(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】二次電池用集電体、及びその製造方法、並びにそれを用いた二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/66 20060101AFI20231124BHJP
H01M 4/64 20060101ALI20231124BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20231124BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20231124BHJP
【FI】
H01M4/66 A
H01M4/64 A
H01M10/052
H01M10/054
(21)【出願番号】P 2018169370
(22)【出願日】2018-09-11
【審査請求日】2021-02-04
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池上 潤
(72)【発明者】
【氏名】大神 剛章
(72)【発明者】
【氏名】山下 弘樹
【合議体】
【審判長】山田 正文
【審判官】須原 宏光
【審判官】渡辺 努
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/84
H01M10/00-10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属からなる集電体本体と、前記集電体本体の少なくとも一方の表面に積層された、セルロースナノファイバーに複数の導電性ナノ粒子が線状に担持されてなる導電性ナノ粒子集合体からなる層とを含むことを特徴とし、
前記導電性ナノ粒子集合体における導電性ナノ粒子とセルロースナノファイバーのモル比(導電性ナノ粒子/セルロースナノファイバー)は0.8~20である、二次電池用集電体。
【請求項2】
前記導電性ナノ粒子集合体における導電性ナノ粒子とセルロースナノファイバーのモル比(導電性ナノ粒子/セルロースナノファイバー)は1~15である、請求項1に記載の二次電池用集電体。
【請求項3】
前記導電性ナノ粒子の平均粒径が30nm以下である、請求項1又は2に記載の二次電池用集電体。
【請求項4】
前記セルロースナノファイバーの平均繊維径が30nm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の二次電池用集電体。
【請求項5】
前記導電性ナノ粒子集合体からなる層の厚さが50nm~1000nmである、請求項1~4のいずれか1項に記載の二次電池用集電体。
【請求項6】
前記導電性ナノ粒子が、In
2O
3、ZnO、ZnO
2、SnO、SnO
2、SnO
3、TiO
2、Ti
2O
3、RuO
2、NiO、Ta
2O
3、W
2O
3、WO
2、WO
3、及びCr
2O
3からなる群のうち少なくとも1種以上を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の二次電池用集電体。
【請求項7】
前記導電性ナノ粒子集合体が、集電体本体表面に対して平
行に配向している、請求項1~6のいずれか1項に記載の二次電池用集電体。
【請求項8】
前記線状が、直線
状である、請求項1~7のいずれかに記載の二次電池用集電体。
【請求項9】
前記導電性ナノ粒子集合体からなる層が、前記導電性ナノ粒子集合体のみからなる層である、請求項1~8のいずれかに記載の二次電池用集電体。
【請求項10】
前記金属が、金属板、金属箔、又は金属薄膜である、請求項1~9のいずれかに記載の二次電池用集電体。
【請求項11】
次の工程(II)~(IV):
少なくとも1種の金属元素を含む導電性粒子原料化合物、アルカリ溶液、及びセルロースナノファイバーを含有するスラリーを調製する工程(II)、
前記工程(II)で得られたスラリーを、水熱反応に付して前記セルロースナノファイバーに担持されてなる導電性ナノ粒子集合体を得る工程(III)、及び、
前記工程(III)で得られた、前記セルロースナノファイバーに担持されてなる前記導電性ナノ粒子集合体を、集電体本体の少なくとも一方の表面に積層する工程(IV)
を含む、請求項1~10のいずれかに記載の二次電池用集電体の製造方法。
【請求項12】
工程(II)のスラリー中におけるセルロースナノファイバーの含有量が、スラリー中の水100質量部に対し、炭素原子換算量で0.1質量部~10質量部である、請求項11に記載の二次電池用集電体の製造方法。
【請求項13】
工程(III)における水熱反応が、温度が100℃以上、圧力が0.1MPa~1.2MPa、反応時間が0.5時間~24時間である、請求項11又は12に記載の二次電池用集電体の製造方法。
【請求項14】
請求項1~10のいずれかに記載の二次電池用集電体を備える、二次電池。
【請求項15】
前記二次電池が、リチウムイオン二次電池、ナトリウムイオン二次電池、又は、マグネシウムイオン電池である、請求項14に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用集電体、及びその製造方法、並びにそれを用いた二次電池に関する。特に、導電性ナノ粒子集合体を被覆して電極合材層との結着力を向上させた二次電池用集電体、及びその製造方法、並びにそれを用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
高エネルギー密度を有するリチウムイオン二次電池を代表とする二次電池は、携帯型電気機器や電気自転車等の電源として利用が拡大している中、さらなる高容量化や大電流での充放電といった市場の要求を満足させるための開発が進められている。
【0003】
通常、二次電池は、アルミニウム箔等の正極集電体上に正極活物質を含む正極合剤層が積層されてなる正極と、銅箔等の負極集電体上に負極活物質を含む負極合剤層が積層されてなる負極と、電解質塩と有機溶媒とを含む非水電解液とが備えられている(以下、アルミニウム箔等の正極集電体、銅箔等の負極集電体、又はその両方を総称して、「集電体本体」と呼ぶ場合がある。)。
【0004】
