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  • 特許-絶縁性樹脂 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】絶縁性樹脂
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20231122BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20231122BHJP
   C08K 5/05 20060101ALI20231122BHJP
   C08K 5/101 20060101ALI20231122BHJP
   C08K 5/07 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/08
C08K5/05
C08K5/101
C08K5/07
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021567172
(86)(22)【出願日】2020-12-07
(86)【国際出願番号】 JP2020045550
(87)【国際公開番号】W WO2021131654
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2019235160
(32)【優先日】2019-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【弁理士】
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】衛藤 和也
(72)【発明者】
【氏名】谷川 康太郎
(72)【発明者】
【氏名】村上 泰
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/073845(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/003839(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/052581(WO,A1)
【文献】特開昭50-141641(JP,A)
【文献】特表2001-505600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性樹脂と、
(B)金属ジケトン錯体と、
(C)メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノールおよび2-エチルヘキサノール、オクタノール、ノナノール、デカノールから選ばれる少なくとも1種のアルコールと、を含む絶縁性樹脂。
【請求項2】
(B)金属ジケトン錯体の中心金属は、Mo、V、Zn、Ti、ZrおよびAlから選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の絶縁性樹脂。
【請求項3】
(B)金属ジケトン錯体の配位子は、β-ジケトンを一つ以上含む、請求項1または2に記載の絶縁性樹脂。
【請求項4】
(B)金属ジケトン錯体の配位子は、アセチルアセトナート、ジベンゾイルメタン、アセト酢酸エチルおよびマロン酸ジエチルから選ばれる少なくとも1種を含む、請求項3に記載の絶縁性樹脂。
【請求項5】
(A)熱可塑性樹脂は、ガラス転移点が50℃以上である、請求項1~のいずれか1つに記載の絶縁性樹脂。
【請求項6】
(A)熱可塑性樹脂が、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂およびポリエーテルイミド樹脂から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~のいずれか1つに記載の絶縁性樹脂。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、絶縁性樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術の一例は、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-225484号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示の絶縁性樹脂は、(A)熱可塑性樹脂と、(B)金属ジケトン錯体と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0005】
本開示の目的、特色、および利点は、下記の詳細な説明と図面とからより明確になるであろう。
【0006】
