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特許7389797リチウムイオンセルの異常な自己放電を検出するための方法及びバッテリーシステム
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  • 特許-リチウムイオンセルの異常な自己放電を検出するための方法及びバッテリーシステム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】リチウムイオンセルの異常な自己放電を検出するための方法及びバッテリーシステム
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/02 20160101AFI20231122BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20231122BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
H02J7/02 H
H01M10/44 P
H01M10/48 P
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021516350
(86)(22)【出願日】2019-08-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-11
(86)【国際出願番号】 EP2019072171
(87)【国際公開番号】W WO2020064221
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-05-31
(31)【優先権主張番号】102018216356.1
(32)【優先日】2018-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】398037767
【氏名又は名称】バイエリシエ・モトーレンウエルケ・アクチエンゲゼルシヤフト
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(72)【発明者】
【氏名】シャルナー・ゼバスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ダンドル・ゾニア
(72)【発明者】
【氏名】シュミット・ヤン・フィリップ
【審査官】右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-282155(JP,A)
【文献】特開2013-118757(JP,A)
【文献】特開2017-216829(JP,A)
【文献】特開2008-118777(JP,A)
【文献】特開2003-009405(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0293129(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/02
H01M 10/44
H01M 10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のリチウムイオンセルとバッテリー制御装置とを含むバッテリーシステム内の異常な自己放電を検出するための方法であって、
複数の前記セルがそれぞれ、個別に又は組ごとに1つのバランシング回路を有し、
セル電圧が少なくとも1つの別のセル又はセル群に比べて増大している1つのセル又はセル群から、電荷を取り出し、オプションとして当該取り出された電荷をより低いセル電圧を有する1つの別のセル又はセル群に、これらのセル電圧が均等化されるまで、供給するよう、前記バランシング回路を予め設定された時点に動作させるように、前記バッテリー制御装置は構成されていて、
以下の、
(1)バランシング回路の動作時に、バランシングによって、それぞれのセル又はセル群から取り出されるか、又はそれぞれのセル又はセル群に供給される電荷Qを算定するステップ(i=1...N、ここで、Nは、セル又はセル群の数を示す)と、
(2)前記(1)で算定された電荷を累算することによって、それぞれのセル又はセル群に対する全てのバランシング電荷Qges,iを算定し、
ges,i=Σx qi,x
この場合、x=1...nは、バランシング回路のx番目の動作に対するカウンタであり、nは、それぞれのセル又はセル群iに対するこれまでの動作の全回数を示すステップと、
(3)バランシング率dQ/dtを前記(1)で測定された電荷Qと当該バランシング回路のその前の動作以降に経過している時間間隔Δtとの除算として算定するステップと、