このような構成の二次電池においては、電解液中に含まれる電解質の作用により、集電体本体が陽極酸化されて腐食し、サイクル特性や電池容量が低下してしまうという問題があった。さらに、二次電池の高性能化、特に正極活物質の放電電位の向上に伴って上述の腐食現象の発生は増加し、高温環境下で電池を保存又は充放電サイクルを行った場合、上記腐敗現象の発生はより顕著となる。
【0005】
上記二次電池の集電体本体の腐食現象を防止又は抑制するために、例えば、特許文献1には、集電体本体の表面にメジアン径が0.8μm以下の微粒炭素を塗布する提案がなされている。また、特許文献2には、集電体本体上に、貴金属、合金、導電性セラミックス、半導体、有機半導体及び導電性ポリマーから選ばれる少なくとも1種の材料を含む保護層を形成する提案がなされている。また、特許文献3には、金属製の基材と、接合層と、表面側に位置する導電材の粒子径が接合層の基材側に位置する導電材の粒子径よりも大きい接合層を有する集電体についての提案がなされている。また、特許文献4には、導電性粒子とコート層用バインダーとを含む、厚さが10nm~1000nmのコート層が表面に配置された集電体についての提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-298853号公報
【文献】特開2002-203562号公報
【文献】特開2009-301898号公報
【文献】特開2014-238943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、又は特許文献3の実施例で用いられているようなサブミクロンの導電性粒子を用いた場合、二次電池のセルに占める保護層の体積割合が大きくなり、活物質量の減少による電池容量の低下が生じてしまう。
【0008】
一方、特許文献2、又は特許文献4のように平均粒径が数十nmの導電性粒子を用いた場合においても、乾燥工程における導電性粒子の凝集により集電体本体の表面の一部が露出してしまい、集電体本体の腐食抑制効果が十分に得られないことが判明した。
【0009】
したがって、本発明は、薄くかつ均一な保護層が集電体本体に積層されている二次電池用集電体を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、薄くかつ均一な保護層が集電体本体に積層されている二次電池用集電体を簡便に製造する方法を提供することを目的とする。
【0011】
さらに、本発明は、充放電特性、及びエネルギー密度に優れた二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討した結果、セルロースナノファイバー(以下、「CNF」と称する場合もある。)を軸又は基材として、これに導電性ナノ粒子が複数連なって担持してなる導電性ナノ粒子集合体を、二次電池の集電体本体の表面に積層することによって、保護層が集電体本体に均一に結着された二次電池用集電体が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明に係る二次電池用集電体は、正極又は負極の集電体本体の表面に積層された、セルロースナノファイバーに複数の導電性ナノ粒子が線状に担持されてなる導電性ナノ粒子集合体からなる層(以下、「導電性ナノ粒子集合体層」と呼ぶ場合もある。)を含むことを特徴とする。
【0014】
なお、本発明における「担持」とは、担体に粒子を付着している状態をいい、より具体的には、セルロースナノファイバーに導電性ナノ粒子集合体の少なくとも一部が付着している状態をいう。
【0015】
上記二次電池用集電体によれば、正極又は負極(若しくはその両方であってもよい)の集電体本体の表面に積層された導電性ナノ粒子集合体からなる層を構成する複数の導電性ナノ粒子が、セルロースナノファイバーに担持されてなる特異な形状を呈する。このため、集電体本体の表面に積層される導電性ナノ粒子集合体層の薄膜化と同時に、導電性ナノ粒子の均一な積層が可能になる。
【0016】
また、本発明の二次電池用集電体によれば、セルロースナノファイバーは機械的強度に優れるため、本発明の二次電池用集電体を構成する導電性ナノ粒子集合体層は、低厚みであっても充分な機械的強度を有する。
【0017】
さらに、上記セルロースナノファイバーは、例えば、国際公開第2013/042720号に記載されるように、バインダーとしての機能を有しているので、別途バインダーを必要とすることなく集電体本体の表面に導電性ナノ粒子集合体層を積層することができる。このため、本発明の二次電池用集電体によれば、集電体本体と導電性ナノ粒子集合体層とが強固に結合して積層することによって、衝撃等の外部からの物理力に対して対抗できることからも、導電性ナノ粒子集合体層は、厚さを薄くしても充分な機械的強度を有することができる。
【0018】
このように、本発明の二次電池用集電体によれば、集電体本体の表面に積層された均一な保護層によって、電解液との反応による集電体本体の腐食を効果的に抑制することができる。また、本発明の二次電池用集電体は、集電体本体の表面に積層された保護層が薄いことから、二次電池のセル内における正極活物質量又は負極活物質量を減じる必要がなく、電池容量の低下を招かない。なお、本発明は、保護層である導電性ナノ粒子集合体層を、集電体本体の表面に積層する際に、別途のバインダーを用いる場合を排除するものではない。
【0019】
また、本発明の二次電池用集電体において、上記導電性ナノ粒子の平均粒径が30nm以下とすることができる。上記構成を有することにより、電極の厚みをより確実に低減し、ひいてはこれを用いることにより、エネルギー密度に優れた二次電池を形成することが可能となる。
【0020】
また、本発明の二次電池用集電体において、上記セルロースナノファイバーの平均繊維径が30nm以下とすることができる。上記構成を有することにより、電極の厚みをより確実に低減し、ひいてはこれを用いることにより、エネルギー密度に優れた二次電池を形成することが可能となる。
【0021】
また、本発明の二次電池用集電体において、上記導電性ナノ粒子集合体からなる層(導電性ナノ粒子集合体層)の厚さ(両面の場合にはその片面)が50nm~1000nmとすることができる。上記構成を有することにより、電極の厚みをより確実に低減し、ひいてはこれを用いることにより、エネルギー密度に優れた二次電池を形成することが可能となる。
【0022】
