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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】ベアリング用線材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20231122BHJP
   C22C 38/18 20060101ALI20231122BHJP
   C21D 8/06 20060101ALI20231122BHJP
   C21D 9/52 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
C22C38/00 301Y
C22C38/18
C21D8/06 A
C21D9/52 103B
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022538318
(86)(22)【出願日】2020-02-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-28
(86)【国際出願番号】 KR2020001721
(87)【国際公開番号】W WO2021125435
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-06-20
(31)【優先権主張番号】10-2019-0172410
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジェ スン
(72)【発明者】
【氏名】ミン,セ ホン
(72)【発明者】
【氏名】キム,キョン‐ウォン
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ウ ソク
(72)【発明者】
【氏名】キム,キ ファン
(72)【発明者】
【氏名】パク,イン‐ギュ
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/105187(WO,A1)
【文献】特開2008-202136(JP,A)
【文献】国際公開第2016/063867(WO,A1)
【文献】特開2003-171737(JP,A)
【文献】特開2003-129176(JP,A)
【文献】特表2013-505366(JP,A)
【文献】特開2016-172888(JP,A)
【文献】特開2009-108354(JP,A)
【文献】特開平09-279240(JP,A)
【文献】特開2012-233254(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0056403(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 8/06
C21D 9/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.8~1.2%、Si:0.01~0.6%、Mn:0.1~0.6%、Cr:1.0~2.0%、Al:0.01~0.06%、N:0.02%以下(0は除外)、残りはFe及び不可避な不純物からなり、
微細組織の旧オーステナイト結晶粒サイズは、3~10μmであり、
方位差角度(Misorientation angle)が15°以上である高傾角粒界長さの和が単位面積当たり1,000~4,000mm/mmであることを特徴とするベアリング用線材。
【請求項2】
前記微細組織は、粒界では網状型初析セメンタイトで構成され、粒内ではパーライトで構成されることを特徴とする請求項1に記載のベアリング用線材。
【請求項3】
パーライト内の層状間隔は、0.05~0.2μmであることを特徴とする請求項に記載のベアリング用線材。
【請求項4】
引張強度は、1,200MPa以上、断面積減少率(RA)は、20%以上であることを特徴とする請求項1に記載のベアリング用線材。
【請求項5】
冷却段階後に行う、前記線材をAe1~Ae1+40℃に加熱して5~8時間維持する軟質化熱処理について、1回軟質化熱処理後のセメンタイトの平均縦横比が2.5以下であることを特徴とする請求項1に記載のベアリング用線材。
【請求項6】
冷却段階後に行う、前記線材をAe1~Ae1+40℃に加熱して5~8時間維持する軟質化熱処理について、1回軟質化熱処理後の引張強度が750MPa以下であることを特徴とする請求項1に記載のベアリング用線材。
【請求項7】
ベアリング用線材の製造方法であって、
