(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】熱転写システム
(51)【国際特許分類】
B41J 17/38 20060101AFI20231124BHJP
B41J 2/325 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
B41J17/38 A
B41J2/325 A
(21)【出願番号】P 2020131844
(22)【出願日】2020-08-03
【審査請求日】2023-06-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100140165
【氏名又は名称】高田 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】神谷 信行
【審査官】牧島 元
(56)【参考文献】
【文献】実開平02-019558(JP,U)
【文献】特開2018-108665(JP,A)
【文献】特開2013-011866(JP,A)
【文献】特開平01-093374(JP,A)
【文献】特開2013-202802(JP,A)
【文献】米国特許第4788559(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 17/38
B41J 2/325
B41J 2/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持層とインク層とを有し、前記インク層のインクを被転写体に転写した後のインクリボンを巻き取る巻取部と、
前記巻取部に巻き取られた前記インクリボンを前記支持層の側から加熱することにより、前記インクリボンの前記インク層のインクを、前記インクリボンの搬送方向に延びるストライプ状の攪乱パターンで、前記巻取部に巻き取られた前記インクリボンの内側に位置するインクリボンの支持層に転写する加熱体と、を備え、
前記加熱体は、
加熱ヘッドと、前記加熱ヘッドの前記インクリボンの側に配置された金属板と、を有するとともに、前記インクリボンの搬送方向と直交する方向に交互に配列された、前記インクリボンに当接する複数の凸部と、前記インクリボンに当接しない複数の凹部と、を含む、当接部を有
し、
前記当接部は、前記金属板の前記インクリボンの側に設けられている
熱転写システム。
【請求項2】
支持層とインク層とを有し、前記インク層のインクを被転写体に転写した後のインクリボンを巻き取る巻取部と、
前記巻取部に巻き取られた前記インクリボンを前記支持層の側から加熱することにより、前記インクリボンの前記インク層のインクを、前記インクリボンの搬送方向に延びるストライプ状の攪乱パターンで、前記巻取部に巻き取られた前記インクリボンの内側に位置するインクリボンの支持層に転写する加熱体と、を備え、
前記加熱体は、前記インクリボンの搬送方向と直交する方向に交互に配列された、前記インクリボンに当接する複数の凸部と、前記インクリボンに当接しない複数の凹部と、を含む、当接部を有
し、
前記複数の凸部は、前記インクリボンの搬送方向と直交する方向の長さである凸部幅が相対的に大きい第1凸部と、前記凸部幅が相対的に小さい第2凸部と、を有し、
前記第1凸部は、前記当接部の幅方向の中央に位置し、
前記第2凸部は、前記当接部の幅方向の中央以外の領域に位置する
熱転写システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の熱転写システムであって、
前記凸部及び前記凹部は、前記インクリボンの搬送方向に沿って延びる長尺状の形状を有している熱転写システム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の熱転写システムであって、
前記インクリボンは、前記被転写体に対して、前記インクにより顔画像を転写する熱転写システム。
【請求項5】
請求項2に記載の熱転写システムであって、
前記インクリボンは、前記被転写体に対して、前記インクにより目を含む顔画像を転写し、
前記第1凸部は、前記顔画像の前記目と重なる領域に対応して配置されている
熱転写システム。
【請求項6】
請求項
4又は
5に記載の熱転写システムであって、
前記被転写体は、前記顔画像が印画されるIDカードである熱転写システム。
【請求項7】
請求項1から
6のいずれか1つに記載の熱転写システムであって、
前記インクリボンは、複数色又は単色のインク層とOPインク層とが前記支持層上に周期的に配列されたものである熱転写システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱転写システムに関する。
【背景技術】
