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特許7389969フレキソ印刷版用現像液組成物、現像液および印刷原版の製造方法
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  • 特許-フレキソ印刷版用現像液組成物、現像液および印刷原版の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】フレキソ印刷版用現像液組成物、現像液および印刷原版の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/32 20060101AFI20231124BHJP
   G03F 7/00 20060101ALI20231124BHJP
   G03F 7/095 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
G03F7/32
G03F7/00 502
G03F7/095
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021509629
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020013962
(87)【国際公開番号】W WO2020196820
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2019063700
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【弁理士】
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕登
【審査官】塚田 剛士
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-317660(JP,A)
【文献】特開2004-264649(JP,A)
【文献】特開2001-341457(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/32
G03F 7/00
G03F 7/095
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水現像可能な感光性フレキソ印刷原版用の現像液組成物であって、前記現像液組成物が、(a)アルキル基の炭素数が8~19であり、且つHLB値が11~15であるポリエチレングリコールのモノアルキルエーテル及び/又はモノアルキルエステルのノニオン系界面活性剤、及び(b)オレイン酸金属塩及びラウリル酸金属塩からなる群から選択される一種以上のアニオン系界面活性剤を、(a):(b)が25:75~75:25(質量比)で含有すること、及び前記現像液組成物を1質量%含有し、水を99質量%含有する水性現像液中で測定した印刷原版表面のブラシ摩擦係数が0.60~0.75[-]の範囲であることを特徴とする現像液組成物。
【請求項2】
(a)ノニオン系界面活性剤が、ポリオキシエチレン2-エチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリエチレングリコールモノカプリル酸エステル、ポリエチレングリコールモノカプリン酸エステル、ポリエチレングリコールモノラウリン酸エステル、ポリエチレングリコールモノミリスチリン酸エステル、ポリエチレングリコールモノステアリン酸エステル、ポリエチレングリコールモノオレイン酸エステル、及びポリオキシエチレンモノステアリン酸エステルからなる群から選択される一種以上の化合物であることを特徴とする請求項1に記載の現像液組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の現像液組成物を0.1~10質量%含有し、水を90~99.9質量%含有することを特徴とする水性現像液。
【請求項4】
少なくとも(A)支持体、(B)感光性樹脂層、(C)保護層、及び(D)カーボンブラックを含有する感赤外線層が順次積層された構成を有するCTPフレキソ印刷原版を請求項3に記載の水性現像液で現像する工程を含むことを特徴とするフレキソ印刷版の製造方法。
【請求項5】
少なくとも(A)支持体、(B)感光性樹脂層、及び(E)粘着防止層が順次積層された構成を有するフレキソ印刷原版を請求項3に記載の水性現像液で現像する工程を含むことを特徴とするフレキソ印刷版の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水現像可能な感光性樹脂印刷版に用いる水性現像液に関するものであり、特にカーボンブラックを含有する感赤外線層を有するCTP方式のフレキソ印刷原版及びネガ方式のフレキソ印刷原版に好適な水性現像液に関する。
【背景技術】
【0002】
支持体上に感光性樹脂組成物から得られる感光性樹脂層を設けた感光性樹脂版を印刷版として使用することは一般的に行われ、樹脂凸版、平版、凹版、フレキソ版印刷の各分野において主流になっている。これらの印刷版に用いられる感光性樹脂組成物としては、環境に与える影響や作業性の面から水性現像液で現像されるものが強く求められている。水現像可能な感光性樹脂組成物としては、合成ゴムと親水性ポリマー、架橋剤からなるものが上市されている。
【0003】
これらの印刷版の作成には、原画フィルムを感光性樹脂印刷原版に真空密着させ、原画フィルムを通して活性光線を照射する方法(ネガ方式)が広く用いられている。ネガ方式では、活性光線を照射した露光部で光架橋反応が選択的に進行し、画像部が形成される。続いて、非露光部の未光架橋樹脂組成物は、水性現像液で洗浄除去され、凹凸のあるレリーフが得られる。
【0004】
このようなネガ方式の印刷版は原画フィルムを必要とするため、原画フィルムの作製のための時間およびコストを要する。さらに、原画フィルムの現像には化学的な処理が必要で、かつ現像廃液の処理も必要であることから、環境衛生上の不利を伴う。
【0005】
