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特許7389940透明導電層、透明導電性フィルムおよび物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】透明導電層、透明導電性フィルムおよび物品
(51)【国際特許分類】
   H01B 5/14 20060101AFI20231122BHJP
【FI】
H01B5/14 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023548481
(86)(22)【出願日】2022-09-14
(86)【国際出願番号】 JP2022034350
(87)【国際公開番号】W WO2023042847
(87)【国際公開日】2023-03-23
【審査請求日】2023-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2021152348
(32)【優先日】2021-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003812
【氏名又は名称】弁理士法人いくみ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤野 望
(72)【発明者】
【氏名】鴉田 泰介
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-262829(JP,A)
【文献】特開2021-18956(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルゴンより原子番号の大きい希ガスを含有する無機酸化物を含む透明導電層であり、
前記透明導電層をX線回折したときの、(222)面におけるピークの積分強度I222に対する(440)面におけるピークの積分強度I440の比(I440/I222)が、0.130未満である、透明導電層。
【請求項2】
厚みが150nm未満である、請求項1に記載の透明導電層。
【請求項3】
前記無機酸化物が、インジウムスズ複合酸化物である、請求項1または請求項2に記載の透明導電層。
【請求項4】
樹脂を含む基材と、請求項1または2に記載の透明導電層とを、厚み方向の一方側に向かって順に備える、透明導電性フィルム。
【請求項5】
請求項1または2に記載の透明導電層を備える、物品。
【請求項6】
請求項4に記載の透明導電性フィルムを備える、物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電層、透明導電性フィルムおよび物品に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルム基材上にある透明導電層が知られている(例えば、下記特許文献1参照。)。特許文献1に記載の透明導電層は、結晶質である。透明導電層は、物品に備えられる。物品は、タッチパネルを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-157814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
物品の種類、用途および目的に応じて、物品の製造方法は、加熱工程を備える場合がある。加熱工程の温度は、例えば、100℃以上、150℃以下である。その場合に、透明導電層には、物品の製造方法における加熱工程によっても、表面抵抗の増大の抑制が求められる。つまり、透明導電層には、優れた加熱耐性が求められる。
【0005】
しかし、特許文献1に記載の透明導電層は、上記した要求を十分に満足できないという不具合がある。
【0006】
本発明は、物品の製造方法における加熱工程によっても、表面抵抗の増大が抑制される透明導電層、透明導電性フィルムおよび物品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明(1)は、アルゴンより原子番号の大きい希ガスを含有する無機酸化物を含む透明導電層であり、前記透明導電層をX線回折したときの、(222)面におけるピークの積分強度I222に対する(440)面におけるピークの積分強度I440の比(I440/I222)が、0.130未満である、透明導電層を含む。
【0008】
本発明(2)は、厚みが150nm未満である、(1)に記載の透明導電層を含む。
【0009】
本発明(3)は、前記無機酸化物が、インジウムスズ複合酸化物である、(1)または(2)に記載の透明導電層を含む。
【0010】
本発明(4)は、樹脂を含む基材と、(1)から(3)のいずれか一項に記載の透明導電層とを、厚み方向の一方側に向かって順に備える、透明導電性フィルムを含む。
【0011】
本発明(5)は、(1)から(3)のいずれか一項に記載の透明導電層を備える、物品を含む。
【0012】
本発明(6)は、請求項4に記載の透明導電性フィルムを備える、物品を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明の透明導電層および透明導電性フィルムは、物品の製造方法における加熱工程においても、表面抵抗の増大が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の透明導電層の一実施形態の断面図である。
図2図1に示す透明導電層を備える透明導電性フィルムの断面図である。
