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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】オキシトシン誘導体及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/16 20060101AFI20231124BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231124BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20231124BHJP
   A61P 15/04 20060101ALI20231124BHJP
   A61K 38/095 20190101ALI20231124BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
C07K7/16 ZNA
A61P43/00 111
A61P25/00
A61P15/04
A61K38/095
A61P25/18
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020563200
(86)(22)【出願日】2019-12-20
(86)【国際出願番号】 JP2019050089
(87)【国際公開番号】W WO2020137880
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2018246141
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】東田 陽博
(72)【発明者】
【氏名】横山 茂
(72)【発明者】
【氏名】チェレパノフ スタニスラフ ミハイロヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】周東 智
(72)【発明者】
【氏名】一ノ瀬 亘
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-516460(JP,A)
【文献】特表2013-543492(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0130985(US,A1)
【文献】特表2004-527496(JP,A)
【文献】特開昭56-150050(JP,A)
【文献】The Journal of Medicinal Chemistry,2019年03月21日,Vol.62,p.3297-3310
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 7/16
A61K 38/095
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(5)で表される化合物若しくはその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物。
【化1】
【請求項2】
請求項1に記載の化合物若しくはその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物を有効成分とする、オキシトシン受容体作動薬。
【請求項3】
神経発達障害若しくは精神疾患の治療剤又は子宮収縮剤である、請求項2に記載のオキシトシン受容体作動薬。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のオキシトシン受容体作動薬と、薬理学的に許容される担体とを含む、オキシトシン受容体作動用医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オキシトシン誘導体及びその使用に関する。より具体的には、本発明は、新規オキシトシン誘導体、オキシトシン受容体作動薬、オキシトシン受容体作動用医薬組成物に関する。本願は、2018年12月27日に、日本に出願された特願2018-246141号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
オキシトシン(CAS番号:50-56-6)は、下記式(A)で表される化合物であり、下垂体後葉から分泌されるペプチドホルモンである。
【0003】
【化1】
【0004】
オキシトシンは、子宮、乳腺等の末梢器官及び中枢神経系に存在し、子宮収縮や、乳分泌を誘発することが知られている。オキシトシンはまた、ヒトを含む哺乳動物における、社会的ふるまい、認識、記憶等の社会的コミュニケーションを増強することが知られている。
【0005】
ところで、自閉症スペクトラム障害(ASD)は、社会的コミュニケーション、社会的相互作用、反復性行動、制限された関心等を特徴とする先天性疾患である。ASDの治療法が検討されているが、まだ有効な治療薬が存在しないのが現状である。
【0006】
オキシトシンは、ASD患者の異常な社会的コミュニケーション行動に関連している可能性がある。例えば、ASD患者は、血液又は唾液腺におけるオキシトシン濃度が低いことが報告されている。また、ASD患者ではオキシトシン受容体のコード領域及び非コード領域に高頻度の遺伝子変異が検出されることが報告されている。また、オキシトシンシグナル伝達に関連する膜貫通タンパク質であるCD38の遺伝子変異は、マウスに自閉症様症状を引き起こすことが知られている。また、CD38の一塩基多型はASDと関連していることが知られている。これらの事象は、社会的行動におけるオキシトシンシグナル伝達の重要性を示唆している。
【0007】
したがって、オキシトシンは、神経発達障害若しくは精神疾患を有する患者における正常な社会的行動を回復させる新薬の開発のための有益なリード化合物であり得る。
【0008】
カルベトシン(CAS番号:37025-55-1)は、オキシトシンの誘導体であり、オキシトシンとともに子宮収縮剤等として利用されている。しかしながら、オキシトシンやカルベトシンは、バソプレシン受容体、特にV受容体に対する選択性が欠如していることが知られている。このため、オキシトシンやカルベトシンの投与中に、抗利尿、低ナトリウム血症等の副作用が観察される場合がある。
【0009】
オキシトシンの薬理学的特性を改善するため、様々なオキシトシン誘導体が合成されてきた(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第5539310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような背景のもと、本発明は新規オキシトシン誘導体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は以下の態様を含む。
[1]下記式(1)で表される化合物若しくはその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物(下記式(1)中、Xは硫黄原子又はメチレン基であり、Rは下記式(2)又は下記式(3)で表される基である。)。
【化2】
