(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】鋼管矢板の接合方法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/14 20060101AFI20231122BHJP
【FI】
E02D5/14
(21)【出願番号】P 2023123225
(22)【出願日】2023-07-28
【審査請求日】2023-08-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100172096
【氏名又は名称】石井 理太
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】田中 智宏
(72)【発明者】
【氏名】有賀 洋一郎
(72)【発明者】
【氏名】奥田 一弘
(72)【発明者】
【氏名】豊里 健太
【審査官】亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-082654(JP,A)
【文献】実公昭58-042496(JP,Y2)
【文献】特開平08-199154(JP,A)
【文献】特開2020-023789(JP,A)
【文献】特開2003-049424(JP,A)
【文献】米国特許第05006687(US,A)
【文献】特開2000-355933(JP,A)
【文献】特開2005-048385(JP,A)
【文献】特開2013-117105(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/00-5/20
E02D 7/00-13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣り合う鋼管矢板の外側部にそれぞれ固定された継手用鋼管を、該継手用鋼管に形成された縦向きのスリット部を通して互いに係合させた後、前記係合された継手用鋼管によって形成される隣り合う三つの隔室を洗浄するとともに、前記各隔室から排土し、
しかる後、前記各隔室内に充填材を充填し、前記両継手用鋼管を介して前記鋼管矢板を接合する鋼管矢板の接合方法において、
前記継手用鋼管の隣り合う隔室間を隔てる部分に前記スリット部に沿って継手用鋼管の内外に貫通する
前記充填材が流通可能な複数の連通口を、
該連通口を構成する中央の隔室側の開口部が狭くなるテーパ孔状に形成された中央側縮小連通口と、端部の隔室側の開口部が狭くなるテーパ孔状に形成された端部側縮小連通口とが管軸方向で間隔をおいて交互に配置されるように設けておき、
前記継手用鋼管同士を係合させた後、中央の隔室又は該中央の隔室と隣り合う
両端部の二つの隔室、の何れかを選択し、
選択した前記中央の隔室又は前記両端部の二つの隔室に洗浄ロッドを挿入し、
該洗浄ロッドを降下させつつ、前記洗浄ロッドから噴射された高圧水によって前記選択した
中央の隔室又は両端部の二つの隔室内の土砂を切削するとともに、前記連通口を通して前記高圧水によって前記選択した
中央の隔室又は両端部の二つの隔室と隣り合う隔室内の土砂を切削する洗浄工程と、
前記選択した
中央の隔室又は両端部の二つの隔室から切削した土砂を排土するとともに、前記連通口を通して前記選択した
中央の隔室又は両端部の二つの隔室と隣り合う隔室内の土砂を排土する排土工程とを経た後、
前記選択した
中央の隔室又は両端部の二つの隔室に充填材を充填するとともに、前記連通口を通して前記選択した
中央の隔室又は両端部の二つの隔室と隣り合う隔室内に充填材を充填することを特徴としてなる鋼管矢板の接合方法。
【請求項2】
前記洗浄ロッドは、圧縮空気を供給する空気供給管と、該空気供給管の内側に配管された高圧水を供給する高圧水供給管とからなる二重管構造を成し、
前記洗浄工程及び前記排土工程は、前記高圧水供給管に接続された噴射ノズルから前記高圧水を噴射して前記選択した
中央の隔室又は両端部の二つの隔室内及び前記選択した
