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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】軌道パッド
(51)【国際特許分類】
   E01B 9/68 20060101AFI20231124BHJP
【FI】
E01B9/68
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021063829
(22)【出願日】2021-04-03
(65)【公開番号】P2022158728
(43)【公開日】2022-10-17
【審査請求日】2022-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000167820
【氏名又は名称】広島化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126310
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】長▲崎▼ 聖仁
(72)【発明者】
【氏名】野上 晃正
(72)【発明者】
【氏名】木山 英俊
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-017340(JP,A)
【文献】特開2015-224459(JP,A)
【文献】特開2016-183549(JP,A)
【文献】特開2012-127183(JP,A)
【文献】特開平10-140502(JP,A)
【文献】特開2014-190005(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01B 9/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マクラギ上面又はタイプレートとレール底面との間に介設される軌道パッドにおいて、
ゴム材料にて成形される基板部と、
前記基板部の上面に固着され、摩擦係数が前記基板部の上面の摩擦係数より低い合成樹脂であるポリエステル系樹脂にて成形される薄板状の表層板部と、
前記表層板部の前記レール底面との当接面に形成され、一方の縁部から対向する縁部に至るまで軌道の長さ方向及び軌道の幅方向に沿って穿設され全体として平面視格子状の加工パターンとなるように形成される複数条の凹溝、及び前記凹溝にて周囲を囲繞されることでそれぞれが独立したブロック状に区画され上面に平面視矩形状の面一の平滑面を有する複数の凸部、を有する加工面と、を具備してなり、
前記加工面は、前記凹溝の溝幅が0.2mm~1.0mmでかつ深さが0.15mm以上に形成され、前記凸部の一片の軌道の長さ方向及び軌道の幅方向の長さが1.5mm~5.0mmに形成されることを特徴とする軌道パッド。
【請求項2】
前記表層板部は、ポリエステル系樹脂としてポリブチレンテレフタレート樹脂が用いられる請求項1に記載の軌道パッド。
【請求項3】
前記表層板部は、JIS K6911に準拠して測定された煮沸吸水率の値が1.0重量%以下である請求項1又は請求項2に記載の軌道パッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌道パッドの技術に関し、より詳細には、マクラギ上面又はタイプレートとレール底面との間に介設される軌道パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道の軌道には、マクラギ上面又はマクラギ上面若しくは軌道スラブ上面に設置されたタイプレートとレール底面との間に軌道パッドと呼ばれる弾性を有する薄板状のパッドが介設されている。この軌道パッドは、マクラギ又はタイプレートとレールとの間で緩衝材として機能し、車両走行に伴い、マクラギや軌道スラブ等のレールより下の軌道部材に伝わる荷重を緩和してそれらを保護するとともに、軌道で発生する振動とそれに伴う騒音を低減する等の役割を担うものである。
【0003】
この種の軌道パッドの構成としては、ゴム材の上面に鋼板又は合成樹脂板が固着された構成が公知である。これらの軌道パッドは、ゴム材だけからなる軌道パッドに比べてレールとの摩擦が少なく、寒暖による伸縮や列車の加減速時に受ける力によってレールがふく進する際に、レールによって引きずられ難いという長所があり、主に、長尺レールを使用する高速鉄道用の軌道パッドとして採用されている。
【0004】