図3】実施例1の反応性スパッタリングにおいて、酸素導入量と、比抵抗との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1. 透明導電層の一実施形態
本発明の一実施形態である透明導電層1を、図1を参照して説明する。この透明導電層1は、面方向に延びる。面方向は、厚み方向に直交する。透明導電層1は、結晶質である。
【0016】
1.1 透明導電層に含有される無機酸化物
透明導電層1は、無機酸化物を含む。無機酸化物としては、例えば、金属酸化物が挙げられる。金属酸化物は、In、Sn、Zn、Ga、Sb、Nb、Ti、Si、Zr、Mg、Al、Au、Ag、Cu、Pd、Wからなる群より選択される少なくとも1種の金属を含む。具体的には、透明導電層1の材料としては、好ましくは、インジウム亜鉛複合酸化物(IZO)、インジウムガリウム亜鉛複合酸化物(IGZO)、インジウムガリウム複合酸化物(IGO)、インジウムスズ複合酸化物(ITO)、および、アンチモンスズ複合酸化物(ATO)が挙げられ、好ましくは、加熱耐性を向上する観点から、インジウムスズ複合酸化物(ITO)が挙げられる。
【0017】
1.2 酸化スズ(SnO)の含有量
インジウムスズ複合酸化物における酸化スズ(SnO)の含有量は、例えば、0.5質量%以上、好ましくは、3質量%以上、より好ましくは、4質量%以上、さらに好ましくは、5質量%以上、とりわけ好ましくは、6質量%以上であり、また、例えば、50質量%未満、好ましくは、25質量%以下、より好ましくは、15質量%以下、さらに好ましくは、10質量%以下である。酸化スズの含有量が上記した下限以上であれば、後述する比(I440/I222)を所望範囲に設定できる。酸化スズの含有量は、例えば、酸化インジウムと酸化スズの混合物の焼結体(ターゲット)における、酸化スズ(SnO)の含有量から判断してもよい。また、例えば、透明導電層1をXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)で分析することでも判断することができる。必要に応じてXPSのデプスプロファイルを取得することで透明導電層1の厚み方向の酸化スズ(SnO)の含有量を求めることもできる。
【0018】
1.2.1 酸化スズの含有量の分布
インジウムスズ複合酸化物における酸化スズの含有量は、厚み方向に分布があってよい。図1の拡大図に示すように、本実施形態では、透明導電層1は、酸化スズの含有量が互いに異なる第1領域3および第2領域4を厚み方向の一方側に向かって順に備える。つまり、本実施形態では、第2領域4は、厚み方向において第1領域3の一方側に配置される。第1領域3における酸化スズの含有量C1は、第2領域4における酸化スズの含有量C2のそれより、例えば、高い。第2領域4における酸化スズの含有量C2に対する第1領域3における酸化スズの含有量C1の比(C1/C2)は、例えば、1超過、好ましくは、1.5以上、より好ましくは、2以上、さらに好ましくは、2.5以上、とりわけ好ましくは、3以上であり、最も好ましくは、3.3以上である。上記した比(C1/C2)は、例えば、100以下、好ましくは、25以下、より好ましくは、10以下である。なお、第1領域3および第2領域4の境界は、明確に観察されなくてもよい。
【0019】
1.2.2 第1領域3における酸化スズの含有量
具体的には、第1領域3における酸化スズの含有量C1は、例えば、5質量%以上、好ましくは、7質量%以上、より好ましくは、9質量%以上であり、また、例えば、50質量%以下、好ましくは、30質量%以下、より好ましくは、25質量%以下、さらに好ましくは、20質量%以下である。
【0020】
1.2.3 第2領域4における酸化スズの含有量
第2領域4における酸化スズの含有量C1は、例えば、0.1質量%以上、好ましくは、1質量%以上、より好ましくは、2質量%以上であり、また、例えば、9質量%以下、好ましくは、7質量%以下、より好ましくは、5質量%以下である。
【0021】
1.3 無機酸化物に含有される、アルゴンより原子番号の大きい希ガス2
上記した無機酸化物は、アルゴンより原子番号の大きい希ガス2を含有する。本実施形態では、アルゴンより原子番号の大きい希ガス2は、図1における拡大図に示すように、厚み方向における透明導電層1の全体に存在する。なお、透明導電層1が上記した第1領域3および第2領域4を含んでいても、アルゴンより原子番号の大きい希ガス2は、第1領域3および第2領域4のいずれにも存在する。
【0022】
無機酸化物(好ましくは、金属酸化物)にアルゴンより原子番号が大きい希ガス2が混入した組成物が、透明導電層1である。
【0023】
アルゴンより原子番号が大きい希ガスとしては、例えば、クリプトン、キセノン、および、ラドンが挙げられる。これらは、単独または併用できる。アルゴンより原子番号が大きい希ガスとして、好ましくは、クリプトン、および、キセノンが挙げられ、より好ましくは、低価格と優れた電気伝導性とを得る観点から、クリプトン(Kr)が挙げられる。
【0024】
アルゴンより原子番号が大きい希ガスの同定方法は、限定されない。例えば、ラザフォード後方散乱分析(Rutherford Backscattering Spectrometry)、二次イオン質量分析法、レーザー共鳴イオン化質量分析法、および/または、蛍光X線分析により、透明導電層1におけるアルゴンより原子番号が大きい希ガスが同定される(存否が判断される)が、好ましくは、分析簡易性の観点から、蛍光X線分析で、同定される。蛍光X線分析の詳細は、実施例に記載する。アルゴンより原子番号が大きい希ガスを定量するために、ラザフォード後方散乱分析を実施すると、アルゴンより原子番号が大きい希ガスの含有量が検出限界値(下限値)以上でないために定量できない一方、蛍光X線分析を実施すると、アルゴンより原子番号が大きい希ガスの存在が同定される場合には、当該透明導電層1におけるアルゴンより原子番号が大きい希ガスの含有量が0.0001atom%以上である領域を含む、と判断する。
