(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】光学積層体および液晶表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/02 20060101AFI20231122BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20231122BHJP
G02F 1/1335 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
G02B5/02 B
G02B5/30
G02F1/1335
(21)【出願番号】P 2021509688
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020014379
(87)【国際公開番号】W WO2020196898
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-01-11
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2019/013819
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】512225287
【氏名又は名称】堺ディスプレイプロダクト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100139930
【氏名又は名称】山下 亮司
(74)【代理人】
【識別番号】100125922
【氏名又は名称】三宅 章子
(74)【代理人】
【識別番号】100202197
【氏名又は名称】村瀬 成康
(74)【代理人】
【識別番号】100202142
【氏名又は名称】北 倫子
(72)【発明者】
【氏名】山田 晋太郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 幸生
(72)【発明者】
【氏名】前田 温子
(72)【発明者】
【氏名】本保 すみれ
(72)【発明者】
【氏名】中川 英樹
(72)【発明者】
【氏名】竹場 光弘
(72)【発明者】
【氏名】山下 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】近藤 克己
【審査官】池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/054805(WO,A1)
【文献】特開2011-186008(JP,A)
【文献】特開2007-071916(JP,A)
【文献】特開2012-103589(JP,A)
【文献】特開2008-262133(JP,A)
【文献】特表2018-511073(JP,A)
【文献】特開2004-037706(JP,A)
【文献】特開2003-195278(JP,A)
【文献】特開2019-035965(JP,A)
【文献】特開2019-020728(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0368906(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/02
G02B 5/30
G02F 1/1335
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受光面で受け取った光を内部で散乱光に変換し、次いで該散乱光を出光面から外部へ放出させる光散乱膜と、前記光散乱膜の前記
出光面側に配置されたシートとを備え、
前記光散乱膜は、
有機高分子化合物および光散乱粒子を含む透光性組成物を機能層として備え、
前記機能層は、前記光を受け取る第1面および前記散乱光が出射される第2面を有し、
前記光散乱粒子の平均粒子サイズが1.5μm以上であり、
前記機能層において、前記光散乱粒子の60容積%以上が、前記第1面に沿って拡がりかつ該第1面と垂直な向きに沿って濃縮された粒子層を形成しており、
前記シートは、二色性色素が配向した色素層を備えた偏光板を有し、
前記機能層が前記色素層に直接的に貼りつけられている、光学積層体。
【請求項2】
前記光散乱粒子において、1.5μm以上、4.5μm以下の粒子サイズを有する画分の容積が、前記機能層に含まれる光散乱粒子全体の容積の60%以上、96%以下である、請求項1に記載の光学積層体。
【請求項3】
前記光散乱粒子において、0.1μm以上、1.5μm未満の粒子サイズを有する画分の容積が、前記機能層に含まれる光散乱粒子全体の容積の4%以上、40%以下である、請求項2に記載の光学積層体。
【請求項4】
前記光散乱膜の厚さが、4μm以上、220μm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の光学積層体。
【請求項5】
1m
2の前記第1面に対応する前記機能層に含まれる前記光散乱粒子の総容積が、4.
5×10
-7m
3以上、3.6×10
-6m
3以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の光学積層体。
【請求項6】
前記光散乱粒子が、アルミナ、メラミン樹脂および中空シリカからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~5のいずれか1項に記載の光学積層体。
【請求項7】
前記有機高分子化合物が、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアミド、シリコーン、ユリア、エポキシ、ポリプロピレン、酢酸セルローズおよびポリ塩化ビニリデンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項6に記載の光学積層体。
【請求項8】
前記光散乱粒子の屈折率と前記有機高分子化合物の屈折率との差が、0.15以上、1.0以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の光学積層体。
【請求項9】
前記第1面に入射する正規化輝度0.5以上の光が、前記第1面に対して-32°~+32°の範囲内の入射角で入射する場合、前記第2面から出射される光のうち正規化輝度0.33の光が、前記第2面に対して-60°~-35°または35°~60°の範囲内の出射角で出射するように構成されている、請求項1~8のいずれか1項に記載の光学積層体。
【請求項10】
前記光散乱膜は、等方的に光を散乱させる前記機能層からなる、請求項1~9のいずれか1項に記載の光学積層体。
【請求項11】
集光型のバックライトと、前記バックライトからの光を透過させる液晶パネルと、請求項9または10に記載の光学積層体とを備え、
前記バックライトは、前記液晶パネルに入射する光のうち正規化輝度0.5以上の光を前記液晶パネルに対して32°以下の入射角で入射させるように構成されており、
前記光散乱膜は、前記バックライトからの光が前記機能層の第1面から第2面へ向けて透過するように構成されている、液晶表示装置。
【請求項12】
前記光散乱膜は、前記機能層と、前記液晶パネルに貼り付けられた基材とを含み、
前記基材は、複屈折性を有するポリマーからなる透光性フィルムである、請求項11に記載の液晶表示装置。
【請求項13】
前記液晶パネルよりも視認者側に、異方的に光を散乱させる構造を備えていない、請求項11または12に記載の液晶表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光散乱膜および液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、普及している液晶表示装置の表示モードとして、VA(Vertical Alignment)方式およびIPS(In-Plane Switching)方式がある。VA方式の液晶表示装置は、IPS方式の液晶表示装置と比べて、液晶表示装置を正面から視た「正面視」では、正面から外れた位置から液晶表示装置を視た「斜め視」の場合と比較してコントラスト比(正面コントラスト比)が高いが、斜め視での色および輝度が正面視での色および輝度から大きく変化しており、その結果、画質が低下する。
【0003】
特許文献1には、集光した光源をバックライトとして用い、液晶パネルを透過した後の光を散乱させることによって、VA方式の液晶表示装置の視野角を広げることが開示されている。特許文献1に記載の技術では、バックライトの光を、拡がらないように集光させた後に液晶パネルに入光させる。そして、液晶パネルを透過した光は光拡散層で拡げられる。
【0004】
この光拡散層は、透光性ポリマーに散乱子が含まれる構成を有しており、入光した光が散乱子によって散乱される。光拡散層を透過する光は液晶パネルをすでに透過しているので、光拡散層では液晶パネルでの隣接する画素との混色を生じることなく斜め方向への光が生成され、その結果、広い視野角を得ることができる。
【0005】