近年、コンピューターの進歩に伴い、コンピューター上で処理された情報を感光性樹脂印刷原版上に直接出力し、原画フィルムの作製工程を必要とせずに印刷版を得る方法(Computer to Plate、CTP方式)が提案されている。CTP方式では、印刷版上に活性光線に対して不透明な感赤外線層が設けられており、赤外線レーザーで感赤外線層を部分的に蒸散させることにより画像マスクを形成する。続いて、ネガ方式と同様に活性光線を照射して画像部を形成し、未露光部(未光架橋感光性樹脂)を水性現像液で洗浄除去して凹凸のあるレリーフを得る。このCTP方式は、上述した原画フィルムの作製工程が不要となること、原画フィルムの現像廃液の処理が不要で環境衛生的に好ましいことに加え、シャープな構造のレリーフが得られることなどの利点を有することから、現在では、CTP方式が主流となっている。
【0006】
このような水現像可能な感光性樹脂印刷原版の現像に用いる水性現像液は、現像時間が短く、印刷再現性の点から微細な画像が再現できることが要求される。現像液中には画像マスク層及び感光性樹脂層中の未光架橋の感光性樹脂組成物が溶解または分散する。ここで、同一の水性現像液を用いて現像を繰り返すと、現像液中に分散した未光架橋樹脂や画像マスク層(スカム)がブラシに付着して現像性を低下させたり、印刷版表面に再付着して版面の品位を悪化させるなどの問題がある。これらの問題を改良するために種々の提案がなされている。
【0007】
特許文献1には、ノニオン系界面活性剤を配合した水性現像液が提案されている。この現像液は、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルに対してポリアルキレングリコールジアルキルエーテルを組み合わせることで、未架橋の感光性樹脂組成物の分散性を高めるものである。しかし、上述の画像マスク層の分散性が考慮されていないため、CTP方式の画像マスク層に用いられるカーボンブラックや疎水性ポリマーを十分に分散させることはできなかった。また、印刷版を製造するための現像速度も十分ではなかった。
【0008】
画像マスク層の分散性不良の課題に対しては、特許文献2がその改善を提案している。特許文献2は、水性現像液に飽和脂肪酸のアルカリ金属塩と不飽和脂肪酸のアルカリ金属塩とを組み合わせて配合することで、カーボンブラックやバインダーポリマーといった水不溶性化合物の分散性を改善している。しかし、脂肪酸のアルカリ金属塩を含有する水性現像液は、画像マスク層と感光性樹脂層の未光架橋感光性樹脂組成物の水分散性には優れているが、現像速度が低下する問題があり、画像マスク層の分散性と感光性樹脂層の現像速度とを両立するものではなかった。
【0009】
現像速度の改善については、特許文献1の現像液の現像速度の改善が特許文献3で提案されている。特許文献3の現像液は、ポリアルキレングリコールのジアルキルエーテルにpH調整剤として無機塩、洗浄促進剤として炭化水素や高級アルコールエーテルを追加するものであり、現像促進剤によって現像速度を上げるものである。しかし、この現像液は、感光性樹脂層中の未架橋樹脂だけでなく、光架橋した感光性樹脂すなわち印刷版となる画像部の樹脂も膨潤させてしまう。そのため細線や独立点、網点といった微細な凸画像の再現性が悪くなるという問題があった。
【0010】
一方、現像装置用ブラシが印刷画像に応じてブラシ直径を120μm~250μmの範囲で選択するようになり、特にブラシ直径の小さい細ブラシでも現像速度が低下しない現像液が求められている。
【0011】
したがって、感光性樹脂層の現像速度、感光性樹脂層中の未光架橋樹脂組成物及び画像マスク層の分散性、及び得られる印刷版の微細な画像再現性を高いレベルで達成するといった本来的な課題に加えて、細ブラシであっても変らぬ高い現像速度を実現できる現像液が切望されていた。しかし、全ての課題を満足する高度な性能を有する感光性フレキソ印刷原版用の現像液が未だ提案されていないのが現状であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2003-287906号公報
【文献】国際公開番号 WO2012/111238号
【文献】特開2004-317660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記の従来技術の現状に鑑みなされたものであり、その目的は、従来の現像液では達成不可能であった、細ブラシでも高い現像速度を満足しつつ、従来からの課題であった、感光性樹脂層中の未光架橋感光性樹脂の分散性、画像マスク層の分散性及び画像再現性の全てを高いレベルで満足できる水現像性感光性フレキソ印刷原版用の現像液を調製するための現像液組成物、現像液および印刷原版の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、かかる目的を達成するために、好適な現像液組成物の組成について鋭意検討した結果、特定のノニオン系界面活性剤(a)を用いることで、高い現像速度を可能にし、さらに特定のアニオン系界面活性剤(b)を組み合わせて含有させることで、高い現像速度を阻害することなく画像マスク層の高い分散性を達成することが可能であり、さらに、優れた画像再現性、及び感光性樹脂層中の未光架橋感光性樹脂成分の分散性をも満足することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
即ち、本発明は、以下の(1)~(5)の構成を有するものである。
(1)水現像可能な感光性フレキソ印刷原版用の現像液組成物であって、前記現像液組成物が、(a)アルキル基の炭素数が8~19であり、且つHLB値が11~16であるポリエチレングリコールのモノアルキルエーテル及び/又はモノアルキルエステルのノニオン系界面活性剤、及び(b)オレイン酸金属塩、ラウリル酸金属塩、ドデシルベンセンスルホン酸金属塩、及びラウリル硫酸金属塩からなる群から選択される一種以上のアニオン系界面活性剤を、(a):(b)が25:75~75:25(質量比)で含有すること、及び前記現像液組成物を1質量%含有し、水を99質量%含有する水性現像液中で測定した印刷原版表面のブラシ摩擦係数が0.60~0.75[-]の範囲であることを特徴とする現像液組成物。
(2)(a)ノニオン系界面活性剤が、ポリオキシエチレン2-エチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリエチレングリコールモノカプリル酸エステル、ポリエチレングリコールモノカプリン酸エステル、ポリエチレングリコールモノラウリン酸エステル、ポリエチレングリコールモノミリスチリン酸エステル、ポリエチレングリコールモノステアリン酸エステル、ポリエチレングリコールモノオレイン酸エステル、及びポリオキシエチレンモノステアリン酸エステルからなる群から選択される一種以上の化合物であることを特徴とする(1)に記載の現像液組成物。