【0025】
無機酸化物(透明導電層1)におけるアルゴンより原子番号が大きい希ガスの含有割合は、例えば、0.0001atom%以上であり、好ましくは、0.001atom%以上であり、また、例えば、1.0atom%以下、より好ましくは、0.7atom%以下、さらに好ましくは、0.5atom%以下、ことさらに好ましくは、0.3atom%以下、とくに好ましくは、0.2atom%以下、もっとも好ましくは、0.15atom%以下である。無機酸化物(透明導電層1)におけるアルゴンより原子番号が大きい希ガスの含有割合が、上記範囲であれば、透明導電層1の加熱耐性を向上できる。
【0026】
後述するスパッタリングにおいて、スパッタリングガスがアルゴンを含有する場合には、透明導電層1にアルゴンが、多量に取り込まれる。対して、スパッタリングガスがアルゴンより原子番号が大きい希ガスを含有し、アルゴンを含有しない場合では、透明導電層1は、スパッタリングガスの多量の取り込みが抑制される。そのため、透明導電層1が緻密になり、その結果、透明導電層1の加熱耐性が向上する。
【0027】
1.4 X線回折における(222)面および(440)面におけるピーク
透明導電層1をX線回折したときの、(222)面および(440)面のそれぞれにおけるピークが存在する。(222)面および(440)面のそれぞれのピークは、結晶質な透明導電層1をX線回折したときに得られるスペクトルに含まれる固有のピークである。
【0028】
1.4.1 (222)面におけるピークの積分強度I222に対する(440)面におけるピークの積分強度I440の比(I440/I222
(222)面におけるピークの積分強度I222に対する(440)面におけるピークの積分強度I440の比(I440/I222)は、0.130未満である。
【0029】
他方、(222)面におけるピークの積分強度I222に対する(440)面におけるピークの積分強度I440の比(I440/I222)は、0.130以上であれば、加熱耐熱性が低下する場合がある。つまり、透明導電層1が備えられる物品の製造方法が加熱工程を備えると、表面抵抗が増大する場合がある。
【0030】
一方、本発明では、(222)面におけるピークの積分強度I222に対する(440)面におけるピークの積分強度I440の比(I440/I222)は、0.130未満であるので、加熱耐性を向上できる。つまり、透明導電層1が高温雰囲気下に置かれた場合に、表面抵抗の増大を確実に抑制できる。
【0031】
(222)面におけるピークの積分強度I222に対する(440)面におけるピークの積分強度I440の比(I440/I222)は、例えば、0.128以下、より好ましくは、0.127以下、さらに好ましくは、0.126以下、とりわけ好ましくは、0.125以下であり、また、0.124以下、さらには、0.123以下が好適である。
【0032】
上記した比(I440/I222)を上記範囲内にする方法は、限定されない。
【0033】
1.4.2 (222)面におけるピークの積分強度I222に対する(440)面におけるピークの積分強度I440の比(I440/I222)の求め方は、後の実施例の記載に基づいて、測定される。
【0034】
1.5 透明導電層1の他の物性
透明導電層1における結晶粒径は、例えば、0.1μm以上、好ましくは、0.3μm以上、より好ましくは、0.5μm以上、さらに好ましくは、0.6以上である。また、透明導電層1における結晶粒径は、例えば、1μm以下、好ましくは、0.9μm以下、より好ましくは、0.8μm以下、さらに好ましくは、0.7μm以下である。結晶粒径が上記した下限以上であれば、加熱耐性に優れる。結晶粒径が上記した上限以下であれば、可撓性を有する樹脂を含む基材6を採用しても、透明導電層1の割れが生じにくい。できる。結晶粒径は、FE-SEM観察によって、求められる。求め方の詳細は、後の実施例で記載される。
【0035】
透明導電層1の厚みは、例えば、5nm以上、好ましくは、10nm以上、より好ましくは、15nm以上、さらに好ましくは、20nm以上、ことさらに好ましくは、22nm以上であり、また、例えば、500nm以下、好ましくは、300nm以下、より好ましくは、250nm以下、より好ましくは、200nm以下、さらに好ましくは、150nm未満、ことさらに好ましくは、140nm以下、とくに好ましくは、100nm以下、80nm以下、50nm以下、35nm以下である。透明導電層1の厚みが上記した上限、および、下限の範囲であれば、良好な結晶膜が得られ、加熱耐性に優れる。
【0036】
第1領域3および第2領域4のそれぞれの厚みは、例えば、3nm以上、好ましくは、5nm以上、より好ましくは、7nm以上であり、また、例えば、200nm以下、好ましくは、100nm以下、より好ましくは、50nm以下、より好ましくは、25nm以下、さらに好ましくは、20nm以下、とりわけ好ましくは、15nm以下である。
【0037】