図1】本実施形態にかかるフィルムコンデンサ用誘電体フィルムの走査型透過電子顕微鏡(STEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本開示の絶縁性樹脂の基礎となる構成として、電子部品においては、配線間および端子間などを電気的に絶縁するために、絶縁材料を用いている。また、絶縁材料は、誘電材料としても用いられる。絶縁材料としては、金属酸化物、金属窒化物などのセラミックス材料または、ポリエチレン樹脂、ポリイミド樹脂などの樹脂材料が用いられる。樹脂材料は、薄型軽量であること、加工の容易さ、コスト面から、絶縁材料として使用される。
【0008】
電子機器の小型化、高機能化などにより、電子部品の使用環境が高温化している。これらの電子部品には、高温の環境下でも長時間にわたり安定な電気的特性が得られる耐熱性が要求されている。
【0009】
電子部品の一例として、フィルムコンデンサがある。フィルムコンデンサは、絶縁材料、誘電材料として、樹脂製フィルムが用いられる。フィルムコンデンサの小型化を図る手段としては、誘電体フィルムの薄層化や、誘電体フィルムの積層数や巻回数の低減が挙げられる。誘電体フィルムを薄層化するためには、誘電体フィルムの耐電圧を向上させる必要がある。例えば、特許文献1では、耐電圧を高めるため、誘電体フィルムに、エポキシ基を有する有機樹脂にセラミック粒子を分散させた複合誘電体材料を適用することが提案されている。
【0010】
電子部品のさらなる高機能化のために、本開示の絶縁性樹脂の基礎となる構成よりも特性が向上した絶縁性樹脂が望まれていた。
【0011】
本開示の目的は、特性が向上した絶縁性樹脂を提供することである。
【0012】
本実施形態の絶縁性樹脂は、(A)熱可塑性樹脂と、(B)金属ジケトン錯体と、を含む。
【0013】
金属ジケトン錯体は、中心金属に対して、一または複数のジケトンが、配位した錯体である。金属ジケトン錯体を用いると、中心金属の金属元素が、熱可塑性樹脂中に単分子レベルで分散する。また、金属ジケトン錯体は、熱可塑性樹脂と、各種反応による結合などが生じておらず、錯体を維持したまま、または少なくともジケトンおよび金属元素の状態で、熱可塑性樹脂中に分散している。例えば、フィルム化した絶縁性樹脂の断面を走査型透過電子顕微鏡(STEM)で観察したとき、図1に示すように、金属元素は、直径1nm以下として見える程度に分散されている。金属ジケトン錯体と熱可塑性樹脂とが未反応であること、例えば、熱可塑性樹脂とアセチルアセトナートとのエステル結合およびエーテル結合などが存在していないことは、NMR(核磁気共鳴分光法)によって確認されている。
【0014】
一般的に樹脂の劣化、すなわち絶縁性樹脂の特性としては耐電圧性の低下の原因のひとつに酸素による分子内結合の切断がある。上記のように、本実施形態の絶縁性樹脂では、熱可塑性樹脂中に、単分子レベルで金属元素を分散させることができる。酸素は、金属錯体と反応して金属酸化物を生成することから、熱可塑性樹脂中の金属元素によって、酸素が捕捉(トラップ)され、熱可塑性樹脂の特性劣化が抑制される。特に、金属ジケトン錯体として熱可塑性樹脂中に、金属元素が単分子レベルで分散することで、絶縁性樹脂の単位体積あたりの金属元素含有量、すなわち捕捉される酸素量が増大する。これにより、絶縁性樹脂の耐電圧性を向上させることができる。
【0015】
(A)熱可塑性樹脂
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂およびポリエーテルイミド樹脂から選ばれる少なくとも1種などを用いることができる。また、これら複数種類の樹脂の共重合体であってもよい。これらの樹脂は、耐熱性に優れており、これらの樹脂を用いることで、耐熱性に優れた絶縁性樹脂とすることができる。
【0016】
上記の各樹脂について、たとえば、ポリカーボネート樹脂であれば一般式(1)、ポリアリレート樹脂であれば一般式(2)または(3)で表される繰り返し単位を有するポリマーが、一例として挙げられる。
【0017】
【化1】
【0018】
一般式(1)中、Xは、脂肪族の2価基または環状脂肪族の2価基、一般式(4)で表される2価基から選ばれる少なくとも1種を示し、一般式(2)または(3)中、Xは、一般式(4)で表される2価基から選ばれる少なくとも1種を示す。一般式(3)中、Yは、置換もしくは無置換のアリーレン(arylene)基を示す。
【0019】
一般式(4)中、R1、R2は、それぞれ独立して置換もしくは無置換のアルキル基、アリール基、またはハロゲン原子を示す。Aは、単結合、炭素原子数1~12の直鎖状、分岐状、または環状のアルキレン基を示す。
【0020】
上記一般式(1)、(2)、(3)中のXの具体例としては、たとえば一般式(5a)~(5n)で表される2価基が挙げられる。
