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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】貴金属微粒子担持触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/42 20060101AFI20231124BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20231124BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20231124BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20231124BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20231124BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20231124BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20231124BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20231124BHJP
【FI】
B01J23/42 M
B01J37/04 102
B01J37/08
H01M4/90 M
H01M4/92
H01M4/88 K
H01M4/86 M
H01M8/10 101
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019227955
(22)【出願日】2019-12-18
(65)【公開番号】P2021094529
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢野 啓
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 航太
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-029799(JP,A)
【文献】特開2008-041253(JP,A)
【文献】特開2012-022960(JP,A)
【文献】特開2005-131527(JP,A)
【文献】特表2015-513449(JP,A)
【文献】特開平07-008807(JP,A)
【文献】特開2008-243784(JP,A)
【文献】特開2013-127869(JP,A)
【文献】特表2017-508619(JP,A)
【文献】特開2003-226901(JP,A)
【文献】特開2013-163137(JP,A)
【文献】国際公開第2018/169644(WO,A1)
【文献】特開2006-313738(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
H01M 4/86-4/98
8/00-8/0297
8/08-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属微粒子を担持した貴金属微粒子担持触媒の製造方法であって、
貴金属化合物と、炭素数1~5のアルコールと、担体と、を混合して混合物とする工程と、
前記混合物を、水素を使用せずに150℃以上400℃以下で加熱して貴金属微粒子担持触媒を生成する加熱工程と、を備え、
前記貴金属化合物が、ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物(HPtCl・6HO)、テトラアンミンジクロロ白金(Pt(NHCl・xHO)、及び臭化白金(IV)(PtBr)からなる群から選択される少なくとも一種であり、
前記炭素数1~5のアルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、1-ブタノール、2-ブタノール、t-ブチルアルコール、1-ペンタノール、及び、3-ペンタノールからなる群から選択される少なくとも一種であり、
前記担体は、カーボンブラック、アモルファスカーボン、カーボンナノチューブ、及びカーボンナノホーンから選択される少なくとも一種、又は
希土類、アルカリ土類、遷移金属、ニオブ、ビスマス、スズ、アンチモン、ジルコニウム、モリブデン、インジウム、タンタル、及びタングステンから選ばれる一種以上の金属の酸化物から選択される少なくとも一種であり、