(3)(1)又は(2)に記載の現像液組成物を0.1~10質量%含有し、水を90~99.9質量%含有することを特徴とする水性現像液。
(4)少なくとも(A)支持体、(B)感光性樹脂層、(C)保護層、及び(D)カーボンブラックを含有する感赤外線層が順次積層された構成を有するCTPフレキソ印刷原版を(3)に記載の水性現像液で現像する工程を含むことを特徴とするフレキソ印刷版の製造方法。
(5)少なくとも(A)支持体、(B)感光性樹脂層、及び(E)粘着防止層が順次積層された構成を有するフレキソ印刷原版を(3)に記載の水性現像液で現像する工程を含むことを特徴とするフレキソ印刷版の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の現像液組成物およびこれを用いて調製された現像液は、細ブラシでも現像速度が低下しないために製版時間を短くすることができ、印刷版の生産性が高い。それに加えて、現像液中への未光架橋樹脂成分や画像マスク層の分散性に優れるために樹脂成分等の再付着も起こらず、高度な画像再現性を有する。従って、本発明によれば、高性能な感光性フレキソ印刷原版用現像液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明で規定するブラシ摩擦係数の測定方法を説明するための概略構成図である。
図2図2は、画像再現性を評価するために使用した画像パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の現像液組成物は、水現像可能な感光性フレキソ印刷原版用の水性現像液を調製するために用いるものであり、界面活性剤として、特定のノニオン系界面活性剤(a)と特定のアニオン系界面活性剤(b)をそれぞれ特定の質量比率で含有することを特徴とする。本発明の現像液組成物は、特定のノニオン系界面活性剤(a)を用いることで、高い現像速度を可能にし、さらに特定のアニオン系界面活性剤(b)を組み合わせて含有させることで、高い現像速度を阻害することなく画像マスク層の高い分散性を達成することが可能である。さらに、本発明の現像液組成物は、優れた画像再現性、及び感光性樹脂層中の未光架橋感光性樹脂成分の分散性をも満足することができる。
【0019】
(a)ノニオン系界面活性剤としては、コストや安全性の観点から、アルキル基の炭素数が8~19であり、且つHLB値が11~16であるポリエチレングリコールのモノアルキルエーテル及び/又はモノアルキルエステルが使用される。かかる特定のノニオン系界面活性剤を使用することにより、現像速度、画像再現性、未架橋樹脂組成物の分散性の全ての性能において優れる現像液組成物とすることができる。その中でもポリエチレングリコールのモノアルキルエーテルが、耐加水分解性に優れるために特に好ましい。
【0020】
ポリエチレングリコールのモノアルキルエーテル及び/又はモノアルキルエステルとしては、HLB(Hydrophile-Lipophile Balance)値が11~16であることが必要であり、HLB値が12~15であることが好ましい。HLB値とは界面活性剤の水と油への親和性の程度を表す値である。HLB値は、親水性であるポリエチレングリコールの繰り返し単位数及び親油性であるアルキル基の炭素数を増減することで特定の値とすることができる。HLB値が上記範囲未満の場合は未架橋樹脂への膨潤性が高いため、微細画像が体積膨張して支持体から脱離しやすくなる。このため、画像再現性が低下する。HLB値が上記範囲を越える場合はブラシ摩擦係数が低下するため、ブラシによる擦り効果が低下して現像速度が遅くなる。ポリエチレングリコールのモノアルキルエーテル及び/又はモノアルキルエステル中のアルキル基の炭素数は、8~19であることが必要である。アルキル基炭素数が7以下の場合は、界面活性剤としての能力が弱くなり、未架橋樹脂への膨潤性が高いため、画像マスク層の分散性、未架橋感光性樹脂成分の分散性、画像再現性がいずれも悪くなる。また、アルキル基炭素数20以上の場合は、分子量が大きいため、未架橋樹脂への膨潤性が低く現像が遅くなってしまうだけでなく、水への溶解性が低下するので好ましくない。
【0021】
具体的なポリエチレングリコールのモノアルキルエーテルとしては、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール類などが挙げられる。これらの中でもポリオキシエチレン2-エチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテルが好ましい。
【0022】
具体的なポリエチレングリコールのモノアルキルエステルとしては、ポリエチレングリコールモノカプリル酸エステル、ポリエチレングリコールモノカプリン酸エステル、ポリエチレングリコールモノラウリン酸エステル、ポリエチレングリコールモノミスチリン酸エステル、ポリエチレングリコールモノステアリン酸エステル、ポリエチレングリコールモノオレイン酸エステル及びポリオキシエチレンモノステアリン酸エステルなどのポリエチレングリコールと脂肪酸とのモノアルキルエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートなどのソルビタンのポリオキシエチレン付加物と脂肪酸とのエステル類などが挙げられる。これらの中でもポリエチレングリコールモノカプリル酸エステル、ポリエチレングリコールモノカプリン酸エステル、ポリエチレングリコールモノラウリン酸エステル、ポリエチレングリコールモノミリスチリン酸エステル、ポリエチレングリコールモノステアリン酸エステル、ポリエチレングリコールモノオレイン酸エステル及びポリオキシエチレンモノステアリン酸エステルが好ましい。
【0023】
(a)ノニオン系界面活性剤としては、ポリエチレングリコールのモノアルキルエーテル又はポリエチレングリコールのモノアルキルエステルを単独で使用しても良いが、ポリエチレングリコールのモノアルキルエーテルとポリエチレングリコールのモノアルキルエステルとを併用しても構わない。また、ポリエチレングリコールのモノアルキルエーテル又はポリエチレングリコールのモノアルキルエステルを単独で配合する場合でも、二種類以上を併用しても良い。
【0024】