(4)Qges,i又はdQ/dtが、以下の複数の基準、
(a)Qges,i/tges,iが、予め設定された閾値Qref/tgesを下回る。この場合、tges,iは、セル又はセル群iの使用期間を示す
(b)Qges,i/tges,iが、全てのセル若しくはセル群にわたって平均された値又はi以外の全てのセル若しくはセル群にわたって平均された値を予め設定された閾値ΔQだけ下回る
(c)(2)で算定された値を時間的に記録し、時間で微分することによって得られるdQges,i/dtが、予め設定された閾値Q′refを下回る
(d)時間の経過中に(3)で算定された全ての値にわたって平均を算出することによって得られるdq/dtの平均値が、予め設定された閾値q′ges,refを下回る
(e)前記(3)で算定された複数の値のうち、最長で予め設定された期間まで遡る複数の値にわたって平均を算出することによって得られるdq/dtの平滑平均値が、予め設定された閾値q′refを下回る
(f)(3)で算定された値を時間的に記録し、時間で微分することによって得られるバランシング率dq/dtの変化が、予め設定された閾値q″refを下回る
のうちの1つの基準を満たすときに、当該セル又はセル群に対する異常に高い自己放電を診断するステップとを含む当該方法。
【請求項2】
前記バランシング回路は、1つのスイッチと1つの負荷抵抗Rとを含むパッシブバランシング回路であり、前記電荷は、Q=∫U(t)/Rdtとして算定され、
ここでU(t)は、前記バランシング回路の動作中のセル電圧であり、tは、動作時間である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記バランシング回路は、既知の充電特性又は放電特性Qentn(U(t),t)又はQentn(U(t),t)を有するアクティブバランシング回路であり、
ここでiは、電荷が取り出されたセル又はセル群を示し、jは、電荷が供給されたセル又はセル群を示し、Ui,j及びti,jは、セル電圧及び動作時間を示す請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記アクティブバランシング回路は、コンデンサ、コイル、変圧器及び電圧変換器のうちの少なくとも1つを含む請求項3に記載の方法。
【請求項5】
それぞれのセルが、1つのバランシング回路を有する請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
全てのバランシング電荷Qges,i及びバランシング率dQ/dtが算定される請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
(2)及び/又は(3)で算定されたQges,i又はdQ/dtに対する値は、経時的に記録される請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
複数のリチウムイオンセルと1つのバッテリー制御装置とを含むバッテリーシステムであって、
複数の前記セルはそれぞれ、個別に又は組ごとに1つのバランシング回路を有し、
セル電圧が少なくとも1つの別のセル又はセル群に比べて増大している1つのセル又はセル群から、電荷を取り出し、オプションとして当該取り出された電荷をより低いセル電圧を有する1つの別のセル又はセル群に、これらのセル電圧が均等化されるまで、供給するよう、前記バランシング回路を予め設定された時点に動作させるように、前記バッテリー制御装置は構成されている当該バッテリーシステムにおいて、
前記バッテリー制御装置は、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法を実行するために構成されていることを特徴とするバッテリーシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリーシステムにおけるリチウムイオンセルの異常な自己放電を検出するための方法及びこの方法を使用するバッテリーシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車又はハイブリッド電気自動車用のバッテリーシステムが、個別に互いに並列に且つ直列に接続されている複数の二次電池セル、一般にはバッテリー制御装置(BMS)によって制御されるリチウムイオンセルを有する。
【0003】
BMSは、特にセル電圧、充電状態(SoC、State of Charge)、劣化度(SoH、State of Health)、電力、温度のような動作データを監視する機能及びセルの充電又は放電を制御する機能を有する。BMSのさらなる目的は、バッテリーシステムの熱制御、セルの保護及び当該記録された動作データに基づくセルの残りの寿命の予測である。