透明導電層1が上記した第1領域3および第2領域4を含む場合には、第2領域4の厚みに対する第1領域3の厚みの比は、例えば、0.1以上、好ましくは、0.3以上、より好ましくは、0.5以上、さらに好ましくは、0.7以上であり、また、例えば、10以下、好ましくは、5以下、より好ましくは、3以下、さらに好ましくは、2以下である。
【0038】
透明導電層1の全光線透過率は、例えば、75%以上、好ましくは、80%以上、より好ましくは、85%以上、さらに好ましくは、90%以上である。透明導電層1の全光線透過率の上限は、限定されない。透明導電層1の全光線透過率の上限は、例えば、100%である。
【0039】
透明導電層1の比抵抗は、例えば、5.0×10-4Ω・cm以下、好ましくは、3×10-4Ω・cm以下であり、また、例えば、0.1×10-4Ω・cm以上、好ましくは、1.1×10-4Ω・cm以上である。比抵抗は、四端子法により測定される。
【0040】
1.6 透明導電性フィルム5
次に、上記した透明導電層1を備える透明導電性フィルム5を、図2を参照して説明する。透明導電性フィルム5は、面方向に延びる。透明導電性フィルム5は、基材6と、透明導電層1とを厚み方向の一方側に向かって順に備える。つまり、本実施形態では、透明導電性フィルム5では、基材6と、透明導電層1とが、厚み方向の一方側に向かって順に配置される。本実施形態では、透明導電性フィルム5は、好ましくは、基材6と、透明導電層1とのみを備える。
【0041】
1.7 基材6
本実施形態では、基材6は、厚み方向における透明導電性フィルム5の他方面を形成する。基材6は、透明導電性フィルム5の機械強度を向上させる。基材6は、面方向に延びる。基材6は、例えば、樹脂を含む。基材6が樹脂を含めば、優れた加熱耐性と可撓性を両立する、透明導電性フィルム5を得ることができる。樹脂は、後で説明する。本実施形態では、基材6は、ガラス板(図示せず)に隣接しない。本実施形態では、厚み方向における基材6の他方面は、ガラス板に接触しない。
【0042】
1.7.1 基材6の層構成
本実施形態では、基材6は、基材シート61と、機能層60とを厚み方向に順に備える。本実施形態では、機能層60は、単層である。機能層60は、厚み方向における基材シート61の一方面に接触する。機能層60は、好ましくは、ハードコート層62である。本実施形態では、基材6は、好ましくは、基材シート61と、ハードコート層62とを厚み方向の他方側に向かって順に備える。
【0043】
1.7.1.1 基材シート61
基材シート61は、可撓性を有する。基材シート61としては、例えば、樹脂フィルムが挙げられる。樹脂フィルムにおける樹脂は、限定されない。樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、オレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリアリレート樹脂、メラミン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、セルロース樹脂、ポリスチレン樹脂、および、ノルボルネン樹脂が挙げられる。樹脂として、好ましくは、透明性および機械強度の観点から、ポリエステル樹脂が挙げられる。ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、および、ポリエチレンナフタレートが挙げられ、好ましくは、PETが挙げられる。
【0044】
基材シート61の厚みは、好ましくは、1μm以上、より好ましくは、10μm以上、さらに好ましくは、30μm以上である。基材シート61の厚みは、好ましくは、300μm以下、より好ましくは、200μm以下、さらに好ましくは、150μm以下、とりわけ好ましくは、100μm以下である。基材6の厚みに対する基材シート61の厚みの割合は、例えば、0%以上、好ましくは、50%以上、さらに好ましくは、80%以上であり、また、例えば、99.99%以下、好ましくは、99%以下である。
【0045】
1.7.1.2 ハードコート層62
ハードコート層62は、厚み方向における透明導電層1の一方面に擦り傷が形成されにくくする。ハードコート層62は、厚み方向における基材シート61の一方面に接触する。ハードコート層62は、樹脂からなる。具体的には、ハードコート層62は、例えば、硬化性樹脂を含む硬化性組成物の硬化物層である。硬化性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アミド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、および、メラミン樹脂が挙げられる。硬化性樹脂としては、好ましくは、アクリル樹脂が挙げられる。ハードコート層62の厚みは、例えば、0.1μm以上、好ましくは、0.5μm以上であり、また、例えば、10μm以下、好ましくは、3μm以下である。基材シート61の厚みに対するハードコート層62の厚みの割合は、例えば、0.01以上、好ましくは、0.02以上、より好ましくは、0.03以上であり、また、例えば、0.20以下、好ましくは、0.10以下、より好ましくは、0.05以下である。ハードコート層62の厚みは、機能層60の厚みに相当する。
【0046】
1.7.2 基材6の厚み
基材6の厚みは、例えば、5μm以上、好ましくは、10μm以上、より好ましくは、25μm以上であり、また、例えば、500μm以下、好ましくは、200μm以下、より好ましくは、100μm以下である。基材6の厚みは、基材シート61およびハードコート層62の合計厚みである。
【0047】
1.7.3 基材6の物性