【0021】
【化2】
【0022】
(A)熱可塑性樹脂として、環状オレフィン系樹脂を用いることもできる。環状オレフィン系樹脂であれば、たとえば一般式(6)に示すようなノルボルネン系モノマーの重合体などが挙げられる。ノルボルネン系モノマーは、環状オレフィンモノマーの一種であり、環状オレフィンモノマーとは、炭素原子で形成される環構造を有するとともに、当該環構造中に炭素-炭素二重結合を有する化合物である。環状オレフィンモノマーとしては、ノルボルネン系モノマーのほか、単環環状オレフィンなどが挙げられる。ノルボルネン系モノマーは、反応式(7)~(10)にそれぞれ示すような開環重合、ビニル共重合、ビニル重合、またはラジカル重合などにより、環状オレフィン系の有機樹脂を形成する。
【0023】
【化3】
【0024】
式(6)~(10)中、R3、R4、およびR5は、任意の官能基である。また、環状オレフィン系の樹脂材料は、通常、単一の種類のノルボルネン系モノマーの重合体であるが、複数の異なる種類のノルボルネン系モノマーの重合体であってもよい。
【0025】
ノルボルネン系モノマーの具体例としては、ノルボルネン類、ジシクロペンタジエン類、テトラシクロドデセン類などが挙げられる。これらは、アルキル基、アルケニル基、アルキリデン基、アリール基などの炭化水素基や、カルボキシル基、酸無水物基などの極性基を置換基として含有する場合もあるが、非極性の、すなわち炭素原子と水素原子のみで構成されるノルボルネン系モノマーであることが好ましい。
【0026】
非極性のノルボルネン系モノマーには、非極性のジシクロペンタジエン類、非極性のテトラシクロドデセン類、非極性のノルボルネン類、五環体以上の非極性の環状オレフィン類などがある。
【0027】
ノルボルネン系モノマーは、ノルボルネン環の二重結合以外に、さらに二重結合を有していてもよい。
【0028】
このような環状オレフィン系の樹脂材料としては、具体的には、ノルボルネン系開環重合体(以下、単に開環重合体という場合もある)であるJSR株式会社製のARTON(登録商標)、日本ゼオン株式会社製のZEONEX(登録商標)、ZEONOR(登録商標)や、ノルボルネン系のビニル共重合体(以下、単にビニル共重合体という場合もある)である三井化学株式会社製のAPEL(登録商標)、APO(登録商標)、ポリプラスチック株式会社製のTOPAS(登録商標)などが市販されている。また、ノルボルネン環を有するモノマーの開環重合体の水素添加物、ノルボルネン環を有するモノマーとα-オレフィン類との付加重合体、環状オレフィンの付加重合体、環状オレフィンの付加重合体の水素添加物、環状ジエンの付加重合体及び環状ジエンの付加重合体の水素添加物などを用いることもできる。これらのなかでも、特に開環重合体、すなわちノルボルネン環を有するモノマーの開環重合体が、フィルム成形性、耐薬品性などの観点から好ましい。
【0029】
(B)金属ジケトン錯体
金属ジケトン錯体は、中心金属に対して、少なくともジケトンを含む配位子が、1または複数配位した錯体である。ジケトンは、分子内に2つのケトン基を有しており、この2つのケトン基によって、中心金属との配位結合が生じる。
【0030】
本実施形態の金属ジケトン錯体において、中心金属は、例えば、Mo、V、Zn、Ti、ZrおよびAlから選ばれる少なくとも1種である。前述のとおり、金属ジケトン錯体が熱可塑性樹脂中に分散し、中心金属による酸素の捕捉によって、絶縁性樹脂の耐電圧性が向上する。中心金属としては、上記以外にも、例えば、Cu、Fe、Ni、Ca、Co、Mn、Mg、Ir、In、CrまたはLaなどを用いることもできる。絶縁性樹脂を使用する目的などに応じて、適切な中心金属を選択すればよい。
【0031】
本実施形態の金属ジケトン錯体において、ジケトンは、上記の中心金属に配位するものであれば、特に限定されない。金属ジケトン錯体の配位子は、β-ジケトンを一つ以上含んでいてもよい。ジケトンとしては、例えば、アセチルアセトナート(アセチルアセトン)、ジベンゾイルメタン、アセト酢酸エチルおよびマロン酸ジエチルから選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0032】
本実施形態の金属ジケトン錯体は、全て同じジケトンが配位していてもよく、複数種類のジケトンが配位していてもよい。例えば、中心金属がZrの場合は、4つのジケトンが配位されて金属ジケトン錯体となる。4つの配位子全てがアセチルアセトナートであれば、金属ジケトン錯体は、Zrアセチルアセトナート(式(11))である。複数種類のジケトンが配位する場合、一部のアセチルアセトナートが別のジケトンに置換されていてもよい。例えば、4つのアセチルアセトナートのうちひとつがジベンゾイルメタンに置換されていてもよい。