中央の隔室又は両端部の二つの隔室と隣り合う隔室内の土砂を切削するとともに、必要に応じて噴射口より前記圧縮空気を噴射し、前記高圧水中に生じる気泡の上昇力により切削された土砂を前記高圧水とともに前記選択された
中央の隔室又は両端部の二つの隔室及び前記選択した
中央の隔室又は両端部の二つの隔室と隣り合う隔室の上方に向けて上昇させて排土する
請求項1に記載の鋼管矢板の接合方法。
【請求項3】
前記高圧水を
回転方向の逆側斜め後方に向けて噴射させつつ高圧水用ノズル又は前記洗浄ロッドを
管軸回りに回転させる請求項1に記載の鋼管矢板の接合方法。
【請求項4】
前記排土工程は、前記選択された
中央の隔室又は両端部の二つの隔室及び/又は前記選択した
中央の隔室又は両端部の二つの隔室と隣り合う隔室に排土管を挿入し、該排土管を通して切削された土砂を吸引する
請求項1に記載の鋼管矢板の接合方法。
【請求項5】
前記洗浄ロッドの外周面に清掃用ブラシを備えている
請求項1に記載の鋼管矢板の接合方法。
【請求項6】
前記排土管の外周面に清掃用ブラシを備えている
請求項4に記載の鋼管矢板の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管矢板を連結する際に使用する鋼管矢板の接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土留め壁や鋼管矢板井筒基礎等に用いられる連続鋼管矢板壁1は、
図11に示すように、隣り合う鋼管矢板2,2間が継手構造3を介して連結されている。
【0003】
この種の鋼管矢板2,2の継手構造(以下、鋼管矢板継手という)3は、それぞれ隣り合う鋼管矢板2,2の外周に支持された一対の継手部材4,5が互いに係合されるようになっており、標準的な継手として所謂「P-P形」継手が広く用いられている。
【0004】
「P-P形」継手は、隣り合う両鋼管矢板2,2の外周面にそれぞれ継手用鋼管4,5が固定され、互いに継手用鋼管4,5に形成されたスリット部6を通して両継手用鋼管4,5を係合させることによって、
図11に示すように、互いに継手用鋼管4,5によって隔てられた3つの隔室A,B,Cが形成されるようになっている。
【0005】
そして、両継手用鋼管4,5を係合させた後には、一般的に両継手用鋼管内を隔室A,B,C毎に洗浄するとともに各隔室A,B,Cの土砂を外部に排土し、続けて両継手用鋼管4,5内にモルタル等の充填材を充填するようになっている。
【0006】
このような継手用鋼管4,5内の洗浄方法としては、空気供給管内に高圧水供給管を配した二重供給管を、継手用鋼管内の隔室毎に順次挿入し、高圧水により掘削した土砂を空気供給管より噴射した空気によって高圧水中に生じる気泡の上昇力を利用し、土砂を各隔室の上部開口方向に上昇させて開口より外部に排出する方法等が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0007】
また、排土に関しては、上記二重管を用いずに排土管を隔室毎に挿入して排土管を通して各隔室から土砂を排土する方法も知られている。
【0008】
さらに、モルタル等の充填材を充填する際には、隔室毎にトレミー管等の充填材供給管を挿入し、充填材供給管を通してモルタル等の充填材を投入するようになっている。
【0009】
そして、鋼管矢板基礎1では、複数の鋼管矢板2,2からなる基礎全体が一体となって挙動するとの設計思想に基づいて構造計算がされているため、継手用鋼管4,5の係合(嵌合)状態及び継手用鋼管4,5内の洗浄工・充填工は基礎全体としての剛性に影響を与えるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、鋼管矢板打設時の土砂による貫入抵抗の影響や鋼管矢板2,2の建込み精度等により、両継手用鋼管4,5の実際の係合(嵌合)状態は、
図11(a)に示す標準係合(嵌合)状態となる場合よりも
図11(b)や
図11(c)に示す標準係合(嵌合)以外の偏った状態になる場合がある。
【0012】