しかし、このような光拡散層は視認者側から液晶パネルに入った外光が視認者側へ戻ってしまうので、表示画面の視認が難しくなり、明所での正面コントラスト比が低下するという問題を生じさせる。そのため、特許文献1では、このような外光の戻りを低減するために、光拡散層の中に着色剤を添加するか、透光性ポリマーに着色剤を添加した着色層を光散乱膜と共に設けることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5323190号公報
【文献】特許第5172524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の技術を用いれば光散乱膜での外光の戻りを少なくすることができる。しかし、着色剤を添加した光拡散層または着色層は、外光を吸収すると同時に液晶パネルの透過光も吸収するために光透過率を低下させ、その結果、正面輝度が低下するという問題を生じさせる。
【0008】
また、ディスプレイの画質に黒輝度が重要であることが知られている。「黒輝度」は、ディスプレイにおける物理的な黒色のレベルであり、表示面の反射輝度と黒表示の自発光輝度(もしくは透過輝度)との和である。これまでに、高品位映像の画質に対して黒輝度が及ぼす影響が検討されており、特許文献1にも良好な黒色の表示が望ましいことが記載されている。しかし、特許文献1に記載の技術では、正面輝度の低下が避けられないため、正面視での黒輝度を低下させることは困難である。
【0009】
特許文献2では、液晶表示装置の表示側偏光フィルムの最表面に独特な光散乱シートを配置することによって、黒輝度の低下による高コントラスト比を従来よりも広い視野角において実現している。具体的には、黒表示時の全方位の黒輝度の最大値を2.0cd/m2以下にすることが記載されている。しかし、特許文献2に開示された光散乱シートを用いた場合、正面視での黒輝度に対する斜め視での黒輝度の比は非常に大きい。つまり、特許文献2では黒輝度の最大値が抑制されているものの、両者間での黒輝度の差は明らかに認識可能なレベルである。
【0010】
本開示は、このような問題を解決するためになされたものであり、その目的は、正面視での黒輝度の低下を抑制しつつ正面視と斜め視との間で黒輝度の差が認識されないレベルである液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示に係る光散乱膜は、受光面で受け取った光を内部で散乱光に変換し、次いで該散乱光を出光面から外部へ放出させる光散乱膜であって、有機高分子化合物および光散乱粒子を含む透光性組成物を機能層として備え、前記機能層は、前記光を受け取る第1面および前記散乱光が出射される第2面を有し、前記光散乱粒子の平均粒子サイズが1.5μm以上であり、前記機能層において、前記光散乱粒子の60容積%以上が、前記第1面に沿って拡がりかつ該第1面と垂直な向きに沿って濃縮された粒子層を形成している。
【0012】
本開示に係る液晶表示装置は、集光型のバックライトと、前記バックライトからの光を透過させる液晶パネルと、前記液晶パネルからの光を内部で散乱光に変換し、次いで該散乱光を出光面から外部へ放出させる光散乱膜と、を備え、前記光散乱膜は、有機高分子化合物および光散乱粒子を含む透光性組成物を機能層として備え、前記機能層は、前記光を受け取る第1面および前記散乱光が出射される第2面を有し、前記光散乱粒子の平均粒子サイズが1.5μm以上であり、前記機能層には、前記第1面に沿って拡がりかつ該第1面と垂直な向きに沿って濃縮された粒子層を形成されており、前記粒子層は前記機能層に含まれる光散乱粒子のうちの60容積%以上によって構成されており、前記バックライトは、前記液晶パネルに入射する光のうち正規化輝度0.5以上の光を前記液晶パネルに対して32°以下の入射角で入射させるように構成されており、前記光散乱膜は、前記バックライトからの光が前記機能層の第1面から第2面へ向けて透過するように構成されている。
【発明の効果】
【0013】
本開示の一実施形態に係る液晶表示装置によれば、正面視と斜め視との間で黒輝度の差が認識されない液晶表示装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本開示の一実施形態に係る液晶表示装置の構成を示す図である。
【
図2A】本開示の一実施形態における光散乱膜を示す断面図である。
【
図2B】本開示の一実施形態における光散乱膜を示す断面図である。
【
図2C】本開示の一実施形態における光散乱膜を示す断面図である。
【
図3】従来の液晶表示装置に用いられるバックライトの構成を示す図である。
【
図4A】本開示の一実施形態における角度(極角と方位角)に関する定義を示す図である。
【
図4B】本開示の一実施形態における角度(極角)に関する定義を示す図である。
【
図5】液晶表示装置の規格によって規定される色域と、人間の視認可能な色域とを示すCIE1931色空間の色度図である。
【
図6A】本開示の一実施形態に係る液晶表示装置における斜め視に起因する色域の違いを示すグラフである。
【
図6B】比較例に係る液晶表示装置における斜め視に起因する色域の違いを示すグラフである。
【
図7A】本開示の一実施形態において、液晶パネルから出光する光の、極角の変化に伴って生じる黒輝度変化を示す図である。実線は方位角0°での黒輝度変化を示し、破線は方位角45°での黒輝度変化を示す。
【
図7B】比較例において、液晶パネルから出光する光の、極角の変化に伴って生じる黒輝度変化を示す図である。実線が方位角0°での黒輝度変化を示し、破線が方位角45°での黒輝度変化を示す。
【
図7C】液晶パネルから出光する光の、極角の変化に伴って生じる色変化を示す図である。Pは本開示の一実施形態であり、Qは比較例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面を参照しながら本開示の一実施形態に係る液晶表示装置が説明される。
【0016】
図1は、本開示の一実施形態に係る液晶表示装置の断面図である。
図1に示されるように、本実施形態に係る液晶表示装置10は、バックライト1と、液晶パネル2と、光散乱膜3とを備え、これらの部材は、バックライト1からの光が液晶パネル2および光散乱膜3の順で透過するように配置されている。
【0017】
液晶パネル2において、液晶組成物を含む液晶層22が第1基板21と第2基板23との間に保持されている。これら二枚の基板のうち、前方の(視認者に近い)ものはCF基板、後方の(バックライトに近い)ものはTFT基板とも称される。
【0018】
液晶パネル2は、バックライトからの光を透過させるために、その背面2aがバックライト1の出光面1aと対向するように配置されている(
図1)。
図1では簡略化されているが、液晶パネル2は、一般的な液晶表示パネルと同様の構成を有しており、図示しない一対の偏光板が、それぞれ第1基板21および第2基板23の外面に貼り付けられている。第1基板21および第2基板23には、図示しない電極が形成されており、第1基板21に形成されたTFTによって、液晶層22に含まれる液晶組成物のダイレクタが制御される。
【0019】
バックライト1は、白色光を第1基板21へ向けて出射し、第1基板21を透過した光は液晶層22へ入り、次いで、第2基板23を透過する。液晶層22では、液晶組成物のダイレクタを変化させることによってバックライト1からの白色光の透過度が制御される。
【0020】
液晶層22に含まれる液晶組成物のダイレクタは、電圧無印加時に液晶パネル2の表示面に対して、ほぼ垂直となり、電圧印加時に液晶パネル2の表示面に対して大きく傾斜するように制御される(ノーマリーブラック)。
【0021】
なお、本実施形態において、「液晶組成物のダイレクタがほぼ垂直である」との表現は、液晶組成物のダイレクタが基板に鉛直な方向に対して一定の傾斜(プレチルト角)を有する状態で配列していることを含む。液晶組成物のダイレクタは、電圧無印加時に基板に鉛直な方向との間で0.5°以上、5°以下でプレチルトした状態で配列し得る。
【0022】
バックライト1は、液晶パネル2の第1基板21と対向するように配置されており、第1基板21へ向けて白色光を出射する出射面1aを有している。バックライト1は、例えば
図3に示されるように、LEDまたは冷陰極管のような発光部11と、その発光部11の光を均一化する拡散板12と、光を集光させるプリズム13とを備えている。発光部11が複数個のLEDの場合、バックライト1においてLEDが存在する部分と存在しない部分との間で輝度の差が生じ得る。このような差を無くすためにバックライト1には拡散板12が設けられている。この拡散板12から出光される光は、進路が拡げられている。バックライトの出射面での極角が32°よりも大きくなる場合、そのバックライトは非集光光源である。そこで、本実施形態では、拡散板12の表面にプリズム13を配置することによってバックライト1を集光光源にしている。
【0023】
バックライト1は、面状の白色光を出射する面状光源であり、光の出射方向に関する方位角φが0度または180度である出射光の輝度分布において、0.5以上の正規化輝度(最大輝度を1とする正規化された輝度)を呈する光が極角(θ)-32°~+32°の範囲内のみで検出される集光光源であることが好ましい。このように、バックライト1は、その光軸が光源の出射面の法線に近付くように白色光が集光されていることが好ましく、バックライト1から液晶パネル2に入射する光のうち正規化輝度0.5以上の光を入射角32°以下で入射するように構成されていることが好ましく、入射角12.5°以下で入射するように構成されていることがより好ましい。しかし、これに限定されない。
