(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】ガリレオ式広角中心窩望遠鏡
(51)【国際特許分類】
G02B 25/00 20060101AFI20231124BHJP
G02B 23/00 20060101ALI20231124BHJP
G02B 13/18 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
G02B25/00
G02B23/00
G02B13/18
(21)【出願番号】P 2019152285
(22)【出願日】2019-08-22
【審査請求日】2022-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】599016431
【氏名又は名称】学校法人 芝浦工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 創太
【審査官】殿岡 雅仁
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-264411(JP,A)
【文献】特開昭63-158516(JP,A)
【文献】特開平09-258114(JP,A)
【文献】特開平05-066347(JP,A)
【文献】特表2016-527067(JP,A)
【文献】特開2011-107631(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 9/00 - 17/08
G02B 21/02 - 21/04
G02B 23/00 - 23/22
G02B 25/00 - 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アフォーカル系の光学系であり、
物体側から順に、1枚
の第1レンズで構成され、中央部が
入射する平行光束を狭めるような正の屈折力を有し、周辺部が
入射する平行光束を広げるような負の屈折力を有する前群と、
物体側から順に1枚の第2レンズと1枚の第3レンズとから構成され、
全体として、中央部が
入射する平行光束を広げるような負の屈折力を有し、周辺部が
入射する平行光束を狭めるような正の屈折力を有する後群とからなる
ことを特徴とするガリレオ式広角中心窩望遠鏡。
【請求項2】
前記第2レンズは、中央部が
負の屈折力を有し周辺部が
正の屈折力を有する
ことを特徴とする請求項1に記載のガリレオ式広角中心窩望遠鏡。
【請求項3】
視野中心の倍率をα1、視野外周の倍率をα2としたときに、倍率比α1/α2が3以
上であることを特徴とする請求項1または2に記載のガリレオ式広角中心窩望遠鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガリレオ式広角中心窩望遠鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
遠くの物を拡大して見るための双眼鏡や単眼鏡等の望遠鏡として、対物レンズと接眼レンズに凸レンズを用いたケプラー式のレンズ構成と、対物レンズに凸レンズを接眼レンズに凹レンズを用いたガリレオ式のレンズ構成とが知られている。ガリレオ式のレンズ構成は、正立像となるが、ケプラー式のレンズ構成では、倒立像となる。このため、双眼鏡や単眼鏡をケプラー式のレンズ構成とする場合には、対物レンズと接眼レンズとの間にリレーレンズやプリズム等の像を反転するためのレンズ系を設けている。
【0003】
一方、人の眼をモデルにして、視野が広く、しかも中心部では高い解像度が得られる広角中心窩光学系と称される撮像レンズ(結像系)が特許文献1により知られている。このような広角中心窩光学系では、視野の中央部の光学倍率を周辺よりも高くすることにより、中央部から注目する物体に関する多くの画像情報を得、周辺部から広範囲な情報が得られるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、広角中心窩光学系を望遠鏡(アフォーカル系)で実現する場合では、ケプラー式のものが有利である。これは、倍率の上昇にともなう視野の広さの低下の程度がケプラー式に比べてガリレオ式のレンズ構成によるものが顕著であるからである。