例えば、従来の軌道パッドとしては、特許文献1に開示されるように、ゴム板(基板部)と、ゴム板の上面より摩擦係数が低い合成樹脂より成形される合成樹脂板(表層板部)と、を有してなる合成樹脂板付き軌道パッドの構成が公知である。このような合成樹脂板付きの軌道パッドでは、鋼板付き軌道パッドと比べて、軽量化を図れるとともに、サビに起因する摩擦抵抗の低下がなく滑り性能に優れるため、レールの伸縮やふく進により軌道パッドが引きずられたりするのを効果的に防止することができる。
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1に開示される従来の軌道パッドのように、合成樹脂として6,6ナイロン等のポリアミド系樹脂を用いる構成では、確かに、ポリアミド系樹脂が耐衝撃性、耐摩擦・摩耗性、耐油性等に優れるという点で好ましいものの、他方で、一般的なエンジニアリング・プラスチックの中でも吸水率が比較的高いことから、吸湿・吸水による寸法安定性に劣るという問題があった。そのため、軌道パッドの保管又は設置の環境によっては合成樹脂板(表層板部)が吸湿・吸水して膨張・変形してしまい、使用時にレールのふく進や列車通過時の振動を受けて、接着力が低下した基板部と表層板部とが剥離し、場合によっては分離離脱してしまうという可能性が懸念されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特願2007-113300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明では、軌道パッドに関し、前記従来の課題を解決するもので、レールに対する滑り性能と吸湿・吸水性に優れるとともに、基板部と表層板部とが容易に剥離するのを防止した軌道パッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
すなわち、請求項1においては、マクラギ上面又はタイプレートとレール底面との間に介設される軌道パッドにおいて、ゴム材料にて成形される基板部と、前記基板部の上面に固着され、摩擦係数が前記基板部の上面の摩擦係数より低い合成樹脂であるポリエステル系樹脂にて成形される薄板状の表層板部と、前記表層板部の前記レール底面との当接面に形成され、一方の縁部から対向する縁部に至るまで軌道の長さ方向及び軌道の幅方向に沿って穿設され全体として平面視格子状の加工パターンとなるように形成される複数条の凹溝、及び前記凹溝にて周囲を囲繞されることでそれぞれが独立したブロック状に区画され上面に平面視矩形状の面一の平滑面を有する複数の凸部、を有する加工面と、を具備してなり、前記加工面は、前記凹溝の溝幅が0.2mm~1.0mmでかつ深さが0.15mm以上に形成され、前記凸部の一片の軌道の長さ方向及び軌道の幅方向の長さが1.5mm~5.0mmに形成されるものである。
【0010】
請求項2においては、前記表層板部は、ポリエステル系樹脂としてポリブチレンテレフタレート樹脂が用いられるものである。
【0011】
請求項3においては、前記表層板部は、JIS K6911に準拠して測定された煮沸吸水率の値が1.0重量%以下であるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果として、レールに対する滑り性能と吸湿・吸水性に優れるとともに、基板部と表層板部とが容易に剥離するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施例に係る軌道パッドをタイプレートに挿着した状態を示した正面図である。
図2】軌道パッドの斜視図である。
図3】軌道パッドの平面図である。
図4】軌道パッドの側面図である。
図5】軌道パッドの正面図である。
図6】表層板部及び加工面の一部拡大平面図である。
図7】表層板部及び加工面の一部拡大正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に示すように、本実施例の軌道パッド3は、鉄道軌道において軌道の長さ方向に沿って設けられたレール1の底面と締結装置2を構成するタイプレート20との間に介設されて用いられる。タイプレート20は、矩形状に形成されたベース21と、ベース21の上面に略垂直上方に突出して一体的に配設された一対のショルダ22・22とで構成され、ボルト23にてベース21の幅方向を軌道の長さ方向に合わせてマクラギの上に固定されている。
【0017】
ショルダ22・22は、ベース21の幅方向(図1において紙面前後方向)に沿って延出され、所定の間隔を開けて互いに平行となるように設けられている。ベース21の上面であってショルダ22・22の間には、矩形袋状で樹脂注入により固化された可変パッド24が配設されており、可変パッド24の上面に後述する軌道パッド3が載置され、軌道パッド3(表層板部31)の上面にレール1の底面が当接されてレール1が載置された状態で固定される。