[2][1]に記載の化合物若しくはその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物を有効成分とする、オキシトシン受容体作動薬。
[3]神経発達障害若しくは精神疾患の治療剤又は子宮収縮剤である、[2]に記載のオキシトシン受容体作動薬。
[4][2]又は[3]に記載のオキシトシン受容体作動薬と、薬理学的に許容される担体とを含む、オキシトシン受容体作動用医薬組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、新規オキシトシン誘導体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実験例2における放射線競合アッセイの結果を示すグラフである。
図2】(a)~(d)は、実験例3における細胞内カルシウムイオン濃度の測定結果を示すグラフである。
図3】実験例5における尾懸垂試験の結果を示すグラフである。
図4】(a)及び(b)は、実験例6において、水及びショ糖溶液の消費量を定量した結果を示すグラフである。
図5】(a)~(c)は、実験例7において、各化合物の血漿中濃度を測定した結果を示すグラフである。
図6】実験例8において、各化合物の血漿中濃度の測定結果を示すグラフである。
図7】(a)~(c)は、実験例9において測定した運動競合曲線を示すグラフである。
図8】実験例10において、各化合物の子宮筋縮誘導効果を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[オキシトシン誘導体]
1実施形態において、本発明は、下記式(1)で表される化合物若しくはその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物を提供する。下記式(1)中、Xは硫黄原子又はメチレン基であり、Rは下記式(2)又は下記式(3)で表される基である。
【0016】
【化3】
【0017】
上記式(1)において、Xは硫黄原子であることが好ましい。実施例において後述するように、発明者らは、上記式(1)において、Xが硫黄原子であり、Rが上記式(2)で表される基である化合物(以下、「化合物2」という場合がある。)が、オキシトシン受容体のスーパーアゴニスト活性を有することを明らかにした。ここで、スーパーアゴニスト活性を有するとは、オキシトシン受容体に対する天然のリガンドであるオキシトシンよりもオキシトシン受容体活性化能が高いアゴニスト活性を有することを意味する。下記式(4)に化合物2の化学式を示す。
【0018】
【化4】
【0019】
また、発明者らは、上記式(1)において、Xが硫黄原子であり、Rが上記式(3)で表される基である化合物(以下、「化合物5」という場合がある。)が、オキシトシン受容体に対して長期間持続的な活性化効果を示すアゴニストであることを明らかにした。ここで、長期間とは、オキシトシン受容体に対する天然のリガンドであるオキシトシンよりもオキシトシン受容体活性化の持続時間が長いことを意味し、例えば、オキシトシン受容体に作用させてから24時間後においてもオキシトシン受容体の活性化効果を維持していることであってもよい。下記式(5)に化合物5の化学式を示す。
【0020】
【化5】
【0021】
本明細書において、薬学的に許容される塩としては、薬学的に通常用いられる塩が挙げられ、例えば、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩、アミノ酸付加塩等であることができる。より具体的には、例えば、塩酸塩、硫酸塩、臭化水素酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、酢酸塩、メシル酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩等の有機酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、亜鉛塩等の金属塩、アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等のアンモニウム塩、モルホリン、ピペリジン等の有機アミン付加塩、グリシン、フェニルアラニン、リジン、アスパラギン酸、グルタミン酸等のアミノ酸付加塩等が挙げられる。
【0022】
また、式(1)で表される化合物の溶媒和物、式(1)で表される化合物の塩の溶媒和物としては、薬学的に許容される溶媒和物であれば特に制限されず、例えば、水和物、有機溶媒和物等が挙げられる。
【0023】
[オキシトシン受容体作動薬]
1実施形態において、本発明は、上記式(1)で表される化合物若しくはその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物を有効成分とする、オキシトシン受容体作動薬を提供する。
【0024】
実施例において後述するように、発明者らは、上記式(1)で表される化合物が、オキシトシン受容体に対するアゴニスト活性を有することを明らかにした。なかでも、上記式(4)で表される化合物2は、オキシトシン受容体に対するスーパーアゴニスト活性を示す。また、上記式(5)で表される化合物5は、オキシトシン受容体に対して長期間持続的な活性化効果を示すアゴニストである。
【0025】
本実施形態のオキシトシン受容体作動薬において、塩、溶媒和物については上述したものと同様である。オキシトシン受容体作動薬は、神経発達障害又は精神疾患の治療剤であってもよいし、子宮収縮剤であってもよい。
【0026】
神経発達障害又は精神疾患としては、自閉スペクトラム症(ASD;アスペルガー症候群、高機能自閉症、カナー症候群を含む自閉症)、統合失調症、注意欠陥多動性障害(ADHD)、パーキンソン病に伴う精神疾患等が挙げられる。
【0027】
子宮収縮剤は、分娩誘発、分娩促進、分娩後の子宮からの失血を予防する止血剤(子宮収縮止血剤)等として用いることができる。
【0028】
[オキシトシン受容体作動用医薬組成物]
1実施形態において、上述したオキシトシン受容体作動薬は、薬理学的に許容される担体を含むオキシトシン受容体作動用医薬組成物として製剤化されていてもよい。
【0029】
上記の医薬組成物は、例えば、錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤等の形態で経口的に、あるいは、注射剤、坐剤、皮膚外用剤等の形態で非経口的に投与することができる。皮膚外用剤としては、より具体的には、軟膏剤、貼付剤等の剤型が挙げられる。
【0030】
薬学的に許容される担体としては、通常医薬組成物の製剤に用いられるものを特に制限なく用いることができる。より具体的には、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、アラビアゴム等の結合剤;デンプン、結晶性セルロース等の賦形剤;アルギン酸等の膨化剤;水、エタノール、グリセリン等の注射剤用溶剤;ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等の粘着剤等が挙げられる。
【0031】