基材6の全光線透過率は、例えば、75%以上、好ましくは、80%以上、より好ましくは、85%以上、さらに好ましくは、90%以上である。基材6の全光線透過率の上限は、限定されない。基材6の全光線透過率の上限は、例えば、100%以下である。基材6の全光線透過率は、JIS K 7375-2008に基づいて求められる。以下の部材の全光線透過率は、上記と同様の方法に基づいて求められる。
【0048】
基材6は、市販品を用いることができる。
【0049】
1.8 透明導電層1
本実施形態の透明導電性フィルム5では、透明導電層1は、厚み方向における透明導電性フィルム5の一方面を形成する。透明導電層1は、厚み方向における基材6の一方面に配置される。透明導電層1は、厚み方向における基材6の一方面に接触する。つまり、厚み方向における透明導電層1の他方面が、基材6に接触する。本実施形態では、透明導電層1の他方面は、厚み方向におけるハードコート層62(機能層60)の一方面に接触する。
【0050】
図1の拡大図に示すように、透明導電層1が、第1領域3と第2領域4を有する場合には、好ましくは、第1領域3が、厚み方向の基材6の一方面に配置される。好ましくは、第1領域3が、厚み方向におけるハードコート層62(図2参照)の一方面に接触する。図1の拡大図、および、図2の拡大図に示すように、透明導電層1が第1領域3と第2領域4を有する場合には、透明導電性フィルム5は、基材シート61と、ハードコート層62と、第1領域3と、第2領域4とを厚み方向の一方側に向かって順に備える。つまり、第2領域4は、厚み方向において、第1領域3に対して基材6の反対側に配置される。
【0051】
1.9 透明導電性フィルム5の厚み、他の物性
透明導電性フィルム5の厚みは、例えば、2μm以上、好ましくは、20μm以上、より好ましくは、30μm以上であり、また、例えば、300μm以下、好ましくは、200μm以下、より好ましくは、100μm以下である。
【0052】
透明導電性フィルム5の全光線透過率は、例えば、75%以上、好ましくは、80%以上であり、また、例えば、100%以下である。
【0053】
1.10 透明導電性フィルム5の製造方法
この方法では、例えば、各層のそれぞれをロール-トゥ-ロール法で配置する。
【0054】
1.10.1 基材6の準備
まず、基材6を準備する。具体的には、基材シート61の一方面に硬化性組成物を塗布する。その後、硬化性組成物における硬化性樹脂を、熱または紫外線照射によって、硬化させる。これによって、ハードコート層62を基材シート61の一方面に形成する。これによって、基材6を準備する。
【0055】
1.10.2 透明導電層1の形成
その後、透明導電層1を、厚み方向における基材6の一方面に形成する。具体的には、まず、非晶質透明導電層を厚み方向における基材6の一方面に形成し、その後、非晶質透明導電層を結晶質に転化して、透明導電層1を形成する。
【0056】
1.10.2.1 非晶質透明導電層の形成
非晶質透明導電層を形成するには、例えば、スパッタリング、好ましくは、反応性スパッタリングを実施する。また、スパッタリングとして、マグネトロンスパッタリングが挙げられる。スパッタリングとして、より好ましくは、反応性マグネトロンスパッタリングが挙げられる。
【0057】
スパッタリングでは、スパッタリング装置が用いられる。スパッタリング装置は、単数の成膜ロールと、複数の成膜室とを備える。
【0058】
成膜ロールは、温度調整装置を備える。温度調整装置は、成膜ロールの温度を調整可能である。成膜ロールは、基材6に接触可能であることから、基材6の温度を調整可能である。成膜ロールの表面温度は、スパッタリングにおける成膜温度に相当する。成膜温度は、例えば、-50℃以上、好ましくは、-30℃以上、より好ましくは、-20℃以上、さらに好ましくは、-10℃以上であり、また、例えば、20℃以下、好ましくは、10℃以下、より好ましくは、5℃以下、さらに好ましくは、0℃以下である。
【0059】
複数の成膜室のそれぞれは、内部にスパッタリングガスを供給可能である。スパッタリングガスとしては、アルゴンより原子番号が大きい希ガスが挙げられる。アルゴンより原子番号が大きい希ガスとしては、例えば、クリプトン、キセノン、および、ラドンが挙げられ、好ましくは、クリプトン(Kr)が挙げられる。スパッタリングガスは、好ましくは、アルゴンを含有しない。
【0060】
なお、複数の成膜室のそれぞれに供給されるスパッタリングガスは、例えば、いずれも同一であり、また、例えば、一の成膜室に供給されるスパッタリングガスがアルゴンより原子番号が大きい希ガスであり、他の成膜室に一の成膜室に供給されるスパッタリングガスがアルゴンである。好ましくは、複数の成膜室のそれぞれに供給されるスパッタリングガスは、いずれも同一である。
【0061】
スパッタリングガスは、好ましくは、反応性ガスと混合される。反応性ガスとしては、例えば、酸素が挙げられる。スパッタリングガスおよび反応性ガスの合計導入量に対する反応性ガスの導入量の割合は、例えば、0.1流量%以上、好ましくは、0.5流量%以上であり、また、例えば、5.0流量%以下、好ましくは、3.5流量%以下である。
【0062】
ターゲットは、例えば、上記した金属酸化物(の焼結体)である。複数の成膜室のそれぞれに、複数のターゲットのそれぞれが配置される。例えば、第1成膜室に第1ターゲットが配置される。第2成膜室に第2ターゲットが配置される。
【0063】
第1ターゲットは、第1領域3に対応する金属酸化物(の焼結体)であって、酸化スズの上記した(高い)含有量を有する。