重量%で、C:0.8~1.2%、Si:0.01~0.6%、Mn:0.1~0.6%、Cr:1.0~2.0%、Al:0.01~0.06%、N:0.02%以下(0は除外)、残りはFe及び不可避な不純物からなるビレットを950~1,050℃の温度範囲で加熱する段階、
Ae1~Acm℃の温度範囲で、下記式(1)で表現される臨界変形量以上の変形量で仕上げ熱間圧延して線材を製造する段階、及び
前記線材を3℃/sec以上の速度で500~600℃温度範囲まで冷却した後、1℃/sec以下の速度で冷却する段階、を含み、
前記ベアリング用線材は、
微細組織の旧オーステナイト結晶粒サイズは、3~10μmであり、方位差角度(Misorientation angle)が15°以上である高傾角粒界長さの和が単位面積当たり1,000~4,000mm/mm であることを特徴とするベアリング用線材の製造方法。
式(1):-1.6Ceq+3.11Ceq-0.48
(ここで、Ceq=C+Mn/6+Cr/5であり、C、Mn、Crは、各元素の重量%を意味する。)
【請求項8】
前記線材は、下記式(2)を満足することを特徴とする請求項に記載のベアリング用線材の製造方法。
式(2):Tpf-Tf≦50℃
(ここで、Tpfは、仕上げ熱間圧延前の線材の平均表面温度であり、Tfは、仕上げ熱間圧延後の線材の平均表面温度である。)
【請求項9】
加熱時間は、90分以下であることを特徴とする請求項に記載のベアリング用線材の製造方法。
【請求項10】
仕上げ熱間圧延前のオーステナイト結晶粒平均サイズ(AGS)は、5~20μmであることを特徴とする請求項に記載のベアリング用線材の製造方法。
【請求項11】
冷却後、前記線材をAe1~Ae1+40℃で加熱して5~8時間維持する軟質化熱処理段階をさらに含むことを特徴とする請求項に記載のベアリング用線材の製造方法。
【請求項12】
軟質化熱処理後、20℃/hr以下の速度で660℃まで冷却する段階をさらに含むことを特徴とする請求項11に記載のベアリング用線材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はベアリング用線材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
線材の炭素含有量が高くなるほど素材の強度が急激に増加するので、直接的な成形及び加工が難しく、冷却時に旧オーステナイト結晶粒界によって析出される初析セメンタイトにより素材の軟性又は靭性が急激に低下する。
線材の軟質化のために一般的に球状化熱処理を行う。球状化熱処理は、冷間成形時に冷間加工性を向上させるためにセメンタイトを球形化し、均質な粒子分布を誘導する。また、加工ダイスの寿命を向上させるために加工される素材の硬度を低下させる。
一方、冷間圧造用線材(CHQ)は、球状化の加速のために先に伸線加工を実施するが、炭素含有量が相対的に高いベアリング用線材は、伸線加工を先に導入する場合、内部欠陥による断線が発生する虞がある。
【0003】
通常、ベアリング鋼用線材を鋼線で製造するためには、1回以上の軟質化熱処理を行う。その後、冷間鍛造性を向上させるために伸線及び熱処理工程を追加で行うことになり、冷間鍛造性は、軟質化熱処理後に引張強度及び球状化率により確保される。
しかし、ベアリング用線材の軟質化のためには、700~800℃の高温で30時間以上の長期間処理が所要とされるため、多くの熱処理費用及び生産時間が必要となり製品の製造原価を上昇させる原因となる。したがって、追加軟質化熱処理工程を短縮又は省略することができるベアリング用線材及びその製造方法に対する開発が要求されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的とするところは、自動者、建設用部品などの冷間加工時に必要な軟質化熱処理を短縮するか省略することができるベアリング用線材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のベアリング用線材は、重量%で、C:0.8~1.2%、Si:0.01~0.6%、Mn:0.1~0.6%、Cr:1.0~2.0%、Al:0.01~0.06%、N:0.02%以下(0は除外)、残りはFe及び不可避な不純物からなり、微細組織の旧オーステナイト結晶粒サイズは、3~10μmであり、方位差角度(Misorientation angle)が15°以上である高傾角粒界長さの和が単位面積当たり1,000~4,000mm/mmであることを特徴とする。
【0006】
方位差角度が15°以下である低傾角粒界長さの和が単位面積当たり250~800mm/mmであり、前記低傾角粒界のうち方位差角度が5°以下である粒界の割合は、40~80%であることがよい。
前記微細組織は、粒界には網状型初析セメンタイトで構成され、粒内にはパーライトで構成されることが好ましい。