ポリエチレングリコールのモノアルキルエーテルは、市販品を購入して使用しても良いが、特開平10-158384等の公知文献に従って製造することも可能である。また、ポリエチレングリコールのモノアルキルエステルは、市販品を購入して使用しても良いが、長鎖のモノカルボン酸とアルコールとをエステル化する公知の製造方法で製造することも可能である。
【0025】
(b)アニオン系界面活性剤は、画像マスク層の分散性を高めるために配合する。(b)アニオン系界面活性剤としては、オレイン酸金属塩、ラウリル酸金属塩、ドデシルベンゼンスルホン酸金属塩、ラウリル硫酸金属塩であることが必要である。これらは、特に画像マスク層の分散性能が高く、ノニオン界面活性剤と併用して配合しても現像速度、画像再現性、未架橋樹脂組成物の分散性といった性能を阻害することはない。
【0026】
アニオン系界面活性剤の金属塩としては、金属種に限定はないが、アルカリ金属塩及び又はアルカリ土類金属塩が好ましく、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩が最も好ましい。
【0027】
本発明の現像液組成物は、上述の特定の(a)ノニオン系界面活性剤と特定の(b)アニオン系界面活性剤を、(a):(b)=25:75~75:25(質量比)の割合で含有する。これは、現像速度と画像マスク層の分散性を両立させるためである。さらに、本発明の現像液組成物は、他の金属塩および有機の塩類、カルボキシメチルセルロースやメチルセルロースといった高分子系添加剤、pH調整のための硫酸や塩酸や燐酸などの酸、アルカリ、その他粘度調整剤、分散安定剤、消泡剤、凝集剤、ゼオライト、など各種の添加剤を必要に応じて配合することができる。
【0028】
次に、ブラシ摩擦係数について説明する。本発明で規定する印刷原版表面のブラシ摩擦係数とは、水性現像液中でブラシを感光性樹脂原版の表面をすべらせた時の摩擦力を示すものである。本発明では、本発明の現像液組成物を1質量%含有し、水を99質量%含有する水性現像液中で測定した印刷原版表面のブラシ摩擦係数を0.60~0.75[-]の範囲にすることを特徴とする。これにより、ブラシによる擦り効果を最適に発揮させ、優れた現像速度及び画像再現性を満足することができる。ブラシ摩擦係数が上記の範囲内であり且つ上記の条件を満たす場合は、画像再現性と現像速度を高いレベルで両立することができる現像液組成物となる。
【0029】
本発明のブラシ摩擦係数を上記の範囲に調整する方法としては、上記のように(a)ノニオン系界面活性剤として、HLB値が16以下のポリエチレングリコールのモノアルキルエーテル及び/又はポリエチレングリコールのモノアルキルエステルを含有させ、これらの含有量を増減させることによって、ブラシ摩擦係数をコントロールする方法が挙げられる。一般的には、(a)ノニオン系界面活性剤の含有量を減らすと、ブラシ摩擦係数は低くなり、(a)ノニオン系界面活性剤の含有量を増やすと、ブラシ摩擦係数は高くなる傾向がある。また、(a)ノニオン系界面活性剤の中でも、HLB値が高いものは低いものに比べてブラシ摩擦係数が低い傾向がある。
【0030】
次に、本発明の現像液組成物を用いて調製される水性現像液について説明する。本発明の水性現像液は、水を主成分とする現像液であり、現像液中の現像液組成物の配合割合は特に限定されないが、一般的な配合量から現像液組成物を0.1~10質量%とし、水を90~99.9質量%とすることが好ましい。
【0031】
本発明で用いる現像液は、作業者の安全性、環境への配慮から水性現像液である。しかし、必要に応じてエタノール、イソプロパノール、セロソルブ、グリセリン、ポリエチレングリコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトンといった水に溶解する他の有機溶媒を少量混合しても良い。
【0032】
また、現像液のpHが3未満になると親水性成分の現像液に対する親和性が低下し、現像速度が遅くなるので好ましくない。pHが4以上であれば現像は可能であるが、pHが6以上であることが望ましい。さらに作業者の安全性を考慮して6~10の範囲であることが最も好ましい。
【0033】
次に、本発明の水性現像液を使用して現像される感光性フレキソ印刷原版について説明する。本発明の水性現像液は、ネガ方式の感光性フレキソ印刷原版だけでなく、CTP方式の感光性フレキソ印刷原版にも適応できる。本発明の水性現像液は、特にCTP方式の感光性フレキソ印刷原版に対して効果を発揮する。
【0034】
ここで、本発明の現像液組成物を含有する水性現像液の使用方法の具体例として、水現像可能な感光性フレキソ印刷原版への適用を例に挙げ、以下に説明する。
【0035】
水現像可能な感光性フレキソ印刷原版は一般に、CTP方式では、少なくとも(A)支持体、(B)感光性樹脂層、(C)保護層、及び(D)カーボンブラックを含有する感赤外線層を順次積層した構成を有し、ネガ方式では、少なくとも(A)支持体、(B)感光性樹脂層、及び(E)粘着防止層を順次積層した構成を有する。
【0036】
(A)支持体としては、可撓性であるが、寸法安定性に優れた材料が好ましく、例えばスチール、アルミニウム、銅、ニッケルなどの金属製支持体、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、またはポリカーボネートフィルムなどの熱可塑性樹脂製支持体を挙げることができる。これらの中でも、寸法安定性に優れ、充分に高い粘弾性を有するポリエチレンテレフタレートフィルムが特に好ましい。支持体の厚みは、機械的特性、形状安定化あるいは印刷版製版時の取り扱い性等から50~350μm、好ましくは100~250μmが望ましい。
また、必要により、支持体と感光性樹脂層との接着性を向上させるために、それらの間に接着剤層を設けても良い。
【0037】
(B)感光性樹脂層は、合成高分子化合物、光重合性不飽和化合物、及び光重合開始剤の必須成分と、可塑剤、熱重合防止剤、染料、顔料、紫外線吸収剤、香料、又は酸化防止剤などの任意の添加剤とから構成される。本発明では、(B)感光性樹脂層は水性現像液で現像可能でなければならない。水現像可能な合成高分子化合物としては、ラテックスを使用することが好ましい。水現像可能な感光性樹脂層は、一般に柔軟であるが、ラテックスを使用すると、必然的に生版が非常に柔軟になる。ラテックスを使用しない場合は、例えば特開平3-198058号に記載のものを使用することができる。
【0038】