前記貴金属化合物が前記アルコールに溶解したアルコール溶液における前記貴金属化合物の濃度は、4.7mmolL -1 以上50mmolL -1 以下である、貴金属微粒子担持触媒の製造方法。
【請求項2】
前記貴金属微粒子の平均粒径は、0.7nm以上2nm未満である、請求項1に記載の貴金属微粒子担持触媒の製造方法。
【請求項3】
前記貴金属微粒子の平均粒子径値に対する標準偏差値が0~20%である請求項2に記載の貴金属微粒子担持触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、貴金属微粒子担持触媒の製造方法、貴金属微粒子の製造方法、貴金属微粒子担持触媒、及び貴金属微粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
活性金属担持触媒は、センサー、石油精製、水素製造、その他、環境関連分野、エネルギー分野等で適用されている。中でも自動車、定置コジェネレーションなどの電源として近年研究開発が進められている固体高分子形燃料電池がその代表例として挙げられる。電極触媒としては、カーボンや酸化物等の導電体材料を担体とし、それにナノメーターサイズに微細化した白金などの活性金属を担持させたものが用いられている。この触媒の性能は、活性金属の粒径、その粒径の均一性、担体上での分散度に依存する。特に活性金属の担持量が同一であれば、粒子径が小さく(活性金属表面積が大きい)、高分散された触媒ほど性能が高くなる。また、白金は高価であるため、その使用量削減のためにも、粒径はより小さくすることが求められている。
活性金属ナノ粒子からなる電極触媒の製造方法としては、例えば下記特許文献1に示されるような、貴金属元素を含有する前駆体と、マイクロ波吸収性を有する担体とを含有する混合物にマイクロ波を照射させて還元する手法が知られている。また、特許文献2のような塩化白金酸溶液を還元して金属コロイド溶液を調整し、担体に担持する手法も知られている。また、特許文献3のような活性金属の有機金属錯体と金属塩化物を有機溶媒に分散してから、還元剤を加えてかつ必要に応じ加圧・加熱して調製する手法も知られている。マイクロエマルション分散液(特許文献4)や両新媒性高分子(特許文献5)のような分散材を用いて粒径を制御した白金族ナノ粒子を担持する手法も提案されている。しかしながら、いずれの場合も触媒合成の工程数が多く、廃液処理もその工程内に入るのはもちろん、一番の目的である粒径を限りなく小さくすることは非常に難しく、2nm~十数nmの間で分布幅も広い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-253408号公報
【文献】特開2001-224968号公報
【文献】特開2015-17317号公報
【文献】特開2018-44245号公報
【文献】特開2009-164142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、マイクロ波による加熱により貴金属の粒子制御を行っている。このためマイクロ波を吸収する担体材料が限られ、担体からの発熱が不均一であるために、粒子サイズ制御は困難といっていいほど、分布幅が広くなる。
特許文献2ではコロイドが不安定なことから粒径制御が困難であり、特許文献3では、加圧・加熱等により粒径制御をこころみている反面、作製工程などが複雑化しているうえに、粒径の分布状態に問題がある。
また、特許文献4及び5では、分布状態も含めた粒径制御を高分子剤により行っている。しかし、粒径は分散材が作り出すエマルジョンの大きさに依存し、小さい粒子を制御することが困難である。さらに、還元後の高分子剤の除去が難しく、工程数が増える一因となっている。
本開示は、上記課題の少なくとも一部を解決するためのものであり、以下の形態として実現できる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
〔1〕貴金属微粒子を担持した貴金属微粒子担持触媒の製造方法であって、
貴金属塩と、炭素数1~5のアルコールと、担体と、を混合して混合物とする工程と、
前記混合物を150℃以上800℃以下で加熱して貴金属微粒子担持触媒を生成する加熱工程と、を備える、貴金属微粒子担持触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本製造方法によれば、簡素化された手法で高活性の貴金属微粒子担持触媒が製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例の合成工程数と各特許文献の工程数とを比較して示した説明図である。