【0002】
インクリボンを用いて、カードなどの被転写体に文字などの像を印画する転写システムが、広く普及している。インクリボンは、例えば、帯状に延びるリボン(支持層)と、リボン上に形成され、染料等を含んだインク層と、を有している。インクリボンを用いた印画においては、印画されるべき所望の像に対応したパターンで、インクが被転写体に転写される。この場合、インク転写済のインクリボンには、被転写体への転写によりインクが抜けた部分が、印画された像に対応したパターンで存在している。このため、インク転写済のインクリボンから、印画された像を特定することが可能である。したがって、インクリボンを用いて、被転写体に氏名や住所等のID情報などの秘匿すべき情報を印画する場合、インク転写済のインクリボンの取り扱いに注意が必要となる。
【0003】
このような問題に対応するため、例えば、特許文献1において、ID情報に対応する第1パターンでインク転写済みのインクリボンの巻取部に巻き取られた最外周のインクリボンに加熱体を当接させて、当該インクリボンの内側に位置するインクリボンの支持層に攪乱パターンを転写する熱転写システムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、個人情報の保護がより強く求められるようになってきている。そのため、本開示の発明者らは、より適切に秘匿すべき情報の漏洩を防止することができる熱転写システムを提供するという課題を設定し、鋭意研究を行った。
【0006】
本開示は、上述の点に鑑み、秘匿すべき情報の漏洩を適切に防止することができる熱転写システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示による熱転写システムは、支持層とインク層とを有し、前記インク層のインクを被転写体に転写した後のインクリボンを巻き取る巻取部と、前記巻取部に巻き取られた前記インクリボンを前記支持層の側から加熱することにより、前記インクリボンの前記インク層のインクを、前記インクリボンの搬送方向に延びるストライプ状の攪乱パターンで、前記巻取部に巻き取られた前記インクリボンの内側に位置するインクリボンの支持層に転写する加熱体と、を備え、前記加熱体は、前記インクリボンの搬送方向と直交する方向に交互に配列された、前記インクリボンに当接する複数の凸部と、前記インクリボンに当接しない複数の凹部と、を含む、当接部を有する。
【0008】
前記熱転写システムは、前記加熱体が、加熱ヘッドと、前記加熱ヘッドの前記インクリボンの側に配置された金属板と、を有し、前記当接部が、前記金属板の前記インクリボンの側に設けられているものであってもよい。また、前記凸部及び前記凹部は、前記インクリボンの搬送方向に沿って延びる長尺状の形状を有していてもよい。
【0009】
前記熱転写システムは、前記複数の凸部が、前記インクリボンの搬送方向と直交する方向の長さである凸部幅が相対的に大きい第1凸部と、前記凸部幅が相対的に小さい第2凸部と、を有し、前記第1凸部が、前記当接部の幅方向の中央に位置し、前記第2凸部が、前記当接部の幅方向の中央以外の領域に位置するものであってもよい。
【0010】
前記転写システムは、前記インクリボンが、前記被転写体に対して、前記インクにより顔画像を転写するものであってもよい。また、前記転写システムは、前記インクリボンが、前記被転写体に対して、前記インクにより目を含む顔画像を転写し、前記第1凸部が、前記顔画像の前記目と重なる領域に対応して配置されているものであってもよい。また、前記転写システムは、前記被転写体が、前記顔画像が印画されるIDカードであってもよい。
【0011】
前記熱転写システムは、前記インクリボンが、複数色又は単色のインク層とOPインク層とが支持層上に周期的に配列されたものであってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本開示の熱転写システムによれば、秘匿すべき情報の漏洩を適切に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態の熱転写システムを概略的に示す正面図である。
【
図2A】本実施形態の熱転写システムにおけるインクリボンを示す平面図である。
【
図2B】本実施形態の熱転写システムにおけるインクリボンを示す縦断面図であり、
図2AのA-A断面を示す。
【
図3A】第1加熱体によるインク転写済みのインクリボンを示す平面図である。
【
図3B】第1加熱体によるインク転写済みのインクリボンを示す縦断面図であり、
図3AのB-B断面を示す。
【
図4】本実施形態の熱転写システムの巻取部及び第2加熱体を概略的に示す正面図である。
【
図5A】本実施形態の第2加熱体を示す斜視図である。
【