また、本発明の二次電池用集電体において、上記導電性ナノ粒子集合体における、導電性ナノ粒子とセルロースナノファイバーのモル比(導電性ナノ粒子/セルロースナノファイバー)は0.8~20とすることができる。上記構成を有することにより、低厚みであっても充分な機械的強度を有する二次電池用集電体となりうる。
【0023】
また、本発明の二次電池用集電体において、上記導電性ナノ粒子が、In2O3、ZnO、ZnO2、SnO、SnO2、SnO3、TiO2、Ti2O3、RuO2、NiO、Ta2O3、W2O3、WO2、WO3、及びCr2O3からなる群のうち少なくとも1種以上を含むものであっても構わない。上記構成を有することにより、二次電池用集電体としてより好適なものとなりうる。
【0024】
さらに、本発明の導電性ナノ粒子集合体は、集電体本体表面に対して平行、又は略平行に配向していてもよい。上記構成を有することによって、配向方向がランダムな導電性ナノ粒子集合体から形成される導電性ナノ粒子集合体層と比較して、緻密性に優れる層を形成することが可能となり、導電性ナノ粒子集合体層の厚みをより薄くすることが可能となる。
【0025】
また、本発明の二次電池用集電体において、上記線状が、直線状、又は略直線状とすることができる。上記構成とすることにより、二次電池用集電体として好適なものとなりうる。なお、本発明における「線状」とは、上記導電性ナノ粒子が連続的に配列しているものを含み、例えば、直線状、略直線状、非定形曲線状、蛇行配列、無規則的配列等であってもよい。また、主たる部分(例えば、電子顕微鏡観察による面積比で当該CNFの50%以上)が線状であればよく、一部に塊状部分が存在するものも含む。
【0026】
また、本発明の二次電池用集電体において、上記導電性ナノ粒子集合体からなる層が、上記導電性ナノ粒子集合体のみからなる層とすることができる。上記構成を有することにより、低厚みであっても充分な機械的強度を有する二次電池用集電体となりうる。
【0027】
また、本発明の二次電池用集電体において、上記金属が、金属板、金属箔、又は金属薄膜であることが好ましい。上記構成を有することにより、低厚みであっても充分な機械的強度を有する二次電池用集電体となりうる。
【0028】
一方、本発明の二次電池用集電体の製造方法は、
次の工程(II)~(IV):
少なくとも1種の金属元素を含む導電性粒子原料化合物、アルカリ溶液、及びセルロースナノファイバーを含有するスラリーを調製する工程(II)、
上記工程(II)で得られたスラリーを、水熱反応に付して上記セルロースナノファイバーに担持されてなる導電性ナノ粒子集合体を得る工程(III)、及び、
上記工程(III)で得られた、上記セルロースナノファイバーに担持されてなる上記導電性ナノ粒子集合体を、集電体本体の少なくとも一方の表面に積層する工程(IV)
を含むことを特徴とする。
【0029】
本発明の二次電池用集電体の製造方法によれば、簡易な方法でセルロースナノファイバーに担持された導電性ナノ粒子集合体を得ることができ、上記導電性ナノ粒子集合体は、常用の方法によって集電体本体の表面に簡便に積層することができる。これにより、薄くかつ均一な導電性ナノ粒子集合体層が表面に付加された二次電池用集電体を簡便に提供することができる。
【0030】
また、本発明の二次電池用集電体の製造方法において、工程(II)のスラリー中におけるセルロースナノファイバーの含有量が、スラリー中の水100質量部に対し、炭素原子換算量で0.1質量部~20質量部とすることができる。上記構成とすることにより、より好適に上記二次電池用集電体を得ることができる。
【0031】
また、本発明の二次電池用集電体の製造方法において、工程(III)における水熱反応が、温度が100℃以上、圧力が0.1MPa~1.2MPa、反応時間が0.5時間~24時間とすることができる。上記構成とすることにより、より好適に上記二次電池用集電体を得ることができる。
【0032】
他方、本発明の二次電池は、上記二次電池用集電体を備えることを特徴とする。
【0033】
上記二次電池は、上記特性を有する二次電池用集電体を構成要素として備えるため、充放電容量や耐久性等に優れたものとなる。
【0034】
また、本発明の二次電池は、リチウムイオン二次電池、ナトリウムイオン二次電池、又は、マグネシウムイオン電池であることが好ましい。上記特性を備えるため、充放電容量や耐久性等をより一層高めた二次電池となりうる。
【発明の効果】
【0035】
本発明の二次電池用集電体によると、薄くかつ均一な導電性ナノ粒子集合体層が表面部に積層されている二次電池用集電体を得ることができる。
【0036】
また、本発明の二次電池用集電体の製造方法によると、薄くかつ均一な導電性ナノ粒子集合体層が表面部に積層されている二次電池用集電体を簡便に得ることが可能となる。
【0037】
また、本発明の二次電池によると、上記特性を有する二次電池用集電体を備えるため、充放電特性、及びエネルギー密度に優れた二次電池を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0039】
〔二次電池用集電体〕
本発明に係る二次電池用集電体は、集電体本体と、集電体本体の少なくとも一方の表面に積層された、セルロースナノファイバーに複数の導電性ナノ粒子が線状に連続して担持されてなる導電性ナノ粒子集合体(導電性ナノ粒子集合体層)とを含むことを特徴とする。
【0040】
導電性ナノ粒子集合体(以下、「ナノアレイ」とも称する。)は、セルロースナノファイバーに複数の導電性ナノ粒子が線上に担持してなる、特異な形状を呈する。ナノアレイとは、一方のナノスケールの構造体に、他方のナノスケールの構造体が配列化されてなる形状を意味する。
【0041】
本発明におけるナノアレイは、例えば、平均繊維径が30nm以下のCNFに、例えば、他方のナノスケールの構造体としての、平均粒径が30nm以下の複数の導電性ナノ粒子が、例えば、直線的に連続して担持してなる、特異な形状を呈する。ここで、「平均粒子径」とは、電子顕微鏡による観察において、数十個(例えば、20個。)の粒子の粒子径(長軸の長さ)の測定値の平均値を指す。
【0042】
上記ナノアレイは、導電性ナノ粒子がCNFに線状に担持、特に直線的に連続して担持してなるため、凝集抑制を目的として導電性ナノ粒子に表面修飾を施したり、分散剤を使用したりする必要がなく、さらに適度な分散状態を保持していることから、簡便に電極層の表面に薄層(薄膜)として積層することができる。また、導電性ナノ粒子は強固にCNFに担持しているため、ナノアレイが分解して導電性ナノ粒子が単一の独立粒子として振る舞うことはない。