医薬組成物は添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等の潤滑剤;ショ糖、乳糖、サッカリン、マルチトール等の甘味剤;ペパーミント、アカモノ油等の香味剤;ベンジルアルコール、フェノール等の安定剤;リン酸塩、酢酸ナトリウム等の緩衝剤;安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等の溶解補助剤;酸化防止剤;防腐剤等が挙げられる。
【0032】
医薬組成物は、上述したオキシトシン受容体作動薬と、上述した薬学的に許容される担体及び添加剤を適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することができる。
【0033】
医薬組成物の投与量は、患者の症状、体重、年齢、性別等によって異なり、一概には決定できないが、経口投与の場合には、例えば、投与単位形態あたり0.1~100μg/kg体重の有効成分(オキシトシン受容体作動薬)を投与すればよい。また、注射剤の場合には、例えば、投与単位形態あたり0.01~50μg/kg体重の有効成分を投与すればよい。
【0034】
また、医薬組成物の1日あたりの投与量は、患者の症状、体重、年齢、性別等によって異なり、一概には決定できないが、例えば、成人1日あたり0.1~100μg/kg体重の有効成分を1日1回又は2~4回程度に分けて投与すればよい。
【0035】
[その他の実施形態]
1実施形態において、本発明は、医薬としての使用のための上記式(1)で表される化合物若しくはその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物(上記式(1)中、Xは硫黄原子又はメチレン基であり、Rは上記式(2)又は上記式(3)で表される基である。)を提供する。
【0036】
1実施形態において、本発明は、神経発達障害又は精神疾患の治療のための上記式(1)で表される化合物若しくはその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物(上記式(1)中、Xは硫黄原子又はメチレン基であり、Rは上記式(2)又は上記式(3)で表される基である。)を提供する。
【0037】
1実施形態において、本発明は、子宮からの失血の治療のための上記式(1)で表される化合物若しくはその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物(上記式(1)中、Xは硫黄原子又はメチレン基であり、Rは上記式(2)又は上記式(3)で表される基である。)を提供する。
【0038】
1実施形態において、本発明は、神経発達障害若しくは精神疾患の治療剤又は子宮収縮剤を製造するための上記式(1)で表される化合物若しくはその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物(上記式(1)中、Xは硫黄原子又はメチレン基であり、Rは上記式(2)又は上記式(3)で表される基である。)の使用を提供する。
【0039】
1実施形態において、本発明は、上記式(1)で表される化合物若しくはその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物(上記式(1)中、Xは硫黄原子又はメチレン基であり、Rは上記式(2)又は上記式(3)で表される基である。)の有効量を、治療を必要とする患者に投与することを含む、神経発達障害又は精神疾患の治療方法を提供する。
【0040】
1実施形態において、本発明は、上記式(1)で表される化合物若しくはその薬理学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物(上記式(1)中、Xは硫黄原子又はメチレン基であり、Rは上記式(2)又は上記式(3)で表される基である。)の有効量を、治療を必要とする患者に投与することを含む、子宮からの失血の治療方法を提供する。
【実施例
【0041】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
[実験例1]
(オキシトシン誘導体の合成)
下記式(F)で表される化合物において、R、R、R、R、Xが下記表1の化合物1~6である化合物をそれぞれ合成した。化合物2、3、5、6は新規化合物である。
【0043】
【化6】
【0044】
【表1】
【0045】
化合物2、3、5及び6は、下記スキーム1に要約されるように合成した。また、後述する実験例における比較のために、既知化合物である化合物1及び4も合成した。
【0046】
【化7】
【0047】
まず、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc基)を保護基に用いた一般的な固相ペプチド合成法により、樹脂上に線状ペプチドを合成した。化合物2及び化合物5の合成には、保護アミノ酸として、Fmoc-Gly-OH、Fmoc-Leu-OH、Fmoc-Cys(Trt)-OH、Fmoc-Asn(Trt)-OH、Fmoc-Gln(Trt)-OH、Fmoc-Ile-OH及びFmoc-Tyr(tBu)-OHを用いた。また、化合物3及び化合物6の合成には、保護アミノ酸として、Fmoc-Gly-OH、Fmoc-Leu-OH、Fmoc-Cys((CHCH(NH-pNZ)COAllyl)-OH、Fmoc-Asn(Trt)-OH、Fmoc-Gln(Trt)-OH、Fmoc-Ile-OH及びFmoc-Tyr(tBu)-OHを用いた。
【0048】
アミノ酸の縮合反応には、Fmoc-アミノ酸(3当量)、DIC(ジイソプロピルカルボジイミド、3当量)、HOAt(1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール、3当量)、溶媒としてDMF(N,N-ジメチルホルムアミド)を用いた。但し、N-アルキルグリシン残基については、ブロモ酢酸(4当量)、DIC(4当量)、HOAt(4当量)を用いてNMP(N-メチルピロリドン)中でN-アシル化を行い、続いてp-フルオロベンジルアミン(10当量)又は3-t-ブトキシプロピルアミン(10当量)によってNMP中で処理することにより結合させた。Fmoc基の除去には、ピペリジン/DMF(1:4)溶液を用いた。樹脂からの保護ペプチドの切出しには、TFA(トリフルオロ酢酸)/TIS(トリイソプロピルシラン)/水(99:2:2)の混合液を用いた。
【0049】
化合物2及び5の合成では、樹脂上でのペプチド合成の後、末端Fmoc基を除去し、化合物2及び5の鎖状前駆体を樹脂から切断し、水/アセトニトリル(1:4)混合液に溶解後、I-メタノール溶液(0.1M)を加えて環化反応を行い、逆相HPLC(0.1%TFAを含有する水-アセトニトリル溶媒)で精製後、所望の化合物2及び5をトリフルオロ酢酸塩として得た。化合物2の化学式は上記式(4)に示した。また、化合物5の化学式は上記式(5)に示した。
【0050】
化合物2:
HPLC:Rt=11.1 min,solvent A/B=75/25;Purity:97.8%;LRMS(ESI)m/z 1075.45[(M+H)],1097.43[(M+Na)];HRMS(ESI)calcd for C4767FN1212Na:1097.4319[(M+Na)],found:1097.4321.