しかしながら、ケプラー式の望遠鏡では、正立像とするために、上記のようにリレーレンズやプリズム等のレンズ系が必要になるため、望遠鏡の全長、重量が大きくなってしまい、使用者にとって取り扱いや持ち運びといった利便性を損ねるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、広角中心窩光学系であって全長を短くするうえで有利なガリレオ式広角中心窩望遠鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のガリレオ式広角中心窩望遠鏡は、アフォーカル系の光学系であり、物体側から順に、1枚以上のレンズで構成され、中央部が正の屈折力を有し、周辺部が負の屈折力を有する前群と、1枚以上のレンズで構成され、中央部が負の屈折力を有し、周辺部が正の屈折力を有する後群とからなるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のガリレオ式広角中心窩望遠鏡によれば、中央部が正の屈折力を有し周辺部が負の屈折力を有する前群と、中央部が負の屈折力を有し周辺部が正の屈折力を有する後群とからなるレンズ構成としたので、視野が広くかつ中心部では高い倍率が得られる広角中心窩光学系の望遠鏡の全長を短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】数値実施例1の望遠鏡のレンズ構成を示す断面図である。
【
図2】数値実施例2の望遠鏡のレンズ構成を示す断面図である。
【
図3】望遠鏡と瞳への各入射角を説明する説明図である。
【
図4】望遠鏡の観察像のシミュレーション画像を示す画像である。
【
図5】従来の望遠鏡による観察範囲及び像の大きさを示す画像である。
【
図6】数値実施例1の望遠鏡についての入射角θ
1と瞳への入射角θ
2との関係を示すグラフである。
【
図7】数値実施例1の望遠鏡の収差を示す収差図である。
【
図8】数値実施例2の望遠鏡についての入射角θ
1と瞳への入射角θ
2との関係を示すグラフである。
【
図9】数値実施例2の望遠鏡の収差を示す収差図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態に係るガリレオ式広角中心窩望遠鏡のレンズ構成例を
図1及び
図2に示す。
図1及び
図2は、それぞれ後述する数値実施例1及び数値実施例2のガリレオ式広角中心窩望遠鏡(以下、単に望遠鏡という)10にそれぞれ対応しており、基本的な構成は同様である。以下では、
図1の構成を参照しながら本発明の実施形態に係る望遠鏡10について説明する。
【0011】
望遠鏡10は、広角すなわち広い視野(実視界)、かつ視野の中央部で周辺部よりも高い倍率が得られる広角中心窩光学系である。この望遠鏡10は、単眼鏡として、あるいは一対の望遠鏡10により双眼鏡として利用することができる。この望遠鏡10を用いた場合、視野の中央部で観察対象を捉えて詳細に観察することができるとともに、例えば観測対象が移動したり望遠鏡10の向きが変化したりすることで、望遠鏡10に対する観察対象の方向が大きく変化してしまう場合でも、観察対象を望遠鏡10の視野内に留めておくことが可能であり、観察対象を視野の中央に容易に戻して詳細な観察を継続することができる。
【0012】
望遠鏡10では、視野の中央部では歪曲を小さくしつつ、中央部から周辺部に向けて歪曲収差の係数を大きく変化させ、周辺部において大きな負の歪曲収差を発生させる。これにより、望遠鏡10を広角とし、かつその視野の中央部の倍率をより高いものとしている。
【0013】
望遠鏡10は、物体側から順に、前群Gfと後群Grとから構成されるアフォーカル系レンズであり、アイポイントEPに位置する観察眼により望遠鏡10を通した好ましい観察が可能である。前群Gfは、1枚の第1レンズL1からなる。後群Grは、物体側から順に、第1レンズ群Gr1と第2レンズ群Gr2とから構成され、第1レンズ群Gr1は、1枚の第2レンズL2からなり、第2レンズ群Gr2は、1枚の第3レンズL3からなる。
【0014】
前群Gfとしての第1レンズL1は、中央部の屈折力(レンズパワー)P1cが正であり、周辺部の屈折力P1pが負である。後群Grは、その後群Gr全体について、中央部の屈折力Prcが負であり、周辺部の屈折力Prpが正である。
【0015】
この例では、第2レンズL2は、中央部の屈折力P2cが負、周辺部の屈折力P2pが正となっており、この第2レンズL2が主として、中央部が負、周辺部が正となる後群Grの屈折力をコントロールしている。一方の第3レンズL3は、主として、アイポイントにおける各入射方向からの光束の径を均一にしながらアイレリーフ(射出ひとみ距離)を短くして見掛け視界(=倍率×実視界)を大きくしている。このように、見掛け視界を大きくすなわち視野内の像を網膜上に広く投影することで、網膜上での像倍率を高くしながらも広い視野を確保する上で有利にしている。
【0016】