【0043】
上記ナノアレイは、CNFの表面が導電性ナノ粒子の不均質核生成の核生成部位となり、導電性ナノ粒子が極細のCNFを囲い込むように結晶成長しつつ、同様に結晶成長中の隣接するナノ粒子と接するまで結晶成長を継続することによって、ナノ粒子が不要に凝集することなく、整然と連なりながらCNFに連続して堅固に担持されて、特異な形状が形成されてなるものと推測される。なお、本発明の範囲は、上記推測のメカニズムのみに限定するものではない。
【0044】
上記ナノアレイからなる導電性ナノ粒子集合体層は、基材となる集電体本体の少なくとも一方の表面を被覆していればよいが、両面を被覆してもよい。両面を被覆することで、例えば、正極-セパレータ-負極-セパレータの積層構造を基本単位とする多層積層構造を有する二次電池を簡便に製造することができる。
【0045】
上記ナノアレイを構成するCNFとは、全ての植物細胞壁の約5割を占める骨格成分であって、上記細胞壁を構成する植物繊維をナノサイズまで解繊等することにより得ることができる軽量高強度繊維であり、水への良好な分散性も有している。
【0046】
上記CNFの平均繊維径は、例えば、30nm以下であって、好ましくは20nm以下であり、より好ましくは10nm以下である。下限値については特に制限はないが、通常1nm以上である。
【0047】
上記CNFの平均長さは、集電体本体の表面への積層を効率的に行う観点、及びバインダーとして集電体本体の表面に有効に積層する観点から、好ましくは1μm~500μmであり、より好ましくは5μm~200μmであり、さらに好ましくは10μm~100μmである。
【0048】
上記CNFを用いた10質量%濃度のCNFスラリーの25℃における粘度は、好ましくは30000mPa・s~200000mPa・sであり、より好ましくは40000mPa・s~150000mPa・sであり、さらに好ましくは45000mPa・s~120000mPa・sである。
【0049】
上記ナノアレイを構成する導電性ナノ粒子としては、少なくとも1種の金属元素を含み、かつナノサイズの粒子を形成することが可能であって、導電性を有しているものであればよく、特に限定されない。上記導電性ナノ粒子としては、金属元素の酸化物、及びそれらの複合化物等の粒子があげられる。
【0050】
導電性ナノ粒子の構成材料として、具体的には、単一元素の酸化物として、In2O3、ZnO、ZnO2、SnO、SnO2、SnO3、TiO2、Ti2O3、RuO2、NiO、Ta2O3、W2O3、WO2、WO3、Cr2O3が好ましい。また、In2O3にZn、Mo、W、Ti、Zr、Sn及びHから選ばれる少なくとも一種の元素を添加したもの、SnO2にF、W、Ta、Sb、P及びBから選ばれる少なくとも一種の元素を添加したもの、ZnOにGa、Al及びBから選ばれる少なくとも一種の元素を添加したもの、並びにTiO2にNb元素を添加したものから選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。なかでも、導電性、電解液及び電解塩への耐性、及び耐酸化性の観点から、SnO2がより好ましい。これらの化合物は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0051】
ナノアレイを構成する導電性ナノ粒子は、微結晶粒子からなる。具体的には、上記導電性ナノ粒子の平均粒子径は、好ましくは30nm以下であり、より好ましくは20nm以下であり、特に好ましくは15nm以下である。下限値については特に制限はないが、通常3nm以上である。このように、導電性ナノ粒子は非常に微小な粒子であり、上記の平均繊維径の非常に細いCNFと相俟って、軸径の非常に細いナノアレイを構成することができる。このため、上記ナノアレイが集電体本体の表面に積層してなる導電性ナノ粒子集合体層を薄膜とすることが可能となる。
【0052】
上記導電性ナノ粒子の晶癖(結晶の外形)としては、板状、針状、六面体、柱状等があげられる。なかでも、CNFとの担持が強固である観点から、CNFの軸長方向に伸延した六面体粒子が好ましい。
【0053】
なお、上記ナノアレイは、粒子径や形状が均一な導電性ナノ粒子の集合体であることが好ましいが、粒子径や形状が異なる導電性ナノ粒子の集合体であってもよく、また化学組成が異なる2種以上の導電性ナノ粒子の集合体であってもよい。
【0054】
また、本発明の二次電池用集電体において、上記導電性ナノ粒子集合体における、導電性ナノ粒子とセルロースナノファイバーのモル比(導電性ナノ粒子/セルロースナノファイバー)は0.8~20とすることができるが、0.9~17であってもよく、特に好ましくは1~15である。
【0055】
また、本発明の二次電池用集電体における導電性ナノ粒子集合体層の膜厚(複数面の場合にはその片面)は、薄膜化の観点から、50nm~1000nmが好ましく、50nm~500nmがより好ましく、50nm~300nmが特に好ましい。電極表面に積層される導電性ナノ粒子集合体層が50nmより薄いと、集電体本体の表面において十分に保護されない部分が生じる場合がある。
【0056】
本発明の二次電池用集電体を構成する集電体本体は、正極又は負極に用いられる集電体本体(両方に用いる場合はその両方の極)である。なお、二次電池の構成において、本発明の二次電池用集電体は正極及び負極の両極における使用が好ましいが、正極又は負極のいずれか一方の極のみに用いてもよい。
【0057】
正極集電体本体は、金属を用いることができる。上記金属として、金属板、金属箔、金属コイル、金属棒、金属円柱、金属薄膜、エキスパンドメタル、発泡メタルパンチメタル等を用いることができ、メッシュ状のものであってもよい。なかでも、上記金属が、金属板、金属箔、又は金属薄膜であることが好ましい。上記金属は、熱の影響下で蒸発又は分解しない材料、例えば、Al、Ti、Fe、Ni、Cu等の金属又はその合金から作ることが好ましい。また、上記正極集電体本体の膜厚は、電気化学的な安定性を確保する観点から、5μm~30μmであることが好ましい。
【0058】
さらに、上記正極集電体本体として、三次元多孔質構造を有する多孔質金属集電体(例えば、株式会社UACJ社製、ファスポーラス)を、用いてもよい。