パーライト内の層状間隔は、0.05~0.2μmであることができる。
【0007】
引張強度は、1,200MPa以上、断面積減少率(RA)は、20%以上であることがよい。
1回軟質化熱処理後のセメンタイトの平均縦横比が2.5以下であることが好ましい。
1回軟質化熱処理後の引張強度が750MPa以下であることができる。
【0008】
本発明のベアリング用線材の製造方法は、重量%で、C:0.8~1.2%、Si:0.01~0.6%、Mn:0.1~0.6%、Cr:1.0~2.0%、Al:0.01~0.06%、N:0.02%以下(0は除外)、残りはFe及び不可避な不純物からなるビレットを950~1,050℃の温度範囲で加熱する段階、Ae1~Acm℃の温度範囲で、下記式(1)で表現される臨界変形量以上の変形量で仕上げ熱間圧延して線材を製造する段階、及び前記線材を3℃/sec以上の速度で500~600℃温度範囲まで冷却した後、1℃/sec以下の速度で冷却する段階、を含むことを特徴とする。
式(1):-1.6Ceq+3.11Ceq-0.48
ここで、Ceq=C+Mn/6+Cr/5であり、C、Mn、Crは、各元素の重量%を意味する。
【0009】
前記線材は、下記式(2)を満足することができる。
式(2):Tpf-Tf≦50℃
ここで、Tpfは、仕上げ熱間圧延前の線材の平均表面温度であり、Tfは、仕上げ熱間圧延後の線材の平均表面温度である。
加熱時間は、90分以下であることがよい。
【0010】
仕上げ熱間圧延前のオーステナイト結晶粒の平均サイズ(AGS)は、5~20μmであることが好ましい。
冷却後、前記線材をAe1~Ae1+40℃で加熱して5~8時間維持する軟質化熱処理段階をさらに含むことができる。
軟質化熱処理後、20℃/hr以下の速度で660℃まで冷却する段階をさらに含むことがよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、本発明の実施例によるベアリング用線材及びその製造方法は、軟質化熱処理時間を短縮するか省略することができるので、製造工程上の費用を節減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の比較例1の線材を仕上げ熱間圧延前に光学顕微鏡(Optical Microscope、OM)で撮影した微細組織写真である。
図2】本発明の実施例1の線材を仕上げ熱間圧延前に光学顕微鏡(Optical Microscope、OM)で撮影した微細組織写真である。
図3】本発明の比較例1の線材を仕上げ熱間圧延及び冷却後に走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)で撮影した微細組織写真である。
図4】本発明の実施例1の線材を仕上げ熱間圧延及び冷却後に走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)で撮影した微細組織写真である。
図5】本発明の比較例1の線材を仕上げ熱間圧延及び冷却後にSEM-EBSDを通じて結晶粒界の特性を観察した写真である。
図6】本発明の実施例1の線材を仕上げ熱間圧延及び冷却後にSEM-EBSDを通じて結晶粒界の特性を観察した写真である
図7】本発明の比較例1の線材を球状化熱処理した後に走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)で撮影した微細組織写真である。
図8】本発明の実施例1の線材を球状化熱処理した後に走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)で撮影した微細組織写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施例によるベアリング用線材は、重量%で、C:0.8~1.2%、Si:0.01~0.6%、Mn:0.1~0.6%、Cr:1.0~2.0%、Al:0.01~0.06%、N:0.02%以下(0は除外)、残りはFe及び不可避な不純物からなり、微細組織の旧オーステナイト結晶粒サイズは、3~10μmであり、方位差角度(Misorientation angle)が15°以上である高傾角粒界長さの和が単位面積当たり1,000~4,000mm/mmである。
【0014】
以下、本発明の実施例について添付図面を参照して詳細に説明する。以下の実施例は、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者に本発明の思想を十分に伝達するために提示するものである。本発明は、ここで提示した実施例に限定されず、他の形態で具体化できる。図面は、本発明を明確にするために説明と関係ない部分の図示を省略し、理解を助けるために構成要素のサイズを多少誇張して表現した。