【0004】
BMSの重要な機能は、いわゆるバランシング、つまり個々のセルの充電状態の均等化である。個々のセルの充電状態(SoC)が、例えば、不均一な温度分布又はセル複合体の残りのセルのSoCの製造ばらつきに依存する増大した自己放電によって相違することが起こり得る。このような不均衡は、複数のセル電圧の拡散ドリフト(Auseinanderdriften)によって分かり、これらのセルの寿命を短くし且つ激しく消耗させ得る。当該バランシングの場合、さらに均衡させるため、これらのセルの充電状態が互いに均等化される。
【0005】
一般に、バランシングは、アクティブバランシング方法とパッシブバランシング方法とに類別される。アクティブバランシング方法の場合、電荷が、増大したSoCを呈するセルからより少ないSoCを呈するセルに移送される。当該移送は、コンデンサ、コイル及び/又は電圧変換器によって実行され得る。これに対して、パッシブバランシング方法の場合、充電状態が均衡されるまで、増大したSoCを呈するセルの余分な電荷が、抵抗(シャント)によって消失するだけである。
【0006】
リチウムイオンセルが広く普及して使用されている主な理由は、その高いエネルギー密度である。しかしながら、当該高いエネルギー密度は、同時に、障害(例えば、熱暴走)時の重大な破損の可能性をはらんでいる。それ故に、BMSが、リチウムイオンセルのセーフティクリティカルな状態を早めに検出し、適切な処置を講じ得ることが重要である。
【0007】
例えば内部又は外部の短絡に起因する異常に高い電流の流れによって、セパレータの完全な状態がもはや保証されず、例えばセパレータの局所的な変形又は局所的な溶融に起因して、最初に局所的な障害箇所が発生するように、セルの温度が急激に上昇することによって、「熱暴走」は起こり得る。その結果、陽極(還元剤)と陰極(酸化剤)とが、これらの障害箇所で直接に接触するか又は少なくとも導電接触する。これにより、激しく発熱する酸化還元反応が局所的に起こり得る。当該酸化還元反応は、セパレータのさらなる温度上昇及びさらなる破損を引き起こす。当該最初の局所的な酸化還元反応は、さらに広がり、電解液の蒸発及び分解を引き起こし得る。その結果、ハウジングの破裂、空気中の酸素との接触が発生するおそれがあり、最終的に火災又は爆発が起こり得る。
【0008】
外部の短絡の危険は、例えばフューズを取り付けることによって対処され得る。陽極と陰極との間の導電接続が、セルの内部で発生するときに、内部の短絡が発生する。一方では、このような内部の短絡は、例えば、事故によるセルの機械的な変形又は金属の物体による貫通に起因する非常に大きい外部の作用によって発生し得る。
【0009】
別の種類の内部の短絡は、セル自体における現象によって、例えば、製造不良に起因してセル中に封入される金属粒子によって、及び/又はデンドライト状の金属リチウムの陽極での析出によって引き起こされ得る。当該金属リチウムは、セパレータを「突き破って成長」し、陰極に対する導電接続を形成し得る。この種類の不良は、即座に「熱暴走」に至らないと考えられる。したがって、当該デンドライトは、最初は非常に薄く、通電負荷(Strombelastbarkeit)が比較的小さいと仮定される。その結果、当該デンドライトは、短絡時に自然に再溶解する。
【0010】
しかしながら、(以下では、「ソフトショート」とも呼ばれる)このような「弱い」短絡が、特に(例えば、金属粒子又はセパレータの弱い箇所が存在し得る)同じ個所で繰り返し発生すると、次第により強い負荷がかかるブリッジが、陽極と陰極との間に形成され、最終的に「熱暴走」が引き起こされることが考えられる。しかしながら、当該熱暴走が引き起こされる前に、増大した自己放電による「ソフトショート」が顕著に現れる。それ故に、当該自己放電の監視は、セーフティクリティカルな状態の発生を予測し、早期に適切な対抗措置を講じるための可能な処置である。
【0011】
当該自己放電を監視するための方法として、米国特許第2012/182021号明細書では、並列接続された2つのセル間の差動電流を監視することが提唱される。当該自己放電が等しいときに、当該差動電流は零であり、当該自己放電が等しくないときに、当該差動電流は、低い自己放電を呈するセルからより高い自己放電を呈するセルに流れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】米国特許第2012/182021号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記の問題点を考慮して、本発明の課題は、最小限の計器に起因する経費で既存のバッテリーシステム内に組み込まれ得る、リチウムイオンセルの自己放電を監視することによる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この課題は、請求項1に記載の方法及び請求項8に記載のバッテリーシステムによって解決される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】パッシブバランシング回路を有するセル複合体の図である。セルiのバランシング回路の動作時に流れるバランシング電荷が、Q=∫I(t)dt=∫U(t)/Rdtとして算定され得る。