図5B】本実施形態の第2加熱体を示す底面図である。
【
図6】本実施形態の第2加熱体によるインク転写済みのインクリボンを示す平面図である。
【
図8】比較例の第2加熱体によるインク転写済みのインクリボンを示す平面図である。
【
図9A】比較例の第2加熱体による転写の態様を模式的に示すインクリボンの縦断面図である。
【
図9B】比較例の第2加熱体による転写の態様を模式的に示すインクリボンの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の一実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について、図面を参照しつつ説明する。
【0015】
まず、本実施形態の熱転写システム10の全体構造について説明する。
【0016】
図1は、本実施形態の熱転写システムを概略的に示す正面図である。
【0017】
この熱転写システム10は、支持層11と、支持層11の一方の表面上に積層されたインク層12と、を有する帯状のインクリボン13を用いて、被転写体14に所望パターンでインクを転写するシステムである。
【0018】
この熱転写システム10は、インクリボン13の送り出し方向の上流側から順に、送出部16と、複数の送出側ガイドローラ15aと、第1加熱体22及びプラテンローラ23と、複数の巻取側ガイドローラ15bと、巻取部20と、第2加熱体50と、を備える。また、熱転写システム10は、第1加熱体22、第2加熱体50及び巻取部20を制御する制御部24を備える。
【0019】
送出部16は、
図1の矢印R1で示す方向に回転して、インクリボン13を下流側に送り出す。
【0020】
複数の送出側ガイドローラ15aは、インクリボン13の搬送方向に間隔を空けて配置され、送出部16から送り出されたインクリボン13の下流側への搬送をガイドする。
【0021】
プラテンローラ23は、搬送されるインクリボン13及び被転写体14を挟んで第1加熱体22に対向して配置され、被転写体14を支持する。
【0022】
複数の巻取側ガイドローラ15bは、インクリボン13の搬送方向に間隔を空けて配置され、上流側から搬送されてきたインクリボン13の巻取部20への搬送をガイドする。
【0023】
巻取部20は、
図1の矢印R2で示す方向に回転して、第1加熱体22によってインク転写済のインクリボン13を巻き取る。
【0024】
制御部24は、例えば、第1加熱体22、第2加熱体50及び巻取部20のそれぞれを駆動する駆動部に対して制御信号を出力することで、後述の第1加熱体22、第2加熱体50及び巻取部20の動作を制御する。
【0025】
図2Aは、本実施形態の熱転写システム10におけるインクリボン13を示す平面図である。
図2Bは、本実施形態の熱転写システム10におけるインクリボン13を示す縦断面図であり、
図2AのA-A断面を示す。
【0026】
インクリボン13は、昇華性染料インクを有する熱昇華型のインクリボンである。このインクリボン13は、略透明な材料で構成された支持層11と、支持層11上に積層されたインク層12と、を有している。
【0027】
支持層11は、例えば、熱転写に耐え得る耐熱性と強度を有する種々の樹脂フィルムを用いて構成される。
【0028】
インク層12は、Y昇華性インク層31と、M昇華性インク層32と、C昇華性インク層33と、OPインク層34と、これらの層の間に設けられた検知マーク35と、によって構成される。Y昇華性インク層31は、イエローのY昇華性インク31aにより構成される。M昇華性インク層32は、マゼンダのM昇華性インク32aにより構成される。C昇華性インク層33は、シアンのC昇華性インク33により構成される。OPインク層34は、略透明な保護層を形成するためのOP(オーバープリント)インクにより構成される。
【0029】
Y昇華性インク層31、M昇華性インク層32、C昇華性インク層33及びOPインク層34は、インクリボン13の長手方向(つまり、インクリボン13が延びている方向)に沿って支持層11上に周期的に配置されている。
【0030】
Y昇華性インク層31、M昇華性インク層32及びC昇華性インク層33の3種の昇華性インクを被転写体14に転写することにより、被転写体14にカラー画像を印画することが可能となっている。また、OPインク層34を被転写体14に転写することにより、被転写体14に印画されたカラー画像を保護するための保護層を形成することが可能となっている。
【0031】