明細書全体で、ある部分がある構成要素を「含む」と記載するとき、これは特に反対する記載のない限り、他の構成要素を除外するものではなく、他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。
単数の表現は、文脈上明白に例外がない限り、複数の表現を含む。
【0015】
以下では、本発明による実施例を添付した図面を参照して詳しく説明する。
ベアリング用線材は、加工性を確保するために球状化熱処理を経る場合がある。球状化熱処理は、追加的な工程であって、多くの熱処理費用と時間が必要とされるので、製造原価を上昇させる原因となる。
本発明者らは、ベアリング用線材の製造において、球状化軟化熱処理を短縮又は省略し得る方策について鋭意研究を重ねた。その結果、合金組成及び製造条件を最適化し、結晶粒界の特徴を導き出すことにより、軟質化熱処理時間を短縮又は省略することができることを確認して、本発明を完成するに至った。
【0016】
本発明の一実施例によるベアリング用線材は、重量%で、C:0.8~1.2%、Si:0.01~0.6%、Mn:0.1~0.6%、Cr:1.0~2.0%、Al:0.01~0.06%、N:0.02%以下(0は除外)、残りはFe及び不可避な不純物からなる。
本発明によるベアリング用線材に含まれる各成分の役目及びその含量に対して説明すると次のとおりである。下記成分に対する%は、重量%を意味する。
【0017】
Cの含量は、0.8~1.2%である。
C(炭素)は、製品の強度を確保するために添加される元素である。Cの含量が0.8%未満である場合には、母材の強度低下によって軟質化熱処理及び鍛造加工工程後に行われる焼入れ、焼戻し熱処理後に十分な強度を確保しにくい。一方、その含量が過多の場合、Mなどのような新しい析出物が形成されてブルーム又はビレットなどの鋳片の凝固時に中心偏析が発生する虞があるので、その上限を1.2%に限定する。好ましく、Cの含量は、0.8~1.1%である。
【0018】
Siの含量は、0.01~0.6%である。
Si(シリコン)は、代表的な置換型元素であって、固溶強化を通じた強度確保に有利な元素である。Siの含量が0.01%未満である場合には、線材の強度及び十分な焼入れ性を確保しにくい。一方、その含量が過多の場合、軟質化熱処理後の鍛造時に強度が上昇して冷間鍛造性を確保しにくくなる虞があるので、その上限を0.6%に限定する。
【0019】
Mnの含量は、0.1~0.6%である。
Mn(マンガン)は、基地組織内に置換型固溶体を形成して固溶強化する元素であって、軟性の低下なしに目標とする強度を確保するために添加するオーステナイト形成元素である。Mnの含量が0.1%未満である場合には、線材の固溶強化による強度及び靭性を確保しにくい。一方、オーステナイト形成元素であるMnの含量が過多の場合、軟質化熱処理後の鍛造時に冷間Acm変態点が低くなり、中心偏析が発生して線材組織が不均一になる虞があるので、その上限を0.6%に限定する。
【0020】
Crの含量は、1.0~2.0%である。
Cr(クロム)は、Mnと同様に線材の焼入れ性を向上させてマルテンサイト組織を確保するのに有利な元素である。Crの含量が1.0%未満である場合には、軟質化熱処理及び鍛造加工工程後に行われる焼入れ(Quenching)、焼戻し(Tempering)熱処理時にマルテンサイト微細組織を得にくい。一方、その含量が過多の場合、中心偏析が発生して線材内に低温組織が多量形成される虞があるので、その上限を2.0%に限定する。
【0021】
Alの含量は、0.01~0.06%である。
アルミニウム(Al)は、脱酸効果だけでなく、Al系炭窒化物を析出させてオーステナイト結晶粒の成長を抑制し、初析フェライト分率を平衡相に近く確保するために0.01%以上添加する。一方、その含量が過多の場合、Alなどの硬質介在物の発生が増加し、特に、連鋳時に介在物によるノズル閉塞が発生する虞があるので、その上限を0.06%に限定する。
【0022】
Nの含量は、0.02%以下(0は除外)である。
窒素(N)は、固溶強化効果があるが、その含量が過多になると、窒化物で結合しない固溶窒素により素材の靭性及び軟性が劣位する虞があるので、本発明では不純物として管理し、その上限を0.02%に限定する。
【0023】
本発明の残り成分は、鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程では原料又は周囲の環境から意図しない不純物が不可避に混入されることがあるので、これを排除できない。不可避な不純物としては、例えば、P(リン)、S(硫黄)などが挙げられる。これら不純物は、通常の製造過程の技術者であれば、誰でも分かるものなので、その全ての内容について本明細書では特に言及しない。