【0018】
ベース21に載置されたレール1の両側位置には、一端25a側の上に他端25b側が重ねられた状態で板ばね25がショルダ22に取り付けられている。板ばね25は、一端25a側及び他端25bの重ねられた箇所に図示せぬ取付孔が穿設されており、かかる取付孔を介してショルダ22から上方に突設されたボルト26が挿入され、ボルト26にナット27が締結されて固定される。かかる状態で、一端25aにてレール1の底部が軌道パッド3の方向に上方から押圧されることで、締結装置2にレール1が位置決め固定される。
【0019】
図2乃至図5に示すように、本実施例の軌道パッド3は、ゴム材料にて成形される基板部30と、基板部30の上面に一体に接合され、基板部30の上面より摩擦係数が低い合成樹脂にて成形される薄板状の表層板部31と、表層板部31のレール底面との当接面に形成される加工面32等とを具備してなるものである。本実施例の軌道パッド3は、タイプレート20に合わせた規格寸法の形状に形成されており、基板部30の上面と表層板部31の下面とが水平の接合面を介して一体に固着されている。
【0020】
基板部30は、ゴム材料にて成形された所定の厚さ(6mm~12mm)のゴム板として構成され、本実施例では一例として、上述した可変パッド24の上面に設置される所定の設定寸法(例えば、平面視で140mm×180mm~200mm)の平面視矩形状の本体部30aと、本体部30aの長手方向の端部に側方に向けて突出された所定の設定寸法(例えば、平面視で200mm×50mm)の張出部30bが設けられ、全体として平面視略H字形状となるように構成されている。
【0021】
本体部30aは、下面にレール1の長手方向(軌道の長さ方向)に沿って直線状に延出される複数の突起部30cが形成されており、突起部30cが可変パッド24の上面に圧接して、可変パッド24と軌道パッド3との圧着状態が維持されるように構成されている。
【0022】
張出部30bは、タイプレート20に軌道パッド3が設置された状態でベース21より突出してショルダ22と係合可能に形成されており、両側の張出部30b・30bにてショルダ22の両端が挟まれることで、タイプレート20に設置された軌道パッド3がレール1の長手方向に沿って移動しないように規制されている。
【0023】
ゴム材料の原料ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、シリコーンゴム(Q)等の公知のゴム種が用いられる。これらの原料ゴムには、その他に充填剤、加硫剤、加硫促進剤、補強剤、軟化剤、可塑剤、起泡剤、ゲル化剤、加工助剤、老化防止剤等、一般に用いられる各種配合剤が配合される。
【0024】
表層板部31は、後述する所定の合成樹脂にて成形された所定の厚さ(1mm~2mm)の合成樹脂板として構成され、基板部30の長手方向(軌道の長さ方向)に渡って本体部30aの全域と張出部30bの一部の領域を覆う所定の設定寸法(例えば、平面視で140mm×280mm~300mm)の平面視矩形状に形成されている。このように表層板部31が配設されることで、基板部30がレール1と接触することなく表層板部31の上面がレール1の底面と当接される。
【0025】
表層板部31は、上面がレール1の底面と接触されるため、基板部30の上面と比べて表面硬度が高く、摩擦係数が低い合成樹脂より成形され、本実施例では、そのような合成樹脂としてエンジニアリング・プラスチックの一種であるポリエステル系樹脂が用いられる。ポリエステル系樹脂の中でも、機械的特性、耐熱性、耐油性、耐摩擦・摩耗性、成形性等に優れ、かつ吸水率が低く寸法安定性に優れるという点でポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂が好ましく用いられる。
【0026】
ポリエステル系樹脂は、鋼材に対する摩擦係数が低く軌道パッド3に載置されたレール1に対して優れた滑り性能を発揮できるとともに、比重(例えば、ポリブチレンテレフタレート樹脂において1.31)も鋼板(例えば、SUS430において7.75)に比べて低いため軌道パッド3の軽量化を図ることができる。また、合成樹脂の中で溶融温度が高く、軌道パッド3の成形時の加硫温度で溶融しない。
【0027】