検知マーク35は、Y昇華性インク層31、M昇華性インク層32、C昇華性インク層33及びOPインク層34の境界部に設けられるマークである。この検知マーク35は、熱転写システム10の検知ユニット(図示を省略)によって、インクリボン13と第1加熱体22との位置関係や、インク層12の種類を識別するために設けられている。この検知マーク35は、設けられる位置によって異なる特徴(長さ、厚み、パターンなど)を有している。このため、第1加熱体22が被転写体14に所定の種類のインクを転写する際、第1加熱体22が検知マーク35から得られる情報に基づいて所定の種類のインクを含むインク層12を加熱することができる。なお、色センサ等の検知マーク35以外のインク層12の種類を識別する手段を用いる場合には、検知マーク35を省略することも可能である。
【0032】
なお、用いられる昇華性インクは、上述の3種類に限られることはなく、他の色の 昇華性インクが用いられてもよく、又は、1種類のみ、2種類のみ若しくは4種類以上の昇華性インクが用いられてもよい。
【0033】
第1加熱体22は、例えば、通電によって発熱する発熱素子を有するサーマルヘッドである。
図1の下部の拡大図に示すように、第1加熱体22は、インクリボン13の支持層11側に設けられている。第1加熱体22は、インクリボン13を支持層11側から加熱する。この第1加熱体22により、インクリボン13のインク層12のインクが、顔画像等のID情報等に対応する所定のパターンである第1パターンで加熱され、これによって、インクリボン13のインク層12のインクが、被転写体14に対して、第1パターンで転写される。
【0034】
この第1パターンは、例えば、免許証、社員証、パスポートの写真などの身分証明証すなわちIDカードに転写される人物の顔を示す顔画像に対応するものである。また、Y昇華性インク層31、M昇華性インク層32及びC昇華性インク層33のそれぞれの転写パターンは、厳密には、それぞれ異なるものとなるが、本明細書においては、それらをまとめて第1パターンと称することとする。
【0035】
以下において、第1加熱体22による被転写体14への第1パターンでのインクの転写について具体的に説明する。
【0036】
まず、被転写体14が被転写体14を搬送する搬送ユニット(図示を省略)により第1加熱体22とプラテンローラ23との間に搬送される。一方、巻取部20は、
図1のR2方向に回転して、インクリボン13を巻き取り、送出部16は、
図1のR1方向に回転して、下流側にインクリボン13を送り出す。送出部16から送り出されたインクリボン13は、複数の送出側ガイドローラ15を経由して第1加熱体22とプラテンローラ23との間に到達する。
【0037】
そして、インクリボン13の検知マーク35を検知する検知ユニット(図示を省略)により、Y昇華性インク層31が第1加熱体22とプラテンローラ23との間に到達したことが検知されると、第1加熱体22は、Y昇華性インク層31を第1パターンで加熱しながら被転写体14に対して押し付けられる。これによって、インクリボン13のY昇華性インク層31のY昇華性インク31aが被転写体14上に第1パターンで転写される。
【0038】
その後、Y昇華性インク31aが転写された被転写体14が、第1加熱体22とプラテンローラ23との間の位置まで上流側に戻される。一方、インクリボン13は、巻取部20及び送出部16によって更に下流側に搬送される。そして、検知ユニット(図示を省略)により、M昇華性インク層32が第1加熱体22とプラテンローラ23との間に到達したことが検知されると、第1加熱体22は、M昇華性インク層32を第1パターンで加熱しながら被転写体14に対して押し付けられる。これによって、インクリボン13のM昇華性インク層32のY昇華性インク32aが被転写体14上に第1パターンで転写される。
【0039】
その後、Y昇華性インク31a及びM昇華性インク32aが転写された被転写体14が、第1加熱体22とプラテンローラ23との間の位置まで上流側に戻される。一方、インクリボン13は、巻取部20及び送出部16によって更に下流側に搬送される。そして、検知ユニット(図示を省略)により、C昇華性インク層33が第1加熱体22とプラテンローラ23との間に到達したことが検知されると、第1加熱体22は、C昇華性インク層33を第1パターンで加熱しながら被転写体14に対して押し付けられる。これによって、インクリボン13のC昇華性インク層33のC昇華性インク33aが被転写体14上に第1パターンで転写される。
【0040】
その後、Y昇華性インク31a、M昇華性インク32a及びC昇華性インク33aが転写された被転写体14が、第1加熱体22とプラテンローラ23との間の位置まで上流側に戻される。一方、インクリボン13は、巻取部20及び送出部16によって更に下流側に搬送される。そして、検知ユニット(図示を省略)により、OPインク層34が第1加熱体22とプラテンローラ23との間に到達したことが検知されると、第1加熱体22は、OPインク層34を、第1パターンをカバーする所定のパターン(保護パターン)で加熱しながら被転写体14に対して押し付けられる。これによって、インクリボン13のOPインク層34のOPインク34aが被転写体14上に保護パターンで転写される。
