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)が用いられている。なお、インシュレータ80に用いられる材料は、PPSに限定されない。
【0030】
ここで、電極体20としては、正極シート21と、第1のセパレータシート31と、負極シート22と、第2のセパレータシート32とは、それぞれ長さ方向に向きを揃えられ、順に重ねられて捲回された、いわゆる捲回電極体が例示されている。電極体20は、このような捲回電極体に限定されない。また、電池ケース41には、複数の電極体20が収容されていてもよい。内部端子55,65や、外部端子51,61や、ガスケット70や、インシュレータ80は、種々の構造が採用されうる。例えば、内部端子55,65や、外部端子51,61や、ガスケット70や、インシュレータ80は、収容される電極体20の構造に応じて適当な構造が作用されるとよい。また、正極端子50と負極端子60との一方には、過充電時に内部でガスを発生させることで内部圧力が上昇することにともなって電流を遮断させる機構(CID(Current Interrupt Device))が設けられていてもよい。
【0031】
リチウムイオン二次電池10は、製造時に、封口板41bにガスケット70とインシュレータ80とが取り付けられた状態で、正極端子50および負極端子60が取り付けられる。次いで、正極端子50および負極端子60に電極体20が取付けられる。次いで、封口板41bは、一対の幅広面部43,44(
図2参照)の長辺と、一対の幅狭面部45,46の短辺とで囲まれたケース本体41aの開口41a1(
図1参照)に装着される。そして、
図2に示されているように、封口板41bの周縁部41b3が、ケース本体41aの開口41a1の縁に接合される。かかる接合は、例えば、隙間がない連続した溶接によるとよい。かかる溶接は、例えば、レーザ溶接によって実現されうる。
【0032】
ところで、このような密閉型電池において、高エネルギ密度化のために、二次電池内部のデッドスペースが小さくなる傾向がある。二次電池内部のデッドスペースが小さいと二次電池内部でガスが発生した際などに、二次電池の内圧が高くなる。そのため、ケース本体と封口板とのレーザ溶接部分の耐圧強度が高いことが好ましい。
【0033】
ここで開示される二次電池の製造方法では、ケース本体41aの開口41a1に封口板41bを装着する装着工程と、封口板41bの周縁部41b3に沿ってレーザを走査し、ケース本体41aと封口板41bとをレーザ溶接する溶接工程とが含まれている。
【0034】
溶接工程で、ケース本体41aの開口41a1の縁と封口板41bの周縁部41b3とに照射されるレーザは、パルス幅が400~800μmで、かつ、周波数が1.2~1.4kHzである、矩形波で構成されたパルス発振式のレーザである。レーザのうち、パルス発振された隣接するレーザのラップ率が84.4~86.6%となるように走査される。
【0035】
図3は、パルス発振式のレーザの波形を模式的に示す模式図である。ここでは、レーザの波形は矩形波で描かれているが、矩形波の立ち上がりなどは、傾きがあってもよい。
パルス幅は、レーザの出力が一定以上である時間でレーザが照射される対象物上を走査される距離である。
周波数は、パルスの周期の逆数であり、ここでは単位として(Hz)が用いられている。
ラップ率は、レーザが照射される対象物上において、パルス発振式で照射されたレーザが走査された際に隣接するレーザの溶融痕が重なる面積の割合である。
【0036】
かかる溶接工程によれば、レーザがパルス発振される。パルス発振されたレーザは、レーザのピーク出力を一定に照射する、いわゆるCW(Continuous Wave)に比べて、1つ1つのパルスで照射されるエネルギが高い。さらに、この実施形態では、パルスの周波数が速い。このため、パルス発振された隣接するレーザが高い割合で重なる。このため、先に打たれたレーザの溶融池が完全に固まる前に隣接するレーザが適度にラップするように打たれる。このように、この実施形態では、パルス発振されたレーザの1つ1つの溶融池が深く、パルスの周波数が速く、かつ、パルス発振された隣接するレーザが高い割合で重なるので、溶接部分の溶け込み深さが適度に深くなりやすく、溶接品質が格段に向上し、耐圧強度が高くなる。
【0037】
この場合、溶接工程において、封口板41bの周縁部41b3に沿ってレーザを走査しつつ、レーザのピーク出力が部分的に変更されるとよい。例えば、電池ケース41で内圧が上がった場合に封口板41bの周縁部41b3に形成される溶接部に作用する力は、部分的に異なりうる。封口板41bの周縁部41b3にレーザが走査される場合に、熱の籠もり方が異なりうる。このため、溶接された部位の溶け込み深さや電池ケース41で内圧が上がった場合に必要な耐力が得られるとの観点で、レーザのピーク出力が部分的に適切に調整されることが好ましい。
【0038】
例えば、