図2】球形の定義の妥当性についての考察において参照する図表である。
図3】Pt1.4nm/C電極の対流ボルタモグラムである(O飽和,0.1M HClO (30℃)中)。
図4】Pt1.4nm/C電極でのORRによるKoutecky-Levichプロットである。
図5】実施例3で合成した触媒のTEM像(左図)、特許文献1で合成した触媒のTEM像(右図)である。
図6】実施例1で合成した触媒のTEM像、及びPt粒子の粒径分布である。
図7】実施例2で合成した触媒のTEM像、及びPt粒子の粒径分布である。
図8】実施例3で合成した触媒のTEM像、及びPt粒子の粒径分布である。
図9】実施例4で合成した触媒のTEM像、及びPt粒子の粒径分布である。
図10】貴金属塩の濃度とPt粒子の平均粒子径との関係を示すグラフである。
図11】ORR質量活性のPt粒子サイズ依存性を示すグラフである。
図12】加熱温度130℃で合成した触媒のTEM像を示す。
図13】加熱温度170℃で合成した触媒のTEM像を示す。
図14】加熱温度200℃で合成した触媒のTEM像を示す。
図15】加熱温度300℃で合成した触媒のTEM像を示す。
図16】加熱温度400℃で合成した触媒のTEM像を示す。
図17】加熱温度500℃で合成した触媒のTEM像を示す。
図18】加熱温度600℃で合成した触媒のTEM像を示す。
図19】アルゴン雰囲気中、加熱温度200℃で合成した触媒のTEM像、及びPt粒子の粒径分布である。
図20】空気中、加熱温度200℃で合成した触媒のTEM像、及びPt粒子の粒径分布である。
図21】テトラアンミン白金(II)クロリド水和物を用いて合成した触媒のTEM像、及びPt粒子の粒径分布である。
図22】ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物を用いて合成した触媒のTEM像、及びPt粒子の粒径分布である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
ここで、本開示の他の例を示す。
【0009】
〔2〕前記貴金属塩が前記アルコールに溶解したアルコール溶液における前記貴金属塩の濃度は、0.1molL-1以上50molL-1以下である、〔1〕に記載の貴金属微粒子担持触媒の製造方法。
本製造方法によれば、粒子径が小さく高活性の貴金属微粒子担持触媒が製造できる。
【0010】
〔3〕前記貴金属微粒子の平均粒径は、0.7nm以上2nm未満である、〔1〕又は〔2〕に記載の貴金属微粒子担持触媒の製造方法。
本製造方法によれば、粒子径が小さく高活性の貴金属微粒子担持触媒が製造できる。
【0011】
〔4〕貴金属塩と、炭素数1~5のアルコールと、を混合して混合物とする工程と、
前記混合物を150℃以上800℃以下で加熱して貴金属微粒子を生成する加熱工程と、を備える、貴金属微粒子の製造方法。
本製造方法によれば、簡素化された手法で高活性の貴金属微粒子を製造できる。
【0012】
〔5〕前記貴金属塩が前記アルコールに溶解したアルコール溶液における前記貴金属塩の濃度は、0.1molL-1以上50molL-1以下である、〔4〕に記載の貴金属微粒子の製造方法。
本製造方法によれば、粒子径が小さく高活性の貴金属微粒子を製造できる。
【0013】
〔6〕前記貴金属微粒子の平均粒径は、0.7nm以上2nm未満である、〔4〕又は〔5〕に記載の貴金属微粒子の製造方法。
本製造方法によれば、粒子径が小さく高活性の貴金属微粒子を製造できる。
【0014】
〔7〕担体に貴金属微粒子を担持した貴金属微粒子担持触媒であって、
前記貴金属微粒子の平均粒径は、0.7nm以上2nm未満である、貴金属微粒子担持触媒。
本貴金属微粒子担持触媒は、高い活性を有する。
【0015】
〔8〕平均粒径が0.7nm以上2nm未満である貴金属微粒子。
本貴金属微粒子は、高い活性を有する。
【0016】
以下、本開示の実施形態を詳しく説明する。尚、本明細書において、数値範囲について「~」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10~20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10~20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0017】
1.貴金属微粒子担持触媒の製造方法