ポリブチレンテレフタレート樹脂としては、例えば、ジカルボン酸成分(テレフタル酸等)及びジオール成分(1,4-ブタンジオール等)を用いて単独重合されたポリブチレンテレフタレート単独重合体や、テレフタル酸及び1,4-ブタンジオールに、ジカルボン酸成分(ドデカンジオン酸等)及びジオール成分(ポリテトラメチレングリコール、テトラメチレンオキシドグリコール等)が共重合されたポリブチレンテレフタレート共重合体を用いることができる。なお、これらのポリブチレンテレフタレート樹脂は、それぞれ単独で用いてもよく、又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0028】
また、ポリブチレンテレフタレート樹脂以外のポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリナフタレンテレフタレート(PEN)樹脂、ポリ(1,4-シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)(PCT)樹脂等が挙げられる。なお、これらのポリエステル系樹脂は、上述したポリブチレンテレフタレート樹脂に加えてもよく、又はそれぞれ単独でも2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
表層板部31は、煮沸吸水率が1.0重量%以下であり、好ましくは0.8重量%とした合成樹脂板が用いられる。煮沸吸水率は、JIS K6911によって評価される。ポリエステル系樹脂の配合成分中に、親水性のモノマー/ポリマー等の高分子化合物、親水性の粘度調整剤、親水性の充填材、及びその他親水性の成分等が多量に含まれると、ポリエステル系樹脂に含まれ得る水分量が大きくなり煮沸吸水率も大きくなる。そのため、表層板部31においては、ポリエステル系樹脂の配合成分とその配合比を適宜選定するか、又は均質混練により配合材表面に樹脂を均一被覆させること等より、任意の煮沸吸水率のものを得ることができる。表層板部31の煮沸吸水率を1.0重量%以下とすることで、高湿度下で長時間使用後の寸法安定性を向上することができる。
【0030】
図3図6及び図7に示すように、加工面32は、表層板部31のレール1の底面との当接面に形成され、一方の縁部から対向する縁部に至るまで延びる複数条の凹溝33、及び凹溝33にて区画された面一の平滑面を有する複数の凸部34を有する微細な凹凸パターンにて構成されている。本実施例の加工面32は、表層板部31の全面に渡って一様な大きさの凹溝33及び凸部34から構成されている。
【0031】
凹溝33は、軌道の長さ方向に沿って穿設される複数条の縦凹溝33aと、縦凹溝33aと交差して軌道の幅方向に沿って穿設される複数条の横凹溝33bとが設けられおり、全体として平面視格子状の加工パターンとなるように表層板部31の表面に渡って形成されている。縦凹溝33aは、軌道の長さ方向の両端面に至るまで延出され、所定の離間を有するようにして幅方向に並列して形成されている。他方、横溝部33bは、軌道の幅方向の両端面に至るまで延出され、所定の離間を有するようにして長さ方向に並列して形成されている。
【0032】
凸部34は、凹溝33(縦凹溝33a及び横凹溝33b)にて周囲を囲繞されることでそれぞれが独立されたブロック状に区画されており、上面に平面視略正方形状の平滑面が形成されている。凸部34の上面は、表層板部31の上面を構成するものであり、各凸部34の上面が同一平面上に位置する面一の平滑面とされることで、各凸部34がレール1の底面と当接される。
【0033】
加工面32は、表層板部31の設定寸法に応じて凹溝33の溝幅W、凹溝33の深さH(凸部34の高さ)、及び凸部34の水平断面の一片の長さLが適宜選択される。例えば、本実施例の軌道パッド3では、表層板部31の設定寸法に合わせて、凹溝33の溝幅W(縦凹溝33aの溝幅W1、横凹溝33bの溝幅W2)が0.2mm~1.0mmの範囲で形成され、また、凸部34の一片の長さL(軌道の長さ方向の長さL1、軌道の幅方向の長さL2)が1.5mm~5.0mmの範囲で形成される。特に、凹溝33の深さHは、凸部34(表層板部31)の表面摩耗を考慮して少なくとも0.15mm以上となるように形成されるのが好ましい。
【0034】
軌道パッド3の製造方法としては、公知の方法を採用することができ、未加硫の基板部30と表層板部31とを加硫接着させる方法や、加硫成形された基板部30に表層板部31を接着させる方法等が挙げられる。例えば、加硫接着法を採用する場合には、予め表層板部31の下面に所定の加硫接着剤を均一に塗布しておき、表層板部31とともに未加硫の基板部30が収容された金型に熱と圧力をかけ、加硫温度(約150℃~200℃)及び時間(約5~30分)をコントロールしながら加硫速度を調整して、未加硫の基板部30を加硫成形させる。加硫接着法によれば、ゴム材料のゴム加硫時に基板部30に表層板部31が接着され、基板部30の上面と表層板部の下面とが接合界面としての接合面を介して一体に固着された軌道パッド3が得られる。