【0033】
【化4】
【0034】
本実施形態の絶縁性樹脂において、金属ジケトン錯体の含有量は、例えば、0.5~10質量%である。
【0035】
本実施形態の絶縁性樹脂は、使用目的、使用する電子部品の種類などに応じて、さらに各種成分を添加してもよい。例えば、絶縁性樹脂を、フィルムコンデンサ用誘電体フィルムとして用いる場合に、さらに添加剤として、(C)ジケトン、アルコールまたはカルボン酸の少なくともいずれか1つをさらに含んでいてもよい。添加剤(C)は、熱可塑性樹脂の酸化抑制効果を向上させることができる。
【0036】
(C)ジケトン、アルコールまたはカルボン酸
誘電体フィルムは、例えば、溶媒中に、熱可塑性樹脂および金属ジケトン錯体を溶解させ、樹脂溶液を成膜することで得られる。ここで、金属ジケトン錯体は、熱可塑性樹脂が可溶な溶媒に対して難溶性を示すために、分散性が低下する場合がある。ジケトン、アルコールまたはカルボン酸を添加することで、金属ジケトン錯体が熱可塑性樹脂中に高分散することが可能となる。金属ジケトン錯体が熱可塑性樹脂中に高分散することで、中心金属による酸素の捕捉確率が高くなり、熱可塑性樹脂の酸化抑制効果が向上して、誘電体フィルムの耐電圧性がさらに向上する。以下では、本開示の絶縁性樹脂の用途として誘電体フィルムを一例として説明するが、用途はこれに限定されない。
【0037】
(C-1)ジケトン
添加剤であるジケトンは、上記金属ジケトン錯体の配位子であるジケトンとは、別に添加されてもよい。添加剤であるジケトンは、樹脂溶液中および誘電体フィルム中で単独の化合物として存在していてもよい。添加剤の一部のジケトンが、金属ジケトン錯体の一部の配位子として錯体を形成してもよい。
【0038】
添加剤であるジケトンは、上記の配位子であるジケトンと同様のものを用いることができる。ジケトンは、例えば、β-ジケトン、もしくはケト酢酸エステルを用いてもよい。β-ジケトンとしては、例えば、アセチルアセトナート(アセチルアセトン)またはジベンゾイルメタンの少なくともいずれかを用いることができる。ケト酢酸エステルとしては、例えば、アセト酢酸エチルまたはマロン酸ジエチルの少なくともいずれかを用いることができる。添加剤であるジケトンは、上記の配位子であるジケトンと同一の化合物を用いてもよく、異なる化合物を用いてもよい。例えば、金属ジケトン錯体として、Zrアセチルアセトナートを用い、添加剤として同一の化合物であるアセチルアセトンを用いてもよい。また、金属ジケトン錯体として、Zrアセチルアセトナートを用い、添加剤として異なる化合物であるジベンゾイルメタンを用いてもよい。異なる化合物を用いた場合、樹脂溶液中および誘電体フィルム中で、添加剤のジケトンが、金属ジケトン錯体の配位子の一部と置換されてもよい。
【0039】
本実施形態の誘電体フィルムにおいて、ジケトンの含有量は、例えば、0.05~10質量%である。
【0040】
(C-2)アルコール
アルコールを添加剤として用いることで、金属ジケトン錯体が熱可塑性樹脂中に高分散することが可能となる。アルコールは、樹脂溶液中において、金属ジケトン錯体の配位子の一部と置換される。アルコール置換金属ジケトン錯体は、未置換の錯体よりも溶媒への可溶性が高くなる。
【0041】
添加剤であるアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、2-エチルヘキサノールおよびオクタノール、ノナノール、デカノールから選ばれる少なくとも1種を用いることができる。本実施形態の誘電体フィルムにおいて、アルコールの含有量は、例えば、0.05~10質量%である。
【0042】
(C-3)カルボン酸
添加剤であるカルボン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ラウリン酸、トリデシル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、クエン酸、フマル酸、乳酸、酒石酸、安息香酸、フタル酸から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。本実施形態の誘電体フィルムにおいて、カルボン酸の含有量は、例えば、0.05~10質量%である。
【0043】
本実施形態の誘電体フィルムは、例えば以下のようにして得ることができる。熱可塑性樹脂を溶媒に溶解し、さらに、金属ジケトン錯体を添加し、樹脂溶液を得る。必要に応じて、さらに添加剤を添加してもよい。この樹脂溶液を用いて、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)製基材の上に誘電体フィルムを成膜すればよい。成膜法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、ドクターブレード法、ダイコータ法およびナイフコータ法等から選ばれる成形法を用いることができる。