本開示の貴金属微粒子担持触媒の製造方法は、貴金属塩と、炭素数1~5のアルコールと、担体と、を混合して混合物とする工程と、混合物を150℃以上800℃以下で加熱して貴金属微粒子担持触媒を生成する加熱工程と、を備える。
【0018】
(1)貴金属塩
貴金属に含まれる貴金属としては、特に制限されないが、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、金(Au)、銀(Ag)、イリジウム(Ir)、及び、ルテニウム(Ru)からなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。これらの中でも、触媒性能という観点から、Pt、Rh、Pd、Ir、及び、Ruからなる群から選択される少なくとも一種がより好ましく、Pt及びPdからなる群から選択される少なくとも一種が更に好ましい。
【0019】
貴金属塩としては、ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物(HPtCl・6HO)、テトラアンミンジクロロ白金(Pt(NHCl・xHO)、臭化白金(IV)(PtBr)、及び、ビス(アセチルアセトナト)白金(II)([Pt(CO2)])からなる群から選択される少なくとも一種を好適に使用できる。
【0020】
(2)炭素数1~5のアルコール
炭素数1~5のアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、1-ブタノール、2-ブタノール、t-ブチルアルコール、1-ペンタノール、及び、3-ペンタノールからなる群から選択される少なくとも一種を好適に使用できる。これらの中でも、環境負荷を低減する観点から、エタノールが好ましい。
【0021】
アルコールと貴金属塩の量比は特に限定されない。貴金属塩がアルコールに溶解したアルコール溶液における貴金属塩の濃度は、特に限定されない。貴金属塩の濃度は、粒径が0.7nm~2nmで、かつサイズが揃った高活性な貴金属微粒子とする観点から、0.1molL-1以上50molL-1以下であることが好ましく、5molL-1以上40molL-1以下であることがより好ましく、10molL-1以上30molL-1以下であることが更に好ましい。
【0022】
(3)担体
担体は、貴金属微粒子を担持できるものであれば、特に限定されない。担体は、カーボンブラック、アモルファスカーボン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、希土類、アルカリ土類、遷移金属、ニオブ、ビスマス、スズ、アンチモン、ジルコニウム、モリブデン、インジウム、タンタル、タングステンから選ばれる一種以上の金属酸化物、から選択される少なくとも一種を好適に使用できる。これらの中でも、表面積の観点から、カーボンブラックが好ましい。
担体としてカーボンブラックを用いる場合には、カーボンブラックの窒素吸着比表面積は特に限定されない。カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、貴金属微粒子の担持の観点から、10m-1以上1800m-1以下が好ましく、150m-1以上800m-1以下がより好ましい。
【0023】
(4)担体とアルコールとの混合比
担体とアルコールとの混合比は特に限定されない。担体とアルコールを十分に馴染ませて、粒径が0.7nm~2nmで、かつサイズが揃った高活性な貴金属微粒子とする観点から、担体は、アルコール1mLに対して、2mg以上200mg以下の割合で混合されることが好ましく、10mg以上100mg以下の割合で混合されることがより好ましく、30mg以上80mg以下の割合で混合されることが更に好ましい。
【0024】
(5)混合
混合の方法は特に限定されない。乳鉢と乳棒を用いて粉砕混合してもよく、例えばボールミル、振動ミル、ハンマーミル、ロールミル、ジェットミル等の乾式粉砕機を用いて粉砕混合してもよく、例えばリボンブレンダー、ヘンシェルミキサー、V型ブレンダー等の混合機を用いて混合してもよい。
【0025】
混合時間は特に限定されない。混合は、アルコールが揮発して、混合物が乾くまで行うことが好ましい。
【0026】
(6)加熱
加熱温度は、粒径が0.7nm~2nmで、かつサイズが揃った高活性な貴金属微粒子とする観点から、150℃以上800℃以下であり、150℃以上400℃以下が好ましく、150℃以上250℃以下がより好ましい。
加熱は、不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。不活性ガスとしては、アルゴンガス等の希ガス、窒素ガスを好適に用いることができる。加熱は、空気中で行ってもよい。