【0059】
一方、負極集電体本体にも、金属板、金属箔、金属コイル、金属棒、金属円柱、金属薄膜、エキスパンドメタル、発泡メタルパンチメタル等を用いることができ、メッシュ状のものであってもよい。なかでも、上記金属が、金属板、金属箔、又は金属薄膜であることが好ましい。具体的には、Cu又はその合金が用いられ、上記負極集電体本体の膜厚は、電気化学的な安定性を確保する観点から、5μm~30μmが好ましい。
【0060】
本発明の二次電池用集電体の厚み、すなわち、導電性ナノ粒子集合体からなる導電性ナノ粒子集合体層と集電体本体とを含む全体の厚さは、5μm~31μmが好ましく、5μm~30.5μmがより好ましく、5μm~30μmが特に好ましい。
【0061】
さらに、本発明の二次電池用集電体を構成する集電体本体の導電性ナノ粒子集合体を積層する側の表面には、導電性ナノ粒子集合体を当該集電体本体表面に対して平行、又は略平行に配向するために、溝形状のパターンを有してもよい。具体的には、例えば、特開2014-65233号公報に記載されるように、幅が0.1μm~0.5μm、深さが0.1μm~0.5μmのV字形状の溝が一定方向に向いているパターンである。こうすることによって、集電体本体に塗布された導電性ナノ粒子集合体が、当該溝に沿って一軸配向するため、導電性ナノ粒子集合体層を緻密化することが可能となる。
【0062】
また、本発明の二次電池用集電体において、上記線状が、直線状、又は略直線状とすることができる。
【0063】
〔二次電池用集電体の製造方法〕
一方、本発明の二次電池用集電体は、次の工程(II)~(IV):
次の工程(II)~(IV):
少なくとも1種の金属元素を含む導電性粒子原料化合物、アルカリ溶液、及びセルロースナノファイバーを含有するスラリーを調製する工程(II)、
上記工程(II)で得られたスラリーを、水熱反応に付して上記セルロースナノファイバーに担持されてなる導電性ナノ粒子集合体を得る工程(III)、及び、
上記工程(III)で得られた、上記セルロースナノファイバーに担持されてなる上記導電性ナノ粒子集合体を、集電体本体の少なくとも一方の表面に積層する工程(IV)
を含む製造方法によって、得ることができる。
【0064】
また、本発明の二次電池用集電体の製造方法において、
さらに、工程(II)に先立ち、上記集電体本体を製造する工程(I)、を含む製造方法を適宜用いることができうる。
【0065】
工程(I)は、正極又は負極(若しくはその両方であってもよい)である集電体本体を得る工程である。上記正極又は上記負極については、常用の製造方法を適宜用いればよい。
【0066】
工程(II)は、少なくとも1種の金属元素を含む導電性粒子原料化合物、アルカリ溶液、及びセルロースナノファイバーを含有するスラリーを調製する工程である。工程(II)では、まず、少なくとも1種の金属元素を含む導電性粒子原料化合物、水、及びセルロースナノファイバーを混合してスラリーAを得る。
【0067】
導電性粒子原料化合物としては、具体的には、例えば、インジウム化合物、亜鉛化合物、錫化合物、チタン化合物、ルテニウム化合物、ニッケル化合物、タンタル化合物、タングステン化合物又はクロム化合物等の金属化合物があげられる。なかでも、上記金属元素の硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物等を好適に使用することができる。これらの化合物は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0068】
これら導電性粒子原料化合物及びセルロースナノファイバーを混合してスラリーAを調製する際、水を用いる。上記水の使用量は、各原料の溶解性又は分散性、撹拌の容易性、及び水熱反応の効率等の観点から、導電性粒子原料化合物の金属元素1モルに対して10モル~300モルが好ましく、さらに50モル~200モルが好ましい。また、スラリーA中におけるセルロースナノファイバーの含有量は、スラリーA中の水100質量部に対し、セルロースナノファイバーの炭素原子換算量で好ましくは0.1質量部~20質量部であり、より好ましくは0.1質量部~10質量部である。
【0069】
また、導電性粒子原料化合物とセルロースナノファイバーとの混合比率は、セルロースナノファイバーの炭素原子換算量100質量部に対して、導電性粒子原料化合物が0.1質量部~10000質量部であり、より好ましくは1質量部~7000質量部であり、特に好ましくは5質量部~4000質量部である。これは、次工程(III)で得られる導電性ナノ粒子集合体の、導電性ナノ粒子とセルロースナノファイバーとのモル比(導電性ナノ粒子/CNF)が0.8~20であり、より好ましくは0.9~17であり、特に好ましくは1~15となる比率である。セルロースナノファイバーに対する、導電性粒子原料化合物の混合量が極めて少ない場合、導電性粒子の生成過程では核生成よりも結晶成長が卓越するため、ナノアレイを構成する個々の導電性粒子の粒径は大径化する。一方、セルロースナノファイバーに対する、導電性粒子原料化合物の混合量が極めて多い場合、次工程(III)における水熱反応においてナノアレイ(導電性ナノ粒子集合体)化されない余剰の金属成分同士が結合し、大径の結晶となって導電性ナノ粒子集合体中の夾雑物となる。このような夾雑物を含む導電性ナノ粒子集合体を、次々工程(IV)において集電体本体の表面に積層した場合、上記夾雑物によって導電性ナノ粒子集合体層による薄くかつ均一な被覆が困難になり、集電体本体の一部が電解液に接触しやすい状態になり、集電体本体に腐食が生じる場合がある。
【0070】
工程(II)では、次に、上記スラリーAにアルカリ溶液を添加してスラリーBとし、中和反応によって、スラリーB中に溶解又は分散している金属成分を金属水酸化物にする。アルカリ溶液を添加するには、25℃におけるスラリーBのpHを10~14に保持するのに充分な量を滴下するのが好ましい。上記アルカリ溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア等の水溶液を用いることができ、そのなかでも、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム又はそれらの混合溶液を用いるのが好ましい。これらの化合物は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0071】