【0051】
化合物5:
HPLC:Rt=5.61 min,solvent A/B=80/20;Purity:98.8%;LRMS(ESI)m/z 1025.45[(M+H)],1047.44[(M+Na)];HRMS(ESI)calcd for C43691213Na:1025.4543[(M+Na)],found:1025.4540.
【0052】
化合物3及び6の合成では、樹脂上でのペプチド合成の後、Pd(PPh(パラジウムテトラキストリフェニルホスフィン、3当量)を含むクロロホルム/N-メチルモルホリン/酢酸(37:1:2)混合液で処理してアリル基を除去し、続いてピペラジンによって末端Fmoc基を除去した。さらに、PyBop(ヘキサフルオロリン酸(ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリピロリジノホスホニウム、5当量)、HOAt(5当量)、ジイソプロピルエチルアミン(10当量)でDMF中処理することにより環化反応を行った。続いて、樹脂からペプチドを切断後、得られた環状ペプチドを10%Pd-C(0.1当量)と1気圧の水素によるエタノール/メタノール混合溶媒中での接触水素化反応に付し、逆相HPLC(0.1%TFAを含有する水-アセトニトリル溶媒)で精製後、脱保護された所望の化合物3及び6をトリフルオロ酢酸塩として得た。下記式(6)に化合物3の化学式を示す。また、下記式(7)に化合物6の化学式を示す。
【0053】
【化8】
【0054】
化合物3:
HPLC:Rt=5.4 min,solvent A/B=70/30;Purity:97.4%;LRMS(ESI)m/z 1057.50[(M+H)],1079.48[(M+Na)];HRMS(ESI)calcd for C4869FN1212SNa:1079.4755[(M+Na)],found:1079.4773.
【0055】
【化9】
【0056】
化合物6:
HPLC:Rt=4.9 min,solvent A/B=80/20;Purity:96.1%;LRMS(ESI)m/z 1007.50[(M+H)],1029.48[(M+Na)];HRMS(ESI)calcd for C44701213SNa:1029.4798[(M+Na)],found:1029.4812.
【0057】
[実験例2]
(受容体結合アッセイ)
まず、ヒトオキシトシン受容体(hOTR)に対するオキシトシンの結合を検討した。具体的には、まず、ヒト胎児腎細胞であるHEK-293細胞にhOTRを強制発現させた。続いて、hOTRを発現するHEK-293細胞の粗膜画分中のhOTRへの[H]オキシトシンの結合を検討した。その結果、[H]オキシトシンは、Kd値0.3±0.06nMで特異的かつ可逆的にhOTRに結合することが明らかとなった。非特異的結合は1μM非標識オキシトシンの存在下で測定した。
【0058】
続いて、放射線競合アッセイにより、オキシトシン、バソプレッシン、カルベトシン、化合物1~6のhOTRへの結合親和性を測定した。具体的には、1pMから1μMの各化合物の存在下における、hOTRに結合した[H]オキシトシンの置換を測定した。
【0059】
図1は、放射線競合アッセイの結果を示すグラフである。図1中、「OT」はオキシトシンを示し、「AVP」はバソプレッシンを示し、「1」~「6」はそれぞれ化合物1~6を示す。図1の横軸は各化合物の濃度を示し、縦軸は残存した[H]オキシトシンの割合(%)を示す。表2にも、放射線結合アッセイの結果を示す。
【0060】
【表2】
【0061】
その結果、バソプレッシン及び化合物1~6は、いずれもhOTRに対する強い結合親和性を示すことが明らかとなった(Ki≦3.0nM)。特に、化合物2は、hOTRに対する高い結合親和性を示し(Ki=0.51nM)、これはオキシトシンのhOTRに対する結合親和性(Ki=0.58nM)と同等であった。化合物2以外の化合物は、オキシトシンのhOTRに対する結合親和性と比較するとわずかに低い結合親和性を示した。
【0062】
化合物2及び3は、化合物5及び6と比較してより高い結合親和性を示した。測定されたカルベトシンのhOTRに対する結合親和性(Ki=1.81nM)は、報告された値と一致した。
【0063】
[実験例3]
(細胞内カルシウムイオン濃度の測定)
オキシトシン、バソプレッシン、カルベトシン、化合物1~6のhOTRアゴニスト活性を測定した。具体的には、受容体活性化に続く、細胞内イノシトール-1,4,5-トリスリン酸感受性Ca2+貯蔵細胞小器官からのCa2+の動員を、hOTRを強制発現させたHEK-293細胞、ヒトバソプレシン1a受容体(hV1aR)を強制発現させたHEK-293細胞、ヒトバソプレシン1b受容体(hV1bR)を強制発現させたHEK-293細胞中の遊離Ca2+イオン濃度を測定することにより測定した。遊離Ca2+イオン濃度は、蛍光プローブであるfura-2/AM及び蛍光顕微鏡を用いて測定した。遊離Ca2+イオン濃度の測定結果を図2(a)~(d)に示す。また、遊離Ca2+イオン濃度の測定結果に基づいて算出した、各化合物のEC50、選択性及びEmaxを表3に示す。