【0027】
(7)貴金属微粒子の平均粒径
貴金属微粒子の平均粒径は、特に限定されない。貴金属微粒子の平均粒径は、高活性にする観点から、0.7nm以上2nm未満であることが好ましく、1.2nm以上1.6nm以下がより好ましい。
平均粒径は、次の方法(平均粒径の求め方)で求めることができる。透過型電子顕微鏡(TEM)により合成した触媒を観察する。TEM写真を用紙にプリントアウトし、貴金属微粒子(黒い円形の像)を球形とみなして、貴金属微粒子の端から端までを直径とみなして、合計300粒子を数視野(3~5視野)の画像から無作為に測定する。300個数えた直径の平均を平均粒子径とする。
また、貴金属微粒子は、平均粒子径値に対する標準偏差値が0%以上20%以下であることが好ましい。なお、標準偏差値は、300個の粒子径から分布図を作成して、計算する。
【0028】
(8)本実施形態の製造方法の効果
本実施形態の製造方法は、揮発性の高いアルコール中(例えばエタノール)で貴金属塩と担体材料を混合させ、熱処理をするのみという非常に簡単な手法で超微細化した高活性金属の担持触媒の製造が可能となり、製造工程上で廃液も一切出ない環境に優しい製造方法である。
また、本実施形態の製造方法は、貴金属塩の濃度のみで粒径が0.7nm~2nmの間で極めて精度よく制御可能で、かつ、サイズが揃ったナノレベル構造体からなる高活性金属をカーボンなどの担体に高分散担持した貴金属微粒子担持触媒を製造できる。この貴金属微粒子担持触媒は、電極触媒として極めて有用である。
さらに、本実施形態の製造方法で製造した貴金属微粒子担持触媒は、活性金属が2nm以下の粒径、且つ担体上に高分散担持されているため、原子レベルで金属の利用率が高く、高い性能が得られる。よって、貴金属微粒子担持触媒は、例えば、貴金属使用量削減が求められている家庭用あるいは自動車用電源として使用される固体高分子形燃料電池の電極触媒に適しており、従来品(3nm程度のPtナノ粒子をカーボンに担持したPt/C触媒)に比べて10倍の活性を発現する触媒となる。
【0029】
2.貴金属微粒子の製造方法
本開示の貴金属微粒子の製造方法は、貴金属塩と、炭素数1~5のアルコールと、を混合して混合物とする工程と、混合物を150℃以上800℃以下で加熱して貴金属微粒子を生成する加熱工程と、を備える。
【0030】
(1)説明の援用
本開示の貴金属微粒子の製造方法は、「1.貴金属微粒子担持触媒の製造方法」の項目で説明した「(1)貴金属塩」、「(2)炭素数1~5のアルコール」、「(5)混合」、「(6)加熱」、「(7)貴金属微粒子の平均粒径」をそのまま適用し、これらの記載を省略する。
【0031】
(2)本実施形態の製造方法の効果
本実施形態の製造方法は、揮発性の高いアルコール(例えばエタノール)と貴金属塩を混合させ、熱処理をするのみという非常に簡単な手法で超微細化した高活性の貴金属微粒子の製造が可能となり、製造工程上で廃液も一切出ない環境に優しい製造方法である。
また、本実施形態の製造方法は、貴金属塩の濃度のみで粒径が0.7nm~2nmの間で極めて精度よく制御可能で、かつ、サイズが揃ったナノレベル構造体からなる高活性貴金属微粒子を製造できる。この貴金属微粒子は、電極触媒として極めて有用である。
さらに、本実施形態の製造方法で製造した貴金属微粒子は、活性金属が2nm以下の粒径とされているため、原子レベルで金属の利用率が高く、高い性能が得られる。よって、貴金属微粒子は、例えば、貴金属使用量削減が求められている家庭用あるいは自動車用電源として使用される固体高分子形燃料電池の電極触媒に適しており、従来品(3nm程度のPtナノ粒子をカーボンに担持したPt/C触媒)に比べて10倍の活性を発現する触媒となる。
【0032】
3.貴金属微粒子担持触媒
本開示の貴金属微粒子担持触媒は、担体に貴金属微粒子を担持してなる。貴金属微粒子の平均粒径は、0.7nm以上2nm未満である。貴金属微粒子担持触媒は、「1.貴金属微粒子担持触媒の製造方法」によって製造できる。
【0033】
(1)説明の援用
本開示の貴金属微粒子担持触媒は、「1.貴金属微粒子担持触媒の製造方法」の項目で説明した「(1)貴金属塩」の中の「貴金属」、「(3)担体」、「(7)貴金属微粒子の平均粒径」の中の平均粒径の求め方をそのまま適用し、これらの記載を省略する。
【0034】
(2)貴金属の担持量
貴金属の担持量は、特に制限されず、目的とする設計等に応じて適宜必要量担持させればよい。貴金属の担持量としては、触媒性能とコストの観点から、金属換算で、前記担体100質量部に対して5質量部以上50質量部以下であることが好ましく、10質量部以上30質量部以下であることがより好ましい。