そして、このような偏った係合(嵌合)状態では、継手用鋼管4,5の係合によって形成される各隔室A,B,Cの広さに偏りが生じ、狭い隔室には洗浄ロッド等を物理的に挿入することが困難な場合が生じることから、継手用鋼管内の洗浄やモルタル等の充填材の充填が不十分となる懸念があった。
【0013】
さらに、継手用鋼管の鉛直せん断力学特性は、室内実験によると中央の隔室Bにおける継手用鋼管とモルタル等の充填材との付着力が喪失されることで最大鉛直せん断耐力が決まるという知見がある。
【0014】
換言すると、継手用鋼管4,5のせん断耐力を最大限発揮するためには、とりわけ中央の隔室Bへの充填材の充填を確実に行うことが重要であり、
図11(c)に示すように、中央の隔室Bが狭くなる係合(嵌合)状態であっても、中央の隔室Bの洗浄及び排土を好適に実行した上で、中央の隔室B内に確実にモルタル等の充填材を充填させることが望ましい。
【0015】
そこで、本発明は、このような従来の問題に鑑み、継手用鋼管がどのような係合状態にあっても確実に各隔室の洗浄、排土及び充填材の充填を行うことができる鋼管矢板の接合方法の提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述の如き従来の問題を解決するための請求項1に記載の発明の特徴は、隣り合う鋼管矢板の外側部にそれぞれ固定された継手用鋼管を、該継手用鋼管に形成された縦向きのスリット部を通して互いに係合させた後、前記係合された継手用鋼管によって形成される隣り合う三つの隔室を洗浄するとともに、前記各隔室から排土し、しかる後、前記各隔室内に充填材を充填し、前記両継手用鋼管を介して前記鋼管矢板を接合する鋼管矢板の接合方法において、前記継手用鋼管の隣り合う隔室間を隔てる部分に前記スリット部に沿って継手用鋼管の内外に貫通する前記充填材が流通可能な複数の連通口を、該連通口を構成する中央の隔室側の開口部が狭くなるテーパ孔状に形成された中央側縮小連通口と、端部の隔室側の開口部が狭くなるテーパ孔状に形成された端部側縮小連通口とが管軸方向で間隔をおいて交互に配置されるように設けておき、前記継手用鋼管同士を係合させた後、中央の隔室又は該中央の隔室と隣り合う両端部の二つの隔室、の何れかを選択し、選択した前記中央の隔室又は前記両端部の二つの隔室に洗浄ロッドを挿入し、該洗浄ロッドを降下させつつ、前記洗浄ロッドから噴射された高圧水によって前記選択した中央の隔室又は両端部の二つの隔室内の土砂を切削するとともに、前記連通口を通して前記高圧水によって前記選択した中央の隔室又は両端部の二つの隔室と隣り合う隔室内の土砂を切削する洗浄工程と、前記選択した中央の隔室又は両端部の二つの隔室から切削した土砂を排土するとともに、前記連通口を通して前記選択した中央の隔室又は両端部の二つの隔室と隣り合う隔室内の土砂を排土する排土工程とを経た後、前記選択した中央の隔室又は両端部の二つの隔室に充填材を充填するとともに、前記連通口を通して前記選択した中央の隔室又は両端部の二つの隔室と隣り合う隔室内に充填材を充填することにある。
【0017】
請求項2に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、前記洗浄ロッドは、圧縮空気を供給する空気供給管と、該空気供給管の内側に配管された高圧水を供給する高圧水供給管とからなる二重管構造を成し、前記洗浄工程及び前記排土工程は、前記高圧水供給管に接続された噴射ノズルから前記高圧水を噴射して前記選択した中央の隔室又は両端部の二つの隔室内及び前記選択した中央の隔室又は両端部の二つの隔室と隣り合う隔室内の土砂を切削するとともに、必要に応じて噴射口より前記圧縮空気を噴射し、前記高圧水中に生じる気泡の上昇力により切削された土砂を前記高圧水とともに前記選択された中央の隔室又は両端部の二つの隔室及び前記選択した中央の隔室又は両端部の二つの隔室と隣り合う隔室の上方に向けて上昇させて排土することにある。
【0018】