スラリーBは、金属水酸化物を良好に生成させる観点から、撹拌して中和反応を進行させるのが好ましい。中和反応中におけるスラリーBの温度は、5℃以上が好ましく、より好ましくは10℃~60℃である。また、スラリーBの撹拌時間は、5分~120分が好ましく、30分~60分がより好ましい。
【0072】
工程(III)は、得られたスラリーBを、水熱反応に付して、ナノアレイ(導電性ナノ粒子集合体)を得る工程である。
【0073】
水熱反応中の温度は、100℃以上であるのが好ましく、さらにセルロースナノファイバーの熱分解を抑制する観点から、190℃以下であるのがより好ましい。また、上記温度は、130℃~180℃がさらに好ましく、140℃~160℃が特に好ましい。水熱反応は耐圧容器中で行うのが好ましく、190℃以下で行う場合、この時の圧力は1.2MPa以下であるのが好ましく、100℃~190℃で水和反応を行う場合、0.1MPa~1.2MPaであるのが好ましく、130℃~180℃では0.3MPa~0.9MPaであるのが好ましく、140℃~160℃では0.3MPa~0.6MPaであるのが好ましい。水熱反応時間は、0.5時間~24時間が好ましく、さらに0.5時間~15時間が好ましい。水熱反応時間が24時間を超える場合、ナノアレイを構成する導電性ナノ粒子が過剰に大径化するおそれがある。
【0074】
得られる水熱反応生成物は、セルロースナノファイバーと金属酸化物からなるナノアレイであり、ろ過後、水で洗浄し、乾燥することによりこれを単離できる。上記ナノアレイを水で洗浄する際、ナノアレイ1質量部に対し、水を5質量部~100質量部用いるのが好ましい。
【0075】
洗浄後、得られたナノアレイに含まれる水分を除去するために、必要に応じて乾燥処理が施される。乾燥手段は、凍結乾燥、真空乾燥、温風乾燥が用いられ、凍結乾燥又は温風乾燥が好ましい。温風乾燥を行う場合、温風の温度は、セルロースナノファイバーの熱分解を抑制する観点から、50℃~230℃であればよく、70℃~200℃が好ましい。また、乾燥に要する処理時間は乾燥方法に応じて適宜設定される。
【0076】
また、ナノアレイの凝集を低減できる観点から、ナノアレイの洗浄後、乾燥を行わず、リパルプすることによって所望の濃度のナノアレイを含有するスラリーを調製してもよい。次の工程(IV)で行われる、集電体本体の表面への積層時のハンドリングの観点から、スラリー中のナノアレイの濃度は、好ましくは0.1質量%~15質量%であり、より好ましくは0.3質量%~13質量%であり、さらに好ましくは0.5質量%~10質量%である。
【0077】
なお、セルロースナノファイバーの分散性を高めることで、高い分散性を有するナノアレイを得る観点から、工程(II)においてセルロースナノファイバーのスラリーを予め水熱処理した後、工程(III)において導電性粒子原料化合物のスラリーを添加して、2回目の水熱反応に付すことによって、ナノアレイを得てもよい。
【0078】
工程(IV)は、工程(III)によって得られたナノアレイを集電体本体の少なくとも一方の表面に積層する工程である。
【0079】
上述のように、ナノアレイはバインダー効果も有するため、この工程(IV)では、ナノアレイ又はナノアレイスラリーを、水と有機溶媒(例えば、エタノール又はエチレングリコール)に撹拌、混合するか、又は、ナノアレイを、有機溶媒(例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、キシレン、エタノール又はエチレングリコール)のみからなる溶媒中に撹拌、混合してなる、ナノアレイスラリーCを用いて、集電体本体の表面にナノアレイを積層することができる。
【0080】
さらに、上記ナノアレイスラリーCに、バインダーを混合してもよい。バインダーとしては、例えば、カルボキシメチルセルロースがあげられる。上記バインダーの使用により、より強固に、集電体本体の表面に導電性ナノ粒子集合体層を積層することができる。この際、ナノアレイスラリーCに混合するバインダーの混合量は、上記スラリーC中のナノアレイ100質量部に対して、好ましくは0.1質量部~5質量部であり、より好ましくは0.5質量部~2質量部である。
【0081】
集電体本体の表面へのナノアレイの積層方法には、特に限定されず、例えば、コーティング法、キャスト法等の公知の方法が利用できる。コーティング法としては、グラビアコート法、グラビアリバースコート法、ロールコート法、リバースロールコート法、マイクログラビアコート法、コンマコート法、エアナイフコート法、バーコート法、メイヤーバーコート法、ディップコート法、ダイコート法、スプレーコート法等があげられる中で、ナノアレイの配向が促進される観点からは、高速(リバース)グラビアコート法等の高シェア塗工法が好ましい。
【0082】
また、集電体本体の両面にナノアレイを積層する方法としては、例えば、2本の対峙したマイヤーバー、リバースロール、ダイ等の間に集電体本体を通し、両面同時にナノアレイスラリーCを塗工する方法が好適である。なお、集電体の両面にナノアレイを積層する場合、単に、ナノアレイスラリーCに集電体本体を浸漬させてもよい。
【0083】
塗工処理後のナノアレイスラリーCの乾燥方法は、スラリー内の水分を穏やかに蒸発させる観点から、80℃以下の温度での真空乾燥、恒温乾燥、温風乾燥が好ましく、中でも50℃以下の恒温乾燥又は温風乾燥がより好ましい。
【0084】
上記温風乾燥では、塗工処理後のナノアレイスラリーCに一定方向から熱風をあてるのが好ましい。すなわち、一定方向から熱風をあてることによって、熱風の風向に沿ってナノアレイスラリーCが流動し、これに伴ってナノアレイも流動して一軸配向する傾向がある。これによって、導電性ナノ粒子集合体層をより緻密化することが可能となる。
【0085】
本発明の二次電池用集電体が使用可能な二次電池は、特に限定されず、リチウムイオン二次電池、ナトリウムイオン二次電池、マグネシウムイオン二次電池等の、あらゆる二次電池に使用することができる。
【0086】
また、本発明の二次電池用集電体と二次電池を構成する、正極活物質、負極活物質、電解液及び電解質の各材料種の組合せは、特に限定されない。
〔二次電池〕
他方、本発明の二次電池等は、上記二次電池用集電体を備えることを特徴とする。