【0041】
このように、第1加熱体22は、検知マーク35同士の間隔に対応する所定送り出し量のインクリボン13が送出部16から送り出される度に、被転写体14への第1パターン又は保護パターンでのインクの転写を繰り返すことになる。
【0042】
図3Aは、第1加熱体22によるインク転写済みのインクリボン13を示す平面図である。
図3Bは、第1加熱体22によるインク転写済みのインクリボン13を示す縦断面図であり、
図3AのB-B断面を示す。
【0043】
上述の第1加熱体22によるインク転写によって、インクリボン13のY昇華性インク層31、M昇華性インク層32及びC昇華性インク層33には、第1パターンのインク抜け部31b、32b、33bが生じ、OPインク層34には、保護パターンのインク抜け部分34bが生じる。この場合、
図3Aに示すように、インク転写済のインクリボン13におけるインク抜け部分31b、32b、33bのパターンは、上述の第1加熱体22における第1パターンに対応している。このため、インク抜け部分31b、32b、33bのパターンに基づいて、被転写体14に印字された顔画像等のID情報を特定することが可能となっている。
【0044】
図4は、本実施形態の熱転写システム10の巻取部20及び第2加熱体50を概略的に示す正面図である。
【0045】
図4に示すように、巻取部20においては、インクリボン13の支持層11がインク層12よりも外側に位置するようにして、インクリボン13が巻き取られる。本明細書では、巻取部20に巻き取られているインクリボン13のうち最外周に位置するインクリボン13を外側インクリボン13Aと称し、外側インクリボン13Aよりも内側で巻取部21に巻き取られ、外側インクリボン13Aに隣接しているインクリボン13を内側インクリボン13Bと称することとする。
【0046】
第2加熱体50は、巻取部20の近傍に配置され、モータ等の不図示の駆動源の動力によって、
図4の矢印R3に示される方向、すなわち、巻取部20に対して近接又は離間する方向に移動自在となっている。そして、第2加熱体50は、巻取部20がインクリボン13を巻き取っているときに、巻取部20に対して近接する方向に移動して、外側インクリボン13Aを支持層11側から加熱する。
【0047】
図5Aは、本実施形態の第2加熱体50を示す斜視図である。
図5Bは、本実施形態の第2加熱体50を示す底面図である。
【0048】
第2加熱体50は、セラミック基板を含む加熱ヘッド52と、加熱ヘッド52のインクリボン13側に配置された金属板53と、加熱ヘッド52及び金属板53を支持する支持フレーム51と、を有する。図示された例では、加熱ヘッド52及び金属板53は、支持フレーム51に固定されている。
【0049】
金属板53は、厚さ0.3mm~0.5mmとなっており、インクリボン13と当接する側に配置される金属板本体20aと、この金属板本体53aに連結された支持板53bとを有し、全体として断面L字状を構成している。
図5Aに示す例では、金属板53は、支持板53bを支持フレーム51に取付ボルト54で固定することにより、支持フレーム51に固定されている。
【0050】
金属板53は、例えば、銅製又はアルミニウム製となっており、全体として薄板からなり、優れた熱伝導性をもつ。さらに、加熱ヘッド52と金属板53との間には、熱伝導グリス(図示を省略)が設けられている。そのため、加熱ヘッド52からの熱を、金属板53を介して、インクリボン13側に確実に伝えることができる。
【0051】
また、金属板53に対しては、予めバフ研磨処理が施されていて、その表面粗さ(算術平均粗さ)が0.004μm~0.02μmとなっている。
【0052】
バフ研磨処理の後、金属板53には、メッキ処理、コーティング処理、蒸着処理等の表面処理が施され、金属板53の表面は、優れた滑り性、耐摩耗性及び耐熱性をもつ。
【0053】
具体的には、金属板53に対して、アルバック社製のNIFGRIP(ニフグリップ)や硬質クロムなどによる摩擦低減の表面処理が施されている。このNIFGRIP処理とは、無電解ニッケルとフッ素樹脂とを処理液中で共析させ、この処理液を用いて銅製又はアルミニウム製の母材上に皮膜を形成し、皮膜中にフッ素樹脂を容積比で30%含有させ、皮膜を成膜した後、熱処理を行って皮膜中の無電解ニッケルとフッ素樹脂とを強固に密着させる処理のことをいう。このNIFGRIP処理は、母材と皮膜との密着性に優れ、離型性、非粘着性、滑り性、耐食性に優れた高機能複合皮膜を形成できる表面処理技術である。