請求項3に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、前記高圧水を回転方向の逆側斜め後方に向けて噴射させつつ高圧水用ノズル又は前記洗浄ロッドを管軸回りに回転させることにある。
【0019】
請求項4に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、前記排土工程は、前記選択された中央の隔室又は両端部の二つの隔室及び/又は前記選択した中央の隔室又は両端部の二つの隔室と隣り合う隔室に排土管を挿入し、該排土管を通して切削された土砂を吸引することにある。
【0020】
請求項5に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、前記洗浄ロッドの外周面に清掃用ブラシを備えていることにある。
【0021】
請求項6に記載の発明の特徴は、請求項4の構成に加え、前記排土管の外周面に清掃用ブラシを備えていることにある。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る鋼管矢板の接合方法は、請求項1の構成を具備することによって、鋼管矢板打設時の土砂による貫入抵抗の影響や鋼管矢板の建込み精度等によって両継手用鋼管が偏って係合し、何れかの隔室に洗浄ロッド、排土管又はトレミー管等の挿入が困難な場合であっても、連通口を通して各隔室の洗浄、排土及び充填材の充填を確実に実施することができる。また、隔室毎に洗浄、排土及び充填材充填を行わずともよく、工期の短縮を図ることができる。また、本発明において、中央の隔室と端部の隔室のいずれを選択した場合であっても、隣り合う各室間での高圧水、空気、土砂、モルタル等の充填材の往来を好適に行うことができる。
【0023】
さらに、本発明において、請求項2の構成を具備することによって、高圧水に生じた気泡による上昇力により高圧水とともに土砂を各隔室の上部開口側に効率よくリフトアップさせることができる。
【0024】
また、本発明において、請求項3の構成を具備することによって、連通口を通して噴射した高圧水を確実に選択した隔室と隣り合う隔室に作用させることができる。
【0025】
さらに、本発明において、請求項4の構成を具備することによって、連通口を通して選択した隔室に挿入された排土管の負圧を選択した隔室と隣り合う隔室に作用させ、当該隣り合う隔室に排土管を挿入することなく排土することができる。
【0026】
また、本発明において、請求項5乃至6の構成を具備することによって、洗浄又は排土工程において継手用鋼管の内面に付着した土砂を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明に係る鋼管矢板の接合方法に使用する継手用鋼管の一例を示す部分拡大斜視図である。
【
図2】本発明に係る鋼管矢板の接合方法の洗浄・排土工程の作業の状態を示す概略平面図であって、(a)は端部の隔室を選択した場合、(b)は中央の隔室を選択した場合の状態を示す図である。
【
図3】(a)は同上の洗浄・排土工程で使用する洗浄ロッドの一例を示す部分破断正面図、(b)は同底面図である。
【
図4】同上の洗浄・排土工程の初期段階の状態を示す
図2(a)中のX-X矢視断面図である。
【
図5】同上の洗浄・排土工程の連通口より下の位置まで洗浄した状態を示す
図2(a)中のX-X矢視断面図である。
【
図6】同上の洗浄・排土工程のさらに下の位置まで洗浄した状態を示す
図2(a)中のX-X矢視断面図である。
【
図7】同上の充填材充填工程の初期段階の状態を示す
図2(a)中のX-X矢視断面図である。
【
図8】同上の充填材充填工程の連通口より上の位置まで充填材供給管を引き上げた状態を示す
図2(a)中のX-X矢視断面図である。
【
図9】同上の充填材充填工程のさらに上の位置まで充填材供給管を引き上げた状態を示す
図2(a)中のX-X矢視断面図である。
【
図10】鋼管矢板の接合作業の状態を示す断面図である。
【