【0064】
第2成膜室は、基材6の搬送方向において第1成膜室の下流側に配置される。第2ターゲットは、第2領域4に対応する金属酸化物(の焼結体)であって、酸化スズの上記した(低い)含有量を有する。
【0065】
図1の拡大図に示すように、透明導電層1に上記した第1領域3と第2領域4とを備えるには、第1成膜室で第1スパッタリング工程を実施し、第2成膜室で第2スパッタリング工程を実施する。
【0066】
スパッタリング装置内の気圧は、例えば、1.0Pa以下であり、また、例えば、0.01Pa以上である。
【0067】
これによって、基材6と、非晶質透明導電層とを備える積層体が製造される。スパッタリング装置が第1および第2成膜室を備える場合には、非晶質透明導電層は、第1領域3および第2領域4を含む。
【0068】
1.10.2.2 非晶質透明導電層の結晶質への転化
その後、非晶質透明導電層を結晶質に転化して、透明導電層1を形成する。
【0069】
透明導電層1を結晶質に転化するには、非晶質透明導電層(を備える積層体)を加熱する。
【0070】
加熱温度は、例えば、80℃以上、好ましくは、110℃以上、より好ましくは、さらに好ましくは、130℃以上、とりわけ好ましくは、150℃以上であり、また、例えば、200℃以下、好ましくは、180℃以下、より好ましくは、175℃以下、さらに好ましくは、170℃以下である。加熱時間は、例えば、1分間以上、好ましくは、3分間以上、より好ましくは、5分間以上であり、また、例えば、5時間以下、好ましくは、3時間以下、より好ましくは、2時間以下である。加熱は、例えば、真空下、または、大気下で、実施される。加熱耐性を向上する観点から、好ましくは、加熱は、真空下で実施される。
【0071】
または、非晶質透明導電層を備える透明導電性フィルム5を、大気下で、20℃以上、80℃未満の範囲で、例えば、10時間以上、好ましくは、24時間以上放置して、非晶質透明導電層を結晶質に転化することもできる。
【0072】
1.11 透明導電性フィルム5の用途
上記した透明導電層1および/または透明導電性フィルム5は、物品に用いられる。物品としては、例えば、光学用の物品が挙げられる。詳しくは、物品としては、例えば、タッチセンサ、電磁波シールド、太陽電池、調光素子、光電変換素子、熱線制御部材、光透過性アンテナ部材、光透過性ヒータ部材、画像表示装置、および、照明が挙げられる。
【0073】
2. 一実施形態の作用効果
透明導電層1および透明導電性フィルム5は、物品の製造工程が加熱工程を備えても、表面抵抗の増大が抑制される。そのため、透明導電層1および/または透明導電性フィルム5を備える上記した物品は、加熱耐性に優れる。
【0074】
とりわけ、太陽電池、調光素子、熱線制御部材、および、光透過性ヒータ部材は、その製造方法が過酷な加熱工程を備え、かかる加熱工程において、高温になり易い。しかしながら、上記した各物品は、上記した透明導電層1および/または透明導電性フィルム5を備えるので、透明導電層1の表面抵抗の増大が抑制される。
【0075】
3. 変形例
以下の各変形例において、上記した一実施形態と同様の部材および工程については、同一の参照符号を付し、その詳細な説明を省略する。また、各変形例は、特記する以外、一実施形態と同様の作用効果を奏することができる。さらに、一実施形態および変形例を適宜組み合わせることができる。
【0076】
変形例では、透明導電層1は、1つの領域からなってもよい。スパッタリング装置は、単数の成膜室を備える。
【0077】
別の変形例では、図示しないが、アルゴンより原子番号の大きい希ガスは、第1領域3または第2領域4に含まれる。
【0078】
別の変形例では、透明導電性フィルム5は、基材6と、第2領域4と、第1領域3とを厚み方向の一方側に向かって順に備える。
【0079】
別の変形例では、透明導電層1は、第1領域3と第2領域4との繰り返し構造を有する。
【0080】
変形例では、図示しないが、機能層60は、複層である。機能層60は、厚み方向における基材シート61の一方面および他方面に配置される。例えば、機能層60は、光学調整層と、ハードコート層とを備える。光学調整層は、基材シート61の一方面に配置される。ハードコート層は、基材シート61の他方面に配置される。
【実施例
【0081】
以下に、実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、何ら実施例に限定されない。また、以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。
【0082】
実施例1
<基材6の準備>
厚み52μmの基材6を準備した。
【0083】
具体的には、PETからなる基材シート61(厚さ50μm、東レ社製)を準備した。次いで、ハードコート組成物(アクリル樹脂を含有する紫外線硬化性樹脂)を厚み方向における基材シート61の一方面に塗布して塗膜を形成した。次いで、紫外線照射によって、塗膜を硬化させた。これにより、厚み2μmのハードコート層62を基材シート61の一方面に形成した。これによって、基材シート61と、ハードコート層62とを厚み方向の一方側に向かって順に備える基材6を作製した。
【0084】
非晶質透明導電層を、基材6の一方面に形成した。非晶質透明導電層の形成では、第1スパッタリング工程と第2スパッタリング工程とを順に実施した。第1スパッタリング工程と第2スパッタリング工程とのいずれもが、反応性マグネトロンスパッタリングである。第1スパッタリング工程で、非晶質の第1領域3を基材6の一方面に形成した。第2スパッタリング工程で、非晶質の第2領域4を第1領域3の一方面に形成した。