【0024】
上述したような0.5以上の正規化輝度を呈する光が極角(θ)-32°~+32°の範囲内でのみ検出される光源であれば、液晶組成物を斜めに横切る光が出射されることがほとんどない。このような光源を集光光源といい、0.5以上の正規化輝度を呈する光が-32°未満または+32°を超える角度の極角(θ)を有する光として検出される光源を非集光光源という。
【0025】
集光に用いられる部材としては、プリズムシート、導光板、マイクロレンズシート、ルーバーフィルム等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0026】
LEDは白色LEDでもよいし、青色LEDの光を、蛍光体層を透過させて白色にしてもよいし、赤、緑、青の3原色のLEDを配置して白色を生成させてもよい。
【0027】
本明細書中において、用語「極角」は、視認者から視て液晶表示装置の前後方向(液晶パネルの左右方向(x方向)および上下方向(y方向)によって規定されるxy平面に垂直なz方向)を基準に、斜め視の状態を示すベクトルが上記xy平面へ向けて傾斜した角度θが意図される。すなわち、液晶パネルの法線方向は極角0°である。
【0028】
また、用語「方位角」は、上記ベクトルを上記xy平面上に射影した像がx軸正方向から回転した角度φが意図され、x軸正方向は方位角0°である。また、光源に関して方位角に言及される場合、液晶パネルと平行な状態で液晶表示装置に組み込まれた光源の出射面における方位が意図される。
【0029】
本明細書中で意図される極角および方位角を、
図4Aおよび
図4Bに示す。ここでは、極角θ=0°を基準として、φ°方向における極角を+(プラス)θで規定し、φ+180°方向における極角を-(マイナス)θと規定する。
【0030】
バックライト1からの光は、第1基板21に貼り付けられた偏光板(第1の偏光板ともいう。)によって直線偏光に変換され、液晶層22によってその直線偏光の向きが制御され、第2基板23に貼り付けられた偏光板(第2の偏光板ともいう。)によってその透過/不透過が制御される。これにより、所望の表示が実現される。液晶層22の制御方法としては、TN方式、VA方式、IPS方式などがあり、どの方式でもよいが、特にVA方式の場合に本開示の効果が大きい。
【0031】
VA方式の液晶表示装置は、コントラスト比が高く、応答が速く、画像に着色が少ないという利点があり、液晶組成物として、誘電異方性が負の値を示す液晶組成物が使用される。このような液晶組成物は、誘電異方性が負の値を示す化合物と、誘電異方性がニュートラルである化合物との混合物であってもよい。
【0032】
誘電異方性が負の値を示す化合物としては、例えば、
【化1】
のように、分子骨格の中央に、F原子のような電気陰性度の大きい原子が分子短軸方向に置換されている官能基を導入した化合物が挙げられる。
【0033】
誘電異方性がニュートラルである化合物は、粘度を下げたり低温での液晶性を高めたりするために好適に使用される。このような化合物の例としては、下記構造式が挙げられる。
【化2】
【0034】
式中、R、R’は、-CnH2n+1(アルキル基)または-O-CnH2n+1(アルコキシ基)である。
【0035】
上述した化合物は、誘電異方性が負の値を示す化合物としての一例に過ぎず、本開示での液晶組成物に用いられる化合物はこれらに限定されない。
【0036】
本実施形態に係る液晶表示装置10において、光散乱膜3は、光を散乱させる光散乱粒子31と光散乱粒子31を内包するための有機高分子化合物32とを備えている。バックライト1から出射された光は、液晶パネル2を透過した後に光散乱膜3の内部へインプットされ、液晶パネル2を透過した際の角度分布よりも拡げられて出光面3bから光散乱膜3の外部へアウトプットされる。
【0037】
光散乱膜3は、第2基板23と対向する受光面3aとその受光面3aの反対面である出光面3bとを有している。光散乱膜3は、受光面3aで受け取った光を内部で散乱光に変換し、次いで該散乱光を出光面3bから外部へ(液晶表示装置10の前方に位置する視認者へ向けて)出光する。
【0038】
光散乱膜3は、例えば
図2Aおよび
図2Bに示されるように、光散乱粒子31と、媒体としての有機高分子化合物32とを含む透光性組成物を機能層30として有している。機能層30は、液晶パネル2から出た光を受け取る第1面および内部で生成された等方性の散乱光が外部へ放出される第2面を有しており、これらはそれぞれ、基材を有していない光散乱膜3の受光面3aおよび出光面3bに該当する。
【0039】
機能層30は、第1面に沿って拡がる粒子層を備えていることが好ましく、粒子層は、機能層30に含まれる光散乱粒子の60容積%以上によって構成されている。粒子層は機能層30全体の厚さの1~80%、好ましくは10~80%、より好ましくは30~80%、さらに好ましくは50~80%の領域内に濃縮している。このように、機能層30は、機能層30に含まれる光散乱粒子のうちの、60容積%以上、好ましくは70容積%以上、より好ましくは80容積%以上、さらに好ましくは90容積%以上が、第1面に沿って拡がりかつ第1面と垂直な向きに沿って濃縮された粒子層を含んでいる。
【0040】
光散乱膜3は、機能層30を保持する透光性のポリマーフィルム33を基材として有していてもよい(
図2Aおよび
図2B)。ポリエチレンテレフタレート(PET)のように複屈折性を有する樹脂を基材として用いたフィルムを液晶パネルよりも視認者側に配置すると、複屈折に起因して虹状のムラ(干渉色)が発生して表示品位を低下させることが知られている。ポリマーフィルム33は、複屈折性が高いと斜め方向において干渉色が生じる可能性があるため、複屈折性が低いことが好ましい。また、ポリマーフィルム33は、x軸方向とy軸方向との間で位相差が生じないゼロ位相差フィルムであることが好ましい。このようなポリマーフィルム33としては、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)系樹脂からなるフィルムが挙げられるが、これに限定されない。
図2Cに示されるように、機能層30のみが光散乱膜3として、液晶パネル2に貼り付けられた偏光板(図示せず)に直接貼り付けられてもよい。また、
図2Aまたは
図2Bに示されるように、機能層30およびポリマーフィルム33が貼り合わされてなる光散乱膜3が、上記偏光板に貼り付けられてもよく、この場合、ポリマーフィルム33または機能層30のいずれが上記偏光板に貼り付けられてもよい。
【0041】
このように、上述したゼロ位相差フィルムは、光散乱機能を有するフィルムを液晶パネルよりも視認者側に配置する場合の基材に好適に用いられる。しかし、このようなフィルムは、大型化した際のハンドリングが困難でありかつ高価である。
【0042】
本開示において、上述した構成の機能層を有している光散乱膜を用いれば、PET等を基材に用いた場合であっても、複屈折に起因する虹状のムラの発生を抑制することができる。具体的には、
図1および
図2Aのように、複屈折性が高いフィルム(例えばPET基材)よりも視認者側に、本開示における機能層を配置すれば、複屈折に起因する虹状のムラを回避することができる。
【0043】
このように、光散乱膜3は、入光を内部で散乱させ、内部で生じた等方性の散乱光を外部へ出光する機能を有しており、その機能を担う機能層30を備えている。機能層30は、有機高分子化合物32および該有機高分子化合物32に含有された光散乱粒子31を含む透光性組成物である。なお、機能層30は等方的に光を散乱させる層であり、光散乱膜3は異方的に光を散乱させる層(異方性の光散乱層)を備えていない。
【0044】
光散乱粒子31の材料としては、例えば、アルミナ(酸化アルミニウム)、中空シリカ、アルミニウム、硫酸バリウム、酸化ケイ素、酸化チタン、鉛白(塩基性炭酸鉛)、酸化亜鉛、亜鉛、メラミン樹脂、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
有機高分子化合物32の材料としては、その屈折率が光散乱粒子31のものと異なる材料が用いられ、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、ポリアミド(PA)、シリコーン(SI)、ユリア(UF)、エポキシ(EP)、ポリプロピレン(PP)、酢酸セルローズ(CA)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)などの有機高分子化合物が挙げられるがこれらに限定されない。
【0046】
本開示の光散乱膜3において、有機高分子化合物32の屈折率と光散乱粒子31の屈折率との差が0.15以上、1.0以下であることが好ましく、0.15以上、0.30以下であることがより好ましく、0.20以上、0.30以下であることがさらに好ましい。なお、有機高分子化合物32の屈折率は光散乱粒子31の屈折率よりも大きくても小さくてもよく、屈折率差の絶対値が上記範囲を満たしていればよい。屈折率差の絶対値が小さすぎると広い視野角を得ることが困難になり、屈折率差の絶対値が大きすぎると粒子濃度を下げたり、光散乱膜3を薄くしたりすることが必要になる。