図2】本発明の方法が実行され得るバッテリーシステムの構成を概略的に示す。
図3】時間に対して描かれた10個のセルの複合体の累算された全てのバランシング電荷の推移を示す。セル5は、10サイクル後に2.5倍程度大きく自己放電している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、バッテリーシステムにいずれにしても存在するバランシング機能を使用することによって、この課題を解決するという着想に基づく。
【0017】
したがって、本発明は、セルごとにバランシング電荷を監視することによってバッテリーシステムにおける異常な自己放電を検討するための方法及びこの方法を使用するために構成されているバッテリーシステムに関する。
【0018】
本発明の方法は、例えば内部短絡のようなセーフティクリティカルな状態の発生の確率に対する予想を可能にする。その結果、適切な措置が早期に取られ得る。
【0019】
本発明の方法が使用されるバッテリーシステムは、多数のリチウムイオンセルと、1つのバッテリー監視装置(以下では、BMS(Batteriemanagement-System)とも呼ばれる)とを含む。この場合、これらのセルはそれぞれ、個別に又は組ごとに1つのバランシング回路を有する。このバッテリー監視装置は、予め設定された時点に電荷を均等化するように、すなわちバランシングするように構成されている。このため、1つのセル又はセル群であって、当該セル又はセル群のセル電圧が、少なくとも1つの別のセル又はセル群に比べて増大している場合、当該セル電圧が均等化されるまで、当該バランシング回路が、当該セル又はセル群から電荷を取り出すために動作され、オプションとして当該取り出された電荷をより低いセル電圧を有する別のセル又はセル群に供給する。
【0020】
一般に、バランシングは、休止段階中に実行され、例えば、充電後に実行され、バッテリーシステムが無負荷にされる時点に実行される。当該バッテリーシステムが、電気自動車内に組み込まれている場合、当該バランシングは、走行中でない任意の時点に実行され得て、特に二次電池の充電の直後に実行され得る。ハイブリッド電気自動車又はプラグインハイブリッド電気自動車では、内燃機関による走行も考慮される。それぞれのセルに対するバランシング時に移動される電荷が、BMSによって算出され得る限り、本発明によれば、当該バランシングの時点は特に制限されず、当該バランシングの特殊なプロセスは特に要求されない。
【0021】
パッシブバランシングの最も簡単な場合では、電荷が、上昇したセル電圧を有する(過充電状態を呈する)セルだけから取り出され、負荷抵抗(シャント)で放電される。図1には、直列接続されたN個のセルの場合におけるこのようなパッシブバランシング回路の概要が示されている。それぞれのセルiに対して、セル電圧Uが、BMSによって監視される。このため、それぞれのセルは、BMSによって制御される少なくとも1つのスイッチS(例えば、MOSFET)と実際の並列抵抗(シャント)Rとを含むシャント回路を有する。
【0022】
計器に起因する経費を最小限にするため、実際には、一般に、図中に説明のために示されたようなバランシング電流Iを直接に測定することはない。この代わりに、当該バランシング電流は、I(t)=U(t)/Rとして抵抗Rとバランシング中に測定される電圧の推移U(t)とから計算される。時間にわたる積分が、流れる電荷を提供する。
【0023】
過充電状態又は別のセルに比べて上昇した電圧が検出された場合、スイッチSが、バランシングのためにBMSによって閉じられ、バランシング電流Iが流れる。バランシング電流Iは、抵抗Rで熱に変換される。こうして、電圧Uが目標値に達するまで、当該セルは、シャント回路によって制御されて放電される。次いで、スイッチSは再び開かれ、当該シャント回路は、当該セルから分離される。
【0024】
アクティブバランシングの場合、電荷が、一方のセルから取り出され、他方のセルに供給される。当該電荷は、エネルギー一時貯蔵部として機能する切替素子によって移送される。このため、コンデンサ、コイル、変圧器又は電圧変換器(スイッチングレギュレータ)が使用され得る。