【0064】
図2(a)は、化合物2のhOTR、hV1aR、hV1bRに対するアゴニスト活性の測定結果を示すグラフである。図2(b)は、化合物5のhOTR、hV1aR、hV1bRに対するアゴニスト活性の測定結果を示すグラフである。
【0065】
図2(a)及び(b)中、「OTR」はhOTRを示し、「V1A」はhV1aRを示し、「V1B」はhV1bRを示し、横軸は各化合物の濃度を示し、縦軸はオキシトシンを添加した場合の遊離Ca2+イオン濃度を100%とした場合の遊離Ca2+イオン濃度の割合(%)を示す。
【0066】
図2(c)は、オキシトシン、バソプレッシン、化合物2、化合物5によるhOTRの活性化の測定結果を示すグラフである。図2(c)中、「OT」はオキシトシンを示し、「AVP」はバソプレッシンを示し、「2」は化合物2を示し、「5」は化合物5を示し、横軸は各化合物の濃度を示し、縦軸はオキシトシンを添加した場合の遊離Ca2+イオン濃度を100%とした場合の遊離Ca2+イオン濃度の割合(%)を示す。
【0067】
図2(d)は、オキシトシン、バソプレッシン、化合物2、化合物5によるhV1aRの活性化の測定結果を示すグラフである。図2(d)中、「OT」はオキシトシンを示し、「AVP」はバソプレッシンを示し、「2」は化合物2を示し、「5」は化合物5を示し、横軸は各化合物の濃度を示し、縦軸はバソプレッシンを添加した場合の遊離Ca2+イオン濃度を100%とした場合の遊離Ca2+イオン濃度の割合(%)を示す。
【0068】
【表3】
【0069】
その結果、オキシトシン、カルベトシン及びバソプレッシンは、hOTR、hV1aR、hV1bRを全て活性化することが明らかとなった。EC50に基づいてランク付けしたこれらの化合物のhOTRに対するアゴニスト活性は、オキシトシン(0.010nM)=カルベトシン(0.010nM)>化合物1(0.025nM)≒化合物2(0.028nM)≒化合物5(0.031nM)>化合物3(0.089nM)≒バソプレッシン(0.10nM)≒化合物6(0.15nM)>化合物4(0.27nM)であった。
【0070】
hV1aR及びhV1bRに対するhOTR選択性はわずかに異なっていた。オキシトシン、化合物2及び3は、hV1aRと比較して約20~75倍のhOTRに対する選択性の増加を示した。カルベトシンは、hV1aRと比較して約200倍のhOTRに対する選択性の増加を示した。化合物1、4、5及び6は、hV1aRと比較して>1000倍のhOTRに対する選択性の増加を示した。化合物1及び4のデータ(表2)は、報告された値とよく一致していた。化合物4のhV1aRに対するhOTRの選択性は高かったが、hV1bRに対するhOTRの選択性は高くはなかった。
【0071】
化合物1、3、4、6は、hOTRの部分的なアゴニスト活性を維持していることが明らかとなった。化合物1のEmaxは61%であり、化合物3のEmaxは82%であり、化合物4のEmaxは57%であり、化合物6のEmaxは50%であった。
【0072】
化合物5はhOTRのほぼ完全なアゴニスト活性を維持していることが明らかとなった。化合物5のEmaxは88%であった。
【0073】
驚くべきことに、化合物2はhOTRのスーパーアゴニスト活性を有していることが明らかとなった。オキシトシンのEmaxを100%とした場合の化合物2のEmaxは131%であった。
【0074】
[実験例4]
(CD38KOCCマウスの作製)
すべての動物実験は、文部科学省の管轄下にある学術研究機関における動物実験および関連活動の適切な実施のための基本ガイドラインにしたがって実施され、金沢大学動物実験委員会によって承認された(倫理認証コードAP-173824)。
【0075】
まず、ゲノム編集によりCD38をノックアウトしたマウス(以下、「CD38KOCCマウス」という場合がある。)を作製した。sgRNAは、Cd38遺伝子座のエクソン2を標的とするように設計した。hCas9 mRNA及びsgRNAを、インビトロRNA転写キット(商品名「mMESSAGE mMACHINE T7 Transcription Kit」、サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を使用して合成し、エレクトロポレーター(型式「NEPA21」、NEPA GENE社)を用いてマウスの卵に導入した。
【0076】