【0047】
例えば、光散乱粒子31としてアルミナが用いられる場合、有機高分子化合物32は、PMMA、PVA、PVC、PC、PB、PP、CAであることが好ましく、PMMA、PVA、PVC、PB、PP、CAであることがより好ましい。光散乱粒子31として中空シリカが用いられる場合、有機高分子化合物32は、PMMA、PVA、PVC、PC、PB、PP、CAであることが好ましく、PVA、PVC、PC、PBであることがより好ましい。光散乱粒子31としてメラミン樹脂が用いられる場合、有機高分子化合物32は、PMMA、PVA、PP、CAであることが好ましく、CAであることがより好ましい。
【0048】
光散乱粒子31の平均粒子サイズは1.5μm以上、6.0μm以下であることが好ましく、1.5μm以上、4.5μm以下であることがより好ましく、1.5μm以上、3.5μm以下であることがさらに好ましく、2.0μm以上、3.0μm以下であることがさらにより好ましい。そして、光散乱粒子31の粒子サイズの最頻値は、1.75μm以上、3.5μm以下であることが好ましく、1.75μm以上、3.0μm以下であることがより好ましく、2.0μm以上、3.0μm以下であることがさらに好ましく、2.25μm以上、2.75μm以下であることがさらにより好ましい。また、粒子層の厚さは、光散乱粒子の上述した平均粒子サイズの1.0~5.0倍であることが好ましく、1.0~4.0倍であることがより好ましく、1.0~3.0倍であることがさらに好ましい。
【0049】
例えば、光散乱膜に含まれる光散乱粒子の平均粒子サイズが約2.0μmの場合、光散乱膜に形成される粒子層の厚さは約2.0~10.0μmであることが好ましく、約2.0~8.0μmであることがより好ましく、約2.0~6.0μmであることがさらに好ましい。
【0050】
粒子層は、光散乱膜3の受光面3aの近位に形成されていても(
図2A)、出光面3bの近位に形成されていても(
図2B)、受光面3aおよび出光面3bのどちらからも離れた位置に形成されていてもよいが、外光の戻り(戻り光)を低減するには出光面3bに接していないことが好ましい。
【0051】
このような粒子層に含まれる光散乱粒子のうち、上述した平均粒子サイズを有する画分は、その容積が、機能層30に含まれる光散乱粒子全体の容積の60%以上、96%以下であることが好ましく、より好ましくは65%以上、96%以下であり、さらに好ましくは75%以上、96%以下であり、80%以上、92%以下であってもよい。
【0052】
また、このような粒子層に含まれる光散乱粒子のうち、平均粒子サイズが0.1μm以上、1.5μm以下である画分は、その容積が、機能層30に含まれる光散乱粒子31全体の容積の4%以上、40%以下であることが好ましく、より好ましくは4%以上、35%以下であり、さらに好ましくは4%以上、25%以下であり、8%以上、20%以下であってもよい。
【0053】
一実施形態において、機能層30に含まれる光散乱粒子のうちの80容積%以上が厚さ方向に沿って機能層30全体の厚さの50~80%の領域内に濃縮されており、この濃縮された光散乱粒子の粒子サイズの最頻値は、1.75μm以上、2.5μm以下であり、そのうち、1.5μm以上、3.5μm以下の粒子サイズを有する画分が75容積%以上であり、0.1μm以上、1.5μm未満の粒子サイズを有する画分が25%以下である。
【0054】
本実施形態に係る液晶表示装置10において、光散乱膜3は、正面輝度をあまり低下させないことが好ましい。また、光散乱膜3は、視認者側からの外光のうち視認者側へ戻る光(戻り光)を低減させることが好ましい。特に、外光の反射光だけでなく、光散乱膜3に含まれる光散乱粒子31に起因する外光の散乱光が視認者側へ戻ることが抑制されていることが好ましい。なお、用語「正面輝度」は、液晶表示装置に対して極角0°から視た場合の輝度をいう。
【0055】
正面輝度の低下を回避するには、光散乱膜での前方散乱を多くして後方散乱を少なくすることが好ましく、光の波長(400nm~800nm)と同程度以上のサイズを有する光散乱粒子を用いれば、前方散乱を多くして後方散乱を少なくすることができることが知られている。このことは、前方散乱を行う粒子を用いた特許文献1の実施例において、平均粒径が1μm程度である微粒子が用いられていることからも容易に理解し得る。しかし、このような知見からでは本開示の構成を容易に想到することができない。
【0056】
光散乱膜は、光散乱粒子を含んだ液状の有機高分子化合物を基材の主面上に塗布し、その後に乾燥させることによって形成される。本開示における光散乱膜の作製に好ましい基材としては、TAC、PET、COP等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0057】
基材上への塗布方法としては、所望の厚みで精度良く成膜することが可能な方法であれば特に限定されず、例えば、グラビアコート法、リバースコート法、ナイフコート法、ディップコート法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、スピンコート法、ロールコート法、プリント法、浸漬引き上げ法、カーテンコート法、ダイコート法、キャスティング法、バーコート法、エクストルージョンコート法、E型塗布方法などが挙げられる。
【0058】
また、乾燥後の光散乱膜の平均膜厚は、4~220μmであることが好ましく、4~50μmであることがより好ましく、4~15μmであることがさらに好ましい。薄すぎると十分な硬度が得られず、厚すぎると加工が困難になるため、例えば乾燥後の膜厚が6μm程度である態様は、本開示に係る最良の形態と言える。
【0059】
このような塗布量に基づけば、乾燥後の光散乱膜3に対する光散乱粒子31の割合は、10~50容積%であることが好ましく、10~30容積%であることがより好ましい。乾燥後の光散乱膜3に含まれる光散乱粒子31が少なすぎると、光散乱膜3での散乱が少なくなり、広い視野角を得ることができない。また、乾燥後の光散乱膜3に含まれる光散乱粒子31が多すぎると、必要以上に散乱度が上がり、その結果、正面輝度が下がるとともに戻り光が増える。
【0060】
なお、乾燥した光散乱膜3に対する光散乱粒子31の割合や、光散乱膜3の平均膜厚が上述した範囲である場合、乾燥した光散乱膜3の第2偏光子23との接触面1m2に対応する粒子層に含まれる光散乱粒子31の総容積は、4.5×10-7m3~3.6×10-6m3が好ましく、6.0×10-7m3~2.3×10-6m3がより好ましく、7.5×10-7m3~1.5×10-6m3がさらに好ましい。
【0061】
本明細書中で使用される場合、用語「粒子」は0.1μm以上、20μm以下の粒子サイズ(粒子の寸法ともいう。)を有するものが意図される。粒子の形状は球形であっても非球形であってもよい。本明細書中において、「球形」は、粒子の三次元空間における最長寸法と最短寸法との比が1.2未満である形状が意図され、「非球形」は、粒子の三次元空間における最長寸法と最短寸法との比が1.2を超える形状が意図される。なお、本明細書中において用語「粒径」は「粒子サイズ」と等価に用いられ、球形の粒子では粒子径が意図され、非球形の粒子では粒子の三次元空間における最長寸法または最短寸法が意図される。
【0062】
また、「粒子サイズ」は、以下の方法により測定される。まず、顕微鏡を用いて、暗視野において光散乱膜の表面(受光面または出光面)の法線方向から光散乱膜(の内部)を撮像した後、撮像画像をパーソナルコンピュータ(以下、「PC」という)に格納する。この際、撮像画像中には、実際のスケールも併せて保存される。次に、PCにインストールされたソフトウェア(マイクロソフト社のPOWERPOINT(登録商標)など)を用いて、撮像画像における粒子の外縁をトレースする。トレースした粒子領域が重なっている場合は、各粒子領域の位置をずらすことによって、重なりが解消されたオブジェクトを得る。次に、画像解析ソフトウェア(米国国立衛生研究所により公開されたImageJなど)に上記したオブジェクトを含む電子ファイルを読み込むことによって、オブジェクトの最大寸法および最小寸法などが出力される。
【0063】
また、本開示において、光散乱粒子は、透光性であることが好ましいが、所望の機能が維持されている限り、そのサイズは均一または不均一であり得、その形状は、例えば、球形、楕円球形、平板形、多角形立方体などであり得るが、球形であることが最も好ましい。
【0064】
なお、光散乱粒子の形状および平均粒子サイズは、光散乱粒子、有機高分子化合物および溶剤を含む混合物の撹拌速度および時間を制御することによって適宜変更し得る。例えば、球形の粒子を得るには、凝集した粒子が破砕されることなく個々の粒子を首尾よく分離させることが必要である。そのためには、ビーズミルを用いた分散において、ビーズの運動エネルギーを抑制した穏やかな分散を実現してやればよい。この穏やかな分散には、例えば、混合物に投入するビーズとして微小なビーズを用いたり、混合物(ビーズを含む。)を低周速で撹拌したりすればよく、微小なビーズを投入した混合物を低周速で撹拌することがより好ましく、固体粒子をバインダー溶液に均一に分散させるために分散剤を適宜添加することがより好ましい。