一方、本発明の一実施例によるベアリング用線材の微細組織は、旧オーステナイト結晶粒によって、粒界には網状型初析セメンタイトが存在し、粒内には完全パーライトが存在する。
また、本発明の一実施例によると、微細組織の旧オーステナイト結晶粒のサイズは、3~10μmである。
【0024】
軟質化熱処理時、パーライト組織内のセメンタイトは、板状から球状にその形態が変化し、球状化の進行程度によって線材の強度は徐徐に低下する。
軟質化熱処理時、金属原子は、材料内の欠陥空間を通じて多様な拡散経路に移動するようになるが、原子単位の欠陥である空孔(vacancy)と線欠陥の一種である転位(dislocation or pipe)と結晶粒界(grain boundary)を通じて拡散する。原子欠陥に比べて転位と結晶粒界は空間が相対的に広いので、速い速度の拡散が可能である。
一方、軟質化熱処理時の熱処理時間は、各原子の拡散速度によって決定され、このような拡散速度を律速する最も主な因子は結晶粒界である。
【0025】
本発明では、粒界構造(grain boundary structure)で粒界を間に置いた結晶粒間の方位差(misorientation)を通じて高傾角粒界と低傾角粒界を区分し、それぞれの分布を制御しようとした。具体的に、隣接結晶粒との相互関係を方位差角度(Misorientation angle)値で定量化し、15°を基準として15°以上の高傾角粒界と15°以下の低傾角粒界に区分した。本発明で特定する各結晶粒の分布は、線材の表層部だけでなく中心部までの全ての領域で対象とする。
軟質化熱処理時間を効果的に短縮するためには、結晶粒を最大限微細化して相対的な粒界面積を増加させることによって高傾角粒界を多量確保することが理想的であるが、結晶粒を微細化するためには、圧延負荷が増加して設備寿命が短縮され、生産性が低下するという問題が発生する。
【0026】
そこで、本発明では、旧オーステナイト結晶粒のサイズを制御すると共に、方位差角度が15°以上である高傾角粒界の単位面積当たり総長さを制御しようとした。具体的に、開示された実施例によるベアリング用線材の旧オーステナイト結晶粒サイズ(AGS)は、3~10μmであり、方位差角度が15°以上である高傾角粒界の長さの和が単位面積当たり1,000~4,000mm/mmである。
一方、高傾角粒界内に分布する方位差角度が15°以下である低傾角粒界は、熱間圧延時に変形により生成された転位が集まる所であって、軟質化熱処理時に球状化の挙動を助けて冷間鍛造性の向上に寄与することができる。本発明で方位差角度が15°以下である低傾角粒界の長さの和が単位面積当たり250~800mm/mmである。
【0027】
低傾角粒界の長さ分布が250mm/mm未満である場合には、軟質化熱処理時間の短縮効果が低く、低傾角粒界の長さ分布が800mm/mm超過である場合には、圧延中転位密度が高くなることによって部分的に再結晶が発生して転位密度がむしろ減少するか、結晶粒サイズが不均一で互いに異なるサイズのbimodal形態に発展する問題がある。
一方、方位差角度が小さいほど多量の転位を含んでいることを意味するが、本発明で低傾角粒界のうち方位差角度が5°以下である粒界の割合は、40~80%である。
【0028】
次に、本発明の他の一側面であるベアリング用線材を製造する方法について詳しく説明する。
本発明の線材は、上記の合金組成を有するビレット(Billet)を製作した後、これを再加熱-線材圧延-多段冷却過程を経て製造することができる。
【0029】
具体的に、本発明の他の一側面によるベアリング用線材の製造方法は、重量%で、C:0.8~1.2%、Si:0.01~0.6%、Mn:0.1~0.6%、Cr:1.0~2.0%、Al:0.01~0.06%、N:0.02%以下(0は除外)、残りはFe及び不可避な不純物からなるビレットを950~1,050℃の温度範囲で加熱する段階、Ae1~Acm℃の温度範囲で、下記式(1)で表現される臨界変形量以上の変形量で仕上げ熱間圧延して線材を製造する段階、及び前記線材を3℃/sec以上の速度で500~600℃温度範囲まで冷却した後、1℃/sec以下の速度で冷却する段階、を含む。
式(1):-1.6Ceq+3.11Ceq-0.48
ここで、Ceq=C+Mn/6+Cr/5であり、C、Mn、Crは、各元素の重量%を意味する。
合金元素含量の数値限定理由に対する説明は上記のとおりである。
【0030】
まず、本発明は、上記の組成成分を有するビレットを950~1,050℃の温度範囲で加熱する段階を経る。