すなわち、望遠鏡10は、下記条件(1)~(3)を満たす。
(1)P1c>0、P1p<0
(2)Prc<0、Prp>0
(3)P2c<0、P2p>0
【0017】
上記条件(1)と条件(2)は、視野の中央部の倍率をより高くしながらより広い視野を得るための条件であり、これらの条件により、望遠鏡10は、視野の中央部がガリレオ式であって周辺部が逆ガリレオ式のレンズ構成となる。
【0018】
図1及び
図2に示す例では、前群Gf、第1レンズ群Gr1及び第2レンズ群Gr2を、それぞれ1枚のレンズで構成しているが、第1レンズL1、第2レンズL2及び第3レンズL3と同等の機能を有するように、前群Gf、第1レンズ群Gr1及び第2レンズ群Gr2のそれぞれを、またはそれらの一部を複数枚のレンズで構成してもよい。また、後群Grを1枚のレンズで構成してもよい。上記条件(1)、(2)に対応する前群Gf及び後群Grの各屈折力の関係は、前群Gfの中央部の屈折力をPfc、周辺部の屈折力をPfpとして、次の各条件(1a)、(2a)のようになる。なお、
図1及び
図2に示す例のように、後群Grを複数枚のレンズで構成することは、それによって後群Grの各レンズの面形状の自由度を高くすることができるので、レンズ加工を容易にする観点から好ましい態様である。
(1a)Pfc>0、Pfp<0
(2a)Prc<0、Prp>0
【0019】
上記のようなレンズ構成により、望遠鏡10は、その全長を短くすることが可能である。また、望遠鏡10を構成するレンズの枚数を少なくできるので、望遠鏡10の重量を低減する上で有利である。
【0020】
望遠鏡10は、視野の中央部で高い倍率を得ながら十分な広い視野を得るという観点から、その視野中心の倍率α
1の視野外周の倍率α
2に対する倍率比が3以上(α
1/α
2≧3)であることが好ましい。ここでいう倍率α
1、α
2は、
図3に示すように、肉眼で見た物体の角度(望遠鏡への入射角)θ
1(°)に対する、望遠鏡10を通して見たときの同じ物体のみかけの像の角度(瞳または網膜への入射角)θ
2(°)の比(=θ
2/θ
1)であって、光軸上の共役点を通る共役な光線の光軸に対する角度の比(角倍率)である。
【0021】
なお、視野中心の倍率α
1に対応する入射角θ
1、θ
2は、いずれも「0°」になるが、この場合に、視野中心の倍率α
1は、例えば、後述する
図6及び
図8のように、入射角θ
1と入射角θ
2との関係を示す像高カーブの傾きによって求めることができる。
【0022】
図4に望遠鏡10によって観察される観察像をシミュレーションしたシミュレーション画像を示す。このシミュレーション画像は、
図5に示す広角画像から作成したものである。広角画像は、望遠鏡10の実視界と同等の広視野の望遠鏡によって観察される観察像の範囲と像の大きさを示すものであるが、実際にはシミュレーション画像が想定する望遠鏡10による観察位置から、対角画角が望遠鏡10の実視界と同程度となる広角レンズを用いて撮影した画像である。
図5の広角画像からわかるように、一般的に、望遠鏡の実視界を広くすると、望遠鏡の向き(光軸の方向)を変化させなくても広い範囲を観察できるが、倍率が低く視野内の観察対象を十分に認識するのが難しい。これに対して、望遠鏡10では、
図4のシミュレーション画像からわかるように、広角画像と同様な広い範囲を観察しながら、中央部の観察対象を高い倍率で観察できる。
【0023】
次に、望遠鏡10の数値実施例について説明する。
【0024】
[数値実施例1]
図1に示されるように、数値実施例1の望遠鏡10は、物体側から順に、前群Gfとしての第1レンズL1と、後群Grの第1レンズ群Gr1としての第2レンズL2及び第2レンズ群Gr2としての第3レンズL3とから構成される3枚構成である。第1レンズL1は、中央部の屈折力P1cが正、周辺部の屈折力P1pが負である。後群Grは、その全体で中央部の屈折力Prcが負であり、周辺部の屈折力Prpが正である。また、第2レンズL2は、中央部の屈折力P2cが負、周辺部の屈折力P2pが正である。
【0025】
数値実施例1の望遠鏡10のレンズデータを表1に示す。表1中の「面番号」は、物体側から順にレンズ面に付した番号である。面番号に付した「*」は、その面が非球面であることを示している。「曲率半径」の欄には、各レンズ面の曲率半径を、「面間隔」の欄には、各レンズ面の光軸上における次のレンズ面との間のレンズ厚みあるいは空気間隔をそれぞれ示している。面番号「6」の「面間隔」の欄には、望遠鏡10のアイレリーフを示してある。曲率半径及び面間隔の単位は「mm」である。「nd」の欄には、各光学要素のd線(波長587.6nm)に対する屈折率を示し、「νd」の欄には、各光学要素のd線に対するアッベ数を示す。「Materials」の欄には、各光学要素の材料(この例では樹脂の種類)を示しており、「PMMA」は、ポリメタクリル酸メチル樹脂である。なお、空気間隔に対応する「Materials」の欄には「空気」を記してある。アイレリーフは、光軸上における第3レンズL3の瞳側の最後面から射出瞳(アイポイント)までの距離である。