図2に示された形態では、ケース本体41aの開口41a1は、角部が円弧状である略矩形の開口であり、封口板41bもケース本体41aの開口41a1に応じて、角部が円弧状の略矩形の板材である。装着工程では、ケース本体41aの開口41a1に封口板41bが装着された状態で保持されている。この場合、例えば、ケース本体41aの開口41a1の短辺側の内側面に、装着された封口板41bを支持する段差を設けていてもよい。封口板41bを支持する段差は、ケース本体41aの開口41a1の内側面の一部に設けられているとよく、例えば、矩形の開口41a1の角部に設けられていてもよい。また、矩形の開口41a1の短辺側の内側面に設けられていてもよい。また、ケース本体41aの開口41a1に封口板41bが装着された状態で、ケース本体41aの開口41a1の一対の長辺側の側壁が治具で挟まれてケース本体41aの開口41a1に封口板41bが保持されてもよい。なお、ここでは、ケース本体41aの開口41a1および封口板41bが略矩形であるが、ケース本体41aの開口41a1および封口板41bは、特に言及されない限りにおいて、矩形であることに限定されない。例えば、円形やオーバル形状でもよい。
【0039】
この実施形態では、溶接される前の封口板41bには、周縁部41b3の内側に溝47aが形成された溝部分47と、周縁部41b3の内側に溝47aが形成されていない非溝部分48とがある。非溝部分48は、封口板41bの周縁部41b3のうちガスケット70が配置された部位に近接する部位に設けられている。この実施形態では、ガスケット70が配置された部位に近接する部位を除いて、周縁部41b3の内側に溝47aが形成されている。
図4は、
図2のA-A断面を示す断面図である。
図4には、溝部分47の断面が示されている。
図5は、
図2のB-B断面を示す断面図である。
図5には、非溝部分48の断面が示されている。
図4および
図5では、ケース本体41aの開口41a1の縁と封口板41bの周縁部41b3とに照射されるレーザLが模式的に描かれている。溝47aが形成されていると、封口板41bの周縁部41b3に沿った溶融が、溝47aの外縁側に生じやすく、溶融池の形成が制御されやすい。他方で、ガスケット70が配置された部位では、溝47aが形成されていると、溝47aに反射したレーザLによってガスケット70が溶かされることが生じうる。このため、この実施形態では、ガスケット70が配置された部位に近接する部位には、溝47aが形成されていない。
【0040】
この場合、非溝部分48では、溝部分47よりも、封口板41bの周縁部41b3から熱が逃げやすい傾向がある。このため、封口板41bの周縁部41b3に溝部分47と非溝部分48とがある場合、溶接工程では、溝部分47を溶接するときのレーザLのピーク出力が、非溝部分48を溶接するときのレーザLのピーク出力よりも大きくなるように設定されているとよい。これにより、非溝部分48を溶接するときのレーザLのピーク出力が大きく設定されることで、溝部分47と非溝部分48とで形成される溶融池の差が小さくなり、全周に亘って狙いの溶融池に近づけることができる。このように、溶接される前の封口板41bの周縁部41b3が、周縁部41b3の内側に溝47aが形成された溝部分47と、溝47aが形成されていない非溝部分48とを有している場合、他の条件が大凡同じであれば、非溝部分48を溶接するときのレーザLのピーク出力が大きく設定されるとよい。例えば、
図2に示されているように、同じ長辺部91,92において、溝部分47と非溝部分48とがある場合には、非溝部分48を溶接するときのレーザLのピーク出力が大きく設定されるとよい。
【0041】
また、
図2に示されているように、封口板41bは、矩形の部材であり、封口板41bには、互いに対向する一対の長辺部91,92と、互いに対向する一対の短辺部93,94とを有している。ケース本体41aの開口41a1は、封口板41bに対応した略矩形の形状を有している。
【0042】
本発明者の知見では、短辺部93,94では、ケース本体41aの開口41a1に封口板41bを装着し、保持した際に微小は隙間が生じている場合がある。隙間が生じているとレーザが隙間から部分的にリークする場合があり、溶接部の溶け込みが浅くなりやすい。他方で、電池ケース41内で内圧が上がった場合には、幅狭面部45,46よりも幅広面部43,44の変形が格段に大きくなる傾向がある。このため、封口板41bの周縁部41b3の溶接箇所では、短辺部93,94よりも長辺部91,92の応力が高くなりやすい。
【0043】
この実施形態では、溶接工程では、長辺部91,92を溶接するときのレーザのピーク出力が、短辺部93,94を溶接するときよりも高くなるように設定されている。このことによって、電池ケース41で内圧が上がった場合でも、長辺部91,92と短辺部93,94の溶接部に作用する応力の違いに応じた所要の耐力が得られる。このため、封口板41bを全周に亘って、溶接部に必要な接合強度が確保される。また、短辺部93,94では、溶接部の溶け込みが必要以上に深くならず、レーザの出力が低く抑えられる。このため、溶接工程における消費電力が全体として低く抑えられる。