前記加熱温度が950℃未満である場合、圧延ロールに印加される負荷が大きくなり、これによって、ロール交替周期が短くなる虞がある。一方、前記加熱温度が1,050℃を超過する場合には、圧延のために急激な冷却が必要なので、冷却制御が難しいだけでなく亀裂などが発生して良好な製品品質が確保できない虞がある。
また、前記加熱は、90分以内に行うことが好ましい。90分を超過して加熱を行う場合には、線材表面の脱炭層の深さが厚くなって圧延終了後に脱炭層が残存する虞がある。
【0031】
加熱されたビレットに粗圧延/中間粗圧延/仕上げ圧延及び仕上げ圧延の構成を順次行う熱間圧延を施して線材を製造する。熱間圧延は、ビレットが線材の形態を有するようにする孔型圧延であることが好ましく、具体的に、ビレットをAe1~Acm℃の温度範囲で、下記式(1)で表現される臨界変形量以上の変形量で仕上げ熱間圧延して線材を製造する。
線材の製造時、圧延速度は、非常に速いため動的再結晶領域に該当する。動的再結晶領域では、オーステナイト結晶粒サイズ(AGS)が変形速度と変形温度にのみ依存する。本発明では、圧延中に発生する動的再結晶を通じて結晶粒を微細化し、その後、速い速度の冷却を通じて圧延中に確保された微細な結晶粒を常温までそのまま維持することを特徴とする。
【0032】
最終仕上げ圧延時に結晶粒を微細化するためには、ロールとロールの間のインターパス(interpass)時間を1分以内に制御して仕上げ圧延直前のオーステナイト結晶粒サイズ(AGS)を5~20μm範囲に確保し、その後、仕上げ圧延時に仕上げ圧延温度をAe1~Acm℃に制御することが好ましい。
前記仕上げ熱間圧延時の温度がAe1℃未満であると、圧延負荷が増加して設備寿命が短縮される虞があり、一方、Acm℃を超過すると、高い温度により速い冷却にも関わらず相変態終了までの維持時間が長くなり、本発明の狙いである結晶粒微細化効果が大きく減少する虞がある。
【0033】
また、上記温度範囲で熱間圧延時の変形量を下記式(1)で表現される臨界変形量以上に制御することができる。
式(1):-1.6Ceq+3.11Ceq-0.48
ここで、Ceq=C+Mn/6+Cr/5であり、C、Mn、Crは、各元素の重量%を意味する。
【0034】
本発明者らは、Ceqと変形量間の相関関係を考慮して、式(1)で表現される臨界変形量を導き出した。
変形量は、-ln(1-RA)で定義され、このとき、RAは圧延パスによる減兔率(RA<1)である。変形量が臨界変形量に達していない場合、圧下量が十分ではないため線材の中心部での結晶粒を十分に微細化させにくく、これによって、軟質化熱処理時の線材の球状化挙動に悪影響を及ぼす。
【0035】
一方、熱間圧延時の線材は、下記式(2)を満足する。
式(2):Tpf-Tf≦50℃
ここで、Tpfは、仕上げ熱間圧延前の線材の平均表面温度であり、Tfは、仕上げ熱間圧延後の線材の平均表面温度である。
【0036】
Tpf-Tf値が50℃を超過する場合には、線材微細組織の偏差が非常に大きくなって均一な微細組織を確保できず、線材表面に過冷が起きて硬質相が発生するか結晶粒が粗大化する虞がある。
上記の温度範囲で熱間圧延した後、3℃/sec以上の速度で500~600℃温度範囲まで冷却した後、1℃/sec以下の速度で冷却する段階を経て本発明のベアリング用線材を製造することができる。
【0037】
上記の冷却段階は、微細な結晶粒の分布を確保するために必須的な工程であって、本発明では、冷却終了温度及び冷却速度を制御して拡散加速化を通じて熱処理時間の短縮が可能な微細組織を確保しようするものである。
500~600℃温度範囲までの冷却速度が3℃/sec未満である場合には、熱間圧延を通じて確保した微細な結晶粒を変態点以下まで維持しにくく、方位差角度が15°以下である低傾角粒界の分率が大きく減少する虞がある。一方、500~600℃温度範囲に到達した後の冷却速度が1℃/secを超過する場合には、ベイナイトなどの低温組織が発生して球状化熱処理にも関わらず軟質化が十分に進まない虞がある。
次に、冷却段階を経た線材を巻取した後、軟質化熱処理する段階、をさらに含むことができる。
【0038】
軟質化熱処理過程は、線材のAe1℃付近の温度で要求する軟質化程度によって多様な熱処理パターンを適用することができる。本発明では、冷却後、前記線材をAe1~Ae1+40℃に加熱して5~8時間維持する軟質化熱処理を行った。
前記加熱温度がAe1℃未満である場合、軟質化熱処理時間が長くなる問題点がある。一方、前記加熱温度がAe1+40℃を超過する場合には、球状化炭化物シードが減って十分な軟質化熱処理効果を得ることができない。また、前記加熱は、5時間~8時間の間行うことが好ましい。8時間を超過して加熱する場合には、製造工程費用が増加する問題がある。一方、5時間未満で加熱する場合には、熱処理が十分に進行されないためセメンタイトの縦横比が大きくなる問題点がある。