世代のマウス尾からDNAを単離し、PCRを用いてsgRNA結合部位にまたがるゲノム領域を増幅し、Cd38遺伝子に変異を有する個体をスクリーニングした。その後、市販のキット(商品名「Guide-it Mutation detection kit」、タカラバイオ社)を用いて30匹以上の仔をスクリーニングした。その結果、Cd38遺伝子に2塩基対の挿入を有する仔を同定した。この挿入は、Cd38遺伝子のオープンリーディングフレーム内に終止コドンを形成し、Cd38遺伝子の機能喪失突然変異をもたらす。
【0077】
CD38KOCCマウスの仔は21~28日齢で離乳し、5匹ずつの同性グループで、24℃、明/暗サイクル12時間、午前8時に点灯する標準条件で飼育し、後述する実験に用いた。
【0078】
[実験例5]
(尾懸垂試験)
尾懸垂試験(Tail Suspension Test、TST)とは、逆さ向きに吊されたマウスのもがく時間を測定する試験であり、一般にはうつ様行動を評価する試験の一種である。吊されたマウスは脱出しようと動き回るが、次第に動かない時間(無動時間)が増える。抗うつ薬を投与したマウスでは尾懸垂試験における無動時間が減少することが知られている。無動時間が長くなることはうつ様行動の増加を示し、無動時間の短縮はうつ様行動の減少を示すと解釈されている。また、無働時間が短いことは注意欠陥多動性障害様行動を反映していると解釈することもでき、無働時間の長さにより注意欠陥多動性障害への効果を試験することもできる。
【0079】
本実験例においては、高さ55cm、幅60cm奥行き11.5cmのプラステック製の懸垂箱内の懸垂バーにマウスの尾をテープで固定した。試験時間は6分間とし、最後の4分間における無動時間の合計時間を測定した。
【0080】
尾懸垂試験の結果、CD38KOCCマウスは、野生型のICRマウスよりも無働時間が短く、注意欠陥多動性障害様行動を示すことが明らかとなった。
【0081】
オキシトシン、化合物2及び5をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に100ng/mLの濃度でそれぞれ溶解し、0.3mL/マウスの投与量でそれぞれCD38KOCC雄マウスに腹腔内単回投与した。対照としてPBSのみを投与した群も用意した。続いて、投与から30分後及び24時間後に微懸垂試験を行った。
【0082】
図3は尾懸垂試験の結果を示すグラフである。図3中「OT」はオキシトシンを示し、「2」は化合物2を示し、「5」は化合物5を示す。また、縦軸は無働時間の長さ(秒)を示す。また、「*」はp<0.05で有意差が存在することを示す。
【0083】
その結果、PBSを投与したCD38KOCCマウスでは、投与30分後の無動時間は74.2±2.9秒であった(n=5)。これに対し、オキシトシン、化合物2、化合物5を投与したCD38KOCCマウスでは、投与30分後の無動時間は、それぞれ171±13.46秒(n=5、p=0.012)、149.5±13.8秒(n=8、p=0.029)、151.83±21.3秒(n=6)であり、顕著な増加を示し、野生型への回復が見られた。
【0084】
また、投与24時間後では、PBSを投与したCD38KOCCマウスの無動時間は56.5±18.8秒であった(n=5、p=0.0135)。これに対し、化合物5を投与したCD38KOCCマウスの無動時間は157.3±21.4秒(n=5、p=0.039)であり、化合物5を投与した群のみがPBSを投与した群と比較して顕著な無働時間の増加を示し、野生型への回復を示した。
【0085】
2方向ANOVAによる統計解析の結果、時間の有意性(F1,31=7.103、P=0.0121)及び処置の有意性(F3,31=10.55、p=0.0001)が認められた。一方、投与24時間後では、PBSと比較してオキシトシン又は化合物2を投与したCD38KOCCマウスについて統計的に有意な差は認められなかった。
【0086】
[実験例6]
(ショ糖嗜好試験)
ショ糖嗜好試験は、ヒトのうつ病又はパーキンソン病のうつ状態や社会性交流への意欲(QOL)の低下で認められる無欲(無快感)、他への無関心症状を反映するものと考えられている。過剰なストレスを負荷したマウスでは、元来好むショ糖水を摂取しなくなるという行動変化が見られる。またこの反応は抗うつ薬の処置により改善されることが知られている。
【0087】
本実験例では、まず、野生型マウス及びCD38KOCC雄マウスを、水と1%ショ糖溶液との間で自由に選択することができる状態に置いた。その結果、ショ糖溶液の消費は、野生型マウスよりもCD38KOCC雄マウスで有意に低いことが明らかとなった。
【0088】
続いて、オキシトシン、化合物2及び5をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に100ng/mLの濃度でそれぞれ溶解し、0.3mL/マウスの投与量でそれぞれCD38KOCC雄マウスに腹腔内単回投与した。対照としてPBSのみを投与した群も用意した。