【0035】
(3)本実施形態の貴金属微粒子担持触媒の効果
本実施形態の貴金属微粒子担持触媒は、揮発性の高いアルコール中(例えばエタノール)で貴金属塩と担体材料を混合させ、熱処理をするのみという非常に簡単な手法で製造が可能であり、製造工程上で廃液も一切出ない環境に優しい製造方法で製造できる。
本実施形態の貴金属微粒子担持触媒は、平均粒径は、0.7nm以上2nm未満であるため、原子レベルで金属の利用率が高く、高い性能が得られる。よって、貴金属微粒子担持触媒は、例えば、貴金属使用量削減が求められている家庭用あるいは自動車用電源として使用される固体高分子形燃料電池の電極触媒に適しており、従来品(3nm程度のPtナノ粒子をカーボンに担持したPt/C触媒)に比べて10倍の活性を発現する触媒となる。
【0036】
4.貴金属微粒子
本開示の貴金属微粒子は、平均粒径が0.7nm以上2nm未満である。貴金属微粒子は、上述の「2.貴金属微粒子の製造方法」によって製造できる。
【0037】
(1)説明の援用
本開示の貴金属微粒子は、「1.貴金属微粒子担持触媒の製造方法」の項目で説明した「(1)貴金属塩」の中の「貴金属」、「(7)貴金属微粒子の平均粒径」の中の平均粒径の求め方をそのまま適用し、これらの記載を省略する。
【0038】
(2)本実施形態の貴金属微粒子の効果
本実施形態の貴金属微粒子は、揮発性の高いアルコール(例えばエタノール)と貴金属塩を混合させ、熱処理をするのみという非常に簡単な手法で製造が可能であり、製造工程上で廃液も一切出ない環境に優しい製造方法で製造できる。
本実施形態の貴金属微粒子は、平均粒径は、0.7nm以上2nm未満であるため、原子レベルで金属の利用率が高く、高い性能が得られる。よって、貴金属微粒子は、例えば、貴金属使用量削減が求められている家庭用あるいは自動車用電源として使用される固体高分子形燃料電池の電極触媒に適している。
【実施例
【0039】
実施例により本発明を更に具体的に説明する。
図1に実施例の工程数と各特許文献の工程数とを比較して示す。実施例は最も工程数が少ないことが分かる。また、製造工程上で揮発性アルコール以外の有機物や水溶液を一切使用しないため、廃液が一切出ない環境に優しい製造方法であることも一つの特徴である。
【0040】
1.貴金属微粒子担持触媒の合成
ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物(HPtCl・6HO:関東化学,98.5%)を下記表1に記載の量ビーカーに採取し、エタノール(COH)を下記表1に記載の量加え、溶解させた。黒鉛化カーボンブラック(GCB,比表面積150m-1:LION)85.6gを乳鉢に採取後、先のPt塩を溶解させたエタノール溶液を加え、エタノールが揮発し、乾くまで攪拌・混合した。得られた粉末をセラミックボートに移し、管状炉によって、アルゴン(Ar)雰囲気、200℃で2時間熱処理を行った。室温まで降温したら、管状炉から取り出し、これを触媒として評価した。
【0041】
【表1】

【0042】
2.粒径分布(平均粒子径と粒径分布の標準偏差)の求め方
透過型電子顕微鏡(TEM)により合成したPt粒子(貴金属微粒子)を観察した。TEM写真を用紙にプリントアウトし、Pt粒子(黒い円形の像)を球形とみなして、Pt粒子の端から端までを直径とみなして、合計300粒子を数視野(3~5視野)の画像から無作為に測定した。300個数えた直径を平均して平均粒子径とした。また、300粒子の粒子径から分布図を作成し、その標準偏差値を計算した。合成したPt粒子の粒径の分布幅は非常に狭く、平均粒子径値に対して標準偏差値が0~20%の間となった。
【0043】
3.球形の定義の妥当性について
例として、実施例3 平均粒子径d=1.4nmのPt1.4nm/C触媒について説明する(図2参照)。
まず、Pt粒子を球形と定義し、平均粒子径の値を半径として球体の比表面積(SA)を(3.1)式より算出する。
SA=((4/3)πr)/(ρ4πr)=6/(ρ×d) (3.1)
これより、平均粒子径d=1.4nmの時、SA=200m-1となる。
他方、電気化学反応から比表面積を求める手法(実際に燃料電池反応として活性な面積)がある。Arで脱気した0.1M HClO溶液中で測定した一般的なPt電極のサイクリックボルタモグラム(CV,電位―電流曲線、0.05V~1.0V)を図2に示している。ここでPtの1cmあたりに1個のPt原子に対して1個の水素原子が吸着した場合、図中の斜線部領域(水素吸着波)の電気量Qは210μCと定義されている。