【0065】
一実施形態において、光散乱膜は以下の工程(i)~(iv)が行われることによって生成される:
(i)光散乱粒子および有機高分子化合物を溶剤に添加する;
(ii)得られた混合物を撹拌して穏やかな分散を実行して、均一な分散液を調製する;
(iii)得られた分散液を基材に塗布して面全体に拡げる;
(iv)塗布後の基材を恒温槽に配置する(例えば60℃で20分間)。
【0066】
このような手順によって、球形の光拡散粒子による粒子層を含む光散乱膜を、基材上に乾燥された状態で得ることができる。なお、分散を実行する際に、分散液に少量の分散剤が加えられてもよい。
【0067】
上述した粒子層(沈殿層)を首尾よく形成させるには、乾燥が完了するまでに光散乱粒子を沈殿させることが必要である。そのために、沈殿を速やかに完了させることが可能な粒子および溶剤がこれらの比重(密度)に基づいて適宜選択される。なお、沈殿を抑制する無機フィラー(例えばシリカ)を分散液中に含有させないことが好ましい。
【0068】
乾燥は室温で行われればよいが、室温よりも高い環境下で乾燥が行われる場合、基材(例えばポリマーフィルム)の変形を避けるために乾燥温度を基材材料の融点よりも低く設定することが好ましい。
【0069】
また、このような温度範囲で乾燥を行うために、基材材料の融点よりも低い沸点を有する溶剤が本開示において好適に用いられる。基材としてPMMAが用いられる場合、PMMAの融点よりも低い沸点を有する溶剤は当該分野で公知である。例えば、基材および溶剤としてそれぞれPMMAおよび水系溶剤が用いられる場合、乾燥温度は100℃よりも低いことが好ましく、室温~80℃であることがより好ましく、室温~60℃であることがさらに好ましい。
【0070】
本開示では、このような粒子層を有した光散乱膜を用いることによって、正面輝度の低下が抑制されているだけでなく、戻り光が低減されている。このような効果は、前方散乱および後方散乱の観点のみから導き出せることではない。
【0071】
上述したように、粒子層は、光散乱膜3の受光面3aの近位に形成されていても、出光面3bの近位に形成されていても、受光面3aおよび出光面3bのどちらからも離れた位置に形成されていてもよい。粒子層を光散乱膜の所望の位置に形成させるには、濃縮された粒子層を含む光散乱膜を基材上に可能な限り薄く作製した後に基材から取り外し、別途作製したポリマー層(例えば、光散乱膜を構成する有機高分子化合物からなる層)に積層すればよい。また、基材から取り外された光散乱膜は、別の部材(例えば液晶パネルに貼り付けられた偏光板)に取り付けられてもよい。あるいは、光散乱膜は、偏光板上に直接的に作製されてもよい。
【0072】
光散乱膜を生成する際に用いられる基材は、光散乱膜の一部として液晶表示装置で用いられる場合、透光性のポリマーフィルムが基材として用いられればよく、基材から取り外された光散乱膜が液晶表示装置で用いられる場合、ガラス基板、金属板等が基材として採用されてもよい。
【0073】
基材としてポリマーフィルムが用いられた場合は、光散乱膜を基材から取り外すために、光散乱膜と基材との間に剥離層が設けられてもよいが、基材からの光散乱膜の分離手法はこれに限定されない。基材としてガラス基板が用いられた場合は、基材からの光散乱膜の剥離のために、レーザリフトオフ法を用いることが好ましいがこれに限定されない。特に、光散乱膜が基材上に形成された後すぐに(他の工程を経ることなく)剥離されてもよい場合は、光散乱膜と基材との密着力は強くなくてもよい。光散乱膜と基材との密着力が強くない場合には、ナイフエッジなどを用いて機械的に剥離することもできる。このような機械的な剥離手順は、基材がガラスであっても金属であってもポリマーフィルムであっても適用可能である。光散乱膜と基材との密着力は、光散乱膜の形成条件を調整したり、基材に表面処理(撥水処理等)を行ったりすることによって調整することができる。
【0074】
本開示に係る液晶表示装置は、上述した構成を有していることにより、視野角(色視野角および輝度視野角)が広い。なお、本明細書中において、色視野角および輝度視野角は、いずれも以下のとおり定義付けられる。
【0075】
色視野角は、表示装置に対して極角0°から視た場合(正面視)の色と表示装置に対して傾いた方向(極角θ≠0°)から視た場合(斜め視)の色との差異(色変化量)を色差Δu‘v’で評価したものである。具体的には、色視野角は、二次元フーリエ変換式光学ゴニオメーター(ELDIM(株)製、品番:Ezcontrast)を用いて、測定部分以外からの光が入射しないという条件下での測定値から算出された色差Δu‘v’で評価することができる。本開示における色視野角は、文献(S. Ochi, et al., "Development of Wide Viewing VA-LCD System by Utilizing Microstructure Film" IDW16, 472-475 (2016))を参考にした値(Δu‘v’=0.020)を満たすことが好ましく、その角度は極角が±32.5°である。また色差Δu‘v’は以下の式で規定される。
【0076】
【0077】
輝度視野角は、表示装置に対して極角0°から視た場合(正面視)の輝度と表示装置に対して傾いた方向(極角θ≠0°)から視た場合(斜め視)の輝度との差異を評価したものである。具体的には、輝度視野角は、二次元フーリエ変換式光学ゴニオメーター(ELDIM(株)製、品番:Ezcontrast)を用いて、測定部分以外からの光が入射しないという条件下で、正面(0°)にて測定される輝度の1/3の輝度となる斜め視の角度(極角)を測定することによって評価し得る。本開示における輝度視野角は、上記文献を参考にした値(1/3の輝度を呈する上記角度が±42.5°以上)であることが好ましい。
【0078】
例えば、アルミナ粉末を含む液状の有機高分子化合物(アクリル樹脂の前駆体)32を30μmの厚さで塗布および乾燥させることによって、乾燥後の膜厚が6μmで粒子濃度が15~18容積%である機能層30が形成される。一実施形態に係る液晶表示装置10では、このような機能層30が液晶パネル2の第2基板23に直接的に貼り付けられている。このような液晶表示装置10では、明所での正面コントラスト比は非常に良好であった。また、この液晶表示装置は広い視野角を有していた。
【0079】
集光光源がバックライト1として用いられる場合、バックライト1から出射される光のうちで、液晶パネル2に含まれる液晶組成物を斜めに横切るものがほとんどない。よって、液晶組成物はいずれも光を透過させず、その結果、正面視で完全な黒を表示する。
【0080】
なお、集光型のバックライトを用いると視野角が狭くなるが、本開示に係る液晶表示装置は光散乱膜3を備えているので、集光型のバックライトを用いているにもかかわらず広い視野角を得ることができる。
【0081】
一般に、液晶表示装置では、CIE(国際照明委員会)1931色空間の色度図内の色域RIのような、人間が視認し得る色域RSに関して、そのほぼ全ての色域を再現した画像を表示することが望まれている(
図5)。このような色再現性は、CIE1931色空間の色度図内における、表示装置の各サブ画素が表示する色の座標を結んだ直線に囲まれる領域(以下、「色域」という。)の面積によって表現され、この領域の面積が大きいほど色再現性が優れていると判定される。また、色域RIは、ITU-R(国際電気通信連合の無線通信部門)勧告BT.2020に規定される色域である。
【0082】
カラーフィルタを高濃度化すれば、液晶表示装置の画像の色再現性を高めることができる。しかし、カラーフィルタの高濃度化は、液晶パネルの光透過率の低下を招くのであまり実用的でない。
【0083】
また、量子ドット蛍光体が用いられることにより、液晶表示装置での正面から視認者が視た「正面視」での画像の色再現性を格段に向上させることができるが、正面でない位置から視認者が視た「斜め視」での画像の色再現性は非常に低い。つまり、量子ドット蛍光体が用いられた液晶表示装置では、正面視での色の純度は非常に良いが、斜め視での色の純度が悪い。そもそも、量子ドット蛍光体は価格面および環境面で不利である。
【0084】
本開示の液晶表示装置は、上述したような光散乱膜を採用することにより、「正面視」での画像の色再現性だけでなく、「斜め視」での画像の色再現性も優れている。すなわち、本開示の液晶表示装置は、斜め視(方位角が0°~180°で極角が0°~90°)での画像の色再現性が、正面視での画像の色再現性と遜色ない(差異が少ない)。
【0085】