【0054】
このような表面処理により、金属板53の表面は、全体として、その表面粗さ(算術平均粗さ)が0.004μm~0.02μm、その摩擦係数が0.2以下、好ましくは約0.1、となる。
【0055】
第2加熱体50は、第2加熱体50が巻取部20に対して近接する方向に移動したときにインクリボン13に当接する当接部530を有している。この当接部530は、インクリボン13に当接する複数の凸部531と、インクリボン13に当接しない複数の凹部532とが、幅方向(つまり、インクリボン13の搬送方向と直交する方向)に、交互に配列されたものとなっている。つまり、当接部530は、幅方向に交互に配列された、インクリボン13に当接する複数の凸部531と、インクリボン13に当接しない複数の凹部532と、を含むものとなっている。
【0056】
図5A及び
図5Bに示す例では、当接部530は、金属板53の金属板本体53aに設けられており、インクリボン13に当接する複数の凸部531と、それぞれの凸部531の間に配置され、インクリボン13に当接しない凹部532と、を有するものとなっている。また、凸部531は、インクリボン13の搬送方向に沿って延びる長尺状の形状を有している。
【0057】
このような凸部531及び凹部532を有する当接部530は、例えば、平坦な当接部530にフライス加工によって凹部532を形成することによって、作製することができる。
【0058】
図6は、本実施形態の第2加熱体50によるインク転写済みのインクリボン13を示す平面図である。
【0059】
第1加熱体22によるインク転写において巻取部20がインクリボン13を巻き取っているとき、第2加熱体50が、巻取部20に対して近接する方向に移動する。このとき、金属板53の当接部530の凸部531が、インクリボン13に当接する。そして、第2加熱体50の凸部531がインクリボン13に当接した状態を維持しながら、巻取部20によるインクリボン13の所定送り出し量の巻取りとその停止とが繰り返されることになる。このとき、第2加熱体50は、外側インクリボン13Aを支持層11側から加熱する。
【0060】
それにより、第2加熱体50は、外側インクリボン13Aにおける凸部531が当接する領域のインク層12のインクの少なくとも一部を、内側インクリボン13Bの支持層11に、インクリボン13の搬送方向に延びるストライプ状の攪乱パターンである第2パターンDP1で、転写する。
【0061】
この転写により、外側インクリボン13Aのインク層12には、顔画像等のID情報に対応する第1パターンと、インクリボン13の長手方向に延びるストライプ状の第2パターンDP1と、が混在することになる。また、内側インクリボン13Bの支持層11には、第1パターンと第2パターンDP1とが混在したパターンが転写される。そのため、第2加熱体50によるインク転写済みのインクリボン13においては、
図6に示すように、顔画像等のID情報に対応する第1パターンからなるインク抜け部分31b、32b、33bのパターンの認識が困難となる。
【0062】
ここで、上述のストライプ状の攪乱パターンである第2パターンDP1の詳細について説明する。
【0063】
図7は、比較例の第2加熱体50を示す斜視図である。
図8は、比較例の第2加熱体50によるインク転写済みのインクリボン13を示す平面図である。
【0064】
本開示の発明者らは、研究の結果、比較例の第2加熱体50によって攪乱パターンを転写する着想を得た。
【0065】
比較例の第2加熱体50は、その当接部530が、複数の凸部を有さず、平坦なものである点で、本実施形態と異なっている。比較例の第2加熱体50のその他の構成は、本実施形態の第2加熱体50と同じである。
【0066】
比較例の第2加熱体50は、外側インクリボン13Aを支持層11側から加熱したとき、外側インクリボン13Aにおける当接部530が当接する領域のインク層12のインクの少なくとも一部を、内側インクリボン13Bの支持層11に、インクリボン13の搬送方向に延びる幅広の帯状パターンDP2で、転写するものとなっている。
【0067】
この幅広の帯状パターンDP2は、通常、幅方向(つまり、インクリボン13の搬送方向と直交する方向)に延びる縦スジ状のパターンDP3が重なったものとなる。これは、第2加熱体50の当接部530がインクリボン13に当接した状態を維持しながら、巻取部20によるインクリボン13の所定送り出し量の巻取りとその停止とを繰り返すことによる。つまり、巻取部20がインクリボン13を巻き取っているときは、インクリボン13が比較的弱く加熱され、巻取部20によるインクリボン13の巻取りが停止しているときは、インクリボン13が比較的強く加熱される。そのため、場所によって転写されるインクの量に差が生じ、その結果、幅広の帯状パターンDP2に縦スジ状のパターンDP3が重なったものとなる。