そこで、電極基板にPt1.4nm/C触媒を適量分散固定し、これを作用極として同様にCVを測定する。この時の水素吸着波領域を積分して電気量Qを求める。Ptは1cmあたり210μCの電気量が流れるので、(3.2)式より実際に反応に寄与したPt1.4nm/C触媒の表面積SPt(m)が算出できる。このSPt値を(3.3)式のように電極基板に載せたPtの質量(mPt)で割ることで、電気化学的比表面積ECAが算出できる。
Pt=Q(C)/210(C/m) (3.2)
ECA=SPt )/mPt(g) (3.3)
ここで球体の比表面積値(SA=200m-1)と電気化学的比表面積値(ECA=200m-1)が一致していることから、合成したPt粒子は球形として考えてよい。
【0044】
4.酸素還元反応(ORR)質量活性の求め方
4.1. Pt/C触媒の電極化
所定量のPt/C(例えば2mg)をエタノール(例えば2mL)中で超音波分散する。この溶液を触媒インクとする。
電極基板はグラッシーカーボンディスク(φ5,幾何面積0.196cm)。この基板表面に適量触媒インクを滴下し、触媒を分散担持させる。
乾燥後、0.2wt% Nafion溶液(乾燥膜厚0.1μm)を滴下する。触媒層を被覆する。これを作用極とする。
なお、上記「3.球形の定義の妥当性について」の欄におけるCV測定もこれと同じ方法で電極化している。
【0045】
4.2 回転ディスク電極(RDE)法
測定原理は下記URLに記載されている。
https://www.bas.co.jp/xdata/200706_mail_news/hydrodynamic_voltammetry_with_rde_and_rrde.pdf
先の電極を作用極とし、O飽和した0.1M過塩素酸(HClO)溶液(30℃)中でORR反応を行い、活性を評価した。
まず、電極の回転数を変えながら0.3Vから1.0V(vs.水素可逆電極(RHE)まで、電位掃引することで対流ボルタモグラムを測定する。実施例3:Pt1.4nm/C電極における対流ボルタモグラムを図3に示す。
ORRは電極表面で起こる電子移動速度が遅い反応系(非可逆系)であることから、物質移動の影響を除いた活性支配電流(I)を以下の式(Koutecky-Levich式)によって求めることができる。
1/I=1/I+1/(0.62nFSD2/3ν-1/6ω1/2
ここで、nは反応電子数、Fはファラデー定数、Sは電気化学的活性表面積、DはOの拡散係数、Cは酸素溶解度、νは電解液の粘度、ωは角速度である。
図3のORRボルタモグラムで得られた0.85Vにおける電流Iの逆数I-1をω-1/2に対してプロット(Koutecky-Levichプロット)した結果を図4に示す。ここで、回転速度(酸素の拡散速度)を無限大となるように直線を外挿(ω-1/2→0)した切片から速度論支配の電流値Iが求められる。このIをPtの質量m(g)で割ることで質量活性MA(AgPt -1)を求めることができる。
このようにして求めた各平均粒子径のPtdnm/C触媒の質量活性MA値を粒子サイズに対してプロットしたものが後述する図11である。
【0046】
5.実験結果
5.1 透過型電子顕微鏡による観察(特許文献1との比較)
本発明は、粒子サイズが揃ったナノレベル構造体からなる高活性金属をカーボンなどの担体に高分散担持した電極触媒を合成できることが特徴である。図5の左図に実施例3で合成した触媒の透過型電子顕微鏡(TEM)で撮影した触媒像を示す。図5の右図に特許文献1(特開2010-253408号公報)で合成した触媒の透過型電子顕微鏡(TEM)で撮影した触媒像を示す。
実施例3で合成した触媒に比べ、特許文献1のTEM像ではカーボン(灰色の部分)上のPt粒子(黒い点)の大きさがバラバラで分散状態が悪く、粒子が凝集している箇所が多く存在する。このように、通常、活性金属の粒子を小さく制御しようとすると、分布幅は広がり、凝集が起こりやすくなる。また、このような状態では、触媒としての性能が著しく低下する。
【0047】
5.2 貴金属塩の濃度と貴金属微粒子の平均粒径の関係