【0039】
軟質化熱処理段階後、20℃/hr以下の速度で660℃まで冷却する段階を経る。このとき、冷却速度が20℃/hrを超過する場合には、過度な冷却速度によりパーライトが再形成される虞がある。
軟質化熱処理を行った後、線材の引張強度は、750MPa以下であり、線材内のセメンタイトの平均縦横比は、2.5以下であることがよい。具体的に、線材の表層部だけでなく中心部までの全領域でセメンタイト平均縦横比が2.5以下である炭化物を80%以上確保することができる。
【0040】
本発明では、1回の軟質化熱処理だけでも線材の引張強度を740MPa以下に低く制御することができるので、最終製品の製造のための冷間圧造又は冷間鍛造加工が容易である。これによって、線材の製造後の追加工程である球状化熱処理時間を短縮するか、または省略することができるので、費用の節減が可能である。
以下、実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。一方、下記の実施例は、本発明を例示してより詳細に説明するためのものであって、本発明の権利範囲を限定するためのものではないという点に留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載した事項とそれから合理的に類推される事項によって決定されるものである。
実施例
【0041】
下記表1の組成を有する鋼材を鋳造してビレットを製造した後、下記表2に記載した条件で熱間圧延及び冷却して直径が10mmである線材を製造した。表2で、仕上げ圧延前のオーステナイト結晶粒平均サイズ(Austenite Grain Size、以下「AGS」)は、仕上げ熱間圧延前に行う切断面(crop)を通じて測定した。また、Tpfは、仕上げ圧延前の線材の平均表面温度であり、Tfは、仕上げ圧延後の線材の平均表面温度である。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
その後、製造されたそれぞれの実施例と比較例の微細組織及び結晶粒界の特徴と機械的特性(引張強度、断面減少率)を測定して下記表3に示した。
引張強度は、熱間圧延された線材をASTM E8規格によって引張試験片を加工した後、上記の鋼線の製造方法によった製造した後に引張試験を実施して測定した。
RAは、断面減少率(Reduction Ratio)を意味し、素材の引張試験時に破断された引張試験片で断面積の変化を測定したものであって、素材の軟性を数値で表現したものである。
【0045】
結晶粒平均サイズ(AGS)は、ASTM E112法を用いて測定した。熱間圧延して線材を製造した後、非水冷部を除去して採取した試験片に対してそれぞれ表面、直径から1/4地点、直径から1/2地点で任意の3地点を測定した後に平均値で示した。
結晶粒界の特徴は、結晶粒サイズ(AGS)測定方法と同じ方法で試験片を採取した後、SEM-EBSDを用いて表面、直径から1/4地点、直径から1/2地点でx700の倍率で130x130μmの面積を0.1μm Step-sizeで測定して平均値で示した。Confidence Indexの平均値は、0.57以上であった。
【0046】
【表3】
【0047】
一方、それぞれの実施例と比較例の線材を下記表4の条件で1回球状化熱処理した後、セメンタイトの平均縦横比と引張強度を測定してその結果を下記表4に示した。このとき、球状化熱処理は、製造された線材の試験片を1次軟質化処理及び1次伸線加工の工程なしに行い、球状化の有無を判断した。
このとき、球状化熱処理後の線材のセメンタイト平均縦横比は、線材の直径方向に1/4~1/2領域に3000倍SEMを3視野撮影し、イメージ測定プログラムを用いて視野内のセメンタイトの長軸/短縮を自動測定後に統計処理をして表示したものである。
球状化有無の判断は、ランダムに10箇所以上でSEM電子顕微鏡を用いて撮影した後、×5,000視野で観察した全ての炭化物のうち縦横比(Aspect ratio)が2.5以下である球状化炭化物の占有率が80%以上である場合を、球状化が行われたと判断した。
【0048】
【表4】
【0049】
比較例1~4は、合金組成が本発明で特定する規格を満足するが、下記製造工程正条件が本発明を逸脱する例で、比較例として表記した。
【0050】