【0044】
本実施形態の誘電体フィルムは、例えば、厚さが0.1~10μmである。また、フィルムコンデンサ用誘電体フィルムの絶縁破壊電界強度は、例えば、125℃で550~650V/μm、25℃で650~750V/μmである。
【0045】
溶媒としては、例えば、エチレングリコールモノプロピルエーテル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、キシレン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジメチルアセトアミド、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、トルエン、クロロホルム、テトラヒドロフラン又は、これらから選択された2種以上の混合物を含んだ有機溶剤を用いる。
【0046】
樹脂溶液における熱可塑性樹脂の濃度(樹脂濃度)は、例えば1~25質量%である。樹脂溶液における金属ジケトン錯体の濃度は、例えば0.015~3質量%である。ジケトン、アルコールまたはカルボン酸の濃度は、例えば0.005~3質量%である。
【0047】
上記では、絶縁性樹脂の用途の一例として、誘電体フィルムについて説明したが、これに限らず、絶縁性樹脂は種々の用途に用いることができる。例えば、電線ケーブル被覆樹脂、電子部品の封止樹脂、絶縁性塗料および絶縁性接着剤などとして用いることができる。電線ケーブル被覆樹脂の場合、例えば、本開示の絶縁性樹脂を帯状またはシート状に成型し、ケーブル表面に巻き付けて使用することができる。また、チューブ状に成型し、これにケーブルを挿通させて使用することもできる。封止樹脂の場合、例えば、コイル、トランスの全体を絶縁性樹脂に埋め込んで使用することができる。配線基板などに実装された半導体素子、電子部品を絶縁性樹脂で被覆したり、接続端子間に絶縁性樹脂を充填して使用することができる。絶縁性塗料の場合、例えば、溶剤系塗料、粉体塗料など各種塗料の樹脂成分として、着色剤などその他必要となる成分とともに使用することができる。絶縁性接着剤の場合、例えば、溶剤に絶縁性樹脂を溶解させた溶剤系接着剤として使用することができる。
【実施例
【0048】
以下、本開示の絶縁性樹脂について、実施例に基づき詳細に説明する。なお、絶縁性樹脂を用いた誘電体フィルムを実施例とした。
【0049】
(実施例) 熱可塑性樹脂として、ポリアリレートを用い、金属ジケトン錯体として、Zrアセチルアセトナートを用い、添加剤として、アセチルアセトンを用いた。ポリアリレートをトルエンに溶解させ、さらに、Zrアセチルアセトナートおよびアセチルアセトンを溶解させ、熱可塑性樹脂濃度が12質量%であり、金属ジケトン錯体濃度が、0.36質量%であり、ジケトン濃度が、0.18質量%である樹脂溶液を得た。
【0050】
この樹脂溶液を、コータを用いてポリエチレンテレフタレート(PET)基材上に塗布し、125℃で3時間乾燥して溶媒を除去し、実施例の誘電体フィルムを作製した。塗布量を変えることで、厚さが2.0μmの誘電体フィルム(実施例1)と厚さが2.7μmの誘電体フィルム(実施例2)を得た。
【0051】
(比較例) Zrアセチルアセトナートおよびアセチルアセトンを含まない樹脂溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして比較例の誘電体フィルムを得た。
【0052】
(特性評価)誘電体フィルムの絶縁破壊電界強度は、以下のように測定した。誘電体フィルムからPETフィルムを剥がし、誘電体フィルムの両面に真空蒸着法により平均厚みが75nmのAlの電極層を形成して金属化フィルムを作製した。得られた金属化フィルムについて絶縁破壊電界強度を測定した。絶縁破壊電界強度は、25℃または125℃の雰囲気下で、金属化フィルムの金属膜間に、毎秒10Vの昇圧速度で直流電圧を印加し、漏れ電流値が1.0mAを越えた瞬間の電圧値から求めた。結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
25℃および125℃いずれの雰囲気下においても、実施例1,2は、比較例に比べて、高い絶縁破壊電界強度が得られた。150℃の雰囲気下においても、実施例1は、比較例に比べて、高い絶縁破壊電界強度が得られた。
【0055】
本開示は次の実施の形態が可能である。
【0056】
本開示の絶縁性樹脂は、(A)熱可塑性樹脂と、(B)金属ジケトン錯体と、を含む。
【0057】
本開示によれば、特性が向上した絶縁性樹脂を提供できる。
図1