使用可能なラテックスとしては、ポリブタジエンラテックス、天然ゴムラテックス、スチレン-ブタジエン共重合体ラテックス、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ラテックス、ポリクロロプレンラテックス、ポリイソプレンラテックス、ポリウレタンラテックス、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体ラテックス、ビニルピリジン重合体ラテックス、ブチル重合体ラテックス、チオコール重合体ラテックス、アクリレート重合体ラテックスなどの水分散ラテックス重合体やこれら重合体にアクリル酸やメタクリル酸などの他の成分を共重合して得られる重合体が挙げられる。これらの中でも、分子鎖中にブタジエン骨格またはイソプレン骨格を含有する水分散ラテックス重合体が、硬度やゴム弾性の点から好ましく用いられる。具体的には、ポリブタジエンラテックス、スチレン-ブタジエン共重合体ラテックス、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ラテックス、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体ラテックス、ポリイソプレンラテックスが好ましい。ラテックスは、独立した微粒子としてその存在が確認できることが必要である。
【0039】
(C)保護層は、感光性樹脂層の酸素による重合阻害を防止するために設けられる。(C)保護層は水性現像液で除去可能であれば特に制限されず、水に可溶性または不溶性のいずれのポリマーを使用して構成することができる。水に不溶性のポリマーでも物理的にブラシでこすることにより除去され、現像可能であるが、現像時間短縮のためには水に可溶性のポリマーが好ましい。(C)保護層を構成するこのようなポリマーとしては、例えば可溶性ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリエチレンオキシド、アルキルセルロース、セルロース系ポリマー(特にヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロース)、セルロースアセテートブチレート、ポリブチラール、ブチルゴム、NBRゴム、アクリルゴム、スチレン―ブタジエンゴム、ラテックス、可溶性ポリエステルが挙げられる。これらのポリマーは、一種類の使用に限定されず、二種類以上のポリマーを組み合わせて使用することもできる。(C)保護層としては、(D)感赤外線層よりも熱分解温度の高いものが好ましい。保護層の熱分解温度が感赤外線層よりも低ければ、感赤外線層のアブレーションの際に、保護層も熱分解されてしまうおそれがあるからである。
【0040】
(D)カーボンブラックを含有する感赤外線層は、バインダー、赤外線レーザーを吸収し熱に変換する機能と紫外光遮断機能を有する材料から構成される。また、これら以外の任意成分として、顔料分散剤、フィラー、界面活性剤又は塗布助剤などを本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。
【0041】
(D)感赤外線層は、化学線に関して2.0以上の光学濃度であることが好ましく、さらに好ましくは2.0~3.0の光学濃度であり、特に好ましくは、2.2~2.5の光学濃度である。また、(D)感赤外線層の層厚は、0.5~5.0μmが好ましく、1.0~2.0μmがより好ましい。上記下限以上であれば、高い塗工技術を必要とせず、一定以上の光学濃度を得ることができる。また、上記上限以下であれば、感赤外線層の蒸発に高いエネルギーを必要とせず、コスト的に有利である。
【0042】
上記のバインダーとしては、特に限定されないが、極性を持つ共重合ポリアミドが好ましく用いられる。使用されるポリアミドは、従来公知のカチオン性ポリアミド、ノニオン性ポリアミド、アニオン性ポリアミドから適宜選択すればよく、例えば、第三アミン基含有ポリアミド、第四アンモニウム塩基含有ポリアミド、エーテル基含有ポリアミド、スルホン酸基含有ポリアミドなどが挙げられる。
【0043】
上記の赤外線吸収機能と紫外光遮断機能を有する材料としては、フタロシアニン、置換フタロシアニン誘導体、シアニン、メロシアニン染料、およびポリメチン染料などの染料や、カーボンブラック、グラファイト、酸化クロム、酸化鉄などの顔料が挙げられる。これらの中でも、光熱変換率および、経済性、取り扱い性の面からカーボンブラックが特に好ましい。
【0044】
上記の赤外線吸収機能と紫外光遮断機能を有する材料は、前記光学濃度と層厚を達成できる濃度で適宜用いられるが、一般的には(D)感赤外線層の総質量に対して1~60質量%、好ましくは10~50質量%である。上記下限未満では光学濃度が2.0未満となり、赤外線吸収機能と紫外光遮断機能を示さなくなるおそれがある。また、上記上限を越えるとバインダーなどの他成分が不足して、皮膜形成性が低下するおそれがある。
【0045】
(D)感赤外線層の上には、剥離可能な可撓性カバーフィルムを設けて印刷原版を保護することが好ましい。好適な剥離可能な可撓性カバーフィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルムを挙げることができる。
【0046】
(E)粘着防止層は、原画フィルムを感光性樹脂印刷版に真空密着させ、原画フィルムを通して活性光線を照射する際に、感光性樹脂層と原画フィルムとの粘着を防止するために設けられる。(E)粘着防止層は、水に可溶性または不溶性のいずれのポリマーを使用して構成することができる。水に不溶性のポリマーでも物理的にブラシでこすることにより除去され、現像可能であるが、現像時間短縮のためには水に可溶性のポリマーが好ましい。(E)粘着防止層を構成するこのようなポリマーとしては、例えば可溶性ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリエチレンオキシド、アルキルセルロース、セルロース系ポリマー(特にヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロース)、セルロースアセテートブチレート、ポリブチラール、ブチルゴム、NBRゴム、アクリルゴム、スチレン―ブタジエンゴム、ラテックス、可溶性ポリエステルが挙げられる。これらのポリマーは、一種類の使用に限定されず、二種類以上のポリマーを組み合わせて使用することもできる。その他必要に応じて任意成分として、各種添加剤を配合することができる。