【0085】
<第1スパッタリング工程>
第1ターゲットとして、酸化インジウムと酸化スズとの焼結体を用いた。焼結体における酸化スズ濃度は10質量%であった。DC電源を用いて、第1ターゲットに対して電圧を印加した。第1ターゲット上の水平磁場強度は90mTとした。成膜温度は、-5℃とした。また、第1成膜室内の到達真空度が0.9×10-4Paに至るまで第1成膜室内を真空排気して、基材6に対して脱ガス処理を実施した。その後、第1成膜室内に、スパッタリングガスとしてのKrと、反応性ガスとしての酸素とを導入し、第1成膜室内の気圧を0.2Paとした。第1成膜室に導入されるKrおよび酸素の合計導入量に対する酸素導入量の割合は約2.6流量%であった。酸素導入量は、図3に示すように、比抵抗-酸素導入量曲線の領域X内であって、非晶質の第1領域3の比抵抗が6.5×10-4Ω・cmになるように調整した。第1領域3の厚みは、11nmであった。
【0086】
<第2スパッタリング工程>
第2ターゲットとして、酸化インジウムと酸化スズとの焼結体を用いた。焼結体における酸化スズ濃度は3質量%であった。DC電源を用いて、第2ターゲットに対して電圧を印加した。第2ターゲット上の水平磁場強度は90mTとした。成膜温度は、-5℃とした。また、DCマグネトロンスパッタリング装置における第2成膜室内の到達真空度が0.9×10-4Paに至るまで第2成膜室内を真空排気し、その後、第2成膜室内に、スパッタリングガスとしてのKrと、反応性ガスとしての酸素とを導入し、第2成膜室内の気圧を0.2Paとした。第2成膜室に導入されるKrおよび酸素の合計導入量に対する酸素導入量の割合は約2.5流量%であった。酸素導入量は、図3に示すように、比抵抗-酸素導入量曲線の領域X内であって、非晶質の第2領域4の比抵抗が6.5×10-4Ω・cmになるように調整した。第2領域4の厚みは、11nmであった。
【0087】
<非晶質透明導電層の結晶化>
その後、基材6と非晶質透明導電層とを備える積層体を、真空加熱装置内で加熱ロールと接触させて加熱した。加熱温度は160℃とし、加熱時間は0.1時間とした。これによって、非晶質透明導電層を結晶化させた。これにより、結晶質の透明導電層1を形成した。透明導電層1の厚みは、厚み22nmであった。
【0088】
これによって、基材6と、結晶質の透明導電層1とを厚み方向の一方側に向かって順に備える透明導電性フィルム5を製造した。
【0089】
<比較例1>
実施例1と同様にして、第1スパッタリング工程と第2スパッタリング工程とを実施した後、透明導電性フィルム5を製造した。但し、以下の点を変更した。
【0090】
<第1スパッタリング工程>
第1スパッタリング工程では、スパッタリングガスを、アルゴンに変更し、スパッタ成膜装置内の気圧を0.4Paに変更し、第1成膜室に導入されるアルゴンおよび酸素の合計導入量に対する酸素導入量の割合は約1.5流量%とした。第1スパッタリング工程によって、厚み19nmの第1領域3を形成した。
【0091】
<第2スパッタリング工程>
第2スパッタリング工程では、スパッタリングガスを、アルゴンに変更し、第2成膜室内の気圧を0.4Paに変更し、第1成膜室に導入されるアルゴンおよび酸素の合計導入量に対する酸素導入量の割合は約1.5流量%とした。第2スパッタリング工程によって、厚み3nmの第2領域4を形成した。透明導電層1の厚みは、22nmであった。
【0092】
<非晶質透明導電層の結晶質化>
160℃の熱風オーブンで、非晶質透明導電層を0.5時間加熱した。これにより、結晶質の透明導電層1を形成した。
【0093】
<評価>
実施例1および比較例1のそれぞれの透明導電性フィルム5について、下記の項目を評価した。
【0094】
<厚み>
透明導電層1の厚みを、FE-TEM観察により測定した。具体的には、まず、FIBマイクロサンプリング法により、透明導電層1の断面観察用サンプルを作製した。FIBマイクロサンプリング法では、FIB装置(商品名「FB2200」、Hitachi製)を使用し、加速電圧を10kVとした。次に、断面観察用サンプルにおける透明導電層1の厚さを、FE-TEM観察によって測定した。FE-TEM観察では、FE-TEM装置(商品名「JEM-2800」、JEOL製)を使用し、加速電圧を200kVとした。
【0095】
また、第2領域4を形成する前に、第1領域3から、断面観察用サンプルを作製し、そのサンプルをFE-TEM観察して、第1領域3の厚みを算出した。
【0096】
透明導電層1の厚みから、第1領域3の厚みを差し引くことにより、第2領域4の厚みを算出した。
【0097】
<(222)面におけるピークの積分強度I222に対する(440)面におけるピークの積分強度I440の比(I440/I222)>
水平型X線回折装置(商品名「SmartLab」、株式会社リガク製)を用いて、下記測定条件に基づいて、X線回折測定することにより、透明導電層1(222)面におけるピークの積分強度I222に対する(440)面におけるピークの積分強度I440の比(I440/I222)を求めた。結果を表1に記載する。
【0098】
[測定条件]
平行ビーム光学配置
光源:CuKα線(波長:1.54059Å)
出力:45kV、200mA
入射側スリット系:ソーラスリット5.0°
入射スリット:1.000mm
受光スリット:20.100mm
受光側スリット:パラレルスリットアナライザー(PSA)0.114deg.