図11】鋼管矢板継手の嵌合状態を示す平面であって、(a)は標準嵌合状態、(b)は中央の隔室が広い場合の嵌合状態、(c)は中央の隔室が狭い場合の嵌合状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、本発明に係る鋼管矢板の接合方法の実施態様を
図1~
図11に示した実施例に基づいて説明する。尚、上述の従来例と同様の構成には同一符号を付して説明し、図中符号1は鋼管矢板連続壁、符号2は鋼管矢板連続壁を構成する鋼管矢板である。
【0029】
鋼管矢板連続壁1は、
図10に示すように、縦向きに打設された複数の鋼管矢板2,2…を備え、隣り合う鋼管矢板2,2間が継手構造3を介して連結されている。
【0030】
この継手構造3は、それぞれ隣り合う鋼管矢板2の外周に支持された一対の継手用鋼管4,5を備え、両継手用鋼管4,5が互いに係合されるようになっている。
【0031】
この一対の継手用鋼管4,5は、
図1に示すように、それぞれ連結される鋼管矢板2,2の外周面の互いに向かい合った位置にそれぞれ配置され、直径方向の一端が溶接等によって鋼管矢板2の外周面に固定され、周方向の所定の位置に互いに対称配置に縦向きのスリット部6が形成されている。
【0032】
スリット部6は、継手用鋼管4,5の肉厚より広く形成され、スリット部6を通して継手用鋼管4,5同士が上下方向に挿通し、
図2、
図10に示すように、継手用鋼管4,5によって隣り合う三つの隔室A,B,Cが形成された状態に係合されるようになっている。
【0033】
また、継手用鋼管4,5には、隣り合う隔室B,C間を隔てる部分4a及び隣り合う隔室A,B間を隔てる部分5aにそれぞれスリット部6に沿って継手用鋼管4,5の内外に貫通する複数の連通口7,8が設けられている。
【0034】
連通口7,8は、中央の隔室B側の開口部が狭くなるように上下左右の内縁部が傾斜した矩形のテーパ孔状に形成された中央側縮小連通口7と、端部の隔室A,C側の開口部が狭くなるように上下左右の内縁部が傾斜した矩形のテーパ孔状に形成された端部側縮小連通口8とによって構成され、中央側縮小連通口7と、端部側縮小連通口8とが管軸方向に間隔をおいて交互に配置されている。
【0035】
尚、本実施例では、中央側縮小連通口7及び端部側縮小連通口8からなる連通口列を1列に配置した例について説明したが、管軸方向に複数の連通口7,8からなる連通口列が2列以上配置されるようにしてもよい。その場合には、列毎に中央側縮小連通口7と、端部側縮小連通口8とが管軸方向に間隔をおいて交互に配置され、隣り合う連通口列を同じ配列にしてもよく、隣り合う連通口列で中央側縮小連通口7と、端部側縮小連通口8とが隣り合うようにずらして配列し、中央側縮小連通口7と、端部側縮小連通口8とがそれぞれ千鳥状に配置されるようにしてもよい。更に、各列がそれぞれ管軸方向に間隔をおいて配置された複数の中央側縮小連通口7からなる連通口列と、管軸方向に間隔をおいて配置された複数の端部側縮小連通口8からなる連通口列であってもよい。
【0036】
また、連通口7,8は、洗浄ロッド9、排土管及びトレミー管等の充填材供給管10(以下、洗浄ロッド等と総称する)の径よりも幅が小さく形成され、連通口7,8を通して洗浄ロッド等が隣り合う隔室Bに逸脱しないようにしている。
【0037】
尚、連通口7,8の態様は、上述の実施態様に限定されず、円形状(円錐台形状)や楕円形状(楕円錘台形状)でもよく、また、スリット部6の側縁部に切り欠き状に形成されてもよい。
【0038】
さらには、中央側縮小連通口7と端部側縮小連通口8とを一組の連通口7,8部とし、当該一組の中央側縮小連通口7と端部側縮小連通口8とからなる複数の連通口7,8部が管軸方向に間隔をおいて配置されるようにしてもよい。
【0039】
そして、このような継手3を用いた鋼管矢板2,2の接合方法は、鋼管矢板2,2の打設に伴い両継手用鋼管4,5が係合した後、係合された継手用鋼管4,5によって形成される隣り合う三つの隔室A,B,Cを洗浄するとともに、各隔室A,B,Cから排土し、しかる後、各隔室A,B,C内に充填材11を充填することによって両継手用鋼管4,5を介して隣り合う鋼管矢板2,2を接合するようになっている。