一実施形態において、液晶表示装置10の視認者から見て左右方向(方位角が0°または180°)における所定の向き(極角が0°から60°までの範囲内である方向)へ向けて光散乱膜3を出た第1の光(ColorChecker(N. Funabiki et al., IDW'08, pp.2147-2150 (2008)のTable 1)におけるNo.4に対応する緑色光)の色度が、CIE1931色空間の色度図(x,y)で、X座標が0.290以上、0.295以下、Y座標が0.406以上、0.423以下で表される色度範囲内であることが好ましい。また、本実施形態では、液晶表示装置10の視認者から見て左右方向(方位角が0°または180°)における所定の向き(極角が0°から60°までの範囲内である方向)へ向けて光散乱膜3を出た第2の光(ColorCheckerにおけるNo.3に対応する青色光)の色度は、CIE1931色空間の色度図(x,y)で、X座標が0.192以上、0.203以下、Y座標が0.135以上、0.161以下で表される色度範囲内であることが好ましい。さらに、本実施形態では、液晶表示装置10の視認者から見て左右方向(方位角が0°または180°)における所定の向き(極角が0°から60°までの範囲内である方向)へ向けて光散乱膜3を出た第3の光(ColorCheckerにおけるNo.5に対応する赤色光)の色度は、CIE1931色空間の色度図(x,y)で、X座標が0.424以上、0.468以下、Y座標が0.294以上、0.298以下で表される色度範囲内であることが好ましい。
【0086】
光散乱膜を透過した第1の光(緑色光)、第2の光(青色光)および第3の光(赤色光)が所望の色度範囲内であることによって、正面視での画像の色再現性と斜め視での画像の色再現性との差異が少なくすることができ、斜め視での色再現性が向上した画像を表示し得る。
【0087】
なお、本開示の液晶表示装置10は、バックライト1と、液晶パネル2と、光散乱膜3とを備えていればよく、液晶パネル2と光散乱膜3との間に光学フィルタ(例えばバンドカットフィルタ)をさらに備えていてもよく、あるいは、光散乱膜3の外側にさらなるシート(例えば第3の偏光板)をさらに備えていてもよい。
【0088】
さらなるシートは、第2の偏光板よりも前方(視認者側)に備えられ、光散乱膜3は、第2の偏光板とさらなるシートとの間に設けられる。すなわち、本開示の液晶表示装置10は、さらなるシートを備えており、バックライト1からの光が、液晶パネル2および光散乱膜3を透過した後にさらなるシートを透過するように構成されている。
【0089】
さらなるシートとして第3の偏光板が採用される場合、第1~第3の偏光板はいずれも直線偏光子である。また、第3の偏光板には、その透過軸の方向が、第2の偏光板の透過軸の方向とほぼ一致しているものが用いられる。これにより、視認者側で検出される光量は、第3の偏光板の有無にかかわらずほとんど変化しない。第2の偏光板を透過した光は光散乱膜3を透過した後にその強度をほとんど低下させることなく第3の偏光板を透過する。
【0090】
一方、第3の偏光板に入光する外光は第3の偏光板によってその透過軸を通る直線偏光に変換され、入光される外光の1/2が第3の偏光板によって吸収される。そのため、視認者側からの外光は、その半分が第3の偏光板を透過し、その戻り光が視認者側へ向かう。
【0091】
本開示では、上述した光散乱膜を用いることによって、正面輝度の低下が抑制されているだけでなく、戻り光が低減されている。しかも、このような構成を有する光散乱膜が用いられていることによって、その透過軸が第2の偏光板の透過軸とほぼ同じ向きになる第3の偏光板を光散乱膜3の出光面3bの前方に配置することを可能にし、正面輝度をほとんど低下させることなく戻り光の抑制を実現している。このような効果は、前方散乱および後方散乱の観点のみから導き出せることではない。
【0092】
このように、本開示の光散乱膜3は、第3の偏光板と組み合わせて用いられることが非常に好ましい。二色性色素の色素層を備えた偏光板と組み合わせて用いられる場合、第3の偏光板は、その色素層が光散乱膜3の出光面3bに貼り合わせられる。このとき、光散乱膜3が機能層30からなる構成を有していることが好ましい。すなわち、機能層からなる光散乱膜が第3の偏光板の色素層に直接的に貼りつけられていることが好ましい。このような構成では、第2の偏光板と第3の偏光板の色素層との間にPET等の基材が存在しないので、光散乱膜3と第3の偏光板とを貼り合わせた多層膜に生じ得る反りの可能性が大きく低減されている。このような反り低減効果は、上述した文献に記載も示唆もされていない。
【0093】
また、光散乱膜3が基材33を備えている場合であっても、二色性色素の色素層を備えた偏光板と組み合わせられれば、第2の偏光板と第3の偏光板との間に存在する基材の量を低減することができるので、基材の吸湿性に起因して発生し得る多層膜の反りを低減することができる。そのため、樹脂シートに用いられる樹脂は特に限定されず、例えば、TACであってもPETであってもよい。
【0094】
液晶パネルよりも視認者側に配置された光拡散素子に起因する表示のぼやけを低減させることを目的として、このような光拡散素子として、異方的に光を散乱させる構造が設けられたものを採用することも知られている(例えば、特開2007-71916号公報)。この文献に開示される技術には、光拡散特性に三次元的な異方性を有する光拡散素子が不可欠である。
【0095】
これに対して、液晶表示装置10は、異方的に光を散乱させる構造を液晶パネルよりも視認者側に備えていない。もちろん、本実施形態における光散乱膜3は、異方性の光散乱層を備えていない。このような構成は、上述した文献に記載も示唆もされていない。
【0096】
第3の偏光板は、そのおもて面(視認者側の表面)に保護層が設けられていてもよい。保護層は、偏光板の保護フィルムとして形成され、その成分としては、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂や、ポリエステル系、ポリビニルアルコール系、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリエーテルスルホン系、ポリスルホン系、ポリスチレン系、ポリノルボルネン系、ポリオレフィン系、(メタ)アクリル系、アセテート系等の透明樹脂、(メタ)アクリル系、ウレタン系、(メタ)アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコーン系等の熱硬化型樹脂または紫外線硬化型樹脂等が挙げられる。
【0097】
保護層には、必要に応じて、ハードコート処理、反射防止処理、スティッキング防止処理、アンチグレア処理等の表面処理が施されていてもよい。
【0098】
さらなるシートは、視認者側から光散乱層に貼り合わせられるシートであってもよく、例えば、上述した構成を有する保護層がさらなるシートとして用いられてもよい。この場合、保護層は、第3の偏光板を介することなく光散乱層のおもて面に直接的に貼り付けられた層であっても、塗布層であってもよい。あるいは、さらなるシートは、液晶パネルからの光に含まれる特定の波長帯域の光の透過を妨げる透過光選択層であってもよい。このような透過光選択層は、マトリックスとしての樹脂と、樹脂に分散した透過光選択材とを含む。透過光選択層の作製手順は、光散乱層の作製手順に準じればよい。
【0099】
透過光選択層に用いられる樹脂は、熱可塑性樹脂であっても、熱硬化性樹脂であっても、光硬化性樹脂であってもよい。用いられる樹脂としては、エポキシ、(メタ)アクリレート(例えば、メチルメタクリレート、ブチルアクリレート)、ノルボルネン、ポリエチレン、ポリ(ビニルブチラール)、ポリ(ビニルアセテート)、ポリ尿素、ポリウレタン、アミノシリコーン(AMS)、ポリフェニルメチルシロキサン、ポリフェニルアルキルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン、ポリジアルキルシロキサン、シルセスキオキサン、フッ化シリコーン、ビニルおよび水素化物置換シリコーン、スチレン系ポリマー(例えば、ポリスチレン、アミノポリスチレン(APS)、ポリ(アクリルニトリルエチレンスチレン)(AES))、二官能性モノマーと架橋したポリマー(例えば、ジビニルベンゼン)、ポリエステル系ポリマー(例えば、ポリエチレンテレフタレート)、セルロース系ポリマー(例えば、トリアセチルセルロース)、塩化ビニ系ポリマー、アミド系ポリマー、イミド系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、エポキシ系ポリマー、シリコーン系ポリマー、アクリルウレタン系ポリマーが挙げられる。これらは、単独で用いられてもよく、組み合わせて(例えば、ブレンド、共重合)用いられてもよい。これらの樹脂は膜を形成後に延伸、加熱、加圧といった処理が施されてもよい。
【0100】
一実施形態において、透過光選択層に用いられる樹脂は、光散乱膜(機能層)に含まれる有機高分子化合物と異なる。
【0101】
透過光選択層に用いられる樹脂は粘着性を有していてもよい。すなわち、さらなるシートとしての透過光選択層は粘着剤層であってもよく、例えば、偏光板または光散乱層のおもて面に保護層等を貼り合わせる際に用いられる粘着剤層であり得る。粘着剤層は、粘着剤と、粘着剤に分散した透過光選択材とを含む構成であってもよい。用いられる粘着剤としては、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、エポキシ系粘着剤、セルロース系粘着剤が挙げられ、ゴム系粘着剤またはアクリル系粘着剤が好ましい。
【0102】