【0035】
未加硫の基板部30としては、所定の原料ゴムを主成分としてその他の各種配合剤と所定の配合量にて配合してゴム材料を調製し、密閉式混練機やオープンロール等を用いて充分に混練したものが用いられる。
【0036】
表層板部31は、所定の合成樹脂を公知の方法(射出成形等)で成形されたものが用いられる。表層板部31の加工面32は、表層板部31の射出成形やブロー成形と同時に形成することができ、その際には、エッチングやサンドブラスト等により、キャビティ面に加工面32の凹溝33及び凸部34の加工パターンに対応する微細な凹凸が予め成形された金型が用いられる。
【0037】
以下に、一例として、所定の設定寸法(基板部の厚さ:10mm、表層板部の厚さ:1mm、加工面の凹溝の溝幅W:0.3mm、同じく深さH:0.3mm、同じく凸部の一片の長さL:2.7mm×2.7mm)の本実施例の軌道パッド(実施例1)とともに、ポリエステル系樹脂以外の合成樹脂を用いた同寸法の合成樹脂板付き軌道パッド(比較例1~3)を調製し、各試料体の接着性及び吸水性を比較評価した。
【0038】
本実施例の軌道パッドは、従来のJIS-E1117「緩衝用軌道パッド」に従うように未加硫の基板部(静的ばね定数58.8MN/m)を調製し、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂(ノバデュラン5010R5/三菱エンジニアリングプラスチックス社製)にて成形された表層板部に加硫接着剤(ケムロック233X/ロード・ジャパンインク社製)を塗布して乾燥した後、金型にて表層板部とともに基板部を加硫温度160℃で15分間加硫させることで試料体(実施例1)を良好に得ることができた。
【0039】
比較例1の合成樹脂板付き軌道パッドとしては、実施例1と同様に未加硫の基板部(静的ばね定数58.8MN/m)を調製し、変性ポリフェニレンエーテル(m・PPE)樹脂(レマロイBX505/三菱エンジニアリングプラスチックス社製)にて成形された表層板部に加硫接着剤(ケムロック6108/ロード・ジャパンインク社製)を塗布して乾燥した後、金型にて表層板部とともに基板部を加硫温度160℃で15分間加硫させることで試料体(比較例1)を得た。
【0040】
比較例2の合成樹脂板付き軌道パッドとしては、実施例1と同様に未加硫の基板部(静的ばね定数58.8MN/m)を調製し、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂(No.7991 PTFE片面処理/バルカー社製)にて成形された表層板部に加硫接着剤(ケムロック6125/ロード・ジャパンインク社製)を塗布して乾燥した後、金型にて表層板部とともに基板部を加硫温度160℃で15分間加硫させることで試料体(比較例2)を得た。
【0041】
比較例3の合成樹脂板付き軌道パッドとしては、実施例1と同様に未加硫の基板部(静的ばね定数58.8MN/m)を調製し、ポリアミド(PA6)樹脂(東レ社製)にて成形された表層板部に加硫接着剤(ケムロック6108/ロード・ジャパンインク社製)を塗布して乾燥した後、金型にて表層板部とともに基板部を加硫温度160℃で15分間加硫させることで試料体(比較例3)を得た。
【0042】
上記試料体(実施例1、比較例1~3)の接着性評価は、JIS K6850に準じて、23℃、50%RHの条件下で引張速度20mm/分で剥離試験(n=5)を行い、剪断剥離時の引張強度(MPa)の値と破壊形態の状態を目視観察より評価した。その結果、表1に示すように、本実施例の軌道パッド(実施例1)は、基板部の基材破壊のみが認められ、従来の合成樹脂板付き軌道パッド(比較例3)と同程度の接着性を有することが確認された。
【0043】
また、上記試料体(実施例1、比較例1~3)の吸水性評価は、JIS K6911に準じて、40mm×50mmに打ち抜いた試験片を50℃に保ったギアオーブン内で24時間乾燥処理(前処理)を行い、次いで沸騰蒸留水中に試験片を入れて1時間煮沸し、20±10℃の流水で30分間冷却した後、煮沸前と煮沸後の重さの変化率(重量%)として求められる煮沸吸水率(重量%)の値より評価した。その結果、表1に示すように、本実施例の軌道パッド(実施例1)は、他の合成樹脂板付き軌道パッド(特に、比較例1及び比較例3)と比較して煮沸吸水率が1.0重量%以下の0.6重量%と小さく吸水性に優れることが確認された。