【0040】
この鋼管矢板2,2の接合方法に関する具体的な手順を
図4~
図9に基づいて説明する。
【0041】
鋼管矢板2,2打設時の土砂13による貫入抵抗の影響や鋼管矢板2,2の建込み精度等により、両継手用鋼管4,5の実際の係合(嵌合)状態は、
図11(a)に示す標準係合(嵌合)状態となる場合よりも
図11(b)や
図11(c)に示す標準係合(嵌合)以外の偏った状態になる場合がある。
【0042】
そして、
図11(b)や
図11(c)に示す偏った状態に係合された場合には、中央の隔室B又は中央の隔室Bと隣り合う端部の隔室A,Cの何れかの内部が狭くなり、その狭くなった隔室A,B,Cに対し洗浄ロッド等の挿入が困難となる場合が生じる。
【0043】
そこで、継手用鋼管4,5同士を係合させた後、係合状態を確認し、洗浄ロッド等を挿入する隔室A,B,Cを中央の隔室B又は中央の隔室Bと隣り合う端部の隔室A,Cの何れかから選択する。
【0044】
選択基準は、継手用鋼管4,5のせん断耐力を最大限発揮するためには、とりわけ中央の隔室Bへの充填材11の充填が確実に行われることが重要であることから、
図11(a)又は
図11(b)に示す状態の場合は中央の隔室Bを優先的に選択し、
図11(c)に示すように、中央の隔室Bが狭く洗浄ロッド等の挿入が困難な場合には、
図2(a)に示すように、端部の隔室A,Cを選択する。尚、
図2(b)は、中央の隔室Bを選択した場合の図である。
【0045】
次に、
図2(a)、
図4~
図6に示すように、選択した隔室A,Cに洗浄ロッド9を挿入し、洗浄ロッド9から噴射された高圧水12によって選択した隔室A,C内の土砂13を切削するとともに、連通口7,8を通して高圧水12によって選択した隔室A,Cと隣り合う隔室B内の土砂13も切削する(洗浄工程)とともに、切削した土砂13を高圧水12による上昇流に乗せて排土する(排土工程)。
【0046】
尚、本実施例では、端部の隔室A,Cを選択した場合を例に説明し、二つある端部の隔室A,Cの何れか一方に挿入して洗浄・排土工程を行った後、他方に洗浄ロッド9を挿入して洗浄・排土工程を行ってもよく、
図2(a)、
図4~
図6に示すように、二つある端部の隔室A,Cの両方に同時に洗浄ロッド9を挿入して洗浄・排土工程を行ってもよい。また、選択した端部の隔室A,Cへの洗浄ロッド9の挿入に合わせ、中央の隔室B内に小径の排土管を挿入し、隔室B内の土砂13を同時進行で排土するようにしてもよい。
【0047】
洗浄ロッド9は、
図3に示すように、圧縮空気14を供給する空気供給管15と、空気供給管15の内側に配管された高圧水12を供給する高圧水供給管16とからなる二重管構造を成し、空気供給管15及び高圧水供給管16にそれぞれ外部に設置された供給手段(図示せず)からそれぞれ供給された圧縮空気14又は高圧水12を先端の噴射ノズル17から噴射させるようになっている。
【0048】
噴射ノズル17は、高圧水12を噴射する高圧水噴射口17aを少なくとも下端部に備え、噴射された高圧水12によって選択した隔室A,C内の土砂13を切削し、切削した土砂13を上向きに上昇する高圧水12によって選択した隔室A,Cの上部開口へ押し上げるようになっている。
【0049】
また、噴射ノズル17は、二重管構造に対し、管軸回りに回転可能に取り付けられ、回転方向と逆側斜め後方に向けて開口した噴射孔17b,17bを1カ所乃至直径方向の対極位置に2カ所設けられ、噴射孔17b,17bより噴出する高圧水12の勢いを利用してスイベル機構により自由に回転する構造となっている。
【0050】
更に、噴射ノズル17には、空気供給管15と連通した空気噴射孔17c,17cが設けられ、空気噴射孔17c,17cより圧縮空気14を噴射し、継手用鋼管4,5内に充満する水に気泡を生じさせ、気泡の上昇力によって土砂13の上昇を促進するようになっている。