透過光選択層に用いられる透過光選択材は、特定波長を選択的に吸収する色素であることが好ましい。用いられる色素としては、例えば、アントラキノン系、トリフェニルメタン系、ナフトキノン系、ペリノン系、ペリレン系、スクアリリウム系、シアニン系、ポルフィリン系、アザポルフィリン系、フタロシアニン系、サブフタロシアニン系、キニザリン系、ポリメチン系、ローダミン系、オキソノール系、キノン系、アゾ系、キサンテン系、アゾメチン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、ジケトピロロピロール系、アントラピリドン系、イソインドリノン系、インダンスロン系、インジゴ系、チオインジゴ系、キノフタロン系、キノリン系、トリフェニルメタン系の化合物が挙げられる。
【0103】
色素は、単独で用いられてもよく、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。色素が単独で用いられる場合、570nm~610nmの範囲の波長帯域に吸収極大波長を有する色素(例えば、スクアリリウム系、シアニン系、ポルフィリン系、ローダミン系、キナクリドン系、インジゴ系の化合物)が好適に用いられる。
【0104】
このような色素を含むことによって、透過光選択層は、緑色光の波長と赤色光の波長との間の波長帯域の光の透過を妨げるように構成されている。この波長帯域は、少なくとも580nm~585nmの波長帯域を含み、例えば、550nm~600nm、550nm~615nm等の波長帯域である。
【0105】
本実施形態によれば、少なくとも580nm~585nmの範囲を含む波長帯域の光の透過が透過光選択層によってさらに妨げられる。これにより、緑色光と赤色光との間の黄色光の透過が妨げられるので、スペクトルが狭められた緑色光および赤色光を得ることができる。従って、緑色光または赤色光が用いられる表示の色再現性が向上する。
【0106】
さらに、このような透過光選択層が本開示の構成と組み合わせて用いられる場合、低濃度の色素量であっても戻り光を効果的に抑制することができる。このように、本開示の光散乱膜は、透過光選択層と組み合わせて用いられることもまた非常に好ましい。具体的には、本開示の構成に対して、1m2当たりの色素添加量0.0105g(530nmでの吸光度が0.0133)の透過光選択層を用いれば戻り光が十分抑制されることを確認している。しかも、その色素添加量を半減したとしても戻り光の低減効果にほとんど影響を及ぼさない。
【0107】
色素が2種以上を組み合わせて用いられる場合、470nm~500nmの範囲の波長帯域に吸収極大波長を有する色素(例えば、アントラキノン系、オキシム系、ナフトキノン系、キニザリン系、オキソノール系、アゾ系、キサンテン系、フタロシアニン系の化合物)が好適に組み合わせられる。
【0108】
このような色素をさらに含むことによって、透過光選択層は、緑色光の波長と青色光の波長との間の波長帯域の光の透過を妨げることができる。この波長帯域は、少なくとも495nm~500nmの波長帯域を含み、例えば、475nm~500nm、480nm~510nm等の波長帯域である。
【0109】
本実施形態によれば、少なくとも495nm~500nmの範囲を含む波長帯域の光の透過が透過光選択層によってさらに妨げられる。これにより、緑色光と青色光との間の光の透過が妨げられるので、スペクトルが狭められた緑色光および青色光を得ることができる。従って、緑色光または青色光が用いられる表示の色再現性が向上する。
【実施例】
【0110】
本開示の一実施形態に係る液晶表示装置の実施例を説明するが、本開示は、これに限定されるものではない。
【0111】
[実施例1]
市販のディスプレイPN-V701(シャープ(株)製)に用いられているバックライトおよび市販のディスプレイ4T-C60AJ1(シャープ(株)製)に用いられている液晶パネルと、光散乱膜(厚さ5.7μm、光散乱粒子:平均粒子サイズ1.94μmのアルミナ)とを
図1に示されるように配置した液晶表示装置を作製した。この液晶表示装置の表示モードはVA方式である。光散乱膜を透過した光の成分のうちでColorCheckerにおけるNo.3~5にそれぞれ対応する青色光、緑色光および赤色光の三色の色度を、分光測色器(TOPCON製のSR-LEDW)を用いてそれぞれ測定した。
【0112】
なお、光散乱膜は以下のように調製した:アルミナ粒子((株)バイコウスキージャパン製パイロコッカス2μm)35g、アクリル樹脂(DIC(株)製ボンコートCF-8700)88gを少量の分散剤とともに水149gに添加した。この混合物を撹拌して穏やかな分散を実行し、均一なアルミナ分散エマルジョンを調製した。アルミナ分散エマルジョン3gをPETフィルム(東レ(株)製ルミラーT60)の上記易接着面(300cm2)に載せ、0.67ミルのアプリケーターを用いて面全体に拡げた。塗布後のPETフィルムを恒温槽(アドバンテック東洋(株)製DRA630DB)に60℃で20分間配置することによってPETフィルム上に乾燥された光拡散層を得た。
【0113】
図6Aに、視認者から視て液晶表示装置の左右方向および法線方向を基準として、方位角が一定(0°または180°)であり、かつ、極角が0°から60°までの範囲内での各サブ画素の透過光である赤色光、緑色光および青色光の3点の色度を、CIE1931色空間の色度図(x,y)における色度座標において示す。
【0114】
図6Aにおいて、4つの三角形の頂点の色度座標は、それぞれ透過光の色度を示している。また、三角形は、それぞれ、色域R0(極角0°の場合)、色域R30(極角30°の場合)、色域R45(極角45°の場合)、および色域R60(極角60°の場合)を示している。色域R0の三角形の各頂点の色度座標は、それぞれ(0.19,0.13)、(0.29,0.42)、(0.47,0.29)であり、色域R30の三角形の各頂点の色度座標は、それぞれ(0.20,0.14)、(0.29,0.42)、(0.45,0.29)であり、色域R45の三角形の各頂点の色度座標は、それぞれ(0.20,0.15)、(0.30,0.41)、(0.43,0.30)であり、色域R60の三角形の各頂点の色度座標は、それぞれ(0.20,0.16)、(0.29,0.41)、(0.42,0.30)であった。
また、液晶パネルを透過した後の光に関し、その最大輝度(極角0°での輝度)1に対して正規化された輝度(すなわち正規化輝度)が0.5以上となる光の極角(絶対値)の最大値(11.9°)は、0°以上、32°以下の範囲内であった。
【0115】
(比較例1)
実施例1と同じバックライトの出光面に拡散シートを3枚挿入して作製した非集光型のバックライトと、実施例1と同じ液晶パネルとを
図1に示されるように配置した液晶表示装置を用いた。光散乱膜を透過した光の成分のうちでColorCheckerにおけるNo.3~5にそれぞれ対応する青色光、緑色光および赤色光の三色の色度を、分光測色器(TOPCON製のSR-LEDW)を用いてそれぞれ測定した。
図6Bに、視認者から視て液晶表示装置の左右方向および法線方向を基準として、方位角が一定(0°または180°)であり、かつ、極角が0°から60°までの範囲内での各サブ画素の透過光である赤色光、緑色光および青色光の3点の色度を、CIE1931色空間の色度図(x,y)における色度座標において示す。
【0116】
図6Bにおいて、4つの三角形の頂点の色度座標は、それぞれ透過光の色度を示している。
図6Bにおいて、三角形は、それぞれ、色域r0(極角0°の場合)、色域r30(極角30°の場合)、色域r45(極角45°の場合)、および色域r60(極角60°の場合)を示している。色域r0の三角形の各頂点の色度座標は、それぞれ(0.18,0.12)、(0.29,0.46)、(0.50,0.31)であり、色域r30の三角形の各頂点の色度座標は、それぞれ(0.21,0.18)、(0.30,0.41)、(0.43,0.30)であり、色域r45の三角形の各頂点の色度座標は、それぞれ(0.24,0.22)、(0.30,0.38)、(0.39,0.30)であり、色域r60の三角形の各頂点の色度座標は、それぞれ(0.26,0.26)、(0.30,0.36)、(0.37,0.30)であった。また、液晶パネルを透過した後の光(光散乱膜に受け取られる光)に関し、その正規化輝度が0.5以上となる光の極角(絶対値)の最大値(33.5°)は、0°以上、32°以下の範囲外であった。
【0117】
集光型の光源と光散乱膜とを用いた液晶表示装置では、表示される画像の色域が大幅に向上し、ITU-R勧告BT.2020に規定される色域RIと同程度の色域を表示し得ることがわかった。しかも、この液晶表示装置では、色視野角が広く、極角が大きくなっても色域がほとんど変化しないことがわかった。これに対して、非集光型の光源を用いた液晶表示装置では、色視野角が狭く、極角が大きくなるにつれて表示される画像の色域が狭くなる。
【0118】
【0119】
図6Aおよび
図6Bに示された色度図(x,y)における、極角の変化に伴う色域の変化を数値化した(表1)。色域R0(
図6A)および色域r0(
図6B)の面積を、極角が0°の場合に100%とした。非集光型の光源を用いた液晶表示装置では、極角が60°の場合に色域r0の面積が約10%にまで減少するが、集光型の光源と光散乱膜とを用いた液晶表示装置では、極角が60°の場合に色域R0の面積は60%以上に維持された。このように、集光型の光源と光散乱膜とを用いることによって、斜め視での色純度が正面視での色純度からあまり低下せず、正面視でも斜め視でも色再現性が優れた液晶表示装置が得られた。