【0047】
(E)粘着防止層の上には、剥離可能な可撓性カバーフィルムを設けて印刷原版を保護することが好ましい。好適な剥離可能な可撓性カバーフィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルムを挙げることができる。
【0048】
本発明の印刷原版は、CTP方式では例えば以下のようにして製造される。
まず、感赤外線層の全成分を適当な溶媒に溶解させて溶液を作製するか、或いはカーボンブラック等の顔料を用いるときは、顔料以外の全成分を適当な溶媒に溶解させ、そこに顔料を分散させて分散液を作製する。次に、このような溶液又は分散液を感赤外線層用支持体(例、PETフィルム)上に塗布して、溶剤を蒸発させる。その後、保護層成分を上塗りし、一方の積層体を作成する。さらに、これとは別に支持体上に塗工により感光性樹脂層を形成し、他方の積層体を作成する。このようにして得られた二つの積層体を、圧力及び/又は加熱下に、感光性樹脂層が保護層に隣接するように積層する。なお、感赤外線層用支持体は、印刷原版の完成後はその表面の保護フィルムとして機能する。
【0049】
この印刷原版から印刷版を製造する方法としては、まず保護フィルムを感光性印刷版から除去する。その後、感赤外線層をIRレーザにより画像様に照射して、感光性樹脂層上に画像マスクを形成する。好適なIRレーザの例としては、ND/YAGレーザ(1064nm)又はダイオードレーザ(例、830nm)を挙げることができる。コンピュータ製版技術に適当なレーザシステムは、市販されており、例えばダイオードレーザシステムCDI Spark(エスコグラフィックス株式会社)を使用することができる。このレーザシステムは、印刷原版を保持する回転円筒ドラム、IRレーザの照射装置、及びレイアウトコンピュータを含み、画像情報は、レイアウトコンピュータからレーザ装置に直接移される。
【0050】
画像情報を感赤外線層に書き込んだ後、感光性印刷原版に画像マスクを介して活性光線を全面照射する。これは版をレーザシリンダに取り付けた状態で行うことも可能であるが、版をレーザ装置から除去し、慣用の平板な照射ユニットで照射する方が規格外の版サイズに対応可能な点で有利であり一般的である。活性光線としては、150~500nm、特に300~400nmの波長を有する紫外線を使用することができる。その光源としては、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ジルコニウムランプ、カーボンアーク灯、紫外線用蛍光灯等を使用することができる。その後、照射された版は本発明の現像液を用いて現像され、印刷版が得られる。
【0051】
また、本発明の印刷原版は、ネガ方式では例えば以下のようにして製造される。まず、粘着防止層成分を適当な溶媒に溶解させる。この溶液を支持体(例、PETフィルム)上に塗布して溶剤を蒸発させ、一方の積層体を作成する。さらに、これとは別に支持体上に塗工により感光性樹脂層を形成し、他方の積層体を作成する。このようにして得られた二つの積層体を、圧力及び/又は加熱下に、感光性樹脂層が粘着防止層に隣接するように積層する。なお、支持体は、印刷原版の完成後はその表面の保護フィルムとして機能する。
【0052】
この印刷原版から印刷版を製造する方法としては、まず保護フィルムを感光性印刷版から除去する。その後、画像を有するネガフィルムを印刷版上に置き、真空密着して活性光線を全面照射する。活性光線としては、150~500nm、特に300~400nmの波長を有する紫外線を使用することができる。その光源としては、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ジルコニウムランプ、カーボンアーク灯、紫外線用蛍光灯等を使用することができる。その後、照射された版は本発明の現像液を用いて現像され、印刷版が得られる。
【実施例
【0053】
以下、実施例により本発明を具体的に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0054】
<感光性フレキソ印刷原版の作製>
(1)感光性樹脂組成物Xの作製
アクリロニトリル-ブタジエンラテックス(Nipol SX1503 不揮発分42質量% 日本ゼオン(株)製)10質量部、ブタジエンラテックス(Nipol LX111NF 不揮発分55質量% 日本ゼオン(株)製)58質量部、オリゴブタジエンアクリレート(ABU-2S 共栄社化学(株)製)28質量部、ラウリルメタクリレート(ライトエステルL 共栄社化学(株)製)4質量部、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート4質量部、光重合開始剤1質量部、重合禁止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル0.1質量部、その他の添加剤としてノニオン系界面活性剤0.1質量部をトルエン15質量部とともに容器中で混合し、次に加圧ニーダーを用いて105℃で混練し、その後トルエンと水を減圧除去することにより、感光性樹脂組成物Xを得た。
【0055】
(2)保護層塗工液の調整
低ケン化度ポリビニルアルコール(PVA405 (株)クラレ製)と可塑剤(サンフレックスSE270 三洋化成工業製 脂肪族多価アルコール系ポリエーテルポリオール 固形分濃度85質量%)とNBRラテックス(SX1503A 日本ゼオン(株)製 固形分濃度42質量%)を、固形分質量比で35/35/30になるように、水・イソプロピルアルコール混合液に溶解し、保護層塗工液を調製した。
【0056】
(3)感赤外線層塗工液の調製
カーボンブラック分散液(AMBK-8 オリエント化学工業(株)製)と共重合ポリアミド(PA223 東洋紡績(株)製)を固形分質量比で63/37になるように、メタノール・エタノール・イソプロピルアルコール混合液に溶解し、感赤外線層塗工液を調製した。
【0057】
(4)積層フィルムYの作製
両面に離形処理を施した厚さ100μmのPETフィルム上に感赤外線層塗工液を適切な種類のバーコーターを用いて塗工し、120℃で5分間乾燥し、PETフィルム上に膜厚1.5μmの感赤外線層を積層した。この時の光学濃度は2.3であった。この光学濃度は白黒透過濃度計DM-520(大日本スクリーン製造(株))によって測定した。