【0051】
尚、洗浄ロッド9は、特に図示しないが、洗浄ロッド9の外周面に清掃用ブラシを備え、清掃用ブラシで隔室A,C内面に付着した土砂13を掻き出して除去するようにしたものであってもよい。
【0052】
この清掃用ブラシの態様は、特に限定されず、毛材を植物繊維(パームやシュロ等)、化学繊維(ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン等)、金属線(銅、真鍮、鉄、ステンレス等)等によって構成することができる。
【0053】
また、この清掃用ブラシは、洗浄ロッド9全体を回転させることによって効果を増大することができる。
【0054】
そして、選択した隔室A,C内において洗浄ロッド9を必要に応じて上下動させながら降下させ選択した隔室A,C内の土砂13の切削及び排土を進め、
図5に示すように、連通口7,8が形成された位置まで降下すると、噴射された高圧水12の水圧が連通口7,8を通して選択した隔室A,Cと隣り合う隔室Bにも作用するとともに、気泡を含む上昇水流による吸出し効果によって当該隣り合う隔室B内の土砂13を切削しつつ、切削した土砂13が連通口7,8から吸い出され、選択した隔室A,C内の上昇水流によって排土される。
【0055】
その際、連通口7,8として、中央の隔室B側の開口部が狭くなるテーパ孔状に形成された中央側縮小連通口7が設けられていることにより、中央側縮小連通口7を通して隣り合う中央の隔室Bへの高圧水12の流入が促進され、端部の隔室A,C側の開口部が狭くなるテーパ孔状に形成された端部側縮小連通口8が設けられていることにより、隣り合う中央の隔室Bからの切削した土砂13の吸出しが促進される。
【0056】
尚、
図2(b)に示す中央の隔室Bが選択される場合には、連通口7,8として、中央の隔室B側の開口部が狭くなるテーパ孔状に形成された中央側縮小連通口7が設けられていることにより、隣り合う端部の隔室A,Cからの切削した土砂13の吸出しが促進され端部の隔室A,C側の開口部が狭くなるテーパ孔状に形成された端部側縮小連通口8が設けられていることにより、端部側縮小連通口8を通して隣り合う端部の隔室A,Cへの高圧水12の流入が促進される。
【0057】
また、当該隣り合う隔室B内の連通口7,8より上の土砂13が自重によって連通口7,8の位置まで降下し、同様に連通口7,8を通して切削されるとともに、吸出されて排土される。
【0058】
その際、噴射ノズル17が管軸回りに回転することによって、継手用鋼管4,5の係合状態によって洗浄ロッド17と連通口7,8との相対位置が変化しても、確実に噴射された高圧水12を連通口7,8を通して直接当該隣り合う隔室Bの土砂13に作用させることができるとともに、回転による攪拌によって吸出しを促進することができる。
【0059】
尚、高圧水12、空気の供給量や供給圧は、鋼管矢板2,2を打設する地盤の強度や地質等を考慮したうえで一定量を供給するが、排土状況や選択した隔室A,Cと隣り合う隔室Bの洗浄・排土状況を観察し、適宜供給量や供給圧を変更することができる。また、高圧水12、空気の供給量や供給圧は、所定の深度毎や時間毎に順次変更するようにしてもよい。
【0060】
例えば、管軸方向の連通口7,8間を移動しながら洗浄・排土する際の高圧水12・空気の供給量に対し、連通口7,8付近での洗浄・排土する際の高圧水12・空気の供給量を増大させるようにしてもよい。
【0061】
また、洗浄ロッド9の送り速度や上下動の回数も管軸方向の連通口7,8間を移動しながら洗浄・排土する際と連通口7,8付近での洗浄・排土する際とで適宜変更してもよい。
【0062】
そして、洗浄ロッド9を降下させながら、上述の洗浄・排土作業を繰り返し、選択した隔室A,Cの下端部まで洗浄ロッド9が到達し、高圧水12による排土が十分に完了したら洗浄ロッド9を引き上げる。
【0063】
次に、
図7~
図9に示すように、洗浄・排土工程後の選択した隔室A,C内にトレミー