【0026】
【0027】
レンズの非球面形状は、表2に示される円錐係数k、非球面係数A2、A4、A6・・・を用いて次の非球面式で表される。
【0028】
【0029】
上記式中の各値は次の通りである。
Z:光軸方向のサグ量(mm)
s:光軸からの距離(mm)
C:曲率(近軸曲率半径の逆数)
k:円錐定数
A4、A6、A8・・・:4次、6次、8次・・・の非球面係数
【0030】
【0031】
上記レンズデータに示される数値実施例1の望遠鏡10の主要な諸元は、下記の通りである。レンズ全長は、光軸上におけるレンズ最前面からレンズ最後面までの距離である。また、数値実施例1の望遠鏡10についての、上述の入射角θ
1と入射角θ
2との関係(像高カーブ)を
図6に示す。
図6の像高カーブの傾きは、望遠鏡10の倍率を示している。
レンズ全長 :29.97mm
射出瞳径 :2.0mm
実視界(2ω):30°
倍率比(α
1/α
2):20(倍率α
1:5.0倍、倍率α
2:0.25)
【0032】
上記のように数値実施例1の望遠鏡10は、全長が約30mmと短いながらも、30°という広い視界と、視野の中央部で5倍という高い倍率が得られている。また、
図6のグラフから、望遠鏡10の視野の中央部では、大きな倍率が得られ、そして視野の中央部から周辺部に向かって倍率が急激に低下して、広い視野が得られていることがわかる。
【0033】
上記望遠鏡10の像面湾曲と歪曲収差を
図7にそれぞれ示す。
図7では、F線(波長486.1nm)、d線、C線(波長656.3nm)についての像面湾曲を示してあり、実線がタンジェンシャル像面の像面湾曲を、破線がサジタル像面における像面湾曲を示している。また、
図7に示される像面湾曲と歪曲収差からわかるように、望遠鏡10は、視野全体に渡って良い結像が得られる。中でも0.5°以下の小さな入射角度に対応した視野中心部分において歪みの少ない特に非常に良い結像を得ることが出来る。さらに1.5°から10°までの視野範囲において,徐々にひずみが大きくなりながら特に良い結像を得ることが出来る。
【0034】
[数値実施例2]
数値実施例2の望遠鏡10は、
図2に示されるように、数値実施例1の望遠鏡10と同じく、物体側から順に、前群Gfとしての第1レンズL1と、後群Grの第1レンズ群Gr1としての第2レンズL2及び第2レンズ群Gr2としての第3レンズL3とから構成される3枚構成である。第1レンズL1は、中央部の屈折力P1cが正、周辺部の屈折力P1pが負である。後群Grは、その全体で中央部の屈折力Prcが負であり、周辺部の屈折力Prpが正である。また、第2レンズL2は、中央部の屈折力P2cが負、周辺部の屈折力P2pが正である。
【0035】
数値実施例2の望遠鏡10のレンズデータを次の表3に示す。また、望遠鏡10の各レンズの非球面形状は、表4に示される円錐係数k、非球面係数A
2、A
4、A
6・・・を用いて上述の非球面式で表される。
図8に望遠鏡10についての入射角θ
1と入射角θ
2との関係を示す像高カーブを、また
図9に望遠鏡10についての像面湾曲と歪曲収差をそれぞれ示す。表3、表4の項目、
図9の像面湾曲と歪曲収差は、数値実施例1のものと同様に示してある。
【0036】
【0037】
【0038】
上記レンズデータに示される数値実施例2の望遠鏡10の主要な諸元は、下記の通りである。
レンズ全長 :23.57mm
射出瞳径 :4mm
実視界(2ω):30°
倍率比(α1/α2):3.0(倍率α1:1.5、倍率α2:0.5)
【0039】
数値実施例2の望遠鏡10についても、全長を約20mmと短くしながらも、30°という広い視界と、視野の中央部での1.5倍という高い倍率が得られている。また、
図8のグラフからわかるように、数値実施例2の望遠鏡10についても、視野の中央部で大きな倍率が得られ、そして視野の中央部から周辺部に向かって倍率が急激に低下して、広い視野が得られていることがわかる。さらに、
図9に示される像面湾曲と歪曲収差からわかるように、望遠鏡10は、視野全体に渡って特に良い結像が得られる。
【符号の説明】
【0040】
10 望遠鏡
Gf 前群
Gr 後群
Gr1 第1レンズ群
Gr2 第2レンズ群
L1~L3 レンズ