次いで、上記感赤外線層の上に保護層塗工液を適切な種類のバーコーターを用いて塗工し、120℃で5分間乾燥し、PETフィルム上に膜厚1.5μmの感赤外線層と膜厚0.5μmの保護層がこの順に積層されている積層フィルムYを得た。
【0058】
(5)感光性樹脂層Xと積層フィルムYからなる感光性フレキソ印刷原版の作製
共重合ポリエステル系接着剤を塗工した厚さ100μmのPETフィルム上に上記感光性樹脂組成物Xを配置し、その上から積層フィルムYを重ね合わせた。ヒートプレス機を用いて100℃でラミネートし、PET支持体、接着層、感光性樹脂層、保護層、感赤外線層および離型処理PET保護フィルム(カバーフィルム)からなる全厚み1.2mmの感光性フレキソ印刷原版を得た。
【0059】
実施例1~16,比較例1~10
<水性現像液の作製>
表1に示す組成の現像液組成物を、その総量が現像液の1質量%となるように計量して、各現像液組成物を水道水に溶解し、実施例1~16及び比較例1~10の水性現像液を作成した。具体的には、容器に入れた水道水に現像液組成物を少量ずつ添加しながら、攪拌下に混合して溶解させた。
【0060】
表1に示す各化合物の詳細は以下の通りである。
(a)ノニオン系界面活性剤
ポリエチレングリコールモノヘキシレート(ブラウノンPEG200(青木油脂製)50gとヘキサノイルクロリド(東京化成工業製)33.5gを1LのTHF中で1時間エステル化反応させ、THFを蒸発させて得た液を用いた。なお、ポリエチレングリコール(n=5)モノヘキシル(炭素数6)エステル。)
ポリオキシエチレン2エチルヘキシルエーテル(ブラウノンEH-6(青木油脂製)、炭素数8の鎖式第1級アルコールのエチレンオキサイド6モル付加体)
ポリオキシエチレンデシルエーテル(ファインサーフD-85(青木油脂製)、炭素数10の直鎖第2級アルコールのエチレンオキサイド8.5モル付加体)
ポリオキシエチレンラウリルエーテル(エマルゲン106(花王製)、炭素数12の直鎖第1級アルコールのエチレンオキサイド4モル付加体)
ポリオキシエチレンラウリルエーテル(エマルゲン108(花王製)、炭素数12の直鎖第1級アルコールのエチレンオキサイド6モル付加体)
ポリオキシエチレンラウリルエーテル(ブラウノンEL-1509(青木油脂製)、炭素数12の直鎖第1級アルコールのエチレンオキサイド8モル付加体)
ポリオキシエチレンラウリルエーテル(エマルゲン109P(花王製)、炭素数12の直鎖第1級アルコールのエチレンオキサイド9モル付加体)
ポリオキシエチレンラウリルエーテル(エマルゲン120(花王製)、炭素数12の直鎖第1級アルコールのエチレンオキサイド12モル付加体)
ポリオキシエチレンラウリルエーテル(エマルゲン150(花王製)、炭素数12の直鎖第1級アルコールのエチレンオキサイド47モル付加体)
ポリオキシエチレンセチルエーテル (エマルゲン220(花王製)、炭素数16の直鎖第1級アルコールのエチレンオキサイド13モル付加体)
ポリオキシエチレンステアリルエーテル(エマルゲン320P(花王製)、炭素数18の直鎖第1級アルコールのエチレンオキサイド13モル付加体)
ポリオキシエチレンベヘニルエーテル(ブラウノンBE-16(青木油脂製)、炭素数22の直鎖第1級アルコールのエチレンオキサイド16モル付加体)
ポリエチレングリコールモノラウレート(エマノーン1112(花王製)、ポリエチレングリコール(n=9)モノラウリル(炭素数12)エステル)
ポリエチレングリコールモノオレート(ブラウノンO-600SA(青木油脂製)、ポリエチレングリコール(n=14)モノオレイル(炭素数18)エステル)
(b)アニオン系界面活性剤
オレイン酸カリウム(ノンサールON-1N(日油製))
ラウリル酸ナトリウム (ノンサールLK-2(日油製))
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ネオペレックスG-15(花王製))
ラウリル硫酸ナトリウム (エマール2FG(花王製))
現像促進剤
ジエチレングリコールジブチルエーテル(ジエチレングリコールジブチルエーテル(東京化成工業製))
pH調整剤
炭酸ナトリウム(炭酸ナトリウム(東京化成工業製))
水酸化ナトリウム(水酸化ナトリウム(東京化成工業製))
【0061】
得られた水性現像液及び感光性フレキソ印刷原版を使用して、以下の方法で評価を行なった。その結果を、実施例1~16については表1に、比較例1~10については表2に示す。
【0062】
<評価方法>
実施例および比較例において、各特性の定義および特性値の測定は、以下のとおりである。
(1)ブラシ摩擦係数
直径170μmのナイロン製フィラメントを毛材とし、厚み10mm、縦140mm、横70mmの塩化ビニル製の板を基材として、機械植え平ブラシを作製した。平ブラシのスペックは、穴径2.5mmφ、穴ピッチ6×6mm、千鳥格子植え、毛長さ17mmとした。この平ブラシを使って、図1のような試験法で滑り試験を実施した。まず、厚みが12mmのSUS304製金属板を用いて30×50mmの滑り子を作成した。次に、滑り子と同じ大きさの前記感光性フレキソ印刷原版を準備し、フレキソ印刷原版の支持体側が滑り子に接触するように、滑り子の上に両面テープで張り合わせた。この感光性フレキソ印刷原版から保護フィルムを取り除き、セロテープ(登録商標)を使って感赤外線層及び保護層を剥離して感光性樹脂層を露出させた。次に、ブラシをステンレスバットの底に両面テープで固定した。次に、ブラシの先端が水深1~2mmとなるまでステンレスバットに水性現像液を満たした。次に、印刷原版を張り付けた滑り子を、印刷原版の感光性樹脂層面がブラシの毛の先端に接触するようにブラシの上に配置した。次に、前記水性現像液にブラシと前記感光性フレキソ印刷原版を張り付けた滑り子が十分に浸かるように前記水性現像液量をさらに調整し、浸漬状態で60分間静置した。浸漬してから60分後に滑り子を糸で移動させてすべり評価を行った。測定条件は、引っ張り速度500mm/分、滑り子の重さ(金属板とフレキソ印刷原版の水性現像液に浸漬する前の総質量)82g、ブラシ設置面寸法30×50mmとし、移動させるための糸には(株)ワイ・ジー・ケーよつあみ製のPEライン イザナス セキ糸1号を用いた。これは、この糸は、滑車の曲率に十分追従して引っ張り弾性が十分高いものである必要があるからである。滑り子から滑車の間の糸は水平になるように、滑車の位置を調整した。すべり出し点を滑車から水平方向に20mm離れた位置とし、すべり出し点を基準の0mmとして20、25、30、35mm地点での4点平均荷重を測定し、N=10の平均値を摩擦力[mN]とした。滑り子摩擦力を以下の式に当てはめてブラシ摩擦係数を評価した。