図1図2は、それぞれ本発明の実施例1、比較例1の線材を仕上げ熱間圧延前、光学顕微鏡(Optical Microscope、OM)で撮影した微細組織写真であり、図3図4は、それぞれ本発明の実施例1、比較例1の線材を仕上げ熱間圧延及び冷却した後、走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)で撮影した微細組織写真である。
図1図4に示したとおり、実施例1は、比較例1に比べて仕上げ熱間圧延前の旧オーステナイト結晶粒サイズ(AGS)が相対的に微細であり、これによって、仕上げ熱間圧延及び冷却後にも結晶粒が微細であることが確認できる。
【0051】
表3に示したとおり、本発明が提案する合金組成及び製造条件を満足する実施例1~3の線材は、旧オーステナイト結晶粒サイズ(AGS)が3~10μmであり、方位差角度(Misorientation angle)が15°以上である高傾角粒界の長さ分布が1,000~4,000mm/mmであって微細な結晶粒を確保することができた。また、実施例1~3の線材は、比較例に比べて1,200MPa以上の高い引張強度を確保すると共に、断面積減少率が20%以上であった。
【0052】
図5図6は、それぞれ本発明の実施例1、比較例1の線材を仕上げ熱間圧延及び冷却後、SEM-EBSDを通じて結晶粒界の特性を観察した写真である。
図5及び図6に示したとおり、実施例1は、比較例1に比べて緑色と赤色で表示されている方位差角度(Misorientation angle)が15°以下である低傾角結晶粒界の分布度が高いことが確認できる。
表4に示したとおり、本発明が提案する合金組成と製造条件を満足する実施例1~3の線材は、1回軟質化熱処理後、引張強度が740MPa以下と低値になるだけでなく、微細な結晶粒を確保することによって、従来30時間以上であった熱処理を、より短い球状化熱処理だけでも平均縦横比が2.5以下である球状化セメンタイトを確保することができた。
【0053】
図7図8は、それぞれ本発明の実施例1、比較例1の線材を球状化熱処理した後、走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)で撮影した微細組織写真である。
図7及び図8に示したとおり、実施例1は、比較例1に比べて球状セメンタイトが均一に分布されているので、速い速度で球状化が行われたことを確認することができる。
比較例1の場合、Mn含量が過多でありAcm変態点が上昇するに従って圧延時に結晶粒の十分な微細化が行われなかった。これによって、軟質化熱処理後にも、セメンタイト平均縦横比が8.5となって球状化された組織を得ることができず、引張強度値が820MPaと高値であった。
【0054】
比較例2の場合、仕上げ熱間圧延温度が850℃とAcm℃変態点以上の温度を超過して相変態終了まで必要な冷却時間が長くなることによって、結晶粒の微細化効果が大きく減少した。これによって、軟質化熱処理後にも、セメンタイト平均縦横比が6.2となり、球状化された組織を得ることができず、引張強度値が790MPaと高値であった。
比較例3の場合、本発明が特定する成分範囲を満足するが、Tpf-Tf値が85℃と50℃を大きく超過して、圧延時に素材内/外部の温度偏差が大きく増加し、中心部では平均結晶粒サイズが15μmである粗大な微細組織が形成された。これによって、軟質化熱処理後にも、セメンタイト平均縦横比が7.5となって球状化された組織を得ることができず、引張強度値が810MPaと高値であった。
【0055】
比較例4の場合、本発明が特定する成分範囲を満足するが、変形量が0.32と臨界変形量である0.69に大きく足りないため十分な圧下量を確保することができず、結晶粒の十分な微細化が行われなかった。これによって、軟質化熱処理後にも、セメンタイト平均縦横比が5.5となって球状化された組織を得ることができず、引張強度値が770MPaと高値であった。
このように本発明の実施例によると、合金成分及び製造方法を制御して微細な結晶粒分布を生成した。これによって、線材の製造後に軟質化のために隋伴される球状化熱処理工程を短縮するか省略することができるので、製品の価格競争力を確保することができる。
【0056】
以上、本発明の例示的な実施例を説明したが、本発明はこれに限定されず、該当技術分野において通常の知識を有する者であれば、次に記載する特許請求の範囲の概念と範囲を脱しない範囲内で多様に変更及び変形が可能であることを理解すべきである。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によるベアリング用線材及びその製造方法は、軟質化熱処理時間を短縮するか省略し得るので、製造工程上の費用節減が可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8