【0044】
【表1】
【0045】
以上のように、本実施例の軌道パッド3は、タイプレート20とレール1の底面との間に介設される軌道パッド3において、ゴム材料にて成形される基板部30と、基板部30の上面に固着され、摩擦係数が前記基板部の上面の摩擦係数より低い合成樹脂であるポリエステル系樹脂にて成形される薄板状の表層板部31と、表層板部31のレール1の底面との当接面に形成され、一方の縁部から対向する縁部に至るまで延びる複数条の凹溝33、及び凹溝33にて区画された面一の平滑面を有する複数の凸部34を有する加工面32と、を具備してなるため、レール1に対する滑り性能と吸湿・吸水性に優れるとともに、基板部30と表層板部31とが容易に剥離するのを防止することができるのである。
【0046】
すなわち、本実施例の軌道パッド3は、基板部30の表面に摩擦係数が低く、高い機械的強度を有する合成樹脂であるポリエステル系樹脂にて成形される表層板部31を具備してなるため、従来の鋼板付き軌道パッドと比べて、軽量化を図れるとともに、サビに起因する摩擦抵抗の低下がなく滑り性能に優れるとともに、従来のポリアミド系樹脂を用いた合成樹脂板付き軌道パッドと比べても吸湿・吸水による寸法安定性に優れ、軌道パッド3の表層板部31の膨張・変形を防止して、使用時にレールのふく進や列車通過時の振動を受けても基板部30と表層板部31が容易に剥離することがない。
【0047】
特に、本実施例の軌道パッド3は、表層板部31に複数条の凹溝33と凹溝33にて区画された複数の凸部34を有する加工面32が形成されているため、凹溝33により表層板部31の摩耗により生じた摩耗粉を表層板部31の上面やレール1の底面より逃がすことができ、表層板部31とレール1の底面との間での摩耗粉の噛み込みに起因する摩擦抵抗の発生を防止して、上述したレール1の滑り性能を向上することができる。
【0048】
また、加工面32において、凹溝33が軌道の長さ方向に沿って穿設される複数条の縦凹溝33aと、縦凹溝33aと交差して軌道の幅方向に沿って穿設される複数条の横凹溝33bとが設けられた平面視格子状の加工パターンにて形成されるため、特に、レール1の主な摺動方向である軌道の長さ方向と直交する軌道の幅方向にそれぞれ縦凹溝33a及び横凹溝34bが設けられることで、表層板部31の摩耗粉を効果的に系外に逃がすことができ、レール1の滑り性能をより向上することができる。
【0049】
なお、軌道パッド3の構成としては、上述した実施例に限定されず、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0050】
すなわち、上述した実施例の軌道パッド3は、基板部30が所定の設定寸法にて本体部30a及び張出部30bを有する平面視略H字形状となるように形成される構成について説明したが、基板部30の形状はこれに限定されず、例えば、張出部30bを有さない平面視矩形状に形成された形状や、張出部30bが長手方向の両端部の一部より外側方向に突出され下方に屈曲されて形成された形状等に構成されてもよい。
【0051】
また、上述した実施例では、表層板部31が一体成形された合成樹脂板が基板部30の上面の一部を覆う形状に形成される構成について説明したが、かかる表層板部31の構成はこれに限定されず、例えば、表層板部31が複数の合成樹脂板を組み合わせて形成されてもよく、また、基板部30(本体部30a及び張出部30b)の全面を覆う形状に形成されてもよい。
【0052】
また、上述した実施例では、加工面32にて凹溝33が平面視格子状の加工パターンにて形成される構成について説明したが、加工面32の加工パターンがこれに限定されず、少なくとも凹溝33として軌道の長さ方向に沿って穿設される複数条の縦凹溝33aのみを設けた加工パターンや、隣接する縦凹溝33a及び横凹溝33cの離間を異ならせた加工パターンや、凸部34がランダムに配置される加工パターンにて構成されてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 レール
2 締結装置
3 軌道パッド
20 タイプレート
21 ベース
22 ショルダ
23 ボルト
24 可変パッド
25 板ばね
25a 一端
25b 他端
26 ボルト
27 ナット
30 基板部
30a 本体部
30b 張出部
30c 突起部
31 表層板部
32 加工面
33 凹溝
33a 縦凹溝
33b 横凹溝
34 凸部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7