ブラシ摩擦係数[-]=摩擦力[mN]÷滑り子の重さ[g]÷重力加速度定数[m/s
【0063】
(2)現像速度
100×100mmの大きさで厚み1.7mmの前記感光性フレキソ印刷原版から保護フィルムを取り除き、セロテープ(登録商標)を使って保護層及び感赤外線層を剥離して感光性樹脂層を露出させた。現像用ブラシとして直径170μmの標準ブラシと直径132μmの細ブラシを用いて、スペックは、穴径2.5mmφ、穴ピッチ6×6mm、千鳥格子植え、毛長さ17mmで、ブラシ直径が異なる二種類の平ブラシを作成した。作成したブラシが装填されている感光性樹脂版用現像機を使用して、前記印刷原版を水性現像液で現像した。現像前、2分、4分、6分、8分現像後の感光性樹脂原版の中央部の厚みを測定し、現像前からの変化量を現像深さ[mm]とした。横軸を現像時間[分]、縦軸を現像深さ[mm]でプロットし、グラフの傾きを最小二乗法で算出した。これを現像速度[mm/分]とした。
【0064】
(3)画像再現性(細線)
感光性フレキソ印刷原版を以下の手順で裏露光、主露光、現像、乾燥、後露光し、印刷版を得た。
裏露光:感光性フレキソ印刷原版は200×150mmの大きさで厚さ1.7mmのものを使用した。感光性フレキソ印刷原版の積層フィルムY側からPhilips社製10R40Wを使用して紫外線を照射した。紫外線光量は150mJ/cmとした。光量は、紫外線照度計本体UV-M03Aに紫外線照度計受光器UV-SN35-M10を装着して測定した。以下も断りが無い限り、同様の方法で光量を測定した。
レーザ描画:保護層を剥がして、感赤外線層に赤外線レーザーで画像パターンを描画した。赤外線レーザー装置としてはESKO CDI Spark4835を用いた。レーザー照度は2.7J/cmとし、解像度は4000dpiとした。画像パターンとしては、図2に示すものを使用した。
【0065】
主露光:画像パターンを描画した感赤外線層の側から裏露光と同様の装置で紫外線を照射した。紫外線光量は3800mJ/cmとした。
現像:現像速度の評価用と同じ現像機に感光性フレキソ印刷原版を装填して水性現像液で現像した。現像時間は現像速度から現像深さが0.7mmとなる時間を計算した値を用いた。
乾燥:60℃温風乾燥機の中に10分間入れて版を乾燥させた。
後露光:画像パターンのある側から裏露光と同様の装置で紫外線を照射した。紫外線光量は3800mJ/cmとした。
画像再現性:得られた印刷版を顕微鏡で観察した。画像パターンにヨレや倒れ、欠けがあるところは再現していないと判断し、それ以外を再現していると判断した。細線の線幅は10、15、20、25、30、35、40μmがあり、再現している最も微細な細線の線幅を評価結果とした。
【0066】
(4)未光架橋樹脂成分の分散性
前記感光性フレキソ印刷原版から保護フィルムを取り除き、セロテープ(登録商標)を使って保護層及び感赤外線層を剥離して感光性樹脂層を露出させた。現像速度を評価したのと同じ現像機に水性現像液を入れて、前記印刷原版の感光性樹脂層をブラシで擦ることで感光性樹脂を水性現像液中に分散させ、感光性樹脂の分散量が現像液に対して10質量%となるように調整した。この感光性樹脂10質量%現像液を良くかき混ぜてから、現像液に100μmのPETフィルム短冊50×100mmを漬けて引出し、PETフィルムを黒いフェルトの上に置いて、付着している感光性樹脂粒子の大きさを顕微鏡(KEYENCE製 VHX-5000 対物レンズZS-20、20倍)で観察した。顕微鏡の視野中で最大レベルの感光性樹脂粒子の大きさを12個分測定した。これらの測定値から、最大値、及び2番目に大きい値の2つを除き、残り10個の平均値を評価結果とした。
【0067】
(5)画像マスク層(感赤外線層)の分散性
100mlの水性現像液中で、7cm×7cmの感光性フレキソ印刷原版25枚を、それぞれ1枚ずつ、振動を加えながら30秒間浸漬させ、軽く指で擦って画像マスク層を原版から脱落させた。
目視により、分散した画像マスク層の小片のサイズを評価した。目視で大きいと判断した小片のサイズを12個分測定した。これらの測定値から、最大値、及び2番目に大きい値の2つを除き、残り10個の平均値を評価結果とした。
【0068】
【表1】
【表2】
【0069】
表1からわかるように、本発明の要件を全て満足する実施例1~16については、全ての評価項目で満足する性能のものが得られた。
一方、比較例1~10については、評価項目のうち、1つ以上において、満足できる結果が得られなかった。具体的には、(a)ノニオン系界面活性剤のHLB値が低すぎる比較例1は、画像再現性及び未架橋感光性樹脂成分の分散性に劣る。(a)ノニオン系界面活性剤のHLB値が高すぎる比較例2は、ブラシ摩擦係数が低すぎ、現像速度に劣る。(a)ノニオン系界面活性剤のアルキル基の炭素数が少なすぎる比較例3は、画像再現性、未光架橋感光性樹脂の分散性、及び画像マスク層の分散性に劣る。(a)ノニオン系界面活性剤の配合割合が少なすぎる比較例4は、ブラシ摩擦係数が低すぎ、現像速度に劣る。(a)ノニオン系界面活性剤の配合割合が多すぎる比較例5は、ブラシ摩擦係数が高すぎ、画像再現性及び画像マスク層の分散性に劣る。(b)アニオン系界面活性剤を全く配合していない比較例6は、ブラシ摩擦係数が高すぎ、画像再現性及び画像マスク層の分散性に劣る。(a)ノニオン系界面活性剤を全く配合していない比較例7及び8は、ブラシ摩擦係数が低すぎ、現像速度に劣る。なお、(a)ノニオン系界面活性剤のアルキル基の炭素数が多すぎる比較例10は、現像液を調製する段階で現像液組成物中の(a)ノニオン界面活性剤が水道水に完全に溶解しなかったため、均一な水性現像液が得られずに評価を中止した。
【0070】
また、特許文献3に開示されるように、ジエチレングリコールジブチルエーテルのような現像促進剤を配合した比較例9は、印刷版の画像部となる光架橋感光性樹脂が膨潤するために画像再現性に劣り、画像マスク層の分散性にも劣る。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の現像液組成物によれば、細ブラシでも高い現像速度を満足しつつ、従来からの課題であった画像再現性、感光性樹脂層中の未光架橋感光性樹脂及び画像マスク層の分散性のすべてを高いレベルで満足できる。従って、本発明は、極めて有用である。
図1
図2