【0087】
本発明の二次電池においては、上述の二次電池用集電体を適宜適用できる。また、本発明の二次電池の構成、及び製造方法は、本発明の二次電池用集電体を用いる他は、公知の構成、及び公知の手法を適宜組み合わせることができる。また、本発明の二次電池用集電体を適宜適用できる二次電池としては、正極と負極と電解液とセパレータとを必須構成とするものであって、正極又は負極の集電体本体の少なくとも一方の表面に導電性ナノ粒子集合体からなる層が備えられている積層体が形成されるものであれば特に限定されない。
【0088】
上記の構成を有する二次電池の形状としては、特に制限を受けるものではなく、コイン型、円筒型,角型等種々の形状や、ラミネート外装体に封入した不定形状であってもよい。
【0089】
また、上記二次電池として、例えば、リチウムイオン二次電池、ナトリウムイオン二次電池、又は、マグネシウムイオン電池であることが好ましい。
【0090】
本発明の二次電池用集電体を構成要素とする二次電池は、電解液を必須とする。電解液に使用できる非水溶媒としては、アセトニトリル(AN)、γ-ブチロラクトン(BL)、γ-バレロラクトン(VL)、γ-オクタノイックラクトン(OL)、ジエチルエーテル(DEE)、1,2-ジメトキシエタン(DME)、1,2-ジエトキシエタン(DEE)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、1,3-ジオキソラン(DOL)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ギ酸メチル(MF)、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルテトラヒドロフラン(MTHF)、3-メチル-1,3-オキサジリジン-2-オン(MOX)、スルホラン(S)等があげられ、これらは単独で又は二種類以上の混合物として用いることができる。
【0091】
リチウムイオン二次電池である場合の電解液に使用されるリチウム塩としては、LiPF6、LiAsF6、LiClO4、LiBF4、LiCF3SO3、Li(CF3SO2)2N、LiC4F9SO3等のリチウム塩があげられる。これらの1種又は2種以上が0.5M~2.0M程度の濃度で上記非水溶媒に溶解される。
【0092】
また、ナトリウムイオン二次電池である場合の電解液に使用されるナトリウム塩としては、NaPF6、NaAsF6、NaClO4、NaBF4、NaCF3SO3、Na(CF3SO2)2N、NaC4F9SO3等のナトリウム塩があげられ、これらの1種又は2種以上が0.5M~2.0M程度の濃度で上記非水溶媒に溶解される。
【0093】
また、マグネシウムイオン二次電池である場合の電解液に使用されるマグネシウム塩としては、MgCl2・6H2O、MgBr2、MgI2、Mg(ClO4)2等のマグネシウム塩があげられ、これらの1種又は2種以上が0.5~2.0M程度の濃度でテトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、メチルテトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、ジメチルスルホン、メチルエチルスルホン等のアルキルスルホンからなる非水溶媒に溶解される。
【実施例】
【0094】
以下、本発明について、本発明の二次電池用集電体をリチウムイオン二次電池の負極に用いた場合を例として、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0095】
なお、各実施例に示す導電性ナノ粒子とCNFのモル比(導電性ナノ粒子/CNF)におけるCNFのモル数は、CNF固形分が全てセルロース(C6H10O5)であるとした場合のモル数である。
【0096】
[実施例1:SnO2からなる導電性ナノ粒子集合体層をAl箔に積層した正極集電体(SnO2/CNFのモル比:8.3)]
SnCl2・2H2O 4.60g、セルロースナノファイバー(スギノマシン社製、Tma-10002、含水量98質量%、平均繊維径10nm)19.29g、及び水55mLを5分間混合してスラリーA1を作製した。得られたスラリーA1に、10質量%濃度のNaOH水溶液12.0gを添加し、5分間混合してスラリーB1を作製した。
【0097】
得られたスラリーB1をオートクレーブに投入し、0.36MPaで140℃×1時間水熱反応を行った。得られた水熱反応生成物を放冷した後、ろ過、水洗して、SnO2のナノアレイのケーキC1(含水率:38%)を得た。
【0098】
得られたケーキC1 0.40gを、エタノール:水=9:1(体積比)の溶媒100mLに混合した後、25℃の温度に保持しながら60分間撹拌して、固形分量が0.3質量%のスラリーD1を得た。
【0099】
厚さ20μmのAl箔の片面に、ドクターブレード(テスター産業社製)を用いてスラリーD1を塗工した後、40℃での恒温乾燥を行い、層厚200nmの、SnO2からなる導電性ナノ粒子集合体層(SnO2の平均粒径:17nm、SnO2/CNFのモル比:8.3)が片面に積層された正極集電体Aを得た。
【0100】
[実施例2:ZnOからなる導電性ナノ粒子集合体層をAl箔に積層した正極集電体(ZnO/CNFのモル比:8.4)]
(CH3COO)2Zn 3.75g、セルロースナノファイバー(同上)19.29g、及び水55mLを5分間混合してスラリーA2を作製した。得られたスラリーA2に、10質量%濃度のNaOH水溶液12.0gを添加し、5分間混合してスラリーB2を作製した。
【0101】
得られたスラリーB2をオートクレーブに投入し、0.36MPaで140℃×1時間水熱反応を行った。得られた水熱反応生成物を放冷した後、ろ過、水洗して、ZnOのナノアレイのケーキC2(含水率:37%)を得た。
【0102】
得られたケーキC2 0.39gを、エタノール:水=9:1(体積比)の溶媒100mLに混合した後、25℃の温度に保持しながら60分間撹拌して、固形分量が0.3質量%のスラリーD2を得た。
【0103】
厚さ20μmのAl箔の片面に、ドクターブレード(同上)を用いてスラリーD2を塗工した後、40℃での恒温乾燥を行い、層厚200nmの、ZnOからなる導電性ナノ粒子集合体層(ZnOの平均粒径:17nm、ZnO/CNFのモル比:8.4)が片面に積層された正極集電体Bを得た。