【0025】
最も簡単な場合、切替素子は、周期的に高い充電状態を呈する(且つ高い電圧を有する)セルで充電され、切り替えられ、低い充電状態を呈する(且つ低い電圧を有する)セルで放電される切替コンデンサである。バランシング電荷が、それぞれの電圧とコンデンサの静電容量とスイッチング周波数とから算定され得る。この原理は、誘導素子(コイル、変圧器)若しくは伝達要素としてのスイッチングレギュレータを有する別のアクティブバランシングシステム及び/又はより複雑なアクティブバランシングシステムを含む別のアクティブバランシングシステム及び/又はより複雑なアクティブバランシングシステムに対しても同様に成立する。いずれの場合も、当該バランシング電荷は、関与するセルの電圧とスイッチング周波数とそれぞれの伝達要素の特性とから算定され得る。当該アクティブバランシング回路の特性は、一般に既知であり、BMS内に記憶されている。その結果、セルiから取り出されるバランシング電荷と、セルjに供給されるバランシング電荷とが、電圧推移と当該バランシング回路の動作期間とから算出され得る。
【0026】
本発明の方法は、以下のステップ(1)、(2)及び/又は(3)及び(4)を含む:
(1)バランシング回路の動作時に、バランシングによって、それぞれのセル又はセル群から取り出されるか、又はそれぞれのセル又はセル群に供給される電荷qを算定するステップ(i=1...N、ここで、Nは、セル又はセル群の数を示す)。
(2)前記(1)で算定された電荷を累算することによって、それぞれのセル又はセル群に対する全てのバランシング電荷Qges,iを算定するステップ:
ges,i=Σx qi,x
この場合、x=1...nは、バランシング回路のx番目の動作に対するカウンタであり、nは、それぞれのセル又はセル群iに対するこれまでの動作の全回数を示す。
(3)バランシング率dq/dtを前記(1)で測定された電荷qと当該バランシング回路のその前の動作移行に経過している時間間隔Δtとの除算として算定するステップ。
(4)Qges,i又はdq/dtが、以下にさらに記載されている基準に対して非常に低いときに、当該セル又はセル群に対する異常に高い自己放電を診断するステップ。
【0027】
ステップ(1)は、バランシング工程中にそれぞれのセル又はセル群iから取り出された電荷Qを算定することを含むか、又はアクティブバランシングの場合にそれぞれのセル又はセル群に供給された電荷Qを算定することを含む。電荷が供給される場合には、符号が反転する。以下の記載では、取り出される電荷だけを説明する。この場合、供給された電荷は、あたかも反転された符号を有する取り出された電荷とみなされる。
【0028】
ステップ(2)によれば、個々のバランシング工程中に移動された電荷qが、それぞれのセル又はセル群に対して累算され得る。最も簡単な場合には、実際に累算された値Qges,iをそれぞれ記憶するだけで十分である。セルtges,iの使用期間は既知であるので、単位時間当たりの全てのバランシング電荷を示す除算Qges,i/tges,iが算出され得る。代わりに、累算されたそれぞれの値除算Qges,iが、それぞれのバランシング工程に対して時間的に記録されてもよい。
【0029】
ステップ(3)によれば、全てのバランシング電荷の代わりに、又は全てのバランシング電荷に加えて、バランシング率dq/dtも算定され得る。この場合、バランシング率dq/dtは、バランシング時に移動される電荷と2つのバランシング工程間の時間間隔Δtとから成る除算である。当該バランシング率は、実際には比較的大きく変動するので、特に平均値が、例えば、セルの使用期間にわたる全平均値として、又は平滑平均値として診断のために使用される。当該平均値の場合、先行する期間(例えば、2~10日)の値にわたって、又は、例えば最後の2~10回のバランシング工程の値が平均される。
【0030】
次いで、ステップ(4)では、異常に高い自己放電が存在するか否かが、こうして算定された全てのバランシング電荷及び/又はバランシング率に基づいて確認され得る。換言すると、当該異常に高い自己放電を確認するための基準は、残りのセル又は全てのバランシング電荷に比べて非常に低く取り出される電荷である。同じ条件下にあるその他の残りのセルよりも少ない電荷が、バランシングのためにそのセルから取り出される場合、これは、自己放電がより高いことを示す。さらに、全てのバランシング電荷が異常に高いことは、過度の自己放電を示す。しかしながら、この場合は、個々のセルへの配分は不可能である。
【0031】
ステップ(4)では、その前にステップ(2)又は(3)で算出された全てのバランシング電荷及び/又はバランシング率に基づいて、取り出されるバランシング電荷が異常に低いセルが確認される。このため、本発明によれば、以下の基準のうちの1つ又は複数の基準が使用される:
(a)Qges,i/tges,iが、予め設定された閾値Qref/tgesを下回る。この場合、tges,iは、セル又はセル群iの使用期間を示す。
(b)Qges,i/tges,iが、全てのセル若しくはセル群にわたって平均された値又はi以外の全てのセル若しくはセル群にわたって平均された値を予め設定された閾値ΔQだけ下回る。
(c)(2)で算定された値を時間的に記録し、時間で微分することによって得られるdQges,i/dtが、予め設定された閾値Q′refを下回る。
(d)時間の経過中に(3)で算定された全ての値にわたって平均を算出することによって得られるdq/dtの平均値が、予め設定された閾値q′ges,refを下回る。
(e)前記(3)で算定された複数の値のうち、最長で予め設定された期間まで遡る複数の値にわたって平均を算出することによって得られるdq/dtの平滑平均値が、予め設定された閾値q′refを下回る。
(f)(3)で算定された値を時間的に記録し、時間で微分することによって得られるバランシング率dq/dtの変化が、予め設定された閾値q″refを下回る。
【0032】
累算された全てのバランシング電荷が、セルの使用期間tgesと共に増大するので、基準(a)における値及び基準(b)における値はそれぞれ、tgesで除算することができる。この場合、tgesは、セルの(例えば、動作以降の日単位の)使用絶対期間を示すか、又は既に実行された充電サイクルの合計数を示す。
【0033】
基準(a)による閾値Qrefは、セルiごとの全てのバランシング電荷に対して許容される下限値を示す。説明されているように、この値は、セルの使用期間tgesによって調整することができる。
【0034】
例えば、本発明の方法が実行されなければならない形式と同じ形式のフィールドテストが、バッテリーシステムに対して実行され、バランシング電荷が記録されることによって、当該閾値は決定され得る。増大した自己放電を示すバランシング電荷の異常は、予想されるように稀であるので、当該バッテリーシステムのバランシング電荷を記録することによって、当該閾値を自動的に算出することも考慮される。場合によっては、特定の1つのバッテリーシステムに対して得られた値が、同じ形式のその他の複数のバッテリーシステムと比較されることによって検査される必要がある。引き続き、個々のセルにわたるバランシング電荷の平均値及び分布が計算され得る。当該分布の幅の倍数が、当該平均値によって減算されることによって、当該閾値は決定され得る。
【0035】
さらに、バッテリー監視装置(BMS)に既知であるか又は他の測定変数に基づいて評価される他の外部要因が、当該閾値の決定で考慮されてもよい。したがって、例えば、当該閾値が、予測される劣化状態に依存して変更されることによって、例えば固体電解質界面構造(SEI-Aufbau)のように、劣化プロセスに起因する自己放電の自然な増大が考慮され得る。接続されている測定電子装置の最終的な入力インピーダンスに起因して、漏れ電流による放電が起こり得る。同様に、当該漏れ電流が、当該閾値を作成するために考慮されてもよい。
【0036】
基準(b)にしたがって、Qges,i/tges,iが、全てのセル又はセルi以外の全ての残りのセルの平均と比較される。セルiに対する値が、この平均を予め設定されている閾値ΔQだけ下回る場合、同様に、これは、過度の自己放電を示し得る。ΔQは、例えば、全てのセルによるQges,i/tges,iの分散の幅又は標準偏差σから算出され得る。この場合、過度の自己放電として誤った比較結果を回避することを考慮して、ΔQは、特に少なくとも1.5σであり、非常に好ましくは少なくとも2σであり、特に少なくとも3σである。さらに好ましくは、過度の自己放電でないとして誤った比較結果を回避するため、5σ未満にすることが好ましい。ΔQを当該分布範囲の倍数として決定することには、当該ΔQの算出は、算出されたデータに基づいて実行され得て、基準データが不要であるという利点がある。
【0037】
(c)によれば、さらなる基準は、全てのバランシング電荷dQges,i/dtの変化率である。この全てのバランシング電荷は、それぞれのバランシング時にステップ(2)で算出された全てのバランシング電荷の値Qges,i,xを経時的に記録することによって取得され得る。この場合、xは、バランシングシステムの操作に対するカウント指標である。dQges,i/dtが、回帰分析の近似曲線(例えば、多項式の近似曲線)を作成し、時間微分を実行することによって算定され得る。当該全てのバランシング電荷の変化率が、時間と共に減少する場合、同様に、これは、増大した自己放電に対する徴候である。同様に、閾値Q′refを下回ることが、基準として使用される。この閾値Q′refは、同様に微分を実行することによって上記の閾値Qrefから算出され得る。