【0089】
続いて、各群のマウスを水及び1%ショ糖溶液との間で自由に選択することができる状態に置き、投与から1時間後及び24時間後の水及びショ糖溶液の消費量を定量した。
【0090】
図4(a)及び(b)は、水及びショ糖溶液の消費量を定量した結果を示すグラフである。図4(a)は、各化合物の投与から1時間後の結果を示すグラフであり、図4(b)は、各化合物の投与から24時間後の結果を示すグラフである。図4(a)及び(b)中、「OT」はオキシトシンを示し、「2」は化合物2を示し、「5」は化合物5を示し、縦軸は、水又はショ糖溶液の消費量の割合を示す。また、「*」はp<0.05で有意差が存在することを示す。
【0091】
その結果、PBSを投与したCD38KOCCマウスはスクロース選好を示さなかった(0.54±0.04、p=0.21、n=8)。これに対し、オキシトシンを投与したCD38KOCCマウスは、投与から1時間後に、有意にスクロース選好の回復を示した(0.21±0.02から0.80±0.02、p=0.0001、n=5)。また、化合物2を投与したCD38KOCCマウスは、投与から1時間後に、有意にスクロース選好の回復を示した(0.20±0.02から0.79±0.02、p=0.0001、n=5)。また、化合物5を投与したCD38KOCCマウスは、投与から1時間後に、有意にスクロース選好の回復を示した(0.29±0.05から0.72±0.05、p=0.001、n=5)。
【0092】
また、各化合物の投与から24時間後には、化合物5を投与したCD38KOCCマウスのみが、有意にスクロース選好の回復を示した(0.41±0.03から0.59±0.03、p=0.004、n=5)。一方、オキシトシン、化合物2の投与は、投与から24時間後にはスクロース選好の回復の効果を示さないことが明らかとなった。この結果から、化合物5が持続的な効果を有することが明らかとなった。
【0093】
[実験例7]
(薬物動態の検討)
オキシトシン、化合物2、化合物5の薬理学的効力及び持続時間を理解するために、これらの化合物の薬物動態を試験した。具体的には、まず、オキシトシン、化合物2、化合物5を、体重30gの雄のICRマウスに、それぞれ3μg/マウスずつ尾静脈投与した。続いて、各マウスを、投与直後、5分後、15分後、30分後にと殺し、血液を採取した。また、投与30分後及び12時間後に脳脊髄液を採取した。血漿中及び脳脊髄液中の各化合物の濃度はLC-MS/MS法より測定した。
【0094】
図5(a)~(c)は、LC-MS/MS法により測定した、オキシトシン、化合物2及び化合物5の血漿中濃度の測定結果を示すグラフである。図5(a)はオキシトシンの測定結果を示し、図5(b)は化合物2の測定結果を示し、図5(c)は化合物5の測定結果を示す。化合物2及び5の測定においては、同時に内在性のオキシトシンの濃度も測定した。
【0095】
図5(a)~(c)中、「OT」はオキシトシンを示し、「2」は化合物2を示し、「5」は化合物5を示す。また、横軸は投与後の時間(分)を示し、縦軸は各化合物の血漿中濃度(ng/mL)を示す。
【0096】
また、下記表4に薬物動態パラメータの測定結果を示す。表4中、「高速期」は化合物の投与から15分後の測定値に基づいて計算したことを示し、「低速期」は化合物の投与から15~60分後の測定値に基づいて計算したことを示し、「CSF」は脳脊髄液を示す。
【0097】
【表4】
【0098】
その結果、投与直後の血漿中のオキシトシン濃度は、334±155ng/mL(n=5)であった。また、投与直後の血漿中の化合物2の濃度は、118±60ng/mL(n=3)であった。また、投与直後の血漿中の化合物5の濃度は、108±35ng/mL(n=3)であった。これらの3つの化合物は、血漿から急速に消失し、半減期はほぼ10分であった。オキシトシン、化合物2及び化合物5の高速期のt1/2は、それぞれ2.91分、2.84分及び3.1分であった。
【0099】
また、化合物2は、オキシトシン及び化合物5よりも迅速に血液から除去されたことが明らかとなった。また、投与から30分後の脳脊髄液中の化合物2の濃度は100pg/mLであった。驚いたことに、投与から12時間後の脳脊髄液中の化合物2の濃度は、より高くなり、380pg/mLとなった。また、脳脊髄液中の化合物5の濃度は、検出限界以下であったため測定できなかった。
【0100】
[実験例8]
(血漿中安定性の検討)