実施例では、合成時のその他の条件(熱処理温度:200℃、雰囲気:不活性ガス中)は全て同じで、貴金属試薬濃度(貴金属塩の濃度)のみをコントロールすることで、平均粒子径が0.7nm~2nmの間で極めて精度よく制御可能であることが確認された。特許文献に挙げたいずれの手法においても、粒子サイズは2nm~十数nmであり、本実施例の触媒粒子よりも大きいサイズとなり、1nm前後の粒子を簡便に制御合成できることは本発明の特長の一つである。実施例1~4として、表1に記載した試薬濃度で合成した時の各Pt粒子のTEM像と粒径分布を図6図9に示す。4種類全ての触媒でPtナノ粒子が単分散担持されており、粒径分布幅は非常に狭いことが分かる。この分布より算出した平均粒子径と合成時のPt塩濃度の関係を図10に示しており、良い直線性を示すことから、2nm以下の任意のサイズの粒子を調製することが可能であることが証明された。
【0048】
5.3 ORR質量活性
本発明で製造した触媒は、活性金属を2nm以下の粒径に制御でき、且つ担体上に高分散担持されているため、原子レベルで金属の利用率が高く、高い性能が得られることから、例えば、貴金属使用量削減が求められている家庭用あるいは自動車用電源として使用される固体高分子形燃料電池(PEFC)の電極触媒として用いることが可能である。そこで、PEFCの空気極の触媒として用いた場合の酸素還元反応(ORR)の活性を調べた。図11に酸素飽和した0.1M過塩素酸中(30℃)におけるORR活性を評価した結果を示す。Pt粒子の粒子サイズ(平均粒子径)に対する0.85VにおけるPt質量当たりのORR電流値(質量活性)を示している。質量活性は1~2nmの間で大きく依存し、1.4nm付近(1.2nm~1.6nm)で最大値を示すこと、PEFCに使用されている標準Pt/C(3nm以上)の市販白金触媒(約800Ag-1)より高い活性を発現し、最大10倍に達する(すなわち使用量が1/10)ことが確認された。
【0049】
6.加熱工程における加熱温度の影響
加熱工程における加熱温度の影響について調べた。実施例3と加熱温度以外は同様にして、加熱温度を130℃~600℃の間の各所定温度にて2時間熱処理を行った後の触媒のTEM像を図12図18に示す。150℃以上で、Pt粒子が形成されていることが確認された。150℃以上250℃以下では、平均粒径1~2nmのPt粒子が形成されていた。300℃付近では2次粒子の凝集が開始し、400℃~500℃では粗大化した粒子も観察された。以上の観察結果から、150℃以上で粒子形成はおこり、400℃以下に抑えることが好ましく、さらに150℃以上250℃以下が最も適した条件であることが分かった。
【0050】
7.加熱工程における雰囲気の影響
加熱工程における雰囲気の影響について調べた。一例として、実施例3と同様の条件で、アルゴン(不活性ガス)及び空気中で熱処理(200℃、2時間)を行った時の触媒のTEM像を図19,20に示す。空気中ではわずかに粗大化している部分もあるが、触媒性能には影響はほとんどないような割合であった。従って、いずれの雰囲気においても目的の1~2nmのPt粒子が高分散した触媒が得られた。アルゴンに限らず不活性ガス(例えば窒素)でも影響はなかった。
【0051】
8.貴金属塩の種類の影響
表2に記載の濃度の貴金属塩を用いて、実施例3と同様の条件で触媒を合成した。図21,22に、実施例5,6で合成した触媒のTEM像、及びPt粒子の粒径分布を示す。
テトラアンミン白金(II)クロリド水和物;Pt(NHCl・xHOとヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物;HPtCl・6HOの2種類のいずれの白金塩においても約1nmの白金粒子がカーボン上に高分散担持された触媒が調製できることが確認された。
【0052】
【表2】
【0053】
前述の例は単に説明を目的とするものでしかなく、本発明を限定するものと解釈されるものではない。本発明を典型的な実施形態の例を挙げて説明したが、本発明の記述及び図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく説明的及び例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その形態において本発明の範囲又は本質から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本発明の詳述に特定の構造、材料及び実施例を参照したが、本発明をここにおける開示事項に限定することを意図するものではなく、むしろ、本発明は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
【0054】
本発明は上記で詳述した実施形態に限定されず、本発明の請求項に示した範囲で様々な変形又は変更が可能である。
図1
図2
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