【0120】
なお、方位角が0°または180°の局面を例として示したが、本実施形態の効果は方位角が0°~90°、90°~180°であっても観察される(データは示さず)。
【0121】
また、集光型の光源と光散乱膜とを用いた液晶表示装置での輝度分布は、非集光型の光源を用いた液晶表示装置での輝度分布よりも、ある程度は狭くなるものの、斜め視に起因する輝度変化として許容範囲内(液晶表示装置に求められる輝度変化の範囲内)であることがわかった。
【0122】
[実施例2]
表示モードがVA方式である液晶表示装置において、「斜め視」では色および黒輝度が正面視での色および黒輝度から大きく変化しており、その結果、画質が低下する。特に、方位角45°のときに視野角特性が非常に悪い。そこで、本開示に係る液晶表示装置の視野角特性を調べた。
【0123】
実施例1で作製した液晶表示装置を用いた。この光散乱膜では、液晶パネルと平行な平面1m2当たりの粒子層の中に9.0×10-7m3の容積のアルミナ粒子を光散乱粒子として含んでいる。このような液晶表示装置の正面に位置する視認者からみて液晶パネルの右方向を基準とした方位角が0°または45°のときに極角を-90°から90°まで変化させながら黒輝度を測定した。
【0124】
人間工学的に、目的の輝度が、基準となる輝度(正面輝度)の0.5倍以上、2倍以下であればこれらの間での差(輝度差)が認識されない、ということが知られている。このように、比較される二つの輝度のうち一方が他方の0.5倍以上、2倍以下であれば、両者間で輝度が一定であると判定される。
【0125】
図7Aには、集光型のバックライトと光散乱膜とを組み合わせて用いた液晶表示装置における、液晶パネルから出光する光の、極角の変化に伴って生じる黒輝度変化を示している。実線Aは方位角0°での黒輝度変化を示し、破線Bは方位角45°での黒輝度変化を示す。集光型のバックライトと光散乱膜とを組み合わせて用いた液晶表示装置では、方位角が0°であっても45°であっても黒輝度は一定であった(表2)。
【0126】
一方、光散乱膜3を設けない液晶表示装置において、同様に黒輝度を測定した。
図7Bには、比較例として光散乱膜3を設けない液晶表示装置における、液晶パネルから出光する光の、極角の変化に伴って生じる黒輝度変化を示している。実線Aが方位角0°での黒輝度変化を示し、破線Bが方位角45°での黒輝度変化を示す。方位角45°での黒輝度は方位角0°での黒輝度から大きく変化していた(表2)。なお、IPS方式の液晶表示装置でも、方位角45°での黒輝度は正面視と斜め視との間で黒輝度が大きく変化していた(データは示さず)。
【0127】
【0128】
また、カラー表示の場合であっても、液晶パネル2に含まれる液晶組成物を斜めに横切る光がほとんど存在しないので、色変化が抑制される。このことは、バックライトからの光の液晶パネルへの入射角(極角)が-32°以上、32°以下の場合に色変化量(Δu’v’)が0.02を下回ることからも明らかである(
図7C)。
図7Cには、液晶パネルから出光する光の、極角の変化に伴って生じる色変化を示している。図中、Pは本開示の一実施形態であり、Qは比較例である。
【0129】
このように、集光型のバックライトと光散乱膜とを組み合わせて用いることによって、黒輝度および色の変化を抑制させることができる。すなわち、採用されるべきバックライトは、液晶パネルに含まれる液晶組成物を透過する光が黒輝度および色の変化を生じさせない程度に集光されていればよく、本発明者らは、バックライトからの光の液晶パネルへの入射角が-32°~+32°の範囲内であれば、液晶パネルに含まれる液晶組成物を斜めに横切る光の影響が排除されることを確認している。
【0130】
(まとめ)
本開示に係る液晶表示装置は、集光型のバックライトと、前記バックライトからの光を透過させる液晶パネルと、前記液晶パネルからの光を内部で散乱光に変換し、次いで該散乱光を出光面から外部へ放出させる光散乱膜と、を備え、前記光散乱膜は、有機高分子化合物および光散乱粒子を含む透光性組成物を機能層として備え、前記機能層は、前記光を受け取る第1面および前記散乱光が出射される第2面を有し、前記光散乱粒子の平均粒子サイズが1.5μm以上であり、前記機能層には、前記第1面に沿って拡がりかつ該第1面と垂直な向きに沿って濃縮された粒子層を形成されており、前記粒子層は前記機能層に含まれる光散乱粒子のうちの60容積%以上によって構成されており、前記バックライトは、前記液晶パネルに入射する光のうち正規化輝度0.5以上の光を前記液晶パネルに対して32°以下の入射角で入射させるように構成されており、前記光散乱膜は、前記バックライトからの光が前記機能層の第1面から第2面へ向けて透過するように構成されている。
【0131】
本開示に従えば、液晶パネルからの光を散乱させる光散乱膜が設けられているので、広い視野角を得ることができる。しかも、集光型のバックライトを用いているので、液晶パネルに含まれている液晶組成物を斜めに横切る光はほとんど存在せず、その結果、正面視と斜め視との間で黒輝度および色がほとんど変化しない。さらに、平均粒子サイズが1.5μm以上である光散乱粒子は、その60容積%以上が前記第1面に沿って拡がる粒子層を形成しているので、極角の変化に伴う黒輝度および色の変化があらゆる方位角において大きく抑制されている。またさらに、極角の変化に伴う色域の変化があらゆる方位角において大きく抑制されているため、正面視でも斜め視でも色再現性が優れている。
【0132】
前記液晶表示装置において、前記光散乱粒子のうち、1.5μm以上、4.5μm以下の粒子サイズを有する画分の容積が、前記機能層に含まれる光散乱粒子全体の容積の60%以上、96%以下であることが好ましい。
【0133】
前記液晶表示装置において、前記光散乱粒子のうち、0.1μm以上、1.5μm未満の粒子サイズを有する画分の容積が、前記機能層に含まれる光散乱粒子全体の容積の4%以上、40%以下であることが好ましい。
【0134】
前記液晶表示装置において、前記光散乱膜の厚さが、4μm以上、220μm以下であることが好ましい。薄すぎると光の拡散が不十分であり、厚すぎると、透過光を減衰させる可能性があるからである。
【0135】
前記液晶表示装置において、前記光散乱膜の前記液晶パネルとの接触面1cm2に対応する前記機能層に含まれる前記光散乱粒子の総容積が、4.5×10-7m3以上、3.6×10-6m3以下であることが好ましい。
【0136】
前記液晶表示装置において、前記光散乱粒子は、アルミナ、メラミン樹脂および中空シリカからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0137】
前記液晶表示装置において、前記有機高分子化合物は、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアミド、シリコーン、ユリア、エポキシ、ポリプロピレン、酢酸セルローズおよびポリ塩化ビニリデンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0138】
前記液晶表示装置において、前記光散乱粒子の屈折率と前記有機高分子化合物の屈折率との差が、0.15以上、1.0以下であることが好ましい。
【0139】
前記機能層は、透光性の基材フィルムの主面上に形成されていてもよく、2層以上が積層されていてもよい。
【0140】
前記液晶表示装置において、前記バックライトは、前記液晶パネルに入射する光のうち正規化輝度0.5以上の光が入射角32°以下で入射するように構成されていることが好ましい。このようなバックライトから出射される光は、液晶組成物を斜めに横切ることがほとんどないので、黒輝度および色の変化をもたらすことがない。
【0141】
前記液晶表示装置は、表示モードがVA方式であることが好ましい。
【0142】
本開示に係る光散乱膜は、受光面で受け取った光を内部で散乱光に変換し、次いで該散乱光を出光面から外部へ放出させる光散乱膜であって、有機高分子化合物および光散乱粒子を含む透光性組成物を機能層として備え、前記機能層は、前記光を受け取る第1面および前記散乱光が出射される第2面を有し、前記光散乱粒子の平均粒子サイズが1.5μm以上であり、前記機能層において、前記光散乱粒子の60容積%以上が、前記第1面に沿って拡がりかつ該第1面と垂直な向きに沿って濃縮された粒子層を形成している。
【0143】
本開示に従えば、上述したような視野角が大きく、極角の変化に起因する黒輝度および色の変化が抑制された液晶表示装置を容易に構成することができる。また、本実施形態によると、「正面視」での画像の色再現性だけでなく、「斜め視」での画像の色再現性に優れた液晶表示装置を容易に構成することができる。さらに、本開示に係る光散乱膜において、極角の変化に起因する黒輝度および色の変化を抑制する機能は、方位角を変化しても損なわれることがない。
【符号の説明】
【0144】
1 バックライト
2 液晶パネル
21 第1基板
22 液晶層
23 第2基板
3 光散乱膜
30 機能層
31 光散乱粒子
32 有機高分子化合物