【0068】
また、第2加熱体50の当接部530の熱は、外側インクリボン13Aだけでなく、巻取部20の中心方向にある内側インクリボン13B及びさらに内側のインクリボン13にも伝わることになる。これにより、内側インクリボン13B及びさらに内側のインクリボン13においてもインク層12のインクの転写が生じることになる。そのため、幅広の帯状パターンDP2に重なる縦スジ状のパターンDP3の周期は、通常、インクリボン13の検知マーク35同士の間隔に対応する所定送り出し量よりも小さいものとなる。
【0069】
このような縦スジ状のパターンDP3が重なった幅広の帯状パターンDP2によって、比較例の第2加熱体50によるインク転写済みのインクリボン13は、第1パターンからなるインク抜け部分31b、32b、33bのパターンの認識が困難なものとなる。
【0070】
しかし、このような比較例の第2加熱体50について、本開示の発明者らの研究により、以下の問題点が存在することが見出された。
【0071】
図9A及び
図9Bは、比較例の第2加熱体50による転写の態様を模式的に示すインクリボン13の縦断面図である。
【0072】
まず、第2加熱体50による転写が略透明なOPインク層34の領域の支持層11になされると、
図9A及び
図8に示すとおり、インクリボン13のOPインク層34の領域において、第1パターンからなるインク抜け部分31b、32b、33bのパターンの認識が可能となる虞があることが判明した。
【0073】
また、第2加熱体50による加熱の時間が長くなると、第2加熱体50からの熱が巻取部20の中心に向かって浸透し、巻取部20に巻き取られているインクリボン13のインク層12のインクの転写が促進され、その結果、当接部530が当接する領域のインク層12のすべてのインクが内側のインクリボン13の支持層11に転写される場合があることが判明した。そして、このような転写(以下、「全転写」という。)が生じると、
図9Bに示すとおり、インク層12のインクが抜けて略透明となった内側のインクリボン13の領域に外側のインクリボン13のインク層12のインクが転写されることになり、その結果、第1パターンからなるインク抜け部分31b、32b、33bのパターンの認識が可能となる虞があることが判明した。
【0074】
この点に鑑み、本実施形態の第2加熱体50は、前述のとおり、複数の凸部531と複数の凹部532とが幅方向(つまり、前記インクリボンの搬送方向と直交する方向)に交互に配列された当接部530を有し、インクリボン13の搬送方向に延びるストライプ状の攪乱パターンである第2パターンDP1を転写するものとなっている。
【0075】
このストライプ状の第2パターンDP1により、本実施形態の第2加熱体50によるインク転写済みのインクリボン13は、前述のOPインク層34の領域への転写や全転写が発生した場合においても、第1パターンからなるインク抜け部分31b、32b、33bのパターンの認識が困難なものとなっている。
【0076】
さらに、本実施形態の当接部530の凸部531は、配置される場所によって、幅方向(つまり、インクリボン13の搬送方向と直交する方向)の長さ(以下、「凸部幅Wa」という。)が異なるものとなっている。
図5B及び
図6に示す例では、当接部530の幅方向の中央に位置する凸部531の凸部幅Waは、相対的に大きく、その他の凸部531の凸部幅Waは、相対的に小さいものとなっている。
【0077】
一方、当接部530の凹部532は、
図5Bに示す例では、配置される場所によらず、幅方向(つまり、インクリボン13の搬送方向と直交する方向)の長さ(以下、「凹部幅Wb」という。)が同じものとなっている。これは、フライス加工による凹部532の形成を容易なものとするためである。そのため、凹部532は、配置される場所によって、凹部幅Wbが異なるものであってもよい。
【0078】
凸部幅Waの相対的に大きな凸部531は、第1パターンからなるインク抜け部分31b、32b、33bの特徴部と重なる領域に対応して配置される。この特徴部と重なる領域は、典型的には、当接部530の幅方向(つまり、インクリボン13の搬送方向と直交する方向)の中央に位置する。つまり、本実施形態の複数の凸部531は、凸部幅Waが相対的に大きい第1凸部と、凸部幅が相対的に小さい第2凸部と、を有し、第1凸部は、当接部530の幅方向の中央に位置し、第2凸部は、当接部530の幅方向の中央以外の領域に位置するものとなっている。
【0079】