【0038】
当該変化率の考慮には、例えば測定電子装置の入力インピーダンスの僅かな違いに起因して変動する大きい測定電流(当該測定電流は、同様にバランシング電荷を変動させ得るが、経時的に一定である)のような、静的効果(statische Effekte)が排除され得て、セルの自己放電の変化(増大)だけが考慮されるという利点がある。
【0039】
当該全てのバランシング電荷の代わりに又は当該全てのバランシング電荷に加えて、バランシング率dq/dtも、基準として使用され得る。このバランシング率dq/dtは、ステップ(1)で算出された電荷とバランシングシステムの2回の動作間の時間間隔とから成る除算として算出され得る。こうして得られた個々の値は、一般に比較的大きく変動し得るので、最初に平均値が計算される(基準(d))。同様に、この平均値は、例えばQrefと同様に取得され得る閾値q′ref,gesと比較されるか、又は時間微分を実行することによってQrefからされる。
【0040】
当該全平均値の代わりに、基準(e)によれば、平滑平均値も、例えばバランシングシステムの最後の2~10回の動作からの平均値として、又は所定の時間間隔未満まで遡る、例えば1~20日まで遡る複数のバランシング工程の平均値として算定され得る。同様に、当該平滑平均値も、閾値q′refと比較される。
【0041】
最後に、基準(f)によれば、バランシング率の時間推移も考慮され得る。これは、バランシング電荷qの2階時間微分に相当する。同様に、時間と共に減少し、予め設定された閾値q″refを下回るバランシング率が、増大した自己放電を示す。
【0042】
ステップ(1)~(4)でのデータの測定、記録及び評価は、説明されているようにBMSによって実行される。この場合、当該実装方式及び関与する制御装置は、特に限定されない。特に、これらの機能は、バッテリーシステム内にいずれにしても存在する当該制御装置によって監視され得る。
【0043】
最も簡単な場合では、全てのセルの動作データを同時に又は連続して監視するBMSは、個々の制御装置(BCU、バッテリー制御装置)内に実装されている。この場合、これらのセルは、組ごとにモジュール化されて接続されてもよい。この場合には、全ての監視機能及び制御機能が、BCUによって実行される。その結果、本発明の方法は、好ましくは同様にBCU内で実行される。
【0044】
代わりに、モジュールレベルでのセルの監視を請け負い、受け取られたデータを、通信システム(例えば、CANバス)を介してBCUに伝送する1つの固有の制御装置(セル監視回路、cell supervisioncircuit、CSC)が、それぞれのモジュールに対して又はそれぞれのセルに対して設けられてもよい。このような配置は、図1に示されている。
【0045】
これらのCSCが、提供されているメモリと計算能力とを考慮して適切に構成されている場合、データの経時的な記録をオプションとして含む全ての方法ステップ(1)~(4)が、これらのCSCで実行され得る。次いで、これらのCSCは、増大した自己放電を呈するセルの存在又は非存在だけをBCUに伝達する。代わりに、電荷の計算(1)と、場合によってはセルごとの累算(2)とが、これらのCSCで実行されてもよく、BCUが、経時的な記録、微分の実行(3)及び評価(4)を実行してもよい。別の実施の形態では、これらのCSCは、バランシング中に電圧の時間推移だけをBCUに伝達する。次いで、実際の方法ステップ(1)~(4)が、このBCUで実行される。
【0046】
異常な自己放電を呈するセルが検出された場合、様々な応答が、記録及び/又は予測した値からの偏差の度合いに応じて可能である。1回だけの偏差又は頻繁でない偏差の場合、バッテリーシステムの次のメンテナンス時に再検査するためのセルを記録した事項が、BCUのエラーメモリ内に記憶されるだけでよい。頻繁に発生するより強い偏差の場合、セルが、例えば近いうちに交換するために記録され得て、BMSは、対応するメッセージをバッテリーシステムが構築されているシステム(電気自動車)に通信経路(例えば、CANバス)を介して伝達し得る。最悪の場合の、目標値からの非常に大きい偏差及び/又は連続して大きくなる偏差の場合、さらなる劣化及び内部短絡の発生を阻止するため、これに対してBMSは、セル又はセルが構築されているモジュールを停止させる。
なお、本発明は、以下の態様も包含し得る:
1.複数のリチウムイオンセルとバッテリー制御装置とを含むバッテリーシステム内の異常な自己放電を検出するための方法であって、
複数の前記セルがそれぞれ、個別に又は組ごとに1つのバランシング回路を有し、