オキシトシン、化合物2、化合物5の血漿中安定性を検討した。具体的には、プールしたマウス血漿100μLに、オキシトシン、化合物2又は化合物5をそれぞれ終濃度50ng/mLで添加し、1、5、15、30、60、120分間37℃でインキュベートした。その後、内部標準を含有するアセトニトリル/メタノール=1:1(v/v)400μLを加え、LC-MS/MS法により各化合物の濃度を測定した。
【0101】
図6は各化合物の血漿中濃度の測定結果を示すグラフである。図6中、「OT」はオキシトシンを示し、「2」は化合物2を示し、「5」は化合物5を示す。また、横軸は時間(分)を示し、縦軸は、初期濃度に対する割合(%)を示す。
【0102】
その結果、全ての化合物の濃度は、初期濃度に対して85~115%の範囲内であり、血漿中37℃で2時間インキュベート後においても安定であると考えられた。この結果は、血液中のオキシトシン、化合物2、化合物5の消失が、酵素的消化による分解によるものではなく、様々な組織及び器官へのクリアランス又は吸着によるものであることを示す。
【0103】
[実験例9]
(反応速度論的解析)
MotulskyとMahanの方程式を用いて、オキシトシン、化合物2及び化合物5の反応速度論的パラメータを計算した。
【0104】
まず、[H]オキシトシンの反応速度論的パラメータを決定した。具体的には、3つの異なる[H]オキシトシン濃度の範囲を使用して、関連動態曲線を作成した。結果を下記表5に示す。
【0105】
続いて、オキシトシン、化合物2、化合物5について、それぞれ3つの濃度(Kiの近く、5倍のKi、10倍のKi)で運動競合曲線を測定した。具体的には、hOTRを強制発現させたHEK-293細胞の粗膜画分に500pMの[H]オキシトシン及び様々な濃度の競合化合物を添加し、様々な時間インキュベートした後に、[H]オキシトシンの結合量を測定した。非特異的結合は1μM非標識オキシトシンの存在下で測定した。
【0106】
図7(a)~(c)は、測定した運動競合曲線を示すグラフである。図7(a)はオキシトシンの結果を示し、図7(b)は化合物2の結果を示し、図7(c)は化合物5の結果を示す。また、下記表5に、各化合物の反応速度論的パラメータの測定結果を示す。
【0107】
【表5】
【0108】
その結果、化合物2は[H]オキシトシンの約1/2のt1/2を示した。また、化合物2は化合物5の約1/6のt1/2を示した。また、化合物5は、[H]オキシトシンと比較して、より速い会合速度及び解離速度を示した。
【0109】
なお、本実験例の結果からは、上述した実験例5、実験例6において、CD38KOCCマウスへの化合物5の投与が長期的な効果を示した理由を説明することができない。この点からも、CD38KOCCマウスへの化合物5の投与が長期的な効果を示すことは意外な効果である。
【0110】
[実験例10]
(子宮収縮誘発能の検討)
等尺力測定により、オキシトシン、バソプレッシン、カルベトシン、化合物1~6によるマウスの子宮収縮誘発効果をEx vivoで評価した。まず、マウス子宮内膜を除去した後、子宮角を縦方向に切断して1mm幅の子宮筋層にした。続いて、子宮筋層を、95%O-5%CO環境下、37℃に維持したPBSで満たした培養槽中の2本のタングステンワイヤの間に取り付けた。一方のワイヤは静止しており、他方のワイヤはトランスデューサ(AD instrument社)に接続した。
【0111】
続いて、子宮筋層を一定の応答が得られるまで60mMのカリウムイオンで15分ごとに刺激した。オキシトシン、バソプレッシン、カルベトシン、化合物1~6を培養層中に添加して子宮筋縮を誘発し、LabChatソフトウェア(AD instrument社)で力の面積(曲線下面積)を計算した。測定した応答は、各化合物を適用する前に測定した一定の自発収縮のデータで正規化した。表6に、各化合物による子宮筋縮誘導効果の評価結果を示す。また、図8は、オキシトシン、カルベトシン、化合物2、化合物5の子宮筋縮誘導効果の測定結果を示すグラフである。図8中、横軸は各化合物の濃度を示し、縦軸は自発収縮の値を100%とした割合(%)を示す。
【0112】
【表6】
【0113】
その結果、化合物2のEC50が55.5pMであり、これは天然のオキシトシン(238.8pM)、カルベトシン(2.7nM)、化合物1(182.3pM)及び化合物5(3.1nM)の中で最も高いことが明らかとなった。また、化合物3のEC50は>10nMであり、化合物6のEC50は8.1nMであった。
【0114】
この結果は、化合物2が天然オキシトシンに近い親和性を有しており、hOTRに対するスーパーアゴニスト活性を示すという上述した結果を更に支持するものである。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明によれば、新規オキシトシン誘導体を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8