検出器:多次元ピクセル検出器 Hypix-3000
試料ステージ:透明導電性フィルム5の基材6に、粘着層を介してガラスを貼り合せた検体を、試料板(4インチウェーハ試料板)に静置した。
スキャン軸:2θ/θ(Out of Plane測定)
ステップ間隔:0.02°
測定スピード:0.8°/分
測定範囲:10°~90°
【0099】
X線ピークプロファイルは、基材6(実施例1および比較例1の透明導電層1と同条件で加熱済みの基材6)由来のバックグラウンドを差し引いた値とした。その後、解析ソフトウェア(ソフト名「SmartLab StudioII」)を用いて、2θが49.8°~51.8°の範囲となるように(222)面に対応するX線回折ピークのプロファイル、および、(440)面に対応するX線回折ピークのプロファイルを作成した。各プロファイルは、X線回折ピークのフィッティング(ピーク形状:分割型PearsonVII関数、バックグラウンドタイプ:B-スプライン、フィッティング条件:自動)を実施することで、(222)面におけるX線回折のピークの積分強度I(222)(単位:Count°)、および、(440)面におけるX線回折のピークの積分強度I440(単位:Count°)を求めた。
【0100】
(440)面におけるX線回折のピークの積分強度I440を、(222)面におけるX線回折のピークの積分強度I222で除した。
【0101】
<結晶粒径>
透明導電層1の一方面をFE-SEM(装置;Hitachi製、SU8020)で観察して、透明導電層1の結晶粒径を求めた。具体的には、透明導電層1を台に固定した後、表面FE-SEM観察(加速電圧;0.8kV、観察像:二次電子像)を実施して、透明導電層1を平面視で撮影した。倍率を、結晶粒が明瞭に確認できるように調整した。
【0102】
次いで、撮影された画像を画像解析処理することにより、結晶粒界によって規定される領域(各結晶粒界内領域)に存在するピクセルの数から当該領域の面積を求め、当該面積と同じ面積の円の直径を結晶粒径(円相当径)として求めた。
【0103】
その結果、実施例1の結晶粒径は、0.6μmであった。比較例1の結晶粒径は、0.4μmであった。
【0104】
<加熱耐性試験>
透明導電層1の表面抵抗を測定し、初期の表面抵抗R0を取得した。
【0105】
その後、透明導電性フィルム5を、140℃の熱風オーブンに、1時間投入した。熱風オーブンから透明導電性フィルム5を取り出した後、透明導電性フィルム5の表面抵抗を加熱後の表面抵抗R1として得た。
【0106】
加熱試験の前後の表面抵抗の増加率を、初期の表面抵抗R0を、加熱後の表面抵抗R1で除することによって、求めた。結果を表1に記載する。
【0107】
実施例1の加熱試験の前後の表面抵抗の増加率は、1未満であり、加熱試験後の表面抵抗の増大が抑制されたことが分かる。
【0108】
対して、比較例1の加熱試験の前後の表面抵抗の増加率は、1超過であり、加熱試験後の表面抵抗が増大したことが分かる。
【0109】
<透明導電層1内のKr原子の確認>
実施例1における透明導電層1がKr原子を含有することを、次のようにして確認した。
【0110】
まず、走査型蛍光X線分析装置(商品名「ZSX PrimusIV」、リガク社製)を使用して、下記の測定条件にて蛍光X線分析測定を5回繰り返し、各走査角度の平均値を算出し、X線スペクトルを作成した。そして、作成されたX線スペクトルにおいて、走査角度28.2°近傍にピークが出ていることを確認することにより、透明導電層1にKr原子が含有されることを確認した。また、比較例1では、ピークは確認されなかった。
【0111】
[測定条件]
スペクトル;Kr-KA
測定径:30mm
雰囲気:真空
ターゲット:Rh
管電圧:50kV
管電流:60mA
1次フィルタ:Ni40
走査角度(deg):27.0~29.5
ステップ(deg):0.020
速度(deg/分):0.75
アッテネータ:1/1
スリット:S2
分光結晶:LiF(200)
検出器:SC
PHA:100~300
【0112】
<透明導電層1におけるArの確認>
比較例1の透明導電層1がArを含有することを、ラザフォード後方散乱分光法(RBS)によって、確認した。
【0113】
具体的には、In+Sn(ラザフォード後方散乱分光法では、InとSnを分離しての測定が困難であるため、2元素の合算として評価した)、O、Arの4元素を検出元素として測定を行い、透明導電層におけるArの存在を確認した。使用装置および測定条件は、下記のとおりである。
【0114】
<使用装置>
Pelletron 3SDH(National Electrostatics Corporation製)
【0115】
<測定条件>
入射イオン:4He++
入射エネルギー:2300keV
入射角:0deg
散乱角:160deg
試料電流:6nA
ビーム径:2mmφ
面内回転:無
照射量:75μC
【0116】
【表1】
【0117】
なお、上記発明は、本発明の例示の実施形態として提供したが、これは単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。当該技術分野の当業者によって明らかな本発明の変形例は、後記請求の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0118】
透明導電層は、光学用の物品に用いられる。
【符号の説明】
【0119】
1 透明導電層
2 希ガス
5 透明導電性フィルム
6 基材
図1
図2
図3