セル電圧が少なくとも1つの別のセル又はセル群に比べて増大している1つのセル又はセル群から、電荷を取り出し、オプションとして当該取り出された電荷をより低いセル電圧を有する1つの別のセル又はセル群に、これらのセル電圧が均等化されるまで、供給するよう、前記バランシング回路を予め設定された時点に動作させるように、前記バッテリー制御装置は構成されていて、
以下の、
(1)バランシング回路の動作時に、バランシングによって、それぞれのセル又はセル群から取り出されるか、又はそれぞれのセル又はセル群に供給される電荷Q を算定するステップ(i=1...N、ここで、Nは、セル又はセル群の数を示す)と、
(2)前記(1)で算定された電荷を累算することによって、それぞれのセル又はセル群に対する全てのバランシング電荷Q ges,i を算定し、
ges,i =Σx q i,x
この場合、x=1...nは、バランシング回路のx番目の動作に対するカウンタであり、nは、それぞれのセル又はセル群iに対するこれまでの動作の全回数を示すステップと、
(3)バランシング率dQ /dtを前記(1)で測定された電荷Q と当該バランシング回路のその前の動作以降に経過している時間間隔Δtとの除算として算定するステップと、
(4)Q ges,i 又はdQ /dtが、以下の複数の基準、
(a)Q ges,i /t ges,i が、予め設定された閾値Q ref /t ges を下回る。この場合、t ges,i は、セル又はセル群iの使用期間を示す
(b)Q ges,i /t ges,i が、全てのセル若しくはセル群にわたって平均された値又はi以外の全てのセル若しくはセル群にわたって平均された値を予め設定された閾値ΔQだけ下回る
(c)(2)で算定された値を時間的に記録し、時間で微分することによって得られるdQ ges,i /dtが、予め設定された閾値Q′ ref を下回る
(d)時間の経過中に(3)で算定された全ての値にわたって平均を算出することによって得られるdq /dtの平均値が、予め設定された閾値q′ ges,ref を下回る
(e)前記(3)で算定された複数の値のうち、最長で予め設定された期間まで遡る複数の値にわたって平均を算出することによって得られるdq /dtの平滑平均値が、予め設定された閾値q′ ref を下回る
(f)(3)で算定された値を時間的に記録し、時間で微分することによって得られるバランシング率dq /dtの変化が、予め設定された閾値q″ ref を下回る
のうちの1つの基準を満たすときに、当該セル又はセル群に対する異常に高い自己放電を診断するステップとを含む当該方法。
2.前記バランシング回路は、1つのスイッチと1つの負荷抵抗R とを含むパッシブバランシング回路であり、前記電荷は、Q =∫U (t )/R dt として算定され、 ここでU (t )は、前記バランシング回路の動作中のセル電圧であり、t は、動作時間である上記1.に記載の方法。
3.前記バランシング回路は、既知の充電特性又は放電特性Q entn (U (t ),t )又はQ entn (U (t ),t )を有するアクティブバランシング回路であり、
ここでiは、電荷が取り出されたセル又はセル群を示し、jは、電荷が供給されたセル又はセル群を示し、U i,j 及びt i,j は、セル電圧及び動作時間を示す上記1.に記載の方法。
4.前記アクティブバランシング回路は、コンデンサ、コイル、変圧器及び電圧変換器のうちの少なくとも1つを含む上記3.に記載の方法。
5.それぞれのセルが、1つのバランシング回路を有する上記1.~4.のいずれか1つに記載の方法。
6.全てのバランシング電荷Q ges,i 及びバランシング率dQ /dtが算定される上記1.~5.のいずれか1つに記載の方法。
7.(2)及び/又は(3)で算定されたQ ges,i 又はdQ /dtに対する値は、経時的に記録される上記1.~6.のいずれか1つに記載の方法。
8.複数のリチウムイオンセルと1つのバッテリー制御装置とを含むバッテリーシステムであって、
複数の前記セルはそれぞれ、個別に又は組ごとに1つのバランシング回路を有し、
セル電圧が少なくとも1つの別のセル又はセル群に比べて増大している1つのセル又はセル群から、電荷を取り出し、オプションとして当該取り出された電荷をより低いセル電圧を有する1つの別のセル又はセル群に、これらのセル電圧が均等化されるまで、供給するよう、前記バランシング回路を予め設定された時点に動作させるように、前記バッテリー制御装置は構成されている当該バッテリーシステムにおいて、
前記バッテリー制御装置は、上記1.~7.のいずれか1つに記載の方法を実行するために構成されていることを特徴とするバッテリーシステム。
図1
図2
図3