【0104】
[実施例3:SnO2からなる導電性ナノ粒子集合体層をCu箔に積層した正極集電体及び負極集電体(SnO2/CNFのモル比:15)]
SnCl2・2H2O 8.31g、セルロースナノファイバー(同上)19.29g、及び水55mLを5分間混合してスラリーA3を作製した以外、実施例1と同様にして、SnO2のナノアレイのケーキC3(含水率:45%)を得た。
【0105】
得られたケーキC3 0.45gを、エタノール:水=9:1(体積比)の溶媒100mLに混合した後、25℃の温度に保持しながら60分間撹拌して、固形分量が0.3質量%のスラリーD3を得た。
【0106】
厚さ20μmのAl箔の片面に、ドクターブレード(同上)を用いてスラリーD3を塗工した後、40℃での恒温乾燥を行い、層厚200nmの、SnO2からなる導電性ナノ粒子集合体層(SnO2の平均粒径:12nm、SnO2/CNFのモル比:15)が片面に積層された正極集電体Cを得た。
【0107】
さらに、厚さ20μmのCu箔にドクターブレード(同上)を用いてスラリーD3を塗工した後、40℃での恒温乾燥を行い、層厚200nmの、SnO2からなる導電性ナノ粒子集合体層(SnO2の平均粒径:12nm、SnO2/CNFのモル比:15)が片面に積層された負極集電体Cを得た。
【0108】
[実施例4:SnO2からなる導電性ナノ粒子集合体層をAl箔に積層した正極集電体(SnO2/CNFのモル比:1)]
SnCl2・2H2O 0.55g、セルロースナノファイバー(同上)19.29g、及び水55mLを5分間混合してスラリーA4を作製した以外、実施例1と同様にして、SnO2のナノアレイのケーキC4(含水率:33%)を得た。
【0109】
得られたケーキC4 0.37gを、エタノール:水=9:1(体積比)の溶媒100mLに混合した後、25℃の温度に保持しながら60分間撹拌して、固形分量が0.3質量%のスラリーD4を得た。
【0110】
厚さ20μmのAl箔の片面に、ドクターブレード(同上)を用いてスラリーD4を塗工した後、40℃での恒温乾燥を行い、層厚200nmの、SnO2からなる導電性ナノ粒子集合体層(SnO2の平均粒径:25nm、SnO2/CNFのモル比:1)が片面に積層された正極集電体Dを得た。
【0111】
[比較例1:SnO2粒子をAl箔に積層した正極集電体]
セルロースナノファイバーを使用しない以外は実施例1と同様にして、酸化スズのゾルA5(含水率:26%)を得た。
【0112】
得られたゾルA5 0.33gを、エタノール:水=9:1(体積比)の溶媒50mLに混合した後、25℃の温度に保持しながら60分間撹拌して、固形分量が0.3質量%のスラリーD5を得た。スラリーD5に、バインダーとしてポリエチレングリコール(PEG)を、SnO2:PEG(質量比)が20:1となる量で加えた後、混錬してスラリーペーストE5を得た。
【0113】
厚さ20μmのAl箔の片面に、ドクターブレード(同上)を用いてスラリーペーストE5スラリーペーストE5を塗工した後、40℃での恒温乾燥を行い、層厚300nmの、SnO2粒子層(SnO2の平均粒径:33nm)が片面に積層された正極集電体Eを得た。
【0114】
[比較例2:SnO2からなる導電性ナノ粒子集合体層をAl箔に積層した正極集電体(SnO2/CNFのモル比:0.5)]
SnCl2・2H2O 0.28g、セルロースナノファイバー(同上)19.29g、及び水55mLを5分間混合してスラリーA6を作製した以外、実施例1と同様にして、SnO2のナノアレイのケーキC6(含水率:27%)を得た。
【0115】
得られたケーキC6 0.34gを、エタノール:水=9:1(体積比)の溶媒100mLに混合した後、25℃の温度に保持しながら60分間撹拌して、固形分量が0.3質量%のスラリーD6を得た。
【0116】
厚さ20μmのAl箔の片面に、ドクターブレード(同上)を用いてスラリーD6を塗工した後、40℃での恒温乾燥を行い、層厚200nmの、SnO2からなる導電性ナノ粒子集合体層(SnO2の平均粒径:30nm、SnO2/CNFのモル比:0.5)が片面に積層された正極集電体Fを得た。
【0117】
<二次電池における充放電特性の評価>
全ての実施例及び比較例の集電体に、正極活物質として厚さ40μmのLiNi0.5Co0.2Mn0.3O2を、負極活物質として黒鉛、ケッチェンブラック、ポリフッ化ビニリデンを質量比98:1:1で混合した厚さ30μmの炭素混合物を、16MPaで2分間プレスして、正極層又は負極層を作成した。また、負極層には、保護層を有しない厚さ20μmのCu泊を用いたものも準備した。電解液/電解質としてエチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比3:7で混合した混合溶媒にLiPF6を1mol/Lを溶解したものを準備し、表1に示す組合せでコイン型リチウムイオン二次電池(CR-2032)を製造した。なお、二次電池の製造は、露点が-50℃以下の雰囲気で常法により組み込み収容した。
【0118】
【0119】
<充放電特性の評価>
得られたリチウムイオン二次電池を用いて定電流密度でのサイクル特性を評価した。具体的には、放電容量測定装置(北斗電工社製、HJ-1001SD8)を用いて、気温30℃環境における、1C(170mA)で4.5Vまで充電した後、4.5Vの定電圧で5時間充電した。その後、0.33C(56mA)で2.5Vまで放電した後、2.5Vの定電圧で5時間放電するのを1サイクルとした。
【0120】
上記充放電条件において、初期(1サイクル)の電池セルの内部抵抗と、200サイクル後の電池セルの内部抵抗を、ポテンションスタット(プリンストンアプライドリサーチ社製、VersaSTAT4システム)で測定し、下記式(1)により電池セルの抵抗変化率(%)を求めた。
電池セルの抵抗変化率(%)=[(200サイクル後の内部抵抗)-(1サイクル後の内部抵抗)]/(1サイクル後の内部抵抗)×100 ・・・(1)
【0121】
得られた電池セルの抵抗変化率を、本発明の集電体に積層した保護層の特性と共に表2に示す。
【0122】
【0123】
表2より、本発明の集電体を用いた実施例1~4の二次電池は、本発明と異なる保護層を有する集電体を用いた比較例1~2の二次電池よりも抵抗変化率が小さく、充放電を繰り返しても電気特性が大きく変化しないことがわかる。