特徴部と重なる領域に対応して配置される凸部531の凸部幅Wa及び凹部532の凹部幅Wbは、ともに、第1パターンの特徴部を効果的に分断するように設定される。具体的には、凸部幅Waは、特徴部の幅方向(つまり、インクリボン13の搬送方向と直交する方向)の長さの5%以上、10%以下に設定され、凹部幅Wbは、特徴部の幅方向の長さの5%以上、10%以下に設定される。これにより、第1パターンの特徴部を効果的に分断して、インク抜け部分31b、32b、33bのパターンの認識をより困難にすることができる。
【0080】
図5B及び
図6に示す例においては、凸部幅Waの大きな凸部531(第1凸部)は、顔画像の第1パターンからなるインク抜け部分31b、32b、33bにおいて、顔画像の特徴部となる目の領域を分断するために、目と重なる領域に対応して配置される。目と重なる領域に対応して配置される凸部531の凸部幅Wa及び凹部532の凹部幅Wbは、ともに、目の領域を効果的に分断するように設定されている。具体的には、凸部幅Waは、目の領域の幅方向(つまり、インクリボン13の搬送方向と直交する方向)の長さの10%以上、15%以下に設定され、凹部幅Wbは、目の領域の幅方向の長さの5%以上、10%以下に設定されている。
【0081】
なお、
図5B及び
図6に示す例においては、当接部530の両端部付近に配置される凸部531の凸部幅Waも相対的に大きなものとなっている。これは、顔画像においては、眉毛や口元などの領域にも特徴が現れることがあるためである。
【0082】
また、第2加熱体50の当接部530の幅方向(つまり、インクリボン13の搬送方向と直交する方向)の長さ(以下、「当接部幅Wc」という。)は、少なくとも第1パターンからなるインク抜け部分31b、32b、33bのパターンの主要部分をカバーするように設定される。例えば、第1パターンが顔画像の場合、当接部幅Wcは、顔画像の頭部から口元までの全域をカバーするように設定される。
【0083】
凸部幅Waは、顔画像等の第1パターンからなるインク抜け部分31b、32b、33bのパターンの認識性の観点から、0.5mm以上、1.5mm以下であるのが好ましい。凹部幅Wbは、同様の観点から、0.5mm以上、1.5mm以下であるのが好ましい。また、当接部幅Wcは、ICカード等に印画される顔画像の通常の大きさから、15mm以上であるのが好ましい。
【0084】
以上述べたように、本実施形態の熱転写システム10は、支持層11とインク層12とを有し、インク層12のインクを被転写体14に転写した後のインクリボン13を巻き取る巻取部20と、巻取部20に巻き取られたインクリボン13を支持層11の側から加熱することにより、インクリボン13のインク層12のインクを、インクリボン13の搬送方向に延びるストライプ状の攪乱パターンDP1で、インクリボン13の内側に位置するインクリボン13の支持層11に転写する加熱体50と、を備え、加熱体50は、インクリボン13の搬送方向と直交する方向に交互に配列された、インクリボン13に当接する複数の凸部531と、インクリボン13に当接しない複数の凹部532と、を含む、当接部530を有するものとなっている。
【0085】
このような熱転写システム10によれば、ID情報等に対応する第1パターンのインク抜け部分を適切に攪乱して秘匿すべき情報の漏洩を適切に防止することができる。また、この熱転写システム10は、第1パターンが顔画像に対応するとき、つまり、第1加熱体22が被転写体14に対して顔画像を転写するものであるとき、ひいては、被転写体14が、顔画像が印画されるIDカードであるとき、好適に用いられる。
【0086】
以上、本発明の実施の形態の一例を説明したが、本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0087】
例えば、本開示は、複数色のインク層及びOPインク層を有するインクリボンを用いてカラー画像の転写を行う構成に限定されず、互いに異なる単数色のインク層又はOPインク層を有する複数のインクリボンを用いてカラー画像の転写を行う構成に適用することもできる。
【符号の説明】
【0088】
10 熱転写システム
13 インクリボン
11 支持層
12 インク層
31 Y昇華性インク層
31a Y昇華性インク、31b インク抜け部
32 M昇華性インク層
32a M昇華性インク、32b インク抜け部
33 C昇華性インク層
33a C昇華性インク、33b インク抜け部
34 OPインク層
34a OPインク、34b インク抜け部
35 検知マーク
14 被転写体
15a 送出側ガイドローラ
15b 巻取側ガイドローラ
16 送出部
20 巻取部
22 第1加熱体
23 プラテンローラ
24 制御部
50 第2加熱体
51 支持フレーム
52 加熱ヘッド
53 金属板
53a 金属板本体
53b 支持板
530 当接部
531 凸部
532 凹部
54 取付ボルト