【0044】
また、この実施形態では、封口板41bは、
図2に示されているように、長辺部91,92と短辺部93,94との間に設けられたR部95~98を有している。この実施形態では、溶接工程では、R部95~98を溶接するときのレーザのピーク出力が、短辺部93,94を溶接するときのレーザのピーク出力よりも低く設定されている。R部95~98は、電池ケース41で内圧が上がった場合でも、溶接部に応力が作用しにくいためである。これにより、また、R部95~98では、溶接部の溶け込みが必要以上に深くならず、レーザの出力が低く抑えられる。このため、溶接工程における消費電力が全体として低く抑えられる。
【0045】
また、溶接工程では、封口板41bの周縁部41b3に沿ってレーザが走査される。この実施形態では、上述のように、長辺部91,92の溝部分47と非溝部分48、短辺部93,94、R部95~98でそれぞれレーザのピーク出力が変更される。このとき、それぞれの境界部分では、レーザのピーク出力が徐々に上げられる。この実施形態では、パルス発振されたレーザの1つ1つの溶融池が深く、かつ、パルスの周波数が速いためにパルス発振された隣接するレーザが高い割合で重なる。そして、先に打たれたレーザの溶融池が完全に固まる前に隣接するレーザが適度にラップするように打たれる。このため、レーザのピーク出力が変更される場合に、その境界部分で、徐々にレーザのピーク出力が上げられることで、溶接部の溶け込み深さが間断なく滑らかに変更される。このため、溶接品質が格段に向上し、耐圧強度が高くなる。
【0046】
また、この実施形態では、封口板41bの周縁部41b3において溶接が開始される部分と、溶接が終了される部分とが重なっている。溶接を開始する部分では、ケース本体41aの開口41a1や封口板41bの温度が低く、溶接部の溶け込みが浅い傾向がある。溶接を開始する部分と溶接を終了する部分とが重なっていることで、溶接を開始する部分の溶け込みが深くなり、溶接品質が向上する。
【0047】
ここで、レーザのピーク出力は、適切な溶融深さが得られるように、ケース本体41aや封口板41bに用いられる材料によって予め定められているとよい。しかしながら、本発明者の知見では、レーザのピーク出力が一定であると、溶接された部位の溶け込み深さ安定しない。特に、今回、パルス幅が400~800μmで、かつ、周波数が1.2~1.4kHzと、高い周波数を採用し、一定の速度でレーザが走査される場合には、溶接された部位の溶け込み深さを安定させるとの観点で、レーザのピーク出力が適切に調整されることが好ましい。レーザのピーク出力は、高すぎるとスパッタが発生しやすくなり、低すぎると溶け込み深さが浅くなりすぎる。かかる観点で、溶接工程において、レーザのピーク出力は、3.0~5.0kWの範囲で、スパッタが発生しにくく、かつ、溶け込み深さが浅くなりすぎない程度に設定されているとよい。
【0048】
レーザのピーク出力は、3.0~5.0kWの範囲であれば、例えば、ケース本体41aや封口板41bにアルミ鋼板が用いられている場合に、適切な溶け込み深さの溶接部が形成される。その上で、封口板41bとケース本体41aの開口41a1の形状や、封口板41bの溝の有無などに応じて、レーザを走査しつつ、レーザのピーク出力が部分的に変更されるとよい。例えば、ケース本体41aにA3003のアルミ鋼板が用いられ、封口板41bにA1050のアルミ鋼板が用いられているような場合には、本発明者の知見では、スパッタが発生しにくく、かつ、溶け込み深さが浅くなりすぎない範囲として、例えば、3380~3950Wで調整されるとよい。このように、レーザのピーク出力は、ケース本体41aや封口板41bに用いられる材料に応じて適切に設定されるとよい。
【0049】
以上、ここで開示される発明について、種々説明した。特に言及されない限りにおいて、ここで挙げられた実施形態などは本発明を限定しない。また、ここで開示される発明の実施形態は、種々変更でき、特段の問題が生じない限りにおいて、各構成要素やここで言及された各処理は適宜に省略され、または、適宜に組み合わされうる。
【符号の説明】
【0050】
10 リチウムイオン二次電池
20 電極体
21 正極シート
21a 正極集電箔
21a1 正極集電箔の未形成部
21b 正極活物質層
22 負極シート
22a 負極集電箔
22a1 負極集電箔の未形成部
22b 負極活物質層
31,32 セパレータシート
41 電池ケース
41a ケース本体
41a1 開口
41b 封口板
41b1 注液孔
41b2 安全弁
41b3 周縁部
42 底面部(底面)
43,44 幅広面部
45,46 幅狭面部
47 溝部分
47a 溝
48 非溝部分
50 正極端子
51 外部端子
55 内部端子
60 負極端子
61 外部端子
65 内部端子
70 ガスケット
80 インシュレータ
91,92 長辺部
93,94 短辺部
95~98 R部
L レーザ