管等の充填材供給管10を挿入し、選択した隔室A,Cの下端より充填材供給管10を引き上げながらモルタル等の充填材11を投入する。
【0064】
選択した隔室A,Cに投入されたモルタル等の充填材11は、
図8、
図9に示すように、投入された充填材11の上端が連通口7,8の位置まで到達すると、連通口7,8を通して隣り合う隔室Bに流入し、当該隣り合う隔室Bにも充填材11が充填される。
【0065】
その際、充填材供給管10の引き上げ速度や充填材11の供給量は、一定の速度及び一定量で供給してもよいが、充填材供給管10の下端部が連通口7,8付近に位置する際には、引き上げ速度を低下させるとともに、充填材11の供給量を増加させてもよい。
【0066】
そして、充填材11を供給しつつ充填材供給管10を順次引き上げ、選択した隔室A,Cの上端まで充填材11が充填されるとともに、隣り合う隔室Bの上端まで充填材11が充填されるまで充填材11の供給を行う。
【0067】
特に、継手用鋼管4,5のせん断耐力を最大限発揮するためには、とりわけ中央の隔室Bへの充填材11の充填が確実に行われることが重要であることから、中央の隔室Bの上端まで充填材11が充填されているかを確認する。
【0068】
最後に、モルタル等の充填材11を養生・硬化させ、隣り合う鋼管矢板2,2の接合が完了する。
【0069】
このように構成された鋼管矢板2,2の接合方法では、継手用鋼管4,5に連通口7,8を設けておき、継手用鋼管4,5同士を係合させた後、中央の隔室B又は該中央の隔室Bと隣り合う端部の隔室A,Cの何れかを選択し、選択した隔室A,Cに洗浄ロッド等を挿入し、当該選択した隔室A,Cの洗浄、排土及び充填材11の充填を行うとともに、連通口7,8を通して選択した隔室A,Cと隣り合う隔室Bの洗浄、排土及び充填材11の充填を行うことで、継手用鋼管4,5が偏った状態で係合され、何れかの隔室A,B,Cに洗浄ロッド等を挿入し難い場合であっても、各隔室A,B,Cの洗浄、排土及び充填材11の充填を確実に行うことができる。
【0070】
また、両継手用鋼管4,5の係合状態の如何を問わず、選択した隔室A,Cにのみ洗浄ロッド等を挿入して作業するため、工期の短縮を図ることができる。
【0071】
さらに、本発明では、モルタル等の充填材11が連通口7,8を通して充填されるため、連通口7,8を設けた分、継手用鋼管4,5の内面とモルタル等の充填材11との付着面積が小さくなり付着力が低下するものの、連通口7,8内に充填された部分がずれ止めとして機能し、せん断ずれに対するせん断耐力の低下を補うことが期待できる。
【0072】
尚、上述の実施例では、排土工程を洗浄ロッド9より噴射させた高圧水12及び刻圧水に生じさせた気泡の上昇力によって外部に排土する場合について説明したが、排土工程は、選択された隔室A,B,C、若しくは洗浄ロッド9が挿入された隔室と隣り合う隔室に排土管を挿入し、排土管を通して洗浄ロッド9により切削された各隔室内の土砂13を吸引するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 鋼管矢板連続壁
2 鋼管矢板
3 継手
4,5 継手用鋼管
6 スリット部
7 中央側縮小連通口
8 端部側縮小連通口
9 洗浄ロッド
10 充填材供給管
11 充填材
12 高圧水
13 土砂
14 空気
15 空気供給管
16 高圧水供給管
17 噴射ノズル
18 清掃用ブラシ
【要約】
【課題】継手用鋼管がどのような係合状態にあっても確実に各隔室の洗浄、排土及び充填材の充填を行うことができる鋼管矢板の接合方法の提供。
【解決手段】この鋼管矢板の接合方法は、継手用鋼管4,5同士を係合させた後、選択した隔室A,Cに洗浄ロッド9を挿入し、洗浄ロッド9から噴射された高圧水12によって選択した隔室A,C内の土砂13を切削・排土するとともに、連通口7,8を通して高圧水12によって隣り合う隔室B内の土砂13を切削・排土した後、選択した隔室A,Cに充填材を充填するとともに、連通口7,8を通して隣り合う隔室B内に充填材を充填する。
【選択図】
図4